説明

肥大性心筋症治療用のホスホジエステラーゼタイプIII(PDEIII)インヒビターまたはCa2+感作剤

本発明は、肥大性心筋症(HCM)を患っている患者の治療用のホスホジエステラーゼタイプIII (PDE III)インヒビターおよび/またはCa2+感作剤またはこれらの製薬上許容し得る誘導体に関する。もう1つの局面によれば、本発明は、PDE IIIインヒビターおよび/またはCa2+感作剤の、HCMを患っている患者の治療用の医薬品の製造における使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医学、特に、獣医学の分野に関する。本発明は、患者の、好ましくは肥大性心筋症(HCM)に関連する拡張機能障害の治療用のホスホジエステラーゼタイプIII (PDE III)インヒビター、Ca2+感作剤またはこれらの製薬上許容し得る誘導体に関する。
【背景技術】
【0002】
肥大性心筋症(HCM)は、ネコにおける最も一般的な心臓疾患およびこの種族における心不全の最も一般的な原因である (Riesen et al., 2007; Rush et al., 1998)。1種以上の筋節タンパク質の遺伝子変異が殆どのネコにおけるHCMの原因であると提示されているものの、特異的突然変異は、メインクーンネコおよびラグドールネコにおいてしか確認されていない (Meurs et al., 2005 and 2007; Kittleson et al., 1999)。HCMを有すると確認された大部分のネコにおいては、心疾患が最終的な死因である。HCMは、拘束型心筋症 (RCM)と一緒に、拡張機能障害として分類される。
【0003】
ネコHCMの5つの一般的なフェノタイプ発現としては、1) 左心室(LV)の瀰漫性対称求心性肥大;2) 心室中隔(IVS)が心臓収縮期における左心室流出路に侵入しているような、正常なLV自由壁を有するIVSの非対称肥大;3) 左心室自由壁の非対称肥大 (正常厚のIVSを有する);4) 心室中央閉塞の原因となる心臓基部および心尖のスパーリング(sparing)による左心室の心室中央肥大;および、5) メインクーンネコにおいて最も頻繁に見られる孤立性乳頭筋肥大がある (Peterson et al., 1993; Fox 2003; Liu et al., 1993; Kittleson et al., 1999)。
【0004】
HCM症状の治療は、左心室流路勾配並びに呼吸困難、胸痛および失神の症状を軽減することに向けられている。薬物療法は、大多数の患者において成功している。一般的に使用される第1の薬物は、β‐ブロッカー(メトポロール(metopolol)、アテノロール、ビソプロロール、プロプラノロール)である。症状および勾配が持続する場合、ジソピラミドを、β‐ブロッカーに加え得る。また、β‐ブロッカーの代りに、ベラパミルのようなカルシウムチャネルブロッカーを使用してもよい。
【0005】
拘束型心筋症(RCM)は、壁が硬直している心筋症の1つの形態であり、心臓は、適切に伸縮して血液を充満することを抑制されている。心臓の周期性および収縮性は正常であり得るが、心腔(心房および心室)の硬直壁は、心腔が適切に膨らむのを妨げて、前負荷および拡張末期容積を低下させる。従って、血流は減少し、心臓に正常に入る血液は、循環系に逆流する。そのうち、拘束型心筋症患者は、拡張機能障害を、最終的には心不全を発症する。
【0006】
ピモベンダンまたはレボシメンダンのようなPDE IIIインヒビターおよびCa2+感作剤は、動物における拡張型心筋症(DCM)または非代償性心内膜症(DCE)に由来する心不全(HF)の治療用の、特に、心不全を患っているイヌの治療用の周知の化合物である(例えば、WO 2005/092343号参照)。Ca2+感作効果を有するインヒビターを包含するPDE‐IIIインヒビターおよびCa2+感作剤は、変力性であることが知られており、左心室の収縮性を増強し得る。従って、Ca2+感作作用を有するインヒビターを含むPDE IIIインヒビターおよびCa2+感作剤の使用は、HCMの治療においては禁忌であると信じられていた。
【0007】
