説明

肥満症治療における肥満細胞安定化薬

本発明は、肥満細胞を安定化させる化合物を投与することによって肥満症を治療またはその発症を予防する方法に関する。さらに、本発明は、肥満細胞安定化薬と、肥満症を治療または予防することにおけるこの安定化薬を使用することについての説明書との両方を含む、治療構成物を包含する。例えば、一実施形態において、本発明の方法で使用される薬物は、クロモリン、ネドクロミル、ケトチフェン、及びロドキサミドからなる群より選択される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願はアメリカ合衆国において2007年9月28日提出の、本明細書中で、その全体を参考として援用する仮出願60/960,408に対する優先権及び利益を主張するものである。
【0002】
政府財政援助に係る供述
アメリカ合衆国政府は、保健社会福祉省により授与されたNIH助成HL60942号の条件に基づく規定により、本発明において全額支払済み実施権及び限定された状況において特許権者に妥当な条件で他に実施権を付与させる権利を有する。
【0003】
発明の属する分野
本発明は、肥満症の治療及び予防に有用な組成物及び方法に関する。
【背景技術】
【0004】
発明背景
肥満症は、極めて一般的かつ有害な代謝病であり、アメリカ合衆国や世界中で公衆衛生上に極めて深刻な脅威を与える。この疾患の有病率は1980年代半ば頃から著しく増加し始めた。アメリカ合衆国では成人の50%が過体重であり、30%が肥満である。さらに深刻なことに、肥満の有病率とそれにと関連する糖尿病は小児においても急速に増加している。個人や家族そして社会に与える肥満の影響は、特に、保健資源の費用および利用の点からも大変深刻である。これらのことより、体重管理は学問的な話題になるばかりではなく、社会的関心も高まっている。
【0005】
肥満細胞(mast cell;MC)は、細胞質の顆粒を放出することによってアレルギー反応を誘導することを促進し、その内容物はIgEおよび補体因子による感作の際にアレルギー性の炎症を促進する(非特許文献1;非特許文献2)。近年、生化学的ならびに組織学的研究により、肥満細胞の、血液媒介性(blood−borne)の白血球の動員(非特許文献2)、平滑筋細胞(smooth muscle cell, SMC)/内皮細胞(endothelial cell, EC)の増殖(非特許文献3;非特許文献4;非特許文献5)、アポトーシス(非特許文献6;非特許文献7;非特許文献8)、Tリンパ球の遊走および活性化(非特許文献2)、血管新生(非特許文献9)、マトリックスリモデリング(非特許文献10)への関与が示唆された。肥満症における肥満細胞の明確な役割は明らかになっていないのが現状である。
【0006】
最近、肥満細胞欠損マウスの発見(Duttlingerら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 92:3754−3758 (1995); Wolters, et al., Clin. Exp Allergy 35:82−88 (2005))や肥満モデル(遺伝的あるいは食事誘導性の肥満マウスの両方)が利用できることにより、肥満症およびその合併症における肥満細胞の役割評価が可能となってきた。さらに、重要な肥満細胞メディエーターや白色脂肪組織(WAT)ケモカイン受容体の遺伝子欠損変異マウスが利用できることにより、肥満症に不可欠な脂肪細胞におけるメディエーターや脂肪細胞のホーミングに必要とされるWATにおけるケモカインを同定することが可能になった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Schwartzら、Prog. Allergy (1984)34:271−321
【非特許文献2】Mekoriら、J. Allergy Clin. Immunol.(1999)104:517−523
【非特許文献3】Todaら、Circ. Res.(1987)61:280−286
【非特許文献4】Inoueら、Am. J. Pathol.(1996)149:2037−2054
【非特許文献5】Muellerら、Circ. Res.(1995)77:54−63
【非特許文献6】Lattiら、J. Cell. Physiol.(2003)195:130−138
【非特許文献7】Leskinenら、Arterioscler. Thromb. Vasc. Biol.(2003)23:238−2343
【非特許文献8】Leskinenら、Biochem. Pharmacol.(2003)66:1493−1498
【非特許文献9】Zudaireら、Am. J. Pathol.(2006)168:280−291
【非特許文献10】Daughertyら、Curr. Atheroscler. Rep.(2002)4:222−227
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の概要
本発明は、肥満細胞が、炎症促進性サイトカインおよび他のメディエーターの産生および放出におそらく起因して、肥満症の発症において重要な役割をすることを示唆する実験に基づく。マウスに高脂肪食(Western diet)を与えたところ、正常対照群マウスよりも、肥満細胞欠損マウスでの体重の増加が実質的に低かった。しかし、正常なマウスに肥満細胞安定化薬も投与することにより、体重増加が実質的に回避される。
【0009】
その第一の局面において、この発明は、肥満細胞を安定化させる薬物の有効な量を投与することによって動物またはヒトのいずれかにおいて肥満症を治療および予防するための方法に関する。用語“有効量“とは治療目的を達するために十分な量の薬物をいう。この場合では、このことは、肥満症のための治療として与えたときには、体重減少を促進するか、または肥満症の発症を予防するために与えたときには、および体重増加を防止するのに十分な量の肥満細胞安定化薬が与えられなければならないことを意味する。この薬物を経鼻的に投与するならば、通常の投薬量は5−100mg/日である。経口的に投与するならば、投薬量はやや多く、通常50−1500mg/日である。本発明の目的のためには、ヒトまたは動物の理想的体重よりも20%超重いか、ボディマス指数(body mass index, BMI)が30以上であるか、および/または体脂肪30%超のものを肥満とみなした。
