肝臓を標的とした遺伝物質の送達方法
【課題】哺乳類対象の選択された器官へ送達されるウイルス性遺伝子治療剤の提供。
【解決手段】1個または複数のカテーテルが、器官を流れる静脈血管系内に留置され;該カテーテルの少なくとも1つは1個または複数の膨張可能で拡張可能な部材を有するものであり;器官または器官のセクションが、1個または複数の膨張可能で拡張可能な部材を膨張させることによって器官または器官のセクションを流れる静脈血管系内の血液の流れを閉塞させることにより分離され;ウイルス性遺伝子治療剤が、分離された器官または分離された器官のセクション中の通常の静脈圧の40%増までの血圧上昇を惹起する用量で送達され;治療上有効量の該遺伝子治療剤の形質導入に十分な時間、該分離された器官または分離された器官のセクション内に持続される、ウイルス性遺伝子治療剤。
【解決手段】1個または複数のカテーテルが、器官を流れる静脈血管系内に留置され;該カテーテルの少なくとも1つは1個または複数の膨張可能で拡張可能な部材を有するものであり;器官または器官のセクションが、1個または複数の膨張可能で拡張可能な部材を膨張させることによって器官または器官のセクションを流れる静脈血管系内の血液の流れを閉塞させることにより分離され;ウイルス性遺伝子治療剤が、分離された器官または分離された器官のセクション中の通常の静脈圧の40%増までの血圧上昇を惹起する用量で送達され;治療上有効量の該遺伝子治療剤の形質導入に十分な時間、該分離された器官または分離された器官のセクション内に持続される、ウイルス性遺伝子治療剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物対象の標的器官へ遺伝物質をバルーンカテーテルにより送達するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
遺伝子療法は、既存の欠陥を修正するか、または細胞に新規の有益な機能を与える外来性遺伝物質の細胞内送達である。肝臓は、代謝および血清蛋白質の産生におけるその中心的役割のために、遺伝子療法の重要な標的器官である。多数の疾患が知られており、その幾つかは、肝特異的遺伝子産物の欠損により惹起され、肝臓の分泌蛋白質産生から恩恵を享受し得る。家族性高コレステロール血症、血友病、ゴーシェ病およびファブリー病はほんの一例である。かかる疾患の多くは遺伝子療法に適している可能性がある(Siatskasら.,J.Inherit Metab.Dis.2001,24(Suppl.2):25−41;Barrangerら.,Expert Opin.Biol.Ther 2001,1(5):857−867;Barrangerら.,Neurochem Res.1999,24(5):601−615)。
【0003】
ウイルスおよび非ウイルスベクターを用いて肝臓へ外来性遺伝物質を送達するために、様々な方法が開発されている。一般的に、各方法はある種の欠点を有する。ウイルスベクターを用いる遺伝物質の送達におけるこれまでの試みは、中和宿主免疫応答、既存の宿主免疫に起因する毒性、大量の治療剤を対象の循環系へ注入する必要性があること、治療中の標的器官内の圧力上昇、および体内の特定の細胞型を標的化する困難性により、複雑化されている。
【0004】
ウイルスベクターの門脈内注入は、肝臓の標的化手段として試みられてきた。しかし、門脈内注入は幾つかの問題を提示している。アデノウイルス遺伝子移入ベクターがラットの門静脈に注入される場合、高レベルのトランスジーン発現が肝臓において観察されるが(Rosefeldら.,Science 1991,252:431−434)、かかる発現は一時的なものであるので、繰り返し注入する必要がある。さらに、血清陽性動物の循環系に注入される場合、ウイルスベクターは既存の抗体により直ちに中和され得る。組換えアデノウイルスベクターの全身注入の研究により、中和宿主免疫応答が繰り返し注入におけるかかるベクターの有効性を制限することが示された(Yangら.,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.1994,91:4407−4411;Kozarskyら.,J.Biol.Chem.1994,269:13695−13702)。
【0005】
他の場合において、ウイルスベクターの全身または門脈内注入は、用量依存的毒性に関連している。これらの毒性は、比較的大量のウイルスが注入される必要があること、および事前に共通のウイルス血清型へ環境曝露された結果としての既存の免疫の両方に起因する。故に、対象へ送達するウイルスの量、ならびに全身循環およびそれ故に免疫系にウイルスを曝露させる程度の両方を制限することが望ましい。
【0006】
ウイルス性遺伝子療法の全身送達に関する別の試みは、標的器官内の適切な細胞に治療剤を標的化することである。例えば、肝臓において、肝細胞および非肝細胞(クッパー細胞および他の抗原提示細胞を含む)の両方がトランスフェクションされてもよい。肝細胞は、優れた蛋白質産生細胞であり、発現された蛋白質を血清中に分泌し得、多くの場合、機能喪失した欠陥部位である。故に、肝臓の非肝細胞に対して肝細胞のトランスフェクションを最大化することが望ましい。しかし、全身投与されるウイルス性遺伝子療法の場合、トランスフェクションされた肝臓の細胞の有意なフラクションは非肝細胞である。
【0007】
抗原提示細胞(クッパー細胞、肝臓類洞内皮細胞を含む)のごとき非肝細胞におけるトランスジーン発現の否定的な結果が存在するかもしれない。かかる発現は、トランスジーン産物に対する免疫応答を生じるかもしれない。
【0008】
これまでの試みは、バルーン閉塞カテーテルを用いる体内の分離された領域への遺伝物質の送達に対してなされてきた(米国特許第5,698,531号)。これらの方法は、血管表面を裏打ちする内皮細胞のトランスフェクションを目的としている。本発明は、器官の実質細胞へ遺伝物質を送達するための方法を提供する。
【0009】
バルーンカテーテルを用いて標的器官へ遺伝物質を送達するための別の方法が記載されている(WO 2004/001049)。しかし、この方法は、標的器官内に高圧を用いることが必要である。十分に圧力を高めるために、より大量の治療剤を注入する必要があり、これらのより大量の治療剤は上記した理由のために都合が悪い。さらに、高圧は標的器官を損傷する危険性があり得る。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0010】
発明の概要
従って、本発明の目的は、標的器官を流れる静脈血管系を通じて、標的器官へウイルス性遺伝子治療剤を送達するための方法を提供することである。
【0011】
本発明の別の目的は、標的器官の静脈血管系中の圧力を有意に増大させることなく、標的器官を流れる静脈血管系を通じて、標的器官へウイルス性遺伝子治療剤を送達するための方法を提供することである。
【0012】
本発明の別の目的は、標的器官を流れる静脈血管系を通じて、標的器官へウイルス性遺伝子治療剤を送達するための方法であって、該器官が肝臓であり、該静脈血管系が肝静脈、肝静脈の支流または下大静脈である方法を提供することである。
【0013】
本発明の別の目的は、ウイルス性遺伝子治療剤によりコードされる蛋白質を発現させるために、標的器官へウイルス性遺伝子治療剤を送達するための方法を提供することである。
【0014】
本発明の別の目的は、肝細胞および非肝細胞の両方においてウイルス性遺伝子治療剤によりコードされる蛋白質を発現させるために、肝臓へウイルス性遺伝子治療剤を送達するための方法であって、該ウイルス遺伝子によりコードされる蛋白質を発現する肝細胞および非肝細胞の合計のうち、該ウイルス遺伝子によりコードされる蛋白質を発現する肝細胞のフラクションが、少なくとも0.2、少なくとも0.3、少なくとも0.4、少なくとも0.5、少なくとも0.6、少なくとも0.7、少なくとも0.8または少なくとも0.9である方法を提供することである。
【0015】
本発明の別の目的は、ウイルス性遺伝子治療剤によりコードされる蛋白質を発現させるために、標的器官へウイルス性遺伝子治療剤を送達するための方法であって、該ウイルス性遺伝子治療剤に対して既存の免疫を有する対象へ該ウイルス性遺伝子治療剤を送達するための方法を提供することである。
【0016】
本発明に従って、バルーンカテーテルを用いて遺伝物質を標的化送達するための方法が提供される。一の方法において、バルーン閉塞カテーテルは単一の肝静脈中に近位で埋め込まれ、治療溶液は、カテーテルを経由する膨張された(閉塞)バルーンを越えて上記のように分離された標的葉の血管を通じて肝実質へ送達される。送達される治療剤の容量は、標的器官の静脈血管系の灌流に十分な程大きいが、静脈血管圧における有意な上昇の防止または側副循環による該剤の全身分布に十分な程小さい。異なる血管を閉塞するためにバルーンを再度留置することにより、同じ手順の間に複数の葉が順次処置され得る。処置は高度に局所的であるので、同じ手順の間に単一の器官の様々な部分が、別法では不適合となり得る異なる治療剤を用いて処置され得る。
【0017】
別の方法において、器官全体からの静脈血流は、肝静脈血流に対して近位および遠位双方の下大静脈中にバルーンカテーテルを留置することにより一時的に閉塞され、遺伝子治療剤は、膨張された(閉塞)バルーンの間の空間内に血管内カテーテルを経由して注入される。さらに、ウイルス性治療剤の容量は、標的器官の血管系の灌流に十分な程大きいが、静脈圧における有意な上昇の防止または側副循環による該剤の全身分布に十分な程小さい。この方法を用いてウイルス性遺伝子治療剤を分離された肝臓に送達する場合、非常に効果的な遺伝子移入が成し遂げられる。
【0018】
別の実施態様において、本発明の方法は、ウイルス投与前の「フラッシング(flushing)」工程を含んでもよい。フラッシングは、生理食塩水のごとき生理的に適切な溶液を利用して、ウイルスの投与前に分離された器官または器官のセクションを灌流または部分的に灌流させ、そうでなければ標的細胞に形質導入または感染する遺伝子移入ベクターの能力を軽減し得るウイルスベクターに対する既存の抗体を軽減または排除する。
【0019】
別の実施態様において、肝臓が標的器官である場合、ウイルス投与前のフラッシング工程は、トランスフェクションされる肝細胞の数および割合を増大してもよい。別の好ましい実施態様において、ウイルス投与前のフラッシング工程は、投与されるウイルスベクターに対して既存の免疫を有する動物においてトランスフェクションされる肝細胞の数および割合を増大する。
【0020】
さらなる別の実施態様において、本発明の方法は、標的器官におけるウイルス性遺伝子治療剤について、延長された持続または滞留時間を含んでもよい。延長された滞留時間は、本方法に付随する急性毒性を増大させることなく、動物にトランスフェクションされる肝細胞の数および割合を増大してもよい。
【0021】
本発明のさらなる目的および利点は、一部には、以下の記載にて示されており、一部には、該記載から明かであり、または本発明を実施することにより認識できよう。本発明の目的および利点は、添付の特許請求の範囲にて特に指摘されているエレメントおよび組み合わせにより、理解および達成され得る。
【0022】
前記した一般的な説明および下記する詳細な説明の両方は本発明の単なる例示および説明であり、特許請求された本発明を限定するものではないことが理解されるべきである。
【0023】
本明細書に組み込まれ、かつ本明細書の一部を構成する添付の図は、本発明の幾つかの実施態様を説明しており、本明細書の記載と共に、本発明の原理を説明するのに役立つ。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】肝静脈(3)を閉塞するバルーンカテーテル(4)を示す。該カテーテルは、頸静脈(5)から挿入され、上大静脈(1)、心臓(2)を経て、肝静脈(3)まで通される。
【0025】
【図2】ウサギモデルにおける肝静脈を通じてのウイルスのバルーンカテーテル投与の蛍光透視法によるスポットイメージを示す。点線は大静脈および4つの主要な肝静脈を示す。カテーテルは、上大静脈を通じて右尾状葉に下降していることが分かり、そこで、造影剤で膨張された閉塞バルーンが静脈からの血流を遮断する。造影剤を含有する注入溶液により、この葉の静脈分岐(点線サークル)が強調して示され得る。該イメージはウイルス注入の直前に獲得されており、選択された肝静脈のバルーン介在閉塞の開存性を示す。
【0026】
【図3】肝静脈内のバルーンカテーテル(4)の蛍光透視法によるイメージを示す(HVブロック)。第2のバルーン(6)は下大静脈内で膨張される(IVCブロック)。
【0027】
【図4】肝臓の静脈排出路を分離するための二重バルーン技法を示す。第1のバルーン(7)は、頸静脈(5)から挿入された後、上大静脈(1)を介して、肝臓まで通される。第2の閉塞バルーン(8)は、下大静脈(18)から挿入される。第1のバルーン(7)は、肝静脈(3,10,11)の上側にある下大静脈の一部を閉塞し、第2のバルーン(8)は、肝静脈(3,10,11)の下側にある下大静脈(18)の一部を閉塞する。第3のカテーテル(9)を用いて治療剤を注入する。
【0028】
【図5】別の二重バルーン技法を示す。バルーン(12,13)を閉塞に用いる。およびカテーテルチップ(14,15)の一方または両方にある穴を通じて治療剤が注入できるように、バルーン(12,13)の一方または両方を通じて内腔を拡張させてもよい。
【0029】
【図6】バルーンカテーテルおよびAd2ナイーブウサギを用いて1.5×1012vp/kgのAd2−βgalを投与した後の、3ml(A,B,C)、8ml(D,E,F)または20ml(G,H,I)の注入量の関数としての、β−ガラクトシダーゼ発現の分布を示す。免疫組織化学により評価される発現は、注入(葉1)および非注入(葉4)の葉(A,B,D,E,G,H)の両方について、2匹の注入された動物に典型的な顕微鏡写真により10×で示される。1葉あたり3コアにおける細菌性β−ガラクトシダーゼの発現を図式的に示す(C,FおよびI);注入された葉に陰影を付ける。数値は、β−ガラクトシダーゼ/mg蛋白質の相対発光量での発現を示す。簡単にするため、葉に番号を付ける。注入された葉(葉1)は図2で示したマルで囲った葉であることに注意すること。
【0030】
【図7】Ad2ナイーブウサギ(A,C,E)および抗−Ad2抗体含有のヒト血清で受動免疫されたウサギ(B,D,F)に対して8mlの容量で1.5×1012vp/kgのAd2−βgalを全身投与した後のβ−ガラクトシダーゼ発現の分布を示す。葉1におけるβ−ガラクトシダーゼ発現の免疫組織化学的局在性は、2〜3匹の注入された動物に典型的な顕微鏡写真において10×および40×で示される。ELISAにより測定されたβ−ガラクトシダーゼ発現の分布図を、ナイーブ(E)および受動免疫された(F)ウサギについて示す(これは全身投与なので葉間の区別はない)。
【0031】
【図8】バルーンカテーテルおよび8mlの注入量を用いてAd2ナイーブウサギ(A−E)およびAd2に対して受動免疫されたウサギ(F−J)へ1.5×1012vp/kgのAd2−βgalを投与した後のβ−ガラクトシダーゼ発現の分布を示す。免疫組織化学により評価される発現は、注入(葉1;A,C,F,H)および非注入(葉4;B,D,G,I)の両方の葉について、3匹の注入されたウサギに典型的な顕微鏡写真において10×および40×で示される。ELISAにより測定された発現を図式的に示す;注入葉に陰影を付ける。数値は、1葉あたり3つの組織コアからのβ−ガラクトシダーゼ(pg)/蛋白質(μg)の単位での平均発現を示す。
【0032】
【図9】本発明の方法に従ってウイルス性遺伝子治療剤を送達した後の、トランスジーンを発現する肝細胞および非肝細胞の数の定量化を示す。ナイーブウサギ(AおよびD)または抗−Ad2抗体含有ヒト血清で受動免疫されたウサギ(B,CおよびE)へ同容量(8ml)で同量のウイルス(1.5×1012vp/kgのAd2−βgal)を局所(A,BおよびC)または全身(DおよびE)送達した後の、各肝葉の1mm2フィールドあたりのβ−ガラクトシダーゼ陽性肝細胞(黒の棒)および非肝細胞(白の棒)の数のMetamorph定量。(C)における動物の注入された葉は、8mlのウイルス投与の直前に20mlの生理食塩水でフラッシュされた。括弧書きの数値は、各特定の葉内の全β−gal陽性細胞のうちのβ−gal陽性肝細胞のフラクションを示す。番号1および4の葉は図6〜8に図式的に示したものに対応する(A,B,CおよびE,N=30フィールド,D;N=45フィールド)。
【0033】
【図10】バルーンカテーテル介在送達を用いて3匹のナイーブウサギへ肝臓への局所送達により全量8mlで5×1012drpのAAV2DC190HAGALウイルスを投与した後の、84日間にわたるヒトα−ガラクトシダーゼA発現を示す。3匹のウサギのうち2匹では全84日間にわたって発現を検出し、3匹目のウサギでは、7日目および14日目の間に発現の検出を開始し、84日間の残りの時間、発現を検出した。
【0034】
【図11A】本発明の方法に従って4分間の滞留時間を用いてナイーブウサギに8ml容量でAd2βgalウイルス(1.5×1012vp/kg)をカテーテルに基づいて局所送達した後の、トランスジーンを発現する全細胞と比較したトランスジーンを発現する肝細胞の比率である、トランスフェクションされた肝細胞フラクションを示す。β−ガラクトシダーゼ陽性肝細胞および非肝細胞の数のMetamorph定量化を、注入肝葉および非注入肝葉の両方の3セクションにて行った。各棒は、1つの肝臓セクションの肝細胞フラクション[トランスフェクションされた肝細胞/(トランスフェクションされた肝細胞+トランスフェクションされた非肝細胞)]分析を示す。8−20および8−22についての棒は4分間の滞留時間で処置したウサギを示し、一方、4、5および1についての棒は1分間の滞留時間で処置したウサギを示す。これらは、滞留時間を除き同一のプロトコルを用いた先の実験に由来するものである。
【0035】
【図11B】1)4分間の滞留時間(8−20および8−22)でのバルーンカテーテルおよび8mlの容量を用いて1.5×1012vp/kgのAd2−βgalをウサギへ投与した後の、ならびに2)1分間の滞留時間(4、5および1)以外は先の実験と同一の条件での、ELISAにより測定されたβ−ガラクトシダーゼ発現の分布を示す。発現を4つの肝葉、肺、腎臓および脾臓にて測定した。3つの組織コアを各肝葉から採集し、これを用いて発現を測定した;それらは、大静脈への葉肝静脈の入口部に対して葉の近位、中位および遠位であった。RCP、RCM、RCDは、各々、近位、中位および遠位の外側右葉(注入葉)を言う。RLP、RLM、RLDは、各々、近位、中位および遠位の内側右葉を言う。MP、MM、MDは、各々、近位、中位および遠位の内側左葉を言う。LP、LM、LDは、各々、近位、中位および遠位の外側左葉を言う。
【発明を実施するための形態】
【0036】
実施態様の説明
ここで、本発明の実施態様に対して詳細な言及がされるが、その例は添付の図に示されている。可能な場合には、同じまたは同様の部分を言及するために、同じ参照番号が図において用いられ得る。
【0037】
別記しない限り、本発明の実施は、分子生物学(組換えDNA技法を含む)、細菌学、細胞生物学、生化学および免疫学の慣用的技法を用い、これらは当業者の範囲内である。かかる技法は、Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Second Edition(Sambrookら.,1989);Current Protocols In Molecular Biology(F.M.Ausubelら.,eds.,1987);Oligonucleotide Synthesis(MJ.Gait,ed.,1984);Animal Cell Culture(R.I.Freshney,ed.,1987);Methods In Enzymology(Academic Press,Inc.);Handbook Of Experimental Immunology(D.M.Wei&CC.Blackwell,eds.);Gene Transfer Vectors For Mammalian Cells(J.M.Miller&M.P.Calos,eds.,1987);PCR:The Polymerase Chain Reaction,(Mullisら.,eds.,1994);Current Protocols In Immunology(J.E.Coliganら.,eds.,1991);Antibodies:A Laboratory Manual(E.HarlowおよびD.Lane eds.(1988));およびPCR 2:A Practical Approach(MJ.MacPherson,B.D.HamesおよびG.R.Taylor eds.(1995))のごとき文献において十分に説明されている。
【0038】
用語「トランスジーン」は、組織または器官の細胞中に導入されて、適切な条件下で発現し得るか、またはそうでなければ細胞に有用な特性を付与し得るポリヌクレオチドを言う。所望の治療結果に基づいてトランスジーンを選択する。それは、例えば、ホルモン、酵素、受容体または目的とする他の蛋白質をコードしていてもよい。それは、内因性または体外から投与された遺伝子の発現を減少または排除するために、低分子干渉RNA(siRNA)またはアンチセンスRNAをコードしていてもよい。例えば、家族性高コレステロール血症の処置において、LDL受容体をコードするトランスジーンを用いてもよい(Kobayashiら.,J.Biol.Chem.271:6852−6860)。
【0039】
用語「トランスフェクション」は、用語「遺伝子移入」および「形質導入」と同義的に用いられ、トランスジーンの細胞内導入を意味する。「トランスフェクション効率」は、トランスフェクションに付された細胞により取り込まれたトランスジーンの相対量を言う。実際、トランスフェクション効率は、トランスフェクション手順の後に発現されるレポーター遺伝子産物の量により評価される。
【0040】
本明細書中、遺伝子送達、遺伝子移入等なる用語は、外来性ポリヌクレオチド(場合により「トランスジーン」と言う)の宿主細胞への導入を言う。導入されたポリヌクレオチドは、安定にまたは一時的に宿主細胞中に維持されてもよい。典型的に、安定な維持には、導入されたポリヌクレオチドが宿主細胞に適合する複製起点を含むか、或いは染色体外レプリコンのごとき宿主細胞のレプリコンまたは核もしくはミトコンドリア染色体に組み込む必要がある。当該技術分野において知られており、本明細書中に記載されているように、多数のウイルスベクターが哺乳類細胞への遺伝子移入を介在し得ることが知られている。
【0041】
外来性ポリヌクレオチドは、本発明の方法を介して宿主へ送達するために、ウイルスベクターに導入される。各々多数の種を含む多数のウイルスベクターが知られており、多数が遺伝子療法目的のために研究されている。最も一般的に用いられているウイルスベクターは、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス[AAV]、およびレンチウイルスを含むレトロウイルス、例えば、ヒト免疫不全ウイルス[HIV]を包含する。
【0042】
用語「ウイルス」は、DNAまたはRNAを細胞に移入し得る物質であり、DNAまたはRNAおよび蛋白質コートから構成される、非細胞性生物である偏性細胞内生物である物質を言う。ウイルスは、裸の(naked)DNA、裸のRNA、蛋白質コートのないプラスミドDNA、または蛋白質コートのないRNAを含まない。本発明の方法に適用されてもよいウイルスの例は、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、アルファウイルス、バキュロウイルス、ヘパデナウイルス(hepadenaviruses)、バキュロウイルス、ポックスウイルス、ヘルペスウイルス、レトロウイルス、レンチウイルス、オルソミクソウイルス、パポバウイルス、パラミクソウイルスおよびパルボウイルスを含む。加えて、これらの任意のウイルスの組み合わせから産生されるハイブリッドウイルスが用いられてもよい。これらは、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクターおよびプラスミドベクターを含む。例示的なウイルスの型は、HSV(ヘルペスシンプレックスウイルス)、AAV(アデノ随伴ウイルス)、HIV(ヒト免疫不全ウイルス)、BIV(ウシ免疫不全ウイルス)およびMLV(ネズミ白血病ウイルス)を含む。
【0043】
本発明の方法を用いて特定の哺乳類へ送達するためのウイルスを選択する際、念頭にある処置すべき哺乳類について、特定のウイルスの特定の血清型を選択してもよい。血清型は、上記哺乳類において単離されたもの、および/または処置すべき特定の標的哺乳類の特定の標的器官について高められた指向性を有し得るものから選択されてもよい。
【0044】
或いは、本発明の方法を用いて特定の哺乳類へ送達するためのウイルスを選択する際、特定の哺乳類種において単離されていない血清型を選択してもよい。
【0045】
アデノウイルスは、約36kbのゲノムを有する非エンベロープ、核DNAウイルスであり、古典的な遺伝学および分子生物学における研究により十分に特徴付けられている(Hurwitz,M.S.,Adenoviruses Virology,3rd edition,Fieldsら.,eds.,Raven Press,New York,1996;Hitt,M.M.ら.,Adenovirus Vectors,The Development of Human Gene Therapy,Friedman,T.ed.,Cold Spring Harbor Laboratory Press,New York 1999)。ウイルス遺伝子は、初期(E1−E4と称する)および後期(L1−L5と称する)転写ユニットに分類され、これらは、ウイルス蛋白質の2つの一時的なクラスの産生に言及する。これらの事象を区別するものは、ウイルスDNA複製である。ヒトアデノウイルスは、赤血球細胞の血球凝集、発癌性、DNAおよび蛋白質アミノ酸の組成および相同性、ならびに抗原的関連性を含む特性に基づいて、様々な血清型に分類される(約47、適宜ナンバリングされ、6群:A、B、C、D、EおよびFに分類される)。
【0046】
組換えアデノウイルスベクターは、分裂および非分裂細胞の両方に対する指向性、潜在的病原性がわずかであること、ベクターストックの調製のために高力価で複製する能力、および大きなインサートを保有する潜在力を含む、遺伝子送達ビヒクルとしての使用のために幾つかの利点を有する(Berkner,K.L.,Curr.Top.Micro.Immunol.158:39−66,1992;Jolly,D.,Cancer Gene Therapy 1:51−64 1994)。様々なアデノウイルス遺伝子配列の欠失を伴うアデノウイルスベクター、例えば、偽アデノウイルスベクター(PAVs)および部分的に欠失したアデノウイルス(「DeAd」と言う)は、アデノウイルスの望ましい特徴を利用するように設計されており、レシピエント細胞への核酸の送達に適するビヒクルとなる。
【0047】
