説明

肺炎の治療および予防用医薬組成物

【課題】肺炎の治療および予防用医薬組成物の提供。
【解決手段】ゲラニルゲラニルアセトン、その薬学上許容される塩、またはそれらの溶媒和物を有効成分として含んでなる、肺炎の治療および予防用医薬組成物。

【発明の詳細な説明】
【発明の分野】
【0001】
本発明は、肺炎の治療および/または予防用医薬組成物に関し、詳細には、ゲラニルゲラニルアセトンを有効成分として含んでなる肺炎の治療および予防用医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
慢性かつ全身性であり、炎症性の自己免疫疾患である慢性関節リウマチ(rheumatoid arthritis)は、不可逆的な関節の変形と機能障害をもたらす。過去10年にわたって蓄積された証拠により、慢性関節リウマチの診断確定後、可能な限り早期に、疾患修飾抗リウマチ薬、特に、メトトレキサートと抗TNFα生物薬剤との併用治療を行うことが、骨の浸食に起因する実質的な障害の予防に効果的であり、かつ決定的に重要であることが示唆されている(Ishiguro N et al., Arthritis Rheum 2001; 44: 2503-11、Guidelines for the management of rheumatoid arthritis: 2002 Update. Arthritis Rheum 2002; 46: 328-46、 O'Dell JR. N Engl J Med 2004; 350: 2591-602、Olsen N J & Stein C M, N Engl J Med 2004; 350: 2167-79)。その一方で、疾患修飾抗リウマチ薬と慢性関節リウマチ用の他の薬剤が、しばしば有害な作用を生じることがよく知られており、この作用により、慢性関節リウマチの治療計画の断念または変更が余儀なくされる(Knowles S R et al., Lancet 2000; 356: 1587-91、Sugiura F et al., Mod Rheumatol 2005; 15: 201-3)。疾患修飾抗リウマチ薬によるこれらの有害な作用のうち、薬物誘導性間質性肺炎は、最もよく知られた合併症であり、命の危険を伴う場合がある(Cooper J A et al., Annu Rev Med 1988; 39: 395-404、Kremer J M et al., Arthritis Rheum 1997; 40: 1829-37、Imokawa S et al., Eur Respir J 2000; 15: 373-81)。疾患修飾抗リウマチ薬が間質性肺炎を引き起こすメカニズムは未だに明らかにされていないが、薬物誘導性間質性肺炎に対する臨床的評価および組織病理学的評価により、薬物誘導性間質性肺炎が、特発性間質性肺炎(idiopathic interstitial pneumonitis)と多くの臨床的特徴および病理学的特徴において共通していることが示唆されている(Camus P et al., Respiration 2004; 71: 301-26、Brown K K Proc Am Thorac Soc 2007; 4: 443-8)。急性の肺損傷および肺線維症の罹患時における気道上皮での細胞障害とアポトーシスの病理学的な役割は、完全に決定されたわけではないが、肺損傷に起因する肺胞上皮細胞(alveolar epithelial cell)のアポトーシスの増加は、特発性間質性肺炎の線維症病巣だけでなく、特発性間質性肺炎の組織学的に正常な肺胞にも観察される(Kuwano K et al., Lab Invest 2002; 82: 1695-706、Thannickal V J et al., Proc Am Thorac Soc 2006; 3: 350-6、Fridlender Z G et al., Eur Respir J 2007; 30: 205-13、Golan-Gerstl R et al., Am J Respir Cell Mol Biol 2007; 36: 270-5)。
【0003】
熱ショックタンパク質(heat-shock protein)は、種々のストレス性状態に関与する、異常に折り畳まれたタンパク質または変異のあるタンパク質を修復し、必要な場合には、細胞内のホメオスタシスのために分解することにより、細胞内シャペロンとして、細胞保護作用を示す(Soti C et al., Curr Opin Cell Biol 2005; 17: 210-5、Soti C et al., Br J Pharmacol 2005; 146: 769-80)。虚血や炎症といった多種多様なストレスが、熱ショックタンパク質の発現を増加させることが知られているので、HSP70の誘導が、イン・ビトロで、ストレスに対するアポトーシスの阻害プロセスを通じた細胞保護機能を示すだけでなく、イン・ビボで、胃、肝臓および心臓における強力な細胞保護を発揮することが証明されている(Polla B S et al., Proc Natl Acad Sci U S A 1996; 93: 6458-63、Benjamin I J et al., Circ Res 1998; 83: 117-32、McMillan D R et al., J Biol Chem 1998; 273: 7523-8、Beere H M et al., Nat Cell Biol 2000; 2: 469-75)。
【0004】
ゲラニルゲラニルアセトン(geranylgeranylacetone)は、非毒性の潰瘍治療剤であり、近年において、熱ショックタンパク質、特に、HSP70の誘導因子としての機能を発揮することが示されており、このことにより、ゲラニルゲラニルアセトンの投与が、虚血再灌流障害、虚血性腎不全および脳虚血障害といった、種々の動物疾患モデルに対する保護作用を生じさせることが示唆されていた(Hirakawa T et al., Gastroenterology 1996; 111: 345-57(非特許文献1)、Ooie T et al., Circulation 2001; 104: 1837-43(非特許文献2)、Suzuki S et al., Kidney Int 2005; 67: 2210-20(非特許文献3)、Yasuda H et al., Brain Res 2005; 1032: 176-82(非特許文献4)。しかしながら、本発明者らの知る限りにおいては、肺損傷や肺線維症に対するゲラニルゲラニルアセトンの保護作用は報告されていない。
