説明

肺癌の予後指標としてのPKP3癌遺伝子

本発明は、非小細胞肺癌(NSCLC)予後を評価する方法を提供し、ならびに、NSCLCのための特定の治療の効力を評価する方法も提供する。さらに、本発明は、NSCLCの予後判定のためのキットを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術分野
本発明は、生物科学の分野、より具体的には癌研究の分野に関する。特に、本発明は、肺癌の予後指標としての、肺癌関連遺伝子PKP3の発現レベルの使用に関する。
【0002】
優先権
本出願は、2004年10月19日出願の米国仮出願第60/620,405号に基づく恩典を主張する。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
肺癌は、世界中の癌による死亡の主要な原因であり、非小細胞肺癌(NSCLC)が、それらの症例のほぼ80%を占める(Greenlee RT, et al. (2001) CA Cancer J Clin 51(1):15-36.(非特許文献1))。肺癌の発生および進行に関連した多くの遺伝子変異が報告されている。それにもかかわらず、詳細な分子メカニズムは未だ不明である(Sozzi G. (2001) Eur J Cancer 37 Suppl 7: S63-73.(非特許文献2))。最近十年間に、パクリタキセル、ドセタキセル、ゲムシタビン、およびビノレルビンのようないくつかの新たに開発された細胞障害剤が、進行した肺癌を有する患者の処置のための複数の選択肢を提供し始めた;しかしながら、これらの療法は、各々、シスプラチンに基づく治療と比較してわずかに生存上の利点を与えるのみである(Schiller JH, et al. (2002) N Engl J Med 346(2):92-8. (非特許文献3); Kelly K, et al. (2001) J Clin Oncol 19(13):3210-8.(非特許文献4))。または、ゲノムワイドのcDNAマイクロアレイ分析によって、642のアップレギュレートされた遺伝子および806のダウンレギュレートされた遺伝子が、NSCLCのための潜在的診断マーカーおよび/または治療標的として同定されている(WO2004/31413(特許文献1))。
【0004】
【特許文献1】WO2004/31413
【非特許文献1】Greenlee RT, et al. (2001) CA Cancer J Clin 51(1):15-36
【非特許文献2】Sozzi G. (2001) Eur J Cancer 37 Suppl 7: S63-73
【非特許文献3】Schiller JH, et al. (2002) N Engl J Med 346(2):92-8
【非特許文献4】Kelly K, et al (2001) J Clin Oncol 19(13):3210-8
【発明の開示】
【0005】
発明の概要
腫瘍における数千の遺伝子の発現レベルの体系的分析は、新規の腫瘍マーカーの開発において使用するための候補を選択するための有効なアプローチである(Kikuchi T, et al. (2003) Oncogene 22(14):2192-205. ; Kakiuchi S, et al. (2003) Mol Cancer Res 1(7):485-99. ; Zembutsu H, et al. (2003) Int J Oncol 23(l):29-39. ; Suzuki C, et al. (2003) Cancer Res 63(21):7038-41. ; Ochi K, et al. (2004) Int J Oncol 24(3):647-55.)。本発明者らは、レーザー・キャプチャー・マイクロダイセクション(laser-capture microdissection)により37の癌組織から調製された純粋な腫瘍細胞集団を使用して、23,040の遺伝子を含有しているcDNAマイクロアレイ上でNSCLC細胞のゲノムワイドの発現プロファイルを分析することにより、肺癌の診断のための潜在的分子標的を単離することを試みた(Kikuchi T, et al. (2003) Oncogene 22(14):2192-205.)。その研究の過程で、642のアップレギュレートされた遺伝子および806のダウンレギュレートされた遺伝子が、NSCLCのための潜在的診断マーカーおよび/または治療標的として同定された(WO2004/31413)。それらのうち、プラコフィリン(plakophilin)3(PKP3;GenBankアクセッション番号NM_007183、配列番号1、2)をコードする遺伝子の高頻度の転写促進が、原発性NSCLCにおいて観察された。
