説明

肥料用被覆組成物

【課題】 生分解性を有する原料を用い、簡便な方法によって肥料成分の溶出精度を良好に調整することができる肥料用被覆組成物を得る。
【解決手段】 ソルビタン脂肪酸エステルで変性したアルキド樹脂と、ポリイソシアネートとを反応してなる肥料用被覆組成物である。
この様な本発明の肥料用被覆組成物の使用により、被覆組成物の生分解性が促進され、しかも肥料成分の溶出が精度良く調整された被覆肥料を製造することができるため、本発明の技術は産業上の利用に於いて極めて有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、肥料用被覆組成物に関する。さらに詳しくは、生分解性を有する原料を用い、簡便な方法によって肥料成分の溶出精度を良好に調整することができる肥料用被覆組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、湖沼などの閉鎖性水域での富栄養化や硝酸性窒素による地下水汚染などの環境問題や、農業人口の減少、従事者の高齢化による省力型肥料の要請などにより、多くの被覆粒状肥料が開発され市販・実用化されている。しかしながら、これら肥料の被膜の非崩壊性によって環境への負荷が大きくなるなどの問題も生じている。
そこで、このような環境への負荷の少ない被覆材料として、エステル結合を有するヒマシ油やヒマシ油誘導体などを樹脂の原料として用いることにより、樹脂の生分解性が期待できることから、このような樹脂とポリイソシアネートとを反応させたポリウレタン樹脂を被膜として用いる方法が提案されている(例えば、特許文献1〜3参照)。
しかし、この様な樹脂被覆組成物は、生分解性という点では未だその効果は十分なものとはいえないのが現状である。
【0003】
本発明者らは、肥効調整での肥料の溶出精度の良い被覆組成物として、油変性アルキド樹脂とポリイソシアネートとを肥料の被覆原料として使用した被覆粒状肥料を開発し、先に出願を行なった(例えば、特許文献4、5参照)。
しかし、これら肥料の溶出性能は優れているものの、樹脂成分の生分解性については、その効果は充分でない。
即ち、肥料成分の溶出制御と樹脂の生分解性とは相反した効果を求めるものであり、溶出制御が容易なものは生分解性が悪く、反対に生分解性を重視すると樹脂の崩壊などによって溶出制御が困難なものとなるという結果となる。
従って、肥料成分の溶出特性と樹脂成分の生分解性の両者の特性を併有する肥料用被覆組成物の出現が強く望まれているのが現状である。
【0004】
【特許文献1】特許登録第3161997号公報
【特許文献2】特開2001−213685号公報
【特許文献3】特開2005−1957号公報
【特許文献4】特開2001−163691号公報
【特許文献5】特開2003−277178号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、前述のような肥料成分の溶出特性と樹脂成分の生分解性の両者の特性を併有する肥料用被覆組成物を開発すべく、生分解性を有する原料を用い、簡便な方法で製造できる肥料成分の溶出精度の優れた肥料用被覆組成物を開発することに鋭意検討を重ねた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
その結果、ポリオール成分としてソルビタン脂肪酸エステルで変性したアルキド樹脂を用い、これとポリイソシアネート成分とを反応させることにより得られるポリウレタン樹脂が、前述の課題を解決する優れた肥料用被覆組成物になることを見出し、係る知見に基づき本発明を完成した。
【0007】
即ち本発明は、ソルビタン脂肪酸エステルで変性したアルキド樹脂と、ポリイソシアネートとを反応してなる肥料用被覆組成物に関する。
これらの原料を反応させたポリウレタン樹脂で被覆された被覆肥料は、肥料成分の溶出の制御を精度良く行なうことができると共に、被膜の生分解性が促進されるという優れた特徴を有する。