【0010】
上記の方法で投与される肥満細胞安定化薬は、好ましくは24時間の期間にわたって与えられる、2つ以上の等量の用量に分割される。好ましい薬物は、クロモリン、ネドクロミル、ケトチフェン、ロドキサミドである。これらは、ナトリウム塩、二ナトリウム塩、カリウム塩またはリチウム塩のような薬学的に受容可能な塩を含む、任意の薬学的に受容可能な形態で与えられ得る。他に指定されない限り、これらの薬物のうちの一つに対する言及が、その薬学的に受容可能な形態の全てを含むことが理解される。いくつかの好ましい形態は、ネドクロミルナトリウム(特に、経鼻投与5〜50mg/日、経口投与50〜500mg/日)、フマル酸ケトチフェン(特に、経口投与1〜200mg/日)、ロドキサミドトロメタミン(特に、経口投与1〜200mg/日)である。もっとも好ましい薬物はクロモリンナトリウムあるいはクロモリン二ナトリウムで投薬量は、経口的に200〜1,000mg/日である。本明細書中に記載されるすべての投薬量は、人への薬物の投与に関するものである。もし動物に投与する場合、ヒトへの投薬量は、案内を提供し、体重の差について調整がなされる。例えば、動物の体重が50ポンドなら、ヒトの用量のおよそ三分の一量が投与される。
【0011】
上記の方法は、肥満である個体において体重減少を促進するかあるいは個体(特に、遺伝的要因または環境因子による体重増加の傾向がある個体)において体重増加を予防するために実行され得る。肥満症を治療するために、ヒトまたは動物に与える場合、薬物の投与は、個体が、元の体重の少なくとも10%、好ましくは15あるいは20%減少するまで毎日基準で続けるべきである。特に好ましい実施形態において、肥満の個体は、クロモリン、特にクロモリンナトリウムまたはクロモリン二ナトリウムをこの期間にわたり一日あたり200〜1,000mgの用量で投与される。治療を受けている患者は肥満症とは別の他の病気を有しても、治療時にアレルギー、心血管疾患または糖尿病のような状態を有さなくてもよい。
【0012】
別の局面において、本発明は、肥満細胞安定化薬と、肥満症を予防および治療するために患者にこの安定化薬を投与するための説明書との両方を含む治療構成物に関する。安定化薬は単位用量形態での治療構成物の一部であり、完成した薬学的容器(finished pharmaceutical container)の中に包装されるべきである。用語“単位用量形態”とは、錠剤、カプセル、あるいは液剤の量などの単回の薬物投与の実体をいう。“完成した薬学的容器”はボトル、バイアル、ブリスターパックのような医薬品に通常使用される任意の種々のタイプのパッケージをいう。本発明の目的として、完成した薬学的容器は、薬物の経鼻投与のために設計されたパッケージ(すなわち、それを含むボトルまたはバイアル)を含み、鼻スプレーとして液剤または粉末を送達するように使用され得る。同様に、“単位用量形態”は、薬物をある濃度で溶かした液剤を含み、これは、患者へ固定量で経鼻的あるいは経口的な投与した場合、治療効果を提供する。
【0013】
治療構成物に含有される、最も好ましい肥満細胞安定化薬は、クロモリン、ネドクロミル、ケトチフェン、ロドキサミドである。これらの薬物を錠剤またはカプセルの形で経口投与する時、単位用量は一般的に5〜1,000mgで、より一般的には10〜500mgである。等価な量が、経口液剤として投与される単位用量形態中にある。もし薬物が経鼻的に投与されるならば、一般的に1回のスプレーで0.1〜10mgを患者が受容するように、液剤は、代表的に十分な濃度の薬物を含むべきである。
【0014】
治療組成物の一部を形成する説明書は、肥満細胞安定化薬を含むパッケージ上にか、完成した薬学的容器上にかまたは別個のパッケージ挿入物として存在する。この説明書は、例えば、肥満症を治療または予防するために、患者に投与されるべき肥満細胞安定化薬の投薬量を含む。本治療が必要となる患者は、一般的に、肥満であるか、以前に肥満であったか、肥満症の家族歴を有する患者、あるいは体重増加が重篤な健康リスクを生成する患者、例えば確立した心血管疾患のある患者である。
【0015】
本発明は、特定の化合物を、肥満細胞を安定化するその活性についてアッセイすることによってその化合物が、肥満症の治療または予防に有用か否かを判定する方法も包含する。当該分野において周知の安定化アッセイ(特に、アレルギー治療における有用性について化合物をスクリーニングするために開発されたアッセイ)のいずれも、この目的のために使用され得る。
【発明を実施するための形態】
【0016】
発明の詳細な説明
本発明は、肥満細胞安定化薬が肥満症を制御するのに使用され得ることを示す実施例セクションに以下のようにまとめられた実験に基づいている。これらの薬物は、肥満のヒトが体重を減らすことを補助するか、ヒトを肥満になることから予防するためのいずれかに使用され得る。
【0017】
A.肥満細胞安定化薬
肥満細胞を安定化する薬物は、アレルギーの治療との関連で広く研究された。そしてこれらの薬物のいくつかは商品として使用されている。もっとも好まれる肥満細胞安定化薬はクロモリン、ネドクロミル、ケトチフェン、ロドキサミドであり、これらは、購入され得るか、または当該分野で周知の方法を使用して合成され得る。さらに、当該分野で記載される、任意のその他の薬学的に受容可能な肥満細胞抑制剤についても本発明で使用され得る。これらとしては、アメリカ合衆国特許(6,207,684;4,634,699;6,207,684;4,871,865;4,923,892;6,225,327;7,060,827)に開示される化合物が挙げられる。化合物を調製するための方法が、化合物を精製し得る方法と使用され得る形態についての情報と共に、これらの米国特許の各々に提示される。これらの化合物は、任意の薬学的に受容可能な塩を含む、任意の薬学的に受容可能な形態で患者に与えられ得、最も好ましい薬物はクロモリンナトリウムまたはクロモリン二ナトリウムのいずれかである。
【0018】
B.薬学的組成物の製造
