説明

肺癌の治療標的及び予後指標としてのIMP−1癌遺伝子

IMP-1は、試験された肺癌の大多数において、多量に発現されていた。IMP-1の陽性免疫染色は、腫瘍サイズ(pT分類;P=0.0003)、非腺癌組織像(P<0.0001)、低い組織学的悪性度(P=0.0001)及び予後不良(P=0.0053)と相関があった。siRNAを用いたIMP-1発現の抑制は、NSCLC細胞の増殖を効果的に抑制した。IMP-1は、シグナル伝達、細胞周期の進行、細胞接着及び細胞骨格、並びに様々なタイプの酵素活性に関与する様々なタンパク質をコードするmRNAに対する結合能を有していた。これらの結果は、IMP-1発現が肺癌の発症及び進行において重要な役割を果たしている可能性があり、IMP-1が予後マーカー及び肺癌治療のための有望な治療標的であることを示唆する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2006年8月18日に提出された米国特許仮出願第60/838,750号の恩典を主張し、これらの出願の内容は、それらの全体において、参照により本願明細書に組み入れられる。
【0002】
本発明は癌の検出、診断及び予後予測方法と同様に癌の治療及び予防方法に関する。
【背景技術】
【0003】
肺癌は世界的に癌死の最も一般的な原因のうちの1つであり、非小細胞肺癌(NSCLC)はそれらの症例のほぼ80%を占める(Greenlee, R. T., et al. Cancer statistics, 2001. CA Cancer J Clin, 51: 15-36, 2001.)。組織学的亜型に関係なく、肺癌患者の5年生存率は約10-15%で推移する(Jemal A, et al., (2004) CA Cancer J Clin、 54: 8-29. Naruke T, et al., (1998) J Thorac Cardiovasc Surg、 96: 440-7.)。事実、ステージIAと診断されるそれらの患者でさえ、80%未満の5年生存率を有する(Naruke T, et al., (1998) J Thorac Cardiovasc Surg、 96: 440-7. Chang MY and Sugarbaker DJ. (2003) Semin Surg Oncol、 21: 74-84.)。
【0004】
肺癌の発生及び進行に関係する多くの遺伝的変化が報告されているが、正確な分子機序は、不明なままである(Sozzi, G. Eur J Cancer, 37 Suppl 7: S63-73, 2001.)。最近10年間において、パクリタキセル、ドセタキセル、ゲムシタビン及びビノレルビンを含む新たに開発された細胞毒性薬剤は、進行期NSCLC患者に対して複数の治療上の選択肢の提供をもたらした。しかしながら、それらの療法は、シスプラチンに基づく治療と比較して限定された延命効果しかもたらさない(Schiller, J. H., et al. N Engl J Med, 346: 92-98, 2002.、 Kelly, K., et al. J Clin Oncol, 19: 3210-3218, 2001.)。EGFR経路を標的とする最近開発された薬剤、例えばエルロチニブ(タルセバ、OSI Pharmaceuticals)及びゲフィチニブ(イレッサ、AstraZeneca)は、NSCLC患者の一部に非常に有効であることが示された。しかしながら、あらゆる利用可能な治療が適用されたとしても、良い反応を示す患者の比率は依然として非常に限定的である(Lynch, T. J., et al. N Engl J Med, 350: 2129-2139, 2004.、 Paez, J. G., et al. Science, 304: 1497-1500, 2004.、 Tsao, M. S., et al. N Engl J Med, 353: 133-144, 2005.、 Shepherd, F. A., et al. N Engl J Med, 353: 123-132, 2005.)。それ故、新規な治療戦略が、強く待ち望まれている。
【0005】
cDNAマイクロアレイを用いた何千もの遺伝子の発現レベルの系統的解析は、新規治療法及び診断法の開発のための候補として供され得る発癌の経路に関係する分子を同定するための有効なアプローチである。肺癌の診断及び/又は治療のための有力な分子標的を単離する試みにおいて、本発明者らは、レーザーキャプチャーマイクロダイセクション法により純化された腫瘍細胞群を用いて、27,648の遺伝子を含むcDNAマイクロアレイ上で、様々なタイプの肺癌細胞のゲノム全域にわたる発現プロファイルを分析した(本願明細書に参照として組み入れられるWO2004/31413を参照、Kikuchi, T., et al. Oncogene, 22: 2192-2205, 2003.、 Kakiuchi S, et al. Hum Mol Genet, 13: 3029-3043, 2004.もまた参照)。それぞれの遺伝子産物の生物学的及び臨床病理学的な重要性を確認するために、本発明者らは、臨床肺癌材料の腫瘍組織マイクロアレイ解析もまた行った(Ishikawa, N., et al. Clin Cancer Res, 10: 8363-8370, 2004.、 Kato, T., et al. Cancer Res, 65: 5638-5646, 2005.、 Furukawa, C., et al. Cancer Res, 65: 7102-7110, 2005.、 Suzuki, C., et al. Cancer Res, 65: 11314-11325, 2005.)。このシステマティックなアプローチを用いることにより、本発明者らは、IGF-II mRNA結合タンパク質1(IMP-1(別名、CRDBP、c-myc coding region determinant binding protein、GenBank Accession No. NM_006546、SEQ ID NO: 11によってコードされるSEQ ID NO: 12) が、主要なNSCLCsにおいて、しばしば過剰発現していることを発見した。
【0006】
IMP-1は、ZBPs(zipcode-binding proteins)ファミリーのメンバーであり、それは、同じ脊椎動物のRNA結合タンパク質ファミリーのオルソロガスでパラロガスなメンバーを含み、2つのRRMs(RNA recognition motifs)及び4つのKH(K homology)ドメインから構成される(Nielsen, ., et al. Biochem J, 376: 383-391, 2003.)。IMP-1は、多くの胚組織において、発現している。マウス胚からの全RNAの解析は、胎生期12.5日目にピークのIMP-1発現を示し、続いて出生に向かって減少し、出生後間もない新生仔マウスにおいて、その発現は消滅した(Nielsen, J., et al. Mol Cell Biol, 19: 1262-1270, 1999.)。IMP-1は、いくつかのヒト癌において、過剰発現しており、そのRNA標的の転写後の運命の決定において、様々な役割を果たし、細胞質において、局在化の特徴的なパターンを示す核細胞質間輸送タンパク質として振舞う(Nielsen, J., et al. Biochem J, 376: 383-391, 2003.、 Ross, J., et al. Oncogene, 20: 6544-6550, 2001.、 Ioannidis, P., et al. Int J Cancer, 104: 54-59, 2003.、 Ioannidis, P., et al. Cancer Lett, 209: 245-250, 2004.、 Gu, L., et al. Int J Oncol, 24: 671-678, 2004.、 Nielsen, F. C., et al. J Cell Sci, 115: 2087-2097, 2002.、 Runge, S., et al. J Biol Chem, 275: 29562-29569, 2000.)。前記タンパク質は、微小管に沿って分布しており、運動性細胞において、先端に向かって輸送されている可能性がある。その核外移行及び細胞質での移動は結合するRNAに依存し、それは、IMP-1が核において、その標的を認識し、それらの細胞質での運命を定めることを意味する。IMP-1は、タンパク質存在量における細胞内非対称生成のための発生システム上の特に重要なメカニズムである細胞質内のRNA局在化を定義することによって、遺伝情報を分極化することにおいて、重要な役割を果たしていることが示された。H19 RNAはIMP-1と共局在化しており、高親和性付着部位の除去は切断RNAの非局在化を導き((Runge, S., et al. J Biol Chem, 275: 29562-29569, 2000.)、それは、MIP-1がmRNAの細胞質輸送に関係していることを示唆する(Nielsen, F. C., et al. J Cell Sci, 115: 2087-2097, 2002.)。
【0007】
本願明細書において、本発明者らは、新規の予後予測マーカー及び治療薬剤の候補標的としてのIMP-1の同定を報告し、更に細胞増殖及び浸潤に関連するタンパク質をコードする様々なmRNAにそれが結合することを通して、ヒトの肺癌発症におけるその考えられる役割に対する証拠を提供する。
【0008】
近年、遺伝子特異的なsiRNAを用いた癌治療の新たな取り組みが、臨床試験において、試みられた(Bumcrot D et al., Nat Chem Biol 2006 Dec, 2(12): 711-9)。RNAiは、主要技術基盤の中での地位をすでに得たようである(Putral LN et al., Drug News Perspect 2006 Jul-Aug, 19(6): 317-24、 Frantz S, Nat Rev Drug Discov 2006 Jul, 5(7): 528-9、 Dykxhoorn DM et al., Gene Ther 2006 Mar, 13(6): 541-52)。にもかかわらず、RNAiが臨床使用に適用されることが可能となる前に、直面しなければならないいくつかの課題がある。これらの課題には、生体内でのRNAの低い安定性(Hall AH et al., Nucleic Acids Res 2004 Nov 15, 32(20): 5991-6000, Print 2004、 Amarzguioui M et al., Nucleic Acids Res 2003 Jan 15, 31(2): 589-95)、薬剤としての毒性(Frantz S, Nat Rev Drug Discov 2006 Jul, 5(7): 528-9)、デリバリーの方法、使用するsiRNA又はshRNAの正確な配列、及び細胞型特異性が含まれる。部分的に相同な遺伝子のサイレンシング、あるいは、インターフェロン応答の活性化によるユニバーサルな遺伝子抑圧の誘導に関連した起こり得る毒性があることは、よく知られた事実である(Judge AD et al., Nat Biotechnol 2005 Apr, 23(4): 457-62, Epub 2005 Mar 20、 Jackson AL & Linsley PS, Trends Genet 2004 Nov, 20(11): 521-4)。そのため、その分子が有害な副作用を有さない、癌特異的な遺伝子を標的とする二本鎖分子が、抗癌剤の開発のために必要とされる。
【発明の概要】
【0009】
発明の開示
本発明は、癌細胞におけるIMP-1遺伝子の特異的な発現パターンの発見に基づく。
【0010】
様々なタイプの肺癌細胞におけるゲノム全体の遺伝子発現プロファイルの解析によって、その発現が共通に上方制御された一群の遺伝子が同定された。前記遺伝子の中から、本発明者らは、さらなる研究のための遺伝子IMP-1(IGF-IImRNA結合タンパク質1)を選択した。IMP-1遺伝子の発現は、肺癌において増強されることが、本発明者らにより検出された。本発明の過程で、さらにIMP-1遺伝子が腺癌(ADCs)、扁平上皮癌(SCCs)及び小細胞肺癌(SCLC)を含む非小細胞肺癌(NSCLC)において、しばしば上方制御されることが示された。さらにまた、前記遺伝子によって、コードされるタンパク質は、そのRNA標的の転写後運命を決定することにおいて、様々な役割を果たし、細胞質において、特徴的なパターンの局在化を示す核細胞質間輸送タンパク質として作用することが見出された(Nielsen, J., et al. Biochem J, 376: 383-391, 2003.、 Ross, J., et al. Oncogene, 20: 6544-6550, 2001.、 Ioannidis, P., et al. Int J Cancer, 104: 54-59, 2003.、 Ioannidis, P., et al. Cancer Lett, 209: 245-250, 2004.、 Gu, L., et al. Int J Oncol, 24: 671-678, 2004.、 Nielsen, F. C., et al. J Cell Sci, 115: 2087-2097, 2002.、 Runge, S., et al. J Biol Chem, 275: 29562-29569, 2000.)。さらに、低分子干渉RNA(siRNA)によるIMP-1遺伝子の抑制がNSCLC細胞の増殖阻害及び/又は細胞死をもたらしたため、この遺伝子は、様々なタイプのヒト腫瘍のための新規治療標的として役立つ可能性がある。
【0011】
その転写及び翻訳産物と同様に、本願明細書において、同定されるIMP-1遺伝子は、癌のマーカーとして、及び癌症状の治療又は緩和のためにその発現及び/又は活性を変化させる癌遺伝子標的として、診断上の有用性を見出す。同様に、化合物に起因するIMP-1遺伝子の発現の変化を検出することによって、様々な化合物が、癌を治療又は予防するための薬剤として同定され得る。
【0012】
したがって、本発明は、例えば組織試料のような対象由来の生体試料におけるIMP-1遺伝子の発現レベルを決定することによって、対象における癌の診断又は癌を発症する素因を判定する方法を提供する。正常対照レベルと比較して増大している遺伝子の発現レベルは、対象が癌に罹患しているか、又は癌を発症するリスクがあることを示す。正常対照レベルは、非癌組織から得られる正常細胞を用いて決定され得る。
【0013】
本発明において、好ましい癌は、NSCLCである。
【0014】
本発明の文脈において、「対照レベル」という用語は、対照試料において検出されるIMP-1遺伝子の発現レベルを意味し、正常対照レベルと癌対照レベルとを含む。対照レベルは、単一の参照集団に由来する単一の発現パターン又は複数の発現パターンに由来する単一の発現パターンであり得る。例えば、対照レベルは、過去に試験された細胞からの発現パターンのデータベースであり得る。「正常対照レベル」とは、正常な健常個体、又は、癌に罹患していないことが既知である個体集団において検出されるIMP-1遺伝子発現のレベルを意味する。正常な個体は、癌の臨床症状を有さない個体である。他方、「癌対照レベル」は、癌に罹患している個体又は集団において見出されるIMP-1遺伝子の発現レベルを意味する。
【0015】
試料において検出されたIMP-1遺伝子の発現レベルが正常対照レベルと比較して上昇していることは、対象(試料が得られた対象)が癌に罹患しているか又は癌を発症するリスクがあることを示す。
【0016】
あるいは、試料におけるIMP-1遺伝子を含む遺伝子パネルの発現レベルが、同じ遺伝子パネルの癌対照レベルと比較され得る。試料の発現レベルと癌対照レベルとの間の類似は、対象(試料が得られた対象)が癌に罹患しているか又は癌を発症するリスクがあることを示す。
【0017】
本願明細書においては、遺伝子発現が対照レベルから例えば10%、25%、又は50%増加しているか又は減少しているとき、あるいは、対照レベルと比較して少なくとも0.1倍、少なくとも0.2倍、少なくとも1倍、少なくとも2倍、少なくとも5倍又は少なくとも10倍又はそれ以上増加しているか又は減少しているとき、遺伝子発現レベルが「変化した」とされる。IMP-1遺伝子の発現レベルは、例えば、試料中の遺伝子転写産物に対する核酸プローブのハイブリダイゼーション強度を検出することによって決定され得る。
【0018】
本発明の文脈において、対象由来の組織試料は、試験対象、例えば、癌を有することが既知である又は癌を有する疑いのある患者から得られる如何なる組織でもあってもよい。例えば、組織は、上皮細胞を含み得る。より具体的には、組織は、癌性上皮細胞であってもよい。
【0019】
本願明細書において、IMP-1の過剰発現が肺癌の進行と関連しており、結果として肺癌患者の予後不良をもたらすという証拠を提供する。それゆえ、IMP-1遺伝子は、肺癌の有用な予後指標となり得る。特に、摘出検体におけるIMP-1の過剰発現は、予後不良となりそうな患者に対する術後補助療法の適用のための有用な指標となり得る。さらに、IMP-1の上方制御は肺癌発症においてよく見られる重要な特徴であるため、本発明者らは、それゆえに、IMP-1分子のターゲッティングが肺癌の臨床管理のための新たな診断戦略の開発にとって有望であることを提唱する。
【0020】
したがって、患者由来の生体試料中のIMP-1レベルを、対照試料のIMP-1レベルと比較することによって、非小細胞肺癌患者の予後を評価又は判定する方法を提供することが、本発明の目的である。上昇した発現レベルは、処置後の寛解、回復及び/又は生存の予後不良を示し、より高率に不良な臨床転帰となる可能性を示す。NSCLCの予後を評価するキット、例えばIMP-1検出試薬を含むキットを提供することが、本発明のさらなる目的である。
【0021】
本発明は、さらに、IMP-1を発現している試験細胞を、試験化合物と接触させ、IMP-1遺伝子の発現レベル又は遺伝子産物の活性を測定することにより、IMP-1の発現又は活性を阻害又は促進する化合物を同定する方法を提供する。試験細胞は、上皮細胞、例えば癌性上皮細胞であってもよい。試験化合物非存在下における対照レベルと比較して、遺伝子発現レベル又はその遺伝子産物の活性が減少することは、試験化合物が、癌の症状を低減するために使用され得ることを示す。
【0022】
本発明の治療方法は、対象にアンチセンス組成物を投与する工程を含む、対象の癌を治療又は予防する方法を含む。本発明の文脈において、アンチセンス組成物は、特定の標的遺伝子(すなわち、IMP-1遺伝子)の発現を減少させる。例えば、アンチセンス組成物は、IMP-1遺伝子配列と相補的であるヌクレオチドを含むことができる。あるいは、本方法は、対象にsiRNA組成物を投与する工程を含むことができる。本発明の文脈において、siRNA組成物は、IMP-1遺伝子の発現を減少させる。さらなる他の方法において、対象の癌の治療又は予防は、対象にリボザイム組成物を投与することによって、行ってもよい。本発明の文脈において、核酸特異的なリボザイム組成物は、IMP-1遺伝子の発現を減少させる。実際に、本発明者らは、IMP-1遺伝子に対するsiRNAの阻害効果を確認した。例えば、実施例の項において、siRNAによる癌細胞の細胞増殖阻害が実証され、それは、IMP-1遺伝子が、癌の好適な治療標的となるという事実をサポートする。
【0023】
本願明細書において記載された方法の利点は、癌の明らかな臨床症状の検出の前に、病気が同定されるということである。本発明の他の特徴及び利点は、以下の詳細な説明及び特許請求の範囲から明らかとなるであろう。しかしながら、前述の発明の概要と以下の詳細な説明は、いずれも、好適な態様であって、本発明又は本発明のその他の代替的な態様を制限するものではないということを理解されたい。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】図1は、肺腫瘍及び正常組織のIMP-1の発現を示す。パートA:半定量的RT-PCRによって調べられた、NSCLCの臨床試料(T)及び対応する正常肺組織(N)におけるIMP-1の発現。パートB:半定量的RT-PCRによって示された、肺癌細胞株におけるIMP-1転写産物の発現。パートC:抗IMP-1抗体の特異性。IMP-1,2及び3発現ベクターを導入されたNCI-H520細胞由来の可溶化液を用いて、IMP-1タンパク質のみに反応し、他の同族タンパク質であるIMP-2及びIMP-3との交差反応がないことを示す(左パネル)。ウェスタンブロット解析による肺癌細胞株でのIMP-1タンパク質の発現(右パネル)。ACTBの発現は量的対照である。パートD:ノーザンブロット解析によって検出された、正常ヒト組織におけるIMP-1の発現。
【図2】図2は、IMP-1の過剰発現とNSCLC患者の予後不良との関連性を示す。パートA:肺癌(SCC、x100)及び正常肺におけるIMP-1の陽性発現又は陰性発現の代表例。抗IMP-1ウサギポリクローナル抗体を用いたヘマトキシリンとの免疫組織化学的対比染色によるIMP-1タンパク質の検出。パートB:拡大図(SCC、x200)。パートC:IMP-1発現レベルに基づくNSCLC患者における腫瘍特異的生存率のカプラン・マイヤー分析。
【図3】図3は、IMP-1に対するsiRNAによるNSCLC細胞の増殖阻害を示す。パートA:si-IMP-1又は対照siRNA(si-EGFP又はsi-Scramble)に対するA549細胞の反応。対照又はsi-IMPのいずれかで処理された細胞における、半定量的RT-PCRにより検出されたIMP-1発現レベルは、上のパネルに示される。IMP-1(#1-#3)に対するsiRNAを導入されたA549細胞を用いたコロニー形成アッセイは、下のパネルに示される。パートB: MTTアッセイによって検出された、細胞生存率に及ぼすIMP-1に対するsiRNAの影響。
【発明を実施するための形態】
【0025】
発明の詳細な説明
本願明細書中で使用する「1つ(a、an)」及び「その(the)」という用語は、別途特に示されない限り、「少なくとも1つ」を意味する。
【0026】
本願明細書中で物質(例えば、ポリペプチド、抗体、ポリヌクレオチド等)に関して使用された場合において、「単離された(isolated)」及び「精製された(purified)」という用語は、さもなければ天然物においては含まれているであろう少なくとも一つの物質を実質的に含まないことを意味する。それゆえに、単離された又は精製された抗体は、そのタンパク質(抗体)が由来する細胞又は組織起源の細胞物質、例えば、炭水化物、脂質又は他のタンパク質含有物を実質的に含まないことを意味し、化学合成された場合には、化学的前駆体又は他の化学物質を実質的に含まないことを意味する。「細胞材料を実質的に含まない」という用語は、ポリペプチドが単離又は組換え技術によって生産された細胞の細胞成分から分離されているポリペプチド調製品を含む。それゆえ、実質的に細胞物質を含まないポリペプチドは、約30%、20%、10%又は5%(乾燥重量による)未満の異種タンパク質(本願明細書においては、「夾雑タンパク質」とも称される)を有するポリペプチド調製品を包含する。ポリペプチドが組換え技術によって生産された場合には、培養培地を実質的に含まないこともまた好ましく、それは、タンパク質調製品の体積の約20%、10%又は5%未満の培養培地を含むポリペプチド調製品を包含する。ポリペプチドが化学合成によって生産された場合には、化学的前駆体又は他の化学物質を実質的に含まないことが好ましく、それは、タンパク質調製品の体積の約30%、20%、10%、5%(乾燥重量による)未満のタンパク質合成にかかわる化学的前駆体又は他の化学物質を含むポリペプチド調製品を包含する。特定のタンパク質調製品が単離又は精製されたポリペプチドを含むことは、例えば、タンパク質調製品のドデシル硫酸ナトリウム(SDS)-ポリアクリルアミドゲル電気泳動及びクマシーブリリアントブルー染色又はゲルに類似したものによる単一バンドの出現によって、示され得る。好ましい実施態様において、本発明の抗体は、単離又は精製されている。
【0027】
「単離された」又は「精製された」核酸分子、例えばcDNA分子は、他の細胞物質、あるいは、組換え技術によって生産された場合には培養培地、あるいは、化学合成された場合には化学的前駆体又は他の化学物質を、実質的に含まないものであり得る。好ましい実施態様において、本発明の抗体をコードする核酸分子は、単離又は精製されている。
【0028】
「ポリペプチド」、「ペプチド」及び「タンパク質」という用語は、アミノ酸残基のポリマーを意味するために、本願明細書において、互換的に用いられる。この用語は、天然アミノ酸ポリマーと同様に、一つ以上のアミノ酸残基が、修飾残基であったり、非天然残基、例えば天然アミノ酸の人工化学模倣体であるようなアミノ酸ポリマーにも適用される。
【0029】
「アミノ酸」という用語は、天然及び合成アミノ酸を意味するほか、天然アミノ酸と同様に機能するアミノ酸類似体及びアミノ酸模倣体をもまた意味する。天然アミノ酸は、遺伝暗号によってコードされるもののほか、細胞内で翻訳後修飾されたもの(例えば、ヒドロキシプロリン、γ-カルボキシグルタミン酸、及びO-ホスホセリン)をも意味する。「アミノ酸類似体」という用語は、天然アミノ酸と同じ基本化学構造(水素、カルボキシ基、アミノ基及びR基に結合するα炭素)を有し、改変されたR基又は改変された骨格を有する化合物(例えば、ホモセリン、ノルロイシン、メチオニン、スルホキシド、メチオニンメチルスルホニウム)を意味する。「アミノ酸模倣体」という用語は、一般的なアミノ酸と構造は異なるが同様な機能を有する化合物を意味する。