【0006】
PKP3は、重層上皮および単層上皮の細胞において合成されるアルマジロ(ARM)タンパク質のp120ctn/プラコフィリン・サブファミリーのメンバーである;アルマジロ分子は、選択的に合成されたデスモソーム・タンパク質間の物理的連結を提供する(Schmidt A, et al. (1999) Differentiation 64(5):291-306. ; Bonne S, et al. (2003) J Cell Biol 161(2):403-16. ; Bonne S, et al. (1999) J Cell Sci 112(Pt 14):2265-76.)。ARM関連タンパク質は、一般に、細胞接着および細胞骨格関連活性における構造的な役割を有しているが、これらは遺伝子発現に影響を与えるシグナルを発生し伝達することによりシグナル伝達機能も発揮し得る。プラコグロビン(plakoglobin)(PKGB)、β-カテニン(CTNNB1)、および大腸腺腫症(adenomatous polyposis coli)(APC)を含むARMタンパク質ファミリーのメンバーにおける遺伝子異常が、腫瘍の発生および/または進行に寄与することを、複数の研究が暗示している(Papagerakis S, et al. (2003) Hum Pathol 34(6):565-72. ; Satoh S, et al. (2000) Nat Genet 24(3):245-50.)。PKP3の正常組織におけるより低い発現、NSCLCにおける発現上昇、ならびにこの遺伝子の抑制によるトランスフェクト細胞の生育、増殖、および/または生存の低下は、それが、新規の診断マーカー、ならびに/または新たな薬物および免疫療法のための標的として有用であるかもしれないことを示唆している(WO2004/31413)。しかしながら、発癌におけるPKP3の役割、または正常上皮細胞におけるその機能すら、完全には解明されていない。
【0007】
本明細書において、プラコフィリン3(PKP3)が、肺癌の予後指標として機能することを示す証拠が提示される。特に、高レベルのPKP3発現は、肺腺癌(ADC)を有する患者についての低い生存に関連し、ならびに病期およびリンパ節状態にも関連しており、この疾患の発生および進行におけるPKP3タンパク質の重要な役割を示唆している。本明細書におけるデータは、PKP3のアップレギュレーションが、高頻度であり肺癌発癌の重要な特性であることを示唆しているため、従って、本発明者らは、PKP3分子のターゲティングが、肺癌の臨床的管理のための新たな診断方法の開発にとって有望であることを提唱する。
【0008】
従って、患者由来の生物学的サンプルにおけるPKP3レベルを、対照サンプルのものと比較することにより、非小細胞肺癌を有する患者の予後を評価または判定する方法を提供することが、本発明の目的である。上昇した発現レベルは、低い生存の指標となる。特に、患者由来のサンプルにおいて測定されたPKP3の発現レベルが高いほど、処置後の寛解、回復、および/または生存の予後が不良となり、臨床的結果が不良となる可能性が高くなる。
【0009】
PKP3検出試薬を含む、NSCLC予後を評価するためのキットを提供することが、本発明のさらなる目的である。PKP3の発現レベルは、(a)mRNAのようなPKP3遺伝子の転写産物を検出する工程;(b)PKP3タンパク質を検出する工程、または(c)PKP3タンパク質の生物学的活性を検出する工程により決定され得る。対象由来の生物学的サンプルは、対象、例えば、非小細胞肺癌を有することが既知であるか、またはそれを有すると推測される患者に由来する任意のサンプルであり得る。好適な生物学的サンプルの例には、痰、血液、血清、血漿、または癌組織が含まれるが、これらに制限されない。好ましい態様において、生物学的サンプルは体液であり、より好ましくは、血液または血液由来のサンプルである。
【0010】
本発明のこれらおよびその他の目的は、添付の図面および添付の特許請求の範囲と合わせた以下の説明より明白になると考えられる。上記の発明の概要および以下の詳細な説明は、いずれも、好ましい態様のものであり、本発明または本発明のその他の代替的な態様を制限するものではないことを理解されたい。