【発明の効果】
【0008】
本発明における被覆材の使用により、被覆組成物の生分解性が促進され、しかも肥料成分の溶出が精度良く調整された被覆肥料を製造することができるため、本発明の技術は産業上利用する上で極めて有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明について更に詳細に説明する。
本発明において被覆に使用する肥料用被覆組成物は、ポリウレタン系の樹脂であり、アルキド樹脂とポリイソシアネートとの反応によって形成される熱硬化性の樹脂である。
本発明に用いるアルキド樹脂は、変性剤としてソルビタン脂肪酸エステルを使用したことに特徴がある。
【0010】
アルキド樹脂をソルビタン脂肪酸エステルで変性し、アルキド樹脂を合成する方法としては、一般的に行なわれる直接法、アルコーリシス法、アシドリシス法のいずれの方法により行なってもよい。直接法は、ソルビタン脂肪酸エステル、多塩基酸、多価アルコール等を同時に仕込み、加熱してポリエステル化し、アルキド樹脂を合成する方法である。また、アルコーリシス法は、始めにソルビタン脂肪酸エステルと多価アルコールとでアルコーリシス反応を行い、多価アルコールの脂肪酸部分エステルとした後、そのヒドロキシル基と多塩基酸等とでポリエステル化反応を行なう2段階法でアルキド樹脂を合成する方法である。
また、アシドリシス法は、第1段階でソルビタン脂肪酸エステルと多塩基酸とでアシドリシス反応により、ソルビタン脂肪酸エステルの脂肪酸基の一部を多塩基酸基でエステル化反応を行なう。その後、第2段階反応で多価アルコール等を添加してポリエステル化反応を進めアルキド樹脂を合成する方法である。尚、これらの中でも反応工程が少ない直接法、あるいは、反応速度を制御しやすく、品質を安定化し易いアルコーリシス法で反応を行なう方法が工業的に有利である。
【0011】
ソルビタン脂肪酸エステルは、ソルビットの分子内脱水で得られるソルビタンに、脂肪酸がエステル結合したものであり、1,5−ソルビタン脂肪酸エステル、1,4または3,6−ソルビタン脂肪酸エステルが存在する。例えば、モノラウリン酸ソルビタン、モノパルミチン酸ソルビタン、モノステアリン酸ソルビタン、セスキステアリン酸ソルビタン、トリステアリン酸ソルビタン、モノオレイン酸ソルビタン、セスキオレイン酸ソルビタン、トリオレイン酸ソルビタン、モノイソステアリン酸ソルビタン、セスキイソステアリン酸ソルビタン等が挙げられる。また、これらの混合物も使用することができる。中でも、モノステアリン酸ソルビタン、トリステアリン酸ソルビタン、モノオレイン酸ソルビタン、トリオレイン酸ソルビタンが好適に用いられる。
【0012】
ソルビタン脂肪酸エステルを変性剤として使用したアルキド樹脂を、ウレタン化して被覆材として使用した場合、被膜の生分解性と溶出調整能の両観点から、アルキド樹脂中のソルビタン脂肪酸エステル含有量は、通常5〜70質量%、好ましくは、10〜50質量%である。5質量%未満では皮膜の生分解性が不十分であり、70質量%を超えると生分解性が早すぎ溶出調整が不可能となり、また被覆膜の強度が低下し欠損が生じ易くなる。
尚、本発明においてアルキド樹脂は、アマニ油、ヒマシ油等の植物油脂又はその脂肪酸によって変性した油変性アルキド樹脂を使用することもできる。
【0013】
変性剤としてソルビタン脂肪酸エステルを使用する以外は、上記油変性原料以外に、アルキド樹脂に使用される原料は特に限定されるものではなく、フタル酸、マレイン酸、アジピン酸、セバシン酸等の多塩基酸とグリセリン、エチレングリコール、ヘキサンジオール、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン、ソルビトール、マンニトール等の多価アルコール、あるいは、乳酸、グリコール酸、カプロラクトン、ヒドロキシステアリン酸、リシノール酸等のオキシ酸や環状エステルを使用することができる。
