説明

肺癌の診断及び治療方法

【課題】肺細胞の腫瘍状態の診断における補助方法及び腫瘍状態を逆転する潜在的な治療薬のスクリーニング方法を提供する。
【解決手段】肺細胞の腫瘍状態の診断における指標として、PGP9.5、8−オキソ−dGTPアーゼ及びp67からなる群より選ばれる癌原遺伝子の過剰発現を使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願のクロスリファレンス
本出願は、米国特許法119(e)の下、1998年3月31日出願の米国仮出願番号60/080,044号に対する優先権を主張する。この出願の内容は、参照することにより本出願の開示に組み込まれる。

技術分野
本発明は癌生物学の分野に属する。特に本発明は癌原遺伝子の過剰発現により特徴付けられる腫瘍性肺細胞を診断しかつ治療するための組成物及び方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
医学研究の多数の進歩にもかかわらず、米国に於いて癌は死亡原因の第2位として残っている。工業国においては、5人に1人が癌で死亡している。臨床治療の伝統的な態様、例えば外科的切除、放射線治療及び化学療法などは、特に固形腫瘍に対して有意な失敗率を有する。失敗は、初期の腫瘍が無応答性であること又は原部位及び/又は転移における再成長により再発することを原因として起こる。
肺癌は、世界的に最も一般的な悪性腫瘍の一つであり、男性における癌による死亡原因の第2位を占める。American Cancer Society, Cancer facts and figures, 1996, Atlantaを参照のこと。1997年において約178,100の肺癌の新たな症例が診断された。これは癌診断の13%である。1997年において、肺癌を原因として推定160,400人が死亡し、これは全癌死亡者の29%を占める。肺癌に対する1年生存率は1973年の32%から1993年には41%に上昇した。これは主に外科技術の改良によるものである。組み合わせた全ての段階に対する5年生存率はわずか14%である。疾患が局在化されているときに検出された症例に対する生存率は48%であるが、早期に発見された肺癌ではわずか15%である。種々の形態の肺癌の中で、非小細胞肺癌(NSCLC)は、各年における全ての新規な肺癌症例のほぼ80%を占める。NSCLCについて診断された患者に対して、外科的切除は唯一の有意義な生存の機会を提供する。他方、小細胞肺癌は最も悪性であり、かつ肺癌の中で最も増殖が速く、新規な肺癌症例の約20%を占める。原発腫瘍は一般的に化学療法に対して反応性であるが、広範囲の転移が続く。診断時における生存期間の中央値は約1年であり、5年生存率は5%である。
【0003】
外科的切除、放射線治療及び化学療法における改良を含む癌治療の大きな進歩にもかかわらず、肺癌に対する成功した介入措置は、特に癌細胞の早期の検出に依存している。良性腫瘍を引き起こす腫瘍形成は、塊を外科的に除去することにより完全に治療することができるだろう。周囲組織の浸潤により明らかになるように腫瘍が悪性の場合、根治させるのは非常に困難になる。それゆえ、早い段階において疾患を検出する方法の開発に対する相当のニーズが当該技術分野に残っている。更に、疾患の進行をモニター又は予知(prognose)する診断方法及び種々の状態を治療する方法の開発に対しての差し迫った必要性が当該技術分野に存在している。しかしながら、疾患の性質における広大な可変性が、細胞マーカー、例えば原発性肺癌細胞において好ましくは過剰発現して、診断及び治療方法に有用な遺伝子のサーチを困難にしている。
腫瘍は、自発的に起こる遺伝子の変性、ウイルス感染又は化学的発癌物質若しくは放射線に応答してよりしばしば引き起こされる。正常細胞を癌(又は腫瘍性)細胞にトランスフォームする原因となる遺伝子は、癌遺伝子として知られている。組換えDNA技術の出現により、多数の癌遺伝子が同定され、クローニングされ、そして配列決定されている。ほとんどの場合において、同定された癌遺伝子は、実際は、癌原遺伝子(proto-oncogene)として知られる同一の未変性細胞遺伝子の1つの変化した形態である。関連技術は、細胞のトランスフォーメーションが特定の正常遺伝子産物の過剰発現により引き起こされることができることを明らかにしている。癌原遺伝子の過剰発現は、遺伝子コピーの増幅、又は不適当な調節要素、例えば恒常的に活性化されたプロモーター等の制御下での癌原遺伝子をもたらす染色体転移により引き起こされるだろう。本発明は、原発性肺癌細胞において好ましく過剰発現する癌原遺伝子の最初の同定を提供する。更に本発明の方法は、肺癌の診断、モニタリング及び治療の分野に対して有意な貢献を提供する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
発明の開示
本発明は、肺細胞の腫瘍状態の診断における補助方法及び腫瘍状態を逆転する潜在的な治療薬のスクリーニング方法を提供する。
したがって、本発明の1つの態様は、肺細胞サンプルから過剰発現した癌原遺伝子の存在をスクリーニングすることにより、肺細胞の腫瘍状態を診断する方法であって、過剰発現が肺細胞の腫瘍状態を示すことを特徴とする方法である。この態様の1つの側面においては、過剰発現した癌原遺伝子はb−myb又はp67であり、この態様の別の側面においては、過剰発現した癌原遺伝子はPGP9.5又は8−オキソ−dGTPアーゼである。本発明において具体化される癌原遺伝子の過剰発現は、癌原遺伝子から転写されたmRNAの量、mRNAの逆転写により生成したcDNAの量又は癌原遺伝子によりコードされたポリペプチド又はタンパク質の量を検出することにより測定される。本発明の方法は、非小細胞肺癌の診断における補助に特に有用である。
本発明の別の態様は、肺細胞の腫瘍状態を逆転する潜在的な治療薬のスクリーニングであって、前記細胞が癌原遺伝子の過剰発現により特徴付けられるスクリーニングである。本発明の方法は、細胞を潜在的な薬剤と接触させる工程及び腫瘍状態の逆転についてアッセイする工程を含んでいる。この態様の1つの側面において癌原遺伝子は、b−myb、p67、PGP9.5又は8−オキソ−dGTPアーゼのなかの1以上である。
本発明の更に別の態様は、前記細胞を前記方法により同定された薬剤と接触させることによる肺細胞の腫瘍状態を逆転する方法であって、前記細胞が癌原遺伝子の過剰発現により特徴付けられる方法である。同定された薬剤は、癌原遺伝子の過剰発現を特異的に阻害するアンチセンスRNAであることができるが、これに限定されるものではない。過剰発現した癌原遺伝子は、b−myb、p67、8−オキソ−dGTPアーゼ又はPGP9.5のいずれかである。
【図面の簡単な説明】
【0005】
【図1】図1は、肺腫瘍及び正常組織における全ての固有タグの相対的発現を示している。腫瘍及び正常対照に存在するタグの割合は、2つのライブラリーのそれぞれからのタグの合計を使用して決定した。0の外観の場合において、1の数字を挿入して、割合を許容し、意味のある値にした。X軸は各系における倍加の誘導(fold induction)を示している。Y軸はy−10nの場合の差動的に発現した遺伝子の数を示している。
【図2】図2は、SAGEにより同定した遺伝子のノーザンブロット分析を示している。全RNAを、正常肺、小腸、肝臓及び示される9つの肺癌細胞系のパネルから単離した。全ての細胞系はATCCから入手した。これらは、Gazdar et al. (1996) J. Cell Biochem. Suppl. 24: 1-11 及び Phelps et al. (1996) J. Cell Biochem Suppl. 24: 32-91に記載されている。
【図3A】図3Aは、原発性肺癌におけるヒトb−myb及びPGP9.5転写物の検出を示している。上部パネル:ケースL002、L008、L010、L012、84、85、86、88、90、91は、肺腫瘍中にb−myb転写物を有した。下部パネル:ケースL002、L008、L012、84、85、86、88、91は、肺腫瘍中にPGP9.5転写物を有した。
【図3B】図3Bは、異なるASH1状態の肺癌細胞系におけるヒトPGP9.5転写物の発現パターンを示している。PGP9.5転写物は正常肺又は胚性肺細胞系においては検出されなかったが、神経内分泌的特徴を有する肺腫瘍細胞系(H82、H125、H157、H520、H1299、H358)及びそれを有しない肺腫瘍細胞系(H249、H1155、DMS53、H727、H146、H1770)では発現した。H358はその他の細胞系と比較して低い発現を有した。下部パネルは、肺腫瘍細胞系において発現したPGP9.5を検出するための抗PGP9.5抗体を使用したウエスタンブロットを示している。PGP9.5は、H358を除くすべての細胞系で発現した。
【発明を実施するための形態】
【0006】
発明の実施の態様
本発明の開示の全体にわたって、種々の刊行物、特許及び特許明細書を引用を同定することにより参照する。これらの刊行物、特許及び特許明細書は、参照することにより本明細書に組み込まれ、本発明が属する技術分野の状態を十分に記載している。

定義
特に示さない限り、本発明の実施は、免疫学、分子生物学、微生物学、細胞生物学及び組換えDNAの従来技術を使用するだろう。これらの技術は当業者の範囲内にある。例えば、Sambrook, Fritsch and Maniatis, MOLECULAR CLONING: A LABORATORY MANUAL, 2nd edition (1989); CURRENT PROTOCOLS IN MOLECULAR BIOLOGY (F.M. Ausubel. et al. Eds., (1987)); the series METHODS IN ENZYMOLOGY (Academic Press, Inc.): PCR 2: A PRACTICAL APPROACH (M.J. MacPherson, B.D. Hames and G.R. Taylors eds. (1995)), Harlow and Lane, eds. (1988) ANTIBODIES, A LABORATORY MANUAL, and ANIMAL CELL CULTURE (R.I. Freshney, ed. (1987))を参照のこと。
明細書及び請求の範囲で使用するとき、単数形「a」、「an」及び「the」には、その他文脈で明確に示さない限り、複数が含まれる。例えば、用語「a cell」には、混合物を含む複数の細胞が含まれる。
本明細書で使用するとき、「含む」とは、列挙した要素を含む組成物及び方法を意味することを意図するが、その他を排除するものではない。組成物及び方法定義するときに使用する「本質的になる」とは、その組合せに対して本質的に重要な全ての要素のその他の要素を除外することを意味するだろう。したがって、本明細書で定義される要素から本質的になる組成物は単離及び精製方法に由来する痕跡混入物及び薬学的に許容しうる担体、例えばリン酸緩衝食塩水、保存剤などを除外しないだろう。「〜からなる」とは、他成分の痕跡要素及び本発明の組成物を投与する実質的方法工程以上に除外することを意味する。これらの他動的用語(transition term)により定義される態様は、本発明の範囲内にある。
用語「ポリペプチド」は、2以上のサブユニットアミノ酸、アミノ酸類似体又はペプチド模倣体(peptidomimetics)からなる化合物を言及するために広い意味で使用される。サブユニットはペプチド結合により結合しているだろう。別の態様においては、サブユニットはその他の結合、例えばエステル結合、エーテル結合等により結合しているだろう。本明細書で使用するとき、用語「アミノ酸」は天然及び/又は非天然又は合成アミノ酸を意味し、グリシン及びD又はL型光学異性体並びにアミノ酸類似体及びペプチド模倣体が含まれる。3以上のアミノ酸からなるペプチドは、ペプチド鎖が短い場合、一般的にオリゴペプチドと呼ばれる。ペプチド鎖が長い場合、そのペプチドは一般にポリペプチド又はタンパク質と呼ばれる。
