説明

股重ねを有する手袋およびその編成方法

【課題】 三本胴付きの手袋の各指股を股重ねで形成し、しかも特定の指袋の入口の周長が短くならないようにすることが可能な、股重ねを有する手袋およびその編成方法を提供する。
【解決手段】 手袋30は、一対の抑糸溝が対向して設けられる抑糸杆を備える手袋編機で編成する。人差し指用の指袋4から編成を開始し、指股9cでは、人差し指用の指袋4側の編目に連なる編糸を抑糸杆の一方の抑糸溝で抑えながら股重ねを行う。この股重ねでは、人差し指用の指袋4の編目が減少する。同様に、一方の抑糸溝で抑えながら、指股9b,9aでの股重ねを行う。四本胴7の編成後に親指用の指袋5を編成する際には、抑糸杆の他方の抑糸溝を使用して、四本胴7の端部の編目を抑える。四本胴7の編目が減少しても、人差し指用の指袋4の入口からはウエール方向に隔てられており、指袋4の入口の周長には影響しないようにすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抑糸杆を備える手袋編機で、人差し指、中指および薬指の相互間の指股に対して小指と薬指との間の指股が一段下がって形成される三本胴付きの手袋として編成可能な、股重ねを有する手袋およびその編成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、前後に対向する針床を備える横編機のうち、手袋などの編成を効率良く行うために、手袋編機が用いられている。手袋編機は、前後の針床で筒状に編成される編地として指袋や胴を形成するとともに、カミソリと呼ばれる抑糸杆を備えていれば、指袋や胴となる筒状編地の付け根間で孔が開かないように編目を重ねて、股重ねと呼ばれる編成を行うことができる(たとえば、特許文献1参照。)。
【0003】
図3は、抑糸杆を使用して編成する手袋について示す。(a)では指袋の付け根間の指股に股重ねを形成した手袋の概略的な構成を示し、(b)では抑糸杆の概略的な構成を示し、(c)では(a)の切断面線C−Cから見た指股部分の概略的な断面構成を示す。
【0004】
図3(a)に示すように、小指、薬指、中指、人差し指および親指の五本の指用の指袋1,2,3,4,5のうち、薬指から人差し指までの三本の指袋2〜4をそれぞれ編成して三本胴6を形成した後、小指の指袋1を編成して、四本胴7を形成する。さらに親指用の指袋5が形成され、親指用の指袋5と四本胴7とから、掌と手の甲とを覆う五本胴8が形成される。小指の指袋1と三本胴6との間には、指股9aが形成される。薬指の指袋2と中指の指袋3との間、および中指の指袋3と人差し指の指袋4との間には、指股9bおよび指股9cがそれぞれ形成される。四本胴7と親指の指袋5との間には、指股9dが形成される。五本胴8の次には、口ゴム部などが付加され、手袋10が編成される。
【0005】
図3(b)に示すように、抑糸杆20は、全体的には平坦な上面21の一部に、間隔を開けて配置される一対の抑糸溝22,22が開口するように形成されており、前後の針床が対向する歯口の下方で、編針に係止されている編地を構成する編糸に作用させる。抑糸溝22,23は、傾斜した開口部22a、23a、および上面21と平行な平行部22b,23bを有する。抑糸杆20を作用させるときは、指袋や胴などの筒状編地の端部で編目を係止している編針に、平行部22b,23bが編幅の外方となる向きで抑糸溝22,23が通過するように抑糸杆20を移動させる。編針に係止されている編目に連なる編糸は、抑糸溝22,23の開口部22a,23aから平行部22b,23bに案内される。この編糸の案内によって、編針に係止されている編目は針幹に沿って下降し、編針が編成動作で歯口に進出しても、移動が抑えられる。抑糸杆20を用いることによって、隣接する筒状編地の一方の端部を係止する編針を使用して、他方の筒状編地の端部を編成することができる。
【0006】
なお、特許文献1に開示されている抑糸杆は、抑糸溝を一つだけ備え、左右の一方側からのみ編地に作用させることができる。したがって、小指の指袋から人差し指の指袋までを順次編成してから四本胴を形成することはできるけれども、先に三本胴を形成して、その両側で小指の指袋と親指の指袋とを編成する際に、両方とも適切に作用させることはできない。
【0007】