【0030】
アミノ酸は、本願明細書において、一般に知られた三文字記号又はIUPAC-IUBの生化学物質命名委員会(Biochemical Nomenclature Commission)により推奨される一文字記号によって、表記され得る。
【0031】
「ポリヌクレオチド」、「オリゴヌクレオチド」、「ヌクレオチド」、「核酸」及び「核酸分子」という用語は、特に示されていない限り、互換的に用いられ、アミノ酸と同様に、一般に認められている一文字コードによって表記される。アミノ酸と同様に、それらは、天然及び非天然の核酸ポリマーの両方を包含する。ポリヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、ヌクレオチド、核酸又は核酸分子は、DNA、RNA又はそれらの組み合わせから構成され得る。
【0032】
本発明は、肺癌患者由来の細胞において、IMP-1遺伝子の発現が上昇するという発見に一部基づいている。ヒトIMP-1遺伝子のヌクレオチド配列は、SEQ ID NO:11に示され、GenBank Accession No. NM_006546としても利用可能である。本願明細書において、IMP-1遺伝子は、ヒトIMP-1遺伝子のほか、ヒト以外の霊長類、マウス、ネズミ、イヌ、ネコ、ウマ及びウシを含む他の動物のものをも包含する。しかしながら、本発明は、それに限定されず、突然変異体及び他の動物で発見されたIMP-1遺伝子に相当する遺伝子を包含する。
【0033】
ヒトIMP-1遺伝子によってコードされるアミノ酸配列は、SEQ ID NO:12に示され、GenBank Accession No. NP_006537としても利用可能である。本発明において、IMP-1遺伝子によってコードされるポリペプチドは、「IMP-1」及び時として「IMP-1ポリペプチド」又は「IMP-1タンパク質」と表記される。
【0034】
本発明の一態様によれば、機能的同等物もまた、「IMP-1ポリペプチド」とみなされる。本願明細書において、タンパク質の「機能的同等物」とは、そのタンパク質と同等な生物活性を有するポリペプチドである。すなわち、IMP-1タンパク質の生物学的能力を保持する如何なるポリペプチドも、本発明において、当該機能的同等物として使用され得る。当該機能的同等物は、IPM-1タンパク質の天然アミノ酸配列に対して、一つ以上のアミノ酸が置換、欠失、付加又は挿入されたものを包含する。あるいは、ポリペプチドは、各タンパク質の配列に対して少なくとも約80%の相同性、より好ましくは、少なくとも約90%〜95%の相同性を有するアミノ酸配列から構成され得る。他の実施態様において、本ポリペプチドは、IMP-1遺伝子の天然ヌクレオチド配列に対してストリンジェント条件でハイブリダイズするポリヌクレオチドによってコードされ得る。
【0035】
本発明のポリペプチドは、その生産に用いられた細胞又は宿主、あるいは、利用された精製方法に応じて、アミノ酸配列、分子量、等電点、糖鎖の有無又は形状において、多様性を有していてもよい。そうであっても、本発明のヒトIMP-1タンパク質と同等の機能を有する限り、本発明の範囲内である。
【0036】
「ストリンジェント(ハイブリダイゼーション)条件」という用語は、典型的には核酸の複合混合物中で、核酸分子がその標的配列にハイブリダイズし、他の配列には検出可能な程度にまでハイブリダイズしない条件を意味する。ストリンジェントな条件は、配列依存的であり、環境が異なればそれらも異なる。配列が長いほど特異的にハイブリダイズする温度は高くなる。核酸のハイブリダイゼーションに関する詳細な手引きは、Tijssen, Techniques in Biochemistry and Molecular Biology--Hybridization with Nucleic Probes, 「Overview of principles of hybridization and the strategy of nucleic acid assays」 (1993)に見られる。一般的に、ストリンジェント条件は、規定のイオン強度pHでの特定配列の熱融点(Tm)よりも、約5-10℃低い温度となるように選択される。Tmは、標的と相同なプローブの50%が、平衡状態で標的配列にハイブリダイズする温度(規定のイオン強度、pH及び核酸濃度下)である(標的配列が過剰に存在する場合、Tmでは、平衡状態でプローブの50%が消費される)。ストリンジェント条件は、ホルムアミドのような脱安定化剤の添加により達成されてもよい。選択的又は特異的なハイブリダイゼーションでは、陽性シグナルは、バックグラウンドの少なくとも2倍であり、好ましくは、バックグラウンドハイブリダイゼーションの10倍である。典型的なストリンジェントハイブリダイゼーション条件は、次の通りである:0.2x SSC、0.1%、50℃での洗浄を伴う50%ホルムアミド、5x SSC、42℃でのインキュベート又は50%ホルムアミド、5x SSC、65℃でのインキュベート。
【0037】
本発明の文脈において、ヒトIMP-1タンパク質と機能的に同等なポリペプチドをコードするDNAを単離するためのハイブリダイゼーション条件は、当業者によって、通常に選択され得る。例えば、ハイブリダイゼーションは、「Rapid-hyb buffer」(Amersham LIFE SCIENCE)を用いて68℃で30分以上プレハイブリダイゼーションを行い、標識化プローブを添加した上で、68℃で1時間以上加温することによって、行ってもよい。それに続く洗浄工程は、例えば、低ストリンジェント条件下で行い得る。典型的な低ストリンジェント条件は、42℃、2x SSC、0.1%SDS、好ましくは50℃、2x SSC、0.1%SDSを含み得る。しばしば高ストリンジェント条件がより好ましく用いられる。典型的な高ストリンジェント条件は、2x SSC、0.01%SDS、室温で20分間の洗浄を3回行い、その後、1x SSC、0.1%SDS、37℃で20分間の洗浄を3回行い、そして1x SSC、0.1%SDS、50℃で20分間の洗浄を2回行うことを含み得る。しかしながら、温度や塩濃度などの幾つかの要素は、ハイブリダイゼーションのストリジェンシーに影響を及ぼすと考えられ、当業者は、必要なストリンジェンシーを達成するために、これらの要素を適切に選択することができる。
【0038】
通常、タンパク質における一つ又は複数のアミノ酸の変更は、タンパク質の機能に影響を及ぼさないことが知られている。実際に、変異又は改変されたタンパク質、あるアミノ酸配列の一つ又は複数のアミノ酸残基を置換、欠失、挿入及び/又は付加することによって改変されたアミノ酸配列を有するタンパク質は、元の生物活性を保持することが知られている(Mark et al., Proc Natl Acad Sci USA 81: 5662-6 (1984); Zoller and Smith, Nucleic Acids Res 10:6487-500 (1982); Dalbadie-McFarland et al., Proc Natl Acad Sci USA 79: 6409-13 (1982))。したがって、当業者は、単一のアミノ酸若しくは低比率のアミノ酸を変更するアミノ酸配列に対する個々の付加、欠失、挿入若しくは置換、又は、「保存的改変」であると考えられている改変が、タンパク質の改変が同様の機能を有するタンパク質を結果として生じる場合には、本発明の文脈において、許容されるということを認識するであろう。
【0039】
タンパク質の活性が保持されている限り、アミノ酸変異の数は特に限定されない。しかしながら、一般的には、アミノ酸配列の5%以下の変異が好ましい。したがって、好適な態様において、当該変異体中で変異されるアミノ酸の数は、通常、30個以下のアミノ酸、好ましくは20個以下のアミノ酸、より好ましくは6個以下のアミノ酸、そしてさらにより好ましくは3個以下のアミノ酸である。
【0040】
変異させるアミノ酸残基は、アミノ酸側鎖の特性が保存される別のアミノ酸に変異させることが好ましい(保存的アミノ酸置換として知られる方法)。典型的なアミノ酸側鎖の特性は、疎水性アミノ酸(A、I、L、M、F、P、W、Y、V)、親水性アミノ酸(R、D、N、C、E、Q、G、H、K、S、T)及び次の官能基又は共通の特徴を有する側鎖である:脂肪族側鎖(G、A、V、L、I、P);水酸基を含む側鎖(S、T、Y);硫黄原子を含む側鎖(C、M);カルボン酸及びアミドを含む側鎖(D、N、E、Q);塩基を含む側鎖(R、K、H);並びに芳香族官能基を含む側鎖(H、F、Y、W)。機能的に同様なアミノ酸を提供する保存的置換表は、当技術分野において周知である。例えば、以下の8つのグループは、相互に保存的置換となるアミノ酸をそれぞれ含む。
1)アラニン(A)、グリシン(G);
2)アスパラギン酸(D)、グルタミン酸(E);
3)アスパラギン(N)、グルタミン(Q);
4)アルギニン(R)、リジン(K);
5)イソロイシン(I)、ロイシン(L)、メチオニン(M)、バリン(V);
6)フェニルアラニン(F)、チロシン(Y)、トリプトファン(W);
7)セリン(S)、トレオニン(T);及び
8)システイン(C)、メチオニン(M)(例えば、Creighton, Proteins 1984を参照のこと)。
【0041】
当該保存的改変ポリペプチドは、本IMP-1タンパク質に包含される。しかしながら、本発明は、それに限定されず、少なくともIMP-1タンパク質の生物活性が保持されている限り、IMP-1タンパク質は、非保存的改変を包含する。さらに、改変タンパク質は、多型変異体、種間相同体、及びこれらのタンパク質の対立遺伝子によってコードされるものを排除しない。
【0042】
さらに、本発明のIMP-1遺伝子は、IMP-1タンパク質の当該機能的同等物をコードするポリヌクレオチドを包含する。ハイブリダイゼーションに加えて、遺伝子増幅方法、例えばポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法が、DNAをコードするタンパク質(SEQ ID NO:12)の配列情報に基づいて合成されたプライマーを使って、IMP-1タンパク質と機能的に同等なポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを単離するために利用され得る。ヒトIMP-1遺伝子及びタンパク質と機能的に同等なポリヌクレオチド及びポリペプチドは、それぞれ、通常、元のヌクレオチド又はアミノ酸配列と高い相同性を有する。「高い相同性」とは、概して、40%以上、好ましくは60%以上、より好ましくは80%以上、さらにより好ましくは90%〜95%以上の相同性を意味する。特定のポリヌクレオチド又はポリペプチドの相同性は、「Wilbur and Lipman, Proc Natl Acad Sci USA 80: 726-30 (1983)」のアルゴリズムによって決定され得る。
【0043】
I.二本鎖分子:
本願明細書で用いられる「二本鎖分子」という用語は、標的遺伝子の発現を阻害する核酸分子を意味し、例えば、低分子干渉RNA(siRNA;例えば二本鎖リボ核酸(dsRNA)又は低分子ヘアピン型RNA(shRNA))及び低分子干渉DNA/RNA(siD/R-NA;例えばDNAとRNAの二本鎖キメラ(dsD/R-NA)又はDNAとRNAの低分子ヘアピン型キメラ(shD/R-NA))を含む。
【0044】
本願明細書で用いられる「dsRNA」という用語は、互いに相補的な配列を含み、相補的な配列を介して共にアニールして二本鎖RNA分子を形成するRNA二分子の構成物を意味する。二本鎖のヌクレオチド配列は、標的遺伝子配列のタンパク質コード配列から選択される「センス」又は「アンチセンス」RNAのみでなく、標的遺伝子の非コード領域から選択されるヌクレオチド配列を有するRNA分子を含んでもよい。
【0045】
本願明細書で用いられる「shRNA」という用語は、互いに相補的な第1及び第2領域、例えばセンス及びアンチセンス鎖を含むステムループ構造を有するsiRNAを意味する。ループ領域内ではヌクレオチド(又はヌクレオチド類似体)間で塩基対が形成されないことに起因してループとなっているループ領域によって連結される第1及び第2の領域である領域間で塩基対を形成するのに十分な領域の相補性及び配向性の程度。shRNAのループ領域は、センス鎖とアンチセンス鎖との間に介在する一本鎖領域であり、「介在一本鎖」とも表記され得る。
【0046】
本願明細書で用いられる「siD/R-NA」という用語は、RNAとDNAの両方から構成される二本鎖ポリヌクレオチド分子を意味し、RNAとDNAとのハイブリッド及びキメラを含み、標的mRNAの翻訳を妨げる。本願明細書において、ハイブリッドは、DNAからなるポリヌクレオチドとRNAからなるポリヌクレオチドとが互いにハイブリダイズして二本鎖分子を形成している分子を示し、一方、キメラは、二本鎖分子を構成する鎖の一方又は両方がRNA及びDNAを含むことを示す。細胞内にsiD/R-NAを導入する標準的な技術が使用される。siD/R-NAは、センス核酸配列(「センス鎖」とも表記される)、アンチセンス核酸配列(「アンチセンス鎖」とも表記される)又はその両方を含む。siD/R-NAは、単一の転写産物が、標的遺伝子由来のセンス核酸配列と相補的なアンチセンス核酸配列の両方を有するように、例えばヘアピンのように構成されてもよい。siD/R-NAは、dsD/R-NA又はshD/R-NAのいずれであってもよい。
【0047】
本願明細書で用いられる「dsD/R-NA」という用語は、互いに相補的な配列を含み、相補的な配列を介して共にアニールして二本鎖ポリヌクレオチド分子を形成している二分子の構成物を意味する。二本鎖のヌクレオチド配列は、標的遺伝子配列のタンパク質コード配列から選択される「センス」又は「アンチセンス」ポリヌクレオチド配列のみでなく、標的遺伝子の非コード領域から選択されるヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチドを含んでもよい。dsD/R-NAを構成する二分子の一方又は両方は、RNAとDNAの両方から構成されるか(キメラ分子)、あるいは、一方の分子がRNAで構成され、他方がDNAで構成される(ハイブリッド二本鎖)。
【0048】
本願明細書で用いられる「shD/R-NA」という用語は、ステムループ構造を有するsiD/R-NAを意味し、互いに相補的な第1及び第2の領域、例えばセンス鎖及びアンチセンス鎖を含む。ループ領域内ではヌクレオチド(又はヌクレオチド類似体)間で塩基対が形成されないことに起因してループとなっているループ領域によって連結される第1及び第2の領域である領域間で塩基対を形成するのに十分な領域の相補性及び配向性の程度。shD/R-NAのループ領域は、センス鎖とアンチセンス鎖との間に介在する一本鎖領域であり、「介在一本鎖」とも表記され得る。
【0049】
本発明の二本鎖分子は、一以上の修飾ヌクレオチド及び/又は非リン酸ジエステル結合を含んでもよい。当技術分野で周知の化学修飾は、二本鎖分子の安定性、有効性及び/又は細胞への取り込みを向上させることができる。当業者は、本分子に組み込むことができる他のタイプの化学修飾を理解するであろう(WO03/070744; WO2005/045037)。一実施態様では、修飾は、分解に対する耐性又は取り込みを向上させるのに利用することができる。修飾の例としては、ホスホロチオエート結合、2’-O-リボヌクレオチド(特に二本鎖分子のセンス鎖におけるもの)、2’-デオキシ-フルオロ-リボヌクレオチド、2’-デオキシリボヌクレオチド、「ユニバーサル塩基」ヌクレオチド、5’-C-メチルヌクレオチド、及び逆位デオキシ脱塩基残基の組み込みを含む(US20060122137)。
【0050】
他の実施態様では、修飾は、二本鎖分子の安定性の向上又はターゲッティング効率を向上させるために用いることができる。修飾は、二本鎖分子の二本の相補鎖間の化学的架橋結合、二本鎖分子鎖の3’又は5’末端の化学修飾、核酸塩基修飾及び/又は骨格修飾、2-フルオロ修飾リボヌクレオチド及び2’-デオキシリボヌクレオチドを含む(WO2004/029212)。他の実施態様では、修飾は、標的mRNA及び/又は相補的な二本鎖分子鎖において、相補的なヌクレオチドに対する親和性を増大又は減少させるのに用いることができる(WO2005/044976)。例えば、非修飾ピリミジンヌクレオチドは、2-チオ、5-アルキニル、5-メチル又は5-プロピニルピリミジンと置換され得る。さらに、非修飾プリンは、7-deza, 7-alkyi又は7-alkenyiプリンに置換され得る。他の実施態様では、二本鎖分子が3’オーバーハングを有する二本鎖である場合、3’末端ヌクレオチドオーバーハンギングヌクレオチドは、デオキシリボヌクレオチドにより置換され得る(Elbashir SM et al., Genes Dev 2001 Jan 15, 15(2): 188-200)。更なる詳細については、US20060234970のような公開文書が利用可能である。本発明は、これらの実施例に限定されず、結果として生じる分子が標的遺伝子の発現を阻害する能力を保持する限り、本発明の二本鎖分子に対して、如何なる公知の化学修飾も行い得る。
【0051】
さらに、本発明の二本鎖分子は、DNA及びRNAの双方を含んでもよい。例えば、dsD/R-NA又はshD/R-NAである。特に、DNA鎖とRNA鎖のハイブリッドヌクレオチド又はDNA-RNAキメラポリヌクレオチドは、増大した安定性を示す。DNAとRNAとの混合、すなわち、DNA鎖(ポリヌクレオチド)とRNA鎖(ポリヌクレオチド)からなるハイブリッド型二本鎖分子、いずれか又は両方の一本鎖(ポリヌクレオチド)においてDNA及びRNAの両方を含むキメラ型二本鎖分子又は同種のものが、二本鎖分子の安定性を向上させるために形成されてもよい。DNA鎖とRNA鎖のハイブリッドは、標的遺伝子発現細胞に導入されたときに該遺伝子の発現を阻害する活性を有する限り、センス鎖がDNAでありアンチセンス鎖がRNAであるか、又はその逆のハイブリッドのいずれであってもよい。好ましくは、センス鎖ポリヌクレオチドがDNAであり、アンチセンス鎖ポリヌクレオチドがRNAである。同様に、標的遺伝子発現細胞に導入されたときに当該遺伝子の発現を阻害する活性を有する限り、キメラ型二本鎖分子は、センス鎖とアンチセンス鎖の双方がDNAとRNAから構成されるか、又はセンス鎖とアンチセンス鎖のいずれか一方がDNAとRNAから構成されるか、いずれであってもよい。
【0052】
二本鎖分子の安定性を向上させるために、分子は、できるだけ多くのDNAを含むことが好ましく、一方、標的遺伝子の発現阻害を誘導するためには、分子は、十分な発現阻害を誘導する範囲内のRNAであることを要求される。キメラ型二本鎖分子の好ましい実施例は、二本鎖の上流部分領域(すなわち、センス鎖又はアンチセンス鎖内の標的配列又はその相補配列に隣接する領域)がRNAである。好ましくは、上流部分領域は、センス鎖の5’側(5’末端)とアンチセンス鎖の3’側(3’末端)を指す。すなわち、好ましい実施態様においては、アンチセンス鎖の3’末端隣接領域、あるいは、センス鎖の5’末端隣接領域とアンチセンス鎖の3’末端隣接領域の両方がRNAから構成される。例えば、本発明のキメラ又はハイブリッド型二本鎖分子は、以下の組み合わせを含む。
センス鎖: 5’-[DNA]-3’
3’-(RNA)-[DNA]-5’ :アンチセンス鎖、
センス鎖: 5’-(RNA)-[DNA]-3’
3’-(RNA)-[DNA]-5’ :アンチセンス鎖、及び
センス鎖: 5’-(RNA)-[DNA]-3’
3’-(RNA)- 5’ :アンチセンス鎖。
【0053】
上流部分領域は、二本鎖分子のセンス鎖又はアンチセンス鎖内の標的配列又はその相補配列の末端から数えて9〜13ヌクレオチドからなるドメインであることが好ましい。さらに、当該キメラ型二本鎖分子の好ましい実施例は、ポリヌクレオチドの少なくとも上流側半分の領域(センス鎖の5’側領域とアンチセンス鎖の3’側領域)がRNAであって、他の半分がDNAである19〜21ヌクレオチドの鎖長を有する二本鎖分子を含む。当該キメラ型二本鎖分子において、標的遺伝子の発現阻害効果は、アンチセンス鎖全体がRNAである場合と比較してはるかに高い(US20050004064)。
【0054】
本発明において、二本鎖分子はヘアピン構造を形成してもよい。例えば、低分子ヘアピン型RNA(shRNA)及びDNAとRNAからなる低分子ヘアピン型(shD/R-NA)である。shRNA又はshD/R-NAは、タイトなヘアピンカーブを形成するRNA配列又はRNAとDNAとの混合配列であり、それは、RNA干渉を介して遺伝子発現を停止させるために用いることができる。shRNA又はshD/R-NAは、一本鎖上にセンス標的配列とアンチセンス標的配列とを含み、それらの配列は、ループ配列によって分離されている。通常、ヘアピン構造は、dsRNA又はdsD/R-NA内で細胞機構により切断され、その後、RNA誘導サイレンシング複合体(RISC)に結合する。この複合体は、dsRNA又はdsD/R-NAの標的配列とマッチするmRNAと結合し、かつ該mRNAを切断する。
【0055】
別途定義されない限り、本願明細書で用いられる全ての技術的及び科学的用語は、本発明の属する技術分野において通常の知識を有する者によって一般に理解されるのと同様の意味を有する。争いのある場合には、定義を含めて、本願明細書が優先するであろう。
【0056】
IMP-1遺伝子に対する二本鎖分子(例えば、『IMP-1siRNA』)は、当該遺伝子の発現レベルを減少させるのに用いることができる。本願明細書において、「siRNA」という用語は、標的mRNAの翻訳を妨げる二本鎖RNA分子を意味する。本発明の文脈において、二本鎖の分子は、上方制御マーカー遺伝子、IMP-1に対するセンス核酸配列及びアンチセンス核酸配列からなる。二本鎖分子は、標的遺伝子のセンス配列及び相補的なアンチセンス配列の両方を含むように構成される。すなわち、ヘアピン構造を有するヌクレオチドである。二本鎖分子は、dsRNA、shRNA、dsD/RNA又はshD/RNAのいずれであってもよい。
【0057】
IMP-1遺伝子の二本鎖分子は、標的mRNAにハイブリダイズする。すなわち、通常一本鎖mRNA 転写産物に会合し、それによりmRNA の翻訳を妨げ、最終的に、当該遺伝子によってコードされるポリペプチドの生成(発現)を減少させるか又は阻害する。それゆえ、本発明のsiRNA分子は、ストリンジェント条件下において、IMP-1遺伝子のmRNAに特異的にハイブリダイズする能力によって定義され得る。
【0058】
本発明の文脈において、二本鎖分子は、好ましくは、500、200、100、50又は25未満のヌクレオチド長である。さらに好ましくは、二本鎖分子は、19〜25ヌクレオチド長である。典型的なIMP-1二本鎖分子の標的核酸配列は、SEQ ID NO:9又は10に相当するオリゴヌクレオチド配列を含む。配列中のヌクレオチド「t」は、そのRNA又は類縁体中で「u」に置換されている。したがって、例えば、本発明は、オリゴヌクレオチド配列5’-ggaggagaacuucuuuggu-3’ (SEQ ID NO: 9) 又は5’-gaaucuauggcaaacucaa-3’ (SEQ ID NO: 10)を有する二本鎖RNA分子を提供する。二本鎖分子の阻害活性を増強するために、ヌクレオチド「u」がアンチセンス鎖の3’末端に付加され得る。付加される「u」の数は少なくとも2個であり、通常、2〜10個、好ましくは2〜5個である。付加された「u」は、二本鎖分子のアンチセンス鎖の3’末端において一本鎖を形成する。
【0059】
ヘアピンループ構造を形成するために、任意のヌクレオチド配列からなるループ配列が、センス配列とアンチセンス配列との間に配置され得る。それゆえ、本発明は、一般式5’-[A]-[B]-[A’]-3’を有する二本鎖分子もまた提供する。式中[A]はIMP遺伝子のmRNA又はcDNAに特異的にハイブリダイズする配列に相当するオリゴヌクレオチド配列である。好ましい実施態様では、[A]はIMP-1遺伝子の配列に相当するリボヌクレオチド配列であり、[B]は3〜23ヌクレオチドからなるリボヌクレオチド配列であり、[A’]は[A]の相補配列からなるリボヌクレオチド配列である。[A]は[A’]にハイブリダイズし、そして、領域[B]からなるループが形成される。ループ配列は3〜23ヌクレオチド長であることが好ましい。ループ配列は、例えば、以下の配列からなるグループから選択され得る(http://www.ambion.com/techlib/tb/tb_506.html):
CCC、CCACC又はCCACACC:Jacque JM et al., Nature 2002, 418: 435-8.
UUCG:Lee NS et al., Nature Biotechnology 2002, 20:500-5; Fruscoloni P et al., Proc Natl Acad Sci USA 2003, 100(4):1639-44.
