肥料の製造方法、及び肥料の製造方法に用いられる回転式表面溶融炉
【課題】汚泥に他のリン原料を混入しなくても、製造された肥料のク溶率を調整することができる肥料の製造方法、及び肥料の製造方法に用いられる回転式表面溶融炉を提供する。
【解決手段】リン含有汚泥またはリン含有焼却灰を含む被溶融物を溶融処理する溶融処理ステップ(SA4)と、前記溶融処理ステップで溶融されたスラグを冷却処理して固化する冷却処理ステップ(SA5)と、を含む肥料の製造方法であって、前記溶融処理ステップの前段に、前記リン含有汚泥またはリン含有焼却灰に骨格調整剤を添加して、前記冷却処理ステップで固化されたスラグに含まれる全リン重量に対するク溶性リン重量の比率が所定値を上回るように調整する骨格調整剤添加ステップ(SA71, SA72, SA73)を備えている。
【解決手段】リン含有汚泥またはリン含有焼却灰を含む被溶融物を溶融処理する溶融処理ステップ(SA4)と、前記溶融処理ステップで溶融されたスラグを冷却処理して固化する冷却処理ステップ(SA5)と、を含む肥料の製造方法であって、前記溶融処理ステップの前段に、前記リン含有汚泥またはリン含有焼却灰に骨格調整剤を添加して、前記冷却処理ステップで固化されたスラグに含まれる全リン重量に対するク溶性リン重量の比率が所定値を上回るように調整する骨格調整剤添加ステップ(SA71, SA72, SA73)を備えている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リン含有汚泥またはリン含有焼却灰を含む被溶融物を溶融処理する溶融処理ステップと、前記溶融処理ステップで溶融されたスラグを冷却処理して固化する冷却処理ステップと、を含む肥料の製造方法、及び肥料の製造方法に用いられる回転式表面溶融炉に関する。
【背景技術】
【0002】
リン肥料や工業用リン酸の製造のために必要となるリン鉱石を100%海外に依存している我が国では、廃棄物からのリン資源の回収が重要な課題になっている。特に下水汚泥に濃縮されるリンは、輸入リン鉱石の30%以上を占めていることもあり、下水汚泥からリンを含む肥料を製造するための各種の試みがなされている。
【0003】
例えば、特許文献1には、原料焼却灰の全リン酸濃度を測定し、該全リン酸濃度が予め定めた目標製品の濃度よりも低い場合には溶融処理前に高リン含有廃棄物の添加割合を求めて、原料中に添加した後に、溶融して、その後急冷してリン肥料を製造する方法が開示されている。当該文献によれば、汚泥に含まれるリン酸濃度が低い場合にはスラグ化した肥料のリンのク溶率が低くなるため、予め汚泥にリンを補充した後に溶融することで、所定のク溶率が得られる肥料の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−1819号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に開示された技術では、製造された肥料のク溶率が目標範囲に入るように、汚泥に他のリン原料を混入する必要があり、リン肥料の製造コストが上昇するという問題があった。
【0006】
本発明の目的は、上述した問題点に鑑み、肥料原料となる汚泥に他のリン原料を混入しなくても、製造された肥料に含まれるリンのク溶率を調整することができる肥料の製造方法、及び肥料の製造方法に用いられる回転式表面溶融炉を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述の目的を達成するため、本発明による肥料の製造方法の第一特徴構成は、特許請求の範囲の請求項1に記載した通り、リン含有汚泥またはリン含有焼却灰を含む被溶融物を溶融処理する溶融処理ステップと、前記溶融処理ステップで溶融されたスラグを冷却処理して固化する冷却処理ステップと、を含む肥料の製造方法であって、前記溶融処理ステップの前段に、前記リン含有汚泥またはリン含有焼却灰に骨格調整剤を添加して、前記冷却処理ステップで固化されたスラグに含まれる全リン重量に対するク溶性リン重量の比率が所定値を上回るように調整する骨格調整剤添加ステップを備えている点にある。
【0008】
溶融処理ステップで溶融され、冷却処理ステップで固化されたスラグの骨格を構成する珪酸は、実際の構造ではSiO4四面体が酸素Oを橋渡しにして不規則に並べられた三次元の網目でつながっている。つまり、SiO4の四つの酸素は、珪素Siが作る四頂点の軌道を囲んでSiO4四面体を作りながら、酸素Oは他のもう一つの珪素Siとも結合して無限の網目構造が作られる。珪素Siをつないでいくこのような酸素Oを架橋酸素と呼ぶ。スラグに含まれるリン酸P2O5も同様にリンPに架橋酸素が結合され、無限の網目構造が作られる。このようなスラグ成分の中に金属イオン等の陽イオンが含まれると、珪素SiやリンPと結合されるべき酸素Oの一部の結合が切られて、当該陽イオンとイオン的につり合う状態になる。こういう酸素Oを非架橋酸素と呼ぶ。スラグ中に非架橋酸素が増加すると、スラグの骨格強度が脆弱化して崩壊し易くなる。
【0009】
本願発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、架橋酸素による網目構造が主体となるスラグに対して、スラグ中の非架橋酸素の数が増えると、肥料成分であるリン酸のク溶率が上昇するという事実を確認した。そして、溶融処理ステップの前段でリン含有汚泥またはリン含有焼却灰に骨格調整剤を添加することにより、スラグ中の非架橋酸素の数を調整することが可能になり、骨格調整剤の添加量を調整することによって、冷却処理ステップで固化されたスラグに含まれる全リン重量に対するク溶性リン重量の比率が所定値を上回るように調整することが可能になるという新知見を得たのである。
【0010】
即ち、リン含有汚泥またはリン含有焼却灰に他のリン原料を混入しなくても、単に骨格調整剤を添加して溶融処理すれば、冷却処理ステップで固化されたスラグの骨格構造が脆弱化して、当該スラグに含まれる全リン重量に対するク溶性リン重量の比率を高めることができるようになった。
【0011】
同第二の特徴構成は、同請求項2に記載した通り、上述した第一の特徴構成に加えて、骨格調整剤添加ステップは、前記冷却処理ステップで固化されたスラグに含まれる全リン重量に対するク溶性リン重量の比率が所定値を上回るように、前記冷却処理ステップで固化されたスラグの光学的塩基度を調整するステップである点にある。
【0012】
本願発明者らは、更にスラグの骨格強度を評価する指標として、光学的塩基度を指標として用いることができることを見出した。光学的塩基度は、DuffyとIngramによって見出された指標であり、紫外光吸収ピークがガラス組成に対して敏感に変化することに注目し、多成分系酸化物ガラスについて、ガラスの組成とそれらを構成するカチオンの電気陰性度とから、以下の数式に基づいて導き出される指標である。
【0013】
光学的塩基度Λ=1−Σ(zi・ri/2)・(1−1/γi)
但し、γi=1.36(χi−0.26)
ここに、ziはi種カチオンの原子価であり、riは酸素1個あたりで表現したときのi種カチオンの数であり、χiはi種カチオンの電気陰性度である。
【0014】
光学的塩基度は、予めリン含有汚泥またはリン含有焼却灰を含む被溶融物の組成を分析することにより求まる値であるため、スラグに含まれる全リン重量に対するク溶性リン重量の比率が所定値を上回るような骨格強度を実現するための光学的塩基度が定まれば、事前にそのような光学的塩基度を得るための骨格調整剤の添加量を調整することができるようになる。
【0015】
同第三の特徴構成は、同請求項3に記載した通り、上述した第二の特徴構成に加えて、前記骨格調整剤添加ステップは、前記冷却処理ステップで固化されたスラグを含む肥料に含まれる全リン重量に対するク溶性リン重量の比率が所定値を上回るように、前記冷却処理ステップで固化されたスラグの光学的塩基度を調整するステップである点にある。
【0016】
上述した第二の特徴構成によって製造されたスラグのみからなる肥料を使用する場合のみならず、当該スラグに他の肥料を混合して使用する場合もある。後者の場合、混合した肥料全体として全リン重量に対するク溶性リン重量の比率が調整される必要がある。そのような場合であっても、他の肥料のリンのク溶率が判明していれば、上述した第二の特徴構成により骨格調整剤の添加量を調整することによって、混合した肥料全体のリンのク溶率を調整することができるようになる。
【0017】
同第四の特徴構成は、同請求項4に記載した通り、上述した第一から第三の何れかの特徴構成に加えて、前記骨格調整剤添加ステップで添加される骨格調整剤が、アルカリ金属、アルカリ土類金属、または遷移金属から選ばれる一種類または複数種類の金属単体または金属化合物である点にあり、スラグの骨格強度を調整するために必要な陽イオンとして、アルカリ金属、アルカリ土類金属、または遷移金属から選ばれる一種類または複数種類の金属単体または金属化合物を好適に用いることができる。
【0018】
同第五の特徴構成は、同請求項5に記載した通り、上述した第一から第四の何れかの特徴構成に加えて、前記骨格調整剤添加ステップで添加される骨格調整剤が、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、鉄、マンガン、銅、亜鉛から選ばれる一種類または複数種類の金属単体または金属化合物である点にある。
【0019】
スラグを脆弱化してリンの溶出を促すための骨格調整剤として、カリウム、カルシウム、マグネシウム、鉄、マンガン、銅、亜鉛から選ばれる一種類または複数種類の金属単体または金属化合物を用いると、それら自身が植物に不可欠な肥料成分となり、品質がより良好な肥料が得られる。例えば、骨格調整剤としてナトリウム、カリウム、カルシウム、鉄の金属単体または金属化合物を用いると、溶融処理ステップで汚泥等の融点を低下させることができ、溶融のための化石燃料や電力等の外部エネルギーの消費量を低減することができる。また、鉄の金属単体または金属化合物を用いると、リンと合金化してその沸点を上昇させ、溶融処理時にリン成分が気化することを効果的に抑制することができる。このように、骨格調整剤が融点制御材の役割を有しており、融点を制御することもできる。
【0020】
同第六の特徴構成は、同請求項6に記載した通り、上述した第一から第五の何れかの特徴構成に加えて、前記骨格調整剤添加ステップで添加される骨格調整剤に鉄またはその化合物が含まれ、前記溶融処理ステップが還元性雰囲気で実行される点にある。
【0021】
骨格調整剤として鉄またはその化合物を用いて酸化性雰囲気で溶融処理すると、スラグ中で鉄がFe2O3となり、骨格強度が強いスラグになるが、還元性雰囲気で溶融処理すると、スラグ中で鉄がFeOとなり、骨格強度を脆弱にすることができる。
【0022】
同第七の特徴構成は、同請求項7に記載した通り、上述した第一から第六の何れかの特徴構成に加えて、前記溶融処理ステップは、スラグの温度を1300℃以下に調整した条件下で実行される点にあり、1300℃より高温で溶融処理すると、スラグの粘性が低く、スラグ骨格がエネルギー安定的は平衡状態に近づき、骨格強度が強いスラグとなるが、1300℃以下の溶融温度で溶融処理すると、スラグの粘性が高く、スラグ骨格が平衡状態に達しないので、骨格強度が弱いスラグを得ることができるようになる。
【0023】
同第八の特徴構成は、同請求項8に記載した通り、上述した第一から第七の何れかの特徴構成に加えて、前記冷却処理ステップは、前記溶融処理ステップで溶融されたスラグを緩速冷却して固化するステップを含む点にある。
【0024】
冷却処理ステップで溶融スラグを冷却する場合に、溶融スラグを水槽に落下させる等によって急速冷却すると非結晶質主体のスラグが得られ、リンは非結晶質骨格に取り込まれているので、リン溶出率の低いスラグとなる。溶融スラグを空冷等によって緩速冷却すると、結晶質主体のスラグが得られ、リンは結晶質骨格に取り込まれにくいため、リン溶出率の高いスラグとなる。
【0025】
同第九特徴構成は、同請求項9に記載した通り、リン含有汚泥またはリン含有焼却灰を含む被溶融物を溶融処理する溶融処理ステップと、前記溶融処理ステップで溶融されたスラグを冷却処理して固化する冷却処理ステップと、を含む肥料の製造方法であって、前記溶融処理ステップの前段から前記冷却処理ステップの間に、前記冷却処理ステップで固化されたスラグに含まれる全リン重量に対するク溶性リン重量の比率を調整するク溶性リン調整処理ステップを備えている点にある。
【0026】
ク溶性リン調整処理ステップによって、スラグに含まれる全リン重量に対するク溶性リン重量の比率を調整することができるので、スラグ単体を肥料として施肥する場合のみならず、他の肥料と混合した混合肥料として施肥する場合であっても、冷却処理ステップで固化されたスラグに含まれる全リン重量に対するク溶性リン重量の比率を調整することが可能になる。
【0027】
同第十特徴構成は、同請求項10に記載した通り、上述した第九特徴構成に加えて、前記ク溶性リン調整処理ステップは、前記溶融処理ステップの前段で、前記リン含有汚泥またはリン含有焼却灰に骨格調整剤を添加する骨格調整剤添加ステップである点にある。
【0028】
本願発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、架橋酸素による網目構造が主体となるスラグに対して、スラグ中の非架橋酸素の数が増えると、肥料成分であるリン酸のク溶率が上昇するという事実を確認した。そして、溶融処理ステップの前段でリン含有汚泥またはリン含有焼却灰に骨格調整剤を添加する骨格調整剤添加ステップを備えることにより、スラグ中の非架橋酸素の数を調整することが可能になり、骨格調整剤の添加量を調整することによって、冷却処理ステップで固化されたスラグに含まれる全リン重量に対するク溶性リン重量の比率を調整することが可能になるという新知見を得たのである。
【0029】
即ち、肥料としてのスラグのリンのク溶率を所望のク溶率に調整することができるので、他の肥料と混合した肥料を製造する場合であっても、肥料全体としてク溶率を調整することができるスラグを製造することができるようになる。
【0030】
同第十一特徴構成は、同請求項11に記載した通り、上述した第十特徴構成に加えて、前記骨格調整剤添加ステップは、前記リン含有汚泥またはリン含有焼却灰に骨格調整剤を添加して前記冷却処理ステップで固化されたスラグの光学的塩基度を調整するステップである点にある。
【0031】
本願発明者らは、更にスラグの骨格強度を評価する指標として、光学的塩基度を指標として用いることができることを見出した。光学的塩基度は、DuffyとIngramによって見出された指標であり、紫外光吸収ピークがガラス組成に対して敏感に変化することに注目し、多成分系酸化物ガラスについて、ガラスの組成とそれらを構成するカチオンの電気陰性度とから、以下の数式に基づいて導き出される指標である。
【0032】
光学的塩基度Λ=1−Σ(zi・ri/2)・(1−1/γi)
但し、γi=1.36(χi−0.26)
ここに、ziはi種カチオンの原子価であり、riは酸素1個あたりで表現したときのi種カチオンの数であり、χiはi種カチオンの電気陰性度である。
【0033】
光学的塩基度は、予めリン含有汚泥またはリン含有焼却灰を含む被溶融物の組成を分析することにより求まる値であるため、スラグに含まれる全リン重量に対するク溶性リン重量の比率が所定値となるような骨格強度を実現するための光学的塩基度が定まれば、事前にそのような光学的塩基度を得るための骨格調整剤の添加量を調整することができるようになる。
【0034】
同第十二特徴構成は、同請求項12に記載した通り、上述した第十または第十一特徴構成に加えて、前記骨格調整剤添加ステップで添加される骨格調整剤が、アルカリ金属、アルカリ土類金属、または遷移金属から選ばれる一種類または複数種類の金属単体または金属化合物である点にあり、スラグの骨格強度を調整するために必要な陽イオンとして、アルカリ金属、アルカリ土類金属、または遷移金属から選ばれる一種類または複数種類の金属単体または金属化合物を好適に用いることができる。