特に、「弱い(gutless)アデノウイルス」またはミニ−アデノウイルスベクターとしても知られている偽アデノウイルスベクター(PAV)は、ベクターゲノムの複製およびパッケージに必要とされる最小のシス作用性ヌクレオチド配列を含み、1個または複数のトランスジーンを含み得るアデノウイルスのゲノムに由来するアデノウイルスベクターである(偽アデノウイルスベクター(PAV)およびPAVの産生方法を含む米国特許第5,882,877号を参照のこと。該文献は出典明示により本明細書の一部となる)。PAVは、アデノウイルスの望ましい特徴を利用するように設計されており、遺伝子送達に適するビヒクルとなる。一般的に、アデノウイルスベクターは、ウイルス成長に重要でない領域の欠失により最高8kbの大きさのインサートを保有可能であるが、最大保有能は、PAVを含む、大部分のウイルスコーディング配列の欠失を含有するアデノウイルスベクターの使用により達成され得る。Gregoryらの米国特許第5,882,877号;Kochanekら.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 93:5731−5736,1996;Parksら.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 93:13565−13570,1996;Lieberら.,J.Virol.70:8944−8960,1996;Fisherら.,Virology 217:11−22,1996;米国特許第5,670,488号;1996年10月24日公開のPCT公開番号 WO96/33280;1996年12月19日公開のPCT公開番号 WO96/40955;1997年6月19日公開のPCT公開番号 WO97/25446;1995年11月9日公開のPCT公開番号 WO95/29993;1997年1月3日公開のPCT公開番号 WO97/00326;Morralら.,Hum.Gene Ther.10:2709−2716,1998を参照のこと。最高約36kbの外来核酸を収容し得るかかるPAVは有利である。というのも、ベクターに対する宿主免疫応答の可能性または複製能のあるウイルスの産生を軽減する一方で、ベクターの保有能が最適化されるからである。PAVベクターは、複製起点およびPAVゲノムのパッケージに必要とされるシス作用性ヌクレオチド配列を含む、5’逆方向末端反復配列(ITR)および3’ITRヌクレオチド配列を含有し、プロモーター、エンハンサー等のごとき適切な調節エレメントと共に1個または複数のトランスジーンを収容し得る。
【0048】
他の部分的に欠失したアデノウイルスベクターは、一の部分的に欠失したアデノウイルス(「DeAd」と言う)ベクターを提供し、該ベクターにおいて、ウイルス複製に必要とされるアデノウイルス初期遺伝子の大部分は、ベクターから欠失しており、条件付き(conditional)プロモーターの制御下で産生細胞の染色体内に存在する。産生細胞中に存在する欠失可能なアデノウイルス遺伝子は、E1A/E1B、E2、E4(ORF6およびORF6/7のみが細胞中に存在する必要がある)、plXおよびplVa2を含んでもよい。E3もベクターから欠失されてよいが、それはベクター産生に必要ではないので、産生細胞から削除することもできる。通常、主要後期プロモーター(MLP)の制御下にあるアデノウイルス後期遺伝子はベクター中に存在するが、MLPは条件付きプロモーターにより置換されてもよい。
【0049】
PAVまたはDeAdウイルスベクターおよび産生細胞株における使用に適する条件付きプロモーターは、以下の特徴:細胞傷害性または細胞増殖抑制性アデノウイルス遺伝子が細胞に有害なレベルで発現されないような、非誘導状態における低い基礎的発現;ならびに十分な量のウイルス性蛋白質がベクター複製およびアセンブリを支持するために産生されるような、誘導状態における高レベル発現:を有するものを含む。DeAdベクターおよび産生細胞株における使用に適する好ましい条件付きプロモーターは、免疫抑制剤FK506およびラパマイシンに基づく二量体化(dimerizer)遺伝子制御系、エクジソン遺伝子制御系およびテトラサイクリン遺伝子制御系を含む。Abruzzeseら.,Hum.GeneTher.1999 10:1499−507に記載されているGeneSwitch(登録商標)技法[Valentis,Inc.,Woodlands,TX]も本発明に有用であってもよい。該文献の開示内容は出典明示により本明細書の一部となる。部分的に欠失したアデノウイルス発現系はWO99/57296にさらに記載されている。該開示内容は出典明示により本明細書の一部となる。
【0050】
アデノ随伴ウイルス(AAV)は、4.6kbのゲノムサイズを有する一本鎖ヒトDNAパルボウイルスである。AAVゲノムは、2つの主要な遺伝子:rep蛋白質(Rep76,Rep68,Rep52およびRep40)をコードするrep遺伝子、ならびにAAV複製、レスキュー(rescue)、転写および組込みをコードするcap遺伝子、ここで、cap蛋白質はAAVウイルス粒子を形成する:を含有する。AAVの名前の由来は、AAVの増殖感染を可能にするのに、すなわち、宿主細胞におけるそれ自身の複製を可能とするのに必須の遺伝子産物を供給するために、該ウイルスがアデノウイルスまたは他のヘルパーウイルス(例えば、ヘルペスウイルス)に依存することによる。ヘルパーウイルスの不在下で、AAVは、ヘルパーウイルス、通常、アデノウイルスでの宿主細胞の重複感染によりそれがレスキューされるまで、プロウイルスとして宿主細胞の染色体に組み込む(Muzyczka,Curr.Top.Micro.Immunol.158:97−127,1992)。
【0051】
遺伝子移入ベクターとしてのAAVにおける興味深さは、その生態における幾つかの特有の特徴からもたらされる。AAVゲノムの両端には、ウイルス複製、レスキュー、パッケージおよび組込みに必要とされるシス作用性ヌクレオチド配列を含む逆方向末端反復配列(ITR)として知られているヌクレオチド配列がある。rep蛋白質によりin transで介在されるITRの組込み機能により、ヘルパーウイルスの不在下、感染後に、AAVゲノムは細胞の染色体に組み込むことが可能となる。該ウイルスのこの特有の特性は、目的の遺伝子を含有する組換えAAVの細胞ゲノムへの組込みを可能とするので、遺伝子移入におけるAAVの使用に関連性がある。故に、遺伝子移入の多数の目的に理想的な安定な遺伝子形質転換は、rAAVベクターを用いることにより成し遂げられてもよい。さらに、AAVについての組込み部位は十分に確立されており、ヒトの19番染色体に局所している(Kotinら.,Proc.Natl.Acad.Sci.87:2211−2215,1990)。組込み部位のこの予測可能性により、宿主遺伝子を活性化もしくは不活性化するか、またはコーディング配列を遮断して、結果としてAAV組込みベクターの使用を制限し得る、細胞ゲノムへのランダム挿入事象の危険性が軽減される。rAAVベクターの設計におけるこの遺伝子の除去は、rAAVベクターについて観察された改変された組込みパターンをもたらしてもよい(Ponnazhaganら.,Hum Gene Ther.8:275−284,1997)。
【0052】
遺伝子移入用AAVの使用には他の利点がある。AAVの宿主域は広い。さらに、レトロウイルスと異なり、AAVは静止細胞および分裂細胞の両方に感染し得る。加えて、AAVはヒト疾患に関連しておらず、レトロウイルスに由来する遺伝子移入ベクターにより引き起こされる多数の問題を未然に防ぐ。
【0053】
組換えrAAVベクターの産生に対する標準的アプローチでは、一連の細胞内事象:AAV ITR配列に隣接する目的のトランスジーンを含有するrAAVベクターゲノムで宿主細胞をトランスフェクションすること;in transで必要とされるAAV repおよびcap蛋白質に関する遺伝子をコードするプラスミドにより宿主細胞をトランスフェクションすること;ならびにトランスフェクションされた細胞をヘルパーウイルスに感染させて、in transで必要とされる非AAVヘルパー機能を供給すること:を協調させる必要があった(Muzyczka,N.,Curr.Top.Micro.Immunol.158:97−129,1992)。アデノウイルス(または他のヘルパーウイルス)蛋白質はAAV rep遺伝子の転写を活性化し、次いで、rep蛋白質はAAV cap遺伝子の転写を活性化する。次いで、cap蛋白質はITR配列を利用して、rAAVゲノムをrAAVウイルス粒子中にパッケージ化する。故に、パッケージ化の効率は、一部には、十分量の構造蛋白質のアベイラビリティにより、ならびにrAAVベクターゲノムにおいて必要とされる任意のシス作用性パッケージ配列の利便性により決定される。
【0054】
レトロウイルスベクターは遺伝子送達のための一般的ツールである(Miller,Nature(1992)357:455−460)。広範な齧歯類、霊長類およびヒト体細胞中へ再配列していない単一コピーの遺伝子を送達するレトロウイルスベクターの能力により、細胞への遺伝子の移入に十分に適したレトロウイルスベクターが作製される。
【0055】
レトロウイルスは、ウイルスゲノムがRNAであるRNAウイルスである。宿主細胞がレトロウイルスに感染する場合、ゲノムRNAはDNA中間体に逆転写され、該中間体は感染された細胞の染色体DNA中に非常に効果的に組み込まれる。この組み込まれたDNA中間体をプロウイルスと言う。プロウイルスの転写および感染性ウイルスへのアセンブリは、適切なヘルパーウイルスの存在下にて、または汚染ヘルパーウイルスの同時産生を伴わずにカプシド形成を可能とする適切な配列を含有する細胞株にて生じる。カプシド形成に関する配列が適切なベクターとの共トランスフェクションによりもたらされるならば、ヘルパーウイルスは組換えレトロウイルスの産生に必要ではない。
【0056】
レトロウイルスゲノムおよびプロウイルスDNAは、2つの長い末端反復(LTR)配列に隣接する3つの遺伝子:gag、polおよびenvを有する。gag遺伝子は内部構造(マトリックス、カプシドおよびヌクレオカプシド)蛋白質をコードし;pol遺伝子はRNA特異的DNAポリメラーゼ(逆転写酵素)をコードし、env遺伝子はウイルス性エンベロープ糖蛋白質をコードする。5’および3’LTRは、ビリオンRNAの転写およびポリアデニル化の促進に関与する。LTRは、ウイルス複製に必要な他の全てのシス作用性配列を含有する。レンチウイルスは、(HIV−1,HIV−2および/またはSIV中に)vit、vpr、tat、rev、vpu、nefおよびvpxを含むさらなる遺伝子を有する。5’LTRに隣接して、ゲノムの逆転写に必要な配列(tRNAプライマー結合部位)および粒子中へのウイルス性RNAの効果的なカプシド形成に必要な配列(Psi部位)がある。カプシド形成(または感染性ビリオンへのレトロウイルスRNAのパッケージ化)に必要な配列がウイルスゲノムから欠損しているならば、ゲノムRNAのカプシド形成を阻害するシス欠損がもたらされる。しかし、得られた突然変異体は依然として全てのビリオン蛋白質の合成を導き得る。
【0057】
レンチウイルスは、共通のレトロウイルス遺伝子gag、polおよびenvに加えて調節または構造的機能を有する他の遺伝子を含む複雑なレトロウイルスである。より高い複雑性により、潜在的な感染の経過において見られるように、レンチウイルスはその生活環を調節できる。典型的なレンチウイルスは、AIDSの原因菌であるヒト免疫不全ウイルス(HIV)である。インビボでは、HIVは、リンパ球およびマクロファージのごとき、めったに分裂しない最終分化細胞に感染し得る。インビトロでは、HIVは、アフィジコリンまたはガンマ照射での処理により細胞周期を停止させた単球由来マクロファージ(MDM)ならびにHeLa−Cd4またはTリンパ球様細胞の初代培養物に感染し得る。細胞の感染は、標的細胞の核膜孔を介するHIVプレインテグレーション複合体の活発な核内輸送に依存する。これは、複合体中の複数の部分的に重複している分子決定因子と、標的細胞の核内輸送機構との相互作用により生じる。同定された決定因子は、gagマトリックス(MA)蛋白質中の機能的核局所化シグナル(NLS)、核親和性ビリオン関連蛋白質、vpr、およびgagMA蛋白質中のC−末端ホスホチロシン残基を含む。遺伝子療法のためのレトロウイルスの使用は、例えば、米国特許第6,013,516号;および米国特許第5,994,136号に記載されており、その開示内容は出典明示により本明細書の一部となる。
【0058】
本発明の方法に適用され得るウイルスについてのさらなる情報は、ウイルス学の多数のテキストにて見出され得る(Friedman,Theodore;The Development of Human Gene Therapy,Cold Spring Harbor Laboratory Press,1998)。
【0059】
本発明の方法により投与されるウイルスベクターは、選択したトランスジーンに作動可能に連結したプロモーターおよびエンハンサーのごとき調節エレメントを含有する発現カセットを含む。適当なプロモーターおよびエンハンサーは、選択したウイルスベクターにおいて用いるために当該分野において広く利用可能である。好ましい実施態様において、調節エレメントは、PCT US 00/31444に開示されているもののように、肝臓において優先的にトランスジーン発現を導き得るプロモーターおよびエンハンサーエレメントの組み合わせを含む。該文献の開示内容は出典明示により本明細書の一部となる。それらは、構成的または高発現プロモーターおよび1個または複数の肝特異的エンハンサーエレメントの組み合わせを含んでもよい。
【0060】
強力な構成的プロモーターは、CMVプロモーター、切断型CMVプロモーター、ヒト血清アルブミンプロモーターおよびα−1−アンチトリプシンプロモーターを含む群から選択されてもよい。他の実施態様において、プロモーターは、既知の転写リプレッサーに関する結合部位が欠失している切断型CMVプロモーターである。肝特異的エンハンサーエレメントは、ヒト血清アルブミン[HSA]エンハンサー、ヒトプロトロンビン[HPrT]エンハンサー、α−1−ミクログロブリンエンハンサーおよびイントロンアルドラーゼエンハンサーからなる群より選択されてもよい。これらの肝特異的エンハンサーエレメントの1個または複数をプロモーターと組み合わせて用いてもよい。発現カセットの一の好ましい実施態様において、1個または複数のHSAエンハンサーを、CMVプロモーターまたはHSAプロモーターからなる群より選択される一のプロモーターと組み合わせて用いてもよい。別の好ましい実施態様において、ヒトプロトロンビン(HPrT)エンハンサーおよびα−1−ミクログロブリン(A1MB)エンハンサーからなる群より選択される1個または複数のエンハンサーエレメントをCMVプロモーターと組み合わせて用いてもよい。さらなる別の好ましい実施態様において、エンハンサーエレメントは、HPrTエンハンサーおよびA1MBエンハンサーからなる群より選択され、α−1−アンチトリプシンプロモーターと組み合わせて用いてもよい。
【0061】
本発明は、ウイルス性遺伝子治療剤によりコードされる蛋白質を発現させるために、哺乳類対象の選択された器官へウイルス性遺伝子治療剤を送達するための方法を提供する。該方法は、器官または器官のセクションを流れる静脈血管系内に1個または複数のカテーテルを留置する工程、ここで、少なくとも1つのカテーテルは1個または複数の膨張可能で拡張可能な部材を有する;1個または複数の膨張可能で拡張可能な部材を膨張させることによって器官または器官のセクションを流れる静脈血管系内の血液を閉塞させることにより器官または器官のセクションを分離する工程;分離された器官または分離された器官のセクション中の通常の静脈圧の40%増までの血圧上昇を惹起する容量でウイルス性遺伝子治療剤を送達する工程;ならびに治療上有効量の該遺伝子治療剤のトランスフェクションに十分な時間、該遺伝子治療剤を分離された血管系のセクション内に持続させておく工程を含む。それは、所望により、ウイルス性遺伝子治療剤の送達前に抗ウイルス抗体を除去するために静脈血管系をフラッシュするさらなる工程を含んでもよい。
【0062】
本発明の方法において、ウイルス性遺伝子治療剤は、分離された器官または分離された器官のセクションの通常の静脈圧より上側に該静脈血管系内の圧を有意に高めることなく、分離された器官または分離された器官のセクションを流れる静脈血管系を灌流させるのに十分な容量で送達される。肝臓の場合において、分離された器官または分離された器官のセクション内の通常の静脈圧は、閉塞肝静脈圧(WHVP)により測定される。WHVPは、肝静脈中にバルーンカテーテルを挿入し、次いで、バルーンカテーテルを膨張させて、肝静脈を閉塞させることにより測定される。閉塞された静脈における圧はバルーンカテーテルの遠位末端のチップ上にて圧変換器により測定され、この測定された圧はWHVPに等しい。ヒト対象におけるWHVPについての典型的な値は40〜140mmの生理食塩水である。肝臓、血管または心臓疾患を有する患者においてはより高い値が示されてもよい。
【0063】
本発明の方法において、ウイルス性遺伝子治療剤は、分離された器官または分離された器官のセクションを流れる静脈血管系に送達される。器官全体への送達の場合には、当業者には、器官を流れる静脈血管系は器官全体を流れる静脈血管系を言うことが明かであろう。肝臓の場合には、肝臓を流れる静脈血管系は肝静脈、右または左肝静脈、下葉静脈、中心静脈および類洞を言う。門静脈は、肝臓を流れる静脈血管系の部分と見なされない。さらに、肝臓の場合において、器官を流れる静脈血管系のセクションを本発明の方法により閉塞させて、器官のセクションを分離してもよい。当業者は、本発明の方法により分離された器官および器官のセクションを流れる静脈血管系のセクションが、ウイルス性治療剤の送達に用いるカテーテルの1つを用いてX線造影剤を注入することにより同定されてもよいことを認識できよう。同一の分離された器官または分離された器官のセクションに用いられ得るウイルス性治療剤と同量の造影剤を注入することにより、分離されたセクションは蛍光透視により同定され得る。肝臓の場合において、閉塞された肝静脈または肝静脈の閉塞された区分へ注入された造影剤により、蛍光透視下で、分離されるべき肝臓のセクションが明示され得る。
【0064】
本発明の目的のために、分離された器官または分離された器官のセクションへ注入された場合に、分離された器官または分離された器官のセクションにおける通常の静脈圧の10%、20%、30%または40%増まで、分離された器官または分離された器官のセクションにおける静脈圧の上昇を惹起する注入量が選択されてもよい。さらに、肝臓の場合において、肝臓を流れる静脈血管系の通常の静脈圧はWHVPにより測定され得る。100mmの生理食塩水のWHVPの場合には、10mmの生理食塩水(0.75mmHg)まで、20mmの生理食塩水(1.5mmHg)まで、30mmの生理食塩水(2.25mmHg)まで、または40mmの生理食塩水(3.0mmHg)までWHVPの上昇を惹起するように、注入量が選択されてもよい。注入量は、処置されるべき標的器官または標的器官の部分の容積の1〜5%、5〜10%、10〜20%、20〜30%または30〜40%と等しくなるように選択されてもよい。
【0065】
本発明の方法において、ウイルス性遺伝子治療剤を、ウイルスに対して既存の免疫を有するヒトのごとき哺乳類対象へ送達してもよい。既存の免疫は、対象の血清中のウイルス性治療剤の一部に対する抗体の存在によってか、またはウイルス性遺伝子治療剤に対する細胞免疫応答を同定することにより認識されてもよい。抗体は、ウイルス上もしくはウイルス内に含まれる蛋白質、またはウイルス内に含まれるDNAもしくはRNAに指向していてもよい。酵素結合型イムノソルベントアッセイ(ELISA)、ラジオイムノアッセイ(RIA)または凝集アッセイを含む様々な方法が、対象の血清中の抗体を同定するために存在する。細胞免疫応答を同定するための方法は、混合型リンパ球反応および細胞介在リンパ溶解(lympholysis)アッセイを含む。抗体を同定するための、または細胞免疫応答を測定するためのこれらの方法は一般的な免疫学のテキストに記載されている(Kuby,Janis;Immunology,3rd Edition,1997;Roittら.,Immunology,6th ed.,2001,Mosby)。
【0066】
本発明の方法において、ウイルス性遺伝子治療剤は、器官の標的細胞においてウイルス性遺伝子治療剤によりコードされる蛋白質を発現させるために、器官または器官のセクションを流れる分離された静脈血管系へ送達される。器官が様々な細胞型から構成されるので、本発明は、非標的細胞における発現に対する標的実質細胞における発現の比を最大化するための方法を提供する。ウイルスによりコードされた蛋白質を発現する細胞は、本発明の方法によりウイルス性治療剤でトランスフェクションされ、その後、ウイルス性治療剤によりコードされた蛋白質を産生する細胞として定義される。
【0067】
肝臓の場合において、標的実質細胞は肝細胞であり、非標的細胞は非肝細胞である。非肝細胞は、血管内皮細胞、クッパー細胞および支持ストロマ細胞を含む。故に、本発明の方法において、ウイルス性遺伝子治療剤によりコードされる蛋白質を発現する非肝細胞の比に対するウイルス性遺伝子治療剤によりコードされる蛋白質を発現する肝細胞の比が最大化され得る。該比は、少なくとも0.2、少なくとも0.3、少なくとも0.4、少なくとも0.5、少なくとも0.6、少なくとも0.7、少なくとも0.8または少なくとも0.9であってもよい。
【0068】
本発明の一の実施態様において、少量のウイルス性遺伝子治療剤を用いて、肝臓の一葉がトランスフェクションされる。図1に示すように、バルーン閉塞カテーテル(4)は、頸静脈(5)から挿入され、上大静脈(1)を経て、所望の肝静脈(3)まで通される。トランスフェクション物質の血管内、経カテーテル注入の直前に、カテーテル上のバルーン(17)を膨張させ、静脈血流を遮断し、それにより、分離された標的葉の実質へ注入溶液を限局させる。当業者には、頸静脈以外の多数の解剖学的位置を介して静脈血管系に進入することにより同一の手順が実施されてもよいことが理解されよう。例えば、大腿静脈が用いられてもよい。
【0069】
本発明の別の実施態様において、単一の肝葉がトランスフェクションされる。バルーン閉塞(4)カテーテルを選択した肝静脈の内腔内に留置する。図3に示すように、第2の閉塞バルーン(6)を下大静脈の肝部分に留置し、肝静脈血流を遮断する。トランスフェクション物質の経カテーテル注入の前に、バルーン(4,6)を下大静脈および肝静脈内で膨張させ、静脈血流を遮断し、それにより、分離された標的葉の実質に注入溶液を限局させる。
【0070】
本発明のさらなる別の実施態様において、トランスフェクション物質が単一注入により肝臓全体に送達される。図4に示すように、肝臓は、2つの別個の二重ルーメンバルーンカテーテル(7,8)を用いることにより分離され、該カテーテルを、肝静脈血流に対して上位および下位双方の下大静脈(18)において膨張させる。次いで、バルーンおよび血流の間に位置付けた血管内カテーテル(9)を介して、肝静脈から全肝実質への逆行性様式にて、トランスフェクション物質を注入する。図4に示すように、血管内カテーテル(9)はバルーン閉塞カテーテル(15)の1つに組み込まれてもよく、これにより配置すべきカテーテルの数を少なくできる。本発明の全ての実施態様において、バルーンの大きさは、手順の間に標的器官の血管流出の非外傷性閉塞を確保するように、各患者の血管の大きさに合わせたものとする。本発明の方法は、遺伝子療法の間のウイルス性遺伝子治療剤の使用を含むが、制御された圧力下での診断または治療溶液の分離された器官に対する標的化送達が所望される場合、該方法は、同様に、化学療法剤もしくは他の薬剤、幹細胞またはイメージング造影剤の治療的注入に十分に適用される。
【0071】
本発明の方法は、ウイルス投与前の「フラッシング」工程を含んでもよい。フラッシングは、生理食塩水のごとき生理的に適切な溶液を利用して、ウイルスの投与前に分離された器官または器官のセクションを灌流または部分的に灌流させる。理論に限定されないが、フラッシング溶液は、器官の血液および生理液を希釈し、流体成分およびウイルスの間の潜在的相互作用を最小限にする。これらの相互作用を最小限にすることにより、全体的な器官トランスフェクションが増大される。好ましい一の実施態様において、肝臓が標的器官である場合、ウイルス投与前のフラッシング工程は、トランスフェクションされる肝細胞の数および割合を増大してもよい。別の好ましい実施態様において、ウイルス投与前のフラッシング工程は、投与されるウイルスベクターに対して既存の免疫を有する動物においてトランスフェクションされる肝細胞の数および割合を増大する。
【0072】
本発明の方法は、ウイルス性遺伝子治療剤の滞留時間のバリエーションを含んでもよい。滞留時間は、ウイルス性遺伝子治療剤が標的器官に注入された後から、閉塞バルーンが収縮し、それにより標的器官内の通常の血流が回復する前までの時間である。ウイルス性遺伝子治療剤が注入された直後に回収される場合に、滞留時間は最小であってもよい。手順に付随する急性毒性をグレード2の毒性を超えて増大し得ない一定時間、ウイルス性遺伝子治療剤が標的器官内に滞留可能である場合に、滞留時間は延長されてもよい。この期間は、問題とする特定の標的器官に依存し得、当業者により容易に測定され得る。延長された滞留時間は、少なくとも2分、少なくとも3分、少なくとも4分、少なくとも5分またはそれ以上であってもよい。滞留時間を有する能力は、送達手順の逆行性に起因して生じ得る本発明の特徴である。該方法は、逆行性の流れを介してベクターを送達するので、ウイルスを器官組織に接触させておくために、標的器官は閉塞されてもよい。かかる滞留時間は、先行技術で用いられている順行性送達方法では、一般的に成し遂げることができない。これらの順行性方法では、通常の血流は安全に閉塞されない可能性がある。
【0073】
ウイルス性遺伝子療法ベクターの投与の前および後に、免疫抑制剤を動物に投与して、例えば、ウイルスベクターまたはトランスジーン産物のいずれかに対する免疫応答の可能性を最小限にまたは軽減してもよい。例えば、細胞傷害性リンパ球を抑制する物質を投与してもよい。該物質は、任意の発現されたウイルス性カプシド蛋白質を認識してもよく、それ故に、形質導入された細胞を排除してもよい。器官移植の分野において一般的に利用されている免疫抑制剤は、恐らく、本方法との併用に適する免疫抑制剤である。かかる物質は、単独で使用されてもよく、または他の同様の物質と組み合わせて使用されてもよい。これらの免疫抑制剤は、導入用に用いられるものおよび/または維持用に用いられるものを含んでもよい。例示的な物質は、シクロスポリン(Neoral(登録商標),Sandimmune(登録商標))、プレドニゾン(Novo Prednisone(登録商標),Apo Prednisone(登録商標))、アザチオプリン(Imuran(登録商標))、タクロリムスまたはFK506(Prograf(登録商標))、ミコフェノール酸モフェチル(CellCept(登録商標))、シロリムス(Rapamune(登録商標))、OKT3(Muromorab CO3(登録商標),Orthocl1(登録商標))、ATGAMおよびサイモグロブリンを含む。しかし、免疫抑制をもたらす任意の臨床的に認可される物質が用いられてもよい。有効な免疫抑制レジメンは当該分野において慣用的に実施されている。故に、適切なレジメンおよび投与は、問題とする特定の標的器官に依存し得、当業者により容易に決定され得る。
【0074】
本発明の方法は、様々な特定の実施態様の組み合わせを含んでもよい。例えば、ウイルス送達前の器官のフラッシングは、延長された滞留時間と組み合わせて用いられてもよい。或いは、ウイルス送達前の器官のフラッシングは、免疫抑制レジメンと組み合わせて用いられてもよい。或いは、ウイルス送達前の器官のフラッシングは、処置すべき哺乳類に対して高い指向性を有するとして選択された血清型の使用と組み合わされてもよい。或いは、ウイルス送達前の器官のフラッシングは、延長された滞留時間および免疫抑制レジメンと組み合わせて用いられてもよい。記載した実施例は本発明を説明するものであって、本発明を限定するものではない。
【0075】
