説明

肺疾患治療剤

本発明は、アディポネクチンを含有する肺胞拡張抑制剤、又はアディポネクチンを含有する肺胞壁破壊抑制剤を提供する。本発明の肺疾患治療薬は、気流閉塞等の肺機能の低下改善作用に優れ、肺機能が非可逆的に低下した肺疾患に対して極めて高い治療効果を発揮し、吐き気、嘔吐、胃酸分泌作用等の副作用の少ない安全性の高い薬剤である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、慢性的な肺胞壁の傷害による肺胞壁の破壊的変化を伴う肺胞の異常な拡張を抑制し、及び/又は肺胞壁の破壊的変化を抑制する肺疾患治療剤に関する。
【背景技術】
【0002】
肺疾患(plumonary disease, PD)としては、ウイルス又は細菌に起因する急性炎症による急性気管支炎、好酸球による気道の炎症反応によって主に発症する気管支喘息、肺胞上皮の炎症に起因する間質性肺炎、癌細胞に起因する肺癌、様々な原因、特に喫煙により肺に慢性炎症が生じ、これにより、肺胞壁の破壊や気管支粘液腺の肥大が起き、その結果息切れを生じたり、咳嗽や喀痰が増加する病気とされている慢性閉塞性肺疾患(COPD: Chronic Obstructive Pulmonary Disease)など、多くの肺疾患が知られている。特に、以前は肺気腫と呼ばれていた疾患と慢性気管支炎と呼ばれていた疾患は、両者が種々の割合で合併することが多く、今日では、この二つの疾患に関する閉塞性肺疾患を合わせてCOPDと称している。
【0003】
このCOPDは、進行性の気道制限(気道閉塞)を特徴とする疾患であるともいわれている(非特許文献1)。
【0004】
気道分泌過多や気道感染が気流制限には関与しない慢性気管支炎とは異なり、非可逆的な気流制限は末梢気道病変に起因すると考えられている。このような肺疾患としては、前記の肺気腫、慢性気管支炎を含む慢性閉塞性肺疾患の他、膿疱性線維症、気管支拡張症、肺結核、塵肺症、等を例示できる。
【0005】
従来、非可逆的な気流制限を伴う慢性閉塞性疾患などの肺疾患に対する薬物治療として、β2−刺激薬、抗コリン薬等の気管支拡張作用を有する薬剤が、症状の一時的な予防又は抑制のために用いられている。しかしながら、これらの気管支拡張作用を有する薬剤は、臨床的に最も重要な指標である肺機能の低下を長期に亘って改善する効果を有していない。
【0006】
多くの大規模臨床試験で、強力なサイトカイン産生抑制作用を有するステロイドの吸入剤としての治療効果が検討されたが、ステロイドは肺機能の低下を長期間改善することはできないことが、幾つかの文献で報告されている(非特許文献2〜4参照)。
【0007】
活性酸素産生抑制作用を有する薬剤の肺疾患への治療効果に関しては、未だ信頼出来る臨床試験で検討されていない。
【0008】
N−アセチルシステインは活性酸素産生抑制剤と同様の作用機序を有すると考えられている抗酸化剤であるが、このN−アセチルシステインは、その臨床試験によれば、慢性閉塞性肺疾患の急性増悪の頻度を減少させ得る(非特許文献5)。しかしながら、肺機能の低下を長期に亘って改善する作用をN−アセチルシステインが有しているという報告は無い。
【0009】
更に、フォスホジエステラーゼIV阻害作用を有する薬剤をPDの治療に用いることが検討されている。しかしながら、このような薬剤は、吐き気、嘔吐、胃酸分泌等の副作用を有していることが報告されている(非特許文献6)。
【0010】
このように、慢性の肺疾患の治療薬として十分に満足のいく作用を示し、非可逆的な肺機能低下を改善する(すなわち、慢性的な肺胞壁の傷害による肺胞壁の破壊的変化を伴う肺胞の異常な拡張を抑制し、及び/又は肺胞壁の破壊的変化の進行を抑制する)薬剤は、未だ開発されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】国際公開第1996/39429号パンフレット
【特許文献2】国際公開第1999/21577号パンフレット
【特許文献3】特許第3018186号明細書
【特許文献4】特許第4147220号明細書
【特許文献5】特開2004-16074号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Pauwell、R.A.et.al、Am. J. Respir. Crit. Care Med., 2001 (163), 1256-1276
【非特許文献2】Pauwels RA,Lodahl CG,Laitinen LA,Schouten JP,Postma DS,Pride NB,et al.、N. Engl. J. Med., l999 (340), 1948-1953
【非特許文献3】Vestbo J、 Sorensen T, Lange P, Brix A, Torre P, Viskum K, Lancet, 1999 (353) 1819-1823
【非特許文献4】Burge PS, Calverley PM, Jones PW, Spencer S, Anderson JA、 Maslen TK, BMJ, 2000 (320), 1297-1303
【非特許文献5】C.Stey,J.Steurer,S.Bachmann,T.C.Medici,M.R.Tramer、 Eur. Respir. J., 2000 (16), 253-262
【非特許文献6】Peter J.Barnes、 N. Engl. J. Med., 2000 (343) No.4, 269-280
【非特許文献7】Maeda, K. et al., Biocjem.Biophys. Res. Commun.,1996 (221), 286-289
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、非可逆的に肺機能が低下した肺疾患患者の治療に有用な、安全性の高い肺疾患治療剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、非可逆的な肺機能低下を伴う慢性閉塞性肺疾患の病態像に臨床的に非常に近い動物モデルを作成し、これを用いて鋭意研究を重ねて来た。その結果、脂肪細胞から特異的に分泌されるコラーゲン様分泌タンパク質として知られるアディポネクチンが、エラスターゼ処置によって生ずる肺気腫病変及び肺機能障害を抑制することを見出して、非可逆的な肺機能低下を伴う肺疾患に対して極めて高い治療効果を示し、且つ吐き気、嘔吐、胃酸分泌作用等の副作用が少なく安全性が高い新規な肺疾患治療剤に到達した。本発明は、このような知見に基づいて完成されたものである。
【0015】
本発明は、アディポネクチンを含有する肺胞拡張抑制剤、及びアディポネクチンを含有する肺胞壁破壊抑制剤を提供する。
【0016】
項1.アディポネクチンを含有する、肺胞拡張抑制剤。
【0017】
項2.肺胞壁の破壊的変化を伴う肺胞拡張の抑制に有効な量のアディポネクチンを含有する、項1に記載の肺胞拡張抑制剤。
【0018】
項3.アディポネクチンを0.01〜70重量%含有する、項1又は2に記載の肺胞拡張抑制剤。
【0019】
項4.肺気腫、慢性気管支炎、膿疱性線維症、気管支拡張症、肺結核、塵肺症又は慢性閉塞性肺疾患の治療に使用される、項1〜3のいずれか1項に記載の肺胞拡張抑制剤。
【0020】
項5.アディポネクチンを含有する、肺胞壁破壊抑制剤。
【0021】
項6.肺胞壁の破壊的変化の抑制に有効な量のアディポネクチンを含有する、肺胞壁破壊抑制剤。
【0022】
項7.アディポネクチンを0.01〜70重量%含有する、項5又は6に記載の肺胞壁破壊抑制剤。
【0023】
項8.肺気腫、慢性気管支炎、膿疱性線維症、気管支拡張症、肺結核、塵肺症又は慢性閉塞性肺疾患の治療に使用される、請求項5〜7のいずれか1項に記載の肺胞壁破壊抑制剤。