【0007】
用語「単離された」は、構成成分、細胞及びその他のものから分離されたものを意味し、ポリヌクレオチド、ペプチド、ポリペプチド、タンパク質、抗体又はこれらの断片は標準的に自然状態で結びついている。本発明の1つの態様において、単離されたポリヌクレオチドは、3’及び5’隣接ヌクレオチドから分離したものであり、標準的には未変性又は天然環境下、例えば染色体に結びついている。当業者に明らかなように、非天然ポリヌクレオチド、ペプチド、ポリペプチド、タンパク質、抗体又はこれらの断片は、天然の対応物から区別するための「単離」を必要としない。更に「濃縮された」、「分離された」又は「希釈された」ポリヌクレオチド、ペプチド、ポリペプチド、タンパク質、抗体又はこれれらの断片は、濃度又は単位容積あたりの分子量が、対応の天然物よりも「濃縮された」ものは高く、「分離された」ものは低い点で対応の天然物から区別することができる。ポリヌクレオチド、ペプチド、ポリペプチド、タンパク質、抗体又はこれらの断片は、一次配列又は例えばグリコシル化パターンにより対応の天然物から区別され、単離された形態で存在することを要求しない。なぜなら、一次配列又は代替として別の特徴、例えばグリコシル化パターン等により対応の天然物から区別することができるからである。本明細書に開示する本発明のそれぞれについて明示はしないが、以下に開示され、かつ適切な条件下にある各組成物についての前記の態様の全てが本発明により提供されることを理解すべきである。したがって、非天然ポリヌクレオチドが、単離された天然ポリヌクレオチドからの別態様として提供される。細菌細胞内で生成したタンパク質は、天然タンパク質を生成する真核細胞から単離された前記天然タンパク質の異なる態様として提供される。
用語「ポリヌクレオチド」及び「オリゴヌクレオチド」は互換的に使用され、デオキシリボヌクレオチド若しくはリボヌクレオチド又はこれらの類似体のあらゆる長さのヌクレオチドのポリマー形態を意味する。ポリヌクレオチドは全ての3次元構造を有し、全ての既知又は未知の機能を発揮するだろう。以下に示すのはポリヌクレオチドの非限定的な例である。遺伝子又は遺伝子断片、エキソン、イントロン、メッセンジャーRNA(mRNA)、トランスファーRNA、リボソームRNA、リボザイム、cDNA、組換えポリヌクレオチド、分岐ポリヌクレオチド、プラスミド、ベクター、全ての配列の単離DNA、全ての配列の単離RNA、核酸プローブ及びプライマー。ポリヌクレオチドは修飾ヌクレオチド、例えばメチル化ヌクレオチド及びヌクレオチド類似体等を含んでいてもよい。存在する場合、ヌクレオチド構造の修飾はポリマーを組み立てる前に与えられるだろう。ヌクレオチド配列は非ヌクレオチド成分により妨害されていてもよい。更にポリヌクレオチドは重合の後に、例えば標識成分との結合により修飾されていてもよい。この用語は二本鎖及び一本鎖分子の両方を意味する。特別に述べない限り又は要求しない限り、ポリヌクレオチドである本発明の全ての態様は、二本鎖形態及び二本鎖形態を構成することが知られている又は予想されている2つの相補的一本鎖形態の両方を含んでいる。
【0008】
ポリヌクレオチドは、4つのヌクレオチド塩基:アデニン(A)、シトシン(C)、グアニン(G)、チミン(T)及びポリヌクレオチドがRNAの場合はチミン(T)の代わりにウラシル(U)の特定の配列から構成される。したがって、用語「ポリヌクレオチド配列」は、ポリヌクレオチド分子のアルファベット表示である。このアルファベット表示は中央処理装置を有するコンピュータ内のデータベースに入力して、バイオインフォマティクス用途、例えば機能性ゲノミクス及び相同性調査などに使用することができる。
「遺伝子」とは、転写され翻訳された後に特定のポリペプチド又はタンパク質をコードすることができる少なくとも1つのオープンリーディングフレームを含むポリヌクレオチドを意味する。本明細書に記載される全てのポリヌクレオチド配列を使用して、それが関連する遺伝子の巨大断片又は完全長コード配列を同定してもよい。巨大断片配列を単離する方法は当業者に既知であり、その中のいくつかは本明細書に記載される。
「癌遺伝子」とは、宿主細胞に導入されたときに正常細胞を癌性(又は腫瘍性又は腫瘍)細胞へトランスフォームすることができる少なくとも1つのオープンリーディングフレームを含むポリペプチドを意味する。癌遺伝子はしばしば細胞性対応物の変化した形態、すなわち「癌原遺伝子」で存在し、これは非癌細胞に存在するレベルで発現したときに細胞をトランスフォーメーションすることができない。
「遺伝子産物」とは、遺伝子が転写され、翻訳されたときに生成するアミノ酸(例えば、ペプチド又はポリペプチド)を意味する。
本明細書で使用するとき、第2のポリヌクレオチドが第1のポリヌクレオチドに下記の関係によって関連している場合、第2のポリヌクレオチドは別の(第1の)ポリヌクレオチドに「対応」する。
1)第2のポリヌクレオチドが第1のポリヌクレオチドを含み、第2のポリヌクレオチドが遺伝子産物をコードする。
2)第2のポリヌクレオチドが、cDNA、RNA、ゲノムDNA又はこれらポリヌクレオチドの全ての断片において第1のポリヌクレオチドに対して5’又は3’にある。例えば、第2のポリヌクレオチドが、第1及び第2のポリヌクレオチドを含む遺伝子の断片である。第1及び第2のポリヌクレオチドは、それらが1つの遺伝子産物、例えばタンパク質をコードする遺伝子の成分であるという点で関連づけられる。しかしながら、第2のポリヌクレオチドが第1のポリヌクレオチドを含んでいる又は重複していることは、本明細書において「対応」しているためには必要ではない。例えば、第1のポリヌクレオチドは、第2のポリヌクレオチドの3’未翻訳領域の断片であってもよい。第1及び第2のポリヌクレオチドは、1つの遺伝子産物をコードする遺伝子の断片であってもよい。第2のポリヌクレオチドはその遺伝子のエキソンであってもよく、一方第1のポリヌクレオチドはその遺伝子のイントロンであってもよい。
3)第2のポリヌクレオチドは第1のポリヌクレオチドの相補物である。
【0009】
「プローブ」とは、ポリヌクレオチドの操作という面において使用するときに、興味の対象となるサンプル中に潜在的に存在する標的を前記標的とのハイブリダイズにより検出するための試薬として提供されるオリゴヌクレオチドを意味する。通常、プローブは標識又はハイブリダイゼーション反応の前又は後に標識が結合することができる手段を含んでいるだろう。適切な標識には蛍光色素、化学発光化合物、色素及び酵素を含むタンパク質が含まれるが、これらに限定されるものではない。
「プライマー」は、短いポリヌクレオチドであり、一般的には標的とハイブリダイズすることにより興味の対象となるサンプル中に潜在的に存在する標的又は「鋳型」と結合し、標的に相補的なポリヌクレオチドの重合を促進する遊離の3’−OH末端を有する。「ポリメラーゼ連鎖反応」(PCR)とは、「上流」及び「下流」プライマーから構成される「プライマー対」又は「プライマーセット」及び重合触媒、例えばDNAポリメラーゼ、典型的には熱安定性ポリメラーゼ酵素を使用して標的ポリヌクレオチドから複製コピーを作成する反応である。PCR方法は当該技術分野において周知であり、例えば、"PCR: A PRACTICAL APPROACH" (M. MacPherson et al., IRL Press at Oxford University Press (1991))に教示されている。ポリヌクレオチドの複製コピーを生成する全ての方法、例えばPCR又は遺伝子クローニングは本明細書において「複製」として集団的に言及される。プライマーは、ハイブリダイゼーション反応、例えばサザンブロット又はノーザンブロット分析においてプローブとして使用することもできる。前出、Sambrook et al.を参照のこと。
「配列タグ」又は「SAGEタグ」は、短い配列、通常は約20ヌクレオチド以下の配列であり、メッセンジャーRNAの特定の部位に存在する。このタグを使用して、対応の転写物及びメッセンジャーRNAが転写される遺伝子を同定することができる。「ジタグ(ditag)」は2つの配列タグの二量体である。
表現「データベース」とは、配列のコレクション、次には生物関連材料のコレクションを表す蓄積データのセットを意味する。
用語「cDNA」とは、相補的DNAを意味し、例えば逆転写酵素などを用いて細胞又は生物中に存在するmRNA分子からcDNAを作成する。「cDNAライブラリー」は、細胞又は生物に存在する全てのmRNA分子のコレクションを、逆転写酵素を用いてcDNAにかえて、これを「ベクター」(外来DNAの追加後に複製を続けることができるその他のDNA分子)に挿入して作成したものである。例示的なライブラリー用ベクターには、バクテリオファージ(「ファージ」としても知られる)、細菌に感染するウイルス、例えばラムダファージが含まれる。このライブラリーを、興味の対象となる特定のcDNA(したがって、mRNA)について探索することができる。
【0010】
遺伝子に対して適用される「差動的に発現した」とは、その遺伝子から転写されるmRNAの異なる生成又はその遺伝子によりコードされるタンパク質の異なる生成を意味する。差動的に発現した遺伝子は、正常又は対照細胞の発現レベルと比較して過剰発現又は過小発現しているだろう。1つの側面においては、対照サンプルにおいて検出される発現レベルより2.5倍、好ましくは5倍より好ましくは10倍高いか又は低いことが差動的を意味する。更に用語「差動的に発現」とは、対照細胞では沈黙しているが、ある細胞又は組織では発現する、又は対照細胞では発現するが、ある細胞又は組織では発現しない、細胞又は組織中のヌクレオチド配列を意味する。
用語「アンチセンスRNA」又は「asRNA」とは、特定のmRNA配列に相補的なヌクレオチド配列を有するRNA分子を意味する。アンチセンスRNAは、当該技術分野において既知の方法、例えば興味の対象となる遺伝子を逆方向でウイルスプロモーターにスプライスして、コード鎖を転写することにより合成することができる(1つの適切なプロモーターについては、Armentano et al. (1987) J. Virol. 61:1647-1650を参照)。ベクターにより生成した単離asRNAを、次いで生物に導入することができる。ここでasRNAは天然のmRNAと組み合わさり二重鎖を形成し、これは更なる転写又は翻訳をブロックする。asRNAを細胞へ導入する方法には、Chiang et al. (1991) J. Biol. Chem. 266: 18162-18171に記載される無毒のカチオン性脂質が含まれるが、これに限定されるものではない。アンチセンス治療の概説は、C.A. Stein (1999) Nature Biotech. 17(3): 209に見いだすことができる。
本明細書で互換的に使用される「固相担体」又は「固体担体」は、特定のタイプの担体に限定されるものではない。むしろ多数の担体が利用可能であり、当業者に知られている。固相担体にはシリカゲル、樹脂、誘導化プラスチックフィルム、ガラスビーズ、綿、プラスチックビーズ、アルミナゲルが含まれる。本明細書で使用するとき、「固体担体」には、合成抗原提示マトリックス、細胞及びリポソームが含まれる。適切な固相担体は、所望の最終用途及び種々のプロトコルに対する適合性に基づいて選択されるだろう。例えば、ペプチド合成について、固相担体としては、ポリスチレン(例えば、Bachem Inc., Peninsula Laboratoriesなどから入手したPAM樹脂)、POLYHIPE(登録商標)(Aminotech, Canadaより入手)、ポリアミド樹脂(Peninsula Laboratorise)、ポリエチレングリコールをグラフトしたポリスチレン樹脂(TentaGel(登録商標), Rapp Polymere, Tubingen, Germary)又はポリジメチルアクリルアミド樹脂(Milligen/Biosearch, California)が挙げられる。