【0011】
発明の詳細な記載
「a」、「an」、および「the」という単語は、本明細書において使用されるように、特記しない限り、「少なくとも一つの」を意味する。
【0012】
PKP3 cDNAは、配列番号:1に示されるような2394ヌクレオチドのオープン・リーディング・フレームを含有している2831ヌクレオチドからなる。そのオープン・リーディング・フレームは、配列番号:2に示されるようなアミノ酸配列を有する797アミノ酸タンパク質をコードする。
【0013】
PKP3は、重層上皮および単層上皮の細胞において合成されるアルマジロ(ARM)タンパク質のp120ctn/プラコフィリン・サブファミリーのメンバーである;アルマジロ分子は、選択的に合成されたデスモソーム・タンパク質間の物理的連結を提供する(Schmidt A, et al. (1999) Differentiation 64(5):291-306. ; Bonne S, et al. (2003) J Cell Biol 161(2):403-16. ; Bonne S, et al. (1999) J Cell Sci 112(Pt 14):2265-76.)。ARM関連タンパク質は、一般に、細胞接着および細胞骨格関連活性における構造的な役割を有しているが、これらは遺伝子発現に影響を与えるシグナルを発生し伝達することによりシグナル伝達機能も発揮し得る。プラコグロビン(PKGB)、β-カテニン(CTNNB1)、および大腸腺腫症(APC)を含むARMタンパク質ファミリーのメンバーにおける遺伝子異常が、腫瘍の発生および/または進行に寄与することを、複数の研究が暗示している(Papagerakis S, et al. (2003) Hum Pathol 34(6):565-72. ; Satoh S, et al. (2000) Nat Genet 24(3):245-50.)。
【0014】
本明細書において使用されるように、「対照レベル」という語句は、既知の疾患状態(例えば、無疾患、良性の予後群、および初期等)に関連したPKP3発現レベルを指す。対照レベルは、単一の既知のサンプルに関連した単一の測定値、または以前に試験された細胞からの発現パターンのデータベースに相当し得る。
【0015】
本明細書において、癌処置に関して、「有効な」という用語は、対象において、PKP3の発現の低下、または非小細胞肺癌のサイズ、罹病率、もしくは転移の可能性の減少をもたらす処置を指す。処置が予防的に適用される場合、「有効な」とは、その処置が、非小細胞肺癌の発症を遅延させるか、もしくは防止するか、または非小細胞肺癌の臨床的症状を軽減することを意味する。非小細胞肺癌の評価は、標準的な臨床プロトコルを使用してなされ得る。さらに、処置の有効性は、非小細胞肺癌を診断または処置するための任意の既知の方法に関連して判定され得る。例えば、非小細胞肺癌は、組織病理学的に、または慢性の咳、嗄声、喀血、体重減少、食欲不振、息切れ、喘鳴、気管支炎もしくは肺炎の反復的な発作、および胸痛のような症状の異常を同定することにより、診断される。
【0016】
患者由来の生物学的サンプルにおけるPKP3の発現レベルを、対照レベルと比較する工程を含む、非小細胞肺癌を有する患者の予後の評価に関して、PKP3発現の発現レベルの増加は、より不利な予後の指標となる。「予後」という用語は、症例の性質および症状により示されるような、疾患の推測的な結果に関する予測、ならびに疾患からの回復の見込みを指す。従って、負の、または予後不良とは、処置後のより低い生存期間または生存率により定義される。反対に、正の、または予後良好とは、処置後の上昇した生存期間または生存率により定義される。
【0017】
他に定義されない限り、本明細書において使用される技術用語および科学用語は、全て、本発明が属する技術分野の当業者により一般的に理解されるのと同一の意味を有する。矛盾する場合には、定義を含む本明細書が優先されると考えられる。
【0018】
本発明は、(対照レベルと比較して)比較的高いPKP3の発現レベルが、非小細胞肺癌(NSCLC)患者における予後不良に関連しているという所見に基づく。PKP3発現が、肺腺癌のような癌患者の予後不良に関連していることを示す、本明細書において提供された証拠を考慮して、本発明は、癌患者の予後を判定するための方法を提供する。一つの態様において、本発明の方法は、以下の工程を含む:
a. NSCLC予後を予測しようとする対象から採取した試料においてPKP3発現レベルを検出する工程、および
b. 検出されたPKP3発現が、良性の予後に関連した対照レベルと比較して上昇している場合を、予後不良の指標とする工程。
【0019】
本発明は、肺癌患者の予後を評価または判定するための方法を提供する。本発明の目的のため、「予後」という用語は、肺癌の進行、特に、NSCLCの再発生、転移性蔓延、および疾患再発の予測ならびに可能性分析を包含することを意図する。本発明の予後判定法は、治療的介入を含む処置様式、病期決定のような診断基準、ならびに腫瘍性疾患の転移または再発生に関する疾患のモニタリングおよび監視に関する決定を行う際に臨床的に使用されることを意図する。
【0020】
NSCLC予後および疾患の進行が、本発明によって予測され得る。特に、本発明は、肺腺癌(ADC)の予後の予測のために有用である。本発明に関して、NSCLC予後は、試験細胞集団(即ち、患者由来の生物学的サンプル)におけるPKP3の発現レベルを測定することにより予測される。好ましくは、試験細胞集団は、上皮細胞、例えば、肺組織から入手される細胞を含有している。遺伝子発現は、血液、または痰のようなその他の体液から測定されてもよい。その他の生物学的サンプルも、タンパク質レベルを決定するために使用され得る。例えば、評価すべき対象に由来する血液または血清におけるタンパク質のレベルが、イムノアッセイまたはその他の従来の生物学的アッセイによって測定され得る。これらの試験サンプルは、処置の前、途中、および/または後を含む、様々な時点において、対象から入手され得る。
【0021】
本発明に関して、PKP3の発現は、試験細胞または生物学的サンプルにおいて決定され、対照サンプルに関連した発現レベルと比較される。これに関して、予後良好群に関連したPKP3発現レベルの標準値が、本発明の方法の対照レベルとして有用であり得る。本発明の方法において、サンプル試料におけるPKP3発現レベルが、対照レベルのものと比較して高い場合には、そのサンプルは、上昇したPKP3の発現レベルを有すると見なされる。標準値は、当技術分野において公知の任意の方法により入手され得る。例えば、平均値±2 S.D.または平均値±3 S.D.という範囲が、標準値として使用され得る。対照サンプルおよび対象由来の試料におけるPKP3の発現レベルが、同時に決定されてもよい。
【0022】
または、サンプル組織の免疫組織化学的分析により強い染色が観察される場合、予後不良と判定され得る。予後不良を予測するためには、試料の染色の強度が、それを、強い染色結果を提供する対照試薬と比較することにより評価され得る。対照試薬は、PKP3発現細胞から、または発現レベルが強染色サンプルの発現レベルへ調整するため制御されている組織から調製され得る。PKP3発現細胞には、腫瘍に由来する細胞または細胞系が含まれ得る。さらに、PKP3発現細胞は、PKP3発現ベクターによる好適な宿主細胞のトランスフェクションによっても調製され得る。
【0023】
本発明において、「予後の評価」とは、NSCLC患者の予後が判定されることを意味する。対象サンプルにおけるPKP3発現レベルが、対照サンプルに関連した範囲内にある場合、その対象は予後良好であると予測される。反対に、対象サンプルにおけるPKP3発現レベルが、対照サンプルに関連した範囲を超えている場合、その対象は予後不良であると予測される。例えば、対照サンプルと比較した、患者由来の組織サンプルにおけるPKP3の発現のレベルの増加は、対象が予後不良であることを示す。換言すると、PKP3の発現レベルが、予後良好群における発現レベルに近い場合、その対象は予後良好であると予測される。
【0024】
本発明の方法において、PKP3の発現レベルは、
(a)配列番号:2のアミノ酸配列をコードするmRNAを検出する工程、
(b)配列番号:2のアミノ酸配列を含むタンパク質を検出する工程、および
(c)配列番号:2のアミノ酸配列を含むタンパク質の生物学的活性を検出する工程
からなる群より選択されるいずれかの方法によって検出され得る。
【0025】
本発明において、mRNA、タンパク質、またはタンパク質の生物学的活性は、任意の方法によって検出され得る。所定のタンパク質、mRNA、またはそれらの生物学的活性を検出するための方法は、当業者に周知である。例えば、mRNAは、公知のPCRまたはハイブリダイゼーションに基づく技術を使用して検出され得る。または、任意のイムノアッセイ方式が、タンパク質を検出するために適用され得る。PKP3の生物学的活性も、任意の好適な方法を使用して決定され得る。
