説明

育毛剤

【課題】優れた育毛効果を有する天然物由来の育毛剤を提供する。
【解決手段】雪霊芝(Arenaria kansuensis Maxim.)抽出物には優れたテストステロン−5α−レダクターゼ阻害作用があり、これを含有する育毛剤は優れた育毛効果を有する。本発明に用いる雪霊芝の抽出物には、植物体の葉、茎、花、根等の植物体の一部又は全草から抽出した抽出物を用いることができる。好ましくは、植物体の全草から抽出して得られるものが良い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なテストステロン−5α−レダクターゼ(以下、5α−レダクターゼ)阻害剤及び育毛剤に関する。
【背景技術】
【0002】
多くの人を悩ます脱毛症に代表される頭髪の問題において、その成因としては、(1)ホルモンのアンバランス説、(2)遺伝説、(3)血液循環不全説、(4)栄養説などが提唱されているが、毛の発生には男性ホルモンのテストステロンが重要な役割を演じていることは古くから示唆されている。すなわち、睾丸で生合成されたテストステロンは、頭部において毛包、皮脂腺などに存在する5α−レダクターゼによりジヒドロテストステロンに転換される。このジヒドロテストステロンは、アデニルサイクラーゼの活性を著しく低下させて細胞内サイクリックAMPレベルの低下をもたらし、その結果、毛及び毛の周辺のエネルギー産生の低下とタンパク合成の抑制を誘起することにより男性型脱毛症が進行するものと考えられている。
【0003】
雪霊芝(Arenaria kansuensis Maxim.)は、チベット、甘粛、青海、四川西部など中国で多く分布する多年生の矮小草本で、石灰岩の高山の石の割れ目か、草原に生える。インフルエンザ、肺炎、黄疸、肋骨疼痛、淋痛を治すとして知られている(非特許文献1)。
【0004】
雪霊芝抽出物は、保湿剤や美白剤(特許文献1,2)として皮膚外用剤に配合されている例があるものの、雪霊芝抽出物に5α−レダクターゼ阻害効果があることや、育毛効果があることは全く知られていない。また、これらの効果に関して様々な植物について研究されているが、十分な効果は得られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−077079号公報
【特許文献2】特開2008−280249号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】上海科学技術出版社 小学館編 「中薬大辞典 第三巻」小学館 1985年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このような状況の中で、優れた育毛効果を持つ、天然物由来の育毛剤の開発が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、雪霊芝(Arenaria kansuensis Maxim.)抽出物に5α−レダクターゼ阻害作用があることを見出し、さらに雪霊芝抽出物を含有する育毛剤に優れた育毛効果があることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
本発明に用いる雪霊芝の抽出物とは、植物体の葉、茎、花、根等の植物体の一部又は全草から抽出したものである。好ましくは、植物体の全草から抽出して得られるものが良い。その抽出方法は特に限定されず、例えば、加熱抽出したものであっても良いし、常温抽出したものであっても良い。
【0010】
抽出する溶媒としては、例えば、水、低級アルコール類(メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール等)、液状多価アルコール(1,3−ブチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等)、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン等)、アセトニトリル、エステル類(酢酸エチル、酢酸ブチル等)、炭化水素類(ヘキサン、ヘプタン、流動パラフィン等)、エーテル類(エチルエーテル、テトラヒドロフラン、プロピルエーテル等)が挙げられる。好ましくは、水、低級アルコール及び液状多価アルコール等の極性溶媒が良く、特に好ましくは、水、エタノール、1,3−ブチレングリコール及びプロピレングリコールが良い。これらの溶媒は一種でも二種以上を混合して用いても良い。
【0011】
雪霊芝抽出物は、抽出した溶液のまま用いても良く、必要に応じて、濃縮、希釈及び濾過処理、活性炭等による脱色、脱臭処理等をして用いても良い。更には、抽出した溶液を濃縮乾固、噴霧乾燥、凍結乾燥等の処理を行い、乾燥物として用いても良い。
【0012】
雪霊芝抽出物の配合量は、特に限定されないが、本発明の育毛剤全量に対し、固形物に換算して0.0001〜5重量%(以下、単に「%」で示す)、好ましくは0.001〜1%の配合が良い。0.0001%未満では十分な効果が得られない場合があり、5%を超える配合では、育毛剤の外観に影響を与えることがあるため、好ましくない。また、添加の方法については、予め加えておいても、製造途中で添加しても良く、作業性を考えて適宜選択すれば良い。
【0013】
本発明の5α−レダクターゼ阻害剤及び育毛剤には、必要に応じ、本発明の効果を損なわない範囲において、雪霊芝抽出物の他に、生理活性物質や基材、安定化成分等の任意成分を適宜配合することができる。このような任意成分としては、例えば精製水、油脂類、ロウ類、炭化水素類、脂肪酸類、アルコール類、エステル類、界面活性剤、金属石鹸、pH調整剤、防腐剤、香料、保湿剤、粉体、紫外線吸収剤、増粘剤、色素、酸化防止剤、キレート剤等が挙げられる。
【0014】
本発明における育毛剤の剤型としては、クリ−ム、乳液、ローション、ヘヤトニック、シャンプー、スプレー、パック、軟膏、乳剤等が挙げられる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の育毛剤は、雪霊芝(Arenaria kansuensis Maxim.)抽出物を含有することを特徴とし、優れた育毛効果を発揮する。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に本発明を詳細に説明するため、実施例として本発明に用いる抽出物の製造例、本発明の育毛剤の処方例及び実験例を挙げるが、本発明はこれに限定されるものではない。