【0011】
高速スクリーニングアッセイにおける使用のために、ポリヌクレオチドを固体担体に結合することができる。例えば、PCT WO97/10365は、高密度オリゴヌクレオチドチップの構築を開示している。更に米国特許第5,405,783号、第5,412,087号及び第5,445,934号明細書も参照のこと。この方法を使用して、プローブを、チップアレイとしても知られる誘導体化ガラス表面上で合成する。光防護されたヌクレオシドホスホラミダイトをガラス表面にカップリングして、写真平板マスクを通した光分解により選択的に脱保護し、第2の保護されたヌクレオシドホスホラミダイトと反応させる。カップリング/脱保護工程を、所望のプローブが完成するまで繰り返す。
本明細書で使用するとき、「発現」とは、ポリヌクレオチドがmRNAに転写される工程及び/又は続いて転写されたmRNAがペプチド、ポリペプチド又はタンパク質へ翻訳される工程を意味する。ポリヌクレオチドがゲノムDNAに由来する場合、発現には真核細胞におけるmRNAのスプライシングが含まれるだろう。遺伝子に適用されるとき「過剰発現」とは、その遺伝子から転写されるmRNA又はその遺伝子によりコードされるタンパク質生成物が、対照サンプルにおいて検出される発現レベルの2.5倍、好ましくは5倍、より好ましくは10倍高く過剰発現することを意味する。
「ハイブリダイゼーション」とは、1つ以上のポリヌクレオチドが反応して、ヌクレオチドの塩基間の水素結合により安定化されている複合体を形成する反応を意味する。水素結合はワトソン−クリック型塩基対、フーグスティーン型塩基対又はその他の配列特異的方法により生じるだろう。複合体は、二重構造を形成する2つの鎖、多重鎖構造を形成する3つ以上の鎖、自己ハイブリダイズする一本鎖又はこれらの組合せを含んでいるだろう。ハイブリダイゼーション反応はより広範囲の方法、例えばPCR反応の開始又はリボザイムによるポリヌクレオチドの酵素的切断における工程を構成する。
ハイブリダイゼーション反応は、異なる「ストリンジェンシー(stringency)」の条件下で行うことができる。一般的に、低ストリンジェンシーハイブリダイゼーション反応は、10×SSC又は等価イオン強度/温度の溶液中、約40℃で行われる。中程度のストリンジェンシーハイブリダイゼーションは、6×SSC中、約50℃で典型的に行われ、高ストリンジェンシーハイブリダイゼーション反応は1×SSC中、約60℃で一般的に行われる。
【0012】
ハイブリダイゼーションが2つの一本鎖ポリヌクレオチド間の逆平行配置で起こるとき、その反応は「アニーリング」と呼ばれ、それらのポリヌクレオチドは「相補的」と記載される。ハイブリダイゼーションが第1のポリヌクレオチド及び第2のポリヌクレオチドの鎖の1つとの間で起こるとき、二本鎖ポリヌクレオチドは、別のポリヌクレオチドと「相補的」又は「相同的」であることができる。「相補性」又は「相同性」(あるポリヌクレオチドが別のポリヌクレオチドと相補的である程度)は、一般的に許容される塩基対形成ルールにしたがう互いに水素結合を形成することが期待される対立鎖における塩基対の割合により定量化することができる。
ポリヌクレオチド又はポリヌクレオチド領域(又はポリペプチド又はポリペプチド領域)は、別の配列に対して特定の%(例えば、80%、85%、90%又は95%)の「配列同一性」を有する。これは、それらを整列化するとき、その%の塩基(又はアミノ酸)が、2つの配列の比較において同一であることを意味する。この整列化及び相同性又は同一性の%は、当該技術分野において既知のソフトウェアプログラム、例えば、CURRENT PROTOCOLS IN MOLECULAR BIOLOGY (F.M. Ausubel et al., eds., 1987) Supplement 30, section 7.7.18, Table 7.7.1に記載されているものを使用して決定することができる。好ましくは、整列化にはデフォルトのパラメータを使用する。好ましい整列化プログラムは、でフェルトパラメータを使用したBLASTである。特に、好ましいプログラムは下記のパラメータ:Genetic code = standard; filter = none; strand = both; cutoff = 60; expect = 10; Matrix = BLOSUM62; Descriptions = 50 sequences; sort by = HIGH SCORE; Databases = non-redundant, GenBank + EMBL + DDBJ + PDB + GenBank CDS translations + SwissProtein + SPupdate + PIRを使用したBLASTN及びBLASTPである。これらのプログラムの詳細は、下記のインターネットアドレス:http://www.ncbi.nlm.nih.gov/cgi-bin/BLASTで見ることができる。
【0013】
本明細書で使用する用語「腫瘍性細胞」、「腫瘍形成(neoplasia)」、「腫瘍」、「腫瘍細胞」、「癌」及び「癌細胞」(互換的に使用される)は、相対的に自律的増殖性を示す細胞を意味し、そのため細胞増殖の制御を有意に喪失することにより特徴付けられる異常な増殖表現型を示す。腫瘍性細胞は悪性又は良性であることができる。転移性細胞又は組織とは、細胞が隣接する体構造に浸潤及び破壊することができることを意味する。
腫瘍の増殖を「抑制する」とは、本明細書に記載する感作された抗原特異的免疫エフェクター細胞との接触がない増殖と比較して縮小された増殖状態を意味する。腫瘍細胞の増殖は当該技術分野において既知の方法により評価することができ、これには腫瘍の大きさを測定すること、3Hチミジン取り込みアッセイを使用した腫瘍細胞が増殖しているかどうかの決定、又は腫瘍細胞の計数が含まれるがこれらに限定されるものではない。腫瘍細胞を「抑制する」とは、以下の状態:腫瘍増殖の減速、遅延及び停止並びに腫瘍の収縮のいずれか又は全部を意味する。
過形成(hyperplasia)とは、構造又は機能の有意な変化なしに組織又は器官で細胞数が増加することを含む制御された細胞増殖の形態である。化生(metaplasia)は、あるタイプの完全に分化した細胞が別のタイプの分化細胞に置き換えられる制御された細胞増殖の形態である。化生は上皮又は結合組織細胞において起こる。典型的な化生には、やや無秩序な化生上皮が含まれる。
「組成物」とは、活性な薬剤と別の不活性(例えば検出薬又は標識)又は活性な化合物又は組成物、例えばアジュバントとの組み合わせを意味することを意図する。
「医薬組成物」とは、in vitro、in vivo又はex vivoにおける診断又は治療用途に適切な組成物を作成する不活性又は活性な担体と活性薬剤との組み合わせを含むことを意図する。
本明細書で使用する用語「薬学的に許容しうる担体」には、すべての標準的な医薬担体、例えばリン酸緩衝食塩水、水及びエマルジョン、例えば油/水又は水/油エマルジョン及び種々のタイプの湿潤剤などが含まれる。医薬組成物はさらに安定化剤及び保存剤を含むことができる。担体、安定化剤及びアジュバントの例は、Martin, REMINGTON'S PHARM. SCI., 15th Ed. (Mack Publ. Co., Easton (1975)を参照のこと。
【0014】
「有効量」とは、有益な又は所望の結果を奏するのに十分な量のことである。
有効量を1回以上の投与、適用又は投与量で投与することができる。
「対象」、「個体」又は「患者」は本明細書において互換的に使用され、脊椎動物、好ましくは哺乳類、より好ましくはヒトを意味する。哺乳類には、マウス、サル、ヒト、家畜動物、変種動物(sport animals)及びペットが含まれるが、これらに限定されるものではない。
「対照(コントロール)」とは、比較目的の実験で使用される代替の対象又はサンプルのことである。対照は「ポジティブ」又は「ネガティブ」であることができる。例えば、実験の目的が、癌原遺伝子の変化した発現レベルと特定のタイプの癌との相関関係を決定することである場合、ポジティブコントロール(そのような変化を有し、その疾患に特徴的な病理現象を示す対象又は対象由来のサンプル)及びネガティブコントロール(変化した発現及びその疾患の臨床学的病理現象を有しない対象又は対象由来のサンプル)を使用することが一般的に好ましい。
前記の通り、本発明は、例えば悪性腫瘍、過形成又は化生の形態の異常細胞増殖により特徴づけられる肺細胞の腫瘍状態の診断を補助する種々の方法を提供する。細胞の腫瘍状態は、通常、細胞増殖が正常な増殖の通常の制限によって支配されていないかどうかに注目することにより決定される。本発明の目的に対して、用語「細胞の腫瘍状態」は、腫瘍形態の増殖を検出する前に起こる遺伝子型の変化及びこれらの表現形の変化の原因となる遺伝子型の変化も含んでいる。細胞の腫瘍状態と関連する表現形の変化(in vivoにおける腫瘍形成能と関連するin vitro特性のセット)には、より円形の細胞形態、緩い基層接着、接触阻害の喪失、足場依存性の喪失、プラスミノーゲンアクチベーターなどのプロテアーゼの遊離、糖輸送の増加、血清要求性の減少、胎児抗原(fetal antigen)の発現などが含まれる(Luria et al. (1978) GENERAL VIROLOGY, 3rd edition, 436-446 (John Wiley & Sons, New York)を参照のこと)。
【0015】
本発明の細胞は、癌原遺伝子8−オキソ−dGTPアーゼ、b−myb、p67又はPGP9.5からなる群より選ばれる癌原遺伝子の過剰発現により特徴づけられる。1つの態様において、過剰発現は、テスト系における遺伝子の発現及び対照におけるその発現が存在しないことをアッセイすることにより決定される。1つの態様で過剰発現は、癌原遺伝子のmRNAレベルにおける2.5倍、好ましくは5倍、より好ましくは10倍の増加によって決定される。別の態様において、癌原遺伝子によりコードされるポリペプチド又はタンパク質のレベルの増加は、細胞の腫瘍状態の存在を示す。本発明の方法は、原発性肺腫瘍細胞に特徴的な表現形と関連する遺伝子型を検出することにより、非小細胞肺癌などの肺癌の診断における補助を提供することができる。したがって、腫瘍の増殖の前にこの遺伝子型を検出することにより、癌に対する素因を予測すること又は早期の診断を提供することができる。
本発明に使用する細胞又は組織サンプルには、体液、固形腫瘍サンプル、組織培養物又はそれらに由来する細胞及び子孫、これらの供給源から調製した切片又はスメア、又は癌原遺伝子b−myb、8−オキソ−dGTPアーゼ、p67又はPGP9.5又はこれらの遺伝子産物を有する肺細胞を含むその他すべてのサンプルが含まれる。好ましいサンプルは、対象の肺組織から調製したものである。
mRNAレベルの変化のアッセイにおいては、最初に前記のサンプルに含まれる核酸を当該技術分野における標準的方法にしたがい抽出する。例えば、前出Sambrook et al.(1989)に記載の手順にしたがい種々の溶菌酵素又は化学溶液を使用して単離するか、又は核酸結合樹脂を製造者により提供される添付説明書にしたがい使用して抽出することができる。次に抽出した核酸サンプルに含まれる興味の対象となる癌原遺伝子のmRNAを、当該技術分野において周知の方法にしたがうか又は本明細書に例示した方法に基づきハイブリダイゼーション(例えば、ノーザンブロット分析)及び/又は増幅手順により検出する。