UUCAAGAGA:Dykxhoorn DM et al., Nature Reviews Molecular Cell Biology 2003, 4:457-67。
【0060】
『UUCAAGAGA (DNAでは「ttcaagaga」)』は、特に適したループ配列である。さらに、23ヌクレオチドからなるループ配列もまた、活性のあるsiRNAを提供する(Jacque J-M et al., Nature 2002, 418:435-8)。
【0061】
本発明の文脈において、使用に適した典型的なヘアピン二本鎖分子は、
5’-ggaggagaacuucuuuggu-[b]-accaaagaaguucuccucc-3’ (標的配列SEQ ID NO: 9)及び
5’-gaaucuauggcaaacucaa-[b]-uugaguuugccauagauuc-3’ (標的配列SEQ ID NO: 10)を含む。
【0062】
適切な二本鎖分子のオリゴヌクレオチド配列は、Ambionウェブサイト(http://www.ambion.com/techlib/ misc/siRNA_finder.html)から入手可能なsiRNA設計コンピュータプログラムを用いて設計することができるコンピュータプログラムは、以下のプロトコルに基づいて、二本鎖分子合成用のヌクレオチド配列を選択する。
【0063】
siRNA標的部位の選択:
1. 目的転写物のAUG開始コドンから始めて、AAジヌクレオチド配列を下流にスキャンする。各AAの出現及びその3’側に隣接する19ヌクレオチドを標的部位候補として記録する。Tuschl et al. Genes Cev 1999, 13(24):3191-7は、5’及び3’非翻訳領域(UTRs)並びに開始コドン近傍領域(75ヌクレオチド以内)に対して標的配列を設計することを推奨していない。これらの領域は、調節タンパク質結合部位をより多く含む可能性があるからである。UTR結合タンパク質及び/又は翻訳開始複合体は、エンドヌクレアーゼ複合体の結合を妨げる可能性がある。
2.標的部位候補とヒトゲノムデータベースとを比較して、他のコード配列と有意な相同性を有する如何なる標的配列も検討から除外する。相同性検索は、NCBIサーバー上にあるBLASTを用いて行うことができる(Altschul SF et al., Nucleic Acids Res 1997, 25:3389-402; J Mol Biol 1990, 215:403-10.)。
3.合成のために適格な標的配列を選択する。Ambionでは、好ましくは、評価すべき遺伝子の長さに沿って、幾つかの標的配列を選択することができる。
【0064】
二本鎖分子を細胞に導入するための標準的な技術を使用することができる。例えば、IMP-1の二本鎖分子は、mRNA転写産物に結合可能な形態で、直接細胞に導入することができる。これらの実施態様においては、本発明の二本鎖分子は、アンチセンス分子において上述したように、典型的に修飾される。他の修飾もまた可能であり、例えば、コレストロール結合二本鎖分子は、改善された薬理学的特性を示した(Song et al., Nature Med 2003, 9:347-51)。
【0065】
あるいは、二本鎖分子をコードするDNAが、ベクターで運ばれてもよい(以下、『siRNAベクター』ともいう)。当該ベクターは、例えば、(DNA分子の転写による)両方の鎖の発現を許容するような方法でその配列に隣接する、機能的に連結した調節配列(例えば、低分子核内RNA(snRNA)U6由来のRNAポリメラーゼIII転写ユニット又はヒトH1 RNAプロモーター)を備えた発現ベクター内に、標的IMP-1遺伝子配列をクローニングすることにより、作成することができる(Lee NS et al., Nature Biotechnology 2002, 20: 500-5)。例えば、IMP-1遺伝子のmRNAに対するアンチセンスであるRNA分子は、第一プロモーター(例えば、クローン化されたDNAのプロモーター配列3’)によって転写され、IMP-1遺伝子のmRNAにとってセンス鎖であるRNA分子は、第二プロモーター(例えば、クローン化されたDNAのプロモーター配列5’)によって転写される。センス鎖とアンチセンス鎖は、インビボでハイブリダイズして、IMP-1遺伝子の発現をサイレンシングする二本鎖分子構成物を生成する。あるいは、2つの構成物が、一本鎖構成物のセンス鎖及びアンチセンス鎖を生成するために、利用され得る。この場合には、二次構造を有する構成物、例えばヘアピンが、標的遺伝子のセンス配列及び相補的なアンチセンス配列の両方を含む単一の転写産物として生成される。
【0066】
細胞に二本鎖分子ベクターを導入するために、導入促進剤を用いることができる。FuGENE6 (Roche diagnostics)、Lipofectamine 2000 (Invitrogen), Oligofectamine (Invitrogen)及び Nucleofector (Wako pure Chemical)は、導入促進剤として有用である。したがって、本発明の医薬組成物は、当該導入促進剤をさらに含むことができる。
【0067】
II.抗体:
本発明は、IMP-2及びIMP-3ではなく、IMP-1タンパク質に対する抗体を提供する。換言すれば、本発明の抗体は、IMP-1の特異的発現を検出するために用いることができる。それゆえ、本発明の抗体は、肺癌、例えばNSCLCのようなIMP-1に関連する疾病の診断及びこれらの疾病の治療に有用である。当該抗体は、IMP-2及びIMP-3と一致しないIMP-1断片、例えば、SEQ ID NO: 5又はSEQ ID NO: 6に記載のアミノ酸配列を用いて作成することができる。実施例の『D.抗IMP-1ポリクローナル抗体の作成』の項目を参照されたい。
【0068】
IMP-1の発現が組織免疫染色により観察されるとき、表1で示されたように、肺癌患者の生存率は低くなる。この知見は、IMP-1の発現が予後不良の診断において指標として有用であることを示唆する。しかしながら、IMP-2及びIMP-3では、予後不良との関連性は見出されていない。それゆえ、予後は、IMP-1特異的抗体を使って、より正確に診断することができる。
【0069】
さらに、IMP-1、IMP-2及びIMP-3は、本発明者らの先願(WO2004/031413)に示されるように、全て肺癌関連遺伝子であるが、これらの遺伝子発現パターンを示した先願のRT-PCRの結果は、互いに異なるものであり、高度に正確な診断は、本発明のIMP-1特異的抗体を用いることにより達成され得ることを示している。
【0070】
あるいは、IMP-1、IMP-2及びIMP-3のそれぞれは、異なる遺伝子から翻訳されるため、IMP-1に特異的な薬剤(例えば、IMP-1特異的siRNA又は抗体)は、IMP-1が過剰発現される場合に、選択的に効果的である。特に、たとえIMP-2又はIMP-3が過剰発現されたとしても、IMP-1の発現が抑制されている場合には、IMP-1に特異的な薬剤は、効果が低いか又は効果を有さないであろう。それゆえ、適切な薬剤を選択するために、病巣組織においてIMP-1が発現しているか否かを決定することが必要である。本発明の抗体は、当該薬剤を投与する前のIMP-1の当該検出にとって、有用なツールとなるであろう。
【0071】
さらに、本発明の抗体は、IMP-1の機能解析にとって、有用なツールとなるであろう。
【0072】
さらに、本発明の抗体は、IMP-1の機能解析にとって、有用なツールとなるであろう。本願明細書で用いられる「抗体」という用語は、天然抗体のほか、非天然抗体、例えば、単鎖、キメラ、二機能性及びヒト化抗体、並びにそれらの抗原結合性フラグメント(例えば、Fab’,、F(ab’)2、Fab、Fv及びrIgG)を包含する。Pierce Catalog and Handbook, 1994-1995 (Pierce Chemical Co., Rockford, IL)もまた参照されたい。例えば、Kuby, J., Immunology, 3rd Ed., W.H. Freeman & Co., New York (1998)もまた参照されたい。当該非天然抗体は、固相ペプチド合成を使って作成することができ、組換え技術により生成することができ、又は、例えば、Huse et al., Science 246:1275-81 (1989)に記載されるように、重鎖可変領域及び軽鎖可変領域からなるコンビナトリアルライブラリーをスクリーニングすることによって、得ることができる。なお、Huse et al., Science 246:1275-81 (1989)は、参照により本願明細書に組み込まれる。例えばキメラ、ヒト化、CDRグラフティング、単鎖及び二機能性抗体を作成するためのこれら及び他の方法は、当業者に周知である(Winter and Harris, Immunol. Today 14:243-6 (1993); Ward et al., Nature 341:544-6 (1989); Harlow and Lane, Antibodies, 511-52, Cold Spring Harbor Laboratory publications, New York, 1988; Hilyard et al., Protein Engineering: A practical approach (IRL Press 1992); Borrebaeck, Antibody Engineering, 2d ed. (Oxford University Press 1995); each of which is incorporated herein by reference)。
【0073】
「抗体」という用語には、ポリクローナル及びモノクローナル抗体が包含される。当該用語は、キメラ抗体(例えば、ヒト化ネズミ抗体)及びヘテロコンジュゲート抗体(例えば、二重特異性抗体(bispecific antibodies))のような遺伝子操作された形態もまた包含する。当該用語は、組換え単鎖Fvフラグメント(scFv)もまた意味する。抗体という用語は、二価又は二重特異性分子、二重特異性抗体(diabodies)、三重特異性抗体(triabodies)及び四重特異性抗体(tetrabodies)もまた包含する。二価又は二重特異性分子は、例えば、Kostelny et al. (1992) J Immunol 148:1547, Pack and Pluckthun (1992) Biochemistry 31:1579, Holliger et al. (1993) Proc Natl Acad Sci U S A. 90:6444, Gruber et al. (1994) J Immunol :5368, Zhu et al. (1997) Protein Sci 6:781, Hu et al. (1997) Cancer Res. 56:3055, Adams et al. (1993) Cancer Res. 53:4026, and McCartney, et al. (1995) Protein Eng. 8:301に、記載されている。
【0074】
概して、抗体は重鎖及び軽鎖を有する。重鎖及び軽鎖はそれぞれ定常領域及び可変領域(これらの領域は「ドメイン」としても知られる)を含む。軽鎖及び重鎖の可変領域は、3つの超可変領域によって分断される4つの「フレームワーク」領域を含む。超可変領域は、「相補性決定領域」又は「CDR」とも呼ばれる。フレームワーク領域及びCDRの範囲は規定されている。異なる軽鎖又は重鎖のフレームワーク領域の配列は、種内で比較的保存されている。抗体のフレームワーク領域、すなわち構成軽鎖及び重鎖のフレームワーク領域を合わせたものは、三次元空間内でCDRを配置し、整列させる役割を果たす。
【0075】
CDRは、主として抗原エピトープへの結合を担っている。各鎖のCDRは、典型的には、N末端から順番に番号が付けられてCDR1、CDR2及びCDR3と呼ばれ、また典型的には、その特定のCDRが位置する鎖によっても同定される。それゆえ、VH CDR3は、それが見出される抗体の重鎖の可変ドメインに位置し、一方、VL CDR1は、それが見出される抗体の軽鎖の可変領域由来のCDR1である。
【0076】
「VH」に関しては、抗体の免疫グロブリン重鎖の可変領域を意味し、Fv、scFv、又はFabの重鎖を含む。「VL」に関しては、免疫グロブリン軽鎖の可変領域を意味し、Fv、scFv、dsFv又はFabの軽鎖を含む。
【0077】
「単鎖Fv」又は「scFv」という用語は、通常の二鎖抗体の重鎖及び軽鎖の可変ドメインが、連結して1つの鎖形成した抗体を意味する。典型的には、リンカーペプチドが2つの鎖の間に挿入されており、適正なフォールディングと活性な結合部位の形成とを可能にする。
【0078】
「キメラ抗体」は、(a)定常領域又はその一部が、改変、置換又は交換されて、抗原結合部位(可変領域)が、異なる又は改変されたクラス、エフェクター機能及び/又は種の定常領域に連結されているか、又はそのキメラ抗体に新たな特性を付与する全く異なる分子、例えば、酵素、毒素、ホルモン、成長因子、薬物等に連結されている免疫グロブリン分子;あるいは(b)可変領域又はその一部が、異なる又は改変された抗原特異性を有する可変領域に改変、置換又は交換されている免疫グロブリン分子である。
【0079】
「ヒト化抗体」は、非ヒト免疫グロブリン由来の最小限の配列を含む免疫グロブリン分子である。ヒト化抗体は、レシピエントの相補性決定領域(CDR)由来の残基が、所望の特異性、親和性及び能力を有するマウス、ラット又はウサギのような非ヒト種(ドナー抗体)のCDR由来の残基に置換されたヒト免疫グロブリンを含む。場合によっては、ヒト免疫グロブリンのFvフレームワーク残基は、対応する非ヒト残基によって置換される。ヒト化抗体は、レシピエント抗体、導入されたCDR若しくはフレームワーク配列のいずれにおいても見られない残基もまた含んでもよい。一般に、ヒト化抗体は、少なくとも1つ、典型的には2つの可変ドメインを実質的に全部含み、CDR領域の全部又は実質的に全部は非ヒト免疫グロブリンのものに対応し、フレームワーク(FR)領域の全部又は実質的に全部は、ヒト免疫グロブリン共通配列のものである。ヒト化抗体は、最適にはまた、免疫グロブリンの定常領域(Fc)、典型的にはヒト免疫グロブリンのものを少なくとも一部含む(Jones et al., Nature 321:522-5 (1986); Riechmann et al., Nature 332:323-7 (1988); and Presta, Curr. Op. Struct. Biol. 2:593-6 (1992))。ヒト化は、基本的には、Winter及び共同研究者の方法((Jones et al., Nature 321:522-5 (1986); Riechmann et al., Nature 332:323-7 (1988); Verhoeyen et al., Science 239:1534-6 (1988)))に従って、げっ歯類のCDR又はCDR配列でヒト抗体の対応配列を置換することによって、行うことができる。したがって、当該ヒト化抗体は、キメラ抗体(米国特許第4,816,567号)であり、実質的に完全でないヒト可変ドメインが、非ヒト種由来の対応配列によって置換されている。
【0080】
「エピトープ」、「抗原性」及び「決定基」という用語は、抗体が結合する抗原上の部位を意味する。エピトープは、連続したアミノ酸、又はタンパク質の三次元フォールディングによって近接して並置される非連続なアミノ酸のいずれからも形成され得る。連続したアミノ酸から形成されるエピトープは、概して、変性溶媒に曝露されても保持される一方、三次元フォールディングにより形成されるエピトープは、概して、変性溶媒処理で失われる。エピトープは、典型的には、独自の空間的高次構造中に、少なくとも3個、より一般的には、少なくとも5又は8〜10個のアミノ酸を含む。エピトープの空間的高次構造を決定する方法には、例えば、X線結晶解析及び二次元核磁気共鳴法が含まれる。例えば、Epitope Mapping Protocols in Methods in Molecular Biology, Vol. 66, Glenn E. Morris, Ed (1996)を参照されたい。
【0081】
「非抗体結合タンパク質」、「非抗体リガンド」又は「抗原結合タンパク質」という用語は、互換的に用いられ、非免疫グロブリンタンパク質骨格を用いる抗体模倣体を意味し、さらなる詳細は以下で論じているように、アドネクチン(adnectins)、アビマー(avimers)、単鎖ポリペプチド結合分子及び抗体様ペプチド模倣体を包含する。
【0082】
他の化合物は、抗体と同様の方法で、その標的及び標的に対する結合が開発されてきた。これらの「抗体模倣体」の幾つかは、抗体の可変領域の代替的タンパク質フレームワークとして、非免疫グロブリンタンパク質骨格を使用する。
【0083】
例えば、Ladnerら(米国特許第5,260,203号)は、凝集状であるが、分子的には分離している抗体可変領域の軽鎖及び重鎖のものに類似した結合特異性を有する単一ポリペプチド鎖結合分子を記載している。単鎖結合分子は、ペプチドリンカーによって結合された、抗体の重鎖及び軽鎖可変領域双方の抗原結合部位を含み、二鎖ペプチド抗体と類似した構造に折り畳まれている。単鎖結合分子は、通常の抗体よりも、分子サイズ、より高い安定性を含む幾つかの点で優れており、より容易に改変される。
【0084】
Kuら(Proc. Natl. Acad. Sci. USA 92(14):6552-6556 (1995))は、シトクロームb562に基づく抗体の代替物を記載している。Kuら(1995)は、シトクロームb562の2つのループがランダム化され、ウシ血清アルブミン対する結合性で選択されるライブラリーを作成した。個々の変異体は、抗BSA抗体と同様にBSAに選択的に結合することが分かった。
【0085】
Lipovsekら(米国特許第6,818,418号及び同第7,115,396号)は、フィブロネクチン又はフィブロネクチン様のタンパク質骨格と少なくとも1つの可変ループを特徴とする抗体模倣体を記載している。アデノクチンとして知られるように、これらのフィブロネクチンに基づく抗体模倣体は、天然又は組換え抗体と同じ性質を多く示し、そのような性質には、高親和性及び標的リガンドに対する特異性が含まれる。新規の又は改良された結合タンパク質を進化させるための如何なる技術も、これらの抗体模倣体に用いることができる。
【0086】
これらのフィブロネクチンに基づく抗体模倣体の構造は、IgG重鎖の可変領域構造に類似している。それゆえ、これらの模倣体は、性質及び親和性の点で、天然抗体のものに類似した抗原結合特性を示す。さらに、これらのフィブロネクチンに基づく抗体模倣体は、抗体及び抗体フラグメントよりも幾つかの点で優れている。例えば、これらの抗体模倣体は、自然の折り畳み安定性をジスフィルド結合に依存しないため、通常は抗体を破壊するような条件下でも安定である。さらに、これらのフィブロネクチンに基づく抗体模倣体の構造は、IgG重鎖のものと類似しているため、ループのランダム化及びシャッフリングのプロセスは、インビボでの抗体の親和性成熟化のプロセスと同様のことを、インビトロで行うことができる。
【0087】
Besteら(Proc. Natl. Acad. Sci. USA 96(5):1898-1903 (1999))は、リポカリン骨格に基づく抗体模倣体(Anticalin(登録商標))を開示している。リポカリンは、タンパク質の末端に4つの超可変ループを備えたβ-バレルから構成される。Beste (1999)は、ループに、ランダム突然変異を誘発させて、例えばフルオレセインとの結合性で選択した。3つの変異体は、フルオレセインとの特異的結合性を示し、そのうちの1つの変異体は、抗フルオレセイン抗体のものと同様の結合性を示した。さらなる解析結果は、ランダム化された位置の全てが、可変的であることを明らかにし、Anticalin(登録商標)が、抗体の代替物として用いるのに適していることを示した。
【0088】
Anticalin(登録商標)は、典型的には160〜180残基の低分子の単鎖ペプチドであり、抗体と比較して、生産コストの低減化、貯蔵時の安定性向上及び免疫反応の低減化を含む幾つかの利点を有している。
【0089】
Hamilton ら(米国特許第5,770,380号)は、カリックスアレーンの強固な非ペプチド有機骨格を使用し、結合部位として用いられる複数の可変ペプチドループを結合した合成抗体模倣体を開示している。ペプチドループは全て、互いに、カリックスアレーンから幾何学的に同じ側から突出する。この幾何学的な確証のため、全てのループが結合に利用可能であり、リガンドに対する結合親和性が増大する。しかしながら、他の抗体模倣体と比較して、カリックスアレーンを基礎とする抗体模倣体は、ペプチドのみから構成されているわけではないため、プロテアーゼ酵素による攻撃を受けにくい。ペプチド、DNA又はRNAから純粋に構成される骨格のいずれでもないことは、この抗体模倣体が、極限環境条件下で比較的安定であり、長寿命を有することを意味する。さらに、カリックスアレーンに基づく抗体模倣体は、比較的小さいため、免疫反応が生じる可能性が低い。
【0090】
Muraliら(Cell. Mol. Biol. 49(2):209-216 (2003))は、抗体を低分子のペプチド模倣体に還元する方法論を論じており、「抗体様結合ペプチド模倣体」(ABiP)と呼んでいる。それは抗体の代替物として利用することもできる。
【0091】
Silvermanら(Nat. Biotechnol. (2005), 23: 1556-1561)は、「アビマー(avimers)」と呼ばれる複数のドメインを含む単鎖ポリペプチドである融合タンパク質を開示している。アビマーは、インビトロ・エクソンシャッフリングとファージディスプレイによってヒト細胞外受容体ドメインから開発されたものであり、様々な標的分子に対する親和性及び特異性という点で、抗体と幾分類似した結合タンパク質の1クラスである。結果として生じたマルチドメインタンパク質は、複数の独立した結合ドメインを含むことができ、それらのドメインは、単独エピトープ結合タンパク質と比較して、改善された親和性(時としてサブ‐ナノモル)と特異性を示し得る。アビマーの作成及び使用方法に関するさらなる詳細は、例えば、米国特許公開公報第20040175756号、同第20050048512号、同第20050053973号、同第20050089932号、及び同第20050221384号に開示されている。
【0092】
非免疫グロブリンタンパク質フレームワークに加えて、抗体特性は、RNA分子及び非天然オリゴマー(例えば、プロテアーゼ阻害剤、ベンゾジアゼピン、プリン誘導体及びβ-ターン模倣体)を含む化合物においても模倣されている。それらの全ては、本発明での使用に適している。
【0093】
III.癌の診断:
III−1.癌又は癌を発症する素因を診断する方法
IMP-1遺伝子の発現は、癌患者において、特異的に上昇することが見出された。それゆえ、本願明細書で同定された遺伝子は、その転写産物及び翻訳産物と同様に、癌マーカーとして診断上の利用可能性がある。したがって、細胞試料のIMP-1遺伝子の発現を測定することによって、癌が診断され得る。特に、本発明は、対象におけるIMP-1遺伝子の発現レベルを決定することにより、対象において癌又は癌を発症する素因を診断する方法を提供する。
【0094】
本方法によって診断され得る癌は、肺癌を含むが、これに限定されるものではない。本方法は、特にNSCLCの診断に適している。
【0095】
本発明の他の態様によれば、当該癌の少なくともいずれか1つを発症する素因。
【0096】
本発明の文脈において、「診断する」という用語は、予測及び可能性解析を包含することを意図する。本方法は、治療様式に関する決定において、臨床的に使用されることを意図し、治療的介入、病期(disease stages)のような診断基準、並びに癌の病気モニタリング及び監視を含む。本発明によれば、対象の状態を検討するための中間的な結果が提供され得る。当該中間的な結果は、対象が病気に罹患していることを診断するために、医者、看護師又は他の施術者の助力となる付加的な情報と組み合わせられてもよい。あるいは、本発明は、対象由来組織において癌細胞を検出するのに使用されてもよく、医者に、対象が病気に罹患していることを診断するための有用な情報を提供する。
【0097】
本方法により診断される対象は、好ましくは哺乳類である。哺乳類の例としては、例えば、ヒト、ヒト以外の霊長類、マウス、ネズミ、イヌ、ネコ、ウマ及びウシを含むが、これに限定されるものではない。
【0098】
診断を行うためには、診断対象から生体試料を集めることが好ましい。目的とするIMP-1遺伝子の転写産物又は翻訳産物を含む限り、如何なる生体試料も、判定のための生体試料として使用され得る。生体試料としては、限定はされないが、身体組織及び体液、例えば、血液、痰及び尿が挙げられる。好ましくは、生体試料は、上皮細胞、より好ましくは、癌上皮細胞又は癌の疑いのある組織由来の上皮細胞を含む細胞集団を包含する。さらに、必要に応じて、細胞は、取得した身体組織及び体液から精製され、その後、生体試料として用いられてもよい。
【0099】
