説明

肥満の予防・治療剤

【課題】糖・脂質代謝の改善剤、糖・脂質代謝の改善に有効な物質のスクリーニング方法、該スクリーニング方法に有用なトランスジェニック非ヒト動物、および該トランスジェニック非ヒト動物に由来する脂肪組織または脂肪細胞の提供。
【解決手段】ACAM(Adipocyte adhesion molecule)とも呼ばれ、白色脂肪細胞に発現する公知の膜タンパクであるOL16、又はOL16の発現を促進する物質を有効成分として含有する糖・脂質代謝能の改善剤(特に、肥満状態の改善薬)、OL16又はOL16遺伝子の発現量を指標とする糖・脂質代謝能の検定方法、OL16遺伝子が脂肪細胞特異的に導入されたトランスジェニック非ヒト動物(特に、抗肥満または抗糖尿病のモデル動物)および該トランスジェニック非ヒト動物に由来する脂肪組織または脂肪細胞。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糖・脂質代謝の改善剤、糖・脂質代謝の改善に有効な物質のスクリーニング方法、前記スクリーニング方法に有用なトランスジェニック非ヒト動物などを提供する。
【背景技術】
【0002】
肥満とは、脂肪組織、特に皮下脂肪組織に中性脂肪が異常に蓄積した結果、体重が標準体重以上に増大した状態である。特に、腸間膜等内臓周囲に蓄積する内臓脂肪組織は、糖・脂質の代謝異常を引き起こす原因とされており、動脈硬化、糖尿病、更には心筋梗塞や脳梗塞などの疾患(これらの疾患を総称して、生活習慣病又はメタボリックシンドロームといわれる)へと進展する場合もある。このことから、脂肪細胞と糖・脂質代謝の関係について多くの研究がなされている。
一方OL16は、ICAM等の細胞接着分子と相同性を有する蛋白質であり、そのアミノ酸配列、及びOL16をコードする遺伝子配列は公知である(Genbankアクセッション番号:。NM_133733;非特許文献1を参照)。OL16は、ACAM(Adipocyte adhesion molecule)とも呼ばれ、白色脂肪細胞に発現する膜タンパクであり、細胞外ドメインには免疫グロブリンドメインを有していることが知られている。しかしながら、OL16の生体内での機能は不明であり、糖・脂質代謝能との関係についても全く知られていなかった。
【非特許文献1】Eguchi et al Biochemical Journal Vol.387 343-353 2005
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明が解決しようとする課題は、新たな作用機序を有する糖・脂質代謝異常を伴う疾患に対する治療剤又は予防剤、当該治療剤又は予防剤の探索方法等を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、肥満モデル動物において発現する遺伝子を解析した結果、OL16の発現が顕著に上昇していることを見出した。そこで、本発明者らは、OL16の肥満状態における役割を解明すべく、脂肪細胞特異的にOL16を発現するトランスジェニック動物を作製し、その表現型を解析した。その結果、作製したOL16を導入されたトランスジェニック動物は、高脂肪食飼育下においても対照動物に比し体重増加が抑制されること、耐糖能に優れること、及びエネルギー消費が亢進されていることなどがわかった。すなわち、本発明者らは、脂肪細胞において、OL16が、個体の糖・脂質代謝能を改善し得る因子として作用することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0005】
即ち本発明は、
〔1〕 OL16、又はOL16の発現を促進する物質を有効成分として含有する、糖・脂質代謝能の改善剤;
〔2〕 OL16の発現を促進する物質が、OL16をコードする遺伝子である、〔1〕に記載の糖・脂質代謝能の改善剤;
〔3〕 OL16の発現を促進する物質が、OL16をコードする遺伝子を含む発現ベクターである、〔1〕に記載の糖・脂質代謝能の改善剤;
〔4〕 耐糖能異常に起因する疾患又は肥満に起因する疾患の予防および治療薬として用いられる、〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の糖・脂質代謝能の改善剤;
〔5〕 肥満状態の改善薬として用いられる、〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の糖・脂質代謝能の改善剤;
〔6〕 被験物質が、OL16又はOL16コードする遺伝子の発現を促進するか否かを指標とする、被験物質の糖・脂質代謝能の検定方法;
〔7〕 下記の工程(1)〜(3)を含むことを特徴とする、〔6〕に記載の検定方法:
(1) 被験物質と、OL16をコードする遺伝子を発現可能な細胞とを接触させる第一工程、
(2) 被験物質を接触させた細胞における、前記遺伝子の発現量を測定し、該発現量を被験物質に接触させない対照細胞における前記遺伝子の発現量と比較する第二工程、及び
(3) 前記第二工程の比較結果に基づいて、被験物質が前記遺伝子の発現量を増加させるか否かを指標として被験物質の糖・脂質代謝能を評価する第三工程;
〔8〕 下記の工程(1)〜(3)を含むことを特徴とする、〔6〕に記載の検定方法:
(1)被験物質と、OL16を発現可能な細胞とを接触させる第一工程、
(2)被験物質を接触させた細胞における、前記蛋白質の発現量を測定し、該発現量を被験物質に接触させない対照細胞における前記蛋白質の発現量と比較する第二工程、及び
(3)前記第二工程の比較結果に基づいて、被験物質が前記蛋白質の発現量を増加させるか否かを指標として被験物質の糖・脂質代謝能を評価する第三工程;
〔9〕 下記の工程(1)〜(3)を含むことを特徴とする、〔6〕に記載の検定方法:
(1) 被験物質とOL16をコードする遺伝子の発現制御領域を機能可能な形で連結されてなるレポーター遺伝子を含有する細胞とを接触させる第一工程、
(2) 被験物質を接触させた細胞における、前記レポーター遺伝子の発現量を測定し、該発現量を被験物質に接触させない対照細胞における前記遺伝子の発現量と比較する第二工程、及び
(3) 前記第二工程の比較結果に基づいて、前記レポーター遺伝子の発現量を増加させるか否かを指標として被験物質の糖・脂質代謝能を評価する第三工程;
〔10〕 下記の工程(1)〜(3)を含むことを特徴とする、〔6〕に記載の検定方法:
(1)被験物質を、糖・脂質代謝異常の動物に投与する工程、
(2)被験物質を投与した動物におけるOL16又はOL16遺伝子の発現量を測定し、被験物質を投与しない対照動物における当該発現量と比較する工程、
(3)前記第二工程の比較結果に基づいて、OL16又はOL16遺伝子の発現量が対照動物における当該発現量よりも大きいことを指標として被験物質の糖・脂質代謝能を評価する第三工程;
〔11〕 糖・脂質代謝異常の動物が、高脂肪食負荷動物である、〔10〕に記載の検定方法;
〔12〕 糖・脂質代謝異常の動物が、マウス又はラットである、〔10〕又は〔11〕に記載の検定方法;
〔13〕 〔6〕〜〔12〕のいずれかに記載の検定方法により測定された被験物質の糖・脂質代謝能を指標として、糖・脂質代謝能の改善剤の候補物質を選別することを特徴とする、糖・脂質代謝能の改善剤の探索方法;
〔14〕 〔13〕に記載の探索方法により選抜された物質またはその薬学的に許容される塩を有効成分して含有する、糖・脂質代謝能の改善剤;
〔15〕 耐糖能異常に起因する疾患又は肥満に起因する疾患の予防および治療薬として用いられる、〔14〕に記載の糖・脂質代謝能の改善剤;
〔16〕 肥満状態の改善薬として用いられる、〔14〕に記載の糖・脂質代謝能の改善剤;
〔17〕 OL16が脂肪組織特異的に発現していることを特徴とする、OL16遺伝子が導入されたトランスジェニック非ヒト動物;
〔18〕 抗肥満または抗糖尿病のモデル動物である〔17〕に記載のトランスジェニック非ヒト動物;
〔19〕 〔17〕に記載のトランスジェニック非ヒト動物に由来する脂肪組織または脂肪細胞;
に関する。
【発明の効果】
【0006】
本発明により、糖・脂質代謝能の改善剤、より詳細には、耐糖能異常に起因する疾患や肥満に起因する疾患(例、高脂血症、高血圧症などの生活習慣病)の治療剤又は予防剤、肥満状態の改善剤、糖・脂質代謝能の検定方法、及び当該検定方法を用いる医薬の探索方法等を提供することが可能になった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下に本発明を詳細に説明する。