【0035】
同第十三特徴構成は、同請求項13に記載した通り、上述した第十から第十二の何れかの特徴構成に加えて、前記骨格調整剤添加ステップで添加される骨格調整剤が、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、鉄、マンガン、銅、亜鉛から選ばれる一種類または複数種類の金属単体または金属化合物である点にある。
【0036】
スラグからのリンの溶出を制御するための骨格調整剤として、カリウム、カルシウム、マグネシウム、鉄、マンガン、銅、亜鉛から選ばれる一種類または複数種類の金属単体または金属化合物を用いると、それら自身が植物に不可欠な肥料成分となり、品質がより良好な肥料が得られる。例えば、骨格調整剤としてナトリウム、カリウム、カルシウム、鉄の金属単体または金属化合物を用いると、溶融処理ステップで汚泥等の融点を低下させることができ、溶融のための化石燃料や電力等の外部エネルギーの消費量を低減することができる。また、鉄の金属単体または金属化合物を用いると、リンと合金化してその沸点を上昇させ、溶融処理時にリン成分が気化することを効果的に抑制することができる。このように、骨格調整剤が融点制御材の役割を有しており、融点を制御することもできる。
【0037】
同第十四特徴構成は、同請求項14に記載した通り、上述した第十から第十三の何れかの特徴構成に加えて、前記骨格調整剤添加ステップで添加される骨格調整剤に鉄またはその化合物が含まれ、前記溶融処理ステップが還元性雰囲気または酸化性雰囲気の何れかで実行される点にある。
【0038】
骨格調整剤添加ステップで添加される骨格調整剤に鉄またはその化合物が含まれている場合は、溶融処理ステップを酸化性雰囲気で実施すると、溶融スラグ中の鉄がFe2O3の形態になるため骨格強度が強いスラグを得ることができる。溶融処理ステップを還元性雰囲気で実施すると、溶融スラグ中の鉄がFeOの形態となり骨格強度が弱いスラグを得ることができる。
【0039】
同第十五特徴構成は、同請求項15に記載した通り、上述した第十から第十四の何れかの特徴構成に加えて、前記溶融処理ステップは、スラグの温度を1000℃から1700℃の範囲で調整した条件下で実行される点にある。
【0040】
1300℃より高温で溶融処理すると、スラグの粘性が低く、スラグ骨格がエネルギー安定的は平衡状態に近づき、骨格強度が強いスラグを得ることができ、1300℃以下の溶融温度で溶融処理すると、スラグの粘性が高く、スラグ骨格が平衡状態に達しないので、骨格強度が弱いスラグを得ることができるようになる。
【0041】
同第十六の特徴構成は、同請求項16に記載した通り、上述した第十から第十五の何れかの特徴構成に加えて、前記冷却処理ステップは、前記溶融処理ステップで溶融されたスラグを空冷機構または保温機構を用いて緩速冷却して固化するステップ、または水冷機構を用いて急速冷却するステップを含む点にある。
【0042】
冷却処理ステップで溶融スラグを冷却する場合に、溶融スラグを空冷機構または保温機構を用いて緩速冷却して固化すると、結晶質主体のスラグが得られ、リンは結晶質骨格に取り込まれにくいため、リン溶出率の高いスラグとなる。また、水冷機構を用いて急速冷却すると非結晶質主体のスラグが得られ、リンは非結晶質骨格に取り込まれているので、リン溶出率の低いスラグとなる。
【0043】
本発明による肥料の製造方法に用いられる回転式表面溶融炉の第一の特徴構成は、同請求項17に記載した通り、上述した第一から第十六の何れかの特徴構成を備えた肥料の製造方法に用いられる回転式表面溶融炉であって、燃焼器が配置された天井部の周囲に立設された内筒と、底部中央に出滓口が形成された有底の外筒とを共通軸心周りに配置し、前記外筒と前記内筒との間の蓄積部に投入されたリン含有汚泥またはリン含有焼却灰を含む被溶融物を、前記外筒と前記内筒の相対回転により前記内筒の下縁部から前記天井部の下部空間の主燃焼室に移動させて、その露出面を前記燃焼器の燃焼火炎により溶融し、前記出滓口から溶融スラグを落下排出するように構成され、前記主燃焼室で溶融されたスラグの滞留時間を調整する滞留時間調整機構を備えている点にある。
【0044】
滞留時間調整機構によってスラグの滞留時間が長くなるように調整することによって、スラグ骨格がエネルギー安定的な平衡状態に近づき、ク溶率が低い肥料を製造することができるようになり、また、溶融スラグに含まれる重金属類を十分に気化させて、肥料に含まれる重金属成分を極めて低く調整できるようになる。また、滞留時間調整機構によってスラグの滞留時間が短くなるように調整することによって、スラグ骨格が平衡状態に達しない弱い状態となり、ク溶率が高い肥料となる。
【0045】
同第二の特徴構成は、同請求項18に記載した通り、上述の第一の特徴構成に加えて、前記滞留時間調整機構が、前記内筒と前記外筒を前記共通軸心方向に相対移動させて、前記内筒の下縁部と前記外筒の底部との間隔を調整する間隔調整機構で具現化されている点にある。
【0046】
間隔調整機構によって内筒の下縁部と前記外筒の底部との間隔が狭くなるように調整すると、内筒の下縁部から主燃焼室に移動する被溶融物である汚泥等の量が少なくなり、その表面から溶融したスラグが出滓口から流出するまでの長い時間を確保できるようになる。また、間隔調整機構によって内筒の下縁部と前記外筒の底部との間隔が広くなるように調整すると、内筒の下縁部から主燃焼室に移動する被溶融物である汚泥等の量が多くなり、その表面から溶融したスラグが出滓口から流出するまでの時間を短くなるように調整できる。
【0047】
同第三の特徴構成は、同請求項19に記載した通り、上述した第一から第十六の何れかの特徴構成を備えた肥料の製造方法に用いられる回転式表面溶融炉であって、燃焼器が配置された天井部の周囲に立設された内筒と、底部中央に出滓口が形成された有底の外筒とを共通軸心周りに配置し、前記外筒と前記内筒との間の蓄積部に投入されたリン含有汚泥またはリン含有焼却灰を含む被溶融物を、前記外筒と前記内筒の相対回転により前記内筒の下縁部から前記天井部の下部空間に移動させて、その露出面を前記燃焼器の燃焼火炎により溶融し、前記出滓口から溶融スラグを落下排出するように構成され、前記蓄積部に投入されたリン含有汚泥またはリン含有焼却灰に前記骨格調整剤を添加する添加機構を備えている点にある。
【0048】
溶融炉に備えた添加機構によって、蓄積部に投入されたリン含有汚泥またはリン含有焼却灰に適量の骨格調整剤を溶融処理の直前に添加して外筒の回転により攪拌することができ、溶融炉とは別体の添加攪拌機構を備える必要が無くなる。
【発明の効果】
【0049】
以上説明した通り、本発明によれば、肥料原料となる汚泥に他のリン原料を混入しなくても、製造された肥料に含まれるリンのク溶率を調整することができる肥料の製造方法、及び肥料の製造方法に用いられる回転式表面溶融炉を提供することができるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】肥料の製造装置のブロック構成図
【図2】肥料の製造方法の説明図
【図3】本発明による回転式表面溶融炉の説明図であって、(a)は各部の構成を示す説明図、(b)内筒が上に可動したときの説明図
【図4】(a)はベース試料及び比較試料の組成の説明図、(b)は試料の説明図
【図5】各試料の主要組成を示す図表
【図6】各試料の光学的塩基度を示す図表
【図7】溶出試験における各元素の溶出濃度及び溶出液pHを示す図表
【図8】溶出試験における各元素の溶出割合を示す図表
【図9】各元素の光学的塩基度と溶出割合との関係を示す図表
【図10】(a)は各試料の説明図、(b)は各試料の実験条件の説明図
【図11】溶出試験における光学的塩基度とリン溶出割合を示す図表
【図12】溶出試験における各元素の溶出割合を示す図表
【図13】溶出試験における各元素の溶出割合を示す図表
【図14】溶出試験における各元素の溶出割合を示す図表
【発明を実施するための形態】
【0051】
以下、実施形態を説明する。
図1には、本発明による肥料の製造方法が実行される肥料の製造プラント10、つまりリン含有汚泥またはリン含有焼却灰を原料とする肥料の製造プラント10が示されている。
【0052】
当該製造プラント10は、外部から生物処理槽に流入する下水汚泥を活性汚泥法や膜分離活性汚泥法等を用いて生物処理する水処理機構11と、水処理機構11からポンプPを介して引き抜かれた余剰汚泥を脱水する脱水機構12と、脱水機構12で脱水された脱水汚泥を乾燥する乾燥機構13と、乾燥機構13で乾燥された乾燥汚泥を溶融する溶融機構14と、溶融機構14から流出される溶融スラグを冷却する冷却機構15と、冷却機構15で得られコンベア機構16で搬送されたスラグを肥料として好ましい粒度に整粒する整粒機構17等を備えている。
【0053】
水処理機構11に備えた生物処理槽で、活性汚泥により下水中の有機物が分解除去されて浄化される。生物処理槽で下水が好気処理される過程で、活性汚泥に下水中のリンが取り込まれ、リンを取り込んだリン含有汚泥が、生物処理槽または生物処理槽の後段に配置された沈殿槽から引き抜かれて脱水機構12に搬送される。
【0054】
沈殿槽等に鉄系凝集剤を添加して、下水中に含まれるリン成分を沈降させることによって、水処理機構11から引き抜かれる汚泥に含まれるリン成分の濃度を高めることができる。
【0055】
脱水機構12に備えたスクリュープレス方式の脱水装置によって、汚泥が含水率80%程度に脱水され、後段の乾燥機構13で含水率が20〜40%程度に乾燥され、その後溶融機構14に搬送される。
【0056】
脱水装置としてスクリュープレス方式の脱水装置以外に、ロータリプレス方式、フィルタプレス方式、遠心分離方式、ベルトプレス方式等の任意の脱水装置を採用することも可能である。
【0057】
乾燥機構13は、本体ケーシングの上流側に備えた汚泥投入部から投入された脱水汚泥を、本体ケーシングの下流側に備えた汚泥排出部に向けて本体ケーシング内を攪拌しながら搬送するスクリュー式搬送機構を備えている。スクリュー式搬送機構に備えた軸部空洞部に溶融機構14からの排ガスの保有熱を熱源として生成された蒸気または高温空気を供給することによって、本体ケーシング内で搬送中の脱水汚泥が間接加熱されて乾燥される。
【0058】
溶融機構14で溶融されてスラグとなった汚泥は、後段の冷却機構15で冷却固化され、さらにベルト式搬送機構16で整粒機構17に搬送されて、所望の粒径に整粒される。
【0059】
つまり、図2に示すように、当該製造プラント10では、水処理機構11で下水汚泥を浄化処理する水処理ステップ(SA1)、水処理ステップで発生した余剰汚泥を引き出して脱水機構12で脱水処理する脱水ステップ(SA2)、脱水ケーキを乾燥機構13で乾燥する乾燥ステップ(SA3)、乾燥汚泥を溶融機構14で溶融処理する溶融処理ステップ(SA4)、溶融処理ステップで溶融されたスラグを冷却機構15で冷却処理して固化する冷却処理ステップ(SA5)、冷却処理ステップで固化されたスラグを整粒機構17で粉砕して粒度を調整する整粒ステップ(SA6)を含む肥料の製造方法が実行される。また、肥料によっては、整粒ステップの後に他の肥料原料を混ぜて肥料とすることもある。
【0060】
尚、本実施形態では、リン含有汚泥を溶融して肥料を製造する方法を主に説明するが、下水汚泥を脱水した後に焼却炉で焼却処理して得られるリン含有焼却灰を溶融機構14で溶融処理することによって肥料を製造する方法にも適用できる。
【0061】
当該肥料の製造方法には、溶融処理ステップの前段に、リン含有汚泥またはリン含有焼却灰に骨格調整剤を添加して、冷却処理ステップで固化されたスラグに含まれる全リン重量に対するク溶性リン重量の比率が所定値を上回るように調整する骨格調整剤添加ステップを備えている。
【0062】
溶融処理ステップで溶融され、冷却処理ステップで固化されたスラグの骨格を構成する主成分となる珪酸は、実際の構造ではSiO4四面体が酸素Oを橋渡しにして不規則に並べられた三次元の網目でつながっている。つまり、SiO4の四つの酸素は、珪素Siが作る四頂点の軌道を囲んでSiO4四面体を作りながら、酸素Oは他のもう一つの珪素Siとも結合して無限の網目構造が作られる。珪素Siをつないでいくこのような酸素Oを架橋酸素と呼ぶ。スラグに含まれるリン酸P2O5も同様にリンPに架橋酸素が結合され、無限の網目構造が作られる。このようなスラグ成分の中に金属イオン等の陽イオンが含まれると、珪素SiやリンPと結合されるべき酸素Oの一部の結合が切られて、当該陽イオンとイオン的につり合う状態になる。こういう酸素Oを非架橋酸素と呼ぶ。スラグ中に非架橋酸素が増加すると、スラグの骨格強度が脆弱化して崩壊し易くなる。逆にスラグ中に非架橋酸素が減少すると、スラグの骨格強度が強くなる。
【0063】
架橋酸素による網目構造が主体となるスラグに対して、スラグ中の非架橋酸素の数が増えると、肥料成分であるリン酸のク溶率が上昇する。
【0064】
そこで、溶融処理ステップの前段でリン含有汚泥またはリン含有焼却灰に骨格調整剤を添加することにより、スラグ中の非架橋酸素の数を調整することが可能になり、骨格調整剤の添加量を調整することによって、冷却処理ステップで固化されたスラグに含まれる全リン重量に対するク溶性リン重量の比率が所定値を上回るように調整することが可能になる。上位概念的には、骨格調整剤の添加量を調整することによって、冷却処理ステップで固化されたスラグに含まれる全リン重量に対するク溶性リン重量の比率が所望の比率になるように構成することができる。
【0065】
骨格調整剤添加ステップは、冷却処理ステップで固化されたスラグに含まれる全リン重量に対するク溶性リン重量の比率が所定値を上回るように、冷却処理ステップで固化されたスラグの光学的塩基度を調整するステップであることが好ましい。
【0066】
スラグの骨格強度を評価する指標として、光学的塩基度を指標として用いることができる。光学的塩基度は、DuffyとIngramによって見出された指標であり、紫外光吸収ピークがガラス組成に対して敏感に変化することに注目し、多成分系酸化物ガラスについて、ガラスの組成とそれらを構成するカチオンの電気陰性度とから、以下の数式に基づいて導き出される指標である。
【0067】
光学的塩基度Λ=1−Σ(zi・ri/2)・(1−1/γi)
但し、γi=1.36(χi−0.26)
ここに、ziはi種カチオンの原子価であり、riは酸素1個あたりで表現したときのi種カチオンの数であり、χiはi種カチオンの電気陰性度である。
【0068】
光学的塩基度は、予めリン含有汚泥またはリン含有焼却灰の組成を分析することにより求まる値であるため、スラグに含まれる全リン重量に対するク溶性リン重量の比率が所定値を上回るような骨格強度を実現するための光学的塩基度が定まれば、事前にそのような光学的塩基度を得るための骨格調整剤の添加量を調整することができるようになる。実験によれば、光学的塩基度が0.57以上に調整することによって、リンのク溶率、つまり、スラグに含まれる全リン重量に対するク溶性リン重量の比率を効果的に上昇させることができ、市販の緩効性の肥料と同等以上のものができることが判明している。
【0069】
骨格調整剤添加ステップが、冷却処理ステップで固化されたスラグを含む肥料に含まれる全リン重量に対するク溶性リン重量の比率が所定値を上回るように、冷却処理ステップで固化されたスラグの光学的塩基度を調整するステップであってもよい。当該スラグに他の肥料を混合して使用する場合もあり、その場合は、混合した肥料全体として全リン重量に対するク溶性リン重量の比率が調整される必要がある。そのような場合であっても、他の肥料のリンのク溶率が判明していれば、骨格調整剤の添加量を調整することによって、混合した肥料全体のリンのク溶率を調整することができるようになる。
【0070】