【非特許文献1】Hirakawa T et al., Gastroenterology 1996; 111: 345-57
【非特許文献2】Ooie T et al., Circulation 2001; 104: 1837-43
【非特許文献3】Suzuki S et al., Kidney Int 2005; 67: 2210-20
【非特許文献4】Yasuda H et al., Brain Res 2005; 1032: 176-82
【発明の概要】
【0005】
本発明者らは、今般、ゲラニルゲラニルアセトンが、ブレオマイシン誘導性肺線維症モデルの肺内において細胞保護作用を誘導でき、炎症および線維症の進行を阻害できたことを見いだした。本発明はこの知見に基づくものである。
【0006】
すなわち、本発明によれば、式(I):
【化1】

で表される化合物、その薬学上許容される塩、またはそれらの溶媒和物を有効成分として含んでなる、肺炎の治療および/または予防用医薬組成物が提供される。
【発明の具体的説明】
【0007】
有効成分
本発明による医薬組成物の有効成分であるゲラニルゲラニルアセトン(6,10,14,18−テトラメチル−5,9,13,17−ノナデカテトラエン−2−オン)は、式(I)で表すことができる。
【化2】

【0008】
ゲラニルゲラニルアセトンはその構造から明らかなように、種々の異性体が考えられるが、本発明ではそれらのいずれを含むものであり、例えば、5,9,13位がE体、Z体のいずれでもよく、また1種類の化合物もしくは2種類の化合物の混合物でもよい。好ましくは、9位かつ13位がE体である5E体、5Z体または任意の混合比のそれらの混合物であり、より好ましくは、(5E,9E,13E)体と(5Z,9Z,13Z)体とが3:2の混合物である。
【0009】
本発明による有効成分であるゲラニルゲラニルアセトンは、市販されているものを入手することができる。本発明による有効成分であるゲラニルゲラニルアセトンはまた、公知の方法、例えば、特開昭53−145922号公報に記載されている方法に従って製造することができる。
【0010】
本明細書において用いられる用語「ゲラニルゲラニルアセトン」としては、特に言及する場合を除いて、以下に記述されるようなゲラニルゲラニルアセトン塩やそれらの水和物を含む。
【0011】
ゲラニルゲラニルアセトンは塩の形態でも同様に使用することができる。塩は、当該技術分野で公知の薬学的に許容される塩を示し、ゲラニルゲラニルアセトンと薬学的に許容される塩を形成するものであれば特に限定されない。酸、塩基は当該化合物1分子に対し、0.1〜5分子の適宜な比で塩を形成する。無機酸との塩の好ましい例として、塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸などとの塩が挙げられ、有機酸との塩の好ましい例としては、例えば酢酸、コハク酸、フマル酸、マレイン酸、酒石酸、クエン酸、乳酸、ステアリン酸、安息香酸、メタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸などとの塩が挙げられる。無機塩基との好ましい例としては、ナトリウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩、カルシウム塩、マグネシウム塩などのアルカリ土類金属塩、アルミニウム塩、アンモニウム塩などが挙げられる。有機塩基との好ましい例としては、ジエチルアミン、ジエタノールアミン、メグルミン、N,N’−ジベンジルエチレンジアミンなどとの塩が挙げられる。酸性アミノ酸との塩との好ましい例としては、アスパラギン酸、グルタミン酸などとの塩が挙げられ、塩基性アミノ酸との塩の好ましい例としては、アルギニン、リジン、オルチニンなどとの塩が挙げられる。
【0012】
また、ゲラニルゲラニルアセトンまたはその塩は、溶媒和物(例えば、水和物、アルコール和物、エーテル和物)の形態でも同様に使用することができる。
【0013】
対象疾患
後記実施例において示すように、肺炎、肺胞性肺炎、間質性肺炎、薬物誘導性間質性肺炎および特発性間質性肺炎のモデルとして用いたブレオマイシン誘導肺損傷モデルマウスの気管支肺胞洗浄液の分析やTUNELアッセイの結果から、肺内の損傷および炎症がゲラニルゲラニルアセトンの投与により抑制されたことが確認された(図4および図5)。従って、ゲラニルゲラニルアセトンは肺炎の治療に用いることができる。
【0014】
また、後記実施例において示すように、ブレオマイシン誘導肺損傷モデルマウスに事前にゲラニルゲラニルアセトンを投与することにより、ゲラニルゲラニルアセトンが肺損傷に対する保護作用を発揮することが確認された。従って、ゲラニルゲラニルアセトンは肺炎の予防にも用いることができる。
【0015】
ここで、「肺炎」には、肺胞性肺炎および間質性肺炎が含まれる。
【0016】
更に、後記実施例において示すように、ブレオマイシン誘導肺損傷モデルマウスの肺支持組織における炎症細胞浸潤がゲラニルゲラニルアセトンの投与により抑制された(図3)。また、ブレオマイシン誘導肺損傷モデルマウスの肺のコラーゲン含有量がゲラニルゲラニルアセトンの投与により抑制された(図3)。肺のコラーゲン含有量の増加は肺支持組織の線維化の指標となることから、ゲラニルゲラニルアセトンの投与により肺支持組織の線維化が抑制されているといえる。従って、ゲラニルゲラニルアセトンは間質性肺炎の治療に用いることができる。
【0017】
ここで、「間質性肺炎」には薬物誘導性間質性肺炎や特発性間質性肺炎が含まれる。間質性肺炎は肺支持組織の炎症と線維化をその特徴とすることから、ゲラニルゲラニルアセトンによりいずれの間質性肺炎を治療できることは後記実施例から明らかである。
【0018】
薬物誘導性間質性肺炎は、例えば、慢性関節リウマチ治療剤の投与に起因する間質性肺炎であり、間質性肺炎の原因となる慢性関節リウマチ治療剤(DMARDs)としては、メトトレキサート、金チオリンゴ酸ナトリウム、D−ペニシラミン、ロベンザリット2ナトリウム塩、オーラノフィン、ブシラミン、ミゾリビン、サラゾスファピリジン、アクタリット、レフルノミド、インフリキシマブ、エタネルセプト、タクロリムス、アダリムマブ、およびトシリズマブが挙げられる。
【0019】
