説明

育毛組成物

【課題】低温下でも結晶が析出しにくく、また安定性も高い、ミノキシジルを高濃度に配合する製剤を提供する。
【解決手段】10〜50質量%の水及び3質量%以上のミノキシジルを配合した製剤に於いて、1種以上の多価アルコールを8〜30%を含有し、pHが5.5〜6.5である育毛組成物は結晶が析出しにくく、安定性の高いものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ミノキシジルを有効成分とする育毛組成物に関し、更に詳細には、高いミノキシジル濃度でありながら、低温時においても結晶の発生等の問題の生じない育毛組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ミノキシジルは化学名を6−(1−ピペリジニル)−2,4−ピリミジンジアミン−3−オキサイドと称し、米国特許第4,139,619号に育毛剤としての適応が記載されている。そして、ミノキシジルは、外用により優れた育毛、養毛作用があるため、ミノキシジルを配合した育毛剤( 以下、「ミノキシジル製剤」という) は広く受け入れられ、その販売高も記録的である。このミノキシジル製剤については、有効性を高めるために、ミノキシジルの濃度をより高めたものの提供が求められている。これまで、3〜5質量% 程度の濃度のミノキシジル製剤は、特開昭63−150211号公報に記載されているように、容易に調製可能であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭63−150211号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、育毛組成物の使用感を向上させる目的から、10〜50質量%の水を配合させた高濃度のミノキシジル製剤(以下、「高ミノキシジル製剤」という)の場合、低温状態に長時間保存すると結晶が析出されるという現象が生じることを見出した。そして、この析出した結晶は再溶解させるのに手間を要するため、育毛組成物を寒冷地にて使用する場合や、育毛剤組成物を冷所保管する場合に問題となることを知った。
【0005】
そこで、低温状態に長く置かれた場合にあっても、結晶が析出することなく安定な高ミノキシジル製剤の提供が求められ、本発明はこのような製剤の提供を課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、高ミノキシジル製剤の溶剤組成等について、鋭意研究を行った結果、溶剤として、特定濃度の多価アルコールを選択し、そのpHを一定範囲とすることにより、高い濃度でミノキシジルおよび一定量の水を配合した場合においても結晶が析出せず、しかもミノキシジル自体も安定であることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち本発明は、10〜50質量%の水及び3質量%以上のミノキシジルを配合した製剤に於いて、1種以上の多価アルコールを8〜30質量%を含有し、pHが5.5〜6.5である育毛組成物を提供するものである。
【0008】
本発明の育毛組成物において、有効成分であるミノキシジルは、3質量%(以下、単に「%」で示す)以上、好ましくは3〜6%の範囲で配合される。
【0009】
このミノキシジルを溶解するための溶剤は、多価アルコールおよび水を含む混合溶媒である。この溶媒は、最終組成物中で、水が10〜50% 、多価アルコールが8〜30%の範囲であることが必要である。多価アルコールまたは水の一方が存在しない場合は結晶析出を防止するのが困難であり、また、存在する場合であっても、それぞれの配合量が上記の範囲を外れていると使用感に優れ、かつ、低温時で結晶の析出を抑えた組成物を作成することは難しい。特に水を18%以上配合した場合結晶が析出しやすくなるため本発明の効果は大きい。多価アルコールの配合量は前記の通りであるが、好ましくは10〜20%であり、更に好ましくは15〜20%である。
【0010】
上記の溶剤には、更にエタノールを加えることが望ましい。エタノールの配合量は、最終組成物中で70%以下の量とすることが好ましい。
【0011】
上記溶剤において使用される多価アルコールとしては、1,3−ブチレングリコール、グリセリン、ジプロピレングリコール、マクロゴール400、マクロゴール600等を使用することができるが、特に1,3−ブチレングリコールが好ましい。また、これら多価アルコールは、2種以上組み合わせて用いることが好ましく、特に好ましい多価アルコールの組合せとしては、1,3−ブチレングリコールとグリセリンを、それらの重量比で10:1〜1:4の範囲とする組合せおよびジプロピレングリコールとグリセリンを、それらの重量比で10:1〜1:4の範囲とする組合せが挙げられる。