骨格調整剤添加ステップで添加される骨格調整剤が、アルカリ金属、アルカリ土類金属、または遷移金属から選ばれる一種類または複数種類の金属単体または金属化合物であることが好ましく、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、鉄、マンガン、銅、亜鉛から選ばれる一種類または複数種類の金属単体または金属化合物であることがさらに好ましい。
【0071】
スラグを脆弱化してリンの溶出を促すための骨格調整剤として、カリウム、カルシウム、マグネシウム、鉄、マンガン、銅、亜鉛から選ばれる一種類または複数種類の金属単体または金属化合物を用いると、それら自身が植物に不可欠な肥料成分となり、複数の肥料成分を持つ品質がより良好な肥料が得られる。
【0072】
図2に示すように、添加される骨格調整剤がカルシウムまたは鉄系の非水溶性の金属化合物等である場合には、生物処理される前の原水に対して骨格調整剤添加ステップを実行すれば(SA71)、水処理機構11で骨格調整剤が分散し汚泥中に均一に分散させることができる。
【0073】
添加される骨格調整剤がナトリウムやカリウム等の水溶性の金属化合物等である場合には、骨格調整剤が水に溶けて排水されないように生物処理槽等から引き抜かれ、脱水処理される直前の汚泥に対して骨格調整剤添加ステップを実行すればよく(SA72)、溶融処理ステップの前段(SA73)までの何れかの工程で骨格調整剤添加ステップを実行すればよい。勿論、カルシウムまたは鉄系の非水溶性の金属化合物を、ステップSA72からステップSA73の間の何れかの段階で汚泥に添加されるように構成してもよい。このように、骨格調整剤の投入場所を変えることで、骨格調整剤を汚泥中に均一に分散させることができる。
【0074】
尚、上述した骨格調整剤添加ステップ(SA71、SA72、SA73)は、何れかのみを実行してよいし、組み合わせて実行してもよい。
【0075】
例えば、骨格調整剤としてナトリウム、カリウム、カルシウム、鉄の金属単体または金属化合物を用いると、溶融処理ステップで汚泥等の融点を低下させることができ、溶融のための化石燃料や電力等の外部エネルギーの消費量を低減することができる。
【0076】
1300℃より高温で溶融処理すると、スラグの粘性が低く、スラグ骨格がエネルギー安定的は平衡状態に近づき、骨格強度が強いスラグとなるが、1300℃以下の溶融温度で溶融処理すると、スラグの粘性が高く、スラグ骨格が平衡状態に達しないので、骨格強度が弱いスラグを得ることができるようになる。しかも、ナトリウム、カリウム、カルシウム、鉄の金属単体または金属化合物を添加することによって、溶融温度そのものを低下させることができるので、化石燃料等の溶融エネルギーを節約することができる。
【0077】
さらに、骨格調整剤による骨格強度の脆弱化と、溶融温度を1300℃以下とすることによるスラグの脆弱化の2つの効果を合わせ持つことができ、よりリン等の成分が溶出しやすいスラグとすることができる。
【0078】
尚、溶融処理ステップでは、汚泥に含まれる有害物質であるダイオキシン類が熱分解されるとともに水銀等の沸点の低い重金属が蒸発揮散され、銅等の沸点の高い重金属がスラグに閉じ込められて無害化される。そのため、スラグを利用した肥料の安全性が保たれる。
【0079】
また、鉄の金属単体または金属化合物を用いると、リンと合金化してその沸点を上昇させ、溶融処理時にリン成分が気化することを効果的に抑制することができる。つまり、スラグ中のリン含有量を増やすことができる。
【0080】
骨格調整剤添加ステップで添加される骨格調整剤として鉄またはその化合物を使用し、溶融処理ステップを還元性雰囲気で実行すれば、スラグ中で鉄がFeOとなり、骨格強度を脆弱にすることができる。逆に、溶融処理ステップを酸化性雰囲気で実行すると、スラグ中で鉄がFe2O3となり、架橋酸素が多くなるため骨格強度が強いスラグになる。つまり、溶融時の雰囲気を還元性雰囲気にするか酸化性雰囲気にするかによって、スラグに含まれるリンのク溶率を調整することができる。
【0081】
冷却処理ステップで溶融スラグを冷却する場合に、溶融スラグを水槽に落下させる等によって急速冷却すると非結晶質主体のスラグが得られ、リンは非結晶質骨格に取り込まれているので、リン溶出率の低いスラグとなる。溶融スラグを空冷等によって緩速冷却すると、結晶質主体のスラグが得られ、リンは結晶質骨格に取り込まれにくいため、リン溶出率の高いスラグとなる。
【0082】
尚、冷却方法にかかわらず、骨格調整剤の添加による骨格強度の脆弱化の効果はある。つまり、緩速冷却することにより、より一層リン溶出率の高いスラグを得ることができる。
【0083】
リンのク溶性を高くするという観点では緩速冷却が好ましいが、そのための機構、つまり、空冷機構等緩速冷却する為の複雑な機構が必要となる。その点で、溶融スラグを水槽に落下させることで急冷して水砕スラグにする場合には、冷却機構を簡素化できる利点、単位時間当たりの製造量を稼ぐことができるという利点がある。
【0084】
以上、溶融処理ステップの前段に、冷却処理ステップで固化されたスラグに含まれる全リン重量に対するク溶性リン重量の比率が所定値を上回るように調整する骨格調整剤添加ステップを備えている肥料の製造方法という観点での発明を説明したが、本発明は、溶融処理ステップの前段から冷却処理ステップの間に、冷却処理ステップで固化されたスラグに含まれる全リン重量に対するク溶性リン重量の比率を調整するク溶性リン調整処理ステップを備えた肥料の製造方法という観点での発明でもある。
【0085】
この場合も、ク溶性リン調整処理ステップによって、スラグに含まれる全リン重量に対するク溶性リン重量の比率を調整することができるので、スラグ単体を肥料として施肥する場合のみならず、他の肥料と混合した混合肥料として施肥する場合であっても、冷却処理ステップで固化されたスラグに含まれる全リン重量に対するク溶性リン重量の比率を調整することが可能になる。
【0086】
ク溶性リン調整処理ステップは、溶融処理ステップの前段で、リン含有汚泥またはリン含有焼却灰を含む被溶融物に骨格調整剤を添加する骨格調整剤添加ステップであることが好ましい。既に説明したように、架橋酸素による網目構造が主体となるスラグに対して、スラグ中の非架橋酸素の数が増えると、肥料成分であるリン酸のク溶率が上昇する。そして、溶融処理ステップの前段でリン含有汚泥またはリン含有焼却灰に骨格調整剤を添加する骨格調整剤添加ステップを備えることにより、スラグ中の非架橋酸素の数を調整することが可能になり、骨格調整剤の添加量を調整することによって、冷却処理ステップで固化されたスラグに含まれる全リン重量に対するク溶性リン重量の比率を調整することが可能になる。
【0087】
即ち、肥料としてのスラグのリンのク溶率を所望のク溶率に調整することができるので、他の肥料と混合した肥料を製造する場合であっても、肥料全体としてク溶率を調整することができるスラグを製造することができるようになる。
【0088】
また、骨格調整剤添加ステップは、リン含有汚泥またはリン含有焼却灰に骨格調整剤を添加して前記冷却処理ステップで固化されたスラグの光学的塩基度を調整するステップであることが好ましい。
【0089】
既に説明したように、光学的塩基度は、予めリン含有汚泥またはリン含有焼却灰の組成を分析することにより求まる値であるため、スラグに含まれる全リン重量に対するク溶性リン重量の比率が所定値となるような骨格強度を実現するための光学的塩基度が定まれば、事前にそのような光学的塩基度を得るための骨格調整剤の添加量を調整することができるようになる。
【0090】
骨格調整剤添加ステップで添加される骨格調整剤が、アルカリ金属、アルカリ土類金属、または遷移金属から選ばれる一種類または複数種類の金属単体または金属化合物であることが好ましく、特にナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、鉄、マンガン、銅、亜鉛から選ばれる一種類または複数種類の金属単体または金属化合物であることが好ましい。
【0091】
スラグからのリンの溶出を制御するための骨格調整剤として、カリウム、カルシウム、マグネシウム、鉄、マンガン、銅、亜鉛から選ばれる一種類または複数種類の金属単体または金属化合物を用いると、それら自身が植物に不可欠な肥料成分となり、肥料成分を複数含む品質がより良好な肥料が得られる。
【0092】
例えば、骨格調整剤としてナトリウム、カリウム、カルシウム、鉄の金属単体または金属化合物を用いると、溶融処理ステップで汚泥等の融点を低下させることができ、溶融のための化石燃料や電力等の外部エネルギーの消費量を低減することができる。また、鉄の金属単体または金属化合物を用いると、リンと合金化してその沸点を上昇させ、溶融処理時にリン成分が気化することを効果的に抑制することができる。
【0093】
骨格調整剤添加ステップで添加される骨格調整剤に鉄またはその化合物が含まれ、溶融処理ステップが還元性雰囲気または酸化性雰囲気の何れかで実行されることが好ましい。
【0094】
骨格調整剤添加ステップで添加される骨格調整剤に鉄またはその化合物が含まれている場合は、溶融処理ステップを酸化性雰囲気で実施すると、溶融スラグ中の鉄がFe2O3の形態になるため骨格強度が強いスラグを得ることができる。溶融処理ステップを還元性雰囲気で実施すると、溶融スラグ中の鉄がFeOの形態となり骨格強度が弱いスラグを得ることができる。
【0095】
溶融処理ステップは、スラグの温度を1300℃より高温で溶融処理すると、スラグの粘性が低く、スラグ骨格がエネルギー安定的は平衡状態に近づき、骨格強度が強いスラグを得ることができ、1300℃以下の溶融温度で溶融処理すると、スラグの粘性が高く、スラグ骨格が平衡状態に達しないので、骨格強度が弱いスラグを得ることができるようになる。
【0096】
さらに、冷却処理ステップは、溶融処理ステップで溶融されたスラグを空冷機構または保温機構を用いて緩速冷却して固化するステップ、または水冷機構を用いて急速冷却するステップを含むことが好ましい。
【0097】
冷却処理ステップで溶融スラグを冷却する場合に、溶融スラグを空冷機構または保温機構を用いて緩速冷却して固化すると、結晶質主体のスラグが得られ、リンは結晶質骨格に取り込まれにくいため、リン溶出率の高いスラグとなる。また、水冷機構を用いて急速冷却すると非結晶質主体のスラグが得られ、リンは非結晶質骨格に取り込まれているので、リン溶出率の低いスラグとなる。
【0098】
尚、スラグ温度の調整や冷却処理方法の変更は、骨格調整剤の添加量の調整に合わせて行うことができ、より幅広くリンのク溶率の調整を達成することができる。
【0099】
このように、リン含有汚泥に骨格調整剤を添加して溶融することで、スラグの骨格構造を脆弱化させ、冷却処理ステップで固化されたスラグに含まれる全リン重量に対するク溶性リン重量の比率が所望の値に調整できるので、目的に合った肥料効果を調整した付加価値の高い肥料を製造することができるようになった。
【0100】
骨格調整剤添加ステップは、冷却処理ステップで固化されたスラグに含まれる全リン重量に対するク溶性リン重量の比率が所定値を上回るように、冷却処理ステップで固化されたスラグの光学的塩基度Λを調整する。光学的塩基度と肥料からのリンの溶出割合に正の相関関係があり、光学的塩基度Λが概ね0.57未満になるように骨格調整剤を添加することで、骨格が強く肥料効果の低いスラグが、光学的塩基度Λが0.57以上となるように骨格調整剤を添加することで、骨格が弱く肥料効果の高いスラグが製造可能となる。
【0101】
本発明による肥料の製造方法に用いられる溶融機構14として、回転式表面溶融炉や電気炉を用いることができる。以下に、回転式表面溶融炉について説明する。
【0102】
図3(a),(b)に示すように、回転式表面溶融炉20は、燃焼器21が配置された天井部22の周囲に立設された内筒23と、底部中央に出滓口24が形成された有底の外筒25とが共通軸心周りに配置され、外筒25を軸心周りに回転させる回転機構を備え、外筒25が内筒23に対して回転可能に構成されている。
【0103】
燃焼器21は、燃料タンクから供給される燃料とブロワから供給される空気を混合して燃焼させるバーナで構成され、燃料の供給量を調整することによって溶融スラグの温度を1000℃から1700℃の範囲となるように主燃焼室26内の温度が調整され、空気の供給量を調整することによって主燃焼室26内の雰囲気を還元性雰囲気にするか酸化性雰囲気にするかが調整される。
【0104】
ホッパーに投入された乾燥汚泥が、内筒23と外筒25の間に形成された蓄積部27に定量投入され、内筒23と外筒25の相対回転により内筒23の下縁部から天井部22の下部空間の主燃焼室26に供給される。汚泥の露出面が燃焼器21の燃焼火炎により溶融して、主燃焼室26の底面の中央部に形成された出滓口24から溶融スラグとして落下排出される。出滓口24から落下した溶融スラグは、下方に配置された冷却固化機構15としての水槽で急冷され水砕スラグとなる。
【0105】
出滓口24から横方向に分岐する煙道28から排出された排ガスは、排ガス処理設備で処理された後に煙突から排出される。排ガス処理設備として、炉内から排出される排ガスを完全燃焼させる後燃焼装置、後燃焼後の排ガスの保有熱で燃焼器21及び後燃焼装置に供給する燃焼用空気を予熱する空気予熱器、乾燥機構13への乾燥用蒸気を生成する廃熱ボイラ、白煙防止用空気を加熱する空気加熱器、減温塔、排ガス浄化装置、バグフィルタ、誘引送風機等が煙道に沿って配置されている。
【0106】
内筒23の下縁部と外筒25の底部との間隔を調整するために、内筒23及び天井部22を外筒25に対して一体的に上下方向に昇降させるギア式またはクレーン式の昇降機構でなる間隔調整機構が設けられている。
【0107】
図3(a)に示すように、内筒23を降下させると、内筒23の下縁部と外筒25の底部との間隔が狭く、蓄積部27から主燃焼室26に導かれる汚泥の量が少なくなるため、表面から溶融したスラグが出滓口24に流下する時間が長くなり、スラグの十分な滞留時間が確保できるようになる。
【0108】
図3(b)に示すように、内筒23を上昇させると、内筒23の下縁部と外筒25の底部との間隔が広くなり、蓄積部27から主燃焼室26に導かれる汚泥の量が多くなるため、表面から溶融したスラグが直ちに出滓口24に流下し、スラグの滞留時間が短くなる。
【0109】
つまり、主燃焼室26で溶融されたスラグの滞留時間を調整する滞留時間調整機構が、内筒23と外筒25を共通軸心方向に相対移動させて、内筒23の下縁部と外筒25の底部との間隔を調整する間隔調整機構で具現化される。
【0110】
また、上述の間隔調整機構に限らず、出滓口24の周囲に堰を備え、堰の高さを調整する調整機構を備えることによって、溶融スラグの主燃焼室内での滞留時間を可変に調整してもよい。
【0111】
平面視でドーナツ状の蓄積部27の上部には、乾燥汚泥用のホッパーに加えて、汚泥に添加するための骨格調整剤を収容した単一または複数のホッパーが設置され、ホッパーの下部に設けられた切出機構によって骨格調整剤の添加量が調整される。つまり、骨格調整剤用のホッパーと切出機構によって添加機構が構成される。
【0112】
このように、回転式表面溶融炉は、炉内の酸素濃度の調整や、スラグの滞留時間の調整、骨格調整剤の投入・攪拌が容易であり肥料の製造に適した溶融炉である。
【0113】
尚、上述の何れの実施形態でも、溶融機構14に投入されるのが乾燥機構13から搬送されるリン含有汚泥である構成について説明したが、乾燥機構13に変えて、脱水汚泥を燃焼する燃焼炉を備えて脱水汚泥の燃焼ステップを実行し、得られたリン含有焼却灰を溶融機構13に搬送して溶融処理するように構成してもよい。
【0114】
上述した実施形態は、何れも本発明の一例であり、該記載により本発明が限定されるものではなく、材料やサイズ等の各部の具体的な構成は本発明の作用効果が奏される範囲で適宜変更設計可能であることはいうまでもない。
【実施例】
【0115】
以下に、光学的塩基度とスラグの骨格構造との相関を示す第一の実験例を説明する。
