肺癌治療剤
【課題】アムルビシンまたはその薬学上許容される塩を他の肺癌治療剤(イリノテカン、ビノレルビン、ゲムシタビンなど)と併用することにより、肺癌に対する抗腫瘍治療効果を向上させると共に、副作用を低減させた治療剤を提供する。
【解決手段】
この治療剤により、肺癌を有効に治療することができる。
【解決手段】
この治療剤により、肺癌を有効に治療することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、他の肺癌治療剤と併用して肺癌を治療するための、アムルビシンまたはその薬学上許容される塩を有効成分とする治療剤に関する。
【背景技術】
【0002】
アムルビシン((+)−(7S,9S)−9−アセチル−9−アミノ−7−[(2−デオキシ−β−D−エリスロ−ペントピラノシル)オキシ]−7,8,9,10−テトラヒドロ−6,11−ジヒドロキシ−5,12−ナフタセンジオン)は、下記化学構造式で示されるアンスラサイクリン系化合物である(特公平3−5397号、US 4673668)。
【0003】
【化1】
【0004】
アムルビシンは生体内で容易に還元されて、13位水酸化体である代謝体(アムルビシノール)が生成されるが、このアムルビシノールはアムルビシンより腫瘍細胞増殖抑制作用がかなり強い。他のアンスラサイクリン系化合物であるドキソルビシンやダウノマイシンでも還元代謝体が生成されるが、逆に活性は減少する(Cancer Chemother.Pharmacol.,30,51−57(1992))。アムルビシンは心毒性に関してもウサギ慢性実験モデルにおいてドキソルビシンよりもはるかに弱い(Invest.New Drug,15,219−225(1997))。
【0005】
アンスラサイクリン系化合物は類似する構造を有しているものの、以下のようにその適応症や作用機序などが異なることが知られている。ダウノルビシンおよびイダルビシンは白血病に対する効能を有しているが、固形癌に対する効能を有していない。他方、ドキソルビシン、エピルビシン、ピラルビシンおよびアクラルビシンは固形癌に対する効能を有している。ダウノルビシンおよびドキソルビシンはDNA合成とRNA合成を同程度に阻害するが、アクラルビシンおよびマルセロマイシンはDNA合成よりRNA合成を強く阻害し、抗腫瘍効果の発現機序が全く異なっている(JJSHP,27,1087−1110(1991))。このように、癌の種類によって同じアンスラサイクリン系薬剤でも有効性が異なっており、また、同じ抗癌剤でも癌の種類によって有効性が相違することが知られている。従って、ある特定の腫瘍(癌)に関して、特定の抗癌剤が有効か否かは、具体的に実験で確認することが必要である。
【0006】
アムルビシンについては、ヒトT細胞白血病MOLT−3細胞株とヒト骨肉種MG−63細胞株に対して、塩酸アムルビシンとシスプラチン等の併用により相加的な効果を示すことが報告されている(Investigational New Drugs,14,357−363(1996))。さらに、マウス白血病P388細胞株を用いた実験により、アムルビシンとシスプラチンとのインビボの系での併用効果も報告されている(柳義和等、癌学会要旨集、講演No.2168(1989))。しかしながら、アムルビシンと他の肺癌治療剤との併用による肺癌の治療およびその副作用についてはなんら知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特公平3−5397号公報
【特許文献2】US 4673668
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Cancer Chemother.Pharmacol.,30,51−57(1992)
【非特許文献2】Invest.New Drug,15,219−225(1997)
【非特許文献3】JJSHP,27,1087−1110(1991)
【非特許文献4】Investigational New Drugs,14,357−363(1996)