左心室の求心性肥大は、左心室内部寸法の低下および心室弛緩の遅れをもたらし、結果として、拡張期充満が妨げられる。拡張期充満の変化および心筋血流流の悪化は、心筋虚血および虚血の結果としての進行性の心筋細胞消失をもたらす。時間経過とともに、心臓は硬直して柔軟性が無くなり、肥大化筋肉は繊維組織に置換わり、この組織は拡張期充満をさらに妨げる。PDE‐IIIインヒビターは、カテコールアミンの第2メッセンジャーの機能停止を抑制し(PDE‐IIIの抑制による細胞質cAMPおよびCa2+の増大)、収縮性タンパク質のCa2+に対する感作性を増大させることにより、患者に投与した場合に、拡張期心室機能をさらに損なうものと予測されていた。さらにまた、収縮機能を高めることは、左心室(LV)壁を、特に病理解剖学的変化が左心室流出の閉塞をもたらし、従って、左心室ポンプ機能をさらに悪化させている分節(segment)においてさらなる増大をもたらすであろう。後者の仮説についての証拠は、特にネコの診断によって頻繁に誘発されるストレスの影響下に行い得る臨床的観察によって得られている:ネコが興奮するとき、心雑音は、心拍上昇、収縮期変力状態の増大およびLV流出路内での血流速度の上昇並びにこれらの結果として生じる僧帽弁逆流の結果として激しく増大する。二尖弁の収縮期膨隆または心室中隔の頂部の肥大のいずれかによるLV流出路閉塞は、収縮期壁ストレスの増大、需給不整合による心筋酸素の要求増大、LV肥大の悪化、拡張機能障害の加速、不整脈、および最終的には経時的な疾患進行に至り得る。このことが、多くの臨床医が除脈剤を処方して心拍を遅く保ち且つ左心室流出路閉塞のこの活発な悪化を鈍化させることの1つの理由である。さらにまた、Tilleyと共同研究者等は、HCMを有する19匹のネコにおける交感神経刺激によって生じる左心室拡張末期圧の有害な上昇を実証している(Tilley et al., 1977)。LV拡張末期圧のこの急上昇は、左房圧の上昇および引続く急性肺水腫をもたらす。イソプロテレノール輸液を使用したこのモデルは、前以って良好に処遇した動物における肺水腫の突然の発症に至り得るネコのストレスの多い事象に関連した交感神経系の緊張の上昇を擬態しているものと考えられている。
【0008】
本発明の基礎をなす問題は、拡張機能障害、好ましくはHCMの治療を可能にする医薬品を提供することおよび拡張機能障害、特に、HCMに関連する心不全を有する患者の死亡のリスクを低減することであった。特に、本発明の基礎をなす問題は、心不全を患っている患者におけるHCMの治療を可能にする医薬品を提供することである。
【発明の概要】
【0009】
PDE IIIインヒビターおよびCa2+感作剤のような変力剤をHCMの治療において使用しないという一般的原理に反して、驚くべきことに、PDE IIIインヒビターおよび/またはCa2+感作剤が、HCMを患っている患者の治療に使用できることを見出した。さらに一般的には、PDE IIIインヒビターおよびCa2+感作剤のような変力剤および血管拡張剤は、拡張機能障害、特に、HCMおよび/またはRCMの治療において使用し得る。従って、1つの局面によれば、本発明は、HCM治療用の、それぞれ、HCMを患っている患者の治療用のPDE IIIインヒビターおよび/またはCa2+感作剤に関する。さらなる局面においては、本発明は、好ましくはHCMおよび/またはRCMの形の拡張機能障害の治療用、それぞれ、拡張機能障害を患っている、好ましくはHCMおよび/またはRCMを患っている患者の治療用のPDE IIIインヒビターおよび/またはCa2+感作剤に関する。
【0010】
さらなる局面によれば、本発明は、PDE IIIインヒビターおよび/またはCa2+感作剤の、拡張機能障害、好ましくはHCMおよび/またはRCM治療用の、それぞれ、拡張機能障害、好ましくはHCMおよび/またはRCMを患っている患者の治療用の医薬品/製薬組成物の製造における使用に関する。
【0011】
好ましくは、上記PDE IIIインヒビターおよびCa2+感作剤は、それぞれ、シロスタゾール、ピモベンダン、ミルリノン、レボシメンダン、アムリノン、エノキシモンおよびピロキシモン TZC‐5665、並びにこれらの製薬上許容し得る塩、これらの誘導体、これらの代謝物およびこれらの任意のプロドラッグからなる群から選ばれる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
発明の詳細な説明