標的器官に存在する場合または血流に分泌される場合に有用な分子をコードするトランスジーンは本方法における使用に適する。かかる分子は蛋白質およびホルモンを含んでもよい。例示的な蛋白質は、以下に示すリソソーム貯蔵障害において欠損しているものを含む。
【0076】
表1
【表1】
【表2】
* CNS関与
【0077】
他の例示的な蛋白質は、ヒトを含む哺乳類におけるアルツハイマー病のごとき他の疾患を処置するためのものである。かかる方法において、トランスジーンはメタロエンドペプチダーゼをコードする。メタロエンドペプチダーゼは、例えば、アミロイド−ベータ分解酵素ネプリライシン(EC3.4.24.11;配列アクセッション番号、例えば、P08473(SWISS−PROT))、インスリン分解酵素インスリジン(EC3.4.24.56;配列アクセッション番号、例えば、P14735(SWISS−PROT))またはthimetオリゴペプチダーゼ(EC3.4.24.15;配列アクセッション番号、例えば、P52888(SWISS−PROT))であり得る。
【0078】
さらに、トランスジーンは、インスリン成長因子−1(IGF−1)、カルビンジンD28、パルブアルブミン、HIF1−アルファ、SIRT−2、VEGF、SMN−1、SMN−2、GDNFおよびCNTF(毛様体神経栄養因子)からなる群より選択される蛋白質をコードしてもよい。かかる蛋白質は、血流への分泌後の作用を媒介することによる、本発明の方法を用いた筋萎縮性側索硬化症(ALS)の処置に適当であってもよい。ALSは、脊髄および脳幹運動ニューロンの変性に関連する、進行性の致死的な神経筋疾患である。該疾患の進行は、四肢、体軸および呼吸器官の筋肉の萎縮に至り得る。マウスおよびラットにおけるスーパオキシド・ジスムターゼ−1(SOD1)遺伝子突然変異の過剰発現は、ヒトにおけるALSの臨床的および病理学的特徴で反復される。このモデルにおける徴候を遅延するのに有効な化合物は、ALSを有する患者における臨床的有効性の予測となることが示されており、それ故に、この疾患の治療的に関連するモデルである。かかるマウスモデルは、Tuら(1996)P.N.A.S.93:3155−3160;Kasparら(2003)Science 301:839−842;Roaulら(2005)Nat.Med.11(4):423−428およびRalphら(2005)Nat.Med.11(4):429−433において既に記載されている。
【0079】
別の例では、トランスジーンは、VIII因子またはIX因子のごとき血友病において欠損している蛋白質をコードしていてもよい。記載した実施例は本発明を説明するものであって、本発明を限定するものではない。
【0080】
以下の代表的な実施例は本発明を説明することを目的としており、本発明を限定するものではない。代表的な手順はウサギにて実施されているが、それらは、非ヒト霊長類およびヒト対象のごとき他の哺乳類において、臨床的に実行可能なパラメーターの範囲内で、首尾よく実施される。
【実施例】
【0081】
実施例1:ウサギ肝臓へのアデノウイルス遺伝子療法ベクターのカテーテルに基づく送達
各実験について、各々約4kgの体重のニュージーランド白ウサギを用いた(Millbrook Farms,Amherst,MA)。用いたアデノウイルスベクターAd2βgalは、血清型2のバックボーンを有し、E1領域を欠失しているが、E3およびE4領域を保有する。発現カセットは、サイトメガロウイルス(CMV)前初期プロモーターおよびエンハンサー、核局在性β−ガラクトシダーゼに関するcDNA、ならびにSV40ポリアデニル化シグナルから構成される(Armentano,D.,ら.(1997).J.Virol.71:2408−2416)。各ウサギへ1.5×1012ウイルス粒子/kg(粒子:感染単位の比=10:1)のAd2βgalウイルスを注入した。
【0082】
以下のように本発明の方法の実施態様を利用して、アデノウイルス遺伝子療法ベクターをウサギの肝臓へ送達した。ウサギの血管系に進入するために、下顎から尾側に向かう正中切開により、頸静脈を露出させ、次いで、筋組織の鈍的切開により、右外頸静脈を露出させた。露出させた頸静脈に血管カテーテル針を挿入し、ガイドワイヤをその針に挿入した。蛍光透視的誘導の下、ガイドワイヤを上大静脈および心臓を経て、肝静脈循環まで通した。血管カテーテル針を取り出し、次いで、バルーン閉塞カテーテルをガイドワイヤ上にセットし、次いで、頸静脈に挿入した。蛍光透視的誘導の下、カテーテルをガイドワイヤに沿って肝静脈まで通した。ガイドワイヤを取り出し、次いで、生理食塩水中の非イオン性造影剤を少量注入し、適切なカテーテル位置を確認した。次いで、閉塞バルーンを造影剤で膨張させ、次いで、少量の造影剤を注入することにより、その位置を再度確認した。図1に示すように、肝静脈内の閉塞バルーンの膨張は、肝臓の右葉を流れる肝静脈を遮断した。次いで、ウイルス性溶液を、約1ml/秒の速度で肝臓の選択された葉へ逆行的に注入し、次いで、少量(1ml)のPBSを注入して、カテーテル系に残存する任意のウイルスを葉へ洗い流した。ウイルスを組織中に約1分間滞留させておき、その間、注入シリンジへの逆流は阻止された。該滞留時間の後、注入速度とほぼ同じ速度でシリンジを引き戻すことにより、注入量に相当する容量を回収した。次いで、閉塞バルーンを収縮させ、次いで、カテーテルを取り出した。止血を行い、次いで、適切な材料を用いて切開部を閉鎖した。
【0083】
上記送達方法を用いて、同じ総数のウイルス粒子(1.5×1012ウイルス粒子/kgのAd2βgalベクター)を含有する幾つかのボーラス容量(3,8および20ml)をウサギにて評価し、各容量にてアデノウイルスベクターにより介在される相対的な肝細胞形質導入を測定した。ウサギ肝臓の平均的な一葉は約20gであると推定した。これを用いて、ウイルス性ボーラスの送達容量について20mlの上限を設定した。この上限は、注入された葉全体にわたってウイルス性ボーラスを分布させると考えられた。この想定に基づいて、注入された葉全体にわたるウイルス性ボーラスの完全な分布を成し遂げないように、より少量の3mlおよび8mlを選択した。処置後3日目に、ウサギを屠殺した。ベータ−ガラクトシダーゼ発現を肝臓、腎臓、肺および脾臓にて測定した。
【0084】
ルミネセンスに基づくアッセイを用いるAMPGD(β−ガラクトシダーゼのための化学発光基質、3−{4−メトキシスピロ[1,2−ジオキセタン−3,29−トリシクロ(3.3.1.13,7)デカン]−イル}フェニル−β−D−ガラクトピラノシド)により発現を特徴付け、相対的発現レベルを得た。ルミネセンスアッセイにおいて、Janke&Kunkel Ultra−Turrax T25ホモゲナイザーを用いて、100〜200mgの組織を2×容量の1×溶解バッファー(Tropix Galacto−Light Plusキット,Tropix)中でホモジナイズした。そのホモジネートを、2ラウンドの凍結および解凍に付し、次いで、48℃の水浴中で1時間、内因性β−ガラクトシダーゼを熱不活性化した。試料を14,000rpm、4℃で10分間遠心分離し、次いで、上清を清浄な1.5mlのエッペンドルフチューブに移した。Micro BCA蛋白質アッセイ試薬キット(Pierce)を用いて、各試料の蛋白質濃度をアッセイし、次いで、BioRad EIAプレートリーダーを用いて、570nmにおける吸光度を読み取った。製造元の指示に従ってTropix Galacto−Light Plusキットを用いて、各試料のベータ−ガラクトシダーゼ活性をアッセイし、次いで、Tropix TR717マイクロプレートルミノメーターおよびWinGlowソフトウェアを用いて読み取った。
【0085】
一般的に、組織試料について免疫組織化学を以下の通り実施した。4ミリメートルの組織片をホルマリン−亜鉛中で一晩固定し、PBSでリンスし、パラフィン包埋し、次いで、細かく分割した。Hemo−D、100%、95%、70%および50%エタノール、再蒸留水およびPBSで連続的に洗浄することにより、セクションを脱パラフィン化した。過酸化水素のメタノール中3%溶液を用いて、内因性ペルオキシド活性を排除し、次いで、水で再水和した。PBS中の5%ヤギ血清中でセクションをブロックした。セクションをマウス抗βガラクトシダーゼと共に一晩4℃でインキュベートし、PBSで2回洗浄し、次いで、アフィニティ精製したペルオキシダーゼ標識ヤギ抗−マウスIgGと共に1時間37℃でインキュベートし、次いで、PBSで2回洗浄し、次いで、0.5mMのトリス−HCl pH7.5で1回洗浄した。製造元の指示に従ってLiquid DAB Substrate−Chromogen System(DAKO)を用いてペルオキシダーゼ標識を検出し、次いで、セクションのメチルグリーン対比染色を検出した。
【0086】
一般的に、ベータ−ガラクトシダーゼを発現する細胞の定量を以下の通り実施した。Metamorphソフトウェアを用いて、Ad2β−galに感染した肝細胞および非肝細胞の核を識別および定量化した。感染細胞の一貫性のあるMetaMorph検出を確実にするために、ベータ−ガラクトシダーゼシグナルの免疫組織化学的検出のための着色時間を一定に保持した。各肝臓セクションをMetamorphにスキャンし、次いで、5領域(各1mm2)をMetaMorph分析用の各肝臓セクションから選択した。色の閾値を用いて、非感染細胞の青緑色の核から、ベータ−ガラクトシダーゼ陽性核を示す茶色のDAB(3,3’−ジアミノベンジジン)シグナルを識別した。試料の肝臓セクションに由来する核の予備的な実証的分析により、色の閾値およびその後の全てのMetaMorph分類を最適化し、次いで、各分類のヒト検証を実施した。
【0087】
核を肝細胞、非肝細胞または未知対象に分類するために、全てのベータ−ガラクトシダーゼ陽性核の「全領域」および「楕円形因子」をMetaMorphにより測定した。全領域(TA)は、色の閾値を満たす特定のベータ−ガラクトシダーゼ陽性核に隣接した全てのピクセルの合計として定義される。楕円形因子(EFF)は、特定のベータ−ガラクトシダーゼ陽性核の全長をその全幅で割ったものとして定義される。例えば、完全な円のEFFは1.0であり、一方、楕円のEFFは一般的に1.25より大きい。
【0088】
単一の肝細胞の核はほぼ球状であり、EFF≦1.25およびTA=16−18のピクセルを生じる。二重の肝細胞の核は、MetaMorphにより組織学的に分析できない密接して配置する2つの球体のようであり、一般的に1.5より大きいEFFおよびTA>18のピクセルを生じる。非肝細胞のベータ−ガラクトシダーゼ陽性核は、主に、肝臓マクロファージ(クッパー細胞)および内皮細胞に由来し、EFF>1.25およびTA>6かつ≦18を生じる。
【0089】
セクション面内の特定の核の位置および配向に起因して、幾つかのベータ−ガラクトシダーゼ陽性核は、正確に肝細胞または非肝細胞へ分類できなかったので、未知対象として分類された。未知対象は、それらの各集団に応じて、肝細胞および非肝細胞であるとみなされ、いずれの定量分析にも付されなかった。未知対象は、TAは1に等しいか、6以下、EFFについては任意の値、或いはTAは6よりも大であるが16未満、そしてEFF≦1.25を有した。ウサギ肝臓の4つの主な葉の各々に由来する近位、中位および遠位セクション各々から5フィールド(各1mm2)をMetaMorph分析のために収集した。
【0090】
3mlのボーラス注入で処置したウサギにおいて、注入肝葉におけるベータ−ガラクトシダーゼ発現は、20〜300×106RLU/mg組織の範囲であり、注入部位に対して遠位で相対的により大きな発現を伴った。非注入肝葉における発現は、1〜12×106RLU/mg組織の範囲であり、一貫性のある近位−遠位発現パターンを伴わなかった。腎臓、肺および脾臓における発現は大部分が検出不能だった。注入肝葉におけるベータ−ガラクトシダーゼ発現細胞の免疫組織化学的な局在性により、細胞の解剖学的発現分布は、主に、ウイルス性ボーラスの送達経路である中心静脈周囲の領域に限定されることが実証された。これらの発現細胞の大部分は肝細胞であった。非注入肝葉において、ベータ−ガラクトシダーゼ発現細胞は、主に、門脈三管周囲の領域に免疫学的に局在化した。
【0091】
8mlのボーラス注入で処置したウサギの肝臓におけるベータ−ガラクトシダーゼ発現は、3mlのボーラス注入について得られたものよりも有意に高かった。注入肝葉におけるベータ−ガラクトシダーゼ発現は300〜600×106RLU/mg組織の範囲であり、一方、非注入肝葉における発現は100〜300×106RLU/mg組織の範囲であった。3mlの注入ボーラスについて記載したように、注入肝葉における発現は、注入部位に対して近位ないし遠位方向で増大した。非注入葉において、一貫性のある近位−遠位発現パターンは存在しなかった。腎臓、肺および脾臓における発現は大部分が検出不能だった。注入肝葉におけるベータ−ガラクトシダーゼ発現細胞の免疫組織化学的な局在性により、葉全体にわたる本質的に均一な発現パターンが実証された;これらの発現細胞の大部分は肝細胞であった。ベータ−ガラクトシダーゼ発現も、免疫組織化学な局在性により測定されるように、肝臓構造に関して、非注入葉において均一であった。
【0092】
20mlのボーラス注入で処置したウサギにおいて、注入肝葉におけるベータ−ガラクトシダーゼ発現は、8mlの容量で成し遂げられたもののほぼ半分であり、発現において類似する近位ないし遠位の勾配を伴った。非注入肝葉におけるベータ−ガラクトシダーゼ発現は均一に分布しており、注入葉にて測定された発現より約10倍低かった。注入肝葉におけるベータ−ガラクトシダーゼ発現細胞の免疫組織化学的な局在性により、葉全体にわたる本質的に均一な発現パターンが実証された;これらの発現細胞の大部分は肝細胞であった。腎臓、肺および脾臓における発現は大部分が検出不能であった。
【0093】
図6は、3、8および20mlの注入量を用いて見出された発現分布を示す。免疫組織化学的に、8ml容量は、注入葉(葉1)(図6D)および非注入葉(葉4)(図6E)の両方において最大数の発現細胞を生じると考えられた。これらの定量的結果は、各葉から取り出された3つの組織コアにおけるβ−ガラクトシダーゼ蛋白質レベルの定量測定により確認された。図6C、6Fおよび6Iは、図式的に、4つの主要な葉の各々における3つの位置(肝静脈の大静脈からの入口に対して近位、中位および遠位)から測定された平均発現レベルを示す。4つの葉各々に由来するβ−ガラクトシダーゼ発現についての値の総和は、8mlの注入量は3mlの注入量よりも約40%高く、20mlの注入量よりも約60%高いことを実証した。これらの分析から、8ml容量を選択し、その後の全ての実験、局所(カテーテル)および全身注入の両方に8mlの注入量を用いた。
【0094】
全発現に加えて、図6は、異なる注入量から得られた異なる発現分布を示す。故に、例えば、3mlの注入量については、注入葉の発現細胞(図6A)は、主に、肝静脈周囲の領域に限定され、門脈三管周囲または非注入葉に局在している発現細胞は相対的にずっと少ない(図6B)。非注入葉におけるより少ない発現を示す定量結果(図6C)と合わせて、ウイルスの初期分布は注入された肝静脈の周辺領域に限定されることが実証された。
【0095】
3mlの注入量を用いて得られた結果と対照的に、図6は、8mlの注入量が有意により大きなウイルス性ボーラスの分布を成し遂げたことも実証する。故に、図6Dは、肝臓腺房全体にわたり、かつ肝静脈周辺領域に限定されない発現細胞を示し、図6Eは、ある種の注入ウイルスが非注入葉に感染したことを示す。図6Fにおいて、これらの結果を確認および定量化し、これは注入葉(葉1)および非注入葉(葉2、3および4)の両方における有意な発現を実証する。これらのデータは、注入葉全体にわたり、かつ非注入葉の門脈および静脈循環に入り、その後、再分布して、非注入葉に感染し得る、ウイルス性ボーラスの初期分布と一致している。
【0096】
注入葉を越えて十分に初期のウイルス性ボーラスを分布させると考えられる20mlの注入量は、注入(図6G)および非注入(図6H)葉の両方において、広範囲に及ぶがより少ない(8mlの容量と比較して)発現細胞をもたらした。これらの定量結果をβ−ガラクトシダーゼ定量化(図6I)により確認した。該結果は、注入されたウイルス性ボーラスが門脈循環中に十分に分布されたというシナリオと一致している。
【0097】
実施例2:ナイーブウサギにおける全身投与に対する局所投与の比較
ウイルスベクターの局所送達が全身送達に勝る利点を付与するか否かを調べるため、1)実施例1に記載したバルーンカテーテル介在送達を用いる肝臓への局所送達;または2)静脈内注入を用いる全身送達;のいずれかを介して、Ad2βgalウイルスをウサギに送達した。送達経路に関係なく、1.5×1012のウイルス粒子/kgのAd2βgalウイルスを各ウサギに注入した。
【0098】
ウイルスベクターの全身送達を以下のプロトコルに従って実施した。ロールガーゼおよびメディカルテープを用いて耳に固定した20ゲージの血管カテーテル針を用いて、鎮静をかけたウサギの辺縁耳静脈に進入した。ルアーロックフラッシュをカテーテルに取り付け、ベネドリル(Benadryl);1mg/kgをIV投与し、起こりうるアナフィラキシー応答を制御した。Ad2βgalウイルスを含有する8ml容量の生理食塩水を約1ml/秒の速度で耳静脈に注入した。Ad2βgalウイルスの肝臓への局所送達を、実施例1に記載したバルーンカテーテル介在送達を用いて実施した。
【0099】
様々な手順の毒性を以下の通り評価した。ウイルス投与の直前ならびにウイルス投与の1、2および3日後に、各ウサギから血液を採取した。示差的細胞計数(Cell count differentials)(白血球および赤血球細胞、ヘモグロビン、ヘマトクリット、平均血球体積、平均血球ヘモグロビン濃度、有核赤血球細胞、セグメント化ヘテロフィル(ウサギ好中球)、リンパ球、単球、好酸球、好塩基球、血小板)、ならびに血清化学特性(アルカリホスファターゼ、アラニンアミノトランスフェラーゼ、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ、クレアチンキナーゼ、アルブミン、全蛋白質、グロブリン、総ビリルビンおよび直接ビリルビン、BUN、クレアチン、コレステロール、グルコース、カルシウム、リン、ビカルボナート、塩化物、カリウムおよびナトリウム)を実施した。
【0100】
処置したウサギの肝臓をベータ−ガラクトシダーゼ発現について分析した。ウサギ肝臓ホモジネートにおける細菌性ベータ−ガラクトシダーゼ発現は、実施例1に記載のように定量化されたか、或いは市販のELISAキット(Roche)を製造元の指示に従って用いて定量化した。組織試料についての免疫組織化学は、実施例1に記載の通りに実施した。形態学的分析を実施して、肝臓における発現パターンを決定し、肝臓の非肝細胞に対する肝臓の肝細胞のトランスフェクション比率を決定した。
【0101】
図7Aおよび7Cは、これらの動物におけるAd2βgalの全身投与が、肝臓構造に関して相対的に均一な発現分布をもたらすことを示し、円形の核を目立たせる核のβ−ガラクトシダーゼ染色により示されるように、形質導入された細胞の大部分が肝細胞であると考えられることを示す。形質導入された細胞のこの均一性は、本質的に、全ての肝葉にわたって同じであり(データ示さず)、図7Eで示された定量データはこの評価を裏付けた。すなわち、全ての葉は、ELISAにより測定されるように、ほぼ同じβ−ガラクトシダーゼ発現を示す。
【0102】
同一のウイルス用量および注入量(8ml)の局所送達方法を用いて、図8Aは、注入葉(葉1)中に生じた発現細胞が腺房全体にわたって分布したことを示し、実施例1(図6)におけるより初期の容量の評価研究と一致した。より高い倍率では(図8C)、注入葉中で核−局在化β−ガラクトシダーゼを発現する細胞の大部分は肝細胞であるようだった。注入葉と比較して、図6Bは、非注入葉(葉4)中の発現細胞の相対数は有意に少なかったことを示す。注入葉においてのように、非注入葉中の発現細胞は、大部分が肝細胞であるようで、腺房内に均一に分布していた。
【0103】
ナイーブ動物におけるこれらの定性的知見は、非注入葉と比較して注入葉において有意により大きな全体的発現を示す図6Eにおいて図式的に示されるβ−ガラクトシダーゼの定量測定により支持された。容量評価実験において見られるように(図6)、全ての非注入葉はほぼ同じ程度で形質導入された。
【0104】
図9Aは、ナイーブウサギにおける肝静脈経路を介するバルーンカテーテルを用いたカテーテル介在局所送達が、非注入葉においてよりも注入葉において約2〜3倍多い感染細胞をもたらすことを示す;注入葉および非注入葉の両方において肝細胞として同定され得る発現細胞の割合は、注入葉および非注入葉の両方において本質的に同じだった(約0.7)。
【0105】
図9Dは、ナイーブ動物における全身送達が、局所送達(図9A)と比較した場合に、全発現細胞において概して2〜3倍の減少をもたらすことを示す。葉1および4の両方の評価により(全身送達に関しては「注入」または「非注入」葉の区分はないことに注意)、本質的に同数の発現細胞を得た。発現細胞の肝細胞フラクションの評価は、注入(0.63)および非注入(0.69)葉において本質的に同一であり、局所送達後に得られたもの(約0.71;図9A)とほぼ同等だった。
【0106】
統合すれば、これらのデータにより、アデノウイルスベクターのカテーテル介在局所送達は、全身送達と比較して、利点を有することが実証される。肝静脈アプローチを用いる局所送達は、全身アプローチを用いる送達(図7Eおよび9D)と比較して、2〜3倍多い発現(図8Eおよび9A)をもたらした。
【0107】
Ad2−βgalの送達に起因する毒性は、局所(バルーン−カテーテル)および全身アプローチの両方で、軽微であった。手術前(ベースライン)ならびにアデノウイルスの注入または生理食塩水の偽注入の1、2および3日後にウサギから得た血液試料について、血球カウントおよび血清の化学的分析を実施した。
【0108】
軽度であるが統計的に有意なリンパ球減少症(ベースラインに対して50〜60%減少)が、ウイルスで処置した動物において24時間以内に明かとなった。軽度であるが統計的に有意な(ベースラインに対して50%減少)血小板減少症が、ウイルスで処置した動物において24時間以内に明かとなった。軽度であるが統計的に有意な好中球増加症(heterophilia)(ベースラインに対して100〜200%増加)は、ウイルスで処置した動物または偽手術(生理食塩水の局所注入)に付された動物において24時間以内に明かとなった。血清クレアチンキナーゼにおける統計的に有意な増大(ベースラインに対して100〜1000%増加)は、ウイルスで処置した動物または偽手術(生理食塩水の局所注入)に付された動物において24時間以内に明かとなった。全血球カウントおよび血清の化学特性は、ウイルス投与または偽手術から3日以内に正常に戻った。
【0109】
ウイルスの局所もしくは全身送達により感染させた動物または非感染動物に由来するヘマトキシリンおよびエオシン染色した肝臓セクションの組織病理学的評価により、いずれの具体的な処置に相関し得る一貫性のある肝細胞変化がないことが示された。
【0110】
実施例3:受動免疫されたウサギにおける全身投与に対する局所投与の比較
このような文脈において局所送達が全身送達に勝る利点を付与するか否かを調べるために、抗ウイルス免疫を有する動物において、アデノウイルスベクターのカテーテル介在局所送達を全身送達と比較した。これを成し遂げるために、実施例2の実験を、既知の抗−アデノウイルス2型力価(抗−Ad2)のプールされたヒト血清で受動免疫したウサギにおいて繰り返した。
ウイルス投与の一日前に、ロールガーゼおよびメディカルテープを用いて耳に固定した20ゲージの血管カテーテル針を用いて鎮静をかけたウサギの辺縁耳静脈に進入した。ルアーロックフラッシュをカテーテルに取り付け、ベネドリル(1mg/kg)を静脈内に投与し、起こり得るアナフィラキシー応答を制御した。次いで、40ミリリットルの抗−Ad2抗体含有プールされたヒト血清(Valley Biomedical,Winchester,VA)を0.1ml/秒の速度で注入した。プールされたヒト血清は平均ヒト抗−Ad2力価(データ公開せず)の約10倍の抗−Ad2力価を有した(総力価=12,800,中和力価=3,200)。故に、全ウサギ循環中へこの送達用量が希釈されると(350〜400mlと推定)、平均ヒト力価に近似する最終的な抗−Ad2力価をもたらすと予測された。Ad2βgal投与時における抗−Ad2力価の実際の測定は、全動物において、1,600の全抗−Ad2力価および400の中和力価をもたらした。
【0111】
プールされたヒト血清およびウサギ血清における抗−Ad2抗体力価をELISAにより測定した。血清の段階希釈を熱不活性化アデノウイルス2型でコーティングした96ウェルプレートのウェルに加えた。西洋わさびペルオキシダーゼ−コンジュゲートヤギ抗−ウサギ免疫グロブリンG、IgMおよびIgAを用いて、結合したウイルス特異的抗体を検出した。次いで、発色基質と共に30分間インキュベートすることにより、ウサギ抗−Ad2抗体を検出した。抗ウイルス力価を、OD490≧0.1を生じる最大の血清希釈の逆数として定義した。
【0112】
プールされたヒト血清におけるアデノウイルス中和抗体力価を、Ad2−βgalによる感受性細胞株の形質導入を阻害するその能力により評価した。HeLa細胞(ATTC)をフラット−ボトム96−ウェル組織培養プレート上に播種し、次いで、5%CO2雰囲気中、37℃で一晩インキュベートした。血清試料をDMEM中で1:25〜1:6400に段階希釈し、次いで、Ad2−βgal(50MOI)を血清希釈液に加え、次いで、37℃で1時間インキュベートし、その後、播種した細胞へ加え、次いで、培養を3日間続けた。3日目に、細胞を回収し、次いで、溶解した。市販のAMPGD/β−ガラクトシダーゼアッセイキットを用いて基質転換について溶解物をアッセイした。血清試料の中和抗体力価を、測定したRLUにおいて負対照(ヒト免疫グロブリン−枯渇血清)に対して50%以上の減少をもたらす希釈の逆数として定義した。ウイルス投与時における全抗−Ad2力価は全ウサギにおいて1:1600であり;中和力価は1:400だった。これらの力価は、平均抗−Ad2力価を有するヒトにおいてのものと本質的に同じである。
【0113】
受動免疫の一日後、実施例1および2に記載したように、1)静脈内注入を用いる全身送達か、または2)バルーンカテーテル介在送達を用いる肝臓への局所送達のいずれかにより、Ad2βgalウイルスを送達した。別記しない限り、用いた材料および方法は実施例1および2において利用したものと同様であった。送達経路に関わらず、各ウサギに1.5×1012ウイルス粒子/kgのAd2βgalウイルスを注入した。
【0114】
受動免疫されたウサギにおけるAd2βgalの全身投与は、中心静脈または門脈三管周囲への発現細胞の明かな集中を伴うことなく、肝臓構造に関して一様のβ−ガラクトシダーゼ発現をもたらした(図7Bおよび7D)。しかし、ナイーブ動物における同一用量のウイルスの全身投与と比較して(図7Aおよび7C)、ウサギにおける既存の抗−Ad2抗体を用いた全身投与は、全β−ガラクトシダーゼ発現が約2倍軽減したように、発現の弱小化をもたらした(図7F)。
【0115】