【非特許文献5】柳義和等、癌学会要旨集、講演No.2168(1989)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、肺癌に対する抗腫瘍治療効果を向上させて、副作用を低減させた治療剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、鋭意検討の結果、アムルビシンと他の肺癌治療剤を併用すれば、それぞれ単剤での副作用が増悪されることなく顕著に肺癌を治療できること、またアムルビシンと他の肺癌治療剤との併用において、治療効果を維持しつつそれぞれの投与量を減らした場合は、副作用を劇的に減らすことができることを見出した。さらに、本発明者らは、アムルビシンを活性代謝体のアムルビシノールに変換するカルボニルレダクターゼ1遺伝子が、肺正常細胞および白血病細胞よりも、小細胞肺癌、肺腺癌、肺扁平上皮癌、肺大細胞癌等の肺癌細胞で発現量が多いこと、従って、肺癌細胞では、肺正常細胞や白血病細胞よりも選択的にアムルビシンがアムルビシノールに変換されて作用を示し、ゆえに副作用が少ないであろうことを見出した。
以上の知見に基づき、本発明は完成された。
【0011】
すなわち、本発明は、以下の通りである。
[1] 他の肺癌治療剤と併用して肺癌を治療するための、アムルビシンまたはその薬学上許容される塩を有効成分とする治療剤。
[2] 肺癌が小細胞肺癌、肺腺癌、肺扁平上皮癌または肺大細胞癌である[1]記載の治療剤。
[3] 肺癌が小細胞肺癌または肺扁平上皮癌である[1]記載の肺癌治療剤。
[4] アムルビシンまたはその薬学上許容される塩が塩酸アムルビシンである[1]〜[3]のいずれか記載の治療剤。
[5] 他の肺癌治療剤がイリノテカン、ノギテカン、ビノレルビン、ビンクリスチン、ゲムシタビン、5−FU、パクリタキセル、ドセタキセルまたはZD 1839である[1]〜[4]のいずれか記載の治療剤
【0012】
[6] 他の肺癌治療剤がイリノテカン、ビノレルビン、ゲムシタビン、パクリタキセル、ドセタキセルまたはZD 1839である[1]〜[4]のいずれか記載の治療剤。
[7] 他の肺癌治療剤の投与と同時に、分離して、または続けて投与される[1]〜[6]のいずれか記載の治療剤。
[8] 他の肺癌治療剤を投与した、または投与予定である肺癌患者のための[1]〜[7]のいずれか記載の肺癌治療剤。
[9] アムルビシンまたはその薬学上許容される塩を約60〜約150mg/m2単回または2〜5回に分けて投与されるように包装された[1]〜[8]のいずれか記載の治療剤。
[10] アムルビシンまたはその薬学上許容される塩が約80〜約130mg/m2単回投与されるよう包装されている[9]記載の治療剤。
【0013】
[11] アムルビシンまたはその薬学上許容される塩が約110〜約130mg/m2単回投与されるよう包装されている[9]記載の治療剤。
[12] アムルビシンまたはその薬学上許容される塩が1日1回約25〜約50mg/m2を3日間投与されるよう包装されている[9]記載の治療剤。
[13] アムルビシンまたはその薬学上許容される塩が1日1回約30〜約45mg/m2を3日間投与されるよう包装された[9]記載の治療剤。
[14] アムルビシンまたはその薬学上許容される塩が1日1回約35〜約45mg/m2を3日間投与されるよう包装された[9]記載の治療剤。
[15] アムルビシンまたはその薬学上許容される塩が3日間連日投与される[12]〜[14]のいずれか記載の治療剤。
【0014】
[16] 他の肺癌治療剤がその最大耐量の約0.4倍〜約1.0倍の量、またはその最高投与量の約0.4倍〜約1.0倍の量で併用されるための[1]〜[15]のいずれか記載の治療剤。
[17] 副作用によって他の肺癌治療剤による治療の継続ができない肺癌患者であって、副作用が軽減される量の該肺癌治療剤の投与を受けている患者のための[1]〜[16]のいずれか記載の治療剤。
[18] 他の肺癌治療剤と併用して肺癌を治療するための治療剤の製造のためのアムルビシンまたはその薬学上許容される塩の使用。
[19] アムルビシンまたはその薬学上許容される塩、および他の肺癌治療剤を投与することによる肺癌の治療方法。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の肺癌治療剤は、アムルビシンまたはその薬学上許容される塩を有効成分とする肺癌治療剤であって、他の肺癌治療剤と併用される。
