説明

肥満症、糖尿病、高脂血症、ガン及び炎症治療用過フッ素化脂肪酸

【課題】糖尿病、肥満症、高脂血症、高コレステロール血症、動脈硬化症、ガンおよび炎症、その他、脂質またはエイコサノイド状態の変化が望ましいと考えられる病態の治療における、化合物の医学的用法、および、さらに有用な化合物を特定するための方法の提供。
【解決手段】ペルフルオロオクタン酸、もしくは、その塩、もしくは、そのエステル、または、ペルフルオロスベリン酸、もしくは、ペルフルオロヘプタン酸、もしくは、ペルフルオロヘキサン酸、もしくは、ペルフルオロペンタン酸、もしくは、ペルフルオロブタン酸、もしくは、ペルフルオロプロピオン酸、もしくは、それら何れかの塩、もしくは、それら何れかのエステル、または、ペルフルオロオクタンは、糖尿病、肥満症、高コレステロール血症、高脂血症、ガン、炎症、または、その他、脂質もしくはエイコサノイドの状態もしくは作用を調節することが望ましい状態を治療するのに適用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化合物の医学的用法、特に糖尿病、肥満症、高脂血症、高コレステロール血症、動脈硬化症、ガンおよび炎症、その他、脂質またはエイコサノイド状態の変化が望ましいと考えられる病態の治療における、化合物の医学的用法、および、さらに有用な化合物を特定するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ペルフルオロオクタン酸(PFOA)およびその他の過フッ素化脂肪酸またはフルオロアルキル分子は、工業用途、主に界面活性剤として使用される合成分子である。このような化合物の、実験動物および細胞にたいする作用は、ヒトにおける職業的な暴露と同様に従来から調べられている(例えば、非特許文献1、非特許文献2を参照)。特許文献1は、フッ素含有酸によるガン症状の治療を示唆するが、実験データは示されていない。
【0003】
我々は、驚くべきことに、このような特定の化合物が有効な作用を及ぼす可能性のあることを見出した。我々は、このような特定の化合物が、糖尿病、肥満症、高脂血症、高コレステロール血症、動脈硬化症、ガンおよび炎症、その他、脂質またはエイコサノイド状態の変化が望ましいと考えられる病態の治療において有用である可能性のあることを見出した。我々はさらに、特定の化合物、または、それらの化合物の組み合わせが、これら病態の1種以上の治療に特に有用であることを見出した。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Gilliland & Mandel (1993) J. Occup. Med. 35(9), 950-954
【非特許文献2】Kees et al. (1992), J. Med. Chem. 35, 944-953
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第4,624,851号
【発明の開示】
【0006】
本発明の第1の局面は、体重を調節(好ましくは減少)するか、もしくは体重の増加を調節(好ましくは防止または低減)する必要があり、並びに/または、血漿インスリン、血漿グルコース、血漿トリグリセリズ(triglycerides)及び/もしくは血漿コレステロールを調節(好ましくは低下)する必要がある被験体の治療方法であって、ペルフルオロオクタン酸(perfluoroctanic acid)、その塩(好ましくはアンモニウム塩以外、好ましくは75%直鎖アンモニウム塩(75% straight chain ammonium salt)以外)もしくはそのエステル、または、ペルフルオロスベリン酸(perfluorosuberic acid)、ペルフルオロヘプタン酸(perfluoroheptanoic acid)、ペルフルオロヘキサン酸(perfluorohexanoic acid)、ペルフルオロペンタン酸(perfluoropentanoic acid)、ペルフルオロブタン酸(perfluorobutanoic acid)、ペルフルオロプロピオン酸(perfluoropropionic acid)、それら何れかの塩もしくはそれら何れかのエステル、または、ペルフルオロオクタン(perfluoroctane)を、有効量をもって被験体に投与するステップを含む治療方法を提供する。
【0007】
本発明のもう一つの局面は、抗腫瘍剤もしくは抗炎症剤を必要とするか、または、脂質もしくはエイコサノイド(eicosanoid)の状態を調節する必要がある被験体の治療法であって、ペルフルオロオクタン酸、その塩(好ましくはアンモニウム塩以外、好ましくは、75%直鎖アンモニウム塩以外)もしくはそのエステル、または、ペルフルオロスベリン酸、ペルフルオロヘプタン酸、ペルフルオロヘキサン酸、ペルフルオロペンタン酸、ペルフルオロブタン酸、ペルフルオロプロピオン酸、それら何れかの塩もしくはそれら何れかのエステル、または、ペルフルオロオクタンを、有効量をもって被験体に投与するステップを含む治療法を提供する。このような化合物、特に、ペルフルオロオクタン酸及びペルフルオロヘプタン酸は、抗腫瘍剤もしくは抗炎症剤として有効であるか、または、脂質もしくはエイコサノイドの状態(すなわち、全身における、または、特定の部位または組織における脂質もしくはエイコサノイドのタイプ及び濃度)を調節するのに有効であると考えられる。
【0008】
被験体は、極度の炎症に罹っている、または、その危険性がある、例えば、関節炎に罹っているまたはその危険性がある、または、ガンを発症するまたはその危険性がある被験体であってもよい。本化合物は、ガンの発現、成長または転移を下げる可能性がある。
【0009】
本化合物は、被験体が極度の炎症に罹っている、または、その危険性がある、全ての状態または障害の治療に有用である可能性がある。被験体は、アレルギー症または自己免疫疾患に罹っていてもよい。被験体は、例えば、乾癬、炎症性腸疾患、喘息またはリューマチを患っていてもよい。
【0010】
本発明のさらに別の局面は、体重超過または肥満症であり、並びに/または、糖尿病、高脂血症、動脈硬化症、冠状動脈疾患、脳卒中、閉塞性睡眠時無呼吸症、関節炎(例えば、変形性関節症)及び/もしくは生殖機能低下を患っているか、または、そのような症状を発現するリスクがある被験体の治療法であって、ペルフルオロオクタン酸、その塩(好ましくはアンモニウム塩以外、好ましくは、75%直鎖アンモニウム塩以外)もしくはそのエステル、または、ペルフルオロスベリン酸、ペルフルオロヘプタン酸、ペルフルオロヘキサン酸、ペルフルオロペンタン酸、ペルフルオロブタン酸、ペルフルオロプロピオン酸、それら何れかの塩もしくはそれら何れかのエステル、または、ペルフルオロオクタンを、有効量をもって被験体に投与するステップを含む治療法を提供する。
【0011】
本発明のさらに別の局面は、PPAR(例えば、PPARα、δまたはγ)活性を調節する必要がある被験体の治療法であって、ペルフルオロオクタン酸、その塩(好ましくはアンモニウム塩以外、好ましくは、75%直鎖アンモニウム塩以外)もしくはそのエステル、または、ペルフルオロスベリン酸、ペルフルオロヘプタン酸、ペルフルオロヘキサン酸、ペルフルオロペンタン酸、ペルフルオロブタン酸、ペルフルオロプロピオン酸、それら何れかの塩もしくはそれら何れかのエステル、または、ペルフルオロオクタンを、有効量をもって被験体に投与するステップを含む治療法を提供する。このような化合物は、PPAR作用剤(PPAR agonist)であっても、または、PPAR拮抗剤(PPAR antagonist)であってもよく、または、あるPPARにたいしては作用剤(agonist)で、別のPPARにたいしては拮抗剤(antagonist)であってもよい。例えば、ペルフルオロスベリン酸およびその塩およびエステルは、PPARγの作用剤ではあるが、PPARαの作用剤ではないと考えられている。それらは、PPARαの拮抗剤であるらしい。ペルフルオロオクタン酸、ペルフルオロヘプタン酸、ペルフルオロヘキサン酸、ペルフルオロペンタン酸、ペルフルオロブタン酸およびペルフルオロプロピオン酸、および、その塩およびエステルは、PPARαおよびPPARγの作用剤と考えられている。ペルフルオロオクタン酸、ペルフルオロスベリン酸、ペルフルオロヘプタン酸、ペルフルオロヘキサン酸、ペルフルオロペンタン酸、ペルフルオロブタン酸、および、ペルフルオロプロピオン酸(ただし、恐らくそれらの塩およびエステルはそうではないが)は、PPARδ拮抗剤と考えられている。好ましくは、被験体はPPARαまたはPPARγ活性の増加を必要とし、化合物はPPARαまたはPPARγ作用剤である。別に、被験体はPPARαまたはPPARγ活性の減少を必要とし、化合物はPPARαまたはPPARγ拮抗剤であってもよい。さらに別態様として、被験体はPPARδ活性の減少を必要とし、化合物はPPARδ拮抗剤であってもよい。PPARδは、PPARαまたはPPARγに対して反対作用を持つことがある(例えば、WO01/07066参照)。
【0012】
本発明のさらに別の局面は、脂質もしくはエイコサノイドの状態もしくは作用を調節する必要がある被験体、例えば、脂質代謝もしくは脂質結合物質(lipid metabolizing or binding entity)(脂質代謝酵素、及び、脂質結合性ポリペプチド、例えば、脂質輸送ポリペプチドを含む)の活性、例えば、シクロオキシゲナーゼ(例えば、シクロオキシゲナーゼIまたはシクロオキシゲナーゼII)、フォスフォリパーゼA(例えば、フォスフォリパーゼA2)もしくはリポキシゲナーゼの活性を調節する必要がある被験体の治療法であって、ペルフルオロオクタン酸、その塩(好ましくはアンモニウム塩以外、好ましくは、75%直鎖アンモニウム塩以外)もしくはそのエステル、または、ペルフルオロスベリン酸、ペルフルオロヘプタン酸、ペルフルオロヘキサン酸、ペルフルオロペンタン酸、ペルフルオロブタン酸、ペルフルオロプロピオン酸、それら何れかの塩もしくはそれら何れかのエステル、または、ペルフルオロオクタンを、有効量をもって被験体に投与するステップを含む治療法を提供する。好ましくは、被験体は、脂質代謝活性もしくは脂質結合活性、例えば、シクロオキシゲナーゼ(例えば、シクロオキシゲナーゼIまたはシクロオキシゲナーゼII)、フォスフォリパーゼAもしくはリポキシゲナーゼの活性を減少させる必要があり、化合物は、そのような活性に対する阻害剤である。例えば、炎症、過敏症、喘息及び幾つかの血管疾患にはリポキシゲナーゼの不適切な活性が関与している可能性があり、従って、リポキシゲナーゼ活性を減少させることは、そのような症状にとって有用である可能性がある。
【0013】
別に、被験体は、そのような活性の上昇を必要としており、化合物は、そのような活性の促進剤であってもよい。
【0014】
被験体および化合物に関するさらに詳細な好ましい条件を下記に示す。
【0015】
本化合物は、互変異性(tautomerism)を示してもよい。その、全ての互変異性体(tautomeric forms)および混合物は、本発明の範囲に含められる。
【0016】
本化合物はまた、1個以上の不斉(asymmetric)炭素原子を含み、従って光学的及び/またはジアステレオ異性を示すものであってもよい。ジアステレオ異性体は、従来の技術、例えば、クロマトグラフィーまたは画分結晶化によって分離することが可能である。各種立体異性体は、化合物のラセミ(racemic)またはその他の混合物を、従来の、例えば、画分結晶化またはHPLC技術を用いることによって単離することが可能である。別法として、好みの光学的異性体は、適当な光学的活性を持つ開始物質を、ラセミ化またはエピマー化を起こさないような条件下で反応させることによって、または、例えば、ホモキラル酸で誘導体形成をして、その後に従来の手段(例えば、HPLCまたはシリカによるクロマトグラフィー)によってジアステレオマーエステル(diastereomeric esters)を分離することによって製造が可能である。全ての立体異性体は本発明の範囲に含められる。
