説明

肺動脈高血圧症の処置のためのヘリウム−酸素ガス混合物の使用

本願は、肺高血圧症(PH)の原発性および続発性形態の処置および/または予防のためのヘリウム−酸素ガス混合物の使用に関し、また、医薬とヘリウム−酸素ガス混合物の組合せに関し、この場合、ガス混合物は、肺高血圧症の処置および/または予防のための医薬の導入を改善するための担体ガスとして使用される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、肺高血圧症(PH)の原発性および続発性形態の処置および/または予防のためのヘリウム−酸素ガス混合物の使用に関し、また、医薬とヘリウム−酸素ガス混合物の組合せに関し、この場合、ガス混合物は、肺高血圧症の処置および/または予防のための医薬の導入を改善するための担体ガスとして使用される。
【背景技術】
【0002】
原発性および続発性PHの治療
原発性肺動脈高血圧症(PAH)は、処置しなければ診断後平均2.8年で死に至る進行性肺疾患である。増大する肺循環の収縮は、右心に付加的ストレインを引き起こし、それは、最終的には右心不全をもたらし得る。慢性肺高血圧症は、安静時に>25mmHgまたはストレス下で>30mmHgの平均肺動脈圧(mPAP)により定義される(正常値<20mmHg)。肺動脈高血圧症の病態生理は、肺血管の血管収縮および再構築を特徴とする。慢性PAHの場合、血管の筋系の周径が増大し、続いて筋系がゆっくりと結合組織に変換する。この増大する肺循環の閉塞は、右心に進行性ストレインをもたらし、それは、右心の拍出量の減少を導き、最終的には右心不全に終わる。PAHは、百万人当たり1−2人の罹患率の極めてまれな疾患である (G.E. D'Alonzo et al., Ann. Intern. Med. 1991, 115, 343-349)。患者の平均年齢は、36歳と推定された;10%のみの患者が60歳を超えた。明確に、男性よりも女性の方が多く罹患している。
【0003】
続発性PHは、とりわけ、肺疾患の結果として起こる。これは、「成人呼吸促迫症候群」(Kollef et al., N Engl J Med. 1995 Jan 5; 332(1): 27-37)に関連して急性に起こり得、特徴的な点として、ARDSの予後を明確に悪化させ、右心不全を防止するために、特別な形態の治療を必要とする(Moloney et al., Eur Respir J. 2003 Apr; 21(4): 720-7)。同様に、慢性肺疾患も続発的にPHの発症を合併することもあり、結果として予後は悪化し得る(例えば、「慢性閉塞性肺疾患」(COPD);Han et al., Circulation. 2007 Dec 18; 116(25): 2992-3005)。肺疾患によるPHは、WHOのPAH分類システムで、グループIIIに分類された。最も一般的な意味では、用語「肺高血圧症」は、例えば世界保健機関(WHO)により定義された通り(Clinical Classification of Pulmonary Hypertension, Venice 2003; Simmenau et al., J Am Coll Cardiol (2004), 43, Suppl 1(12) S5-S12)、肺高血圧症の一定の形態を含む。
【0004】
急性PHの治療に使用される標準的な治療薬(例えば、プロスタサイクリンアナログ、エンドセリン受容体アンタゴニスト、ホスホジエステラーゼ阻害剤)は、患者の生活の質、体力および予後を改善できる。しかしながら、これらの医薬の適用可能性は、時として生じる深刻な二次的作用および/または複雑な投与形態により限定されている。特定の単剤治療により患者の臨床的状況を改善または安定化できる期間は限られている。結局、続いて起こるのは治療薬の増大であり、従って、同時に複数の医薬が与えられなければならない併用療法である。治療薬の新しい組合せは、肺動脈高血圧症を処置するための最も有望な将来の治療選択肢の1つである(Ghofrani et al., Herz 2005, 30, 296-302)。この点に関して、PHの処置の新しい薬理的メカニズムの研究は、特に興味深い。新しい治療薬は、既知の治療剤と組合せ可能であるべきである。
【0005】