【0016】
アムルビシンまたはその薬学上許容される塩は、例えばJ.Org.Chem.,52,4477−4485(1987)に従って製造することができる。アムルビシンの薬学上許容される塩としては、酸付加塩および塩基付加塩が挙げられる。酸付加塩としては、例えば塩酸塩、臭化水素酸塩、硫酸塩、ヨウ化水素酸塩、硝酸塩、リン酸塩等の無機酸塩、クエン酸塩、シュウ酸塩、酢酸塩、ギ酸塩、プロピオン酸塩、安息香酸塩、トリフルオロ酢酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩、酒石酸塩、アスパラギン酸塩、グルタミン酸塩、メタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、カンファースルホン酸塩等の有機酸塩が挙げられる。塩基付加塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、アンモニウム塩等の無機塩基塩、トリエチルアンモニウム塩、トリエタノールアンモニウム塩、ピリジニウム塩、ジイソプロピルアンモニウム塩等の有機塩基塩等が挙げられる。好ましい薬学上許容される塩として塩酸塩等を挙げることができる。
【0017】
アムルビシンまたはその薬学上許容される塩の最大耐量は、塩酸アムルビシンで言えば、マウスで25mg/kg(75mg/m2)であり、ヒトで1日1回の単回投与で130mg/m2、3日連日投与では1日当たり50mg/m2である。
【0018】
他の肺癌治療剤としては、アムルビシンまたはその薬学上許容される塩以外の肺癌治療剤であればよく、例えば、DNAトポイソメラーゼI阻害剤(イリノテカン、ノギテカンなど)、チューブリン重合阻害剤(ビノレルビン、ビンクリスチンなど)、代謝拮抗剤(ゲムシタビン、5−FUなど)、チューブリン脱重合阻害剤(パクリタキセル、ドセタキセルなど)、およびチロシンキナーゼ阻害剤(ZD 1839など)などが挙げられる。
【0019】
好ましい他の肺癌治療剤としては、例えば、以下の化合物等が挙げられる。
イリノテカン(Irinotecan):
特開昭60−19790,US 4604463,J.Clin.Oncol.,11,909(1993)
ノギテカン(Nogitecan):
EP 0 321 122 B1
ビノレルビン(Vinorelbine):
特開昭55−31096,US 4307100,Cancer Letters,27,285(1985)
ビンクリスチン(vincristine)
ゲムシタビン(Gemcitabine):
US 4808614,Cancer Treat.Rev.,19,45−55(1993)
【0020】
5−FU(5−Fluorourasil)
パクリタキセル(paclitaxel):
J.Am.Chem.Soc.,93,2325−2327(1971)
ドセタキセル(docetaxel):
J.Natl.Cancer Inst.,83,288−291(1991)
ZD 1839(4−(3−クロロ−4−フルオロアニリノ)−7−メトキシ−6−(3−モルホリノプロポキシ)キナゾリン;一般名ゲフィチニブ;商品名イレッサ):
Drugs 2000:60 Suppl.1,33−40
【0021】
イリノテカンのマウスでの最大耐量は120mg/kg、ヒトでの最高投与量は、例えば、1週間間隔投与では150mg/m2、3週間間隔投与では350mg/m2である。ビノレルビンのマウスでの最大耐量は16mg/kg、ヒトでの最高投与量は25mg/m2である。ゲムシタビンのマウスでの最大耐量は300mg/kg/dose、ヒトでの最高投与量は1000mg/m2である。パクリタキセルのマウスでの最大耐量は12.5mg/kg/dose、ヒトでの最高投与量は210mg/m2である。ドセタキセルのマウスでの最大耐量は30mg/kg/dose、ヒトでの最高投与量は70mg/m2である。ZD 1839のマウスでの最大耐量は200mg/kg、ヒトでの最大耐量は700mg/日、ヒトでの最高投与量は500mg/日程度である。
【0022】
