説明

肩の外科手術を実施するためのシステムおよび方法

【課題】患者の肩に対する外科手術手順の間に、台に設置された開創デバイスを利用する、外科手術的開創の改良された方法を提供する。
【解決手段】外科手術台13上の、関節窩52、上腕骨56および上腕骨球を有する肩甲骨に関連して、肩関節の外科手術を実施するためのシステムであって、開創器支持体12;この開創器支持体をこの外科手術台13に設置するための手段;この開創器支持体12をこの肩関節の周りに位置決めするための手段;この肩関節の近くの皮膚層および肉の層を切開するための手段;この肩関節の近くの皮膚層および肉の層を手動で牽引するための開創器58;ならびにこの開創器58をこの開創器支持体12に取り付けることによって、この開創器58を、選択された牽引位置に固定するための手段、を備える、システム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の引用)
本願は、2005年1月5日に出願された、米国特許出願番号11/029,263に対して優先権を主張する。米国特許出願番号10/728,202、米国特許出願番号10/077,693(米国特許第6,659,944号)、米国特許出願番号09/990,420(米国特許第6,368,271号)、米国特許出願番号10/892,816、米国特許出願番号10/623,179、米国仮特許出願番号60/396,850は、これらの全体が、全ての目的で、本明細書中に参考として援用される。
【0002】
本発明は、外科手術的開創の方法に関する。具体的には、本発明は、患者の肩に対する外科手術手順の間に、台に設置された開創デバイスを利用する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
肩の全置換(関節形成)手術は、肩の構成要素を修復するために、何十年間も実施されている。これらの構成要素としては、関節窩(肩のソケット部分)および上腕頭(肩の球部分)が挙げられる。肩は、代表的に、関節窩および/または上腕球の劣化または磨耗に起因して、置換される。肩関節が適切に関節運動する平滑な表面から、この肩関節の関節運動が疼痛を伴う粗い表面への、肩関節の劣化の通常の原因としては、変形性関節症、慢性関節リウマチ、および肩関節を損傷する外傷が挙げられる。この劣化は、上腕骨球もしくは関節窩のいずれか、または上腕骨球と関節窩との両方を粗くし、それにより、肩関節が関節運動する際に、疼痛を生じる。
【0004】
肩関節置換手順は、この型の肩の疼痛を軽減することに成功する。肩の全置換手順において、カップの形状の挿入物(代表的に、高密度ポリエチレンから製造される)が、擦り減った関節窩に挿入され、そして金属球が、上腕骨球に対する置換物として、この上腕骨にセメントで固定される。部分的な肩置換外科手術において、肩の擦り減った構成要素が置換され、この外科手術において、上腕骨球が置換されるか、または挿入物が、関節窩内に位置決めされて保持されるかの、いずれかである。
【0005】
代表的に、身体が強い少なくとも2人の人が、肩の全置換を実施するために、必要とされる。1人の人は、関節窩から上腕骨を牽引して保持し、関節窩と上腕骨との両方への接近を得るために、必要とされる。他方の人は、挿入物を受容するために関節窩を準備し、そしてまた、金属球を受容するために上腕骨を準備するために、必要とされる。
【0006】
置換用の構成要素が挿入された後に、この肩は、整復され(上腕骨構成要素が、関節窩構成要素に挿入され)、関節窩挿入物への上腕骨球の角度および適合を確認される。肩の構成要素が適切に関節運動しない場合、この肩関節は、再度脱臼され、これらの構成要素が再度調整され、そして上腕骨球が、関節窩内で再度位置決めされる。試験用の挿入物の安定性および配置が認容可能である場合、この肩が脱臼され、そして上腕骨移植物が、上腕骨に固定される。上腕骨球が、関節窩内で再度位置決めされ、そしてこの関節形成の安定性が確認される。
【0007】
上腕骨球と関節窩との複数回の脱臼および挿入、ならびに上腕骨の牽引に起因して、この外科手術手順は、外科医に対して物理的に非常に困難になり得る。この外科手術手順は、患者の腕を複数の位置へと持ち上げ、そして移動させることを必要とする。時折、この外科医は、この腕を、長時間にわたって、選択された位置で保持する必要があり得る。患者の大きさに依存して、精力的な活動は、疲労をもたらし得、そして外科手術の失敗の原因になり得る。
【0008】