【発明の効果】
【0024】
本発明のアディポネクチンを含有する肺胞拡張抑制剤、又はアディポネクチンを含有する肺胞壁破壊抑制剤は、気流閉塞等の肺機能の低下改善作用に優れ、非可逆的な肺機能低下を伴う肺疾患に対して極めて高い治療効果を発揮する。
【0025】
本発明のアディポネクチンを含有する肺胞拡張抑制剤、又はアディポネクチンを含有する肺胞壁破壊抑制剤は、吐き気、嘔吐、胃酸分泌作用等の副作用が少なく安全性が高い薬剤である。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】図1は、アディポネクチンが投与量に応じた肺胞壁の破壊的変化の進行に基づく肺胞拡張の抑制作用を有することを示すグラフである。
【図2】図2は、肺胞壁の破壊的変化の進行と、アディポネクチンの肺胞壁破壊の進行を抑制する作用を示す組織切片図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明の肺胞拡張抑制剤は、肺胞壁の破壊的変化を伴う肺胞拡張の抑制に有効な量のアディポネクチンを含有し、本発明の肺胞壁破壊抑制剤は、肺胞壁の破壊的変化を伴う肺胞壁破壊の抑制に有効な量のアディポネクチンを含有する。
【0028】
本発明の肺胞拡張抑制剤、又は本発明の肺胞拡張抑制剤の有効成分であるアディポネクチンは、脂肪細胞から分泌されるコラーゲン様のタンパク質である。
【0029】
本発明の肺胞拡張抑制剤又は肺胞壁破壊抑制剤(以下、「肺疾患治療剤」と略称する)の有効成分であるアディポネクチンは、入手容易な公知物質である。本発明では、市販されているアディポネクチン又は後記参考例で示される公知の方法で調製されるアディポネクチンを広く使用することができる。
【0030】
尚、ヒト及びマウスのアディポネクチン遺伝子は、前記特許文献1のヒトAcrop30及びマウスAcrop30として、ヒトアディポネクチンは、apM1として、前記非特許文献7及び特許文献2に開示されている。本発明の肺疾患治療剤に用いられるアディポネクチン・ポリペプチドは、特許文献2にその推定アミノ酸配列が記述されているが、当該特許文献2には、該ポリペプチドの平滑筋細胞増殖抑制作用、及び動脈硬化症予防・改善剤、血管再建術後の再狭窄予防・治療剤、抗炎症剤としての利用可能性の記載があるにすぎない。
【0031】
また、特許文献3には、比較的成熟した分化段階の骨髄単球系前駆細胞に対してマクロファージ又はリンパ球を介さずに、そのクローナルな増殖を抑制するアディポネクチンの単球系細胞増殖抑制剤、抗炎症剤としての有用性が示されている。さらに特許文献4は、アディポネクチンのC末端側球状領域(ヒトアディポネクチンのアミノ酸配列番号の114〜239、マウスアディポネクチンのアミノ酸配列番号の111〜242に相当)がスカベンシャー受容体A発現低下作用を有し、動脈硬化予防治療剤として利用できることを教示している。特許文献5は、同じくアディポネクチンのC末端側球状領域がAMP活性化プロテインキナーゼ活性化剤として利用できることを開示している。
【0032】
市販されているアディポネクチンとしては、バイオ・ベンダー社(Bio Vendor, チェコ: http://www.biovendor.com/products/proteins)から、球状の組換え体アディポネクチン(Adiponectin Globular Human (E.coli))、大腸菌から産生された組換え体アディポネクチン(Adiponectin Human E. coli His)、ヒト胎児腎由来細胞から産生された組換え体アディポネクチン(Adiponectin Human HEK293 Flag)、ヒト胎児腎由来細胞から産生された三量体の組換え体アディポネクチン(Adiponectin Human Trimeric form (HEK))、ヒト胎児腎由来細胞から産生された低分子量及び高分子量のアディポネクチン(Adiponectin LMW and MMW oligomer-rich Human (HEK))、及びヒト胎児腎由来細胞から産生された中分子量及び高分子量のアディポネクチン(Adiponectin MMW and HMW oligomer-rich Human (HEK))等が、市販され、入手可能である。
【0033】
本発明の肺疾患治療剤における有効成分であるポリペプチドの一具体例としては、後述する実施例に示されるPCR産物がコードする、「アディポネクチン」として公知のポリペプチドを挙げることができる。ヒトのアディポネクチンのDNAの配列は全長4517bpであり、オープンリィーディングフレーム(ORF)をコードするDNA配列は、配列番号:2に示すように長さ732bpである。そのORFにコードされるアミノ酸配列は、配列番号:1に示すように244アミノ酸配列からなり、その遺伝子配列は、ジーンバンク(GenBank)アクセッション番号NM_004797として登録されている。更に、マウスのアディポネクチンのDNA配列は、全長1276bpであり、そのORFをコードするDNA配列は、配列番号:4に示すように長さ741bpである。そのORFにコードされるアミノ酸配列は、配列番号:3に示すように247アミノ酸配列からなり、その遺伝子配列は、ジーンバンク(GenBank)アクセッション番号AF304466として登録されている。また、ヒト及びマウスのアディポネクチンは脂肪組織に特異的にその遺伝子の発現が認められている。
【0034】
なお、ヒトアディポネクチンとマウスアディポネクチンのアミノ酸配列の相同性は83.61%であり、ORFのDNA配列の相同性は79.78%である。このようにかなり相同性が高いことから、両者は同じ活性を有すると考えられる。
【0035】
本発明者らは、アディポネクチンが、慢性的な肺胞壁の傷害による肺胞壁の破壊的変化を伴う肺胞の異常な拡張を抑制すること、又は肺胞壁の破壊的変化を抑制することに基づく肺機能改善作用を有することを見出し、アディポネクチンを医薬として好適に使用できることを結論づけた。
【0036】
上述したように、アディポネクチンは慢性的な肺胞壁の傷害による肺胞壁の破壊的変化を伴う肺胞の異常な拡張を抑制できるので、肺気腫、慢性気管支炎、膿疱性線維症、気管支拡張症、肺結核、塵肺症、COPD等の肺疾患の治療剤として用いることができる。
【0037】
特許文献1:国際公開第1996/39429号パンフレット
特許文献2:国際公開第1999/21577号パンフレット
非特許文献7: Maeda, K. et al., B.B.R.C., (1996) Vol. 221 No.2, pp286-289
以下、本発明の肺疾患治療剤において有効成分として用いられるアディポネクチンの製造、及びアディポネクチンを有効成分とする本発明の肺疾患治療剤の調製等について、説明する。
【0038】
本明細書におけるアミノ酸、ペプチド、塩基配列、核酸等の略号による表示は、IUPAC-IUBの規定(IUPAC-IUB Communication on Biological Nomenclature, Eur.J.Biochem., 138, 9(1984))、「塩基配列又はアミノ酸配列を含む明細書等の作成のためのガイドライン」(1998年7月、特許庁編)及び当該分野における慣用記号に従うものとする。
【0039】
アディポネクチンは、例えば通常の遺伝子工学的手法〔例えば、Science, 224, 1431 (1984); Biochem. Biophys. Res. Comm., 130, 692 (1985); Proc. Natl. Acad. Sci., USA., 80, 5990(1983)等参照〕により組換えタンパク質として製造することができる。前記においてアディポネクチン(apM1)遺伝子としては、本発明者らが先に確立したものを使用できる(Biochem. Biophys. Res. Commun., 221, 286-289(1996))。