肥満細胞を安定化させる薬物は、当該分野で標準的な方法にしたがって薬学的組成物に組み入れられる(例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences, Mack Publishing Co.,(1990)を参照のこと)。処方物は、当該分野で一般的に使用される任意の経路によって送達されるように設計され得、経口または経鼻送達のために設計された調製物が好ましい。例えば錠剤、カプセルのような経口組成物について、肥満細胞安定化薬は一般的に1〜500mgで存在すべきである。経鼻送達用の組成物において、安定薬は一般的に0.5〜50mg/mlとし、1〜20mg/mlにするのがより好ましい。経口的に摂取される液剤に、同様の濃度範囲が使用され得る。好ましくはないが、投与の他の経路も使用され得る。
【0019】
肥満細胞安定化薬は、水、食塩水、アルコール、アラビアゴム、植物油、ベンゾアルコール、ポリエチレングリコール、ゼラチン、乳糖などの炭水化物、アミラーゼまたはデンプン;ステアリン酸ナトリウム;タルク(滑石);サリチル酸;パラフィン;脂肪酸エステル;ポリマーなどを含む、薬学的調製物に一般的に使われるビヒクルおよび賦形剤のいずれかと一緒に使用される。薬学的調製物を滅菌し得、必要に応じて分散剤、潤滑剤、防腐剤、安定剤、湿潤剤、乳化剤、浸透圧に作用する塩、緩衝剤、着色剤、矯味矯臭剤、および/または芳香物質のような補助物質と混合し得る。
【0020】
液剤、特に注射用の液剤は水または、エタノール、1,2−プロピレングリコール、ポリグリコール、ジメチルスルホキシド、脂肪アルコール、トリグリセライド、グリセリンの部分的エステルのような生理的に適合性のある有機溶剤を使用して調製することができる。調製物は従来の技術を使用して作製され得、これは、例えば、滅菌の等浸透圧性生理食塩水、水、1,3−ブタンジオール、エタノール、1,2−プロピレングリコール、水とポリグリコールの混合物、リンゲル液などを含み得る。
【0021】
C.剤形および投与経路
本発明は、経口、経口(peroral)、内用(internal)、直腸内、経鼻、舌下、経皮、経膣、静脈内、動脈内、筋肉内、腹腔内、皮内、そして皮下経路を含む任意の投与経路に適合性がある。使用され得る剤形は、錠剤、カプセル、粉末薬、エアロゾル、坐薬、皮膚用パッチ剤、非経口的な薬、除放性調製物、そして懸濁液、溶液および乳濁液を含む経口性の液体が挙げられる。もっとも好ましい投与経路は経口投与および経鼻投与である。望ましい場合、組成物(特に、注射用組成物)は、投与前に再構成される、フリーズドライおよび凍結乾燥したものであり得る。剤形は、唯一の活性成分として肥満細胞安定化薬を含み得るか、他の活性薬剤も含んでもよい。すべての剤形は、当該分野で標準的であり、かつRemington’ Pharmaceutical Sciences(Osol, A, ed., Mack Publishing Co.(1990))のような参考研究に教示される方法に基づいて調製され得る。
【0022】
D.治療方法
本明細書に書かれている治療目的は、患者の体重を減らすこと、またはさらなる体重の増加を防ぐことである。体重の増加を防ぐために使用される場合、最適な投薬量は、動物実験(本明細書に記載されるような実験)の結果に基づき、臨床研究は、当該分野で周知の方法を使用して実行される。肥満細胞安定化薬は、すでに他の疾患症状、特にアレルギーに利用されており、既存の投薬量は、肥満症の予防または治療に有効な投薬量を評価するための開始点として役立ち得る。既存の知識に基づき、経口送達方法を使用して、代表的に、患者が、肥満細胞安定化薬の50〜1,500mg/日の経口用量で、好ましくは少なくとも2個の等しい用量に分けて受容することが期待される。薬物が経鼻投与される場合、5〜100mg/日の量の安定化薬を毎日投与され、再度、この量が、いくつかの等しい用量に分割されることが期待される。
【0023】
E.糖尿病に関する意見
本発明に述べられている実験は主として肥満症に関することであるが、特定の局面は、同じ方法がI型糖尿病の治療または予防にも適用可能であることが示唆された。糖尿病治療における目的はインスリン依存性を減らす、もしくは無くすことである。好ましい薬物および投薬量は肥満に対するものと同じである。
【0024】
F.治療構成物の包装
これまで述べられてきたように、肥満細胞安定化薬に含まれる薬学的組成物は、完成した薬学的容器内に配置され得、組成物の使用に関する医師への説明書とともに販売され得る。経鼻送達用の調製物において、薬学的組成物は、一般にスプレーとして組成物を送達するように設計されたデバイスに包装された液剤または粉末である。この方法で薬物を送達するための当該分野で公知のあらゆるデバイスは、この発明に適合性がある。送達の意図された経路に依存して、他の容器は、ボトル、バイアル、アンプル、ブリスターパックなどを含み得る。
【0025】
薬学的組成物の使用に関する説明書は、薬学的組成物を含む容器上にか、またはパッケージ挿入物として含まれ得る。あるいは、説明書は、薬学的組成物を販売する箱または他のパッケージに含まれ得る。すべての場合において、説明書は、薬学的組成物が体重の減少の促進、または体重増加の予防目的で投与されることを示す。活性成分の記載には、投薬量およびどのようにして薬学的組成物を投与するのかに関する情報と共に含まれている。
【0026】
G.アッセイ方法
本発明は、肥満細胞を安定化する能力をもとに肥満症の治療または予防において化合物の使用の可能性を評価するための方法も含んでいる。これらのアッセイは、当該分野で周知であり、またアレルギーの治療において有用な薬剤の同定と組み合わせて使用される。
【0027】
使用され得る適切なアッセイの一例はUS 6,225,327に記述されたものである。手短に説明すると、肥満細胞(約5,000個/アッセイチューブ)を試験化合物と共に37℃で約15分間インキュベートした後、抗ヒトIgE(約10μg/ml)に曝露させる。さらに15分後、遠心分離によって反応を止める。その後、上清を回収し、放射免疫測定法などによりヒスタミン含有量について分析する。このサンプル(試験サンプル)に存在するヒスタミンの量と、試験化合物非存在下で肥満細胞と抗ヒトIgEをインキュベートして得たコントロール調製物内の量との間で比較を行う。コントロールと比較しての、試験サンプル中のヒスタミン含量の減少は、試験化合物が肥満細胞を安定化するように作用することを示している。安定薬の有効性は、抑制の所定のレベル(例えばヒスタミン放出の50%の減少)を達成するのに必要とされる濃度によって反映される。
【実施例】
【0028】