【0016】
少なくとも10ヌクレオチドを有し、かつ本明細書に記載する癌原遺伝子に対して相補性又は相同性を示す核酸分子は、ハイブリダイゼーション用プローブとしての有用性を見いだす。「完全にマッチした」プローブは特定のハイブリダイゼーションには必要とされないことは、当該技術分野において既知である。小数の塩基の置換、削除又は挿入により達成されるプローブ配列中のわずかな変化は、ハイブリダイゼーションの特異性に影響しない。一般的に、20%程の塩基対のミスマッチ(最適配列化したとき)を許容することができる。好ましくは前記癌原遺伝子mRNAの検出に有用なプローブは、以前に同定され、表2(下記)にて同定されるGenBank受託番号を有する配列に含まれる比較可能な大きさの相同領域と少なくとも約80%同一である。より好ましくは、プローブは、相同領域の整列化後において対応の遺伝子配列と85%、より好ましくは90%同一である。詳細には、b−mybに対する好ましいプローブは、TGCTGCCCTG(配列番号1)であり、PGP9.5に対する好ましいプローブは、CAGTCTAAAA(配列番号2)であり、8−OXO−dGTPアーゼに対する好ましいプローブは、TGGCCCGACG(配列番号3)であり、p67に対する好ましいプローブは、TAATACTTTT(配列番号4)であり、これらの各相補物も好ましい。追加のプローブは、表2に示されるGenBank受託番号により同定される遺伝子の配列、又は以前に同定された表2に示されるGenBank受託番号を有する配列に含まれる比較可能な大きさの相同領域に相同な配列に由来することができる。これらのプローブをラジオアッセイに使用して、PGP9.5、p67、8−オキソ−dGTPアーゼ又はb−myb遺伝子の過剰発現により起こる種々の腫瘍状態を検出、予測、診断又はモニターすることができる。断片の全体の大きさ及び相補的ストレッチ(stretch)の大きさは、特定の核酸セグメントの意図する用途又は適用に依存するだろう。既知の配列に由来する小さい断片は、ハイブリダイゼーションの態様における使用を一般的に見いだすだろう。この場合、相補的領域の長さは約10〜約100ヌクレオチドの間で変化してもよく、又は検出することを望む相補的配列の完全長であってもよい。
【0017】
約10ヌクレオチドよりも大きいストレッチをこえる相補的領域を有する核酸プローブが、ハイブリッドの安定性及び選択性を増加させるために一般的に好ましく、これにより得られる特定のハイブリッド分子の特異性が改善する。より好ましくは、約25ヌクレオチドよりも大きい、より好ましくは約50ヌクレオチドよりも大きい、所望により更に大きい遺伝子相補的ストレッチを有する核酸分子を設計することができる。そのような断片は、例えば化学的方法による断片の直接的合成、核酸複製技術、例えば米国特許第4,603,102号明細書に記載の2つのプライミングオリゴヌクレオチドを用いたPCR(登録商標)技術などの適用、又は選択した配列の組換え生成用組換えベクターへの導入により容易に作成することができるだろう。好ましいプローブは約50〜約75、より好ましくは約50〜約100ヌクレオチドの長さである。
特定の態様においては、本発明の核酸配列を適切な手段、例えばハイブリダイゼーション、その後の相補的配列を検出するための標識と組み合わせて使用することが有利であろう。種々の適切な表示手段が当該技術分野において既知であり、これには蛍光性、放射性、酵素性又はその他のリガンド、例えばアビジン/ビオチン(これらは検出可能なシグナルを与えることができる)が含まれる。好ましい態様においては、放射性又はその他の環境的に好ましくない試薬の代わりに蛍光標識又は酵素タグ、例えばウレアーゼ、アルカリホスファターゼ又はペルオキシダーゼを使用することを望むだろう。酵素タグの場合、肉眼又は分光学的に見ることができる手段を提供し、相補的核酸を含むサンプルとの特異的ハイブリダイゼーションを同定するために使用することができる比色指示基質が知られている。
ハイブリダイゼーション反応は、異なる「ストリンジェンシー」条件下で行うことができる。関連する条件には、温度、イオン強度、インキュベーション時間、反応混合物中の追加の溶質、例えばホルムアミドの存在及び洗浄手順が含まれる。高いストリンジェンシー条件とは、例えば高温及び低ナトリウムイオン濃度などであり、安定なハイブリダイゼーション複合体を形成するためにハイブリダイズ要素間の高い最小相補性を要求する。ハイブリダイゼーション反応のストリンジェンシーを増加させる条件は周知であり、当該技術分野において頒布されている。例えば、前出Sambrook et al., (1989)を参照のこと。
【0018】
要約すると、複数のRNAを前記のようにして細胞又は組織サンプルから単離する。適宜、遺伝子転写物をcDNAに変換する。遺伝子転写物のサンプルを配列特異的分析に付して、定量化する。これら遺伝子転写配列の量を、疾患を有する患者及び健康な患者についての正常なデータセットを含む基準データベース配列の量と比較する。患者は、本明細書で同定された転写物の過剰発現を含むその患者のデータセットが最も密接に相関する疾患を有する。
本発明のプローブを、特定の体組織で差動的に発現した遺伝子又は遺伝子産物の検出用のプライマーとして使用することもできる。b−mybに対する好ましいプライマーは、TGCTGCCCTG(配列番号1)であり、PGP9.5に対する好ましいプライマーは、CAGTCTAAAA(配列番号2)であり、8−OXO−dGTPアーゼに対する好ましいプライマーは、TGGCCCGACG(配列番号3)であり、p67に対する好ましいプライマーは、TAATACTTTT(配列番号4)であり、これらの配列の各相補物も好ましいプライマーである。更に、前記癌原遺伝子mRNAの検出に有用なプライマーは、以前に同定され、表2(下記)にて同定されるGenBank受託番号を有する配列に含まれる比較可能な大きさの相同領域と少なくとも約80%同一である。本発明の目的に対して、増幅とは、適切な忠実度で標的配列を複製することができるプライマー依存性ポリメラーゼを使用するすべての方法を意味する。増幅は、天然又は組換えDNAポリメラーゼ、例えばT7 DNAポリメラーゼ、E.coli DNAポリメラーゼのクレノウ断片及び逆転写酵素により行うことができるだろう。
好ましい増幅方法はPCRである。PCRについての一般的手順は、MacPherson et al., PCR: A PRACTICAL APPROACH, (IRL Press at Oxford University Press) (1991))に教示されている。しかしながら、各増幅反応に使用するPCR条件は経験的に決定される。パラメータの数は反応の成功に影響する。パラメータの中には、アニーリング温度及び時間、伸張時間、Mg2+ATP濃度、pH並びにプライマー、鋳型及びデオキシリボヌクレオチドの相対濃度がある。
増幅後、得られたDNA断片は、アガロースゲル電気泳動、続く臭化エチジウム染色及び紫外線照射により検出することができる。癌原遺伝子、例えばGPG9.5、p67、8−オキソ−dGTPアーゼ又はb−mybなどの特定の増幅は、増幅したDNA断片が予測される大きさを有し、予測される制限消化パターンを示し、及び/又は正確にクローニングされたDNA配列とハイブリダイズすることを実証することにより証明することができる。
【0019】
高処理スクリーニングにおける使用のために、当該技術分野において既知の方法を使用してプローブを固体担体へ結合することができる。例えばPCT WO97/10365並びに米国特許第5,405,783号、第5,412,087号及び第5,445,934号は、本明細書に開示される1つ以上の配列を含む高密度オリゴヌクレオチドチップの構築を開示している。米国特許第5,405,783号、第5,412,087号及び第5,445,934号に開示される方法を使用して、本発明のプローブを誘導体化ガラス上で合成することができる。光防護されたヌクレオシドホスホラミダイトをガラス表面にカップリングして、写真平板マスクを通した光分解により選択的に脱保護し、第2の保護されたヌクレオシドホスホラミダイトと反応させる。カップリング/脱保護工程を、所望のプローブが完成するまで繰り返す。
癌原遺伝子の発現レベルは、核酸サンプルをプローブ修飾したチップへ曝露することにより決定する。抽出した核酸を例えば蛍光タグで、好ましくは増幅工程の間に標識する。標識サンプルのハイブリダイゼーションは適切なストリンジェンシーレベルで行う。プローブ−核酸ハイブリダイゼーションの程度を、検出装置、例えば共焦点顕微鏡などを使用して定量的に測定する。例えば米国特許第5,578,832号及び第5,631,734号を参照のこと。得られた測定結果を癌原遺伝子レベルと直接的に相関させる。
より詳細には、プローブ及び高密度オリゴヌクレオチドプローブアレイは、多重の遺伝子の発現のモニターする効率的な手段を提供する。本発明の発現モニター方法は、疾患の検出、2つのサンプル間の異なる遺伝子発現の同定又は特定の遺伝子の発現をアップレギュレート又はダウンレギュレートする組成物のスクリーニングを含む広範囲の環境において使用されるだろう。
別の好ましい態様においては、本発明の方法を使用して、定義された刺激、例えば薬剤に応答して本発明のプローブと特異的にハイブリダイズする遺伝子の発現をモニターする。
【0020】
1つの態様においては、ハイブリダイズした核酸を、サンプル核酸に結合した1つ以上の標識を検出することにより検出する。標識は、当業者に周知の多数の方法のすべてにより取り込まれることができる。しかしながら、1つの側面において、標識は、サンプル核酸の調製において増幅工程の間に同時に取り込まれる。したがって、例えば標識プライマー又は標識ヌクレオチドを用いたポリメラーゼ連鎖反応(PCR)は、標識された増幅生成物を提供するだろう。別の態様においては、前記のように標識ヌクレオチド(例えば、フルオレセイン標識UTP及び/又はCTP)を使用した転写増幅が、標識を転写された核酸へ取り込む。
代替として、標識を元の核酸サンプル(例えば、mRNA、ポリA、mRNA、cDNAなど)へ直接添加する、又は増幅が完了した後の増幅生成物に添加してもよい。標識を核酸へ結合する方法は当業者に周知であり、例えばニックトランスレーション、又は核酸のカイネーシング(kinasing)、続くサンプル核酸を結合する核酸リンカーの標識(例えば、フルオロホア(fluorophore))への接着(連結)によるエンドラベリング(end-labeling)(例えば、標識RNAを用いる)が含まれる。
本発明における使用に適切な検出可能な標識には、分光的、光化学的、生化学的、免疫化学的、電気的、光学的又は化学的手段により検出可能なすべての構成物が含まれる。本発明において有用な標識には、標識ストレプトアビジンコンジュゲートを用いた染色用のビオチン、磁性ビーズ(例えば、Dynabeads(登録商標))、蛍光色素(例えば、フルオレセイン、テキサスレッド、ローダミン、緑色蛍光タンパク質など)、放射性標識(例えば、3H、125I、35S、14C又は32P)、酵素(例えば、ワサビペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ及びその他ELISAに一般的に使用する酵素)及び比色標識、例えばコロイド状金又は有色ガラス又はプラスチック(例えば、ポリスチレン、ポリプロピレン、ラテックスなど)ビーズが含まれる。これらの標識の使用を教示している特許には、米国特許第3,817,837号、第3,850,752号、第3,839,350号、第3,996,345号、第4,227,437号、第4,275,149号及び第4,336,241号が含まれる。