【0040】
また、アディポネクチンは、前記遺伝子によりコードされるアミノ酸配列情報に従って、一般的な化学合成手法により製造することもできる。
【0041】
遺伝子工学的手法を採用したアディポネクチンの製造は、後記参考例1に記載の方法により製造できる。より詳細には、所望タンパク質をコードする遺伝子が宿主細胞中で発現できる組換えDNAを作成し、これを宿主細胞に導入して形質転換し、該形質転換体を培養することにより行われる。
【0042】
本明細書において、ポリヌクレオチド(DNA分子)とは、2本鎖DNAのみならず、それを構成するセンス鎖及びアンチセンス鎖を包含する1本鎖DNAもまた包含する趣旨であり、またその長さに制限されるものではない。従って、アディポネクチンをコードするポリヌクレオチドには、特に言及しない限り、ゲノムDNAを含む2本鎖DNA、cDNAを含む1本鎖DNA(センス鎖)、該センス鎖と相補的な配列を有する1本鎖DNA(アンチセンス鎖)、それらの合成DNA及びそれらの断片のいずれもが包含される。
【0043】
本明細書中、ポリヌクレオチド(DNA分子)は、機能領域に限られず、発現抑制領域、コード領域、リーダー配列、エキソン及びイントロンのいずれか少なくとも1つを含み得る。
【0044】
ポリヌクレオチドには、RNA及びDNAが包含される。特定アミノ酸配列を含むポリペプチド及び特定DNA配列を含むポリヌクレオチドには、それらの断片、ホモログ、誘導体及び変異体が包含される。
【0045】
ポリヌクレオチドの変異体(変異体DNA)には、天然に存在するアレル変異体;天然に存在しない変異体;欠失、置換、付加及び挿入を有する変異体などが包含される。但し、これらの変異体は、変異前のポリヌクレオチドがコードするポリペプチドの機能と実質的に同じ機能を有するポリペプチドをコードするものとする。
【0046】
ポリペプチドの変異(アミノ酸配列の改変)は、天然において生じるもの、例えば突然変異や翻訳後の修飾などにより生じるもの、である必要はなく、天然由来のタンパク質(例えばヒト・アディポネクチン)を利用して人為的に生じさせたものであってもよい。前記ポリペプチドの変異体は、アレル体、ホモログ、天然の変異体などであって、変異前のポリペプチドと少なくとも80%、好ましくは95%、より好ましくは99%の相同性を有するものが含まれる。
【0047】
ポリペプチド又はポリヌクレオチドの相同性は、FASTAプログラムを使用した測定(Clustal, V., Methods Mol. Biol., 25, 307-318(1994))によって解析することができる。相同性解析の最も好ましく且つ簡便な方法としては、コンピューターにより読取り可能な媒体(例えば、フレキシブルディスク、CD-ROM、ハードディスクドライブ、外部ディスクドライブ、DVDなど)に配列を記憶させ、ついでその記憶された配列を使用して、よく知られた検索手段に従い既知の配列データベースを検索する方法を例示することができる。既知の配列データベースの具体例には、以下のものが含まれる。
・DNA Database of Japan(DDBJ)(http://www.ddbj.nig.ac.jp/);
・Genebank(http://www.ncbi.nlm. nih.gov/web/Genebank/Index.htlm); 及び
・the European Molecular Biology Laboratory Nucleic Acid Sequence Database (EMBL) (http://www.ebi.ac.uk/ebi docs/embl db.html)。
【0048】
相同性解析には多数の検索アルゴリズムが当業者に利用可能である。その一例としては、BLASTプログラムと称されるプログラムが挙げられる。このプログラムには5つのBLAST手段がある。そのうちの3つ(BLASTN、BLASTX及びTBLASTX)は、ヌクレオチド配列の照会用に設計されたものである。残りの2つは、タンパク質配列の照会用に設計されたものである(Coulson, Trends in Biotechnology, 12:76-80(1994); Birren, et al., Genome Analysis, 1:543-559(1997))。
【0049】
更に追加的なプログラム、例えば配列アライメントプログラム、より遠縁の配列を同定するためのプログラムなどが、同定された配列の分析のために当技術分野において利用可能である。
【0050】
変異体DNAは、これによりコードされるアミノ酸についてサイレント(変異した核酸配列によってコードされるアミノ酸残基に変化がない)であるか又は保存的である。保存的なアミノ酸置換の例を以下に示す。
元のアミノ酸残基 保存的な置換アミノ酸残基
Ala Ser
Arg Lys
Asn Gln又はHis
Asp Glu
Cys Ser
Gln Asn
Glu Asp
Gly Pro
His Asn又はGln
Ile Leu又はVal
Leu Ile又はVal
Lys Arg, Asn又はGlu
Met Leu又はIle
Phe Met, Leu又はTyr
Ser Thr
Thr Ser
Trp Tyr
Tyr Trp 又はPhe
Val Ile 又はLeu。
【0051】
一般にCys残基をコードする1又はそれ以上のコドンは、特定ポリペプチドのジスルフィド結合に影響を与える。
【0052】
タンパク質の特性に変化を与えると一般的に考えられるアミノ酸残基の置換には、以下のものが含まれる。
a) 疎水性残基の親水性残基への置換(例えばLeu、Ile、Phe、Val又はAlaのSer又はThr)への置換、
b) Cys及びPro以外のアミノ酸残基のCys 又はProへの置換、
c) 電気的陽性側鎖を有している残基(例えばLys、Arg、His)の、電気的陰性残基(例えばGlu又はAsp)への置換、
d) 非常に大きな側鎖を有しているアミノ酸残基(例えばPhe)の側鎖を有しないアミノ酸残基(例えばGly)への置換。
【0053】
アディポネクチンは、配列番号:1もしくは3のアミノ酸配列を含むか、又は配列番号:1もしくは3のアミノ酸配列において1もしくは複数個のアミノ酸が欠失、挿入、置換もしくは付加されたアミノ酸配列を含み、且つ肺胞拡張抑制作用及び/又は肺胞壁破壊抑制作用を有するものである。
【0054】
アディポネクチンは、遺伝子組換え技術によって後記実施例で示される大腸菌を用いたタンパク質発現系又はバキュロウイルス(AcNPV)を用いたタンパク質発現系で発現されたポリペプチド、或いは化学合成して得られるポリペプチドであってもよい。
【0055】
アディポネクチンのアミノ酸配列の一具体例としては、配列番号:1又は3のものを例示できる。アディポネクチンのアミノ酸配列は、この配列番号:1又は3のものに限定されず、これらと一定の相同性を有するもの(相同物)であってもよい。該相同物としては、特に配列番号:1又は3のアミノ酸配列において1又は複数個のアミノ酸が欠失、挿入、置換又は付加されたアミノ酸配列からなり、且つ肺胞拡張抑制作用及び/又は肺胞壁破壊抑制作用、並びに肺機能改善作用(慢性的な肺胞壁の傷害による肺胞壁の破壊的変化を伴う肺胞の異常な拡張する及び/又は肺胞壁の破壊的変化を抑制する作用)を有するポリペプチドを挙げることができる。
【0056】
アディポネクチンの有する肺機能改善作用として具体的には、ヒト等の哺乳動物の気道内(特に気管支肺胞)における、肺の呼吸容量の低下又は呼吸抵抗の上昇を、改善又は減少させる作用を挙げることができる。
【0057】