さらに、腕の繰り返しの移動は、精密にかつ最小の調節でなされない場合、神経の損傷を引き起こし得る。外科医が上腕骨を手で移動させる場合、通常、頻繁な調節が起こる。しばしば、腕を保持している外科医は、力を抜くかまたは疲労し、そしてこの腕が動かされる。これにより、この腕が再度調節されることが必要とされる。この動きは、この腕に、神経または筋肉組織を挟ませるかまたは擦らせ得、おそらく、損傷を引き起こす。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、患者の肩に対する外科手術手順の間に、台に設置された開創デバイスを利用する、外科手術的開創の改良された方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明は、以下を提供する:
(項目1)
外科手術台上の、関節窩、上腕骨および上腕骨球を有する肩甲骨に関連して、肩関節の外科手術を実施するためのシステムであって、
開創器支持体;
この開創器支持体をこの外科手術台に設置するための手段;
この開創器支持体をこの肩関節の周りに位置決めするための手段;
この肩関節の近くの皮膚層および肉の層を切開するための手段;
この肩関節の近くの皮膚層および肉の層を手動で牽引するための開創器;ならびに
この開創器をこの開創器支持体に取り付けることによって、この開創器を、選択された牽引位置に固定するための手段、
を備える、システム。
(項目2)
上記開創器支持体が、上記外科手術台のレールに設置される、項目1に記載のシステム。
(項目3)
上記肩関節の外科手術が、肩関節置換外科手術を包含し、この肩関節置換外科手術において、挿入物が、上記関節窩内に固定され、そして上腕骨挿入物が、上記上腕骨に固定される、項目1に記載のシステム。
(項目4)
上記肩関節の外科手術が、部分的な肩関節の外科手術を包含し、この部分的な肩関節の外科手術において、上腕骨挿入物が、上記上腕骨に固定される、項目1に記載のシステム。
(項目5)
項目1に記載のシステムであって:
上記上腕骨球を上記関節窩から脱臼させるための手段;
上腕骨開創器を上記上腕骨の周りで位置決めするための手段;
この上腕骨球をこの関節窩から手動で牽引するための上腕骨開創器;および
この上腕骨開創器を上記開創器支持体に固定するための手段、
をさらに備える、システム。
(項目6)
上記上腕骨球を上記関節窩内に残しながら、この上腕骨球を上記上腕骨から分離するための手段をさらに備える、項目1に記載のシステム。
(項目7)
上記上腕骨球を上記上腕骨から取り外し、そして新たに切断した表面を露出させるための手段をさらに備える、項目6に記載のシステム。
(項目8)
項目6に記載のシステムであって、
上記上腕骨の新たに切断された表面に空洞を穿孔するための手段;
上腕骨挿入物の軸部をこの上腕骨の空洞内に配置するための手段であって、この軸部に球部が取り付けられている、手段;および
この球部がこの上腕骨上の選択された位置に固定されるように、この空洞内にこの軸部を固定するための手段、
をさらに備える、システム。
(項目9)
項目6に記載のシステムであって、
上記上腕骨球を上記関節窩から脱臼させるための手段;
この関節窩内の肩甲骨を、挿入物を受容するように準備するための手段;および
この関節窩内の挿入物を、この肩甲骨に固定するための手段、
をさらに備える、システム。
(項目10)
上記上腕骨に取り付けられた上記球部を、上記関節窩内に固定された挿入具内に配置するための手段をさらに備える、項目9に記載のシステム。
(項目11)
肩関節に対する外科手術手順のための外科手術部位を準備するためのシステムであって、
開創器支持体;
この開創器支持体をこの外科手術台に設置するための手段;
この開創器支持体をこの肩関節の周りで位置決めするための手段;
この肩関節の近くの皮膚層および肉の層を切開するための手段;
この肩関節の近くの皮膚層および肉の層を手動で牽引して、外科手術部位を露出させるための開創器;ならびに
この開創器をこの開創器支持体に取り付けるための手段、
を備える、システム。
(項目12)
上記開創器支持体が、上記外科手術台のレールに設置される、項目11に記載のシステム。
(項目13)
上記外科手術手順が、肩関節置換外科手術を包含し、この肩関節置換外科手術において、挿入物が、肩甲骨の関節窩内に固定され、そして上腕骨挿入物が、上腕骨に固定される、項目11に記載のシステム。
(項目14)
