説明

肥料及びその製造方法

【課題】本発明は、フッ素除去処理で得られた処理残渣を有効に活用することを目的とする。
【解決手段】本発明は、リン酸水素カルシウム二水和物(A)が粒子(B)に担持された処理剤に、フッ素を含む処理対象水を接触させて得られた処理残渣からなり、前記粒子(B)は、実質的に、粒子径が0.3〜3.0mmであり、かつ均等係数が1.5以下であることを特徴とする肥料である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、肥料及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フッ素はアルミニウムの電解精錬工程、ステンレス鋼等のピクリング工程、シリコン等の電気部品の洗浄工程から排出される排水や、ごみ焼却場洗煙排水、石炭火力排煙脱硫排水等に含有されているが、既に排水基準が設定されており、その基準値をクリアするように除去処理が実施されている。
【0003】
現在、実用化されているフッ素の除去処理の方法としては、カルシウム塩を添加して難溶性のフッ化カルシウム(CaF)を生成し沈殿分離する方法、アルミニウム塩を添加して水酸化アルミニウム(Al(OH))と共沈させ分離する方法、あるいはカルシウム塩による凝集沈殿方法とアルミニウム塩による凝集沈殿方法を組み合わせる方法が一般的である(例えば、非特許文献1参照。)。また、水酸化アルミニウムによる共沈方法として、凝集剤として硫酸バンド(Al(SO・16HO)を添加する技術も知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
フッ素の除去処理方法としてはまた、難溶性リン酸塩を用いて、排水中のフッ素をフルオロアパタイトとして固定化して除去する方法(例えば、特許文献2及び3参照。)、微細な粉末状のリン酸塩類および/又はリン酸化合物と、フッ素を含む排水を接触させる分散方式の接触槽を用いる方法(例えば、特許文献4及び5参照。)等が開示されている。
【0005】
更に、特許文献6には、フッ素除去処理に使用するための処理剤として、リン酸水素カルシウム二水和物(A)と粒子(B)とを含み、リン酸水素カルシウム二水和物(A)が粒子(B)に担持されている処理剤が記載されている。
【0006】
しかしながら、従来、フッ素除去処理により得られる処理残渣を有効に活用することは考えられていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−324137号公報
【特許文献2】特許第3504248号公報
【特許文献3】特開2004−358309号公報
【特許文献4】特開2004−122113号公報
【特許文献5】特開2006−305555号公報
【特許文献6】国際公開第2010/134573号パンフレット
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】朝田裕之、恵藤良弘、「フッ素とホウ素の処理技術」、環境技術、2000年、vol.29、No.4、p.283−289
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、フッ素除去処理で得られた処理残渣を有効に活用することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等がフッ素除去処理で得られる処理残渣の有効活用について鋭意検討したところ、特定の処理剤にフッ素を含む処理対象水を接触させて得られた処理残渣は、肥料として有効活用できることが見出された。
【0011】
すなわち、本発明は、リン酸水素カルシウム二水和物(A)が粒子(B)に担持された処理剤に、フッ素を含む処理対象水を接触させて得られた処理残渣からなり、前記粒子(B)は、実質的に粒子径が0.3〜3.0mmであり、かつ均等係数が1.5以下であることを特徴とする肥料である。
【0012】
上記リン酸水素カルシウム二水和物(A)は、平均粒子径が30〜70μmであることが好ましい。
【0013】
本発明はまた、リン酸水素カルシウム二水和物(A)、及び、実質的に粒子径が0.3〜3.0mmであり、かつ均等係数が1.5以下である粒子(B)を、傾胴型重力式ミキサーを用いて混合して処理剤を得る工程(1)、及び、処理剤とフッ素を含む処理対象水とを接触させた後、処理残渣を回収する工程(2)を含むことを特徴とする肥料の製造方法でもある。
