説明

肝臓病変を評価する方法

本発明は、対象由来の無細胞血液サンプル中におけるアルブミンmRNA濃度の量を測定し、その後、アルブミンmRNAの量又は濃度を標準対照と比較することによる、如何なる肝臓病変の徴候もない対象における肝疾患を検出又はモニタリングするための新規な方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本願は、その全体が参照により本明細書に援用される2009年9月11日付で提出された米国特許第61/241,709号に基づく優先権を主張する。
【背景技術】
【0002】
人間集団におけるかなりの割合が、生命を脅かす可能性のある多くの肝疾患に冒される。その一例は、B型肝炎ウイルス(HBV)によって引き起こされる肝臓感染症であるB型肝炎である。これは、慢性の肝疾患を引き起こすことがあり、最終的に肝硬変及び肝癌を招き得るため、主要な世界的健康問題であり、最も重篤な種類のウイルス性肝炎である。全世界で、推定20億人がHBVに感染しており、3億5千万人以上が慢性の肝臓感染症に罹っているが、多くは無症候性である。B型肝炎は、中国及び他のアジア地域に固有である。これらの地域の多くの人は子供の頃にHBVに感染し、成人人口の8〜10%が慢性的に感染している。HBVにより起こる肝癌は、男性の癌による死因の上位3位に入り、女性の癌の主要な原因である。
【0003】
いくつかの肝機能検査が開発されており、診療所で日常的に使用されている。例えば、肝機能を評価するために、アラニントランスアミナーゼ(ALT)、アスパラギン酸トランスアミナーゼ(AST)、アルカリホスファターゼ(ALP)、総ビリルビン(TBIL)、直接ビリルビン、又はガンマグルタミルトランスペプチダーゼ(GGT)のレベルについて患者の血液サンプルを検査することがある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、肝疾患は広く蔓延しており、早期の発見及び処置が極めて重要であるため、特にほとんどの肝疾患が最初は軽度の症状しか示さないことを考慮し、肝疾患の早期診断を可能にする感度の高い新規な方法に対するニーズが存在する。本発明はこのニーズ及び関連する他のニーズを満たすものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
一態様では、本発明は、肝疾患の徴候がない対象、例えばアラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)検査の結果が異常であったことがない人において肝疾患を検出する方法を提供する。当該方法は、(a)対象から採取された無細胞血液サンプル中のアルブミンmRNAの量又は濃度を決定する工程;及び(b)工程(a)で得られたアルブミンmRNAの量又は濃度を標準対照(standard control)と比較する工程、を含む。標準対照との比較における工程(a)で得られた量又は濃度の上昇は、対象における肝疾患の存在を示す。工程(a)で得られたアルブミンmRNAの量又は濃度が標準対照と実質的に同じである場合、対象は肝疾患を有していないと見なされる。
【0006】
いくつかの実施形態では、検査される対象は、肝疾患を発生するリスクがない人である。検査される肝疾患のいくつかの例としては、脂肪性肝疾患、例えば非アルコール性脂肪性肝疾患、肝硬変、肝線維症、又は肝炎(例えば、A型、B型、又はC型肝炎)が含まれる。その他の例としては、ウィルソン病、ヘモクロマトーシス、アルファ1−抗トリプシン欠乏症、又は糖原病が含まれる。いくつかの実施形態では、肝細胞癌、特に肝移植後の患者で発生した肝細胞癌は、本発明の方法を用いて検査される肝疾患のリストから除かれる。
【0007】
いくつかの実施形態では、無細胞血液サンプルは血漿である。別の実施形態では、無細胞血液サンプルは血清である。
【0008】
特許請求される方法のいくつかの実施形態では、工程(a)は、逆転写酵素(RT)−PCR、デジタルPCR、又はリアルタイム定量PCRを含むポリメラーゼ連鎖反応(PCR)等によるアルブミンmRNA配列の増幅を含む。別の実施形態では、工程(a)は、質量分析法又はマイクロアレイ、蛍光プローブ、若しくは分子標識(molecular beacon)へのハイブリダイゼーションを含む。
【0009】
場合によっては、特許請求される方法は、対象に由来する同じ種類の無細胞血液サンプルを用いて(例えば、工程(a)で血清サンプルを用いた場合、繰り返し工程では第2の血清サンプルを用いて)、工程(a)を後の時点で繰り返すことを更に含んでもよい。初回の工程(a)の量又は濃度が既に肝疾患の存在を示している場合、初回の工程(a)と比較しての、後の時点における(すなわち、繰り返した工程(a)に由来する)アルブミンmRNAの量又は濃度の上昇は、肝疾患の悪化を示しており、低下は、肝疾患の改善を示している。
【0010】
同様に、特許請求される方法は、初回の工程(a)で得たアルブミンmRNAの量又は濃度が肝疾患を示さない場合に、対象に由来する同じ種類の無細胞血液サンプルを用いて、工程(a)を後の時点で繰り返すことを更に含んでもよい。初回の工程(a)と比較しての、後の時点(繰り返した工程(a))におけるアルブミンmRNAの量又は濃度の上昇は、肝疾患の発生を示し、実質的に変化がないことは、肝疾患のない生理学的状態を示す。
【0011】
多くの場合、特許請求される方法における標準対照からの上昇又は低下は少なくとも1標準偏差分である。他の場合には、標準対照からのそのような上昇又は低下は、少なくとも2、更には3標準偏差分であってもよい。
【0012】
別の態様では、本発明は、肝疾患の徴候がない対象又は肝疾患を発生するリスクがない人において肝疾患を診断するためのキットを提供する。キットは以下の構成要素を含む。(1)健康個体の血液サンプル中におけるアルブミンmRNAの平均的な量又は濃度を与える標準対照、及び(2)アルブミンmRNAの少なくとも一部を特異的に増幅させるための2種類のオリゴヌクレオチドプライマー。典型的には、キットは、本発明の方法を実施する使用者を補助するための取扱説明書を更に含む。キットは、アルブミンをコードする配列との特異的ハイブリダイゼーションのためのポリヌクレオチドプローブを更に含んでもよい。
【0013】
別の態様では、本発明は、本明細書に記載されている方法の工程の全て又は一部を行うことができるデバイスとして、又は、1若しくは複数のそのようなデバイスを含むシステムとして、具現化されてもよい。例えば、場合によっては、デバイス又はシステムは、可能性のある肝疾患を検出するための検査を受けている又は肝臓状態の変化についてモニタリングされている対象から採取された無細胞血液サンプルを受けた後に以下の工程を行う。(a)サンプル中のアルブミンmRNAの量又は濃度を決定する工程、(b)標準対照の値と量又は濃度を比較する工程、及び(c)対象において肝臓病変が存在するかどうか、又は対象の肝臓状態に変化、すなわち悪化又は改善があるかどうかを示すアウトプットを提供する工程。別の場合には、本発明のデバイス又はシステムは、工程(a)が行われ、(a)で得られた量又は濃度がデバイス中にインプットされた後に、工程(b)及び(c)のタスクを行う。好ましくは、デバイス又はシステムは部分的又は完全に自動化されている。
【0014】
本発明の前述の態様のいずれかの実施において、本発明の方法、キット、デバイス、又はシステムを用いて検査されている人は、肝疾患の徴候がない人、肝疾患を発生する公知のリスクがない人、又は肝移植を受けて従来の検査で肝疾患の症状が示されなかった人であり得る。場合によっては、以前に肝細胞癌に罹患した肝移植後患者及び肝移植後に再発した肝細胞癌は本発明の実施から除外され得る。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】血漿ALBmRNA濃度のボックスプロットである。ボックスの上限及び下限並びにボックス内の線はそれぞれ75パーセンタイル及び25パーセンタイル並びに中央値を示す。ひげの先は90パーセンタイル及び10パーセンタイルを示す。外れ値を白丸で表す。破線は、ROC解析により得られた、肝臓病変を検出するためのカットオフ(835コピー/mL)を示す。HCC、肝細胞癌;CHB、慢性B型肝炎。
【0016】
【図2】血漿ALBmRNAの定量化により肝臓病変を検出するための受信者動作特性曲線を示す図である。
【0017】
【図3】血漿ALBmRNA濃度とアラニントランスアミナーゼ濃度との関係を示す図である。HCC、肝細胞癌;CHB、慢性B型肝炎。
【0018】
【図4】肝細胞癌患者の血漿ALBmRNAとアルファフェトプロテインとの関係を示す図である。挿入図は、アルファフェトプロテイン(AFP)が20μg/L未満であるが血漿ALBmRNA濃度が835コピー/mLを超える患者を囲んでいる。
【0019】
【図5】ALBのSNPであるrs962004の遺伝子型を同定するために得た質量スペクトルを示す図である。伸張産物の分子量の差でSNPアレルを分解している。伸張しなかったプライマー並びに伸張したAアレル及びGアレルを表すピークの位置にそれぞれ印を付けた。x軸は、ダルトンで測定した質量を表し、y軸は、任意の単位で測定したイオン電流の強度を表す。hMEアッセイはDNA産物及びRNA産物両方の遺伝子型同定に応用することができる。Aアレルのホモ接合型、ヘテロ接合型、及びGアレルのホモ接合型のサンプルをそれぞれ上、真ん中、及び下のパネルに示す。
【0020】
【図6】血漿ALTが上昇していない参加者の血漿ALBmRNA濃度のボックスプロットである。ボックスの上限及び下限並びにボックス内の線はそれぞれ75パーセンタイル及び25パーセンタイル並びに中央値を示す。ひげの先は90パーセンタイル及び10パーセンタイルを示す。外れ値を白丸で表す。破線は、ROC解析により得られた、肝臓病変を検出するためのカットオフ(835コピー/mL)を示す。HCC、肝細胞癌;CHB、慢性B型肝炎。
【0021】
【図7】血漿ALTが上昇していない対象において血漿ALBmRNA定量化により肝臓病変を検出するための受信者動作特性曲線を示す図である。
【0022】
【図8】血漿ALTが上昇していない健康対照及び肝移植後レシピエントの血漿ALBmRNA濃度のボックスプロットである。ボックスの上限及び下限並びにボックス内の線はそれぞれ75パーセンタイル及び25パーセンタイル並びに中央値を示す。ひげの先は90パーセンタイル及び10パーセンタイルを示す。外れ値を白丸で表す。破線は、図1及び6で用いたように、肝臓病変検出のカットオフ(835コピー/mL)を示す。
【0023】
【図9】登録時の安定グループ及び不安定グループの血漿ALBmRNA濃度を示すボックスプロットである。ボックスの上限及び下限並びにボックス内の線はそれぞれ75パーセンタイル及び25パーセンタイル並びに中央値を示す。ひげの先は90パーセンタイル及び10パーセンタイルを示す。外れ値を白丸で表す。血漿ALBmRNAのカットオフレベルである835コピー/mLを点線で表す。
【0024】
【図10】(A)安定グループ及び(B)不安定グループのレシピエントの全研究期間にわたって採った血液サンプルの血漿ALBmRNA濃度を示す図である。安定及び不安定レシピエントの血漿ALB mRNAレベルを、それぞれ、中抜きの記号及び破線並びに塗りつぶされた記号及び実線で表す。血漿ALBmRNAのカットオフレベルである835コピー/mLを点線で表す。
【0025】
【図11】急性肝臓合併症を有するレシピエントの血漿ALBmRNA及びALTの連続測定を示す図である。パネルA〜Fは、異なる患者に対して行った連続測定のデータであり、各パネルが1人の患者を表す。血漿ALBmRNA濃度を黒丸と実線で表し、ALT活性レベルを白丸と破線で表す。血漿ALB mRNAのカットオフレベルである835コピー/mLを点線で表す。
【0026】
【図12】慢性肝臓合併症を有するレシピエントの血漿ALBmRNA及びALTの連続測定を示す図である。パネルA〜Dは、異なる患者に対して行った連続測定のデータであり、各パネルが1人の患者を表す。血漿ALBmRNA濃度を黒丸と実線で表し、ALT活性レベルを白丸と破線で表す。血漿ALB mRNAのカットオフレベルである835コピー/mLを点線で表す。
【0027】
【図13】脂肪性肝疾患の症例及び健康対照における血漿ALBmRNA濃度を示す図である。ボックスの上限及び下限並びにボックス中の線はそれぞれ75パーセンタイル及び25パーセンタイル並びに中央値を示す。ひげの先は90パーセンタイル及び10パーセンタイルを示す。外れ値を白丸で表す。
【0028】
【図14】肝生検(Bx)によって診断された又は磁気共鳴映像法(MRI)によって診断された脂肪性肝疾患の症例及び健康対照における血漿ALBmRNA濃度を示す図である。ボックスの上限及び下限並びにボックス内の線はそれぞれ75パーセンタイル及び25パーセンタイル並びに中央値を示す。ひげの先は90パーセンタイル及び10パーセンタイルを示す。外れ値を白丸で表す。NAFLD、非アルコール性脂肪性肝疾患。
【0029】
【図15】図14に示した対象の血漿ALT活性濃度を示す図である。破線は基準カットオフ値を表す。Bx、生検;MRI、磁気共鳴映像法。NAFLD、非アルコール性脂肪性肝疾患。
【発明を実施するための形態】
【0030】
定義
本発明において、「肝疾患」という用語は、患者の正常な肝機能を変化させ、患者の寿命中の任意の時間に渡って症状を表す、任意のイベント又は状態を指す。肝疾患のいくつかの例としては、肝癌、肝硬変、肝線維症、脂肪肝、非アルコール性脂肪性肝炎、肝臓への毒による若しくは機械的な損傷、ウイルス性若しくは細菌性の感染症、例えば種々の種類の肝炎(例えば、A型、B型、又はC型の肝炎)、ウィルソン病、ヘモクロマトーシス、アルファ1−抗トリプシン欠乏症、又は糖原病が含まれる。場合によっては、肝細胞癌は、本願で診断される肝疾患から除外され得る。肝疾患は、多くの場合、病的状態の期間に応じて急性又は慢性に細分類される。一般的に、3ヶ月を超えて存続する状態は慢性肝疾患に分類され、3ヶ月未満しか続かない状態は急性肝疾患に分類される。急性肝疾患、例えばウイルスによって引き起こされる急性肝炎又は肝臓への虚血傷害は、通常、突然現れるが、正常な肝機能が完全に回復されることが多い。一方、慢性肝疾患は、通常、潜行性でゆっくりと進行するが、完全に正常な肝機能を回復することはほとんどない。
