説明

肥満改善および予防用組成物ならびに健康食品

【課題】肥満改善および予防用組成物を開発する。
【解決手段】 有効成分としてのフェニルグルコシド誘導体と、医薬的に受容な賦形剤とからなる肥満改善および予防用組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粗糖に含まれるフェニルグルコシド誘導体を有効成分とする肥満改善および予防用組成物ならびに健康食品に関する。
より詳細には、粗糖に含まれ、波長272nmの紫外線に対して極大吸収を示すフェニルグルコシド誘導体を主成分とする画分と、医薬的に受容な賦形剤または担体とからなる肥満、殊に内臓脂肪肥満改善および予防用組成物ならびに健康食品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
黒砂糖(粗糖)に含まれる、非蔗糖の色素成分エキスの製造方法は、粗糖を水に溶かして、カラムに充填した活性炭(非特許文献1)またはポリスチレン系樹脂であるアンバーライトXAD−2などのような非極性吸着剤を用いるカラムクロマトグラフィー法により分離精製されることが報告されている(特許文献1および2)。
【0003】
また、その主成分が3,4-ジメトキシフェニル-β-D-グルコシドまたは2,4-ジメトキシフェニル-β-D-グルコシドであると考えられることについては報告されている(例えば、非特許文献2)。
また、上記の色素成分エキスが血清中の中性脂肪およびインスリンの増加抑制作用を有することも既に明らかとなっている(例えば、非特許文献2)。
【0004】
さらに、上記色素成分エキスが抗アレルギー作用を有し、動脈硬化の予防改善ができ(例えば、特許文献1)、また皮膚賦活・美白作用などの効果を有することも明らかとなっている(例えば、特許文献2)。
【0005】
一方、戦後の我が国では、食事および生活習慣の欧米化による高カロリー食事の摂取、過食、不規則な食生活ならびに交通手段の多様化に伴う運動不足の習慣化に起因する肥満のヒトが急増している。
【0006】
現在、肥満はスタイルだけの問題ではなくなっている。事実、生活習慣病と称される高脂血症の80%の人が肥満症であり、高血圧症の50%、肝臓病患者の30%、糖尿病患者の20%が肥満体であるといわれている。すなわち、生活習慣病の最大の引金となるのは肥満であることが指摘されている。
【0007】
また、この肥満度の判定方法としては、身長と体重で判断する次式で表される体格指数(BMI:ボディ・マス・インデックス)が用いられている。
BMI = 体重(kg) / (身長(m))2
このBMIは以下に示す範囲の場合:
18.5未満: やせ
18.5〜25未満: 適正
【0008】
25〜30未満: 肥満(1度)
30〜35未満: 肥満(2度)
35〜40未満: 肥満(3度)
40以上: 肥満(4度)
であると判断されている。
【0009】
しかしながら、最近では、体脂肪計で体の組成に占める脂肪の割合である体脂肪率を測定し、その値が、男性で15〜20%未満、女性で20〜25%未満であれば「適正」であり、男性で20〜25%未満、女性で25〜30%未満であれば「やや高く」、男性で25%以上、女性で30%以上であれば「高い」と判断されている。
【0010】
また、別の判断方法として、ウエストとヒップの比:ウエスト(m)/ ヒップ(m)が、女性で0.7以下であれば下半身肥満(洋ナシ型)であり、0.8以上であれば上半身肥満(リンゴ型)であるとし、男性では1.0以上であれば上半身肥満(リンゴ型)であるとされている。上記の洋ナシ型肥満の場合は、生活習慣病と殆ど関係はないが、リンゴ型肥満は、生活習慣病の発生に大きく関係しているといわれている。
【0011】
この上半身肥満には、腹まわりの皮下脂肪の厚い皮下脂肪肥満と、内臓にしっかり脂肪の付いた内臓脂肪肥満の二種があり、前記の生活習慣病の発生の大半に後者の内臓脂肪肥満が深く関与していることが明らかになっている。
【0012】
すなわち、前記の高カロリー食事の摂取、過食、不規則な食生活ならびに交通手段の多様化に伴う運動不足の習慣は、脂肪蓄積および肥満を介して、インスリン抵抗性糖尿病、高脂血症、高血圧動脈硬化症などの、いわゆる生活習慣病やメタボリックシンドロームを引き起こすといわれている。
【0013】