【0017】
ある実施態様では、ペルフルオロオクタン、ペルフルオロオクタン酸およびペルフルオロヘプタン酸は直鎖であるが、これは必須と考えられていない。例えば、ペルフルオロオクタン、ペルフルオロオクタン酸およびペルフルオロヘプタン酸は、少なくとも50%、60、70、80、90または95%直鎖であってもよく、例えば、75%直鎖または100%直鎖であってもよい。
【0018】
「エステル」という用語の含むものは、化学式R1OHのアルコールであって、R1がアリルまたはアルキルを表すアルコールによって形成されるエステル、および、化学式R1SHのチオールであって、R1が上に定義した通りであるチオールによって形成されるエステル(すなわち、チオエステル)である。エステルはチオエステルでないのが好ましい。ある実施態様では、R1はC1-6アルキル、例えば、C1アルキル(例えば、メチル)を表す。
【0019】
「塩」という用語の含むものは、例えば、アンモニアのような窒素含有塩基、アルキルアミン、ジアルキルアミン、トリアルキルアミンおよびピリジンによって形成される塩、または、アルカリまたはアルカリ土類金属塩(例えば、Na、K、Cs、MgまたはCa塩)である。
【0020】
好ましい化合物は、製薬学的に受容可能なものである。
【0021】
本明細書で使用する「アリル(aryl)」という用語は、フェニル、ナフチル等のC6-10アリル基を含む。アリル基は、−OH、シアノ、ハロ、ニトロ、アミノ、アルキルおよびアルコキシを含む1種以上の置換基によって置換されてもよい。置換される場合、アリル基は、好ましくは、1個と3個の間の置換基によって置換される。
【0022】
本明細書で使用するアルキルという用語は、1から16個の炭素原子、好ましくは1から10個の(例えば、1から6個の)炭素原子から成るアルキル基を指す。
【0023】
本明細書で使用するアルコキシという用語は、1から16個の炭素原子、好ましくは1から10個の(例えば、1から6個の)炭素原子から成るアルコキシ基を指す。
【0024】
アルキルおよびアルコキシ基は、本明細書の定義するところでは、直鎖であってよく、または、十分な数(すなわち、最低3個)の炭素原子がある場合には、分枝鎖および/または環状および/または複素環状であってもよい。さらに十分な数(すなわち、最低4個)の炭素原子がある場合には、このアルキルおよびアルコキシ基は、一部環状/一部非環状であってもよい。さらに、このアルキルおよびアルコキシ基は、飽和していてもよいし、十分な数(すなわち、最低2個)の炭素原子がある場合には、不飽和でも、および/または、1個以上の酸素および/または硫黄原子によって中断させられてもよい。アルキルおよびアルコキシ基はまた、1個以上のハロ原子、特にフッ素原子によって置換されてもよい。
【0025】
本明細書で使用する「ハロ」という用語は、フルオロ、クロロ、ブロモおよびイオドを含む。
【0026】
本明細書で使用する場合、アルキルアミン、ジアルキルアミンおよびトリアルキルアミンという用語は、それぞれ、本明細書で定義する通りの、1個の、2個の、または、3個のアルキル基を有するアミン類を指す。
【0027】
本明細書で用いるアルキレンという用語は、1から20個の、好ましくは2から17個(例えば6から12個)の炭素原子から成るアルキレン基を指す。アルキレン基は、直鎖であってよく、または、十分な数(すなわち、最低、場合に応じて適当に2または3個)の炭素原子がある場合には、分枝鎖および/または環状および/または複素環状であってもよい。さらに、十分な数(すなわち、最低4個)の炭素原子がある場合には、このアルキレン基は一部環状/一部非環状であってもよい。さらに、このアルキレン基は、飽和していてもよいし、十分な数(すなわち最低2個)の炭素原子がある場合には、不飽和にされ、並びに/または、1個以上の酸素及び/もしくは硫黄原子が挿入(interrupted)されてもよい。
【0028】
特に好ましい化合物は、下記のグループの一員であってもよく、あるいは、一員を含んでもよい。
【0029】
ペルフルオロヘプタン酸、ペルフルオロヘキサン酸、ペルフルオロオクタン酸、ペルフルオロスベリン酸、ペルフルオロペンタン酸、ペルフルオロブタン酸、ペルフルオロプロパン酸、ペルフルオロヘプタン酸メチル、ペルフルオロヘキサン酸メチル、ペルフルオロオクタン酸メチル、ペルフルオロペンタン酸メチル、ペルフルオロブタン酸メチル、ペルフルオロプロピオン酸メチル、及び、ペルフルオロスベリン酸ジメチル。
【0030】
化合物は、適当であれば、どの供給業者からでも、例えば、3M、Sigma、DuPont、MiteniまたはDyneonから入手してもよい。
【0031】
APFOの化学式はCF3(CF2)6COONH4+(オクタン酸、ペンタデカフルオロ-、アンモニウム塩、C-8, FC-143, CAS登録番号3825-26-1)である。これは、DuPont(DuPont Chemical Solutions Enterprise, DuPont-Strasse 1, D-61343 Bad Homburg、ドイツ)から入手することが可能である。APFOの一般的な共存物質としては、ペルフルオロヘプタン酸アンモニウム(CAS 6130-43-4)、ペルフルオロヘキサン酸アンモニウム(CAS 68259-11-0)、ペルフルオロペンタン酸アンモニウム(CAS 21615-47-4)、および、一般名ペルフルオロイソオクタン酸アンモニウム、ペルフルオロイソヘプタン酸アンモニウム、ペルフルオロイソヘキサン酸アンモニウム、および、ペルフルオロイソペンタン酸アンモニウムで知られる分枝鎖同族体が挙げられる。APFO調剤によって実施例1で観察された作用は、APFOそのものの投与で生ずると考えられようが、1種以上の共存物質、例えば、前述の可能な共存物質の1種以上のものが、観察された作用に貢献している可能性がある。実施例2において論ずるように、100%直鎖APFOの方が、例えば、75%直鎖のAPFOよりも強力である可能性がある。
【0032】
化合物は代謝的に安定していることが好ましい。例えば、化合物は、ペルフルオロオクタン酸にたいするものと近似の代謝速度を持つことが好ましい。化合物は、代謝的に安定な脂質様物質と考えてもよい。エステルまたは塩が遊離酸となる代謝は受容可能である。
【0033】
本発明のさらに別の局面は、ペルフルオロオクタン酸、その塩(好ましくはアンモニウム塩以外、好ましくは、75%直鎖アンモニウム塩以外)もしくはそのエステル、または、ペルフルオロスベリン酸、ペルフルオロヘプタン酸、ペルフルオロヘキサン酸、ペルフルオロペンタン酸、ペルフルオロブタン酸、ペルフルオロプロピオン酸、それら何れかの塩もしくはそれら何れかのエステル、または、ペルフルオロオクタンを使用する方法であって、体重を調節(好ましくは減少)するか、もしくは体重の増加を調節(好ましくは防止もしくは低減)する必要があり、及び/または、血漿インスリン、血漿グルコース、血漿トリグリセリズ及び/もしくは血漿コレステロールを調節(好ましくは低下)する必要がある被験体の治療用薬剤を製造する使用方法を提供する。被験体は、(例えば、前述のパラメータ低下に関連して)太りすぎまたは肥満、高脂血症および/または動脈硬化、または、そのような状態を発現する危険性を有するものであってもよい。この危険性は、遺伝的要因、年齢、または、食事のような環境因子から生じたものであってもよい。
【0034】
被験体は、その他の、肥満症に関連する状態(単数または複数)、例えば、冠状動脈疾患、脳卒中、閉塞性睡眠時無呼吸、関節炎(例えば、変形性関節症)、および/または、生殖機能低下を患うものであってもよい。
【0035】
従って、本発明のさらに別の局面は、ペルフルオロオクタン酸、その塩(好ましくはアンモニウム塩以外、好ましくは、75%直鎖アンモニウム塩以外)もしくはそのエステル、または、ペルフルオロスベリン酸、ペルフルオロヘプタン酸、ペルフルオロヘキサン酸、ペルフルオロペンタン酸、ペルフルオロブタン酸、ペルフルオロプロピオン酸、それら何れかの塩もしくはそれら何れかのエステル、または、ペルフルオロオクタンを使用する方法であって、体重超過もしくは肥満であり、並びに/または、糖尿病、高脂血症、動脈硬化、冠状動脈疾患、脳卒中、閉塞性睡眠時無呼吸症、関節炎(例えば変形性関節症)及び/もしくは生殖機能低下を患っているか、または、そのような症状を発現するリスクがある被験体の治療用薬剤を製造する使用方法を提供する。
【0036】
本発明のさらに別の局面は、ペルフルオロオクタン酸、その塩(好ましくはアンモニウム塩以外、好ましくは、75%直鎖アンモニウム塩以外)もしくはそのエステル、または、ペルフルオロスベリン酸、ペルフルオロヘプタン酸、ペルフルオロヘキサン酸、ペルフルオロペンタン酸、ペルフルオロブタン酸、ペルフルオロプロピオン酸、それら何れかの塩またはそれら何れかのエステル、または、ペルフルオロオクタンを使用する方法であって、抗腫瘍剤もしくは抗炎症剤を必要とするか、または、脂質もしくはエイコサノイドの状態を調節する必要がある被験体の治療用薬剤を製造する使用方法を提供する。このような被験体に関する好ましい条件は、上述した通りである。
【0037】
当業者にはよく知られるように、肥満症は、体脂肪の過度の蓄積状態と記述してもよい。肥満症は、被験体の体質量示数(BMI)を定量することによって、および/または、「ピンチテスト」によって上腕皮下脂肪の蓄積を測定することによって判定することが可能である。BMIは、体重(キログラムで表す)を、メートルで表した身長の平方で割った値と定義される。25-30のBMIは太りすぎであり、30を越えるものは肥満症であると考えられる。治療によって、BMIが約29から31未満、または、太りすぎによる健康障害の危険度がもはや重大な意味を持たない点まで低下することが好ましい。
【0038】
本発明の治療を、関連状態にたいする他の治療と組み合わせて使用することが可能であることが了解されよう。例えば、肥満症に関して言えば、被験体は、カロリー制限食餌に従うか、および/または、肉体運動プログラムを順守してもよい。
【0039】
薬剤は、表示の化合物の内の1種を越えるもの(例えば、2種)を含んでもよい。薬剤は、薬剤前駆物質、例えば、被験体にその薬剤を投与した後に、必要な生物活性を持つ分子に変換される、そのような分子を含んでもよい。
【0040】
本化合物は、糖尿病被験体の治療には特に有用である可能性がある。例えば、本化合物は、II型糖尿病の治療に有用である可能性がある。本化合物は、例えば、ペルフルオロオクタン酸、または、その塩(好ましくはアンモニウム塩以外、好ましくは、75%直鎖アンモニウム塩以外)、または、そのエステル(例えばメチルエステル)、また、ペルフルオロヘプタン酸またはその塩またはそのエステル、ペルフルオロヘキサン酸またはその塩またはそのエステル、ペルフルオロペンタン酸またはその塩またはそのエステル、または、ペルフルオロオクタンであってもよい。I型糖尿病では、本化合物は、対インスリン感作物質として有用であり、従って、投与されるインスリンの用量を低下させ、そのためにコストを下げ、インスリン投与の副作用を潜在的に低下させる可能性がある。既存の抗糖尿病剤、例えば、チアゾリジンジオンクラスの薬剤は、体重増加を促進する有害な作用を有することがある。本化合物(特にペルフルオロオクタン酸およびペルフルオロオクタン酸メチル)は、体重増加を阻止する好ましい作用を有するのと同様、抗糖尿病剤としても有用と考えられている。
【0041】