尚、ウレタン化して樹脂とした場合の膜強度の観点から、上記多塩基酸としては、フタル酸、アジピン酸が、多価アルコールとしてはグリセリン、トリメチロールプロパン、ヘキサンジオールを使用することがより好ましい。
【0014】
上記の原料を加熱縮合して得られるアルキド樹脂は、ウレタン化して被覆材として使用するために、水酸基価は50〜400のものが好ましく、この範囲外では肥料成分の溶出を精度よく調整することが難かしくなる。即ち、水酸基価が400を超えると被膜が脆くなり、50未満では被膜が柔らかくなり、いずれの場合においても被膜に欠損が生じやすくなる。また、酸価に関して言えば、酸価が高いとウレタン化反応が阻害され被膜の硬化性が悪くなり、均一な皮膜形成が困難となるので、酸価は15以下、より好ましくは10以下である。
ところで、ウレタン化に使用するポリイソシアネートに関しては、モノマーのジイソシアネート、液状のポリイソシアネートを用いることができる。好適な例として、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート、キシレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート等が挙げられる。また、これらの混合物も使用することができる。しかし、これらのうち本発明の目的及び被膜形成性の点から、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネートの使用が最も好ましい。
【0015】
アルキド樹脂とポリイソシアネートとの反応割合は、イソシアネート基とヒドロキシル基のモル比(NCO/OH)として0.5〜2.0の範囲が好ましい。このモル比が0.5を下廻り、ポリウレタン架橋が減少すると被膜の耐水性が低下する。また、モル比が2.0を上廻り、ポリウレタン架橋が増加すると生分解性が不十分となる。
【0016】
アルキド樹脂とポリイソシアネートとの反応に際しては、反応を促進するため触媒を添加使用することができ、触媒として例えば、オクタン酸カリウム等の有機塩類、トリエチレンジアミン等のアミン化合物を使用することができる。しかし、反応速度の調節の容易さ、均一な被膜の形成のし易さ等から、脂肪族モノカルボン酸カリウムの使用が好ましい。また、アルキド樹脂の分子間で架橋させ、より強靭な被膜を形成する目的で、架橋触媒として、例えば、ナフテン酸マンガン、オクタン酸コバルト等の有機塩類を使用することも有用である。
【0017】
本発明で使用できる肥料は、粒状のものであれば特に制限はなく、例えば、尿素、硫安、塩安、りん安、硝安、硫酸カリ、塩化カリ、りん酸マグネシウム、硫りん安、硫加りん安、りん硝安カリ、過りん酸石灰等の粒状品がその代表として挙げられる。また、粒状肥料の粒径に関しては特に限定はなく、概ね1mm〜5mmのもの使用が好ましい。
【0018】
次に、粒状肥料への本発明被覆組成物の被覆方法について云えば、流動または転動状態にした粒状肥料に対し、各被覆材、即ち、アルキド樹脂とポリイソシアネートを付着反応させ、これを熱風等で加温することにより、粒状肥料表面上に被膜を形成させる。
この様に粒状肥料を流動、転動させる方法としては、例えば、流動化には流動装置や噴流動装置等が、転動化には回転パンや回転ドラム等の装置が使用できる。
また、各被覆材は、液状化させ、粘度が300mPa・s以下となる様に調整したものを使用することが好ましい。例えば、アルキド樹脂の場合には、樹脂温度を80〜120℃に加熱し使用すればよい。
ポリイソシアネートは、常温で300mPa・s以下のものはそのまま、また、固体状のものは融点以上に加熱し液状化させて用いることができる。この場合に、被覆材の粘度が300mPa・sを越えると作業性が悪くなり、更には均一な被膜を形成することが困難となり、肥料の溶出制御が困難となるため好ましくない。
【0019】