特に不均質な肺の損傷(例えば、ARDSおよびCOPD)を伴う続発性PHの全身的治療の場合に起こり得る、続発性PHの場合に抵抗を低下させる治療のさらなる二次的作用は、肺高血圧症の治療の成功にも拘わらず、肺シャントの開始による動脈血酸素含有量の低下である (Stolz et al., Eur Respir J. 2008 Sep; 32(3): 619-28.)。
【0006】
今日までに知られている原発性および続発性PHの治療形態に伴う上記で特定した二次的作用に鑑み、本発明の目的は、上記で提示した欠点のない原発性および続発性PHの新しい処置方法を見出すことである。
【0007】
PHの治療におけるヘリウム−酸素混合物
通常の外界空気は、主に元素の窒素(体積で約78%)および酸素(体積で約21%)からなる。窒素の部分を希ガスのヘリウムで置き換えると、ヘリオックス、即ちヘリウムと酸素の混合物となる。
【0008】
窒素および酸素と比較して、ヘリウムは、いくつかの異なる基本的な特性を有する。希ガスのヘリウム(He)の特徴は、無色、無臭および無味、並びに、水性溶液および脂肪性物質への低い溶解度である(例えば、油−水混合物中の酸素または窒素の溶解度の30%のみ(Brubakk AO, Neumann TS. Bennett & Elliot's Physiology and Medicine of Diving. 5th edition, Saunders (publisher), Edinburgh 2003))。従って、ヘリウムへの高圧曝露は、例えば窒素またはキセノンについて知られているような麻酔作用をもたらさない。これらの好都合な特性はヘリウムと酸素の混合物(ヘリオックス)にも存在し、従って、60m以下への潜水を可能にしている。商業的な潜水では、呼吸される空気中に存在する窒素は、完全または部分的にヘリウムで置き換えられている。これは、とりわけ、再浮上時の気泡の形成(減圧症または潜函病)を減らすこともできる。
【0009】
その飽和した電子殻のために、ヘリウムは、他の物質と殆ど反応しない。従って、呼吸器科では、肺容積を測定するための外来ガス希釈法で使用される。
【0010】
早くも第二次世界大戦前に、A. Barach は、ガス混合物のヘリオックスの医療的使用を研究し、その上気道および下気道閉塞への適用を探究した(Barach, Proc Soc Exp Biol Med 1934; 32: 462-464; Barach, Ann Intern Med 1935; 9: 739-765)。後に、戦争中には軍事技術におけるヘリウムの使用が優先され、また、吸入用β模倣薬などのより新しい治療選択肢が第二次世界大戦後に開発されたため、気道治療剤としてのヘリオックスはあまり重要ではなくなった。
【0011】
80年代から、重篤な上気道および下気道閉塞におけるガス混合物ヘリオックスの使用への関心の高まりが再び観察された。
【0012】
呼吸管におけるヘリオックスの作用は、とりわけ、閉塞の位置によって決まる。気道の幅は末端に向かって狭くなるが、より深い分岐では気管支梢の数が増加するため、総横断面は多くなり、従って総抵抗は低下する。従って、気道抵抗の実質的な部分は、上気道ないし第5から第6気管支分岐に位置する(West JB. Respiratory Physiology - the essentials. 5th edition, 1995, Williams and Wilkins, Baltimore)。多数の肺の病的状態(例えば、ARDS、COPD)において、小気道もいくつかの場合でかなりの狭小化を示し、それは、流動プロフィールの変化を導き得る。層流から乱流への遷移は、レイノルズ数(RE)を使用して評価できる。REは、下式に従って計算する:
RE=(4ρV')/πμ
(ρ:密度;V':流動容積;μ:粘度;D:管の直径)
【0013】