【0021】
前記の標識の検出手段は当業者に周知である。したがって、例えば放射性標識は写真用フィルム又はシンチレーションカウンターを使用して検出され、蛍光マーカーは放射光を検出する光センサーを使用して検出されるだろう。酵素標識は典型的には、酵素に基質を提供し、酵素の基質への作用により生成した反応生成物を検出することにより検出され、比色標識は有色ラベルを単純に可視化することにより検出される。
WO97/10365に詳細に記載されるように、ハイブリダイゼーションの前後に、標識を標的(サンプル)核酸に添加してもよい。ハイブリダイゼーションの前に標的(サンプル)核酸に直接接着又は取り込まれる検出可能な標識が存在する。しばしば、間接標識を、ハイブリダイゼーション前に標的核酸に接着された結合部分へ接着する。したがって、例えば、標的核酸をハイブリダイゼーションの前にビオチン化してもよい。ハイブリダイゼーション後に、アビジンをコンジュゲートしたフルオロホアを、ビオチンを有するハイブリッド二重鎖に結合させ、容易に検出される標識を提供する。核酸の標識方法及びハイブリダイズした核酸の検出方法の詳細な概説は、LABORATORY TECHNIQUES IN BIOCHEMISTRY AND MOLECULAR BIOLOGY, Vol.24: Hybridization with Nucleic Acid Probes, P. Tijssen, ed. Elsevier, N.Y. (1993)を参照のこと。
核酸サンプルを高密度プローブアレイへのハイブリダイゼーションの前に更に修飾して、サンプルの複雑性を低下させ、バックグラウンドシグナルを減少させ、WO97/10365に開示される方法を使用した測定の感度を増加させてもよい。
チップアッセイの結果は、通常コンピュータソフトウェアプログラムを使用して分析する。例えば、EP 0717 113 A2及びWO95/20681を参照のこと。ハイブリダイゼーションデータをプログラムに読み込み、標的遺伝子の発現レベルを計算する。このデータを、疾患を患う個体及び健康な個体についての遺伝子発現レベルの既知のデータセットと比較する。得られたデータと疾患を患う個体のデータセットとの間の相関関係は、対象患者における疾患の発症を示している。
【0022】
また、配列番号1〜4で同定される配列又は表2に同定される配列の一部の1つ以上を含む腫瘍性肺組織の検出に有用なデータベースは、本発明の範囲内にある。
これらのポリヌクレオチド配列は、肺癌細胞を同定する遺伝子を標準化表示(standardized representaion)するためのデータ処理システムをコンパイルするためにデジタルストレージ媒体に蓄積する。データ処理システムは、腫瘍性表現型又は遺伝子型が疑われる細胞を最初に選択し、次にその細胞からポリヌクレオチドを単離することによる2つの細胞間の遺伝子発現を分析するのに有用である。単離したポリヌクレオチドを配列決定する。サンプル由来の配列を、前記のホモロジー検索技術を使用して、データベースに存在する配列と比較する。試験配列と配列番号1〜4で同定される配列又はそれの相補物の1つ以上の配列との間における90%をこえる、より好ましくは95%をこえる、特に好ましくは97%以上の配列相同性は、前記で定義されるようにポリヌクレオチドが肺癌細胞から単離されたという陽性の表示である。
癌原遺伝子PGP9.5、p67、8−オキソ−dGTPアーゼ及びb−myb遺伝子は、タンパク質生成物を調査することにより決定することができる。タンパク質レベルの決定は、(a)ポリペプチドを含む生物サンプルを提供する工程、(b)PGP9.5、p67、8−オキソ−dGTPアーゼ又はb−mybタンパク質に反応性の抗体とサンプル中の成分との間に起こるすべての免疫特異的結合物の量を測定する工程であって、免疫特異的結合物の量が癌原遺伝子タンパク質のレベルを示している工程を含んでいる。
これらの癌原遺伝子のタンパク質生成物を特異的に認識して結合する抗体が、イムノアッセイに必要である。これらは商業的ベンダーから購入するか、又は当該技術分野において周知の方法を使用して生成するか又はスクリーニングしてもよい。前出 Harlow and Lane (1988)及び前出 Sambrook et al.(1989)を参照のこと。
タンパク質分析のための種々の技術が当該技術分野で利用可能である。これらの技術には、ラジオイムノアッセイ、ELISA(酵素結合免疫放射線アッセイ)、「サンドイッチ型」イムノアッセイ、免疫放射線アッセイ、in situ イムノアッセイ(例えば、コロイド状金、酵素又はラジオアイソトープ標識)、ウエスタンブロット分析、免疫沈降アッセイ、免疫蛍光アッセイ及びPAGE−SDSが含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0023】
癌原遺伝子の差動的発現により特徴づけられる悪性腫瘍、過形成又は化生の診断において、典型的には、対象と適切な対照との比較的分析を行う。好ましくは診断テストは、癌原遺伝子の発現の検出可能な増加、好ましくは2.5倍の増加及び、興味の対象となる悪性腫瘍又は化生の臨床的特徴を示す対象由来の対照サンプル(以後、「ポジティブコントロール」と称する)を含んでいる。より好ましくは、診断は、腫瘍状態の臨床的特徴を欠き、問題の遺伝子の発現レベルが正常範囲内にある対象由来の対照サンプル(以後、「ネガティブコントロール」をと称する)を更に含んでいる。定義された変化に関する対象とポジティブコントロールとの間の正の相関関係は、疾患の存在又は素因を示している。対象とネガティブコントロールとの間の相関関係の欠如は、診断を確認する。好ましい態様において、本発明の方法は、PGP9.5、8−オキソ−dGTPアーゼ又はb−mybのmRNAレベル又はタンパク質レベルの増加に基づいて肺癌、好ましくは非小細胞肺癌を診断するために使用される。
細胞サンプルからmRNA又はタンパク質レベルを定量化するための種々の方法が当該技術分野において利用可能であり、実際、これらのレベルを定量化することができるすべての方法は本発明に含まれる。例えば、前記癌原遺伝子のmRNAレベルの決定は、1つの側面において、mRNAに相補的な少なくとも1つのオリゴヌクレオチドプローブを使用したハイブリダイゼーション又は定量的増幅による、肺細胞から単離したmRNAサンプル中のmRNAの量を測定する工程を含んでいるだろう。前記癌原遺伝子産物の決定は、癌原遺伝子の遺伝子産物に反応性の抗体の間で起こる免疫特異的結合物の量を測定する工程を要求する。
ハイブリダイゼーション又は増幅手順の間に生成した免疫特異的結合物又はシグナルを検出及び定量化するために、デジタルイメージ分析システム(プローブの放射能又は化学発光を検出するシステムを含むが、これに限定されるものではない)を使用することができる。
更に本発明は、細胞の腫瘍状態を逆転する又は前記細胞の成長又は増殖を選択的に阻害する種々の薬剤及び方法のスクリーニングを提供する。1つの側面において、スクリーニングは、癌原遺伝子の過剰発現により特徴づけられる悪性腫瘍、過形成又は化生の治療に有用な薬剤をアッセイする。
【0024】
したがって、in vitroで方法を実施するために、適切な細胞培養又は組織培養を最初に提供する。細胞は、腫瘍性肺細胞と関連する癌原遺伝子、例えばb−myb、p67、8−オキソ−dGTPアーゼ又はPGP9.5を過剰発現する培養細胞又は遺伝子修飾した細胞であることができる。代替として、細胞を組織の生検に由来することができる。細胞を、条件(温度、増殖又は培養培地及びガス(CO2))下、密度依存的制約なしに指数関数的増殖を得るのに適切な時間で培養する。試験する薬剤を投与しない対照としての追加の別の細胞培養を維持することも望ましい。
当業者に理解されるように、適切な細胞はマイクロタイタープレートで培養し、いくつかの薬剤を遺伝子型の変化、表現型の変化及び/又は細胞死に注目することにより同時にアッセイしてもよい。
薬剤がDNA、RNA核酸分子以外の成分であるとき、細胞培養に直接添加する、又は追加のために培養培地に添加することにより適切な条件になるだろう。
ある側面においては、アッセイの前に癌原遺伝子の発現レベルを決定する必要があるだろう。これは、薬剤を細胞培養に投与した後に発現を比較するためのベースラインを提供する。別の態様においては、試験細胞は、癌原遺伝子を恒常的に過剰発現する確立された細胞系に由来する培養細胞である。これらの細胞系の例には、下記に同定される細胞系が含まれるが、これらに限定されるものではない。癌原遺伝子が正常又は非腫瘍状態の細胞に存在するレベルに減少する、細胞が選択的に死滅する又は細胞が増殖速度の低下を示す場合、その薬剤は潜在的治療薬である。
本発明の目的に対して、「薬剤」には、生物学的又は化学的化合物、例えば単純又は複雑な、有機又は無機の、分子、ペプチド、タンパク質又はオリゴヌクレオチドが含まれることを意図するが、これらに限定されるものではない。例えばオリゴマー、例えばオリゴペプチド及びオリゴヌクレオチド並びに種々のコア構造に基づく合成有機化合物などの化合物からなる巨大なアレイを合成することができ、これらは用語「薬剤」に含まれる。更に、種々の天然供給源、例えば植物又は動物抽出物などはスクリーニング用の化合物を提供することができる。薬剤は単独で使用すること、又は発明のスクリーニングにより同定される薬剤と同一または異なる生物活性を有する別の薬剤との組み合わせで使用されることを常に明記しないけれども、これは当業者に理解されるだろう。本発明の薬剤及び方法は、その他の治療法と組み合わせられることも意図される。
【0025】
本明細書で使用する用語「細胞の腫瘍状態の逆転」とは、アポトーシス、ネクローシス又はその他すべての細胞分裂防止手段、腫瘍形成能の低下、薬剤耐性の喪失、成熟、本明細書に記載する腫瘍性表現型の分化又は逆転を含むことが意図される。前記のように、腫瘍状態を起こす癌原遺伝子の過剰発現を有する肺細胞は、本発明により適切に処理される。これらの細胞は、癌原遺伝子の過剰発現の同定を許容する当該技術分野で既知のすべての方法により同定することができる。その方法の1つを下記に例示する。
薬剤が核酸であるとき、当該技術分野において周知の方法により細胞培養に添加することができる。これらの方法には、リン酸カルシウム沈殿、マイクロインジェクション又はエレクトロポレーションが含まれるが、これらに限定されるものではない。代替又は追加として、核酸を、細胞への組み込み用の発現又は挿入ベクターへ組み込むことができる。プロモーター及びポリヌクレオチドが操作可能に結合されることができるクローニング部位を含むベクターは、当該技術分野において周知である。そのようなベクターは in vitro又は in vivoでRNAを転写することができ、供給源、例えばStratagene(La Jolla, CA)及びPromega Biotech(Madison, WI)より商業的に入手可能である。発現及び/又はin vitro転写を最適化するためには、クローンの5’及び/又は3’未翻訳領域を除去、付加又は改変して、余分の潜在的に不適切な代替の翻訳開始コドン又は転写もしくは翻訳レベルで発現を妨害又は低下させるその他の配列を除去することが必要であろう。代替として、コンセンサスリボソーム結合部位を開始コドンの5’近くに挿入して、発現を増強することができる。ベクターの例は、ウイルス、例えばバキュロウイルス及びレトロウイルス、バクテリオファージ、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、コスミド、プラスミド、真菌ベクター及び当該技術分野において典型的に使用されるその他の組換えビヒクルであり、これらは種々の真核生物及び原核生物宿主における発現が報告されており、遺伝子治療及び単純なタンパク質発現に使用されるだろう。
