説明

肥満及び脂肪肝抑制剤

【課題】新規肥満及び脂肪肝抑制剤を提供する。
【解決手段】
アルギン酸オリゴマーを有効成分として含有する脂肪肝抑制剤の使用により、肝臓への脂肪の蓄積を抑制する。また、アルギン酸オリゴマーを有効成分として含有する肥満抑制剤の使用により、体重の増加を抑制する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルギン酸オリゴマーを含有する肥満及び脂肪肝抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、食生活の変化に伴うカロリー摂取量の増加に加えて、運動不足が重なり、肥満や肝脂肪の蓄積といった健康上の問題は増加する傾向にある。
【0003】
このような状況の下、褐藻類に存在するアルギン酸に血糖上昇抑制効果、整腸作用、血中コレステロール値の低下作用等があり、肥満等の予防に有効であることが報告されている(例えば、特許文献1参照)。そこで、近年、アルギン酸を含有した食品や飲料品が多く提供されている。
【0004】
アルギン酸は、褐藻類の細胞壁構成多糖あるいは細胞充填物質として藻体乾燥重量の約30%を占めており、β−D−マンヌロン酸(以下、「M」とする)と、α−L−グルロン酸(以下、「G」とする)の2種類のウロン酸から構成されている。具体的には、Mが連なったポリ−β−Dマンヌロン酸部位、Gが連なったポリ−α−Lグルロン酸部位ならびにMとGが交互に配列したMGランダム部位を備えており、これら3つのドメインが混在した構造を有する。
【0005】
アルギン酸は分子量が大きいため、アルギン酸が配合された飲食品は、当該飲食品本来の持つ外観、味、歯触り、滑らかさ等の触感が損なわれる場合が多い。このため、適用分野が限定されたり、更にそのような飲食品を長期間摂取し続けることは困難であるという問題があった。
【0006】
一方、近年、難消化性多糖質を酵素分解して得られる機能性オリゴ糖に関する研究が盛んになっており、フラクトオリゴ糖やキチン・キトサンオリゴ糖など有用なオリゴ糖の開発がなされている。アルギン酸についても例外ではなく、アルギン酸を分解して得られたアルギン酸オリゴマーについての利用が徐々になされ始めている。
【0007】
最近、発明者等は、アルギン酸リアーゼを用いた酵素分解で得られたアルギン酸オリゴマーが末端に二重結合を有する不飽和オリゴマーであること、また、このようなアルギン酸オリゴマーは、主に2〜4量体のオリゴマーからなる混合物であること及びタンパク質をほとんど含まないことを明らかにした(例えば、非特許文献1参照)。
また、このような酵素分解で得られたアルギン酸オリゴマーは、酸加水分解で得られたオリゴマーと比較すると、高い生物活性を示すとの知見がある(例えば、非特許文献2参照)。
【0008】
しかしながら、アルギン酸オリゴマーの生理活性やその利用に関しては、まだ多くのものは知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第2643669号公報
【非特許文献1】Bioscience,Biotechnology,and Biochemistry 2008,72:2184−2190
【非特許文献2】FEBS 2005 579:4423−4429
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、アルギン酸オリゴマーを含有する新規肥満及び脂肪肝抑制剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記した課題を解決するため、本発明者らは鋭意検討した結果、アルギン酸オリゴマーが脂肪肝抑制作用及び肥満抑制作用を有すること、そしてアルギン酸オリゴマーを肥満及び脂肪肝抑制剤に好適に利用することができることを見出し、本発明の完成に至った。
【0012】
本発明は、本発明者らによる上記知見に基づくものであり、前記課題を解決するための手段としては、以下のとおりである。すなわち、
本発明の第一態様は、アルギン酸オリゴマーを有効成分として含有する脂肪肝抑制剤である。