肺癌としては、例えば小細胞肺癌、肺腺癌、肺扁平上皮癌、肺大細胞癌、カルチノイド、腺様嚢胞癌、粘表皮癌、悪性混合腫瘍等が挙げられる。この中で、本発明の肺癌治療剤が好ましい効果を示すものの例として、小細胞肺癌、肺腺癌、肺扁平上皮癌、肺大細胞癌等が挙げられ、特に好ましくは小細胞肺癌および肺扁平上皮癌を挙げることができる。
【0023】
マウスを用いた実施例1〜3の結果から、以下のことが見出された。
(1)塩酸アムルビシン最大耐量の0.5倍量(12.5mg/kg)、および他の肺癌治療剤の最大耐量の0.5倍量の併用では、それぞれの単剤の最大耐量投与群と比較して同程度の抗癌効果があり、一方、それらの副作用は激減した。
【0024】
(2)塩酸アムルビシン最大耐量の0.8または1.0倍量(20または25mg/kg)、および他の肺癌治療剤の最大耐量の0.8または1.0倍量の併用では、それぞれの単剤の最大耐量投与群と比較して強力な抗癌効果があり、一方、それらの副作用は増えることなく同程度であった。
【0025】
このように、アムルビシンまたはその薬学上許容される塩の最大耐量の約0.5〜約1倍量および他の肺癌治療剤の最大耐量(もしくは最高投与量)の約0.5〜約1倍量を併用することで、該肺癌治療剤およびアムルビシンまたはその薬学上許容される塩の副作用を増やすことなく、時として副作用を減らして、安全にそして十分に抗癌効果を得ることができる。例えば、該肺癌治療剤またはアムルビシンの副作用が問題となる場合は、アムルビシンまたはその薬学上許容される塩の最大耐量の約0.5〜約1倍量および他の肺癌治療剤の最大耐量(もしくは最高投与量)の約0.5〜約1倍量の範囲の中でより低い投与量を用いることができ、他方、他の肺癌治療剤またはアムルビシンの副作用が問題とならない場合は、アムルビシンまたはその薬学上許容される塩の最大耐量の約0.5〜約1倍量および他の肺癌治療剤の最大耐量(もしくは最高投与量)の約0.5〜約1倍量の範囲の中でより高い投与量を用いて、最大の抗癌効果を安全に得ることができる。
【0026】
ヒトの肺癌の治療においては、患者の状態、年齢、体重等により適宜変更されるが、例えばアムルビシンまたはその薬学上許容される塩を約60〜約150mg/m2および他の肺癌治療剤をその最大耐量(もしくは最高投与量)の0.4倍〜1.0倍の量で併用することができる。そのアムルビシンまたはその薬学上許容される塩は、例えば約60〜約150mg/m2を単回または2〜5回に分けて投与することができる。好ましいアムルビシンまたはその薬学上許容される塩の投与スケジュールとしては、例えば単回投与、1日1回3日間投与等を挙げることができ、特に好ましくは1日1回3日間連日投与を挙げることができる。単回投与をする際の投与量としては、例えば約80〜約130mg/m2の範囲を挙げることができ、好ましくは約110〜約130mg/m2の範囲を挙げることができ、特に好ましくは約120mg/m2等を挙げることができる。3日間連日投与をする際の1日当たりの投与量としては、例えば約25〜約50mg/m2の範囲を挙げることができ、好ましくは約30〜約45mg/m2の範囲が挙げられ、さらに好ましくは約35〜約45mg/m2の範囲が挙げられ、特に好ましくは約40mg/m2、約45mg/m2等を挙げることができる。
【0027】
併用される他の肺癌治療剤の投与量としては、例えば単回投与でその最大耐量もしくは最高投与量の約0.4倍〜約1.0倍の範囲が挙げられ、好ましくは単回投与でその最大耐量もしくは最高投与量の約0.5倍〜約0.9倍の量が挙げられる。例えば、イリノテカンでは約75〜約135mg/m2が、ビノレルビンでは約12.5〜約22.5mg/m2が、ゲムシタビンでは約500〜約900mg/m2が、パクリタキセルでは約105〜約190mg/m2が、ドセタキセルでは約35〜約63mg/m2が、ZD 1839では約350〜約630mg/日程度が挙げられる。ZD 1839では最高投与量よりかなり低い投与量でも効果を表すことが知られているので、約125〜約630mg/日程度で併用効果を示すことが可能である。なお、これら他の肺癌治療剤は数回に分けて、1日あるいは数日かけて投与することもできる。
【0028】