非ウイルスベクターには、DNA/リポソーム複合体及び標的化ウイルスタンパク質DNA複合体が含まれる。細胞への送達を増強するために、本発明の核酸又はタンパク質を、細胞表面抗原に結合する抗体又はその結合性断片にコンジュゲートすることができる。ターゲティング抗体又はその断片を含むリポソームも、本発明の方法に使用することができる。更に本発明は、本明細書に開示される方法に使用するターゲティング複合体を提供する。
【0026】
当該技術分野において周知の方法を使用して、ポリヌクレオチドをベクターのゲノムへ挿入する。例えば、挿入及びベクターDNAを、適切な条件下、制限酵素と接触させて、互いに対形成することができる相補的末端を作成して、リガーゼで互いを結合することができる。代替として、合成核酸リンカーを制限ポリヌクレオチドの末端に結合することができる。これらの合成リンカーは、ベクターDNAの特定の制限部位に対応する核酸配列を含んでいる。更に、停止コドン及び適切な制限部位を含むオリゴヌクレオチドを、下記の遺伝子:選択可能なマーカー遺伝子、例えば哺乳類細胞における安定な又は一時的な形質移入体の選択のためのネオマイシン遺伝子、高レベル転写のためのヒトCMVの即時型遺伝子に由来するエンハンサー/プロモーター配列、mRNAの安定化のためのSV40由来の転写停止及びRNAプロセシングシグナル、適切なエピソーム複製のための複製のSV40ポリオーマオリジン及びColE1、多用途多重クローニング部位、センス及びアンチセンスRNAのin vitro転写のためのT7及びSP6 RNAプロモーターのいくつか又はすべてを含むベクターへの挿入のために結合することができる。その他の方法は当該技術分野において周知であり、利用可能である。
本発明の目的、すなわち細胞の腫瘍状態の逆転が達成されたかどうかを、細胞分裂の減少、細胞分化又は癌原遺伝子の過剰発現の低下をアッセイすることにより決定することができる。細胞分化は、組織学的方法、又は未分化表現型と関連する細胞表面マーカー、例えば霊長類(primative)の造血幹細胞上のCD34の存在又は不在をモニターすることによりモニターすることができる。
薬剤並びに本明細書に記載するスクリーニング及びin vitro方法を実施するために必要な説明書を含むキットも請求の範囲に含まれる。
対象が動物、例えばラット又はマウスであるとき、本発明の方法は、治療薬の臨床試験の前に使用することができる便利な動物モデル系を提供する。この系においては、癌原遺伝子の発現が、病的細胞を有する未処理動物と比較して、腫瘍性肺細胞が減少するか、又は癌原遺伝子の過剰発現を含む細胞の存在に関連又は相関する症状が回復する場合、候補薬剤は潜在的な薬剤である。更に健康であり治療されていない細胞又は動物からなる別のネガティブコントロール群を有することは有用であることができる。このネガティブコントロール群は比較の基礎を提供する。
【0027】
本発明の薬剤及び前記の化合物並びにこれらの誘導体は、本明細書に記載する方法における使用のための薬物の製造に有用であろう。
好ましい態様において、本発明の薬剤を投与して、肺癌を治療する。特に好ましい態様においては、本発明の薬剤を投与して、非小細胞肺癌を治療する。本発明の治療方法を使用して、腫瘍発生前状態又は非悪性状態から腫瘍状態又は悪性状態への進行を阻止することができる。
種々の送達システムが既知であり、これらを使用して本発明の治療薬、例えばリポソーム封入、微粒子、マイクロカプセル、組換え細胞による発現、受容体媒介エンドサイトーシス(例えば、Wu and Wu, (1987), J. Biol. Chem. 262: 4429-4432)、レトロウイルス又はその他のベクターの一部としての治療用核酸などを投与することができる。送達方法には、動脈内、筋肉内、静脈内、鼻腔内及び経口経路が含まれるが、これらに限定されるものではない。特定の態様においては、本発明の医薬組成物を治療の必要に応じて特定の領域に局所的に投与することが望ましいだろう。これは、例えば手術中の局所注入、注射、カテーテルにより達成されるが、これらに限定されるものではない。
企図する目的に有効なものとして本明細書で同定される薬剤は、癌原遺伝子の過剰発現と関連する疾患が発達している疑いのある、又はその危険性のある対象又は個体に投与することができる。薬剤を対象、例えばマウス、ラット又はヒト患者に投与するときは、薬剤を薬学的に許容しうる担体に添加し、全身的又は局所的に対象へ投与することができる。有利に治療することができる患者を決定するために、腫瘍サンプルを患者から採取し、癌原遺伝子の過剰発現について細胞をアッセイする。治療量は経験的に決定することができ、これは治療する病状、治療する対象並びに薬剤の効力及び毒性により変化するだろう。動物に送達するとき、本発明の方法は薬剤の効力を更に確認するのに有用である。動物モデルの例としては、ヌードマウス(Balb/c NCR nu/nu 雌、Simonsen, Gilroy, CA)群のそれぞれに、約105〜約109の過剰増殖性の癌又は本明細書で定義される標的細胞を皮下接種する。腫瘍が確立されたときは、例えば腫瘍の周りに皮下注射することにより薬剤を投与する。腫瘍の大きさが小さくなったことを決定するための腫瘍の測定は、ベニアカリパー(venier caliper)を使用して、1週間に2回、二次元で行う。その他の動物モデルを適宜使用してもよい。
【0028】
In vivo投与は、治療の過程中、1回、連続的又は断続的に行うことができる。最も効果的な方法及び投与量を決定する方法は当業者に周知であり、これらは治療に使用する組成物、治療目的、治療する標的細胞及び治療する対象により変化するだろう。治療を行う医師により選択される投与量レベル及びパターンを用いて、単一又は複数投与を行うことができる。適切な投与量の製剤及び薬剤の投与方法は下記に見いだすことができる。
本発明の薬剤及び組成物を、医薬の製造並びに従来の手順、例えば医薬組成物中の活性成分にしたがう投与によりヒト及びその他の動物の治療に使用することができる。
医薬組成物は、経口、鼻腔内、非経口又は吸入治療により投与することができ、錠剤、トローチ剤、顆粒剤、カプセル剤、丸剤、アンプル剤、坐剤又はエアロゾル形態をとることができるだろう。医薬組成物は、水性又は非水性の希釈剤、シロップ、顆粒又は粉末中の活性成分からなる懸濁液、溶液及びエマルジョンの形態をとってもよい。本発明の薬剤に加えて、医薬組成物は更にその他の薬学的に活性な化合物又は複数の本発明の化合物を含むことができる。
より詳細には、本発明の薬剤(本明細書においては活性成分と称することがある)は、治療のために、経口、直腸、局所(経皮、エアロゾル、口腔内及び舌下を含む)、膣内、非経口(皮下、筋肉内、静脈内及び皮内を含む)及び肺内経路を含むすべての適切な経路により投与されるだろう。好ましい経路は、レシピエントの状態、年齢並びに致傷する疾患により変化することは理解されるだろう。
理想的には、疾患部位における活性化合物のピーク濃度を達成するように、薬剤を投与すべきである。これは、例えば薬剤(適宜塩水中)の静脈内投与、又は例えば活性成分を含む錠剤、カプセル又はシロップの経口投与により達成されるだろう。薬剤の望ましい血中レベルを連続的注入により維持して、患部組織内の活性成分の治療量を提供してもよい。有効な組み合わせの使用は、各成分である抗ウイルス剤の総投薬量がそれぞれの個々の治療化合物又は薬剤を単独で使用するときに要求される量よりも低い治療用組み合わせを提供し、これにより副作用を低下させることを意図する。
【0029】
薬剤を単独で投与することが可能であるが、前記で定義した少なくとも1つの活性成分を、1つ以上の薬学的に許容しうる担体及び適宜その他の治療剤と共に含む医薬製剤として存在するのが好ましい。各担体は、製剤中の他の成分と適合可能であるという意味で「許容しうる」もの、かつ患者に対して有害でないものでなければならない。
製剤には、経口、直腸、経鼻、局所(経皮、口腔内及び舌下を含む)、腟内、非経口(皮下、筋肉内、静脈内、皮内を含む)及び肺内投与に適切なものが含まれる。製剤は、都合よく単位投与形態で提供され、かつ薬学における当業者に周知のすべての方法により製造されるだろう。そのような方法には、活性成分と、1つ以上の補助成分を構成する担体とを結びつける(associate)工程を含んでいる。一般的に製剤は、活性成分と液体担体若しくは細砕した固体担体又はその両方とを均一かつ完全に結びつける工程、次いで必要により製品を成形する工程により製造する。
経口投与に適切な本発明の製剤は、個々の単位、例えばあらかじめ決められた量の活性成分を含むカプセル剤、カシェ剤又は錠剤などとして、散剤又は顆粒剤として、水性又は非水性液体中の溶液又は懸濁液として、又は水中油型液体エマルジョン又は油中水型液体エマルジョンとして存在することができるだろう。活性成分は更に巨丸剤、舐剤又はペースト剤として存在することもできる。
錠剤は、適宜1つ以上の補助成分と共に圧縮又は成形することにより製造されるだろう。圧縮錠剤は、適切な機械中、自由流れ形態(free-flowing form)、例えば粉末又は顆粒の活性成分を、結合剤(例えば、ポビドン、ゼラチン、ヒドロキシプロピルメチルセルロース)、滑沢剤、不活性希釈剤、保存剤、崩壊剤(例えば、デンプングリコール酸ナトリウム、架橋ポビドン、架橋カルボキシメチルセルロースナトリウム)、界面活性剤又は分散剤と適宜混合して圧縮することにより製造されるだろう。成形された錠剤は、不活性液体希釈剤で湿らせた粉末化合物の混合物を適切な機械中で成形することにより製造されるだろう。錠剤を適宜コーティング又は分割してもよく、更に例えばヒドロキシプロピルメチルセルロースの割合を所望の放出プロフィールを提供するように変化させて使用して、活性成分の徐放又は制御された放出を提供するように製剤化してもよい。錠剤を適宜腸溶性コーティングとともに提供して、胃以外の腸の一部での放出を提供してもよい。
【0030】
口内の局所投与に適切な製剤には、フレーバーベース、通常はスクロース及びアラビアゴム又はトラガカント中に活性成分を含むトローチ剤、不活性ベース、例えばゼラチン及びグリセリン又はスクロース及びアラビアゴム中に活性成分を含む芳香錠剤、適切な液体担体中に活性成分を含む口内洗浄剤が含まれる。
本発明の局所投与用医薬組成物は、軟膏剤、クリーム、懸濁液、ローション、粉末、溶液、パスト(past)、ゲル、スプレー、エアロゾル又はオイルとして製剤化することができるだろう。代替として、製剤は、パッチ(patch)又は包帯、例えば活性成分及び適宜1つ以上の賦形剤又は希釈剤に含浸させた包帯又は膏剤などを含んでいてもよい。
所望により、クリームベースの水性相は、例えば少なくとも約30%(w/w)の多価アルコール、ブタン−1,3−ジオール、マンニトール、ソルビトール、グリセロール及びポリエチレングリコール並びにこれらの混合物を含んでいてもよい。局所用製剤は好ましくは、皮膚又はその他の患部を通した薬剤の吸収又は浸透を増強する化合物を含んでいるだろう。そのような皮膚浸透増強剤の例には、ジメチルスルホキシド及び関連類似体が含まれる。
本発明のエマルジョンの油性相は、既知の方法により既知の成分から構成されるだろう。この相は単に乳化剤(その他、排出促進剤としても知られる)のみを含んでいてもよいが、少なくとも1つの乳化剤と脂肪若しくは油又は脂肪と油の両方とからなる混合物を含んでいることが望ましい。好ましくは、親水性乳化剤は、安定化剤として作用する親油性乳化剤と共に含まれる。油及び脂肪の両方を含むことも好ましい。安定化剤を有する又は有しない乳化剤は、いわゆる乳化蝋を構成し、油及び/又は脂肪を有するワックスはいわゆる乳化軟膏基剤を構成し、これはクリーム製剤の油分散相を形成する。