近年、脂肪組織から分泌されるホルモンとしてアディポネクチンが見出され、このホルモンは、正常な場合は動脈硬化の予防や、インスリン感受性の亢進などの主要な効果を有するが、メタボリックシンドロームや過度な肥満など、異常に内臓脂肪が蓄積した場合はこのアディポネクチンの分泌が抑制され、2型糖尿病や心血管病の発症の重要な原因になるといわれている(例えば、非特許文献3)。
【0014】
【特許文献1】特開昭57−88107
【特許文献2】特許昭59−48809
【非特許文献1】木村ら、和漢医学雑誌、Vol1、第1号、1984、178〜179
【非特許文献2】木村ら、薬学雑誌、102(7)、1982、666〜669頁
【非特許文献3】Kadowaki T. & Yamauchi T.、Endocrine Reviews、2005、26、439
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
上記の洋ナシ型肥満やリンゴ型肥満であっても皮下脂肪肥満を改善する薬剤や健康食品は数多く見出されている。しかしながら、一番問題となる内臓脂肪を改善予防する薬剤や健康食品は、内臓の各臓器の脂肪の測定を行なう動物実験が容易でないため、科学的な裏付けを有する内蔵脂肪肥満改善および予防用薬剤や健康食品は殆ど開発されていないのが現況である。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、鋭意努力研究を重ねた結果、驚くべきことに、粗糖由来のフェニルグルコシド誘導体が、肥満、殊に内臓脂肪肥満を改善し、かつ予防することを見出して本発明を完成した。
かくして、本発明によれば、有効成分としてのフェニルグルコシド誘導体と、医薬的に受容な賦形剤とからなる肥満改善および予防用組成物が提供される。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、上白糖の製造工程で従来廃棄物とされていた粗糖含有フェニルグルコシド誘導体含有着色成分を肥満の改善および予防に安全に使用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明において用いられる用語「粗糖」とは、サトウキビまたは砂糖大根から得られる粗製蔗糖、粗製蔗糖エキスまたはその乾固物のいずれをも意味する。
また、本発明において用いられるフェニルグルコシド誘導体は、前記の特許文献1、2または非特許文献1に記載の水およびアルコールで溶出するカラムクロマトグラフィー法、あるいは以下の製造例1に記載の強酸性イオン交換樹脂を用い水で溶出するカラムクロマトグラフィー法のいずれかに従って得られる。しかしながら、本発明による組成物の用途が薬剤または健康食品であるという観点から、有機溶媒を全く使用しない以下の製造例1に記載の方法が最も好ましい。
【0019】
したがって、本発明において用いられる用語「フェニルグルコシド誘導体」とは、粗糖から分離したフェニルグルコシド誘導体含有溶出液画分、該溶出液画分の減圧濃縮物および濃縮乾固末のいずれをも意味する。
【0020】
なお、本発明に用いられるフェニルグルコシド誘導体は以下の性状を示す。
(1) 上記濃縮乾固末は黄褐色のやや吸湿性の粉末で、水、アルコールに可溶、ヘキサン石油エーテル、エーテルに不溶である:
(2) 上記濃縮乾固末の1%水溶液はpH約7.5を示す:
(3) 赤外線吸収スペクトルνmax(ヌジョール;cm-1):3300、1590、1020および720:
【0021】
(4) 紫外線吸収スペクトルλmax(nm)(水):272、320:
(5) 上記の濃縮乾固末の5%水溶液2〜3滴を沸騰フェーリング試液5mLに加えると赤色沈殿を生じる。また、本品の5%水溶液に塩化第二鉄試液を加えても陰性である:さらに、5%水溶液にゼラチン試液を加えても沈殿を生じない:
【0022】
(6) 薄層クロマトグラフィー:
上記の濃縮乾固末10mgを水1mLに溶解し、以下に記載の条件下、日本薬局法一般試験法薄層クロマトグラフ法により試験するときRf約0.6〜0.85の間に単一の顕著な紅色スポットを発現する。
担体:シリカゲル60F254(メルク社、厚さ0.25mm):
試料添付量:10μL:
展開溶媒:クロロホルム:メタノール:水(65:35:10)の下層:
展開距離:10cm:
検出:p-アニスアルデヒド試液を噴霧後105℃で5分間加熱:
【0023】
(7) 濃縮乾固末からの3,4-ジメトキシフェニル-β-D-グルコシドの結晶化:
上記の濃縮乾固末をイソプロビルアルコールから再結晶すると、融点154〜156℃の白色結晶性粉末が得られる。
上記結晶性粉末を上記(6)に記載の条件下に薄層クロマトグラフィーに付すと、Rf0.8に赤色の顕著なスポットを発現した。
【0024】
上記結晶性粉末の元素分析、質量分析および1H-NMRスペクトル(400MHz、CD3OD)を測定したところ、3,4-ジメトキシフェニル-β-D-グルコシドのデータと完全に一致し、上記結晶性粉末が3,4-ジメトキシフェニル-β-D-グルコシドであることを確認した。
【0025】
また、上記結晶性粉末のHPLC分析(カラム:Phenomenex Synergi 4u Fusion-RP 80A (250 mm×4.6 mm)、移動相:0.1%リン酸水溶液;アセトニトリル=95%;5%、検出波長:282 nm)を行ったところ、純度96%以上であることが判明した。
【0026】
したがって、本発明において用いられる用語「フェニルグルコシド誘導体」とは、3,4-ジメトキシフェニル-β-D-グルコシド単体または該物質を主成分として含有する画分のいずれをも意味する。
【0027】
本発明者らは、マウスに高脂肪食を、20週間にわたり、朝夕2回連続投与した群と、高脂肪食に上記フェニルグルコシド誘導体を添加して連続投与した群において、それぞれの群のマウスの肝臓、皮下脂肪組織、腸間膜脂肪組織、副睾丸脂肪組織の重量差および肝臓付着脂質量を測定し、フェニルグルコシド誘導体が、肥満、殊に内臓脂肪肥満の改善および予防に有効であることを見出した。
【0028】
また、上記の各群のマウスについて肥満に大きく関係する血中中性脂肪量、血中総コレステロール量、血中遊離脂肪酸量も測定し、いずれの場合にもフェニルグルコシド誘導体がこれらの値の上昇を抑制することを明らかにした。
【0029】
したがって、本発明によれば、有効成分としてフェニルグルコシド誘導体、または該誘導体と医薬的に受容な賦形剤とからなる内臓肥満改善および予防用組成物が提供される。
【0030】
さらに、本発明によれば、有効成分としてフェニルグルコシド誘導体、または該誘導体と医薬的に受容な賦形剤とからなる肥満、殊に内臓脂肪肥満改善および予防用組成物を含む健康食品が提供される。
【0031】
上記のフェニルグルコシド誘導体は、単独で、あるいは適当な医薬的に受容な賦形剤で希釈して、医薬品等の製造分野において公知の方法によって、散剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、液剤または注射剤等の種々の医薬品の形態に製剤化して使用することができる。
【0032】
上記の賦形剤としては、例えば結合剤(例えばシロップ、アラビアゴム、ゼラチン、ソルビトール、トラガントまたはポリビニルピロリドン)、充填剤(例えば乳糖、砂糖、トウモロコシ澱粉、リン酸カルシウム、ソルビトールまたはグリシン)、錠剤用滑剤(例えばステアリン酸マグネシウム、タルク、ポリエチレングリコールまたはシリカ)、崩壊剤(例えば馬鈴薯澱粉)または湿潤剤(例えばラウリル硫酸ナトリウム)等が挙げられる。
【0033】
錠剤は、通常の製薬の実務で周知の方法でコートしてもよい。液体製剤は、例えば水性または油性の懸濁液、溶液、エマルジョン、シロップまたはエリキシルの形態であってもよく、使用前に水または他の適切な賦形剤と混合する乾燥製品として提供してもよい。
【0034】
こうした液体製剤は、通常の添加剤、例えば懸濁化剤(例えばソルビトール、シロップ、メチルセルロース、グルコースシロップ、ゼラチン水添加食用脂)、食用脂を含んでもよい乳化剤(例えばレシチン、ソルビタンモノオレエートまたはアラビアゴム)、非水性賦形剤(例えばアーモンド油、分画ココヤシ油またはグリセリン、プロピレングリコールまたはエチレングリコールのような油性成分)、保存剤(例えばp−ヒドロキシ安息香酸メチルまたはプロピルまたはソルビン酸)、および所望により着色剤または香料等を含んでもよい。
【0035】
前記の健康食品とは、通常の食品よりも積極的な意味で、保健、健康維持・増進等を目的とした食品を意味し、例えば、液体または半固形、固形の製品、具体的には散剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤または液剤等のほか、クッキー、せんべい、ゼリー、ようかん、ヨーグルト、まんじゅう等の菓子類、清涼飲料、お茶類、栄養飲料、スープ等の形態が挙げられる。