以下に本発明を詳述する。
【0014】
本発明の肥料は、リン酸水素カルシウム二水和物(A)が粒子(B)に担持された処理剤に、フッ素を含む処理対象水を接触させて得られた処理残渣からなる。本発明の肥料は、上記処理残渣からなるものであるため、植物の育成に関して、従来公知の肥料、例えば腐葉土等と同等以上の効果を発揮する。また、処理残渣を有効活用することによって、産業廃棄物の処分費用を削減することができ、環境循環型社会に繋がる。
【0015】
上記処理剤は、リン酸水素カルシウム二水和物(A)が粒子(B)に担持されたものである。この処理剤にフッ素を接触させることでフッ素除去処理が行われ、その結果、処理残渣が得られる。ここで、担持とは、担体である粒子(B)がリン酸水素カルシウム二水和物(A)を担ぐように支持することをいう。
【0016】
上記リン酸水素カルシウム二水和物(A)は、粉末であることが好ましく、その平均粒子径が30〜70μmであることがより好ましい。上記範囲の平均粒子径であることによって、効率的にリン酸水素カルシウムが粒子(B)に担持されるため、この処理剤から得られた処理残渣は、土壌に対して効率的に分散し、肥料として効果的に機能する。
また、処理剤は、フッ素除去性に優れるものとなる。
【0017】
上記リン酸水素カルシウム二水和物(A)の平均粒子径は、日機装(株)製のマイクロトラック9320HRAを用いて、レーザー回折錯乱法により測定したものである。
【0018】
上記粒子(B)は、リン酸水素カルシウム二水和物(A)を担持可能な粒子である。リン酸水素カルシウム二水和物(A)が粒子(B)に担持されることによって、この処理剤から得られた処理残渣は、土壌に対して効率的に分散し、肥料として効果的に機能する。
また、処理剤としては、透水性、フッ素除去性に優れるものとなる。
【0019】
上記粒子(B)は、実質的に、粒子径が0.3〜3.0mmの粒子である。粒子(B)としては、粒子(B)全体の90質量%以上の粒子が0.3〜3.0mmの粒子径を有するものであることが好ましく、より好ましくは粒子(B)全体の99質量%以上であり、更に好ましい比率は99.9質量%以上である。粒子(B)は、粒子径が0.3mm未満である粒子を含まず、粒子径が3.0mmを超える粒子を含まないことが特に好ましい。すなわち、実質的に粒子径が0.3〜3.0mmの粒子のみからなることが好ましい。粒子(B)は、実質的に、粒子径が2.8mmを超える粒子を含まないことが最も好ましい。粒子径が上記範囲であることによって、リン酸水素カルシウム二水和物(A)が効率的に担持されるため、この処理剤から得られた処理残渣は、土壌に対して効率的に分散し、肥料として効果的に機能する。
また、処理剤としては、より透水性、含フッ素化合物の除去性に優れるものとなる。
【0020】
上記粒子(B)の粒子径は、標準網ふるい器(JIS Z8801、呼び寸法:0.3〜3.0mm、ふるい器の大きさ:φ200、深さ45mm)を用いて手動でふるい分け試験を行い求める。粒子径が2.8mmを超える粒子を含まないようにする場合には、呼び寸法2.8mmのふるい器を用いる。
【0021】
上記粒子(B)は、均等係数が1.5以下である。均等係数が上記範囲であることによって、リン酸水素カルシウム二水和物(A)が効率的に担持される。そのため、この処理剤から得られた処理残渣は、土壌に対して効率的に分散し、肥料として効果的に機能する。また、処理剤としては、より透水性に優れ、かつ上記含フッ素化合物の除去性に優れる処理剤とすることができる。
上記粒子(B)の均等係数は、JWWA A103−1:2004に沿って測定する。
【0022】
上記粒子(B)としては、例えば、一般的に水の浄化に用いられる濾過砂、濾過砂利等が挙げられるが、本発明はこれらに限定されるものではない。粒子(B)は、砂であることが好ましい。
【0023】
処理剤は、粉末状のリン酸水素カルシウム二水和物(A)と粒子(B)とを混合することにより得られる。上記処理剤は、リン酸水素カルシウム二水和物(A)が粒子(B)に担持されているため、粒径が大きく、ダマ(凝集物)になりにくい。従って、この処理剤から得られた処理残渣もダマになりにくく、処理残渣が土壌に対して効率的に分散し、肥料として効果的に機能する。また、リン酸水素カルシウム二水和物(A)を粒子(B)に担持させた処理剤から得られるものであるため、飛散しにくく、取り扱い性に優れる処理残渣となる。