本発明の製剤における使用に適切な排出促進剤及び乳化安定剤には、Tween 60、Span 80、セトステアリルアルコール、ミリスチルアルコール、モノステアリン酸グリセリン及びラウリル硫酸ナトリウムが含まれる。
製剤に適切な油又は脂肪の選択は、所望の表面特性の達成に基づく。なぜなら、医薬エマルジョン製剤に使用されるほとんどの油中における活性成分の溶解性は非常に低いからである。したがって、好ましくは、クリーム剤は、チューブ又はその他の容器からの漏出を避けるための適切な粘稠度を有する非脂肪性、非染色性かつ洗浄可能な製品でなければならない。直鎖又は分岐した、一又は二塩基性アルキルエステル、例えばジ−イソアジペート、イソセチルステアレート、ココナッツ脂肪酸のプロピレングリコールジエステル、イソプロピルミリステート、デシルオレエート、イソプロピルパルミテート、ブチルステアレート、2−エチルヘキシルパルミテート又はCrodamol CAPとして知られる分岐エステルの混合物が使用され、最後の3つが好ましいエステルである。これらは、要求する特性に依存して単独又は組み合わせて使用されるだろう。代替として、高融点脂質、例えば白色軟パラフィン及び/又は液体パラフィン又はその他の鉱油を使用することができる。
【0031】
目への局所投与に適切な製剤には点眼剤が含まれ、この場合、活性成分は適切な担体、特に薬剤用の水性溶媒中に溶解又は懸濁している。
直腸投与用製剤は、例えばココアバター又はサリチラートを含む適切な基剤を有する坐剤として提供されるだろう。
腟投与に適切な製剤は、薬剤に加えて当該技術分野において適切であることが知られている担体を含む膣坐剤、クリーム、ゲル、ペースト、フォーム又はスプレー剤として提供されるだろう。
鼻腔内投与に適切な製剤では、担体が固体であり、約20〜約500μmの粒径を有する粗末を含み、鼻から吸引される、すなわち鼻近くに保持された粉末容器から鼻孔を通して急速に吸入される方法で投与される。担体が投与用の液体である適切な製剤、例えばスプレー式点鼻薬、点鼻薬又はネブライザーによるエアロゾルは、水性又は油性の薬剤溶液を含んでいる。
非経口投与投与に適切な製剤には、水性及び非水性の等張性滅菌注射溶液であって、酸化防止剤、緩衝液、静菌剤及び製剤を意図するレシピエントの血液と等張性にする溶質を含むもの、水性及び非水性の滅菌懸濁液であって、懸濁化剤及び増粘剤を含むもの、及びリポソーム又はその他の微粒子系であって、化合物を血液成分又は1つ以上の器官へターゲティングするように設計されているものが含まれる。製剤は、封止された容器中の単一投与量又は複数投与量、例えばアンプル及びバイアルで提供されてもよく、使用直前に滅菌された液体担体、例えば注射用水の添加のみを要求する凍結乾燥条件で保存してもよい。即時注射溶液及び懸濁液は、前記の種類のうち滅菌した散剤、顆粒剤及び錠剤から製造されるだろう。
好ましい単位投与量製剤は、前記した一日量又は単位、一日のサブドーズ(subdose)又は薬剤の適切なフラクションを含んでいるものである。
前記で特に記載した成分に加えて、本発明の製剤は、問題となる製剤のタイプに関する当該技術分野における従来の薬剤を含んでもよく、例えば経口投与に適切な製剤では、例えば甘味料、増粘剤及び香料添加剤を更に含んでもよいことは理解されるべきである。本発明の薬剤、組成物及び方法はその他の適切な組成物及び治療法と組み合わされることも意図される。
【0032】
別の側面においては、本明細書で提供される癌原遺伝子を使用してトランスジェニック動物モデルを生成することができる。最近、遺伝学者は、発達中の胚の遺伝子を操作し、外来遺伝子をこれらの胚に導入することによりトランスジェニック動物、例えばマウスを作成することに成功した。これらの遺伝子がレシピエント胚のゲノムに組み込んで、得られる胚又は成体動物を分析して遺伝子の機能を決定することができる。突然変異動物を生成して、in vivoにおける既知遺伝子の機能を理解し、ヒトの疾患の動物モデルを作成する(例えば、Chisaka et al. (1992) 355: 516-520; Joyner et al. (1992) in POSTIMPLANTATION DEVELOPMENT IN THE MOUSE (Chadwick and Marsh, eds., John Wiley & Sons, United Kingdom) pp:277-297; Dorin et al. (1992) Nature 359:211-215を参照のこと)。
米国特許第5,464,764号及び第5,487,992号は、興味の対象となる遺伝子が削除され又はその機能を破壊するのに十分な程度に変異した1つのタイプのトランスジェニック動物について記載している(米国特許第5,631,153号及び第5,627,059号も参照のこと)。相同組換え現象を利用した「ノックアウト」動物を使用して、in vivoにおける特定の遺伝子配列の機能を研究することができる。本明細書に記載するポリヌクレオチド配列は、肺癌の動物モデルの作成に有用である。
下記の実施例は説明を意図するものであり、発明を限定することを意図するものではない。
【0033】
実施例
方法
腫瘍又は正常肺に由来するcDNAのSAGE分析
2つの無関係の患者に由来する95%をこえる腫瘍性成分を含む原発性扁平細胞肺癌を、SAGE分析のために選択した。患者Aは58才であり、手術の時点で肺の右下葉に中程度に分化した癌があることが診断された。患者Bは68才であり、右下葉に不完全に分化した癌があると診断された。二人の年齢及び性別が一致する独立した個体から得た正常な小気道上皮細胞を、ネガティブコントロールとして使用した。すべての癌細胞系はATCCより入手し、与えられた指示にしたがい増殖させた。
非小細胞肺癌(NSCLC)に存在する転写の系統的分析は、遺伝子発現の系統的分析(SAGE)(米国特許第5,695,937号)により行った。SAGE分析は、抗原を発現する細胞において発現したヌクレオチド配列を同定する工程を含んでいた。要約すると、SAGE分析は、(1)腫瘍性集団及び(2)正常細胞から相補的デオキシリボ核酸(cDNA)を提供する工程から開始した。両方のcDNAはプライマー部位に結合することができた。次いで配列タグを、例えば適切なプライマーを使用して作成し、DNAを増幅した。2つの細胞型の間のタグにおける差異を測定することにより、腫瘍性細胞集団において異常に発現した配列を同定することができた。
SAGEライブラリーは、Velculescu et al. (1995) Science 270: 484-487の記載に本質的にしたがい構築した。患者A及びBの肺腫瘍並びに正常な小気道上皮細胞から単離したポリA RNAを二本鎖cDNAに変換した。次いでcDNAを付着(anchoring)酵素NlaIIIで切断し、2つのプールに分けた。
タグ付け(tagging)酵素BsmFI用の制限部位を含むリンカーを各プールに結合した。BsmFI制限後、SAGEタグのオーバーハング(overhang)をクレノウで埋め、2つのプール由来のタグを組み合わせて、互いに結合した。結合生成物を希釈し、次いでPCRで増幅した。得られたPCR生成物を、ポリアクリルアミドゲル電気泳動(PAGE)により分析した。尾部から尾部に結合した2つのタグ(ジタグ)を含むPCR生成物を切り取り、次いでNlaIIIで切断した。NlaIII制限後、ジタグを切り取り、自己結合させた。連結生成物をPAGEにより分離し、〜500から2000ヌクレオチド塩基対を含むものを切り取り、続く配列分析のためにクローニングした。
配列及び各転写タグの存在を、SAGEソフトウェア、例えばVenter et al. (1996) Nature 381: 364-366に記載されるものを使用して分析した。各ライブラリーに存在する転写タグを同定するために、すべてのSAGEタグの配列を「タグ」ファイルとしてマイクロソフト アクセスに保存した。GenBank dbEST及びヌクレオチドデータベースをSAGEソフトウェアにより分析し、対応のSAGEタグを同定して、「遺伝子名」として保存した。各SAGEタグについてのGenBankエントリーは、マイクロソフト アクセスを使用してタグ及び遺伝子名ファイルからタグをリンクすることにより得た。各タグの相対存在率を、腫瘍ライブラリーで観察されたタグの数と正常細胞ライブラリーにおいて観察された数とを比較することにより決定した。タグの相対存在量は、観察されたタグの全数を同定されたタグの全数で割ることにより計算した。
【0034】
ノーザンブロット分析
肺腫瘍形成におけるSAGE転写物の差動的発現の臨床的意義を確立するために、PGP、b−myb又は8−オキソ−dGTPアーゼの転写物に相補的なオリゴヌクレオチドプローブを使用して、正常組織及びNSCLC細胞系のパネル由来の全RNAを使用してノーザンブロット分析を行った。ノーザンブロット分析を実施する手順は、前出 CURRENT PROTOCOLS IN MOLECULAR BIOLOGYに詳述されている。原発性肺腫瘍では、試験した3/8のケースで8−オキソ−dGTPアーゼの低レベル検出された。しかしながら、10/18のケースでPGP9.5が過剰発現し、15/18のケースでb−mybが過剰発現した。これらの遺伝子の転写物は正常細胞サンプルでは検出されなかったが、90%をこえる試験した肺腫瘍細胞系において不変的に検出された(表2参照)。
正常細胞系及びNSCLC細胞系の比較的ノーザンブロット分析(図2及び3参照)により、NSCLC細胞におけるPGP9.5、8−オキソ−dGTPアーゼ又はb−mybのmRNAレベルの増加を確認し、肺腫瘍形成、特に非小細胞肺癌におけるこれら2つの遺伝子の関連を確認した。
【0035】
ウエスタンブロット分析
本明細書に記載する各細胞系の5×104細胞に由来する細胞可溶化物を、4〜20% SDS勾配ゲル中で電気泳動し、PVDF膜(MSI)に移した。PBS+5% 乾燥脱脂乳(NFDM)中でインキュベートすることにより非特異的部位をブロックした後、膜を、抗−PGP9.5抗体(Biogenesis, UK)と共に1:400希釈でインキュベートした。ECLキット(Amersham)を使用して、PGP9.5タンパク質に結合した抗体を可視化した(図3B、下のパネルを参照)。
【0036】
結果
4つの独立したSAGEライブラリーを、2つの扁平細胞肺癌及び2つの正常肺気道上皮細胞培養を使用して、Madden et al. (1997) Oncogene 15: 1079-1085に記載されるようにしてメッセンジャーRNAから構築した。全数で2000〜4000のクローンを配列決定し、各ライブラリーから50000をこえる転写物タグを同定した(表1)。各ライブラリーにおける約15000の固有の転写物を示す50000をこえるタグの配列を分析して、肺癌における遺伝子発現パターンの総合的プロフィールを生成した。全体で、226876のタグを配列決定したところ、共同して43254の固有の転写物を示した。GenBank分析は、SAGEタグの約40%がデータベースにおいて少なくとも1つのマッチを有したことを示唆した。表1に要約するように、各サンプルから同定されたSAGEタグの調査は、各組織タイプ内のタグの存在が高度に一致することを示している。なぜなら、2つの正常対照ライブラリーを互いに比較したときに、わずか15及び17のタグが、10倍をこえて差動的に発現したからである。同様に、36及び39のタグが、それぞれ2つの腫瘍の間で10倍をこえて差動的に発現した。それゆえ、2つの正常対照及び2つの腫瘍から得たSAGEタグを組み合わせて、各タグについての存在の全数を決定した。
腫瘍及び正常ライブラリーに存在するタグの全数の比較は、転写物の大部分が同様のレベルで発現したことを示している(図1)。しかしながら、142の転写物は、腫瘍において10倍以上過剰発現したが、正常対照では約175の転写物が過剰発現した。表1は、2人の個体の肺癌及び2人の正常個体の肺に由来するcDNAクローンの比較的SAGE分析を要約している。