【実施例1】
【0017】
製造例1 雪霊芝の熱水抽出物
雪霊芝の全草75gに精製水1500mLを加え、95〜100℃で2時間抽出した後、濾過し、その濾液を濃縮し、凍結乾燥して雪霊芝の熱水抽出物を0.8g得た。
【0018】
製造例2 雪霊芝の30%エタノール抽出物
雪霊芝の地上部75gに30%エタノール水溶液1500mLを加え、常温で7日間抽出した後、濾過し、その濾液を濃縮乾固して、雪霊芝の30%エタノール抽出物を2.4g得た。
【0019】
製造例3 雪霊芝のエタノール抽出物
雪霊芝の全草75gにエタノール1500mLを加え、常温で7日間抽出した後、濾過し、その濾液を濃縮乾固して、雪霊芝のエタノール抽出物を3.1g得た。
【実施例2】
【0020】
処方例−1 ローション
処方 配合量(%)
1.雪霊芝の熱水抽出物(製造例1) 0.1
2.1,3−ブチレングリコール 8.0
3.グリセリン 2.0
4.キサンタンガム 0.02
5.クエン酸 0.01
6.クエン酸ナトリウム 0.1
7.エタノール 5.0
8.パラオキシ安息香酸メチル 0.1
9.ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(40E.O.) 0.1
10.香料 適量
11.精製水にて全量を100とする
[製造方法]成分1〜6及び11と、成分7〜10をそれぞれ均一に溶解し、両者を混合し濾過して製品とする。
【0021】
比較例−1 従来のローション
処方例−1において雪霊芝の熱水抽出物を精製水に置き換えたものを従来のローションとした。
【0022】
処方例−2 クリーム
処方 配合量(%)
1.雪霊芝の熱水抽出物(製造例1) 0.05
2.スクワラン 5.5
3.オリーブ油 3.0
4.ステアリン酸 2.0
5.ミツロウ 2.0
6.ミリスチン酸オクチルドデシル 3.5
7.ポリオキシエチレンセチルエーテル(20E.O.) 3.0
8.ベヘニルアルコール 1.5
9.モノステアリン酸グリセリン 2.5
10.香料 0.1
11.1,3−ブチレングリコール 8.5
12.パラオキシ安息香酸エチル 0.05
13.パラオキシ安息香酸メチル 0.2
14.精製水にて全量を100とする
[製造方法]成分2〜9を加熱溶解して混合し、70℃に保ち油相とする。成分1及び11〜14を加熱溶解して混合し、75℃に保ち水相とする。油相に水相を加えて乳化して、かき混ぜながら冷却し、45℃で成分10を加え、更に30℃まで冷却して製品とする。
【0023】
処方例−3 乳液
処方 配合量(%)
1.雪霊芝のエタノール抽出物(製造例3) 0.5
2.スクワラン 5.0
3.オリーブ油 5.0
4.ホホバ油 5.0
5.セタノール 1.5
6.モノステアリン酸グリセリン 2.0
7.ポリオキシエチレンセチルエーテル(20E.O.) 3.0
8.ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート(20E.O.) 2.0
9.香料 0.1
10.プロピレングリコール 1.0
11.グリセリン 2.0
12.パラオキシ安息香酸メチル 0.2
13.精製水にて全量を100とする
[製造方法]成分2〜8を加熱溶解して混合し、70℃に保ち油相とする。成分1及び10〜13を加熱溶解して混合し、75℃に保ち水相とする。油相に水相を加えて乳化して、かき混ぜながら冷却し、45℃で成分9を加え、更に30℃まで冷却して製品とする。
【0024】
処方例−4 ヘアトニック
処方 配合量(%)
1.エタノール 40.0
2.雪霊芝の30%エタノール抽出物(製造例2) 1.0
3.グリセリン 2.0
4.精製水にて全量を100とする
[製造方法]雪霊芝の30%エタノール抽出物をエタノールに溶解し、グリセリン、精製水を加え、十分攪拌混合し、製品とする。
【0025】
処方例−5 パック
処方 配合量(%)
1.雪霊芝の熱水抽出物(製造例1) 0.1
2.ポリビニルアルコール 12.0
3.エタノール 5.0
4.1,3−ブチレングリコール 8.0
5.パラオキシ安息香酸メチル 0.2
6.ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(20E.O.) 0.5
7.クエン酸 0.1
8.クエン酸ナトリウム 0.3
9.香料 適量
10.精製水にて全量を100とする
[製造方法]成分1〜10を均一に溶解し製品とする。
【0026】
次に本発明の効果を詳細に説明するため、実験例を挙げる。
【実施例3】
【0027】
実験例−1 5α−レダクターゼに対する阻害作用
SD系雄ラット(生後7週)の肝臓から抽出した5α−レダクターゼを用い、下記の条件で5α−レダクターゼに対する阻害作用を測定した。
【0028】
(反応条件)テストステロン(0.6μM)をプロピレングリコール10滴で溶解した後、トリス−塩酸緩衝液(pH7.2)5mLを加え、次いで、NADPHを5mg、5α−レダクターゼ溶液2mLを順に加え、37℃にて30分間反応させる。反応後、塩化メチレンを加えて反応を停止した後、全量50mLの塩化メチレンで分配抽出する。次いで、塩化メチレン層を減圧下で留去し、ガスクロマトグラフィーにてテストステロンの反応量を測定する。なお、本発明に関わる抽出物の反応系への添加は、5α−レダクターゼ溶液を添加する前に行う。(ガスクロマトグラフィーの条件:カラム シリコーンOV−17(3mmφ、2m);カラム温度 250℃;検出器 FID)
【0029】
5α−レダクターゼ阻害率:抽出物を添加しない場合の反応率(対照)を100%(阻害率0%)と見なし、抽出物を加えた際の反応率の減少を算出して阻害率を求める。算式は次の通りである。なお、ジヒドロテストステロンは、更に代謝されてアンドロスタンジオールを生成するため、5α−レダクターゼによるテストステロンの代謝物のピーク面積(量)にはアンドロスタンジオールも含めて計算した。