〜2000の臨界レイノルズ数で、層流は、だんだんと遷移流に、ついには(Re>4000)乱流に変化し、従って、内部摩擦および剪断力がだんだんと生じ、ガス流の運動により高い圧力勾配(層流と比較して)が必要である(West JB. Respiratory Physiology - the essentials. 5th edition, 1995, Williams and Wilkins, Baltimore)。ヘリウムの密度は窒素の密度の約13%にすぎないので、ヘリウムをガス混合物と混合することは、レイノルズ数を下げる。これは、乱流から層流への遷移を利する。この遷移が層流プロフィールをもたらすとき、呼吸の苦労は低減する。なぜなら、層流のガス流は乱流と比較して内部摩擦が少なく、従って気道の中で動くために少ない推進力ですむからである(即ち、呼吸の苦労も少ない)(Jolliet et al., Respir Care Clin N Am. 2002; 8: 295-307)。要するに、ヘリウムと混合する場合に、ガス流を補助する2つのメカニズムがある:第1に、層流になりやすくなり、第2に、完全に乱流である流れは、より少ない圧力で動く。両方の効果は、ガス交換のために成されなければならない仕事としての呼吸の苦労を低減させる。
【0014】
上気道の疾患(例えば、声帯領域の緊張(tightness))と同様に、ヘリウム−酸素混合物は、下気道の疾患(例えば、COPDまたは喘息)用のヘリウム−酸素ガス混合物で使用できる。通常、上記の乱流から層流へのガス流の顕著な遷移の効果に起因する呼吸補助作用がここでも重要である。加えて、エアロゾル粒子(例えば、β模倣薬)の肺のより末梢にある部位へのより効果的な沈着の作用メカニズムも論じられている (Anderson et al., Am Rev Respir Dis. 1993; 147: 524-8.)。
【発明の概要】
【0015】
ヘリウム−酸素混合物を使用する、原発性および続発性PHにおける吸入用有効成分の沈着の改良を目的とする研究に関して、驚くべき、予期されなかった結果は、PH治療用のさらなる付加的有効成分(例えば、プロスタサイクリンアナログ、sGC活性化剤および刺激剤)を用いない、ヘリウム−酸素混合物単独での使用が、肺血管抵抗の明確な減少を導くことであった。さらに、この効果は、吸入用有効成分をヘリウム−酸素混合物とさらに組み合わせると、増大する。
【0016】
ヘリウム−酸素混合物が血管側面の抵抗を低下させ得るという本発明による実験結果は、例えば、急性(例えばARDS)肺または心臓(左心房または左心室)疾患および心臓弁膜症における、肺高血圧症の処置および/または予防に使用できる。さらに、それ故に、ヘリウム−酸素混合物は、気道閉塞の処置のみならず、慢性閉塞性肺疾患、間質性肺疾患、睡眠時無呼吸症候群、肺胞低換気を伴う疾患、高山病および肺の発達障害における肺高血圧症の処置および/または予防にも適する。
【0017】
加えて、ヘリウム−酸素混合物は、例えば近位肺動脈の血栓塞栓症、遠位肺動脈の閉塞症および肺塞栓症などの慢性血栓性および/または塞栓性疾患に起因する肺動脈高血圧症の処置および/または予防に適する。本発明による化合物は、また、サルコイドーシス、ヒスチオサイトーシスXまたはリンパ脈管筋腫症に関連する肺動脈高血圧症、および、外部的な血管の圧迫(リンパ節、腫瘍、線維化性縦隔炎)に起因する肺動脈高血圧症の処置および/または予防にも使用できる。
【0018】
ヘリウム−酸素混合物は、単独で、または、他の有効成分と組み合わせて使用できる。ヘリウム−酸素混合物は、20ないし80%のヘリウムの割合で使用できる。好ましいのは、非常に高率のヘリウム(79%まで)の割合を使用することである。特に好ましいのは、79%ヘリウム/21%酸素の割合を使用することである。
本発明における百分率の値は、すべて体積パーセントを意味する。
【0019】
本発明は、さらに、上述の疾患の処置および/または予防のための、ヘリウム−酸素混合物および1種またはそれ以上のさらなる有効成分を含む医薬に関する。例として、そして好ましく言及し得る、適当な有効成分の組合せは、以下のものである:
ヘリウム−酸素混合物と組み合わせた、キナーゼ阻害剤、より詳しくは、チロシンキナーゼ阻害剤、例えば、そして好ましくは、ソラフェニブ、イマチニブ、ゲフィチニブまたはエルロチニブ、
ヘリウム−酸素混合物と組み合わせた、一酸化窒素(NO)、
ヘリウム−酸素混合物と組み合わせた、NOに依存しないが、ヘムに依存する可溶性グアニル酸シクラーゼの刺激剤、例えば、より詳しくは、WO00/06568、WO00/06569、WO02/42301およびWO03/095451に記載の化合物。
【0020】
以下の化合物は、好ましく言及し得る:
メチル4,6−ジアミノ−2−[1−(2−フルオロベンジル)−1H−ピラゾロ[3,4−b]ピリジン−3−イル]−5−ピリミジニルカルバメート
【化1】

【0021】
メチル4,6−ジアミノ−2−[1−(2−フルオロベンジル)−1H−ピラゾロ[3,4−b]ピリジン−3−イル]−5−ピリミジニル(メチル)カルバメート
【化2】

【0022】
ヘリウム−酸素混合物と組み合わせた、NOおよびヘムに依存しない可溶性グアニル酸シクラーゼの活性化剤、例えば、より詳しくは、WO01/19355、WO01/19776、WO01/19778、WO01/19780、WO02/070462およびWO02/070510に記載の化合物、
4−[((4−カルボキシブチル)−{2−[(4−フェネチルベンジル)オキシ]フェネチル}アミノ)メチル]安息香酸
【化3】

【0023】
ヘリウム−酸素混合物と組み合わせた、プロスタサイクリンアナログ、例えば、そして好ましくは、イロプロスト、ベラプロスト、トレプロスチニルまたはエポプロステノール、
ヘリウム−酸素混合物と組み合わせた、エンドセリン受容体アンタゴニスト、例えば、そして好ましくは、ボセンタン、ダルセンタン、アンブリセンタンまたはシタクスセンタン、
ヘリウム−酸素混合物と組み合わせた、環状グアノシン一リン酸(cGMP)および/または環状アデノシン一リン酸(cAMP)の分解を阻害する化合物、例えば、ホスホジエステラーゼ(PDE)1、2、3、4および/または5の阻害剤、例えば、より詳しくは、PDE5阻害剤、例えば、シルデナフィル、バルデナフィルおよびタダラフィル、
ヘリウム−酸素混合物と組み合わせた、抗生物質、例えば、グリコシド系抗菌薬、ジャイレース阻害剤、または、ペニシリン類、
ヘリウム−酸素混合物と組み合わせた、抗ウイルス性物質、例えば、アスピリン
ヘリウム−酸素混合物と組み合わせた、腫瘍の処置における抗増殖性物質、
ヘリウム−酸素混合物と組み合わせた、上記のように肺外(全身)作用を奏し得る一般的な有効成分。
【0024】
ヘリオックスを利用する有効成分の吸入のために、好ましいのは、非常に高率のヘリウム(79%まで)を有するヘリウム/酸素混合比を使用することである。特に好ましいのは、79%ヘリウム/21%酸素の割合を使用することであり、この割合で、患者による酸素への要求が高い場合、ヘリウムの割合を下げなければならないこともある。
【0025】
本発明は、さらに、左心房または左心室疾患、左側の心臓弁膜症、急性肺疾患(例えば、ARDS)、慢性閉塞性肺疾患、間質性肺疾患、睡眠時無呼吸症候群、肺胞低換気を伴う疾患、高山病、肺の発達障害、近位肺動脈の血栓塞栓症、遠位肺動脈の閉塞症および肺塞栓症などの慢性血栓性および/または塞栓性疾患における肺高血圧症、並びに、サルコイドーシス、ヒスチオサイトーシスXまたはリンパ脈管筋腫症に関連する肺高血圧症、並びに、外部的な血管の圧迫(リンパ節、腫瘍、線維化性縦隔炎)に起因する肺動脈高血圧症の処置および/または予防用の医薬を製造するための、単独または1種もしくはそれ以上の上述の有効成分の組合せと組み合わせた、ヘリウム−酸素混合物の使用に関する。
【0026】
本発明は、さらに、ヘリウム−酸素混合物またはヘリウム−酸素混合物と1種またはそれ以上の上述の有効成分の組合せを投与することによる、ヒトおよび動物の肺動脈高血圧症の処置および/または予防方法に関する。
【0027】
本発明による使用に従って製造される医薬、または、本発明に従って使用される医薬は、ヘリウム−酸素混合物と組み合わせて、少なくとも1種の本発明による化合物を、通常、1種またはそれ以上の不活性かつ非毒性の医薬的に適する補助剤と共に含む。
【0028】
本発明は、さらに、ヘリウム−酸素混合物と組み合わせた、上述の疾患の処置および/または予防用の、少なくとも1種の本発明による化合物を1種またはそれ以上の不活性かつ非毒性の医薬的に適する補助剤と共に含む医薬に関する。
【0029】
液体、固体または気体の有効成分(吸入剤)の吸入におけるヘリオックスの使用は、有効成分とは関係なく肺血管抵抗に影響を与えるのみならず、吸入される液体、固体または気体の有効成分の作用を強化し得る。この強化は、より高い沈着率、流動の障害物から遠位での沈着、または、換気されにくい領域における沈着により達成される。ヘリオックスは、吸入剤の製造に使用でき、そして、吸入剤が、ヘリオックスを用いて、または用いずに製造されるが、ヘリオックスと共に肺に投与されることも可能である。