薬物誘導性間質性肺炎は、また、鎮痛消炎剤の投与に起因する間質性肺炎であってもよく、間質性肺炎の原因となる鎮痛消炎剤(NSAID)としては、アスピリン、ジフルニサル、メフェナム酸、フルフェナム酸、ジクロフェナクナトリウム、ナブメトン、アルクロフェナク、フェンブフェン、インドール酢酸、インドメタシン、アセメタシン、スリンダク、インドメタシンファルネシル、モフェゾラク、エトドラク、トルメチン、ロキソプロフェンナトリウム、イブプロフェン、オキサプロジン、ナプロキセン、ケトプロフェン、プラノプロフェン、フルルビプロフェン、チアプロフェン酸、アルミノプロフェン、ザルトプロフェン、ピロキシカム、アンピロキシカム、テノキシカム、メロキシカム、ロルノキシカム、フェニルブタゾン、オキシフェンブタゾン、クロフェゾン、フェプラゾン、エピリゾール、塩酸チアラミド、エモルファゾン、およびセレコキシブが挙げられる。
【0020】
間質性肺炎が進行した場合には、肺間質組織が線維化する。このような病態は慢性間質性肺炎ないし肺線維症と呼ばれることがあるが、いずれも間質性肺炎に含まれるものとする。
【0021】
本発明において「治療」とは、一般的に、所望の薬理学的効果および/または生理学的効果を得ることを意味し、疾病および/または疾病に起因する悪影響の部分的または完全な治癒を含む意味で用いられる。本明細書において「治療」とは、患者、特にヒトの疾病の任意の治療を含み、例えば以下の治療を含む:
・疾病症状を阻害する、即ち、その進行を阻止または遅延すること;
・疾病症状を緩和すること、即ち、疾病または症状の後退、消失、または症状の進行の逆転を引き起こすこと。
【0022】
本発明において「予防」とは、一般的に、所望の薬理学的効果および/または生理学的効果を得ることを意味し、疾病および/または症状の完全または部分的防止を含む意味で用いられる。本明細書において「予防」とは、患者、特にヒトの疾病の任意の予防を含み、例えば、疾病または症状の素因を持ちうるが、まだ持っていると診断されていない患者において、疾病または症状が起こることを予防することを含む。
【0023】
医薬組成物
本発明による医薬組成物の有効成分であるゲラニルゲラニルアセトンの投与形態は、特に制限されず、経口投与、非経口投与(例えば静脈注射、筋肉注射、皮下投与、直腸投与、経皮投与)のいずれかの投与経路で投与することができる。経口投与は、注腸などに比べて患者の負担が少ないので好ましい。
【0024】
経口投与および非経口投与のための剤形およびその製造方法は当業者に周知であり、ゲラニルゲラニルアセトンを、薬学的に許容される坦体などと混合等することにより、常法に従って製造することができる。
【0025】
経口投与のための剤型は、固体または液体の剤型、具体的には錠剤、被覆錠剤、丸剤、細粒剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤、シロップ剤、乳剤、懸濁剤、注射剤、トローチ剤などが挙げられる。
【0026】
非経口投与のための剤型は、注射用製剤(点滴剤を含む)、外用剤(例えば、軟膏剤、パップ剤、ローション剤)、坐剤吸入剤、眼剤、眼軟膏剤、点鼻剤、点耳剤、リポソーム剤等が挙げられる。
【0027】
ゲラニルゲラニルアセトンは、細粒剤は商品名セルベックス(登録商標)剤(エーザイ株式会社)、カプセル剤は商品名セルベックス(登録商標)剤(エーザイ株式会社)として提供されており、これらを経口投与剤として利用することができる。
【0028】
薬学上許容される担体としては、例えば、製剤分野において常用され、かつゲラニルゲラニルアセトンと反応しない物質が用いられる。薬学上許容される担体には、例えば、通常用いられる賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、着色剤、矯味矯臭剤や、必要により安定化剤、乳化剤、吸収促進剤、界面活性剤、pH調整剤、防腐剤、抗酸化剤、増量剤、湿潤化剤、表面活性化剤、分散剤、緩衝剤、保存剤、溶解補助剤、無痛化剤等を使用することができ、一般に医薬品製剤の原料として用いられる成分を配合して常法により製剤化することが可能である。
【0029】
賦形剤としては、例えば乳糖、果糖、コーンスターチ、白糖、ブドウ糖、マンニトール、ソルビット、結晶セルロース、二酸化ケイ素、硫酸カルシウム等が、結合剤としては、例えばポリビニルアルコール、ポリビニルエーテル、メチルセルロース、エチルセルロース、アラビアゴム、トラガント、ゼラチン、シェラック、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリプロピレングリコール・ポリオキシエチレン・ブロックポリマー、メグルミン等が、崩壊剤としては、例えば澱粉、寒天、ゼラチン末、結晶セルロース、炭酸カルシウム、炭酸水素ナトリウム、クエン酸カルシウム、デキストリン、ペクチン、カルボキシメチルセルロース・カルシウム、カルメロースナトリウム、カルメロースカルシウム等が、滑沢剤としては、例えばステアリン酸マグネシウム、タルク、ポリエチレングリコール、シリカ、硬化植物油等が、着色剤としては医薬品に添加することが許可されているものが、矯味矯臭剤としては、ココア末、ハッカ脳、芳香散、ハッカ油、竜脳、桂皮末等が、それぞれ用いられる。上記の成分は、その塩またはその水和物であってもよい。
【0030】
薬学上許容される担体として使用可能な無毒性の成分としては更に下記のものが挙げられる:大豆油、牛脂、合成グリセライド等の動植物油;例えば流動パラフィン、スクワラン、固形パラフィン等の炭化水素;例えばミリスチン酸オクチルドデシル、ミリスチン酸イソプロピル等のエステル油;例えばセトステアリルアルコール、ベヘニルアルコール等の高級アルコール;シリコン樹脂;シリコン油;例えばポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン硬化ひまし油、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロックコポリマー等の界面活性剤;例えばヒドロキシエチルセルロース、ポリアクリル酸、カルボキシビニルポリマー、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、メチルセルロース等の水溶性高分子;例えばエタノール、イソプロパノール等の低級アルコール;例えばグリセリン、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ソルビトール、ポリエチレングリコール等の多価アルコール(ポリオール);例えばグルコース、ショ糖等の糖;例えば無水ケイ酸、ケイ酸アルミニウムマグネシウム、ケイ酸アルミニウム等の無機粉体;塩化ナトリウム、リン酸ナトリウムなどの無機塩;精製水等が挙げられる。