本発明の化合物は、いくつかの異常、例えば、糖尿病、肥満症および高脂血症の同時治療に有用である可能性がある。従って、これらの状態(これらは一緒に起こることが多い)を抱える被験体を、単一の化合物または製剤で治療することが可能である。このことは、被験体の協力、薬剤相互作用の回避、処方と市販の簡便性に関連して有益であろう。
【0042】
被験体は哺乳動物であることが好ましく、もっとも好ましいのはヒトで、より好ましくないのは家畜、例えば、ペットとしてまたは農業で飼育されている動物、例えば、ウマ、ウシ、ネコまたはイヌである。
【0043】
本化合物は、その化合物を哺乳動物に投与した後、投与前レベルにたいして、または、その化合物を投与されたことがない対照哺乳動物にたいして、その哺乳動物において、血漿インスリンレベルが調節される(好ましくは、低下させられる)ことが好ましい。実施例1に記載されるように、本化合物を雄Fischer344ラットに投与した後、そのラットにおいて血漿インスリンレベルが調節される(例えば、低下させられる)(例えば対照動物にたいして)ことが特に好ましい。低下は、哺乳動物(好ましくはラット)にたいする化合物の初回投与後の任意の時点で見出されれば、それで十分であるが、そのような低下が、化合物の初回投与後少なくとも7日間認められれば(すなわち、出現または持続すれば)、それは好ましい。少なくとも1、2、5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75または80%の、インスリンレベルの低下が達成されることが好ましい。
【0044】
比較測定は、動物において摂食の実質的に同じ段階で、すなわち、食物の摂取後、一日の同じ時間、または、実質的に同じ時間において為されることは了解されよう。
【0045】
哺乳動物がラットの場合には、化合物を、食物にたいして30と5000または3000ppmの間のレベルにおいて、好ましくは約50と500ppmの間において、さらに好ましくは約300ppmにおいて投与した後に、血漿インスリンレベルが調節される(好ましくは低下させられる)のが好ましい。試験は、実施例1に記載される方法および条件を用いて実施されるのが好ましい。インスリンレベルの変化は、哺乳動物の行動/活動において、何の有害な臨床症状または変化を伴うことがないことが好ましい。従って、動物は、標準の臨床的化学分析、血圧および/または眩暈に関連して観察することが可能である。従って、本化合物を、動物にたいして重大な副作用を起こさない量で投与した後、インスリンレベルが調節されている(好ましくは低下される)ことが好ましい。
【0046】
当業者には既知のように、一つの化合物、または、化合物の任意の投与量について、1匹を越える動物について試験を実施してよい。
【0047】
別に、または、さらにその他に、本化合物を哺乳動物に投与した後、投与前レベルにたいして、または、その化合物を投与されたことがない対照哺乳動物にたいして、血漿コレステロール、グルコース、および/または、トリグリセリドのレベルが調節される(好ましくは、低下させられる)ことが好ましい。インスリンレベルの調節(例えば、低下)に関連して上述した好みの条件は、血漿コレステロール、グルコースおよびトリグリセリドのレベルに関しても同様に適用される。別に、または、さらにその他に、本化合物を哺乳動物(特に、特定部位または組織)に投与した後、投与前レベルにたいして、または、その化合物を投与されたことがない対照哺乳動物にたいして、エイコサノイド状態(すなわち、タイプまたは濃度)が調節されて(好ましくは、低下させられて)もよい。
【0048】
別に、または、さらにその他に、本化合物を哺乳動物に投与した後、投与前レベル(体重の)にたいして、または、その化合物を投与されたことがない対照哺乳動物(体重または体重増加について)にたいして、体重または体重増加が調節される(好ましくは、低下させられる)ことが好ましい。インスリンレベルの調節(例えば低下)に関連して上に示した好みの条件は、体重または体重増加の調節(例えば低下)に関しても同様に適用される。
【0049】
食物消費(単位体重当たりに消費された食物の重量として表される)は、哺乳動物にたいする化合物の投与後、投与前レベルと比べて、または、その化合物を投与されたことがない対照哺乳動物に比べて、増加してもよい。増加は、化合物の投与直後には見えないことがある。初期の減少が見られ、その後に増加も続くことがある。
【0050】
理論に拘束されることは望まないが、上に定義された化合物は、ペルオキシソーム増殖剤応答性受容体(PPAR)、例えば、PPARα、PPARδまたはPPARγに結合し(Kliewer et al. (1994) PNAS, 91, 7355-7359、Gelman et al. (1999) Cell Mol. Life Sci. 55, 932-943による総覧;Kersten et al. (2000) Nature 405, 421-424;および、Issemann & Green (1990) Nature 347, 645-650)、PPARの作用剤または拮抗剤である可能性があると考えられている。本化合物は、ペルオキシソーム増殖剤応答性受容体(PPAR)、例えば、PPARα、PPARδまたはPPARγに結合することが好ましい。さらに、化合物は、PPARα、PPARδまたはPPARγの調節剤、例えば、PPARα、PPARδまたはPPARγの拮抗剤または作用剤、または部分的作用剤(適用する化合物の量の如何を問わず、受容体集団の最大活性化を誘発できない化合物と定義される)であることが好ましい。化合物は、PPARαまたはPPARγの作用剤または部分的作用剤、またはPPARδの拮抗剤であることが特に好ましい。化合物が、PPARに結合するかどうか、並びに/または、PPARの調節剤であるかどうか、例えば、作用剤であるか、部分的作用剤であるか、拮抗剤であるかどうかを確定するためには、適当なものであればどのような方法を用いてもよい。
【0051】
またしても理論に拘束されることは望まないが、上に定義される化合物は、脂質代謝もしくは脂質結合物質、例えば、シクロオキシゲナーゼ、例えば、COXIまたはCOXIIに、または、フォスフォリパーゼA、例えば、フォスフォリパーゼA2に、または、リポゲナーゼに結合し、また、そのような物質の活性(活性化の程度を含めて)の調節剤、例えば活性剤または抑制剤である可能性がある。本化合物は、脂質代謝酵素、例えば、シクロオキシゲナーゼ、例えば、COXIまたはCOXIIに結合することが好ましい。本化合物は、脂質代謝酵素、例えば、シクロオキシゲナーゼ、例えば、COXIまたはCOXII活性の調節剤であればさらに好ましい。化合物が、脂質結合もしくは脂質代謝物質に結合するかどうか、並びに/または、その物質の調節剤であるかどうか、例えば、活性剤であるか、抑制剤であるかを確定するためには、適当なものであればどのような方法を用いてもよい。
【0052】
本発明のさらに別の局面は、ペルフルオロオクタン酸、その塩(好ましくはアンモニウム塩以外、好ましくは、75%直鎖アンモニウム塩以外)もしくはそのエステル、または、ペルフルオロスベリン酸、ペルフルオロヘプタン酸、ペルフルオロヘキサン酸、ペルフルオロペンタン酸、ペルフルオロブタン酸、ペルフルオロプロピオン酸、それら何れかの塩もしくはそれら何れかのエステル、または、ペルフルオロオクタンを使用する方法であって、PPAR(例えば、PPARα、PPARδ(またβとも呼ばれる)またはPPARγ)の活性を調節する必要がある被験体の治療用薬剤を製造する使用方法を提供する。前述したように、被験体は、PPAR(好ましくはPPARαおよび/またはPPARγ)活性の増大を必要とし、化合物はPPAR(例えば、PPARαまたはγ)作用剤であることが好ましい。別態様として、前述したように、被験体は、PPAR(好ましくはPPARδ)活性の減少を必要とし、化合物はPPAR(例えばPPARδ)拮抗剤である。
【0053】
本発明のさらに別の局面は、ペルフルオロオクタン酸、その塩(好ましくはアンモニウム塩以外、好ましくは、75%直鎖アンモニウム塩以外)もしくはそのエステル、または、ペルフルオロスベリン酸、ペルフルオロヘプタン酸、ペルフルオロヘキサン酸、ペルフルオロペンタン酸、ペルフルオロブタン酸、ペルフルオロプロピオン酸、それら何れかの塩もしくはそれら何れかのエステル、または、ペルフルオロオクタンを使用する方法であって、脂質代謝物質の活性、例えば、シクロオキシゲナーゼ(例えばシクロオキシゲナーゼIもしくはシクロオキシゲナーゼII)の活性、フォスフォリパーゼA(例えばフォスフォリパーゼA2)の活性、または、リポオキシゲナーゼの活性を調節する必要がある被験体の治療用薬剤を製造する使用方法を提供する。
【0054】
本発明のさらに別の局面は、薬剤様化合物(drug-like compound)、または、薬剤様化合物を作製するためのリード化合物(lead compound)を特定するためのスクリーニング方法であって、(1)ペルフルオロオクタン酸、その塩(好ましくはアンモニウム塩以外、好ましくは、75%直鎖アンモニウム塩以外)もしくはそのエステル、または、ペルフルオロスベリン酸、ペルフルオロヘプタン酸、ペルフルオロヘキサン酸、ペルフルオロペンタン酸、ペルフルオロブタン酸、ペルフルオロプロピオン酸、それら何れかの塩もしくはそれら何れかのエステル、または、ペルフルオロオクタンに、哺乳動物を曝すステップと、(2)その哺乳動物について血漿のインスリン、グルコース、コレステロールもしくはトリグリセリドのレベルを測定し、並びに/または、その哺乳動物について体重を測定し、並びに/または、その哺乳動物について脂質もしくはエイコサノイドの状態(すなわち、少なくとも1種の脂質もしくはエイコサノイドの、タイプ及びレベル)もしくは作用(例えば、その哺乳動物に関し、脂質もしくはエイコサノイドに対する反応性の程度によって評価される)を測定するステップとを含むスクリーニング方法を提供する。
【0055】
好ましくは、前記方法は、化合物に哺乳動物を曝したとき、その哺乳動物について血漿のインスリン、グルコース、コレステロール及び/もしくはトリグリセリドのレベルが変化、好ましくは低下し、並びに/または、体重または体重の増加が変化、好ましくは低下するような化合物を選択するステップを含む。本発明のこの局面における好ましい条件は、インスリン、コレステロール、グルコースもしくはトリグリセリドのレベルに及ぼす効果、または、体重に対する効果を調べることに関して上述した条件を含む。例えば、哺乳動物はげっ歯動物、例えば、ラットまたはマウス、または、その他の実験動物、例えば、イヌであることが好ましい。
【0056】
本発明のさらに別の局面は、薬剤様化合物、または、薬剤様化合物を作製するためのリード化合物を特定するためのスクリーニング方法であって、(1)ペルフルオロオクタン酸、その塩(好ましくはアンモニウム塩以外、好ましくは、75%直鎖アンモニウム塩以外)もしくはそのエステル、または、ペルフルオロスベリン酸、ペルフルオロヘプタン酸、ペルフルオロヘキサン酸、ペルフルオロペンタン酸、ペルフルオロブタン酸、ペルフルオロプロピオン酸、それら何れかの塩もしくはそれら何れかのエステル、または、ペルフルオロオクタンに、哺乳動物を曝すステップと、(2)その哺乳動物について血漿のインスリン、グルコース、コレステロールもしくはトリグリセリドのレベルを測定し、並びに/または、その哺乳動物について体重を測定し、並びに/または、その哺乳動物について脂質もしくはエイコサノイドの状態(すなわち、少なくとも1種の脂質もしくはエイコサノイドの、タイプ及びレベル)もしくは作用(例えば、その哺乳動物に関し、脂質もしくはエイコサノイドに対する反応性の程度によって評価される)を測定するステップとを含むスクリーニング方法を提供する。
【0057】