【0031】
肝疾患の原因及び臨床症状は様々であるので、これらの肝疾患を診断する多くの異なる方法が存在する。従来の方法は、通常、血清の生化学的マーカーを分析して一般的にアラニントランスアミナーゼ(ALT)、アスパラギン酸トランスアミナーゼ(AST)、アルカリホスファターゼ(ALP)、総ビリルビン(TBIL)、直接ビリルビン、又はガンマグルタミルトランスペプチダーゼ(GGT)のレベルを評価することを含む。あるいは、超音波、CTスキャン、又はMRIによる肝胆道系のイメージングを用いて肝臓の構造的異常を検出する。それらの異常のいずれかを有することが現在分かっていないか、過去のいずれの時点でも慢性肝疾患と診断されたことがないか、過去の急性肝疾患から回復したことが分かっている人が「肝疾患の徴候のない対象」である。そのような人の一例としては、過去にアラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)検査の結果が異常であったことがない又は最後の急性肝傷害の後に正常レベルまでALTが回復したために異常なALT検査結果が現在予想されない人が挙げられる。HBV等の特定の肝臓ウイルスのキャリアは無症候性であり得、従来の肝機能検査で検出可能な異常を生じる程度の明らかな肝細胞損傷がないことがあるため、そのようなウイルスのいずれかのキャリアであることが分かっているが肝機能検査の結果が異常であったことがない人も「肝疾患の徴候のない対象」と見なされる。肝疾患の徴候がないことに加え、直接の家族の一員(親、兄弟姉妹)も肝疾患の徴候を示さない人は、肝疾患を発生するリスクがない人と見なされる。
【0032】
ALT検査は医療従事者によって日常的に使用されている。これは通常、肝疾患の症状、例えば黄疸(黄色がかった皮膚又は目)、暗色尿、悪心、嘔吐、又は腹痛を経験している場合に要求される。また、ウイルス性肝炎等の肝臓感染症の診断を支援するため又は肝臓に関連する副作用を引き起こす医薬を接種している患者をモニタリングするためにも要求され得る。血中ALTレベルの正常範囲は5〜60IU/L(International Units per Liter)である。ASTレベルの正常範囲は5〜43IU/Lである。
【0033】
本発明において、「血液」という用語は、可能性のある肝疾患についての検査又は対象の肝臓の生理学的状態を評価するための検査を受けている対象に由来する血液サンプル又は血液標本を指す。「無細胞血液サンプル」とは、全血中に存在する全細胞の少なくとも95%が除かれた血液の任意の画分を指し、従来の定義による血清及び血漿等の画分も包含される。異なる個体から得られた又は同じ個体であるが同じ処理工程後の異なる時点で得られた血液サンプルを「同じ種類の血液サンプル」と呼ぶ。
【0034】
「核酸」又は「ポリヌクレオチド」という用語は、デオキシリボ核酸(DNA)又はリボ核酸(RNA)及び一本鎖又は二本鎖の形態であるそのポリマーを指す。特に断りのない限り、この用語は、参照核酸と同様な結合特性を有し且つ天然ヌクレオチドと同様に代謝される、天然ヌクレオチドの既知のアナログを含む核酸も包含する。特に断りのない限り、特定の核酸配列は、暗黙的に、明示的に示される配列に加え、保存的に改変されたそのバリアント(例えば縮重コドン置換)、アレル、オーソログ、一塩基多型(SNP)、及び相補配列も含む。特に、縮重コドン置換は、1又は複数の選択された(又は全)コドンの第3位が混合塩基及び/又はデオキシイノシン残基で置換された配列を作製することによって実現され得る(Batzer et al., Nucleic Acid Res. 19:5081 (1991);Ohtsuka et al., J. Biol. Chem. 260:2605-2608 (1985);及びRossolini et al., Mol. Cell. Probes 8:91-98 (1994))。核酸という用語は、遺伝子、cDNA、及び遺伝子によってコードされるmRNAと相互に交換可能に使用されている。
【0035】
「遺伝子」という用語は、ポリペプチド鎖の産生に関与するDNAのセグメントを意味し、遺伝子産物の転写/翻訳及び転写/翻訳の調節に関与するコード領域の前後の領域(リーダー及びトレーラー)並びに個々のコードセグメント(エキソン)の間の介在配列(イントロン)を含む。
【0036】
本願において、「ポリペプチド」、「ペプチド」、及び「タンパク質」という用語はアミノ酸残基のポリマーを指して相互に交換可能に使用されている。これらの用語は、1又は複数のアミノ酸残基が対応する天然アミノ酸の人工の化学的模倣物(mimetics)であるアミノ酸ポリマー並びに天然アミノ酸ポリマー及び非天然アミノ酸ポリマーに適用される。本発明において、これらの用語は、アミノ酸残基が共有ペプチド結合で連結された任意の長さのアミノ酸鎖、例えば全長タンパク質(すなわち抗原)を包含する。
【0037】
「アミノ酸」という用語は、天然及び合成のアミノ酸並びに天然アミノ酸と同様に機能するアミノ酸アナログ及びアミノ酸模倣物を指す。天然のアミノ酸とは、遺伝暗号によってコードされるもの並びに後で修飾されたアミノ酸、例えばヒドロキシプロリン、γ−カルボキシグルタミン酸、及びO−ホスホセリンである。
【0038】
本明細書中で、アミノ酸は、IUPAC−IUB Biochemical Nomenclature Commissionにより推奨される周知の3文字記号又は1文字記号で言及され得る。同様に、ヌクレオチドもその一般的に受け入れられている1文字コードで言及され得る。
【0039】
本願において、「上昇(increase)」又は「低下(decrease)」とは、確立された標準対照からの検出可能な正又は負の量的変化を指す。上昇は、対照の値の好ましくは少なくとも2倍、より好ましくは少なくとも5倍、最も好ましくは少なくとも10倍の正の変化である。同様に、低下は、標準対照の好ましくは少なくとも50%、より好ましくは少なくとも80%、最も好ましくは少なくとも90%の負の変化である。「より多い」、「より少ない」、「より高い」、「より低い」等、比較基準からの量的な変化又は差を示す他の用語も、本願において上記と同様に使用されている。対照的に、「実質的に同じ」又は「実質的に変化がない」という用語は、標準対照値からの量の変化がほとんど又は全くないこと、典型的には標準対照の±10%以内、±5%以内、2%、又は標準対照からの変化がそれよりも小さいことを意味する。
【0040】
本発明において、「ポリヌクレオチドハイブリダイゼーション法」とは、適切なハイブリダイゼーション条件下で既知の配列のポリヌクレオチドプローブとワトソン・クリック塩基対を形成する能力に基づいてポリヌクレオチドの存在及び/又は量を検出する方法を指す。そのようなハイブリダイゼーション法の例としては、サザンブロット及びノーザンブロットが含まれる。
【0041】
本発明において、「プライマー」とは、目的の遺伝子(例えばアルブミンコード配列)に対応するポリヌクレオチド配列に基づいてヌクレオチド配列を増幅するための、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)等の増幅方法で使用することができるオリゴヌクレオチドを指す。ポリヌクレオチド配列を増幅させるためのPCRプライマーの少なくとも1つは、配列に対して配列特異的である。
【0042】
本発明において、「デジタルポリメラーゼ連鎖反応」という用語は、従来のポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法を洗練させたバージョンを指し、この方法を用いると、DNA、cDNA、又はRNAを含む核酸の直接定量及びクローン的増幅が可能となり、標的核酸の量を直接、定量的に測定することができる。デジタルPCRは、増幅産物を局在させて検出可能レベルにまで濃縮できる多数の別個の反応チャンバー内のサンプル中に存在する個々の各核酸分子を捕捉又は単離することによってこの直接的定量測定を実現する。PCR増幅後、PCRの最終産物を含むチャンバーを計数することで、核酸の絶対量が直接測定される。典型的には希釈による個々の核酸分子の捕捉又は単離は、キャピラリー中、マイクロエマルション中、並んだ微小チャンバー中、又は核酸結合表面上で行われ得る。デジタルPCRの基本的な方法論は、例えばSykes et al., Biotechniques 13 (3): 444-449, 1992に記載されている。
【0043】
本発明において、「分子計数」という用語は、分子又は分子複合体の数、多くの場合、性質の異なる他の共存する分子又は複合体との関係における相対数、の定量的測定を可能にする任意の方法を指す。分子計数の種々の方法が例えばLeaner et al., Analytical Chemistry 69:2115-2121, 1997;Hirano and Fukami, Nucleic Acids Symposium Series No. 44:157-158, 2000; Chiu et al., Trends in Genetics 25:324-331, 2009;及び米国特許第7,537,897号に記載されている。
【0044】
本発明において、「標準対照」とは、確立されたサンプル(例えば無細胞血液サンプル)中に存在する所定の量のポリヌクレオチド配列(例えばアルブミンmRNA)を指す。標準対照値は、本発明の方法の使用に適しており、検査サンプル中に存在するアルブミンmRNAの量を比較するための基準となる。標準対照となる確立されたサンプルは、従来の定義による肝疾患を有していない平均的な健康なヒトの特定の血液サンプル、特に無細胞血液サンプル(例えば血清又は血漿)に典型的なアルブミンmRNAの平均量を提示する。標準対照値は、サンプルの性質及びそのような対照値を確立する基礎となる対象の性別、年齢、民族性等のその他の因子に応じて変わり得る。
【0045】
従来の定義による肝疾患を有していない健康なヒトの記述において、「平均(的)」という用語は、肝臓病変を有していない健康なヒトの無作為に選択されたグループを表す特定の特徴を指し、特にその人の血中又は血液の任意の無細胞画分中、例えば血清若しくは血漿中、に見られるアルブミンmRNAの量を指す。この選択されたグループは、これらの個体の血液中又は血液画分中のアルブミンmRNAの平均量が、一般の健康なヒト集団の対応するアルブミンmRNA量を適切な精度で反映するように、十分な数のヒトを含むべきである。また、選択されるグループのヒトは一般的に、通常潜在的肝障害の徴候について血液サンプルを検査される対象と同様の年齢である。本発明の実施に好ましい年齢は、スクリーニングされている肝疾患/障害に応じて異なり得る。更に、性別、民族性、病歴等のその他の因子も考慮され、これらは、検査対象のプロファイルと「平均」を確立している選択されたグループの個体のプロファイルとの間で、一致度が高いことが好ましい。
【0046】
本願において、「量」という用語は、サンプル中に存在する関心のあるポリヌクレオチド配列、例えばアルブミンmRNAの量を指す。そのような量は、絶対的な用語、すなわちサンプル中のポリヌクレオチド配列の全量で表されてもよく、相対的な用語、すなわちサンプル中のポリヌクレオチド配列の濃度で表されてもよい。
【0047】
発明の詳細な説明
I.イントロダクション
血漿中の循環核酸を分析することで、種々の生理学的及び病理学的状態を非侵襲的にモニタリングすることができる(Lo et al., Ann N Y Acad Sci 2004;1022:135-139;Chan et al. Ann Clin Biochem 2003;40:122-30)。悪性腫瘍(Anker et al., Int J Cancer 2003; 103: 149-52)、妊娠に関連する状態(Lo et al., Nat Rev Genet 2007;8:71-7)、臓器移植(Lo et al., Lancet 1998;351:1329-30)、外傷(Lo et al., Clin Chem 2000;46:319-23; Chiu et al., Acta Neurochir Suppl 2005;95:471-4)を管理するための応用等、ヒト血漿中を循環している無細胞核酸の検出に基づく多くの応用が報告されている。これらの応用の基本原理は、疾患臓器に由来する細胞外核酸分子の血漿検出に関連する。循環DNA分析から利用することができる疾患特異的な遺伝的サインには、疾患関連病原体(Chan et al., Clin Chem 2005;51:2192-5)、疾患特異的変異、胎児と母親又は移植ドナーとレシピエントの性別及び多型の差の検出が含まれる。
【0048】
循環DNAに加えて、無細胞血漿RNA分析は、病態関連マーカーを開発するための別の次元の機会を提供する(Lo et al., Ann N Y Acad Sci 2004;1022:135-139;Anker et al., Clin Chem 2002;48:1210-1)。臓器又は疾患に固有の発現プロファイルが、血漿検出の特異的核酸サイン(nucleic acid signature)としての標的となり得る。腫瘍由来RNA種(Chen et al., Clin Cancer Res 2000;6:3823-6)及び胎盤由来RNA種(Ng et al., Proc Natl Acad Sci USA 2003;100:4748-53)は、血漿からの検出が成功しており、疾患評価の可能性を秘めている(Ng et al., Clin Chem 2003;49:727-31)。本発明者らは、肝臓病変を評価するための、循環している肝臓由来mRNAの検出の可能性を探求した。