本発明によれば、IMP-1遺伝子の発現レベルが、対象由来の生体試料において、決定される。発現レベルは、当技術分野で公知の方法を使って、転写(核酸)産物レベルで決定され得る。例えば、IMP-1遺伝子のmRNAは、ハイブリダイゼーション法(例えば、ノーザンハイブリダイゼーション)により、プローブを用いて定量され得る。検出は、チップ又はアレイ上で行ってもよい。アレイの使用は、本IMP-1遺伝子を含む複数の遺伝子(例えば、様々な癌特異的遺伝子)の発現レベルを検出するのに好ましい。当業者は、IMP-1遺伝子(SEQ ID NO:11;GenBank Accession No. NM_006546)の配列情報を利用して、当該プローブを作成することができる。例えば、IMP-1遺伝子のcDNAは、プローブとして用いられ得る。必要に応じて、プローブは、適切な標識、例えば、色素及び同位元素で標識されてもよく、遺伝子の発現レベルは、ハイブリダイズした標識の強度として検出されてもよい。
【0100】
さらに、IMP-1遺伝子の転写産物は、増幅に基づく検出方法(例えば、RT-PCR)により、プライマーを用いて定量され得る。当該プライマーもまた、遺伝子の利用可能な配列情報に基づいて作成することができる。例えば、実施例で用いられたプライマー(SEQ ID NO:1及び2)が、RT-PCRよる検出に使用され得るが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0101】
特に、本方法に使用されるプローブ又はプライマーは、ストリンジェント、中ストリンジェント、低ストリンジェント条件下において、IMP-1遺伝子のmRNAにハイブリダイズする。本願明細書において用いられる「ストリンジェント(ハイブリダイゼーション)条件」という用語は、プローブ又はプライマーが、その標的配列にハイブリダイズし、他の配列にはハイブリダイズしないであろう条件を意味する。ストリンジェント条件は、配列依存的であり、環境が異なればそれらも異なる。より長い配列の特異的ハイブリダイゼーションは、短い配列よりも高い温度で観察される。通常、ストリンジェント条件の温度は、規定のイオン強度及びpHで、特異的配列の熱融点(Tm)よりも約5度低いものが選択される。Tmは、標的配列と相補的なプローブの50%が、平衡状態で、標的配列とハイブリダイズする温度(規定のイオン強度、pH及び核酸濃度下)である。標的配列は、通常、過剰に存在するため、Tmにおいては、プローブの50%が平衡状態で消費される。典型的には、ストリンジェント条件は、塩濃度が、pH7.0〜8.3で、ナトリウムイオン約1.0M未満、典型的には、ナトリウムイオン(又は他の塩)約0.01〜1.0Mであって、温度は、短いプライマー(例えば、10〜50ヌクレオチド)では少なくとも約30度、長いプローブ又はプライマーでは少なくとも約60度である。ストリンジェント条件はまた、ホルムアミドのような変性剤の添加で達成され得る。
【0102】
あるいは、翻訳産物が、本発明の診断のために検出されてもよい。例えば、IMP-1タンパク質の量が決定され得る。翻訳産物としてのタンパク質の量を決定する具体的方法は、タンパク質を特異的に認識する抗体を使用するイムノアッセイ法を含む。例えば、タンパク質を特異的に認識する抗体は、SEQ ID NO:5又はSEQ ID NO:6(実施例の『D.抗iMP-1ポリクローナル抗体の調整』を参照)に記載されるポリペプチドを用いて、作成され得る。抗体は、モノクローナルであってもポリクローナルであってもよい。さらに、フラグメントがIMP-1タンパク質に対する結合能力を保持している限り、抗体の如何なるフラグメント又は修飾(例えば、キメラ抗体、scFv、Fab、F(ab’)2、Fv等)も検出のために使用され得る。タンパク質検出用のこれら種類の抗体を作成する方法は、当技術分野において周知であり、如何なる方法も、当該抗体及びその同等物を作成するために、本発明において、使用され得る。
【0103】
その翻訳産物に基づいてIMP-1遺伝子の発現レベルを検出する他の方法として、IMP-1タンパク質に対する抗体を用いた免疫組織化学的解析を介して、染色強度が観察され得る。すなわち、強い染色の観察は、増大したタンパク質の存在と同時にIMP-1遺伝子の高い発現レベルを示す。NSCLC組織は、免疫組織化学的解析のための試験材料として、好ましく用いられ得る。
【0104】
さらに、IMP-1遺伝子の発現レベルに加えて、他の癌関連遺伝子、例えば、NSCLCで差次的に発現することが知られている遺伝子の発現レベルが、診断の精度を改善するために決定されてもよい。
【0105】
生体試料におけるIMP-1遺伝子を含む癌マーカー遺伝子の発現レベルは、対応する癌マーカー遺伝子の対照レベルから、例えば10%、25%又は50%上昇しているか、;又は1.1倍以上、1.5倍以上、2.0倍以上、5.0倍以上、10.0倍以上上昇している場合に、上昇していると考えることができる。
【0106】
対照レベルは、その病期(癌性又は非癌性)が知られている対象から過去に採取されて保存されていた試料を使用することにより、試験生体試料と同時に決定され得る。あるいは、対象レベルは、その病期が知られている対象由来の試料において、過去に決定されたIMP-1遺伝子の発現レベルを解析することにより得た結果に基づく統計学的手法によって、決定されてもよい。さらに、対照レベルは、過去に試験された細胞由来の発現パターンデータベースでもあり得る。さらに、本発明の一態様によれば、生体試料におけるIMP-1遺伝子の発現レベルは、複数の参照試料から決定された複数の対照レベルと比較されてもよい。患者由来の生体試料のものと類似する組織型の参照試料から決定された対象レベルを使用することが好ましい。さらに、病期の知られた集団におけるIMP-1遺伝子の発現レベルの標準値を使用することが好ましい。標準値は、当技術分野で公知の如何なる方法によっても取得され得る。例えば、平均±2 S.D.又は平均±3 S.D.の範囲が、標準値として使用され得る。
【0107】
本発明の文脈において、癌性でないことが知られている生体試料から決定された対象レベルは、「正常対照レベル」と呼ばれる。他方、対照レベルが癌性生体試料から決定された場合には、「癌性対照レベル」と呼ばれる。
【0108】
IMP-1遺伝子の発現レベルが、正常対照レベルと比較して上昇しているか、又は癌性対照レベルに類似しているとき、対象は、癌に罹患しているか、又は癌を発症するリスクを有すると診断され得る。さらに、試料と癌性である参照との間の遺伝子発現パターンの類似は、対象が、癌に罹患しているか、又は癌を発症するリスクを有することを示す。
【0109】
試験生体試料の発現レベルと対照レベルとの差異は、対照核酸、例えば、その発現レベルが細胞の癌又は非癌ステージに依存して変化しないことが知られているハウスキーピング遺伝子の発現レベルに対して、標準化することができる。典型的な対照遺伝子は、これに限定されるものではないが、β-アクチン、グリセルアルデヒド3‐リン酸デヒドロゲナーゼ及びリボソームタンパク質P1を含む。
【0110】
III-2.癌治療の有効性の評価
正常細胞と癌細胞との間で差次的に発現されるIMP-1遺伝子により、癌治療の経過をモニターすることもまた可能となり、癌を診断するための前述の方法は、癌における治療の有効性を評価するのに適用することができる。特に、癌における治療の有効性は、治療を受けている対象由来の細胞におけるIMP-1遺伝子の発現レベルを決定することにより評価することができる。必要に応じて、試験細胞集団は、様々な時点、治療前、治療中及び/又は治療後に、対象から採取される。IMP-1遺伝子の発現レベルは、例えば、『I-1.癌又は癌を発症する素因を診断する方法』の項目で前述した方法に従って決定することができる。本発明の文脈において、検出された発現レベルと比較される対照レベルは、関心対象の治療を受けていない細胞におけるIMP-1遺伝子発現から決定されることが好ましい。
【0111】
IMP-1遺伝子の発現レベルが、正常細胞又は癌細胞を含まない細胞集団から決定される対照レベルと比較される場合には、発現レベルの類似は、関心対象の治療が有効であることを示し、発現レベルの相違は、その治療の臨床転帰又は予後があまり好ましくないことを示す。他方、比較が、癌細胞又は癌細胞を含む細胞集団から決定された対照レベルに対して行われる場合には、発現レベルの相違は、有効な治療であることを示し、一方、発現レベルの類似は、臨床転帰又は予後があまり好ましくないことを示す。
【0112】
さらに、治療の有効性を評価するために、治療の前と後のIMP-1遺伝子発現レベルを、本方法に従って、比較することができる。特に、治療後の対象由来生体試料で検出された発現レベル(すなわち、治療後レベル)が、同じ対象由来の治療開始前に得られた生体試料で検出された発現レベル(すなわち、治療前レベル)と比較される。治療前レベルと比較して治療後レベルが減少していることは、関心対象の治療が有効であることを示し、一方、治療前レベルに対して治療後レベルが増加又は類似していることは、臨床転帰又は予後があまり好ましくないことを示す。
【0113】
本願明細書で用いられる「有効な」という用語は、治療が、対象において、病的に上方制御された遺伝子の発現減少、病的に下方制御された遺伝子の発現増加又は癌のサイズ、有病率若しく転移能の減少を導くことを示す。関心対象の治療が予防的に適用される場合、「有効な」とは、治療が、腫瘍の形成を遅らせるか若しくは防ぐこと、少なくとも1つの癌の臨床症状を遅延、抑制若しくは緩和することを意味する。対象における癌の病期の評価は、標準的な臨床プロトコルを用いて実施することができる。
【0114】
さらに、治療の有効性は、癌を診断する任意の公知の方法に関連して、決定することもできる。癌は、例えば、兆候となる異常、例えば、体重減少、腹痛、背痛、食欲低下、嘔気、嘔吐及び全身性倦怠感、虚弱、並びに黄疸を同定することによって、診断することができる。
【0115】
III-3.癌患者の予後評価
前述の癌の診断方法は、対象における癌の予後を評価又は決定するのに使用することもできる。それゆえ、本発明は、癌患者の予後を評価又は決定する方法もまた提供する。IMP-1遺伝子の発現レベルは、例えば、「I-1.癌又は癌発症の素因を診断する方法」の項目で前述した方法に従って、決定することができる。例えば、様々な病期の患者に由来する生体試料中のIMP-1遺伝子の発現レベルは、対象で検出された遺伝子発現レベルと比較するための対照レベルとして使用することができる。対象におけるIMP-1遺伝子の発現レベルと対照レベルとを比較することによって、対象の予後を評価することができる。又は、対象における発現レベルパターンを経時的に比較することによって、対象の予後を評価することができる。
【0116】
例えば、正常対照レベルと比較して対象におけるIMP-1遺伝子の発現レベルが増加していることは、予後があまり好ましくないことを示す。逆に、正常対照レベルと比較して発現レベルが類似していることは、対象の予後がより好ましいことを示す。
【0117】
本発明によれば、中間的な結果が、対象の予後を評価するための他の試験結果と併せて、提供されてもよい。当該中間的な結果は、対象の予後を評価、決定、予測するために、医者、看護師又は他の施術者の助力となり得る。本発明によって得られた中間的な結果と組み合わせて、予後を評価するための考えられ得る追加の情報には、対象の臨床症状及び健康状態が含まれる。
【0118】
IV.スクリーニング方法:
IMP-1遺伝子、当該遺伝子若しくはそのフラグメントによってコードされるポリペプチド又は当該遺伝子転写調節領域を用いて、当該遺伝子の発現又は当該遺伝子によってコードされるポリペプチドの生物活性を変化させる薬剤をスクリーニングすることが可能である。当該薬剤は、癌を治療又は予防するための医薬として用いることができる。それゆえ、本発明は、IMP-1遺伝子、当該遺伝子若しくはその断片によってコードされるポリペプチド又は当該遺伝子の転写調節領域を用いて、癌を治療又は予防するための薬剤を同定する方法を提供する。
【0119】
本発明のスクリーニング方法により同定される薬剤は、IMP-1遺伝子の発現又は遺伝子の翻訳産物の活性を阻害すると予想される薬剤であり、それゆえ、例えば、癌のような細胞増殖性疾患に起因する病気を治療又は予防するための候補である。当該薬剤は、NSCLCのグループから選択される癌を治療又は予防することが期待される。すなわち、本方法によって同定された薬剤は、臨床的有益性を有することが期待され、動物モデル又は試験用対象において、癌細胞の増殖を阻止する能力について、さらに試験され得る。
【0120】
本発明の文脈において、本スクリーニング方法により同定される薬剤は、如何なる化合物又は組成物でもあってもよく、複数の化合物を含んでもよい。さらに、本発明のスクリーニング方法により細胞又はタンパク質に曝露される試験薬剤は、単一化合物又は化合物の組み合わせであってもよい。化合物の組み合わせが本方法に用いられる場合には、化合物は、順番に又は同時に接触させることができる。
【0121】
如何なる試験薬剤、例えば、細胞抽出物、細胞培養上清、発酵微生物の産生物、海洋生物由来抽出物、植物抽出物、精製又は未精製のタンパク質、ペプチド、非ペプチド化合物、合成マイクロ分子化合物(例えばアンチセンスRNA、siRNA、リボザイム等の核酸構成物を含む)及び天然化合物も、本発明のスクリーニング方法に使用することができる。本発明の試験薬剤はまた、限定されるものではないが、(1)生物ライブラリー、(2)空間的にアドレス可能な(spatially addressable)パラレル固相又は液相ライブラリー、(3)デコンボリューションを要する合成ライブラリー法、(4)「1ビーズ1化合物(one-bead one-compound)」ライブラリー法、(5)アフィニティークロマトグラフィー選別を用いた合成ライブラリー法を含む当技術分野で公知のコンビナトリアルライブラリー法の多数のアプローチのいずれかを用いて得ることもできる。アフィニティークロマトグラフィー選別を用いた生物ライブラリー法は、ペプチドライブラリーに限定されるが、他の4つのアプローチは、ペプチド、非ペプチドオリゴマー又は化合物の低分子ライブラリーに適用可能である(Lam, Anticancer Drug Des 1997, 12: 145-67)。分子ライブラリーの合成方法の例は、当技術分野において見出すことができる(DeWitt et al., Proc Natl Acad Sci USA 1993, 90: 6909-13; Erb et al., Proc Natl Acad Sci USA 1994, 91: 11422-6; Zuckermann et al., J Med Chem 37: 2678-85, 1994; Cho et al., Science 1993, 261: 1303-5; Carell et al., Angew Chem Int Ed Engl 1994, 33: 2059; Carell et al., Angew Chem Int Ed Engl 1994, 33: 2061; Gallop et al., J Med Chem 1994, 37: 1233-51)。化合物のライブラリーは、溶液中に存在させてもよいし(Houghten, Bio/Techniques 1992, 13: 412-21を参照)、ビーズ(Lam, Nature 1991, 354: 82-4)、チップ(Fodor, Nature 1993, 364: 555-6)、バクテリア(米国特許第5,223,409号)、胞子(米国特許第5,571,698号、同第5,403,484号及び同第5,223,409号)、プラスミド(Cull et al., Proc Natl Acad Sci USA 1992, 89: 1865-9)若しくはファージ(Scott and Smith, Science 1990, 249: 386-90; Devlin, Science 1990, 249: 404-6; Cwirla et al., Proc Natl Acad Sci USA 1990, 87: 6378-82; Felici, J Mol Biol 1991, 222: 301-10; 米国特許出願公開第2002103360号)上に存在させてもよい。
【0122】
本スクリーニング方法のいずれかによって同定された化合物の構造の一部が、付加、欠失及び/又は置換によって変更されている化合物は、本発明のスクリーニング方法によって得られた薬剤に含まれる。
【0123】
さらに、試験薬剤がタンパク質又は当該タンパク質をコードするDNAである場合には、タンパク質をコードするDNAを得るために、タンパク質の全アミノ酸配列を決定し、そのタンパク質をコードする核酸配列を推定してもよく、又は得られたタンパク質のアミノ酸配列の一部を解析し、その配列に基づいてプローブを調整し、そのプローブを用いてcDNAライブラリーをスクリーニングしてもよい。得られたDNAは、癌を治療又は予防する候補である試験薬剤を調整する際に使用される。
【0124】
IV-1.タンパク質に基づくスクリーニング方法
本発明によれば、IMP-1遺伝子の発現は、癌細胞の増殖及び/又は生存に非常に重要であることが示唆された。それゆえ、当該遺伝子によってコードされるポリペプチドの機能を抑制する薬剤は、癌細胞の増殖及び/又は生存を阻害し、癌の治療及び予防に有用であると考えられた。したがって、本発明は、IMP-1ポリペプチドを用いて、癌を治療又は予防する薬剤を同定する方法を提供する。
【0125】
IMP-1ポリペプチドに加えて、天然IMP-1ポリペプチドの少なくとも1つの生物活性が保持されている限り、当該ポリペプチドの断片が本スクリーニング方法に関連して使用されてもよい。
【0126】
ポリペプチド又はその断片は、結果として生じるポリペプチド及び断片が元のペプチドの少なくとも1つの生物活性を保持している限り、他の物質にさらに連結されてもよい。利用可能な物質には、ペプチド、脂質、糖及び糖鎖、アセチル基、天然及び合成ポリマー等が含まれる。この種の改変は、ポリペプチド及び断片に、付加的な機能を付与したり、安定化させるために行われてもよい。
【0127】
本方法に用いられるポリペプチド又は断片は、従来の精製方法を介して天然タンパク質として天然物から得てもよいし、選択されたアミノ酸配列に基づく化学合成により得てもよい。例えば、合成のために採用することができる従来のペプチド合成方法には、以下のものが含まれる:
1) Peptide Synthesis, Interscience, New York, 1966;
2) The Proteins, Vol. 2, Academic Press, New York, 1976;
3) Peptide Synthesis (in Japanese), Maruzen Co., 1975;
4) Basics and Experiment of Peptide Synthesis (in Japanese), Maruzen Co., 1985;
5) Development of Pharmaceuticals (second volume) (in Japanese), Vol. 14 (peptide synthesis), Hirokawa, 1991;
6) WO99/67288;及び
7)Barany G. & Merrifield R.B., Peptides Vol. 2, “Solid Phase Peptide Synthesis”, Academic Press, New York, 1980, 100-118。
【0128】
あるいは、タンパク質は、ポリペプチドを生産するための任意の公知の遺伝子工学的方法を採用して得てもよい(例えば、Morrison J., J Bacteriology 1977, 132: 349-51; Clark-Curtiss & Curtiss, Methods in Enzymology (eds. Wu et al.) 1983, 101: 347-62)。例えば、まず、発現可能な形態で(例えばプロモーターを含む調節配列の下流)目的のタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含む適切なベクターを調整し、適切な宿主細胞に形質転換し、その後、宿主細胞を培養してタンパク質を生産させる。より具体的には、IMP-1ポリペプチドをコードする遺伝子を、pSV2neo、pcDNA I、 pcDNA3.1、pCAGGS又はpCD8等の外来遺伝子を発現させるためのベクター中に挿入することによって、宿主(動物)細胞等において、その遺伝子を発現させる。発現のためにはプロモーターが使用されてもよい。任意の一般的に用いられているプロモーターを使用することができ、例えば、SV40初期プロモーター(Rigby in Williamson (ed.), Genetic engineering, vol. 3. Academic Press, London, 1982, 83-141)、EF-αプロモーター(Kim et al., Gene 1990, 91:217-23)、CAGプロモーター(Niwa et al., Gene 1991, 108:193)、RSV LTRプロモーター(Cullen, Methods in Enzymology 1987, 152:684-704)、SRαプロモーター(Takebe et al., Mol Cell Biol 1988, 8:466)、CMV最初期プロモーター(Seed et al., Proc Natl Acad Sci USA 1987, 84:3365-9)、SV40後期プロモーター(Gheysen et al., J Mol Appl Genet 1982, 1:385-94)、アデノウィルス後期プロモーター(Kaufman et al., Mol Cell Biol 1989, 9:946)、HSV TKプロモーター等が含まれる。IMP-1遺伝子を発現させる宿主細胞内へのベクターの導入は、任意の方法、例えば、エレクトロポーレーション法(Chu et al., Nucleic Acids Res 1987, 15:1311-26)、リン酸カルシウム法(Chen et al., Mol Cell Biol 1987, 7:2745-52)、DEAEデキストラン法(Lopata et al., Nucleic Acids Res 1984, 12:5707-17; Sussman et al., Mol Cell Biol 1984, 4:1641-3)、リポフェクチン法(Derijard B, Cell 1994, 7:1025-37); Lamb et al., Nature Genetics 1993, 5:22-30; Rabindran et al., Science 1993, 259:230-4)等に従って行うことができる。
【0129】
IMP-1タンパク質はまた、インビトロ翻訳系を採用して、インビトロで生産してもよい。
【0130】
試験薬剤に接触させるIMP-1ポリペプチドは、例えば、精製ポリペプチド、可溶性タンパク質又は他のポリペプチドと融合された融合タンパク質であることが可能である。
【0131】
IV-1-1.IMP-1ポリペプチドに結合する薬剤の同定
タンパク質に結合する薬剤は、そのタンパク質をコードする遺伝子の発現又はその遺伝子の生物活性を変化させる可能性がある。それゆえ、一態様において、本発明は、以下の工程を含む、癌を治療又は予防するための薬剤をスクリーニングする方法を提供する:
a) 試験薬剤をIMP-1ポリペプチド又はその機能的断片と接触させる工程;
b) ポリペプチド(又は断片)と試験薬剤との間の結合を検出する工程;及び
c) ポリペプチド(又は断片)に結合する試験薬剤を選択する工程。
【0132】
IMP-1ポリペプチドに対する試験薬剤の結合は、例えば、ポリペプチドに対する抗体を用いた免疫沈降によって検出することができる。それゆえ、当該検出の目的のためには、スクリーニングに使用するIMP-1ポリペプチド又はその機能的断片は、抗体認識部位を含むことが好ましい。スクリーニングに使用する抗体は、本IMP-1ポリペプチドの抗原領域(例えばエピトープ)を認識するものであり、その調整方法は当技術分野において周知であって、当該抗体とその同等物を調整するために、任意の方法を、本発明において、実施することができる。
【0133】
あるいは、IMP-1ポリペプチド又はその機能的断片は、その特異性が明らかにされているモノクローナル抗体の、ポリペプチドのN末端又はC末端に対する認識部位(エピトープ)を、そのN末端又はC末端に含む融合タンパク質として発現されてもよい。市販のエピトープ-抗体システムを使用することができる(Experimental Medicine 1995, 13:85-90)。例えば、β-ガラクトシダーゼ、マルトース結合タンパク質、グルタチオン S-トランスフェラーゼ、緑色蛍光タンパク質(GFP)等との融合タンパク質を、マルチクローニングサイトを用いることにより発現可能なベクターが市販されており、本発明のために使用することができる。さらに、エピトープに対する抗体を用いた免疫沈降法によって検出され得る非常に小さなエピトープを含む融合タンパク質もまた、当技術分野において公知である(Experimental Medicine 1995, 13:85-90)。IMP-1ポリペプチド又はその断片の特性を変えないような数ダースのアミノ酸からなる当該エピトープもまた、本発明に使用することができる。ポリヒスチジン(His-タグ)、インフルエンザ凝集体HA、ヒトc-myc、FLAG、水疱性口内炎ウイルス糖タンパク質(VSV-GP)、T7遺伝子10タンパク質(T7-タグ)、ヒト単純ヘルペスウイルス糖タンパク質(HSV-タグ)、E-タグ(モノクローナルファージ上のエピトープ)等が例示されるが、これに限定されるものではない。
【0134】