本発明のさらに別の局面は、薬剤様化合物、または、薬剤様化合物を作製するためのリード化合物を特定するためのスクリーニング方法であって、(1)ペルフルオロオクタン酸、その塩(好ましくはアンモニウム塩以外、好ましくは、75%直鎖アンモニウム塩以外)もしくはそのエステル、または、ペルフルオロスベリン酸、ペルフルオロヘプタン酸、ペルフルオロヘキサン酸、ペルフルオロペンタン酸、ペルフルオロブタン酸、ペルフルオロプロピオン酸、それら何れかの塩もしくはそれら何れかのエステル、または、ペルフルオロオクタンを、PPARポリペプチドにさらすステップと、(2)PPARポリペプチドに対する化合物の結合度を測定するか、または、PPARポリペプチドの活性変化を測定するステップとを含むスクリーニング方法を提供する。化合物についてPPARポリペプチドに対する結合度、または、PPARポリペプチドの活性に及ぼす作用を測定するのに好適な方法は、例えば、実施例1または米国特許第6,028,109号に記載される。この方法は、PPARポリペプチドに結合し、並びに/または、PPARポリペプチドの活性、例えば核酸結合活性及び/もしくは転写因子活性を変えるような化合物を選択するステップを含む。選択された化合物は、PPARαまたはPPARγ活性を増大させる、すなわち、PPARαまたはPPARγ作用剤として活動する、または、PPARδ活性を減少させる、すなわち、PPARδ拮抗剤として活動することが好ましい。
【0058】
本発明のさらに別の局面は、薬剤様化合物、または、薬剤様化合物を作製するためのリード化合物を特定するためのスクリーニング方法であって、(1)ペルフルオロオクタン酸、その塩(好ましくはアンモニウム塩以外、好ましくは、75%直鎖アンモニウム塩以外)もしくはそのエステル、または、ペルフルオロスベリン酸、ペルフルオロヘプタン酸、ペルフルオロヘキサン酸、ペルフルオロペンタン酸、ペルフルオロブタン酸、ペルフルオロプロピオン酸、それら何れかの塩もしくはそれら何れかのエステル、または、ペルフルオロオクタンを、例えばシクロオキシゲナーゼ(例えばシクロオキシゲナーゼIもしくはシクロオキシゲナーゼII)もしくはフォスフォリパーゼA(例えばフォスフォリパーゼA2)などの脂質代謝もしくは脂質結合物質にさらすステップと、(2)脂質代謝もしくは脂質結合物質に対する化合物の結合度を測定するか、または、脂質代謝もしくは脂質結合物質の活性の変化を測定するステップとを含むスクリーニング方法を提供する。化合物の、脂質代謝もしくは脂質結合物質に対する結合度、または、脂質代謝もしくは脂質結合物質の活性に及ぼす作用を測定するのに適当な方法は、当業者にはよく知られている。前述したように、例えば、米国特許第6,028,109号に記載されるものと同様の方法は好適である可能性がある。本方法は、脂質代謝もしくは脂質結合物質に結合し、並びに/または、脂質代謝もしくは脂質結合物質の活性を変え、例えば、適当なリン脂質(フォスフォリパーゼA)からのアラキドン酸の生成、もしくは、アラキドン酸(シクロオキシゲナーゼ)からのプロスタグランジンの生成を変えるような化合物を選択するステップを含んでもよい。前記選択された化合物は、好ましくは、酵素もしくは結合活性を減少させ、すなわち、酵素または結合活性の阻害剤として作用する。
【0059】
本発明のスクリーニング方法は、試験化合物によって達成された作用を、上に示したAPFOまたはPFOAまたは好ましい特性を持つその他の化合物によって達成された作用と比較することを含んでもよい。本発明のスクリーニング方法は、試験化合物が、上に示したAPFOまたはPFOAまたは好ましい特性を持つその他の化合物と競合可能かどうか、例えば、試験化合物が、PPARポリペプチド例えばPPARα、または、他の脂質代謝もしくは脂質結合物質、例えば、COXI、COXII、または、フォスフォリパーゼA2にたいする結合において、APFOまたはPFOAと競合可能かどうか、を決定することを含んでもよい。
【0060】
有用なスクリーニング方法(例えば、試験化合物の作用を、上に示したAPFOまたはPFOA,または、好ましい特性を持つその他の化合物の作用と比較する方法)としてはさらに、脂質変位試験、細胞(例えば、脂肪細胞)分化試験またはその他の表現型試験、インスリン感作試験、抗炎症性篩い分け、または、エイコサノイド生合成にたいする作用研究が挙げられる。化合物は、上述したような興味の状態、例えば、肥満症、糖尿病、高脂血症または発ガンを研究するのに有用な動物モデルで試験してもよい。このようなモデルとしては、当業者には知られるように、肥満症(ob/ob)または糖尿病(db/db)マウス、APC/minマウス、BBラット、または、ヒト腫瘍移植モデルが挙げられる。
【0061】
本発明のさらに別の局面は、薬剤様化合物、または、薬剤様化合物を作製するためのリード化合物を特定するためのスクリーニング方法であって、(1)ペルフルオロオクタン酸、その塩(好ましくはアンモニウム塩以外、好ましくは、75%直鎖アンモニウム塩以外)もしくはそのエステル、または、ペルフルオロスベリン酸、ペルフルオロヘプタン酸、ペルフルオロヘキサン酸、ペルフルオロペンタン酸、ペルフルオロブタン酸、ペルフルオロプロピオン酸、それら何れかの塩もしくはそれら何れかのエステル、または、ペルフルオロオクタンに、細胞を曝すステップと、(2)細胞の表現型(例えば分化)及び/または細胞におけるエイコサノイドの生合成を測定するステップとを含むスクリーニング方法を提供する。本方法は、細胞を化合物に曝したときに、細胞の、例えば分化などの表現型が変化し、及び/または、細胞におけるエイコサノイドの生合成が変化、好ましくは低減するような化合物を選択するステップを含むことが好ましい。
【0062】
このスクリーニング方法は、糖尿病、肥満症、高コレステロール血症及び/もしくは高脂血症を治療するための薬剤様化合物、または、薬剤様化合物を作製するためのリード化合物を特定するために有用である可能性がある。
【0063】
本方法は、化合物が、例えば、体重または体重増加、血漿インスリン、グルコース、コレステロールおよび/またはトリグリセリドのレベルに変化を引き起こすのに十分な濃度において、有毒であるかまたは発ガン性があるかどうかを判断するステップをさらに含んでもよい。このような方法は当業者にはよく知られているであろう。
【0064】
本化合物は、本発明のスクリーニング方法以上のものにおいても好適に試験することが可能であることが了解されよう。例えば、化合物は、PPARポリペプチドにたいするその作用、および、投与された哺乳動物にたいするその作用について試験されてもよい。本化合物の毒性または発ガン性についても判断されてよい。
【0065】
「薬剤様化合物(drug-like compound)」という用語は当業者にはよく知られているが、医学において、例えば治療薬における活性成分として、使用するのに好適な特性を持つ化合物という意味を含んでもよい。従って例えば、薬剤様化合物は、有機化学技術によって、より好適度は劣るが分子生物学または生化学の技術によって合成される分子であってよく、好ましくは、5000ダルトン未満の分子量を持つ小型分子である。薬剤様化合物はさらに、ある特定の一つ乃至複数のタンパク質と選択的相互作用を持つ特性を示し、バイオアベイラビリティを有し、および/または、細胞膜を貫通することが可能であるが、これらの特性は必須ではないことは了解されよう。
【0066】
「リード化合物(lead compound)」という用語も同様に当業者にはよく知られているが、化合物が、それ自体は薬剤として使用するには好適ではないが(例えば、意図する標的にたいして効力がごく弱い、その作用が非選択的である、不安定である、合成が難しい、または、バイオアベイラビリティが低いという理由で)、より好ましい特性を持つ可能性のあるその他の化合物の設計において出発点となる、という意味を含んでもよい。
【0067】
次に、この「リード」化合物は、例えば、効力、選択性/特異性、および、薬理動態特性を改良することによってさらに効力の高い化合物を開発するために、構造/活性関係を確定するための分子モデル化および/または実験によって発達させることが可能である。
【0068】
この方法は、インビトロ(in vitro)で、無傷の細胞または組織で(例えば、肝臓細胞または脂肪細胞)、破壊された細胞または組織標本において、または、少なくとも部分的に精製された成分において実行することが可能である。別に、この方法は、インビボ(in vivo)で実行することも可能である。その中において、または、その上において、本用法または方法が実行される細胞組織または生物は、トランスジェニック(transgenic)であってもよい。特に、PPARポリペプチドまたは脂質代謝または脂質結合物質についてトランスジェニックであってもよい。
【0069】
当業者には知られているように、PPAR(例えばPPARα、βまたはγ)または脂質代謝または脂質結合物質をエンコードするポリヌクレオチドを、PPARの変異型をコードするように、例えば、挿入、欠失、置換、切捨てまたは融合によって突然変異させることが可能であることが了解されよう。PPAR、または、脂質代謝もしくは脂質結合物質は、その生物学的振舞い、例えば、その状況に応じて、核酸結合または転写因子活性または脂質代謝または脂質結合活性に実質的に影響を及ぼすようなやり方で変異されないことが好ましい。
【0070】
下記の参考文献は、PPARの配列と組織分布に関する。Auboeuf et al. (1997) Diabetes 46(8), 1319-1327; Braissant et al. (1996) Endocrinol. 137(1), 354-366; Mukherjee et al. (1994) J. Steroid Biochem. Mol. Biol. 51, 157-166; Mukerjee et al. (1997) J. Biol. Chem. 272, 8071-8076.
【0071】
下記の参考文献およびGenBankアクセス番号は、上に示したポリペプチドの配列および/または組織分布に関する。
【0072】
U63846ヒトCOX-1 cDNA (PTSG1); Hla (1996) Prostaglandins 51, 81-85. NM000963ヒトCOX2 cDNA (PTSG2); Hla & Neilson (1992) PNAS 89(16), 7384-7388; Jones et al. (1993) J. Biol. Chem. 268(12), 9049-9054; Appleby et al. (1994) Biochem. J. 302, 723-727; Kosaka et al. (1994) Eur. J. Biochem. 221(3), 889-897.
AF306566ヒトフォスフォリパーゼA2 (分泌形);Valentin et al. (2000) Biochem. Biophys. Res. Commun. 279(1), 223-228.
NM021628ヒトリポゲナーゼALOXE3
XM005818ヒトリポキシゲナーゼALOXE5
XM008328ヒトリポケゲナーゼALOX12
NM001141ヒトリポケゲナーゼALOX15;Brash et al. (1997)PNAS 94(12), 6148-6152
NM005090およびNM003706ヒトフォスフォリパーゼA2(cPLA2-ガンマ)、Underwood et al. (1998) J. Biol. Chem. 273(34), 21926-21932およびPickard et al. (1999) J. Biol. Chem. 274(13), 8823-8831.
M68874ヒトフォスフォリパーゼA2(cPLA2)、Sharp et al. (1991) J. Biol. Chem. 266(23), 14850-14853.