【0049】
循環DNA及びRNAが細胞死により放出されることを示唆する多くの証拠がある(Jahr et al., Cancer Res 2001;61:1659-65)。アルブミンは体に最も豊富なタンパク質であり、肝臓で合成されるので、本発明者らは、ALB mRNAがヒト血漿中で検出可能であり得、肝臓病変の高感度マーカー(sensitive marker)になり得るという仮説を立てた。実際、過去の研究で、ヒト対象の末梢全血及び末梢単核細胞画分においてALBmRNAの検出が報告されている(Hillaire et al., Gastroenterology 1994;106:239-42;Kar et al., Hepatology 1995;21:403-7;Muller et al., Hepatology 1997;25:896-9;Barbu et al., Hepatology 1997;26:1171-5;Gion et al., Hepatology 1998;28:1663-8;Peck-Radosavljevic et al., Liver Transplant Oncology Group. J Hepatol 1998;28:497-503;Wong et al., Br J Cancer 1997;76:628-33;Wong et al, Cancer Lett 2000;156:141-9;Bastidas-Ramirez et al., Hepatol Res 2002;24:265.11)。しかし、これらの研究で報告されている成功のレベルは異なり、肝細胞癌(HCC)、肝硬変、肝炎の患者及び健康対照で血中ALBmRNAの検出率は100%未満であった。しかし最近、Kudo et al., (J Vet Med Sci 2008;70:993-5)により、ラットにおける、血漿ALB mRNAの存在及び肝傷害と血漿ALB mRNA濃度との関係が報告された。
【0050】
血液細胞は、他の細胞型で主に発現されることが分かっている遺伝子を「非正統的に(illegitimately)」転写することができ(Lambrechts et al., Ann Oncol 1998;9:1269-76)、本発明者らは、主に血液細胞が血漿核酸の提供者であることを過去に実証している(Lui et al., Clin Chem 2002;48:421-7)。そこで、本発明者らは最初に血漿又は全血のALB mRNAが肝臓に由来するかどうかを決定することを目的とし、2番目に、血漿ALB mRNAの肝臓起源を確認した後、種々の肝臓病変で量的逸脱が検出されるかどうかを決定した。最初の目的を果たすために、以前に記載されているRNA一塩基多型(SNP)戦略(Lo et al., Nat Med 2007;13:218-23;Chan et al., Clin Chem 2007;53:1874-6)を用いて、標的のALBをコードするSNPの遺伝子型が異なるドナーから肝臓移植又は骨髄移植を受けたレシピエントの循環(circulation)中に見られるALBmRNA分子の遺伝子型を同定した。
【0051】
II.一般的方法論
本発明の実施では、分子生物学分野の通常の技術を利用する。本発明に有用な一般的方法を開示している基本的な教科書としては、Sambrook and Russell, Molecular Cloning, A Laboratory Manual (3rd ed. 2001);Kriegler, Gene Transfer and Expression: A Laboratory Manual (1990);及びCurrent Protocols in Molecular Biology (Ausubel et al., eds., 1994))が含まれる。
【0052】
核酸のサイズはキロベース(kb)又は塩基対(bp)で表す。これらは、アガロース又はアクリルアミドゲル電気泳動、シークエンシングした核酸、又は公開されているDNA配列に由来する推定値である。タンパク質のサイズはキロダルトン(kDa)又はアミノ酸残基数で表す。タンパク質サイズは、ゲル電気泳動、シークエンシングしたタンパク質、由来アミノ酸配列、又は公開されているタンパク質配列から推定される。
【0053】
市販されていないオリゴヌクレオチドは、例えばBeaucage and Caruthers, Tetrahedron Lett. 22:1859-1862 (1981)に最初に記載された固相ホスホラミダイトトリエステル法に従い、Van Devanter et. al., Nucleic Acids Res. 12:6159-6168 (1984) に記載されているように自動合成機を用いて、化学的に合成することができる。オリゴヌクレオチドの精製は、当該技術分野で認知されている任意の戦略、例えばネイティブアクリルアミドゲル電気泳動又はPearson and Reanier, J. Chrom. 255: 137-149 (1983)に記載されているような陰イオン交換高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて行われる。
【0054】
本発明で使用される遺伝マーカーの配列又はゲノム配列、例えばアルブミン遺伝子のポリヌクレオチド配列及び合成オリゴヌクレオチド(例えばプライマー)は、例えば、Wallace et al., Gene 16: 21-26 (1981)の二本鎖鋳型をシークエンシングするチェーン・ターミネーション法を用いて確認することができる。
【0055】
III.血液サンプルの採取及びmRNAの抽出
本発明は、肝疾患又は肝障害の存在の検出及び/又は進行のモニタリングのための非侵襲的手段としての、人の血液中、特に無細胞血液サンプル中に見られるアルブミンmRNAの量の分析に関する。したがって、本発明の実施における第1の工程は、検査対象から血液サンプルを得ること及びサンプルからmRNAを抽出することである。
【0056】
A.血液サンプルの採取
本発明の方法を用いて肝臓の状態又は障害について検査又はモニタリングされる人から血液サンプルを得る。個体からの血液の採取は、病院又は診療所が一般的に従う標準的プロトコールに従って行われる。適切な量、例えば典型的には5〜50mlの末梢血液を採取し、これはその後の調製の前に標準的手法で保存されてよい。
【0057】
B.血液サンプルの調製
本発明に係る患者血液サンプル中に見られるアルブミンmRNAの分析は、例えば全血を用いて、あるいはより多くの場合、血清、血漿等の無細胞サンプルを用いて行われ得る。元の血液(maternal blood)から血清又は血漿を調製する方法は当業者に周知である。例えば、対象の血液を、血液凝固を防ぐためのEDTAを含む管又はバキュテイナSST(ニュージャージー州フランクリンレイクスのベクトン・ディッキンソン社製)等の特化した市販製品に入れ、その後、遠心分離により全血から血漿を得ることができる。一方、血清は、血液凝固後に遠心分離を行うか又は遠心分離を行ずに得ることができる。遠心分離を用いる場合、遠心分離は典型的には、限定するものではないが、適切な速度、例えば1,500〜3,000×gで行われる。血漿又は血清をRNA抽出用の新たな管に移す前に更なる遠心分離工程に供してもよい。全血から無細胞サンプルを調製するその他の任意の方法も、方法により実質的に細胞を含まない無細胞血液サンプル、例えば全血中に本来存在する全細胞の少なくとも90%、95%、98%、又は99%以上が除かれた無細胞血液サンプルが得られる限り、本発明の目的に適切である。
【0058】
C.RNAの抽出及び定量化
生体試料からmRNAを抽出する多くの方法がある。mRNA調製の一般的な方法(例えばSambrook and Russell, Molecular Cloning: A Laboratory Manual 3d ed., 2001に記載されている)を行ってもよく、種々の市販の試薬又はキット、例えばTrizol試薬(カリフォルニア州カールズバッドのインビトロジェン社製)、Oligotex Direct mRNA Kit(カリフォルニア州バレンシアのキアゲン社製)、RNeasy Mini Kit(ドイツ、ヒルデンのキアゲン社製)、及びPolyATtract(登録商標) Series 9600(商標)(ウィスコンシン州マディソンのプロメガ社製)を用いて女性検査対象の生体試料からmRNAを得てもよい。これらの方法を2つ以上組み合わせて用いてもよい。
【0059】
RNA標品から全ての混入DNAを除くことが必要である。したがって、サンプルを注意深く取り扱い、DNAaseで十分に処理し、増幅及び定量化工程で適切な陰性対象を用いるべきである。
【0060】
1.PCRに基づくmRNAレベルの定量
サンプルからmRNAを抽出した後、アルブミンmRNAの量が定量され得る。mRNAレベルを決定する好ましい方法は、増幅に基づく方法、例えばポリメラーゼ連鎖反応(PCR)である。
【0061】
増幅工程の前に、アルブミンmRNAのDNAコピー(cDNA)を合成しなければならない。これは逆転写により達成され、別個の工程として行ってもよく、RNAを増幅するポリメラーゼ連鎖反応の変法であるhomogeneous逆転写−ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)中で行ってもよい。リボ核酸のPCR増幅に適した方法は、Romero and Rotbart in Diagnostic Molecular Biology: Principles and Applications pp.401-406;Persing et al., eds., Mayo Foundation, Rochester, MN, 1993;Egger et al., J. Clin. Microbiol. 33:1442-1447, 1995;及び米国特許第5,075,212号に記載されている。
【0062】
PCRの一般的な方法は当該技術分野で周知であるので、本明細書中では詳細に説明しない。PCR法、プロトコール、及びプライマー設計の原理のレビューについては、例えばInnis, et al., PCR Protocols: A Guide to Methods and Applications, Academic Press, Inc. N.Y., 1990を参照されたい。PCRの試薬及びプロトコールはロシュ・モレキュラー・システムズ社等の供給業者からも入手可能である。
【0063】
PCRは耐熱性酵素を用いた自動化されたプロセスとして非常に一般的に行われている。このプロセスでは、反応混合物の温度を、変性領域、プライマーのアニーリング領域、及び伸張反応領域に自動でサイクルさせる。この目的に特別に適応された機械が市販されている。
【0064】
本発明の実施には標的mRNAのPCR増幅が通常用いられる。しかし、当業者であれば、元の血液サンプル中のこれらのmRNA種の増幅が、いずれも十分な増幅を実現するリガーゼ連鎖反応(LCR)、転写を介した増幅、及び自家持続配列複製法又は核酸配列ベース増幅(NASBA)等の任意の公知の方法によって実現され得ることを理解するであろう。より最近開発された分岐DNA技術を用いて元の血液中のmRNAマーカーの量を定量してもよい。臨床サンプル中の核酸配列を直接定量化するための分岐DNAシグナル増幅のレビューには、Nolte, Adv. Clin. Chem. 33:201-235, 1998を参照されたい。
【0065】
2.その他の定量方法
アルブミンmRNAは当業者に周知の他の標準的技術を用いても検出することができる。検出工程の前に通常は増幅工程があるが、本発明の方法では増幅は必要ではない。例えば、mRNAは、増幅工程が先にあってもなくても、サイズ分画(例えばゲル電気泳動)によって同定することができる。周知の技術(例えば上記のSambrook and Russell参照)に従ってサンプルをアガロース又はポリアクリルアミドゲルに流して臭化エチジウムで標識した後、比較標準と同じサイズのバンドが存在すれば標的mRNAの存在が示され、その後、その量を、バンドの強度に基づいて対照と比較することができる。あるいは、アルブミンmRNAに特異的なオリゴヌクレオチドプローブを用いてそのようなmRNA種の存在を検出し、プローブのシグナル強度に基づいて、比較標準と比べたmRNAの量を示すことができる。
【0066】
配列特異的プローブハイブリダイゼーションは、他の核酸種を含む特定の核酸を検出するための周知の方法である。十分にストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下で、プローブは実質的に相補的な配列にだけ特異的にハイブリダイズする。様々な量の配列ミスマッチが許容されるようにハイブリダイゼーション条件のストリンジェンシーを緩めることができる。
【0067】
複数のハイブリダイゼーションフォーマットが当該技術分野で周知であり、限定されるものではないが、溶液層、固相、又は混合相のハイブリダイゼーションアッセイが含まれる。以下の論文に種々のハイブリダイゼーションアッセイフォーマットの概要が記載されている。Singer et al., Biotechniques 4:230, 1986;Haase et al., Methods in Virology, pp. 189-226, 1984;Wilkinson, In situ Hybridization, Wilkinson ed., IRL Press, Oxford University Press, Oxford;及びHames and Higgins eds., Nucleic Acid Hybridization: A Practical Approach, IRL Press, 1987。