上記外科手術手順が、部分的な肩関節外科手術を包含し、この部分的な肩関節外科手術において、上腕骨挿入物が、上腕骨に固定される、項目11に記載のシステム。
(項目15)
上記外科手術手順が、損傷した筋肉、腱または靭帯を修復する工程を包含する、項目11に記載のシステム。
(項目16)
上記開創器支持体が、ほぼ「J」字型の支持体を備える、項目11に記載のシステム。
(項目17)
上記開創器支持体が、上記「J」字型の支持体にクランプされた棒をさらに備え、この棒とこの「J」字型の支持体とが、上記肩の反対側に位置決めされるように構成されている、項目16に記載のシステム。
(項目18)
外科手術台上の、関節窩、上腕骨および上腕骨球を有する肩甲骨に関連して、肩関節の外科手術を実施するための方法であって、
開創器支持体をこの外科手術台に設置する工程;
この開創器支持体をこの肩関節の周りに位置決めする工程;
この肩関節の近くの皮膚層および肉の層を切開する工程;
この肩関節の近くの皮膚層および肉の層を手動で牽引する工程;ならびに
この開創器をこの開創器支持体に取り付けることによって、この開創器を、選択された牽引位置に固定する工程、
を包含する、方法。
(項目19)
上記開創器支持体が、上記外科手術台のレールに設置される、項目18に記載の方法。
(項目20)
上記肩関節の外科手術が、肩関節置換外科手術を包含し、この肩関節置換外科手術において、挿入物が、上記関節窩内に固定され、そして上腕骨挿入物が、上記上腕骨に固定される、項目18に記載の方法。
(項目21)
上記肩関節の外科手術が、部分的な肩関節の外科手術を包含し、この部分的な肩関節の外科手術において、上腕骨挿入物が、上記上腕骨に固定される、項目18に記載の方法。
(項目22)
項目18に記載の方法であって:
上記上腕骨球を上記関節窩から脱臼させる工程;
上腕骨開創器を上記上腕骨の周りで位置決めする工程;
この上腕骨球をこの関節窩から手動で牽引する工程;および
この上腕骨開創器を上記開創器支持体に固定する工程、
をさらに包含する、方法。
(項目23)
上記上腕骨球を上記関節窩内に残しながら、この上腕骨球を上記上腕骨から分離する工程をさらに包含する、項目18に記載の方法。
(項目24)
上記上腕骨球を上記上腕骨から取り外し、そして新たに切断した表面を露出させる工程をさらに包含する、項目23に記載の方法。
(項目25)
項目23に記載の方法であって、
上記上腕骨の新たに切断された表面に空洞を穿孔する工程;
上腕骨挿入物の軸部をこの上腕骨の空洞内に配置する工程であって、この軸部に球部が取り付けられている、工程;および
この球部がこの上腕骨上の選択された位置に固定されるように、この空洞内にこの軸部を固定する工程、
をさらに包含する、方法。
(項目26)
項目23に記載の方法であって、
上記上腕骨球を上記関節窩から脱臼させる工程;
この関節窩内の肩甲骨を、挿入物を受容するように準備する工程;および
この関節窩内の挿入物を、この肩甲骨に固定する工程、
をさらに包含する、方法。
(項目27)
上記上腕骨に取り付けられた上記球部を、上記関節窩内に固定された挿入具内に配置する工程をさらに包含する、項目26に記載の方法。
(項目28)
肩関節に対する外科手術手順のための外科手術部位を準備するための方法であって、
開創器支持体をこの外科手術台に設置する工程;
この開創器支持体をこの肩関節の周りで位置決めする工程;
この肩関節の近くの皮膚層および肉の層を切開する工程;
この肩関節の近くの皮膚層および肉の層を手動で牽引して、外科手術部位を露出させる工程;ならびに
この開創器をこの開創器支持体に取り付ける工程、
を包含する、方法。
(項目29)
上記開創器支持体が、上記外科手術台のレールに設置される、項目28に記載の方法。
(項目30)
上記外科手術手順が、肩関節置換外科手術を包含し、この肩関節置換外科手術において、挿入物が、肩甲骨の関節窩内に固定され、そして上腕骨挿入物が、上腕骨に固定される、項目28に記載の方法。
(項目31)
上記外科手術手順が、部分的な肩関節外科手術を包含し、この部分的な肩関節外科手術において、上腕骨挿入物が、上腕骨に固定される、項目28に記載の方法。
(項目32)
上記外科手術手順が、損傷した筋肉、腱または靭帯を修復する工程を包含する、項目28に記載の方法。
(項目33)
上記開創器支持体が、ほぼ「J」字型の支持体を備える、項目28に記載の方法。
(項目34)