受動免疫後にトランスフェクションされる細胞型に関して(肝細胞対非肝細胞)、図9Eは、受動免疫されたウサギにおける全身送達が、ナイーブ動物における全身送達(253±166肝細胞/フィールド)(図9D)と比較して、感染した肝細胞の数において10倍の減少(18.0±14肝細胞/フィールド)をもたらしたことを示す。しかし、抗−Ad2抗体(受動免疫された)の存在下では、全身送達は、ナイーブ動物における全身送達(147±82非肝細胞/フィールド)(図9D)と比較して、感染した非肝細胞の数においてごくわずかな減少(124±47非肝細胞/フィールド)(図9E)しかもたらさなかった。故に、これらのデータは、受動免疫に起因する発現における2〜3倍の減少も示す、得られた定性的および定量的発現データ(図7)と一致している。故に、ウイルスの全身投与後の最も劇的な抗−Ad2抗体の効果は、ナイーブ動物における全感染細胞の66%から受動免疫された動物における全感染細胞の14%までの、感染肝細胞のフラクションにおける減少だった。故に、抗−ベクター抗体存在下での全身送達は発現の軽減をもたらし、ここで、発現細胞の大部分は肝臓類洞内皮細胞およびクッパー細胞のごとき非肝細胞だった(図9E)。受動免疫された動物において発現細胞の約15%のみが肝細胞として同定された。
【0116】
受動免疫された動物におけるAd2βgalの局所送達は、Ad2βgalを投与されたナイーブ動物において見られたもの(図8A)と同様の、注入葉におけるβ−ガラクトシダーゼ発現細胞の分布(図8F)をもたらした。ナイーブウサギ(図8E)および受動免疫されたウサギ(図8J)の間のカテーテル介在局所投与の比較は、抗−Ad2抗体の存在が肝臓全体のβ−ガラクトシダーゼ発現において約5〜10倍の軽減をもたらしたことを示す。
【0117】
受動免疫された動物における全β−ガラクトシダーゼ発現における減少に加えて、β−ガラクトシダーゼを発現する細胞型の割合も、アデノウイルスベクターのカテーテル介在局所送達で処置したナイーブ動物における割合と比較して、変化した。注入葉において肝細胞として同定され得る発現細胞の割合は、ナイーブ動物における0.72から受動免疫された動物における0.45まで減少した(図9Aおよび9B)。より著しいのは非注入葉における差異であり、そこではこの割合が受動免疫に起因して0.70から0.09まで減少した(図9Aおよび9B)。
【0118】
要約すると、受動免疫された動物における肝臓の全領域の合計である全β−ガラクトシダーゼ発現は、ELISA(図7および図8)およびMetamorph(図9)分析の両方により定量されるように、局所および全身送達後に本質的に同一だった。しかし、重要なことには、局所送達後に肝細胞として同定されたβ−ガラクトシダーゼ発現細胞のフラクションは約7倍大きかった。これは、受動免疫された動物における全身送達後の全β−ガラクトシダーゼ発現の主な部分が非肝細胞に由来することを示唆し、この主張は定性的免疫組織化学(図8Gおよび8I)および定量的Metamorphデータ(図9E)の両方により支持される。さらに、抗−Ad2抗体が有する全感染および全発現についての負の効果にも関わらず、局所送達は、治療的遺伝子療法のための望ましい標的細胞である肝細胞を優先的に標的とすることができる。故に、免疫されたウサギへの全身送達が肝細胞として同定される約14%の発現細胞を生じさせた一方で、局所送達は、注入葉において肝細胞である約45%の発現細胞、非注入葉において約10%の発現細胞を生じさせた。非注入葉における発現肝細胞のより低いパーセンテージは、非注入肝葉内に分布する抗ウイルス抗体とウイルスの相互作用の程度がより大きいことと一致する。
【0119】
受動免疫された動物について、これらの結果から、局所送達が全身送達に勝る有意な利点を提供することが明かである。受動免疫された動物における局所送達の後、非肝細胞に対する肝細胞におけるトランスジーンの発現の比は、受動免疫された動物における全身送達後の比よりも有意に高い。故に、この方法は、既存の免疫を有する動物へウイルス性遺伝子治療剤を投与する場合に利点を提供することが明かである。
【0120】
実施例4:受動免疫されたウサギにおける、生理食塩水でプレフラッシュしたウサギ肝臓へのアデノウイルス遺伝子療法ベクターのカテーテルに基づく送達
カテーテルを介して20mlの生理食塩水を注入する「フラッシング」工程をウイルス投与の直前に加えることにより、アデノウイルスベクターのカテーテル介在局所送達を評価した。これは、抗−Ad2ウイルス性免疫を有する動物において実施し、この文脈において、生理食塩水を用いた肝臓のプレフラッシングが、プレフラッシング工程のない送達に勝る利点を付与し得るか否かを調べた。
【0121】
これを成し遂げるために、実施例3に記載したように、既知の抗−アデノウイルス2型力価(抗−Ad2)のプールされたヒト血清を用いてウサギを受動免疫した。受動免疫の一日後、以下の工程を加えて、実施例1および2に記載したバルーンカテーテル介在送達手順を続けた。Ad2βgal送達の直前、カテーテルを通じて20ml容量の生理食塩水を送達した。
【0122】
受動免疫された動物におけるAd2βgalのカテーテル介在局所送達へ生理食塩水フラッシュを加えることにより、生理食塩水フラッシュを受けていないカテーテル介在局所送達で処置した受動免疫された動物と比較して、トランスジーン発現細胞の数およびβ−ガラクトシダーゼ発現肝細胞の割合の両方が増大した。生理食塩水プレフラッシュを受けた受動免疫された動物において、発現肝細胞の数は、プレフラッシュを受けなかった動物と比較した場合に、約5倍増大した(図9Bおよび9C)。注入葉において肝細胞として同定され得る発現細胞の割合も増大し、生理食塩水プレフラッシュなしの受動免疫された動物における0.45(図9B)および非免疫動物における0.71(図9A)と比較して、その割合は0.68(図9C)だった。より著しいのは非注入葉における差異であり、そこで、肝細胞として同定され得る発現細胞は、受動免疫された動物における生理食塩水プレフラッシュに起因して、0.09から0.40に増大した(図9Bおよび9C)。受動免疫された動物の場合、ウイルスベクターのカテーテル介在局所送達に加えて生理食塩水プレフラッシングが、ウイルスベクターに対する既存の免疫を有する動物において有意な利点を提供することが明かである。生理食塩水プレフラッシュを用いて、発現細胞の総数およびトランスジーン発現肝細胞のフラクションの両方が、受動免疫された動物において生理食塩水フラッシングなしのものよりも有意により大きかった。故に、既存の免疫を有する動物へウイルス性遺伝子治療剤を投与する場合に、本方法のこの実施態様が利点を提供することが明かである。
【0123】
実施例5:ウサギ肝臓へのアデノ随伴ウイルス遺伝子療法ベクターのカテーテルに基づく送達
各実験について、各々約4kgの体重のニュージーランド白ウサギを用いた(Millbrook Farms,Amherst,MA)。利用したアデノ随伴ウイルスベクター、AAV2/8DC190HAGAL(AAV2/8)は、AAV8血清型のカプシド領域およびAAV2血清型の逆方向末端反復配列を含む。発現カセットは、2つのα−1ミクログロブリンエンハンサー、1つのα−1−アンチトリプシンプロモーター、およびヒトα−ガラクトシダーゼAトランスジーンを含む。実施例1〜3に記載したように、バルーンカテーテル介在送達を用いる肝臓への局所送達により、ウサギへ1kgあたり1.25×1011または1.25×1012のDNA−ase耐性粒子(drp)のAAV2/8ウイルス(8mlの全容量中)を注入した。別記しない限り、用いる材料および方法は実施例1〜3で利用したものと同様であった。
【0124】
既に記載されているように[Zieglerら.,(1999).Hum Gene Ther.Jul 1;10(10):1667−82.]、ヒトα−ガラクトシダーゼA特異的酵素結合イムノソルベントアッセイを用いて、動物の血清中のヒトα−ガラクトシダーゼA(AGAL)発現を測定した。
【0125】
1kgあたり1.25×1011drpのAAV2/8ウイルスで処置したウサギにおいて、血清中のAGAL発現は、3〜31ngAGAL/ml血清の範囲であった。1kgあたり1.25×1012のDNA−ase耐性粒子(drp)のAAV2/8で処置したウサギにおいて、血清中のAGAL発現は、15〜132ngAGAL/ml血清の範囲であった。
【0126】
実施例6:ウサギ肝臓へのアデノ随伴ウイルス遺伝子療法ベクターのカテーテルに基づく送達後のAGAL発現の経時変化
各々約4kgの体重のニュージーランド白ウサギを用いた(Millbrook Farms,Amherst,MA)。利用したアデノ随伴ウイルスベクター、AAV2DC190HAGAL(AAV2/2)は、AAV2血清型のカプシド領域および逆方向末端反復配列を含む。発現カセットは、2つのα−1ミクログロブリンエンハンサー、1つのα−1−アンチトリプシンプロモーター、およびヒトα−ガラクトシダーゼAトランスジーンを含む。実施例1〜3にて記載したように、バルーンカテーテル介在送達を用いた肝臓への局所送達により、8mlの全容量中、5×1012のDNA−ase耐性粒子(drp)のAAVウイルスをウサギへ注入した。別記しない限り、用いた材料および方法は実施例1〜3で利用したものと同様であった。
【0127】
既に記載されているように[Zieglerら.,(1999).Hum Gene Ther.Jul 1;10(10):1667−82.]、ヒトα−ガラクトシダーゼA特異的酵素結合イムノソルベントアッセイを用いて、ヒトα−ガラクトシダーゼA(AGAL)発現を動物の血清中で測定した。AGAL発現を84日間にわたって測定した。
【0128】
処置ウサギの血清中の抗−AGAL抗体力価も、ELISAを用いて経時で測定した。血清の段階希釈液を、精製組換えヒトα−ガラクトシダーゼAでコーティングした96ウェルプレートのウェルへ加えた。結合したヒトα−ガラクトシダーゼA特異的抗体を、西洋わさびペルオキシダーゼ−コンジュゲートヤギ抗−ウサギ免疫グロブリンG、IgMおよびIgAで検出した。次いで、発色基質との30分間のインキュベーションを用いて、ウサギ抗−Ad2抗体を検出した。抗−ウイルス力価を、OD490≧0.1をもたらす最大の血清希釈の逆数として定義した。
【0129】
図10に示すように、AGAL発現は、84日間の時間経過にわたって、ウサギの血清中に存在した。検出可能な抗−AGAL抗体は、84日間の時間経過にわたって、ウサギの血清中で検出されなかった。AAV2送達からもたらされた毒性はわずかなものであり、一般的に、Ad2−βgal送達に付随するものと本質的に同様であった。
【0130】
実施例7:延長された滞留時間を伴う、ウサギ肝臓へのアデノウイルス遺伝子療法ベクターのカテーテルに基づく送達
各々約4kgの体重のニュージーランド白ウサギを用いた(Millbrook Farms,Amherst,MA)。利用したアデノウイルスベクター、Ad2βgalは実施例1に記載した。各ウサギに1kgあたり1.5×1012ウイルス粒子のAd2βgalウイルスを注入した。
【0131】
ウイルスを組織中へ1分間ではなく約4分間滞留させておくこと除き、実施例1〜3に記載した方法を利用して、8mlの全注入量を用いて、アデノウイルス遺伝子療法ベクターをウサギの肝臓へ送達した。
【0132】
注入から3日後、処置ウサギの肝臓をベータ−ガラクトシダーゼ発現について分析した。製造元の使用説明書に従って市販のELISAキット(Roche)を用いて、ウサギ肝臓ホモジネート中の細菌性ベータ−ガラクトシダーゼ発現を定量した。組織試料についての免疫組織化学を実施例1に記載したように実施した。実施例1に記載したような形態学的分析を実施して、肝臓中の発現パターンおよび肝臓非肝細胞に対する肝臓肝細胞のトランスフェクション比率を測定した。各ウサギについて、注入葉の3セクションおよび非注入葉の3セクションを評価し、肝細胞フラクション[トランスフェクションされた肝細胞/(トランスフェクションされた肝細胞+トランスフェクションされた非肝細胞)]を測定した。
【0133】
図11Aに示されるように、延長された滞留時間は、1分間の滞留時間を利用する前研究と比較した場合、注入および非注入葉の両方において、肝細胞として同定されるトランスフェクションされた細胞の割合を有意に増大した。4分間の滞留時間を用いるアデノウイルスベクターで処置したウサギは、注入葉において約0.75〜0.90の肝細胞フラクションを有し、非注入葉において約0.70〜0.90の肝細胞フラクションを有した(図11Aにおける8−20および8−22を示す棒を参照のこと)。対照的に、1分間の滞留時間を伴う同一の送達方法を用いてアデノウイルスベクターで処置したウサギは、注入葉において約0.6〜0.75の、および非注入葉において約0.30〜0.70の、トランスフェクションされた肝細胞フラクションを有した(図11A中の4,5および1を示す棒を参照のこと)。興味深いことに、図11Bに示すように、増大した滞留時間は全ベータ−ガラクトシダーゼ発現レベルを増大するようには思われなかった。
【0134】
実施例8:流出遮断を用いる葉送達
実施例1に記載したように、葉送達方法は、閉塞バルーンに対して遠位の貯蔵器官の一部に対する送達を制限する。全身循環から貯蔵器官をさらに分離するために、肝大静脈中に留置したバルーンカテーテル(6)で肝静脈口を被覆することにより、全肝静脈の流出遮断が成し遂げられ得る。
【0135】
この手順を実施するために、大腿溝から下方に向かう縦方向の皮膚切開を介して、大腿中位から大腿静脈に進入した。筋膜を鈍的に解離させて、神経血管束を露出させた。大腿静脈を、付随する動脈および神経から慎重に解離させた。大腿静脈の1〜2cmのセグメントを分離し、次いで、遠位に結紮した。7フレンチのシースイントロデューサーを、該結紮に対して近位の大腿静脈に挿入した。蛍光透視法によるガイダンスを用いて、ガイドワイヤを下大静脈に進めた。5フレンチの14mm×4cmのノンコンプライアンスバルーンカテーテルを、ガイドワイヤ上のシースを介して、大静脈の肝部分へ通した。シースの外側直径はウサギ大腿静脈に比べて大きいため、ウサギモデルでは血管損傷を伴うことなくこの手順を繰り返すことは困難である。この厄介な問題はヒト対象においては予期されない。
【0136】
カテーテルの内腔をヘパリン化した。肝静脈に留置したバルーン閉塞バルーンカテーテルを介してトランスフェクション物質を注入する直前にバルーンを膨張させた。バルーンを膨張させた後、シースイントロデューサーを介して少量のX線造影剤を注入し、下大静脈において、バルーンで閉塞された血流を確認した。次いで、血管内カテーテルを介して8mlのトランスフェクション物質を単一の分離された葉中に注入した。その直後に、カテーテルおよびシースを引き抜き、その後、止血を行った。図3に示すように、高密度のX線造影剤は分離された葉を染色し、一方で、より低濃度の造影剤は逆行性の様式で門静脈を介して肝臓の残りの部分へ再循環した。
【0137】
実施例9:標的化した器官全体への送達
単一の注入で遺伝子治療剤を肝臓全体へ送達するために、肝静脈血流に対して上位および下位双方の下大静脈において膨張させたバルーンを用いることにより、肝臓を分離した。次いで、トランスフェクション物質の溶液を、肝静脈から全肝実質までの逆行性の様式で、バルーンおよび血流の間に注入する。この方法の1つのヴァージョンを図4に示す。このヴァージョンにおいて、バルーン閉塞バルーン(7,8)を、上位にある頸静脈(5)から、右心房と最も上位の肝静脈(11)の間にある下大静脈(16)中の位置へ、そして下位にある大腿静脈から、最も上位の腎静脈(19)と最も下位の肝静脈(3)の間にある下大静脈(16)中の位置へ、進める。チップ付近に複数の側孔を有する4フレンチのピグテールカテーテル(pigtail catheter)を、逆側の大腿静脈を通じて、2つのバルーン閉塞バルーンの間の下大静脈中の位置へ、進める。ピグテールカテーテルを介する遺伝子療法用溶液の注入直前に、バルーンを膨張させて、肝臓を分離させる。
【0138】
この方法の別の実施態様において、図5に示すように、2つの別個の二重内腔バルーンカテーテル(12,13)を介して、バルーン閉塞バルーンを送達してもよい。
【0139】
実施例10:AAV8に対して多様な自然免疫を有するアカゲザルにおける、AAV8.DC19OhAGAのカテーテルに基づく局所送達を用いた予測的(Prophetic)研究
プロトロンビンエンハンサー/ヒトアルブミンプロモーター(DC190)駆動ヒトアルファ−ガラクトシダーゼ(hAGA)遺伝子を含有するアデノ随伴ウイルス(AAV)血清型8に基づくベクターの肝静脈を介するカテーテルに基づく局所送達後の、遺伝子移入の有効性およびヒトアルファ−ガラクトシダーゼの発現は、AAV8血清型に対して多様な自然免疫を有するアカゲザルにおいて評価され得る。
【0140】
局所送達に起因するhAGAの発現は、末梢静脈を介する全身送達から得られたものと比較され得る。循環アルファ−ガラクトシダーゼのレベルおよび持続時間、サイトカインの産生、ならびに抗−AAV8および抗−アルファ−ガラクトシダーゼ抗体の存在が調べられ得る。トランスジーンの組織分布も測定され得る。
【0141】
免疫抑制剤も同様にAAV8.DC19OhAGAの投与の前および後に動物へ投与され、ウイルス性カプシド蛋白質を認識する細胞傷害性リンパ球が形質導入された細胞を排除し得る可能性を最小限にまたは排除し得る。器官移植の分野において一般的に利用されている免疫抑制剤は、単独または他の物質と組み合わせて用いられてもよい。かかる免疫抑制剤は、導入用のものおよび/または維持用のものを含んでもよい。これらの物質は、シクロスポリン(Neoral(登録商標)、Sandimmune(登録商標))、プレドニゾン(Novo Prednisone(登録商標)、Apo Prednisone(登録商標))、アザチオプリン(Imuran(登録商標))、タクロリムスまたはFK506(Prograf(登録商標))、ミコフェノール酸モフェチル(CelICept(登録商標))、シロリムス(Rapamune(登録商標))、OKT3(Muromorab CO3(登録商標)、Orthoclone(登録商標))、ATGAMおよびサイログロブリンを含んでもよい。同様に、免疫抑制レジメンは、少なくともCELLCEPT(登録商標)経口懸濁液およびRapamune(登録商標)経口溶液を含み得る。CELLCEPT(登録商標)経口懸濁液(MMF)は、1日2回、約12.5mg/kgの用量で強制経鼻により投与され得る。Rapamune(登録商標)経口溶液は、約2mg/kgの用量で強制経鼻により投与され得る。これらは、アカゲザルに適する最も妥当な推定値であると考えられる。
【0142】
カテーテルに基づく局所アプローチおよび全身アプローチによるAAV8.DC19OhAGAの単一静脈内注入が用いられ得る。約2×1013粒子/kgの用量レベルのAAV8.DC19OhAGAは、AAV8.DC19OhAGAの薬物動態学的および薬力学的特性を評価するのに十分であると仮定される。用量レベルの選択は、ウサギにおいて実施された先の研究から得られた情報およびアカゲザルにおける関連材料を用いた他の研究者らによる情報に基づく。
【0143】
サルを抗−AAV8抗体についてスクリーニングして、AAV8ベクターに対する自然免疫の存在または不在が測定され得る。元々、AAV8はサルから単離されており、それ故に、研究において用いるために該血清型が選択される。処置が模索されている哺乳類から単離された血清型の使用により、標的器官の形質導入の増大において利点が提供されてもよい。理論的には、かかる増大は、かかる血清型からもたらされてもよく、というのも、ウイルスが哺乳類から単離されたという事実に基づき、該血清型は哺乳類の標的器官に対して増大された指向性を有してもよいからである。様々な自然免疫を有するサルを用いることによっても、選択したウイルスベクターに対して既存の免疫を有する哺乳類において本方法を評価することもできよう。
【0144】
カテーテルに基づく局所送達によりウイルスを投与されたサルは、実施例1および4に記載した本発明の方法を用いて処置され得る。簡潔に言うと、サルは、実施例4に記載したさらなるフラッシング工程を付加したカテーテルに基づく手順によりウイルスを投与され得る。該フラッシング工程は、標的葉に存在する任意の抗ウイルス抗体を希釈するように理論付けられており、理論的には、ウイルス性遺伝子移入および特に肝細胞形質導入の効率を増大し得る。加えて、ウイルスの滞留時間は、実施例1および4に記載した1分から、4分を超えない滞留時間にまで増大され得る。この滞留時間における増大は、理論的には、ウイルス性遺伝子移入および特に肝細胞形質導入の効率を増大し得る。
【0145】
研究期間を365日間と見積もる。トランスジーン発現、抗体レベル、血清化学および血液学的パラメーターの評価用血液試料は、全研究期間にわたって、様々な所定の時間ポイントにて全動物から収集され得る。
【0146】
上記研究は、元々サルから単離された血清型により送達された治療用トランスジーンの遺伝子移入および発現の有効性を評価し得る。それは、該血清型に対して自然な範囲の既存免疫を有する哺乳類において有効性および発現を評価し得る。該研究の送達方法は、ウイルス投与前の器官のフラッシング工程および延長されたウイルス滞留時間を利用し得る。免疫抑制も、該研究プロトコルの一部であり得る。この方法論を用いるトランスジーンの有効性および発現は、ウサギに基づくモデルにおいて観察されたものより大きいとはいかないまでも、それと同等の標的器官形質導入をもたらし得ることが理論付けられる。さらに、ウイルスベクターの順行性送達を利用する哺乳類における他のカテーテルに基づく系において観察されたものより大きいとはいかないまでも、それと同等の標的器官形質導入をもたらし得ることが理論付けられる。
【0147】
疾患は様々な器官または組織に影響し得るので、体中の様々な位置において本発明の方法の使用が所望され得ることが明かであるはずである。本発明を用いて、肝臓、腎臓、心臓、肺、骨格筋、胃または腸を含む様々な器官または組織を処置してもよい。
【0148】
本明細書中に引用した参考文献の教示内容を考慮すると、本明細書は非常に十分に理解される。該文献は出典明示によりその全てが本明細書の一部となる。本明細書中の実施態様は、本発明の実施態様の例示を提供するものであり、本発明の範囲を限定するものではない。当業者には、他の多数の実施態様が本発明内に包含され、かつ、本明細書および本実施例は単なる例示であり、本発明の真の範囲および精神は添付の特許請求の範囲により示されるものであることが、理解されよう。
【0149】
本発明の実施態様は、本明細書および本明細書中に開示した本発明の実施例から、当業者に明かであろう。本明細書および本実施例は単なる例示であり、本発明の真の範囲および精神は添付の特許請求の範囲により示されるものであることが意図される。
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物対象の標的器官へ遺伝物質をバルーンカテーテルにより送達するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
遺伝子療法は、既存の欠陥を修正するか、または細胞に新規の有益な機能を与える外来性遺伝物質の細胞内送達である。肝臓は、代謝および血清蛋白質の産生におけるその中心的役割のために、遺伝子療法の重要な標的器官である。多数の疾患が知られており、その幾つかは、肝特異的遺伝子産物の欠損により惹起され、肝臓の分泌蛋白質産生から恩恵を享受し得る。家族性高コレステロール血症、血友病、ゴーシェ病およびファブリー病はほんの一例である。かかる疾患の多くは遺伝子療法に適している可能性がある(Siatskasら.,J.Inherit Metab.Dis.2001,24(Suppl.2):25−41;Barrangerら.,Expert Opin.Biol.Ther 2001,1(5):857−867;Barrangerら.,Neurochem Res.1999,24(5):601−615)。
【0003】
ウイルスおよび非ウイルスベクターを用いて肝臓へ外来性遺伝物質を送達するために、様々な方法が開発されている。一般的に、各方法はある種の欠点を有する。ウイルスベクターを用いる遺伝物質の送達におけるこれまでの試みは、中和宿主免疫応答、既存の宿主免疫に起因する毒性、大量の治療剤を対象の循環系へ注入する必要性があること、治療中の標的器官内の圧力上昇、および体内の特定の細胞型を標的化する困難性により、複雑化されている。
【0004】
ウイルスベクターの門脈内注入は、肝臓の標的化手段として試みられてきた。しかし、門脈内注入は幾つかの問題を提示している。アデノウイルス遺伝子移入ベクターがラットの門静脈に注入される場合、高レベルのトランスジーン発現が肝臓において観察されるが(Rosefeldら.,Science 1991,252:431−434)、かかる発現は一時的なものであるので、繰り返し注入する必要がある。さらに、血清陽性動物の循環系に注入される場合、ウイルスベクターは既存の抗体により直ちに中和され得る。組換えアデノウイルスベクターの全身注入の研究により、中和宿主免疫応答が繰り返し注入におけるかかるベクターの有効性を制限することが示された(Yangら.,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.1994,91:4407−4411;Kozarskyら.,J.Biol.Chem.1994,269:13695−13702)。
【0005】
他の場合において、ウイルスベクターの全身または門脈内注入は、用量依存的毒性に関連している。これらの毒性は、比較的大量のウイルスが注入される必要があること、および事前に共通のウイルス血清型へ環境曝露された結果としての既存の免疫の両方に起因する。故に、対象へ送達するウイルスの量、ならびに全身循環およびそれ故に免疫系にウイルスを曝露させる程度の両方を制限することが望ましい。
【0006】
ウイルス性遺伝子療法の全身送達に関する別の試みは、標的器官内の適切な細胞に治療剤を標的化することである。例えば、肝臓において、肝細胞および非肝細胞(クッパー細胞および他の抗原提示細胞を含む)の両方がトランスフェクションされてもよい。肝細胞は、優れた蛋白質産生細胞であり、発現された蛋白質を血清中に分泌し得、多くの場合、機能喪失した欠陥部位である。故に、肝臓の非肝細胞に対して肝細胞のトランスフェクションを最大化することが望ましい。しかし、全身投与されるウイルス性遺伝子療法の場合、トランスフェクションされた肝臓の細胞の有意なフラクションは非肝細胞である。
【0007】
抗原提示細胞(クッパー細胞、肝臓類洞内皮細胞を含む)のごとき非肝細胞におけるトランスジーン発現の否定的な結果が存在するかもしれない。かかる発現は、トランスジーン産物に対する免疫応答を生じるかもしれない。
【0008】
これまでの試みは、バルーン閉塞カテーテルを用いる体内の分離された領域への遺伝物質の送達に対してなされてきた(米国特許第5,698,531号)。これらの方法は、血管表面を裏打ちする内皮細胞のトランスフェクションを目的としている。本発明は、器官の実質細胞へ遺伝物質を送達するための方法を提供する。
【0009】
バルーンカテーテルを用いて標的器官へ遺伝物質を送達するための別の方法が記載されている(WO 2004/001049)。しかし、この方法は、標的器官内に高圧を用いることが必要である。十分に圧力を高めるために、より大量の治療剤を注入する必要があり、これらのより大量の治療剤は上記した理由のために都合が悪い。さらに、高圧は標的器官を損傷する危険性があり得る。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0010】
発明の概要
従って、本発明の目的は、標的器官を流れる静脈血管系を通じて、標的器官へウイルス性遺伝子治療剤を送達するための方法を提供することである。
【0011】
本発明の別の目的は、標的器官の静脈血管系中の圧力を有意に増大させることなく、標的器官を流れる静脈血管系を通じて、標的器官へウイルス性遺伝子治療剤を送達するための方法を提供することである。
【0012】
本発明の別の目的は、標的器官を流れる静脈血管系を通じて、標的器官へウイルス性遺伝子治療剤を送達するための方法であって、該器官が肝臓であり、該静脈血管系が肝静脈、肝静脈の支流または下大静脈である方法を提供することである。
【0013】