【0073】
このような化合物は、スクリーニングで使用されるPPARポリペプチドの作用剤または拮抗剤であってもよいこと、また、スクリーニングの意図は、たとえそのスクリーニングが、活性試験、例えば、転写因子活性または核酸(例えば、DNA)結合活性を利用するもの、ではなく、結合試験であるとしても、PPARの作用剤または拮抗剤として作用する化合物を特定することにあるということが了解されよう。PPARポリペプチドに結合することが判明した化合物の作用は、その化合物の存在下に、転写因子活性または核酸結合活性の試験を実行することによって確認が可能であることも了解されよう。
【0074】
同様に、このような化合物は、スクリーニングで使用される脂質代謝もしくは脂質結合物質の阻害剤または活性剤であってもよいこと、また、スクリーニングの意図は、仮令そのスクリーニングが、活性試験、例えば、脂質代謝活性、例えば、COXIまたはCOXIIについてアラキドン酸からプロスタグランジンの生産を利用するもの、ではなく、結合試験であるとしても、PPARの阻害剤または活性剤として作用する化合物を特定することにあるということが了解されよう。脂質代謝もしくは脂質結合物質に結合することが判明した化合物の作用は、その化合物の存在下に、適当な酵素または結合活性の試験を実行することによって確認が可能であることも了解されよう。
【0075】
試験は、「高い処理能力」方式で実行できることが好ましい。このためには、試験を相当程度自動化すること、および、個々の試験に必要とされる特定の一つ乃至複数の試薬について量を最小化することが必要となり得る。当業者には既知のシンチレーション接近試験(SPA)システムは有利である可能性がある。試験される化合物の生成にはコンビナトリアルケミストリー(combinatorial chemistry)技術の使用が可能である。
【0076】
本発明のさらに別の局面は、スクリーニングのためのキット(a kit of parts)であって、(1)ペルフルオロオクタン酸、その塩(好ましくはアンモニウム塩以外、好ましくは、75%直鎖アンモニウム塩以外)もしくはそのエステル、または、ペルフルオロスベリン酸、ペルフルオロヘプタン酸、ペルフルオロヘキサン酸、ペルフルオロペンタン酸、ペルフルオロブタン酸、ペルフルオロプロピオン酸、それら何れかの塩もしくはそれら何れかのエステル、または、ペルフルオロオクタン;(2)PPARポリペプチド、もしくは、PPARポリペプチドをエンコード(encoding)するポリヌクレオチド、並びに/または、試験用哺乳動物を含むキットを提供する。本キットは、要すれば随意に、血漿のインスリン、グルコース、トリグリセリド及び/もしくはコレステロールのレベルを測定するのに有用か、または、PPAR活性、例えば核酸結合度を測定するのに有用な試薬を含んでもよい。このような試薬は、当業者には明らかであるが、トランス活性化試験(transactivation assays)またはDNA結合試験(DNA binding assays)を実行するのに有用な試薬を含んでもよい。適当な試薬は、実施例1に記述されるものを含む。
【0077】
本発明のさらに別の局面は、スクリーニングのためのキットであって、(1)ペルフルオロオクタン酸、その塩(好ましくはアンモニウム塩以外、好ましくは、75%直鎖アンモニウム塩以外)もしくはそのエステル、または、ペルフルオロスベリン酸、ペルフルオロヘプタン酸、ペルフルオロヘキサン酸、ペルフルオロペンタン酸、ペルフルオロブタン酸、ペルフルオロプロピオン酸、それら何れかの塩もしくはそれら何れかのエステル、または、ペルフルオロオクタン;(2)脂質代謝もしくは脂質結合物質(例えば、COXI、COXII、フォスフォリパーゼA2もしくはリポキシゲナーゼ)、または、脂質代謝もしくは脂質結合物質をエンコードするポリヌクレオチドを含むキットを提供する。本キットは、要すれば随意に、血漿のインスリン、グルコース、トリグリセリド及び/もしくはコレステロールのレベルを測定するのに有用か、または、脂質代謝もしくは脂質結合物質の活性を測定するのに有用な試薬、例えば、脂質代謝もしくは脂質結合物質の基質(例えば、COXIIまたはリポオキシゲナーゼの場合におけるアラキドン酸)か、または、脂質代謝酵素の産物を測定するのに、例えばエイコサノイド生合成を評価するのに有用な試薬を含んでもよい。当業者にはよく知られているように、試薬は、標識リガンド(labeled ligand)、例えば、放射性標識もしくは蛍光標識されたリガンドを含んでもよい。リガンドの直接結合または変位が測定可能である。結合は、蛍光共鳴エネルギー転移(FRET)法によって測定が可能である。当業者にはよく知られているように、本キットは、要すれば随意に、細胞分化試験、例えば、脂肪細胞分化試験に有用な試薬を含んでもよい。
【0078】
本発明において有用な(例えば、上述の治療法において、あるいは、治療剤の製造において)ペルフルオロオクタン酸、または、その塩(好ましくはアンモニウム塩以外、好ましくは、75%直鎖アンモニウム塩以外)、または、そのエステル、また、ペルフルオロスベリン酸、ペルフルオロヘプタン酸、ペルフルオロヘキサン酸、ペルフルオロペンタン酸、ペルフルオロブタン酸またはペルフルオロプロピオン酸、または、その塩またはエステル、または、ペルフルオロオクタンは、上に示したようなスクリーニング法によって、関連する好ましい性質を持つものとして特定された化合物であることが好ましい。
【0079】
ペルフルオロオクタン酸、または、その塩(好ましくはアンモニウム塩以外、好ましくは、75%直鎖アンモニウム塩以外)、または、そのエステル、また、ペルフルオロスベリン酸、ペルフルオロヘプタン酸、ペルフルオロヘキサン酸、ペルフルオロペンタン酸、ペルフルオロブタン酸またはペルフルオロプロピオン酸、または、その塩またはエステル、または、ペルフルオロオクタン(例えば、本発明のスクリーニング法によって特定される、または、特定が可能である)はまた、食品サプリメントまたは食品添加物として使用される組成物の製造において利用されるように提供される。本発明はまた、食材および、ペルフルオロオクタン酸、または、その塩(好ましくはアンモニウム塩以外)、または、そのエステル、また、ペルフルオロスベリン酸、ペルフルオロヘプタン酸、ペルフルオロヘキサン酸、ペルフルオロペンタン酸、ペルフルオロブタン酸またはペルフルオロプロピオン酸、または、その塩またはエステル、または、ペルフルオロオクタン(例えば、本発明のスクリーニング法によって特定される、または、特定が可能である)とを含む食品であって、ただし、実験用げっ歯動物、例えば、ラットまたはマウスの飼料ではない食品に関連する。食物は、実験動物飼料でないことが好ましい。
【0080】
本食物(この用語は食品と食材を含む)は、動物(例えば、前述の家畜化動物であるが、実験用げっ歯動物ではない)またはヒト、例えば、成人、乳児または小児に投与するのに好適であることが好ましい。
【0081】
本化合物は、適当なものであればどのようなやり方で投与されてもよいが、通常は、非経口的に、例えば、静脈内、腹腔内または、嚢内に、希釈剤および担体(carriers)から成る標準的無菌の、非発熱性処方において投与することが可能である。本発明の化合物はまた、局所的に投与することも可能である。本発明の化合物はまた局所的に、例えば、注入によって投与することも可能である。本化合物は経口的に投与することが好ましい。本化合物は、錠剤またはカプセルとして、または、食物または飲み物に添加されるサプリメントとして投与してもよい。徐放性処方を用いることも可能である。
【0082】
本明細書に注記した参考文献は全て、引例として挙げることによって本明細書に含める。
【0083】
次に、本発明を、下記の、非限定的な図面と実施例を参照しながらさらに精しく説明する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0084】
実施例1:過フッ化化合物の生物学的作用
下記を実現するために様々な実験を行った。すなわち、
1.糖尿病および肥満症の治療における、特定の過フッ化化合物の治療効能を確定すること、
2.培養腫瘍細胞における、特定の過フッ化化合物の潜在的抗ガン活性を確定すること、
3.特定の過フッ化化合物と、ペルオキシソーム増殖剤応答性受容体(peroxisome proliferators activated receptors)との相互作用を確定すること、である。
【0085】
試験化合物
特定の過フッ化化合物の生物学的作用を、各種インビトロ(in vitro)およびインビボ(in vivo)実験を用いて評価した。試験した化合物は、塩(ペルフルオロオクタン酸アンモニウム)、8個の炭素原子を含む酸(ペルフルオロオクタン酸およびペルフルオロスベリン酸(ジカルボン酸))、7、5および3個の炭素原子から成る鎖長を持つ酸(それぞれ、ペルフルオロヘプタン酸、ペルフルオロペンタン酸およびペルフルオロプロピオン酸)、エステル(ペルフルオロオクタン酸メチル)およびアルカン(ペルフルオロオクタン)を含んでいた。ペルフルオロオクタン酸アンモニウムは3Mから入手した。その他の過フッ化化合物は全てSigmaから購入した。
【0086】
【表1】

【0087】
2. インビトロ実験
2.1 成長抑制実験
過フッ化化合物の、腫瘍細胞成長抑制に及ぼす作用を、3種のヒト腫瘍細胞系統を用いてインビトロにて評価した。ガン細胞系統を、スルフォローダミンB(SRB)試験法(細胞タンパクを測定し、細胞数に直接関わる)にて試験した。この試験は、国立ガン研究所/国立保健研究所(NIC/NIH)によって抗ガン剤スクリーニングに利用されているものである。
【0088】
2.1.1 実験計画および方法
HT-29細胞(ヒト大腸ガン由来)、MCF7細胞(ヒト乳ガン由来)およびPC3細胞(ヒト前立腺ガン由来)を採取し、5%FBS、2mMグルタミンおよび50μg/mlのゲンタマイシンを含むRPMI 1640培養液にて希釈した(それぞれ、ml当たり5x104個細胞、1x105個細胞、および、7.5x104個細胞)。ウェル当たり100μlの細胞懸濁液を、96ウェルプレートに加え、一晩放置して定着させた。試験化合物のDMSO溶液を、100μlの培養液に溶解して最終薬剤濃度が0, 0.3, 1, 3, 10, 30, 100, 300, 1000および3000μM(およびDMSOには0.25%)としたものに、細胞を暴露した(各薬剤濃度につきn=6)。48時間後、細胞を4oCで1-2時間10%三塩化酢酸(TCA)中にて固定し、水にて洗浄し、次に空気乾燥させた。1%酢酸に溶解させた100μl SRB溶液(0.4%)を各ウェルに加え、プレートを室温にて10分インキュベートした。未結合の染料を、1%酢酸で洗浄することによって除去した。プレートを空気乾燥し、結合染料を、10mMトリス塩基に溶解し、吸収を520nmにて読み取った。細胞成長の50%抑制(IC50)が達成された濃度を、Graphpad Prismソフトウェアにて計算し、表にまとめた。
【0089】
2.1.2 結果および討論
いくつかの化合物は、IC50値が3000μMに近いか、または、それを越えていて、成長抑制にたいしてほとんど作用を持たないことが判明した。それは、エステル誘導体(MPOA)、ジカルボキシル形(PFSA)および、鎖長が5以下の酸(PFPenAおよびPFPA)であった。他の化合物(APFO、PFOAおよびPFHA)は全てそのIC50値が200-600μMの範囲の中に入っていた。
【0090】
【表2】

【0091】
2.1.3 結論
本実験は、化合物のアンモニウム塩および酸形が、類似の濃度範囲において、一連のヒト腫瘍の成長を抑制するのに効果的であることを示した。化合物内部の炭素原子数も細胞成長に作用を及ぼしていた。すなわち、炭素原子数5以下は、細胞タンパクレベルにたいしてほとんど何の結果ももたらさなかった。ジカルボン酸およびメチルエステルも、その化合物に暴露されたガン細胞系統にたいして無毒であった。
【0092】
2.2 過フッ化化合物とPPARイソフォーム(PPAR Isoforms)との相互作用