本発明の実施態様の前に、本明細書および特許請求の範囲において使用するとき、単数形は、文脈上で他に明確に示さない限り、複数の言及を包含することに留意すべきである。従って、例えば、“製剤”への言及は複数のそのような製剤を包含し、“担体”への言及は当業者にとって既知の1種以上の担体およびこれら担体の等価物についての言及である等である。特に断らない限り、本明細書において使用する全ての技術および科学用語は、本発明が属する技術における通常の熟練者が一般的に理解しているのと同じ意味を有する。示す範囲および値は、全て、特に断らない限り或いは当業者が他に知っている限り、1%〜5%で変動し得る、従って、用語“約”は、本説明から省いている。本明細書において説明する方法および材料と同様なまたは等価の任意の方法および材料を本発明の実施または試験において使用し得るけれども、好ましい方法、装置および材料を以下で説明する。本明細書において言及する刊行物は、全て、これら刊行物に報告されているような物質、賦形剤、担体および方法論(本発明との関連において使用し得る)を説明し、開示する目的において本明細書に参考として取り入れる。本明細書においては、本発明が、従来発明により、そのような開示に先行する権利がないことの容認として解釈すべきものは何もない。
【0013】
上記の技術問題に対する解決法は、特許請求項において特徴付けている説明および実施態様によって達成される。
本発明は、PDE IIIインヒビターおよび/またはCa2+感作剤、好ましくは、拡張機能障害、好ましくはHCMおよび/またはRCM、最も好ましくはHCMの治療用の、特に、拡張機能障害、好ましくはHCMおよび/またはRCM、最も好ましくはHCMを患っている患者の治療用の、さらなるカルシウム感作効果を示すピモベンダンのようなPDE IIIインヒビターに関する。本発明は、PDE IIIインヒビターおよび/またはCa2+感作剤、好ましくは、さらなるカルシウム感作効果を示すピモベンダンのようなPDE IIIインヒビターのHCMの治療における特定の使用に関するのみならず、PDE IIIインヒビターまたはCa2+感作剤、好ましくは、さらなるカルシウム感作効果を示すピモベンダンのようなPDE IIIインヒビターの、拡張機能障害、好ましくはHCMおよび/またはRCM、最も好ましくはHCMを患っている患者の治療用の医薬品/製薬組成物の製造における使用にも関する。
【0014】
拡張機能障害に起因する心不全は、適切な弛緩に対する心室の不具合として一般に説明されており、典型的には、硬直した心室壁を示す。この不全は、心室の不適切な充満を引き起こし、従って、不適切な一回拍出量をもたらす。また、心室弛緩の不具合は、拡張末期圧の上昇をもたらし、結末は収縮機能障害の場合と同一である(左心不全における肺水腫、右心不全における末梢浮腫)。拡張機能障害は、収縮機能障害の原因となる過程と同様な過程、特に、心臓リモデリングに影響を及ぼす原因によって生じ得る。拡張機能障害は、収縮機能が保持されている場合、生理学的に極端な状況を除きそれ自体兆候を示し得ない。少なくとも拡張機能障害の形態に関しては知られている(HCMまたはRCM)。
【0015】
HCMは、通常、急性または慢性心不全(心不全)に関連するか、或いは心不全を生じさせる。従って、本発明は、PDE IIIインヒビターおよび/またはCa2+感作剤、好ましくは、心不全を患っている患者のHCMの治療においてさらなるカルシウム感作効果を示すピモベンダンのようなPDE IIIインヒビターにも関する。
HCMは、閉塞性または非閉塞性として定義し得る。また、HCMの閉塞性変異形、即ち、閉塞性肥大型心筋症 (HOCM)も、歴史的には、特発性肥大性大動脈弁下狭窄症(IHSS)および非対称性中隔肥大(ASH)として知られている。HCMの非閉塞性変異形は、心尖部肥大型心筋症である。
【0016】
従って、さらなる局面によれば、本発明は、HCMの治療用の、特に、閉塞性または非閉塞性HCMを患っている患者の治療用の、PDE IIIインヒビターおよび/またはCa2+感作剤、好ましくは、さらなるカルシウム感作効果を示すピモベンダンのようなPDE IIIインヒビターに関する。さらにまた、本発明は、PDE IIIインヒビターおよび/またはCa2+感作剤、好ましくは、さらなるカルシウム感作効果を示すピモベンダンのようなPDE IIIインヒビターの、閉塞性または非閉塞性HCMを患っている患者の治療用の医薬品/製薬組成物の製造における使用にも関する。