この研究は、肥満細胞が食事に誘発された肥満および糖尿病の重大な一因となることを明らかにしている。肥満のヒトおよびマウス由来の白色脂肪組織(WAT)は脂肪の少ない対照群のWATと比較してより多くの肥満細胞が含まれている。マウスの遺伝子的に決定された肥満細胞の欠損および薬理学的な肥満細胞の安定化は、グルコースホメオスタシスおよびエネルギー消費を改善することと協調して、体重増加を減らし、血清および/またはWAT中の炎症性サイトカイン、ケモカインおよびプロテアーゼの量を減らす。機械学的研究は、肥満細胞がWATを高め、筋肉の血管新生を高め、付随する脂質生成に関係するカテプシン活性を高めることを明らかにする。体重増加の減少および耐糖能の改善と一致して、肥満細胞の欠損および安定化は筋肉およびWAT内の、抗脂質生成性(anti−adipogenic)マトリックスフィブロネクチン、グルコース輸送体Glut4、およびインスリン受容体のレベルを上げる。サイトカイン欠損肥満細胞の利用により、これらの細胞がマウスの脂肪細胞脂質の沈着およびカテプシンの発現をインビトロで誘導し、IL6およびIFN−γの産生により食事誘導性の肥満およびグルコース代謝をインビボで促進することを確立した。臨床で使用される肥満細胞を安定化させる薬剤は、マウスの肥満と糖尿病を抑え、これらの一般的なヒトの代謝障害に対する新しい治療法を示唆している。
【0029】
I.方法
マウス
野生型(C57BL/6)、Il6−/−(C57BL/6,N11)、およびIfng−/−(C57BL/6,N10)マウスはJackson Laboratories(Bar Harbor, ME)から購入した。類遺伝子性のTnf−/−(C57BL/6,N10)マウスと肥満細胞欠損KitW−sh/W−shマウス(C57BL/6,N>10)は、記載されるようにC57BL/6マウスとのもどし交配によって発生させた(Sunら、Nat. Med. 13:719−724(2007);Woltersら、Clin Exp Allergy 35:82−88(2005))。すべての動物実験のプロトコールはHarvard Medical Schoolの常任委員会に是認され、すべてのマウスは病原体のない設備に収容された。肥満を引き起こすために、6週齢のマウス(メス及びオス)に高脂肪食(Research Diet, New Brunswick, NJ)を12〜20週間与えた。マウスの体重は週に1回モニタリングした。高脂肪食消費の各々の経過の終わりまで、耐糖能とエネルギー消費量のアッセイを以前の報告(Yangら、Nat. Cell Biol. 9:970−977(2007))に従って実行した。マウスの血液サンプルは血清アディポカインの測定のために採取された。皮下脂肪と内臓脂肪と褐色脂肪と骨格筋は別個にタンパク抽出およびパラフィン切片の調製のために集められた。組織タンパクの抽出物はELISA、イムノブロット分析、およびシステイニルカテプシン活性部位の標識に用いられた。イムノブロット解析では30μgのタンパクを、220kDaフィブロネクチン(マウスモノクローナル抗体, 1:100, NeoMarkers, Fremont, CA)と200kDaインスリン受容体(マウスモノクローナル抗体, 1:100, Calbiochem, San Diego, CA)を検出するために8%SDS−PAGE上で分離したか、またはGlut4(マウスモノクローナル抗体, 1:200, R&D Systems, Minneapolis, MN)、UCP1(ラビットポリクロ―ナル抗体, 1:3000, Abcam, Cambridge, MA)、アクチン(マウスモノクローナル抗体, 1:500, Abcam)、グリセルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼglyceraldehyde−3−phosphate(GAPDH, ラビットポリクロ―ナル抗体, 1:1000, Santa Cruz Biotechnolog, Santa Cruz, CA)を検出するために12%SDS−PAGE上で分離した。カテプシン活性部位の標識については、以前に記載されたように、30μgのタンパクを1μlの600mM のジチオスレイトールと1μlの[125I]−JPMをpH5.5の緩衝液中でインキュベートした。37℃で1時間反応混合物をインキュベートした後、標識されたタンパクを12%SDS−PAGEで分離した。ゲルはクマシーブルーで染色し、脱色、乾燥させX線フィルムに曝露した。肝臓および胃腸管は組織学的分析のために回収した。
【0030】
患者の選択
この研究では80人の肥満症の被験体が、2003年〜2007年の間にDepartment of Nutrition of Hotel−Dieu Hospital(Reference Center for the Medical and Surgical Care of Obesity, Paris, France)において先を見越して集められ登録された(平均年齢37.5歳、範囲20−66歳、平均BMI 48.5kg/m、範囲32−85 kg/m;女性/男性比69/11)。これらの被験体はAssistance Pubrique−Hopitaux de Parisにより支持される臨床研究プログラムにおける、食事介入あるいは胃の手術のどちらかの候補者たちである。これらの被験体からは、炎症性疾患あるいは感染症、がん、アルコール乱用、腎疾患の者は除外された。胃の手術の際、本発明者らは、肥満患者の一部の臍周囲の領域から皮下脂肪組織を採取した(N=6, ボディマス指数=51.71±1.40kg/m, グルコース: 5.38±0.13 mmol/l, インシュリン:13.32±1.06μU/ml)。同じような地理的領域にいる、健康で、非肥満の年齢が対応する(P=0.2)の個体がコントロールとして集められた(N=32、平均年齢;41.4歳、範囲、20−62歳;平均BMI、22.8kg/m;範囲、19.9−28.4kg/m;女/男比、22/10)。10人の肥満のないコントロール(BMI=23.67±0.48kg/m;グルコース:4.82±0.45mmol/l、インシュリン:7.20±1.56μU/ml)において、臍周囲の領域において皮下脂肪組織を針生検により採取した。代謝の研究に参加したボランティアは、介入の前、3か月間、体重は安定していた。絶食後の朝に採取した血液サンプルおよび血清は使用時まで−80℃で凍結した。組織サンプルはホルマリンで固定し、パラフィン包埋した。Hotel−Dieu hospitalの倫理委員会によりこの臨床研究は承認され、すべての被験体に書面でのインフォームドコンセントを行なった。