【0026】
本発明において、予後不良の評価は、さらなる処置を決定するため、例えば、生活の質を低下させるさらなる処置を中止するため、以前に使用されたものとは異なる様式で癌を処置するため、または癌をより積極的に処置するため、使用され得る。従って、PKP3発現レベルを指標として使用した予後の評価により、最終的には、従来の臨床的病期決定の情報を必要とすることなく、組織サンプリングのためのルーチンの手法のみを使用して、臨床医が個々の各NSCLC患者のための最も適切な処置を予め選ぶことが可能になるはずである。
【0027】
本発明は、PKP3検出試薬を含む、NSCLC予後を評価するためのキットも提供する。例えば、本発明に関して、PKP3検出試薬には、
(a)配列番号:2のアミノ酸配列をコードするmRNAを検出するための試薬、
(b)配列番号:2のアミノ酸配列を含むタンパク質を検出するための試薬、および
(c)配列番号:2のアミノ酸配列を含むタンパク質の生物学的活性を検出するための試薬
からなる群より選択される一つまたは複数の成分が含まれ得る。
【0028】
好適なPKP3検出試薬には、PKP3核酸配列の一部に相補的なオリゴヌクレオチド配列、またはPKP3核酸によりコードされたタンパク質に結合する抗体のような、特異的にPKP3核酸と結合するか、またはそれを同定する核酸が含まれる。
【0029】
PKP3検出試薬は、合わせてキットの形態へとパッケージングされ得る。例えば、試薬は、別々の容器にパッケージングされ得、例えば、(固体マトリックスに結合した、もしくはそれをマトリックスに結合させるための試薬と共に別々にパッケージングされた)核酸もしくは抗体が一つの容器に、対照試薬(陽性および/もしくは陰性)が第二の容器に、ならびに/または検出可能な標識が第三の容器にパッケージングされ得る。正常肺、予後良好である肺癌対象、および予後不良である肺癌対象から入手された組織サンプルが、本発明に関する対照試薬として有用である。さらに、PKP3発現細胞が、PKP3発現ベクターにより好適な宿主細胞をトランスフェクトすることにより調製されてもよい。PKP3を発現する形質転換体は、対照試薬として使用され得る。特に、予後良好に関連した肺癌サンプルおよび予後不良である肺癌サンプルのものと同一のPKP3発現レベルを示す形質転換体は、本発明の比較工程において有用な好ましい対照試薬である。アッセイを実施するための操作説明書(例えば、文書、テープ、CD-ROM等)も、キットに含まれ得る。キットのアッセイ方式は、ノーザン・ハイブリダイゼーションまたはサンドイッチELISAであり得、両者はいずれも当技術分野において慣習的なものである。
【0030】
例えば、PKP3検出試薬は、少なくとも一つのPKP3検出部位が形成されるよう、多孔性ストリップのような固体マトリックスに固定化され得る。多孔性ストリップの測定領域または検出領域は、各々核酸を含有している複数の部位を含み得る。テストストリップは、陰性対照および/または陽性対照のための部位も含有し得る。または、対照部位は、テストストリップとは別のストリップ上に位置付けられてもよい。任意で、異なる検出部位は、異なる量の固定化された核酸を含有し得り、即ち、第1の検出部位においてより高い量を含有し、後続の部位においてより少ない量を含有し得る。試験サンプルの添加により、検出可能なシグナルを表示する部位の数が、サンプル中に存在するPKP3の量の定量的な指標を提供する。検出部位は、任意の好適に検出可能な形状で配置され得、典型的には、テストストリップの幅に及ぶバーまたはドットの形状で配置される。
【0031】
さらに、免疫組織化学的分析も、組織サンプル中のタンパク質のレベルを評価するための周知の技術である。例えば、抗PKP3抗体(一次抗体)を含むPKP3検出試薬は、直接連結または間接標識技術を介してシグナル発生分子により標識され得る。一次抗体を認識する抗免疫グロブリン抗体が、一次抗体の間接標識技術のための二次抗体として使用され得る。二次抗体は、好適なシグナル発生分子、またはビオチンのような結合リガンドにより標識され得る。任意の酵素、発色団、蛍光体、および発光団が、免疫組織化学的分析のためのシグナル発生分子として使用され得る。ビオチンリガンドは、さらにアビジン-ペルオキシダーゼを結合していてもよい。