【0031】
経口製剤は、例えば、ゲラニルゲラニルアセトンに賦形剤(例えば、乳糖、白糖、でんぷん、マンニトール等)、結合剤(例えば、α化デンプン、アラビアゴム、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルピロリドン等)、滑沢剤(ステアリン酸マグネシウム、タルク等)、着色剤、矯味矯臭剤、崩壊剤等を加えた後、必要に応じて、安定化剤、乳化剤、吸収促進剤、界面活性剤等を添加して、常法により例えば錠剤、散剤、細粒剤、顆粒剤、被覆錠剤、カプセル剤等とすることができる。錠剤は、カルナウバロウ、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、マクロゴール、ヒドロキシプロピルメチルフタレート、セルロースアセテートフタレート、白糖、酸化チタン、ソルビタン脂肪酸エステル、リン酸カルシウムのようなコーティング剤を用い、周知の方法でコーティングしてもよい。
【0032】
シロップ剤製造に用いられる担体の具体例としては、白糖、ブドウ糖、果糖のような甘味剤、アラビアゴム、トラガント、カルメロースナトリウム、メチルセルロース、アルギン酸ナトリウム、結晶セルロース、ビーガムのような懸濁化剤、ソルビタン脂肪酸エステル、ラウリル硫酸ナトリウム、ポリソルベート80のような分散剤が挙げられる。シロップ剤製造にあたっては、必要に応じて矯味剤、芳香剤、保存剤、溶解補助剤、安定化剤等を添加することができる。また、用時溶解または懸濁するドライシロップの形であってもよい。
【0033】
坐剤の基剤の具体例としては、室温では固体で、体温では液体となる、カカオ脂、飽和脂肪酸グリセリンエステル、ポリエチレングリコール、グリセロゼラチン、マクロゴールなどの適当な非刺激性賦形剤が挙げられる。坐剤製造にあたっては、必要に応じて界面活性剤、保存剤等を添加することができる。
【0034】
注射剤は、通常、例えば、ゲラニルゲラニルアセトンの塩を注射用蒸留水に溶解して調製するが、必要に応じて溶解補助剤、緩衝剤、pH調整剤、等張化剤、無痛化剤、保存剤、安定化剤等を添加することができる。
【0035】
外用剤の製造に当たって使用できる基剤原料としては、医薬品、医薬部外品、化粧品等に通常使用される各種原料を用いることが可能であり、例えば動植物油、鉱物油、エステル油、ワックス類、高級アルコール類、脂肪酸類、シリコン油、界面活性剤、リン脂質類、アルコール類、多価アルコール類、水溶性高分子類、粘土鉱物類、精製水等の原料が挙げられ、必要に応じ、pH調整剤、抗酸化剤、キレート剤、防腐防黴剤、着色料、香料等を添加することができる。
【0036】
吸入剤は、吸入による投与のために、ゲラニルゲラニルアセトンを、注入器、噴霧器もしくは加圧パックまたはエアロゾルスプレーを送達する他の都合のよい様式から送達することができる。加圧パックは、適当な噴射剤を含むことができる。また、吸入による投与のために、ゲラニルゲラニルアセトンは、乾燥粉末組成物の形または液体スプレーの形態で投与することもできる。
【0037】
表皮への局所投与のために、ゲラニルゲラニルアセトンは、軟膏、クリームもしくはローションとして、または経皮パッチのための活性成分として製剤化することができる。軟膏およびクリームは、例えば、水性または油性基剤に適当な増粘および/またはゲル化剤を加えて製剤化することができる。ローションは水性または油性基剤を用いて製剤化することができ、また一般には1つまたは複数の乳化剤、安定化剤、分散剤、懸濁化剤、増粘剤、および/または着色剤を含むこともできる。
【0038】
本発明による医薬組成物は、治療上有効な他の薬剤を更に含有していてもよく、また、必要に応じて血流促進剤、殺菌剤、消炎剤、細胞賦活剤、ビタミン類、アミノ酸、保湿剤、角質溶解剤等の成分を配合することもできる。このときの有効成分の担体に対する割合は、1〜90重量%の間で変動され得る。
【0039】
ゲラニルゲラニルアセトンの投与量は、例えば、投与経路、疾患の種類、症状の程度、患者の年齢、性別、体重、塩の種類、疾患の具体的な種類、薬物動態および毒物学的特徴などの薬理学的知見、薬物送達系の利用の有無、並びに他の薬物の組合せの一部として投与されるか、など様々な因子を元に、臨床医により決定することができるが、通常、成人(体重60kg)あたり、経口投与では20〜2000mg/日であり、好ましくは50〜1000mg/日、さらに好ましくは100〜500mg/日を、注射投与では0.1〜500mg/日、好ましくは0.1〜300mg/日、さらに好ましくは1.0〜150mg/日であり、1回または数回に分けて投与することができる。小児に投与される場合は、用量は成人に投与される量よりも少ない可能性がある。実際に用いられる投与法は、臨床医の判断により大幅に変動することもあり、上記の投与範囲から逸脱することがある。
【0040】
後記実施例によれば、ゲラニルゲラニルアセトンを投与してから24時間後にHSP70の発現が最大となった(図1)。また、ゲラニルゲラニルアセトンを投与してから24時間後に再度ゲラニルゲラニルアセトンを投与した場合には、最初の投与から48時間後においても、HSP70の発現量を維持することができた(図1)。従って、間質性肺炎に対して十分な保護作用を達成させるには、抗リウマチ薬や鎮痛消炎薬の投与の前後におけるゲラニルゲラニルアセトンの連続的で反復的な投与を行うことが好ましい。具体的には、抗リウマチ薬や鎮痛消炎薬の投与の約1日前にゲラニルゲラニルアセトンを投与することによって、あるいは、抗リウマチ薬や鎮痛消炎薬の投与の約1日前にゲラニルゲラニルアセトンを投与し、その後、少なくとも1日ごとに投与することによって、間質性肺炎の発症を効果的に治療ないし予防できる。
【0041】
本発明によれば、式(I)で表される化合物、その薬学上許容される塩、またはそれらの溶媒和物の治療上および予防上の有効量を、場合によっては薬学上許容される担体とともに、治療および予防が必要とされる哺乳類(例えば、ヒト)に投与することを含んでなる、肺炎の治療および予防方法が提供される。
【0042】
本発明によれば、また、肺炎の治療および予防剤の製造のための、式(I)で表される化合物、その薬学上許容される塩、またはそれらの溶媒和物の使用が提供される。
【実施例】
【0043】
以下、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0044】
1:実験方法
1−1:試薬