グルタチオンSトランスフェラーゼ(GST)もまた、免疫沈降法により検出され得る融合タンパク質の対応物として周知である。GSTが、IMP-1ポリペプチド又はその断片と融合されるタンパク質として使用され、融合タンパク質を形成する場合には、融合タンパク質は、GSTに対する抗体又はグルタチオン(例えば、グルタチオン-セファロース4B)のようなGSTに特異的に結合する物質のいずれかを用いて検出することができる。
【0135】
免疫沈降法においては、IMP-1ポリペプチドと試験薬剤との反応混合物に、(IMP-1ポリペプチド若しくはその機能的断片自体、又は当該ポリペプチド又は断片に標識されたエピトープを認識する)抗体を添加することにより、免疫複合体が形成される。試験薬剤がポリペプチドに結合する能力を有する場合、形成された免疫複合体はIMP-1ポリペプチド、試験薬剤及び抗体からなると考えられる。これに対して、試験薬剤が当該能力を欠いている場合、そのとき形成される免疫複合体は、IMP-1ポリペプチド及び抗体のみを含む。それゆえ、IMP-1ポリペプチドに対する試験薬剤の結合能は、例えば、形成された免疫複合体のサイズを測定することにより試験することができる。クロマトグラフィー、電気泳動を含む、物質のサイズを検出するための任意の方法が用いられ得る。例えば、マウスIgG抗体が検出に用いられる場合、プロテインA又はプロテインGセファロースが、形成された免疫複合体を定量するために、使用され得る。
【0136】
免疫沈降法のさらなる詳細については、例えば、Harlow et al., Antibodies, Cold Spring Harbor Laboratory publications, New York, 1988, 511-52を参照されたい。
【0137】
さらに、それに結合する薬剤のスクリーニングのために用いられるIMP-1ポリペプチド又はその機能的断片は、担体に結合されてもよい。ポリペプチドに結合するために用いられ得る担体の例には、アガロース、セルロース及びデキストランなどの不溶性多糖類、並びにポリアクリルアミド、ポリスチレン及びシリコンなどの合成樹脂が含まれ、好ましくは、上記の材料から調整された市販のビーズ及びプレート(例えば、マルチウェルプレート、バイオセンサーチップ等)が使用され得る。ビーズを用いる場合には、それらはカラム中に充填されてもよい。あるいは、磁気ビーズの使用もまた当技術分野で公知であり、磁力を介してビーズに結合されたポリペプチド及び薬剤を容易に単離することができる。
【0138】
担体へのポリペプチドの結合は、化学結合及び物理的吸着などの常法に従って行うことができる。あるいは、ポリペプチドはタンパク質を特異的に認識する抗体を介して担体に結合されてもよい。さらに、担体へのポリペプチドの結合は、アビジン及びビオチンの組み合わせのような相互作用分子を用いて行うこともできる。
【0139】
当該担体結合IMP-1ポリペプチド又はその機能的断片を用いたスクリーニング方法には、例えば、試験薬剤を担体結合ポリペプチドに接触させる工程、混合物をインキュベートする工程、担体を洗浄する工程、並びに担体に結合した薬剤を検出及び/又は測定する工程が含まれる。緩衝液が結合を阻害しない限り、緩衝液中、例えば、これに限定されないが、リン酸緩衝液及びトリス緩衝液中で、結合を行ってもよい。
【0140】
当該担体結合IMP-1ポリペプチド又はその断片及び組成物(例えば、細胞抽出物、細胞溶解物等)が試験薬剤として用いられるスクリーニング方法の例は、アフィニティークロマトグラフィーを含む。例えば、IMP-1ポリペプチドはアフィニティーカラムの担体上に固定化され、ポリペプチドに結合能を有する物質を含む試験薬剤がカラムに添加される。試験薬剤の添加後、カラムを洗浄し、その後、ポリペプチドに結合した物質を適切な緩衝液で溶出する。
【0141】
表面プラズモン共鳴現象を用いたバイオセンサーが、本発明において、結合した薬剤を検出又は定量するための手段として使用されてもよい。当該バイオセンサーが使用される場合には、IMP-1ポリペプチドと試験薬剤との間の相互作用は、ごく微量のポリペプチドのみを使って、かつ標識することなく、表面プラズモン共鳴信号として、リアルタイムで観察することができる。それゆえ、ポリペプチドと試験薬剤との間の結合は、BIAcoreのようなバイオセンサーを使って評価することができる。
【0142】
合成化学化合物、又は天然物質バンク若しくはランダムファージペプチドディスプレイライブラリー中の分子から、担体上に固定化された特定のタンパク質をそれらの分子に曝露することにより、当該特定のタンパク質に結合する分子をスクリーニングする方法、及びタンパク質だけでなく化学化合物を単離するためのコンビナトリアル・ケミストリー技術(Wrighton et al., Science 1996, 273:458-64; Verdine, Nature 1996, 384:11-3)に基づくハイスループット・スクリーニング方法もまた、当業者に周知である。これらの方法もまた、IMP-1タンパク質又はその断片に結合する薬剤(アゴニスト及びアンタゴニストを含む)をスクリーニングするために使用することができる。
【0143】
試験薬剤がタンパク質である場合には、例えば、ウェスト・ウェスタンブロット解析(Skolnik et al., Cell 1991, 65:83-90)が、本方法のために使用され得る。具体的には、IMP-1ポリペプチドに結合するタンパク質は、IMP-1ポリペプチドに結合するタンパク質を少なくとも1種発現していると思われる細胞、組織、器官又は培養細胞(例えばNSCLC)からファージベクター(例えばZAP)を使って調整されたcDNAライブラリーをまず作成し、LB-アガロース上でcDNAライブラリーのベクターによってコードされたタンパク質を発現させ、発現されたタンパク質をフィルター上に固定し、精製され標識されたIMP-1ポリペプチドを上記フィルターと反応させ、IMP-1ポリペプチドの標識に従って、IMP-1ポリペプチドが結合したタンパク質を発現しているプラークを検出することにより、得ることができる。
【0144】
放射性同位体(例えば、3H, 14C, 32P, 33P, 35S, 125I, 131I)、酵素(例えば、アルカリフォスファターゼ、西洋ワサビペルオキシダーゼ、β-ガラクトシダーゼ、β-グルコシダーゼ)、蛍光物質(例えば、フルオレセイン・イソチオシオネート(FITC)、ローダミン)及びビオチン/アビジンなどの標識物質が、本方法において、IMP-1ポリペプチドの標識のために用いられ得る。タンパク質が放射性同位体で標識される場合には、検出又は測定は、液体シンチレーションにより行うことができる。あるいは、タンパク質が酵素で標識される場合には、酵素の基質を添加して、発色のような基質の酵素的変化を吸光光度計で検出することによって、タンパク質を検出又は測定することができる。標識として蛍光物質が用いられる場合には、結合タンパク質は、蛍光光度計を用いて検出又は測定されてもよい。
【0145】
さらに、タンパク質に結合したIMP-1ポリペプチドは、IMP-1ポリペプチド、又はIMP-1ポリペプチドに融合されたペプチド若しくはポリペプチド(例えばGST)に特異的に結合する抗体を用いることにより、検出又は測定することができる。本スクリーニングで抗体を用いる場合には、抗体は、前述した標識物質の1つで標識され、標識物質に基づいて検出又は測定されることが好ましい。あるいは、IMP-1ポリペプチドに対する抗体は、標識物質で標識された第二抗体で検出されるための第一抗体として使用されてもよい。さらに、本スクリーニングにおいてIMP-1ポリペプチドに結合した抗体は、プロテインG又はプロテインAカラムを用いて検出又は測定されてもよい。
【0146】
あるいは、本発明のスクリーニング方法の他の実施態様においては、細胞を用いたツーハイブリッドシステムが使用されてもよい(「MATCHMAKER Two-Hybrid system」、 「Mammalian MATCHMAKER Two-Hybrid Assay Kit」、 「MATCHMAKER one-Hybrid system」(Clontech); 「HybriZAP Two-Hybrid Vector System」 (Stratagene); 参考文献 「Dalton et al., Cell 1992, 68:597-612」及び 「Fields et al., Trends Genet 1994, 10:286-92」)。ツーハイブリッドシステムにおいては、IMP-1ポリペプチド又はその断片は、SRF結合領域又はGAL4結合領域に融合され、酵母細胞で発現される。cDNAライブラリーは、発現されるときにライブラリーがVP16又はGAL4転写活性領域に融合するように、IMP-1ポリペプチドに結合するタンパク質を少なくとも1種発現すると思われる細胞から作成される。cDNAライブラリーは、その後、前記の酵母細胞に導入され、ライブラリー由来のcDNAが検出された陽性クローンから単離される(IMP-1ポリペプチドに結合するタンパク質が酵母細胞で発現されるとき、これら2種の結合がレポーター遺伝子を活性化し、陽性クローンを検出可能にする)。cDNAによってコードされるタンパク質は、上記で単離されたcDNAを大腸菌に導入し、そのタンパク質を発現させることによって、調整することができる。
【0147】
レポーター遺伝子としては、HIS3遺伝子に加えて、例えば、Ade2遺伝子、lacZ遺伝子、CAT遺伝子、ルシフェラーゼ遺伝子等を使用することができる。
【0148】
このスクリーニングにより同定される薬剤は、IMP-1ポリペプチドのアゴニスト又はアンタゴニストの候補である。「アゴニスト」という用語は、ポリペプチドに結合することによって、そのポリペプチドの機能を活性化する分子を意味する。一方、「アンタゴニスト」という用語は、ポリペプチドに結合することによって、そのポリペプチドの機能を阻害する分子を意味する。さらに、このスクリーニングによりアンタゴニストとして単離された薬剤は、IMP-1と分子(核酸(RNA及びDNA)並びにタンパク質を含む)とのインビボでの相互作用を阻害する候補である。
【0149】
IV-1-2.IMP-1ポリペプチドの生物活性を検出することによる薬剤の同定
本発明によって、IMP-1遺伝子の発現が、癌細胞の増殖及び/又は生存に非常に重要であることが示された。それゆえ、IMP-1遺伝子の翻訳産物の生物機能を抑制又は阻害する薬剤は、癌の治療又は予防のための候補として役立つと考えられる。それゆえ、本発明は、以下の工程を含む、IMP-1ポリペプチド又はその断片を用いて癌を治療又は予防するための化合物をスクリーニングする方法もまた提供する:
(a) 試験薬剤をIMP-1ポリペプチド又はその機能的断片と接触させる工程;及び(b) (a)のポリペプチド又は断片の生物活性を検出する工程;及び。
【0150】
本スクリーニング方法においては、指標として用いられ得るIMP-1ポリペプチドの生物活性を有する限り、如何なるポリペプチドもスクリーニングに使用することができる。IMP-1ポリペプチドは、癌細胞の細胞増殖を促進する活性を有しているため、スクリーニングの指標として用いられ得るIMP-1ポリペプチドの生物活性には、ヒトIMP-1ポリペプチドの当該細胞増殖活性が含まれる。例えば、ヒトIMP-1ポリペプチドを用いることができるし、その機能的断片を含むそれと機能的に同等なポリペプチドもまた用いることができる。当該ポリペプチドは、適切な細胞によって、内因的に又は外因的に発現されてもよい。
【0151】
本方法で検出される生物活性が細胞増殖である場合、それは、例えば、IMP-1ポリペプチド又はその機能的断片を発現する細胞を調整し、試験薬剤の存在下で細胞を培養し、そして、細胞増殖速度の決定、細胞周期の測定等のほか、創傷治癒活性の検出、マトリゲル浸潤アッセイの実施及びコロニー形成活性の測定によって、検出することができる。
【0152】
本発明の一態様によれば、スクリーニングは、上記ステップ(b)の後、さらに次の工程を含む:
(c) 試験薬剤の非存在下において検出された生物活性と比較して、当該ポリペプチドの生物活性を抑制する試験薬剤を選択する工程。
【0153】
このスクリーニングによって単離される薬剤は、IMP-1ポリペプチドのアンタゴニストの候補であり、それゆえ、当該ポリペプチドと分子(核酸(RNA及びDNA)並びにタンパク質を含む)とのインビボでの相互作用を阻害する候補である。
【0154】
さらに、cDNAマイクロアレイ(IP-マイクロアレイ)と組み合わせたRNA免疫沈降試験を用いて、NSCLC細胞内でIMP-1と結合する可能性のある多数の候補mRNAが同定された(表3を参照)。IMP-1は、胚形成及び発癌において必須の役割を果たすある種のmRNAの輸送に、必要とされる可能性がある。それゆえ、増殖中の胚細胞又は癌細胞は、IMP-1タンパク質-mRNA複合体に関連する輸送システムを通して、不可欠なmRNAを細胞内に能動的に分配していると仮定される。IMP-1が、細胞周期の進行、細胞浸潤及び細胞移動、並びに様々なタイプの酵素活性に関与しているという証拠は、この仮定をサポートする。それゆえ、スクリーニング方法の指標としてのIMP-1の生物活性は、mRNA結合能であることができる。したがって、本発明は、以下の工程を含む、IMP-1発現細胞を用いた癌を治療又は予防するための化合物をスクリーニングする方法もまた、提供する:
(a) 試験薬剤を、IMP-1タンパク質又はその機能的同等物、及び表3から選択される1又は複数の遺伝子のmRNAと接触させる工程;
(b) IMP-1タンパク質とmRNAとの結合を検出する工程;及び
(c) 試験薬剤の非存在下において検出されたものと比較して、IMP-1タンパク質とmRNAとの結合を減じる試験薬剤を選択する工程。
【0155】
さらに、本発明は、以下の工程を含む、IMP-1ポリペプチド又はその断片を用いた癌を治療又は予防するための化合物をスクリーニングする方法を提供する。
(a) 試験薬剤を、IMP-1タンパク質又はその機能的同等物、及び表3から選択される1若しくは複数の遺伝子又はその機能的同等物のmRNAと接触させる工程;
(b) IMP-1タンパク質及びmRNAの結合を検出する工程;及び
(c) 試験薬剤の非存在下と比較して、IMP-1タンパク質及びmRNAとの結合を減じる試験薬剤を選択する工程。
【0156】
IMP-1タンパク質は、インビトロでRNAと結合する4つのKHモチーフ及び様々なRNA結合タンパク質で見出される2つのPRMs(RNA認識モチーフ)を含み、4つのKHモチーフはmRNAに結合するのに必須である(Nielsen FC, et al., J Cell Sci. 2002 May 15;115(Pt 10):2087-97)。それゆえ、前述したスクリーニング方法のためのIMP-1の機能的同等物は、これらのKHモチーフ(194〜265、275〜348、404〜475及び486〜558のアミノ酸位置)を保持するペプチド、例えば、SEQ ID NO: 12の197〜544のアミノ酸配列からなるペプチド断片であり得る。mRNA結合能は、実施例の『IMP-1結合mRNAの同定のためのRNA免疫沈降及びcDNAマイクロアレイスクリーニング』の項目で記載したように、例えば、IMP-1特異的抗体によるRNA免疫沈降と、それに続く適切な遺伝子増殖方法、例えばRT-PCRとの組み合わせによって、検出することができる。当該同定に使用される細胞又は細胞群は、IMP-1遺伝子を発現する限り、如何なる細胞又は細胞群であってもよい。例えば、細胞又は細胞群は、機能的IMP-1タンパク質を発現する細胞であるか又はそれらを含むもの、例えば、癌から樹立された細胞株(例えばA549)であってもよい。さらに、細胞又は細胞群は、IMP-1遺伝子を導入された細胞であるか又はそれを含むものであってもよい。あるいは、mRNA結合能は、インビトロでの方法によって検出することができ、IMP-1ポリペプチドの機能的同等物へのIMP-1ポリペプチド、及びIMP-1ポリペプチドに結合することができる表3に記載されたmRNA又はその断片が、互いに結合するような適切な条件でインキュベートされ、その後、例えばゲルシフトアッセイによって結合を検出することができる。
【0157】
IV-2.ヌクレオチドに基づくスクリーニング方法
IV-2-1.IMP-1遺伝子を用いたスクリーニング方法
上記で詳細に論じたように、IMP-1遺伝子の発現レベルを制御することによって、癌の発症及び進行を制御することができる。それゆえ、癌を治療又は予防において使用され得る薬剤は、IMP-1遺伝子の発現レベルを指標として用いるスクリーニングによって、同定することができる。本発明の文脈において、当該スクリーニングは、例えば、以下の工程を含むことができる:
(a) 試験薬剤をIMP-1遺伝子を発現している細胞と接触させる工程;
(b) IMP-1遺伝子の発現レベルを検出する工程;及び
(c) 試験薬剤の非存在下で検出されたレベルと比較して、IMP-1遺伝子の発現レベルを低下される試験薬剤を選択する工程。
【0158】
IMP-1遺伝子又はその遺伝子産物の活性を阻害する薬剤は、IMP-1遺伝子を発現する細胞を試験薬剤と接触させ、次いでIMP-1遺伝子の発現レベルを決定することによって、同定することができる。当然、同定は、単一の細胞の代わりに、当該遺伝子を発現する細胞群を用いてもまた実施され得る。薬剤の非存在下における発現レベルと比較して、薬剤存在下において検出された発現レベルが低下していることは、その薬剤がIMP-1遺伝子の阻害剤であることを示し、その薬剤が癌を阻害するのに有用であり、それゆえ癌の治療又は予防に使用される候補薬剤である可能性を示唆する。
【0159】
遺伝子の発現レベルは、当業者に周知の方法により、推定されることができる。IMP-1遺伝子の発現レベルは、例えば、『I-1.癌又は癌発症の素因を診断する方法』の項で前述された方法に従って、決定することができる。
【0160】
当該同定に用いる細胞又は細胞群は、IMP-1遺伝子を発現する限り、如何なる細胞又は細胞群であってもよい。例えば、細胞又は細胞群は、組織由来の上皮細胞であるか又はそれを含むものであってもよい。あるいは、細胞又は細胞群は、NSCLC由来のものを含む、癌細胞由来の不死化細胞であるか又はそれを含むものであってもよい。IMP-1遺伝子を発現する細胞には、例えば、癌から樹立された細胞株が含まれる(例えばA549)。さらに、細胞又は細胞群は、IMP-1遺伝子を導入した細胞であるか又はそれを含むものであってもよい。
【0161】
本方法は、前述の様々な薬剤のスクリーニングを可能にし、特に、アンチセンスRNA、siRNA等を含む機能的核酸分子を同定するのに適している。
【0162】
IV-2-2.IMP-1遺伝子の転写調節領域を用いたスクリーニング方法
他の態様によれば、本発明は、以下の工程を含む方法を提供する:
(a) 試験薬剤を、IMP-1遺伝子の転写調節領域、及びその転写調節領域の制御下で発現されるレポーター遺伝子とからなるベクターを導入された細胞と接触させる工程;
(b) 前記レポーター遺伝子の発現又は活性を検出する工程;及び
(c) 試験薬剤の非存在下で検出されたレベルと比較して、前記レポーター遺伝子の発現又は活性を低下させる試験薬剤を選択する工程。
【0163】
適切なレポーター遺伝子及び宿主細胞は、当技術分野において周知である。スクリーニングに必要とされるレポーター構成物は、IMP-1遺伝子の転写調節領域を使って調整することができ、それは、遺伝子のヌクレオチド配列情報に基づいてゲノムライブラリーから転写領域を含むヌクレオチドセグメントとして、得ることができる。
【0164】
転写調節領域は、例えば、IMP-1遺伝子のプロモーター配列であってもよい。スクリーニングに必要とされるレポーター構成物は、レポーター遺伝子配列をIMP-1遺伝子の転写調節領域に連結することによって、調整することができる。本願明細書において、IMP-1遺伝子の転写調節領域とは、開始コドンから少なくとも500bp上流、好ましくは1000bp、より好ましくは5000又は10000bp上流までの領域である。転写調節領域を含むヌクレオチドセグメントは、ゲノムライブラリーから単離することができ、又は、PCRによって増幅することができる。転写調節領域を同定するための方法、そしてアッセイプロトコルもまた、周知である(Molecular Cloning third edition chapter 17, 2001, Cold Springs Harbor Laboratory Press)。
【0165】
IMP-1遺伝子の転写調節領域(例えばプロモーター配列)に機能的に連結されたレポーター遺伝子を導入された細胞が使用された場合には、薬剤は、レポーター遺伝子産物の発現レベルを検出することにより、IMP-1遺伝子の発現を阻害又は促進するものとして、同定することができる。
【0166】
レポーター遺伝子としては、例えば、当技術分野で周知のAde2遺伝子、lacZ遺伝子、CAT遺伝子、ルシフェラーゼ遺伝子、HIS3遺伝子等を用いることができる。これらの遺伝子の発現を検出する方法は、当技術分野において周知である。
【0167】
IV-3.特定の個体に適した治療薬剤の選択
個体間の遺伝子構成の差異は、様々な薬物を代謝する相対的な能力の差異を生じ得る。対象中で代謝されて抗腫瘍薬として作用する薬剤は、癌状態に特徴的な遺伝子発現パターンから非癌状態に特徴的な遺伝子発現パターンへと、対象の細胞中での遺伝子発現パターンの変化を誘導することによって、顕在化し得る。したがって、本願明細書に開示される癌細胞と非癌細胞との間で差次的に発現されるIMP-1遺伝子により、選択された対象由来の試験細胞群において、癌の推定上の治療的又は予防的阻害剤を試験して、その薬剤が対象において癌の適切な阻害剤であるか否かを判定することが可能になる。
【0168】
特定の対象に適した癌阻害剤を同定するために、対象由来の試験細胞群が候補治療薬剤に曝露され、IMP-1遺伝子の発現が決定される。
【0169】
本発明の方法の文脈において、試験細胞群には、IMP-1遺伝子を発現している癌細胞が含まれる。好ましくは、試験細胞は上皮細胞である。
【0170】
具体的には、試験細胞群は候補治療薬剤の存在下で培養され、試験細胞群におけるIMP-1遺伝子の発現が測定され、1つ又はそれ以上の参照プロファイル、例えば、癌性参照発現プロファイル又は非癌性参照発現プロファイルと比較され得る。
【0171】
癌を含む参照細胞群と比較して試験細胞群におけるIMP-1遺伝子の発現が低下していることは、その薬剤が治療能力を有していることを示す。
【0172】
V.癌を治療又は予防するための医薬組成物:
本発明のスクリーニング方法のいずれかにより同定される薬剤、IMP-1遺伝子のアンチセンス核酸及びsiRNA、並びにIMP-1ポリペプチドに対する抗体は、IMP-1遺伝子の発現又はIMP-1ポリペプチドの生物活性を阻害又は抑制し、細胞周期制御及び細胞増殖を阻害又はかく乱する。それゆえ、本発明は、癌を治療又は予防するための組成物を提供し、その組成物には、本発明のスクリーニング方法のいずれかによって同定された薬剤、IMP-1遺伝子のアンチセンス核酸及びsiRNA、又はIMP-1ポリペプチドに対する抗体が含まれる。本組成物は、NSCLCのような癌を治療又は予防するために用いることができる。
【0173】
組成物は、ヒト及び他の哺乳類、例えば、マウス、ラット、モルモット、ウサギ、ネコ、イヌ、ヒツジ、ブタ、ウシ、サル、ヒヒ及びチンパンジー等のための医薬として使用し得る。
【0174】
本発明の文脈において、以下で詳述する本発明の活性成分(スクリーニングされた薬剤、アンチセンス核酸、siRNA、抗体等を含む)に適した製剤処方には、経口投与、直腸投与、経鼻投与、局所投与(頬側投与及び舌下投与を含む)、膣内投与若しくは非経口投与(筋肉内投与、皮下投与及び静脈内投与を含む)、又は吸入若しくは吹入による投与に適した製剤が含まれる。好ましくは、投与は、静脈内である。製剤は、任意に、個別の投与単位でパッケージされる。
【0175】
経口投与に適した製剤処方には、カプセル、マイクロカプセル、カシェ剤及び錠剤が含まれ、それぞれ所定量の活性成分を含む。適切な製剤には、粉末剤、エリキシル剤、顆粒剤、液剤、懸濁剤及び乳剤もまた含まれる。活性成分は、任意に、ボーラス舐剤又はペースト剤として投与される。あるいは、必要に応じて、医薬組成物は、水又は任意の他の薬学的に許容される液体による無菌溶液又は懸濁液の注射剤の形態で、非経口投与されてもよい。例えば、本発明の活性成分は、一般的に認められる薬物製剤に必要とされる単位用量形態で、薬学的に許容される担体又は媒体、具体的には無菌水、生理食塩水、植物油、乳化剤、懸濁剤、界面活性剤、安定化剤、矯味剤、賦形剤、溶剤、保存剤、結合剤等と混合することができる。当該調整物中の活性成分の量により、指定された範囲内の適切な投薬量が取得できるようになる。
【0176】
錠剤及びカプセル中に混合し得る添加物の例には、ゼラチン、コーンスターチ、トラガカント・ゴム及びアラビア・ゴムのような結合剤;結晶セルロースのような賦形剤;コーンスターチ、ゼラチン及びアルギン酸のような膨張剤、;ステアリン酸マグネシウムのような潤沢剤;及びショ糖、乳糖又はサッカリンのような甘味料;及びペッパーミント、アカモノ(Gaultheria adenothrix)油及びサクランボのような矯味剤が含まれるが、これらに限定されるものではない。錠剤は、任意に1以上の製剤用成分とともに圧縮又は成形することによって、製造されてもよい。圧縮錠剤は、粉末又は顆粒のような易流動性形態の活性成分を、任意に、結合剤、潤沢剤、不活性希釈剤、潤滑剤、表面活性剤又は分散剤と混合して、適切な機械の中で圧縮することによって、調整し得る。成形錠剤は、不活性な液体希釈剤で湿らせた粉末状化合物の混合物を、適切な機械の中で成形することにより、製造し得る。錠剤は、当技術分野において周知の方法に従って、コーティングしてもよい。錠剤は、インビボで活性成分の徐放又は制御放出を提供するように、任意に、製剤化してもよい。錠剤のパッケージは、月毎に服用されるべき1つの錠剤を含んでもよい。