【0068】
ハイブリダイゼーション複合体は周知の技術に従って検出される。標的核酸(すなわちmRNA又は増幅されたDNA)に特異的にハイブリダイズできる核酸プローブは、ハイブリダイズした核酸の存在を検出するために通常使用される複数の方法のいずれかで標識されてよい。一般的な検出方法の1つは、H、125I、35S、14C、又は32P等で標識されたプローブを用いたオートラジオグラフィーの使用である。放射性同位元素の選択は、選択された同位体の合成のし易さ、安定性、及び半減期による研究への好ましさにより変わる。その他の標識としては、蛍光団、化学発光剤、及び酵素で標識されたアンチリガンド又は抗体に結合する化合物(例えばビオチン及びジゴキシゲニン)が挙げられる。あるいは、プローブを蛍光団、化学発光剤、酵素等の標識に直接コンジュゲートさせてもよい。標識の選択は、必要な感度、プローブとのコンジュゲーションの容易さ、安定性要件、及び利用可能な計測手段に応じて変わる。
【0069】
本発明の実施に必要なプローブ及びプライマーは、周知の技術を用いて合成及び標識することができる。プローブ及びプライマーとして使用されるオリゴヌクレオチドは、Beaucage and Caruthers, Tetrahedron Letts., 22:1859-1862, 1981に最初に記載された固相ホスホラミダイトトリエステル法に従い、Needham-VanDevanter et al., Nucleic Acids Res. 12:6159-6168, 1984に記載されているように自動合成機を用いて、化学的に合成され得る。オリゴヌクレオチドの精製は、ネイティブアクリルアミドゲル電気泳動又はPearson and Regnier, J. Chrom., 255:137-149, 1983に記載されているような陰イオン交換HPLCによる。
【0070】
IV.標準対照の確立
本発明の方法を実施するための標準対照を確立するために、従来の定義による肝疾患を有していない健康な人のグループを最初に選択した。これらの個体は、適用可能な場合、本発明を用いた肝硬変、肝線維症、肝炎等の肝臓の障害又は疾患のスクリーニング及び/又はモニタリングに適切なパラメーター範囲内である。必要に応じて、個体は、同じ性別、同様の年齢、又は同様の民族的背景のものである。
【0071】
選択された個体の健康状態は、十分に確立されている日常的に用いられる方法によって確認され、そのような方法としては、個体の一般的身体検査及び病歴の一般的調査が含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0072】
更に、選択された健康個体のグループは、グループから得た血液中のアルブミンmRNAの平均量/濃度が健康な人々の一般集団での正常レベル又は平均レベルを表すと妥当に見なせるような妥当なサイズでなければならない。好ましくは、選択されたグループは少なくとも10人のヒト対象を含む。
【0073】
選択された健康対照グループの各対象で見られる個々の値に基づいてアルブミンmRNAの平均値が確立された後、この平均値、中央値、又は代表的な値若しくはプロファイルを標準対照と見なす。同じプロセス中に標準偏差も決定される。場合によっては、年齢、性別、又は民族的背景等の特徴が異なる別個に定義されたグループについて、別個の標準対照を確立してもよい。
【0074】
V.キット
本発明は、患者、特に肝臓の傷害、障害、又は疾患の徴候を有していない患者における肝疾患の存在の検出又は診断及び肝疾患の進行のモニタリング等の種々の目的に用いることが可能な、対象の肝臓の生理又は病変の状態を評価するための本明細書に記載されている方法を実施するための組成物及びキットを提供する。
【0075】
アルブミンmRNAレベルを決定するアッセイを行うためのキットは、典型的には、アルブミンコード配列又は相補配列との特異的ハイブリダイゼーションに有用な少なくとも1つのオリゴヌクレオチドを含む。必要に応じて、このオリゴヌクレオチドは検出可能部分で標識されている。場合によっては、キットは、PCR、特にRT−PCRによるアルブミンmRNAの増幅に用いることができる少なくとも2種類のオリゴヌクレオチドプライマーを含み得る。
【0076】
典型的には、キットは、検査サンプルの分析及び検査対象における肝臓の生理又は病変の状態の評価において使用者の手引きとなる取扱説明書も提供する。
【0077】
以下の実施例は説明の目的のみに提供されるものであり、限定するためのものではない。当業者には、本質的に同じ又は同様な結果を得るために変更又は改変可能な必須でない種々のパラメーターが容易に認識されよう。
【実施例】
【0078】
実施例1
I.材料及び方法
参加者
2006年6月から2008年4月の間に、香港のプリンス・オブ・ウェールズ病院で参加者を募集した。これには、(i)内科、診療科、及び臨床腫瘍科に通院している種々の肝臓合併症患者;(ii)以前に外科で肝移植(LT)を受けた患者及びペアになる生きているドナー;(iii)小児科で骨髄移植(BMT)を受けた患者;及び(iv)健康な個体が含まれる。施設内審査委員会から倫理的承認を得、全ての参加者又は責任のある保護者からインフォームド・コンセントを得た。
【0079】
10mLの末梢血液をEDTA管中に採取した。また、口腔細胞又は毛包細胞のいずれかをBMT患者から採取した。死体肝移植を受けた参加者については、故ドナーのアーカイブされた肝生検組織検体を回収した。
【0080】
サンプルの採取及び処理
採血後すぐにサンプルを4℃に維持し、4時間以内に処理した。血液サンプルを穏やかに混合した後、全血0.3mLを0.9mLのTRIzol LS試薬(カリフォルニア州カールズバッドのインビトロジェン社製)と混合した。二重遠心分離(double−centrifugation)プロトコール(Chiu et al., Clin Chem 2001;47:1607-13)によって血漿を回収した。最初の遠心分離工程の後、バフィーコートを単離し、230g、4℃で5分間再遠心分離して残留血漿を除いた。全てのサンプルをこのセクションに記載する核酸抽出まで保存した。
【0081】
ALBの遺伝子型同定
ALBのコード領域内のSNPであるrs962004を標的にした。10人の無関係な個体のDNAシークエンシングにより、このSNPのアレル頻度が0.37と小さいことが判明した。遺伝子型同定は、homogenous MassEXTEND(hME)(カリフォルニア州サンディエゴのシーケノム社(Sequenom)製)アッセイを用いたプライマー伸張反応により行った。各SNPアレルの伸張産物は、マトリックス支援レーザー脱離/イオン化飛行時間型質量分析法で分離可能である明確に異なる質量を示す(図5参照)。SNP分析の詳細を表3に示す。
【0082】
バフィーコートDNAを用いて、LTレシピエント及び肝臓ドナーの遺伝子型を決定した。死体肝移植の場合には、アーカイブされていた肝生検組織のDNAから故ドナーのALB遺伝子型を決定した。BMTレシピエントでは、口腔細胞又は毛包細胞のDNAから元のALB遺伝子型を検出した。骨髄ドナーのALB遺伝子型は、BMT後のレシピエントのバフィーコートDNAを用いて評価した。移植レシピエントの血漿又は全血中のALBmRNAの遺伝子型は、逆転写されたALB mRNAに対して同じ遺伝子型同定アッセイを用いて決定した。
【0083】
血漿中のALB mRNA転写産物の定量化
1段階逆転写−定量的リアルタイムPCR(RT−qPCR)を用いて血漿ALBmRNAの濃度を測定した。5’領域(GenBankアクセッション番号NM_000477.3)のエキソン1及びエキソン2にまたがる78bpのALBアンプリコンが増幅されるように、ALBmRNA定量化のためのintron−spanningアッセイをデザインした。配列を表4にまとめる。標的ALBアンプリコンを特定するHPLC精製した一本鎖合成DNAオリゴヌクレオチド(シンガポールのシグマ−プロリゴ社(Sigma−Proligo)製)の濃度が反応1ウェル当たり3〜3×10コピーの段階希釈物を用いて、ALBmRNAの絶対量を定量化するための較正曲線を作製した(Wong et al., Clin Chem 2005;51:1786-95)。ABI Prism 7900 Sequence Detector(カリフォルニア州フォスターシティーのアプライドバイオシステムズ社製)及びSequence Detection Softwareバージョン2.2(アプライドバイオシステムズ社製)により、ALBmRNAの増幅をモニタリングした。PCR効率の中央値は88.3%(SD:6%、範囲:81.1〜98.8%)であり、これは、傾きの中央値が−3.64(SD:0.18、範囲:3.35〜3.88)、y切片の中央値が40.8(SD:1.86、範囲:38.1〜43.5)、相関係数の中央値が0.9958(SD:0.0026、範囲:0.9905〜0.9986)の較正曲線から計算された。血漿中のALBmRNAの絶対濃度はコピー/mLで表した。
【0084】
肝機能の評価
香港のプリンス・オブ・ウェールズ病院の化学病理学研究室で、DPE Modular Analytics system(ロシュ・ダイアグノスティックス社製)を用いて、アルブミン、総ビリルビン、アルカリホスファターゼ、アラニントランスアミナーゼ(ALT)、及びアルファフェトプロテインの血漿分析を行った。以前に記載されているように(Chan et al., J Med Virol 2002;68:182-7;Loeb et al., Hepatology 2000;32:626-629)、慢性B型肝炎(CHB)感染患者の血清中のB型肝炎ウイルス(HBV)DNAを定量化した。濃度>10,000コピー/mLを活性なウイルス複製の証拠と見なした(Chan et al., B. J Clin Microbiol 2003;41:4693-5)。
【0085】
統計解析
SPSSバージョン15.0ソフトウェア(イリノイ州シカゴのSPSS Inc.社製)を用いて統計解析を行った。クラスカル・ワリスのH検定及びDunn検定(dunn’s test)を適宜用いて、患者グループと対照グループの間で血漿ALBmRNA濃度を比較した。スピアマンの順位相関により、血漿ALB mRNA濃度と他のパラメーターの相関を決定した。0.05未満のp値を統計的差と見なし、全ての確率は両側検定とした。サンプルの血漿ALBmRNA濃度が、対応するグループの平均から3標準偏差分より大きい場合に、外れ値を同定した。ROC曲線を作製して曲線下面積(AUC)を決定した。肝臓合併症患者と健康個体を識別するのに最適な血漿ALBmRNA濃度カットオフ点で感度及び特異度を計算した。
【0086】
サンプルの採取及び調製
血漿を回収するために、各血液サンプルを最初に1600g、4℃で10分間遠心分離した(ドイツ、エッペンドルフ社製のCentrifuge 5810R)。上清を単純なポリプロピレン管に注意深く移し、16000g、4℃で10分間再度遠心分離した(エッペンドルフ社製、Centrifuge 5417R)(Chiu et al., Clin Chem 2001 ;47:1607-13)。次いで、底のペレットを乱さずに血漿を新しいポリプロピレン管に移した。次いで、血漿それぞれ1.6mLを4.8mLのTrizol LS試薬(インビトロジェン社製)と混合し、抽出まで−80℃で保存した(Heung et al., Prenat Diagn 2009;29:277-9)。
【0087】
RNA抽出
各血漿−TRIzol LS混合物を解凍し、1.28mLのクロロホルムと混合した。12000g、4℃で15分間遠心分離することにより、RNAライセートを異なる相に分離した。次いで、水層を新しいポリプロピレン管に注意深く移した。RNA沈殿には、1体積の水層に700mL/Lのエタノールを1体積添加した。混合物をRNeasy Mini Kit(カリフォルニア州バレンシアのキアゲン社製)のスピンカラムに入れ、メーカーのプロトコールに従って処理した。全RNAを、RNaseを含まない水50μlに溶出した。全てのRNAサンプルを、Amplification Grade Deoxyribonuclease I(インビトロジェン社製)をメーカーの取扱説明書に従って用いて前処理した後、使用時まで−80℃で保存した。
【0088】
DNA抽出
バフィーコート、口腔細胞、毛包細胞、及びパラフィン処理した肝生検組織のDNA抽出を、QIAamp Blood Mini Kit(キアゲン社製)又はQIAamp DNA Mini Kit(キアゲン社製)を適宜メーカーに推奨されているように用いて行った。全てのDNAサンプルを、再蒸留水50μlに溶出し、使用時まで−20℃で保存した。
【0089】
MassARRAY(商標) homogenous MassEXTEND(商標)(hME)アッセイ及び質量分析検出によるRNA−SNP分析
逆転写
耐熱性トリ逆転写酵素(ThermoScript(商標) Recverse Transcriptase、インビトロジェン社製)と遺伝子特異的プライマー(インテグレイテッドDNAテクノロジーズ社製;表3参照)を終濃度0.5μMで用いて、55℃で1時間、RNAサンプルを逆転写した。
【0090】
PCR増幅
逆転写されたcDNAを増幅するための各反応液は、0.6×HotStar Taq PCRバッファー及び0.9mMのMgCl(キアゲン社製)、それぞれ25μMのdATP、dGTP、及びdCTP、並びに50μΜのdUTP(アプライドバイオシステムズ社製)を含む。DNA増幅のための各反応液は、1×HotStar Taq PCRバッファー及び1.5mMのMgCl(キアゲン社製)、更に1mMのMgCl(キアゲン社製)、それぞれ50μMのdATP、dGTP、及びdCTP、並びに100μMのdUTP(アプライドバイオシステムズ社製)を含む。全PCRについて、フォワードプライマー及びリバースプライマー(アイオワ州コーラルビルのインテグレイテッドDNAテクノロジーズ社製;表4参照)は200nMであり、HotStar Taq Polymerase(キアゲン社製)は終濃度0.5Uであった。PCRは95℃15分間で開始し、その後、95℃20秒間の変性、56℃30秒間のアニーリング、72℃1分間の伸張を45サイクル行い、最後に72℃で3分間インキュベートした。