【0036】
これらの食品の製造工程において、あるいは最終製品に、本発明による組成物を混合または塗布、噴霧などにより添加して、健康食品とすることができる。
【0037】
本願発明による組成物は、特に、メタボリックシンドロームに該当するヒトに対して、あるいはその予備軍のヒトに対して有効に利用できる。
【0038】
内臓脂肪肥満および皮下脂肪肥満の予防改善用としてのフェニルグルコシド誘導体のヒトへの1日投与量は200mg〜2000mgで好ましくは300mg〜1000mg最も好ましいのは、300mg〜600mgである。
【0039】
投与法としては、1日1〜2回食後または食間に単独でまたは賦形剤添加した組成物として服用するのが望ましい。
【実施例】
【0040】
以下、本発明による内臓肥満改善および予防用組成物について、実施例により具体的に説明するが、以下の実施例および試験例は、本発明を説明するためのものであり、本発明をなんら限定するものではない。
【0041】
製造例1
粗糖末1kgを脱イオン水2.5Lに溶解し、不溶物をろ別し、粗糖の水溶液を得た。この水溶液を、常法に従って、17Lのナトリウム型陽イオン交換樹脂(三菱化学製UBK530)を脱イオン水に分散し充填したカラムの上部に注ぎ込み、上記樹脂に吸着させた。
次いで、室温で、85Lのイオン交換水を用い、流速8L/時の速度で上記のカラムから溶出させ蔗糖を溶離した。
【0042】
蔗糖の溶離後に、カラムからの溶出液が着色し始めた時点で、4Lずつ分画し、フラクション1〜20を得た。各フラクションを糖度計(アタゴ社製MASTE)で計測し、糖度プリックスが値0で、かつ甘味を呈さず、最大紫外線吸収波長272nmで吸光度1.0以上を示したフラクション8〜16を合せ、この溶出液を60℃で減圧濃縮し、さらに残留物を60℃で真空下に濃縮乾固し、乾燥して3,4-ジメトキシフェニル-β-D-グルコシドを主成分とするフェニルグルコシド誘導体含有画分の乾燥末5gを0.5%収率で得た。
【0043】
このフェニルグルコシド誘導体含有画分をイソプロピルアルコールから再結晶することにより、容易に、3,4-ジメトキシフェニル-β-D-グルコシドの白色結晶性粉末(m.p.154〜156℃)を得ることができる。
【0044】
上記の製造例1で得られた3,4-ジメトキシフェニル-β-D-グルコシドを主成分とするフェニルグルコシド誘導体含有画分の乾燥末を以下の実施例において、フェニルグルコシド誘導体として用いた。
【0045】
実施例1
内臓性脂肪、皮下脂肪および血中脂肪量の測定
低脂肪食または高脂肪食を与えたマウスを用いて内臓性脂肪(肝臓、小腸、腸間膜脂肪)、副睾丸組織、脊部皮下脂肪組織の重量測定、肝臓付着脂肪量および血液脂肪量(血中中性脂肪、遊離脂肪酸、総コレステロール)の測定を以下のように行った。
【0046】
実験材料および方法
(1) 低脂肪食および高脂肪食における食餌組成
実験動物に与える低脂肪食(以下、LLとも略す)および高脂肪食(以下、HFとも略す)における食餌組成を以下の表に示す。
【0047】
【表1】

食餌組成は上記の表に示したようにLLはバター3%を含有し、HFはバター45%を含有し、HFにおけるバター含有量は、LLにおけるバターの量の15倍という高脂肪食となっている。また、LLの総カロリー数は292.8kcal/100gに対し、HFの総カロリーは535.8/100gとなっている。
【0048】
(2) 実験動物
6周齢のC57BL/6マウス(日本クレア株式会社より購入)を1週間予備飼育した後健康マウスを、低脂肪食投与群、高脂肪食投与群、高脂肪食およびフェニルグルコシド誘導体(以下、PGDと略す)(500mg/kg)投与群ならびに高脂肪食およびPGD(2000mg/kg)投与群の4群に分け、各群につきマウス7匹を用い、上記食餌を自由摂食させて20週間飼育した。
また、上記のPGDの投与はマウスの重量当たり1日500mg/kgおよび2000mg/kgの割合で蒸留水に溶かしそれぞれの群のマウスに経口投与した。
【0049】
(3) フェニルグルコシド誘導体(PGD)投与による高脂肪食摂取肥満マウスにおける肝臓、腸間膜脂肪組織、副睾丸脂肪組織および皮下脂肪組織の重量増加への影響