(I)糖・脂質代謝能の改善剤
本発明の第一の態様は、OL16、又はOL16をコードする遺伝子を有効成分として含有する糖・脂質代謝能の改善剤に関する。
本明細書において、OL16は、ACAM(Adipocyte adhesion molecule)とも呼ばれる公知の蛋白質であり、ヒトOL16(配列番号2)及びその遺伝子配列(配列番号1)は、Genbankアクセッション番号:NM_024769として知られている。本明細書においてOL16とはヒトOL16のみならず、他の動物種由来のホモログ等のオルソログ、それらの変異体(SNP、ハプロタイプを含む)等を含む概念である。OL16のオルソログは特に限定されず、例えば哺乳動物(例、ウシ、ヒツジ、ヤギ、サル、ウサギ、ラット、ハムスター、モルモット、マウス)等の動物に由来するものであり得る。
すなわち、OL16としては、以下のアミノ酸配列群が挙げられる(以下、本蛋白質と称する場合がある)。
【0008】
<アミノ酸配列群>
(a)配列番号2で示されるアミノ酸配列、
(b)配列番号2で示されるアミノ酸配列において、1もしくは複数のアミノ酸が欠失、付加、挿入もしくは置換されたアミノ酸配列、
(e)配列番号2で示されるアミノ酸配列と80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列、
(f)配列番号1で示される塩基配列における第360番目のヌクレオチドから第1478番目までのヌクレオチドで示される塩基配列を有するDNAによりコードされるアミノ酸配列、
(g)配列番号1で示される塩基配列における第360番目のヌクレオチドから第1478番目までのヌクレオチドで示される塩基配列を有するDNAと80%以上の配列同一性を有する塩基配列を有するDNAによりコードされ、かつ糖・脂質代謝改善能を有するアミノ酸配列、
(h)配列番号1で示される塩基配列における第360番目のヌクレオチドから第1478番目までのヌクレオチドで示される塩基配列を有するDNAに対し相補性を有するDNAと、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAによりコードされ、かつ糖・脂質代謝改善能を有するアミノ酸配列。
【0009】
前記(b)における「アミノ酸の欠失、付加、挿入もしくは置換」や前記(e)及び(g)にある「80%以上の配列同一性」には、例えば、配列番号2で示されるアミノ酸配列を有する蛋白質が細胞内で受けるプロセシング、該蛋白質が由来する生物の種差、個体差、組織間の差異等により天然に生じる変異や、人為的なアミノ酸の変異等が含まれる。
前記(b)における「アミノ酸の欠失、付加もしくは置換」(以下、総じてアミノ酸の改変と記すこともある。)を人為的に行う場合の手法としては、例えば、配列番号2で示されるアミノ酸配列をコードするDNAに対して慣用の部位特異的変異導入を施し、その後このDNAを常法により発現させる手法が挙げられる。ここで部位特異的変異導入法としては、例えば、アンバー変異を利用する方法(ギャップド・デュプレックス法、Nucleic Acids Res., 12,9441-9456(1984))、変異導入用プライマーを用いたPCRによる方法等が挙げられる。
前記で改変されるアミノ酸の数については、少なくとも1残基、具体的には1若しくは数個、1ないし10個、又はそれ以上である。かかる改変の数は、当該蛋白質の糖・脂質代謝改善能を見出すことのできる範囲であれば良い。
また前記欠失、付加又は置換のうち、特にアミノ酸の置換に係る改変が好ましい。当該置換は、疎水性、電荷、pK、立体構造上における特徴等の類似した性質を有するアミノ酸への置換がより好ましい。このような置換としては、例えば、i)グリシン、アラニン;ii)バリン、イソロイシン、ロイシン;iii)アスパラギン酸、グルタミン酸、アスパラギン、グルタミン、iv)セリン、スレオニン;v)リジン、アルギニン;vi)フェニルアラニン、チロシンのグループ内での置換が挙げられる。
【0010】
本発明において「配列同一性」とは、2つのDNA又は2つの蛋白質間の配列の同一性及び相同性をいう。前記「配列同一性」は、比較対象の配列の領域にわたって、最適な状態にアラインメントされた2つの配列を比較することにより決定される。ここで、比較対象のDNA又は蛋白質は、2つの配列の最適なアラインメントにおいて、付加又は欠失(例えばギャップ等)を有していてもよい。このような配列同一性に関しては、例えば、Vector NTIを用いて、ClustalWアルゴリズム(Nucleic Acid Res.,22(22):4673-4680(1994)を利用してアラインメントを作成することにより算出することができる。尚、配列同一性は、配列解析ソフト、具体的にはVector NTI、GENETYX-MACや公共のデータベースで提供される解析ツールを用いて測定される。前記公共データベースは、例えば、ホームページアドレスhttp://www.ddbj.nig.ac.jpにおいて、一般的に利用可能である。
本発明における配列同一性は、80%以上であればよいが、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上である。
【0011】
前記(h)における「ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする」に関して、ここで使用されるハイブリダイゼーションは、例えば、Sambrook J., Frisch E. F., Maniatis T.著、モレキュラークローニング第2版(Molecular Cloning 2nd edition)、コールド スプリング ハーバー ラボラトリー発行(Cold Spring Harbor Laboratory press)等に記載される通常の方法に準じて行うことができる。また「ストリンジェントな条件下」とは、例えば、6×SSC(1.5M NaCl、0.15M クエン酸三ナトリウムを含む溶液を10×SSCとする)、50%フォルムアミドを含む溶液中で45℃にてハイブリッドを形成させた後、2×SSCで50℃にて洗浄するような条件(Molecular Biology, John Wiley & Sons, N. Y. (1989), 6.3.1-6.3.6)等を挙げることができる。洗浄ステップにおける塩濃度は、例えば、2×SSCで50℃の条件(低ストリンジェンシーな条件)から0.2×SSCで50℃までの条件(高ストリンジェンシーな条件)から選択することができる。洗浄ステップにおける温度は、例えば、室温(低ストリンジェンシーな条件)から65℃(高ストリンジェンシーな条件)から選択することができる。また、塩濃度と温度の両方を変えることもできる。
【0012】
上述の本蛋白質の具体例として、配列番号2で示されるアミノ酸配列からなるヒト型蛋白質の他、ラット型ホモログ(Genbank アクセッション番号:NM_173154)や、マウス型ホモログ(Genbank アクセッション番号:NM_133733)を挙げることができる。
【0013】
本明細書において、OL16(本蛋白質)をコードする遺伝子としては、以下の塩基配列群が挙げられる(以下、本遺伝子と称する場合がある)。
<塩基配列群>
(i)配列番号2で示されるアミノ酸配列をコードする塩基配列、
(j)配列番号2で示されるアミノ酸配列において、1もしくは複数のアミノ酸が欠失、付加もしくは置換されたアミノ酸配列をコードする塩基配列、
(m)配列番号2で示されるアミノ酸配列と80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列をコードし、かつ当該アミノ酸配列からなる蛋白質が糖・脂質代謝改善能を有する塩基配列、
(n)配列番号1で示される塩基配列、又は
(q)配列番号1で示される塩基配列における第360番目のヌクレオチドから第1478番目までのヌクレオチドで示される塩基配列を有するDNAに対し相補性を有するDNAと、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ当該塩基配列がコードする蛋白質が糖・脂質代謝改善能を有するDNAの塩基配列、
等の塩基配列を有する遺伝子。
【0014】
本遺伝子又は本蛋白質の調製方法について、以下に説明する。