宿主細胞としては、真核生物及び原核生物のいずれも用いることができる。該真核生物の細胞には、脊椎動物の細胞、及び真核微生物の細胞が包含される。脊椎動物細胞としては、例えばサルの細胞であるCOS細胞(Cell, 23, 175(1981))、チャイニーズ・ハムスター卵巣細胞及びそのジヒドロ葉酸レダクターゼ欠損株(Proc.Natl.Acad.Sci., USA., 77, 4216 (1980))等がよく用いられるが、これらに限定されるものではない。
【0058】
脊椎動物の発現ベクターとしては、発現しようとする遺伝子の上流に位置するプロモーター、RNAのスプライス部位、ポリアデニル化部位及び転写終了配列等を保有するものを通常使用できる。これは更に必要により複製起点を有していてもよい。このような発現ベクターの例としては、例えばSV40の初期プロモーターを保有するpSV2dhfr(Mol. Cell. Biol., 1, 854(1981))等を例示できる。
【0059】
真核微生物としては、酵母が一般によく用いられ、中でもサッカロミセス属酵母が有利に利用できる。酵母等の真核微生物の発現ベクターとしては、例えば酸性ホスフアターゼ遺伝子に対するプロモーターを有するpAM82(Proc. Natl. Acad. Sci., USA., 80, 1(1983))等を利用できる。
【0060】
原核生物の宿主としては、大腸菌(エッシェリヒア・コリ)(Escherichia coli)及び枯草菌(バチルス・ズブチリス)(Bacillus subtilis)が一般によく用いられる。これらを宿主とする場合、例えば宿主菌中で複製可能なプラスミドベクターを用い、このベクター中に所望遺伝子が発現できるように該遺伝子の上流にプロモーター及びSD(シヤイン・アンド・ダルガーノ)塩基配列、更にタンパク質合成開始に必要な開始コドン(例えばATG)を付与した発現プラスミドを利用するのが好ましい。前記宿主としての大腸菌としては、E. coli K12株等がよく用いられ、ベクターとしては一般にpBR322及びその改良ベクターがよく用いられるが、これらに限定されず公知の各種の菌株及びベクターも利用できる。プロモーターとしては、例えばトリプトファン(trp)プロモーター、lppプロモーター、lacプロモーター、PL/PRプロモーター等を使用できる。
【0061】
昆虫細胞用ベクターとしては、例えばアディポネクチンのcDNAを組み込んだバキュロウイルスベクター(Takara社)が例示できる。本発明の発現産物は、具体的には、SY-001のcDNAを組み込んだバキュロウイルス発現ベクターを、カイコ(ボンビックス・モリ)(Bombyx mori)の核多角体ウイルス(BmNPV)を用いて、カイコの培養細胞BmN4又はカイコの幼虫に導入して発現させ、それぞれの培養液又はカイコ体液からクロマトグラフィーにより単離することによって、得ることができる。
【0062】
また、本発明の発現産物は、SY-001のcDNAをオートグラファ・カリフォルニカ(Autographa californica)の核多角体ウイルス(AcNPV)に組み込み、ヨトウムシ(スポドプテラ・フルギペルダ)(Spodoptera frugiperda)のSf9細胞あるいはイラクサギンウワバ(トリコプルジア・ニ)(Trichoplusia ni)のTn5細胞で発現させ、培養上清から同様にしてクロマトグラフィーにより精製することによっても得ることができる。
【0063】
このようにして得られる所望の組換えDNAの形質転換用宿主細胞への導入は、一般的方法に従うことができる。
【0064】
得られる形質転換体は、常法に従い培養でき、該培養により形質転換体の細胞内、細胞外又は細胞膜上に目的とする組換えタンパク質が発現及び生産(蓄積又は分泌)される。該培養に用いられる培地としては、採用した宿主細胞に応じて慣用される各種のものを適宜選択利用でき、その培養も宿主細胞の生育に適した条件下で実施できる。
【0065】
前記のようにして得られるアディポネクチンは、所望により、その物理的性質、化学的性質等を利用した各種の分離操作(「生化学データーブックII」、1175-1259頁、第1版第1刷、1980年6月23日株式会社東京化学同人発行;Biochemistry, 25(25), 8274(1986); Eur. J. Biochem., 163, 313 (1987)等参照)により分離、精製できる。より具体的には、例えば通常の再構成処理、浸透圧ショック法、超音波破砕、限外濾過、分子篩クロマトグラフィー(ゲル濾過)、吸着クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティクロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)等の各種液体クロマトグラフィー、透析法により、、又はこれらの組合せ等により分離、精製できる。
【0066】
あるいは、前記アディポネクチンは、そのアミノ酸配列情報に従って、一般的な化学合成法により製造することができる。該方法には、通常の液相法及び固相法によるペプチド合成法が包含される。かかるペプチド合成法は、より詳しくは、アミノ酸配列情報に基づいて、各アミノ酸を1個ずつ逐次縮合させて鎖を延長させていく所謂ステップワイズエロンゲーション法と、アミノ酸数個からなるフラグメントを予め合成し、次いで各フラグメントをカップリング反応させるフラグメント・コンデンセーション法とを包含する。
【0067】
前記ペプチド合成法に採用される縮合反応も、常法に従うことができる。該方法には、例えば、アジド法、混合酸無水物法、DCC法、活性エステル法、酸化還元法、DPPA(ジフェニルホスホリルアジド)法、DCC+添加物(1-ヒドロキシベンゾトリアゾール、N-ヒドロキシサクシンアミド、N-ヒドロキシ-5-ノルボルネン-2,3-ジカルボキシイミド等)法、ウッドワード法等が包含される。
【0068】
これら各方法に利用できる溶媒も、この種のペプチド縮合反応に使用されることがよく知られている一般的なものから適宜選択することができる。その例としては、例えばジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ヘキサホスホロアミド、ジオキサン、テトラヒドロフラン(THF)、酢酸エチル等及びこれらの混合溶媒等を挙げることができる。
【0069】
前記ペプチド合成反応に際して、反応に関与しないアミノ酸又はペプチドにおけるカルボキシル基は、一般にはエステル化により、例えばメチルエステル、エチルエステル、第3級ブチルエステル等の低級アルキルエステルや、例えばベンジルエステル、p-メトキシベンジルエステル、p-ニトロベンジルエステル等のアラルキルエステル等として保護することができる。
【0070】
側鎖に官能基を有するアミノ酸(例えばチロシン残基)の水酸基は、アセチル基、ベンジル基、ベンジルオキシカルボニル基、第3級ブチル基等で保護されてもよいが、必ずしもかかる保護を行う必要はない。
【0071】
更に、アルギニン残基のグアニジノ基は、ニトロ基、トシル基、p-メトキシベンゼンスルホニル基、メチレン-2-スルホニル基、ベンジルオキシカルボニル基、イソボルニルオキシカルボニル基、アダマンチルオキシカルボニル基等の適当な保護基により保護することができる。
【0072】
前記保護基を有するアミノ酸、ペプチド及び最終的に得られるタンパク質におけるこれら保護基の脱保護反応は、慣用される方法、例えば接触還元法や、液体アンモニア/金属ナトリウム、フッ化水素、臭化水素、塩化水素、トリフルオロ酢酸、酢酸、蟻酸、メタンスルホン酸等を用いる方法等に従って実施することができる。
【0073】