また、処理剤は、上記のようにダマ(凝集物)になりにくく、透水性に優れるため、フッ素を含有する処理対象水を処理剤に透水してフッ素除去処理を行う場合等、効率よくフッ素除去処理を行うことができる。更に、リン酸水素カルシウム二水和物(A)を粒子(B)に担持させることによって、飛散しにくい処理剤となり、取り扱い性に優れる。更に、リン酸水素カルシウム二水和物(A)自体の粒径は小さい状態(微粉状態)で保持されるため、フッ素除去量も充分なものとなる。
【0024】
上記処理剤は、粒子(B)100質量部に対して、リン酸水素カルシウム二水和物(A)が1〜100質量部であることが好ましい。より好ましくは、粒子(B)100質量部に対して、リン酸水素カルシウム二水和物(A)5〜50質量部であり、更に好ましくは、7〜15質量部である。上記範囲に設定することによって、リン酸水素カルシウム二水和物(A)が粒子(B)に効率よく担持されるため、処理残渣が土壌に対して効率的に分散し、肥料として効果的に機能する。
また、処理剤としては、透水性、フッ素除去性により優れるものとなる。
【0025】
上記処理剤は、本発明の目的を損なわない範囲で、所望によりリン酸水素カルシウム二水和物(A)及び粒子(B)以外の成分を含むものであってもよいが、リン酸水素カルシウム二水和物(A)及び粒子(B)が合計で99質量%以上を占めるものが好ましい。
【0026】
上記処理剤は、フッ素含有水用の処理剤であることが好ましい。
【0027】
上記処理残渣は、処理剤に、フッ素を含む処理対象水を接触させて得られたものであるにも関わらずフッ素の溶出量が少なく、本発明の肥料を土壌に添加したとしても、該土壌からのフッ素溶出量を、環境基準を満たすものにできる。例えば、本発明の肥料を添加した土壌のフッ素溶出濃度を、該土壌に対して0.8ppm未満にすることができる。このように、本発明の肥料は、二次的な環境汚染を引き起こすことなく、フッ素除去処理で得られた処理残渣を有効に活用できるものである。
【0028】
上記処理残渣は、上記処理剤に、フッ素を含む処理対象水を接触させて得られたものであり、粒径が大きく、ダマ(凝集物)になりにくい。そのため、本発明の肥料は土壌に対して効率的に分散し、肥料として効果的に機能する。また、リン酸水素カルシウム二水和物(A)を粒子(B)に担持させた処理剤から得られるものであるため、飛散しにくく、本発明の肥料が取り扱い性に優れるものとなる。
【0029】
上記処理残渣は、処理剤のリン酸水素カルシウム二水和物(A)の少なくとも一部がフッ素と反応して、フッ素アパタイトになったものと考えられる。すなわち、本発明に係る処理残渣は、フッ素アパタイトからなる粒子が粒子(B)に担持された粒子を含むものと考えられる。
また、上記フッ素アパタイトからなる粒子は、リン酸水素カルシウム二水和物(A)粒子の表面がフッ素と反応したものと考えられ、フッ素アパタイトからなる粒子の内部はリン酸水素カルシウム二水和物(A)であり、フッ素アパタイトからなる粒子の表層部はフッ素アパタイトであると推定される。
【0030】
上記フッ素アパタイトからなる粒子は、粒子(B)100質量部に対して、1〜100質量部であることが好ましい。より好ましくは、5〜50質量部であり、更に好ましくは、7〜15質量部である。また、上記フッ素アパタイトからなる粒子は、平均粒子径が30〜70μmであることが好ましい。フッ素アパタイトからなる粒子の含有量や平均粒子径が上記範囲であることによって、処理残渣が土壌に対して効率的に分散し、肥料として効果的に機能する。
【0031】
本発明の肥料は、肥料の全質量に対して、上記処理残渣が80質量%以上であることが好ましく、50質量%以上であることがより好ましい。上限は、例えば、100質量%である。
【0032】
本発明の肥料は、従来公知の肥料や用土を含有することも好ましい。従来公知の肥料としては、腐葉土等の培養土が挙げられる。用土としては、例えば、赤玉土等が挙げられる。培養土や赤玉土を含有することで、より有用な肥料とすることもできる。
【0033】
本発明の肥料が培養土を含有する場合、培養土は、処理残渣に対して、0〜80質量%であることが好ましく、20〜50質量%であることがより好ましい。