上記のOL16をコードする遺伝子(本遺伝子)を、通常の遺伝子工学的方法(例えば、Sambrook J., Frisch E. F., Maniatis T.著、モレキュラークローニング第2版(Molecular Cloning 2nd edition)、コールド スプリング ハーバー ラボラトリー発行(Cold Spring Harbor Laboratory press)等に記載されている方法)に準じて取得する。次いで、得られた本遺伝子を用いることにより、通常の遺伝子工学的方法に準じて本蛋白質を製造・取得する。このようにして本蛋白質を調製することができる。
【0015】
例えば、本遺伝子が宿主細胞中で発現できるようなプラスミドを作製し、これを宿主細胞に導入して形質転換し、さらに形質転換された宿主細胞(形質転換体)を培養することで得られる培養物から本蛋白質を取得すればよい。上記プラスミドとしては、例えば、宿主細胞中で複製可能な遺伝情報を含み、自立的に増殖できるものであって、宿主細胞からの単離・精製が容易であり、宿主細胞中で機能可能なプロモーターを有し、検出可能なマーカーをもつ発現ベクターに、本蛋白質をコードする遺伝子が導入されたものを好ましく挙げることができる。尚、発現ベクターとしては、各種のものが市販されている。例えば、大腸菌での発現に使用される発現ベクターは、lac、trp、tacなどのプロモーターを含む発現ベクターであって、これらはファルマシア社、タカラバイオ等から市販されている。当該発現ベクターに本蛋白質をコードする遺伝子を導入するために用いられる制限酵素もタカラバイオ等から市販されている。さらなる高発現を導くことが必要な場合には、本蛋白質をコードする遺伝子の上流にリボゾーム結合領域を連結してもよい。用いられるリボゾーム結合領域としては、Guarente L.ら(Cell 20, p543)や谷口ら(Genetics of Industrial Microorganisms, p202, 講談社)による報告に記載されたものを挙げることができる。
【0016】
哺乳動物細胞での発現に使用されるベクターは、SV40ウイルスプロモーター、サイトメガロウィルスプロモーター(CMVプロモーター)、Raus Sarcoma Virusプロモーター(RSVプロモーター)、βアクチン遺伝子プロモーター、aP2遺伝子プロモーター等のプロモーターを含む発現ベクターであって、これらは、東洋紡社、タカラバイオ社等から市販されている。
宿主細胞としては、原核生物もしくは真核生物である微生物細胞、昆虫細胞又は哺乳動物細胞等を挙げることができる。例えば、本蛋白質の大量調製が容易になるという観点では、大腸菌等を好ましく挙げることができる。
【0017】
前記のようにして得られたプラスミドは、通常の遺伝子工学的方法により前記宿主細胞に導入することができる。
形質転換体の培養は、微生物培養、昆虫細胞もしくは哺乳動物細胞の培養に使用される通常の方法によって行うことができる。例えば大腸菌の場合、適当な炭素源、窒素源およびビタミン等の微量栄養物を適宜含む培地中で培養を行う。培養方法としては、固体培養、液体培養のいずれの方法でもよく、好ましくは、通気撹拌培養法等の液体培養を挙げることができる。
【0018】
本蛋白質の取得は、一般の蛋白質の単離・精製に通常使用される方法を組み合わせて実施すればよい。例えば、前記の培養により得られた形質転換体を遠心分離等で集め、該形質転換体を破砕または溶解せしめ、必要であれば蛋白質の可溶化を行い、イオン交換、疎水、ゲルろ過等の各種クロマトグラフィーを用いた工程を単独で、若しくは組み合わせることにより精製すればよい。精製された蛋白質の高次構造を復元する操作をさらに行ってもよい。また、例えば、前記の培養により得られた形質転換体を遠心分離などで除去し、培養上清から本蛋白質を前記と同様にして精製してもよい。
【0019】
本明細書において、「糖・脂質代謝改善能」とは、耐糖能亢進活性やインスリン応答性促進活性、すなわち耐糖能改善活性を有することを特徴とするものである。具体的には、哺乳類動物においてインビボで血糖値を低下させる活性、脂肪組織重量や体重を低下させる活性、及び/又はエネルギー消費(脂質の代謝)を亢進する活性等を表す。
すなわち、OL16の糖・脂質代謝改善能は、高脂肪負荷動物(マウスもしくはラットなど)に投与した場合の、当該動物における血糖値の減少によって確認することができる。具体的には、OGTT(糖負荷試験:マウスに一定量の糖を負荷した後の血糖値やインスリン値の変動を測定する試験)を実施することによって、糖代謝改善能を確認することもできる。すなわち、OGTTにおいて糖負荷後の血糖値の低下が亢進されていれば、糖代謝が改善していると言える。OGTTの実施方法については、生化学実験書(第一出版社)などを参照すればよい。
【0020】
本明細書において、「耐糖能異常に起因する疾患」としては、生体における糖代謝機能の異常を伴う疾患が挙げられ、具体的には、2型糖尿病、糖尿病性網膜症、糖尿病性腎症、糖尿病性神経障害、または糖尿病、耐糖能異常もしくは高血糖の持続に伴う動脈硬化症等の疾患が挙げられる。すなわち、耐糖能異常に起因する疾患は、インスリンの機能低下もしくは機能不全等の血糖調節の不全によって生ずる病態を有する疾患であれば特に限定は無い。
本発明の糖代謝関連疾患の治療剤又は予防剤を適用可能な疾患として、好ましくは、糖尿病などの血糖の恒常性が破綻した病態をあげることができる。本発明の糖代謝関連疾患の治療剤又は予防剤は、耐糖能亢進活性やインスリン応答性促進活性、すなわち耐糖能改善活性を有することを特徴とするものである
本明細書において、「肥満に起因する疾患」としては、内臓脂肪の蓄積等の肥満状態によって症状が悪化する病態を表し、具体的には、高脂血症もしくは高血圧、高トリグリセライド血症・高コレステロール血症などの生活習慣病が挙げられる。
本明細書において、「肥満状態の改善」とは、体重が減少すること、好ましくは生体に蓄積する脂肪量、更に好ましくは内臓脂肪量が減少することを表す。
【0021】
本発明の、糖・脂質代謝能の改善剤は、耐糖能異常に起因する疾患もしくは肥満に起因する疾患の治療剤又は予防剤等の医薬のみならず、インビボまたはインビトロの生物活性測定において、糖・脂質代謝能を亢進するための研究用試薬としても有用である。
【0022】
本明細書において、「OL16の発現を促進する物質」として特に限定はないが、例えば、OL16をコードする遺伝子が挙げられる。当該遺伝子の調製方法は上述のとおりである。
【0023】
OL16をコードする遺伝子は、通常発現ベクター(以下OL16発現ベクターという)として生体に投与することもできる。OL16発現ベクターは、上記OL16をコードするポリヌクレオチドが、投与対象である哺乳動物の細胞内でプロモーター活性を発揮し得るプロモーターに機能的に連結されていなければならない。使用されるプロモーターは、投与対象である哺乳動物で機能し得るものであれば特に制限はないが、例えば、SV40由来初期プロモーター、サイトメガロウイルスLTR、ラウス肉腫ウイルスLTR、MoMuLV由来LTR、アデノウイルス由来初期プロモーター等のウイルスプロモーター、並びにβ−アクチン遺伝子プロモーター、PGK遺伝子プロモーター、トランスフェリン遺伝子プロモーター等の哺乳動物の構成タンパク質遺伝子プロモーターなどが挙げられる。また脂肪細胞等の生体内のOL16発現細胞に特異的なプロモーターを用いてもよい。このようなプロモーターは、OL16発現細胞に特異的に発現している任意の遺伝子のプロモーターであり得るが、例えば、脂肪細胞特異的プロモーターとしては、aP2(fatty acid binding protein)プロモーター、アディポネクチン(adiponectin)プロモーター、又はアディプシン(adipsin)プロモーターなどが使用できる。
前記OL16発現ベクターは、好ましくは核酸分子をコードするオリゴ(ポリ)ヌクレオチドの下流に転写終結シグナル、すなわちターミネーター領域を含有する。さらに、形質転換細胞選択のための選択マーカー遺伝子(テトラサイクリン、アンピシリン、カナマイシン、ハイグロマイシン、ホスフィノスリシン等の薬剤に対する抵抗性を付与する遺伝子、栄養要求性変異を相補する遺伝子等)をさらに含有することもできる。
発現ベクターとして使用される基本骨格のベクターは特に制限されないが、ヒト等の哺乳動物への投与に好適なベクターとしては、アデノウイルス、レトロウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルス、ワクシニアウイルス、ポックスウイルス、ポリオウイルス、シンドビスウイルス、センダイウイルス等のウイルスベクターが挙げられる。