上記開創器支持体が、上記「J」字型の支持体にクランプされた棒をさらに備え、この棒とこの「J」字型の支持体とが、上記肩の反対側に位置決めされるように構成されている、項目33に記載の方法。
【0011】
外科手術台上の、関節窩、上腕骨および上腕骨球を有する肩甲骨に関連して、肩関節の外科手術を実施するための方法は、開創器支持体をこの外科手術台に設置し、そしてこの開創器支持体を、肩関節の周りで位置決めする工程を包含する。この肩関節の近くの皮膚層および肉の層が切開され、そしてこれらの皮膚層および肉の層が、開創器を用いて、手動で牽引される。この開創器は、この開創器を開創器支持体に取り付けることによって、選択された牽引位置で固定される。
【0012】
(発明の簡単な要旨)
本発明は、外科手術台上の、関節窩、上腕骨および上腕骨球を有する肩甲骨に関連して、肩関節の外科手術を実施するための方法を包含する。この方法は、開創器支持体をこの外科手術台に設置し、そしてこの開創器支持体を、肩関節の周りで位置決めする工程を包含する。この肩関節の近くの皮膚層および肉の層が切開され、そしてこれらの皮膚層および肉の層が、開創器を用いて、手動で牽引される。この開創器は、この開創器を開創器支持体に取り付けることによって、選択された牽引位置で固定される。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、患者の肩に対する外科手術手順の間に、台に設置された開創デバイスを利用する、外科手術的開創の改良された方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
(詳細な説明)
本発明は、肩関節に対して外科手術手順を実施する方法に関する。本発明の外科手術手順において使用される装置は、一般に、図1において10で表される。
【0015】
装置10は、開創器支持装置12を備え、この装置は、外科手術台13のレール11にしっかりと設置される。この設置の様式は、当該分野において周知であり、そして米国特許第4,617,916号、同第4,718,151号、同第4,949,707号、同第5,400,772号、同第5,741,210号、同第6,042,541号、同第6,264,396号、および同第6,315,718号に記載されている。これらの米国特許は全て、本明細書中に参考として援用される。外科手術台13への設置点から、開創器支持装置12は、外科手術台13の上に延びる、少なくとも1つの支持アームを備える。支持アーム16は、クランプ機構18に取り外し可能に取り付けられ、このクランプ機構は、クランプ穴(図示せず)内で回転により可動である少なくとも1つの旋回ボール20を有する。旋回ボール20は、空洞(図示せず)を備え、この空洞内に、支持アーム16の端部が挿入される。支持アーム16は、旋回ボール20をクランプ穴(図示せず)内で回転させることによって、無限数の選択された位置に調節可能である。
【0016】
支持アーム16は、好ましくは、ほぼ文字「J」の形状である構成を有する。ほぼ「J」字型の支持アーム16は、肩領域30の周りに、開創器を支持する支持構造体を提供する。この開創器は、皮膚、筋肉、血管および神経を牽引して肩関節を露出させ、そして肩関節が分離される場合、骨を牽引する。棒22が、好ましくは、このほぼ「J」字型の支持アームにクランプされ、そして患者の上に延び、さらなる支持構造体を、肩関節32の、ほぼ「J」字型の支持アーム16とは反対側に提供し、同時にこの肩関節への接近を維持する。
【0017】
あるいは、図2を参照すると、装置100は、支持アーム102および104を備え得、これらの支持アームは、互いのほぼ鏡像であり、そして外科手術台13の上にほぼ水平に延び、そして肩関節30の反対側に位置決めされる。支持アーム102および104、ならびにほぼJ字型の支持アーム16は、クランプ機構20の使用によって、無限数の選択された位置に独立して調節可能である。このクランプ機構は、米国特許第5,899,627号および同第6,264,396号に記載されており、これらの米国特許は、本明細書中に参考として援用される。クランプ20は、調節可能な支持アーム102および104、またはほぼJ字型の支持アームを、肩関節30に対して選択された角位置に固定する。
【0018】
肩関節32に対する外科手術手順は、台に設置された任意の支持構造体を用いて実施され得、そして本明細書中に図示および説明される構成によって限定されない。しかし、台に設置される支持構造体は、肩関節32への接近を提供しながら、皮膚、筋肉、血管、腱、および骨を牽引するための開創器を設置するための支持を提供しなければならない。