本発明の別の目的は、ウイルス性遺伝子治療剤によりコードされる蛋白質を発現させるために、標的器官へウイルス性遺伝子治療剤を送達するための方法を提供することである。
【0014】
本発明の別の目的は、肝細胞および非肝細胞の両方においてウイルス性遺伝子治療剤によりコードされる蛋白質を発現させるために、肝臓へウイルス性遺伝子治療剤を送達するための方法であって、該ウイルス遺伝子によりコードされる蛋白質を発現する肝細胞および非肝細胞の合計のうち、該ウイルス遺伝子によりコードされる蛋白質を発現する肝細胞のフラクションが、少なくとも0.2、少なくとも0.3、少なくとも0.4、少なくとも0.5、少なくとも0.6、少なくとも0.7、少なくとも0.8または少なくとも0.9である方法を提供することである。
【0015】
本発明の別の目的は、ウイルス性遺伝子治療剤によりコードされる蛋白質を発現させるために、標的器官へウイルス性遺伝子治療剤を送達するための方法であって、該ウイルス性遺伝子治療剤に対して既存の免疫を有する対象へ該ウイルス性遺伝子治療剤を送達するための方法を提供することである。
【0016】
本発明に従って、バルーンカテーテルを用いて遺伝物質を標的化送達するための方法が提供される。一の方法において、バルーン閉塞カテーテルは単一の肝静脈中に近位で埋め込まれ、治療溶液は、カテーテルを経由する膨張された(閉塞)バルーンを越えて上記のように分離された標的葉の血管を通じて肝実質へ送達される。送達される治療剤の容量は、標的器官の静脈血管系の灌流に十分な程大きいが、静脈血管圧における有意な上昇の防止または側副循環による該剤の全身分布に十分な程小さい。異なる血管を閉塞するためにバルーンを再度留置することにより、同じ手順の間に複数の葉が順次処置され得る。処置は高度に局所的であるので、同じ手順の間に単一の器官の様々な部分が、別法では不適合となり得る異なる治療剤を用いて処置され得る。
【0017】
別の方法において、器官全体からの静脈血流は、肝静脈血流に対して近位および遠位双方の下大静脈中にバルーンカテーテルを留置することにより一時的に閉塞され、遺伝子治療剤は、膨張された(閉塞)バルーンの間の空間内に血管内カテーテルを経由して注入される。さらに、ウイルス性治療剤の容量は、標的器官の血管系の灌流に十分な程大きいが、静脈圧における有意な上昇の防止または側副循環による該剤の全身分布に十分な程小さい。この方法を用いてウイルス性遺伝子治療剤を分離された肝臓に送達する場合、非常に効果的な遺伝子移入が成し遂げられる。
【0018】
別の実施態様において、本発明の方法は、ウイルス投与前の「フラッシング(flushing)」工程を含んでもよい。フラッシングは、生理食塩水のごとき生理的に適切な溶液を利用して、ウイルスの投与前に分離された器官または器官のセクションを灌流または部分的に灌流させ、そうでなければ標的細胞に形質導入または感染する遺伝子移入ベクターの能力を軽減し得るウイルスベクターに対する既存の抗体を軽減または排除する。
【0019】
別の実施態様において、肝臓が標的器官である場合、ウイルス投与前のフラッシング工程は、トランスフェクションされる肝細胞の数および割合を増大してもよい。別の好ましい実施態様において、ウイルス投与前のフラッシング工程は、投与されるウイルスベクターに対して既存の免疫を有する動物においてトランスフェクションされる肝細胞の数および割合を増大する。
【0020】
さらなる別の実施態様において、本発明の方法は、標的器官におけるウイルス性遺伝子治療剤について、延長された持続または滞留時間を含んでもよい。延長された滞留時間は、本方法に付随する急性毒性を増大させることなく、動物にトランスフェクションされる肝細胞の数および割合を増大してもよい。
【0021】
本発明のさらなる目的および利点は、一部には、以下の記載にて示されており、一部には、該記載から明かであり、または本発明を実施することにより認識できよう。本発明の目的および利点は、添付の特許請求の範囲にて特に指摘されているエレメントおよび組み合わせにより、理解および達成され得る。
【0022】
前記した一般的な説明および下記する詳細な説明の両方は本発明の単なる例示および説明であり、特許請求された本発明を限定するものではないことが理解されるべきである。
【0023】
本明細書に組み込まれ、かつ本明細書の一部を構成する添付の図は、本発明の幾つかの実施態様を説明しており、本明細書の記載と共に、本発明の原理を説明するのに役立つ。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】肝静脈(3)を閉塞するバルーンカテーテル(4)を示す。該カテーテルは、頸静脈(5)から挿入され、上大静脈(1)、心臓(2)を経て、肝静脈(3)まで通される。
【0025】
【図2】ウサギモデルにおける肝静脈を通じてのウイルスのバルーンカテーテル投与の蛍光透視法によるスポットイメージを示す。点線は大静脈および4つの主要な肝静脈を示す。カテーテルは、上大静脈を通じて右尾状葉に下降していることが分かり、そこで、造影剤で膨張された閉塞バルーンが静脈からの血流を遮断する。造影剤を含有する注入溶液により、この葉の静脈分岐(点線サークル)が強調して示され得る。該イメージはウイルス注入の直前に獲得されており、選択された肝静脈のバルーン介在閉塞の開存性を示す。
【0026】
【図3】肝静脈内のバルーンカテーテル(4)の蛍光透視法によるイメージを示す(HVブロック)。第2のバルーン(6)は下大静脈内で膨張される(IVCブロック)。
【0027】
【図4】肝臓の静脈排出路を分離するための二重バルーン技法を示す。第1のバルーン(7)は、頸静脈(5)から挿入された後、上大静脈(1)を介して、肝臓まで通される。第2の閉塞バルーン(8)は、下大静脈(18)から挿入される。第1のバルーン(7)は、肝静脈(3,10,11)の上側にある下大静脈の一部を閉塞し、第2のバルーン(8)は、肝静脈(3,10,11)の下側にある下大静脈(18)の一部を閉塞する。第3のカテーテル(9)を用いて治療剤を注入する。
【0028】
【図5】別の二重バルーン技法を示す。バルーン(12,13)を閉塞に用いる。およびカテーテルチップ(14,15)の一方または両方にある穴を通じて治療剤が注入できるように、バルーン(12,13)の一方または両方を通じて内腔を拡張させてもよい。
【0029】
【図6】バルーンカテーテルおよびAd2ナイーブウサギを用いて1.5×1012vp/kgのAd2−βgalを投与した後の、3ml(A,B,C)、8ml(D,E,F)または20ml(G,H,I)の注入量の関数としての、β−ガラクトシダーゼ発現の分布を示す。免疫組織化学により評価される発現は、注入(葉1)および非注入(葉4)の葉(A,B,D,E,G,H)の両方について、2匹の注入された動物に典型的な顕微鏡写真により10×で示される。1葉あたり3コアにおける細菌性β−ガラクトシダーゼの発現を図式的に示す(C,FおよびI);注入された葉に陰影を付ける。数値は、β−ガラクトシダーゼ/mg蛋白質の相対発光量での発現を示す。簡単にするため、葉に番号を付ける。注入された葉(葉1)は図2で示したマルで囲った葉であることに注意すること。
【0030】
【図7】Ad2ナイーブウサギ(A,C,E)および抗−Ad2抗体含有のヒト血清で受動免疫されたウサギ(B,D,F)に対して8mlの容量で1.5×1012vp/kgのAd2−βgalを全身投与した後のβ−ガラクトシダーゼ発現の分布を示す。葉1におけるβ−ガラクトシダーゼ発現の免疫組織化学的局在性は、2〜3匹の注入された動物に典型的な顕微鏡写真において10×および40×で示される。ELISAにより測定されたβ−ガラクトシダーゼ発現の分布図を、ナイーブ(E)および受動免疫された(F)ウサギについて示す(これは全身投与なので葉間の区別はない)。
【0031】
【図8】バルーンカテーテルおよび8mlの注入量を用いてAd2ナイーブウサギ(A−E)およびAd2に対して受動免疫されたウサギ(F−J)へ1.5×1012vp/kgのAd2−βgalを投与した後のβ−ガラクトシダーゼ発現の分布を示す。免疫組織化学により評価される発現は、注入(葉1;A,C,F,H)および非注入(葉4;B,D,G,I)の両方の葉について、3匹の注入されたウサギに典型的な顕微鏡写真において10×および40×で示される。ELISAにより測定された発現を図式的に示す;注入葉に陰影を付ける。数値は、1葉あたり3つの組織コアからのβ−ガラクトシダーゼ(pg)/蛋白質(μg)の単位での平均発現を示す。
【0032】
【図9】本発明の方法に従ってウイルス性遺伝子治療剤を送達した後の、トランスジーンを発現する肝細胞および非肝細胞の数の定量化を示す。ナイーブウサギ(AおよびD)または抗−Ad2抗体含有ヒト血清で受動免疫されたウサギ(B,CおよびE)へ同容量(8ml)で同量のウイルス(1.5×1012vp/kgのAd2−βgal)を局所(A,BおよびC)または全身(DおよびE)送達した後の、各肝葉の1mm2フィールドあたりのβ−ガラクトシダーゼ陽性肝細胞(黒の棒)および非肝細胞(白の棒)の数のMetamorph定量。(C)における動物の注入された葉は、8mlのウイルス投与の直前に20mlの生理食塩水でフラッシュされた。括弧書きの数値は、各特定の葉内の全β−gal陽性細胞のうちのβ−gal陽性肝細胞のフラクションを示す。番号1および4の葉は図6〜8に図式的に示したものに対応する(A,B,CおよびE,N=30フィールド,D;N=45フィールド)。
【0033】
【図10】バルーンカテーテル介在送達を用いて3匹のナイーブウサギへ肝臓への局所送達により全量8mlで5×1012drpのAAV2DC190HAGALウイルスを投与した後の、84日間にわたるヒトα−ガラクトシダーゼA発現を示す。3匹のウサギのうち2匹では全84日間にわたって発現を検出し、3匹目のウサギでは、7日目および14日目の間に発現の検出を開始し、84日間の残りの時間、発現を検出した。
【0034】
【図11A】本発明の方法に従って4分間の滞留時間を用いてナイーブウサギに8ml容量でAd2βgalウイルス(1.5×1012vp/kg)をカテーテルに基づいて局所送達した後の、トランスジーンを発現する全細胞と比較したトランスジーンを発現する肝細胞の比率である、トランスフェクションされた肝細胞フラクションを示す。β−ガラクトシダーゼ陽性肝細胞および非肝細胞の数のMetamorph定量化を、注入肝葉および非注入肝葉の両方の3セクションにて行った。各棒は、1つの肝臓セクションの肝細胞フラクション[トランスフェクションされた肝細胞/(トランスフェクションされた肝細胞+トランスフェクションされた非肝細胞)]分析を示す。8−20および8−22についての棒は4分間の滞留時間で処置したウサギを示し、一方、4、5および1についての棒は1分間の滞留時間で処置したウサギを示す。これらは、滞留時間を除き同一のプロトコルを用いた先の実験に由来するものである。
【0035】
【図11B】1)4分間の滞留時間(8−20および8−22)でのバルーンカテーテルおよび8mlの容量を用いて1.5×1012vp/kgのAd2−βgalをウサギへ投与した後の、ならびに2)1分間の滞留時間(4、5および1)以外は先の実験と同一の条件での、ELISAにより測定されたβ−ガラクトシダーゼ発現の分布を示す。発現を4つの肝葉、肺、腎臓および脾臓にて測定した。3つの組織コアを各肝葉から採集し、これを用いて発現を測定した;それらは、大静脈への葉肝静脈の入口部に対して葉の近位、中位および遠位であった。RCP、RCM、RCDは、各々、近位、中位および遠位の外側右葉(注入葉)を言う。RLP、RLM、RLDは、各々、近位、中位および遠位の内側右葉を言う。MP、MM、MDは、各々、近位、中位および遠位の内側左葉を言う。LP、LM、LDは、各々、近位、中位および遠位の外側左葉を言う。
【発明を実施するための形態】
【0036】
実施態様の説明
ここで、本発明の実施態様に対して詳細な言及がされるが、その例は添付の図に示されている。可能な場合には、同じまたは同様の部分を言及するために、同じ参照番号が図において用いられ得る。
【0037】
別記しない限り、本発明の実施は、分子生物学(組換えDNA技法を含む)、細菌学、細胞生物学、生化学および免疫学の慣用的技法を用い、これらは当業者の範囲内である。かかる技法は、Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Second Edition(Sambrookら.,1989);Current Protocols In Molecular Biology(F.M.Ausubelら.,eds.,1987);Oligonucleotide Synthesis(MJ.Gait,ed.,1984);Animal Cell Culture(R.I.Freshney,ed.,1987);Methods In Enzymology(Academic Press,Inc.);Handbook Of Experimental Immunology(D.M.Wei&CC.Blackwell,eds.);Gene Transfer Vectors For Mammalian Cells(J.M.Miller&M.P.Calos,eds.,1987);PCR:The Polymerase Chain Reaction,(Mullisら.,eds.,1994);Current Protocols In Immunology(J.E.Coliganら.,eds.,1991);Antibodies:A Laboratory Manual(E.HarlowおよびD.Lane eds.(1988));およびPCR 2:A Practical Approach(MJ.MacPherson,B.D.HamesおよびG.R.Taylor eds.(1995))のごとき文献において十分に説明されている。
【0038】
用語「トランスジーン」は、組織または器官の細胞中に導入されて、適切な条件下で発現し得るか、またはそうでなければ細胞に有用な特性を付与し得るポリヌクレオチドを言う。所望の治療結果に基づいてトランスジーンを選択する。それは、例えば、ホルモン、酵素、受容体または目的とする他の蛋白質をコードしていてもよい。それは、内因性または体外から投与された遺伝子の発現を減少または排除するために、低分子干渉RNA(siRNA)またはアンチセンスRNAをコードしていてもよい。例えば、家族性高コレステロール血症の処置において、LDL受容体をコードするトランスジーンを用いてもよい(Kobayashiら.,J.Biol.Chem.271:6852−6860)。
【0039】
用語「トランスフェクション」は、用語「遺伝子移入」および「形質導入」と同義的に用いられ、トランスジーンの細胞内導入を意味する。「トランスフェクション効率」は、トランスフェクションに付された細胞により取り込まれたトランスジーンの相対量を言う。実際、トランスフェクション効率は、トランスフェクション手順の後に発現されるレポーター遺伝子産物の量により評価される。
【0040】
本明細書中、遺伝子送達、遺伝子移入等なる用語は、外来性ポリヌクレオチド(場合により「トランスジーン」と言う)の宿主細胞への導入を言う。導入されたポリヌクレオチドは、安定にまたは一時的に宿主細胞中に維持されてもよい。典型的に、安定な維持には、導入されたポリヌクレオチドが宿主細胞に適合する複製起点を含むか、或いは染色体外レプリコンのごとき宿主細胞のレプリコンまたは核もしくはミトコンドリア染色体に組み込む必要がある。当該技術分野において知られており、本明細書中に記載されているように、多数のウイルスベクターが哺乳類細胞への遺伝子移入を介在し得ることが知られている。
【0041】
外来性ポリヌクレオチドは、本発明の方法を介して宿主へ送達するために、ウイルスベクターに導入される。各々多数の種を含む多数のウイルスベクターが知られており、多数が遺伝子療法目的のために研究されている。最も一般的に用いられているウイルスベクターは、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス[AAV]、およびレンチウイルスを含むレトロウイルス、例えば、ヒト免疫不全ウイルス[HIV]を包含する。
【0042】
用語「ウイルス」は、DNAまたはRNAを細胞に移入し得る物質であり、DNAまたはRNAおよび蛋白質コートから構成される、非細胞性生物である偏性細胞内生物である物質を言う。ウイルスは、裸の(naked)DNA、裸のRNA、蛋白質コートのないプラスミドDNA、または蛋白質コートのないRNAを含まない。本発明の方法に適用されてもよいウイルスの例は、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、アルファウイルス、バキュロウイルス、ヘパデナウイルス(hepadenaviruses)、バキュロウイルス、ポックスウイルス、ヘルペスウイルス、レトロウイルス、レンチウイルス、オルソミクソウイルス、パポバウイルス、パラミクソウイルスおよびパルボウイルスを含む。加えて、これらの任意のウイルスの組み合わせから産生されるハイブリッドウイルスが用いられてもよい。これらは、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクターおよびプラスミドベクターを含む。例示的なウイルスの型は、HSV(ヘルペスシンプレックスウイルス)、AAV(アデノ随伴ウイルス)、HIV(ヒト免疫不全ウイルス)、BIV(ウシ免疫不全ウイルス)およびMLV(ネズミ白血病ウイルス)を含む。
【0043】
本発明の方法を用いて特定の哺乳類へ送達するためのウイルスを選択する際、念頭にある処置すべき哺乳類について、特定のウイルスの特定の血清型を選択してもよい。血清型は、上記哺乳類において単離されたもの、および/または処置すべき特定の標的哺乳類の特定の標的器官について高められた指向性を有し得るものから選択されてもよい。
【0044】
或いは、本発明の方法を用いて特定の哺乳類へ送達するためのウイルスを選択する際、特定の哺乳類種において単離されていない血清型を選択してもよい。
【0045】
アデノウイルスは、約36kbのゲノムを有する非エンベロープ、核DNAウイルスであり、古典的な遺伝学および分子生物学における研究により十分に特徴付けられている(Hurwitz,M.S.,Adenoviruses Virology,3rd edition,Fieldsら.,eds.,Raven Press,New York,1996;Hitt,M.M.ら.,Adenovirus Vectors,The Development of Human Gene Therapy,Friedman,T.ed.,Cold Spring Harbor Laboratory Press,New York 1999)。ウイルス遺伝子は、初期(E1−E4と称する)および後期(L1−L5と称する)転写ユニットに分類され、これらは、ウイルス蛋白質の2つの一時的なクラスの産生に言及する。これらの事象を区別するものは、ウイルスDNA複製である。ヒトアデノウイルスは、赤血球細胞の血球凝集、発癌性、DNAおよび蛋白質アミノ酸の組成および相同性、ならびに抗原的関連性を含む特性に基づいて、様々な血清型に分類される(約47、適宜ナンバリングされ、6群:A、B、C、D、EおよびFに分類される)。
【0046】
組換えアデノウイルスベクターは、分裂および非分裂細胞の両方に対する指向性、潜在的病原性がわずかであること、ベクターストックの調製のために高力価で複製する能力、および大きなインサートを保有する潜在力を含む、遺伝子送達ビヒクルとしての使用のために幾つかの利点を有する(Berkner,K.L.,Curr.Top.Micro.Immunol.158:39−66,1992;Jolly,D.,Cancer Gene Therapy 1:51−64 1994)。様々なアデノウイルス遺伝子配列の欠失を伴うアデノウイルスベクター、例えば、偽アデノウイルスベクター(PAVs)および部分的に欠失したアデノウイルス(「DeAd」と言う)は、アデノウイルスの望ましい特徴を利用するように設計されており、レシピエント細胞への核酸の送達に適するビヒクルとなる。
【0047】
特に、「弱い(gutless)アデノウイルス」またはミニ−アデノウイルスベクターとしても知られている偽アデノウイルスベクター(PAV)は、ベクターゲノムの複製およびパッケージに必要とされる最小のシス作用性ヌクレオチド配列を含み、1個または複数のトランスジーンを含み得るアデノウイルスのゲノムに由来するアデノウイルスベクターである(偽アデノウイルスベクター(PAV)およびPAVの産生方法を含む米国特許第5,882,877号を参照のこと。該文献は出典明示により本明細書の一部となる)。PAVは、アデノウイルスの望ましい特徴を利用するように設計されており、遺伝子送達に適するビヒクルとなる。一般的に、アデノウイルスベクターは、ウイルス成長に重要でない領域の欠失により最高8kbの大きさのインサートを保有可能であるが、最大保有能は、PAVを含む、大部分のウイルスコーディング配列の欠失を含有するアデノウイルスベクターの使用により達成され得る。Gregoryらの米国特許第5,882,877号;Kochanekら.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 93:5731−5736,1996;Parksら.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 93:13565−13570,1996;Lieberら.,J.Virol.70:8944−8960,1996;Fisherら.,Virology 217:11−22,1996;米国特許第5,670,488号;1996年10月24日公開のPCT公開番号 WO96/33280;1996年12月19日公開のPCT公開番号 WO96/40955;1997年6月19日公開のPCT公開番号 WO97/25446;1995年11月9日公開のPCT公開番号 WO95/29993;1997年1月3日公開のPCT公開番号 WO97/00326;Morralら.,Hum.Gene Ther.10:2709−2716,1998を参照のこと。最高約36kbの外来核酸を収容し得るかかるPAVは有利である。というのも、ベクターに対する宿主免疫応答の可能性または複製能のあるウイルスの産生を軽減する一方で、ベクターの保有能が最適化されるからである。PAVベクターは、複製起点およびPAVゲノムのパッケージに必要とされるシス作用性ヌクレオチド配列を含む、5’逆方向末端反復配列(ITR)および3’ITRヌクレオチド配列を含有し、プロモーター、エンハンサー等のごとき適切な調節エレメントと共に1個または複数のトランスジーンを収容し得る。
【0048】
他の部分的に欠失したアデノウイルスベクターは、一の部分的に欠失したアデノウイルス(「DeAd」と言う)ベクターを提供し、該ベクターにおいて、ウイルス複製に必要とされるアデノウイルス初期遺伝子の大部分は、ベクターから欠失しており、条件付き(conditional)プロモーターの制御下で産生細胞の染色体内に存在する。産生細胞中に存在する欠失可能なアデノウイルス遺伝子は、E1A/E1B、E2、E4(ORF6およびORF6/7のみが細胞中に存在する必要がある)、plXおよびplVa2を含んでもよい。E3もベクターから欠失されてよいが、それはベクター産生に必要ではないので、産生細胞から削除することもできる。通常、主要後期プロモーター(MLP)の制御下にあるアデノウイルス後期遺伝子はベクター中に存在するが、MLPは条件付きプロモーターにより置換されてもよい。
【0049】
PAVまたはDeAdウイルスベクターおよび産生細胞株における使用に適する条件付きプロモーターは、以下の特徴:細胞傷害性または細胞増殖抑制性アデノウイルス遺伝子が細胞に有害なレベルで発現されないような、非誘導状態における低い基礎的発現;ならびに十分な量のウイルス性蛋白質がベクター複製およびアセンブリを支持するために産生されるような、誘導状態における高レベル発現:を有するものを含む。DeAdベクターおよび産生細胞株における使用に適する好ましい条件付きプロモーターは、免疫抑制剤FK506およびラパマイシンに基づく二量体化(dimerizer)遺伝子制御系、エクジソン遺伝子制御系およびテトラサイクリン遺伝子制御系を含む。Abruzzeseら.,Hum.GeneTher.1999 10:1499−507に記載されているGeneSwitch(登録商標)技法[Valentis,Inc.,Woodlands,TX]も本発明に有用であってもよい。該文献の開示内容は出典明示により本明細書の一部となる。部分的に欠失したアデノウイルス発現系はWO99/57296にさらに記載されている。該開示内容は出典明示により本明細書の一部となる。
【0050】
アデノ随伴ウイルス(AAV)は、4.6kbのゲノムサイズを有する一本鎖ヒトDNAパルボウイルスである。AAVゲノムは、2つの主要な遺伝子:rep蛋白質(Rep76,Rep68,Rep52およびRep40)をコードするrep遺伝子、ならびにAAV複製、レスキュー(rescue)、転写および組込みをコードするcap遺伝子、ここで、cap蛋白質はAAVウイルス粒子を形成する:を含有する。AAVの名前の由来は、AAVの増殖感染を可能にするのに、すなわち、宿主細胞におけるそれ自身の複製を可能とするのに必須の遺伝子産物を供給するために、該ウイルスがアデノウイルスまたは他のヘルパーウイルス(例えば、ヘルペスウイルス)に依存することによる。ヘルパーウイルスの不在下で、AAVは、ヘルパーウイルス、通常、アデノウイルスでの宿主細胞の重複感染によりそれがレスキューされるまで、プロウイルスとして宿主細胞の染色体に組み込む(Muzyczka,Curr.Top.Micro.Immunol.158:97−127,1992)。
【0051】
遺伝子移入ベクターとしてのAAVにおける興味深さは、その生態における幾つかの特有の特徴からもたらされる。AAVゲノムの両端には、ウイルス複製、レスキュー、パッケージおよび組込みに必要とされるシス作用性ヌクレオチド配列を含む逆方向末端反復配列(ITR)として知られているヌクレオチド配列がある。rep蛋白質によりin transで介在されるITRの組込み機能により、ヘルパーウイルスの不在下、感染後に、AAVゲノムは細胞の染色体に組み込むことが可能となる。該ウイルスのこの特有の特性は、目的の遺伝子を含有する組換えAAVの細胞ゲノムへの組込みを可能とするので、遺伝子移入におけるAAVの使用に関連性がある。故に、遺伝子移入の多数の目的に理想的な安定な遺伝子形質転換は、rAAVベクターを用いることにより成し遂げられてもよい。さらに、AAVについての組込み部位は十分に確立されており、ヒトの19番染色体に局所している(Kotinら.,Proc.Natl.Acad.Sci.87:2211−2215,1990)。組込み部位のこの予測可能性により、宿主遺伝子を活性化もしくは不活性化するか、またはコーディング配列を遮断して、結果としてAAV組込みベクターの使用を制限し得る、細胞ゲノムへのランダム挿入事象の危険性が軽減される。rAAVベクターの設計におけるこの遺伝子の除去は、rAAVベクターについて観察された改変された組込みパターンをもたらしてもよい(Ponnazhaganら.,Hum Gene Ther.8:275−284,1997)。
【0052】
遺伝子移入用AAVの使用には他の利点がある。AAVの宿主域は広い。さらに、レトロウイルスと異なり、AAVは静止細胞および分裂細胞の両方に感染し得る。加えて、AAVはヒト疾患に関連しておらず、レトロウイルスに由来する遺伝子移入ベクターにより引き起こされる多数の問題を未然に防ぐ。
【0053】