【0091】
塩基伸張
PCR産物を、0.6Uのエビアルカリホスファターゼ(シーケノム社製)、0.34μMのMassARRAY(商標) Homogenous MassEXTEND(商標)(hME)バッファー(シーケノム社製)、及び3.06μLの水を用いたエビアルカリホスファターゼ(SAP)処理に供した。混合物を37℃で40分間、次いで85℃で5分間インキュベートし、余分なdNTPを除去した。hMEアッセイ(シーケノム社製)を用いて遺伝子型同定を行った。RNAのSNP遺伝子型同定では、1.2μMの伸張プライマー(インテグレイテッドDNAテクノロジーズ社製;表3参照)、1.15UのThermosequenase(シーケノム社製)、並びにそれぞれ64μMのddATP、ddCTP、及びdGTP(シーケノム社製)を含む9μLの塩基伸張反応カクテルを、SAP処理されたPCR産物5μlに添加した。DNAのSNP遺伝子型同定では、0.771μΜの伸張プライマー(インテグレイテッドDNAテクノロジーズ社製;表I参照)、1.15UのThermosequenase(シーケノム社製)、並びにそれぞれ64μMのddATP、ddCTP、及びdGTP(シーケノム社製)を含む4μLの塩基伸張反応カクテルを、SAP処理されたPCR産物10μlに添加した。反応条件は、RNA−SNPの遺伝子型同定では、94℃2分間、次いで、94℃5秒間、52℃5秒間、及び72℃5秒間を85サイクルとした。DNA−SNPの遺伝子型同定では、プライマー伸張反応に同じ熱プロファイルで75サイクルを用いた。
【0092】
液体の分注及びMALDI−TOF MSデータ解析
最終塩基伸張産物を、12mgのClean Resin(シーケノム社製)及び24μLの水を添加することで浄化した。混合物をローテータ−中で20分間混合した。361gで5分間遠心分離した後、10nLの反応溶液を、MassARRAY Nanodispenser S(シーケノム社製)によりSpectroCHIP(シーケノム社製)に分注した。SpectroCHIPからのデータ取得にはMassARRAY Analyzer Compact Mass Spectrometer(ウィスコンシン州マディソンのブルカー社製)を用いた。質量分析データは自動的にMassARRAY Typer(シーケノム社製)データベースにインポートされて分析された。
【0093】
リアルタイム定量PCRによる血漿中のALBmRNA転写産物の検出
Primer Express v2.0(アプライドバイオシステムズ社製)を用いてALBmRNA定量化のアッセイをデザインした。フォワードプライマー及びリバースプライマーはそれぞれエキソン1及びエキソン2に位置し、インテグレイテッドDNAテクノロジーズ社により合成された。蛍光プローブ(カリフォルニア州フォスターシティーのアプライドバイオシステムズ社製)はエキソン1と2の間の連結部にまたがり、混入ゲノムDNAの増幅を防止する(表4参照)。In silicoでの特異性スクリーニング及び配列アラインメントを行い、アンプリコンがALB上の標的位置に特異的であり、スプライスバリアントを有していないことを確認した。
【0094】
逆転写
定量的リアルタイムPCR反応を反応体積25μlでメーカーの取扱説明書に従い手動で設定した(TaqMan EZ RT−PCR Core Reagents;カタログ番号N8080236;アプライドバイオシステムズ社製)。反応液当たりの各成分の終濃度は以下の通りであった:EZバッファーl×、酢酸マンガン溶液3mM、dNTP300μM、AmpErase UracilN−Glycosylase0.25ユニット、フォワードプライマー400μM、リバースプライマー400μM、プローブ200μM、rTth DNAポリメラーゼ2.5ユニット、添加物は使用しなかった。増幅には、3μLの抽出血漿RNAを96ウェル反応プレートの各ウェルに添加した(MicroAmp Optical 96−Well Reaction Plate;カタログ番号N8010560;アプライドバイオシステムズ社製)。ALBmRNA分析に用いた熱プロファイルは以下の通りである:50℃2分間で反応を開始させて含まれているウラシルN−グリコシラーゼを作用させ、その後、60℃で30分間逆転写した。95℃で5分間の変性後、94℃20秒間の変性及び58℃1分間のアニーリング/伸張のPCRを45サイクル行った。各サンプルは2複製分(in duplicate)分析し、対応する較正曲線の分も各分析と並行して行った。
【0095】
全ての分析に、複数の水ブランク及び肝臓組織RNAをそれぞれ陰性対照及び陽性対照として含めた。rTth ポリメラーゼをAmpliTaq Gold酵素(アプライドバイオシステムズ社製)に変えることで、サンプルがDNAに対して陰性であることを確認するサンプル検査も行った。全ての陰性の水ブランク及び「RTなし」対照の分析で、増幅は観察されなかった。このことはアッセイがmRNAに特異的であることを示している。PCR産物の特異性をゲル電気泳動分析により検証した。反応ウェル1個当たり3コピーを含む40個の複製ウェル(=全部で80ウェル)の98%で検出に成功(サイクルの閾値の中央値(範囲)が38.6(37.8〜44.3))したことから、ALB分析の検出限界は反応ウェル1個当たり3コピーであることが分かった。同じ反応プレート上の20個の複製(duplicate)ウェル中で、ROC解析で肝疾患患者を健康対象と識別するための血漿ALBmRNA濃度のカットオフレベルとして定義された835コピー/mLにALB mRNA濃度を調整したサンプルを測定することにより、ALBmRNAアッセイのアッセイ内CVを評価した。複製(replicate)から検出された平均ALB mRNA濃度は855コピー/mLであり、SDは85コピー/mL、CVは9.97%であった。
【0096】
II.結果
循環中のALB mRNAの起源
血漿及び全血中のALBmRNAが肝臓由来であるかどうかを突き止めるために、LTレシピエント及びBMTレシピエントの循環中に見られるALB mRNA分子の遺伝子型を同定するためのRNA−SNPアッセイを開発した。分析は、対応するレシピエントと調査対象のALB SNPの遺伝子型が異なるドナーとして定義された情報価値のあるドナー・レシピエントのペアに焦点を当てた。肝移植後、ALBmRNAが本当に肝臓由来である場合、レシピエントの循環中に見られるALB mRNA分子について、ドナーのものに対応する遺伝子型が観察されるはずである。あるいは、循環ALBmRNAのプールに他の組織源が寄与する場合、レシピエントのALB遺伝子型が検出されるはずである。造血細胞が循環ALB mRNAの混入源であり得ることを実証するために、同様なRNA−SNP分析をBMTのレシピエントに対して行った。同様に、造血細胞が循環にALBmRNAを提供する場合、循環ALB mRNA分子は骨髄ドナーの遺伝子型を示す。
【0097】
LT29例を研究した。そのうち、9名のレシピエントは生きている親類から肝臓を得、残りは死体から肝臓を得ている。これらのドナー・レシピエントペアの15例は、ドナーとレシピエントで異なるALB遺伝子型を示すため、情報価値があると見なした。表1に情報価値のあるドナー及びレシピエントの遺伝子型同定データを要約する。情報価値がある症例のうち、移植後のレシピエントの血漿中で検出されたALBmRNAの遺伝子型は、レシピエントの本来の遺伝子型とは異なり、肝臓ドナーのものに対応していた。
【0098】
集められたBMT20例のうちの5例に情報価値があった。遺伝子型同定データを表1に要約する。BMTの前後でレシピエントの血漿中のALBmRNA遺伝子型に変化はなかった。したがって、ドナーの骨髄はレシピエントの血漿中のALB mRNAに大きく寄与していなかった。
【0099】
血漿に加えて、移植後の情報価値のあるLTレシピエント及びBMTレシピエントから採取した全血中のALBmRNAに対してもRNA−SNP分析を行った。情報価値のあるLT12例及び情報価値のあるBMT4例がこの分析に同意した。遺伝子型同定データを表1に要約する。血漿データと異なり、全血ALBmRNAでは、骨髄ドナーからの寄与(症例B8及びB10)及びLTレシピエントからの寄与(症例L8、L18、L23、L24、及びL25)が観察された。要約すると、血漿のALBmRNAは肝臓由来であったが、全血中のALB mRNAは肝臓特異的ではなかった。
【0100】
血漿ALB mRNAの定量分析
血漿ALB mRNAが肝臓特異的であることを確認した後、本発明者らは、種々の肝臓合併症患者107名及び健康個体207名から得た血漿中のALBmRNA濃度を評価した。患者のうち、35名はHCCが確認されており、25名は生検により肝硬変が示されており、24名はCHBであり且つ血清中のHBVのDNA濃度が10,000コピー/mL超、すなわちウイルス複製が活性であり、23名はCHBであり且つ血清中のHBVのDNA濃度が10,000コピー/mL未満、すなわちウイルス複製が不活性であった。全健康個体は、検査の結果、HBsAg陰性であり、肝機能検査のパラメーターは、標準的な血漿生化学検査による基準範囲内であった。
【0101】
参加者の人口統計、生化学検査、ウイルス学的調査、及び血漿ALBmRNA濃度の中央値に関する情報を表2に要約する。314名の参加者のうち、308名(98.1%)で血漿ALB mRNAが検出され、患者1名及び対照5名で読取りが陰性であった。全グループの血漿ALB mRNAの濃度を図1に示す。血漿ALB mRNA濃度は参加者グループ間で統計的に有意に異なっていた(P<0.0001、クラスカル・ワリス検定)。サブグループ解析により、対照と比べて、HCC患者(P<0.0001)、肝硬変患者(P=0.0068)、及び活性CHB患者(P<0.0001)で血漿ALBmRNA濃度の統計的に有意な上昇が示された。対照と不活性CHB患者の間で血漿mRNA濃度に統計的有意差はなかった(P=0.4239、Dunn検定)。これらのデータは更に、不活性CHB患者の肝臓状態が一般的に健康対照と同様であることを裏付けている。
【0102】
血漿ALB mRNA濃度が肝臓病変の有効な指標となるかどうかを評価するために、ROC曲線の解析を行った(図2)。AUCから、肝臓病変の指標として血漿ALBmRNAを用いる診断有効性は92.9%であることが示唆された。835コピー/mLの血漿ALB mRNAをカットオフとして用いると、評価した肝臓病変のいずれかの検出における感度及び特異度はそれぞれ85.5%及び92.8%であった。
【0103】
血漿ALB mRNA濃度と従来の肝機能検査パラメーターの関係
全研究参加者(患者及び対照)のデータを考慮した結果、血漿ALBmRNA濃度は以下と弱く相関していた:血漿総ビリルビン(r=0.133、P=0.018、スピアマンの相関)、アルカリホスファターゼ(r=0.126、P=0.0255)、及びALT(r=0.207、P=0.0002;図3)。
【0104】
患者107名のうち、ALTレベルが上昇していた(>58IU/L)のは患者23名(21.5%)だけであったが、血漿ALBmRNA濃度は62名(73.8%)の患者で835コピー/mLを超えていた。肝生検で確認されたHCC患者35名について、アルファフェトプロテインレベルが上昇していた(>20μg/L)のは患者17名(49%)だけであった(Sherman et al., Hepatology 1995;22:432-8)。しかし、図4に示されるように、血漿ALB mRNA濃度はこれらの患者の32名(91.4%)で上昇していた。
【0105】
肝機能が正常な対象における血漿ALBmRNA分析
肝疾患の患者では血漿ALBmRNAが上昇していたが、血漿ALT又はAFPレベルは正常であったことは注目に値する。ALTは、肝細胞損傷を示すために習慣的に使用されている生化学マーカーである。これらのデータは、肝疾患の検出においてALBmRNAが血漿ALTよりも感度が良いことを示している。これらの知見を考慮して、血漿ALTが正常な対象だけを含めてデータを再度分析した。この研究に関わる検査室により提供された正常な血漿ALTの基準範囲は<58U/Lであった。
【0106】
合計291名の研究参加者で血漿ALTが正常であった。これは全参加者の93%である。この参加者サブグループの人口統計、生化学検査、ウイルス学的調査、及び血漿ALBmRNA濃度の中央値に関する情報を表5に要約する。血漿ALTが正常な全グループの血漿ALB mRNA濃度を図6に示す。血漿ALB mRNA濃度はサブグループ間で統計的に有意に異なっていた(P<0.0001、クラスカル・ワリス検定)。更なる分析から、対照と比べて、HCC患者(P<0.0001)、肝硬変患者(P=0.0094)、及び活性CHB患者(P<0.0001)は血漿ALBmRNA濃度が統計的に有意に上昇していることが示された。対照と不活性CHB患者の間で血漿mRNA濃度に統計的に有意な差はなかった(P=0.2723、Dunn検定)。
【0107】
このサブグループについてROC曲線解析を行った(図7)。AUCから、肝臓病変の指標として血漿ALBmRNAを用いることの診断有効性が87%であることが示唆された。835コピー/mLの血漿ALB mRNAをカットオフとすると、評価した肝臓病変のいずれかに対する感度及び特異度はそれぞれ74%及び93%であった。
【0108】