他の肺癌治療剤による治療を行った肺癌患者で、その肺癌治療剤の副作用等のために治療の継続ができないと判断された場合は、その副作用が軽減される投与量の該肺癌治療剤を投与し、さらにアムルビシンまたはその薬学上許容される塩を投与することで、該肺癌治療剤の副作用を低減させて治療を続行することができる。その副作用が軽減される量の該肺癌治療剤としては、例えばその最大耐量(もしくは最高投与量)の約0.4倍〜約0.8倍の量が挙げられ、好ましくはその最大耐量(もしくは最高投与量)の約0.4倍〜約0.6倍の量が挙げられる。
【0029】
本発明の肺癌治療剤において、アムルビシンまたはその薬学上許容される塩は、他の肺癌治療剤の投与と同時に、分離して、または続けて投与される。分離してまたは続けて投与される場合は、アムルビシンまたはその薬学上許容される塩を他の肺癌治療剤より先に投与しても、後に投与してもよい。その際の両投与の間隔としては、適宜決めることができるが、例えば、1〜数時間、十〜数十時間、1〜数日、1週間等とすることができる。例えば、アムルビシンまたはその薬学上許容される塩と、他の肺癌治療剤を同じ日に投与するのが、患者の通院等の手間を考えると好ましい。
【0030】
本発明の肺癌治療剤は、患者の症状、年齢、体重、投与形態、併用される他の肺癌治療剤の投与量、投与回数等によって適宜変化するが、上記アムルビシンまたはその薬学上許容される塩および他の肺癌治療剤の各投与後、さらに同各投与を、約7日間〜約60日の間隔をあけて繰り返すのが好ましい。特に好ましくは、約2週間〜約4週間ごとに、さらに好ましくは約3週間ごとに繰り返すのがよい。
【0031】
アムルビシンまたはその薬学上許容される塩は、通常、非経口的(例えば、静脈内、動脈内、皮下、筋肉内注射、膀胱内、腹腔内、胸腔内、局所的、経直腸的、経皮的、経鼻的等)に投与することができる。好ましくは、静脈内投与を挙げることができる。また、経口投与に用いることもでき、経口投与のための形態としては、例えば、錠剤、カプセル剤、丸剤、顆粒剤、散剤、液剤、シロップ剤または懸濁剤などが挙げられる。
【0032】
他の肺癌治療剤は、通常、非経口的(例えば、静脈内、動脈内、皮下、筋肉内注射、膀胱内、腹腔内、胸腔内、局所的、経直腸的、経皮的、経鼻的等)に投与することができる。好ましくは、静脈内投与を挙げることができる。また、経口投与に用いることもでき、経口投与のための形態としては、例えば、錠剤、カプセル剤、丸剤、顆粒剤、散剤、液剤、シロップ剤または懸濁剤などが挙げられる。
【0033】
本発明の肺癌治療剤においては、さらに他の肺癌治療剤、放射線療法、外科的手段等を組み合わせることもできる。また、(a)有効成分としてアムルビシンまたはその薬学上許容される塩を含む第1の組成物、および(b)有効成分として他の肺癌治療剤を含む第2の組成物からなる、肺癌併用治療のためのキットとすることもできる。
【実施例】
【0034】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0035】
実施例1
塩酸アムルビシンとイリノテカンとの併用による抗腫瘍効果
6週令のヌードマウス(59匹)にヒト小細胞肺癌LX−1細胞株を皮下移植した。腫瘍移植の11日後に腫瘍容積が約100〜300mm3となった36匹を1群6匹で6群に群分けした。その日に、「ビークル群」にはシステイン緩衝液を、「塩酸アムルビシン単独投与群」には塩酸アムルビシン最大耐量(25mg/kg)を、「イリノテカン単独投与群」にはイリノテカン最大耐量(120mg/kg)を、「併用群(0.5×MTD)」には塩酸アムルビシン最大耐量の0.5倍量およびイリノテカン最大耐量の0.5倍量を、「併用群(0.8×MTD)」には塩酸アムルビシン最大耐量の0.8倍量およびイリノテカン最大耐量の0.8倍量を、「併用群(1×MTD))には塩酸アムルビシン最大耐量およびイリノテカン最大耐量を、それぞれ静脈内投与した。その後、23日間、マウスの腫瘍容積と体重を測定した。
【0036】
塩酸アムルビシンはシステイン緩衝液(0.4mg/mLのL−システイン塩酸塩1水和物、6.25mg/mLの乳糖を含む)により2.5mg/mLになるように溶解し、また、これをシステイン緩衝液で希釈することで2.0および1.25mg/mLの溶液を調製して、それぞれ10mL/kgの液量を投与することで、塩酸アムルビシン最大耐量、その0.8倍量、およびその0.5倍量の投与とした。
【0037】