ブレオマイシン(以下、単に「BLM」ということがある)は日本化薬株式会社から入手した。ゲラニルゲラニルアセトン(以下、単に「GGA」ということがある)はエーザイ株式会社から入手した。
【0045】
1−2:マウス
7週齢ないし8週齢のメスのC57BL/6Jマウス(以下、単に「B6マウス」ということがある)は中部科学資材株式会社から入手した。マウスは、実験を通じて自由に飼料および飲料水を摂取できる状態にあった。マウスは、無作為に処置グループへと分けた。マウスを用いた実験は、名古屋大学動物実験倫理委員会の承認の許で行った。
【0046】
1−3:ナイーブマウスへのイン・ビボでのGGA投与
新鮮なGGA懸濁液を作製するため、GGA投与を行う度に、GGAを乳化させて、5% アラビアゴムおよび0.6% Tween 80中に調製した。ナイーブマウスには、600mg/kgのGGAまたはビヒクルを、一回の経口投与により処置した。GGA投与から0時間、8時間、24時間または48時間後に、これらのマウスをペントバルビタールナトリウム麻酔下で瀉血させ、次いで大動脈穿刺を施した。Huaux F et al., J Immunol 2003; 170: 2083-92の記載と同様に、肺組織を食塩水で完全に還流して肺血管床から血液を除去し、次いで、肺組織を回収して、下記に示すようにHSP70発現の誘導を評価した。いくつかのマウスについては、最初のGGA投与から24時間後に、同一のGGA投与量で再処置を行い、次いで、最初の投与から48時間後に肺組織を回収した。
【0047】
1−4:線維症マウスモデル
Hashimoto N et al., J Clin Invest 2004; 113: 243-52の記載と同様に、気管内にBLMを注射することにより、急性肺損傷と肺線維症を誘導した。簡潔に述べると、BLMを滅菌食塩水中に懸濁した。B6マウスを、体重1kg当たり2UのBLM(滅菌食塩水に希釈)で処置するか、または同一用量の食塩水で処置した。BLM投与の日を、BLM0日目と規定した。GGAが、BLM誘導性の肺損傷および肺線維症に対してイン・ビボで保護的作用を発揮で可能かどうかを評価するため、その変化が、BLM誘導性肺損傷の重症度と密接した相関性を有すると考えられている体重をモニターした。
【0048】
1−5:イン・ビボ線維症マウスモデルへのGGA投与
BLM投与の7日前から、GGAを600mg/kgで1日1回投与することで、マウスに事前処置を施し、以下に示すサンプルの回収時までGGAを摂取させた。
【0049】
1−6:標本の回収
全ての標本は、表示した時点において、処置を施したマウスから回収した。以下に示すように、HSP70発現の評価とTUNEL染色を行うため、BLM1日目および3日目に、肺組織を処置マウスから回収した。BLM7日目において、数匹のマウスに対して、気管支肺胞洗浄(以下、単に「BAL」ということがある)を行った(Hashimoto N et al., Am J Respir Cell Mol Biol 2004; 30: 808-15)。組織学的評価とヒドロキシプロリン測定を行うため、BLM14日目にも肺組織を回収した。
【0050】
1−7:イン・ビボのHSP70のウェスタンブロッティング解析
先の報告に僅かに変更を加えて、ウェスタンブロッティングを行った(Hashimoto N et al., Am J Respir Cell Mol Biol 2004; 30: 808-15、Hu B et al., J Immunol 2004; 173: 4661-68)。簡潔に述べると、ウェスタンブロッティング用に、屠殺後に切除した組織を、その6当量の氷上冷却した組織溶解バッファー(50mM Tris塩基(pH6.8)、2%ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、150mM NaCl、5mMエチレンジアミン四酢酸(EDTA)、1mMフェニルメチルスルホニルフルオライド(PMSF)およびコンプリート,EDTA−フリー(Roche Applied Science社、ドイツ国ペンツベルグ)から成る)と共にホモジェナイズした。ホモジェナイズしたサンプルを12,000×gで、4℃にて15分間かけて2回遠心し、そのアリコートは、ウシ血清アルブミンをスタンダードとして用いたBradfordアッセイにより総タンパク濃度の分析に用いた。得られた上清に10%のグリセロール、0.005%のブロモフェノールブルーおよび5%のβ‐メルカプトエタノールを添加して、使用時まで冷凍した。肺組織から採取した各サンプルのタンパク質濃度を補正したのち、SDS−ポリアクリルアミド電気泳動を行った。1レーン当たり40μgの濃度のタンパク質抽出物を95℃で4分間かけて変性させ、10%のSDS‐PAGEゲルで分離した。電気泳動は、20mAで行い、次いで、タンパク質をポリフッ化ビニリデン(PVDF)膜(Millipore社、米国マサチューセッツ州ビレリカ)にトランスファーした。トランスファーしたメンブランを、5%のスキムミルクPBS溶液(0.01M PBS、pH7.2)で、室温にて1時間ブロッキングし、次いで、このブロッキング溶液で希釈したウサギ由来抗HSP70ポリクローナル抗体(クローンC92F3A−5、StressGen Biotechnologies社、カナダ国ブリティッシュコロンビア州ビクトリア)(1:1000)および抗β-アクチン抗体(Sigma-Aldrich社、米国ミズーリ州セントルイス)を用いてプローブした。その後、膜をTBST溶液(0.02M Tris塩基(pH7.5)、0.5M塩化ナトリウムおよび0.1% Tween 20)で10分間かけて3回すすぎ、抗HSP70抗体に対するHRP結合抗ウサギIgGの2次抗体に室温で1時間曝した。Super Signal(登録商標)(Pierce社、米国イリノイ州ロックフォード)を用いて結合した抗体を検出した。CCDデジタルスキャンカメラ(Cool Saver、ライズ株式会社およびアトー株式会社、日本国)でブロットを写真撮影した。画像ソフトウェア(CS Analyzer、ライズ株式会社およびアトー株式会社、日本国)を用いてイムノブロット上のタンパク質量を定量し、発現レベルは、β-アクチンのレベルとの比率で表した。
【0051】
1−8:Ashcroftスコアによる組織学的評価