このサブグループ解析により更に、肝機能検査が正常な個体、例えば血漿ALTレベルが正常な個体間でも、血漿ALBmRNA分析は肝臓病変を検出するための高感度マーカーであることが確認された。
【0109】
将来の有害事象の予測因子(predictor)としての血漿ALBmRNA上昇
上記の遺伝子型同定研究に参加したLTレシピエント29名を更に調査した。遺伝子型同定に加えて、前述したようにリアルタイム定量PCRによって血漿ALBmRNA濃度を測定した。同時に血漿ALTレベルも評価した。Cheung et al., Transplantation 2008;85:81-7に記載されている対象と異なり、全患者について、研究募集時点で、LT後のHCCの発症は知られてなかった。医学的注意又は入院が必要な全ての有害事象について125週間まで参加者をモニタリングした。5名の参加者は香港のプリンス・オブ・ウェールズ病院での追跡に戻って来なかったので、研究のこの部分から除外した。残りの24名の参加者のうち、表6に示すように、その後のデータで9名がHCC以外の有害事象を発症した。これら9名のうち6名で医学的合併症の発症に先立って血漿ALBmRNA濃度が上昇(>835コピー/mL)していた。これらの対象のうち、採血の時点で血漿ALTレベルが上昇していたのは3名だけであった。これらのデータは、LT後レシピエントの肝臓関連合併症について血漿ALBmRNA濃度の上昇が血漿ALTよりも優れた早期予測因子であることを示している。これらのデータは、HCC以外の肝臓関連合併症もALBmRNAレベルの上昇によって予測できることを示している。肝臓関連合併症を発症しなかった参加者15名のうち、血漿ALB mRNAレベルが835コピー/mLを超えていたのは1名だけであった(表6の症例14)。肝臓関連合併症を発症した対象及び発症しなかった対象の間で、血漿ALBmRNAが上昇していた対象の割合は統計的に有意に異なっていた(P<0.001、フィッシャーの直接検定)。これらのデータは、ALBmRNAレベルの上昇が肝疾患の比較的特異的な早期の徴候及び予測因子であることを示している。血漿ALB mRNAの程度は、肝臓合併症の重症度、すなわち予後値を示し得る。
【0110】
過去の肝疾患から完全に回復した個体における血漿ALBmRNA濃度
肝臓合併症後の正常レベルへのALBmRNAの回復は、正常な肝機能の回復を示す。全LTレシピエントは、肝機能の重度な損傷を招いた状態のため、LTが必要になった。そこで、レシピエントは、LT処置され、疾患を有する元々の肝臓が健康な肝臓と交換された。その後のLT後の期間に肝臓関連合併症を発症しなかったレシピエント(表6)では、血漿ALBmRNA濃度が図1及び6に示す健康対照に匹敵し、統計的に有意な差がない(P=0.686、マン・ホィットニー検定)ことは興味深い(図8)。これらのデータは、以前に肝臓の傷害があっても、血漿ALTが正常であり且つ関連する徴候及び症状がないことにより示される正常な肝機能の肝臓を受けた後、血漿ALBmRNA濃度が正常なレベルに戻ることを示している。同様に、肝機能検査が正常であること並びに関連する徴候及び症状がないことにより示されるように肝臓傷害から回復したが、処置としてLTを受けなかった個体で、血漿ALBmRNA濃度は正常化すると予想される。したがって、回復後の段階で血漿ALB mRNA濃度が上昇した場合、これは再発又は別の肝疾患の発生を示している。
【0111】
III.ディスカッション
循環する核酸の分析を介して疾患を診断及び管理するための血液に基づくツールの開発の可能性は大きな関心を集めている(Chan et al. Ann Clin Biochem 2003;40:122-30;Anker et al., Int J Cancer 2003;103:149-52;Lo et al., Nat Rev Genet 2007;8:71-7;Lo et al., Lancet 1998;351:1329-30;Lo et al., Clin Chem 2000;46:319-23)。循環RNAの検出は、DNAの検出に対する確かな利点がある(Lambrechts et al., Ann Oncol 1998;9:1269-76)。細胞型間及び疾患間で発現プロファイルが異なるため、組織特異的又は疾患特異的な転写産物を、疾患評価のマーカーとして活用することができる。特定の臓器に固有のRNA転写産物を選択した場合、RNAによるアプローチは、より広範にその臓器の疾患に応用可能であり、特異的DNAサインを有する一部の症例だけに限定されない。更に、血漿RNA及びDNAの両方が同じ細胞集団に由来する場合、放出されるRNAは、DNAよりも量的に豊富であると考えられる。これは、その発現レベルに応じてRNA転写産物は各細胞中に複数コピー存在し得るが、各細胞は1個の二倍体ゲノムに相当するDNAしか含まないためである。実際、一部の癌研究者は、癌の症例の大部分が、調査した血漿DNAマーカーよりも血漿RNAマーカーに陽性であることを報告している(Anker et al., Int J Cancer 2003;103:149-52)。
【0112】
臓器又はコンパートメントから血漿中への無細胞核酸の遊離が細胞死によるものであることを示唆する証拠が集まってきている(Jahr et al., Cancer Res 2001;61:1659-65;Fournie et al., Cancer Lett 1995; 91:221-7;Fournie et al., Gerontology 1993; 39:215-21)。肝臓は体の最も大きな臓器の1つであり、本発明者らは、正常な細胞の代謝回転及び/又は病的損傷に関連する細胞死により、肝臓で発現されたALB等のRNAが末梢循環中で検出可能であろうと考えた。実際、研究により循環ALBmRNAの存在が報告されているが、その成功の程度はばらばらである(Cheung et al., Transplantation 2008;85:81-7)。一部の研究者は、血液ALB mRNAの起源が、末梢循環に入った悪性又は非悪性の肝細胞であることを示唆している(Hillaire et al., Gastroenterology 1994;106:239-42;Kar et al., Hepatology 1995;21:403-7)。しかし、Muller et al. (Hepatology 1997;25:896-9) は、末梢単核細胞がALB mRNAを発現するように誘導され得ることを報告している。実際、過去の報告では、非正当的遺伝子転写(illegitimate gene transcription)により、循環中の検出可能な臓器特異的と考えられる特定の転写産物が実際に他の細胞集団、例えば造血細胞に由来し得ることが示されている(Chan et al., Clin Chem 2007;53:1874-6;Heung et al., PLoS One 2009;4:e5858)(Lambrechts et al., Ann Oncol 1998;9:1269-76;Chelly et al., Proc Natl Acad Sci U SA 1989;86:2617-21)。
【0113】
したがって、本研究で、本発明者らは最初に、ヒトの血漿及び全血中で検出可能なALBmRNAが肝臓由来であり且つ肝臓特異的であるかどうかを確認することを目標とした。ALBコードSNPの遺伝子型が異なるLT又はBMTのドナー・レシピエントペアを研究し、血漿及び全血中のRNA−SNP遺伝子型を決定した。データから、血漿中で検出されたALBmRNAは肝臓特異的であるが、全血中で検出されたALB mRNAは肝臓特異的でないことが実証された。データは更に、全血中で検出されたALBmRNAのプールに、造血細胞によって発現されたALB mRNAが寄与した可能性を示していた。これらの知見は、全血中でのALBmRNA検出に関する過去に報告されているデータの解釈に注意を喚起するものである。肝疾患のバイオマーカーとしてのALB mRNAの将来における研究では、血漿が全血よりも好ましい。残留血液細胞が血漿中のALB mRNA分子に混入する可能性を最低限に抑えるために、以前に報告されているように、血漿は2回の遠心分離工程によって調製されるべきである。
【0114】
次いで、本発明者らは、血漿ALBmRNA定量化のための1段階RT−qPCRアッセイを開発した。本研究における血漿ALB mRNAの検出率は98.1%であった。ある最近の研究は、2段階RT−qPCRを用いて肝移植レシピエントにおけるHCC再発を予測するための血漿ALBmRNA検出の役割を調べ、82%の検出率を報告している(Cheung et al., Transplantation 2008;85:81-7)。その報告中のディスカッションセクションで、Cheung et al.は、血漿ALB mRNAの検出陽性は循環HCC細胞の存在を示し、血漿ALBmRNA陰性のLTレシピエントは循環中にHCCが存在しないことを示唆すると考えられると述べている。しかし、本研究のデータは、健康対照を含むほとんど全ての対象の血漿中で血漿ALBmRNAが検出可能であることを示している。これらのデータは、循環HCC細胞が血漿ALB mRNAの起源であったとしても、それが唯一の起源ではないことを示している。したがって、血漿ALB mRNAはそれよりも、なんらかの肝臓細胞死により血漿中に放出されると考えられ、LT後のHCCに限らず、種々の肝疾患の検出に有用である。本発明者らによる血漿ALBmRNA検出率の改良は、1段階RT−qPCRプロトコールの分析感度及びALB遺伝子のより5’末端側を標的としていることに関係し得ると考えられる。本発明者らは、血漿中の循環mRNAが無傷の全長転写産物ではない可能性があることを以前に報告しており、5’が優勢であることを示している(Wong et al., Clin Chem 2005;51:1786-95)。
【0115】
HCC、肝硬変、及び活性CHBの患者では血漿ALBmRNA濃度が対照よりも有意に高いが、不活性CHB患者ではそうではないことが見出された。これらのデータは、ALB mRNAが細胞死によって血漿中に放出され、細胞死の程度に相関し得ることを示している。
【0116】
ROC曲線解析により、血漿ALBmRNA測定が肝臓病変の存在を検出するための魅力的手段であることが見出された(92.9%)。特にHCCグループでは、アルファフェトプロテインの上昇は症例の48.6%でしかなかったが、ALBmRNA濃度の上昇は大部分(91.4%)が示した。
【0117】
その診断感度にも関わらず、血漿ALBmRNAは如何なる特定の病因の肝臓病変にも特異的ではない。しかし、血漿ALB mRNA濃度は血清ALT活性−濃度といくらかの相関があった。血漿ALBmRNAは、ALTレベルが正常な肝疾患患者でも上昇が見られた(図3)。これらの観察結果は、血漿ALB mRNAが、ALT活性−濃度が多くの場合基準限界内である初期段階の慢性肝疾患を検出するための高感度マーカーであることを示している。
【0118】
要約すると、本発明者らの実験データから、血漿ALBmRNAは肝臓に由来し、肝臓に特異的であるが、全血ALB mRNAはそうでないことが明らかとなった。種々の肝臓病変で血漿ALBmRNA濃度の上昇が観察され、そのような疾患の評価又は管理におけるその臨床的有用性について更なる研究が必要である。
【0119】
実施例2:血漿アルブミンmRNAのモニタリングによる肝移植後合併症の感度の高い検出
本研究で、本発明者らは、血漿ALBmRNA濃度の有意な上昇が慢性肝炎、肝硬変、及び肝細胞癌(HCC)に関連することを示した。これらのデータから、肝臓病変の検出において血漿ALBmRNAは血漿アラニントランスアミナーゼ(ALT)活性よりも感度が良いことが明らかとなった。肝機能の長期モニタリング及び肝臓傷害の早期発見は、肝移植後レシピエントを含む種々の肝臓病変患者の連続的ケアに重要な側面である。したがって、本研究は、肝移植レシピエントを例として用い、過去に肝臓病変を有したことが分かっている患者のケアに血漿ALBmRNA測定値が何らかの価値を付与するかどうか調査することを目標とした。
【0120】
I.材料及び方法
参加者
2006年6月から2009年7月にかけて、過去に香港のプリンス・オブ・ウェールズ病院の外科で肝移植を受けた24名の患者を募集した。肝移植後レシピエントは通常、3〜6ヶ月毎に又は臨床的に必要であればそれより多く、肝移植クリニックに来院した。各来診中、身体的、生化学的、及び血清学的検査を行った。本研究での血漿ALBmRNAの連続分析は、3年以内の期間中に前腕静脈から採った末梢血液6mLを最大7つ用いた。施設内審査委員会から倫理的承認を得、各レシピエントからインフォームド・コンセントを得た。
【0121】
サンプルの採取及び処理
サンプル採取及び処理の方法は以前に記載されている通りである(Chan et al., Clin. Chem. 2010; 56:82-9)。簡潔に述べると、血液試料を、EDTAを含む管に採り、すぐに4℃に維持し、4時間以内に処理した。血漿は二重遠心分離プロトコール(Chiu et al., Clin. Chem. 2001; 47:1607-13)により回収した。血漿RNAは、RNeasy Mini Kit(カリフォルニア州バレンシアのキアゲン社製)をTRIzol LS試薬(カリフォルニア州カールズバッドのインビトロジェン社製)と用いるプロトコールにより抽出した(Heung et al., Prenat. Diagn. 2009; 29:277-9)。全RNAを、RNaseを含まない水50μLに溶出し、Amplification Grade Deoxyribonuclease I(インビトロジェン社製)をメーカーの取扱説明書に従って用いて処理した後、使用時まで−80℃で保存した。
【0122】
血漿中のALB mRNAの定量化