このようにして得られるアディポネクチンは、前記した各種の方法、例えばイオン交換樹脂、分配クロマトグラフィー、ゲルクロマトグラフィー、向流分配法等のペプチド化学の分野で汎用される方法に従って、その精製を行うことができる。
【0074】
本発明に係る肺疾患治療剤は、アディポネクチン又はその製剤学的に許容される塩を有効成分として含有する。このような塩には、例えば、ナトリウム、カリウム、リチウム、カルシウム、マグネシウム、バリウム、アンモニウム等の、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩及びアンモニウム塩等が包含される。これらの塩は当業界で周知の方法により調製される。更に、前記塩には、アディポネクチンと適当な有機酸又は無機酸とを常法に従い反応させて得られる酸付加塩も包含される。代表的な酸付加塩としては、例えば塩酸塩、塩化水素酸塩、臭化水素酸塩、硫酸塩、重硫酸塩、酢酸塩、蓚酸塩、吉草酸塩、オレイン酸塩、ラウリン酸塩、硼酸塩、安息香酸塩、乳酸塩、リン酸塩、p-トルエンスルホン酸塩(トシレート)、クエン酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、コハク酸塩、酒石酸塩、スルホン酸塩、グリコール酸塩、アスコルビン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、ナプシレート等を例示できる。
【0075】
本発明に係る肺疾患治療剤は、一般には、前記有効成分の薬学的有効量を適当な医薬担体と共に含む医薬製剤形態に調製され、使用に供される。
【0076】
前記医薬製剤に利用できる担体としては、製剤の使用形態に応じて通常使用される、充填剤、増量剤、結合剤、付湿剤、崩壊剤、表面活性剤、滑沢剤等の希釈剤及び/又は賦形剤等を例示できる。これらは得られる製剤の投与単位形態に応じて適宜選択使用できる。
【0077】
医薬製剤の投与単位形態としては、各種の形態が治療目的に応じて選択できる。その代表的なものには、錠剤、丸剤、散剤、粉末剤、顆粒剤、カプセル剤等の固体投与形態や、溶液、懸濁剤、乳剤、シロップ、エリキシル等の液剤投与形態が含まれる。これらは投与経路に応じて経口剤、非経口剤、経鼻剤、経膣剤、坐剤、舌下剤、軟膏剤等に分類され、それぞれ通常の方法に従い、調合、成形又は調製することができる。前記医薬製剤には、また通常の医薬製剤に使用し得る各種の成分、例えば安定化剤、殺菌剤、緩衝剤、等張化剤、キレート剤、pH調整剤、界面活性剤等を適宜添加できる。
【0078】
前記安定化剤としては、例えばヒト血清アルブミンや通常のL−アミノ酸、糖類、セルロース誘導体等を例示できる。これらは単独で又は界面活性剤等と組合せて使用できる。特にこの組合せによれば、有効成分の安定性をより向上させ得る場合がある。
【0079】
前記L−アミノ酸は、特に限定はなく、これには例えばグリシン、システィン、グルタミン酸等が包含される。
【0080】
前記糖類としても特に限定はなく、例えばグルコース、マンノース、ガラクトース、果糖等の単糖類;マンニトール、イノシトール、キシリトール等の糖アルコール、ショ糖、マルトース、乳糖等の二糖類;デキストラン、ヒドロキシプロピルスターチ、コンドロイチン硫酸、ヒアルロン酸等の多糖類等及びそれらの誘導体等を使用できる。
【0081】
界面活性剤としても特に限定はなく、イオン性及び非イオン性界面活性剤のいずれも使用できる。これには例えば、ポリオキシエチレングリコールソルビタンアルキルエステル類、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ソルビタンモノアシルエステル類、脂肪酸グリセリド類等が包含される。
【0082】
セルロース誘導体としては、特に限定はなく、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム等が挙げられる。
【0083】
糖類は、有効成分1μg当り約0.0001mg以上、好ましくは約0.01〜10mgの範囲内の量で用いられ得る。界面活性剤は、有効成分1μg当り約0.00001mg以上、好ましくは約0.0001〜0.01mgの範囲内の量で用いられ得る。ヒト血清アルブミンは、有効成分1μg当り約0.0001mg以上、好ましくは約0.001〜0.1mg内の量で用いられ得る。アミノ酸は、有効成分1μg当り約0.001〜10mgの範囲内の量で用いられ得る。また、セルロース誘導体は、有効成分1μg当り約0.00001mg以上、好ましくは約0.001〜0.1mgの範囲内の量で用いられ得る。
【0084】
本発明の医薬製剤中に含まれる有効成分の量は、広範囲から適宜選択でき、通常約0.00001〜70重量%、好ましくは0.0001〜5重量%程度の範囲から選ばれるのが適当である。
【0085】
更に、前記医薬製剤中に適宜添加することができる緩衝剤としては、ホウ酸、リン酸、酢酸、クエン酸、ε−アミノカプロン酸、グルタミン酸及び/又はそれらに対応する塩(例えばそれらのナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ金属塩やアルカリ土類金属塩)等を例示できる。等張化剤としては、塩化ナトリウム、塩化カリウム、糖類、グリセリン等を例示できる。またキレート剤としては、エデト酸ナトリウム、クエン酸等を例示できる。
【0086】
本発明の医薬製剤は、液剤として調製でき、更に医薬製剤を凍結乾燥化しておき、使用時に生埋的食塩水を含む緩衝液で適当な濃度に調製することもできる。
【0087】
本発明の医薬製剤を錠剤の形態に成形するに際しては、前記担体として、例えば乳糖、白糖、塩化ナトリウム、ブドウ糖、尿素、デンプン、炭酸カルシウム、カオリン、結晶セルロース、ケイ酸、リン酸カリウム等の賦形剤;水、エタノール、プロパノール、単シロップ、ブドウ糖液、デンプン液、ゼラチン溶液、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、ポリビニルピロリドン等の結合剤;カルボキシメチルセルロースナトリウム、カルボキシメチルセルロースカルシウム、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、乾燥デンプン、アルギン酸ナトリウム、カンテン末、ラミナラン末、炭酸水素ナトリウム、炭酸カルシウム等の崩壊剤;ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類、ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリン酸モノグリセリド等の界面活性剤;白糖、ステアリン、カカオバター、水素添加油等の崩壊抑制剤;第4級アンモニウム塩基、ラウリル硫酸ナトリウム等の吸収促進剤;グリセリン、デンプン等の保湿剤;デンプン、乳糖、カオリン、ベントナイト、コロイド状ケイ酸等の吸着剤;精製タルク、ステアリン酸塩、ホウ酸末、ポリエチレングリコール等の滑沢剤等を使用できる。
【0088】
更に錠剤は、必要に応じ通常の剤皮を施した錠剤、例えば糖衣錠、ゼラチン被包錠、腸溶被錠、フィルムコーティング錠或は二重錠又は多層錠とすることができる。
【0089】
丸剤の形態に成形するに際しては、担体として例えばブドウ糖、乳糖、デンプン、カカオ脂、硬化植物油、カオリン、タルク等の賦形剤;アラビアゴム末、トラガント末、ゼラチン、エタノール等の結合剤;ラミナラン、カンテン等の崩壊剤等を使用できる。
【0090】
カプセル剤は、常法に従い通常有効成分を前記で例示した各種の担体と混合して硬質ゼラチンカプセル、軟質カプセル等に充填して調製される。
【0091】
経口投与用液剤は、エマルジョン、懸濁液、シロップ、エリキシル等を包含する。これらは、慣用される不活性希釈剤、例えば水を含む医薬的に許容される溶液を用いて調製される。該液剤には更に湿潤剤、乳剤、懸濁剤等の助剤を含ませることができ、これらは常法に従い調製される。