BLM14日目において、処置マウスから肺組織を回収し、10%の緩衝ホルマリン中で24時間かけて固定し、次いでパラフィン包埋した(Noguchi M et al., Cancer Gene Ther 2001; 8: 421-9、Jijiwa M et al., Mol Cell Biol 2004; 24: 8026-36)。切片(4μm)をヘマトキシリン−エオジンで染色した。定量的な組織学的解析を行うため、線維性の数字目盛を用いた(Ashcroftスコア)(Aono Y et al., Am J Respir Crit Care Med 2005; 171: 1279-85)。各動物から、ヘマトキシリン‐エオジンで染色した完全な肺の切片を無作為に5つ選択した。各動物について、30を超える×100倍率の連続顕微鏡視野に、盲検方式で既定の重症度の尺度を用いて0(正常)ないし6(最も重症)のスコアを割り振った。肺の顕微鏡用切片中の細胞浸潤と肺炎/肺線維症の程度は、各動物において、観察した視野の平均スコアとして評価した。
【0052】
1−9:ヒドロキシプロリン解析
過剰量のコラーゲン沈着が、最も典型的な所見の一つとして考えられるBLM誘導性線維症の評価を行うため、ヒドロキシプロリン含有量を測定した(Liu T et al., J Immunol 2004; 173: 3425-31)。抽出した肺組織を凍結乾燥させた後に、その乾燥重量を測定した。次いで、この組織を、6N HCl(1ml中に10mgの乾燥重量)中で、125℃で18時間かけて加水分解した。加水分解ろ液をヒドロキシプロリンサンプルとして用いて、Prockop法に従ってEhrlich試薬を用いた染色を行い、島津製作所製UV−1200スペクトロフォトメーターを用いて570nmの吸光度を測定することで、加水分解産物中に存在するヒドロキシプロリンの量(μg/ml)を測定した。
【0053】
1−10:イン・ビボでのHSP70発現の免疫組織化学的評価
処置を行った肺内でのHSP70の発現を評価するため、冷却した4%パラホルムアルデヒド溶液中で6時間かけて肺組織を固定し、スクロースを用いて24時間以上かけて徐々に脱水し、OCTコンパウンド(Tissue-Tek; Miles社、米国インディアナ州エルクハート)中に固定して、凍結した。凍結肺組織切片(厚さ4μm)を調製した。組織切片を、ブロッキング用血清PBS溶液中で1時間インキュベートして、その後、1次抗体であるウサギ由来抗HSP70抗体(1:1000)と4℃で一晩インキュベートした。抗原抗体複合体は、アビジン‐ビオチン‐ペロキシダーゼ技術(Vectastain ABC Kit; Vector Laboratories社)により検出した(Ishiguro N et al., J Biomed Mater Res 1997; 35: 399-406)。ジアミノベンジジン(DAB)を用いて、標的組織内に茶色を生じさせ、切片を永久的にマウントした。
【0054】
1−11:イン・ビボでの組織アポトーシスのTUNEL染色
アポトーシスを含む、早期段階における肺の損傷度を評価するため、BLM1日目および3日目に回収した肺の連続切片に対して、In Situ Cell Death Detection Kit, POD(Roche Mannheim社、ドイツ国)を用いてTUNEL染色を行った。正中矢状断面の全領域中に存在するTUNEL陽性細胞の数を、×400倍率の顕微鏡下でカウントし、全細胞に対する比率として表した。
【0055】
1−12:気管支肺胞洗浄(BAL)
BAL液を回収するため、気管にカニューレを挿入し、肺を6回PBS洗浄し(1回につき0.5ml)、〜2.5mlの注入液を常時回収した。標準的な血球計を用いて全細胞数をカウントした。遠心後、サイトスピンを用いて細胞ペレットを調製した。Cytospin 2 (Shandon社、英国チェシャー州)を用いた1,000rpmで5分間の細胞遠心によりBAL細胞のスメアを調製し、次いで、May-Gruenwald-Giemsa溶液で染色した。細胞分化については、少なくとも200個の細胞をカウントし、標準的な血液細胞学的評価基準を用いてこれらの細胞を、肺胞マクロファージ/単球(Macro/mono)、好中球(Neutro)、好酸球(Eo)、またはリンパ球(Lymph)に分類することにより検査した。
【0056】
1−13:ケモカインアッセイ
BAL液中のマクロファージ炎症タンパク質(以下、「MIP」という場合がある)−2濃度をELISAによって測定した(Nakanishi T et al., Cancer Immunol Immunother 2006; 55: 1320-9)。全ての工程は、製造元の使用説明書に従って行った。
【0057】
1−14:統計解析
結果は、任意の2集団間の比較にはMann-Whitney検定を用いて解析し、多重比較には、ノンパラメトリックな等価の分散分析により解析した。P<0.05は統計的有意性を示すものとして考慮した。
【0058】
2:結果
2−1:イン・ビボでの肺内のGGA誘導性HSP70発現
最初に、GGAによるHSP70の誘導を確認し、GGAにより最大のHSP70発現を誘導するための、イン・ビボでのGAA投与の適切な投与量と時間を評価した。図1AおよびBに示すように、肺内のHSP70タンパク質レベルは、コントロールビヒクル投与グループでは、0時間から48時間にかけてほとんど同じであり、GGA投与から24時間後のレベルは、0時間およびコントロールビヒクル投与グループのレベルの2倍高いものであった。また、最初の投与から24時間後にGGAの反復処置を行った場合には、最初の投与から48時間後に24時間目のレベルと同等のHSP70タンパク質レベルが維持でき(図1AおよびBのラインcおよびe)、一方で、GGAの一回投与処置から48時間後の肺内でのHSP70タンパク質レベルは、24時間目のレベルから25%低下していたことも示された(図1AおよびBのラインcおよびd)。
【0059】
更にまた、免疫組織化学的染色により、処置した肺内のGGA誘導性HSP70発現の分布の評価も行った。免疫組織化学的知見からは、GGA処置したマウス由来の肺内の安定したHSP70発現は、ビヒクル処置したマウスとの比較において、肺胞中隔に局在しているように見えることが示された(図1C)。
【0060】
最後に、BLM投与の7日前から、サンプル回収の表示時刻まで、1日に1回600mg/kgのGGAを投与してマウスに事前治療を施すスケジュールを設計した。
【0061】
2−2:BLM誘導性肺損傷および肺線維症に対するGGAのイン・ビボでの保護的作用
2−2−1:体重のモニター
本研究期間中に、GGAで処置したマウス(GGA処置マウス)は、ビヒクルで処置したマウス(ビヒクル処置マウス)との比較において、体重増加および自発運動に変化を示さなかった(図2)。