上述したように、溶融スラグからの各種元素の溶出挙動は、スラグの骨格構造に支配される。理想的なSiO2四面体構造に近ければ骨格構造が強く各種元素の溶出濃度は低いが、CaOやNa2O、K2Oなどの成分が多く欠陥構造部分の割合が高いと骨格構造が弱くPやCaなどの肥料成分の溶出濃度は高くなる。
【0116】
そこで、ベース試料となるスラグに骨格調整剤として炭酸ナトリウムNa2CO3や炭酸カルシウムCaCO3を添加して再溶融することにより、スラグ骨格強度の弱い試料スラグを製造し、骨格強度低下によりリン溶出が促進されることを比較確認した。
【0117】
図4(a)には、試験のベース試料となる下水汚泥溶融スラグの組成が示されている。当該下水汚泥溶融スラグは、表の下段に示す都市ゴミ溶融スラグに比べてCaO濃度や重金属濃度が低く、鉄、リン濃度が高い傾向がある。
【0118】
図4(b)の表に示すように、ベース試料のみのものを試料1とし、ベース試料とNa2CO3を8:2の割合で混合したものを試料2とし、ベース試料とCaCO3を8:2の割合で混合したものを試料3として以下の実験を行った。
【0119】
試料1〜3を、φ80mm×H100mmの黒鉛るつぼに厚み約8cm(重量約250g)で充填し、1400℃に温度調節した電気マッフル炉の中で1h保持し、スラグを作成した。加熱中は、電気炉内のガス雰囲気調整を行わなかった。その後、黒鉛るつぼを電気炉から取り出し、スラグを黒鉛るつぼに入れたまま常温空気中で急速冷却した。
【0120】
溶出試験は環境庁告示第46号法による操作(スラグ:蒸留水=1:10、6h撹拌)により実施した。試料の物理形状による影響を除去するため、スラグを1−2mmに破砕し、1−2mm形状のスラグで実施した。
【0121】
図5には、加熱試験後における試料1〜3の主要組成が示されている。試料2に添加されたNa2CO3や、試料3に添加されたCaCO3は加熱時に熱分解を起こしてCO2を放出するため、溶融スラグ中にNa2O、CaOとして取り込まれる。そのため、Na2CO3、CaCO3を20%添加することによるスラグ中Na2O、CaOの増加濃度は、それぞれ11.7%、11.2%となる。ベース試料のみの試料1に対して試料2はNa2Oが、試料3はCaOが、それぞれ相対的に10%程度高く、想定通りの組成になっていることが確認された。
【0122】
図6には、骨格強度を表す指標として、各試料の光学的塩基度が示されている。尚、光化学的塩基度は、既に説明した数式から求められる。試料2及び3のように、Na2CO3、CaCO3を添加することにより光学的塩基度が増加し、スラグの骨格強度が低下する。その序列は、試料2>試料3>試料1の順である。試料2に添加されている1価のNaイオンの方が、試料3に添加されている2価のCaイオンよりも骨格強度を低下させる度合が大きい。
【0123】
図7には、溶出試験における各試料からのリン(P)溶出濃度が示されている。併せて、スラグの主要組成元素(Si)及び植物成長のための主要必須元素の溶出濃度についても調査した。尚、スラグの主要組成元素(Si)も珪酸として、稲の病気に対する耐性や、耐倒伏性を向上する効果を持つ元素である。
【0124】
リン(P)の溶出濃度は、ベース試料のみの試料1に比べて、Na2CO3、CaCO3を添加した試料2、試料3の溶出濃度の方が高い結果となった。Si、Ca、Fe、Mg、Sといった主だった元素ついても同様の傾向が見られた。Kについては逆に試料2、試料3の方が低く、Zn、Cl、Mo、B、Moについては定量下限値未満であった。
【0125】
図8には、溶出試験における各元素の溶出割合が示されている。溶出割合は組成分析結果と溶出試験結果から以下に示す数式により算出した。その結果、溶出割合についても同様に、リン(P)、Si、Ca、Fe、Mg、Sについて、添加なしの試料1に比べて、Na2CO3、CaCO3を添加した試料2、試料3の方が高かった。
【0126】
溶出割合(mg/kg)=(溶出した金属量(mg)/含有する金属量(mg))×1000000
【0127】
図9には、光学的塩基度と溶出割合との関係が示されている。骨格調整剤の添加により溶出割合が増加したリン(P)、Si、Ca、Feについては、何れも光学的塩基度と溶出割合との間に正の相関関係が見られた。従って、スラグの光学的塩基度を制御することにより、リンを初めとした数種の肥効成分(P,Si,Ca,Fe)の放出量(溶出量)を意図的に増加させられることが示された。
【0128】
以上のように、下水汚泥溶融スラグをベース試料として、各試薬の添加によりスラグ骨格強度を変えたスラグでリン溶出濃度を調査し、以下の結果を得た。
【0129】
Na2CO3、CaCO3を添加することによりスラグの光学的塩基度が増加し(スラグの骨格強度は低下し)、その序列はNa2CO3を添加した試料2>CaCO3を添加した試料3、ベース試料のみの試料1となった。
【0130】
光学的塩基度とリン溶出割合との間に正の相関関係が見られた、したがって、スラグの光学的塩基度を制御することにより、リンの放出量(溶出量)を意図的に増加させることができることが示された。
【0131】
次に、骨格調整剤によるク溶性リンへの影響に関する第二の実験例を説明する。
【0132】
試験のベース試料となる下水汚泥溶融スラグと都市ゴミ溶融スラグの組成は図4(a)に示す表と同じものである。
【0133】
図10(a)の表に示すように、ベース試料のみのものを試料4とし、ベース試料とNa2CO3を8:2の割合で混合したものを試料5として以下の実験を行った。
【0134】
試料4及び5を、φ80mm×H100mmの黒鉛るつぼに厚み約8cm(重量約250g)で充填し、1400℃に温度調節した電気マッフル炉の中で1h保持し、スラグを作成した。加熱中は、電気炉内のガス雰囲気調整を行わなかった。その後、黒鉛るつぼを電気炉から取り出し、スラグを黒鉛るつぼに入れたまま常温空気中で急速冷却した。得られたスラグについてク溶性リン溶出試験を行い、ク溶性リンの溶出挙動を比較した。
【0135】
ク溶性リン溶出試験は、試料の物理形状による影響を除去するため、スラグを1−2mmに破砕し、1−2mm形状のスラグで実施した。ク溶性リン溶出試験はクエン酸を溶媒とした酸水溶液中(pH2〜3)での溶出試験であり、植物の根がクエン酸を放出することから、植物の生長がある程度進んだ段階での肥料効果(緩効性)を示す指標として用いられる。
【0136】
図11に、ク溶性リン溶出試験におけるリン溶出割合と光学的塩基度との関係を示す。ク溶性溶出割合は組成分析結果と溶出試験結果から以下に示す数式により算出した。
【0137】
ク溶性溶出割合(%)=(溶出した金属量(mg)/含有する金属量(mg))×100
【0138】
結果としては、光学的塩基度とク溶性リン溶出割合との間に正の相関関係が見られた、したがって、スラグの光学的塩基度を制御(スラグ骨格の脆弱化)することにより、ク溶性リンの放出量(溶出量)を意図的に増加させることができることが示された。
【0139】
次に、スラグの溶融時間、溶融温度の影響に関する第三の実験例を説明する。
【0140】
試験のベース試料となる下水汚泥溶融スラグの組成は図4(a)に示す表と同じものである。
【0141】
図10(b)の表に示すように、ベース試料とNa2CO3を8:2の割合で混合したものを試料5,試料6,試料7の3つ用意し、図10(b)に示すように溶融条件を異ならせて実験を行った。
【0142】
試料5は、φ80mm×H100mmの黒鉛るつぼに厚み約8cm(重量約250g)で充填し、1400℃に温度調節した電気マッフル炉の中で1h保持し、スラグを作成した。
【0143】
試料6は、φ80mm×H100mmの黒鉛るつぼに厚み約8cm(重量約250g)で充填し、1400℃に温度調節した電気マッフル炉の中で4h保持し、スラグを作成した。
【0144】
試料7は、φ80mm×H100mmの黒鉛るつぼに厚み約8cm(重量約250g)で充填し、1250℃に温度調節した電気マッフル炉の中で1h保持し、スラグを作成した。
【0145】
試料5から7の何れも加熱中は、電気炉内のガス雰囲気調整を行わなかった。その後、黒鉛るつぼを電気炉から取り出し、スラグを黒鉛るつぼに入れたまま常温空気中で急速冷却した。
【0146】
まず、スラグの溶融時の溶融時間によるリンの溶出割合の変化を調べるため試料5及び試料6に対して、環境庁告示第46号法操作による溶出試験及びク溶性リン溶出試験を実施した。試料の物理形状による影響を除去するため、スラグを1−2mmに破砕し、1−2mm形状のスラグで実施した。ク溶性リン溶出試験はクエン酸を溶媒とした酸水溶液中(pH2〜3)での溶出試験であり、植物の根がクエン酸を放出することから、植物の生長がある程度進んだ段階での肥料効果(緩効性)を示す指標として用いられる。中性〜弱アルカリ水溶液中での溶出試験である環境庁告示第46号法操作による溶出試験と比較すると苛酷な雰囲気での溶出試験であり、溶出レベルとしては高く、全体の数十%が溶出する。
【0147】
図13及び図14に示すように、環境庁告示第46号法操作による溶出試験及びク溶性リン溶出試験ともに、試料6は試料5に比べて、リンを含む全ての元素について溶出割合が減少した。骨格組成が同様であっても、溶融時間を伸ばすことにより、骨格構造がエネルギー安定的な平衡状態に近づき、スラグ骨格が強固になったと考えられる。
【0148】
次に、スラグの溶融時の溶融温度によるリンの溶出割合の変化を調べるため試料5及び試料7に対して環境庁告示第46号法操作による溶出試験を実施した。
【0149】
図14に示すように、試料7は試料5に比べて、リンを含む多くの元素について、溶出割合が指数的に増加する結果となった。溶融温度が低いと、溶融スラグの粘性が低く平衡状態に達するのに時間を要するため、溶出割合が増加したと考えられる。
【符号の説明】
【0150】
10: 肥料の製造プラント
11:水処理機構
12:脱水機構
13:乾燥機構
14:溶融機構
15:冷却機構
16:コンベア機構
17:整粒機構
20:回転式表面溶融炉
21:燃焼器
22:天井部
23:内筒
24:出滓口
25:外筒
26:主燃焼室
27:蓄積部
28:煙道
【技術分野】
【0001】
本発明は、リン含有汚泥またはリン含有焼却灰を含む被溶融物を溶融処理する溶融処理ステップと、前記溶融処理ステップで溶融されたスラグを冷却処理して固化する冷却処理ステップと、を含む肥料の製造方法、及び肥料の製造方法に用いられる回転式表面溶融炉に関する。
【背景技術】
【0002】
リン肥料や工業用リン酸の製造のために必要となるリン鉱石を100%海外に依存している我が国では、廃棄物からのリン資源の回収が重要な課題になっている。特に下水汚泥に濃縮されるリンは、輸入リン鉱石の30%以上を占めていることもあり、下水汚泥からリンを含む肥料を製造するための各種の試みがなされている。
【0003】
例えば、特許文献1には、原料焼却灰の全リン酸濃度を測定し、該全リン酸濃度が予め定めた目標製品の濃度よりも低い場合には溶融処理前に高リン含有廃棄物の添加割合を求めて、原料中に添加した後に、溶融して、その後急冷してリン肥料を製造する方法が開示されている。当該文献によれば、汚泥に含まれるリン酸濃度が低い場合にはスラグ化した肥料のリンのク溶率が低くなるため、予め汚泥にリンを補充した後に溶融することで、所定のク溶率が得られる肥料の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−1819号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に開示された技術では、製造された肥料のク溶率が目標範囲に入るように、汚泥に他のリン原料を混入する必要があり、リン肥料の製造コストが上昇するという問題があった。
【0006】
本発明の目的は、上述した問題点に鑑み、肥料原料となる汚泥に他のリン原料を混入しなくても、製造された肥料に含まれるリンのク溶率を調整することができる肥料の製造方法、及び肥料の製造方法に用いられる回転式表面溶融炉を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述の目的を達成するため、本発明による肥料の製造方法の第一特徴構成は、特許請求の範囲の請求項1に記載した通り、リン含有汚泥またはリン含有焼却灰を含む被溶融物を溶融処理する溶融処理ステップと、前記溶融処理ステップで溶融されたスラグを冷却処理して固化する冷却処理ステップと、を含む肥料の製造方法であって、前記溶融処理ステップの前段に、前記リン含有汚泥またはリン含有焼却灰に骨格調整剤を添加して、前記冷却処理ステップで固化されたスラグに含まれる全リン重量に対するク溶性リン重量の比率が所定値を上回るように調整する骨格調整剤添加ステップを備えている点にある。
【0008】
溶融処理ステップで溶融され、冷却処理ステップで固化されたスラグの骨格を構成する珪酸は、実際の構造ではSiO4四面体が酸素Oを橋渡しにして不規則に並べられた三次元の網目でつながっている。つまり、SiO4の四つの酸素は、珪素Siが作る四頂点の軌道を囲んでSiO4四面体を作りながら、酸素Oは他のもう一つの珪素Siとも結合して無限の網目構造が作られる。珪素Siをつないでいくこのような酸素Oを架橋酸素と呼ぶ。スラグに含まれるリン酸P2O5も同様にリンPに架橋酸素が結合され、無限の網目構造が作られる。このようなスラグ成分の中に金属イオン等の陽イオンが含まれると、珪素SiやリンPと結合されるべき酸素Oの一部の結合が切られて、当該陽イオンとイオン的につり合う状態になる。こういう酸素Oを非架橋酸素と呼ぶ。スラグ中に非架橋酸素が増加すると、スラグの骨格強度が脆弱化して崩壊し易くなる。
【0009】
本願発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、架橋酸素による網目構造が主体となるスラグに対して、スラグ中の非架橋酸素の数が増えると、肥料成分であるリン酸のク溶率が上昇するという事実を確認した。そして、溶融処理ステップの前段でリン含有汚泥またはリン含有焼却灰に骨格調整剤を添加することにより、スラグ中の非架橋酸素の数を調整することが可能になり、骨格調整剤の添加量を調整することによって、冷却処理ステップで固化されたスラグに含まれる全リン重量に対するク溶性リン重量の比率が所定値を上回るように調整することが可能になるという新知見を得たのである。
【0010】
即ち、リン含有汚泥またはリン含有焼却灰に他のリン原料を混入しなくても、単に骨格調整剤を添加して溶融処理すれば、冷却処理ステップで固化されたスラグの骨格構造が脆弱化して、当該スラグに含まれる全リン重量に対するク溶性リン重量の比率を高めることができるようになった。
【0011】
同第二の特徴構成は、同請求項2に記載した通り、上述した第一の特徴構成に加えて、骨格調整剤添加ステップは、前記冷却処理ステップで固化されたスラグに含まれる全リン重量に対するク溶性リン重量の比率が所定値を上回るように、前記冷却処理ステップで固化されたスラグの光学的塩基度を調整するステップである点にある。
【0012】
本願発明者らは、更にスラグの骨格強度を評価する指標として、光学的塩基度を指標として用いることができることを見出した。光学的塩基度は、DuffyとIngramによって見出された指標であり、紫外光吸収ピークがガラス組成に対して敏感に変化することに注目し、多成分系酸化物ガラスについて、ガラスの組成とそれらを構成するカチオンの電気陰性度とから、以下の数式に基づいて導き出される指標である。
【0013】
光学的塩基度Λ=1−Σ(zi・ri/2)・(1−1/γi)
但し、γi=1.36(χi−0.26)
ここに、ziはi種カチオンの原子価であり、riは酸素1個あたりで表現したときのi種カチオンの数であり、χiはi種カチオンの電気陰性度である。
【0014】
光学的塩基度は、予めリン含有汚泥またはリン含有焼却灰を含む被溶融物の組成を分析することにより求まる値であるため、スラグに含まれる全リン重量に対するク溶性リン重量の比率が所定値を上回るような骨格強度を実現するための光学的塩基度が定まれば、事前にそのような光学的塩基度を得るための骨格調整剤の添加量を調整することができるようになる。