【0092】
非経口投与用液剤、例えば滅菌した水性又は非水性の溶液、エマルジョン、懸濁液等への調製に際しては、希釈剤として例えば水、エチルアルコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、エトキシ化イソステアリルアルコール、ポリオキシ化イソステアリルアルコール、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル及びオリーブ油等の植物油等を使用できる。該液剤にはまた注入可能な有機エステル類、例えばオレイン酸エチル等を配合することもできる。これらには更に通常の溶解補助剤、緩衝剤、湿潤剤、乳化剤、懸濁剤、保存剤、分散剤等を添加することもできる。
【0093】
医薬製剤の滅菌は、例えばバクテリア保留フィルターを通過させる濾過操作、殺菌剤の配合、照射処理及び加熱処理等により実施できる。また、医薬製剤は使用直前に滅菌水や適当な滅菌可能媒体に溶解することのできる滅菌固体組成物形態に調製して、使用直前に滅菌することもできる。
【0094】
坐剤及び膣投与用製剤の形態に成形するに際しては、担体として、例えばポリエチレングリコール、カカオ脂、高級アルコール、高級アルコールのエステル類、ゼラチン及び半合成グリセライド等を使用できる。
【0095】
ペースト、クリーム、ゲル等の軟膏剤の形態に成形するに際しては、希釈剤として、例えば白色ワセリン、パラフィン、グリセリン、セルロース誘導体、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、シリコン、ベントナイト及びオリーブ油等の植物油等を使用できる。
【0096】
経鼻又は舌下投与用製剤は、周知の標準賦形剤を用いて、常法に従い調製することができる。
【0097】
本発明の医薬製剤中には、必要に応じて着色剤、保存剤、香料、風味剤、甘味剤等や他の医薬品等を含有させることもできる。
【0098】
前記医薬製剤の投与方法は、特に制限がなく、各種製剤形態、患者の年齢、性別その他の条件、疾患の程度等に応じて決定される。例えば錠剤、丸剤、液剤、懸濁剤、乳剤、顆粒剤及びカプセル剤は経口投与され、注射剤は単独で、又は通常のブドウ糖やアミノ酸等の輸液と混合して静脈内投与され、更に必要に応じ単独で筋肉内、皮内、皮下もしくは腹腔内投与され、坐剤は直腸内投与され、経膣剤は膣内投与され、経鼻剤は鼻腔内投与され、舌下剤は口腔内投与され、軟膏剤は経皮的に局所投与される。
【0099】
本発明の有効成分を粉末化する場合は、常法に従って粉末化するのがよく、例えば乳糖、澱粉等と共に微粉末にし、均一な混合物になるように攪拌して粉末剤を調製するのがよい。
【0100】
本発明における投与方法としては、経肺投与方法(吸入方法)を行った場合、治療の標的臓器が肺内の肺胞であり、肺胞組織の傷害部位へ直接暴露が可能であることから、全身性の副作用が生じない点で、経口投与に比較してより有利である。
【0101】
本発明の医薬製剤中に含有されるべきアディポネクチンの量としては、特に限定されず広範囲から適宜選択されるが、通常製剤組成物中に約0.01〜70重量%、好ましくは0.1〜50重量%、さらに好ましくは0.3〜30重量%とするのがよい。
【0102】
前記医薬製剤中に含有されるべき有効成分の量及びその投与量は、特に限定されず、所望の治療効果、投与法、治療期間、患者の年齢、性別その他の条件等に応じて広範囲より適宜選択される。通常好ましくは、血中における有効成分濃度が約0.1〜500μg/mL、より好ましくは約1〜50μg/mL程度となる量を目安として決定されるのがよい。該製剤は1日に1回又は数回に分けて投与することができる。
【0103】
また、本発明の治療薬の投与量は、用法、患者の年齢、性別その他の条件、疾患の程度等により適宜選択されるが、通常アディポネクチンの量が、1日当り、約0.1μg〜20mg程度とするのがよい。
【0104】
製剤例1
ヒトアディポネクチン (配列番号:1に示されるアミノ酸配列を有するもの)100μg/mL、「ツウィーン80」(Polyoxyethylene(20)Sorbitan Monooleate; Polysorbate 80) 0.01mg/mL、デキストラン40 15mg/mL、システイン0.1mg/mL及びHSA(ヒト血清アルブミン)1.0mg/mLを0.01Mクエン酸−クエン酸ナトリウム緩衝液(pH6.0)に加えて混合し、混合物を濾過(0.22μmメンブランフィルター使用)後、濾液を無菌的に1mLずつバイアル瓶に分注し、凍結乾燥して、注射用製剤形態の本発明の医薬組成物を調製した。該製剤は、これを用時、生理食塩水1mLに溶解して利用することができる。
【0105】
製剤例2
1バイアル当たり、ヒトアディポネクチン(配列番号:1に示されるアミノ酸配列を有するもの)10μg/0.1mL、システイン酸5mg及びヒト血清アルブミン(HSA)1mgを注射用蒸留水に加えて、得られる溶液を1バイアル当たり1mLずつ充填し、凍結乾燥を行って、注射用製剤形態の本発明の医薬組成物を調製した。
【0106】
製剤例3
アディポネクチン0.5mg、塩化ナトリウム80mg、マニトール20mg、リン酸ナトリウム34.5mg、 PEG45mgを注射用蒸留水10mlに加え、無菌濾過後、1.0mlずつ無菌バイアルに分注し、凍結乾燥して注射製剤を調製した。
【0107】
参考例1
組換えヒトアディポネクチンの製造
(1) ヒトアディポネクチンの大腸菌での発現
1) ヒトアディポネクチン PCR
ヒトアディポネクチン遺伝子、及び該遺伝子配列でコードされるアミノ酸配列は、それぞれ、ジーンバンク(Genebank)にアクセッション番号NM_004797及びD45371として登録されている。そのコーディング領域(CDS)は、配列番号27〜761番目に示されている。その推定アミノ酸配列は配列番号:1に示すとおりである。該配列において、1-14番目はシグナルペプチドであり、15-244番目が成熟型ヒトアディポネクチンである。
【0108】
ヒトアディポネクチン遺伝子は、阪大第二内科船橋先生より供与されたプラスミドを鋳型としてPCR法により増幅した。
【0109】
PCRプライマーは、ヒトアディポネクチン遺伝子の塩基配列のうち、69〜761番の693bpを、その5'末端のNdeIサイト及び3'末端のBamHIサイトを有して増幅するように設計し、自動DNA合成機により製造した。このPCRプライマーの配列は、配列番号6(forward)及び7(reverse)に示す通りである。
2) ヒトアディポネクチン(apM1)遺伝子のサブクローニング
前記1)で得られたPCR産物をpT7 Blue T-Vector(ノバゲン(Novagen)社)にサブクローニングし、その塩基配列(pT7-apM1)に変異がないことを確認した。
3) 発現ベクターの構築
発現ベクターpET3c(ノバゲン社)をNdeI及びBamHIで消化し、約4600bpの断片を得た。また、前記1)で得たpT7-apM1をNdeI及びBamHIで消化し、約700bpの断片を得た。これらの断片をライゲーションし、得られた発現ベクターをpET3c-apM1と名付けた。
4) 大腸菌での発現
宿主大腸菌であるBL21(DE3)pLysSを、前記3)で得たpET3c-apM1でトランスフォームし、2xT.Y.Amp. (トリプトン16g、酵母抽出物10g及びNaCl 5g)で培養した。菌体が対数増殖期に入ったところでIPTG(イソプロピル β-D-チオガラクトピラノシド)を添加し、組換えヒトアディポネクチン(apM1)の生産を誘導した。IPTGによる誘導前後の大腸菌及びIPTG誘導後のインクルージョンボディー(大腸菌の不溶性画分)をサンプリングし、SDS-PAGE及びウエスタンブロッティングによりヒトアディポネクチンの発現を確認した。