【0017】
さらなる局面によれば、本発明は、HCMの治療用の、特に、閉塞性HCM、好ましくは閉塞性肥大型心筋症(HOCM)および/または非対称性中隔肥大(ASH)を患っている患者の治療用のPDE IIIインヒビターおよび/またはCa2+感作剤、好ましくは、さらなるカルシウム感作効果を示すピモベンダンのようなPDE IIIインヒビターに関する。
さらなる局面によれば、本発明は、HCMの治療用の、特に、非閉塞性HCM、好ましくは心尖部肥大型心筋症心を患っている患者の治療用のPDE IIIインヒビターおよび/またはCa2+感作剤、好ましくは、さらなるカルシウム感作効果を示すピモベンダンのようなPDE IIIインヒビターに関する。
【0018】
本明細書において使用するときの用語“PDE IIIインヒビター”とは、その製薬上許容し得る誘導体を包含するホスホジエステラーゼ (PDE) IIIインヒビターに関し、このインヒビターは、cAMPの5'AMPへの分解を阻止し、従って、タンパク質キナーゼおよび他の二次メッセンジャーの活性化に対するcAMPの効果を維持する。
“用語Ca2+感作剤”とは、心筋収縮タンパク質のCa2+感作性を増強させ、即ち、所定濃度のCa2+において発生した収縮力を増強させる、その製薬上許容し得る誘導体を含む任意の化合物に関する。
【0019】
PDE IIIインヒビターおよびCa2+感作剤は、当該技術において周知であり、例えば、米国特許第4,906,628号;米国特許第4,654,342号;米国特許第4,361,563号;米国特許第5,569,657号;米国特許第5,151,420号またはEP B‐008 391号に記載されている。
【0020】
好ましいPDE IIIインヒビターおよび/またはCa2+感作剤は、シロスタゾール、ピモベンダン、ミルリノン、レボシメンダン、アムリノン、エノキシモンおよびピロキシモンTZC‐5665、またはこれらの製薬上許容し得る塩、誘導体、代謝物またはプロドラッグである。最も好ましいPDE IIIインヒビターおよびCa2+感作剤は、それぞれ、ピモベンダンおよびレボシメンダン、またはこれらの製薬上許容し得る塩、誘導体、代謝物またはプロドラッグである。最も好ましいのは、ピモベンダン、その製薬上許容し得る塩、誘導体、代謝物またはプロドラッグである。
【0021】
ピモベンダン(4,5‐ジヒドロ‐6‐[2‐(4‐メトキシフェニル)‐1H‐ベンズイミダゾール‐5‐イル]‐5‐メチル‐3 (2H)‐ピリダジノン)は、EP B‐008 391号に開示されている;該特許は、本明細書に参考としてその全体を取り入れる。ピモベンダンは、下記の式を有する:
【化1】

ピモベンダンは、動物、特に、イヌにおける拡張型心筋症 (DCM)または非代償性心内膜症 (DCE)に由来する心不全(HF)の治療用の周知の化合物である(WO 2005/092343号)。また、ピモベンダンは、ヒトの心臓血管治療用の薬物製品としても承認されている。
【0022】
レボシメンダンは、ピリダゾン‐ジニトリル誘導体である。特に、レボシメンダンは、(R)‐[[4‐(1,4,5,6‐テトラヒドロ‐4‐メチル‐6‐オキソ‐3‐ピリダジニル) フェニル]ヒドラゾン] プロパンジニトリルとして公的に知られており、例えば、GB 2228004号、US 5,151,420号およびUS 5,569,657号に早期に記載されている;これらの特許は、本明細書に参考としてその全体を取り入れる。レボシメンダンは、下記の式を有する:
【化2】

【0023】
本明細書において使用するときの用語“患者”とは、限定するものではないが、拡張機能障害、好ましくはHCMおよび/またはRCM、最も好ましくはHCMを患っている動物またはヒトに関する。用語“患者”は、ヒトを含む霊長類のような哺乳類を包含する。
霊長類以外に、種々の他の哺乳類も、本発明方法に従って治療し得る。例えば、限定するものではないが、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ウマ、イヌ、ネコ、モルモット、ラット或いは他のウシ亜科、ヒツジ科、ウマ科、イヌ科、ネコ科、齧歯目またはネズミ科種のような哺乳類を治療し得る。しかしながら、上記方法は、鳥類のような他の種においても実施し得る。