【0015】
同第三の特徴構成は、同請求項3に記載した通り、上述した第二の特徴構成に加えて、前記骨格調整剤添加ステップは、前記冷却処理ステップで固化されたスラグを含む肥料に含まれる全リン重量に対するク溶性リン重量の比率が所定値を上回るように、前記冷却処理ステップで固化されたスラグの光学的塩基度を調整するステップである点にある。
【0016】
上述した第二の特徴構成によって製造されたスラグのみからなる肥料を使用する場合のみならず、当該スラグに他の肥料を混合して使用する場合もある。後者の場合、混合した肥料全体として全リン重量に対するク溶性リン重量の比率が調整される必要がある。そのような場合であっても、他の肥料のリンのク溶率が判明していれば、上述した第二の特徴構成により骨格調整剤の添加量を調整することによって、混合した肥料全体のリンのク溶率を調整することができるようになる。
【0017】
同第四の特徴構成は、同請求項4に記載した通り、上述した第一から第三の何れかの特徴構成に加えて、前記骨格調整剤添加ステップで添加される骨格調整剤が、アルカリ金属、アルカリ土類金属、または遷移金属から選ばれる一種類または複数種類の金属単体または金属化合物である点にあり、スラグの骨格強度を調整するために必要な陽イオンとして、アルカリ金属、アルカリ土類金属、または遷移金属から選ばれる一種類または複数種類の金属単体または金属化合物を好適に用いることができる。
【0018】
同第五の特徴構成は、同請求項5に記載した通り、上述した第一から第四の何れかの特徴構成に加えて、前記骨格調整剤添加ステップで添加される骨格調整剤が、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、鉄、マンガン、銅、亜鉛から選ばれる一種類または複数種類の金属単体または金属化合物である点にある。
【0019】
スラグを脆弱化してリンの溶出を促すための骨格調整剤として、カリウム、カルシウム、マグネシウム、鉄、マンガン、銅、亜鉛から選ばれる一種類または複数種類の金属単体または金属化合物を用いると、それら自身が植物に不可欠な肥料成分となり、品質がより良好な肥料が得られる。例えば、骨格調整剤としてナトリウム、カリウム、カルシウム、鉄の金属単体または金属化合物を用いると、溶融処理ステップで汚泥等の融点を低下させることができ、溶融のための化石燃料や電力等の外部エネルギーの消費量を低減することができる。また、鉄の金属単体または金属化合物を用いると、リンと合金化してその沸点を上昇させ、溶融処理時にリン成分が気化することを効果的に抑制することができる。このように、骨格調整剤が融点制御材の役割を有しており、融点を制御することもできる。
【0020】
同第六の特徴構成は、同請求項6に記載した通り、上述した第一から第五の何れかの特徴構成に加えて、前記骨格調整剤添加ステップで添加される骨格調整剤に鉄またはその化合物が含まれ、前記溶融処理ステップが還元性雰囲気で実行される点にある。
【0021】
骨格調整剤として鉄またはその化合物を用いて酸化性雰囲気で溶融処理すると、スラグ中で鉄がFe2O3となり、骨格強度が強いスラグになるが、還元性雰囲気で溶融処理すると、スラグ中で鉄がFeOとなり、骨格強度を脆弱にすることができる。
【0022】
同第七の特徴構成は、同請求項7に記載した通り、上述した第一から第六の何れかの特徴構成に加えて、前記溶融処理ステップは、スラグの温度を1300℃以下に調整した条件下で実行される点にあり、1300℃より高温で溶融処理すると、スラグの粘性が低く、スラグ骨格がエネルギー安定的は平衡状態に近づき、骨格強度が強いスラグとなるが、1300℃以下の溶融温度で溶融処理すると、スラグの粘性が高く、スラグ骨格が平衡状態に達しないので、骨格強度が弱いスラグを得ることができるようになる。
【0023】
同第八の特徴構成は、同請求項8に記載した通り、上述した第一から第七の何れかの特徴構成に加えて、前記冷却処理ステップは、前記溶融処理ステップで溶融されたスラグを緩速冷却して固化するステップを含む点にある。
【0024】
冷却処理ステップで溶融スラグを冷却する場合に、溶融スラグを水槽に落下させる等によって急速冷却すると非結晶質主体のスラグが得られ、リンは非結晶質骨格に取り込まれているので、リン溶出率の低いスラグとなる。溶融スラグを空冷等によって緩速冷却すると、結晶質主体のスラグが得られ、リンは結晶質骨格に取り込まれにくいため、リン溶出率の高いスラグとなる。
【0025】
同第九特徴構成は、同請求項9に記載した通り、リン含有汚泥またはリン含有焼却灰を含む被溶融物を溶融処理する溶融処理ステップと、前記溶融処理ステップで溶融されたスラグを冷却処理して固化する冷却処理ステップと、を含む肥料の製造方法であって、前記溶融処理ステップの前段から前記冷却処理ステップの間に、前記冷却処理ステップで固化されたスラグに含まれる全リン重量に対するク溶性リン重量の比率を調整するク溶性リン調整処理ステップを備えている点にある。
【0026】
ク溶性リン調整処理ステップによって、スラグに含まれる全リン重量に対するク溶性リン重量の比率を調整することができるので、スラグ単体を肥料として施肥する場合のみならず、他の肥料と混合した混合肥料として施肥する場合であっても、冷却処理ステップで固化されたスラグに含まれる全リン重量に対するク溶性リン重量の比率を調整することが可能になる。
【0027】
同第十特徴構成は、同請求項10に記載した通り、上述した第九特徴構成に加えて、前記ク溶性リン調整処理ステップは、前記溶融処理ステップの前段で、前記リン含有汚泥またはリン含有焼却灰に骨格調整剤を添加する骨格調整剤添加ステップである点にある。
【0028】
本願発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、架橋酸素による網目構造が主体となるスラグに対して、スラグ中の非架橋酸素の数が増えると、肥料成分であるリン酸のク溶率が上昇するという事実を確認した。そして、溶融処理ステップの前段でリン含有汚泥またはリン含有焼却灰に骨格調整剤を添加する骨格調整剤添加ステップを備えることにより、スラグ中の非架橋酸素の数を調整することが可能になり、骨格調整剤の添加量を調整することによって、冷却処理ステップで固化されたスラグに含まれる全リン重量に対するク溶性リン重量の比率を調整することが可能になるという新知見を得たのである。
【0029】
即ち、肥料としてのスラグのリンのク溶率を所望のク溶率に調整することができるので、他の肥料と混合した肥料を製造する場合であっても、肥料全体としてク溶率を調整することができるスラグを製造することができるようになる。
【0030】
同第十一特徴構成は、同請求項11に記載した通り、上述した第十特徴構成に加えて、前記骨格調整剤添加ステップは、前記リン含有汚泥またはリン含有焼却灰に骨格調整剤を添加して前記冷却処理ステップで固化されたスラグの光学的塩基度を調整するステップである点にある。
【0031】
本願発明者らは、更にスラグの骨格強度を評価する指標として、光学的塩基度を指標として用いることができることを見出した。光学的塩基度は、DuffyとIngramによって見出された指標であり、紫外光吸収ピークがガラス組成に対して敏感に変化することに注目し、多成分系酸化物ガラスについて、ガラスの組成とそれらを構成するカチオンの電気陰性度とから、以下の数式に基づいて導き出される指標である。
【0032】
光学的塩基度Λ=1−Σ(zi・ri/2)・(1−1/γi)
但し、γi=1.36(χi−0.26)
ここに、ziはi種カチオンの原子価であり、riは酸素1個あたりで表現したときのi種カチオンの数であり、χiはi種カチオンの電気陰性度である。
【0033】
光学的塩基度は、予めリン含有汚泥またはリン含有焼却灰を含む被溶融物の組成を分析することにより求まる値であるため、スラグに含まれる全リン重量に対するク溶性リン重量の比率が所定値となるような骨格強度を実現するための光学的塩基度が定まれば、事前にそのような光学的塩基度を得るための骨格調整剤の添加量を調整することができるようになる。
【0034】
同第十二特徴構成は、同請求項12に記載した通り、上述した第十または第十一特徴構成に加えて、前記骨格調整剤添加ステップで添加される骨格調整剤が、アルカリ金属、アルカリ土類金属、または遷移金属から選ばれる一種類または複数種類の金属単体または金属化合物である点にあり、スラグの骨格強度を調整するために必要な陽イオンとして、アルカリ金属、アルカリ土類金属、または遷移金属から選ばれる一種類または複数種類の金属単体または金属化合物を好適に用いることができる。
【0035】
同第十三特徴構成は、同請求項13に記載した通り、上述した第十から第十二の何れかの特徴構成に加えて、前記骨格調整剤添加ステップで添加される骨格調整剤が、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、鉄、マンガン、銅、亜鉛から選ばれる一種類または複数種類の金属単体または金属化合物である点にある。
【0036】
スラグからのリンの溶出を制御するための骨格調整剤として、カリウム、カルシウム、マグネシウム、鉄、マンガン、銅、亜鉛から選ばれる一種類または複数種類の金属単体または金属化合物を用いると、それら自身が植物に不可欠な肥料成分となり、品質がより良好な肥料が得られる。例えば、骨格調整剤としてナトリウム、カリウム、カルシウム、鉄の金属単体または金属化合物を用いると、溶融処理ステップで汚泥等の融点を低下させることができ、溶融のための化石燃料や電力等の外部エネルギーの消費量を低減することができる。また、鉄の金属単体または金属化合物を用いると、リンと合金化してその沸点を上昇させ、溶融処理時にリン成分が気化することを効果的に抑制することができる。このように、骨格調整剤が融点制御材の役割を有しており、融点を制御することもできる。
【0037】
同第十四特徴構成は、同請求項14に記載した通り、上述した第十から第十三の何れかの特徴構成に加えて、前記骨格調整剤添加ステップで添加される骨格調整剤に鉄またはその化合物が含まれ、前記溶融処理ステップが還元性雰囲気または酸化性雰囲気の何れかで実行される点にある。
【0038】
骨格調整剤添加ステップで添加される骨格調整剤に鉄またはその化合物が含まれている場合は、溶融処理ステップを酸化性雰囲気で実施すると、溶融スラグ中の鉄がFe2O3の形態になるため骨格強度が強いスラグを得ることができる。溶融処理ステップを還元性雰囲気で実施すると、溶融スラグ中の鉄がFeOの形態となり骨格強度が弱いスラグを得ることができる。
【0039】
同第十五特徴構成は、同請求項15に記載した通り、上述した第十から第十四の何れかの特徴構成に加えて、前記溶融処理ステップは、スラグの温度を1000℃から1700℃の範囲で調整した条件下で実行される点にある。
【0040】
1300℃より高温で溶融処理すると、スラグの粘性が低く、スラグ骨格がエネルギー安定的は平衡状態に近づき、骨格強度が強いスラグを得ることができ、1300℃以下の溶融温度で溶融処理すると、スラグの粘性が高く、スラグ骨格が平衡状態に達しないので、骨格強度が弱いスラグを得ることができるようになる。
【0041】
同第十六の特徴構成は、同請求項16に記載した通り、上述した第十から第十五の何れかの特徴構成に加えて、前記冷却処理ステップは、前記溶融処理ステップで溶融されたスラグを空冷機構または保温機構を用いて緩速冷却して固化するステップ、または水冷機構を用いて急速冷却するステップを含む点にある。
【0042】
冷却処理ステップで溶融スラグを冷却する場合に、溶融スラグを空冷機構または保温機構を用いて緩速冷却して固化すると、結晶質主体のスラグが得られ、リンは結晶質骨格に取り込まれにくいため、リン溶出率の高いスラグとなる。また、水冷機構を用いて急速冷却すると非結晶質主体のスラグが得られ、リンは非結晶質骨格に取り込まれているので、リン溶出率の低いスラグとなる。
【0043】
本発明による肥料の製造方法に用いられる回転式表面溶融炉の第一の特徴構成は、同請求項17に記載した通り、上述した第一から第十六の何れかの特徴構成を備えた肥料の製造方法に用いられる回転式表面溶融炉であって、燃焼器が配置された天井部の周囲に立設された内筒と、底部中央に出滓口が形成された有底の外筒とを共通軸心周りに配置し、前記外筒と前記内筒との間の蓄積部に投入されたリン含有汚泥またはリン含有焼却灰を含む被溶融物を、前記外筒と前記内筒の相対回転により前記内筒の下縁部から前記天井部の下部空間の主燃焼室に移動させて、その露出面を前記燃焼器の燃焼火炎により溶融し、前記出滓口から溶融スラグを落下排出するように構成され、前記主燃焼室で溶融されたスラグの滞留時間を調整する滞留時間調整機構を備えている点にある。
【0044】
滞留時間調整機構によってスラグの滞留時間が長くなるように調整することによって、スラグ骨格がエネルギー安定的な平衡状態に近づき、ク溶率が低い肥料を製造することができるようになり、また、溶融スラグに含まれる重金属類を十分に気化させて、肥料に含まれる重金属成分を極めて低く調整できるようになる。また、滞留時間調整機構によってスラグの滞留時間が短くなるように調整することによって、スラグ骨格が平衡状態に達しない弱い状態となり、ク溶率が高い肥料となる。
【0045】
同第二の特徴構成は、同請求項18に記載した通り、上述の第一の特徴構成に加えて、前記滞留時間調整機構が、前記内筒と前記外筒を前記共通軸心方向に相対移動させて、前記内筒の下縁部と前記外筒の底部との間隔を調整する間隔調整機構で具現化されている点にある。
【0046】
間隔調整機構によって内筒の下縁部と前記外筒の底部との間隔が狭くなるように調整すると、内筒の下縁部から主燃焼室に移動する被溶融物である汚泥等の量が少なくなり、その表面から溶融したスラグが出滓口から流出するまでの長い時間を確保できるようになる。また、間隔調整機構によって内筒の下縁部と前記外筒の底部との間隔が広くなるように調整すると、内筒の下縁部から主燃焼室に移動する被溶融物である汚泥等の量が多くなり、その表面から溶融したスラグが出滓口から流出するまでの時間を短くなるように調整できる。
【0047】
同第三の特徴構成は、同請求項19に記載した通り、上述した第一から第十六の何れかの特徴構成を備えた肥料の製造方法に用いられる回転式表面溶融炉であって、燃焼器が配置された天井部の周囲に立設された内筒と、底部中央に出滓口が形成された有底の外筒とを共通軸心周りに配置し、前記外筒と前記内筒との間の蓄積部に投入されたリン含有汚泥またはリン含有焼却灰を含む被溶融物を、前記外筒と前記内筒の相対回転により前記内筒の下縁部から前記天井部の下部空間に移動させて、その露出面を前記燃焼器の燃焼火炎により溶融し、前記出滓口から溶融スラグを落下排出するように構成され、前記蓄積部に投入されたリン含有汚泥またはリン含有焼却灰に前記骨格調整剤を添加する添加機構を備えている点にある。
【0048】
溶融炉に備えた添加機構によって、蓄積部に投入されたリン含有汚泥またはリン含有焼却灰に適量の骨格調整剤を溶融処理の直前に添加して外筒の回転により攪拌することができ、溶融炉とは別体の添加攪拌機構を備える必要が無くなる。
【発明の効果】
【0049】
以上説明した通り、本発明によれば、肥料原料となる汚泥に他のリン原料を混入しなくても、製造された肥料に含まれるリンのク溶率を調整することができる肥料の製造方法、及び肥料の製造方法に用いられる回転式表面溶融炉を提供することができるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】肥料の製造装置のブロック構成図
【図2】肥料の製造方法の説明図
【図3】本発明による回転式表面溶融炉の説明図であって、(a)は各部の構成を示す説明図、(b)内筒が上に可動したときの説明図
【図4】(a)はベース試料及び比較試料の組成の説明図、(b)は試料の説明図
【図5】各試料の主要組成を示す図表
【図6】各試料の光学的塩基度を示す図表