【0034】
以下に、本発明の肥料の製造方法について説明する。
【0035】
本発明の肥料は、リン酸水素カルシウム二水和物(A)、及び、実質的に粒子径が0.3〜3.0mmであり、かつ均等係数が1.5以下である粒子(B)を、傾胴型重力式ミキサーを用いて混合して処理剤を得る工程(1)、及び、処理剤とフッ素を含む処理対象水とを接触させた後、処理残渣を回収する工程(2)を含む方法により製造することができる。
【0036】
上記工程(1)において、傾胴型重力式ミキサーは、リン酸水素カルシウム二水和物(A)及び粒子(B)を混合するための混合容器が傾胴機構に取り付けられたものであり、一般的に傾胴型重力式ミキサーと称されるものであればよい。傾胴機構とは、上記混合容器を傾斜させるための機構である。
【0037】
傾胴型重力式ミキサーの形態としては、例えば、截頭円錐形状の容器を合体させ、一端部を開口させると共に、他端部を閉塞させた混合容器を傾胴機構に取り付け、該混合容器の内周壁に混合するための羽根を取り付けたもの等が挙げられる。上記混合容器は、回転可能であることが好ましい。
【0038】
上記リン酸水素カルシウム二水和物(A)及び粒子(B)を混合する場合、通常、傾胴機構を作動させてドラムの開口部を上方に向け、混合容器を一定方向に回転させながらリン酸水素カルシウム二水和物(A)及び粒子(B)を投入する。投入された各材料は羽根により持ち上げられては下方に落とされるという動作が繰り返されて混合される。
傾胴型重力式ミキサーは、投入された材料の挙動によって混合が促進されるため、リン酸水素カルシウム二水和物(A)が粒子(B)に担持された状態を良好に保持しながら混合することができる。そのため、上記処理剤の製造に特に優れた効果を発揮する。
【0039】
上記工程(1)は、リン酸水素カルシウム二水和物(A)及び粒子(B)を傾胴型重力式ミキサーの混合容器中に入れ、必要に応じて水を添加し、混合することが好ましい。
【0040】
本発明の肥料の製造方法は、処理剤とフッ素を含む処理対象水とを接触させた後、処理残渣を回収する工程(2)を含む。処理剤とフッ素を含む処理対象水とを接触させる方法としては、例えば、処理対象水に処理剤を添加して回分式に接触させる方法であってもよいし、処理剤を充填したカラムに処理対象水を連続式に流通させる方法であってもよい。また、回分式の接触で複数回処理してもよいし、連続式の接触で複数回処理してもよいし、回分式の接触と連続式の接触を組み合わせた処理をしてもよい。なお、連続式の接触における充填カラムは、移動層式、固定層式、又は、流動層式のいずれであってもよい。
【0041】
処理剤と処理対象水とを接触させる方法としては、処理剤を充填したカラムに処理対象水を連続式に流通させる方法が好ましい。この方法を用いると、長期にわたって粉末状のリン酸水素カルシウム二水和物(A)が実質的に流出せず、長期にわたって透水性に優れ、かつ、長期にわたって処理水(処理剤と処理対象水とを接触させて、処理対象水中のフッ素が除去された水)中のフッ素濃度を低くすることができる。例えば、処理水中のフッ素濃度を0.8mg/L以下にすることができる。
【0042】
処理対象水のフッ素含有量は特に限定されないが、例えば、0.1mg/L以上であることが好ましい。また、処理対象水のフッ素含有量は0.8mg/Lを超えるものであってよい。本発明において、処理対象水中のフッ素イオン濃度は、JIS K0102に準拠した方法により測定することができる。
【0043】
処理対象水としては、フッ素を含有する水(フッ素含有水)であれば特に限定されないが、工場排水、温泉水、河川の水等が挙げられる。工場排水としては、シリコンウェハ製造工場、半導体製造工場等から排出されるフッ素含有排水、金属工場から排出される酸洗排水、アルミニウム表面処理排水、フッ酸製造排水、肥料製造排水、ごみ焼却排水等が挙げられる。
【0044】
処理対象水は、フッ素イオンの高い除去効率が得られる点で、pHが3以上であることが好ましい。上記工程(2)において、処理剤と処理対象水とを接触させる方法によって得られる処理水もpHが3以上であることが好ましい。処理対象水及び処理水のpHは、いずれも4以上であることがより好ましい。上記処理対象水又は処理水のpHが3未満である場合、若しくは、各工程中にpHが3未満となる場合、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム等を添加してpHを3以上に調整してもよい。