好ましいのは、ヒト患者、イヌ、ネコおよびウマである。最も好ましいのはネコである。ヒト患者は、心不全を患っている女性または男性である。一般的には、そのようなヒトは、6〜80歳、好ましくは30〜65歳の年齢の小児、若年成人、成人または高齢者である。
【0024】
本明細書において使用するときの用語“心不全”とは、心臓の構造または機能による問題によって心臓の十分な血流量を供給して身体要求を満たす能力が損なわれている症状、特に、心臓の何らかの収縮障害または疾患に関する。臨床症状は、一般に、心臓の細胞および分子成分に対しての、また、ホメオスタティックコントロールを推進するメディエーターに対しての変化の結果である。心不全は、心筋梗塞並びに虚血性心疾患、高血圧、弁膜心疾患および心筋症、例えば、肥大型心筋症の他の病態のような幾つかの臨床上明白な疾患によって生じる。
【0025】
本明細書において使用するときの用語“有効量”とは、PDE IIIインヒビターおよび/またはCa2+感作剤を本明細書において説明するような投与量で投与したときに、患者の肥大型心筋症の緩和を達成するのに十分な量を意味する。治療の進行 (本明細書において説明するような拡張機能障害の、好ましくはHCMおよび/またはRCMの、最も好ましくはHCMの緩和)は、標準の心臓病診断によって、例えば、心エコー検査、心臓カテーテル法、或いは心臓MRIまたは心臓磁気共鳴映像法によってモニターし得る。
【0026】
用語“その製薬上許容し得る誘導体”とは、限定するものではないが、薬物の製薬上許容し得る塩、誘導体、代謝物またはプロドラッグを意味する。本明細書において使用するときの誘導体としては、限定するものはないが、選択化合物の任意の水和物形態、溶媒和物、異性体、鏡像体、ラセミ体、ラセミ集合体等がある。適切な製薬上許容し得る塩は、当該技術において周知であり、塩酸、臭化水素酸、硫酸、リン酸、硝酸、酢酸、グリコール酸、乳酸、ピルビン酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、フマル酸、リンゴ酸、マンデル酸、酒石酸、クエン酸、アスコルビン酸、パルミチン酸、マレイン酸、ヒドロキシマレイン酸、安息香酸、ヒドロキシ安息香酸、フェニル酢酸、桂皮酸、サリチル酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸およびトルエンスルホン酸のような無機または有機酸によって形成し得る。
【0027】
投与量
本発明の化合物のための投与処方は、勿論、特定の薬剤の薬力学特性およびその投与方式および経路;受容者の種族、年齢、性別、健康状態、病状および体重;症状の性質および程度;併用療法の種類;治療頻度;投与経路、患者の腎機能および肝機能、および所望する効果のような既知の要因に応じて変化するであろう。
【0028】
医師または獣医であれば、疾患の進行を防止し、対抗しまたは阻止するのに必要な有効量の薬剤を決定し、処方することができる。一般的なガイダンスとしては、適応作用について使用するときの各活性成分の、好ましくはピモベンダンまたはレボシメンダンの投与日量は、5〜2.500μg/kg体重、好ましくは10〜1.500μg/kg体重、さらにより好ましくは15〜750μg/kg体重、さらにより好ましくは15〜500μg/kg体重、最も好ましくは20〜250μg/kg体重の範囲である。これらの投与量は、1日に1回投与するか或いは2回の連日投与に分割すべきである。当該治療は、急性および慢性症状双方の臨床的に明確な症例において勧められる。
【0029】
従って、さらなる局面によれば、本発明は、拡張機能障害、好ましくはHCMおよび/またはRCM、最も好ましくは急性または慢性HCMを患っている患者の治療用の医薬品/製薬組成物の製造用の、PDE IIIインヒビターおよび/またはCa2+感作剤、好ましくは、さらなるカルシウム感作効果を示すピモベンダンのようなPDE IIIインヒビターに関する。
【0030】
好ましくは、PDE IIIインヒビターおよび/またはCa2+‐感作剤、好ましくは、さらなるカルシウム感作効果を示すピモベンダンのようなPDE IIIインヒビターは、拡張機能障害、好ましくはHCMおよび/またはRCM、最も好ましくはHCMを患っている患者の治療において使用する;その投与量は、1日当り5〜2.500μg/kg体重の範囲内、好ましくは1日当り10〜1.500μg/kg体重の範囲内、さらにより好ましくは1日当り15〜750μg/kg体重の範囲内、さらにより好ましくは1日当り15〜500μg/kg体重の範囲内、最も好ましくは1日当り20〜250μg/kg体重の範囲内である。