5α−レダクターゼ阻害率(%)=(b/a−b’/a’)/(b/a)×100

a:対照(テストステロンのピーク面積)
b:対照(ジヒドロテストステロン及びアンドロスタンジオールのピーク面積)
a’:テストステロンのピーク面積(抽出物添加)
b’:ジヒドロテストステロン及びアンドロスタンジオールのピーク面積(抽出物添加)
【0030】
これらの結果をまとめて表1に示す。
【0031】
【表1】

【0032】
実験例−2 発毛効果
服部らの方法[J. Dermatology,10,45−54(1983)]により、生後45日のC3Hマウス背部毛をバリカンで刈り取り、この部分を2つに区切り、一方に処方例−1のローション1mLを、他方に本発明に関わる抽出物を含まない従来のローション(比較例−1)1mLを1日1回塗布した。各部位の全体に発毛が認められるまでに要した日数で比較した。再生率はローションを塗布した面積に対する発毛が認められた面積の百分率として算出した。その結果、比較例−1のローションを塗布し発毛が認められるまでの期間と比較して、処方例−1のローションではその期間が短縮された。また、その他の処方例においても同様の効果が認められた。
【0033】
これらの結果をまとめて表2に示す。
【0034】
【表2】

【0035】
実験例−3 毒性
製造例の各抽出物について、マウスを用いて経口投与による急性毒性試験を行ったところ、2,000mg/kgを投与しても死亡例は認められなかった。
【産業上の利用可能性】
【0036】
雪霊芝から得られた抽出物を有効成分とする5α−レダクターゼ阻害剤及び育毛剤が提供できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
雪霊芝(Arenaria kansuensis Maxim.)の抽出物を含有することを特徴とするテストステロン−5α−レダクターゼ阻害剤。
【請求項2】
雪霊芝(Arenaria kansuensis Maxim.)の抽出物を含有することを特徴とする育毛剤。

【公開番号】特開2012−176921(P2012−176921A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−41763(P2011−41763)
【出願日】平成23年2月28日(2011.2.28)
【出願人】(592262543)日本メナード化粧品株式会社 (223)
【Fターム(参考)】