【0030】
ヘリオックスと、液体、固体または気体の有効成分の組合せは、購入できる装置を利用して製造できる(例えば、2.4 MHz, Optineb-IR, Nebu-Tecより)。
【0031】
ヘリオックスによる、または、ヘリオックスと有効成分の組合せによる人工呼吸は、購入できる人工呼吸器を利用して達成できる(例えば、Avea, Viasys Healthcareより)。
【0032】
ヘリウム−酸素混合物を使用する、または、それと組み合わせる非経腸投与には、気道を介する投与経路が適切であり、例えば、吸入投与形(とりわけ、粉末吸入器、噴霧器)、点鼻薬、点鼻液または点鼻スプレーである。
【0033】
ヘリウム−酸素混合物は、通常、79%ヘリウムと21%酸素の混合比で購入できる。しかしながら、用語ヘリオックスは、この混合比を特定して示すのではなく、単にヘリウムと酸素の混合物を示す。これらのヘリウム/酸素混合物の各々は、最小割合で21%の酸素が物理的理由で必要であるが、特定の投与形に変換できる。これは、それ自体既知の方法で、不活性、非毒性、医薬的に適する補助剤と混合することにより達成できる。これらの補助剤には、とりわけ、担体(例えば、結晶セルロース、ラクトース、マンニトール)、溶媒(例えば、液体ポリエチレングリコール)、乳化剤および分散剤または界面活性剤(例えば、ドデシル硫酸ナトリウム、ポリオキシソルビタンオレエート)、結合剤(例えば、ポリビニルピロリドン)、合成および天然ポリマー(例えば、アルブミン)、安定化剤(例えば、アスコルビン酸などの抗酸化剤)、染料(例えば、酸化鉄などの無機色素)および香味料および/または臭気のマスキング剤が含まれる。
【0034】
一般に、ヘリウムと酸素の組合せにおけるヘリウムの割合をできるだけ高く維持することが吸入療法において有利であると見出され、実験結果は、ヘリウムの割合は79%ないし25%であるべきであると示している。
【0035】
それにも拘わらず、適当であれば、体重、投与経路、有効成分に対する個々の応答、製剤のタイプおよび投与を実施する時間または間隔に応じて、言及したヘリウムと酸素の混合比から逸脱することが必要であり得る。従って、25%ヘリウムより少なく使用しても十分な場合もあり得る。
【実施例】
【0036】
実験の部
以下の例示的実施態様は、不均質な急性肺損傷のモデルで、PH治療のためのさらなる付加的有効成分(例えば、プロスタサイクリンアナログ、sGC活性化剤および刺激剤)を用いない、ヘリウム−酸素混合物単独での使用が肺血管抵抗の明確な低減を導くという、驚異的かつ予想されない結果をもたらす実験設計を説明する。このヘリウム−酸素混合物の抵抗低下作用は、さらなる有効成分の吸引により肺血管床において強化され得ることがさらに明らかになったので、本発明は実施例に限定されない:
【0037】
新生児には臨床上かなり重要である重篤な肺損傷を引き起こすために、麻酔した子ブタの肺サーファクタントを洗浄により除去し、続いて20%胎便液を気管内投与することにより、ALI/ARDSを使用する。これらの動物は、続発性肺高血圧症を伴う顕著なガス交換障害を経験する。記載したモデルは、胎便吸引症候群に相当する。医薬の効果を検出するために、測定は、様々な生理的パラメーター(心拍数、大動脈および肺動脈の血圧、左心室の圧力プロフィール、心拍出量、動脈血および静脈血の血液ガス分析)を用いて、標準的な手順(Geiger et al., Intensive Care Med. 2008; 34: 368-76)に従い、Goettingen Minipig(登録商標) (Ellegaard, DK) で、適切な意識下鎮静(analgosedation)のもとで行う。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
疾患の処置用のヘリウム−酸素ガス混合物。
【請求項2】
20ないし79%のヘリウムおよび80ないし21%の酸素の組成を有する、請求項1に記載のヘリウム−酸素ガス混合物。
【請求項3】