組換えrAAVベクターの産生に対する標準的アプローチでは、一連の細胞内事象:AAV ITR配列に隣接する目的のトランスジーンを含有するrAAVベクターゲノムで宿主細胞をトランスフェクションすること;in transで必要とされるAAV repおよびcap蛋白質に関する遺伝子をコードするプラスミドにより宿主細胞をトランスフェクションすること;ならびにトランスフェクションされた細胞をヘルパーウイルスに感染させて、in transで必要とされる非AAVヘルパー機能を供給すること:を協調させる必要があった(Muzyczka,N.,Curr.Top.Micro.Immunol.158:97−129,1992)。アデノウイルス(または他のヘルパーウイルス)蛋白質はAAV rep遺伝子の転写を活性化し、次いで、rep蛋白質はAAV cap遺伝子の転写を活性化する。次いで、cap蛋白質はITR配列を利用して、rAAVゲノムをrAAVウイルス粒子中にパッケージ化する。故に、パッケージ化の効率は、一部には、十分量の構造蛋白質のアベイラビリティにより、ならびにrAAVベクターゲノムにおいて必要とされる任意のシス作用性パッケージ配列の利便性により決定される。
【0054】
レトロウイルスベクターは遺伝子送達のための一般的ツールである(Miller,Nature(1992)357:455−460)。広範な齧歯類、霊長類およびヒト体細胞中へ再配列していない単一コピーの遺伝子を送達するレトロウイルスベクターの能力により、細胞への遺伝子の移入に十分に適したレトロウイルスベクターが作製される。
【0055】
レトロウイルスは、ウイルスゲノムがRNAであるRNAウイルスである。宿主細胞がレトロウイルスに感染する場合、ゲノムRNAはDNA中間体に逆転写され、該中間体は感染された細胞の染色体DNA中に非常に効果的に組み込まれる。この組み込まれたDNA中間体をプロウイルスと言う。プロウイルスの転写および感染性ウイルスへのアセンブリは、適切なヘルパーウイルスの存在下にて、または汚染ヘルパーウイルスの同時産生を伴わずにカプシド形成を可能とする適切な配列を含有する細胞株にて生じる。カプシド形成に関する配列が適切なベクターとの共トランスフェクションによりもたらされるならば、ヘルパーウイルスは組換えレトロウイルスの産生に必要ではない。
【0056】
レトロウイルスゲノムおよびプロウイルスDNAは、2つの長い末端反復(LTR)配列に隣接する3つの遺伝子:gag、polおよびenvを有する。gag遺伝子は内部構造(マトリックス、カプシドおよびヌクレオカプシド)蛋白質をコードし;pol遺伝子はRNA特異的DNAポリメラーゼ(逆転写酵素)をコードし、env遺伝子はウイルス性エンベロープ糖蛋白質をコードする。5’および3’LTRは、ビリオンRNAの転写およびポリアデニル化の促進に関与する。LTRは、ウイルス複製に必要な他の全てのシス作用性配列を含有する。レンチウイルスは、(HIV−1,HIV−2および/またはSIV中に)vit、vpr、tat、rev、vpu、nefおよびvpxを含むさらなる遺伝子を有する。5’LTRに隣接して、ゲノムの逆転写に必要な配列(tRNAプライマー結合部位)および粒子中へのウイルス性RNAの効果的なカプシド形成に必要な配列(Psi部位)がある。カプシド形成(または感染性ビリオンへのレトロウイルスRNAのパッケージ化)に必要な配列がウイルスゲノムから欠損しているならば、ゲノムRNAのカプシド形成を阻害するシス欠損がもたらされる。しかし、得られた突然変異体は依然として全てのビリオン蛋白質の合成を導き得る。
【0057】
レンチウイルスは、共通のレトロウイルス遺伝子gag、polおよびenvに加えて調節または構造的機能を有する他の遺伝子を含む複雑なレトロウイルスである。より高い複雑性により、潜在的な感染の経過において見られるように、レンチウイルスはその生活環を調節できる。典型的なレンチウイルスは、AIDSの原因菌であるヒト免疫不全ウイルス(HIV)である。インビボでは、HIVは、リンパ球およびマクロファージのごとき、めったに分裂しない最終分化細胞に感染し得る。インビトロでは、HIVは、アフィジコリンまたはガンマ照射での処理により細胞周期を停止させた単球由来マクロファージ(MDM)ならびにHeLa−Cd4またはTリンパ球様細胞の初代培養物に感染し得る。細胞の感染は、標的細胞の核膜孔を介するHIVプレインテグレーション複合体の活発な核内輸送に依存する。これは、複合体中の複数の部分的に重複している分子決定因子と、標的細胞の核内輸送機構との相互作用により生じる。同定された決定因子は、gagマトリックス(MA)蛋白質中の機能的核局所化シグナル(NLS)、核親和性ビリオン関連蛋白質、vpr、およびgagMA蛋白質中のC−末端ホスホチロシン残基を含む。遺伝子療法のためのレトロウイルスの使用は、例えば、米国特許第6,013,516号;および米国特許第5,994,136号に記載されており、その開示内容は出典明示により本明細書の一部となる。
【0058】
本発明の方法に適用され得るウイルスについてのさらなる情報は、ウイルス学の多数のテキストにて見出され得る(Friedman,Theodore;The Development of Human Gene Therapy,Cold Spring Harbor Laboratory Press,1998)。
【0059】
本発明の方法により投与されるウイルスベクターは、選択したトランスジーンに作動可能に連結したプロモーターおよびエンハンサーのごとき調節エレメントを含有する発現カセットを含む。適当なプロモーターおよびエンハンサーは、選択したウイルスベクターにおいて用いるために当該分野において広く利用可能である。好ましい実施態様において、調節エレメントは、PCT US 00/31444に開示されているもののように、肝臓において優先的にトランスジーン発現を導き得るプロモーターおよびエンハンサーエレメントの組み合わせを含む。該文献の開示内容は出典明示により本明細書の一部となる。それらは、構成的または高発現プロモーターおよび1個または複数の肝特異的エンハンサーエレメントの組み合わせを含んでもよい。
【0060】
強力な構成的プロモーターは、CMVプロモーター、切断型CMVプロモーター、ヒト血清アルブミンプロモーターおよびα−1−アンチトリプシンプロモーターを含む群から選択されてもよい。他の実施態様において、プロモーターは、既知の転写リプレッサーに関する結合部位が欠失している切断型CMVプロモーターである。肝特異的エンハンサーエレメントは、ヒト血清アルブミン[HSA]エンハンサー、ヒトプロトロンビン[HPrT]エンハンサー、α−1−ミクログロブリンエンハンサーおよびイントロンアルドラーゼエンハンサーからなる群より選択されてもよい。これらの肝特異的エンハンサーエレメントの1個または複数をプロモーターと組み合わせて用いてもよい。発現カセットの一の好ましい実施態様において、1個または複数のHSAエンハンサーを、CMVプロモーターまたはHSAプロモーターからなる群より選択される一のプロモーターと組み合わせて用いてもよい。別の好ましい実施態様において、ヒトプロトロンビン(HPrT)エンハンサーおよびα−1−ミクログロブリン(A1MB)エンハンサーからなる群より選択される1個または複数のエンハンサーエレメントをCMVプロモーターと組み合わせて用いてもよい。さらなる別の好ましい実施態様において、エンハンサーエレメントは、HPrTエンハンサーおよびA1MBエンハンサーからなる群より選択され、α−1−アンチトリプシンプロモーターと組み合わせて用いてもよい。
【0061】
本発明は、ウイルス性遺伝子治療剤によりコードされる蛋白質を発現させるために、哺乳類対象の選択された器官へウイルス性遺伝子治療剤を送達するための方法を提供する。該方法は、器官または器官のセクションを流れる静脈血管系内に1個または複数のカテーテルを留置する工程、ここで、少なくとも1つのカテーテルは1個または複数の膨張可能で拡張可能な部材を有する;1個または複数の膨張可能で拡張可能な部材を膨張させることによって器官または器官のセクションを流れる静脈血管系内の血液を閉塞させることにより器官または器官のセクションを分離する工程;分離された器官または分離された器官のセクション中の通常の静脈圧の40%増までの血圧上昇を惹起する容量でウイルス性遺伝子治療剤を送達する工程;ならびに治療上有効量の該遺伝子治療剤のトランスフェクションに十分な時間、該遺伝子治療剤を分離された血管系のセクション内に持続させておく工程を含む。それは、所望により、ウイルス性遺伝子治療剤の送達前に抗ウイルス抗体を除去するために静脈血管系をフラッシュするさらなる工程を含んでもよい。
【0062】
本発明の方法において、ウイルス性遺伝子治療剤は、分離された器官または分離された器官のセクションの通常の静脈圧より上側に該静脈血管系内の圧を有意に高めることなく、分離された器官または分離された器官のセクションを流れる静脈血管系を灌流させるのに十分な容量で送達される。肝臓の場合において、分離された器官または分離された器官のセクション内の通常の静脈圧は、閉塞肝静脈圧(WHVP)により測定される。WHVPは、肝静脈中にバルーンカテーテルを挿入し、次いで、バルーンカテーテルを膨張させて、肝静脈を閉塞させることにより測定される。閉塞された静脈における圧はバルーンカテーテルの遠位末端のチップ上にて圧変換器により測定され、この測定された圧はWHVPに等しい。ヒト対象におけるWHVPについての典型的な値は40〜140mmの生理食塩水である。肝臓、血管または心臓疾患を有する患者においてはより高い値が示されてもよい。
【0063】
本発明の方法において、ウイルス性遺伝子治療剤は、分離された器官または分離された器官のセクションを流れる静脈血管系に送達される。器官全体への送達の場合には、当業者には、器官を流れる静脈血管系は器官全体を流れる静脈血管系を言うことが明かであろう。肝臓の場合には、肝臓を流れる静脈血管系は肝静脈、右または左肝静脈、下葉静脈、中心静脈および類洞を言う。門静脈は、肝臓を流れる静脈血管系の部分と見なされない。さらに、肝臓の場合において、器官を流れる静脈血管系のセクションを本発明の方法により閉塞させて、器官のセクションを分離してもよい。当業者は、本発明の方法により分離された器官および器官のセクションを流れる静脈血管系のセクションが、ウイルス性治療剤の送達に用いるカテーテルの1つを用いてX線造影剤を注入することにより同定されてもよいことを認識できよう。同一の分離された器官または分離された器官のセクションに用いられ得るウイルス性治療剤と同量の造影剤を注入することにより、分離されたセクションは蛍光透視により同定され得る。肝臓の場合において、閉塞された肝静脈または肝静脈の閉塞された区分へ注入された造影剤により、蛍光透視下で、分離されるべき肝臓のセクションが明示され得る。
【0064】
本発明の目的のために、分離された器官または分離された器官のセクションへ注入された場合に、分離された器官または分離された器官のセクションにおける通常の静脈圧の10%、20%、30%または40%増まで、分離された器官または分離された器官のセクションにおける静脈圧の上昇を惹起する注入量が選択されてもよい。さらに、肝臓の場合において、肝臓を流れる静脈血管系の通常の静脈圧はWHVPにより測定され得る。100mmの生理食塩水のWHVPの場合には、10mmの生理食塩水(0.75mmHg)まで、20mmの生理食塩水(1.5mmHg)まで、30mmの生理食塩水(2.25mmHg)まで、または40mmの生理食塩水(3.0mmHg)までWHVPの上昇を惹起するように、注入量が選択されてもよい。注入量は、処置されるべき標的器官または標的器官の部分の容積の1〜5%、5〜10%、10〜20%、20〜30%または30〜40%と等しくなるように選択されてもよい。
【0065】
本発明の方法において、ウイルス性遺伝子治療剤を、ウイルスに対して既存の免疫を有するヒトのごとき哺乳類対象へ送達してもよい。既存の免疫は、対象の血清中のウイルス性治療剤の一部に対する抗体の存在によってか、またはウイルス性遺伝子治療剤に対する細胞免疫応答を同定することにより認識されてもよい。抗体は、ウイルス上もしくはウイルス内に含まれる蛋白質、またはウイルス内に含まれるDNAもしくはRNAに指向していてもよい。酵素結合型イムノソルベントアッセイ(ELISA)、ラジオイムノアッセイ(RIA)または凝集アッセイを含む様々な方法が、対象の血清中の抗体を同定するために存在する。細胞免疫応答を同定するための方法は、混合型リンパ球反応および細胞介在リンパ溶解(lympholysis)アッセイを含む。抗体を同定するための、または細胞免疫応答を測定するためのこれらの方法は一般的な免疫学のテキストに記載されている(Kuby,Janis;Immunology,3rd Edition,1997;Roittら.,Immunology,6th ed.,2001,Mosby)。
【0066】
本発明の方法において、ウイルス性遺伝子治療剤は、器官の標的細胞においてウイルス性遺伝子治療剤によりコードされる蛋白質を発現させるために、器官または器官のセクションを流れる分離された静脈血管系へ送達される。器官が様々な細胞型から構成されるので、本発明は、非標的細胞における発現に対する標的実質細胞における発現の比を最大化するための方法を提供する。ウイルスによりコードされた蛋白質を発現する細胞は、本発明の方法によりウイルス性治療剤でトランスフェクションされ、その後、ウイルス性治療剤によりコードされた蛋白質を産生する細胞として定義される。
【0067】
肝臓の場合において、標的実質細胞は肝細胞であり、非標的細胞は非肝細胞である。非肝細胞は、血管内皮細胞、クッパー細胞および支持ストロマ細胞を含む。故に、本発明の方法において、ウイルス性遺伝子治療剤によりコードされる蛋白質を発現する非肝細胞の比に対するウイルス性遺伝子治療剤によりコードされる蛋白質を発現する肝細胞の比が最大化され得る。該比は、少なくとも0.2、少なくとも0.3、少なくとも0.4、少なくとも0.5、少なくとも0.6、少なくとも0.7、少なくとも0.8または少なくとも0.9であってもよい。
【0068】
本発明の一の実施態様において、少量のウイルス性遺伝子治療剤を用いて、肝臓の一葉がトランスフェクションされる。図1に示すように、バルーン閉塞カテーテル(4)は、頸静脈(5)から挿入され、上大静脈(1)を経て、所望の肝静脈(3)まで通される。トランスフェクション物質の血管内、経カテーテル注入の直前に、カテーテル上のバルーン(17)を膨張させ、静脈血流を遮断し、それにより、分離された標的葉の実質へ注入溶液を限局させる。当業者には、頸静脈以外の多数の解剖学的位置を介して静脈血管系に進入することにより同一の手順が実施されてもよいことが理解されよう。例えば、大腿静脈が用いられてもよい。
【0069】
本発明の別の実施態様において、単一の肝葉がトランスフェクションされる。バルーン閉塞(4)カテーテルを選択した肝静脈の内腔内に留置する。図3に示すように、第2の閉塞バルーン(6)を下大静脈の肝部分に留置し、肝静脈血流を遮断する。トランスフェクション物質の経カテーテル注入の前に、バルーン(4,6)を下大静脈および肝静脈内で膨張させ、静脈血流を遮断し、それにより、分離された標的葉の実質に注入溶液を限局させる。
【0070】
本発明のさらなる別の実施態様において、トランスフェクション物質が単一注入により肝臓全体に送達される。図4に示すように、肝臓は、2つの別個の二重ルーメンバルーンカテーテル(7,8)を用いることにより分離され、該カテーテルを、肝静脈血流に対して上位および下位双方の下大静脈(18)において膨張させる。次いで、バルーンおよび血流の間に位置付けた血管内カテーテル(9)を介して、肝静脈から全肝実質への逆行性様式にて、トランスフェクション物質を注入する。図4に示すように、血管内カテーテル(9)はバルーン閉塞カテーテル(15)の1つに組み込まれてもよく、これにより配置すべきカテーテルの数を少なくできる。本発明の全ての実施態様において、バルーンの大きさは、手順の間に標的器官の血管流出の非外傷性閉塞を確保するように、各患者の血管の大きさに合わせたものとする。本発明の方法は、遺伝子療法の間のウイルス性遺伝子治療剤の使用を含むが、制御された圧力下での診断または治療溶液の分離された器官に対する標的化送達が所望される場合、該方法は、同様に、化学療法剤もしくは他の薬剤、幹細胞またはイメージング造影剤の治療的注入に十分に適用される。
【0071】
本発明の方法は、ウイルス投与前の「フラッシング」工程を含んでもよい。フラッシングは、生理食塩水のごとき生理的に適切な溶液を利用して、ウイルスの投与前に分離された器官または器官のセクションを灌流または部分的に灌流させる。理論に限定されないが、フラッシング溶液は、器官の血液および生理液を希釈し、流体成分およびウイルスの間の潜在的相互作用を最小限にする。これらの相互作用を最小限にすることにより、全体的な器官トランスフェクションが増大される。好ましい一の実施態様において、肝臓が標的器官である場合、ウイルス投与前のフラッシング工程は、トランスフェクションされる肝細胞の数および割合を増大してもよい。別の好ましい実施態様において、ウイルス投与前のフラッシング工程は、投与されるウイルスベクターに対して既存の免疫を有する動物においてトランスフェクションされる肝細胞の数および割合を増大する。
【0072】
本発明の方法は、ウイルス性遺伝子治療剤の滞留時間のバリエーションを含んでもよい。滞留時間は、ウイルス性遺伝子治療剤が標的器官に注入された後から、閉塞バルーンが収縮し、それにより標的器官内の通常の血流が回復する前までの時間である。ウイルス性遺伝子治療剤が注入された直後に回収される場合に、滞留時間は最小であってもよい。手順に付随する急性毒性をグレード2の毒性を超えて増大し得ない一定時間、ウイルス性遺伝子治療剤が標的器官内に滞留可能である場合に、滞留時間は延長されてもよい。この期間は、問題とする特定の標的器官に依存し得、当業者により容易に測定され得る。延長された滞留時間は、少なくとも2分、少なくとも3分、少なくとも4分、少なくとも5分またはそれ以上であってもよい。滞留時間を有する能力は、送達手順の逆行性に起因して生じ得る本発明の特徴である。該方法は、逆行性の流れを介してベクターを送達するので、ウイルスを器官組織に接触させておくために、標的器官は閉塞されてもよい。かかる滞留時間は、先行技術で用いられている順行性送達方法では、一般的に成し遂げることができない。これらの順行性方法では、通常の血流は安全に閉塞されない可能性がある。
【0073】
ウイルス性遺伝子療法ベクターの投与の前および後に、免疫抑制剤を動物に投与して、例えば、ウイルスベクターまたはトランスジーン産物のいずれかに対する免疫応答の可能性を最小限にまたは軽減してもよい。例えば、細胞傷害性リンパ球を抑制する物質を投与してもよい。該物質は、任意の発現されたウイルス性カプシド蛋白質を認識してもよく、それ故に、形質導入された細胞を排除してもよい。器官移植の分野において一般的に利用されている免疫抑制剤は、恐らく、本方法との併用に適する免疫抑制剤である。かかる物質は、単独で使用されてもよく、または他の同様の物質と組み合わせて使用されてもよい。これらの免疫抑制剤は、導入用に用いられるものおよび/または維持用に用いられるものを含んでもよい。例示的な物質は、シクロスポリン(Neoral(登録商標),Sandimmune(登録商標))、プレドニゾン(Novo Prednisone(登録商標),Apo Prednisone(登録商標))、アザチオプリン(Imuran(登録商標))、タクロリムスまたはFK506(Prograf(登録商標))、ミコフェノール酸モフェチル(CellCept(登録商標))、シロリムス(Rapamune(登録商標))、OKT3(Muromorab CO3(登録商標),Orthocl1(登録商標))、ATGAMおよびサイモグロブリンを含む。しかし、免疫抑制をもたらす任意の臨床的に認可される物質が用いられてもよい。有効な免疫抑制レジメンは当該分野において慣用的に実施されている。故に、適切なレジメンおよび投与は、問題とする特定の標的器官に依存し得、当業者により容易に決定され得る。
【0074】
本発明の方法は、様々な特定の実施態様の組み合わせを含んでもよい。例えば、ウイルス送達前の器官のフラッシングは、延長された滞留時間と組み合わせて用いられてもよい。或いは、ウイルス送達前の器官のフラッシングは、免疫抑制レジメンと組み合わせて用いられてもよい。或いは、ウイルス送達前の器官のフラッシングは、処置すべき哺乳類に対して高い指向性を有するとして選択された血清型の使用と組み合わされてもよい。或いは、ウイルス送達前の器官のフラッシングは、延長された滞留時間および免疫抑制レジメンと組み合わせて用いられてもよい。記載した実施例は本発明を説明するものであって、本発明を限定するものではない。
【0075】
標的器官に存在する場合または血流に分泌される場合に有用な分子をコードするトランスジーンは本方法における使用に適する。かかる分子は蛋白質およびホルモンを含んでもよい。例示的な蛋白質は、以下に示すリソソーム貯蔵障害において欠損しているものを含む。
【0076】
表1
【表1】
【表2】
* CNS関与
【0077】
他の例示的な蛋白質は、ヒトを含む哺乳類におけるアルツハイマー病のごとき他の疾患を処置するためのものである。かかる方法において、トランスジーンはメタロエンドペプチダーゼをコードする。メタロエンドペプチダーゼは、例えば、アミロイド−ベータ分解酵素ネプリライシン(EC3.4.24.11;配列アクセッション番号、例えば、P08473(SWISS−PROT))、インスリン分解酵素インスリジン(EC3.4.24.56;配列アクセッション番号、例えば、P14735(SWISS−PROT))またはthimetオリゴペプチダーゼ(EC3.4.24.15;配列アクセッション番号、例えば、P52888(SWISS−PROT))であり得る。
【0078】
さらに、トランスジーンは、インスリン成長因子−1(IGF−1)、カルビンジンD28、パルブアルブミン、HIF1−アルファ、SIRT−2、VEGF、SMN−1、SMN−2、GDNFおよびCNTF(毛様体神経栄養因子)からなる群より選択される蛋白質をコードしてもよい。かかる蛋白質は、血流への分泌後の作用を媒介することによる、本発明の方法を用いた筋萎縮性側索硬化症(ALS)の処置に適当であってもよい。ALSは、脊髄および脳幹運動ニューロンの変性に関連する、進行性の致死的な神経筋疾患である。該疾患の進行は、四肢、体軸および呼吸器官の筋肉の萎縮に至り得る。マウスおよびラットにおけるスーパオキシド・ジスムターゼ−1(SOD1)遺伝子突然変異の過剰発現は、ヒトにおけるALSの臨床的および病理学的特徴で反復される。このモデルにおける徴候を遅延するのに有効な化合物は、ALSを有する患者における臨床的有効性の予測となることが示されており、それ故に、この疾患の治療的に関連するモデルである。かかるマウスモデルは、Tuら(1996)P.N.A.S.93:3155−3160;Kasparら(2003)Science 301:839−842;Roaulら(2005)Nat.Med.11(4):423−428およびRalphら(2005)Nat.Med.11(4):429−433において既に記載されている。
【0079】
別の例では、トランスジーンは、VIII因子またはIX因子のごとき血友病において欠損している蛋白質をコードしていてもよい。記載した実施例は本発明を説明するものであって、本発明を限定するものではない。
【0080】
以下の代表的な実施例は本発明を説明することを目的としており、本発明を限定するものではない。代表的な手順はウサギにて実施されているが、それらは、非ヒト霊長類およびヒト対象のごとき他の哺乳類において、臨床的に実行可能なパラメーターの範囲内で、首尾よく実施される。
【実施例】
【0081】
実施例1:ウサギ肝臓へのアデノウイルス遺伝子療法ベクターのカテーテルに基づく送達
各実験について、各々約4kgの体重のニュージーランド白ウサギを用いた(Millbrook Farms,Amherst,MA)。用いたアデノウイルスベクターAd2βgalは、血清型2のバックボーンを有し、E1領域を欠失しているが、E3およびE4領域を保有する。発現カセットは、サイトメガロウイルス(CMV)前初期プロモーターおよびエンハンサー、核局在性β−ガラクトシダーゼに関するcDNA、ならびにSV40ポリアデニル化シグナルから構成される(Armentano,D.,ら.(1997).J.Virol.71:2408−2416)。各ウサギへ1.5×1012ウイルス粒子/kg(粒子:感染単位の比=10:1)のAd2βgalウイルスを注入した。
【0082】
以下のように本発明の方法の実施態様を利用して、アデノウイルス遺伝子療法ベクターをウサギの肝臓へ送達した。ウサギの血管系に進入するために、下顎から尾側に向かう正中切開により、頸静脈を露出させ、次いで、筋組織の鈍的切開により、右外頸静脈を露出させた。露出させた頸静脈に血管カテーテル針を挿入し、ガイドワイヤをその針に挿入した。蛍光透視的誘導の下、ガイドワイヤを上大静脈および心臓を経て、肝静脈循環まで通した。血管カテーテル針を取り出し、次いで、バルーン閉塞カテーテルをガイドワイヤ上にセットし、次いで、頸静脈に挿入した。蛍光透視的誘導の下、カテーテルをガイドワイヤに沿って肝静脈まで通した。ガイドワイヤを取り出し、次いで、生理食塩水中の非イオン性造影剤を少量注入し、適切なカテーテル位置を確認した。次いで、閉塞バルーンを造影剤で膨張させ、次いで、少量の造影剤を注入することにより、その位置を再度確認した。図1に示すように、肝静脈内の閉塞バルーンの膨張は、肝臓の右葉を流れる肝静脈を遮断した。次いで、ウイルス性溶液を、約1ml/秒の速度で肝臓の選択された葉へ逆行的に注入し、次いで、少量(1ml)のPBSを注入して、カテーテル系に残存する任意のウイルスを葉へ洗い流した。ウイルスを組織中に約1分間滞留させておき、その間、注入シリンジへの逆流は阻止された。該滞留時間の後、注入速度とほぼ同じ速度でシリンジを引き戻すことにより、注入量に相当する容量を回収した。次いで、閉塞バルーンを収縮させ、次いで、カテーテルを取り出した。止血を行い、次いで、適切な材料を用いて切開部を閉鎖した。
【0083】
上記送達方法を用いて、同じ総数のウイルス粒子(1.5×1012ウイルス粒子/kgのAd2βgalベクター)を含有する幾つかのボーラス容量(3,8および20ml)をウサギにて評価し、各容量にてアデノウイルスベクターにより介在される相対的な肝細胞形質導入を測定した。ウサギ肝臓の平均的な一葉は約20gであると推定した。これを用いて、ウイルス性ボーラスの送達容量について20mlの上限を設定した。この上限は、注入された葉全体にわたってウイルス性ボーラスを分布させると考えられた。この想定に基づいて、注入された葉全体にわたるウイルス性ボーラスの完全な分布を成し遂げないように、より少量の3mlおよび8mlを選択した。処置後3日目に、ウサギを屠殺した。ベータ−ガラクトシダーゼ発現を肝臓、腎臓、肺および脾臓にて測定した。
【0084】
ルミネセンスに基づくアッセイを用いるAMPGD(β−ガラクトシダーゼのための化学発光基質、3−{4−メトキシスピロ[1,2−ジオキセタン−3,29−トリシクロ(3.3.1.13,7)デカン]−イル}フェニル−β−D−ガラクトピラノシド)により発現を特徴付け、相対的発現レベルを得た。ルミネセンスアッセイにおいて、Janke&Kunkel Ultra−Turrax T25ホモゲナイザーを用いて、100〜200mgの組織を2×容量の1×溶解バッファー(Tropix Galacto−Light Plusキット,Tropix)中でホモジナイズした。そのホモジネートを、2ラウンドの凍結および解凍に付し、次いで、48℃の水浴中で1時間、内因性β−ガラクトシダーゼを熱不活性化した。試料を14,000rpm、4℃で10分間遠心分離し、次いで、上清を清浄な1.5mlのエッペンドルフチューブに移した。Micro BCA蛋白質アッセイ試薬キット(Pierce)を用いて、各試料の蛋白質濃度をアッセイし、次いで、BioRad EIAプレートリーダーを用いて、570nmにおける吸光度を読み取った。製造元の指示に従ってTropix Galacto−Light Plusキットを用いて、各試料のベータ−ガラクトシダーゼ活性をアッセイし、次いで、Tropix TR717マイクロプレートルミノメーターおよびWinGlowソフトウェアを用いて読み取った。