図3(c)は、指股9a〜9dでの筒状編地間の接合状態を示す。図3(a)に示すような五本の指袋1,2,3,4,5を有する手袋10の編成の場合、抑糸杆20は、抑糸溝22,23の平行部22b,23b側が新たな指袋を編成する側となるように使用する。指股9aは、指股9b,9cよりも一段、掌を覆う五本胴8に近い位置まで食込むように形成される。この結果、指股9aは、薬指、中指および人差し指用の指袋2,3,4から形成される三本胴6と小指用の指袋1との間に形成される。三本胴6を形成する薬指、中指および人差し指用の指股9b,9cを、指股9aよりも五本胴8より離れる位置に形成するためには、小指用の指袋1よりも三本胴6を形成する指袋2,3,4を先に編成し、抑糸杆20では、三本胴6の付け根の編目を、小指用の指袋1を編成する側から抑えることも可能にする必要がある。この結果、小指用の指袋1と薬指用の指袋2との間の指股9aでは、三本胴6側の指袋2の付け根の内側に指袋1の付け根が侵入する。指股9bでは、薬指用の指袋2の付け根の内側に、中指用の指袋3の付け根が侵入する。指股9cでは、中指用の指袋3の付け根の内側に、人差し指用の指袋4の付け根が侵入する。指股9dでは、四本胴7の付け根の内側に、親指用の指袋5の付け根が侵入する。
【0008】
なお、特許文献2では、抑糸杆20を使用しての手袋10に相当する編成は、第1図で従来の技術として説明されている。特許文献2に係る発明としては、一つの抑糸溝を有する抑糸杆を使用して指股9b,9c,9dを股重ねの形式で編成し、指股9aは、増し目を行う方法が開示されている。
【特許文献1】特公昭41−9823号公報
【特許文献2】特公昭61−32420号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
図3に示すような三本胴付の手袋10は、指股9a,9b,9cが同じ高さで横一線に並ぶ三本胴無しの手袋よりも手にフィットする。しかしながら、図3(c)に示すように、薬指用の指袋2は、編幅の両側で中指用の指袋3と小指用の指袋1との編成時に抑糸杆20の抑糸溝22,23を作用させるため、指袋2の入口の編目がそれぞれ減少し、入口の周長が短くなってしまう。入口の周長を確保するために、薬指用の指袋2の周長が長くなるように径を大きく編成すると、挿入する薬指に比較して指袋2が太くなり過ぎて、だぶついてしまう。指袋2の周長が適正になるように編成するには、目数を変化させる成型編みが必要となり、手袋編機の構成が複雑になったり、編成の効率が低下したりするおそれがある。
【0010】
特許文献2で発明として開示されている方法では、股重ねを行わなくても指股9aに孔が開かないようにすることができる。しかしながら、手袋の表面にゴム材などをコーティングする場合には、増し目で形成する指股9aの部分から、手袋内部にもゴム材などが浸透するおそれがある。
【0011】
本発明の目的は、三本胴付きの手袋の各指股を股重ねで形成し、しかも特定の指袋の入口の周長が短くならないようにすることが可能な、股重ねを有する手袋およびその編成方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、一対の抑糸溝が対向して設けられる抑糸杆を備える手袋編機で、五本の指袋と、指袋間に抑糸杆を使用して形成される股重ねと、人差し指用、中指用および薬指用の指袋から形成される三本胴と、三本胴および小指用の指袋から形成される四本胴とを含むように編成可能な股重ねを有する手袋において、
人差し指用と中指用との指袋間の股重ねは、人差し指用の指袋の編目が減少しており、
中指用と薬指用との指袋間の股重ねは、中指用の指袋の編目が減少しており、
三本胴と小指用の指袋間にも、三本胴側の編目が減少するように股重ねが形成されている、
ことを特徴とする股重ねを有する手袋である。
【0013】
さらに本発明は、一対の抑糸溝が対向して設けられる抑糸杆を備える手袋編機で、人差し指用、中指用および薬指用の指袋から三本胴を形成し、三本胴および小指用の指袋から四本胴を形成しながら、股重ねを有する手袋を編成する方法において、
人差し指用の指袋から編成を開始して、中指用の指袋および薬指用の指袋を、順次編成して三本胴を編成する際に、
人差し指用と中指用との指袋間では、人差し指用の指袋側を抑糸杆で抑えながら、人差し指用の指袋の編目が減少するように股重ねを行い、