【0024】
(II)検定方法
本発明の第二の態様は、被験物質が本蛋白質又は本蛋白質をコードする遺伝子(本遺伝子)の発現を促進するか否かを指標とする、被験物質の糖・脂質代謝改善能の検定方法に関する。
(II-1)本蛋白質をコードする遺伝子の発現量を指標とする方法
すなわち、下記の工程(1)〜(3):
(1) 被験物質と、本蛋白質をコードする遺伝子を発現可能な細胞とを接触させる第一工程、
(2) 被験物質を接触させた細胞における、前記遺伝子の発現量を測定し、該発現量を被験物質を接触させない対照細胞における前記遺伝子の発現量と比較する第二工程、及び
(3) 前記第二工程の比較結果に基づいて、被験物質が前記遺伝子の発現量を増加させるか否かを指標として被験物質の糖・脂質代謝改善能を評価する第三工程、
を有する。
前記第一工程において用いられる「本蛋白質をコードする遺伝子(以下、本遺伝子と称する場合がある)」としては、本遺伝子を発現している細胞であれば特に限定は無く、使用する細胞の内在性の本遺伝子、外来遺伝子として細胞に導入された本遺伝子のいずれでも良いが、使用する細胞の内在性の本遺伝子が好ましい。外来遺伝子として導入する場合、本遺伝子は用いられる細胞の由来動物種の本遺伝子であることが好ましい。
具体的には、脂肪細胞等の脂肪組織由来細胞、本遺伝子発現ベクターを導入されてなる形質転換細胞等が挙げられる。由来動物種としては、ラット、マウス、ハムスター、モルモット等のげっ歯類哺乳動物、ウサギ、イヌ、サル、ヒト等が挙げられる。
前記細胞としては、動物の組織や臓器から分離された細胞や、同一の機能・形態を持つ集団を形成している細胞(組織)等も含まれ、いかなる分化過程にある細胞であってもよい。前記細胞は、OL16を潜在的に発現するものである限り特に限定されない。OL16を恒常的に発現している細胞、OL16を誘導条件下(例えば、薬物での処理)で発現する細胞などであり得る。該細胞は、当業者であれば容易に入手でき、初代培養細胞、当該初代培養細胞から誘導された細胞株、市販の細胞株、セルバンクより入手可能な細胞株などを使用できる。例えば、3T3L1細胞、3T3-F442A細胞、C3H10T1/2細胞等が挙げられる。また後述する糖・脂質代謝異常のモデル動物由来の細胞(例、初代培養細胞)を使用してもよい。
被験物質として用いられる化合物には特に限定は無く、蛋白質、ペプチド、アミノ酸、核酸(例、ヌクレイシド、オリゴヌクレオシド、ポリヌクレオシド)、糖質(例、単糖、二糖、オリゴ糖、多糖)、脂質(例、飽和または不飽和の直鎖、分岐鎖および/または環を含む脂肪酸)、無機化合物、天然由来の有機化合物(微生物、動植物、海洋生物等由来の化合物等)もしくは合成化学的に調製された有機化合物等が挙げられる。被験物質として、具体的には、アミノ酸3〜50残基、好ましくは5〜20残基のペプチドライブラリーや、当業者に公知のコンビナトリアルケミストリーの技術を用いて調製された分子量100〜2000、好ましくは200〜800の低分子有機化合物ライブラリー等を挙げることができる。
【0025】
また、被験物質と細胞とを接触させる条件は、特に制限されないが、該細胞が死なないように、その培養条件(温度、pH、培地組成など)を大きく変化させない条件を採用することが好ましい。
本蛋白質をコードする遺伝子を発現可能な細胞と接触させる被験物質の濃度としては、特に限定は無く、通常約0.1μM〜約100μMであればよく、好ましくは1μM〜50μMであればよい。筋肉細胞もしくは肝細胞と被験物質とを接触させる時間は、通常5分間〜30分間程度あり、好ましくは10分間〜20分間程度である。被験物質は適宜、水、リン酸バッファーもしくはトリスバッファー等のバッファー、エタノール、アセトン、ジメチルスルホキシドもしくはこれらの混合物などの溶媒に溶解又は懸濁して用いることができる。
【0026】
また、被験物質と細胞とを接触させる条件は、特に制限されないが、該細胞が死なないように、その培養条件(温度、pH、培地組成など)を大きく変化させない条件を採用することが好ましい。
本遺伝子の発現レベルの検出及び定量は、前記細胞から調製したRNA又はそれから転写された相補的なポリヌクレオチドを用いて、ノーザンブロット法、RT-PCR法など公知の方法で実施できる。具体的には、本遺伝子の塩基配列において連続する少なくとも15塩基を有するポリヌクレオチド及び/又はその相補的なポリヌクレオチドをプライマーまたはプローブとして用いることによって、RNA中の本遺伝子の発現の有無やその発現レベルを検出、測定することができる。そのようなプローブもしくはプライマーは、本遺伝子の塩基配列をもとに、例えばprimer 3( HYPERLINK http://www.genome.wi.mit.edu/cgi-bin/primer/primer3.cgi http://www.genome.wi.mit.edu/cgi-bin/primer/primer3.cgi)あるいはベクターNTI(Infomax社製)を利用して設計することができる。
【0027】
上記工程(1)では、被験物質の細胞への接触は、自体公知の方法により培地中で行われ得る。被験物質とOL16の発現を測定可能な細胞とが接触される培養培地は、用いられる細胞の種類などに応じて適宜選択されるが、例えば、約5〜20%のウシ胎仔血清を含む最少必須培地(MEM)、ダルベッコ改変最少必須培地(DMEM)、RPMI1640培地、199培地などである。培養条件もまた、用いられる細胞の種類などに応じて適宜決定されるが、例えば、培地のpHは約6〜約8であり、培養温度は通常約30〜約40℃であり、培養時間は約12〜約72時間である。 上記工程(1)では、まず、被験物質を接触させた細胞におけるOL16の発現量が測定される。発現量の測定は、用いた細胞の種類などを考慮し、自体公知の方法により行われ得る。例えば、OL16の発現を測定可能な細胞として、OL16発現細胞を用いた場合、発現量は、例えば、転写産物の発現量は、細胞からtotal RNAを調製し、RT-PCR、ノザンブロッティング等により測定され得る。また、翻訳産物の発現量は、細胞から抽出液を調製し、免疫学的手法により測定され得る。免疫学的手法としては、放射性同位元素免疫測定法(RIA法)、ELISA法(Methods in Enzymol. 70: 419-439 (1980))、蛍光抗体法などが使用できる。一方、OL16の発現を測定可能な細胞として、転写調節領域についてレポーターアッセイを可能とする細胞を用いた場合、発現量は、レポーターのシグナル強度に基づき測定され得る。次いで、被験物質を接触させた細胞におけるOL16の発現量が、被験物質を接触させない対照細胞におけるOL16の発現量と比較される。発現量の比較は、好ましくは、有意差の有無に基づいて行なわれる。被験物質を接触させない対照細胞におけるOL16の発現量は、被験物質を接触させた細胞におけるOL16の発現量の測定に対し、事前に測定した発現量であっても、同時に測定した発現量であってもよいが、実験の精度、再現性の観点から同時に測定した発現量であることが好ましい。
ノーザンブロット法を利用する場合、前記プライマーもしくはプローブを放射性同位元素(32P、33Pなど:RI)や蛍光物質などで標識し、それを、常法に従ってナイロンメンブレン等にトランスファーした細胞由来のRNAとハイブリダイズさせた後、形成された前記プライマーもしくはプローブ(DNAまたはRNA)とRNAとの二重鎖を、前記プライマーもしくはプローブの標識物(RI若しくは蛍光物質)に由来するシグナルとして放射線検出器(BAS-1800II、富士フィルム社製)または蛍光検出器で検出、測定する方法を例示することができる。また、AlkPhos Direct Labelling and Detection System (Amersham PharamciaBiotech社製)を用いて、該プロトコールに従って前記プローブを標識し、細胞由来のRNAとハイブリダイズさせた後、前記プローブの標識物に由来するシグナルをマルチバイオイメージャーSTORM860(Amersham Pharmacia Biotech社製)で検出、測定する方法を使用することもできる。