【0031】
免疫組織学
ヒトおよびマウスのWATと筋肉組織は10%ホルマリンで一晩固定し、パラフィン包埋し5μmの切片を作成した。抗ヒト肥満細胞トリプターゼ抗体(マウスモノクローナル抗体, 1:100, Dako, TRAPPES CEDEX, France)、抗マウス肥満細胞CD117抗体(ラットモノクローナル抗体, 1:10, eBiosciences, Inc., San Diego, CA)、および抗マウスCD31抗体(ラットモノクローナル抗体, 1:400, Pharmingen, San Diego, CA)でWAT、筋肉および肝臓の切片上の肥満細胞と微細血管を免疫染色した。研究者は、組織の起源がわからないようにして、ヒトトリプターゼ陽性肥満細胞とCD117陽性肥満細胞をカウントし、データは細胞数/mmで示した。WATと筋肉におけるCD31陽性の面積は、記載されるようにImage−Pro Plus softwareを用いて同様に測定し、そしてデータはCD31陽性面積のパーセンテージで示した(Wangら、J. Biol. Chem. 281:6020−6029 (2006); Wild, Microvasc Res. 59:368−376 (2000))。ヘマトキシリン‐エオジン染色は消化管の組織学的評価を補助した。
【0032】
ELISA
凍結したマウスのWATは粉々に砕き、プロテアーゼ阻害剤カクテル(Calbiochem, San Diego, CA)を含むRIPA緩衝液(Pierce, Rockford, IL)で溶解した。WATおよび血清サンプルは、製造者の説明書に従ってIL6(BD Biosciences)、TNF−α(PeproTech, Rocky Hill, NJ)、IFN−γ(PeproTech)、MCP−1 (PeproTech)、アディポネクチン(R&D Systems)、MMP−9 (R&D Systems)、Cat S (R&D Systems)およびCat L (Bender MedSystems Inc, Burlingame, CA)についてのELISAに供した。
【0033】
ヒトの血清トリプターゼレベルの測定のため、96−wellプレートをウサギ抗ヒトトリプターゼポリクローナル抗体(1:1000, Calbiochem)でプレコートした。1:2に希釈したヒト血清サンプルはスタンダードとして組換え型ヒトトリプターゼと一緒に抗体でコーティングしたプレートに加えた。室温で2時間インキュベートした後、プレートを洗浄し、抗ヒトトリプターゼモノクローナル抗体(1:2000, AbD Serotec, Raleigh, NC)で1時間インキュベートした。検出抗体として、HRP結合体化抗マウスIg G(1:1000, Thermo scientific, Waltham, MA)を用いた。
【0034】
3T3−Ll細胞培養および分化
マウスの前駆脂肪細胞(pre−adipocyte)3T3−Ll(The American Type Culture Collection, Manassas, VA)は、前述のように6−wellあるいは24−wellプレートで培養し、インスリン、デキサメタゾン、イソブチルメチルキサンチン中で脂肪細胞に分化した(Yangら、Nat. Cell Biol. 9:970−977 (2007))。 3T3−Llの分化における肥満細胞の役割を評価するために、生きている肥満細胞(6−well plateに 2x10細胞/wellまたは24−well プレートに5x10細胞/well)あるいはそれらの脱顆粒タンパク抽出物(生きている細胞数と同等の)を100%コンフルエントの3T3−Ll細胞に添加した。共培養は7〜9日間維持され、生きている肥満細胞または肥満細胞のタンパク抽出物を含む培養培地は、2日毎に交換した。オイルレッドO染色により脂肪沈着を定量化し、データはOD510nm読み取り値により示した。分化した3T3−Ll細胞は前述のとおり、pH5.5緩衝液に細胞を溶解することによって、カテプシン活性部位の標識にも用いた(Shiら、J. Biol. Chem. 267:7258−7262(1992))。
【0035】
BMMC培養と再形成
BMMCは、本発明者らが以前報告したようにWT、Il6−/−、Tnf−/−、Ifng−/−マウスの骨髄から調製した(Sunら、Nat. Med. 13:719−724 (2007); Sunら、J. Clin. Invest. 117:3359−3368 (2007))。組換えマウスIL3(PeproTech)と幹細胞因子(PeproTech)での5週間分化させた(Sunら、Nat. Med. 13:719−724 (2007))後、細胞の純度および形態はそれぞれCD117媒介FACS分析およびトルイジンブルー染色によって確認した。マウスにおける肥満症での肥満細胞の役割を調べるために、6週齢のオスのKitW−sh/W−shマウスの尾静脈に、それぞれのタイプのマウス由来のBMMC(1x10/マウス)を注射した。BMMC再形成の2週間後、それらのマウスに高脂肪食を消費させて肥満症と糖尿病を誘導させた。マウスの体重は毎週記録され、タンパク抽出物調製のためのWATを採集前に耐糖能アッセイを行なった。
【0036】
統計
マウスから得られたすべてのデータは平均値±SEとして示し、本発明者らのデータのサイズが小さいことと異常なデータ分布に起因する、統計的有意差はノンパラメトリック検定(Mann−Whitney検定)を用いて判定した。ヒト血清のキマーゼおよびトリプターゼのデータは平均値±標準誤差で示した。Shapiro−Wilcoxon検定により、すべての臨床的および生物学的パラメーターは正規分布を示した。非対称の変数(キマーゼおよびトリプターゼ)は統計処理の前に、その分布を正規化するために対数変換し、検証した。グループ間の比較について、Srudent’s t test、分散分析(ANOVA)、非連続の値についてのカイ2乗検定を使用した。統計解析はJMPの統計ソフトウェア (SAS Institute Inc., Cary, NC)により行なった。P<0.05を有意であるとみなした。
【0037】
II.結果