低脂肪食(LL)および高脂肪食(HL)の摂食ならびにPGD投与開始後20週目に、各群のマウスからエーテル麻酔下、下肢大静脈からへパリン加採血し、採血後過剰のエーテル負荷によってマウスを致死させ速やかに内臓性脂肪(肝臓、腸間膜)組織、副睾丸脂肪組織、脊部皮下脂肪組織を採取し、各組織重量を測定した結果を以下の表に示すが、このようにして得られた臓器を用いて以下に記載の測定も行った。
【0050】
なお、以下の表中の各値は、Super A NOVAを用いて、Fisher's proted LSDによる検定を行い、各群7匹の平均値±標準誤差で表示し、p<0.05を有意とし、他の試験においても同様にした。
【0051】
【表2】

【0052】
上記の表から明らかなように、LL摂食群に比べ、HFの20週間の自由摂食によって、肝臓重量、腸間膜脂肪組織重量、副睾丸脂肪組織重量、皮下脂肪組織重量は高脂肪食摂取によって増加しており、HF摂食群のマウスは脂肪蓄積による内臓脂肪肥満が誘発されていることが判明した。
しかしながら、HF摂食と同時にPGD500mg/kg投与群およびPGD2000mg/kg投与群においては、肝臓重量、腸間膜脂肪組織重量、副睾丸脂肪組織重量、皮下脂肪組織重量の増加はいずれの群においても有意に抑制された。
【0053】
(4) 肝臓における中性脂肪および総コレステロール値の測定
上記の(3)で得られた各群のマウスの肝臓を用い、クレビス−リンガー燐酸緩衝液(pH7.5)を加え、市販のホモジナイザーを用いて肝臓の10重量%ホモジネート液を調製した。
このようにして調製した各群のマウス肝臓の10重量%ホモジネート液に対し、20倍量のクロロホルム:メタノール(2:1)混液を加えて抽出し、その抽出物を検体として、中性脂肪値(TG)および総コレステロール値(TC)を測定した。
中性脂肪値は、和光純薬工業製のトリグリセライド−テストワコーの測定キット(アセチル・アセトン法)によって測定し、総コレステロール値(TC)はZaK法(塩化第二鉄−酢酸法)で測定した。得られた結果を以下の表に示す。
【0054】
【表3】

【0055】
上記の表から明らかなように、LL摂食群と比較するとHF摂食群のマウスの肝臓中の中性脂肪は上昇しており内臓脂肪が蓄積し内臓肥満状態になっていることが判明した。
しかしながら、HFを摂食しても、PGD(500mg/kg、2000mg/kg)の投与によって内臓脂肪の蓄積は有意に抑制されていることが判明した。
【0056】
また、肝臓中の総コレステロール値の増加は、LL摂食群のほうがHF摂食群より強く認められたが、PGD(500mg/kgおよび2000mg/kg)の投与が肝臓中の総コレステロールの蓄積も有意に抑制したことが判明した。
【0057】
(5) 小腸における蔗糖分解酵素活性の測定
一般に、糖は単糖頭にならないと小腸から殆ど吸収されない。したがって食餌の消化が進み、澱粉や多糖が二糖類まで分解され、小腸に達すると、小腸は二糖類分解酵素、例えば蔗糖分解酵素を分泌して、蔗糖を酵素分解してグルコースとして体内吸収を促進していることが知られている。
【0058】
そこで、上記の(3)で得られた各群のマウスの小腸を用い、小腸粘膜における蔗糖分解酵素活性を測定した。
小腸は内容物を取出した後、生理食塩水で洗浄し、小腸より粘膜を剥ぎ取り、クレビス−リンガー燐酸緩衝液(pH7.5)を加え、市販のホモジナイザーを用いて小腸粘膜の10重量%ホモジネート液を調製した。
このようにして調製した各群のマウス小腸粘膜の10重量%ホモジネート液を検体として小腸粘膜酵素の蔗糖分解酵素活性を測定した。すなわち、各群のマウスから得られた小腸粘膜の10重量%ホモジネート液0.5mlに、10mM蔗糖を含むクレビス−リンガー緩衝液0.5mlを加えて、37℃で30分間加温振盪し、100℃で45秒間加熱して蔗糖分解酵素を失活させて反応を停止し、生成したグルコースの濃度を和光純薬工業製グルコースB−テスト測定キットによって測定し、グルコースの生成量から小腸粘膜における蔗糖分解酵素活性を測定した。その結果を以下の表に示す。
【0059】
【表4】

【0060】
上記の結果から明らかなように、LL摂食群およびHF摂食群と比較して、HFと共にPGD投与群のマウスの小腸においては、PGD(500mg/kg)投与群およびPGD(2000mg/kg)投与群のいずれにおいても生成されたグルコースの量が著しく低く、蔗糖分解酵素の活性が抑制されていることが判明した。