中指用と薬指用との指袋間では、中指用の指袋側を抑糸杆で抑えながら、中指用の指袋の編目が減少するように股重ねを行い、
三本胴と小指用の指袋との間では、三本胴側を抑糸杆で抑えながら、三本胴の編目が減少するように股重ねを行う、
ことを特徴とする股重ねを有する手袋の編成方法である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、薬指と小指との間の指股では、小指用の指袋の形成で薬指用の指袋の編目が減少しているけれども、薬指と中指との間の指股では、薬指用の指袋ではなく、中指用の指袋の編目が減少するので、薬指用の指袋の入口が小さくならないようにすることができる。中指と人差し指との間の指股では、中指用ではなく人差し指用の指袋の編目が減少するので、中指用の指袋の入口が小さくならないようにすることができる。人差し指と親指との間の指股は、人差し指側は四本胴となっており、人差し指用の指袋の入口から離れているので、四本胴の編目が減少しても、人差し指用の指袋の入口には影響しないようにすることができる。したがって、手袋の各指股を股重ねで形成しても、特定の指用の指袋の入口が編幅の両側から編目が減少して入口の周長が短くならないような三本胴付の手袋を得ることができる。
【0015】
さらに本発明によれば、人差し指、中指および薬指用の指袋を順次編成し、三本胴を形成し、さらに小指用の指袋を編成する間の指股での股重ねを、抑糸杆の一方の抑糸溝を作用させて行うことができる。三本胴と小指用の指袋とから形成される四本胴から親指用の指袋を編成する際の指股は、抑糸杆の他方の抑糸溝を作用させながら編成することができる。人差し指用の指袋を除いて、他の指袋は、編幅の両側で抑糸杆の抑糸溝の作用を受けて編目が減少することはなく、入口の周長が短くならないようにすることができる。人差指用の指袋では、中指用の指袋の編成時と親指用の指袋の編成時との両方に、抑糸杆で対向する抑糸溝の作用をそれぞれ受けて編目が減少するけれども、親指側の指股は四本胴の付け根に形成されて、人差し指用の指袋の入口からはウエール方向に隔てられており、四本胴の編目が減少しても、人差し指用の指袋の入口には影響しない。したがって、三本胴付の手袋を、各指股を股重ねで形成しても、特定の指用の指袋の入口が編幅の両側から編目が減少して入口の周長が短くならないように編成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
図1は、本発明の実施の一形態としての三本胴付きの手袋30の概略的な構成を(a)に示す。(b)では(a)の切断面線B−Bから見た指股の断面構成を示す。図1で、図3または図4に対応する部分には同一の参照符を付して示し、重複する説明は省略する。
【0017】
図1(a)に示すように、手袋30は、図3に示す手袋10と同様に、五本の指袋1,2,3,4,5と、三本胴6と、四本胴7と、五本胴8とを含む。指袋1,2,3,4,5間の指股9a,9b,9c,9dには、図3(b)に示すような抑糸杆20を使用して股重ねが形成される。三本胴6は、人差し指用、中指用および薬指用の指袋4,3,2から形成される。四本胴7は、三本胴6と小指用の指袋1とから形成される。なお、手袋30は、背面側も表面側と同一に形成されるので、右手用と左手用とを兼用することができる。
【0018】
手袋30を、一対の抑糸溝22,23が対向して設けられる抑糸杆20を備える手袋編機で編成する場合、人差し指用、中指用および薬指用の指袋4,3,2を順次編成してから三本胴6を形成した後で、小指用の指袋1を編成する。さらに三本胴6および小指用の指袋1から四本胴7を形成し、親指用の指袋5を編成してから五本胴8を形成する。すなわち、手袋30は、人差し指用の指袋4から編成を開始する。
【0019】
三本胴6を編成する際に、人差し指用と中指用との指袋4,3間の指股9cでは、人差し指用の指袋4側の編目に連なる編糸を抑糸杆20の抑糸溝22の平行部22bに案内して抑えながら股重ねを行う。この股重ねでは、人差し指用の指袋4の編目が減少する。同様に、抑糸杆20の抑糸溝22で抑えながら、指股9b,9aでの股重ねを行う。指股9aでは、三本胴15側の編目が減少する。
【0020】