肥満の被験体のWATには、脂肪細胞に加えてマクロファージとリンパ球が含まれていた(Weisbergら、J. Clin. Invest. 112:1796−1808 (2003); Wuら、Circulation 115:1029−1038 (2007))。これらの炎症性細胞はWATでサイトカインや成長因子、ケモカインおよびプロテアーゼを産生する (Wuら、Circulation 115:1029−1038 (2007); Fantuzzi, J. Allergy Clin. Immunol. 115:911−919 (2005))。ただし、肥満症および関連する代謝性合併症である糖尿病の病因におけるこれらの細胞の役割に関しては依然として不明である。他の認識されていない細胞が決定的な一因となっているのかもしれない。ヒトの脂肪組織切片において、脂肪細胞特異的なトリプターゼモノクローナル抗体による免疫染色から、脂肪の少ない(lean)ドナー由来のWATより肥満の被験体のWATでの肥満細胞の数が多いことが明らかになった。肥満のドナーの血清中の肥満細胞プロテアーゼのレベルがより高いことは、この脂肪細胞含量がより多いことに付随した。ELISAを使用して、肥満のドナー(ボディマス指数≧30kg/mm)は、性別についての補正前(P<0.01)と後(P<0.01,多変量解析)で脂肪の少ない被験体(ボディマス指数<30kg/mm)よりも有意に高い血清トリプターゼ濃度を有した。これらの結果は肥満症における肥満細胞の役割を示唆する。
【0038】
肥満症における肥満細胞の直接的な関与を評価するために、肥満細胞欠損KitW−sh/W−shマウスにおける食事誘導性肥満症を研究した。KitW−sh/W−shマウスはc−Kitプロモーター領域の反転型突然変異に起因して成熟肥満細胞を欠損している(Duttlinger, et al.,Proc.Nat’l Acad.Sci.USA 92:3754−3758(1995))が、血液中の他の白血球の数と活性は正常で、生体内における肥満細胞機能の探索が可能である。12週間高脂肪食を与えた6週齢のオスのKitW−sh/W−shマウスは野生型(WT)類遺伝子性コントロールと比較して、著しく体重の増加が少なかった。同様に、肥満細胞安定化薬であるクロモリン二ナトリウム(DSCG) (Eigenら、J. Allergy Clin. Immunol. 80:612−621 (1987))の毎日の腹腔内(i.p.)注射を受容するWTマウスもまた、体重増加の減弱を有した。DSCG治療は、KitW−sh/W−shマウスの体重にさらに影響を与えず、これは、肥満細胞を介して作用することが示唆された。体重の減少と一致して、オスのKitW−sh/W−shマウスまたはDSCGを受容したマウスは、未治療のWTコントロールと比較して、顕著に少ない総皮下および内臓脂肪を有した。メスのKitW−sh/W−shマウスあるいはDSCG投与をしたWTマウスでも、体重増加ならびに皮下および内臓脂肪において類似の減少を示した。ヒトの脂肪組織のように、食事誘導性肥満マウス由来のWTにも多くのc−Kit(CD117)陽性肥満細胞が存在したのに対して、固形飼料を給餌した脂肪の少ないマウス由来のWATは、はるかに少ない肥満細胞を有した。興味深いことに、これらのマウスは、体重増加に関してKitW−sh/W−shマウスと同様に応答したが、DSCG治療したマウス由来のWATは、同じ食事条件下の未治療のマウス由来のWATと同様な肥満細胞の数を有し、このことは、DSCG治療されたWTマウスが、未治療のWTマウスよりも少ない活性な肥満細胞を有することが示唆された。オスおよびメスのKitW−sh/W−shマウスまたはDSCGを受容したマウスの体重の減少と一致して、これらのマウスは、WTコントロールよりも顕著に低いレベルの血清レプチンレベルも有した。KitW−sh/W−shマウスおよびDSCG治療マウスがより脂肪が少ないだけでなく、これらのマウスが、グルコース負荷に対して、より感受性であることも示した。グルコース負荷アッセイにより、肥満細胞を有さない(KitW−sh/W−sh)マウスあるいは安定化された肥満細胞を有するマウス(DSCGで治療されたWT)において有意に改善された耐糖能が明らかになった。肥満細胞の欠損や不活性化の有益な効果のメカニズムを理解するために、本発明者らは、エネルギー消費アッセイを実行し、褐色脂肪における結合解離した(uncoupled)蛋白−1(UCP1)を測定した。食物/水の摂取量、糞便/尿の生成量そして酸素消費量とCO産生量を測定することによって、KitW−sh/W−shマウスとDSCG治療したWTマウスは、未治療のWTマウスよりも有意に多い酸素消費とCO産生によって示される、安静時の代謝率が増加していることを見出した。WTコントロールマウスと比較して、KitW−sh/W−shマウスおよびDSCGを受容したマウスにおけるエネルギー消費の指標である褐色脂肪UCP1発現が明らかに高かった。重要なことに、DSCG治療WTマウスにおける体重の減少および耐糖能の改善は食物/水の摂取の減少によるものでもDSCGの何らかの毒性効果によるものでもないことではなかった。組織学的な分析では、DSCG治療し、高脂肪食を給餌したマウスと固形飼料を給餌したWTマウスの肝臓および消化管では病理学的に相違が認めなかった。高脂肪食を給餌したWTマウス由来の脂肪肝内にはたくさんの肥満細胞と脂肪細胞が存在したのに対して、固形飼料を給餌した野生型マウスまたはDSCGで治療し、高脂肪食を給餌したWTマウス由来の肝臓内には、肥満細胞も脂質を負荷した脂肪細胞も検出されなかった。同様に、組織学的解析では膵臓、胃、結腸、小腸において、固形飼料を給餌したWTマウスと高脂肪食を給餌し、DSCG治療したWTマウスとの間に顕著な相違は認められなかった。本発明者らの観察を広げるために、肥満や糖尿病を誘発するためWTマウスに高脂肪食を12週間給餌し、これらの肥満症や糖尿病マウスを次の4つの治療グループに分けた。I、高脂肪食を給餌し続ける;II、固形飼料に切り替える;III、毎日のDSCG腹腔内注射とともに高脂肪食を給餌し続ける;IV、固形飼料に切り替え、DSCGで治療する。期待された通り、食事の切り替え(グループII)により体重は減少(8%)し、耐糖能も改善したが、食事の切り替えとDSCG投与の併用(グループIV)は体重と耐糖能のもっともよい改善がもたらされた。DSCG治療の8週間後、グループIIIのマウスの体重は12%減少したが、グループIVのマウスの体重は19%減少し、40〜41gで安定した。重要なことは、グループIVのマウスは4つのグループの中で最も耐糖能が高いことも明らかにされ、肥満細胞の安定化により、ヒトの肥満および糖尿病の管理の可能性が示された。