【0045】
処理対象水は、pHが11以下であることが好ましい。pHが11を超えると、リン酸水素カルシウム二水和物(A)とフッ素イオンとの反応が進行しにくくなるおそれがある。上記処理対象水のpHが11を超える場合、若しくは、各工程中にpHが11を超える場合、塩酸等でpHを11以下に調整してもよい。同様に、処理水のpHも11以下であることが好ましい。
【0046】
工程(2)によれば、リン酸水素カルシウム二水和物(A)1gあたりのフッ素除去量を1mg−F/g以上、好ましくは10mg−F/g以上とすることができる。
【0047】
工程(2)は、処理対象水にカルシウムイオンを添加してフッ化カルシウム(CaF)を生成させる工程、及び、生成したフッ化カルシウムを除去してフッ素イオン濃度が低減された処理対象水を回収する工程を含むものであってもよい。これらの工程は、処理剤とフッ素を含有する処理対象水とを接触させて、該処理対象水中のフッ素を除去する工程の前に行うことが好ましい。これらの工程は、比較的低コストであるカルシウム化合物を使用するため、特に処理対象水のフッ素イオン濃度が高い場合にコストを削減できる。上記カルシウムイオンは、消石灰(Ca(OH))、炭酸カルシウム(CaCO)、塩化カルシウム(CaCl)等のカルシウム化合物として添加されることが好ましい。
【0048】
工程(2)は、処理剤とフッ素を含む処理対象水とを接触させた後、処理残渣を回収するものである。例えば、工程(2)において、上記処理剤を充填したカラムに処理対象水を流通させて、処理対象水中のフッ素を除去した場合、上記処理残渣と、処理対象水からフッ素が除去された処理水とは、工程(2)において自動的に分離される。そのため、上記カラムから処理残渣を容易に回収することができる。上記カラムから回収した処理残渣は、そのまま肥料としてもよいし、上記処理残渣に、腐葉土等の培養土や、赤玉土等の用土を添加して肥料としてもよい。
【0049】
本発明はまた、上記肥料を用いた植物の育成方法でもある。本発明の植物の育成方法は、リン酸水素カルシウム二水和物(A)、及び、実質的に粒子径が0.3〜3.0mmであり、かつ均等係数が1.5以下である粒子(B)を、傾胴型重力式ミキサーを用いて混合して処理剤を得る工程(1)、及び、処理剤とフッ素を含む処理対象水とを接触させた後、処理残渣を回収する工程(2)、前記処理残渣からなる肥料を用いて植物を育てる工程(3)を含むものである。上記工程(1)及び工程(2)は、肥料の製造方法において説明したものと同じである。
【0050】
工程(3)において、上記処理残渣からなる肥料は、実質的に処理残渣のみからなるものであってもよいし、処理残渣に腐葉土等の培養土を添加したものであってもよい。
【0051】
工程(3)により、従来は活用されていなかったフッ素除去処理やフッ素不溶化処理に用いられた処理剤の処理残渣を、有効に活用することができる。
【0052】
本発明の肥料は、植物を育てるための土壌に添加されるものであってもよいし、植物を育てるための培土としてそのまま用いてもよい。
【0053】
上記植物の育成方法は、上記処理残渣からなる肥料を用いること以外は、通常の植物の育成方法により行うことができる。例えば、育苗用の容器に少なくとも上記肥料を充填し、該肥料を含む培土により植物を生育させることができる。
【発明の効果】
【0054】
本発明の肥料は、フッ素除去処理で得られた処理残渣を有効に活用したものであり、植物の育成に関して、従来公知の肥料、例えば培養土、例えば、腐葉土等と同等以上の効果を発揮する。また、処理残渣を有効活用したものであるため、本発明の肥料を用いることにより、産業廃棄物の処分費用を削減することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】図1は、実施例1における濾過装置を示す模式図である。
【図2】図2(a)は、実施例1で植物を育成するために用いたプランターの上面図である。図2(b)は、側面図である。
【図3】図3は、実施例2で植物を育成するために用いたプランターの側面図である。