イリノテカンは(株)第一製薬より購入したトポテシン注(20mg/mL含有)を120、96および60mg/kgの液量で投与することで、イリノテカン最大耐量、その0.8倍量、およびその0.5倍量の投与とした。
【0038】
図1および図2に、併用群(0.5×MTD)の腫瘍容積と体重の変化を、それぞれ、塩酸アムルビシン単独投与群とイリノテカン単独投与群のデータと共に示す。
【0039】
図3および図4に、併用群(0.8×MTD)の腫瘍容積と体重の変化を、それぞれ、塩酸アムルビシン単独投与群とイリノテカン単独投与群のデータと共に示す。
【0040】
図5および図6に、併用群(1×MTD)の腫瘍容積と体重の変化を、それぞれ、塩酸アムルビシン単独投与群とイリノテカン単独投与群のデータと共に示す。
【0041】
表1に、各群の腫瘍増殖率の最小T/C%値を示す。最小T/C%値は以下のように計算した。
最小T/C%値:ビークル投与群の腫瘍増殖率*)に対するそれぞれの投与群の腫瘍増殖率*)の比率(%)の測定期間中の最低値。
*)腫瘍増殖率:薬剤投与時点の腫瘍容積の1群6匹の平均値に対する各測定時点の腫瘍容積の1群6匹の平均値の比率。
【0042】
【表1】
【0043】
1.併用群(0.5×MTD)の結果
図1に示されるように、併用投与の抗腫瘍効果は、それぞれの単剤の最大耐量投与群と比較し同程度の効果であった。すなわち、最小T/C%値は塩酸アムルビシン単独投与群では40.79%、イリノテカン単独投与群では45.61%であったが、併用群(0.5×MTD)の場合は45.05%であった。
副作用は、動物の体重減少で評価すると、図2で示されるように、それぞれの単剤の単独投与群と比較し、イリノテカン単剤投与群と同程度であった。
【0044】
2.併用群(0.8×MTD)の結果
図3に示されるように、腫瘍の縮退が見られ、併用投与の抗腫瘍効果は、それぞれの単剤の単独投与群と比較し、強い抗腫瘍効果を示した。すなわち、最小T/C%値は塩酸アムルビシン単独投与群では40.79%、イリノテカン単独投与群では45.61%であったが、併用群(0.8×MTD)の場合は28.17%であった。
副作用は、動物の体重減少で評価すると、図4で示されるように、塩酸アムルビシン単独投与群と同程度であった。
【0045】
3.併用群(1×MTD)の結果
図5に示されるように、0.8倍量の場合と同様に腫瘍の縮退が見られ、併用投与の抗腫瘍効果は、それぞれの単剤の単独投与群と比較し、強い抗腫瘍効果を示した。すなわち、最小T/C%値は塩酸アムルビシン単独投与群では40.79%、イリノテカン単独投与群では45.61%であったが、併用群(1×MTD)の場合は24.24%であった。
副作用は、動物の体重減少で評価すると、図6で示されるように、一時的に3g程度の体重減少が見られるが回復した。
【0046】
実施例2
塩酸アムルビシンとビノレルビンとの併用による抗腫瘍効果
実施例1と同様にして、塩酸アムルビシンとビノレルビンとの併用による抗腫瘍効果を試験した。ただし、ヒト小細胞肺癌LX−1細胞株の代わりにヒト肺扁平上皮癌QG−56細胞株を用い、ビノレルビンの最大耐量を16mg/kgとした。ビノレルビンは(株)協和醗酵工業より購入したナベルビン注(10mg/mL含有)を16、12.8および8mL/kgの液量で投与することで、ビノレルビン最大耐量、その0.8倍量、およびその0.5倍量の投与とした。また、5週令のヌードマウス(100匹)を使用した。
【0047】
図7および図8に、併用群(0.5×MTD)の腫瘍容積と体重の変化を、それぞれ、塩酸アムルビシン単独投与群とビノレルビン単独投与群のデータと共に示す。
【0048】
図9および図10に、併用群(0.8×MTD)の腫瘍容積と体重の変化を、それぞれ、塩酸アムルビシン単独投与群とビノレルビン単独投与群のデータと共に示す。
【0049】
図11および図12に、併用群(1×MTD)の腫瘍容積と体重の変化を、それぞれ、塩酸アムルビシン単独投与群とビノレルビン単独投与群のデータと共に示す。
【0050】
表2に、各群の腫瘍増殖率の最小T/C%値を示す。
【0051】
【表2】
【0052】
1.併用群(0.5×MTD)の結果