【0019】
図1を参照して、開創器支持装置12が肩関節の周りの選択された位置に位置決めされると、切開34が、肩関節32の前方の皮膚を通して、または肩関節32への前からの接近として公知である別の方法によって、作製される。代表的に、この切開は、約3インチの長さであるが、実施される外科手術手順に依存して、変動し得る。
【0020】
皮膚を通して切開34を作製した後に、外科医は、最小の外傷を作製しながら、組織、筋肉、血管および神経を分離して、肩関節を露出させる。肩関節32を露出させるために、外側開創器36の開創器ブレード38が、切開34の内部に位置決めされる。組織、筋肉、血管および神経は、外側開創器36に付与される手動の力によって、肩関節32から外側に牽引される。外側開創器が選択された位置にくると、外側開創器36のハンドル40が、J字型支持アーム16上に位置決めされたクランプ42のクランプソケット(図示せず)内に位置決めされ、そしてクランプ42をクランプ位置に位置決めすることによって、選択された位置に固定される。好ましくは、クランプソケット(図示せず)は、開創器のハンドルが、このハンドルの端部をクランプを通して位置決めする必要なく、このクランプソケット内に手動で押し込まれることを可能にするが、他のクランプが、本発明の範囲内である。ソケットとは、その内部に挿入される部品(例えば、開創器支持装置)がフィットするように設計されている開口部または空洞を意味し、そしてここで、開創器支持装置が、180°の範囲の無限数の方向(ソケットの後表面に対して実質的に平行な位置から開始して、この後表面に対して実質的に垂直な位置まで、そして再度、このソケットの後表面に対して実質的に平行な位置へと続く範囲)からこのソケットに挿入され得る。外側とは、身体から一般に離れる位置または方向を意味する。
【0021】
内側開創器44の開創器ブレード46が、切開32内で、外側開創器36のほぼ反対側に位置決めされる。手動の力が、内側開創器44に付与されて、組織、筋肉、血管および神経を、肩関節32から内側の方向へと牽引する。内側開創器44が選択された位置にくると、内側開創器44のハンドル48は、棒22上で位置決めされたクランプ50のクランプソケット(図示せず)内に位置決めされ、そしてこのクランプをクランプ位置に位置決めすることによって、選択された位置に固定される。内側とは、患者の身体に向かう位置または方向を意味する。ソケットを有するクランプが好ましいが、異なった構成のクランプ表面(クランプ穴が挙げられる)を有するクランプもまた、本発明の範囲内である。
【0022】
2つの開創器36、44が、肩における外科手術部位を露出するために好ましい開創器の数であるが、台に設置された開創器支持装置12によって支持される、2つより多い開創器が、本発明の外科手術手順を実施する間に肩領域30における外科手術部位を露出させるために、利用され得る。開創器に対する機械的機構が、開創器ブレードの垂直位置、および外科手術部以内での開創器ブレードの外側または内側の位置を調節するために、使用され得る。開創器ブレードの位置を調節するために使用される機械的機構としては、関節式の継手、ラックおよびピニオンシステム、ラチェット機構、楔、傾斜、カム動作機構、ならびに螺合可能な係合が挙げられるが、これらに限定されず、これらは、本発明の範囲内である。
【0023】
肩関節32が、皮膚、組織、筋肉、血管および神経の牽引によって露出されると、肩関節32に対する外科手術手順が実施され得る。肩に対して実施され得る手順の完全ではない列挙としては、筋肉の裂傷の修復、裂けたかまたは破れた腱または靭帯(例えば、裂けた回旋筋腱板)の修復、および肩置換外科手術が挙げられる。肩置換外科手術としては、完全な肩置換および部分的な肩置換外科手術が挙げられる。
【0024】
肩置換外科手術において、皮膚、筋肉、血管および神経は、好ましくは、肩関節32を露出させるために、メスで切断される必要なく、少なくとも外側開創器36および内側開創器44を用いて、牽引される。筋肉、血管および神経への損傷を最小にしながら肩の外科手術を実施することによって、患者によって感じられる術後の疼痛が最小にされ、そして肩関節を復帰させるために必要とされる時間が減少される。しかし、肩関節の周りの筋肉、血管および神経を切開することを必要とする外科手術手順を実施することは、本発明の範囲内である。
【0025】