本発明の第二態様は、アルギン酸オリゴマーが、アルギン酸の酵素分解物またはその精製物である、前記第一態様にかかる脂肪肝抑制剤である。
本発明の第三態様は、前記アルギン酸オリゴマーの重合度が2〜4である、前記第一態様または第二態様にかかる脂肪肝抑制剤である。
本発明の第四態様は、アルギン酸オリゴマーを有効成分として含有する肥満抑制剤である。
本発明の第五態様は、前記アルギン酸オリゴマーが、アルギン酸の酵素分解物またはその精製物である、前記第四態様にかかる肥満抑制剤である。
本発明の第六態様は、前記アルギン酸オリゴマーの重合度が2〜4である、前記第四態様または第五態様にかかる肥満抑制剤である。
【0013】
また、前記アルギン酸オリゴマーがリポソームに封入されている前記第一態様から第三態様のいずれかにかかる脂肪肝抑制剤とすることもできる。さらに、前記アルギン酸オリゴマーがリポソームに封入されている前記第四態様から前記第六態様のいずれかにかかる肥満抑制剤とすることもできる。
また、アルギン酸オリゴマーを有効成分とする脂肪肝抑制剤を含有する注射剤とすることもできる。さらに、アルギン酸オリゴマーを有効成分とする肥満抑制剤を含有する注射剤とすることもできる。
また、アルギン酸オリゴマーを有効成分とする脂肪肝抑制剤を含有する坐剤とすることもできる。さらに、アルギン酸オリゴマーを有効成分とする肥満抑制剤を含有する坐剤とすることもできる。
また、アルギン酸オリゴマーを有効成分とし、アルギン酸ナトリウムが添加されてなる脂肪肝抑制剤とすることもできる。さらに、アルギン酸オリゴマーを有効成分とし、アルギン酸ナトリウムが添加されてなる肥満抑制剤とすることもできる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、アルギン酸オリゴマーを摂取することにより、脂肪肝抑制作用または肥満抑制作用を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施例において、アルギン酸ナトリウムの酵素分解物のマススペクトルを示す図。
【図2】マウスの体重を示すグラフ。
【図3】血漿中のアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ濃度を示すグラフ。
【図4】血漿中のアラニンアミノトランスフェラーゼ濃度を示すグラフ。
【図5】血漿中の総コレステロール濃度を示すグラフ。
【図6】血漿中のトリグリセリド濃度を示すグラフ。
【図7】肝臓重量を示すグラフ。
【図8】対照群の肝臓の状態を示す図。
【図9】アルギン酸オリゴマー摂取群の肝臓の状態を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の肥満及び脂肪肝抑制剤は、アルギン酸(例えば、アルギン酸ナトリウム)を酵素分解または酸加水分解して得られた2〜4個の構成単糖からなるオリゴマーを有効成分とし、必要に応じて更にその他の成分を含有する。
【0017】
本発明において、「脂肪肝抑制作用」とは肝臓への脂肪の蓄積を抑制する作用をいう。また、本発明において、「肥満抑制作用」とは体重の増加を抑制する作用をいう。さらに、本発明において、「アルギン酸」には、アルギン酸ナトリウムといったアルギン酸塩も含まれる。
【0018】
本発明の脂肪肝抑制剤または肥満抑制剤に含まれるアルギン酸オリゴマーは、アルギン酸ナトリウムを分解して得られた重合度2〜4のGからなるオリゴマー,重合度2〜4のMからなるオリゴマーまたは重合度2〜4のGとMとからなるオリゴマーを意味する。また、このアルギン酸オリゴマーは、Gのオリゴマー、Mのオリゴマー及びGとMのオリゴマーの混合物であっても、それぞれ単独であってもよい。
【0019】
また、本発明のアルギン酸オリゴマーは、例えば、アルギン酸ナトリウムの酵素分解物そのものが好ましいが、酸加水分解等によって得られる同じ重合度のアルギン酸オリゴマーの精製物であってもよく、これらに限られるものではない。
【0020】