【図7】溶出試験における各元素の溶出濃度及び溶出液pHを示す図表
【図8】溶出試験における各元素の溶出割合を示す図表
【図9】各元素の光学的塩基度と溶出割合との関係を示す図表
【図10】(a)は各試料の説明図、(b)は各試料の実験条件の説明図
【図11】溶出試験における光学的塩基度とリン溶出割合を示す図表
【図12】溶出試験における各元素の溶出割合を示す図表
【図13】溶出試験における各元素の溶出割合を示す図表
【図14】溶出試験における各元素の溶出割合を示す図表
【発明を実施するための形態】
【0051】
以下、実施形態を説明する。
図1には、本発明による肥料の製造方法が実行される肥料の製造プラント10、つまりリン含有汚泥またはリン含有焼却灰を原料とする肥料の製造プラント10が示されている。
【0052】
当該製造プラント10は、外部から生物処理槽に流入する下水汚泥を活性汚泥法や膜分離活性汚泥法等を用いて生物処理する水処理機構11と、水処理機構11からポンプPを介して引き抜かれた余剰汚泥を脱水する脱水機構12と、脱水機構12で脱水された脱水汚泥を乾燥する乾燥機構13と、乾燥機構13で乾燥された乾燥汚泥を溶融する溶融機構14と、溶融機構14から流出される溶融スラグを冷却する冷却機構15と、冷却機構15で得られコンベア機構16で搬送されたスラグを肥料として好ましい粒度に整粒する整粒機構17等を備えている。
【0053】
水処理機構11に備えた生物処理槽で、活性汚泥により下水中の有機物が分解除去されて浄化される。生物処理槽で下水が好気処理される過程で、活性汚泥に下水中のリンが取り込まれ、リンを取り込んだリン含有汚泥が、生物処理槽または生物処理槽の後段に配置された沈殿槽から引き抜かれて脱水機構12に搬送される。
【0054】
沈殿槽等に鉄系凝集剤を添加して、下水中に含まれるリン成分を沈降させることによって、水処理機構11から引き抜かれる汚泥に含まれるリン成分の濃度を高めることができる。
【0055】
脱水機構12に備えたスクリュープレス方式の脱水装置によって、汚泥が含水率80%程度に脱水され、後段の乾燥機構13で含水率が20〜40%程度に乾燥され、その後溶融機構14に搬送される。
【0056】
脱水装置としてスクリュープレス方式の脱水装置以外に、ロータリプレス方式、フィルタプレス方式、遠心分離方式、ベルトプレス方式等の任意の脱水装置を採用することも可能である。
【0057】
乾燥機構13は、本体ケーシングの上流側に備えた汚泥投入部から投入された脱水汚泥を、本体ケーシングの下流側に備えた汚泥排出部に向けて本体ケーシング内を攪拌しながら搬送するスクリュー式搬送機構を備えている。スクリュー式搬送機構に備えた軸部空洞部に溶融機構14からの排ガスの保有熱を熱源として生成された蒸気または高温空気を供給することによって、本体ケーシング内で搬送中の脱水汚泥が間接加熱されて乾燥される。
【0058】
溶融機構14で溶融されてスラグとなった汚泥は、後段の冷却機構15で冷却固化され、さらにベルト式搬送機構16で整粒機構17に搬送されて、所望の粒径に整粒される。
【0059】
つまり、図2に示すように、当該製造プラント10では、水処理機構11で下水汚泥を浄化処理する水処理ステップ(SA1)、水処理ステップで発生した余剰汚泥を引き出して脱水機構12で脱水処理する脱水ステップ(SA2)、脱水ケーキを乾燥機構13で乾燥する乾燥ステップ(SA3)、乾燥汚泥を溶融機構14で溶融処理する溶融処理ステップ(SA4)、溶融処理ステップで溶融されたスラグを冷却機構15で冷却処理して固化する冷却処理ステップ(SA5)、冷却処理ステップで固化されたスラグを整粒機構17で粉砕して粒度を調整する整粒ステップ(SA6)を含む肥料の製造方法が実行される。また、肥料によっては、整粒ステップの後に他の肥料原料を混ぜて肥料とすることもある。
【0060】
尚、本実施形態では、リン含有汚泥を溶融して肥料を製造する方法を主に説明するが、下水汚泥を脱水した後に焼却炉で焼却処理して得られるリン含有焼却灰を溶融機構14で溶融処理することによって肥料を製造する方法にも適用できる。
【0061】
当該肥料の製造方法には、溶融処理ステップの前段に、リン含有汚泥またはリン含有焼却灰に骨格調整剤を添加して、冷却処理ステップで固化されたスラグに含まれる全リン重量に対するク溶性リン重量の比率が所定値を上回るように調整する骨格調整剤添加ステップを備えている。
【0062】
溶融処理ステップで溶融され、冷却処理ステップで固化されたスラグの骨格を構成する主成分となる珪酸は、実際の構造ではSiO4四面体が酸素Oを橋渡しにして不規則に並べられた三次元の網目でつながっている。つまり、SiO4の四つの酸素は、珪素Siが作る四頂点の軌道を囲んでSiO4四面体を作りながら、酸素Oは他のもう一つの珪素Siとも結合して無限の網目構造が作られる。珪素Siをつないでいくこのような酸素Oを架橋酸素と呼ぶ。スラグに含まれるリン酸P2O5も同様にリンPに架橋酸素が結合され、無限の網目構造が作られる。このようなスラグ成分の中に金属イオン等の陽イオンが含まれると、珪素SiやリンPと結合されるべき酸素Oの一部の結合が切られて、当該陽イオンとイオン的につり合う状態になる。こういう酸素Oを非架橋酸素と呼ぶ。スラグ中に非架橋酸素が増加すると、スラグの骨格強度が脆弱化して崩壊し易くなる。逆にスラグ中に非架橋酸素が減少すると、スラグの骨格強度が強くなる。
【0063】
架橋酸素による網目構造が主体となるスラグに対して、スラグ中の非架橋酸素の数が増えると、肥料成分であるリン酸のク溶率が上昇する。
【0064】
そこで、溶融処理ステップの前段でリン含有汚泥またはリン含有焼却灰に骨格調整剤を添加することにより、スラグ中の非架橋酸素の数を調整することが可能になり、骨格調整剤の添加量を調整することによって、冷却処理ステップで固化されたスラグに含まれる全リン重量に対するク溶性リン重量の比率が所定値を上回るように調整することが可能になる。上位概念的には、骨格調整剤の添加量を調整することによって、冷却処理ステップで固化されたスラグに含まれる全リン重量に対するク溶性リン重量の比率が所望の比率になるように構成することができる。
【0065】
骨格調整剤添加ステップは、冷却処理ステップで固化されたスラグに含まれる全リン重量に対するク溶性リン重量の比率が所定値を上回るように、冷却処理ステップで固化されたスラグの光学的塩基度を調整するステップであることが好ましい。
【0066】
スラグの骨格強度を評価する指標として、光学的塩基度を指標として用いることができる。光学的塩基度は、DuffyとIngramによって見出された指標であり、紫外光吸収ピークがガラス組成に対して敏感に変化することに注目し、多成分系酸化物ガラスについて、ガラスの組成とそれらを構成するカチオンの電気陰性度とから、以下の数式に基づいて導き出される指標である。
【0067】
光学的塩基度Λ=1−Σ(zi・ri/2)・(1−1/γi)
但し、γi=1.36(χi−0.26)
ここに、ziはi種カチオンの原子価であり、riは酸素1個あたりで表現したときのi種カチオンの数であり、χiはi種カチオンの電気陰性度である。
【0068】
光学的塩基度は、予めリン含有汚泥またはリン含有焼却灰の組成を分析することにより求まる値であるため、スラグに含まれる全リン重量に対するク溶性リン重量の比率が所定値を上回るような骨格強度を実現するための光学的塩基度が定まれば、事前にそのような光学的塩基度を得るための骨格調整剤の添加量を調整することができるようになる。実験によれば、光学的塩基度が0.57以上に調整することによって、リンのク溶率、つまり、スラグに含まれる全リン重量に対するク溶性リン重量の比率を効果的に上昇させることができ、市販の緩効性の肥料と同等以上のものができることが判明している。
【0069】
骨格調整剤添加ステップが、冷却処理ステップで固化されたスラグを含む肥料に含まれる全リン重量に対するク溶性リン重量の比率が所定値を上回るように、冷却処理ステップで固化されたスラグの光学的塩基度を調整するステップであってもよい。当該スラグに他の肥料を混合して使用する場合もあり、その場合は、混合した肥料全体として全リン重量に対するク溶性リン重量の比率が調整される必要がある。そのような場合であっても、他の肥料のリンのク溶率が判明していれば、骨格調整剤の添加量を調整することによって、混合した肥料全体のリンのク溶率を調整することができるようになる。
【0070】
骨格調整剤添加ステップで添加される骨格調整剤が、アルカリ金属、アルカリ土類金属、または遷移金属から選ばれる一種類または複数種類の金属単体または金属化合物であることが好ましく、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、鉄、マンガン、銅、亜鉛から選ばれる一種類または複数種類の金属単体または金属化合物であることがさらに好ましい。
【0071】
スラグを脆弱化してリンの溶出を促すための骨格調整剤として、カリウム、カルシウム、マグネシウム、鉄、マンガン、銅、亜鉛から選ばれる一種類または複数種類の金属単体または金属化合物を用いると、それら自身が植物に不可欠な肥料成分となり、複数の肥料成分を持つ品質がより良好な肥料が得られる。
【0072】
図2に示すように、添加される骨格調整剤がカルシウムまたは鉄系の非水溶性の金属化合物等である場合には、生物処理される前の原水に対して骨格調整剤添加ステップを実行すれば(SA71)、水処理機構11で骨格調整剤が分散し汚泥中に均一に分散させることができる。
【0073】
添加される骨格調整剤がナトリウムやカリウム等の水溶性の金属化合物等である場合には、骨格調整剤が水に溶けて排水されないように生物処理槽等から引き抜かれ、脱水処理される直前の汚泥に対して骨格調整剤添加ステップを実行すればよく(SA72)、溶融処理ステップの前段(SA73)までの何れかの工程で骨格調整剤添加ステップを実行すればよい。勿論、カルシウムまたは鉄系の非水溶性の金属化合物を、ステップSA72からステップSA73の間の何れかの段階で汚泥に添加されるように構成してもよい。このように、骨格調整剤の投入場所を変えることで、骨格調整剤を汚泥中に均一に分散させることができる。
【0074】
尚、上述した骨格調整剤添加ステップ(SA71、SA72、SA73)は、何れかのみを実行してよいし、組み合わせて実行してもよい。
【0075】
例えば、骨格調整剤としてナトリウム、カリウム、カルシウム、鉄の金属単体または金属化合物を用いると、溶融処理ステップで汚泥等の融点を低下させることができ、溶融のための化石燃料や電力等の外部エネルギーの消費量を低減することができる。
【0076】
1300℃より高温で溶融処理すると、スラグの粘性が低く、スラグ骨格がエネルギー安定的は平衡状態に近づき、骨格強度が強いスラグとなるが、1300℃以下の溶融温度で溶融処理すると、スラグの粘性が高く、スラグ骨格が平衡状態に達しないので、骨格強度が弱いスラグを得ることができるようになる。しかも、ナトリウム、カリウム、カルシウム、鉄の金属単体または金属化合物を添加することによって、溶融温度そのものを低下させることができるので、化石燃料等の溶融エネルギーを節約することができる。
【0077】
さらに、骨格調整剤による骨格強度の脆弱化と、溶融温度を1300℃以下とすることによるスラグの脆弱化の2つの効果を合わせ持つことができ、よりリン等の成分が溶出しやすいスラグとすることができる。
【0078】
尚、溶融処理ステップでは、汚泥に含まれる有害物質であるダイオキシン類が熱分解されるとともに水銀等の沸点の低い重金属が蒸発揮散され、銅等の沸点の高い重金属がスラグに閉じ込められて無害化される。そのため、スラグを利用した肥料の安全性が保たれる。
【0079】
また、鉄の金属単体または金属化合物を用いると、リンと合金化してその沸点を上昇させ、溶融処理時にリン成分が気化することを効果的に抑制することができる。つまり、スラグ中のリン含有量を増やすことができる。
【0080】
骨格調整剤添加ステップで添加される骨格調整剤として鉄またはその化合物を使用し、溶融処理ステップを還元性雰囲気で実行すれば、スラグ中で鉄がFeOとなり、骨格強度を脆弱にすることができる。逆に、溶融処理ステップを酸化性雰囲気で実行すると、スラグ中で鉄がFe2O3となり、架橋酸素が多くなるため骨格強度が強いスラグになる。つまり、溶融時の雰囲気を還元性雰囲気にするか酸化性雰囲気にするかによって、スラグに含まれるリンのク溶率を調整することができる。
【0081】
冷却処理ステップで溶融スラグを冷却する場合に、溶融スラグを水槽に落下させる等によって急速冷却すると非結晶質主体のスラグが得られ、リンは非結晶質骨格に取り込まれているので、リン溶出率の低いスラグとなる。溶融スラグを空冷等によって緩速冷却すると、結晶質主体のスラグが得られ、リンは結晶質骨格に取り込まれにくいため、リン溶出率の高いスラグとなる。
【0082】
尚、冷却方法にかかわらず、骨格調整剤の添加による骨格強度の脆弱化の効果はある。つまり、緩速冷却することにより、より一層リン溶出率の高いスラグを得ることができる。
【0083】
リンのク溶性を高くするという観点では緩速冷却が好ましいが、そのための機構、つまり、空冷機構等緩速冷却する為の複雑な機構が必要となる。その点で、溶融スラグを水槽に落下させることで急冷して水砕スラグにする場合には、冷却機構を簡素化できる利点、単位時間当たりの製造量を稼ぐことができるという利点がある。
【0084】
以上、溶融処理ステップの前段に、冷却処理ステップで固化されたスラグに含まれる全リン重量に対するク溶性リン重量の比率が所定値を上回るように調整する骨格調整剤添加ステップを備えている肥料の製造方法という観点での発明を説明したが、本発明は、溶融処理ステップの前段から冷却処理ステップの間に、冷却処理ステップで固化されたスラグに含まれる全リン重量に対するク溶性リン重量の比率を調整するク溶性リン調整処理ステップを備えた肥料の製造方法という観点での発明でもある。
【0085】
この場合も、ク溶性リン調整処理ステップによって、スラグに含まれる全リン重量に対するク溶性リン重量の比率を調整することができるので、スラグ単体を肥料として施肥する場合のみならず、他の肥料と混合した混合肥料として施肥する場合であっても、冷却処理ステップで固化されたスラグに含まれる全リン重量に対するク溶性リン重量の比率を調整することが可能になる。
【0086】
ク溶性リン調整処理ステップは、溶融処理ステップの前段で、リン含有汚泥またはリン含有焼却灰を含む被溶融物に骨格調整剤を添加する骨格調整剤添加ステップであることが好ましい。既に説明したように、架橋酸素による網目構造が主体となるスラグに対して、スラグ中の非架橋酸素の数が増えると、肥料成分であるリン酸のク溶率が上昇する。そして、溶融処理ステップの前段でリン含有汚泥またはリン含有焼却灰に骨格調整剤を添加する骨格調整剤添加ステップを備えることにより、スラグ中の非架橋酸素の数を調整することが可能になり、骨格調整剤の添加量を調整することによって、冷却処理ステップで固化されたスラグに含まれる全リン重量に対するク溶性リン重量の比率を調整することが可能になる。
【0087】
即ち、肥料としてのスラグのリンのク溶率を所望のク溶率に調整することができるので、他の肥料と混合した肥料を製造する場合であっても、肥料全体としてク溶率を調整することができるスラグを製造することができるようになる。
【0088】
また、骨格調整剤添加ステップは、リン含有汚泥またはリン含有焼却灰に骨格調整剤を添加して前記冷却処理ステップで固化されたスラグの光学的塩基度を調整するステップであることが好ましい。
【0089】
既に説明したように、光学的塩基度は、予めリン含有汚泥またはリン含有焼却灰の組成を分析することにより求まる値であるため、スラグに含まれる全リン重量に対するク溶性リン重量の比率が所定値となるような骨格強度を実現するための光学的塩基度が定まれば、事前にそのような光学的塩基度を得るための骨格調整剤の添加量を調整することができるようになる。
【0090】