RT-PCR法を利用する場合は、細胞由来のRNAから常法に従ってcDNAを調製して、これを鋳型として標的の本遺伝子の領域が増幅できるように、本遺伝子の配列に基づき調製した一対のプライマー(上記cDNA(−鎖)に結合する正鎖、+鎖に結合する逆鎖)をこれとハイブリダイズさせて、常法に従ってPCR法を行い、得られた増幅二本鎖DNAを検出する方法を例示することができる。なお、増幅された二本鎖DNAの検出は、上記PCRを予めRIや蛍光物質で標識しておいたプライマーを用いて行うことによって産生される標識二本鎖DNAを検出する方法、産生された二本鎖DNAを常法に従ってナイロンメンブレン等にトランスファーさせて、標識した前記プライマーをプローブとして使用してこれとハイブリダイズさせて検出する方法などを用いることができる。なお、生成された標識二本鎖DNA産物はアジレント2100バイオアナライザ(横河アナリティカルシステムズ社製)などで測定することができる。また、SYBR Green RT-PCR Reagents (Applied Biosystems 社製)で該プロトコールに従ってRT-PCR反応液を調製し、ABI PRIME 7900 Sequence Detection System (Applied Biosystems 社製)で反応させて、該反応物を検出することもできる。
被験物質を添加した細胞における本遺伝子の発現が被験物質を添加しない対照細胞での発現量と比較して1.5倍以上、好ましくは2倍以上、更に好ましくは3倍以上であれば、該被験物質は本遺伝子の発現誘導物質として選択することができる。
【0028】
II-2)本蛋白質の発現量を指標として用いる検定方法
本発明は、下記の工程(1)〜(3)を含むことを特徴とする、糖・脂質代謝能の検定方法を提供する。すなわち:
(1)被験物質と、本蛋白質を発現可能な細胞とを接触させる第一工程、
(2)被験物質を接触させた細胞における、前記蛋白質の発現量を測定し、該発現量を被験物質に接触させない対照細胞における前記蛋白質の発現量と比較する第二工程、及び
(3)前記第二工程の比較結果に基づいて、被験物質が前記蛋白質の発現量を増加させるか否かを指標として被験物質の糖・脂質代謝改善能を評価する第三工程。
【0029】
ここで、被験物質としては前記と同じものが挙げられる。また、「本蛋白質を発現可能な細胞」としては、前記1)における「本蛋白質をコードする遺伝子(本遺伝子)を発現可能な細胞」と同じものが挙げられる。
本蛋白質の発現レベルの検出及び定量は、本蛋白質を認識する抗体を用いたウェスタンブロット法等の公知方法に従って定量できる。ウェスタンブロット法は、一次抗体として本蛋白質を認識する抗体を用いた後、二次抗体として125Iなどの放射性同位元素、蛍光物質、ホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)等の酵素等で標識した一次抗体に結合する抗体を用いて標識し、これら標識物質由来のシグナルを放射線測定器(BAI-1800II:富士フィルム社製など)、蛍光検出器などで測定することによって実施できる。また、一次抗体として本蛋白質を認識する抗体を用いた後、ECL Plus Western Blotting Detection System(アマシャム ファルマシアバイオテク社製)を利用して該プロトコールに従って検出し、マルチバイオメージャーSTORM860(アマシャム ファルマシアバイオテク社製)で測定することもできる。
【0030】
上記の抗体は、その形態に特に制限はなく、前記本蛋白質を免疫抗原とするポリクローナル抗体であっても、またそのモノクローナル抗体であってもよく、さらには本蛋白質を構成するアミノ酸配列のうち少なくとも連続する、通常8アミノ酸、好ましくは15アミノ酸、より好ましくは20アミノ酸からなるポリペプチドに対して抗原結合性を有する抗体も、本発明の抗体に含まれる。
これらの抗体の製造方法は、すでに周知であり、本発明の抗体もこれらの常法に従って製造することができる(Current protocols in Molecular Biology edit. Ausubel et al. (1987) Publish. John Wiley and Sons. Section 11.12〜11.13)。
【0031】
II-3)本遺伝子の発現制御領域を用いたレポーター遺伝子アッセイを用いる検定方法
本発明は、下記の工程(1)〜(3)を含むことを特徴とする、糖・脂質代謝改善能の検定方法を提供する。すなわち:
(1) 被験物質と、本蛋白質をコードする遺伝子の発現制御領域を機能可能な形で連結されてなるレポーター遺伝子を含有する細胞とを接触させる第一工程、
(2) 被験物質を接触させた細胞における、前記レポーター遺伝子の発現量を測定し、該発現量を被験物質に接触させない対照細胞における前記遺伝子の発現量と比較する第二工程、及び
(3) 前記第二工程の比較結果に基づいて、前記レポーター遺伝子の発現量を増加させるか否かを指標として被験物質の糖・脂質代謝改善能を評価する第三工程。
ここで、被験物質は、前記と同じものが挙げられる。
【0032】
「本蛋白質をコードする遺伝子(本遺伝子)の発現制御領域」とは、OL16の発現を制御し得る領域である限り特に限定されないが、通常、当該染色体遺伝子の上流数kbから数十kbの範囲を指す。例えば、転写開始点から上流約2Kbpまでの領域、あるいは該領域の塩基配列において1以上の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなり、且つOL16の転写を制御する能力を有する領域などを挙げることができる。例えば、(i)5’-レース法(5'-RACE法)(例えば、5’full Race Core Kit(タカラバイオ社製)等を用いて実施されうる)、オリゴキャップ法、S1プライマーマッピング等の通常の方法により、5’末端を決定するステップ;(ii)Genome Walker Kit(クローンテック社製)等を用いて5’-上流領域を取得し、得られた上流領域について、プロモーター活性を測定するステップ;、を含む手法等により同定することが出来る。
【0033】
本遺伝子の発現制御領域を機能可能な形で連結されてなるレポーター遺伝子は、当業者に公知の方法で調製すればよい。すなわち、「Molecular Cloning:A Laboratory Manual 2nd edition」(1989),Cold Spring Harbor Laboratory Press、「Current Protocols In Molecular Biology」(1987),John Wiley & Sons,Inc.等に記載される通常の遺伝子工学的手法に従って切り出された本遺伝子の発現調節領域(転写調節領域)を、当該領域に機能可能に連結されたレポーター遺伝子を含むプラスミド上に組み込むことができる。
レポーター遺伝子としては、β−グルクロニダーゼ(GUS)、ルシフェラーゼ(LUC)、クロラムフェニコールトランスアセチラーゼ(CAT)、β-ガラクトシダーゼ及びグリーン蛍光タンパク質(GFP)等が挙げられる。
なお、OL16転写調節領域、当該領域に機能可能に連結されたレポーター遺伝子が導入される細胞は、OL16転写調節機能を評価できる限り、即ち、該レポーター遺伝子の発現量が定量的に解析可能である限り特に限定されない。しかしながら、OL16に対する生理的な転写調節因子を発現し、OL16の発現調節の評価により適切であると考えられることから、該導入される細胞としては、OL16発現細胞が好ましい。
調製した本遺伝子の発現制御領域を機能可能な形で連結されてなるレポーター遺伝子を、通常の遺伝子工学的手法を用いて、当該レポーター遺伝子を導入する細胞において使用可能なベクターに挿入し、プラスミドを作製し、適当な宿主細胞へ導入することができる。レポーター遺伝子に応じた選抜条件の培地で培養することにより、形質転換細胞を得ることができる。
また、レポーター遺伝子の発現量を測定する方法としては、個々のレポーター遺伝子に応じた方法を利用すればよい。例えば、レポーター遺伝子としてルシフェラーゼ遺伝子を用いる場合には、前記形質転換細胞を数日間培養後、当該細胞の抽出物を得、次いで当該抽出物をルシフェリンおよびATPと反応させて化学発光させ、その発光強度を測定することによりプロモーター活性を検出することができる。この際、ピッカジーンデュアルキット(登録商標;東洋インキ製)等の市販のルシフェラーゼ反応検出キットを用いることができる。
【0034】
上記II-1)〜II-3)において、「本蛋白質をコードする遺伝子を発現可能な細胞」、「本蛋白質を発現可能な細胞」又は「本遺伝子の発現制御領域を機能可能な形で連結されてなるレポーター遺伝子を含有する細胞」と、被験物質との接触は、当該細胞が成育可能な条件で培養しながら行えばよく、例えば、哺乳動物細胞を宿主とする本発明形質転換細胞の場合、適宜ウシ胎児血清等の哺乳動物由来の血清を添加したD−MEM、OPTI−MEM、RPMI1640培地(Gibco−BRL製)等の市販の培地中で培養できる。