酵素分解する方法としては、アルギン酸リアーゼを用いてアルギン酸ナトリウムを酵素分解する方法が好ましいが、これに限られるものではない。アルギン酸リアーゼを用いてアルギン酸ナトリウムを酵素分解すると、優れた脂肪肝抑制作用または肥満抑制作用を発揮できる2〜4量体のアルギン酸オリゴマーを効率よく得ることができる。また、当該酵素を用いてアルギン酸ナトリウムを分解することにより、末端に二重結合を有する不飽和オリゴマーを生成することができる。一方、酸加水分解を行う際には、塩酸、リン酸のような鉱酸等を用いることができるが、塩酸を用いて酸加水分解して得る方法が特に好ましい。
【0021】
アルギン酸オリゴマーの調整に使用されるアルギン酸は、特に制限されるものではなく、上述したようにアルギン酸ナトリウムを用いてもよいし、任意のアルギン酸塩を用いることができる。また、コンブ、ワカメ、ヒジキ等の褐藻類から直接抽出したアルギン酸を用いてもよいが、これらに限られるものではない。また褐藻類からの抽出方法は特に限定されず、公知の抽出方法により行うこともできる。
【0022】
(酵素分解処理)
酵素分解の方法は、特に制限されるものではなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、アルギン酸ナトリウムにアルギン酸リアーゼを所定時間経過毎に添加し、反応終了後にアルギン酸リアーゼを熱処理して失活させる方法等が挙げられる。
この際使用するアルギン酸リアーゼの濃度は、1.0×10U/g以上が好ましく、2.5×10U/g〜7.0×10U/gが特に好ましいが、これに限られるものではない。アルギン酸リアーゼの濃度が1.0×10U/g未満であると、酵素分解が不十分となり、アルギン酸オリゴマーを効率よく得ることができないという問題が生じるおそれがある。
【0023】
また、1回あたりにアルギン酸ナトリウムに添加するアルギン酸リアーゼの量は、アルギン酸ナトリウムに対して0.5×10倍容量〜2.0×10倍容量であることが好ましく、1.0×10倍容量であることが特に好ましいが、これに限られるものではない。アルギン酸リアーゼの添加量が、アルギン酸ナトリウムに対して0.5×10倍容量未満であると、酵素分解が不十分になることがあり、2.0×10倍容量を超えると、コスト的に不利になることがある。
【0024】
(酵素分解液温度)
酵素分解時における酵素分解液温度としては、35℃〜50℃が好ましく、40℃が特に好ましいが、これに限られるものではない。10℃未満であると、酵素分解が進まずアルギン酸オリゴマーを効率よく得ることができないことがあり、70℃を超えると、酵素が失活してしまうおそれがある。
【0025】
(酵素分解時間)
酵素分解を行う時間は、60時間〜80時間が好ましく、70時間〜74時間が特に好ましいが、これに限られるものではない。60時間未満であると、酵素分解が十分に進まずアルギン酸オリゴマーを効率よく得ることができないことがあり、80時間を超えると、アルギン酸ナトリウムが過度に分解されてしまうことがある。
【0026】
(酵素添加時間)
アルギン酸リアーゼは、4時間〜8時間経過毎にアルギン酸ナトリウムに添加することが好ましく、6時間〜8時間経過毎にアルギン酸ナトリウムに添加することが特に好ましいが、これに限られるものではない。4時間未満だと、前回の処理で添加したアルギン酸リアーゼによる反応が終了しておらず、アルギン酸ナトリウムを分解することができないおそれがある。一方、10時間を超えると、アルギン酸ナトリウムを効率よく分解することができなくなるおそれがある。
【0027】
(熱処理)
反応終了後、アルギン酸リアーゼを失活させるために行う熱処理の温度は、70℃〜100℃が好ましく、75℃〜90℃が特に好ましいが、これに限られるものではない。70℃未満であると、酵素が完全に失活しないおそれがある。
【0028】
(乾燥処理)
上述した処理で得られたアルギン酸ナトリウムの酵素分解物は、アルギン酸オリゴマーとしてそのまま使用してもよく、乾燥して使用してもよい。
乾燥する方法としては、特に制限はなく、公知の手法により行うことができ、例えば、凍結乾燥法、通風乾燥法、加熱乾燥法、滅圧乾燥法などがある。
【0029】