骨格調整剤添加ステップで添加される骨格調整剤が、アルカリ金属、アルカリ土類金属、または遷移金属から選ばれる一種類または複数種類の金属単体または金属化合物であることが好ましく、特にナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、鉄、マンガン、銅、亜鉛から選ばれる一種類または複数種類の金属単体または金属化合物であることが好ましい。
【0091】
スラグからのリンの溶出を制御するための骨格調整剤として、カリウム、カルシウム、マグネシウム、鉄、マンガン、銅、亜鉛から選ばれる一種類または複数種類の金属単体または金属化合物を用いると、それら自身が植物に不可欠な肥料成分となり、肥料成分を複数含む品質がより良好な肥料が得られる。
【0092】
例えば、骨格調整剤としてナトリウム、カリウム、カルシウム、鉄の金属単体または金属化合物を用いると、溶融処理ステップで汚泥等の融点を低下させることができ、溶融のための化石燃料や電力等の外部エネルギーの消費量を低減することができる。また、鉄の金属単体または金属化合物を用いると、リンと合金化してその沸点を上昇させ、溶融処理時にリン成分が気化することを効果的に抑制することができる。
【0093】
骨格調整剤添加ステップで添加される骨格調整剤に鉄またはその化合物が含まれ、溶融処理ステップが還元性雰囲気または酸化性雰囲気の何れかで実行されることが好ましい。
【0094】
骨格調整剤添加ステップで添加される骨格調整剤に鉄またはその化合物が含まれている場合は、溶融処理ステップを酸化性雰囲気で実施すると、溶融スラグ中の鉄がFe2O3の形態になるため骨格強度が強いスラグを得ることができる。溶融処理ステップを還元性雰囲気で実施すると、溶融スラグ中の鉄がFeOの形態となり骨格強度が弱いスラグを得ることができる。
【0095】
溶融処理ステップは、スラグの温度を1300℃より高温で溶融処理すると、スラグの粘性が低く、スラグ骨格がエネルギー安定的は平衡状態に近づき、骨格強度が強いスラグを得ることができ、1300℃以下の溶融温度で溶融処理すると、スラグの粘性が高く、スラグ骨格が平衡状態に達しないので、骨格強度が弱いスラグを得ることができるようになる。
【0096】
さらに、冷却処理ステップは、溶融処理ステップで溶融されたスラグを空冷機構または保温機構を用いて緩速冷却して固化するステップ、または水冷機構を用いて急速冷却するステップを含むことが好ましい。
【0097】
冷却処理ステップで溶融スラグを冷却する場合に、溶融スラグを空冷機構または保温機構を用いて緩速冷却して固化すると、結晶質主体のスラグが得られ、リンは結晶質骨格に取り込まれにくいため、リン溶出率の高いスラグとなる。また、水冷機構を用いて急速冷却すると非結晶質主体のスラグが得られ、リンは非結晶質骨格に取り込まれているので、リン溶出率の低いスラグとなる。
【0098】
尚、スラグ温度の調整や冷却処理方法の変更は、骨格調整剤の添加量の調整に合わせて行うことができ、より幅広くリンのク溶率の調整を達成することができる。
【0099】
このように、リン含有汚泥に骨格調整剤を添加して溶融することで、スラグの骨格構造を脆弱化させ、冷却処理ステップで固化されたスラグに含まれる全リン重量に対するク溶性リン重量の比率が所望の値に調整できるので、目的に合った肥料効果を調整した付加価値の高い肥料を製造することができるようになった。
【0100】
骨格調整剤添加ステップは、冷却処理ステップで固化されたスラグに含まれる全リン重量に対するク溶性リン重量の比率が所定値を上回るように、冷却処理ステップで固化されたスラグの光学的塩基度Λを調整する。光学的塩基度と肥料からのリンの溶出割合に正の相関関係があり、光学的塩基度Λが概ね0.57未満になるように骨格調整剤を添加することで、骨格が強く肥料効果の低いスラグが、光学的塩基度Λが0.57以上となるように骨格調整剤を添加することで、骨格が弱く肥料効果の高いスラグが製造可能となる。
【0101】
本発明による肥料の製造方法に用いられる溶融機構14として、回転式表面溶融炉や電気炉を用いることができる。以下に、回転式表面溶融炉について説明する。
【0102】
図3(a),(b)に示すように、回転式表面溶融炉20は、燃焼器21が配置された天井部22の周囲に立設された内筒23と、底部中央に出滓口24が形成された有底の外筒25とが共通軸心周りに配置され、外筒25を軸心周りに回転させる回転機構を備え、外筒25が内筒23に対して回転可能に構成されている。
【0103】
燃焼器21は、燃料タンクから供給される燃料とブロワから供給される空気を混合して燃焼させるバーナで構成され、燃料の供給量を調整することによって溶融スラグの温度を1000℃から1700℃の範囲となるように主燃焼室26内の温度が調整され、空気の供給量を調整することによって主燃焼室26内の雰囲気を還元性雰囲気にするか酸化性雰囲気にするかが調整される。
【0104】
ホッパーに投入された乾燥汚泥が、内筒23と外筒25の間に形成された蓄積部27に定量投入され、内筒23と外筒25の相対回転により内筒23の下縁部から天井部22の下部空間の主燃焼室26に供給される。汚泥の露出面が燃焼器21の燃焼火炎により溶融して、主燃焼室26の底面の中央部に形成された出滓口24から溶融スラグとして落下排出される。出滓口24から落下した溶融スラグは、下方に配置された冷却固化機構15としての水槽で急冷され水砕スラグとなる。
【0105】
出滓口24から横方向に分岐する煙道28から排出された排ガスは、排ガス処理設備で処理された後に煙突から排出される。排ガス処理設備として、炉内から排出される排ガスを完全燃焼させる後燃焼装置、後燃焼後の排ガスの保有熱で燃焼器21及び後燃焼装置に供給する燃焼用空気を予熱する空気予熱器、乾燥機構13への乾燥用蒸気を生成する廃熱ボイラ、白煙防止用空気を加熱する空気加熱器、減温塔、排ガス浄化装置、バグフィルタ、誘引送風機等が煙道に沿って配置されている。
【0106】
内筒23の下縁部と外筒25の底部との間隔を調整するために、内筒23及び天井部22を外筒25に対して一体的に上下方向に昇降させるギア式またはクレーン式の昇降機構でなる間隔調整機構が設けられている。
【0107】
図3(a)に示すように、内筒23を降下させると、内筒23の下縁部と外筒25の底部との間隔が狭く、蓄積部27から主燃焼室26に導かれる汚泥の量が少なくなるため、表面から溶融したスラグが出滓口24に流下する時間が長くなり、スラグの十分な滞留時間が確保できるようになる。
【0108】
図3(b)に示すように、内筒23を上昇させると、内筒23の下縁部と外筒25の底部との間隔が広くなり、蓄積部27から主燃焼室26に導かれる汚泥の量が多くなるため、表面から溶融したスラグが直ちに出滓口24に流下し、スラグの滞留時間が短くなる。
【0109】
つまり、主燃焼室26で溶融されたスラグの滞留時間を調整する滞留時間調整機構が、内筒23と外筒25を共通軸心方向に相対移動させて、内筒23の下縁部と外筒25の底部との間隔を調整する間隔調整機構で具現化される。
【0110】
また、上述の間隔調整機構に限らず、出滓口24の周囲に堰を備え、堰の高さを調整する調整機構を備えることによって、溶融スラグの主燃焼室内での滞留時間を可変に調整してもよい。
【0111】
平面視でドーナツ状の蓄積部27の上部には、乾燥汚泥用のホッパーに加えて、汚泥に添加するための骨格調整剤を収容した単一または複数のホッパーが設置され、ホッパーの下部に設けられた切出機構によって骨格調整剤の添加量が調整される。つまり、骨格調整剤用のホッパーと切出機構によって添加機構が構成される。
【0112】
このように、回転式表面溶融炉は、炉内の酸素濃度の調整や、スラグの滞留時間の調整、骨格調整剤の投入・攪拌が容易であり肥料の製造に適した溶融炉である。
【0113】
尚、上述の何れの実施形態でも、溶融機構14に投入されるのが乾燥機構13から搬送されるリン含有汚泥である構成について説明したが、乾燥機構13に変えて、脱水汚泥を燃焼する燃焼炉を備えて脱水汚泥の燃焼ステップを実行し、得られたリン含有焼却灰を溶融機構13に搬送して溶融処理するように構成してもよい。
【0114】
上述した実施形態は、何れも本発明の一例であり、該記載により本発明が限定されるものではなく、材料やサイズ等の各部の具体的な構成は本発明の作用効果が奏される範囲で適宜変更設計可能であることはいうまでもない。
【実施例】
【0115】
以下に、光学的塩基度とスラグの骨格構造との相関を示す第一の実験例を説明する。
上述したように、溶融スラグからの各種元素の溶出挙動は、スラグの骨格構造に支配される。理想的なSiO2四面体構造に近ければ骨格構造が強く各種元素の溶出濃度は低いが、CaOやNa2O、K2Oなどの成分が多く欠陥構造部分の割合が高いと骨格構造が弱くPやCaなどの肥料成分の溶出濃度は高くなる。
【0116】
そこで、ベース試料となるスラグに骨格調整剤として炭酸ナトリウムNa2CO3や炭酸カルシウムCaCO3を添加して再溶融することにより、スラグ骨格強度の弱い試料スラグを製造し、骨格強度低下によりリン溶出が促進されることを比較確認した。
【0117】
図4(a)には、試験のベース試料となる下水汚泥溶融スラグの組成が示されている。当該下水汚泥溶融スラグは、表の下段に示す都市ゴミ溶融スラグに比べてCaO濃度や重金属濃度が低く、鉄、リン濃度が高い傾向がある。
【0118】
図4(b)の表に示すように、ベース試料のみのものを試料1とし、ベース試料とNa2CO3を8:2の割合で混合したものを試料2とし、ベース試料とCaCO3を8:2の割合で混合したものを試料3として以下の実験を行った。
【0119】
試料1〜3を、φ80mm×H100mmの黒鉛るつぼに厚み約8cm(重量約250g)で充填し、1400℃に温度調節した電気マッフル炉の中で1h保持し、スラグを作成した。加熱中は、電気炉内のガス雰囲気調整を行わなかった。その後、黒鉛るつぼを電気炉から取り出し、スラグを黒鉛るつぼに入れたまま常温空気中で急速冷却した。
【0120】
溶出試験は環境庁告示第46号法による操作(スラグ:蒸留水=1:10、6h撹拌)により実施した。試料の物理形状による影響を除去するため、スラグを1−2mmに破砕し、1−2mm形状のスラグで実施した。
【0121】
図5には、加熱試験後における試料1〜3の主要組成が示されている。試料2に添加されたNa2CO3や、試料3に添加されたCaCO3は加熱時に熱分解を起こしてCO2を放出するため、溶融スラグ中にNa2O、CaOとして取り込まれる。そのため、Na2CO3、CaCO3を20%添加することによるスラグ中Na2O、CaOの増加濃度は、それぞれ11.7%、11.2%となる。ベース試料のみの試料1に対して試料2はNa2Oが、試料3はCaOが、それぞれ相対的に10%程度高く、想定通りの組成になっていることが確認された。
【0122】
図6には、骨格強度を表す指標として、各試料の光学的塩基度が示されている。尚、光化学的塩基度は、既に説明した数式から求められる。試料2及び3のように、Na2CO3、CaCO3を添加することにより光学的塩基度が増加し、スラグの骨格強度が低下する。その序列は、試料2>試料3>試料1の順である。試料2に添加されている1価のNaイオンの方が、試料3に添加されている2価のCaイオンよりも骨格強度を低下させる度合が大きい。
【0123】
図7には、溶出試験における各試料からのリン(P)溶出濃度が示されている。併せて、スラグの主要組成元素(Si)及び植物成長のための主要必須元素の溶出濃度についても調査した。尚、スラグの主要組成元素(Si)も珪酸として、稲の病気に対する耐性や、耐倒伏性を向上する効果を持つ元素である。
【0124】
リン(P)の溶出濃度は、ベース試料のみの試料1に比べて、Na2CO3、CaCO3を添加した試料2、試料3の溶出濃度の方が高い結果となった。Si、Ca、Fe、Mg、Sといった主だった元素ついても同様の傾向が見られた。Kについては逆に試料2、試料3の方が低く、Zn、Cl、Mo、B、Moについては定量下限値未満であった。
【0125】
図8には、溶出試験における各元素の溶出割合が示されている。溶出割合は組成分析結果と溶出試験結果から以下に示す数式により算出した。その結果、溶出割合についても同様に、リン(P)、Si、Ca、Fe、Mg、Sについて、添加なしの試料1に比べて、Na2CO3、CaCO3を添加した試料2、試料3の方が高かった。
【0126】
溶出割合(mg/kg)=(溶出した金属量(mg)/含有する金属量(mg))×1000000
【0127】
図9には、光学的塩基度と溶出割合との関係が示されている。骨格調整剤の添加により溶出割合が増加したリン(P)、Si、Ca、Feについては、何れも光学的塩基度と溶出割合との間に正の相関関係が見られた。従って、スラグの光学的塩基度を制御することにより、リンを初めとした数種の肥効成分(P,Si,Ca,Fe)の放出量(溶出量)を意図的に増加させられることが示された。
【0128】
以上のように、下水汚泥溶融スラグをベース試料として、各試薬の添加によりスラグ骨格強度を変えたスラグでリン溶出濃度を調査し、以下の結果を得た。
【0129】
Na2CO3、CaCO3を添加することによりスラグの光学的塩基度が増加し(スラグの骨格強度は低下し)、その序列はNa2CO3を添加した試料2>CaCO3を添加した試料3、ベース試料のみの試料1となった。
【0130】
光学的塩基度とリン溶出割合との間に正の相関関係が見られた、したがって、スラグの光学的塩基度を制御することにより、リンの放出量(溶出量)を意図的に増加させることができることが示された。
【0131】
次に、骨格調整剤によるク溶性リンへの影響に関する第二の実験例を説明する。
【0132】
試験のベース試料となる下水汚泥溶融スラグと都市ゴミ溶融スラグの組成は図4(a)に示す表と同じものである。
【0133】
図10(a)の表に示すように、ベース試料のみのものを試料4とし、ベース試料とNa2CO3を8:2の割合で混合したものを試料5として以下の実験を行った。
【0134】
試料4及び5を、φ80mm×H100mmの黒鉛るつぼに厚み約8cm(重量約250g)で充填し、1400℃に温度調節した電気マッフル炉の中で1h保持し、スラグを作成した。加熱中は、電気炉内のガス雰囲気調整を行わなかった。その後、黒鉛るつぼを電気炉から取り出し、スラグを黒鉛るつぼに入れたまま常温空気中で急速冷却した。得られたスラグについてク溶性リン溶出試験を行い、ク溶性リンの溶出挙動を比較した。
【0135】
ク溶性リン溶出試験は、試料の物理形状による影響を除去するため、スラグを1−2mmに破砕し、1−2mm形状のスラグで実施した。ク溶性リン溶出試験はクエン酸を溶媒とした酸水溶液中(pH2〜3)での溶出試験であり、植物の根がクエン酸を放出することから、植物の生長がある程度進んだ段階での肥料効果(緩効性)を示す指標として用いられる。
【0136】
図11に、ク溶性リン溶出試験におけるリン溶出割合と光学的塩基度との関係を示す。ク溶性溶出割合は組成分析結果と溶出試験結果から以下に示す数式により算出した。
【0137】
ク溶性溶出割合(%)=(溶出した金属量(mg)/含有する金属量(mg))×100
【0138】
結果としては、光学的塩基度とク溶性リン溶出割合との間に正の相関関係が見られた、したがって、スラグの光学的塩基度を制御(スラグ骨格の脆弱化)することにより、ク溶性リンの放出量(溶出量)を意図的に増加させることができることが示された。
【0139】
次に、スラグの溶融時間、溶融温度の影響に関する第三の実験例を説明する。
【0140】
試験のベース試料となる下水汚泥溶融スラグの組成は図4(a)に示す表と同じものである。
【0141】
図10(b)の表に示すように、ベース試料とNa2CO3を8:2の割合で混合したものを試料5,試料6,試料7の3つ用意し、図10(b)に示すように溶融条件を異ならせて実験を行った。
【0142】
試料5は、φ80mm×H100mmの黒鉛るつぼに厚み約8cm(重量約250g)で充填し、1400℃に温度調節した電気マッフル炉の中で1h保持し、スラグを作成した。