図1、図3および図4を参照して、肩関節32が露出されると、関節窩52、上腕骨球54および上腕骨56の上部を有する肩甲骨51が、牽引された切開34を通して見える。肩関節32を肩置換外科手術のために準備する際に、外科医は、挿入物を受容する表面への接近を得る際に、少なくとも2つの選択肢を有する。第一に、上腕骨球54を関節窩52内に残しながら、代表的に骨鋸を用いて、上腕骨球54が、上腕骨56から分離され得る。上腕骨56は、肩関節32から離れるように外側に牽引されて、上腕骨56上の新たに切断された表面57への接近を与え、この表面に、上腕骨置換挿入物70が固定される。
【0026】
上腕骨56は、ブレード60を有する開創器58を用いて、牽引される。この開創器は、先に参考として援用された米国特許第6,368,271号および同第6,659,944号に詳細に記載されており、当該分野において公知であるFakudaブレードと類似である。ブレード60は、ほぼ平坦な部分および弓形の端部を備え、この弓形の端部は、上腕骨56の上端部の周りに位置決めされる。ブレード60はまた、ほぼ平坦な部分と弓形の端部との両方に、開口部分を備え、この開口部分は、上腕骨を把持する際に補助し、そしてこの上腕骨がこのブレードに沿って滑ることを防止する。しかし、この開口部分は、開創器ブレードにさらなる把持能力を提供するが、関節窩から上腕骨を牽引するために、必ずしも必要ではない。
【0027】
上腕骨56は、開創器58に与えられる手動の力によって、牽引され得る。上腕骨56が選択された位置に手動で牽引されると、開創器58が、開創器のハンドル62をクランプ64のクランプソケット(図示せず)内に位置決めし、そしてクランプ64をクランプ位置に位置決めすることによって、開創器支持装置12にクランプされる。あるいは、先に全体が援用された、米国特許第6,368,271号および同第6,659,944号に開示されるように、上腕骨56は、開創器ブレードホルダに取り付けられた開創器ブレードを用いて、牽引され得る。この開創器ブレードホルダは、開創器支持装置によって支持されており、ここで、垂直位置は、関節式継手を用いて調節され、そして上腕骨は、この開創器ブレードホルダ上のラックおよびピニオン機構を用いて牽引される。
【0028】
上腕骨56は、関節窩52から選択された距離だけ牽引され、外科医に、上腕骨56上の新たに切断された表面57と、肩甲骨51内の関節窩52(取り外された上腕骨球54が関節窩52から分離または脱臼された後)との両方への接近を提供する。
【0029】
あるいは、上腕骨球54は、上腕骨56に付着した状態で、最初に、挿入物68を受容するための準備のために、関節窩52から脱臼されて、関節窩52への接近を与え得る。上腕骨56は、手動でかまたは以前に開示されたような機械的機構を用いてかのいずれかで、肩関節32から外側に牽引され、上腕骨球54と肩甲骨57内の関節窩52との両方への接近を与える。次いで、上腕骨球54は、代表的に骨鋸を用いて、上腕56から分離され、これによって、上腕骨挿入物70が固定される表面57を作製する。
【0030】
上腕骨球54を置き換える上腕骨挿入物70は、上腕骨56の切断された表面57に適合し、そして適所にセメントで固定されるような形状にされ得る。挿入物70はまた、単一のシャフト72または複数のペグ(図示せず)を備え得、これらは、上腕56に穿孔される協働する空洞72に挿入され、そして適所にセメントで固定される。あるいは、上腕骨挿入物70は、メッシュ様の表面を備え得、この表面は、上腕骨56上に位置決めされ得るか、または上腕骨56に穿孔された空洞72内に位置決めされ得、その結果、メッシュ様の表面は、上腕骨56と係合し、骨が、上腕骨挿入物70上に成長して挿入物70を上腕骨56に固定することを可能にする。上腕骨挿入物70は、好ましくは、高度に研磨されたステンレス鋼またはチタンから構成される。
【0031】
上腕骨挿入物70が上腕骨56に固定された後に、関節窩52を有する肩甲骨51もまた、プロテーゼ挿入物68を受容するために準備される。この準備は、関節窩52が挿入物68の外側表面と類似の構成を有するように、肩甲骨51を穿孔することによる。関節窩52内に位置決めされる挿入物68の1つの実施形態は、高密度ポリマー(例えば、ポリエチレン)から構成され、これは、肩関節32を再構築するように、研磨された上腕骨挿入物70と相互作用する。挿入物68は、好ましくは、複数のペグ71を有し、これらのペグは、肩甲骨51に穿孔された空洞内に位置決めされ、そして関節窩52と交差し、この交差点で、挿入物68は、適所にセメントで固定される。