1段階逆転写定量リアルタイムポリメラーゼ連鎖反応(RT−qPCR)を用いて血漿ALBmRNA濃度を測定した。簡潔には、5’領域のエキソン1及びエキソン2にまたがる78bpのALBアンプリコンが増幅されるように、ALBmRNA定量化のためのintron−spanningアッセイをデザインした。反応は、EZ rTthRNA PCR試薬セット(カリフォルニア州フォスターシティーのアプライドバイオシステムズ社製)を用いて反応体積25μLで設定した。標的ALBアンプリコンを特定する高速液体クロマトグラフィー精製した一本鎖合成DNAオリゴヌクレオチド(シンガポールのシグマ−プロリゴ社製)の段階希釈物を用いて、ALBmRNAの絶対量定量化のための較正曲線を作製した。このアッセイの検出下限は反応液当たり1コピーであり、線形性は反応液当たり10コピーまでである。各サンプルは2複製分(in duplicate)分析し、対応する較正曲線の分も各分析と平行して行った。ABI Prism 7900 Sequence Detector(アプライドバイオシステムズ社製)及びSequence Detection Softwareバージョン2.2(アプライドバイオシステムズ社製)により、ALBmRNAの増幅をモニタリングした。血漿中のALB mRNAの絶対濃度はコピー/mLで表した。
【0123】
肝機能の評価
PWHの化学病理学研究室で、DPE Modular Analytics system(スイス、バーゼルのロシュ・ダイアグノスティックス社製)を用いて、アルブミン、総ビリルビン、アルカリホスファターゼ(ALP)、アラニントランスアミナーゼ(ALT)、及びアルファフェトプロテインの血漿分析を行った。
【0124】
統計解析
統計解析は、Windows版SigmaStat Version 3.5 ソフトウェア(イリノイ州シカゴのシスタット・ソフトウェア社(Systat Software inc.)製)を用いて行った。連続変数を中央値及び範囲で表した。クラスカル・ワリスのH検定及びマン・ホィットニーのU検定を適宜用いて、血漿ALBmRNA濃度及びその他のパラメーターをグループ間で比較した。血漿ALB mRNA濃度と他のパラメーターの間の相関をスピアマンの順位相関によって求めた。0.05未満のp値を統計的に有意と見なし、全ての確率は両側検定とした。
【0125】
II.結果
研究期間中に血漿ALBmRNA測定のために少なくとも3回採血した男性20名、女性4名の計24名の肝臓レシピエントを研究した。肝移植は1991年〜2004年の間にPWHで行われた。9名は生きたドナーからの肝移植であり、15名は亡くなったドナーからの肝移植であった。肝移植の適応には、HCC(12例)、肝硬変(7例)、肝不全(3例)、B型劇症肝炎(1例)、及びアルコール性肝硬変(1例)が含まれていた。
【0126】
本研究では、研究期間中に肝臓に関連する臨床的後遺症を発症したかどうかで24名のレシピエントを2つのグループに分けた。14名のレシピエント(男性12名、女性2名)は、安定な臨床状態に反映されていたように、経過が順調であり、生化学的肝機能検査プロファイルが「安定」グループに分類された。一方、研究期間中に入院又は外科処置を要する肝臓関連合併症の発症の経緯が1回又は複数回ある10名のレシピエント(男性8名、女性2名)を「不安定」グループに分類した。24名のレシピエントのうち、研究期間中にHCCが再発した者はいなかった。
【0127】
研究登録時の初期解析
登録時、レシピエント24名の年齢中央値は56.2歳(範囲は17〜69)であり、安定グループと不安定グループの間で年齢の中央値に統計的に有意な差はなかった(マン・ホィットニーのU検定、P=0.254)。
【0128】
安定グループのレシピエント全14名を、肝臓病専門医による評価及び生化学的肝機能検査プロファイルが良好であることに基づいて登録時に臨床的に安定であると見なした。安定グループでは、アルブミン、ビリルビン、ALP、及びALTレベルの血漿値の中央値はそれぞれ44g/L(40〜49)、15μmol/L(7〜38)、82U/L(59〜290)、及び32U/L(10〜69)であった。
【0129】
不安定グループのレシピエント10名のうち9名は、研究登録時には臨床的に安定であった。例外1名はレシピエント番号U07であり、登録時にアルコール性肝硬変の再発及び軽度な慢性拒絶反応が診断された。不安定グループの血漿アルブミン、ビリルビン、ALP、及びALT濃度の中央値はそれぞれ44g/L(38〜45)、19μmol/L(10〜31)、169U/L(73〜379)、及び53U/L(24〜155)であった。2つのグループ間で、アルブミンの血漿濃度間(P=0.341)及びビリルビンの血漿濃度間(P=0.538)に統計的に有意な差はなかった。しかし、血漿ALP(P=0.015)及び血漿ALT(P=0.035)濃度は不安定グループが安定グループよりも統計的に有意に高かった。
【0130】
登録時の2グループの血漿ALBmRNA濃度を図9に示した。血漿ALB mRNA濃度の中央値は、安定グループでは533コピー/mL(69〜2,399)であるが、不安定グループでは1、540コピー/mL(203〜37,524)であった(P=0.021、マン・ホィットニーのU検定)。本発明者らは過去の研究(Chan et al., Clin. Chem. 2010;56:82-9)で、受信者動作特性曲線解析を用いて、健康対照と肝臓病変患者を識別するための特異的で感度の良いカットオフを835コピー/mLと同定した。同じカットオフを本研究に採用し、本発明者らは、安定グループの21%(3/14)及び不安定グループの70%(7/10)で血漿ALBmRNA濃度が上昇していることを見出した。血漿ALB mRNA濃度が上昇している症例の割合は2つのグループで統計的に有意に異なっていた(カイ二乗、P<0.0001)。本発明者らは更に、24名のレシピエントの血漿ALBmRNA濃度と生化学的肝機能検査パラメーターの関係を研究した。血漿ALB mRNA濃度はALP(スピアマンの相関、r=0.71、P<0.0351)及びALT(r=0.45、P=0.03)の血漿濃度と有意に相関していたが、アルブミン(r=−0.16、P=0.46)又はビリルビン(r=0.15、P=0.5)の血漿濃度とは相関していなかった。
【0131】
血漿ALB mRNAの連続モニタリング
レシピエント24名の臨床経過を110週間(中央値)追跡した。安定グループの全体的研究期間112週間(87〜160)は不安定グループの全体的研究期間107週間(69〜159)と比較可能であり、統計的に有意な差はなかった(P=0.412)。研究期間中、血漿ALBmRNA分析用に105個の血液検体(安定グループから56、不安定グループから49)を集め、それらは全て検出可能な血漿ALB mRNAを有していた。
【0132】
臨床経過が安定な肝移植後レシピエント
安定グループのレシピエント14名のうち12名(86%)は、研究期間を通して臨床経過が順調であった。研究中に取った全測定値についての安定グループのアルブミン、ビリルビン、ALP、ALTの血漿濃度の中央値はそれぞれ44g/L(35〜49)、15μmol/L(5〜38)、85U/L(59〜290)、及び28U/L(10〜158)であった。登録時に採った最初の血液サンプルと一致して、安定グループの血漿ALBmRNA濃度の中央値は418コピー/mL(52〜15,320)であった。図10Aは、安定グループから取った全血漿ALB mRNA測定値のプロットである。血漿ALB mRNA測定値の25%(14/56)だけが835コピー/mLを超えていた。安定グループの全血漿ALBmRNA測定値をグループ化すると、5パーセンタイル及び95パーセンタイルの値はそれぞれ90コピー/mL及び2,400コピー/mLであった。これらのレシピエント12名の全ての場合において、生化学的肝機能検査プロファイルに顕著な変化はなかった。
【0133】
安定レシピエント14名のうち2名(14%)は、生化学的肝機能検査パラメーターが時々上昇したが、治療介入なしに迅速に正常範囲内に戻った。そのような状況で測定された2名のレシピエントの血漿ALBmRNA濃度は15,320及び2,399コピー/mLであった。しかし、このレベルはその後の来院でそれぞれ497及び1,044コピー/mLに戻った。相関分析により、研究期間中に安定レシピエント14名で測定された血漿ALBmRNA濃度は、ALPの血漿濃度(r=0.41、P=0.002)とは有意な相関がないが、アルブミン(r=−0.06、P=0.68)、ビリルビン(r=−0.19、P=0.16)、ALT(r=0.19、P=0.16)とは有意な相関がないことが実証された。
【0134】
臨床経過が不安定な肝移植後レシピエント
不安定グループのレシピエント10名は、研究期間中に肝臓関連合併症の発症が少なくとも1回あった。表7に、研究中に不安定グループのレシピエントで発症した肝臓関連合併症を記載する。研究期間中に取られた全測定値をグループ化した結果、不安定グループのレシピエントの血漿アルブミン、ビリルビン、ALP、及びALT濃度の中央値はそれぞれ40g/L(16〜46)、23μmol/L(5〜250)、150U/L(46〜601)、及び50U/L(20〜413)であった。不安定グループの血漿ALBmRNAレベルの中央値は2,721コピー/mL(203〜61、694)であり、これは安定グループ(418コピー/mL)より6.5倍高い。安定レシピエントでは一貫して血漿ALBmRNA濃度が低かったのに対し、図10Bに示されるように、不安定レシピエントでは、血漿ALB mRNA濃度の大きな変動性又は一様な連続的上昇を観察することができた。不安定グループの血漿ALB mRNA測定値の78%(38/49)が835コピー/mLを超えていた。安定グループ及び不安定グループで血漿ALB mRNA濃度が上昇していた測定値の割合は統計的に有意に異なっていた(カイ二乗、P<0.0001)。
【0135】
不安定グループのレシピエント10名について、6名は急性肝臓合併症(症例U01〜U06)を発症し、4名は慢性肝臓合併症(症例U07〜U10)を有していた。急性グループ及び慢性グループにおける血漿ALBmRNA濃度及びALT活性−濃度の連続的測定値をそれぞれ図11及び12にプロットした。
【0136】
急性肝臓関連合併症を有する不安定レシピエント
肝臓関連合併症の各発症の診断時間を図11及び12のプロット中に記載した。急性肝臓関連合併症が報告されたレシピエント6名のうち、4例で、合併症が診断された時点よりも先に血漿ALBmRNA濃度が(カットオフ値835コピー/mLを超えて)上昇していた(図11)。合計で、U01〜U06の症例で9件の合併症が報告された。診断が行われた時点で、合併症の全発症例で血漿ALBmRNA濃度が上昇していた。一方、血漿ALT活性が上昇していた(>58U/L)のは9件のうち4件だけであった。
【0137】
慢性肝臓関連合併症を有する不安定レシピエント
不安定グループのレシピエント4名は、その性質が慢性である肝臓関連合併症を合計5回発症した。症例U10が肝膿瘍を有することが見つかった場合を除いて、診断時に血漿ALBmRNA濃度が上昇していた(図12)。これらの発症のうち3件で、診断時に血漿ALT活性が上昇していた。
【0138】
III.ディスカッション
本研究で、本発明者らは、血漿ALBmRNAが肝臓病変の高感度マーカーであるという、自身の以前のデータを更に確認した。本研究では、肝移植後レシピエントを例として用いた。募集したレシピエント24名中23名が、登録時に、臨床的に安定であり、生化学的肝機能検査プロファイルが正常であり、内科的又は外科的な合併症がないと臨床的に判断された。連続モニタリング中、種々の合併症の臨床的診断がなされた時点で血漿ALBmRNA濃度が上昇していたことが見出された。不安定グループ中、報告された合併症の発生14件のうち13件でALB mRNA濃度が上昇していた。実際、血漿ALB mRNA濃度は大部分の発症の診断がなされた時点より前に上昇していた。これらのデータから、血漿ALBmRNAが肝臓病変の早期診断に有用な高感度マーカーであることが更に確認された。ほとんどの急性合併症発症で、血漿ALT活性−濃度は上昇していなかった。この観察結果は、肝臓病変について血漿ALBmRNAがALTよりも高感度のマーカーであることを示している。
【0139】
一方、血漿ALB mRNA濃度の上昇は肝臓病変の発生に特異的である。安定グループで取った測定値の大部分は、肝疾患を検出するための以前に確立されたカットオフ値よりも低かった。安定グループのレシピエント2名は一時的に血漿ALBmRNAの濃度が上昇していた。これらの発生は、臨床的に同定されなかった一時的な肝臓関連合併症に関連するものであろう。
【0140】
要約すると、血漿ALBmRNA濃度の上昇は、レシピエントが無症状であり、血漿ALT活性−濃度が正常であり、合併症が臨床的に疑われていない段階でも、特異的で感度の高い肝臓病変の検出を可能にする。したがって、血漿ALBmRNA濃度の測定は、肝臓病変のスクリーニング及び肝臓関連合併症を発症し得る人の通常のモニタリングのための有用なアプローチとなる。本プロジェクトで研究された肝移植レシピエントの大部分は、元の肝疾患及び移植からは完全に回復しているので、本研究内で本発明者らが行った観察は、肝疾患の既往がない又は過去の肝疾患の発生から回復した任意の人に適用することができる。
【0141】
実施例3:脂肪性肝疾患を検出するための血漿アルブミンmRNA濃度上昇
非アルコール性脂肪性肝疾患等の脂肪性肝疾患は豊かな国で最も一般的な慢性肝疾患である(Farrell et al., J Gastroenterol Hepatol 2007;22:775-7)。これは肝硬変及び肝癌に進行し得る。非アルコール性脂肪性肝疾患はメタボリックシンドローム及び中心性肥満と密接に関連する(Wong et al., Clin Gastroenterol Hepatol 2006;4:1154-61)。