【0177】
さらに、単位剤形がカプセルである場合には、上記の成分に加えて、オイルのような液体担体をさらに含むことができる。
【0178】
経口用液体製剤は、例えば、水性又は油性懸濁剤、液剤、乳剤、シロップ剤又はエリキシル剤のような形態でもよく、使用前に、水又は他の適切な溶剤で溶解するための乾燥製品として提供されてもよい。当該液体製剤は、懸濁化剤、乳化剤、非水性溶剤(食用油を含み得る)又は保存剤のような通常の添加剤を含んでもよい。
【0179】
非経口投与用の製剤には、抗酸化剤、緩衝剤、静菌剤、及び対象とするレシピエントの血液と製剤を等張にする溶質を含み得る水性又は非水性の無菌注射液剤、並びに、懸濁化剤及び増粘剤を含み得る水性及び非水性の無菌懸濁剤が含まれる。製剤は、単位投与用容器又は複数回投与用容器、例えば、密閉されたアンプル及びバイアルに入れて提供されてもよく、生理食塩水、注射用水のような無菌液体担体の使用直前の添加のみが必要なフリーズドライ(凍結乾燥)状態で保存されてもよい。あるいは、製剤は、持続注入用として提供されてもよい。用時溶解注射用の液剤及び懸濁剤は、先に述べた種類の無菌の粉末剤、顆粒剤及び錠剤から調整されてもよい。
【0180】
さらに、注射用無菌組成物は、蒸留水のような注射に適した溶剤を用いて、通常の薬物製造に従って、製剤化することができる。生理食塩水、ブドウ糖、並びに、D-ソルビトール、D-マンノース、D-マンニトール及び塩化ナトリウムのようなアジュバンドを含む他の等張液が、注射用水性液剤として使用可能である。これらは、アルコール、例えばエタノール;プロピレングリコール及びポリエチレングリコールのような多価アルコール;並びにポリソルベート80(商標)及びHCO-50のような非イオン系界面活性剤等の適切な可溶化剤と組み合わせて使用することができる。
【0181】
ゴマ油又はダイズ油は、油性液体として使用することができ、それらは、可溶化剤としての安息香酸ベンジル又はベンジルアルコールと組み合わせて使用することができ、リン酸緩衝液及び酢酸ナトリウム緩衝液のような緩衝液;塩酸プロカリンのような鎮痛剤、ベンジルアルコール及びフェノールのような安定化剤、及び/又は抗酸化剤とともに製剤化してもよい。調整された注射剤は、適切なアンプル内に充填されてもよい。
【0182】
直腸投与用製剤には、ココアバター又はポリエチレングリコールのような標準的な担体を用いた坐薬が含まれる。口内、例えば、口腔内又は舌下に局所投与するための製剤には、ショ糖及びアカシア又はトラガカントのような風味付き基剤中に活性成分を含む薬用キャンディー、並びにゼラチン、グリセリン、ショ糖又はアカシアのような基剤中に活性成分を含むトローチが含まれる。活性成分の鼻腔内投与のためには、液体スプレー若しくは分散性粉末剤又は滴剤の形態が使用され得る。滴剤は、1種又は複数種の分散剤、可溶化剤又は懸濁剤もまた含む水性又は非水性基剤とともに製剤化してもよい。
【0183】
吸入による投与の場合、組成物は、吸入器、噴霧器、加圧パック又は他のエアロゾルスプレーを送達する簡便な方法から、簡便に送達される。加圧パックは、ジクロロジフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、ジクロロテトラフルオロエタン、二酸化炭素又は他の適切なガスのような適切な噴射剤を含み得る。加圧エアロゾルの場合には、投薬単位は、一定量を送達するバルブを備えることによって、決定されてもよい。
【0184】
あるいは、吸入又は吹入による投与の場合、組成物は、乾燥粉末組成物、例えば、活性成分と乳糖又はデンプンのような適切な粉末基剤との混合粉末の形態をとってもよい。粉末組成物は、単位剤形、例えば、カプセル、カートリッジ、ゼラチン又はブリスターパックで提供されてもよく、粉末剤は、それらから、吸入器又は吸込器の補助により投与され得る。
【0185】
他の製剤には、治療薬剤を放出する埋め込み装置及び接着パッチが含まれる。
【0186】
必要に応じて、上記の製剤は、活性成分の持続的放出を与えるように適合され、使用されてもよい。医薬組成物は、抗菌剤、免疫抑制剤又は保存剤のような他の活性成分もまた含んでもよい。
【0187】
具体的に前述した成分に加えて、この発明の製剤は、該当する製剤のタイプを考慮して当技術分野で慣例的な他の薬剤含み得ること、例えば、経口投与に適した製剤は矯味剤を含み得ることが、理解されるべきである。
【0188】
好ましい単位用量製剤は、下記の『癌を治療又は予防する方法』の項で記載されるように、本発明の各活性成分又はその適切なフラクションを有効量含むものである。
【0189】
V−1.スクリーニングされた薬剤を含む医薬組成物
本発明は、前述した本発明のスクリーニング方法によって選択された薬剤のいずれかを含む、癌を治療又は予防するための組成物を提供する。
【0190】
本発明の方法によって同定された薬剤は、直接投与されてもよく、又は、上記詳述した任意の従来の医薬調整方法に従って、投薬形態に製剤化されてもよい。
【0191】
V−2.二本鎖分子を含む医薬組成物
本発明は、『I.二本鎖分子』の項で前述された二本鎖分子又は前述した本発明のスクリーニング方法により選択されたもののいずれかを含む、癌を治療又は予防するための組成物を提供する。
【0192】
本発明の二本鎖分子は、肺癌、例えばNSCLCのようなIMP-1遺伝子を過剰発現する癌を予防又は治療するための使用に適し得る。
【0193】
一実施態様において、本発明の二本鎖分子を1種以上含む組成物は、対象への投与のために、送達媒体、例えばリポソーム中に封入され、担体と希釈剤とそれらの塩及び/又は、薬学的に許容される製剤で提供され得る。核酸分子の送達方法は、Akhtar S & Juliano RL. Trends Cell Biol. 1992 May;2(5):139-44.; Delivery Strategies for Antisense Oligonucleotide Therapeutics, ed. Akhtar, 1995; Maurer N, et al., Mol Membr Biol. 1999 Jan-Mar;16(1):129-40.; Hofland & Huang. Handb Exp Pharmacol. 1999 137:165-192に、記載されている。それは、さらに、核酸分子の一般的な送達方法を記載する(US 6,395,713 及びWO 199402595)。これらのプロトコルは、事実上如何なる二本鎖分子の送達にも利用することができる。二本鎖分子は、これに制限されるものではないが、リポソーム内への封入、イオン導入法、又は他の媒体内へ取り込みを含む、当業者に公知の様々な方法により、細胞に投与することができる。他の媒体としては、例えば、生分解性ポリマー、ヒドロゲル、シクロデキストリン(例えば、Gonzalez H, et al., Bioconjug Chem. 1999 Nov-Dec;10(6):1068-74.; WO 03/47518 and WO03/46185を参照)、ポリ乳酸グリコール酸共重合体(PLGA)及びPLCAマイクロスフェア(例えば、US 6,447,796及びUS 2002130430を参照)、生分解性ナノカプセル及び生体接着性マイクロスフェア又はタンパク質性ベクター(WO00/53722)が挙げられる。他の実施態様においては、本発明の核酸分子はまた、ポリエチレンイミン及びその誘導体、例えば、ポリエチレンイミン-ポリエチレングリコール-N-アセチルガラクトサミン(PEI-PEG-GAL)又はポリエチレンイミン-ポリエチレングリコール-トリ-N-アセチルガラクトサミン(PEI-PEG-triGAL)誘導体と共に、製剤化又は錯体化されることもできる。一実施態様においては、本発明の核酸分子は、本願明細書にその全体が参照によって組み込まれる、US20030077829(すなわち、脂質ベース製剤)に記載されるように製剤化される。
【0194】
本発明の二本鎖分子はまた、全体の治療効果を増大させるために、他の治療組成物と組み合わせて、対象に投与することもできる。ある症状を治療するために複数の薬剤を使用することは、有益な効果を増大させる一方、副作用の存在を軽減する。
【0195】
V−3.アンチセンス核酸を含む医薬組成物
IMP-1遺伝子のヌクレオチド配列に相当するアンチセンス核酸は、様々な癌細胞で上方制御される遺伝子の発現レベルを低下させるのに使用することができ、癌の治療に有用であり、そのため、これらもまた本発明に包含される。アンチセンス核酸は、IMP-1遺伝子の核酸配列又はそれに相当するmRNAに結合することによって機能し、それにより遺伝子の転写又は翻訳を阻害し、mRNAの分解を促進し、及び/又は当該遺伝子によってコードされるタンパク質の発現を阻害する。それゆえ、結果として、アンチセンス核酸は、癌細胞で機能するIMP-1タンパク質を阻害する。本願明細書において、「アンチセンス核酸」という用語は、標的配列と特異的にハイブリダイズするヌクレオチドを意味し、標的配列と完全に相補的なヌクレオチドだけではなく1つ又は複数のヌクレオチドのミスマッチを含むものも包含する。例えば、本発明のアンチセンス核酸には、IMP-1遺伝子又はその相補配列の連続した少なくとも15ヌクレオチドの範囲にわたって、少なくとも70%以上、好ましくは少なくとも80%以上、より好ましくは少なくとも90%以上、さらにより好ましくは少なくとも95%以上の相同性を有するポリヌクレオチドが含まれる。当該相同性を決定するために、当技術分野で公知のアルゴリズムを使用することができる。
【0196】
本発明のアンチセンス核酸は、IMP-1遺伝子のDNA又はmRNAに結合し、その転写又は翻訳を阻害し、mRNAの分解を促進し、タンパク質の発現を阻害し、最終的にタンパク質が機能するのを阻害することによって、IMP-1遺伝子によってコードされるタンパク質を産生する細胞に作用する。
【0197】
本発明のアンチセンス核酸は、核酸に対して不活性な適切な基剤材料と混同することにより、塗布剤又は湿布薬のような外用剤とすることができる。
【0198】
また、必要に応じて、本発明のアンチセンス核酸は、賦形剤、等張化剤、可溶化剤、安定化剤、保存剤、鎮痛剤等を添加することにより、錠剤、粉末剤、顆粒剤、カプセル剤、リポソームカプセル剤、注射剤、液剤、点鼻剤及び凍結乾燥剤に製剤化することもできる。アンチセンス封入剤はまた、耐久性及び膜透過性を高めるために使用することもできる。リポソーム、ポリ-L-リジン、脂質、コレステロール、リポフェクチン又はこれらの誘導体が例として含まれるが、これに限定されるものではない。これらは、以下の公知の方法によって調整することができる。
【0199】
本発明のアンチセンス核酸は、IMP-1タンパク質の発現を阻害し、当該タンパク質の生物活性を抑制するために有用である。さらに、本発明のアンチセンス核酸を含む発現阻害剤は、それらがIMP-1タンパク質の生物活性を阻害することができるという点で有用である。
【0200】
本発明のアンチセンス核酸には、修飾オリゴヌクレオチドが含まれる。例えば、チオエート化オリゴヌクレオチドが、オリゴヌクレオチドにヌクレアーゼ耐性を付与するために使用され得る。
【0201】
V−4.抗体を含む医薬組成物
様々な癌で過剰発現されるIMP-1遺伝子の遺伝子産物の機能は、遺伝子産物に結合する組成物、又は別の方法で遺伝子産物の機能を阻害する組成物の投与によって、阻害することができる。IMP-1ポリペプチドに対する抗体は、そのような組成物として挙げることができ、癌の治療又は予防のための医薬組成物の活性成分として、使用することができる。
【0202】
本発明は、IMP-1遺伝子によってコードされるタンパク質に対する抗体又は抗体のフラグメントの使用に関する。本願明細書で用いられる「抗体」という用語は、II.抗体の項に言及する。
【0203】
抗体は、ポリエチレングリコール(PEG)のような様々な分子との結合により、修飾されてもよい。本発明は当該修飾抗体も包含する。修飾抗体は、抗体を化学的に修飾することによって得ることができる。当該修飾の方法は、当技術分野において、ありふれたものである。
【0204】
あるいは、本発明のために用いられる抗体は、IMP-1ポリペプチドに対する非ヒト抗体由来の可変領域及びヒト抗体由来の定常領域を有するキメラ抗体、又は非ヒト抗体由来の相補性決定領域(CDR)、ヒト抗体由来のフレームワーク領域(FR)及び定常領域からなるヒト化抗体であってもよい。当該抗体は、公知の技術を使って調整することができる。ヒト化は、げっ歯類のCDR又はCDR 配列で、相当するヒト抗体の配列を置換することによって、行うことができる(erhoeyen et al., Science 1988, 239:1534-6を参照)。したがって、当該ヒト化抗体は、実質的に完全なヒト可変ドメインが、非ヒト種由来の相当する配列によって置換された、キメラ抗体である。
【0205】
ヒトフレームワーク及び定常領域に加えて、ヒト可変領域を含む完全なヒト抗体もまた、使用することができる。当該抗体は、当技術分野において公知の様々な技術を使って、作製することができる。例えば、インビトロでの方法は、バクテリオファージ上に提示されたヒト抗体フラグメントの組換えライブラリーの使用を含む(例えば、Hoogenboom et al., J Mol Biol 1992, 227:381-8)。同様に、ヒト抗体は、ヒト免疫グロブリン遺伝子座を、トランスジェニック動物、例えば、内生的な免疫グロブリン遺伝子が部分的又は完全に不活性化されたマウスに導入することにより、作製することができる。このようなアプローチは、例えば、米国特許6,150,584号、同第5,545,807号、同第5,545,806号、同第5,569,825号、同第5,625,126号、同第5,633,425号、及び同第5,661,016号に記載されている。
【0206】
得られた抗体が人体に投与される場合には(抗体治療)、ヒト抗体又はヒト化抗体が、免疫原性を低下させるために、好ましい。
【0207】
上記のように得られた抗体は、均一になるまで精製されてもよい。例えば、抗体の分離及び精製は、一般的なタンパク質に用いられる分離及び精製方法に従って、行うことができる。例えば、抗体は、限定されないが、アフィニティークロマトグラフィーのようなカラムクロマトグラフィー、ろ過、限外ろ過、塩析、透析、SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動、等電点電気泳動及び他の方法を適切に選択及び組み合わせた使用により、分離及び単離されてもよい(Antibodies: A Laboratory Manual. Ed Harlow and David Lane, Cold Spring Harbor Laboratory (1988))。プロテインAカラム及びプロテインGカラムは、アフィニティーカラムとして使用することができる。使用可能なプロテインAカラムの例には、例えば、HyperD、POROS及びセファロースF.F.(Pharmacia)が含まれる。
【0208】
アフィニティー以外のクロマトグラフィーの例には、例えば、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィー、ゲルろ過、逆相クロマトグラフィー、吸着クロマトグラフィー等が含まれる(Strategies for Protein Purification and Characterization: A Laboratory Course Manual. Ed Daniel R. Marshak et al., Cold Spring Harbor Laboratory Press (1996))。クロマトグラフィーの手順は、HPLC及びFPLCのような液相クロマトグラフィーによって、行うことができる。
【0209】
VI.癌を治療又は予防するための方法
癌細胞内で生じる特異的な分子的変化を対象とする癌治療は、進行癌治療用のトラスツズマブ(ハーセプチン)、慢性骨髄性白血病用のメシル酸イマチニブ(グリベック)、非小細胞肺癌(NSCLC)用のゲフィニチブ(イレッサ)及びB細胞リンパ腫及びマントル細胞リンパ腫用のリツキシマブ(抗CD20 mAb)のような抗腫瘍医薬の臨床開発と規制認可を通して、実証されてきた(Ciardiello F et al., Clin Cancer Res 2001, 7:2958-70, Review; Slamon DJ et al., N Engl J Med 2001, 344:783-92; Rehwald U et al., Blood 2003, 101:420-4; Fang G et al., Blood 2000, 96:2246-53)。これらの薬物は、臨床的に有効であり、変質された細胞のみを標的とするため、従来の抗腫瘍薬剤よりも耐容性がよい。それゆえ、当該薬物は、癌患者の生存率と生活の質を改善するのみでなく、分子を標的とする癌治療のコンセプトもまた実証する。さらに、標的化薬物は、それと組み合わせて用いられる場合、標準的な化学療法の効果を高めることができる(Gianni L, Oncology 2002, 63 Suppl 1:47-56; Klejman A et al., Oncogene 2002, 21:5868-76)。それゆえ、将来の癌治療は、おそらく、従来の薬物を、血管新生及び侵襲性のような癌細胞の様々な特徴を対象とする標的特異的薬剤と組み合わせることが必要であると考えられる。
【0210】
これらの調節的な方法は、(例えば、細胞を薬剤と培養することにより)エキソビボ又はインビトロで行うことができ、あるいは(例えば、対象に薬剤を投与することにより)インビボで行うこともできる。これらの方法は、差次的に発現される遺伝子の異常な発現又は遺伝子産物の異常な活性を打ち消すための治療法として、タンパク質若しくはタンパク質の組み合わせ、又は核酸分子若しくは核酸分子の組み合わせ投与することを含む。
【0211】
遺伝子及び遺伝子産物の発現レベル又は生物活性が(その疾病又は傷害に罹患していない対象と比較して)それぞれ上昇していることにより特徴付けられる疾病及び障害は、過剰発現される遺伝子の活性に拮抗する(すなわち、低減又は阻害する)治療剤で治療され得る。活性に拮抗する治療剤は、治療的に又は予防的に投与することができる。
【0212】
したがって、本発明の文脈において使用され得る治療剤には、例えば、(i)過剰発現されたIMP-1遺伝子のポリペプチド、又はその類似体、誘導体、断片若しくは相同体;(ii)過剰発現遺伝子若しくは遺伝子産物に対する抗体;(iii)過剰発現遺伝子をコードする核酸;(iv)アンチセンス核酸若しくは「機能障害性」である核酸(すなわち、過剰発現遺伝子の核酸内への異種挿入に起因する);(v)低分子干渉RNA(siRNA);又は(vi)調節因子(すなわち、阻害剤、過剰発現ポリペプチドとその結合相手との間の相互作用を変化させるアンタゴニスト)が含まれる。機能障害性アンチセンス分子は、相同組換えによって、ポリペプチドの内生的な機能を「ノックアウト」するために使用される(例えば、Capecchi, Science 1989, 244: 1288 92を参照)。
【0213】
上昇したレベルは、患者組織試料(例えば、生検組織)を採取し、RNA若しくはペプチドのレベル、発現ペプチド(又は発現が変化された遺伝子のmRNA)の構造及び/又は活性をインビトロで検定することによって、ペプチド及び/又はRNAを定量することにより、容易に検出することができる。当技術分野で周知の方法には、イムノアッセイ(例えば、ウエスタンブロット解析、免疫沈降とそれに続くドデシル硫酸ナトリウム(SDS)ポリアクリルアミドゲル電気泳動、免疫細胞化学等)及び/又はmRNAの発現を検出するためのハイブリダイゼーションアッセイ(例えば、ノーザンアッセイ、ドットブロット、in situ ハイブリダイゼーション等)が含まれるが、これに限定されるものではない。
【0214】
予防的投与は、疾病又は障害が予防されるか又は、あるいは、その進行を遅らせるように、疾病の明らかな臨床症状が現れる前に実施する。本発明の文脈において、予防とは、病気の死亡率又は罹患率の負荷を低下させる任意の活動である。予防は、第一、第二及び第三の予防レベルで実施することができる。第一の予防は、病気の発症を回避し、第二及び第三のレベルの予防は、病気の進行及び症状の発症を防ぐことのほか、機能の回復及び病気関連の合併症を低減することにより、既に罹患している病気の悪影響を低減することを目的とする活動を包含する。したがって、本発明は、癌、特に肺癌の重症度を緩和することを目的とする広範囲の予防的治療を包含する。
【0215】
本発明の治療方法は、細胞を、IMP-1遺伝子産物の一以上の活性を調節する薬剤に接触させる工程を含み得る。タンパク質活性を調節する薬剤の例には、制限されるわけではないが、核酸、タンパク質、当該タンパク質の天然同族リガンド、ペプチド、ペプチド模倣体、及び他の低分子が含まれる。
【0216】
それゆえ、本発明は、IMP-1遺伝子の発現又は当該遺伝子産物の活性を低下させることにより、対象において、癌の症状を治療若しくは緩和するか、又は癌を予防する方法を提供する。本方法は、NSCLCを治療又は予防するのに特に適している。
【0217】
適切な治療剤は、癌に罹患しているか、又は癌を発症するリスクがある(若しくは発症しやすい)対象に、予防的に又は治療的に投与され得る。そのような対象は、標準的な臨床的手法を用いることにより、あるいは、IMP-1遺伝子の異常な発現レベル(上方制御若しくは過剰発現)又は当該遺伝子産物の異常な活性を検出することにより、同定することができる。
【0218】
本発明の一態様によれば、本方法によりスクリーニングされた薬剤が、癌を治療又は予防するために使用されてもよい。当業者に周知の方法が、薬剤を冠者に投与するために用いられ得る。例えば、動脈内注射、静脈内注射若しくは皮内注射として、又は鼻腔内投与、経気管支投与、筋肉内投与若しくは経口投与として、当業者に周知の方法が、薬剤を患者に投与するために使用され得る。前記薬剤が、DNAによってコード可能な場合には、DNAは、遺伝子治療用のベクターに挿入し、患者にそのベクターを投与して、治療を実施することができる。
【0219】
用量及び投与方法は、治療されるべき患者の体重、年齢、性別、症状、状態及び投与方法によって異なる。しかしながら、当業者は、適切な投薬量及び投与方法を規定どおりに選択することができる。
【0220】
例えば、IMP-1ポリペプチドに結合し、そのポリペプチドの活性を調節する薬剤の用量は、前述した様々な要因に依存するが、用量は、正常なヒト成人(体重60kg)に経口投与する場合、通常、1日当たり約0.1mg〜100mg、好ましくは1日当たり約1.0mg〜約50mg、さらに好ましくは1日当たり約1.0〜約20mgである。
【0221】
正常なヒト成人(体重60kg)に注射の形態で非経口的に薬剤を投与する場合、患者、標的器官、症状及び投与方法によっていくらかの違いはあるものの、1日当たり約0.01mg〜約30mg、好ましくは1日当たり約0.1〜約20mg、さらに好ましくは1日当たり約0.1mg〜10mgの用量を静脈内注射することが好都合である。他の動物の場合には、適切な用量は、体重60kgに換算して、規定どおりに算出してもよい。
【0222】
同様に、本発明の医薬組成物が、癌を治療又は予防するために使用されてもよい。例えば、動脈内注射、静脈内注射若しくは皮下注射として、又は鼻腔内投与、経気管支投与、筋肉内投与若しくは経口投与として、当業者に周知の方法が、組成物を患者に投与するために用いられ得る。
【0223】
前述した各状態に対して、組成物、例えばポリペプチド及び有機化合物が、経口的に、又は、注射により、1日当たり約0.1〜約250mg/kgの範囲の用量で投与され得る。ヒト成人に対する用量範囲は、通常、1日当たり約5mg〜約17.5mg、好ましくは1日当たり約5mg〜約10g、最も好ましくは1日当たり約100mg〜約3gである。錠剤又は不連続単位で提供される形態の他の単位剤形は、便宜的に、そのような投薬量で、又はその倍数量として効果的である量を含んでよく、例えば、各単位は、約5mg〜約500mg、通常約100mg〜約500mgを含む。
【0224】
使用される用量は、対象の年齢、体重及び性別、治療されるべき正確な疾患及びその重症度を含む多くの因子に依存すると考えられる。同様に、投与経路も、状態及びその重症度に応じて異なってもよい。いずれにしても、適切で最適な用量は、前述した因子を考慮して、当業者により、規定どおりに算出され得る。
【0225】
特に、IMP-1遺伝子に対するアンチセンス核酸は、患部に直接適用することによって、又は患部に到達するように血管中に注入することによって、患者に与えることができる。
【0226】
本発明のアンチセンス核酸誘導体の用量は、患者の状態に応じて適宜調整し、所望の量で使用することができる。例えば、0.1〜100mg/kg、好ましくは0.1〜50mg/kgの用量範囲が投与され得る。
【0227】
以下、本発明は、実施例に関して更に詳細に記載される。しかしながら、以下の材料、方法及び実施例は、発明の態様を例示するのみであり、決して本発明の範囲を制限することを意図しない。よって、本願明細書で記載されているものに類似する方法及び材料又はその均等物は、本発明の実施又は試験する際に用いられることが可能である。
【0228】
VII.肺癌の予後を評価する方法
本発明によれば、IMP-1発現が、NSCLC患者の予後不良と有意に関連していることが新たに発見された(図2Cを参照)。それゆえ、本発明は、患者の生体試料におけるIMP-1遺伝子の発現レベルを検出し;検出された発現レベルを対照レベルと比較し;そして対照レベルに対して上昇した発現レベルを予後不良(低い生存率)の指標として判定することにより、肺癌患者、特にNSCLC患者の予後を、評価又は判定する方法を提供する。