【0032】
挿入物68の別の実施形態は、2つの構成要素(図示せず)を備え、これらの構成要素は、高度に研磨された金属構成要素(これは、関節窩52を有する肩甲骨51に固定される)およびポリマー構成要素(これは、金属構成要素に固定され、そして上腕骨挿入物70と相互作用する)である。この金属構成要素は、シャフト(図示せず)または複数のペグを備え得、これらは、肩甲骨に穿孔された相補的な凹部と係合する。この凹部は、この金属構成要素が肩甲骨にセメントで固定される、関節窩を含む。あるいは、この金属部分の挿入物は、メッシュ様の表面を備え得、この表面は、関節窩内に位置決めされ、ここで、肩甲骨は、この挿入物上に成長して、この挿入物の金属部分をこの骨に固定する。いずれの挿入物68も、本発明の範囲内であるが、この2構成要素の挿入物は、この挿入物のポリマー部分が磨耗して患者に不快感を引き起こす場合に、肩甲骨51に対してさらなる外科手術を実施する必要なく、この挿入物のポリマー部分のみを置換するという利点を提供する。このプロテーゼ挿入物が肩甲骨51および関節窩52内に固定されると、上腕骨挿入物70は、関節窩52内に固定された挿入物68内に整復される。
【0033】
上腕骨54に取り付けられた、高度に研磨された上腕骨挿入物70は、関節窩52内で肩甲骨51に取り付けられた高密度ポリマー挿入物68に係合され、その結果、挿入物68、70の関節運動は、ほとんど摩擦がなく、そして健常な肩関節の機能と類似である。当業者は、肩関節の全置換外科手術において、肩甲骨51および上腕骨54に付着しているかまたはこれらの骨の間に位置する、軟骨および滑膜の全てが除去され、これによって、再構築された肩関節32が適切に機能するために、上腕骨56に取り付けられた挿入物70と肩甲骨51に取り付けられた挿入物68との間で、ほとんど摩擦のない相互作用を必要とすることを認識する。
【0034】
記載される肩関節の全置換外科手術は、最初に、上腕骨54を、上腕骨挿入物70のために準備し、次いで、肩甲骨51内の関節窩52を、挿入物68のために準備するが、最初に、肩甲骨51内の関節窩52を、プロテーゼ挿入物68を受容するために準備し、続いて上腕骨54を、プロテーゼ挿入物70を受容するために準備することは、本発明の範囲内である。さらに、上腕骨54または肩甲骨51内の関節窩52のいずれかの、損傷した端部を、挿入物で置換し、一方で、他方の骨の損傷していない端部をそのまま残すことは、本発明の範囲内である。
【0035】
一旦、挿入物70、68が、上腕骨54および肩甲骨51の関節窩52内に固定されると、外側開創器36および内側開創器44は、切開34から取り外され、そして切開34は、縫合により閉鎖される。排液管(図示せず)が、完全または部分的な肩関節置換外科手術による外傷によって肩関節32内に蓄積し得る過剰の血液および流体を除去するために、肩関節32内に位置決めされ得る。一旦、肩関節32の排液が止まると、この排液管が取り外され、そして切開34が完全に閉じられる。
【0036】
本発明を、好ましい実施形態を参照して記載したが、当業者は、本発明の精神および範囲から逸脱することなく、形式および細部において変更がなされ得ることを、認識する。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】図1は、肩の外科手術のための、台に設置された支持構造体の斜視図である。
【図2】図2は、肩の外科手術のための、台に設置された支持構造体の、代替の実施形態の斜視図である。
【図3】図3は、肩の完全な再建のために肩関節を露出させている、台に設置された支持構造体の斜視図である。
【図4】図4は、肩甲骨内の関節窩の部分断面図を含む、再建された肩関節の斜視図である。
【符号の説明】
【0038】
12 開創器支持体
13 外科手術台
52 関節窩
56 上腕骨
57 肩甲骨
58 開創器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外科手術台上の、関節窩、上腕骨および上腕骨球を有する肩甲骨に関連して、肩関節の外科手術を実施するためのシステムであって、
開創器支持体;
該開創器支持体を該外科手術台に設置するための手段;
該開創器支持体を該肩関節の周りに位置決めするための手段;
該肩関節の近くの皮膚層および肉の層を切開するための手段;
該肩関節の近くの皮膚層および肉の層を手動で牽引するための開創器;ならびに