肥料粒子への被覆材の付着方法は、肥料粒子に均一に被覆材を塗布できれば特段制限はなく、スプレーによる噴霧、或いは滴下による方法に限らず行なうことができる。
また、各被覆材は、同一の箇所から粒状肥料に噴霧しても、あるいは別々の箇所から噴霧しても良い。しかし、作業性の面から、触媒はアルキド樹脂に予め混合して使用し、アルキド樹脂とポリイソシアネートは別々の箇所から噴霧することが好ましい。
肥料への被覆材の付着、反応により生成した被膜を硬化させるには、室温から90℃の範囲で加熱すればよいが、硬化温度が低過ぎると、噴霧された溶液の粘性が高くなり、肥料粒子表面上で均一な膜が形成されない。また、硬化温度が高過ぎると、ウレタン化反応の速度が速くなるため、硬化速度の調節が困難となるため、均一な被膜形成が困難となる。従って、加熱温度は50℃〜80℃の範囲がより好ましい。
【0020】
ところで、肥料粒子上への被膜の形成は、被覆材の付着、加熱乾燥を繰り返すことで行われるのが望ましく、即ち、繰り返しによる被膜の多層化により、緻密な被膜を形成することができる。この場合、一回の被膜形成に使用される被覆材の量は、被覆材の噴霧あるいは滴下速度、硬化速度等の条件により異なり、一概に言及することはできないが、被覆される粒状肥料に対し好ましくは0.3〜1.5質量%である。この下限を下廻ると、被覆回数が増え、工業的に不利となるばかりでなく、被覆ムラを起こしやすい。また、上限を上廻ると粒状肥料粒子上に多数の被覆材の塊が形成され、転動あるいは流動中にこの塊が肥料粒子から離脱して被膜に欠陥を生じ易くなり好ましくない。
肥料粒子への被覆材の付着、乾燥の繰り返しは、少なくとも3回以上即ち、被膜を3層以上に多層化することが好ましい。この多層化の上限に関して云えば、30回以下、即ち被膜を30層以下とすることが好ましい。肥料粒子への被覆材の付着、乾燥の繰り返し工程の回数が上記範囲外となり、回数が少ない場合には、被膜に存在するピンホールの影響で肥料の初期溶出率が高くなる。また、回数が多くなると生産性が低下し、工業的には不利となる。
【0021】
また、被膜は肥料の溶出性能において、許容される範囲内で、作業性の向上及び肥効調節の補助的手段として被覆材に脂肪族エステル、ワックス、ロジンまたはその誘導体、界面活性剤、タルク、炭酸カルシウム等の各種添加剤を加えてもよい。
また、粒状肥料散布機により被覆肥料を散布する様な場合等、より強靭な被膜が必要な場合には、保護膜を形成させることも有用であり、例えば、保護膜形成材料として、ポリエチレン樹脂、酢酸ビニル樹脂、エチレン-酢酸ビニル樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、アクリル樹脂、アルキド樹脂、ウレタン樹脂等を使用することができる。これらの添加剤、保護膜形成剤の使用割合としては、全被覆量の30質量%以下であることが必要であり、これ以上となると、本発明の目的を達成することが困難となる場合がある。
この様にして得られる本発明肥料用被覆組成物によって被覆された肥料は、被膜が生分解性を有し、肥料成分が精度よく溶出調整され、また生産効率等の工業的にも有利な被覆粒状肥料となる。
【実施例】
【0022】
以下に本発明の実施例を挙げて更に説明を行なうが、本発明はこれらに限定されるものではない。尚、実施例に於いて、%は特に断らない限り全て質量%を示す。
【0023】
<変性アルキド樹脂の合成>
ソルビタン脂肪酸エステルで変性したアルキド樹脂を以下の方法により得た。
【0024】
(樹脂Aの合成)
攪拌機、水分離器付冷却器、温度計及び窒素ガス導入管を備えた1Lの4つ口フラスコに、ヒマシ油117g、オレイン酸42g、アジピン酸84g、トリメチロールプロパン(TMP) 123g、トリステアリン酸ソルビタン157g、およびキシレン15gを仕込み昇温し、230℃でキシレン還流下5時間の反応を行った。次に、キシレンを減圧回収し、ソルビタン脂肪酸エステル変性アルキド樹脂500gを得た。この樹脂の組成比を表1に示した。