5) 結果及び考察
前記に従い大腸菌で発現した発現物は、ヒトアディポネクチンのアミノ酸配列において、シグナル配列を除いた15番Glyから244番Asnまでの230残基のタンパク質で、N末端に開始コドン由来のMetが付加されていた。
【0110】
前述の方法で得られた大腸菌をSDS-PAGEで分析したところ、IPTG誘導後の大腸菌及びインクルージョンボディーにおいて約30kDのバンドが確認できた。
【0111】
次に、2種類の抗体(ポリクローナル抗体(合成ペプチド))でウエスタンブロッティングを行ったところ、両方の抗体ともにその約30kDのバンドと反応し、一方、宿主大腸菌とは全く反応は認められなかった。
【0112】
この約30kDのバンドを切り出してN末端10アミノ酸の配列を確認したところ、予想された配列と同じであり、マイナー成分としてN末端のMetが欠失しているものも確認された。
【0113】
以上の結果から、約30kDのタンパク質として組換えヒトアディポネクチンが発現していることが明らかとなった。また発現した組換えヒトアディポネクチンの殆どは、インクルージョンボディーとして菌体内に蓄積されていた。
(2) 組換えヒトアディポネクチン(apM1)の大腸菌からの精製
組換えヒトアディポネクチンの大腸菌からの精製は、以下の5つのステップにて行った。
1) 大腸菌の培養
発現ベクターpET3c-apM1でトランスフォームした大腸菌BL21(DE3)pLysS(ノバゲン社)を2xT.Y.Amp.Cm.(トリプトン16g、酵母抽出物10g、クロラムフェニコール25μg/mL及びNaCl 5g)で前培養(37℃、振盪培養)し、翌日、その培養液を100倍量の2xT.Y.Amp.で希釈して更に培養した。2〜3時間培養して培養液のOD550が0.3〜0.5になったところで、最終濃度0.4mMのIPTGを添加し、組換えヒトアディポネクチン(apM1)の生産を誘導した。IPTG添加後約3〜5時間で培養液を遠心分離(5000rpm、20分、4℃)し、得られた大腸菌の沈殿を凍結保存した。
2) 大腸菌からのインクルージョンボディーの調製
大腸菌の沈殿を50mM Tris-HCl (pH8.0)に懸濁し、リゾチームで37℃、1時間処理した後、最終濃度0.2%のトリトンX-100(TritonX-100, 片山化学社)を添加した。その溶液を超音波処理(BRANSON SONIFIER、出力コントロール(output control) 5、30秒)し、遠心分離(12000rpm、30分、4℃)して沈殿を回収した。その沈殿を0.2% TritonX-100を添加した50mM Tris-HCl(pH8.0)25mLに懸濁し、超音波処理(同上の条件)を行った。
【0114】
得られた溶液を遠心分離し、沈殿を再度同様の操作で洗浄し、得られた沈殿をインクルージョンボディーとした。
3) インクルージョンボディーのリフォールディング
インクルージョンボディーを少量の7M塩酸グアニジン、100mM Tris-HCl (pH8.0)、1% 2MEに可溶化した。その溶液を200倍量の2M Urea、20mM Tris-HCl(pH8.0)に滴下して希釈し、4℃で3晩放置した。
4) リフォールディング溶液の濃縮
リフォールディングした溶液を遠心分離(9000rpm、30分間、4℃)し、得られた上清をアミコンYM-10メンブランを用いた限外濾過で約1/100に濃縮した。その濃縮液を20mM Tris-HCl (pH8.0)にて透析し、0.45μmのフィルターで濾過した。
5) DEAE-5PWによる陰イオン交換HPLC
前記4)で得られたサンプルをDEAE-5PW(東ソー社)による陰イオン交換高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により分離、精製した。開始バッファーは20mM Tris-HCl(pH7.2)で、溶出は1M NaClのグラジェント(0→1M NaCl/60mL)で行い、280nmの吸収でモニターした。溶出液を1mLのフラクションに分割して回収し、各フラクションをSDS-PAGEして分析した。
6) 結果及び考察
組換えヒトアディポネクチン(apM1)は、大腸菌にインクルージョンボディーとして発現していたので、精製に際してはインクルージョンボディーの可溶化及びリフォールディングを行った。その結果、組換えヒト・アディポネクチンは可溶化され、陰イオン交換カラムで分離された。そのピークのフラクション(フラクションNo.30-37)をSDS-PAGEで分析したところ、約30kDのバンドが観察された。このとき、バックグラウンドに薄くスメアなバンドが確認されたが、タンパク質の殆どは組換えヒトアディポネクチン(apM1)であると考えられたので、この約30kDのバンド(組換えヒトアディポネクチン)を、引き続くウサギ及びマウスの免疫のための抗原、及び本発明の肺疾患治療剤の有効成分として用いた。
【0115】
(3) ヒトアディポネクチンに対するポリクローナル抗体及びモノクローナル抗体の作製
1) ポリクローナル抗体の作製
組換えヒトアディポネクチン 100μg/bodyを1:1の比でコンプリートアジュバントと混合して5匹のウサギに2週間おきに8回免疫して、抗ヒトアディポネクチンポリクローナル抗体(認識番号;OCT9101〜OCT9105)を得た。
2) モノクローナル抗体の作製
組換えヒトアディポネクチン 20μg/bodyを1:1の比でコンプリートアジュバントと混合してマウスに2週間おきに3回免疫し、細胞融合の3日前にアジュバントなしで最終免疫した。マウス脾臓リンパ球とミエローマ細胞の細胞融合はPEG法にて行い、HAT培地でハイブリドーマを選択した。
【0116】
ヒトアディポネクチン抗体産生株のスクリーニングは、抗原(組換えヒト・アディポネクチン)をコーティングしたイムノプレートを用いたELISAで行い、限界希釈法でハイブリドーマをクローニングした。
【0117】
このようにして、KOCO9101-KOCO9111と名付けたヒト・アディポネクチン抗体産生ハイブリドーマを11株得た。その内の一つのハイブリドーマ(受託者が付した識別のための表示:KOCO9108)は、1998年6月8日(原寄託日)に、日本国茨城県つくば市東1-1-1 中央第6に住所を有する独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センターに受託されており、1998年10月7日に原寄託よりブダペスト条約に基づく寄託への移管請求が受領された。その受託番号はFERM BP-6542である。
【0118】
シングルクローンになったハイブリドーマをプリスタン処理したマウス腹腔内に投与して腹水を得た(認識番号;ANOC9101〜9111)。
3) 抗体の精製
得られたウサギ抗血清(ポリクローナル抗体)及びマウス腹水(モノクローナル抗体)は、プロテインAカラムで精製した。
4) ヒトアディポネクチンの動物細胞での発現
アディポネクチンのcDNAをEcoRIで切り出し、発現ベクターpCIneo(プロメガ社)のEcoRIサイトに挿入した。このpCIneo−ヒトアディポネクチンをGIBCO BRL社のLlipofectAMINEを用いてCOS-1細胞(ATCC CRL1650)にトランスフェクションし、72時間後の培養上清及び細胞を回収した。
5) ヒトアディポネクチンのウエスタンブロッティング
最初に、脂肪組織抽出液、COS-1細胞、COS-1細胞培養上清、健常人血漿、組換えヒト・アディポネクチンを、2ME(+)でSDS-PAGEし、ニトロセルロースメンブランにトランスファーした。
【0119】