【0037】
表1.SAGE分析の要約

aGenBankにおいてエントリーとマッチしたタグの数
b互いに比較したときの、示した倍数で差動的に発現したタグの数。全体値(腫瘍/正常)は、2つの腫瘍(A及びB)において同定されたタグと2つの正常サンプル(1及び2)とを比較することにより得た。
【0038】
すべてのタグをGenBankに対して検索し、対応の遺伝子転写物又はESTクローンを同定した。正常対照における相対的遺伝子発現の最高レベルは約150倍であった(データは示さず)が、腫瘍における発現の最高レベルは正常対照と比較して57倍であった。
ほとんどの肺癌において一貫して過剰発現したが、正常肺には存在しない遺伝子を同定するために、各候補遺伝子を、正常肺、肝臓、小腸及び9つの肺腫瘍細胞系か由来の全RNAを使用したノーザンブロット分析によりスクリーニングした(図2参照)。
真性のEST又はGenBankマッチを有する15の有意に過剰発現したタグに対する転写物を試験した。試験した遺伝子の中で、10を更なる分析から除外した。なぜなら、それらはほとんどの組織及び細胞系において一般的に発現(6遺伝子)したか、又は実質的に存在しなかった(4遺伝子)からである(表2参照)。インターフェロン−α−誘導遺伝子は正常肺において検出されたので、更に分析しなかった。4つの遺伝子、8−オキソ−dGTPアーゼ(ヒト MutT)、b−myb、p67又はPGP9.5をコードする遺伝子は正常肺サンプルでは検出されなかったが、試験した肺癌細胞系のほとんどのいて容易に検出可能であった(図2及び3B)。腫瘍で同定された全タグの0.012〜0.018%である4つの遺伝子の存在又は約36〜54の転写物/細胞から、細胞中に約300000の転写物が存在することを推定した。
【0039】
表2.NSCLCにおいて過剰発現した遺伝子のノーザンブロット分析

T/Nは、腫瘍における過剰発現のフォルド(fold)を示している。
「+」:ノーザンブロットにより検出された転写。
「−」:ノーザンブロットにより検出されなかった転写。
nd:検出されなかった。
*は、試験した9つの細胞系の中で、検出可能なメッセージを有した細胞系の数を示している。
【0040】
表2において、左の値は、腫瘍(T)又は正常ライブラリー(N)において同定されたSAGEタグの合計である。ノーザンブロット分析の結果は表の右側に示される。すべての肺腫瘍細胞系(H82、H1299、A549、SKEM、SW900、H125、H157、H520、H2170及びL132)は、ATCCから入手し、説明にしたがい増殖させた。L132を除いて、その他すべての細胞系は肺癌に由来していた。
これらの転写物の過剰発現の生物学的関連性を決定するために、原発性腫瘍におけるこれらの転写物の存在を調べた。b−myb転写物は15/18の原発性腫瘍において過剰発現し(図3A上部パネル。選択した原発性腫瘍サンプルからの結果を示す)、PGP9.5のmRNAは10/18の原発性腫瘍で過剰発現した。8−オキソ−dGTPアーゼは38のサンプルで検出された(図3A下部パネル及び表3。表3はすべての試験した原発性肺癌におけるヒトPGP9.5遺伝子転写物の発現パターンを要約している)。興味深いことに、PGP9.5を発現したリンパ節転移を有する4つの肺癌ケースのすべてが、PGP9.5と肺癌の臨床症状との可能性のある相関関係を示した。
【0041】
表3.原発性肺癌におけるPGP9.5の発現

【0042】
肺癌はしばしばニューロン分化の特徴を有し(Mackay et al. (1990) Tumors of the Lung in MAJOR PROBLEMS IN PATHOLOGY, Volume 24, W.B. Saunders Co. Philadelphia)、PGP9.5遺伝子は元々は神経特異的ユビキチン加水分解酵素として同定されたので(Wilkinson et al. (1989) Science 246: 670-673)、次にPGP9.5発現がこの表現型と関連しているか否かを決定した。hASH1遺伝子の状態に基づく定義された神経内分泌を有する確立された肺癌細胞系のパネル(Borges et al. (1997) Nature 386: 852-855)を使用した。hASH1の発現は肺の神経分化に必須であり、最も信頼できる神経内分泌マーカーの1つであるけれども(Ermisch et al. (1995) Clin. Neuropath. 3: 130-136)、PGP9.5タンパク質は、hASH1状態とは独立して、ほぼ全ての肺癌細胞系において大量に発現した(図3B)。
更にPGP9.5発現は、全ての癌に共通する高い増殖速度と関連している可能性がある。この問題を取り扱うために、12の頭頚部癌及び膀胱癌細胞系を試験して、PGP9.5過剰発現の組織特異性を決定した。頭頚部癌は常に扁平細胞起源に由来し、通常、扁平細胞肺癌と同様の病理組織学的及び遺伝的特徴を有する。しかしながら、6つの頭頚部癌のうちわずか3つがPGP9.5メッセージを有し、コードされるタンパク質を発現したものはなかった(表4参照)。これらの観察結果は、PGP9.5の過剰発現は主に肺癌に限定され、PGP9.5タンパク質の存在は神経分化から独立しているが、標的タンパク質のユビキチネーション(ubiqutination)による肺腫瘍の発達に寄与しているかもしれないということを示している。
【0043】
表4.その他の腫瘍のPGP9.5発現及び特徴

【0044】
表5は、ノーザンブロット分析により決定したヒトの癌におけるPGP9.5及びb−mybの発現を示している。PGP9.5及びb−mybはともに、大腸、膀胱及び腎臓に由来する原発性癌には非常に低頻度で発現した。
【0045】
表5.ヒトの癌におけるPGP9.5及びB−mybの発現

【0046】
本発明は、前記の態様に関連して記載されているが、前記の実施例は説明を意図するものであり、本発明の範囲を限定することを意図するものではない。本発明の範囲内にあるその他の側面、利点及び修飾は当業者に明らかであろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
肺細胞の腫瘍状態の診断における補助方法であって、
肺細胞サンプルにおいて、PGP9.5、8−オキソ−dGTPアーゼ及びp67からなる群より選ばれる過剰発現した癌原遺伝子の存在を検出する工程、
を含み、前記過剰発現が前記肺細胞の腫瘍状態を示していることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記癌原遺伝子がPGP9.5である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記癌原遺伝子が8−オキソ−dGTPアーゼである、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記癌原遺伝子がp67である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記過剰発現した癌原遺伝子の存在を、前記癌原遺伝子から転写されたmRNAの量を検出することにより決定する、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記検出を、配列:CAGTCTAAAA(配列番号2)又はその相補物を含むプローブ又はプライマーを用いてサンプルを探索することにより決定する、請求項2に記載の方法。
【請求項7】
前記検出を、配列:TGGCCCGACG(配列番号3)又はその相補物を含むプローブ又はプライマーを用いてサンプルを探索することにより決定する、請求項3に記載の方法。
【請求項8】
前記検出を、配列:TAATACTTTT(配列番号4)又はその相補物を含むプローブ又はプライマーを用いてサンプルを探索することにより決定する、請求項4に記載の方法。
【請求項9】
前記過剰発現した癌原遺伝子の存在を、mRNAの逆転写により生成したcDNAの量を検出することにより決定する、請求項5に記載の方法。
【請求項10】
前記過剰発現した癌原遺伝子の存在を、前記癌原遺伝子によりコードされるポリペプチド又はタンパク質の量を検出することにより決定する、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記腫瘍状態が非小細胞肺癌である、請求項1〜10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
肺細胞の腫瘍状態を逆転するための潜在的な治療薬を同定する方法であって、
前記肺細胞がPGP9.5、8−オキソ−dGTPアーゼ及びp67からなる群より選ばれる癌原遺伝子の過剰発現により特徴付けられ、
前記肺細胞を含むサンプルと潜在的な薬剤とを接触させる工程、及び、
前記肺細胞の腫瘍状態の逆転をアッセイする工程、
を含み、
前記腫瘍状態の逆転が前記潜在的な薬剤を潜在的な治療薬として同定する
ことを特徴とする方法。
【請求項13】
前記癌原遺伝子がPGP9.5である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記癌原遺伝子が8−オキソ−dGTPアーゼである、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記癌原遺伝子がp67である、請求項12に記載の方法。
【請求項16】
PGP9.5の存在を検出するためのプローブ又はプライマーであって、配列:CAGTCTAAAA(配列番号2)又はその相補物を含むことを特徴とするプローブ又はプライマー。
【請求項17】
8−オキソ−dGTPアーゼの存在を検出するためのプローブ又はプライマーであって、配列:TGGCCCGACG(配列番号3)又はその相補物を含むことを特徴とするプローブ又はプライマー。
【請求項18】
p67の存在を検出するためのプローブ又はプライマーであって、配列:TAATACTTTT(配列番号4)又はその相補物を含むことを特徴とするプローブ又はプライマー。
【請求項19】
ポリヌクレオチドが10〜100の長さを有する、請求項16〜18のいずれかに記載のプローブ又はプライマー。
【請求項20】
ポリヌクレオチドが50〜100の長さを有する、請求項16〜18のいずれかに記載のプローブ又はプライマー。
【請求項21】
ポリヌクレオチドが50〜75の長さを有する、請求項16〜18のいずれかに記載のプローブ又はプライマー。
【請求項22】
請求項16〜21のいずれかに記載のプローブ又はプライマー又はこれらの相補物からなる固相担体。
【請求項23】
請求項1に記載の診断方法における使用のためのキットであって、
固体担体に固定化した請求項16〜21のいずれかに記載のプローブ又はプライマの1つ以上、及び、
肺細胞の腫瘍状態の診断における補助に使用するための説明書、
を適切な包装中に含むことを特徴とするキット。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【公開番号】特開2009−171985(P2009−171985A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−113021(P2009−113021)
【出願日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【分割の表示】特願2000−540746(P2000−540746)の分割
【原出願日】平成11年3月30日(1999.3.30)
【出願人】(500460184)ジンザイム コーポレイション (2)
【出願人】(500460243)ジョン ホプキンズ ユニヴァーシティー (2)
【Fターム(参考)】