【0025】
【表1】

【0026】
(樹脂Bの合成)
攪拌機、水分離器付冷却器、温度計及び窒素ガス導入管を備えた1Lの4つ口フラスコに、ヒマシ油139g、オレイン酸49g、コハク酸87g、グリセリン95g、トリステアリン酸ソルビタン159g、およびキシレン15gを仕込み昇温し、230℃でキシレン還流下5時間反応を行った。次に、キシレンを減圧回収しソルビタン脂肪酸エステル変性アルキド樹脂500gを得た。この樹脂の組成比を表2に示した。
【0027】
【表2】

【0028】
(樹脂Cの合成)
攪拌機、水分離器付冷却器、温度計及び窒素ガス導入管を備えた1Lの4つ口フラスコに、ヒマシ油14g、アジピン酸24g、グリセリン62g、トリステアリン酸ソルビタン405g、およびキシレン15gを仕込み昇温し、230℃でキシレン還流下5時間反応を行った。次に、キシレンを減圧回収しソルビタン脂肪酸エステル変性アルキド樹脂500gを得た。この樹脂の組成比を表3に示した。
【0029】
【表3】

【0030】
(樹脂Dの合成)
攪拌機、水分離器付冷却器、温度計及び窒素ガス導入管を備えた1Lの4つ口フラスコに、ヒマシ油296g、オレイン酸48g、アジピン酸95g、グリセリン87g、およびキシレン15gを仕込み昇温し、230℃でキシレン還流下5時間反応を行った。次にキシレンを減圧回収しソルビタン脂肪酸エステルで変性されていないアルキド樹脂500gを得た。この樹脂の組成比を表4に示した。
【0031】
【表4】

【0032】
(樹脂E、F、Gの合成)
攪拌機、水分離器付冷却器、温度計及び窒素ガス導入管を備えた1Lの4つ口フラスコに、樹脂A、B、C及びDの合成法と同様に反応を行い、樹脂E、F及びGのソルビタン脂肪酸エステル変性アルキド樹脂500gを得た。これら樹脂の組成比を表5に示した。
【0033】
【表5】

【0034】
本発明の肥料用被覆組成物を使用するに当り、使用原料は下記の通りとした。
変性及び未変性アルキド樹脂:表1〜5に示した変性及び未変性アルキド樹脂に対し、触媒として脂肪族モノカルボン酸カリウム溶液(濃度70%)を1%混合し、100℃に加熱して被覆用原料とした。
ポリイソシアネート成分:ポリメリックジフェニルメタンジイソシアネート(住化バイエルウレタン製、商品名スミジュール44V10)
【0035】
[被覆粒状肥料の製造方法]
粒状尿素(平均粒径3 mm)1kgを、熱風発生機を付設した遠心転動造粒コーティング装置(回転円板径230mm)に仕込んだ。装置の回転円板を200rpmで回転させ、粒状肥料を転動状態にし、下部より熱風を送り70℃に保持した。
加温され且つ転動状態にある粒状尿素に、変性アルキド樹脂あるいは未変性アルキド樹脂4.0gとポリイソシアネート成分2.0gとを、2ヶ所から別々に2流体ノズルにより噴霧し、2分間転動させ硬化させた。尚、この場合における変性アルキド樹脂あるいは未変性アルキド樹脂とポリイソシアネート成分との反応割合は、イソシアネート基とヒドロキシル基のモル比(NCO/OH)として1.0である。
この噴霧と硬化の工程を19回繰り返し、被覆粒状肥料を製造した。この場合の被覆率は約10%である。尚、被覆組成物の被覆率は、下式により求めた。
被覆率(%)=(被膜質量/被覆粒状肥料の質量)×100
被覆試験により得られた肥料用被覆組成物の性能評価として、被覆組成物の生分解性評価と肥料の溶出率の測定を行なった。測定方法は以下の通りである。
【0036】
[肥料用被覆組成物の生分解度測定]
被覆組成物の生分解度の測定は、「JIS K 6950 プラスチック−水系培養液中の好気的究極生分解度の求め方−閉鎖呼吸計を用いる酸素消費量の測定による方法」に準じ行なった。
装置:閉鎖系酸素消費量測定装置/クーロメータ(大倉電気(株)製,OM-3001A型)