(脂肪肝抑制剤または肥満抑制剤の剤形)
上述した方法、または他の方法で得られたアルギン酸オリゴマーは、そのまま加工することなく脂肪肝抑制剤または肥満抑制剤として用いることもできるが、例えば固形剤(例、顆粒剤、散剤、錠剤、カプセル剤及びトローチ剤等)として用いることもできる。この場合は、任意の担体を含んでいてもよい。当該担体としては、例えば、ショ糖、デンプン等が挙げられるが、これらに限られるものではない。
【0030】
アルギン酸オリゴマーを脂肪肝抑制作用を有する固形剤として用いる場合、アルギン酸オリゴマーの含有量は、好ましくは2重量%〜10重量%、特に好ましくは5重量%〜10重量%であるが、これに限られるものではない。
また、アルギン酸オリゴマーを肥満抑制作用を有する固形剤として用いる場合、アルギン酸オリゴマーの含有量は、好ましくは2重量%〜10重量%、特に好ましくは5重量%〜10重量%であるが、これに限られるものではない。
【0031】
また、例えば、アルギン酸オリゴマーはアルギン酸ナトリウムと比較すると、粘性が低く、水等の溶媒に可溶であるため、液剤(注射剤、点滴剤等)に適用することもできる。アルギン酸オリゴマーを脂肪肝抑制作用を有する液剤として用いる場合、アルギン酸オリゴマーの含有量は、好ましくは2重量%〜5重量%、特に好ましくは5〜10重量%であるが、これらに限られるものではない。また、アルギン酸オリゴマーを肥満抑制作用を有する液剤として用いる場合、アルギン酸オリゴマーの含有量は、好ましくは2重量%〜10重量%、特に好ましくは5重量%〜10重量%であるが、これらに限られるものではない。
【0032】
またさらに、アルギン酸オリゴマーは腸から吸収されるため、本発明の脂肪肝抑制剤または肥満抑制剤を坐剤に適用することで、効率よく体内にアルギン酸オリゴマーが吸収されるようになる。
また、胃の酸性環境からアルギン酸オリゴマーを保護し、腸内でアルギン酸オリゴマーを放出する腸溶性コーティングをすることもできる。または、制酸剤またはその他このような成分と組み合わせて製剤することもできる。上述したように、アルギン酸オリゴマーは腸にて体内に吸収されるため、このように腸溶剤とすることで、効率よく体内にアルギン酸オリゴマーが吸収されるようになる。
またさらに、アルギン酸オリゴマーは低分子化されており、水に可溶であるため、脂質で形成された小胞と当該小胞内に内水層を備えるリポソームの内水層に溶解させ、リポソームにより被包して製剤化することもできる。このような形態によれば、脂溶面が表層となるため、腸にてより吸収されやすくなる。
【0033】
(脂肪肝抑制剤または肥満抑制剤の用途)
本発明の脂肪肝抑制剤または肥満抑制剤は、飲食品に配合し、機能性飲食品として用いることができる。例えば、菓子類、麺類、練り製品、畜肉製品、調味食品類、乳製品、各種惣菜、各種粉末飲食品、及びアルコール飲料や非アルコール飲料のような種々の飲料等の各種飲食品等を挙げることができるが、これに限られるものではない。本発明のアルギン酸オリゴマーは、低分子化されており水等の溶媒に可溶であるため、飲料品に添加することが好ましい。
【0034】
(摂取方法及び摂取量)
脂肪肝抑制剤または肥満抑制剤の摂取方法、摂取量、摂取回数、摂取時期及び摂取対象としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
摂取方法としては、経口で摂取する方法が容易に摂取することができるため、継続しやすい点で好ましいが、これに限られるものではない。加工しやすいという点から、食事に添加したり、調味料として用いることもできる。低分子化されており、水等の溶媒に可溶であるという点から、注射剤として用いることもできる。
【0035】
また、本発明の脂肪肝抑制剤または肥満抑制剤は、他の成分を有効成分とする医薬品中に配合してもよい。あるいは、本発明の脂肪肝抑制剤または肥満抑制剤に他の有効成分を配合してもよい。本発明の脂肪肝抑制剤または肥満抑制剤に配合する他の有効成分は、特に制限されるものではなく、適宜選択することができるが、例えば、アルギン酸ナトリウムが挙げられる。アルギン酸ナトリウムは、整腸作用やコレステロール低下作用を有することが広く知られている。このため、アルギン酸オリゴマーを有効成分として含有する脂肪肝抑制剤または肥満抑制剤にアルギン酸ナトリウムを添加することにより、より好適に脂肪肝抑制作用または肥満抑制作用を得ることができる。