【0039】
III.考察
肥満症の発症には脂質生成、血管新生、マトリックスリモデリングを含まれる。血管新生は肥満症において特定の重要性を有する。栄養成分を白色脂肪に提供する以外に、微細血管は、アディポカインの放出が続く白血球浸潤の経路を提供する。マウスでは血管新生の抑制により脂肪組織発達が抑制される(Rupnickら、Proc. Natl Acad. Sci. USA 99:10730−10735 (2002))。肥満のWTマウス由来白色脂肪と筋組織は、内皮細胞のマーカーであるCD31についての実質的な免疫染色を示した。対照的に、高脂肪食を給餌したKitW−sh/W−shマウス、あるいはDSCGを受容したマウスは、固形飼料を給餌した脂肪の少ないマウスと同様なCD31陽性領域を有した。血管新生の低減により白血球の侵潤が減少し、したがって炎症メディエーターのWAT産生も低下した可能性がある(Skouraら、J.Clin.Invest.117:2506−2516(2007))。この概念と一致して、KitW−sh/W−shマウスとDSCGを受容したマウスの血清および/または白色脂肪は、IL6、TNF−α、IFN−γ、MCP−1、マトリックスメタロプロテアーゼ(MMP−9)およびカテプシンS(Cat S)のより低いレベルを有したが、いくつかのアディポカイン(アディポネクチンやCat Lなど)が有意な変化をしなかった。マトリックスのタンパク分解は血管新生促進ペプチド(pro−angiogenic peptide)の放出によって血管新生に寄与する可能性がある(Xuら、J.Cell Biol.154:1069−1079(2001))。本発明者らは以前、抗血管新生ペプチドの分解と血管新生促進性ラミン−5 断片γ2の生成によって血管新生においてCat Sが重要な役割を果たすことを明らかにした(Wangら、J. Biol. Chem. 281:6020−6029 (2006))。KitW−sh/W−shマウスおよびDSCG治療したマウスにおける血管新生の減少は、白色脂肪および血清中の低いCat Sレベルを伴っていた。活性なカテプシンを選択的に標識する[125I]−JPMと白色脂肪タンパク抽出物を一緒にインキュベートした結果、KitW−sh/W−shマウスの白色脂肪においてCat S、Cat K、Cat Bを含む活性なカテプシンの減弱が見出された。興味深いことに、DSCG治療したマウスの白色脂肪は、WTコントロールに類似した、活性なCat SおよびCat Kのレベルを依然として有し、このことは、これらの組織内の肥満細胞の数の多さと一致していた。Cat SのELAISAにより、本発明者らは、異なるマウス間の局所および全身レベルを測定することが可能であった。JPM標識実験からの観察と同様に、オスおよびメスの両方のKitW−sh/W−shマウスは、WTコントロールよりも低い血清中および白色脂肪中のCat Sレベルを示した。対照的に、DSCG治療は、血清中のCat Sレベルは有意に減少させたが、白色脂肪では減少しなかった。このことはこの抗アレルギー物質は効果的に肥満細胞を不活性化することが示唆した。
【0040】
本発明者らは以前の研究で、システイニル・カテプシンは血管新生を促進するだけでなく、抗脂質生成マトリックス構成成分であるフィブロネクチン、グルコース輸送体であるGlut4、そしてインスリン受容体(IR)の分解による脂質生成に関与することを示唆した(Wangら、J Biol Chem. 281:6020−6029 (2006); Yangら、Nat. Cell Biol. 9:970−977 (2007); Talebら、Endocrinology 147:4950−4959 (2006))。肥満細胞の欠損および不活性化は、低減したカテプシン活性に起因して、これらのタンパクに間接的に影響し得る。この仮説に一致して、3つのすべての分子はKitW−sh/W−shマウスの白色脂肪および筋肉内で増加した。面白いことに、KitW−sh/W−shマウスよりも、DSCG治療したマウス由来の白色脂肪および筋肉内において、多くのフィブロネクチン、Glut4およびIR分子が検出され、このことからDSCGは肥満細胞よりも影響を与えることが示唆された。しかしながら、そのようなDSCGの追加の効果は、KitW−sh/W−shマウスにおける体重の増加および耐糖能に、あるいはWTマウスにおける肝臓や消化管の組織学にさらには変化を与えなかった。
【0041】
肥満細胞がマウスの肥満症および糖尿病を制御する分子機構をさらに理解するために、本発明者らは、3つの一般的な肥満細胞サイトカイン(IL6、TNF−αおよびIFN−γ)のうちの1つを欠くマウスから骨髄由来肥満細胞(BMMC)を調製し、これらのサイトカインのうちのいずれかが存在しないことによって、インビトロでの前脂肪細胞の分化ならびにインビボでの食事誘導性の肥満症および糖尿病を誘導することにおいて肥満細胞の活性が減弱されるか否かを調べた。根底にある機構は未知のままだが、分化カクテル(インスリン、デキサメタゾン、イソブチルメチルキサンチン)がなくとも、WTマウス、Tnf−/−マウスおよびIfng−/−マウス由来BMMCは、3T3 −L1の脂質生成と関連するカテプシン発現を誘導した。対照的に、IL6−/−BMMCは、両方の変数に対する効力ははるかに低かった。インビボで肥満症におけるこれらの肥満細胞サイトカインが一定の役割を果たすことを証明するために、これらの細胞をオスのKitW−sh/W−shマウスへ養子移入(adoptively transfered)した。高脂肪食での13週間の後、WTおよびTnf−/−BMMCで再形成させたマウスは、再形成させていないマウスに比べて、有意に体重増加が大きかったが、Il6−/−およびIfng−/−BMMCで再形成させたマウスではそうではなかった。しかし、これらのマウスは全て、WTコントロールよりも脂肪が少なかった。体重の差に一致して、WTおよびTnf−/− BMMCを受容したマウスは、再形成させていないマウスあるいはIl6−/−およびIfng−/− BMMCを受容したマウスよりも、有意に高い血清インシュリンおよびグルコースレベルを有した。