【0085】
一般的に、組織試料について免疫組織化学を以下の通り実施した。4ミリメートルの組織片をホルマリン−亜鉛中で一晩固定し、PBSでリンスし、パラフィン包埋し、次いで、細かく分割した。Hemo−D、100%、95%、70%および50%エタノール、再蒸留水およびPBSで連続的に洗浄することにより、セクションを脱パラフィン化した。過酸化水素のメタノール中3%溶液を用いて、内因性ペルオキシド活性を排除し、次いで、水で再水和した。PBS中の5%ヤギ血清中でセクションをブロックした。セクションをマウス抗βガラクトシダーゼと共に一晩4℃でインキュベートし、PBSで2回洗浄し、次いで、アフィニティ精製したペルオキシダーゼ標識ヤギ抗−マウスIgGと共に1時間37℃でインキュベートし、次いで、PBSで2回洗浄し、次いで、0.5mMのトリス−HCl pH7.5で1回洗浄した。製造元の指示に従ってLiquid DAB Substrate−Chromogen System(DAKO)を用いてペルオキシダーゼ標識を検出し、次いで、セクションのメチルグリーン対比染色を検出した。
【0086】
一般的に、ベータ−ガラクトシダーゼを発現する細胞の定量を以下の通り実施した。Metamorphソフトウェアを用いて、Ad2β−galに感染した肝細胞および非肝細胞の核を識別および定量化した。感染細胞の一貫性のあるMetaMorph検出を確実にするために、ベータ−ガラクトシダーゼシグナルの免疫組織化学的検出のための着色時間を一定に保持した。各肝臓セクションをMetamorphにスキャンし、次いで、5領域(各1mm2)をMetaMorph分析用の各肝臓セクションから選択した。色の閾値を用いて、非感染細胞の青緑色の核から、ベータ−ガラクトシダーゼ陽性核を示す茶色のDAB(3,3’−ジアミノベンジジン)シグナルを識別した。試料の肝臓セクションに由来する核の予備的な実証的分析により、色の閾値およびその後の全てのMetaMorph分類を最適化し、次いで、各分類のヒト検証を実施した。
【0087】
核を肝細胞、非肝細胞または未知対象に分類するために、全てのベータ−ガラクトシダーゼ陽性核の「全領域」および「楕円形因子」をMetaMorphにより測定した。全領域(TA)は、色の閾値を満たす特定のベータ−ガラクトシダーゼ陽性核に隣接した全てのピクセルの合計として定義される。楕円形因子(EFF)は、特定のベータ−ガラクトシダーゼ陽性核の全長をその全幅で割ったものとして定義される。例えば、完全な円のEFFは1.0であり、一方、楕円のEFFは一般的に1.25より大きい。
【0088】
単一の肝細胞の核はほぼ球状であり、EFF≦1.25およびTA=16−18のピクセルを生じる。二重の肝細胞の核は、MetaMorphにより組織学的に分析できない密接して配置する2つの球体のようであり、一般的に1.5より大きいEFFおよびTA>18のピクセルを生じる。非肝細胞のベータ−ガラクトシダーゼ陽性核は、主に、肝臓マクロファージ(クッパー細胞)および内皮細胞に由来し、EFF>1.25およびTA>6かつ≦18を生じる。
【0089】
セクション面内の特定の核の位置および配向に起因して、幾つかのベータ−ガラクトシダーゼ陽性核は、正確に肝細胞または非肝細胞へ分類できなかったので、未知対象として分類された。未知対象は、それらの各集団に応じて、肝細胞および非肝細胞であるとみなされ、いずれの定量分析にも付されなかった。未知対象は、TAは1に等しいか、6以下、EFFについては任意の値、或いはTAは6よりも大であるが16未満、そしてEFF≦1.25を有した。ウサギ肝臓の4つの主な葉の各々に由来する近位、中位および遠位セクション各々から5フィールド(各1mm2)をMetaMorph分析のために収集した。
【0090】
3mlのボーラス注入で処置したウサギにおいて、注入肝葉におけるベータ−ガラクトシダーゼ発現は、20〜300×106RLU/mg組織の範囲であり、注入部位に対して遠位で相対的により大きな発現を伴った。非注入肝葉における発現は、1〜12×106RLU/mg組織の範囲であり、一貫性のある近位−遠位発現パターンを伴わなかった。腎臓、肺および脾臓における発現は大部分が検出不能だった。注入肝葉におけるベータ−ガラクトシダーゼ発現細胞の免疫組織化学的な局在性により、細胞の解剖学的発現分布は、主に、ウイルス性ボーラスの送達経路である中心静脈周囲の領域に限定されることが実証された。これらの発現細胞の大部分は肝細胞であった。非注入肝葉において、ベータ−ガラクトシダーゼ発現細胞は、主に、門脈三管周囲の領域に免疫学的に局在化した。
【0091】
8mlのボーラス注入で処置したウサギの肝臓におけるベータ−ガラクトシダーゼ発現は、3mlのボーラス注入について得られたものよりも有意に高かった。注入肝葉におけるベータ−ガラクトシダーゼ発現は300〜600×106RLU/mg組織の範囲であり、一方、非注入肝葉における発現は100〜300×106RLU/mg組織の範囲であった。3mlの注入ボーラスについて記載したように、注入肝葉における発現は、注入部位に対して近位ないし遠位方向で増大した。非注入葉において、一貫性のある近位−遠位発現パターンは存在しなかった。腎臓、肺および脾臓における発現は大部分が検出不能だった。注入肝葉におけるベータ−ガラクトシダーゼ発現細胞の免疫組織化学的な局在性により、葉全体にわたる本質的に均一な発現パターンが実証された;これらの発現細胞の大部分は肝細胞であった。ベータ−ガラクトシダーゼ発現も、免疫組織化学な局在性により測定されるように、肝臓構造に関して、非注入葉において均一であった。
【0092】
20mlのボーラス注入で処置したウサギにおいて、注入肝葉におけるベータ−ガラクトシダーゼ発現は、8mlの容量で成し遂げられたもののほぼ半分であり、発現において類似する近位ないし遠位の勾配を伴った。非注入肝葉におけるベータ−ガラクトシダーゼ発現は均一に分布しており、注入葉にて測定された発現より約10倍低かった。注入肝葉におけるベータ−ガラクトシダーゼ発現細胞の免疫組織化学的な局在性により、葉全体にわたる本質的に均一な発現パターンが実証された;これらの発現細胞の大部分は肝細胞であった。腎臓、肺および脾臓における発現は大部分が検出不能であった。
【0093】
図6は、3、8および20mlの注入量を用いて見出された発現分布を示す。免疫組織化学的に、8ml容量は、注入葉(葉1)(図6D)および非注入葉(葉4)(図6E)の両方において最大数の発現細胞を生じると考えられた。これらの定量的結果は、各葉から取り出された3つの組織コアにおけるβ−ガラクトシダーゼ蛋白質レベルの定量測定により確認された。図6C、6Fおよび6Iは、図式的に、4つの主要な葉の各々における3つの位置(肝静脈の大静脈からの入口に対して近位、中位および遠位)から測定された平均発現レベルを示す。4つの葉各々に由来するβ−ガラクトシダーゼ発現についての値の総和は、8mlの注入量は3mlの注入量よりも約40%高く、20mlの注入量よりも約60%高いことを実証した。これらの分析から、8ml容量を選択し、その後の全ての実験、局所(カテーテル)および全身注入の両方に8mlの注入量を用いた。
【0094】
全発現に加えて、図6は、異なる注入量から得られた異なる発現分布を示す。故に、例えば、3mlの注入量については、注入葉の発現細胞(図6A)は、主に、肝静脈周囲の領域に限定され、門脈三管周囲または非注入葉に局在している発現細胞は相対的にずっと少ない(図6B)。非注入葉におけるより少ない発現を示す定量結果(図6C)と合わせて、ウイルスの初期分布は注入された肝静脈の周辺領域に限定されることが実証された。
【0095】
3mlの注入量を用いて得られた結果と対照的に、図6は、8mlの注入量が有意により大きなウイルス性ボーラスの分布を成し遂げたことも実証する。故に、図6Dは、肝臓腺房全体にわたり、かつ肝静脈周辺領域に限定されない発現細胞を示し、図6Eは、ある種の注入ウイルスが非注入葉に感染したことを示す。図6Fにおいて、これらの結果を確認および定量化し、これは注入葉(葉1)および非注入葉(葉2、3および4)の両方における有意な発現を実証する。これらのデータは、注入葉全体にわたり、かつ非注入葉の門脈および静脈循環に入り、その後、再分布して、非注入葉に感染し得る、ウイルス性ボーラスの初期分布と一致している。
【0096】
注入葉を越えて十分に初期のウイルス性ボーラスを分布させると考えられる20mlの注入量は、注入(図6G)および非注入(図6H)葉の両方において、広範囲に及ぶがより少ない(8mlの容量と比較して)発現細胞をもたらした。これらの定量結果をβ−ガラクトシダーゼ定量化(図6I)により確認した。該結果は、注入されたウイルス性ボーラスが門脈循環中に十分に分布されたというシナリオと一致している。
【0097】
実施例2:ナイーブウサギにおける全身投与に対する局所投与の比較
ウイルスベクターの局所送達が全身送達に勝る利点を付与するか否かを調べるため、1)実施例1に記載したバルーンカテーテル介在送達を用いる肝臓への局所送達;または2)静脈内注入を用いる全身送達;のいずれかを介して、Ad2βgalウイルスをウサギに送達した。送達経路に関係なく、1.5×1012のウイルス粒子/kgのAd2βgalウイルスを各ウサギに注入した。
【0098】
ウイルスベクターの全身送達を以下のプロトコルに従って実施した。ロールガーゼおよびメディカルテープを用いて耳に固定した20ゲージの血管カテーテル針を用いて、鎮静をかけたウサギの辺縁耳静脈に進入した。ルアーロックフラッシュをカテーテルに取り付け、ベネドリル(Benadryl);1mg/kgをIV投与し、起こりうるアナフィラキシー応答を制御した。Ad2βgalウイルスを含有する8ml容量の生理食塩水を約1ml/秒の速度で耳静脈に注入した。Ad2βgalウイルスの肝臓への局所送達を、実施例1に記載したバルーンカテーテル介在送達を用いて実施した。
【0099】
様々な手順の毒性を以下の通り評価した。ウイルス投与の直前ならびにウイルス投与の1、2および3日後に、各ウサギから血液を採取した。示差的細胞計数(Cell count differentials)(白血球および赤血球細胞、ヘモグロビン、ヘマトクリット、平均血球体積、平均血球ヘモグロビン濃度、有核赤血球細胞、セグメント化ヘテロフィル(ウサギ好中球)、リンパ球、単球、好酸球、好塩基球、血小板)、ならびに血清化学特性(アルカリホスファターゼ、アラニンアミノトランスフェラーゼ、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ、クレアチンキナーゼ、アルブミン、全蛋白質、グロブリン、総ビリルビンおよび直接ビリルビン、BUN、クレアチン、コレステロール、グルコース、カルシウム、リン、ビカルボナート、塩化物、カリウムおよびナトリウム)を実施した。
【0100】
処置したウサギの肝臓をベータ−ガラクトシダーゼ発現について分析した。ウサギ肝臓ホモジネートにおける細菌性ベータ−ガラクトシダーゼ発現は、実施例1に記載のように定量化されたか、或いは市販のELISAキット(Roche)を製造元の指示に従って用いて定量化した。組織試料についての免疫組織化学は、実施例1に記載の通りに実施した。形態学的分析を実施して、肝臓における発現パターンを決定し、肝臓の非肝細胞に対する肝臓の肝細胞のトランスフェクション比率を決定した。
【0101】
図7Aおよび7Cは、これらの動物におけるAd2βgalの全身投与が、肝臓構造に関して相対的に均一な発現分布をもたらすことを示し、円形の核を目立たせる核のβ−ガラクトシダーゼ染色により示されるように、形質導入された細胞の大部分が肝細胞であると考えられることを示す。形質導入された細胞のこの均一性は、本質的に、全ての肝葉にわたって同じであり(データ示さず)、図7Eで示された定量データはこの評価を裏付けた。すなわち、全ての葉は、ELISAにより測定されるように、ほぼ同じβ−ガラクトシダーゼ発現を示す。
【0102】
同一のウイルス用量および注入量(8ml)の局所送達方法を用いて、図8Aは、注入葉(葉1)中に生じた発現細胞が腺房全体にわたって分布したことを示し、実施例1(図6)におけるより初期の容量の評価研究と一致した。より高い倍率では(図8C)、注入葉中で核−局在化β−ガラクトシダーゼを発現する細胞の大部分は肝細胞であるようだった。注入葉と比較して、図6Bは、非注入葉(葉4)中の発現細胞の相対数は有意に少なかったことを示す。注入葉においてのように、非注入葉中の発現細胞は、大部分が肝細胞であるようで、腺房内に均一に分布していた。
【0103】
ナイーブ動物におけるこれらの定性的知見は、非注入葉と比較して注入葉において有意により大きな全体的発現を示す図6Eにおいて図式的に示されるβ−ガラクトシダーゼの定量測定により支持された。容量評価実験において見られるように(図6)、全ての非注入葉はほぼ同じ程度で形質導入された。
【0104】
図9Aは、ナイーブウサギにおける肝静脈経路を介するバルーンカテーテルを用いたカテーテル介在局所送達が、非注入葉においてよりも注入葉において約2〜3倍多い感染細胞をもたらすことを示す;注入葉および非注入葉の両方において肝細胞として同定され得る発現細胞の割合は、注入葉および非注入葉の両方において本質的に同じだった(約0.7)。
【0105】
図9Dは、ナイーブ動物における全身送達が、局所送達(図9A)と比較した場合に、全発現細胞において概して2〜3倍の減少をもたらすことを示す。葉1および4の両方の評価により(全身送達に関しては「注入」または「非注入」葉の区分はないことに注意)、本質的に同数の発現細胞を得た。発現細胞の肝細胞フラクションの評価は、注入(0.63)および非注入(0.69)葉において本質的に同一であり、局所送達後に得られたもの(約0.71;図9A)とほぼ同等だった。
【0106】
統合すれば、これらのデータにより、アデノウイルスベクターのカテーテル介在局所送達は、全身送達と比較して、利点を有することが実証される。肝静脈アプローチを用いる局所送達は、全身アプローチを用いる送達(図7Eおよび9D)と比較して、2〜3倍多い発現(図8Eおよび9A)をもたらした。
【0107】
Ad2−βgalの送達に起因する毒性は、局所(バルーン−カテーテル)および全身アプローチの両方で、軽微であった。手術前(ベースライン)ならびにアデノウイルスの注入または生理食塩水の偽注入の1、2および3日後にウサギから得た血液試料について、血球カウントおよび血清の化学的分析を実施した。
【0108】
軽度であるが統計的に有意なリンパ球減少症(ベースラインに対して50〜60%減少)が、ウイルスで処置した動物において24時間以内に明かとなった。軽度であるが統計的に有意な(ベースラインに対して50%減少)血小板減少症が、ウイルスで処置した動物において24時間以内に明かとなった。軽度であるが統計的に有意な好中球増加症(heterophilia)(ベースラインに対して100〜200%増加)は、ウイルスで処置した動物または偽手術(生理食塩水の局所注入)に付された動物において24時間以内に明かとなった。血清クレアチンキナーゼにおける統計的に有意な増大(ベースラインに対して100〜1000%増加)は、ウイルスで処置した動物または偽手術(生理食塩水の局所注入)に付された動物において24時間以内に明かとなった。全血球カウントおよび血清の化学特性は、ウイルス投与または偽手術から3日以内に正常に戻った。
【0109】
ウイルスの局所もしくは全身送達により感染させた動物または非感染動物に由来するヘマトキシリンおよびエオシン染色した肝臓セクションの組織病理学的評価により、いずれの具体的な処置に相関し得る一貫性のある肝細胞変化がないことが示された。
【0110】
実施例3:受動免疫されたウサギにおける全身投与に対する局所投与の比較
このような文脈において局所送達が全身送達に勝る利点を付与するか否かを調べるために、抗ウイルス免疫を有する動物において、アデノウイルスベクターのカテーテル介在局所送達を全身送達と比較した。これを成し遂げるために、実施例2の実験を、既知の抗−アデノウイルス2型力価(抗−Ad2)のプールされたヒト血清で受動免疫したウサギにおいて繰り返した。
ウイルス投与の一日前に、ロールガーゼおよびメディカルテープを用いて耳に固定した20ゲージの血管カテーテル針を用いて鎮静をかけたウサギの辺縁耳静脈に進入した。ルアーロックフラッシュをカテーテルに取り付け、ベネドリル(1mg/kg)を静脈内に投与し、起こり得るアナフィラキシー応答を制御した。次いで、40ミリリットルの抗−Ad2抗体含有プールされたヒト血清(Valley Biomedical,Winchester,VA)を0.1ml/秒の速度で注入した。プールされたヒト血清は平均ヒト抗−Ad2力価(データ公開せず)の約10倍の抗−Ad2力価を有した(総力価=12,800,中和力価=3,200)。故に、全ウサギ循環中へこの送達用量が希釈されると(350〜400mlと推定)、平均ヒト力価に近似する最終的な抗−Ad2力価をもたらすと予測された。Ad2βgal投与時における抗−Ad2力価の実際の測定は、全動物において、1,600の全抗−Ad2力価および400の中和力価をもたらした。
【0111】
プールされたヒト血清およびウサギ血清における抗−Ad2抗体力価をELISAにより測定した。血清の段階希釈を熱不活性化アデノウイルス2型でコーティングした96ウェルプレートのウェルに加えた。西洋わさびペルオキシダーゼ−コンジュゲートヤギ抗−ウサギ免疫グロブリンG、IgMおよびIgAを用いて、結合したウイルス特異的抗体を検出した。次いで、発色基質と共に30分間インキュベートすることにより、ウサギ抗−Ad2抗体を検出した。抗ウイルス力価を、OD490≧0.1を生じる最大の血清希釈の逆数として定義した。
【0112】
プールされたヒト血清におけるアデノウイルス中和抗体力価を、Ad2−βgalによる感受性細胞株の形質導入を阻害するその能力により評価した。HeLa細胞(ATTC)をフラット−ボトム96−ウェル組織培養プレート上に播種し、次いで、5%CO2雰囲気中、37℃で一晩インキュベートした。血清試料をDMEM中で1:25〜1:6400に段階希釈し、次いで、Ad2−βgal(50MOI)を血清希釈液に加え、次いで、37℃で1時間インキュベートし、その後、播種した細胞へ加え、次いで、培養を3日間続けた。3日目に、細胞を回収し、次いで、溶解した。市販のAMPGD/β−ガラクトシダーゼアッセイキットを用いて基質転換について溶解物をアッセイした。血清試料の中和抗体力価を、測定したRLUにおいて負対照(ヒト免疫グロブリン−枯渇血清)に対して50%以上の減少をもたらす希釈の逆数として定義した。ウイルス投与時における全抗−Ad2力価は全ウサギにおいて1:1600であり;中和力価は1:400だった。これらの力価は、平均抗−Ad2力価を有するヒトにおいてのものと本質的に同じである。
【0113】
受動免疫の一日後、実施例1および2に記載したように、1)静脈内注入を用いる全身送達か、または2)バルーンカテーテル介在送達を用いる肝臓への局所送達のいずれかにより、Ad2βgalウイルスを送達した。別記しない限り、用いた材料および方法は実施例1および2において利用したものと同様であった。送達経路に関わらず、各ウサギに1.5×1012ウイルス粒子/kgのAd2βgalウイルスを注入した。
【0114】
受動免疫されたウサギにおけるAd2βgalの全身投与は、中心静脈または門脈三管周囲への発現細胞の明かな集中を伴うことなく、肝臓構造に関して一様のβ−ガラクトシダーゼ発現をもたらした(図7Bおよび7D)。しかし、ナイーブ動物における同一用量のウイルスの全身投与と比較して(図7Aおよび7C)、ウサギにおける既存の抗−Ad2抗体を用いた全身投与は、全β−ガラクトシダーゼ発現が約2倍軽減したように、発現の弱小化をもたらした(図7F)。
【0115】
受動免疫後にトランスフェクションされる細胞型に関して(肝細胞対非肝細胞)、図9Eは、受動免疫されたウサギにおける全身送達が、ナイーブ動物における全身送達(253±166肝細胞/フィールド)(図9D)と比較して、感染した肝細胞の数において10倍の減少(18.0±14肝細胞/フィールド)をもたらしたことを示す。しかし、抗−Ad2抗体(受動免疫された)の存在下では、全身送達は、ナイーブ動物における全身送達(147±82非肝細胞/フィールド)(図9D)と比較して、感染した非肝細胞の数においてごくわずかな減少(124±47非肝細胞/フィールド)(図9E)しかもたらさなかった。故に、これらのデータは、受動免疫に起因する発現における2〜3倍の減少も示す、得られた定性的および定量的発現データ(図7)と一致している。故に、ウイルスの全身投与後の最も劇的な抗−Ad2抗体の効果は、ナイーブ動物における全感染細胞の66%から受動免疫された動物における全感染細胞の14%までの、感染肝細胞のフラクションにおける減少だった。故に、抗−ベクター抗体存在下での全身送達は発現の軽減をもたらし、ここで、発現細胞の大部分は肝臓類洞内皮細胞およびクッパー細胞のごとき非肝細胞だった(図9E)。受動免疫された動物において発現細胞の約15%のみが肝細胞として同定された。
【0116】
受動免疫された動物におけるAd2βgalの局所送達は、Ad2βgalを投与されたナイーブ動物において見られたもの(図8A)と同様の、注入葉におけるβ−ガラクトシダーゼ発現細胞の分布(図8F)をもたらした。ナイーブウサギ(図8E)および受動免疫されたウサギ(図8J)の間のカテーテル介在局所投与の比較は、抗−Ad2抗体の存在が肝臓全体のβ−ガラクトシダーゼ発現において約5〜10倍の軽減をもたらしたことを示す。
【0117】
受動免疫された動物における全β−ガラクトシダーゼ発現における減少に加えて、β−ガラクトシダーゼを発現する細胞型の割合も、アデノウイルスベクターのカテーテル介在局所送達で処置したナイーブ動物における割合と比較して、変化した。注入葉において肝細胞として同定され得る発現細胞の割合は、ナイーブ動物における0.72から受動免疫された動物における0.45まで減少した(図9Aおよび9B)。より著しいのは非注入葉における差異であり、そこではこの割合が受動免疫に起因して0.70から0.09まで減少した(図9Aおよび9B)。
【0118】
要約すると、受動免疫された動物における肝臓の全領域の合計である全β−ガラクトシダーゼ発現は、ELISA(図7および図8)およびMetamorph(図9)分析の両方により定量されるように、局所および全身送達後に本質的に同一だった。しかし、重要なことには、局所送達後に肝細胞として同定されたβ−ガラクトシダーゼ発現細胞のフラクションは約7倍大きかった。これは、受動免疫された動物における全身送達後の全β−ガラクトシダーゼ発現の主な部分が非肝細胞に由来することを示唆し、この主張は定性的免疫組織化学(図8Gおよび8I)および定量的Metamorphデータ(図9E)の両方により支持される。さらに、抗−Ad2抗体が有する全感染および全発現についての負の効果にも関わらず、局所送達は、治療的遺伝子療法のための望ましい標的細胞である肝細胞を優先的に標的とすることができる。故に、免疫されたウサギへの全身送達が肝細胞として同定される約14%の発現細胞を生じさせた一方で、局所送達は、注入葉において肝細胞である約45%の発現細胞、非注入葉において約10%の発現細胞を生じさせた。非注入葉における発現肝細胞のより低いパーセンテージは、非注入肝葉内に分布する抗ウイルス抗体とウイルスの相互作用の程度がより大きいことと一致する。
【0119】
受動免疫された動物について、これらの結果から、局所送達が全身送達に勝る有意な利点を提供することが明かである。受動免疫された動物における局所送達の後、非肝細胞に対する肝細胞におけるトランスジーンの発現の比は、受動免疫された動物における全身送達後の比よりも有意に高い。故に、この方法は、既存の免疫を有する動物へウイルス性遺伝子治療剤を投与する場合に利点を提供することが明かである。
【0120】
実施例4:受動免疫されたウサギにおける、生理食塩水でプレフラッシュしたウサギ肝臓へのアデノウイルス遺伝子療法ベクターのカテーテルに基づく送達
カテーテルを介して20mlの生理食塩水を注入する「フラッシング」工程をウイルス投与の直前に加えることにより、アデノウイルスベクターのカテーテル介在局所送達を評価した。これは、抗−Ad2ウイルス性免疫を有する動物において実施し、この文脈において、生理食塩水を用いた肝臓のプレフラッシングが、プレフラッシング工程のない送達に勝る利点を付与し得るか否かを調べた。
【0121】
これを成し遂げるために、実施例3に記載したように、既知の抗−アデノウイルス2型力価(抗−Ad2)のプールされたヒト血清を用いてウサギを受動免疫した。受動免疫の一日後、以下の工程を加えて、実施例1および2に記載したバルーンカテーテル介在送達手順を続けた。Ad2βgal送達の直前、カテーテルを通じて20ml容量の生理食塩水を送達した。
【0122】
受動免疫された動物におけるAd2βgalのカテーテル介在局所送達へ生理食塩水フラッシュを加えることにより、生理食塩水フラッシュを受けていないカテーテル介在局所送達で処置した受動免疫された動物と比較して、トランスジーン発現細胞の数およびβ−ガラクトシダーゼ発現肝細胞の割合の両方が増大した。生理食塩水プレフラッシュを受けた受動免疫された動物において、発現肝細胞の数は、プレフラッシュを受けなかった動物と比較した場合に、約5倍増大した(図9Bおよび9C)。注入葉において肝細胞として同定され得る発現細胞の割合も増大し、生理食塩水プレフラッシュなしの受動免疫された動物における0.45(図9B)および非免疫動物における0.71(図9A)と比較して、その割合は0.68(図9C)だった。より著しいのは非注入葉における差異であり、そこで、肝細胞として同定され得る発現細胞は、受動免疫された動物における生理食塩水プレフラッシュに起因して、0.09から0.40に増大した(図9Bおよび9C)。受動免疫された動物の場合、ウイルスベクターのカテーテル介在局所送達に加えて生理食塩水プレフラッシングが、ウイルスベクターに対する既存の免疫を有する動物において有意な利点を提供することが明かである。生理食塩水プレフラッシュを用いて、発現細胞の総数およびトランスジーン発現肝細胞のフラクションの両方が、受動免疫された動物において生理食塩水フラッシングなしのものよりも有意により大きかった。故に、既存の免疫を有する動物へウイルス性遺伝子治療剤を投与する場合に、本方法のこの実施態様が利点を提供することが明かである。
【0123】
実施例5:ウサギ肝臓へのアデノ随伴ウイルス遺伝子療法ベクターのカテーテルに基づく送達
各実験について、各々約4kgの体重のニュージーランド白ウサギを用いた(Millbrook Farms,Amherst,MA)。利用したアデノ随伴ウイルスベクター、AAV2/8DC190HAGAL(AAV2/8)は、AAV8血清型のカプシド領域およびAAV2血清型の逆方向末端反復配列を含む。発現カセットは、2つのα−1ミクログロブリンエンハンサー、1つのα−1−アンチトリプシンプロモーター、およびヒトα−ガラクトシダーゼAトランスジーンを含む。実施例1〜3に記載したように、バルーンカテーテル介在送達を用いる肝臓への局所送達により、ウサギへ1kgあたり1.25×1011または1.25×1012のDNA−ase耐性粒子(drp)のAAV2/8ウイルス(8mlの全容量中)を注入した。別記しない限り、用いる材料および方法は実施例1〜3で利用したものと同様であった。
【0124】