肺高血圧症(PH)の原発性または続発性の形態の処置および/または予防用の医薬の製造方法において使用するための、請求項1または請求項2に記載のヘリウム−酸素ガス混合物。
【請求項4】
肺高血圧症(PH)の原発性または続発性の形態の処置および/または予防用の医薬を製造するための、請求項1または請求項2に記載のヘリウム−酸素ガス混合物の使用。
【請求項5】
請求項1または請求項2に記載のヘリウム−酸素ガス混合物を含む医薬。
【請求項6】
請求項1または請求項2に記載のヘリウム−酸素ガス混合物を、不活性かつ非毒性の医薬的に適する補助剤と組み合わせて含む医薬。
【請求項7】
・キナーゼ阻害剤、より詳しくは、チロシンキナーゼ阻害剤、例えば、そして好ましくは、ソラフェニブ、イマチニブ、ゲフィチニブまたはエルロチニブ
または、
・一酸化窒素(NO)
または、
NOに依存しないが、ヘムに依存する可溶性グアニル酸シクラーゼの刺激剤、
または、
・NOおよびヘムに依存しない可溶性グアニル酸シクラーゼの活性化剤、
または、
・プロスタサイクリンアナログ、例えば、そして好ましくは、イロプロスト、ベラプロスト、トレプロスチニルまたはエポプロステノール、
または、
・エンドセリン受容体アンタゴニスト、例えば、そして好ましくは、ボセンタン、ダルセンタン、アンブリセンタンまたはシタクスセンタン、
または、
・環状グアノシン一リン酸(cGMP)および/または環状アデノシン一リン酸(cAMP)の分解を阻害する化合物、例えば、ホスホジエステラーゼ(PDE)1、2、3、4および/または5の阻害剤、例えば、より詳しくは、PDE5阻害剤、例えば、シルデナフィル、バルデナフィルおよびタダラフィル
または、
・抗生物質、例えば、グリコシド系抗菌薬、ジャイレース阻害剤、または、ペニシリン類
または、
・抗ウイルス性物質、例えば、アスピリン
または、
・腫瘍の処置における抗増殖性物質
または、
・上記のように肺外(全身)作用を奏し得る一般的な有効成分
の群から選択される1種またはそれ以上の医薬と組み合わせられている、請求項1または請求項2に記載のヘリウム−酸素ガス混合物。
【請求項8】
メチル4,6−ジアミノ−2−[1−(2−フルオロベンジル)−1H−ピラゾロ[3,4−b]ピリジン−3−イル]−5−ピリミジニルカルバメート
【化1】

メチル4,6−ジアミノ−2−[1−(2−フルオロベンジル)−1H−ピラゾロ[3,4−b]ピリジン−3−イル]−5−ピリミジニル(メチル)カルバメート
【化2】

4−[((4−カルボキシブチル)−{2−[(4−フェネチルベンジル)オキシ]フェネチル}アミノ)メチル]安息香酸
【化3】

の群から選択される1種またはそれ以上の医薬と組み合わせられている、請求項1または請求項2に記載のヘリウム−酸素ガス混合物。
【請求項9】
疾患の処置用の、請求項7または請求項8に記載の医薬と組み合わせられている、ヘリウム−酸素ガス混合物。
【請求項10】
肺高血圧症(PH)の原発性または続発性の形態の処置および/または予防用の医薬の製造方法において使用するための、請求項7または請求項8に記載の医薬と組み合わせられているヘリウム−酸素ガス混合物。
【請求項11】
肺高血圧症(PH)の原発性または続発性の形態の処置および/または予防用の医薬を製造するための、請求項7または請求項8に記載の医薬と組み合わせられているヘリウム−酸素ガス混合物の使用。
【請求項12】
請求項7または請求項8に記載の医薬と組み合わせられているヘリウム−酸素ガス混合物を、不活性かつ非毒性の医薬的に適する補助剤と組み合わせて含む医薬。

【公表番号】特表2012−506881(P2012−506881A)
【公表日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−533579(P2011−533579)
【出願日】平成21年10月20日(2009.10.20)
【国際出願番号】PCT/EP2009/007488
【国際公開番号】WO2010/049078
【国際公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【出願人】(507113188)バイエル・ファルマ・アクチェンゲゼルシャフト (141)
【氏名又は名称原語表記】Bayer Pharma Aktiengesellschaft
【Fターム(参考)】