【0142】
脂肪肝の診断には超音波スキャンを用いることができる。しかし、超音波スキャンは技師に左右され、脂肪肝の診断に対する感度及び特異度が限定的である。肝生検及び組織学的検査により、脂肪肝及び関連する肝臓の炎症又は線維症の決定的な証拠が得られるが、生検は侵襲性の手技であり、出血等の急性合併症を招き得る。技術の進歩と共に、現在、脂肪肝の指標である肝臓トリグリセリド(IHTG)含量を測定するための感度が高く非侵襲的な技術としてプロトン磁気共鳴分光法(MRS)を用いることができる(Szczepaniak et al., Am J Physiol Endocrinol Metab 2005;288:E462-8)。しかし、MRSイメージングは、時間がかかり、特殊なイメージング設備及び訓練された熟練の技師が必要である。本研究で、本発明者らは、健康対照と比較して脂肪肝の患者で血漿ALBmRNAが上昇しているかどうかを調べた。
【0143】
I.材料及び方法
外見上健康な志願者に対してMRSを行った。IHTG含量を測定した。IHTG含量が5%未満の対象を健康な肝臓を有すると見なし、IHTG含量が5%を超える対象を脂肪性肝疾患と診断した。更に、肝生検の組織学的検査で脂肪性肝疾患を有すると診断された個体も本研究に含めた。募集した全対象からEDTA血液管中に末梢血液を採った。血液サンプルを上記実施例に記載した二重遠心分離プロトコールで処理して血漿を得た。次いで、上記実施例に記載のRT−qPCRアッセイを用いて血漿ALBmRNA濃度を測定した。
【0144】
II.結果
志願者136名がMRSでIHTG含量が5%未満であったので、正常対照として集められた。47名はMRSでIHTG含量が5%を超えていたので、脂肪性肝疾患を有すると診断された。35名が肝生検の組織学的検査によって脂肪性肝疾患と診断された。
【0145】
血漿ALB mRNA濃度は、対照と比較して、脂肪性肝疾患を有する症例で統計的に有意に高かった(マン・ホィットニー、P<0.001)(図13)。脂肪性肝疾患の症例をMRSで診断された症例と肝生検で診断された症例に細分した場合の比較も統計的に有意であった(クラスカル・ワリス後にペアワイズ比較、3グループ間の全てのペアワイズ比較でP<0.0001)(図14)。これらの患者について、血漿ALTを測定したところ、大部分の症例で上昇していなかった(図15)。肝生検で脂肪性肝疾患と診断されたグループでさえ、46%(16/35)でALT活性−濃度が基準カットオフ内であった。
【0146】
III.ディスカッション
脂肪性肝疾患は、肝線維症、肝硬変、更にはHCCに進行し得る肝臓病変の初期段階と見なされている。対照と比べた脂肪性肝疾患患者における血漿ALBmRNAの上昇は、血漿ALB mRNAが実際に脂肪性肝疾患等の初期段階の肝臓病変を検出するのに十分な感度のマーカーであることを示している。
【0147】
肝生検で脂肪性肝疾患と診断されたグループは一般的にMRSで診断されたグループよりも脂肪性肝疾患の段階が進んでいる。これは、肝生検グループの個体は肝生検で診る正当な根拠となる症状又は異常な生化学的肝機能検査パラメーターを有するが、MRSグループは無症候性の志願者で構成されているためである。データは、MRSで診断された脂肪性肝疾患の症例よりも肝生検で診断されたグループで血漿ALBmRNA濃度が統計的に有意に高いことを示していた。この観察結果から、血漿ALB mRNA濃度が肝臓病変の重症度に相関し、したがって、疾患の段階を評価するため、予後判定のため、及び処置モニタリングのためのツールとなり得ることが示された。これらのデータから更に、脂肪性肝疾患及びその他の初期段階の肝臓病変の検出において、ALTが血漿ALBmRNAよりも感度の低いマーカーであることが示された。
【0148】
記載した全実施例で得られたデータに基づき、血漿ALBmRNAが、肝細胞の損傷、死、又はアポトーシスが関わる肝臓病変の高感度マーカーであることが一貫して示された。血漿中のALB mRNA濃度は、健康対照と比べて、肝細胞の損傷、死、又はアポトーシスが関わる肝臓病変で上昇する。そのような肝臓又は肝胆道の病変としては、急性状態、例えば、毒性又はウイルスを原因とするものを含む急性肝炎、低酸素性障害、胆管炎、及び急性の胆道系の閉塞が含まれる。そのような肝臓又は肝胆道の病変には、慢性状態、例えば、B型肝炎又はC型肝炎ウイルスによるものを含む慢性肝炎、脂肪性肝疾患、肝線維症、肝硬変、肝細胞癌も含まれるが、肝移植後に再発したものは含まれない。
【0149】
本発明者らのデータから、健康対照と比較した血漿ALBmRNAの上昇の大きさは、肝細胞の損傷、死、又はアポトーシスの程度を反映していると考えられるため、肝臓病変の重症度と相関することが示された。したがって、上記の全肝臓病変に対する予測及び処置の有効性のモニタリングに血漿ALBmRNA濃度を用いることができる。
【0150】
同様に、血漿ALB mRNAの上昇は、脂肪性肝疾患等の初期段階の肝疾患を検出するのに十分な感度であることが示されている。全ての肝臓病変に、肝細胞の損傷、死、又はアポトーシスが関わる。したがって、血漿ALBmRNAの上昇は肝臓病変を初期段階で検出するための高感度マーカーとしても有用であり、そのような肝臓病変としては、例えば、B型肝炎ウイルスのキャリアにおける活性肝炎への進行、肝硬変の代償不全又は進行、初期段階の肝細胞癌が含まれるが、肝移植後に再発したものは含まれない。
【0151】
本明細書中に引用した全ての特許、特許出願、及びGenBankアクセッション番号を初めとするその他の刊行物の全体を、あらゆる目的のため、参照により本明細書に援用する。
【0152】
【表1】


LT、肝移植;BMT、骨髄移植;−、データなし(not available)
症例L25の患者は中国本土以外で肝移植を受けたため、ドナーの遺伝子型は不明である。
【0153】
【表2】


HCC、肝細胞癌;CHB、慢性B型肝炎。年齢は平均±SDで表されている。アルブミン、ビリルビン、アルカリホスファターゼ(ALP)、アラニントランスアミナーゼ(ALT)、及び血漿ALBmRNA濃度のレベルは中央値(範囲)で表されている。
【0154】
【表3】


注.SNP遺伝子型同定のための全PCRプライマーは質量スペクトルにおける干渉を避けるために10塩基のタグ(太字)を付加して設計した。
【0155】
【表4】


注.FAMは6−カルボキシフルオレセインであり、MGBは副溝結合剤であり、NFQは非蛍光消光色素である。
【0156】
【表5】


HCC、肝細胞癌;CHB、慢性B型肝炎。年齢は平均±SDで表されている。アルブミン、ビリルビン、アルカリホスファターゼ(ALP)、アラニントランスアミナーゼ(ALT)、及び血漿ALBmRNA濃度のレベルは中央値(範囲)で表されている。
【0157】
【表6】

【0158】
【表7】


835コピー/mLを超える血漿ALBmRNA濃度;ALT活性濃度の上昇(> 58IU/L);及び臨床的有害事象を太字で示す。
【0159】
【表8】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)肝疾患の徴候がない対象から採取された無細胞血液サンプル中のアルブミンmRNAの濃度を決定する工程、及び
(b)前記工程(a)で得られた前記アルブミンmRNA濃度を標準対照と比較する工程であって、ここで前記標準対照と比較しての前記工程(a)で得られた前記濃度の上昇は、前記対象における肝疾患の存在を示す工程、
を含む、肝疾患を検出する方法。
【請求項2】
前記対象のアラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)検査の結果が正常である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記肝疾患が、脂肪性肝疾患、肝硬変、肝線維症、又は肝炎である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記肝炎がB型肝炎である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記肝疾患が、ウィルソン病、ヘモクロマトーシス、アルファ1−抗トリプシン欠乏症、又は糖原病である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記工程(a)で得られた前記アルブミンmRNA濃度が、前記標準対照と実質的に同じであり、前記対象が肝疾患を有していないことを示す、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記血液サンプルが血漿である、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記血液サンプルが血清である、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記工程(a)が、前記アルブミンmRNA配列の増幅を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記増幅が、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)による、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記PCRが逆転写酵素(RT)−PCRである、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記PCRがデジタルPCRである、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記PCRがリアルタイム定量PCRである、請求項10に記載の方法。
【請求項14】
前記工程(a)が、質量分析法又はマイクロアレイ、蛍光プローブ、若しくは分子指標へのハイブリダイゼーションを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記工程(a)を後の時点で前記対象に由来する同じ種類の無細胞血液サンプルを用いて繰り返すことを更に含み、ここで初回の前記工程(a)と比較しての前記後の時点におけるアルブミンmRNAの濃度の上昇は肝疾患の悪化を示し、低下は肝疾患の改善を示す、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記工程(a)を後の時点で前記対象に由来する同じ種類の無細胞血液サンプルを用いて繰り返すことを更に含み、ここで初回の前記工程(a)と比較しての前記後の時点におけるアルブミンmRNAの濃度の上昇は肝疾患の発生を示し、実質的に変化がないことは肝疾患のない生理学的状態を示す、請求項6に記載の方法。
【請求項17】
前記標準対照からの前記上昇又は低下が少なくとも1標準偏差分である、請求項1又は15に記載の方法。
【請求項18】
前記標準対照からの前記上昇又は低下が少なくとも2標準偏差分である、請求項1又は15に記載の方法。
【請求項19】
前記標準対照からの前記上昇又は低下が少なくとも3標準偏差分である、請求項1又は15に記載の方法。
【請求項20】
(1)健康個体の血液サンプル中におけるアルブミンmRNAの平均量を与える標準対照と、(2)アルブミンmRNAの少なくとも一部を特異的に増幅させるための2種類のオリゴヌクレオチドプライマーと、を含む、肝疾患の徴候がない対象において肝疾患を診断するためのキット。
【請求項21】
取扱説明書を更に含む、請求項20に記載のキット。
【請求項22】
アルブミンコード配列との特異的ハイブリダイゼーションのためのポリヌクレオチドプローブを更に含む、請求項20に記載のキット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11A】
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【図11B】
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【図11C】
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【図11D】
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【図11E】
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【図11F】
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【図12A】
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【図12B】
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【図12C】
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【図12D】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公表番号】特表2013−504310(P2013−504310A)
【公表日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−528369(P2012−528369)
【出願日】平成22年9月10日(2010.9.10)
【国際出願番号】PCT/EP2010/063300
【国際公開番号】WO2011/029899
【国際公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.WINDOWS
【出願人】(512037244)ザ チャイニーズ ユニバーシティ オブ ホンコン (4)
【Fターム(参考)】