化合物とPPARイソフォームとの相互作用を調べるために、ヒトPPARガンマおよびデルタ、および、ラットアルファcDNAを含むトランス活性化試験(transactivation assays)、および、ヒトPPARガンマによるリガンド結合試験(ligand binding assays)を実行した。
【0093】
2.2.1 PPARトランス活性化試験:実験計画および方法
COS-1細胞(アフリカミドリザル腎臓細胞)(10%加熱不活性化ウシ胎児血清、2mM L-グルタミン、ペニシリン(50IU/ml)、および、ストレプトマイシン(50μg/ml)を添加した、ダルベッコの修正イーグルス培養液(DMEM)にて培養したもの)を、ウェル当たり1.5x105個細胞の濃度で12ウェル組織培養皿にプレートし、37oCで一晩放置して定着させた。翌日、培養液を吸引除去し、細胞をPBS, pH7.4で洗浄し、100μlの一過性トランスフェクションカクテル(transient transfection cocktail)を各ウェルに加えた。このトランスフェクションカクテルは、PPARアルファ、デルタまたはガンマを担持するベクターDNA 25 ng、肝臓脂肪酸結合タンパクのPPAR反応要素およびホタルルシフェラーゼを含むプラスミドDNA 250 ng、および、トランスフクションの対照として、β-ガラクトシダーゼを含むベクター250 ngから構成された。陰性の対照として、細胞をリポーターベクターのみでトランスフェクト(transfect)させた。すなわち、細胞を、プラスミドDNAを全く含まないトランスフェクションカクテルに暴露させた。DNAを、50μg.mlのDEAE-デキストランを含むPBSに溶解した。細胞を37oCで30分インキュベートし、次に80μMクロロキンをを含む1 mlの培養液を加え、細胞を37oCでさらに2.5時間インキュベートした。培養液を吸引除去し、細胞を、培養液に溶解した10%DMSO 0.5 mlにて室温で2.5分ショックを与えた。細胞はPBSで洗浄し、次に、37oCで48時間成長培養液中にて回復させた。
【0094】
一過性にトランスフェクトさせた細胞を、過フッ化化合物(DMSO溶液)を培養液で0, 0.01, 0.1, 0.3, 1, 3, 10, 30, 100, 300及び1000μMとしたものに37oCで24時間暴露させた。別にトランスフェクトさせた細胞を、ワイエス14643、カルバプロスタシクリンまたはロシグリタゾンに暴露した。これらは、それぞれ、PPARアルファ、デルタおよびガンマにたいする陽性の対照である。次に、細胞を洗浄し、崩壊させ、ルシフェラーゼおよびβ-ガラクトシダーゼ活性を、メーカー(Promega、マジソン、米国)の指定する方法によるキットを用いて、それぞれ、閃光発光および分光光度計測によって測定した。ルシフェラーゼ発現は、閃光発光読み取り値を、比色定量後415nmで測定した、構成的β-ガラクトシダーゼ発現レベルで除して正規化した。背景発現レベルに関して補正するために、リポータープラスミドのみによってトランスフェクトされた細胞から得られた値を、試験読み取り値から差し引いた。
【0095】
GraphPad Prismソフトウェアを用いて、データをグラフとし、非線形回帰曲線に適合させ、かつ、倍数活性値を計算した。
【0096】
2.2.1.1 結果と討論
PPARアルファは、ベヒクルのみに暴露させた細胞から得られた値と比較すると、APFOによって11.25倍も活性化された。PFO、PFHAおよびPFPenAは、PPARアルファを約5倍活性化した。MPOAおよびPFPAは、当該受容体を約2倍活性化した。PFSAによるPPARアルファの活性化は見られなかったが、この化合物は、PPARガンマについては実に約4倍も活性化した。PPARガンマ活性化は、〜2−6倍の範囲で起こっているが、APFOおよびPFPenAではその範囲の上限値が得られた。この過フッ化化合物では、いずれにおいてもPPARデルタの活性化は見られなかった。しかしながら、PPARデルタ活性化の抑制が見られ、PFOAでは(4倍)、PFHAおよびPFPenAでは(2.2倍)、それより程度は低いが、PFPAおよびPFSAでは(1.6倍)の抑制が見られた(表3)。
【0097】
【表3】

【0098】
倍数活性化は、表の中で別様に示さない限り、1mMで測定した。試験化合物による最大活性化が1mM未満で起こった場合、陽性の対照による対応倍数活性化、および、関係濃度を括弧付きで示す。数値は、平均値±SD(n=3)で示す。
【0099】
2.2.1.2 結論
上記結果は、これらの化合物は、PPARアルファおよびPPARガンマ受容体の両方を活性化するが、あるもの(PFSA)は、この受容体の単一イソフォームと特異的な相互作用を持つようである。PPARデルタ活性化の抑制は、過フッ化化合物はPPAR拮抗剤の可能性があることを示唆する。このことは、ガン治療に関連して重要である(なぜならPPARデルタの発現レベルは、大腸直腸ガン細胞(He, TC, Vogelstein, B. and Kinzler, KW. Cell 99:335-345(1991))および動脈硬化症(なぜなら、PPARは、マクロファージにおける脂質蓄積を誘発するから(Vosper, H. et al. J. Biol. Chem. 276:44258-44265(2001))において増加することが示されているからである)。
【0100】
2.2.2 PPARリガンド結合実験:実験計画および方法
GSTタグ付きヒトPPARアルファおよびガンマのリガンド結合ドメイン(ligand binding domains)を大腸菌に発現させた。簡単に言うと、PPARアルファのアミノ酸179-468、および、PPARガンマのアミノ酸174-478を含むリガンド結合ドメインをPCRにて(必要な制限酵素部位を含むオリゴヌクレオチドを用いて)生成し、ベクターpCR-Blunt11-TOPO(Invitrogen社、ペイスリー、英国)にクローンした。ドメインをNco/Xho 1を用いて切り出し、ベクターpGEX6PB(Amersharm Biosciences、バックス、英国)にクローンした。このベクターは細菌GSTタグを含み、標準法により大腸菌を形質変換した。確証クローンを、アンピシリン選択の下で37oCで一晩培養した。一晩培養体を用いて、1:100で新鮮培養液に接種し、細胞が中央対数期にある時点で、タンパク発現を、0.5 mM β-D-イソプロピルチオガラクトピラノシド(IPGT)30oC3時間にて誘発した。誘発培養体から得られた可溶性タンパクを採取し、グルタチオンアガロース(Sigma、プール、英国)にたいするアフィニティークロマトグラフィー(affinity chromatography)により精製し、50 mM トリス‐HCl, pH8.0/5 mMグルタチオン(還元形)を用いて溶出した。
【0101】
蛍光脂肪酸-シス・パリナル酸(CPA)との相互作用を調べるために従来から組み換え受容体タンパクが使用されてきた(Palmer CAN and Wolf CR, FEBS Letts. 431, 476-480,(1988); Causevic M, Wolf CR. and Palmer CAN.FEBS Letts. 463, 205-210, (1999))。受容体に結合すると、脂肪酸の分光特性に変化が生じる。この変化は、リガンドの受容体にたいする結合に定量的に関連するので、結合定数を計算するのに使用することが可能である。過フッ化化合物について、それが、PPARアルファから11-(5-ジメチルアミノナフタレンスルフォニル)-ウンデカン酸(DAUDA)を、PPARガンマからシス・パリナル酸を移動させる能力を試験した。データを、2.2.1節で記述したやり方で分析した(表4)。
【0102】
2.2.2.1 結果と討論
アンモニウム塩(APFO)は、PPARアルファにたいして、PFOAと同様のアフィニティーで結合した。すなわち、見かけのKd値は、それぞれ、8μMと6μMであった。ジカルボン酸(PFSA)および5炭素化合物(PFPenA)も、それぞれ、44μMおよび62μMと近似の結合アフィニティー(binding affinity)を持っていた。これは、PFOAに比べて、イソフォームに対する結合アフィニティーにおいて7および10倍の低下に相当する。7炭素化合物は、PPARアルファにたいして215μmのKd(PFOAに比べてリガンド結合において30倍の低下)という最低の結合アフィニティーを示したが、一方、PFPA(炭素数3)は、2μMのKdという、PFOAに比べて増大したアフィニティーを示した(表4)。
【0103】
アンモニウム基を加えると、PPARガンマにたいする化合物の結合アフィニティーは10倍低下させられた。すなわち、PFOAおよびAPFOのKd値はそれぞれ0.3μMおよび3μMであった。炭素原子数を8から5(pFPenA)および3(PFPA)に下げると、PPARガンマのリガンド結合活性は、それぞれ、約50倍(17μM)および2倍(0.6μM)低下した。一方、7炭素化合物(PFHA)は、Kdが99μMであって、低いリガンド結合活性を示した。ジカルボン酸(PFSA)は、PPARガンマにたいして〜40倍(13μm)低いアフィニティーを示した(表4)。
【0104】
【表4】

【0105】
2.2.2.2 結論
これらの結果は、過フッ化化合物は、インビトロにおいて、ヒトPPARアルファおよびガンマリガンド結合性ドメインに結合することを示唆する。
【0106】
3. インビボ実験
3.1 雄CRスプレイグドーリー(CR SD)ラットにおける代謝パラメータに及ぼす過フッ化化合物の作用
これまでの実験で、APFOは、糖尿病および肥満症の健康および疾病両モデルにおいて抗糖尿病および抗肥満症効能を有することが示された。他の過フッ化化合物も同じ治療効能を有するかどうかを証明するために、選択された過フッ化化合物を、SDラットに7日間投与し、物理的および生化学的パラメータを監視した。
【0107】
3.1.1 実験計画および方法
2群(n=5)のCR SDラット(約300 g)を、2用量レベルの過フッ化化合物(15および25 mg/kg/日 体重)で処置した。動物に、コーン油に溶解させた試験物質を、経口胃管により、毎日7日間に渡って投与した。1群の20匹のCR SDラットについてもベヒクル(vehicle)(コーン油)のみにて処置した。体重と食物消費を連日監視した。
【0108】
最終投与後24時間に、動物を二酸化炭素の濃度上昇によって屠殺した。心臓穿刺によって血液を収集し、血漿を調製し、分析するまで-70oCで保存した。
【0109】
血漿は、Sigmaから購入したキットを用いて、トリグリセリド、コレステロールおよびグルコースについて分析した。血漿インスリンの濃度は、Amersham Biosciencesから市販される酵素イムノ試験準拠キットを用いて定量した。試験は全てメーカーの指定する通りに行った。
【0110】
結果と討論
APFO、MPOAおよびPFPAにて15および25mg/kg/日で処置したラットは、3日目以降体重を減少し、これは、投与期間の終了まで続いた(図1)。25 mg/kgのMPOAおよびPFOAを投与された動物は早期に実験停止したが、6日目以降、それぞれ、体重の8%および11.7%を失っていた。上記3種の化合物を15 mg/kgとして投与された動物における体重減少はそれほど著明ではなかった。すなわち、APFOでは1%(高用量では11%)、MPOAおよびPFOAでは、それぞれ、8.2%および9.4%であった。その他の化合物で処置された動物では体重減少は観察されず、動物は、試験期間中に体重の12-18%が増加した(図2)。
【0111】
MPOA, APFOおよびPFOAで処置したラットにおける体重減少は、用量関連性の、食物消費の低下に反映されていた(図3A)。グラム体重当たりの食物消費に換算して表現しても、効果のパターンは類似していた(図3B)。15 mg/kgのAPFOを投与されたラットにおける食物消費は6日目以降はそれ以上減少しなかったが、このことは、データを、単位体重当たりに消費された食物で表しても観察された。他の試験グループでは全て、食物消費は対照動物において見られたものと同様であった。