【0012】
本発明の育毛組成物は、上記の多価アルコールと水を含む溶剤に、有効成分である3%以上のミノキシジルと、他の必要な活性成分や補助成分を加え、常法により攪拌、混合することにより調製されるが、その場合、p H を5.5〜6.5の範囲に維持することが必要である。すなわち、ミノキシジルを単に水系溶剤中に加えた場合の液性は、中性ないし弱アルカリ性であるが、その状態で高ミノキシジル製剤を調製した場合は、温度を下げた場合に結晶が析出しやすくなる。一方、pH5以下の酸性とした場合は、結晶の析出は認められなくなるが、逆にミノキシジル自体が分解されやすくなるという問題が生じる。
【0013】
本発明の育毛組成物のpH調整は常法に従っておこなわれ、pH調整剤としては、クエン酸、塩酸、乳酸、リン酸等を使用することが好ましい。
【0014】
更に、本発明の育毛組成物に添加、配合することが好ましい薬効成分としては、メントール、ビタミンE アセテート、パントテニルエチルエーテル、ヒノキチオール、グリチルレチン酸および塩酸ジフェンヒドラミンから成る群より選ばれた成分(以下、「選択成分」という) が挙げられる。この選択成分のうち、特に有効性が高いものとしては、メントールが挙げられ、このメントールを必須成分として加えておくことがより好ましい。これら選択成分の添加量は、特に制約はなく、使用感やミノキシジルの安定性あるいは溶剤系組成等を考慮しながら実験的に定めることができる。例えば、特に好ましい選択成分であるメントールは、最終組成物中で0.2〜0.4%程度となるよう配合することが好ましい。
【0015】
本発明の育毛剤組成物においては、上記した成分の他、一般の外用剤に使用される種々の活性成分や補助成分、例えば、賦形剤、血管拡張剤(塩化カルプロニウム、ニコチン酸ベンジル、センブリ抽出液、オタネニンジンエキス、トウガラシチンキなど)、抗ヒスタミン剤(塩酸イソチペンジルなど)、抗炎症剤( グアイアズレンなど)、角質溶解剤(尿素、サリチル酸など)、殺菌剤(グルコン酸クロルヘキシジン、イソプロピルメチルフェノール、第4 級アンモニウム塩、ピロクトンオラミンなど)、保湿剤(ヒアルロン酸ナトリウム、コンドロイチン硫酸など)、各種動植物(イチイ、ボタンピ、カンゾウ、オトギリソウ、附子、ビワ、カワラヨモギ、コンフリー、アシタバ、サフラン、サンシシ、ローズマリー、セージ、モッコウ、セイモッコウ、ホップ、プラセンタなど)の抽出物、ビタミン類(酢酸レチノール、塩酸ピリドキシン、アスコルビン酸、硝酸チアミン、シアノコバラミン、ビオチンなど) 、抗酸化剤(ジブチルヒドロキシトルエン、ピロ亜硫酸ナトリウム、トコフェロール、エデト酸ナトリウム、アスコルビン酸、イソプロピルガレートなど)、溶解補助剤(アジピン酸ジイソプロピル、ミリスチン酸イソプロピル、各種植物油、各種動物油、アルキルグリセリルエーテル、炭化水素類など)、代謝賦活剤(パンテノールなど)、ゲル化剤(水溶性高分子など)、粘着剤、香料、清涼化剤(ハッカ油、カンフルなど)、染料などの通常使用される成分を本発明の効果を損なわない範囲で配合することができる。
【0016】
しかしながら、界面活性剤の添加は、ミノキシジルの皮膚吸収に影響を与え、また使用感を低下させるため、本発明の育毛組成物は実質的に界面活性剤を含まないものとすることが好ましい。
【0017】
かくして得られる本発明の育毛組成物は、ローション剤、エアゾール剤、トニック剤、クリーム剤、軟膏剤、ゲル剤などの適当な外用製剤とし、使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下に実施例を挙げ、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例等により何ら制約されるものではない。
【0019】
実施例1
ミノキシジル3.0g、1,3−ブチレングリコール10.0g、エタノール35g、精製水20gを混合、攪拌して溶解した。この液にpH5.5になるようにクエン酸を適量加え、さらに精製水を加えて100mLとし、ローション剤(本発明品1)を得た。
【0020】
実施例2
実施例1と同様にして、表1および表2に示す本発明品並びに表3に示す比較品のローション剤を調製した。
(組成)
【0021】
【表1】