【0062】
BLM誘導性肺損傷を患うGGA処置マウス(GGA処置BLMマウス)は、実質的な体重減少を示さなかったが(BLM2日目において1.5%の体重減少)、BLM誘導性肺損傷を患うビヒクル処置マウス(ビヒクル処置BLMマウス)は、有意な体重減少を示した(BLM7日目において8.3%の体重減少)(図2)。
【0063】
2−2−2:肺の組織学的評価
ビヒクル処置食塩水マウスの肺との比較において(図3Aの挿絵)、ヘマトキシリン−エオジン染色したビヒクル処置BLMマウスの肺から、肺胞中隔の顕著で無秩序な肥大を伴う、上皮下領域および胸膜下領域への重度の炎症細胞浸潤が起こり、正常な構造が喪失していたことが明らかになった(図3A)。しかしながら、GAA処置BLMマウスでは、間質浸潤および気腔の細胞充実度の有意な低下が示され、その組織学的変化は、ビヒクル処置BLMマウスとの比較において、より程度の小さいものであった(図3B)。肺損傷の定量的な組織学的スコアリングでは、ビヒクル処置BLMマウスのスコア(3.3±0.5)が、GGA処置BLMマウスのスコア(1.7±0.2)より有意に高いことが示された(図3C)。肺のコラーゲン含有量が、線維症と関係することから、ヒドロキシプロリンの測定も行った。ヒドロキシプロリン量は、ビヒクル処置BLMマウスとの比較において、GGA処置BLMマウスで有意に少なかった(それぞれ、ビヒクル処置BLMマウス;72.5±18.8μg/ml、GGA処置BLMマウス;45.3±3.5μg/ml)(図3D)。
【0064】
2−2−3:BAL液中の細胞特性とMIP−2レベル
BAL液中の細胞プロファイルの解析結果が、組織学的知見を支持するものであったことが先に報告されている(Aono Y et al., Am J Respir Crit Care Med 2005; 171: 1279-85)。BLM誘導性肺損傷部位への炎症細胞の蓄積に対するGGAの効果を評価するため、BLM7日目においてBALを行い、BAL液を回収した。総細胞数は、ビヒクル処置BLMマウス内では有意に上昇していたが、GGA処置BLMマウスでは、上昇が明確に抑制されていた(それぞれ、ビヒクル処置BLMマウス;110.3±15.7×10/ml、GGA処置BLMマウス;39.3±11.1×10/ml)(図4−A)。GGA処置により、BAL液中の好中球、肺マクロファージ/単球(macro/mono)の数も有意に抑制されていた(好中球;それぞれ、ビヒクル処置BLMマウスで40.5±5.4×10/ml、GGA処置BLMマウスで5.2±3.3×10/ml)(図4A)。
【0065】
GGA処置BLMマウスからのBAL液中のMIP−2レベルは、ビヒクル処置BLMマウスとの比較において、有意に抑制されていた(それぞれ、ビヒクル処置BLMマウス;13.0±2.8pg/ml、GGA処置BLMマウス;7.8±1.6/ml)(図4B)。
【0066】
2−3:BLM誘導性肺損傷におけるGGAの細胞保護作用のTUNELアッセイによる評価
組織学的に炎症細胞の蓄積は、3日目までに限定されており、肺の正常な構造が維持されていたが(図5CおよびD)、14日目には、ビヒクル処置BLMマウスにおいて多数の炎症細胞が蓄積し、正常な構造は大きく損なわれていた(図3A)。図5に示すように、上皮細胞は、主にTUNEL陽性であったが、炎症細胞および間葉細胞と考えられる気管支下の細胞も、部分的にTUNEL陽性であった。BLM1日目および3日目のビヒクル処置BLMマウス由来の肺内のTUNEL陽性細胞比率(%)は、BLM1日目および3日目のGGA処置BLMマウスと比べて有意に高いことが示された(それぞれ、BLM1日目;ビヒクル処置BLMマウスで5.0±1.9%並びにGGA処置BLMマウスで2.6±1.5%、BLM3日目;ビヒクル処置BLMマウスで12.3±3.1%並びにGGA処置BLMマウスで4.7±1.8%)(図5CおよびD)。
【0067】
2−4:BLM誘導性肺損傷モデル内でのイン・ビボでのGGA誘導性HSP70タンパク質発現
ウェスタンブロッティング解析により、BLMマウスの肺内でのHSP70タンパク質発現のレベルを評価した。図6には、BLM3日目のGGA処置BLMマウスの肺内でのHSP70タンパク質発現のレベルが、同時点のビヒクル処置BLMマウスのレベルよりも有意に高く(それぞれ、ビヒクル処置BLMマウス;1.1±0.1、GGA処置BLMマウス;1.9±0.2)、そしてビヒクル処置食塩水マウス内での発現レベルは、ビヒクル処置BLMマウス内での発現レベルと同程度であったことが示されている。
【0068】
以上のように、組織学的スコア並びに炎症細胞のカウントおよびケモカインMIP−2の定量を含むBAL液分析によれば、上記のBLM誘導性肺損傷/肺線維症モデル内での炎症過程は、ビヒクル処置BLMマウスとの比較において、GGA処置BLMマウス内で阻害されおり、ビヒクル処置食塩水マウスとGGA処置BLMマウス間でデータに差は認められなかった。GGAは、炎症過程を部分的にしか抑制できないものの、これに続く肺内の線維症は、肺組織内のヒドロキシプロリン含有量によれば、完全に阻害されていた。肺内の線維症は、肺機能障害を引き起こす不可逆性の損傷となる場合もあるので、薬物誘導性肺線維症に対するGGAの保護作用が有用となると考えられる。また、重要なことに、GGAを用いた処置では何ら有害な作用が生じておらず、処置したマウスは、実験期間中に、正常な体重増加と活動性を示していた(図2)。GGA処置により、実験過程を通じて、BLM処置マウスの体重減少が有意に緩和され、GGA処置が、BLM投与によって生じた全身状態への損傷に対する保護的作用を発揮可能なことが示された。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】肺内でのGGA誘導性HSP70発現を示した図である。図1Aは、類似するが独立した2つの実験から得られた、HSP70およびβ−アクチンについての代表的なイムノブロッティングデータを示す。各時点において、5匹のマウスから肺組織を回収した。図1Bは、β−アクチンシグナルに対して正規化を行った後の定量的結果を示す。表示するデータは平均値±標準誤差で表されている。a;0時間目、b;8時間目、c;24時間目、d;48時間目、e;48時間目(最初の投与から24時間後にGGAの反復投与を行った場合)。アスタリスクは、0時間目での、ビヒクルで処置したマウス由来の肺内のHSP70レベルの定量値との比較における、統計的有意差(p<0.05)を示していた。図1Cは、GGA投与の24時間後おける、GGA処置マウス内でのHSP70の代表的な免疫組織化学的染色の結果を示す。矢印は、HPS70陽性細胞を示す。画像は×400の倍率で撮影した。