図7に示されるように、併用投与の抗腫瘍効果は、それぞれの単剤の最大耐量投与群と比較し同程度の効果であった。すなわち、最小T/C%値は塩酸アムルビシン単独投与群では37.73%、ビノレルビン単独投与群では38.24%であったが、併用群(0.5×MTD)の場合は42.43%であった。
副作用は、動物の体重減少で評価すると、図8で示されるように、それぞれの単剤の単独投与群と比較し、体重減少はほとんどなく、副作用の増強はみられなかった。
【0053】
2.併用群(0.8×MTD)の結果
図9に示されるように、腫瘍の縮退が見られ、併用投与の抗腫瘍効果は、それぞれの単剤の単独投与群と比較し、強い抗腫瘍効果を示した。すなわち、最小T/C%値は塩酸アムルビシン単独投与群では37.73%、ビノレルビン単独投与群では38.24%であったが、併用群(0.8×MTD)の場合は31.10%であった。
副作用は、動物の体重減少で評価すると、図10で示されるように、両単独投与群と同程度であった。
【0054】
3.併用群(1×MTD)の結果
図11に示されるように、0.8倍量の場合と同様に腫瘍の縮退が見られ、併用投与の抗腫瘍効果は、それぞれの単剤の単独投与群と比較し、強い抗腫瘍効果を示した。すなわち、最小T/C%値は塩酸アムルビシン単独投与群では37.73%、ビノレルビン単独投与群では38.24%であったが、併用群(1×MTD)の場合は27.15%であった。
副作用は、動物の体重減少で評価すると、図12で示されるように、一時的に1.4g程度の体重減少が見られるが回復した。
【0055】
実施例3
塩酸アムルビシンとゲムシタビンとの併用による抗腫瘍効果
実施例2と同様にして、塩酸アムルビシンとゲムシタビンとの併用による抗腫瘍効果を試験した。ただし、ゲムシタビンの最大耐量を300mg/kg/dayとし、1週間に1回腹腔内投与を2クール投与した。ゲムシタビンは(株)日本イーライリリーより購入したジェムザール注(200mg/バイアル含有)を300、240および150mL/kgの液量で投与することで、ゲムシタビン最大耐量、その0.8倍量、およびその0.5倍量の投与とした。また、5週令のヌードマウス(80匹)を使用した。
【0056】
図13および図14に、併用群(0.5×MTD)の腫瘍容積と体重の変化を、それぞれ、塩酸アムルビシン単独投与群とゲムシタビン単独投与群のデータと共に示す。
【0057】
図15および図16に、併用群(0.8×MTD)の腫瘍容積と体重の変化を、それぞれ、塩酸アムルビシン単独投与群とゲムシタビン単独投与群のデータと共に示す。
【0058】
図17および図18に、併用群(1×MTD)の腫瘍容積と体重の変化を、それぞれ、塩酸アムルビシン単独投与群とゲムシタビン単独投与群のデータと共に示す。
【0059】
表3に、各群の腫瘍増殖率の最小T/C%値を示す。
【0060】
【表3】
【0061】
1.併用群(0.5×MTD)の結果
図13に示されるように、併用投与の抗腫瘍効果は、それぞれの単剤の最大耐量投与群と比較し同程度の効果であった。すなわち、最小T/C%値は塩酸アムルビシン単独投与群では51.06%、ゲムシタビン単独投与群では69.47%であったが、併用群(0.5×MTD)の場合は56.67%であった。
副作用は、動物の体重減少で評価すると、図14で示されるように、それぞれの単剤の単独投与群と比較し、ゲムシタビンの投与量半減に起因すると考えられる強い副作用の軽減効果が得られた。
【0062】
2.併用群(0.8×MTD)の結果
図15に示されるように、腫瘍の縮退が見られ、併用投与の抗腫瘍効果は、それぞれの単剤の単独投与群と比較し、強い抗腫瘍効果を示した。すなわち、最小T/C%値は塩酸アムルビシン単独投与群では51.06%、ゲムシタビン単独投与群では69.47%であったが、併用群(0.8×MTD)の場合は34.27%であった。
副作用は、動物の体重減少で評価すると、図16で示されるように、塩酸アムルビシン単剤の最大耐量投与群と同程度の副作用であった。
【0063】
3.併用群(1×MTD)の結果
図17に示されるように、0.8倍量の場合と同様に腫瘍の縮退が見られ、併用投与の抗腫瘍効果は、それぞれの単剤の単独投与群と比較し、強い抗腫瘍効果を示した。すなわち、最小T/C%値は塩酸アムルビシン単独投与群では51.06%、ゲムシタビン単独投与群では69.47%であったが、併用群(1×MTD)の場合は41.33%であった。