【0112】
過フッ化化合物で処置した全てのラットにおいて血漿中のインスリンレベルは低下していたが、これは用量依存性ではなく、最大薬理作用は実験した最低用量で実現されることを示していた。もっとも著明な減少は、MPOA、APFOおよびPFOAを投与した動物の血漿中で見られた。25 mg/kgでは、血漿インスリン濃度は、対照値の15.6% (15 mg/kgでは2.6%)、 8.3% (15 mg/kgでは13.5%)、および、30.74% (15 mg/kgでは2.98%)に低下した。25 mg/kg PFOおよびPFPenAを投与されたラット、および、15 mg.kg PFSAを投与された動物の血漿において有意な低下が観察され、レベルは、それぞれ、対照値の33.5%、33.9%および28.7%に下がった。15 mg/kgにおいて、PFHAおよびPFPAを投与されたラットの血漿レベルは、約30-40%低下したが、これは統計的に有意ではなかった(表5)。
【0113】
血漿グルコースは、MPOA、APFOおよびPFOAを投与された動物において、それぞれ、対照値の78.6%、72.6%および60%に低下したが、この場合も、この低下は用量依存性ではなかった。25 mg/kgのPFOを投与された動物の血漿ではレベルが3%増大していた。グルコースレベルにおいては、他には有意な変化が観察されなかった(表5)。
【0114】
血漿トリグリセリドにおけるもっとも際立った(非用量依存性)低下が、この場合も、MPOA、APFOおよびPFOAを投与された動物に見られ、25 mg/kgにおいて、それぞれ、対照値の33.7%、19.1%および16.8%であった。他の全ての化合物もトリグリセリドを低下させたが、この場合の差はそれほど著明では無かった(対照値の42.1%-68.5%)(表5)。
【0115】
血漿コレステロールは、PFSAおよびPFOを除く全ての化合物によって、非用量相関的に有意に低下させられた。25 mg/kgでは、数値は、MPOA、APFOおよびPFOAにおいて、それぞれ、対照値の36.7%、56.2%および49.2%に下がった。その他の化合物によって処置された動物におけるコレステロールの低下は、対照レベルの69.8%-85%であった(表5)。
【0116】
【表5】

【0117】
3.1.2 結論
要約すると、過フッ化化合物投与に関連すると考えられる、重大な生理作用がいくつかあった。この実験の結果から、過フッ化化合物の構造を変化させるといくつかの有利な作用が得られることが示された。
【0118】
3種の化合物(MPOA、APFOおよびPFOA)のみが体重減少および食物消費低下をもたらしたが、一方、動物は、それを除いては、外見的には正常であった(肥満症の治療に有用である可能性がある)。体重減少を起こさなかった過フッ化化合物を投与した動物においても臨床パラメータは変化した。これは、体重に影響を及ぼすことがなくとも生化学的に重要な要因(例えば、インスリンレベル)を標的とすることが可能であることを示唆する。試験した全ての化合物がトリグリセリドを低下させ、かつ、PFSAおよびPFOを除く全てがコレステロールを低下させた。これは、これらの化合物が、高脂血症および高コレステロール血症の治療において治療的有用性の可能性のあることを示す。インスリンレベルの低下(全ての化合物によって起こり、これは、インスリン感作剤として臨床的に有用であることを示唆する)、および、AFPO、PFOAおよびMPOAによるグルコースの低下は、これらの化合物が、II型糖尿病の治療に治療的有用性のある可能性を示す。
【0119】
APFO、MPOAおよびPFOAは全て、インビボにおいて、同じ、インスリン、グルコース、コレステロールおよびトリグリセリド低下作用、および、体重減少作用を持っていた。一方、インビトロでは、MPOAは、細胞成長の抑制にはほとんど影響を及ぼさず、また、トランス活性化試験のデータによればPPARイソフォームにたいしても比較的低い親和性しか持っていない。この「湿った」反応は、メチル基によるものかも知れない。インビボでは、この基は、エステラーゼ(血漿には高濃度に存在する)で取り除かれるので、PFOAと類似の化合物が後に残されることになる。APFOも、インビボではアンモニウム基の除去によって代謝され、この場合も、PFOAと事実上同じ化合物が産み出される。APFOにおけるアンモニウム塩の存在は、トランス活性化試験において、化合物のPPARアルファにたいする親和性を増大させた。細胞成長の抑制は、PFOAによるものと同じ濃度範囲内で起こった。これは、インビトロにおける腫瘍細胞成長の抑制に与るのは、この二つの分子に共通の特性であることを示唆する。
【0120】
トランス活性化試験において、PFSAはPPARアルファには結合しなかったが、PPARガンマ活性は保持した。これは、PFOAにCO2H基が付加したことでPPAR特異性が変化したことを示唆する。CO2Hの付加はまたインスリンおよびトリグリセリドにたいする作用も低下させ、グルコースおよびコレステロールにたいする作用も除去した。
【0121】
トランス活性化試験において、PFHA(C7酸)は、PPARアルファ、デルタおよびガンマにたいするPPAR特異性を保持したが、抗腫瘍能力はやや低下した。さらに、この化合物によるインスリン感作作用は低下したが、トリグリセリドにたいする作用、および、コレステロールにたいする作用−トリグリセリドの場合よりも程度は低いが−は保持された。鎖長をC7に下げても、食欲不振を招くことなくトリグリセリドにたいする作用は保持されたが、これは、インスリンにたいする作用を介さないように見えた。
【0122】
PFPenA(C5酸)は、細胞系試験においてPPAR特異性を保持し、トリグリセリドレベルに影響を与えずにインスリンを低下させた。この化合物もまた、インビトロにおいて腫瘍細胞成長を抑制しなかった。鎖をC3(PFPA)に下げると、事実上全てのインビトロ作用は除去され、かつ、インスリンおよびグルコース低下作用も除去された。一方、トリグリセリドおよびコレステロールにたいする作用は低下した。
【0123】
PFO(CO2Hの欠如)は、この化合物は不溶であるために、インビトロでは試験できなかった。しかしながら、インビボでは、PFOはインスリン感作作用を示したが、脂質にたいしては作用を示さなかった。
【0124】
要約すると、PFOAに施した改変(modifications)は、インビトロおよびインビボにおいていくつかの作用を示した。炭素鎖長は、本化合物の性質を変えることが示された。一般に、鎖における炭素数が大きければ大きいほど、抗腫瘍作用が大きい(C8>C7>C5=C3=0)。鎖長はまた、トランス活性化試験によれば、PPARアルファ親和性(C8-NH4>C8=C7=C5>C3=0)、PPARガンマ作動性(C8-NH4=C5>C8>C7>C3)、および、PPARデルタ拮抗性(C8>C7=C5>C3)にも影響を及ぼす。最後に、ジカルボン酸(PFSA)を除いては、8個未満の炭素原子を含む化合物は、体重減少または食物消費低下をもたらさなかった。
【0125】
トランス活性化試験の他に、過フッ化化合物はPPARイソフォーム(アルファおよびガンマ)と相互作用を持つということを示すために、リガンド結合実験も行った。細胞系試験は、化合物による、核受容体の活性化または活性化の抑制(それぞれ、作動作用および拮抗作用を示す)を示したが、リガンド結合試験では、化合物の作動作用と拮抗作用は区別されなかった。さらに、トランス活性化試験で観察された倍数活性化は、リガンド結合実験で得られたEC50値と比較できなかった。この二つの試験間の差の理由が何であるかを明らかにする必要がある。例えば、トランス活性化試験では、細胞特異的因子が関与している可能性がある(例えば、活性化レベルが、化合物の摂取によって影響を受けているかも知れない)。従って、この二つの試験の比較は困難であるかも知れない。
【0126】
実施例2:直鎖性において異なる過フッ化エステルおよび化合物の作用
本実験の目的は下記の通りである。すなわち、
%直鎖性の異なる過フッ化化合物の治療効能を確定すること、
薬剤前駆物質としての過フッ化エステルの適性を確定すること、である。
試験化合物
2通りのインビボ実験によって4種の過フッ化化合物を評価した。試験した化合物は、100%および75%直鎖形のアンモニウム塩、ペルフルオロオクタン酸アンモニウム、および、2種のエステル(ペルフルオロオクタン酸メチルおよびペルフルオロオクタン酸エチル)である。
【0127】
【表1】

【0128】
インビボ実験
PFOA(ペルフルオロオクタン酸)の血漿レベルを測定するための経口暴露実験−実験計画および方法
実験は、8匹の雄CDスプレイグドーリー・ラット(8-10週齢、Harlan英国から入手)から成る1対照群、および、4匹のラットを含む4試験群から成っていた。実験期間を通じて、動物は自由にRM1粉末食を摂取した。ラットには、25 mg/kgで、XEN1001(75%直鎖APFO)、XEN1002(100%直鎖APFO)、MPFOおよびEPFOを連日11日間経口投与した。薬品は全てマゾーラコーン油に溶解し(2.5 mg/mlで)、試験化合物は、10 ml/kg体重で投与した。対照動物はマゾーラコーン油のみを摂取した。動物は全て11日後に屠殺した。動物を、濃度上昇させたCO2に暴露して屠殺し、血液をリチウム/ヘパリン管に採取して血漿を得た。
【0129】
ラット血漿サンプルを、アセトニトリル添加によって変性させ、存在するペルフルオロオクタン酸(PFOA)の量はLC/MS/MSにて定量した。
【0130】
結果および討論:過フッ化化合物投与後のPFOAの血漿濃度
遊離酸PFOAの循環濃度を、試験化合物の最終投与後24時間時点で測定した。MS分析から、ラット血漿は、アンモニウム塩(XEN1001またはXEN1002)、または、メチルエステル(MPOA)またはエチルエステル(EPOA)投与のラットにおいて、等モル濃度のPFOAを含んでいることが示された(図1)。このことは、メチルおよびエチルエステルは、SDラットに経口胃管投与した場合、完全に代謝されて遊離酸(活性化合物)となることを示唆した。
【0131】
異なる%直鎖性を有する過フッ化化合物の、SDラットの体重に及ぼす作用:実験計画および方法
以前の7日間実験において、XEN1001を投与されたラットは、実験期間中連続的な体重減少を示した。本実験は、さらに長期の試験期間における、異なる%直鎖性を有する化合物の体重に及ぼす作用を調べた。
【0132】
アンモニウム塩XEN1001(75%直鎖APFO)およびXEN1002(100%直鎖APFO)を、300 ppmでRM1粉末食に加えた。これは、食物1 kg当たりXEN1001またはXEN1002 0.3 gに相当する。本食物実験は、4匹の雄動物から成る1対照群、および、4匹の雄動物(本実施例で上に具体的に述べたように)を含む4試験群から成っていた。動物は、RM1粉末食のみを、あるいは、300ppmのXEN1001またはXEN1002を含むRM1食を、実験期間中自由に摂取した。体重は21日間毎日測定した。
【0133】
SDラットの体重:結果と討論
XEN1001またはXEN1002を投与されたラットは、実験期間を通じて着実に体重を増やした対照ラットと比べると、それぞれ、7日目および10日目まで体重を減少させた。この初期の減少後は、試験グループは、対照グループと平行して体重を増やしたが、対照グループの体重と等しくなることはなかった。食物中にXEN1002を混ぜて投与された動物における体重減少は、XEN1001に暴露された動物に見られる体重減少よりも著明であった。これは、化合物の100%直鎖形の方が、インビボでは活性が高いことを示す(図2)。
【0134】
この、体重減少後の体重増加回復というパターンは、75%直鎖APFOにおいて以前観察された、インスリン、グルコース、トリグリセリドおよびコレステロール低下を伴う体重減少パターンをなぞるものであるが、SDラットにおいて生物学的反応を誘発する点においては、100%直鎖アンモニウム塩XEN1002の方がより効果的であることを示す。
【0135】
結論