【0035】
上記II-1)〜II-3)において、「被験物質に接触させない対照細胞」とは、各第一工程で用いられる「本蛋白質をコードする遺伝子を発現可能な細胞」、「本蛋白質を発現可能な細胞」又は「本遺伝子の発現制御領域を機能可能な形で連結されてなるレポーター遺伝子を含有する細胞」において、被験物質を接触させない場合の当該細胞を表す。「被験物質を接触させない場合」には、被験物質の代わりに被験物質と同量の溶媒(ブランク)を添加する場合や、本遺伝子、本蛋白質もしくはレポーター遺伝子の発現に影響を与えないネガティブコントロール物質を添加する場合も含まれる。
【0036】
上記II-1)〜II-3)において、各第一工程及び第二工程で測定した本遺伝子、本蛋白質又はレポーター遺伝子の発現レベルに基づき、本遺伝子もしくは本蛋白質の発現誘導活性を有する被験物質を選択することができる。すなわち、被験物質を添加した細胞における本遺伝子、本蛋白質又はレポーター遺伝子の発現が被験物質を添加しない対照細胞での発現量と比較して1.2倍以上、好ましくは1.5倍以上、更に好ましくは2倍以上であれば、該被験物質は本遺伝子もしくは本蛋白質の発現誘導物質(発現促進物質)として選択することができる。
上記のように選択される本遺伝子もしくは本蛋白質の発現誘導物質もまた糖・脂質代謝改善剤、即ち、耐糖能異常に起因する疾患、肥満に起因する疾患の治療剤もしくは予防剤、又は肥満状態の改善薬の候補物質である。
【0037】
II-4)糖・脂質代謝異常の動物を用いる検定方法
すなわち、下記の工程(1)〜(3):
(1) 被験物質を、糖・脂質代謝異常の動物に投与する工程、
(2) 被験物質を投与した動物におけるOL16又はOL16遺伝子の発現量を測定し、被験物質を投与しない対照動物における当該発現量と比較する工程、及び、
(3) 前記第二工程の比較結果に基づいて、OL16又はOL16遺伝子の発現量が対照動物における当該発現量よりも大きいことを指標として被験物質の糖・脂質代謝改善能を評価する第三工程を有する。
前記第一工程において用いられる動物としては、マウス、ラット、ハムスター、モルモット、ウサギ、イヌ、サル等の哺乳動物が挙げられる。「糖・脂質代謝異常の動物」としては、高脂肪食負荷された動物、耐糖能異常に起因する疾患のモデル動物(例えば、dbdbマウス、KKAyマウス、Wister-fattyラット、Goto-Kakizaki(GK)ラット、Otsuka long-evens fatty(OLETF)ラット、秋田マウス、ストレプトゾトシンなどの薬物投与による膵臓破壊マウスおよびラット等が挙げられる)、肥満のモデル動物(例えば、obobマウス、Ayマウス、Zucker-fattyラット、Otsuka long-evens fatty(OLETF)ラット、グルタミン酸などの薬物投与による過食誘発マウスおよびラット等が挙げられる)等が挙げられる。高脂肪食負荷された動物は、高脂肪食を投与された動物である。高脂肪食とは、マウスに対する通常食に比し、脂肪分を高めたものである。本発明のスクリーニング方法に用いられ得る高脂肪食としては、例えば、大豆オイル、ラード等の脂肪分を加えることにより、単位カロリーに占める粗脂肪の割合を4.8%から30%に高めたものが挙げられる。
被験物質の動物への投与は公知の方法による行われ得る。例えば、投与方法としては、経口投与、非経口投与(例、静脈注射、皮下注射、腹腔内注射、局所注入)が挙げられる。投与量、投与間隔、投与期間等は、用いる被験物質や動物の種類等に応じて適宜設定され得る。被験物質としては前記と同じものが挙げられる。
前記の第二工程において、被験物質を投与した動物におけるOL16又はOL16遺伝子の発現量は、上述のII-1)又はII-2)に記載された方法で測定できる。すなわち、動物から生体試料を採取し、その試料中の転写産物または翻訳産物量を測定することにより行われ得る。動物から採取されるべき生体試料としては、OL16発現組織のなかでも、脂肪組織(例、副睾丸周囲脂肪、腸間膜脂肪など)を含むものが望ましい。
次いで、被験物質を投与した動物におけるOL16の発現量は、被験物質を投与しない対照動物におけるOL16の発現量と比較される。発現量の比較は、好ましくは、有意差の有無にもとづいて行われる。被験物質を投与しない対照動物におけるOL16の発現量は、被験物質を投与したOL16の発現量の測定に対し、事前に測定した発現量であっても、同時に測定した発現量であってもよいが、実験の精度、再現性の観点から同時に測定した発現量であることが好ましい。
【0038】
(III)治療剤又は予防剤
本蛋白質及びそのフラグメント、あるいは本発明探索方法で見出される化合物は、これらを医薬品として用いるにあたり、そのままもしくは公知の薬学的に許容される担体(賦形剤、希釈剤、増量剤、結合剤、滑沢剤、流動助剤、崩壊剤、界面活性剤等などが含まれる)や慣用の添加剤などと混合して医薬組成物として調製することができる。例えば、ショ糖、デンプン、マンニット、ソルビット、乳糖、グルコース、セルロース、タルク、リン酸カルシウムもしくは炭酸カルシウム等の賦形剤、セルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリプロピルピロリドン、ゼラチン、アラビアゴム、ポリエチレングリコール、ショ糖もしくはデンプン等の結合剤、デンプン、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルスターチ、ナトリウム−グリコール−スターチ、炭酸水素ナトリウム、リン酸カルシウムもしくはクエン酸カルシウム等の崩壊剤、ステアリン酸マグネシウム、エアロジル、タルクもしくはラウリル硫酸ナトリウム等の滑剤、クエン酸、メントール、グリシルリシン・アンモニウム塩、グリシンもしくはオレンジ粉等の芳香剤、安息香酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、メチルパラベンもしくはプロピルパラベン等の保存剤、クエン酸、クエン酸ナトリウムもしくは酢酸等の安定剤、メチルセルロース、ポリビニルピロリドンもしくはステアリン酸アルミニウム等の懸濁剤、界面活性剤等の分散剤、水、生理食塩水もしくはオレンジジュース等の希釈剤、カカオ脂、ポリエチレングリコールもしくは白灯油等のベースワックスなどが挙げられるが、それらに限定されるものではない。
【0039】
当該医薬組成物は、調製する形態(錠剤、丸剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤、シロップ剤、乳剤、懸濁液などの経口投与剤;注射剤、点滴剤、外用剤、坐剤などの非経口投与剤)等に応じて、全身的にまたは局所的に、経口投与または非経口投与することができる。
経口投与に好適な製剤は、水、生理食塩水、オレンジジュースのような希釈液に有効量の物質を溶解させた液剤、有効量の物質を固体や顆粒として含んでいるカプセル剤、サッシェ剤または錠剤、適当な分散媒中に有効量の物質を懸濁させた懸濁液剤、有効量の物質を溶解させた溶液を適当な分散媒中に分散させ乳化させた乳剤等である。
非経口投与する場合には、静脈投与、皮内投与、皮下投与、直腸投与、経皮投与すること等が可能である。
前記の適当な投与剤型は許容される通常の担体、賦型剤、結合剤、安定剤、希釈剤等に有効成分(本蛋白質、又は本発明探索方法により選抜される物質またはその薬学的に許容される塩等)を配合することにより製造することができる。また注射剤型で用いる場合には、許容される緩衝剤、溶解補助剤、等張剤等を添加することもできる。例えば医薬上許容され得る担体を含むことができる。
【0040】
また投与量は、有効成分の種類、投与経路、投与対象または患者の年齢、体重、症状などによって異なり一概に規定できないが、通常、経口の場合には成人で1日あたり有効成分量として、数mg〜2g程度、好ましくは5mg〜数十mg程度を、1日1〜数回にわけて投与することができる。注射の場合には成人で有効成分量として約0.1mg〜約500mgを投与すればよく、1日の投与量を1回または数回に分けて投与することができる。