【0031】
拡張機能障害、好ましくはHCMおよび/またはRCM、最も好ましくはHCMの治療用の、上記PDE IIIインヒビターおよび/またはCa2+感作剤、好ましくは、さらなるカルシウム感作効果を示すピモベンダンのようなPDE IIIインヒビターを含む製薬組成物は、1日当り5〜 2.500μg/kg体重の投与量範囲内、好ましくは1日当り10〜1.500μg/kg体重の投与量範囲内、さらにより好ましくは1日当り15〜750μg/kg体重の投与量範囲内、さらにより好ましくは1日当り15〜500μg/kg体重の投与量範囲内、最も好ましくは1日当り20〜250μg/kg体重の投与量範囲内で使用するように製造する。
【0032】
投与
本発明の化合物は、錠剤、カプセル剤(これらの剤の各々は、持続放出または時限放出配合物を含む)、ピル、粉末剤、顆粒剤、エリキシル剤、チンキ剤、懸濁液、シロップ剤およびエマルジョンのような経口投与剤形で投与し得る。また、本発明の化合物は、静脈内(ボーラスまたは点滴)、腹腔内、皮下または筋肉内の剤形で投与することもでき、いずれも製薬技術における通常の熟練者にとって周知の投与剤形を使用する。本発明化合物は単独で投与し得るが、一般的には、選択した投与経路および標準の製薬基準に基いて選択した製薬用担体と一緒に投与する。
【0033】
組合せ使用
好ましくは、PDE IIIインヒビターおよび/またはCa2+感作剤、好ましくは、さらなるカルシウム感作効果を示すピモベンダンのようなPDE IIIインヒビターは、第2の活性治療薬と組合せて投与する。好ましくは、そのような第2の活性治療薬は、フロセミドである。フロセミドは、0.5mg/kg〜5mg/kgで1日に1回または2回投与すべきである。フロセミドは、患者が安定した時点で完全に中止してもよい。
【0034】
従って、さらなる局面によれば、本発明は、PDE IIIインヒビターおよび/またはCa2+感作剤、好ましくは、さらなるカルシウム感作効果を示すピモベンダンのようなPDE IIIインヒビターのフロセミドと一緒の、拡張機能障害、好ましくはHCMおよび/またはRCM、最も好ましくはHCMを患っている患者の治療における組合せ使用に関する。好ましくは、PDE IIIインヒビターおよび/またはCa2+感作剤、好ましくは、さらなるカルシウム感作効果を示すピモベンダンのようなPDE IIIインヒビターとフロセミドは、本明細書において説明している投与量で投与する。
【0035】
さらなる局面によれば、本発明は、拡張機能障害、好ましくはHCMおよび/またはRCM、最も好ましくはHCMを患っている患者の治療のための2段階併用療法に関し、第1段階において、PDE IIIインヒビターおよび/またはCa2+感作剤、好ましくは、さらなるカルシウム感作効果を示すピモベンダンのようなPDE IIIインヒビターのフロセミドと併用した投与を、さらに、第2段階において、PDE IIIインヒビターおよび/またはCa2+感作剤、好ましくは、さらなるカルシウム感作効果を示すピモベンダンのようなPDE IIIインヒビターのフロセミドを使用しない投与を含む。好ましくは、PDE IIIインヒビターおよび/またはCa2+‐感作剤、好ましくは、さらなるカルシウム感作効果を示すピモベンダンのようなPDE IIIインヒビターとフロセミドは、本明細書において説明しておる投与量で投与する。
【0036】
疾患の病態生理学から、拡張期の延長による拡張機能のさらなる改善または冠灌流/酸素需給比の増強が薬物療法の重要ターゲットであるべきことが予測されるであろう。両効果は、心拍数を低下させることによって達成し得る。心拍の低下は、Lタイプカルシウムチャネルのある種のブロッカーによって、β‐アドレノレセプターアンタゴニストによって、或いは洞調律ペースメーカー細胞の過分極依存性内向き電流のブロッカーによって誘発させ得る。PDE IIIインヒビターまたはCa2+感作剤、好ましくは、ピモベンダンは、PDE IIIインヒビターおよび/またはCa2+感作剤、好ましくは、さらなるカルシウム感作効果を示すピモベンダンのようなPDE IIIインヒビターがこれらの薬剤に固有の心臓収縮力の直接または間接の、即ち、心拍関連障害および同時血管収縮に対抗し得るので、これらの薬剤、特に、βブロッカーまたはif‐ブロッカーと好都合に組合さることが期待できる。