エステルの胃管投与後に見られるPFOAの血漿濃度は、アンモニウム塩投与ラットに見られるものとそっくり同じであった。これは、本化合物のメチルおよびエチルエステルは、薬剤前駆物質として利用可能であることを示唆する。
【0136】
体重分析は、アンモニウム塩、特に100%直鎖形の投与は生物学的反応をもたらすことを証明した。
【0137】
全ての化合物は等モルの活性遊離酸に代謝されるので、PFOAまたはエステルの投与は、アンモニウム塩によってもたらされるものと同じ生物作用を引き起こすことが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0138】
【図1】毎日経口胃管によって試験化合物を投与された動物の体重。
【図2】試験化合物を投与された動物の、実験終了時体重。数値は平均±SD。対照グループにたいして有意差あり:*p<0.05; **p<0.01; ***p<0.001
【図3−1】試験化合物を投与されたラットにおける食物消費量(パネルA)
【図3−2】試験化合物を投与されたラットにおける単位体重当たりの食物消費量(パネルB)。
【図4−1】試験化合物の構造
【図4−2】試験化合物の構造
【図4−3】試験化合物の構造
【図5】試験化合物を25 mg/kgで毎日11日間投与後におけるAPFOの血漿濃度。数値は平均±SDで表し、n=8(対照)または4(試験)。対照グループにたいして有意差あり:p≦0.001**, p≦0.001***
【図6】食物中に投与された試験化合物に21日間毎日曝されたラットの毎日の体重。数値は平均±SD,n=4で表されている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
体重を調節するか、もしくは体重の増加を調節する必要があり、並びに/または、血漿インスリン、血漿グルコース、血漿トリグリセリズ及び/もしくは血漿コレステロールを調節する必要がある被験体の治療方法であって、
ペルフルオロオクタン酸、その塩(好ましくはアンモニウム塩以外、好ましくは、75%直鎖アンモニウム塩以外)もしくはそのエステル、
または、ペルフルオロスベリン酸、ペルフルオロヘプタン酸、ペルフルオロヘキサン酸、ペルフルオロペンタン酸、ペルフルオロブタン酸、ペルフルオロプロピオン酸、それら何れかの塩もしくはそれら何れかのエステル、
または、ペルフルオロオクタンを、
有効量をもって被験体に投与するステップを含む治療方法。
【請求項2】
抗腫瘍剤もしくは抗炎症剤を必要とするか、または、脂質もしくはエイコサノイドの状態を調節する必要がある被験体の治療方法であって、
請求項1で定義された化合物を、有効量をもって被験体に投与するステップを含む治療方法。
【請求項3】
体重超過もしくは肥満であり、並びに/または、糖尿病、高脂血症、動脈硬化症、冠状動脈疾患、脳卒中、閉塞性睡眠時無呼吸症、関節炎及び/もしくは生殖機能低下を患っているか、または、そのような症状を発現するリスクがある被験体の治療法であって、
請求項1で定義された化合物を、有効量をもって被験体に投与するステップを含む治療方法。
【請求項4】
PPAR(例えばPPARα)の活性を調節する必要がある被験体の治療方法であって、
請求項1で定義された化合物を、有効量をもって被験体に投与するステップを含む治療方法。
【請求項5】
脂質もしくはエイコサノイドの状態もしくは作用を調節する必要がある被験体の治療方法であって、
請求項1で定義された化合物を、有効量をもって被験体に投与するステップを含む治療方法。
【請求項6】
請求項1で定義された化合物の使用方法であって、
PPAR(例えばPPARα)の活性を調節する必要がある被験体の治療用薬剤を製造する
使用方法。
【請求項7】
請求項4または請求項6に記載された方法であって、
前記被験体は、PPAR活性を増大させる必要があり、
前記化合物は、PPAR作用剤である、
方法。
【請求項8】
請求項7に記載された方法であって、
前記PPARは、PPARαまたはPPARγである、
方法。
【請求項9】
請求項1で定義された化合物の使用方法であって、
体重を調節するか、もしくは体重の増加を調節する必要があり、並びに/または、血漿インスリン、血漿グルコース、血漿トリグリセリズ及び/もしくは血漿コレステロールを調節する必要がある被験体の治療用薬剤を製造する
使用方法。
【請求項10】
請求項1または請求項9に記載された方法であって、
前記被験体は、体重を減少させるか、もしくは体重の増加を防止する必要があり、並びに/または、血漿インスリン、血漿グルコース、血漿トリグリセリズ及び/または血漿コレステロールを減少させる必要がある、
方法。
【請求項11】
請求項1で定義された化合物の使用方法であって、
体重超過もしくは肥満であり、並びに/または、糖尿病、高脂血症、動脈硬化症、冠状動脈疾患、脳卒中、閉塞性睡眠時無呼吸症、関節炎及び/もしくは生殖機能低下を患っているか、または、そのような症状を発現するリスクがある被験体の治療用薬剤を製造する
使用方法。
【請求項12】
請求項1で定義された化合物の使用方法であって、
抗腫瘍剤もしくは抗炎症剤を必要とするか、または、脂質もしくはエイコサノイドの状態もしくは作用を調節する必要があるか、または、脂質代謝もしくは脂質結合物質の活性を調節する必要がある被験体の治療用薬剤を製造する
使用方法。
【請求項13】
請求項1乃至12の何れかに記載された方法であって、
前記化合物は、
ペルフルオロオクタン酸であるか、もしくは、ペルフルオロオクタン酸を含むか、
または、75%を越える(例えば80%、90%もしくは100%)直鎖性のペルフルオロオクタン酸、その塩もしくはそのエステルである、
方法。
【請求項14】
請求項1乃至12の何れかに記載された方法であって、
前記化合物は、ペルフルオロヘプタン酸、その塩もしくはそのエステルであるか、または、それらの何れかを含む、
方法。
【請求項15】
請求項1乃至12の何れかに記載された化合物または方法であって、
前記化合物は、ペルフルオロペンタン酸、その塩またはそのエステルである、
化合物または方法。
【請求項16】
請求項1乃至15の何れかに記載された方法であって、
前記被験体は、ヒトである、
方法。
【請求項17】
薬剤様化合物、または、薬剤様化合物を作製するためのリード化合物を特定するためのスクリーニング方法であって、
(1)請求項1で定義された化合物またはその誘導体に、哺乳動物を曝すステップと、
(2)前記哺乳動物について、血漿のインスリン、グルコース、コレステロール及び/もしくはトリグリセリドのレベルを測定し、並びに/または、体重を測定し、並びに/または、脂質もしくはエイコサノイドの状態もしくは作用を測定するステップとを含む
スクリーニング方法。
【請求項18】
請求項17に記載されたスクリーニング方法であって、
前記哺乳動物を化合物に曝したときに、前記哺乳動物について血漿のインスリン、グルコース、コレステロール及び/もしくはトリグリセリドのレベルが変化もしくは低下し、並びに/または、前記哺乳動物の体重もしくは体重増加が変化もしくは低下するような化合物を選択するステップを含む
スクリーニング方法。
【請求項19】
薬剤様化合物、または、薬剤様化合物を作製するためのリード化合物を特定するためのスクリーニング方法であって、
(1)請求項1で定義された化合物またはその誘導体を、PPARポリペプチドにさらすステップと、
(2)PPARポリペプチドに対する化合物の結合度を測定するか、または、PPARポリペプチドの活性の変化を測定するステップとを含む
スクリーニング方法。
【請求項20】
薬剤様化合物、または、薬剤様化合物を作製するためのリード化合物を特定するためのスクリーニング方法であって、
(1)シクロオキシゲナーゼ(例えばシクロオキシゲナーゼI、シクロオキシゲナーゼII)もしくはフォスフォリパーゼA(例えばフォスフォリパーゼA2)などの脂質代謝もしくは脂質結合物質に、請求項1で定義された化合物またはその誘導体をさらすステップと、
(2)脂質代謝もしくは脂質結合物質に対する化合物の結合度を測定するか、または、脂質代謝または脂質結合物質の活性の変化を測定するステップとを含む
スクリーニング方法。
【請求項21】
薬剤様化合物、または、薬剤様化合物を作製するためのリード化合物を特定するためのスクリーニング方法であって、
(1)請求項1で定義された化合物に細胞を曝すステップと、
(2)前記細胞の表現型(例えば分化)及び/または前記細胞におけるエイコサノイドの生合成を測定するステップとを含む
スクリーニング方法。
【請求項22】
請求項21に記載されたスクリーニング方法であって、
前記細胞を化合物に曝したときに、前記細胞について例えば分化などの表現型が変化し、及び/または、前記細胞におけるエイコサノイドの生合成が変化、好ましくは低減するような化合物を選択するステップを含む
スクリーニング方法。
【請求項23】
請求項1乃至12の何れかに記載された方法であって、
前記化合物は、請求項17乃至22の何れかに記載されたスクリーニング方法により特定されるか、または特定可能である、
方法。
【請求項24】
請求項17乃至22の何れかに記載されたスクリーニング方法により特定されるか、または特定可能である化合物であって、
食品サプリメントまたは食品添加物として用いられる組成物の製造に用いるための化合物。
【請求項25】
請求項1で定義された化合物、または、請求項17乃至22の何れかに記載されたスクリーニング方法により特定されるか、もしくは特定可能である化合物と、食材とを含む食品であって、
実験用げっ歯動物の飼料ではない食品。
【請求項26】
スクリーニングのためのキットであって、
(1)請求項1で定義される複数の化合物についてのライブラリーと、
(2)PPARポリペプチド、もしくは、PPARポリペプチドをエンコードするポリヌクレオチド、及び/または、試験用哺乳動物とを含む
キット。
【請求項27】
スクリーニングのためのキットであって、
(1)請求項1で定義される複数の化合物についてのライブラリーと、
(2)脂質代謝もしくは脂質結合物質(例えばCOXI、COXII、フォスフォリパーゼA2、リポオキシゲナーゼなど)、または、脂質代謝もしくは脂質結合物質をエンコードするポリヌクレオチドとを含む
キット。
【請求項28】
本明細書で開示される任意の新規な化合物、使用方法、キット、システムまたは方法。

【図1】
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【図2】
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【図3−1】
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【図3−2】
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【図4−1】
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【図4−2】
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【図4−3】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−265284(P2010−265284A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−151355(P2010−151355)
【出願日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【分割の表示】特願2004−532338(P2004−532338)の分割
【原出願日】平成15年8月29日(2003.8.29)
【出願人】(503297372)シーエックスアール バイオサイエンス リミテッド (4)
【氏名又は名称原語表記】CXR Biosciences Limited
【住所又は居所原語表記】Dundee Technopole, James Lindsay Place, Dundee DD1 5JJ, United Kingdom
【Fターム(参考)】