以下、四本胴7の編成を行い、親指用の指袋5を編成する際には、抑糸杆20の抑糸溝23側を使用して、四本胴7の端部の編目を抑える。この結果、四本胴7の付け根で編目が減少しても、四本胴7の付け根は人差し指用の指袋4の入口からウエール方向に隔てられており、人差し指用の指袋の入口での周長には影響しないようにすることができる。この結果、図1(b)に示すように、手袋30では、いずれの指用の指袋1,2,3,4,5の入口でも、編幅の両側から編目が減少して入口の周長が短くならないようにすることができる。
【0021】
図2は、図1(a)に示す手袋30と図3(a)に示す手袋10とを、指股9a,9b,9cの部分を拡大し、比較して示す。手袋30では、指股9c,9b,9aで股重ねの方向が揃っており、見栄えも良くすることができる。
【0022】
なお、手袋30は、対向する抑糸溝22,23を備える抑糸杆20を使用しなくても、前後の針床間で編目の目移しが可能で、針床を横にずらすラッキングが可能な横編機であれば、編成可能である。しかしながら、抑糸杆20を使用すれば、目移しやラッキングの機能を備えなくても、先に編成する筒状編地の端部を係止する編針を使用して次の筒状編地の端部を編成することができる。指股では、目移しなどを行わずに、隣接する筒状編地を続けて編成するので、効率良く手袋30を編成することができる。
【0023】
抑糸杆20は、特許文献1に開示されているようなカムの形状変更や、ベルト等での独立駆動方式への変更などで、容易に駆動することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の実施の一形態としての三本胴付きの手袋30の概略的な構成を示す正面図、およびその切断面線B−Bから見た指股の断面図である。
【図2】図1に示す手袋30と図3に示す手袋10との外観を比較して示す図である。
【図3】従来からの三本胴付きの手袋10の概略的な構成を示す正面図、手袋10の編成に使用する抑糸杆20の概略的な構成を示す正面図、および手袋10の指股9a〜9dの概略的な構成を示す断面図である。
【符号の説明】
【0025】
1,2,3,4,5 指袋
6 三本胴
7 四本胴
8 五本胴
9a,9b,9c,9d 指股
22,23 抑糸溝
20 抑糸杆
30 手袋

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の抑糸溝が対向して設けられる抑糸杆を備える手袋編機で、五本の指袋と、指袋間に抑糸杆を使用して形成される股重ねと、人差し指用、中指用および薬指用の指袋から形成される三本胴と、三本胴および小指用の指袋から形成される四本胴とを含むように編成可能な股重ねを有する手袋において、
人差し指用と中指用との指袋間の股重ねは、人差し指用の指袋の編目が減少しており、
中指用と薬指用との指袋間の股重ねは、中指用の指袋の編目が減少しており、
三本胴と小指用の指袋間にも、三本胴側の編目が減少するように股重ねが形成されている、
ことを特徴とする股重ねを有する手袋。
【請求項2】
一対の抑糸溝が対向して設けられる抑糸杆を備える手袋編機で、人差し指用、中指用および薬指用の指袋から三本胴を形成し、三本胴および小指用の指袋から四本胴を形成しながら、股重ねを有する手袋を編成する方法において、
人差し指用の指袋から編成を開始して、中指用の指袋および薬指用の指袋を、順次編成して三本胴を編成する際に、
人差し指用と中指用との指袋間では、人差し指用の指袋側を抑糸杆で抑えながら、人差し指用の指袋の編目が減少するように股重ねを行い、
中指用と薬指用との指袋間では、中指用の指袋側を抑糸杆で抑えながら、中指用の指袋の編目が減少するように股重ねを行い、
三本胴と小指用の指袋との間では、三本胴側を抑糸杆間で抑えながら、三本胴の編目が減少するように股重ねを行う、
ことを特徴とする股重ねを有する手袋の編成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−274447(P2008−274447A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−115472(P2007−115472)
【出願日】平成19年4月25日(2007.4.25)
【出願人】(000151221)株式会社島精機製作所 (357)
【Fターム(参考)】