【図4】図4は、育成試験1〜3の結果を示す写真を示すものである。図4(1a)、(2a)、(3a)及び(4a)は、それぞれ、育成試験1の育成開始時、育成開始から2ヶ月後、3ヶ月後、及び、4ヶ月後の写真である。図4(1b)、(2b)、(3b)及び(4b)は、それぞれ、育成試験2の育成開始時、育成開始から2ヶ月後、3ヶ月後、及び、4ヶ月後の写真である。図4(1c)、(2c)、(3c)及び、(4c)は、それぞれ、育成試験3の育成開始時、育成開始から2ヶ月後、3ヶ月後、及び、4ヶ月後の写真である。
【図5】図5は、比較育成試験1の結果を示す写真を示すものである。図5(1d)、(2d)、(3d)及び、(4d)は、それぞれ、比較育成試験1の育成開始時、育成開始から2ヶ月後、3ヶ月後、及び、4ヶ月後の写真である。
【図6】図6(a)は、育成開始前のゴールドクエストの苗の写真であり、(b)は、ゴールドクエストの苗の根の部分の拡大写真である。
【図7】図7(a)、(b)、(c)及び(d)は、それぞれ、育成試験1、育成試験2、育成試験3、及び比較育成試験1における、育成開始から育成開始から4ヶ月後の根の部分の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0056】
以下に、実施例及び比較例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0057】
(処理剤の調製)
傾胴型重力式ミキサー(容量110L)に、急速濾過用砂((株)トーケミ製、「日本水道協会規格 JWWA A103−1:2004規格品、有効径:0.6mm、均等係数:1.5以下、最大径2.8mm以下、最小径0.3mm以上」)及びリン酸水素カルシウム二水和物の粉末(太平化学産業(株)製、「平均粒径:54μm」(以下、DCPDという。))の合計100質量部当たり、急速濾過用砂を90質量部、DCPDを10質量部の割合で投入し、3分間混合を行った。
【0058】
(フッ素を含む処理対象水のフッ素除去処理)
図1は、実施例1に係る濾過装置を示す模式図である。図1に示す通り、ガラス製カラム筐体1(φ10cm)に、上記混合により得られた急速濾過用砂とDCPDとの混合物(処理剤)2及びガラスウール3を充填して濾過装置5とした。
【0059】
次に、フッ素を含む処理対象水を流速50ml/minにて、濾過装置5の上部に接続した管6から注入し、装置下部に接続した管7より処理水を得た。フッ素を含む処理対象水4は、図1に示すように、カラム筐体1中で混合物2に透水させることで処理が行われ、その後、処理残渣を筐体1から取り出して回収する。フッ素を含む処理対象水のフッ素濃度は、3mg/Lであり、処理水中のフッ素濃度は、0.4mg/Lであった。なお、フッ素を含む処理対象水及び処理水中のフッ素濃度は、JIS K0102に準拠した方法により測定した。
【0060】
実施例1
図2(a)は、実施例1で植物を育成するために用いたプランターの上面図である。図2(b)は、側面図である。図2(b)に示すように、プランター11に、鉢底石13を1kgプランターの底に敷きつめ、その上から、上記フッ素除去処理で得られた処理残渣(肥料)14を12kg投入した。処理残渣14の上から、培養土15を0.5kg投入した後、図2(a)中に示す○印12(苗の植え付け箇所)に、ゴールドクエストの苗を植え付けた。培養土としては、コーナン商事(株)製の有機培養土 園芸の土を用いた。
【0061】
(育成試験1)
準備したプランターを用いて、実際に植物の育成を行った。灌水は土の表面が乾燥しない程度の頻度でプランターの上側から行い、4ヶ月間生育させた。図4に、(1a)育成開始時、(2a)育成開始から2ヶ月後、(3a)育成開始から3ヶ月後、(4a)育成開始から4ヶ月後の写真を示す。図6(a)は植栽前のゴールドクエスト苗の写真であり、図6(b)は、図6(a)に示すゴールドクエスト苗の根の部分の拡大写真である。図7(a)は、育成開始から4ヶ月後の根の部分の写真である。
【0062】
(溶出試験例1)
育成試験1の途中で、灌水による土壌からのフッ素溶出濃度を確認した。散布水としては水道水(フッ素濃度は、0.2〜0.3ppm)を用い、植え付け1日目、4日目、7日目、10日目のそれぞれに、灌水によるフッ素溶出濃度を測定した。フッ素溶出濃度の測定は、環境庁告示46号に定められる土壌溶質試験法に基いて行った。結果を下記表1に示す。
【0063】