【0036】
摂取量としては、特に制限はなく、摂取対象個体の年齢、体重、体質、他の成分を有効成分とする医薬品の投与の有無など、様々な要因を考慮して適宜選択することができるが、食事量に対して5重量%〜10重量%が好ましい。この範囲であれば、優れた脂肪肝抑制作用、または肥満抑制作用を発揮することができる。
摂取時期としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。摂取対象はヒトに対して好適に適用されるものではあるが、その作用効果が奏される限り、ヒト以外の動物(例えば、マウス、ラット、ハムスター、トリ、イヌ、ネコ、ヤギ、ウシ、ブタ、サルなど)に対して適用することもできる。
【実施例】
【0037】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限られるものではない。
【0038】
(アルギン酸オリゴマーの調整)
超純水500mLにアルギン酸ナトリウム(キミカ社製)を溶解し、1%アルギン酸ナトリウム溶液を調整する。次いで、20mLの超純水に10mgのアルギン酸リアーゼ(2.9×10U/g)を溶解して調整する。40℃に保った1%アルギン酸ナトリウム溶液に、このアルギン酸リアーゼ溶液を1mLずつ8時間経過毎に3日間添加し、酵素分解処理を行った。この酵素分解処理は、100℃、10分間の熱処理によって停止させた。この熱処理後、公知の凍結乾燥法にてアルギン酸オリゴマー粉末を得た。
【0039】
(アルギン酸オリゴマーの分析方法)
0.2μMメンブランフィルタ(ミリポア社製)を用いて吸引ろ過した蒸留水で、10mgに計量したアルギン酸オリゴマー粉末を希釈し、100mg/mLとした。このアルギン酸オリゴマー粉末が溶解した溶液をタンデム型質量分析計API2000(アプライドバイオシステムズ社製)に10μL/minで導入した。測定は、ポジティブイオン検出モードにて行い、シグナルはアンモニウムイオン付加体([M+NH4]+)及びナトリウムイオン付加体([M+Na]+)で検出された。図1に示されるように、G,Mの2量体、3量体及び4量体のイオンピークをそれぞれ確認することができた。
【0040】
(飼料の調整)
アルギン酸オリゴマー摂取群の飼料としては、アルギン酸オリゴマーを、10質量%となるように高脂肪飼料(High Fat Diet 32、日本クレア社製)に添加した飼料を用いた。
対照群の飼料としては、何も添加してない高脂肪飼料(High Fat Diet 32、日本クレア社製)を用いた。
【0041】
(脂肪肝抑制作用及び肥満抑制作用についての試験)
4週齢の雄のddYマウス(九動株式会社より購入)を被験対象として用いた。このマウスを、上述した方法で調整したアルギン酸オリゴマーを添加した高脂肪飼料と、アルギン酸オリゴマーを添加しないで調整した高脂肪飼料で14日間飼育した。
【0042】
(血漿中のアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(以下、「AST」とする)の測定、アラニンアミノトランスフェラーゼ(以下、「ALT」とする)の測定、総コレステロール濃度の測定、トリグリセリド濃度の測定、体重の計測、肝臓重量の計測、ならびに肝臓細胞の観察)
上述した方法で飼育したマウスは、所定時間経過毎に体重を計測した。また、血液を採取し、遠心分離して得られた血漿中のAST濃度、ALT濃度、総コレステロール濃度及びトリグリセリド濃度をスポットケム(アークレイ社製)にて定量した。
【0043】
(結果)
図2にアルギン酸オリゴマー摂取群と対照群の14日間にわたる体重の推移を示す。同図2に示されるように、対照群は、アルギン酸オリゴマー摂取群と比較して、有意に体重が増加していることが認められた。すなわち、アルギン酸オリゴマーには肥満抑制作用があるものと想定される。