【0143】
試料6は、φ80mm×H100mmの黒鉛るつぼに厚み約8cm(重量約250g)で充填し、1400℃に温度調節した電気マッフル炉の中で4h保持し、スラグを作成した。
【0144】
試料7は、φ80mm×H100mmの黒鉛るつぼに厚み約8cm(重量約250g)で充填し、1250℃に温度調節した電気マッフル炉の中で1h保持し、スラグを作成した。
【0145】
試料5から7の何れも加熱中は、電気炉内のガス雰囲気調整を行わなかった。その後、黒鉛るつぼを電気炉から取り出し、スラグを黒鉛るつぼに入れたまま常温空気中で急速冷却した。
【0146】
まず、スラグの溶融時の溶融時間によるリンの溶出割合の変化を調べるため試料5及び試料6に対して、環境庁告示第46号法操作による溶出試験及びク溶性リン溶出試験を実施した。試料の物理形状による影響を除去するため、スラグを1−2mmに破砕し、1−2mm形状のスラグで実施した。ク溶性リン溶出試験はクエン酸を溶媒とした酸水溶液中(pH2〜3)での溶出試験であり、植物の根がクエン酸を放出することから、植物の生長がある程度進んだ段階での肥料効果(緩効性)を示す指標として用いられる。中性〜弱アルカリ水溶液中での溶出試験である環境庁告示第46号法操作による溶出試験と比較すると苛酷な雰囲気での溶出試験であり、溶出レベルとしては高く、全体の数十%が溶出する。
【0147】
図13及び図14に示すように、環境庁告示第46号法操作による溶出試験及びク溶性リン溶出試験ともに、試料6は試料5に比べて、リンを含む全ての元素について溶出割合が減少した。骨格組成が同様であっても、溶融時間を伸ばすことにより、骨格構造がエネルギー安定的な平衡状態に近づき、スラグ骨格が強固になったと考えられる。
【0148】
次に、スラグの溶融時の溶融温度によるリンの溶出割合の変化を調べるため試料5及び試料7に対して環境庁告示第46号法操作による溶出試験を実施した。
【0149】
図14に示すように、試料7は試料5に比べて、リンを含む多くの元素について、溶出割合が指数的に増加する結果となった。溶融温度が低いと、溶融スラグの粘性が低く平衡状態に達するのに時間を要するため、溶出割合が増加したと考えられる。
【符号の説明】
【0150】
10: 肥料の製造プラント
11:水処理機構
12:脱水機構
13:乾燥機構
14:溶融機構
15:冷却機構
16:コンベア機構
17:整粒機構
20:回転式表面溶融炉
21:燃焼器
22:天井部
23:内筒
24:出滓口
25:外筒
26:主燃焼室
27:蓄積部
28:煙道
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン含有汚泥またはリン含有焼却灰を含む被溶融物を溶融処理する溶融処理ステップと、前記溶融処理ステップで溶融されたスラグを冷却処理して固化する冷却処理ステップと、を含む肥料の製造方法であって、
前記溶融処理ステップの前段に、前記リン含有汚泥またはリン含有焼却灰に骨格調整剤を添加して、前記冷却処理ステップで固化されたスラグに含まれる全リン重量に対するク溶性リン重量の比率が所定値を上回るように調整する骨格調整剤添加ステップを備えている肥料の製造方法。
【請求項2】
骨格調整剤添加ステップは、前記冷却処理ステップで固化されたスラグに含まれる全リン重量に対するク溶性リン重量の比率が所定値を上回るように、前記冷却処理ステップで固化されたスラグの光学的塩基度を調整するステップである請求項1記載の肥料の製造方法。
【請求項3】
前記骨格調整剤添加ステップは、前記冷却処理ステップで固化されたスラグを含む肥料に含まれる全リン重量に対するク溶性リン重量の比率が所定値を上回るように、前記冷却処理ステップで固化されたスラグの光学的塩基度を調整するステップである請求項2記載の肥料の製造方法。
【請求項4】
前記骨格調整剤添加ステップで添加される骨格調整剤が、アルカリ金属、アルカリ土類金属、または遷移金属から選ばれる一種類または複数種類の金属単体または金属化合物である請求項1から3の何れかに記載の肥料の製造方法。
【請求項5】
前記骨格調整剤添加ステップで添加される骨格調整剤が、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、鉄、マンガン、銅、亜鉛から選ばれる一種類または複数種類の金属単体または金属化合物である請求項1から4の何れかに記載の肥料の製造方法。
【請求項6】
前記骨格調整剤添加ステップで添加される骨格調整剤に鉄またはその化合物が含まれ、前記溶融処理ステップが還元性雰囲気で実行される請求項1から5の何れかに記載の肥料の製造方法。
【請求項7】
前記溶融処理ステップは、スラグの温度を1300℃以下に調整した条件下で実行される請求項1から6の何れかに記載の肥料の製造方法。
【請求項8】
前記冷却処理ステップは、前記溶融処理ステップで溶融されたスラグを緩速冷却して固化するステップを含む請求項1から7の何れかに記載の肥料の製造方法。
【請求項9】
リン含有汚泥またはリン含有焼却灰を含む被溶融物を溶融処理する溶融処理ステップと、前記溶融処理ステップで溶融されたスラグを冷却処理して固化する冷却処理ステップと、を含む肥料の製造方法であって、
前記溶融処理ステップの前段から前記冷却処理ステップの間に、前記冷却処理ステップで固化されたスラグに含まれる全リン重量に対するク溶性リン重量の比率を調整するク溶性リン調整処理ステップを備えている肥料の製造方法。
【請求項10】
前記ク溶性リン調整処理ステップは、前記溶融処理ステップの前段で、前記リン含有汚泥またはリン含有焼却灰に骨格調整剤を添加する骨格調整剤添加ステップである請求項9記載の肥料の製造方法。
【請求項11】
前記骨格調整剤添加ステップは、前記リン含有汚泥またはリン含有焼却灰に骨格調整剤を添加して前記冷却処理ステップで固化されたスラグの光学的塩基度を調整するステップである請求項10記載の肥料の製造方法。
【請求項12】
前記骨格調整剤添加ステップで添加される骨格調整剤が、アルカリ金属、アルカリ土類金属、または遷移金属から選ばれる一種類または複数種類の金属単体または金属化合物である請求項10または11記載の肥料の製造方法。
【請求項13】
前記骨格調整剤添加ステップで添加される骨格調整剤が、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、鉄、マンガン、銅、亜鉛から選ばれる一種類または複数種類の金属単体または金属化合物である請求項10から12の何れかに記載の肥料の製造方法。
【請求項14】
前記骨格調整剤添加ステップで添加される骨格調整剤に鉄またはその化合物が含まれ、前記溶融処理ステップが還元性雰囲気または酸化性雰囲気の何れかで実行される請求項10から13の何れかに記載の肥料の製造方法。
【請求項15】
前記溶融処理ステップは、スラグの温度を1000℃から1700℃の範囲で調整した条件下で実行される請求項10から14の何れかに記載の肥料の製造方法。
【請求項16】
前記冷却処理ステップは、前記溶融処理ステップで溶融されたスラグを空冷機構または保温機構を用いて緩速冷却して固化するステップ、または水冷機構を用いて急速冷却するステップを含む請求項10から15の何れかに記載の肥料の製造方法。
【請求項17】
請求項1から16の何れかに記載された肥料の製造方法に用いられる回転式表面溶融炉であって、
燃焼器が配置された天井部の周囲に立設された内筒と、底部中央に出滓口が形成された有底の外筒とを共通軸心周りに配置し、前記外筒と前記内筒との間の蓄積部に投入されたリン含有汚泥またはリン含有焼却灰を含む被溶融物を、前記外筒と前記内筒の相対回転により前記内筒の下縁部から前記天井部の下部空間の主燃焼室に移動させて、その露出面を前記燃焼器の燃焼火炎により溶融し、前記出滓口から溶融スラグを落下排出するように構成され、
前記主燃焼室で溶融されたスラグの滞留時間を調整する滞留時間調整機構を備えている回転式表面溶融炉。
【請求項18】
前記滞留時間調整機構が、前記内筒と前記外筒を前記共通軸心方向に相対移動させて、前記内筒の下縁部と前記外筒の底部との間隔を調整する間隔調整機構で具現化されている請求項17記載の回転式表面溶融炉。
【請求項19】
請求項1から16の何れかに記載された肥料の製造方法に用いられる回転式表面溶融炉であって、
燃焼器が配置された天井部の周囲に立設された内筒と、底部中央に出滓口が形成された有底の外筒とを共通軸心周りに配置し、前記外筒と前記内筒との間の蓄積部に投入されたリン含有汚泥またはリン含有焼却灰を含む被溶融物を、前記外筒と前記内筒の相対回転により前記内筒の下縁部から前記天井部の下部空間に移動させて、その露出面を前記燃焼器の燃焼火炎により溶融し、前記出滓口から溶融スラグを落下排出するように構成され、前記蓄積部に投入されたリン含有汚泥またはリン含有焼却灰に前記骨格調整剤を添加する添加機構を備えている回転式表面溶融炉。
【請求項1】
リン含有汚泥またはリン含有焼却灰を含む被溶融物を溶融処理する溶融処理ステップと、前記溶融処理ステップで溶融されたスラグを冷却処理して固化する冷却処理ステップと、を含む肥料の製造方法であって、
前記溶融処理ステップの前段に、前記リン含有汚泥またはリン含有焼却灰に骨格調整剤を添加して、前記冷却処理ステップで固化されたスラグに含まれる全リン重量に対するク溶性リン重量の比率が所定値を上回るように調整する骨格調整剤添加ステップを備えている肥料の製造方法。
【請求項2】
骨格調整剤添加ステップは、前記冷却処理ステップで固化されたスラグに含まれる全リン重量に対するク溶性リン重量の比率が所定値を上回るように、前記冷却処理ステップで固化されたスラグの光学的塩基度を調整するステップである請求項1記載の肥料の製造方法。
【請求項3】
前記骨格調整剤添加ステップは、前記冷却処理ステップで固化されたスラグを含む肥料に含まれる全リン重量に対するク溶性リン重量の比率が所定値を上回るように、前記冷却処理ステップで固化されたスラグの光学的塩基度を調整するステップである請求項2記載の肥料の製造方法。
【請求項4】
前記骨格調整剤添加ステップで添加される骨格調整剤が、アルカリ金属、アルカリ土類金属、または遷移金属から選ばれる一種類または複数種類の金属単体または金属化合物である請求項1から3の何れかに記載の肥料の製造方法。
【請求項5】
前記骨格調整剤添加ステップで添加される骨格調整剤が、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、鉄、マンガン、銅、亜鉛から選ばれる一種類または複数種類の金属単体または金属化合物である請求項1から4の何れかに記載の肥料の製造方法。
【請求項6】
前記骨格調整剤添加ステップで添加される骨格調整剤に鉄またはその化合物が含まれ、前記溶融処理ステップが還元性雰囲気で実行される請求項1から5の何れかに記載の肥料の製造方法。
【請求項7】
前記溶融処理ステップは、スラグの温度を1300℃以下に調整した条件下で実行される請求項1から6の何れかに記載の肥料の製造方法。
【請求項8】
前記冷却処理ステップは、前記溶融処理ステップで溶融されたスラグを緩速冷却して固化するステップを含む請求項1から7の何れかに記載の肥料の製造方法。
【請求項9】
リン含有汚泥またはリン含有焼却灰を含む被溶融物を溶融処理する溶融処理ステップと、前記溶融処理ステップで溶融されたスラグを冷却処理して固化する冷却処理ステップと、を含む肥料の製造方法であって、
前記溶融処理ステップの前段から前記冷却処理ステップの間に、前記冷却処理ステップで固化されたスラグに含まれる全リン重量に対するク溶性リン重量の比率を調整するク溶性リン調整処理ステップを備えている肥料の製造方法。
【請求項10】
前記ク溶性リン調整処理ステップは、前記溶融処理ステップの前段で、前記リン含有汚泥またはリン含有焼却灰に骨格調整剤を添加する骨格調整剤添加ステップである請求項9記載の肥料の製造方法。
【請求項11】
前記骨格調整剤添加ステップは、前記リン含有汚泥またはリン含有焼却灰に骨格調整剤を添加して前記冷却処理ステップで固化されたスラグの光学的塩基度を調整するステップである請求項10記載の肥料の製造方法。
【請求項12】
前記骨格調整剤添加ステップで添加される骨格調整剤が、アルカリ金属、アルカリ土類金属、または遷移金属から選ばれる一種類または複数種類の金属単体または金属化合物である請求項10または11記載の肥料の製造方法。
【請求項13】
前記骨格調整剤添加ステップで添加される骨格調整剤が、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、鉄、マンガン、銅、亜鉛から選ばれる一種類または複数種類の金属単体または金属化合物である請求項10から12の何れかに記載の肥料の製造方法。
【請求項14】
前記骨格調整剤添加ステップで添加される骨格調整剤に鉄またはその化合物が含まれ、前記溶融処理ステップが還元性雰囲気または酸化性雰囲気の何れかで実行される請求項10から13の何れかに記載の肥料の製造方法。
【請求項15】
前記溶融処理ステップは、スラグの温度を1000℃から1700℃の範囲で調整した条件下で実行される請求項10から14の何れかに記載の肥料の製造方法。
【請求項16】
前記冷却処理ステップは、前記溶融処理ステップで溶融されたスラグを空冷機構または保温機構を用いて緩速冷却して固化するステップ、または水冷機構を用いて急速冷却するステップを含む請求項10から15の何れかに記載の肥料の製造方法。
【請求項17】
請求項1から16の何れかに記載された肥料の製造方法に用いられる回転式表面溶融炉であって、
燃焼器が配置された天井部の周囲に立設された内筒と、底部中央に出滓口が形成された有底の外筒とを共通軸心周りに配置し、前記外筒と前記内筒との間の蓄積部に投入されたリン含有汚泥またはリン含有焼却灰を含む被溶融物を、前記外筒と前記内筒の相対回転により前記内筒の下縁部から前記天井部の下部空間の主燃焼室に移動させて、その露出面を前記燃焼器の燃焼火炎により溶融し、前記出滓口から溶融スラグを落下排出するように構成され、
前記主燃焼室で溶融されたスラグの滞留時間を調整する滞留時間調整機構を備えている回転式表面溶融炉。
【請求項18】
前記滞留時間調整機構が、前記内筒と前記外筒を前記共通軸心方向に相対移動させて、前記内筒の下縁部と前記外筒の底部との間隔を調整する間隔調整機構で具現化されている請求項17記載の回転式表面溶融炉。
【請求項19】
請求項1から16の何れかに記載された肥料の製造方法に用いられる回転式表面溶融炉であって、
燃焼器が配置された天井部の周囲に立設された内筒と、底部中央に出滓口が形成された有底の外筒とを共通軸心周りに配置し、前記外筒と前記内筒との間の蓄積部に投入されたリン含有汚泥またはリン含有焼却灰を含む被溶融物を、前記外筒と前記内筒の相対回転により前記内筒の下縁部から前記天井部の下部空間に移動させて、その露出面を前記燃焼器の燃焼火炎により溶融し、前記出滓口から溶融スラグを落下排出するように構成され、前記蓄積部に投入されたリン含有汚泥またはリン含有焼却灰に前記骨格調整剤を添加する添加機構を備えている回転式表面溶融炉。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2012−232864(P2012−232864A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−101489(P2011−101489)
【出願日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【出願人】(000001052)株式会社クボタ (4,415)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【出願人】(000001052)株式会社クボタ (4,415)
【Fターム(参考)】
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