実施例2
図3は、実施例2で植物を育成するために用いたプランターの側面図である。図3に示すように、プランター11に、鉢底石13を1kgプランターの底に敷きつめ、その上から、上記フッ素除去処理で得られた処理残渣と培養土とを混合した混合肥料14a(処理残渣:培養土=1:1〔質量比〕)を投入した。その後、実施例1と同様に、ゴールドクエストの苗を植え付け、実施例1と同じ方法で、育成試験(育成試験2)、溶出試験(溶出試験例2)を行った。図4(1b)は、育成開始時、(2b)は育成開始から2ヶ月後、(3b)は育成開始から3ヶ月後、(4b)は育成開始から4ヶ月後の写真である。図7(b)は、育成開始から4ヶ月後の根の部分の写真である。
【0064】
実施例3
実施例2で用いた混合肥料の代わりに、混合肥料(処理残渣:培養土=4:1〔質量比〕)を用いたこと意外は、実施例2と同様にプランターを準備し、溶出試験(溶出試験例3)、育成試験(育成試験3)を行った。図4(1c)は、育成開始時、(2c)は育成開始から2ヶ月後、(3c)は育成開始から3ヶ月後、(4c)は育成開始から4ヶ月後の写真である。図7(c)は、育成開始から4ヶ月後の根の部分の写真である。
【0065】
比較例1
実施例2で用いた混合肥料の代わりに、培養土のみからなる肥料を用いたこと以外は、実施例2と同じ方法でプランターを準備し、溶出試験(比較溶出試験例1)、育成試験(比較育成試験1)を行った。図5(1d)は、育成開始時、(2d)は育成開始から2ヶ月後、(3d)は育成開始から3ヶ月後、(4d)は育成開始から4ヶ月後の写真である。図7(d)は、育成開始から4ヶ月後の根の部分の写真である。
【0066】
【表1】

【0067】
表1に示されるように、溶出試験例1〜3では、肥料として培養土のみを用いた溶出比較試験例1と同程度のフッ素溶出濃度であり、また、環境基準値(0.8ppm)以下であった。この結果から、フッ素除去処理に用いた処理残渣を肥料として用いたとしても、フッ素溶出は充分に抑制されていることが確認された。
【0068】
育成試験1〜3及び比較育成試験1の結果から、ゴールドクエストは、上記処理残渣を用いた肥料を用いたとしても、培養土と同程度で植物が生育していることがわかる。
【0069】
フッ素含有水を処理剤に通水した、浄化処理後の処理残渣を肥料として用いたところ、培養土と同等以上の生育が確認でき、浄化処理後の処理残渣は、肥料として充分に機能することが立証されたといえる。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明の肥料は、種々の植物の育成に利用することができる。
【符号の説明】
【0071】
1:ガラス製カラム筐体
2:急速濾過用砂とDCPDとの混合物(処理剤)
3:ガラスウール
4:フッ素を含む処理対象水
5:濾過装置
6、7:管
8:水面
11:プランター
12:苗の植え付け箇所
13:鉢底石
14:処理残渣
14a:処理残渣と培養土との混合肥料
15:培養土

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン酸水素カルシウム二水和物(A)が粒子(B)に担持された処理剤に、フッ素を含む処理対象水を接触させて得られた処理残渣からなり、
前記粒子(B)は、実質的に粒子径が0.3〜3.0mmであり、かつ均等係数が1.5以下であることを特徴とする肥料。
【請求項2】
リン酸水素カルシウム二水和物(A)は、平均粒子径が30〜70μmである請求項1記載の肥料。
【請求項3】
リン酸水素カルシウム二水和物(A)、及び、実質的に粒子径が0.3〜3.0mmであり、かつ均等係数が1.5以下である粒子(B)を、傾胴型重力式ミキサーを用いて混合して処理剤を得る工程(1)、及び、
処理剤とフッ素を含む処理対象水とを接触させた後、処理残渣を回収する工程(2)
を含むことを特徴とする肥料の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−218971(P2012−218971A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−85639(P2011−85639)
【出願日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】