【0022】
【表2】

【0023】
【表3】

【0024】
本発明品と、比較品を、−10℃の状態で1週間保存し、結晶の析出程度を調べたところ、本発明品ではミノキシジル濃度が高いにも関わらず結晶析出が認められなかった。これに対し、比較品では程度の差こそあれ、結晶析出が認められた。
【0025】
実施例3
実施例1で調製したローション剤30mLをエアゾール缶に充填し、さらにジメチルエーテル70mLを加えてエアゾール剤とした。また、実施例2のローション剤も同様にしてエアゾール剤とすることができる。
【0026】
試験例1
実施例1と同様にして表4に示す本発明品16並びに比較品3のローション剤を調整した。これらを下記の条件で保存したときの結晶析出性を1週間観察し、結果を表5に示した。
保存条件
保存温度:−10℃
容 器:35mL ペットボトル
充 填 量:30mL
各観察時点のN数:8本
【0027】
【表4】

【0028】
【表5】

【0029】
試験例2
実施例1と同様にして表6に示す本発明品17〜20並びに表7に示す比較品4〜8のローション剤を調整した。これらを下記の条件で保存したときの結晶析出性を1週間観察し、結果を表8に示した。
保存条件
保存温度:−10〜−16℃
容 器:35mLペットボトル
充 填 量:30mL
各観察時点のN数:8本
【0030】
【表6】

【0031】
【表7】

【0032】
【表8】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
10〜50質量%の水及び3質量%以上のミノキシジルを配合した製剤に於いて、多価アルコールを8〜30質量%を含有し、pHが5.5〜6.5であることを特徴とする育毛組成物。
【請求項2】
ミノキシジル配合量が3〜6質量%である請求項1に記載の育毛組成物。
【請求項3】
更に、エタノールを含有するローション剤である請求項1〜2の何れかの項記載の育毛組成物。
【請求項4】
更に、エタノールを含有するゲル剤である請求項1〜3の何れかの項記載の育毛組成物。
【請求項5】
エタノールの含有量が70質量%以下である請求項1〜4の何れかの項記載の育毛組成物。
【請求項6】
水の配合量が18〜50質量%である請求項1〜5の何れかの項記載の育毛組成物。
【請求項7】
界面活性剤を実質的に含まない請求項1〜6の何れかの項記載の育毛組成物。
【請求項8】
pH調製剤として、クエン酸、塩酸、乳酸またはリン酸を配合する請求項1〜7の何れかの項記載の育毛組成物。
【請求項9】
更に、メントール、ビタミンE アセテート、パントテニルエチルエーテル、ヒノキチオール、グリチルレチン酸および塩酸ジフェンヒドラミンから成る群より選ばれる成分の1種または2 種以上を含有する請求項1〜8の何れかの項記載の育毛組成物。
【請求項10】
10〜50質量%の水及び3質量%以上のミノキシジルを配合した製剤において、多価アルコールを8〜30質量%配合し、pHを5.5〜6.5に調整することによる析出防止方法。

【公開番号】特開2012−25770(P2012−25770A)
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−225761(P2011−225761)
【出願日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【分割の表示】特願2001−574060(P2001−574060)の分割
【原出願日】平成13年4月5日(2001.4.5)
【出願人】(000002819)大正製薬株式会社 (437)
【Fターム(参考)】