上記有効成分物質として、本遺伝子そのものを挙げることができる。この場合は、本遺伝子を遺伝子治療用ベクターに組込み、遺伝子治療を行うことも考えられる。これらの場合も、遺伝子治療用組成物の投与量、投与方法は患者の体重、年齢、症状などにより変動し、当業者であれば適宜選択することが可能である。
【0041】
上記遺伝子治療につき詳述すれば、該遺伝子治療は、通常のこの種の遺伝子治療と同様にして、例えば本遺伝子またはそれらの化学的修飾体を直接糖代謝関連疾患に罹患した哺乳動物(患者)の体内に投与することにより目的遺伝子の発現を制御する方法、もしくはこれらの遺伝子を患者の標的細胞に導入することにより該細胞による目的遺伝子の発現を制御する方法により実施できる。
ここで前記化学修飾体としては、例えばホスホロチオエート、ホスホロジチオエート、アルキルホスホトリエステル、アルキルホスホナート、アルキルホスホアミデートなどの、細胞内への移行性または細胞内での安定性を高め得る誘導体("Antisense RNA and DNA" WILEY-LISS刊、1992年、pp.1-50、J. Med. Chem. 36:1923-1937, 1993) が含まれる。これらは常法に従い合成することができる。
本遺伝子は、その投与に当たり、通常慣用される安定化剤、緩衝液、溶媒などを用いて製剤化され得る。
本遺伝子を患者の標的細胞に導入する方法において、用いられるポリヌクレオチドは、好ましくは100塩基以上、より好ましくは300塩基以上、さらに好ましくは500塩基以上の長さを有するものとすればよい。また、この方法は、生体内の細胞に遺伝子を導入するin vivo法および一旦体外に取り出した細胞に遺伝子を導入し、該細胞を体内に戻すex vivo法を包含する(日経サイエンス, 1994年4月号, 20-45頁、月刊薬事, 36 (1), 23-48 (1994)、実験医学増刊, 12 (15), 全頁 (1994)など参照)。この内ではin vivo法が好ましく、これには、ウイルス的導入法(組換えウイルスを用いる方法)と非ウイルス的導入法がある(前記各文献参照)。
【0042】
上記組換えウイルスを用いる方法としては、例えばレトロウイルス、アデノウイルス、アデノ関連ウイルス、ヘルペスウイルス、ワクシニアウイルス、ポリオウイルス、シンビスウイルスなどのウイルスゲノムに本遺伝子のポリヌクレオチドを組込んで生体内に導入する方法が挙げられる。この中では、レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ関連ウイルスなどを用いる方法が特に好ましい。非ウイルス的導入法としては、リポソーム法、リポフェクチン法などが挙げられ、特にリポソーム法が好ましい。他の非ウイルス的導入法としては、例えばマイクロインジェクション法、リン酸カルシウム法、エレクトロポレーション法なども挙げられる。
【0043】
遺伝子治療用製剤組成物は、本遺伝子又はこれらを含む組換えウイルスおよびこれらウイルスが導入された感染細胞などを有効成分とするものである。該組成物の患者への投与形態、投与経路などは、治療目的とする疾患、症状などに応じて適宜決定できる。例えば注射剤などの適当な投与形態で、静脈、動脈、皮下、筋肉内などに投与することができ、また患者の疾患対象部位に直接投与、導入することもできる。in vivo法を採用する場合、遺伝子治療用組成物は、本遺伝子を含む注射剤などの投与形態の他に、例えば本遺伝子を含有するウイルスベクターをリポソームまたは膜融合リポソームに包埋した形態(センダイウイルス(HVJ)-リポソームなど)とすることができる。これらのリポソーム製剤形態には、懸濁剤、凍結剤、遠心分離濃縮凍結剤などが含まれる。また、遺伝子治療用組成物は、本遺伝子を含有するベクターを導入されたウイルスで感染された細胞培養液の形態とすることもできる。これら各種形態の製剤中の有効成分の投与量は、治療目的である疾患の程度、患者の年齢、体重などにより適宜調節することができる。通常、患者成人1人当たり約0.0001-100mg、好ましくは約0.001-10mgが数日ないし数カ月に1回投与される量とすればよい。本遺伝子を含むレトロウイルスベクターの場合は、レトロウイルス力価として、1日患者体重1kg当たり約1x103pfu-1x1015pfuとなる量範囲から選ぶことができる。本遺伝子を導入した細胞の場合は、1x104細胞/body-1x1015細胞/body程度を投与すればよい。
【0044】
(IV)トランスジェニック非ヒト動物
本発明は、さらにトランスジェニック非ヒト動物、あるいはそれに由来する組織または細胞を提供する。
本発明のトランスジェニック非ヒト動物は、OL16遺伝子が脂肪細胞特異的に導入され、その脂肪細胞内に発現可能な状態で永続的に存在し得る。本発明の動物の種は、トランスジェニック動物の作製が可能な動物種である限り、特に限定されないが、例えば、マウス、ラット、ハムスター、モルモット、ウサギ、イヌ、サルなどの非ヒト哺乳動物などが挙げられる。好ましくは、マウスもしくはラット等のげっ歯類動物が挙げられる。
本発明のトランスジェニック非ヒト動物は、抗肥満作用を呈するモデル動物として有用である。前記モデル動物は、高脂肪食飼育下では、野生型動物に比し体重および/または脂肪組織重量の有意な減少が認められる。
本発明のトランスジェニック非ヒト動物は糖脂質代謝機能異常を伴う疾患等の病態解析を行うために用いることができる。ここで病態解析とは、糖脂質代謝機能異常を伴う疾患により生ずる生体内のあらゆる現象を解析することを意味する。
すなわち、標準食餌条件もしくは食餌性肥満誘導条件(食餌負荷試験)において飼育された本発明の本トランスジェニック非ヒト動物と野生型非ヒト動物を比較し、胎生期から致死までの期間における、発育分化、発達、生活行動の観察、病理組織学的検査又は生化学的検査を行うことにより実施することができる。これらの病態解析における観察及び検査については、当業者が通常用いる方法に従えばよく、「トランスジェニック動物」山村研一他 編(共立出版株式会社)」等を参照することができる。
例えば、本発明のトランスジェニック非ヒト動物の組織から抽出されるトータルRNAをPCRリアルタイム定量解析又はノザンブロット解析等の方法で分析し、野性型非ヒト動物における値と比較することにより、当該組織において発現が誘導もしくは抑制されている遺伝子を同定することができる。その結果から、糖脂質代謝機能異常を伴う疾患において発現が変動するマーカー遺伝子を探索することができ、延いては疾患の原因因子解明の指標とすることもできる。
本発明の動物は、公知の方法、または本明細書実施例に記載された方法によって作成できる。より詳細には、本発明の動物は、例えば、発生の初期段階において、動物の受精卵またはその他の細胞(例、未受精卵、精子またはそれらの前駆細胞)に、脂肪細胞特異的な発現を可能とするプロモーターに機能可能に連結されたOL16遺伝子(上述のOL16発現ベクター)を導入することにより作出できる。遺伝子の導入方法としては、例えば、エレクトロポレーション法、リポフェクション法、凝集法、リン酸カルシウム共沈殿法、マイクロインジェクション法が挙げられる。本発明の動物はまた、このように作出されたOL16トランスジェニック動物と同種の他の動物(例、上述の糖・脂質代謝異常のモデル動物)との交配により作出される動物でもよい。
本発明の動物に由来する組織または細胞は、本発明の動物から採取可能な任意の組織または細胞である限り特に限定されない。より詳細には、本発明の動物に由来する組織または細胞としては、例えば、脂肪組織または脂肪細胞、骨髄間質細胞、繊維芽細胞、血中単核球が挙げられるが、脂肪組織または脂肪細胞が好ましい。
本発明の動物あるいはそれに由来する組織または細胞は、例えば、本発明のスクリーニング方法、糖・脂質代謝能の改善が所望される疾患または状態のマーカー遺伝子(すなわち病態改善時に発現が変動するマーカーなど)のスクリーニング、または脂肪細胞マーカー遺伝子のスクリーニング、糖・脂質代謝能の改善が所望される疾患または状態の病態メカニズムの解析、肥満などに起因する疾患または状態の病態メカニズムの解析などに有用である。これらは、例えば、マイクロアレイ、プロテインチップ(例、抗体チップ、またはサイファージェン社製チップなどの非抗体チップ)などを用いて本発明の動物における発現プロファイル(特に脂肪細胞の発現プロファイル)を測定し、対照動物の発現プロファイルと比較することを含む、発現プロファイル解析によって行われ得る。
本明細書中で挙げられた特許および特許出願明細書を含む全ての刊行物に記載された内容は、本明細書での引用により、その全てが明示されたと同程度に本明細書に組み込まれるものである。