既に記載されているように[Zieglerら.,(1999).Hum Gene Ther.Jul 1;10(10):1667−82.]、ヒトα−ガラクトシダーゼA特異的酵素結合イムノソルベントアッセイを用いて、動物の血清中のヒトα−ガラクトシダーゼA(AGAL)発現を測定した。
【0125】
1kgあたり1.25×1011drpのAAV2/8ウイルスで処置したウサギにおいて、血清中のAGAL発現は、3〜31ngAGAL/ml血清の範囲であった。1kgあたり1.25×1012のDNA−ase耐性粒子(drp)のAAV2/8で処置したウサギにおいて、血清中のAGAL発現は、15〜132ngAGAL/ml血清の範囲であった。
【0126】
実施例6:ウサギ肝臓へのアデノ随伴ウイルス遺伝子療法ベクターのカテーテルに基づく送達後のAGAL発現の経時変化
各々約4kgの体重のニュージーランド白ウサギを用いた(Millbrook Farms,Amherst,MA)。利用したアデノ随伴ウイルスベクター、AAV2DC190HAGAL(AAV2/2)は、AAV2血清型のカプシド領域および逆方向末端反復配列を含む。発現カセットは、2つのα−1ミクログロブリンエンハンサー、1つのα−1−アンチトリプシンプロモーター、およびヒトα−ガラクトシダーゼAトランスジーンを含む。実施例1〜3にて記載したように、バルーンカテーテル介在送達を用いた肝臓への局所送達により、8mlの全容量中、5×1012のDNA−ase耐性粒子(drp)のAAVウイルスをウサギへ注入した。別記しない限り、用いた材料および方法は実施例1〜3で利用したものと同様であった。
【0127】
既に記載されているように[Zieglerら.,(1999).Hum Gene Ther.Jul 1;10(10):1667−82.]、ヒトα−ガラクトシダーゼA特異的酵素結合イムノソルベントアッセイを用いて、ヒトα−ガラクトシダーゼA(AGAL)発現を動物の血清中で測定した。AGAL発現を84日間にわたって測定した。
【0128】
処置ウサギの血清中の抗−AGAL抗体力価も、ELISAを用いて経時で測定した。血清の段階希釈液を、精製組換えヒトα−ガラクトシダーゼAでコーティングした96ウェルプレートのウェルへ加えた。結合したヒトα−ガラクトシダーゼA特異的抗体を、西洋わさびペルオキシダーゼ−コンジュゲートヤギ抗−ウサギ免疫グロブリンG、IgMおよびIgAで検出した。次いで、発色基質との30分間のインキュベーションを用いて、ウサギ抗−Ad2抗体を検出した。抗−ウイルス力価を、OD490≧0.1をもたらす最大の血清希釈の逆数として定義した。
【0129】
図10に示すように、AGAL発現は、84日間の時間経過にわたって、ウサギの血清中に存在した。検出可能な抗−AGAL抗体は、84日間の時間経過にわたって、ウサギの血清中で検出されなかった。AAV2送達からもたらされた毒性はわずかなものであり、一般的に、Ad2−βgal送達に付随するものと本質的に同様であった。
【0130】
実施例7:延長された滞留時間を伴う、ウサギ肝臓へのアデノウイルス遺伝子療法ベクターのカテーテルに基づく送達
各々約4kgの体重のニュージーランド白ウサギを用いた(Millbrook Farms,Amherst,MA)。利用したアデノウイルスベクター、Ad2βgalは実施例1に記載した。各ウサギに1kgあたり1.5×1012ウイルス粒子のAd2βgalウイルスを注入した。
【0131】
ウイルスを組織中へ1分間ではなく約4分間滞留させておくこと除き、実施例1〜3に記載した方法を利用して、8mlの全注入量を用いて、アデノウイルス遺伝子療法ベクターをウサギの肝臓へ送達した。
【0132】
注入から3日後、処置ウサギの肝臓をベータ−ガラクトシダーゼ発現について分析した。製造元の使用説明書に従って市販のELISAキット(Roche)を用いて、ウサギ肝臓ホモジネート中の細菌性ベータ−ガラクトシダーゼ発現を定量した。組織試料についての免疫組織化学を実施例1に記載したように実施した。実施例1に記載したような形態学的分析を実施して、肝臓中の発現パターンおよび肝臓非肝細胞に対する肝臓肝細胞のトランスフェクション比率を測定した。各ウサギについて、注入葉の3セクションおよび非注入葉の3セクションを評価し、肝細胞フラクション[トランスフェクションされた肝細胞/(トランスフェクションされた肝細胞+トランスフェクションされた非肝細胞)]を測定した。
【0133】
図11Aに示されるように、延長された滞留時間は、1分間の滞留時間を利用する前研究と比較した場合、注入および非注入葉の両方において、肝細胞として同定されるトランスフェクションされた細胞の割合を有意に増大した。4分間の滞留時間を用いるアデノウイルスベクターで処置したウサギは、注入葉において約0.75〜0.90の肝細胞フラクションを有し、非注入葉において約0.70〜0.90の肝細胞フラクションを有した(図11Aにおける8−20および8−22を示す棒を参照のこと)。対照的に、1分間の滞留時間を伴う同一の送達方法を用いてアデノウイルスベクターで処置したウサギは、注入葉において約0.6〜0.75の、および非注入葉において約0.30〜0.70の、トランスフェクションされた肝細胞フラクションを有した(図11A中の4,5および1を示す棒を参照のこと)。興味深いことに、図11Bに示すように、増大した滞留時間は全ベータ−ガラクトシダーゼ発現レベルを増大するようには思われなかった。
【0134】
実施例8:流出遮断を用いる葉送達
実施例1に記載したように、葉送達方法は、閉塞バルーンに対して遠位の貯蔵器官の一部に対する送達を制限する。全身循環から貯蔵器官をさらに分離するために、肝大静脈中に留置したバルーンカテーテル(6)で肝静脈口を被覆することにより、全肝静脈の流出遮断が成し遂げられ得る。
【0135】
この手順を実施するために、大腿溝から下方に向かう縦方向の皮膚切開を介して、大腿中位から大腿静脈に進入した。筋膜を鈍的に解離させて、神経血管束を露出させた。大腿静脈を、付随する動脈および神経から慎重に解離させた。大腿静脈の1〜2cmのセグメントを分離し、次いで、遠位に結紮した。7フレンチのシースイントロデューサーを、該結紮に対して近位の大腿静脈に挿入した。蛍光透視法によるガイダンスを用いて、ガイドワイヤを下大静脈に進めた。5フレンチの14mm×4cmのノンコンプライアンスバルーンカテーテルを、ガイドワイヤ上のシースを介して、大静脈の肝部分へ通した。シースの外側直径はウサギ大腿静脈に比べて大きいため、ウサギモデルでは血管損傷を伴うことなくこの手順を繰り返すことは困難である。この厄介な問題はヒト対象においては予期されない。
【0136】
カテーテルの内腔をヘパリン化した。肝静脈に留置したバルーン閉塞バルーンカテーテルを介してトランスフェクション物質を注入する直前にバルーンを膨張させた。バルーンを膨張させた後、シースイントロデューサーを介して少量のX線造影剤を注入し、下大静脈において、バルーンで閉塞された血流を確認した。次いで、血管内カテーテルを介して8mlのトランスフェクション物質を単一の分離された葉中に注入した。その直後に、カテーテルおよびシースを引き抜き、その後、止血を行った。図3に示すように、高密度のX線造影剤は分離された葉を染色し、一方で、より低濃度の造影剤は逆行性の様式で門静脈を介して肝臓の残りの部分へ再循環した。
【0137】
実施例9:標的化した器官全体への送達
単一の注入で遺伝子治療剤を肝臓全体へ送達するために、肝静脈血流に対して上位および下位双方の下大静脈において膨張させたバルーンを用いることにより、肝臓を分離した。次いで、トランスフェクション物質の溶液を、肝静脈から全肝実質までの逆行性の様式で、バルーンおよび血流の間に注入する。この方法の1つのヴァージョンを図4に示す。このヴァージョンにおいて、バルーン閉塞バルーン(7,8)を、上位にある頸静脈(5)から、右心房と最も上位の肝静脈(11)の間にある下大静脈(16)中の位置へ、そして下位にある大腿静脈から、最も上位の腎静脈(19)と最も下位の肝静脈(3)の間にある下大静脈(16)中の位置へ、進める。チップ付近に複数の側孔を有する4フレンチのピグテールカテーテル(pigtail catheter)を、逆側の大腿静脈を通じて、2つのバルーン閉塞バルーンの間の下大静脈中の位置へ、進める。ピグテールカテーテルを介する遺伝子療法用溶液の注入直前に、バルーンを膨張させて、肝臓を分離させる。
【0138】
この方法の別の実施態様において、図5に示すように、2つの別個の二重内腔バルーンカテーテル(12,13)を介して、バルーン閉塞バルーンを送達してもよい。
【0139】
実施例10:AAV8に対して多様な自然免疫を有するアカゲザルにおける、AAV8.DC19OhAGAのカテーテルに基づく局所送達を用いた予測的(Prophetic)研究
プロトロンビンエンハンサー/ヒトアルブミンプロモーター(DC190)駆動ヒトアルファ−ガラクトシダーゼ(hAGA)遺伝子を含有するアデノ随伴ウイルス(AAV)血清型8に基づくベクターの肝静脈を介するカテーテルに基づく局所送達後の、遺伝子移入の有効性およびヒトアルファ−ガラクトシダーゼの発現は、AAV8血清型に対して多様な自然免疫を有するアカゲザルにおいて評価され得る。
【0140】
局所送達に起因するhAGAの発現は、末梢静脈を介する全身送達から得られたものと比較され得る。循環アルファ−ガラクトシダーゼのレベルおよび持続時間、サイトカインの産生、ならびに抗−AAV8および抗−アルファ−ガラクトシダーゼ抗体の存在が調べられ得る。トランスジーンの組織分布も測定され得る。
【0141】
免疫抑制剤も同様にAAV8.DC19OhAGAの投与の前および後に動物へ投与され、ウイルス性カプシド蛋白質を認識する細胞傷害性リンパ球が形質導入された細胞を排除し得る可能性を最小限にまたは排除し得る。器官移植の分野において一般的に利用されている免疫抑制剤は、単独または他の物質と組み合わせて用いられてもよい。かかる免疫抑制剤は、導入用のものおよび/または維持用のものを含んでもよい。これらの物質は、シクロスポリン(Neoral(登録商標)、Sandimmune(登録商標))、プレドニゾン(Novo Prednisone(登録商標)、Apo Prednisone(登録商標))、アザチオプリン(Imuran(登録商標))、タクロリムスまたはFK506(Prograf(登録商標))、ミコフェノール酸モフェチル(CelICept(登録商標))、シロリムス(Rapamune(登録商標))、OKT3(Muromorab CO3(登録商標)、Orthoclone(登録商標))、ATGAMおよびサイログロブリンを含んでもよい。同様に、免疫抑制レジメンは、少なくともCELLCEPT(登録商標)経口懸濁液およびRapamune(登録商標)経口溶液を含み得る。CELLCEPT(登録商標)経口懸濁液(MMF)は、1日2回、約12.5mg/kgの用量で強制経鼻により投与され得る。Rapamune(登録商標)経口溶液は、約2mg/kgの用量で強制経鼻により投与され得る。これらは、アカゲザルに適する最も妥当な推定値であると考えられる。
【0142】
カテーテルに基づく局所アプローチおよび全身アプローチによるAAV8.DC19OhAGAの単一静脈内注入が用いられ得る。約2×1013粒子/kgの用量レベルのAAV8.DC19OhAGAは、AAV8.DC19OhAGAの薬物動態学的および薬力学的特性を評価するのに十分であると仮定される。用量レベルの選択は、ウサギにおいて実施された先の研究から得られた情報およびアカゲザルにおける関連材料を用いた他の研究者らによる情報に基づく。
【0143】
サルを抗−AAV8抗体についてスクリーニングして、AAV8ベクターに対する自然免疫の存在または不在が測定され得る。元々、AAV8はサルから単離されており、それ故に、研究において用いるために該血清型が選択される。処置が模索されている哺乳類から単離された血清型の使用により、標的器官の形質導入の増大において利点が提供されてもよい。理論的には、かかる増大は、かかる血清型からもたらされてもよく、というのも、ウイルスが哺乳類から単離されたという事実に基づき、該血清型は哺乳類の標的器官に対して増大された指向性を有してもよいからである。様々な自然免疫を有するサルを用いることによっても、選択したウイルスベクターに対して既存の免疫を有する哺乳類において本方法を評価することもできよう。
【0144】
カテーテルに基づく局所送達によりウイルスを投与されたサルは、実施例1および4に記載した本発明の方法を用いて処置され得る。簡潔に言うと、サルは、実施例4に記載したさらなるフラッシング工程を付加したカテーテルに基づく手順によりウイルスを投与され得る。該フラッシング工程は、標的葉に存在する任意の抗ウイルス抗体を希釈するように理論付けられており、理論的には、ウイルス性遺伝子移入および特に肝細胞形質導入の効率を増大し得る。加えて、ウイルスの滞留時間は、実施例1および4に記載した1分から、4分を超えない滞留時間にまで増大され得る。この滞留時間における増大は、理論的には、ウイルス性遺伝子移入および特に肝細胞形質導入の効率を増大し得る。
【0145】
研究期間を365日間と見積もる。トランスジーン発現、抗体レベル、血清化学および血液学的パラメーターの評価用血液試料は、全研究期間にわたって、様々な所定の時間ポイントにて全動物から収集され得る。
【0146】
上記研究は、元々サルから単離された血清型により送達された治療用トランスジーンの遺伝子移入および発現の有効性を評価し得る。それは、該血清型に対して自然な範囲の既存免疫を有する哺乳類において有効性および発現を評価し得る。該研究の送達方法は、ウイルス投与前の器官のフラッシング工程および延長されたウイルス滞留時間を利用し得る。免疫抑制も、該研究プロトコルの一部であり得る。この方法論を用いるトランスジーンの有効性および発現は、ウサギに基づくモデルにおいて観察されたものより大きいとはいかないまでも、それと同等の標的器官形質導入をもたらし得ることが理論付けられる。さらに、ウイルスベクターの順行性送達を利用する哺乳類における他のカテーテルに基づく系において観察されたものより大きいとはいかないまでも、それと同等の標的器官形質導入をもたらし得ることが理論付けられる。
【0147】
疾患は様々な器官または組織に影響し得るので、体中の様々な位置において本発明の方法の使用が所望され得ることが明かであるはずである。本発明を用いて、肝臓、腎臓、心臓、肺、骨格筋、胃または腸を含む様々な器官または組織を処置してもよい。
【0148】
本明細書中に引用した参考文献の教示内容を考慮すると、本明細書は非常に十分に理解される。該文献は出典明示によりその全てが本明細書の一部となる。本明細書中の実施態様は、本発明の実施態様の例示を提供するものであり、本発明の範囲を限定するものではない。当業者には、他の多数の実施態様が本発明内に包含され、かつ、本明細書および本実施例は単なる例示であり、本発明の真の範囲および精神は添付の特許請求の範囲により示されるものであることが、理解されよう。
【0149】
本発明の実施態様は、本明細書および本明細書中に開示した本発明の実施例から、当業者に明かであろう。本明細書および本実施例は単なる例示であり、本発明の真の範囲および精神は添付の特許請求の範囲により示されるものであることが意図される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウイルス性遺伝子治療剤によりコードされる蛋白質を発現させるための、哺乳類対象の選択された器官へ送達されるウイルス性遺伝子治療剤であって、
1個または複数のカテーテルが、器官を流れる静脈血管系内に留置され;ここで、該カテーテルの少なくとも1つは1個または複数の膨張可能で拡張可能な部材を有するものであり;
器官または器官のセクションが、1個または複数の膨張可能で拡張可能な部材を膨張させることによって器官または器官のセクションを流れる静脈血管系内の血液の流れを閉塞させることにより分離され;
該ウイルス性遺伝子治療剤は、分離された器官または分離された器官のセクション中の通常の静脈圧の40%増までの血圧上昇を惹起する用量で送達され;
治療上有効量の該遺伝子治療剤の形質導入に十分な時間、該分離された器官または分離された器官のセクション内に持続される、ウイルス性遺伝子治療剤。
【請求項2】
哺乳類対象がヒトである、請求項1記載のウイルス性遺伝子治療剤。
【請求項3】
静脈血管系が肝静脈、下葉肝静脈または下大静脈である、請求項1記載のウイルス性遺伝子治療剤。
【請求項4】
分離された器官または分離された器官のセクション内に存在し、ウイルス性遺伝子治療剤によりコードされる蛋白質を発現する肝細胞および非肝細胞のうち肝細胞のフラクションが少なくとも0.2である、請求項1記載のウイルス性遺伝子治療剤。
【請求項5】
分離された器官または分離された器官のセクション内に存在し、ウイルス性遺伝子治療剤によりコードされる蛋白質を発現する肝細胞および非肝細胞のうち肝細胞のフラクションが少なくとも0.3である、請求項1記載のウイルス性遺伝子治療剤。
【請求項6】
分離された器官または分離された器官のセクション内に存在し、ウイルス性遺伝子治療剤によりコードされる蛋白質を発現する肝細胞および非肝細胞のうち肝細胞のフラクションが少なくとも0.4である、請求項1記載のウイルス性遺伝子治療剤。
【請求項7】
分離された器官または分離された器官のセクション内に存在し、ウイルス性遺伝子治療剤によりコードされる蛋白質を発現する肝細胞および非肝細胞のうち肝細胞のフラクションが少なくとも0.5である、請求項1記載のウイルス性遺伝子治療剤。
【請求項8】
分離された器官または分離された器官のセクション内に存在し、ウイルス性遺伝子治療剤によりコードされる蛋白質を発現する肝細胞および非肝細胞のうち肝細胞のフラクションが少なくとも0.6である、請求項1記載のウイルス性遺伝子治療剤。
【請求項9】
ウイルス投与前に器官が溶液でフラッシュされる、請求項1記載のウイルス性遺伝子治療剤。
【請求項10】
血圧上昇が、分離された器官または分離された器官のセクション中の通常の静脈圧の30%増までの、請求項1記載のウイルス性遺伝子治療剤。
【請求項11】
血圧上昇が、分離された器官または分離された器官のセクション中の通常の静脈圧の20%増までの、請求項1記載のウイルス性遺伝子治療剤。
【請求項12】
血圧上昇が、分離された器官または分離された器官のセクション中の通常の静脈圧の10%増までの、請求項1記載のウイルス性遺伝子治療剤。
【請求項13】
カテーテルがバルーン閉塞カテーテルである、請求項1記載のウイルス性遺伝子治療剤。
【請求項14】
血管内カテーテルにより送達される、請求項1記載のウイルス性遺伝子治療剤。
【請求項15】
経皮針により送達される、請求項1記載のウイルス性遺伝子治療剤。
【請求項16】
アデノウイルスベクターを含む、請求項1記載のウイルス性遺伝子治療剤。
【請求項17】
アデノ随伴ウイルスベクターを含む、請求項1記載のウイルス性遺伝子治療剤。
【請求項18】
レンチウイルスベクターを含む、請求項1記載のウイルス性遺伝子治療剤。
【請求項19】
レトロウイルスベクターを含む、請求項1記載のウイルス性遺伝子治療剤。
【請求項20】
ヘルペスウイルスベクターを含む、請求項1記載のウイルス性遺伝子治療剤。
【請求項21】
アルファウイルスベクターを含む、請求項1記載のウイルス性遺伝子治療剤。
【請求項22】
バキュロウイルスベクターを含む、請求項1記載のウイルス性遺伝子治療剤。
【請求項23】
ハイブリッドウイルスベクターを含む、請求項1記載のウイルス性遺伝子治療剤。
【請求項24】
器官が肝臓である、請求項1記載のウイルス性遺伝子治療剤。
【請求項25】
器官が腎臓である、請求項1記載のウイルス性遺伝子治療剤。
【請求項26】
ウイルス投与前に肝臓が溶液でフラッシュされる、請求項24記載のウイルス性遺伝子治療剤。
【請求項27】
溶液が生理食塩水である、請求項26記載のウイルス性遺伝子治療剤。
【請求項28】
ウイルス投与前に器官が溶液でフラッシュされる、請求項7記載のウイルス性遺伝子治療剤。
【請求項29】
器官が肝臓であり、溶液が生理食塩水である、請求項28記載のウイルス性遺伝子治療剤。
【請求項30】
滞留時間が延長されて、かかる延長が、分離された器官または分離された器官のセクション中に存在し、ウイルス性遺伝子治療剤によりコードされる蛋白質を発現する肝細胞および非肝細胞のうち肝細胞のフラクションを少なくとも0.8にまで増大させるものである、請求項1記載のウイルス性遺伝子治療剤。
【請求項31】
ウイルス投与前に器官が溶液でフラッシュされ、十分な時間が延長されて、かかる延長が、分離された器官または分離された器官のセクション中に存在し、ウイルス性遺伝子治療剤によりコードされる蛋白質を発現する肝細胞および非肝細胞のうち肝細胞のフラクションを少なくとも0.8にまで増大させるものである、請求項1記載のウイルス性遺伝子治療剤。
【請求項32】
十分な時間が約1分間〜約4分間の長さである、請求項1記載のウイルス性遺伝子治療剤。
【請求項1】
ウイルス性遺伝子治療剤によりコードされる蛋白質を発現させるための、哺乳類対象の選択された器官へ送達されるウイルス性遺伝子治療剤であって、
1個または複数のカテーテルが、器官を流れる静脈血管系内に留置され;ここで、該カテーテルの少なくとも1つは1個または複数の膨張可能で拡張可能な部材を有するものであり;
器官または器官のセクションが、1個または複数の膨張可能で拡張可能な部材を膨張させることによって器官または器官のセクションを流れる静脈血管系内の血液の流れを閉塞させることにより分離され;
該ウイルス性遺伝子治療剤は、分離された器官または分離された器官のセクション中の通常の静脈圧の40%増までの血圧上昇を惹起する用量で送達され;
治療上有効量の該遺伝子治療剤の形質導入に十分な時間、該分離された器官または分離された器官のセクション内に持続される、ウイルス性遺伝子治療剤。
【請求項2】
哺乳類対象がヒトである、請求項1記載のウイルス性遺伝子治療剤。
【請求項3】
静脈血管系が肝静脈、下葉肝静脈または下大静脈である、請求項1記載のウイルス性遺伝子治療剤。
【請求項4】
分離された器官または分離された器官のセクション内に存在し、ウイルス性遺伝子治療剤によりコードされる蛋白質を発現する肝細胞および非肝細胞のうち肝細胞のフラクションが少なくとも0.2である、請求項1記載のウイルス性遺伝子治療剤。
【請求項5】
分離された器官または分離された器官のセクション内に存在し、ウイルス性遺伝子治療剤によりコードされる蛋白質を発現する肝細胞および非肝細胞のうち肝細胞のフラクションが少なくとも0.3である、請求項1記載のウイルス性遺伝子治療剤。
【請求項6】
分離された器官または分離された器官のセクション内に存在し、ウイルス性遺伝子治療剤によりコードされる蛋白質を発現する肝細胞および非肝細胞のうち肝細胞のフラクションが少なくとも0.4である、請求項1記載のウイルス性遺伝子治療剤。
【請求項7】
分離された器官または分離された器官のセクション内に存在し、ウイルス性遺伝子治療剤によりコードされる蛋白質を発現する肝細胞および非肝細胞のうち肝細胞のフラクションが少なくとも0.5である、請求項1記載のウイルス性遺伝子治療剤。
【請求項8】
分離された器官または分離された器官のセクション内に存在し、ウイルス性遺伝子治療剤によりコードされる蛋白質を発現する肝細胞および非肝細胞のうち肝細胞のフラクションが少なくとも0.6である、請求項1記載のウイルス性遺伝子治療剤。
【請求項9】
ウイルス投与前に器官が溶液でフラッシュされる、請求項1記載のウイルス性遺伝子治療剤。
【請求項10】
血圧上昇が、分離された器官または分離された器官のセクション中の通常の静脈圧の30%増までの、請求項1記載のウイルス性遺伝子治療剤。
【請求項11】
血圧上昇が、分離された器官または分離された器官のセクション中の通常の静脈圧の20%増までの、請求項1記載のウイルス性遺伝子治療剤。
【請求項12】
血圧上昇が、分離された器官または分離された器官のセクション中の通常の静脈圧の10%増までの、請求項1記載のウイルス性遺伝子治療剤。
【請求項13】
カテーテルがバルーン閉塞カテーテルである、請求項1記載のウイルス性遺伝子治療剤。
【請求項14】
血管内カテーテルにより送達される、請求項1記載のウイルス性遺伝子治療剤。
【請求項15】
経皮針により送達される、請求項1記載のウイルス性遺伝子治療剤。
【請求項16】
アデノウイルスベクターを含む、請求項1記載のウイルス性遺伝子治療剤。
【請求項17】
アデノ随伴ウイルスベクターを含む、請求項1記載のウイルス性遺伝子治療剤。
【請求項18】
レンチウイルスベクターを含む、請求項1記載のウイルス性遺伝子治療剤。
【請求項19】
レトロウイルスベクターを含む、請求項1記載のウイルス性遺伝子治療剤。
【請求項20】
ヘルペスウイルスベクターを含む、請求項1記載のウイルス性遺伝子治療剤。
【請求項21】
アルファウイルスベクターを含む、請求項1記載のウイルス性遺伝子治療剤。
【請求項22】
バキュロウイルスベクターを含む、請求項1記載のウイルス性遺伝子治療剤。
【請求項23】
ハイブリッドウイルスベクターを含む、請求項1記載のウイルス性遺伝子治療剤。
【請求項24】
器官が肝臓である、請求項1記載のウイルス性遺伝子治療剤。
【請求項25】
器官が腎臓である、請求項1記載のウイルス性遺伝子治療剤。
【請求項26】
ウイルス投与前に肝臓が溶液でフラッシュされる、請求項24記載のウイルス性遺伝子治療剤。
【請求項27】
溶液が生理食塩水である、請求項26記載のウイルス性遺伝子治療剤。
【請求項28】
ウイルス投与前に器官が溶液でフラッシュされる、請求項7記載のウイルス性遺伝子治療剤。
【請求項29】
器官が肝臓であり、溶液が生理食塩水である、請求項28記載のウイルス性遺伝子治療剤。
【請求項30】
滞留時間が延長されて、かかる延長が、分離された器官または分離された器官のセクション中に存在し、ウイルス性遺伝子治療剤によりコードされる蛋白質を発現する肝細胞および非肝細胞のうち肝細胞のフラクションを少なくとも0.8にまで増大させるものである、請求項1記載のウイルス性遺伝子治療剤。
【請求項31】
ウイルス投与前に器官が溶液でフラッシュされ、十分な時間が延長されて、かかる延長が、分離された器官または分離された器官のセクション中に存在し、ウイルス性遺伝子治療剤によりコードされる蛋白質を発現する肝細胞および非肝細胞のうち肝細胞のフラクションを少なくとも0.8にまで増大させるものである、請求項1記載のウイルス性遺伝子治療剤。
【請求項32】
十分な時間が約1分間〜約4分間の長さである、請求項1記載のウイルス性遺伝子治療剤。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11A】
【図11B】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11A】
【図11B】
【公開番号】特開2012−197297(P2012−197297A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−130077(P2012−130077)
【出願日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【分割の表示】特願2007−544533(P2007−544533)の分割
【原出願日】平成17年12月1日(2005.12.1)
【出願人】(500034653)ジェンザイム・コーポレーション (37)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【分割の表示】特願2007−544533(P2007−544533)の分割
【原出願日】平成17年12月1日(2005.12.1)
【出願人】(500034653)ジェンザイム・コーポレーション (37)
【Fターム(参考)】
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