【0229】
本願明細書において、「予後」という用語は、症例の性質及び症状によって示されるような病気の推定転帰、並びに、病気からの回復の可能性についての予測を意味する。したがって、あまり好ましくない、見通しの暗い、不良な予後は、より低い治療後の生存期間又は生存率によって定義される。逆に、見通しの明るい、好ましい、又は良好な予後は、向上した治療後の生存期間又は生存率によって定義される。
【0230】
本発明の文脈において、「予後を評価する(又は判定する)」という用語は、肺癌、進行、特にNSCLCの再発、転移拡散及び病気のぶり返しの予測及び尤度解析を包含することを意図する。予後を評価又は判定するための本方法は、治療的介入、病期等の診断、並びに、腫瘍性疾患の転移又は再発の病気モニタリング及び監視を含む、治療方法に関する臨床的な決定を行う際に使用されることが意図される。
【0231】
本方法に使用される患者由来の生体試料は、IMP-1遺伝子が試料中で検出されうる限り、評価されるべき対象由来の如何なる試料であってもよい。好ましくは、生体試料は、肺細胞(肺から採取された細胞)である。他の好適な生体試料としては、痰、血液、血清又は血漿等の体液が挙げられるが、これらに限定されるわけではない。あるいは、試料は、組織から純化された細胞であってもよい。生体試料は、治療の前、治療中、及び/又は治療後を含む様々な時期に、患者から採取され得る。
【0232】
本発明では、患者由来の生体試料で測定されたIMP-1遺伝子の発現レベルが高いほど、治療後の寛解、回復及び/又は生存率が不良となり、不良な臨床転帰の可能性が高くなることが示された。それゆえ、本方法では、比較として使用される「対照レベル」は、例えば、本願明細書において「予後良好対照レベル」と称される、治療の後にNSCLCの良好な又は見通しの明るい予後を示した個体又は個体集団において、任意の種類の治療前に検出されたIMP-1遺伝子の発現レベルであってもよい。あるいは、「対照レベル」は、例えば、本願明細書において「予後不良対照レベル」と称される、治療の後に、NSCLCの不良な又は見通しの暗い予後を示した個体又は個体集団において、任意の種類の治療の前に検出されたIMP-1遺伝子の発現レベルであってもよい。「対照レベル」は、単一の参照集団由来又は複数の参照集団由来の単一の発現パターンである。それゆえ、対照レベルは、NSCLC患者、又は病期(良好又は不良な予後)が知られている患者の集団において、任意の種類の治療の前に検出されたIMP-1遺伝子の発現レベルに基づいて決定されてもよい。病期が知られている患者群における、IMP-1遺伝子の発現レベルの標準値を使用することが好ましい。標準値は、当技術分野において公知の任意の方法により、取得し得る。例えば、平均±2 S.D.又は平均±3 S.D.の範囲が、標準値として使用され得る。
【0233】
対照レベルは、任意の種類の治療の前に病期(予後良好又は予後不良)が知られている肺癌患者(対照又は対照群)から以前に採取されて保存されていた試料を用いることにより、試験生体試料と同時に決定され得る。
【0234】
あるいは、対照レベルは、以前に対照群から採取されて保存されていた試料においてIMP-1遺伝子の発現レベルを解析することによって得られた結果に基づいて、統計学的手法により決定されてもよい。さらに、対照レベルは、過去に試験された細胞由来の発現パターンのデータベースであり得る。加えて、本発明の一態様によれば、生体試料におけるIMP-1遺伝子の発現レベルは、複数の参照試料から決定された、複数の対照レベルと比較されてもよい。患者由来の生体試料のものと類似する組織型由来の参照試料から決定された対照レベルを使用することが好ましい。
【0235】
本発明では、予後良好対照レベルにIMP-1遺伝子の発現レベルが類似していることは、患者のより好ましい予後を示し、予後良好対象レベルに対して発現レベルが上昇していることは、治療後の寛解、回復、及び生存及び/又は臨床転帰に対するあまり好ましくない、より不良な予後を示す。他方、予後不良対照レベルに対してIMP-1遺伝子の発現レベルが低下していることは、患者のより好ましい予後を示し、予後不良対照レベルに発現レベルが類似していることは、治療後の寛解、回復、生存及び/又は臨床転帰に対するあまり好ましくない、より不良な予後を示す。
【0236】
発現レベルが1.0倍、1.5倍、2.0倍、5.0倍、10.0倍より多く、又はそれを上回って対照レベルと異なっている場合に、生体試料中のIMP-1遺伝子発現レベルは変化したと考えることができる。あるいは、発現レベルが対照レベルに対して少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、80%、90%又はそれより多く増加又は減少している場合に、生体試料中のIMP-1遺伝子発現レベルは変化したと考えることができる。
【0237】
試験生体試料と対照レベルとの間の発現レベルの差異は、対照、例えばハウスキーピング遺伝子に対して標準化することができる。例えば、その発現レベルが癌細胞と非癌細胞との間で異ならないことが知られているポリヌクレオチドが、IMP-1遺伝子の発現レベルを標準化するのに使用されてもよく、そのようなポリペプチドには、β-アクチン、グリセルアルデヒド3-リン酸デヒドロゲナーゼ及びリボソームタンパク質P1をコードするものが含まれる。
【0238】
発現レベルは、当技術分野で周知の技術を使用して、患者由来の生体試料中の遺伝子転写物を検出することにより、決定されてもよい。本方法により検出される遺伝子産物には、mRNA及びタンパク質のような転写及び翻訳産物の両方が含まれる。
【0239】
例えば、IMP-1遺伝子の転写産物は、遺伝子産物に対してIMP-1遺伝子プローブを使用するハイブリダイゼーション、例えばノーザンブロットハイブリダイゼーション解析によって、検出することができる。検出は、チップ又はアレイ上で行ってもよい。アレイの使用は、IMP-1遺伝子を含む複数の遺伝子の発現レベルを検出するのに好ましい。別の例として、IMP-1遺伝子に特異的なプライマーを使用する逆転写に基づくポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)のような増幅に基づく検出方法が、検出のために使用されてもよい(実施例を参照)。IMP-1遺伝子特異的プローブ又はプライマーは、IMP-1遺伝子の全配列(SEQ ID NO:11)を参照することにより、従来の技術を用いて、設計及び調整され得る。例えば、実施例で用いられたプライマー(SEQ ID NO:1、2、3及び4)が、RT-PCRによる検出のために使用され得るが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0240】
具体的には、本方法に用いられるプローブ又はプライマーは、ストリンジェント、中程度のストリンジェント又は低ストリンジェント条件下で、IMP-1のmRNAにハイブリダイズする。本願明細書で用いられる「ストリンジェント(ハイブリダイゼーション)条件」という用語は、プローブ又はプライマーがその標的配列にハイブリダイズするが、他の配列にはハイブリダイズしない条件を意味する。ストリンジェント条件は、配列依存的であり、異なる環境下では条件も異なる。より長い配列の特異的ハイブリダイゼーションは、より短い配列よりも高い温度で観察される。通常、ストリンジェント条件の温度は、規定のイオン強度及びpHにおける特定の配列の熱融点(Tm)よりも約5度低くなるように選択される。Tmは、標的配列に相補的なプローブの50%が、平衡状態で標的配列にハイブリダイズする温度(規定のイオン強度、pH及び核酸濃度下)である。標的配列は、通常過剰に存在するため、Tmでは、プローブの50%が平衡状態で消費されている。典型的には、ストリンジェント条件は、pH7.0〜8.3において、塩濃度が約1.0M未満のナトリウムイオン、典型的には、約0.01〜1.0Mのナトリウムイオン(又は他の塩)であり、温度は、より短いプローブ又はプライマー(例えば、10〜15ヌクレオチド)に対しては少なくとも約30度、より長いプローブ又はプライマーに対しては少なくとも約60度であると考えられる。ストリンジェント条件はまた、ホルムアミドのような不安定化剤の添加で達成されてもよい。
【0241】
あるいは、翻訳産物が、本発明の評価のために検出されてもよい。例えば、IMP-1タンパク質の量が決定されてもよい。翻訳産物としてのタンパク質の量を決定するための方法には、IMP-1タンパク質を特異的に認識する抗体を使用するイムノアッセイ法が含まれる。さらに、当該抗体の如何なるフラグメント又は修飾(例えば、キメラ抗体、scFv、Fab、F(ab’)2、Fv等)も、フラグメントがIMP-1タンパク質に対する結合能を保持する限り、検出のために使用され得る。タンパク質の検出のためのこれらの種類の抗体を作製するための方法は、当技術分野において周知であり、当該抗体及びその同等物を作製するために、本発明において如何なる方法が使用されてもよい。
【0242】
あるいは、IMP-1遺伝子の発現レベルは、IMP-1タンパク質に対する抗体を使用した免疫組織化学的解析を介して観察された染色強度から決定されてもよい。すなわち、強い染色の観察は、IMP-1タンパク質の存在の増大を示すと同時に、IMP-1遺伝子の高い発現を示す。NSCLC組織が、好ましくは、免疫組織化学的解析のための試験材料として、使用され得る。
【0243】
さらに、IMP-1遺伝子の発現レベルに加えて、他の肺癌関連遺伝子、例えば、NSCLCで差次的に発現することが知られている遺伝子の発現レベルが、評価の精度を向上させるために決定されてもよい。当該肺癌関連遺伝子には、WO 2004/031413及びWO 2005/090603に記載されたものが含まれる。
【0244】
本方法に従ってNSCLCの予後を評価されるべき患者は、好ましくは、哺乳類であり、ヒト、ヒト以外の霊長類、マウス、ラット、イヌ、ネコ、ウマ及びウシが含まれる。
【0245】
別途定義されない限り、本願明細書において使用される全ての技術的及び科学的な用語は、この発明の属する技術分野における当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。争いがある場合には、定義を含めて本明細書が優先される。
【0246】
以下、本発明は、実施例に関してより詳細に記述されている。しかしながら、以下の材料、方法及び実施例は、本発明の態様を例示するのみであって、本発明の範囲を制限することを意図するものではない。よって、本願明細書に記載されるものと類似又は同等の方法及び材料が、本発明の実施又は試験において使用され得る。
【0247】
実施例
I.材料及び方法
A.肺癌細胞株及び臨床試料
本願明細書において使用されたヒト肺癌は、以下の通りである:腺癌(ADC)、A427、A549、LC319、PC3、PC9、PC14及びNCI-H1373;細気管支肺胞性細胞癌(BAC)、NCI-H1666及びNCI-H1781;腺扁平上皮癌(ASC)、NCI-H226及び NCI-H647;肺扁平上皮癌(SCC)、RERF-LC-AI、SK-MES-1、EBC-1、LU61、NCI-H520、NCI-H1703及びNCI-H2170;小細胞肺癌(SCLC)、DMS114、DMS273、SBC-3及びSBC-5。全ての細胞は、10%のウシ胎仔血清(FCS)を補充した適切な培地中で単層で増殖され、5%CO2の加湿空気雰囲気中で、37度で維持された。ヒト末梢気道上皮細胞(SAEC)が、Cambrex Bio Science社(Walkersville, MD)から購入した最適培地(SAGM)中で増殖された。14個の初期NSCLC(7個のADC及び7個のSCC)が、隣接する正常肺組織試料とともに得られた。
【0248】
組織マイクロアレイ上での免疫染色に用いられる合計267個のホルマリン固定初期NSCLC(病期I〜IIIA)及び隣接する正常肺組織試料が、治療的外科手術を受けた患者からインフォームドコンセントにより得られた。腫瘍の組織学的分類が、世界保健機関基準(International Histological Classification of Tumours, 3rd edition. Genova: World Health Organization, 1999.)に従って行われた。全ての腫瘍が、UICC(国際対癌連合)のpTNM病理学的分類に基づいて、分類された(Sobin, L., et al. New York: Wiley-Liss, Inc., 2002.)。術後病期分類評価は、101の患者が病期IA、病期IBが88、病期IIAが8、病期IIBが27及び病期IIIAが43であることが示された。切除された腫瘍の組織病理検査は、157例がADC、93例がSCC、13例がLCC及び4例がASC(表1)と診断されることを示した。この研究及び前述の全ての臨床材料の使用は、個々の研究施設の倫理委員会によって承認された。
【0249】
(表1)肺癌患者におけるIMP-1発現と臨床病理学的特徴との関係

【0250】
B.半定量的RT-PCR
全RNAが、製造業者のプロトコルに従い、Trizol試薬(Life Technologies, Inc., Gaithersburg, MD)を用いて、培養細胞及び臨床組織から抽出された。抽出されたRNA及び正常ヒト組織ポリ(A)RNAは、DNaseI (Nippon Gene, Tokyo, Japan)で処理され、オリゴ(dT)プライマー及びスーパースクリプトII逆転写酵素(Invitrogen, Carlsbad, CA)を用いて逆転写された。半定量的RT-PCR試験は、以下の合成IMP-1特異的プライマー又は内部標準としてのβ-アクチン(ACTB)特異的プライマーを用いて行われた:
IMP-1、5’-CAGAAGGGACAGAGTAACCAG-3’ (SEQ ID NO: 1)及び
5’-GAGATCAGGGTTCCTCACTG-3’; (SEQ ID NO: 2)
ACTB、5’-GAGGTGATAGCATTGCTTTCG-3’ (SEQ ID NO: 3)及び
5’-CAAGTCAGTGTACAGGTAAGC-3’。(SEQ ID NO: 4)
PCR反応は、増幅の対数期内で産物強度を確保するサイクル数に最適化された。
【0251】
C.ノーザンブロット解析
ヒト多組織ブロット(BD Biosciences Clontech, Palo Alto, CA)が、32Pで標識されたIMP-1PCR産物とハイブリダイズされた。IMP-1のcDNAプローブが、前述したプライマーを使用して、RT-PCRにより調整された。プレハイブリダイゼーション、ハイブリダイゼーション及び洗浄が、供給元の推奨に従って行われた。ブロットは、増感BASスクリーン(BIO-RAD, Hercules, CA)を用いて、室温で30時間、オートラジオグラフされた。
【0252】
D.抗IMP-1ポリクローナル抗体の作製
IMP-1特異的ウサギ抗体は、IMP-1ペプチド(IEHSVPKKQRSRKIC (SEQ ID NO: 5)及びCVKQQHQKGQSNQAQARRK (SEQ ID NO: 6))でウサギを免疫化することによって産生させ、標準プロトコルを用いて精製された。抗体は、IMP-1に特異的であること、及び他の相同タンパク質、IMP-2及びIMP-3と交差反応をしないことが、IMP-1、-2及び-3発現ベクターを導入したNSCLC細胞株由来の可溶化液及び内生的なIMP-1発現/非発現NSCLC細胞を用いて、ウェスタンブロットにより確認された。
【0253】
E.ウェスタンブロット解析
細胞は、溶解緩衝液;50mM Tris-HCl(pH8.0)、150mM NaCl、0.5%デオキシコール酸ナトリウム、0.1% SDS、及びプロテアーゼ阻害剤(Protease Inhibitor Cocktail Set III; Calbiochem Darmstadt, Germany)で溶解された。ECLウェスタンブロッティング解析システム(GE Healthcare Bio-sciences, Piscataway, NJ)が、以前述べたように(Kato, T., et al. Cancer Res, 65: 5638-5646, 2005.; Furukawa, C., et al. Cancer Res, 65: 7102-7110, 2005.; Suzuki, C., et al. Cancer Res, 65: 11314-11325, 2005.)使用された。SDS-PAGEが、7.5%ポリアクリルアミドゲルで行われた。PAGEで分離されたタンパク質は、ニトロセルロース膜(GE Healthcare Bio-sciences)上に電気ブロットされ、ウサギポリクローナル抗ヒトIMP-1抗体とインキュベートされた。ヤギ抗ウサギIgG-HRP抗体(GE Healthcare Bio-sciences)が、これらの試験に対する二次抗体として供された。
【0254】
F.組織マイクロアレイの構築及び免疫組織化学
肺癌組織マイクロアレイが、ホルマリン固定NSCLCを用いて、他の場所で発表されたように構築された(Ishikawa, N., et al. Clin Cancer Res, 10: 8363-8370, 2004.; Kato, T., et al. Cancer Res, 65: 5638-5646, 2005.; Furukawa, C., et al. Cancer Res, 65: 7102-7110, 2005.; Suzuki, C., et al. Cancer Res, 65: 11314-11325, 2005.)。スライドガラス上の対応するHE染色切片を用いた視覚的配置に基づいて、サンプリング用の組織部が選択された。ドナー腫瘍ブロックから採取された3つ、4つ又は5つの組織コア(直径0.5mm;深さ3〜4mm)が、組織マイクロアレイヤー(Beecher Instruments, Sun Prairie, WI)を用いて、レシピエントパラフィンブロック中に置かれた。正常組織領域のコアが、各症例から穴を開けて採取された。マイクロアレイブロックから得られた5μmの切片が、免疫組織化学的解析のために使用された。
【0255】
臨床試料の組織マイクロアレイにおけるIMP-1タンパク質レベルを調査するために、切片が、ENVISION+Kit/HRP(DakoCytomation, Glostrup, Denmark)を使って染色された。内生的なペルオキシダーゼ及びタンパク質をブロッキングした後、ウサギポリクローナル抗IMP-1抗体が添加され、二次抗体としてのHRP標識抗ウサギIgGとともに、切片がインキュベートされた。発色基質が添加され、標本はヘマトキシリンで対比染色された。IMP-1の陽性は、臨床追跡データの事前知識を持たない3人の独立した調査者によって半定量的に評価され、各調査者は、陰性(0としてスコア化)又は陽性(1+)として、染色強度を記録した。評価者が独立してそれらをそのように定義する場合のみ、症例を陽性と認めた。
【0256】
G.統計解析
全ての解析は統計解析ソフトウェアを使って行われた(StatView, version 5.0; SAS Institute, Inc. Cary, NC, USA)。年齢、性別、病理学的TNM分類、組織型及び組織病理学的悪性度のような臨床病理変数は、組織マイクロアレイ解析によって決定されたIMP-1タンパク質の発現レベルとの相関がとられた。IMP-1の免疫反応性は、続く統計的検定、例えばマンホイットニーのU検定又はカイ二乗検定を使って、臨床病理変数との関係が評価された。腫瘍特異的生存曲線が、手術日からNSCLC関連の死亡時期又は最後の追跡観察までの間で算出された。生存曲線を得るためにカプラン-マイヤー法が使用され、IMP-1発現状態に基づき、ログランク検定を用いて、生存率の差異が解析された。単変量解析は、コックスの比例ハザード回帰モデルを用いて行われた。
【0257】
H.RNA干渉アッセイ
哺乳動物細胞でsiRNAを合成するように設計されたベクターベースのRNA 干渉システム、psiH1BX3.0が、過去に確立された(Kato, T., et al. Cancer Res, 65: 5638-5646, 2005.; Furukawa, C., et al. Cancer Res, 65: 7102-7110, 2005.; Suzuki, C., et al. Cancer Res, 65: 11314-11325, 2005.; Suzuki, C., et al. Cancer Res, 63: 7038-7041, 2003.)。10μgのsiRNA発現ベクターが、30μgのリポフェクタミン2000(Invitrogen)を用いて、NSCLC細胞株、A549及びLC319内に導入された。導入細胞は、適切な濃度のジェネテシン(G418)の存在下で7日間培養され、コロニー形成アッセイによりコロニー数が計数され、そして、処理の7日後にMTTアッセイにより細胞生存率が評価された。MTTアッセイでは、Cell Counting Kit-8溶液(DOJINDO, Kumamoto, Japan)が1/10量の濃度で各ディッシュに添加され、37度でさらに4時間プレートがインキュベートされた。その後、マイクロプレートリーダー550(BIO-RAD)を用いて、490nm及び参照として630nmで吸光度が測定された。RNAi用合成オリゴヌクレオチドの標的配列は以下の通りである;対照1(EGFP:高感度緑色蛍光タンパク質遺伝子、オワンクラゲ(Aequorea victoria) GFPの変異体)、 5’-GAAGCAGCACGACTTCTTC-3’ (SEQ ID NO: 7);対照2(Scramble:5S及び16S rRNAをコードするユーグレナグラシリス(Euglena gracilis)葉緑体遺伝子)、 5’-GCGCGCTTTGTAGGATTCG-3’(SEQ ID NO:8);siRNA-IMP-1-#2, 5’-GGAGGAGAACTTCTTTGGT-3’(SEQ ID NO: 9);siRNA-IMP-1-#3, 5’-GAATCTATGGCAAACTCAA-3’ (SEQ ID NO: 10))。RNAiシステムを検証するために、個々の対照siRNAが半定量的RT-PCRによって試験され、過渡的にCOS-7細胞に導入された対応する標的遺伝子の発現の減少が確認された。機能的siRNAによるIMP-1発現の下方制御もまた、このアッセイのために使用された細胞株において確認されたが、対照によっては確認されなかった。
【0258】
I.IMP-1が結合するmRNAの同定のためのRNA免疫沈降及びcDNAマイクロアレイスクリーニング
インビボでのIMP-1に関連するRNA-タンパク質相互作用を解析するために、NiranjanakumariらによるRNA免疫沈降プロトコルが、本願において利用された(Niranjanakumari, S., et al. Methods, 26: 182-190, 2002.)。IMP-1が結合するmRNAを決定するために、IMP-1構成物がNH2(N)末端フラグ又はCOOH(C)末端HAタグ配列(pCAGGS-n3FH-IMP-1ベクター)と共に、A549細胞内に導入された。IMP-1構成物を導入されたこれらの細胞可溶化液を用いて、免疫沈降試験がさらに2度、最初にモノクローナル抗フラグM2で、次にモノクローナル抗HA抗体で行われた。各免疫沈降RNA及び全RNA由来のT7ベースの増幅された2.5μg分量のmRNA(aRNAs)が、27,648遺伝子を提示するcDNAマイクロアレイ(IP-マイクロアレイ解析)に対するハイブリダイゼーションのために、以前述べたように、Cy5-dCTP及びCy3-dCTPの存在下で、逆転写された(Kikuchi, T., et al. Oncogene, 22: 2192-2205, 2003.; Kakiuchi S, et al. Hum Mol Genet, 13: 3029-3043, 2004; Taniwaki M, et al. Int J Oncol, 2006 in press.)。
【0259】
II.結果
A.肺腫瘍及び正常組織におけるIMP-1転写産物の発現
肺癌用の新規治療薬剤及び/又はバイオマーカーの開発のための標的分子を同定するために、cDNAマイクロアレイは、解析されたNSCLCの50%より多くで、5倍又はそれ以上の発現を示す遺伝子が、最初にスクリーニングされた(Kikuchi, T., et al. Oncogene, 22: 2192-2205, 2003.; Kakiuchi S, et al. Hum Mol Genet, 13: 3029-3043, 2004; Taniwaki M, et al. Int J Oncol, 2006 in press.)。スクリーニングされた27,648遺伝子の中で、IMP-1転写産物は、大多数のNSCLCで過剰発現されることが確認された;その過剰発現は、半定量的RT-PCR試験によって、NSCLC23例中の16例及び小細胞肺癌(SCLC)細胞株に加えて、追加のNSCLC症例14例中の6例(腺癌(ADC)7例中の2例、及び上皮細胞癌(SCC)7例中の4例)(図1A)においても確認された。しかしながら、その発現は、正常気管支上皮由来のSAEC細胞ではほとんど検出されなかった(図1B)。
【0260】