以下に実施例を挙げ、本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記実施例等に何ら制約されるものではない。
【実施例】
【0045】
実施例1:脂肪細胞特異的OL16トランスジェニックマウス(aP2-OL16 Tgマウス)の作出
脂肪細胞にOL16が過剰に発現するマウスを用いOL16の肥満病態における役割を検討するため、aP2(fatty acid binding protein)のプロモーター5.4Kbp(Ross et al., Proceeding of the national academy of scince of United States of America Vol.87:9590-9594(1990) 参照)によって脂肪細胞にOL16を特異的に発現するaP2-OL16トランスジェニック(aP2-OL16 Tg)マウスを作出した。詳細には、aP2-OL16 cDNA溶液をC57BL/6受精卵に注入後、仮親の子宮に戻し、仔マウスを得た。スクリーニングの結果、3匹のマウスがaP2-OL16DNAを持つことを見出した。さらに、これらのマウスは次代にaP2-OL16を伝達することが明らかになり、3系統のaP2-OL16導入マウスを樹立することが出来た。
次いで、得られたマウスが脂肪細胞特異的にOL16を発現しているか否かを確認した。その結果、脂肪細胞での発現が確認できた。
【0046】
実施例2:高脂肪食を給餌したaP2-OL16Tgマウスの表現型の解析
2−1 高脂肪食飼育下におけるaP2-OL16Tgマウスの体重および組織重量変化
高脂肪食飼育下におけるaP2-OL16Tgマウス(ライン22)は野生型マウスに比べて、著名な体重増加抑制を認めた(図1)。また、高脂肪食飼育下におけるaP2-OL16Tgマウスは、野生型マウスと比べて、著名な副睾丸周囲、腸間膜、後腹膜脂肪の増加抑制効果が認められた(図2)。
【0047】
2−2 高脂肪食飼育下におけるaP2-OL16Tgマウスの糖負荷試験(腹腔内投与2g/Kg)
高脂肪食飼育下におけるaP2-OL16Tgマウス(ライン22 27週齢)では、負荷後血糖値の低下が認められ、糖代謝の改善が認められた(図3)。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明の糖・脂質代謝能改善剤は、耐糖能異常に起因する疾患又は肥満に起因する疾患の治療もしくは予防剤として、あるいは肥満状態の改善剤として有用である。また、本発明検定方法により、新たなメカニズムによる糖・脂質代謝能改善剤を評価できる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】ヒトにおける、OL16の血中濃度と体重の相関を示す図である。図中ACAMはOL16を表す。
【図2】高脂肪食飼育下におけるaP2-OL16Tgマウスの体重変化を示す図である。図中ACAMはOL16を表す。
【図3】高脂肪食飼育下におけるaP2-OL16Tgマウス(週齢27週)の組織重量を示す図である。図中ACAMはOL16を表す。
【図4】高脂肪食飼育下におけるaP2-OL16Tgマウス(週齢27週)における糖負荷試験(腹腔内、2g/Kg)後の血糖値の変化を示す図である。図中ACAMはOL16を表す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
OL16、又はOL16の発現を促進する物質を有効成分として含有する、糖・脂質代謝能の改善剤。
【請求項2】
OL16の発現を促進する物質が、OL16をコードする遺伝子である、請求項1に記載の糖・脂質代謝能の改善剤。
【請求項3】
OL16の発現を促進する物質が、OL16をコードする遺伝子を含む発現ベクターである、請求項1に記載の糖・脂質代謝能の改善剤。
【請求項4】
耐糖能異常に起因する疾患又は肥満に起因する疾患の予防および治療薬として用いられる、請求項1〜3のいずれかに記載の糖・脂質代謝能の改善剤。
【請求項5】
肥満状態の改善薬として用いられる、請求項1〜3のいずれかに記載の糖・脂質代謝能の改善剤。
【請求項6】
被験物質が、OL16又はOL16コードする遺伝子の発現を促進するか否かを指標とする、被験物質の糖・脂質代謝能の検定方法。
【請求項7】
下記の工程(1)〜(3)を含むことを特徴とする、請求項6に記載の検定方法:
(1) 被験物質と、OL16をコードする遺伝子を発現可能な細胞とを接触させる第一工程、
(2) 被験物質を接触させた細胞における、前記遺伝子の発現量を測定し、該発現量を被験物質に接触させない対照細胞における前記遺伝子の発現量と比較する第二工程、及び
(3) 前記第二工程の比較結果に基づいて、被験物質が前記遺伝子の発現量を増加させるか否かを指標として被験物質の糖・脂質代謝能を評価する第三工程。
【請求項8】
下記の工程(1)〜(3)を含むことを特徴とする、請求項6に記載の検定方法:
(1)被験物質と、OL16を発現可能な細胞とを接触させる第一工程、
(2)被験物質を接触させた細胞における、前記蛋白質の発現量を測定し、該発現量を被験物質に接触させない対照細胞における前記蛋白質の発現量と比較する第二工程、及び
(3)前記第二工程の比較結果に基づいて、被験物質が前記蛋白質の発現量を増加させるか否かを指標として被験物質の糖・脂質代謝能を評価する第三工程。
【請求項9】
下記の工程(1)〜(3)を含むことを特徴とする、請求項6に記載の検定方法:
(1) 被験物質とOL16をコードする遺伝子の発現制御領域を機能可能な形で連結されてなるレポーター遺伝子を含有する細胞とを接触させる第一工程、
(2) 被験物質を接触させた細胞における、前記レポーター遺伝子の発現量を測定し、該発現量を被験物質に接触させない対照細胞における前記遺伝子の発現量と比較する第二工程、及び
(3) 前記第二工程の比較結果に基づいて、前記レポーター遺伝子の発現量を増加させるか否かを指標として被験物質の糖・脂質代謝能を評価する第三工程。
【請求項10】
下記の工程(1)〜(3)を含むことを特徴とする、請求項6に記載の検定方法:
(1)被験物質を、糖・脂質代謝異常の動物に投与する工程、
(2)被験物質を投与した動物におけるOL16又はOL16遺伝子の発現量を測定し、被験物質を投与しない対照動物における当該発現量と比較する工程、
(3)前記第二工程の比較結果に基づいて、OL16又はOL16遺伝子の発現量が対照動物における当該発現量よりも大きいことを指標として被験物質の糖・脂質代謝能を評価する第三工程。
【請求項11】
糖・脂質代謝異常の動物が、高脂肪食負荷動物である、請求項10に記載の検定方法。
【請求項12】
糖・脂質代謝異常の動物が、マウス又はラットである、請求項10又は11に記載の検定方法。
【請求項13】
請求項6〜12のいずれかに記載の検定方法により測定された被験物質の糖・脂質代謝能を指標として、糖・脂質代謝能の改善剤の候補物質を選別することを特徴とする、糖・脂質代謝能の改善剤の探索方法。
【請求項14】
請求項13に記載の探索方法により選抜された物質またはその薬学的に許容される塩を有効成分して含有する、糖・脂質代謝能の改善剤。
【請求項15】
耐糖能異常に起因する疾患又は肥満に起因する疾患の予防および治療薬として用いられる、請求項14に記載の糖・脂質代謝能の改善剤。
【請求項16】
肥満状態の改善薬として用いられる、請求項14に記載の糖・脂質代謝能の改善剤。
【請求項17】
OL16が脂肪組織特異的に発現していることを特徴とする、OL16遺伝子が導入されたトランスジェニック非ヒト動物。
【請求項18】
抗肥満または抗糖尿病のモデル動物である請求項17に記載のトランスジェニック非ヒト動物。
【請求項19】
請求項17に記載のトランスジェニック非ヒト動物に由来する脂肪組織または脂肪細胞。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−239518(P2008−239518A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−79547(P2007−79547)
【出願日】平成19年3月26日(2007.3.26)
【出願人】(504147243)国立大学法人 岡山大学 (444)
【出願人】(000002912)大日本住友製薬株式会社 (332)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】