【0032】
本明細書において記載されたものと類似または等価の方法および材料が、本発明の実施または試行において使用され得るが、好適な方法および材料が以下に記載される。しかしながら、以下の実施例は、本発明を例示し、その作成および使用において当業者を補助することを意図するに過ぎない。従って、実施例は、決して他に本発明の範囲を制限することを意図しない。
【0033】
実施例
実施例1:材料および方法
(a)免疫組織化学および組織マイクロアレイ
臨床サンプル(パラフィン・ブロックに包埋された正常肺組織およびNSCLC)におけるPKP3タンパク質の存在を調査するため、ENVISION+ Kit/西洋ワサビ・ペルオキシダーゼ(HRP)(DakoCytomation, Glostrup, Denmark)を使用して切片を染色した。簡単に説明すると、マウス・モノクローナル抗ヒトPKP3抗体を、内因性のペルオキシダーゼおよびタンパク質をブロッキングした後に添加し、二次抗体としてのHRP標識抗マウスIgGと共に切片をインキュベートした。基質-色原体を添加し、試料をヘマトキシリンで対比染色した。
【0034】
腫瘍組織マイクロアレイを、以前に記載された293のホルマリン固定されたNSCLCを使用して構築した(Kononen J, et al. (1998) Nat Med 4(7): 844-7. ; Chin SF, et al. (2003) Mol Pathol 56(5):275-9. ; Callagy G, et al. (2003) Diagn Mol Pathol 12(1):27-34. ; Sauter G, et al. (2003) Nat Rev Drug Discov 2(12):962-72.)。サンプリングのための各区域は、スライド上の対応するHE染色切片との視覚的なアラインメントに基づき選択された。各ドナー腫瘍ブロックから採取された3つ、4つ、または5つの組織コア(直径0.6mm;高さ3mm〜4mm)を、組織マイクロアレイヤー(tissue microarrayer)(Beecher Instruments, Sun Prairie, WI)によってレシピエント・パラフィン・ブロックへと置いた。正常組織のコアを各症例からパンチし、得られたマイクロアレイ・ブロックの5μm切片を免疫組織化学的分析のために使用した。
【0035】
PKP3レベルは、臨床追跡データを予め知らされていない3人の独立した研究者により、染色強度によって、存在しない(0としてスコア化)、弱い(1+としてスコア化)、強く陽性(2+としてスコア化)として半定量的に評価された。調査員が独立にそのように定義した場合にのみ、症例は強く陽性として認められた。NSCLC患者におけるPKP3発現とリンパ節転移および腫瘍期との関係を分析するために、分割表を使用し;患者生存との相関は、カプラン-マイヤー法により評価した。群間の統計的な差は、ログ・ランク検定により判定した。腫瘍特異的生存データは、病院の記録の閲覧および/または担当医との通信により入手した。合計279人の患者(ADC 155人、SCC 95人、LCC 15人、BAC 10人、およびASC 4人)を、手術の時点から最後の既知の追跡までの間評価した。
【0036】
実施例2:PKP3高発現と疾患進行との関連
組織アレイを使用して、臨床的な肺癌において、PKP3発現を調査した。ADCの98%(157/160)、SCCの97%(99/102)、LCCの94%(16/17)、BACの100%(10/10)、およびASCの100%(4/4)において、陽性の染色が、主として細胞膜および/または細胞質に出現し、いくつかの核に弱く(斑点として)出現した。これらの腫瘍は、全て、外科的に切除可能なNSCLCであり、隣接する正常肺組織では、染色は観察されなかった(図1A〜D)。PKP3発現のパターンを、組織アレイ上で、存在しない/弱い(0〜1+としてスコア化)から強い(2+としてスコア化)にまで変動するものとして分類した。SCCにおいて、強いPKP3染色は、臨床病理学的因子のいずれにも関連していなかった。しかしながら、ADCにおいては、PKP3の発現レベルは、リンパ節状態(N0対N1、N2:P=0.0017;カイ二乗検定)および臨床的病期(病期I対II、IIIa:P=0.009;カイ二乗検定)に有意に関連していた。LCC、BAC、およびASCのサンプルサイズは小さすぎたため、さらに評価することはできなかった。