次に、ヒトIMP-1に対するウサギポリクローナル抗体が作製され、IMP-1に対するその特異性がウェスタンブロット解析により確認され、他の相同タンパク質であるIMP-2及びIMP-3に交差反応しないことが、NCI-H520細胞(本発明者らがIMP-1、-2、及び-3のいずれも内生的に発現しないNCI-H520細胞にHAタグIMP-1、-2、及び-3発現ベクターを導入したもの)由来の可溶化液を用いて、示された(図1C左)。この抗体を用いて、ウェスタンブロット解析により、6個の肺癌細胞株において、内生的なIMP-1タンパク質の発現が確認された(3つのIMP-1陽性及び3つのIMP-1陰性細胞株)(図1C右)。IMP-1cDNAをプローブとして用いたノーザンブロット解析は、胎盤及び精巣で特異的に多量に発現する4.5kbの転写産物に相当する強いシグナルを同定した(図1D)。
【0261】
B.IMP-1発現とNSCLC患者の予後不良との関連性
IMP-1の臨床病理学的重要性を検証するために、267人の患者由来の肺癌組織を含む組織マイクロアレイの手法により、IMP-1タンパク質の発現がさらに試験された。陽性腫瘍細胞は、一般的に、NSCLCにおいて細胞質染色パターンを示し、それらに隣接する正常肺組織のいずれにおいても染色は確認されなかった(図2A、B)。IMP-1発現パターンは、陰性(0としてスコア化)又は陽性(1+としてスコア化)として分類された(図2A、B)。陽性染色は、NSCLC267例中の139例(52.1%)で見出された;ADC腫瘍157例中の57例、SCC腫瘍93例中の70例(75.3%)、LCC腫瘍13例中の10例(76.9%)及びASC腫瘍4例中の2例(50.0%)が陽性であると判断された(表1)。次に、IMP-1発現の相関が、様々な臨床病理学的パラメーターで検討された。性別(男性でより高い;P=0.0001)、pT分類(腫瘍が大きいほど高い;P=0.0003)、病理組織型(非ADCでより高い;P<0.0001)、及び病理組織学的悪性度(低分化腫瘍でより高い;P=0.0001)との有意な相関が見出された。IMP-1発現と他の臨床病理学的変数との間では、有意な関係は認められなかった。
【0262】
カプラン-マイヤー解析は、NSCLCにおけるIMP-1陽性と腫瘍特異的5年生存率との間の有意な関連性を示唆した(ログランク検定によりP=0.0053)(図2C)。コックス比例ハザードモデルを用いた単変量解析によって、性別(男性対女性)、pT(T2〜4対T1)、pN(N1〜2対N0)、病理組織型(非ADC対ADC)及びIMP-1発現(陽性対陰性)は全て、NSCLC患者間の低い腫瘍特異的生存率と有意に関連していた(それぞれP=0.0286、<0.0001、<0.0001、0.0003及び0.0064;表2)。
【0263】
(表2)コックス比例ハザードモデルにおける予後因子

【0264】
C.IMP-1に対する特異的siRNAによるNSCLC細胞の増殖阻害
IMP-1が肺癌細胞の増殖又は生存に必須であるか否か評価するために、対照プラスミド(EGFP及びScrambleに対するsiRNA)と同様に、プラスミドがIMP-1に対するsiRNA(si-IMP#2及び#3)を発現するように構築され、それらは肺癌細胞株、A549及びLC319内に導入された。si-IMP-1#2又は#3を導入された細胞内のmRNAレベルは、対照siRNAのいずれかを導入された細胞と比較して、著しく減少した。著しい減少は、コロニー数及びMTTアッセイによって測定された生存細胞数においても観察され、IMP-1の上方制御が癌細胞の増殖又は生存に関連していることが示唆された(A549の代表的なデータが図3A、Bに示された)。
【0265】
D.IMP-1の臨床病理学的重要性の検証
IMP-1タンパク質は、少なくとも4つのRNAに対する結合性を示すことが知られている(Ioannidis, P., et al. J Biol Chem, 280: 20086-93, 2005.)。IMP-1は、(1)2つのシス作用性のc-myc mRNAの不安定因子のうちの1つ、(2)このメッセージの主要な胎児型を表すリーダー3 IGFIImRNAの5’非翻訳領域(Nielsen, J., et al. Mol Cell Biol, 19: 1262-70, 1999.)、(3)H19RNA、癌胎児性の発現パターンを示す遺伝子産物、(4)細胞体及び発生中のニューロンの軸索に主に局在化する微小管関連タンパク質をコードするニューロン特異的tau RNA(Atlas, R., et al. J Neurochem, 89: 613-26, 2004.)に、特異的に結合する。しかしながら、本願明細書で試験された肺癌におけるこれらのmRNAの発現パターンは、IMP-1のものと必ずしも一致していなかった(データは示さず)。それゆえ、肺の発癌におけるIMP-1の機能を解明するために、IMP-1と相互作用して、それにより肺癌の増殖及び/又は進行に重要な役割を果たす他の候補mRNAが、RNA免疫沈降法及びcDNAマイクロアレイ(IP-マイクロアレイ)を用いて調査された。始めに、Cy-5標識されたIMP-1で免疫沈降されたmRNA(IP-mRNA)及びCy-3標識されたA549細胞から単離された全mRNAが、cDNAマイクロアレイ上で同時にハイブリダイズされた。その後、正常肺組織と比較してA549細胞で上方制御されている遺伝子を同定するために、Cy-5標識されたA549細胞から単離された全RNA及びCy-3標識された正常肺由来のポリA RNA(Clontech)が、ereco-ハイブリダイズされた。スクリーニングされた27,648遺伝子の中で、正常肺と比較して、IMP-1-IP-mRNA中に多くあり(>2倍強度)かつA549細胞株で過剰発現されている(>2倍強度)、合計20の転写産物が同定された(表3)。20の遺伝子は、シグナル伝達(SMAD3、RAN)、細胞接着及び細胞骨格(AMIGO2、LASP1)、ユビキチン化(UBE2S、RNF20)及び幾つかのホスファターゼ(PTP4A1、SYNJ2)に関連する遺伝子を含む様々な機能を示した(Kurisaki A, et al. Mol Cell Biol, 26: 1318-32, 2006.; Rabenau KE, et al. Oncogene, 23:5056-67, 2004.; Strehl S, et al. Oncogene, 22:157-60, 2003.; Liu Z, et al. J Biol Chem, 267: 15829-35, 1992.; Zhu B, et al. Mol Cell, 20: 601-11, 2005.; Stephens BJ, et al. Mol Cancer Ther, 4:1653-61, 2005.; Chuang Y, et al. Cancer Res, 64: 8271-5, 2004.)。それらの幾つかは、発癌において重要な役割を有することが示唆されている;例えば、細胞浸潤及び遊走におけるAMIGO2 LASP1、 SYNJ2及びPTP4A1の関与である(Rabenau KE, et al. Oncogene, 23:5056-67, 2004.; Strehl S, et al. Oncogene, 22:157-60, 2003.; Stephens BJ, et al. Mol Cancer Ther, 4:1653-61, 2005.; Chuang Y, et al. Cancer Res, 64: 8271-5, 2004.)。
【0266】
(表3)RNA免疫沈降法及びcDNAマイクロアレイを用いて同定されたIMP-1と結合する22の候補mRNAリスト


【0267】
III.結果についての考察
β-アクチン(ACTB)mRNAは、ニワトリ胚線維芽細胞(CEF)のリーディングラメラ(leading lamellae)及び発生中のニューロンの成長円錐に輸送される(Lawrence, J. B. and Singer, R. H. Cell, 45: 407-15, 1986.; Bassell, G. J., et al. J Neurosci, 18: 251-65, 1998.)。ACTB mRNAの局在化は、「zipコード」であるmRNAの3’ UTR中のシス作用エレメントに依存する(Kislauskis, E. H., et al. J Cell Biol, 123: 165-72, 1993.)。各トランス作用因子、zipコード結合タンパク質1(ZBP1)が、ACTB mRNAのzipコードを用いたアフィニティー精製により同定され、それが、このRNAを移動性細胞の先端に運んでいるようである(Ross, A. F., et al. Mol Cell Biol, 17: 2158-65, 1997.);ZBP1の相同体は、それ以来、カエル、ハエ、マウス及びヒトを含む広範囲にわたる生物で同定されてきた(Mueller-Pillasch, F., et al. Oncogene, 14: 2729-33, 1997.; Deshler, J. O., et al. Science, 276: 1128-31, 1997.; Doyle, G. A., et al. Nucleic Acids Res, 26: 5036-44, 1998.)。ZBP1様タンパク質は、N末端領域の2つのPRM、C末端の4つのhnRNP KH(リボヌクレオタンパク質 Kホモロジー)ドメインを含む。IMP-1は、IGF2mRNA結合タンパク質の1つであるが、ZBP1ファミリーのメンバーであると考えられる。それは、IGF2リーダー-3 mRNAに対する多重付着性を示し、数種のヒト癌において過剰発現される(Ross, J., et al. Oncogene, 20: 6544-50, 2001.; Ioannidis, P., et al. Int J Cancer, 104: 54-9, 2003.; Ioannidis, P., et al. Cancer Lett, 209: 245-250, 2004.; Gu, L., et al. Int J Oncol, 24: 671-8, 2004.)。
【0268】
この研究において、siRNA試験により、IMP-1が、腫瘍細胞の増殖及び/又は生存において重要な役割を果たすことが確認された。さらに、cDNAマイクロアレイ(IP-マイクロアレイ)と組み合わせたRNA免疫沈降試験を用いて、NSCLC細胞でIMP-1と結合する可能性のある多数の候補mRNAが同定された(表3を参照)。リストは、シグナル伝達、細胞接着及び細胞骨格において機能するタンパク質、並びに様々なタイプの酵素活性を有するものをコードする多くの遺伝子を含んでいた。例えば、RAN(ras関連核タンパク質)は、核膜孔複合体を介したRNA及びタンパク質の移行に必須であるRASスーパーファミリーに属する低分子GTP結合タンパク質である(Yokoyama, N., et al. Nature, 376: 184-8, 1995.)。Ranシステムは、特定の細胞状況において調節解除される:これは、遺伝的に不安定で腫瘍増殖を促進する細胞になりやすい有糸分裂エラーの発生及び伝播に好都合な条件を示すかもしれない(Di Fiore, B., et al. Cell Cycle, 3: 305-13, 2004.)。
【0269】
RNA結合タンパク質による細胞内のmRNA輸送は、ハエ及びカエルの卵母細胞及び発生中の胚、並びに線維芽細胞及びニューロンのような体細胞で報告されている(King, M. L., et al. Bioessays, 21: 546-57, 1999.; Mowry, K. L. and Cote, C. A. et al. Faseb J, 13: 435-45, 1999.; Lasko, P. et al. J Cell Biol, 150: F51-6, 2000.; Steward, O. Neuron, 18: 9-12, 1997.)。IMP-1は、癌だけでなく、限定的な正常組織、例えば胎盤、精巣及び胎生組織でも発現されるが、胚形成及び発癌において必須の役割を果たす特定のmRNAの輸送に必要である可能性がある。それゆえ、増殖中の胚細胞又は癌細胞が、IMP-1タンパク質-mRNA複合体に関わる輸送システムを介して、必須なmRNAを細胞内に能動的に分配すると仮定される。IMP-1が、細胞周期の進行、細胞浸潤及び移動、並びに様々なタイプの酵素活性に必要なタンパク質をコードする様々なmRNAと結合するという証拠は、この仮説をサポートする。事実、IMP-1陽性は、組織マイクロアレイを用いた臨床病理学的調査により、腫瘍拡張因子(pT分類)と相関していた。さらに、IMP-1結合mRNAの調査は、NSCLCの発症のよりよい理解につながるかもしれない。
【0270】
本願明細書において、IMP-1は、正常肺細胞よりも肺癌細胞で顕著に高く発現し、IMP-1が肺癌の発症/進行に重要な役割を果たす可能性が示された。特に、本発明の結果は、IMP-1の過剰発現が、次に肺癌患者の予後不良をもたらす肺癌の進行と関連していることを示す。それゆえ、切除標本におけるIMP-1過剰発現は、予後不良となる可能性の高い患者に対する補助的治療の適用のための有用な指標となり得る。さらに、本発明者らのデータは、IMP-1の上方制御が、癌細胞の増殖又は生存に関連していることを示した。多くの癌細胞での増大したIMP-1発現レベルの元となる分子的メカニズムは解明されていないが、IMP-1は、ヒトの癌治療に対する有望な分子標的となり得る。
【0271】
産業上の利用可能性
レーザーキャプチャーダイセクションとゲノム全域にわたるcDNAマイクロアレイの組み合わせによって得られた、本願明細書に記載の癌の遺伝子発現解析は、癌の予防及び治療の標的として、特定の遺伝子を同定した。これらの差次的に発現される遺伝子のサブセットの発現に基づいて、本発明は、癌を同定及び検出するための分子診断マーカーを提供する。
【0272】
本願明細書に記載の方法はまた、癌の予防、診断及び治療のためのさらなる分子標的の同定にも有用である。本願明細書で提供されたデータは、癌の包括的な理解を深め、新たな診断戦略の開発を促進し、治療薬物及び予防薬剤の分子標的の同定のための手がかりを提供する。当該情報は、腫瘍形成のより深い理解に寄与し、癌の診断、治療及び最終的には予防に向けた新規戦略を開発するための指標を提供する。
【0273】
本願明細書で引用された全ての特許、特許出願及び刊行物は、それらの全体において、引用により組み込まれる。
【0274】
さらに、本発明には詳細及びその特定の実施態様に関して記載されているが、前述の記載は、事実上例示的及び説明的なものであって、本発明及びその好ましい態様を例示することを意図するものと理解されるべきである。当業者は、日常的な実験を通して、本発明の精神及び範囲から逸脱することなく、様々な変更及び修正がなされ得ることを容易に理解すると考えられる。それゆえ、本発明は上記の説明によって規定されるのではなく、添付の特許請求の範囲及びそれらの等価物によって規定されることが意図される。
【図1A】

【図1B】

【図1C】

【図1D】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象由来の生体試料におけるIMP-1遺伝子の発現レベルを決定する工程を含む、対象における肺癌又は肺癌発症の素因を診断する方法であって、正常対照レベルと比較した前記発現レベルの上昇が、前記対照が肺癌に罹患しているか又は肺癌発症のリスクを有していることを示す、方法。
【請求項2】
前記IMP-1発現レベルが、正常対照レベルよりも少なくとも10%高い、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記発現レベルが、以下からなる群より選択される方法のいずれかによって決定される、請求項1記載の方法:
(a)IMP-1遺伝子のmRNAを検出する方法;
(b)IMP-1遺伝子によってコードされるタンパク質を検出する方法;及び
(c)IMP-1遺伝子によってコードされるタンパク質の生物活性を検出する方法。
【請求項4】
対象由来の生体試料が上皮細胞を含む、請求項1記載の方法。
【請求項5】
対象由来の生体試料が癌細胞を含む、請求項1記載の方法。
【請求項6】
対象由来の生体試料が癌上皮細胞を含む、請求項1記載の方法。
【請求項7】
前記肺癌が非小細胞肺癌(NSCLC)である、請求項1記載の方法。
【請求項8】
以下の工程を含む、肺癌を治療又は予防するための薬剤を同定する方法:
(a)試験薬剤をIMP-1ポリペプチド又はその機能的断片と接触させる工程
(b)該IMP-1ポリペプチド又は機能的断片と該試験薬剤との間の結合を検出する工程;及び
(c)該ポリペプチド又は断片に結合する試験薬剤を選択する工程。
【請求項9】
以下の工程を含む、肺癌を治療又は予防するための薬剤を同定する方法:
(a)試験薬剤をIMP-1ポリペプチド又はその機能的断片と接触させる工程;
(b)該IMP-1ポリペプチド又は機能的断片の生物活性を検出する工程;及び
(c)試験薬剤の非存在下において検出されたものと比較して、該ポリペプチド又は断片の生物活性を抑制する試験薬剤を選択する工程。
【請求項10】
以下の工程を含む、肺癌を治療又は予防するための薬剤を同定する方法:
(a)試験化合物を、IMP-1遺伝子を発現している細胞と接触させる工程;
(b)IMP-1遺伝子の発現レベルを検出する工程;及び
(c)試験薬剤の非存在下で検出されたものと比較して、前記遺伝子の発現レベルを低下させる試験薬剤を選択する工程。
【請求項11】
前記細胞がNSCLC由来のものである、請求項10記載の方法。
【請求項12】
以下の工程を含む、肺癌を治療又は予防するための薬剤を同定する方法:
(a)試験薬剤を、IMP-1遺伝子の転写調節領域及び前記転写調節領域の制御下で発現されるレポーター遺伝子を含むベクターを導入した細胞と接触させる工程;
(b)前記レポーター遺伝子の発現又は活性を測定する工程;及び
(c)試験薬剤の非存在下で検出されたものと比較して、前記レポーター遺伝子の発現又は活性を低下させる試験薬剤を選択する工程。
【請求項13】
以下の工程を含む、肺癌を治療又は予防するための薬剤を同定する方法:
(a)試験薬剤を、IMP-1タンパク質又はその機能的同等物を発現している細胞及び表3から選択される1又は複数のmRNAと接触させる工程;
(b)IMP-1タンパク質とmRNAの結合を検出する工程;及び
(c)試験薬剤の非存在下で検出されたものと比較して、IMP-1タンパク質とmRNAの結合を減じる試験薬剤を選択する工程。
【請求項14】
肺癌がNSCLCである、請求項8〜13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
活性成分として請求項8〜13のいずれか一項に記載の方法によって選択される薬剤の薬学的有効量、及び薬学的に許容される担体を含む、肺癌を治療又は予防するための治療薬剤。
【請求項16】
IMP-1遺伝子によってコードされるポリヌクレオチドに対するアンチセンスポリヌクレオチド又はsiRNAの薬学的有効量を含む、肺癌を治療又は予防するための治療薬剤。
【請求項17】
前記siRNAが、SEQ ID NO:9又は10のヌクレオチド配列を含むIMP-1遺伝子のセンス鎖を含む、請求項16記載の治療薬剤。
【請求項18】
前記siRNAが一般式5’-[A]-[B]-[A’]-3’を有し、[A]がSEQ ID NO:9又は10の配列に相当するリボヌクレオチド配列、[B]が3〜23ヌクレオチドからなるリボヌクレオチドループ配列、及び[A’]が[A]に相補的なリボヌクレオチド配列である、請求項17記載の治療薬剤。
【請求項19】
IMP-1ポリペプチドに結合する抗体又はその免疫学的に活性なフラグメントの薬学的有効量を含む、肺癌を治療又は予防するための治療薬剤。
【請求項20】
肺癌がNSCLCである、請求項15〜19のいずれか一項に記載の治療薬剤。
【請求項21】
請求項8〜14のいずれか一項に記載の方法によって得られた薬剤を投与する工程を含む、対象において肺癌を治療又は予防する方法。
【請求項22】
請求項15〜19のいずれか一項に記載の治療薬剤を、前記対象に投与する工程を含む、対象において肺癌を治療又は予防するための方法。
【請求項23】
IMP-1ポリペプチドに結合する抗体又はその免疫学的に活性なフラグメントの薬学的有効量を、対象に投与する工程を含む、対象において肺癌を治療又は予防するための方法。
【請求項24】
肺癌がNSCLCである、請求項21〜23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
以下の工程を含む、肺癌患者の予後を評価する方法:
(a)患者由来の生体試料におけるIMP-1遺伝子の発現レベルを検出する工程;
(b)検出された発現レベルを対照レベルと比較する工程;及び
(c)工程(b)での比較に基づいて、該患者の予後を判定する工程。
【請求項26】
肺癌がNSCLCである、請求項25記載の方法。
【請求項27】
前記対照レベルが予後良好対照レベルに相当し、かつ対照レベルと比較した発現レベルの上昇が予後不良と判定される、請求項25記載の方法。
【請求項28】
IMP-1発現レベルが、前記対照レベルよりも少なくとも10%高い、請求項27記載の方法。
【請求項29】
他の肺癌関連遺伝子の発現レベルを決定する工程をさらに含む、請求項25記載の方法。
【請求項30】
前記発現レベルが、以下からなる群より選択されるいずれか一つの方法によって決定される、請求項25記載の方法:
(a)IMP-1遺伝子のmRNAを検出する方法;
(b)IMP-1タンパク質を検出する方法;及び
(c)IMP-1タンパク質の生物活性を検出する方法。
【請求項31】
前記発現レベルが、IMP-1遺伝子の遺伝子転写産物に対するプローブのハイブリダイゼーションを検出することによって決定される、請求項25記載の方法。
【請求項32】
ハイブリダイゼーションの工程がDNAアレイ上で行われる、請求項31記載の方法。
【請求項33】
前記発現レベルが、IMP-1タンパク質に対する抗体の結合を検出することによって決定される、請求項25記載の方法。
【請求項34】
前記生体試料が痰又は血液を含む、請求項25記載の方法。
【請求項35】
センス鎖及びアンチセンス鎖を含む二本鎖分子であって、センス鎖がSEQ ID NO:9及び10からなる群より選択される標的配列に相当するリボヌクレオチド配列を含み、アンチセンス鎖が前記センス鎖に相補的であるリボヌクレオチド配列を含み、前記センス鎖及び前記アンチセンス鎖が相互にハイブリダイズして二本鎖分子を形成し、前記二本鎖分子は、IMP-1遺伝子を発現している細胞に導入されたとき、前記遺伝子の発現を阻害する、二本鎖分子。
【請求項36】
前記標的配列が、SEQ ID NO:11のヌクレオチド配列に由来する少なくとも約10個の連続したヌクレオチドを含む、請求項35記載の二本鎖分子。
【請求項37】
前記標的配列が、SEQ ID NO:11のヌクレオチド配列に由来する約19〜約25個の連続するヌクレオチドを含む、請求項36記載の二本鎖分子。
【請求項38】
一本鎖リボヌクレオチド配列を介して連結されたセンス鎖及びアンチセンス鎖を含む一本鎖リボヌクレオチド転写産物である、請求項37記載の二本鎖分子。
【請求項39】
約100ヌクレオチド長未満のオリゴヌクレオチドである、請求項36記載の二本鎖分子。
【請求項40】
約75ヌクレオチド長未満のオリゴヌクレオチドである、請求項39記載の二本鎖分子。
【請求項41】
約50ヌクレオチド長未満のオリゴヌクレオチドである、請求項40記載の二本鎖分子。
【請求項42】
約25ヌクレオチド長未満のオリゴヌクレオチドである、請求項41記載の二本鎖分子。
【請求項43】
約19〜約25ヌクレオチド長のオリゴヌクレオチドである、請求項42記載の二本鎖分子。
【請求項44】
請求項35記載の二本鎖分子をコードしているベクター。
【請求項45】
二次構造を有する転写産物をコードし、かつセンス鎖及びアンチセンス鎖を含む、請求項44記載のベクター。
【請求項46】
前記転写産物が、前記センス鎖及び前記アンチセンス鎖を連結する一本鎖リボヌクレオチドをさらに含む、請求項44記載のベクター。
【請求項47】
センス鎖核酸及びアンチセンス鎖核酸の組み合わせを含むポリヌクレオチドを含むベクターであって、前記センス鎖核酸がSEQ ID NO:9及び10のヌクレオチド配列を含み、かつ前記アンチセンス鎖核酸が前記センス鎖に相補的な配列からなる、ベクター。
【請求項48】
前記ポリヌクレオチドが一般式5’-[A]-[B]-[A’]-3’を有し、[A]がSEQ ID NO:9及び10のヌクレオチド配列であり;[B]が3〜23ヌクレオチドからなるヌクレオチド配列であり; [A’]が[A]に相補的なヌクレオチド配列である、請求項47記載のベクター。
【請求項49】
IMP-1を認識しかつIMP-2及びIMP-3を認識しない、抗体。
【請求項50】
SEQ ID NO:5又はSEQ ID NO:6からなる群より選択されるペプチドを含む抗原に結合する、請求項49記載の抗体。

【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2010−501162(P2010−501162A)
【公表日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−524367(P2009−524367)
【出願日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際出願番号】PCT/JP2007/066324
【国際公開番号】WO2008/020652
【国際公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【出願人】(502240113)オンコセラピー・サイエンス株式会社 (142)
【Fターム(参考)】