【図2】体重(BW)変化を観察した結果を示した図である。BLM0日目の処置マウスの体重からの体重変化を観察した(GGA処置マウス;n=5、GGA処置BLMマウス;n=10、ビヒクル処置BLMマウス;n=10)。表示するデータは、2つの独立した実験から得られた平均値±標準誤差で表されている。各グループ間での体重変化の比較は、ノンパラメトリックな等価の分散分析により解析した。アスタリスクは、比較における、統計的有意差(p<0.05)を示していた。
【図3】組織学的評価とヒドロキシプロリン含有量の測定結果を示した図である。ビヒクル処置食塩水マウス(図3Aの挿絵)、ビヒクル処置BLMマウス(図3A)、およびGGA処置BLMマウス(図3B)由来の代表的なヘマトキシリン−エオジン染色肺切片をBLM14日目に評価した。全ての画像は、×400の倍率で撮影した。図3Cは、肺損傷の組織学的重症度の定量的スコアリングの評価結果を示す。表示するデータは、2つの独立した実験から得られた平均値±標準誤差で表されている。各グループにつき、5ないし10匹のマウスを用意した。図3Dは、ヒドロキシプロリンアッセイの結果を示す。ヒドロキシプロリンアッセイは、BLM14日目の処置マウス由来の肺に対して行った。各グループは、少なくとも4匹のマウスを有していた。表示するデータは、2つの独立した実験から得られた平均値±標準誤差で表されている。アスタリスクは、比較における、統計的有意差(p<0.05)を示していた。
【図4】BAL液中の細胞プロファイルおよびMIP−2レベルを示した図である。図4Aは、BLM7日目の処置マウス由来のBAL液の総細胞数と細胞分化の評価結果を示した図である。各実験では、各グループに少なくとも4匹のマウスを用意した。表示するデータは、2つの独立した実験から得られた平均値±標準誤差で表されている。TCC:総細胞数、Macro/mono:肺マクロファージ/単球、Neutro:好中球、Eo:好酸球、Lymph:リンパ球。図4Bは、BLM7日目の処置マウス由来のBAL液中のMIP−2レベルを、ELISAアッセイにより評価した結果を示した図である。各実験では、各グループに少なくとも4匹のマウスを用意した。表示するデータは、2つの独立した実験から得られた平均値±標準誤差で表されている。アスタリスクは、比較における、統計的有意差(p<0.05)を示していた。
【図5】肺損傷に対するGGAの細胞保護作用のTUNELアッセイによる評価結果を示した図である。BLM1日目および3日目の処置マウス由来の肺に対してイン・ビボでのTUNELアッセイを行った。BLM3日目のビヒクル処置BLMマウス(図5A)およびGGA処置BLMマウス(図5B)由来の代表的な肺切片を示した。TUNEL陽性細胞(AおよびBの矢印)は、正中矢状切片の全領域内でカウントし(図5Cが1日目、図5Dが3日目)、全細胞数に対する比率(%)として表した。各実験では、各グループに少なくとも5匹のマウスを用意した。表示するデータは、2つの独立した実験から得られた平均値±標準誤差で表されている。アスタリスクは、比較における、統計的有意差(p<0.05)を示していた。
【図6】BLM誘導性肺損傷モデル内でのイン・ビボでのHSP70タンパク質発現を示した図である。図6Aは、類似するが独立した2つの実験から得られた、HSP70およびβ−アクチンについての代表的なイムノブロッティングデータを示す。a:ビヒクル処置食塩水マウス、b:ビヒクル処置BLMマウス、c:GGA処置BLMマウス。図6Bは、β−アクチンシグナルに対して正規化を行った後の定量的結果を示す。2つの独立した実験から、各グループについて少なくとも5匹のマウスを用意した。表示するデータは、2つの独立した実験から得られた平均値±標準誤差で表されている。アスタリスクは、比較における、統計的有意差(p<0.05)を示していた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I):
【化1】

で表される化合物、その薬学上許容される塩、またはそれらの溶媒和物を有効成分として含んでなる、肺炎の治療および/または予防用医薬組成物。
【請求項2】
肺炎が、間質性肺炎である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
間質性肺炎が、薬物誘導性間質性肺炎または特発性間質性肺炎である、請求項2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
薬物誘導性間質性肺炎が、慢性関節リウマチ治療剤の投与に起因する間質性肺炎である、請求項3に記載の医薬組成物。
【請求項5】
慢性関節リウマチ治療剤が、メトトレキサート、金チオリンゴ酸ナトリウム、D−ペニシラミン、ロベンザリット2ナトリウム塩、オーラノフィン、ブシラミン、ミゾリビン、サラゾスファピリジン、アクタリット、レフルノミド、インフリキシマブ、エタネルセプト、タクロリムス、アダリムマブ、およびトシリズマブからなる群から選択される、請求項4に記載の医薬組成物。
【請求項6】
経口投与の形態である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の医薬組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−70506(P2010−70506A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−241066(P2008−241066)
【出願日】平成20年9月19日(2008.9.19)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 1.刊行物名 Modern Rheumatology Volume 18,Supplement 2008 2.発行者名 Japan College of Rheumatology 3.発行年月日 2008年3月21日 1.刊行物名 第52回日本リウマチ学会総会・学術集会 第17回国際リウマチシンポジウム プログラム・抄録集 2.発行者名 日本リウマチ学会 3.発行年月日 2008年3月21日
【出願人】(504139662)国立大学法人名古屋大学 (996)
【出願人】(506137147)エーザイ・アール・アンド・ディー・マネジメント株式会社 (215)
【Fターム(参考)】