【0037】
腫瘍特異的生存時間との関連が存在するか否かを判定するため、PKP3発現のレベルを調査した。SCC患者においては、強いPKP3染色は、腫瘍特異的生存不良と相関していなかった(ログ・ランク検定によりP=0.66);しかしながら、PKP3を過剰発現している腫瘍を有するADC患者は、存在しない/弱いPKPS発現を有するものと比較して、より短い腫瘍特異的生存を有していた(ログ・ランク検定によりP=0.009;図1E)。一変量分析を使用して、臨床的病期(P=0.0001;スコア検定)、リンパ節状態(P<0.0001;スコア検定)、腫瘍サイズ(T1対T2、T3、T4:P=0.0076;スコア検定)、およびPKP3高発現(P=0.009;スコア検定)が、ADCを有する患者の予後不良についての重要な相関的な特性であることが判定された。
【0038】
産業上の利用可能性
本発明者らは、プラコフィリン3(PKP3)が肺癌の予後指標として有用であることを示し、従って、本発明は、非小細胞肺癌(NSCLC)予後を評価または判定する方法を提供する。従って、本発明は、従来の臨床的病期決定の情報がない場合ですら、組織サンプリングのためのルーチンの手法のみを使用して、臨床医が個々の各NSCLC患者のための最も適切な処置を予め選ぶことを可能にするであろう。本明細書において引用された全ての特許、特許出願、および刊行物は、参照として完全に本明細書に組み入れられる。
【0039】
詳細に、かつ特定の態様に関して本発明が記載されたが、本発明の本旨および範囲から逸脱することなく、その中で様々な変更および修正がなされ得ることは、当業者には明らかであると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】NSCLC患者におけるPKP3過剰発現と臨床的結果不良との関連を示す。特に、図1A〜1Dは、組織マイクロアレイにおけるPKP3発現の免疫組織化学的評価を示す(×100)。肺SCCにおけるPKP3の強い発現(A)、弱い発現(B)、および存在しない発現(C)、ならびに正常肺における無発現(D)の例が示されている。E、PKP3発現による、ADCを有する患者における腫瘍特異的生存のカプラン-マイヤー分析(P=0.009;ログ・ランク検定)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非小細胞肺癌(NSCLC)予後を評価する方法であって、以下の工程を含む方法:
a. NSCLC予後を予測しようとする対象から採取した試料においてPKP3発現レベルを検出する工程、および
b. 検出されたPKP3発現レベルが、良性の予後に関連した対照レベルと比較して上昇している場合を、予後不良の指標とする工程。
【請求項2】
NSCLCが肺腺癌である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
試料中のPKP3が、以下の工程により検出される請求項1記載の方法:
a. 試料をPKP3タンパク質を認識する抗体と接触させる工程;および
b. 試料と結合した抗体を検出する工程。
【請求項4】
PKP3タンパク質を認識する抗体、ならびに
a. 配列番号:2のアミノ酸配列をコードするmRNAを検出するための試薬、
b. 配列番号:2のアミノ酸配列を含むタンパク質を検出するための試薬、および
c. 配列番号:2のアミノ酸配列を含むタンパク質の生物学的活性を検出するための試薬
からなる群より選択される薬剤を含む、非小細胞肺癌(NSCLC)の予後を評価するためのキット。

【図1】
image rotate


【公表番号】特表2008−516583(P2008−516583A)
【公表日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−509755(P2007−509755)
【出願日】平成17年10月18日(2005.10.18)
【国際出願番号】PCT/JP2005/019458
【国際公開番号】WO2006/043692
【国際公開日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【出願人】(502240113)オンコセラピー・サイエンス株式会社 (142)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】