WTまたはTnf−/− BMMCを受容したKitW−sh/W−shマウスではなくIl6−/−およびIfng−/− BMMCを受容したKitW−sh/W−shマウスもまた、WTコントロールと比較して耐糖能の改善を示し、このことから、肥満細胞由来のIL6およびIFN−γはこれらの代謝性障害に寄与することが示唆された。この結論を支持することにおいて、本発明者らは、Il6−/−およびIfng−/−BMMC再形成KitW−sh/W−shマウスからの白色脂肪抽出物におけるマトリックス・フィブロネクチン、Glut4およびIRの量が、WTマウスあるいはWTまたはTnf−/−BMMCを受容したマウスよりも高いことを検出した。白色脂肪におけるこれらの分子の違いは、変化したタンパク質分解または脂肪細胞の大きさの差に起因し得る。本発明者らは、WTコントロールよりもKitW−sh/W−shマウス由来の白色脂肪の脂肪細胞の方が小さいことを見出したが、異なるBMMC再形成マウス間では、白色脂肪の脂肪細胞の大きさは有意には変動しなかった。対照的に、種々の再形成されたレシピエントにおけるシステイニル・カテプシンの発現には明らかな違いが認められた。なぜIfng−/−BMMCがWT BMMCと同程度3T3−L1の脂質生成およびカテプシン活性を誘導したが、体重やグルコース感受性を回復できなかったのかは不明である。肥満細胞由来のIFN−γは、パラクリン作用を介して脂肪細胞分化以外にも、血管新生あるいは近隣細胞のプロテアーゼ発現のような他のプロセスに影響を与え得る。Ifng−/−BMMC再形成KitW−sh/W−shマウスのWATにおける低いカテプシン活性の観察はこの概念を支持する。したがって、インビボにおいて肥満細胞調節因子がどのように白色脂肪成長を調節し、どのさらなる肥満細胞因子が参加するかはさらなる研究に値する。
【0042】
本研究によりマウスの肥満症および糖尿病における肥満細胞の新しい役割を確立し、一般に臨床で使用されている抗アレルギー薬を使用する、これらの一般的なヒト代謝病の可能性のある新規な療法を示唆する。
【0043】
本明細書に引用されたすべての参考文献は完全に援用される。本発明は、いまや十分に説明されたので、広範かつ等価な範囲の条件およびパラメータなどの範囲で、本発明またはそのあらゆる実施形態の精神または範囲に影響を与えることなく、本発明を実施し得ることが当業者によって理解される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトまたは動物被験体における肥満症の治療または予防する方法であって、該方法は、該被験体に肥満細胞を安定化させる薬物の有効量を投与する工程を包含する、方法。
【請求項2】
前記肥満細胞を安定化させる薬物が、肥満のヒト被験体に、治療開始時の総体重の少なくとも15%を減少させるのに少なくとも該被験体に十分な期間投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ヒト及び動物被験体が、治療開始時においてアレルギー、心臓疾患及び糖尿病を有していない、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記薬物がクロモリン、ネドクロミル、ケトチフェン、及びロドキサミドからなる群より選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記薬物が、1日あたり用量50〜1500mgにて経口投与される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記薬物が、1日あたり用量5〜100mgにて経鼻投与される、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
前記薬物が、1日あたり用量200〜1000mgにて経口投与されるクロモリンナトリウムまたはクロモリン二ナトリウムである、請求項4に記載の方法。
【請求項8】
前記薬物が1日あたり用量5〜50mgにて経鼻投与されるネドクロミルナトリウムである、請求項4に記載の方法。
【請求項9】
前記薬物が1日あたり用量50〜500mgにて経口投与されるネドクロミルナトリウムである、請求項4に記載の方法。
【請求項10】
前記薬物が1日あたり用量1〜200mgにて経口投与されるフマル酸ケトチフェンである、請求項4に記載の方法。
【請求項11】
前記薬物が1日あたり用量1〜200mgにて経口投与されるロドキサミドトロメタミンである、請求項4に記載の方法。
【請求項12】
治療構成物であって、該治療構成物は:
a)完成した薬学的容器内の肥満細胞安定化薬、及び
b)該肥満細胞安定化薬をヒトまたは動物患者に投与して肥満症を治療するための説明書
を含む、治療構成物。
【請求項13】
前記薬物がクロモリン、ネドクロミル、ケトチフェン、及びロドキサミドからなる群より選択される、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記薬物がクロモリンナトリウムまたはクロモリン二ナトリウムである、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記薬物がネドクロミルナトリウムである、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
前記薬物がフマル酸ケトチフェンである、請求項13に記載の方法。
【請求項17】
前記薬物がロドキサミドトロメタミンである、請求項13に記載の方法。
【請求項18】
前記肥満細胞安定化薬が、単位用量形態で治療構成物の一部であり、単位用量当たり1〜500mgで存在する、請求項13に記載の治療構成物。

【公表番号】特表2010−540519(P2010−540519A)
【公表日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−526924(P2010−526924)
【出願日】平成20年9月24日(2008.9.24)
【国際出願番号】PCT/US2008/011026
【国際公開番号】WO2009/045291
【国際公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【出願人】(504412945)ザ ブライハム アンド ウイメンズ ホスピタル, インコーポレイテッド (54)
【Fターム(参考)】