このメンブランをヒトアディポネクチン・モノクローナル抗体(ANOC9104)と反応させ、次いでHRP標識抗体と反応させた後、ECL(アマシャム社、ウエスタンブロッティング検出試薬)を用いて検出を行った。
【0120】
その結果、脂肪組織抽出液、pCIneo- ヒトアディポネクチン/COS-1細胞及び健常人血漿で約35kDのバンドが確認できたが、pCIneo/COS-1細胞及びpCIneo/COS-1細胞培養上清では確認できなかった。
【0121】
pCIneo- ヒトアディポネクチン/COS-1細胞培養上清では、非常に薄く見えにくいものであったが、35kDのバンドを確認できた。
【0122】
参考例2
N末端His-Tag融合型マウスアディポネクチン発現CHO細胞株(clone No.5)を大量培養して、上清を回収した。Hisタグの付加されたアディポネクチンをNi-NTA Resinを用いて精製した。
【0123】
参考例3
マウスアディポネクチンの全長DNA(配列番号:5に示されるアミノ酸配列を有するもの)を発現ベクターに組み込み、大腸菌で発現を行い、マウスアディポネクチンを大量に発現させた。大腸菌破砕物の上清をDEAE-Sepharoseオープンカラムにアプライし、0M→1M NaClのグラジェントで溶出し、溶出画分を集め、30%飽和硫酸アンモニウムで分画し、その上清をButyl-toyopearlオープンカラムにアプライして、30%→0%飽和硫酸アンモニウムのグラジェントで溶出した。最終的にゲルろ過を行ってマウスアディポネクチンを精製した。
【0124】
実施例1
エラスターゼ処理により肺障害を生じさせたモデルマウス(C57BL/6J)を用いて、アディポネクチンによる非可逆的な気道流量低下で特徴付けられる慢性閉塞性肺疾患に対する治療効果を試験した。
【0125】
当該モデルマウスは、1回のエラスターゼの気管内投与の結果、肺胞壁が破壊されると、その後慢性的には肺胞壁の破壊が継続し、肺気腫病変が拡張した(図2の対照)。この変化は、一般的な評価指標として用いられている平均肺胞径長により示される(Dunill. M.S. Thorax (1962) 17, p320-328)。1個当たりの肺胞の大きさを測定することにより肺胞壁の破壊の程度が評価される。
【0126】
このモデルマウスにおいては、エラスターゼ処理の結果、肺胞破壊が起こり、それによって肺胞径が拡張する。これは、肺気腫病変及び肺機能障害に相当する。
【0127】
本実験においては、モデルマウスに対する1回のエラスターゼの気管内投与の結果、肺胞壁の破壊とそれに伴う血管の破綻が生じ、一過性の出血と、好中球の肺胞内への浸潤が生じるが、この炎症は、3日目には消失する。それ故、本実験において、アディポネクチンの作用はエラスターゼ阻害作用によるものではないことが立証できる。
【0128】
6〜7週齢の雌性マウス(C57BL/6L、日本チャールスリバー社)を、体重に基づいて層別無作為化法(SAS Institute Japan R8.1)を使用して、下記の表1に示すように6匹毎のA〜Dの4群に分け、各マウスにペントバルビタール麻酔を施した。
【0129】
【表1】

【0130】
次に、喉頭からスプレイヤー(Penn−Century社)を用いて、A群のマウスには生理食塩水(大塚生食注、大塚製薬工場(株))を、B〜D群のマウスにはヒト好中球由来エラスターゼ(Elastin Products Co. Inc.社)を、各々50μl/マウスの容量で気管内投与した。エラスターゼの投与量は20U/マウスであった。エラスターゼの気管内投与の3日後から18日間、1日1回の頻度でC群及びD群のマウスに各々0.001mg/マウス及び0.01mg/マウスの用量でアディポネクチンを連続気管内投与した。投与に用いたアディポネクチンは、前記参考例2にて作成したCHO細胞由来のマウスアディポネクチンを溶媒(50mM Tris−HCl(pH8.0)0.5M NaCl)に溶解したものであり、所定量の生理食塩水で0.2mg/ml及び0.02mg/mlの濃度に希釈して使用した。各濃度の溶液は、投与日分毎に分注し、投与日まで−20℃で凍結保存し、投与に際して融解して使用した。エラスターゼコントロール群であるB群では、アディポネクチンの代わりに生理食塩水を同期間投与した。アディポネクチン又は生理食塩水の気管内投与は、イソフルラン吸入麻酔下のマウスに喉頭からスプレイヤーを用いて、各々50μl/マウスの容量で行った。18日間の連続気管内投与の後、各マウスをイソフルラン吸入麻酔下で腹大動静脈からの放血により安楽死させ、肺を摘出して10%中性ホルマリン緩衝液にて灌流固定した。固定された肺組織は、バイオ病理研究所にてパラフィン包埋、薄切、マッソントリクローム(Masson Trichrom)染色、HE染色を行ない、肺胞障害の客観指標である平均肺胞径長の測定により病理組織を評価した。
【0131】
なお、平均肺胞径長(Lm)は、Lm = N x L / mの計算式で算出した。Nは横断線の数を、Lは横断線の長さを、mは横断線と交差した肺胞壁の総数を、それぞれ示す。
【0132】
統計解析
薬物の効果を検討するため、エラスターゼ処理コントロール群(B群)とC群及びD群とを比較してダネット(Dunnett)検定を行った。尚、全ての検定は両側検定を使用し、有意水準は5%とした。検定は、SASソフトウェア(SAS Institute Japa, R8.1)を使用した。結果を図1に示す。
【0133】
測定された肺胞径長は、B群の152.5±14.7μmに対して、C群では115.2±17.3μm、D群では81.7±20.4μmであり、アディポネクチンの投与量に応じて有意な抑制効果が示された(Mean±S.D., P<0.05)。尚、A群では73.0±6.6μmであった。
【0134】
この結果から、アディポネクチンの連続経肺投与により、エラスターゼ処置によって生じた平均肺胞径長の伸長に対して、アディポネクチンは投与量に応じた抑制作用を有することが認められた。
【0135】
即ち、アディポネクチンの連続投与は、肺胞壁の破壊的変化の進行に基づく肺胞拡張を抑制していることが確認された。
【0136】
また、図2に肺胞壁の破壊的変化の進行を示す組織切片図を示す。アディポネクチン連続投与群(C群及びD群)では、コントロール群(B群)に比較して、明らかな肺胞壁破壊の抑制効果が認められ、その効果は、D群でより強力であることが分かる。
【0137】
即ち、アディポネクチンの連続投与は、肺胞壁の破壊的変化の進行を抑制していることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アディポネクチンを含有する、肺胞拡張抑制剤。
【請求項2】
アディポネクチンを0.01〜70重量%含有する、請求項1に記載の肺胞拡張抑制剤。
【請求項3】
アディポネクチンを含有する、肺胞壁破壊抑制剤。
【請求項4】
アディポネクチンを0.01〜70重量%含有する、請求項3に記載の肺胞壁破壊抑制剤。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2012−501297(P2012−501297A)
【公表日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−509344(P2011−509344)
【出願日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際出願番号】PCT/JP2009/065380
【国際公開番号】WO2010/024460
【国際公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【出願人】(000206956)大塚製薬株式会社 (230)
【Fターム(参考)】