植種源の調製:兵庫県加古川市所在のAスーパーマーケットの排水処理施設より活性汚泥を採取し、これを培養して使用した。
試料調製:30mlポリプロピレン製ビーカーに、変性アルキド樹脂あるいは未変性アルキド樹脂4.0gとポリイソシアネート成分2.0gとを入れ、室温で1分間掻き混ぜた。次いで、テフロン(登録商標)シート上にこれを塗布し、70℃で10分間加熱、硬化させフィルムを作成した。
このフィルムを粉砕し、試験試料とした。
試験方法:培養瓶に標準試験培養液(pH7.0)を300mL入れ、これに微生物添加濃度200mg-drySS/L、試料添加濃度100mg/Lとなるように試験試料を添加した。この培養瓶を閉鎖系酸素消費量測定装置にセットし、25℃、暗所、撹拌条件下で28日間培養した。
培養後、生物学的酸素要求量を測定し、次式より生分解度を求めた。
生分解度(%)=(試料の生物学的酸素要求量)/(試料の理論的酸素要求量)×100
【0037】
[被覆粒状肥料の肥料溶出率測定]
被覆粒状肥料12.5gを250mlの水に加え、容器を密閉して25℃の恒温槽に入れた。これを所定期間経過後に取り出し、肥料と溶液を分別し(注1)、溶液中に溶出した窒素成分を定量し、次式により溶出率を計算した。
溶出率(%)=(溶液中の窒素量/被覆粒状肥料中の窒素量)×100(注2)
(注1) 窒素成分測定毎に、毎回分別した肥料に新たに250mlの水を加えた。
(注2) 各所定期間経過後の溶出率は累積値で示した。
【0038】
[実施例1〜3]
表1、表2及び表3に示した樹脂であるトリステアリン酸ソルビタンで変性したアルキド樹脂を使用し、肥料用被覆組成物の生分解度を測定すると共に、被覆粒状肥料を製造した。この組成物の生分解度と被覆粒状肥料の溶出率を表6に示した。
【0039】
[実施例4〜6]
表5に示した各種変性アルキド樹脂を使用し、肥料用被覆組成物の生分解度を測定すると共に、被覆粒状肥料を製造した。この組成物の生分解度と被覆粒状肥料の溶出率を表6に示した。
【0040】
[比較例1]
表4に示した樹脂Dを使用し、ソルビタン脂肪酸エステルで変性していないアルキド樹脂を使用した肥料用被覆組成物の生分解度を測定すると共に、被覆粒状肥料を製造した。この組成物の生分解度と被覆粒状肥料の溶出率を表6に示した。
【0041】
【表6】

【0042】
表6の結果から明らかなように、ソルビタン脂肪酸エステルを変性剤に使用したアルキド樹脂を肥料用被覆材に適用したものは、生分解度が大きく、また、溶出速度は、精度良く調整されていることが判る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ソルビタン脂肪酸エステルで変性したアルキド樹脂と、ポリイソシアネートとを反応してなる肥料用被覆組成物。
【請求項2】
アルキド樹脂がヒマシ油で変性したアルキド樹脂である請求項1記載の肥料用被覆組成物。
【請求項3】
アルキド樹脂中のソルビタン脂肪酸エステル含有量が、アルキド樹脂との合量に対して5〜70質量%である請求項1または2記載の肥料用被覆組成物。
【請求項4】
ポリイソシアネートがポリメチレンポリフェニルポリイソシアネートである請求項1、2または3記載の肥料用被覆組成物。
【請求項5】
ソルビタン脂肪酸エステルで変性したアルキド樹脂とポリイソシアネートとの反応割合が、イソシアネート基とヒドロキシル基のモル比(NCO/OH)として0.5〜2.0の範囲である請求項1〜4のいずれか1項記載の肥料用被覆組成物。

【公開番号】特開2008−222536(P2008−222536A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−67693(P2007−67693)
【出願日】平成19年3月16日(2007.3.16)
【出願人】(000203656)多木化学株式会社 (58)
【出願人】(000233860)ハリマ化成株式会社 (167)
【Fターム(参考)】