該開創器を該開創器支持体に取り付けることによって、該開創器を、選択された牽引位置に固定するための手段、
を備える、システム。
【請求項2】
前記開創器支持体が、前記外科手術台のレールに設置される、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記肩関節の外科手術が、肩関節置換外科手術を包含し、該肩関節置換外科手術において、挿入物が、前記関節窩内に固定され、そして上腕骨挿入物が、前記上腕骨に固定される、請求項1に記載のシステム。
【請求項4】
前記肩関節の外科手術が、部分的な肩関節の外科手術を包含し、該部分的な肩関節の外科手術において、上腕骨挿入物が、前記上腕骨に固定される、請求項1に記載のシステム。
【請求項5】
請求項1に記載のシステムであって:
前記上腕骨球を前記関節窩から脱臼させるための手段;
上腕骨開創器を前記上腕骨の周りで位置決めするための手段;
該上腕骨球を該関節窩から手動で牽引するための上腕骨開創器;および
該上腕骨開創器を前記開創器支持体に固定するための手段、
をさらに備える、システム。
【請求項6】
前記上腕骨球を前記関節窩内に残しながら、該上腕骨球を前記上腕骨から分離するための手段をさらに備える、請求項1に記載のシステム。
【請求項7】
前記上腕骨球を前記上腕骨から取り外し、そして新たに切断した表面を露出させるための手段をさらに備える、請求項6に記載のシステム。
【請求項8】
請求項6に記載のシステムであって、
前記上腕骨の新たに切断された表面に空洞を穿孔するための手段;
上腕骨挿入物の軸部を該上腕骨の空洞内に配置するための手段であって、該軸部に球部が取り付けられている、手段;および
該球部が該上腕骨上の選択された位置に固定されるように、該空洞内に該軸部を固定するための手段、
をさらに備える、システム。
【請求項9】
請求項6に記載のシステムであって、
前記上腕骨球を前記関節窩から脱臼させるための手段;
該関節窩内の肩甲骨を、挿入物を受容するように準備するための手段;および
該関節窩内の挿入物を、該肩甲骨に固定するための手段、
をさらに備える、システム。
【請求項10】
前記上腕骨に取り付けられた前記球部を、前記関節窩内に固定された挿入具内に配置するための手段をさらに備える、請求項9に記載のシステム。
【請求項11】
肩関節に対する外科手術手順のための外科手術部位を準備するためのシステムであって、
開創器支持体;
該開創器支持体を該外科手術台に設置するための手段;
該開創器支持体を該肩関節の周りで位置決めするための手段;
該肩関節の近くの皮膚層および肉の層を切開するための手段;
該肩関節の近くの皮膚層および肉の層を手動で牽引して、外科手術部位を露出させるための開創器;ならびに
該開創器を該開創器支持体に取り付けるための手段、
を備える、システム。
【請求項12】
前記開創器支持体が、前記外科手術台のレールに設置される、請求項11に記載のシステム。
【請求項13】
前記外科手術手順が、肩関節置換外科手術を包含し、該肩関節置換外科手術において、挿入物が、肩甲骨の関節窩内に固定され、そして上腕骨挿入物が、上腕骨に固定される、請求項11に記載のシステム。
【請求項14】
前記外科手術手順が、部分的な肩関節外科手術を包含し、該部分的な肩関節外科手術において、上腕骨挿入物が、上腕骨に固定される、請求項11に記載のシステム。
【請求項15】
前記外科手術手順が、損傷した筋肉、腱または靭帯を修復する工程を包含する、請求項11に記載のシステム。
【請求項16】
前記開創器支持体が、ほぼ「J」字型の支持体を備える、請求項11に記載のシステム。
【請求項17】
前記開創器支持体が、前記「J」字型の支持体にクランプされた棒をさらに備え、該棒と該「J」字型の支持体とが、前記肩の反対側に位置決めされるように構成されている、請求項16に記載のシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−187632(P2006−187632A)
【公開日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−829(P2006−829)
【出願日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【出願人】(502119989)ミネソタ サイエンティフィック, インコーポレイテッド (2)
【Fターム(参考)】