【0037】
さらにまた、PDE IIIインヒビターによって誘発されるような心前負荷の縮小後の直接の冠動脈拡張または壁外抵抗の減少に基く末梢血管拡張による心臓の開放(unburdening)並びに冠潅流の改善は、拡張期壁機能の改善にさらに寄与している。
従って、さらなる局面によれば、本発明は、PDE IIIインヒビターおよび/またはCa2+感作剤、好ましくは、さらなるカルシウム感作効果を示すピモベンダンのようなPDE IIIインヒビターとLタイプカルシウムチャネルブロッカー、β‐アドレノレセプターアンタゴニストおよび/またはif‐ブロッカーとの、拡張機能障害、好ましくはHCMおよび/またはRCM、最も好ましくはHCMを患っている患者の治療における組合せ使用に関する。
【0038】
周知の“Lタイプカルシウムチャネルブロッカー”としては、限定するものではないが、ジルチアゼム、ベラパミルおよびフェロジピン、またはこれらの製薬上許容し得る誘導体がある。
周知の“β‐アドレノレセプターアンタゴニスト”としては、限定するものではないが、アテノロールおよびカルベジロール、プロプラノロール、メトプロロール、ソタロール、チモロール、ブプラノロール、エスモロール、ネビボロール、ビソプロロールがある。好ましいβ‐アドレノレセプターアンタゴニストは、カルベジロール、持続放出性メトプロロールおよびネビボロールである。
【0039】
周知の“イフブロッカー”としては、限定するものではないが、シロブラジンまたはイバブラジンがある。
また、上述したようなLタイプカルシウムチャネルブロッカー、β‐アドレノレセプターアンタゴニストおよび/または1f‐ブロッカーは、これらの任意の製薬上許容し得る誘導体も包含する。例えば、用語ジルチアゼムは、ジルチアゼムの任意の製薬上許容し得る誘導体も意味し、包含するものとする。
【0040】
さらなる局面によれば、PDE IIIインヒビターおよび/またはCa2+感作剤、好ましくは、さらなるカルシウム感作効果を示すピモベンダンのようなPDE IIIインヒビターは、拡張機能障害、好ましくはHCMおよび/またはRCM、最も好ましくはHCMを患っている患者の治療において、ACEインヒビターと組合せて使用し得る。
【0041】
周知の“ACEインヒビター”としては、限定するものではないが、オマパトリラト、MDL100240、アラセプリル、ベナゼプリル、カプトプリル、シラザプリル、デラプリル、エナラプリル、エナラプリラト、ホシノプリル、ホシノプリラト、イミダプリル、リシノプリル、ペリンドプリル、キナプリル、ラミプリル、ラミプリラト、酢酸サララシン、テモカプリル、トランドラプリル、トランドラプリラト、セラナプリル、モエキシプリル、キナプリラトおよびスピラプリル、またはこれらの製薬上許容し得る誘導体がある。
【0042】
従って、さらなる局面によれば、本発明は、PDE IIIインヒビターおよび/またはCa2+感作剤、好ましくは、さらなるカルシウム感作効果を示すピモベンダンのようなPDE IIIインヒビターとACEインヒビターとの、拡張機能障害、好ましくはHCMおよび/またはRCM、最も好ましくはHCMを患っている患者の治療における組合せ使用に関する;上記ACEインヒビターは、オマパトリラト、MDL100240、アラセプリル、ベナゼプリル、カプトプリル、シラザプリル、デラプリル、エナラプリル、エナラプリラト、ホシノプリル、ホシノプリラト、イミダプリル、リシノプリル、ペリンドプリル、キナプリル、ラミプリル、ラミプリラト、酢酸サララシン、テモカプリル、トランドラプリル、トランドラプリラト、セラナプリル、モエキシプリル、キナプリラトおよびスピラプリル、またはこれらの製薬上許容し得る誘導体からなる群から選ばれる。
【0043】
実施例
以下の実施例により、本発明をさらに説明するが、この実施例を、本明細書において開示する本発明の範囲の限定として解釈すべきではない。
【実施例1】
【0044】
HCMを患っているネコの治療