【0044】
血漿中のAST濃度及びALT濃度の定量結果を、図3及び図4に示す。図3には14日目に定量したアルギン酸オリゴマー摂取群と対照群の血漿中のAST濃度を示す。図4には、14日目に定量したアルギン酸オリゴマー摂取群と対照群の血漿のALT濃度を示す。
【0045】
同図3及び図4より、アルギン酸オリゴマー摂取群は、対照群と比較して、血漿中のAST濃度及びALT濃度が有意に低いことが認められた。AST濃度及びALT濃度は、肝脂肪が蓄積するにつれて上昇することが知られている。したがって、これらの結果から、アルギン酸オリゴマーには脂肪肝抑制作用があるものと想定される。
【0046】
次に、血漿中の総コレステロール濃度及びトリグリセリド濃度の定量結果を図5及び図6に示す。図5には14日目に定量したアルギン酸オリゴマー摂取群と対照群の血漿中の総コレステロール濃度を示す。図6には、14日目に定量したアルギン酸オリゴマー摂取群と対照群の血漿中のトリグリセリド濃度を示す。
【0047】
図5及び図6より、アルギン酸オリゴマー摂取群は、対照群と比較して、血漿中の総コレステロール濃度及びトリグリセリド濃度が低い傾向にあることが認められた。
【0048】
次に、肝臓重量の測定結果を図7に示す。図7には14日目に計測したアルギン酸オリゴマー摂取群と対照群の肝臓重量を示す。
【0049】
アルギン酸オリゴマー摂取群の肝臓重量の平均値は、対照群の肝臓重量の平均値の約77%であった。また、図7より、アルギン酸オリゴマー摂取群は、対照群と比較して、肝臓重量が有意に低いことが認められた。
【0050】
次に、図8及び図9を参照しながら、肝臓の状態について説明する。図8には14日目に摘出した対照群の肝臓を、図9には14日目に摘出したアルギン酸オリゴマー摂取群の肝臓を示す。同図8に示されるように、対照群の肝臓は、全体的に白く変色していた。このことから、肝臓の多くの部位に高濃度の脂肪が蓄積していることが認められる。一方、図9に示されるように、アルギン酸オリゴマー摂取群の肝臓は、対照群と比較して、白く変色している部分が少なかった。このことから、アルギン酸オリゴマー摂取群の肝臓は、対照群よりも脂肪の蓄積量が少なかったと認められる。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明の重合度が2〜4であるアルギン酸オリゴマーを有効成分として含有する脂肪肝抑制剤を摂取することで、肝臓への脂肪の蓄積を抑制する脂肪肝抑制作用を得ることができる。また、本発明の重合度が2〜4であるアルギン酸オリゴマーを有効成分として含有する肥満抑制剤を摂取することで、体重の増加を抑制する肥満抑制作用を得ることができる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルギン酸オリゴマーを有効成分として含有する脂肪肝抑制剤。
【請求項2】
前記アルギン酸オリゴマーが、アルギン酸の酵素分解物またはその精製物である、請求項1に記載の脂肪肝抑制剤。
【請求項3】
前記アルギン酸オリゴマーの重合度が2〜4である、請求項1または2に記載の脂肪肝抑制剤。
【請求項4】
アルギン酸オリゴマーを有効成分として含有する肥満抑制剤。
【請求項5】
前記アルギン酸オリゴマーが、アルギン酸の酵素分解物またはその精製物である、請求項4に記載の肥満抑制剤。
【請求項6】
前記アルギン酸オリゴマーの重合度が2〜4である、請求項4または5に記載の肥満抑制剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−201620(P2012−201620A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−66770(P2011−66770)
【出願日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【出願人】(000214191)長崎県 (106)
【出願人】(504205521)国立大学法人 長崎大学 (226)
【Fターム(参考)】