したがって、本発明によるフェニルグルコシド誘導体(PGD)は、小腸において蔗糖からのグルコースの生成を大幅に抑制し、肥満や糖尿病の原因となる過剰のグルコースの小腸からの吸収を制御し、肥満改善および予防に役立つものと考えられる。
【0061】
なお、上記の結果においてLL摂食群はHF摂食群に比較して蔗糖分解酵素活性の上昇が認められたのは、HFが澱粉質としてコーンスターチを食餌中17.1%含むのに対し、LLはより高濃度で、コーンスターチを41.5%も含んでいるために、長期飼育中にLL摂食群のマウスの小腸における蔗糖分解酵素活性が上昇しために生じた現象であるものと考えられる。
よって、以上上記の(3)〜(5)の試験結果から、内臓肥満の予防改善に本発明によるフェニルグルコシド誘導体が有効なことは明らかである。
【0062】
(6) 血中脂質の測定
前記4群のマウスについて低脂肪食(LL)および高脂肪食(HL)の摂食ならびにPGD投与開始後6週目、10週目および15週目に5時間絶食後にマウスの尾静脈から採血し、血漿を分離し、血中の中性脂肪(TG)および総コレステロール(TC)を、それぞれコレステロールE−テストワコーおよびトリグリセライドEテストワコーを用いて測定した。なお、20週目に採決した血液についても同様に血中中性脂肪、総コレステロールを測定し、遊離脂肪酸をNEFA−テストワコー測定キットを用いて測定した。その結果を以下の表に示す。
【0063】
【表5】

【0064】
上記の表から6、10、15および20週目のいずれの場合においてもHF摂食群はLL摂食群と比べ血中中性脂肪を上昇させることが判明した。
しかしながら、HF食餌と共にPGDを投与した群では、投与量依存的に血中中性脂肪を有意に減少させることが判明した。
特に、HF食餌と共に、PGD(2000mg)を投与した群では血中中性脂肪をより強力に減少させることができ、LL摂食群よりも血中中性脂肪を減少させることが判明した。
【0065】
【表6】

【0066】
上記の表から6、10、15および20週目のいずれの場合においてもHF摂食群はLL摂食群と比べ血中総コレステロール値を上昇させることが判明した。
しかしながら、HF食餌と共にPGDを投与した群では、投与量依存的に血中総コレステロール値を有意に減少させることが判明した。
【0067】
【表7】

【0068】
上記の表から20週目においてHF摂食群はLL摂食群と比べ血中遊離脂肪酸値を上昇させることが判明した。
しかしながら、HF食餌と共にPGDを投与した群では、投与量依存的に血中遊離脂肪酸値を有意に減少させることが判明した。
【0069】
特に、HF食餌と共に、PGD(2000mg)を投与した群では血中遊離脂肪酸値をより強力に減少させることができ、LL摂食群よりも血中遊離脂肪酸値を減少させることが判明した。
【0070】
以上の結果から、本願発明によるフェニルグルコシド誘導体は強力な内臓肥満改善および予防効果を有することが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明によれば、上白糖の製造工程で従来廃棄物とされていた粗糖含有フェニルグルコシド誘導体含有着色成分を内臓脂肪肥満の改善および予防用組成物として安全に使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有効成分としてのフェニルグルコシド誘導体と、医薬的に受容な賦形剤とからなる肥満改善および予防用組成物。
【請求項2】
前記フェニルグルコシド誘導体が粗糖由来である請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記フェニルグルコシド誘導体が3,4-ジメトキシフェニル-β-D-グルコシドである請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
請求項1に記載の組成物が添加されてなる健康食品。

【公開番号】特開2008−222656(P2008−222656A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−65190(P2007−65190)
【出願日】平成19年3月14日(2007.3.14)
【出願人】(507018632)オリエント・ハーブ株式会社 (3)
【Fターム(参考)】