雑種の15歳去勢雄ネコ (母猫:ペルシャ猫、父猫:ヨーロピアンショートヘア、体重6kg)が、2008年3月に獣医クリニックに連れて来られた。動物は、昏睡状態であり、動くことができなかった。心臓血管系の検査は、頻脈(>180bpm)を伴う急性循環不全を示した。心エコー検査は、HCMに関連している肥大した左心室壁および隔壁を示した。
フロセミドの即時の投与(1mg/kg、静脈内)は、状況の十分な制御をもたらさなかった。絶望的な状況であることから、1.25mgのピモベンダンを、この対応策がネコの状況を恐らくはさらに悪化させるであろう/悪化させ得るという予測/懸念でもって経口投与した。
【0045】
極めて驚くべきことに、臨床病状は改善し、ネコは数時間内に回復した。飼い主が、ネコが深刻な危機前に異常に活動していなかったことを観察しており、また、ネコが翌日悪化する傾向にあったので、獣医は、経口によるピモベンダンの20マイクログラム/kg/日の投与量での治療を続けることを決定した。この治療はまだ続いている。今のところ、超音波によって得られたデータは、左心室充満および収縮機能の有意の回復を証明していた。
【0046】
参考文献


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホスホジエステラーゼタイプIII (PDE III)インヒビターまたはCa2+感作剤の、拡張機能障害を患っている患者の治療用医薬品の製造における使用。
【請求項2】
前記拡張機能障害が、肥大性心筋症である、請求項1記載の使用。
【請求項3】
前記PDE IIIインヒビターが、さらなるカルシウム感作効果を示す、請求項1または2記載の使用。
【請求項4】
前記PDE IIIインヒビターまたはCa2+感作剤が、ピモベンダン、ミルリノン、レボシメンダン、アムリノン、エノキシモンおよびピロキシモンからなる群から選ばれる、請求項1〜3のいずれか1項記載の使用。
【請求項5】
前記PDE IIIインヒビターが、ピモベンダンである、請求項1〜4のいずれか1項記載の使用。
【請求項6】
前記PDE IIIインヒビターまたはCa2+感作剤を、経口または非経口剤形で使用する、請求項1〜5のいずれか1項記載の使用。
【請求項7】
前記医薬品を、5〜2.500μgPDE IIIインヒビターまたはCa2+感作剤/kg体重/日の投与量で使用する剤形にて製造する、請求項1〜6のいずれか1項記載の使用。
【請求項8】
前記PDE IIIインヒビターまたはCa2+感作剤を、5〜2.500μg/kg体重の投与日量にて投与する、請求項1〜7のいずれか1項記載の使用。
【請求項9】
前記PDE IIIインヒビターまたはCa2+感作剤を、フロセミドと一緒に投与する、請求項1〜8のいずれか1項記載の使用。
【請求項10】
フロセミドを、0.5〜5mg/kg体重の間の投与量で1日1回または2回投与する、請求項9記載の使用。
【請求項11】
前記PDE IIIインヒビターまたはCa2+感作剤が、β Lタイプカルシウムチャネルブロッカー、β‐アドレノレセプターアンタゴニストおよびif‐ブロッカーからなる群から選ばれる、請求項1〜10のいずれか1項記載の使用。
【請求項12】
前記患者が、ヒトを含む霊長類、イヌ、ネコおよびウマからなる群から選ばれる哺乳類である、請求項1〜11のいずれか1項記載の使用。
【請求項13】
前記患者がネコである、請求項1〜12のいずれか1項記載の使用。
【請求項14】
拡張機能障害を患っている患者の治療用のPDE IIIインヒビターまたはCa2+感作剤。
【請求項15】
肥大性心筋症を患っている患者の治療用のPDE IIIインヒビターまたはCa2+感作剤。

【公表番号】特表2012−509858(P2012−509858A)
【公表日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−536885(P2011−536885)
【出願日】平成21年11月23日(2009.11.23)
【国際出願番号】PCT/EP2009/065618
【国際公開番号】WO2010/060874
【国際公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【出願人】(504225895)ベーリンガー インゲルハイム フェトメディカ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (34)
【Fターム(参考)】