副作用は、動物の体重減少で評価すると、図18で示されるように、ゲムシタビン単剤の最大耐量投与群と同程度の副作用であった。
【0064】
以上の実施例1〜3のように、塩酸アムルビシンとイリノテカン、ビノレルビンおよびゲムシタビンの併用において副作用が低減され、顕著な治療効果が認められた。また、図1〜18で分かる通り、併用の効果は投与時から2週間の間が特に顕著に表れ、3週間後にほぼ効果が消滅する。従って、約2週間〜約4週間後に再度投与を繰り返すことが好ましく、特に約3週間後に再投与し、その後も継続するのが好ましいと考えられる。
【0065】
実施例1と同様にして、パクリタキセル(最大耐量は12.5mg/kg/dose)についても塩酸アムルビシンとの併用効果を確認することができる。また、ZD 1839(最大耐量は200mg/kg)については、細胞株をヒト扁平上皮癌であるA431に変えて実施例1と同様の実験を行うことにより、塩酸アムルビシンとの併用効果を確認することができる。
【0066】
実施例4
塩酸アムルビシノールとイリノテカンのin vitro併用効果
ヒト非小細胞肺癌細胞を用いて、塩酸アムルビシノールおよび塩酸イリノテカンのin vitroにおける併用効果を調べた。
【0067】
ヒト非小細胞肺癌細胞株A549をATCC(American Type CultureCollection)より入手した。D−MEM(Dulbecco’s Modified Eagle Mediunm)培地、10%ウシ胎児血清(FCS)を含有する培地にて、ヒト非小細胞肺癌細胞株A549を継代培養した。培養は、37℃、5%CO2にてインキュベータ中で実施した。以後の実験にも本培地を用いた。
【0068】
被験物質は以下のように調製した。
塩酸イリノテカンを第一製薬株式会社より入手し、使用時に培地で2倍段階希釈して用いた。
アムルビシノールは、文献記載の方法(Ishizumi et al.,J.Org.Chem.,52,4477−4485(1987))によって製造した。塩酸アムルビシノールは、ディープフリーザー(−80℃)で保存されているものを約1mgずつ秤量し、冷凍庫(−20℃)で保存した。使用時に1mg/mlになるように蒸留水で溶解し、濾過滅菌後、培地で2倍段階希釈して用いた。
【0069】
継代中のヒト非小細胞肺癌細胞株A549をトリプシン処理し、培地に懸濁後、96ウェルプレートに播種した。播種濃度は、5x102cells/0.1ml/wellとした。播種後、37℃、5%CO2にてインキュベータ中で一晩培養した(Day0)。
単剤評価群には被験物質希釈液0.05ml/wellと培地0.05ml/wellとを添加し、併用評価群には塩酸アムルビシノール希釈液0.05ml/wellと塩酸イリノテカン希釈液0.05ml/wellを添加した(Day1)。薬剤処理群はn=3、非処理(対照)群はn=6で行った。
【0070】
Day4まで、37℃、5%CO2にてインキュベータ中で培養した。
【0071】
Day4に、各ウェルに0.02mlのWST溶液(リン酸緩衝液(PBS)に、1.3mg/ml WST−1(2−(4−Iodophenyl)−3−(4−nitrophenyl)−5−(2,4−disulfophenyl)−2H−tetrezolium,sodium salt)および0.14mg/ml 1−Methoxy PMS(1−Methoxy−5−methylphenazinium methylsulfate)を含有する溶液)を添加した。その後、2〜4時間、37℃、5%CO2にてインキュベータ中で培養し、MICROPLATE READER Model 3550−UV(Biorad社)で吸光度を測定し、生細胞数を測定した。
【0072】
以下の式で増殖率fを計算した。
f=(各薬剤濃度での吸光度の平均値)/(薬剤濃度0mg/mlの吸光度の平均値)
吸光度:A420 − A630
log(薬剤濃度)に対しlog((1/f)−1)をプロットし、最小2乗法で回帰直線を引き、その傾きmとX切片を求めた。Exp(X切片の値)がIC50値(50%の細胞増殖抑制に必要な薬剤の濃度)となる。併用処理時の塩酸アムルビシノールと塩酸イリノテカンの濃度比は1:25として、それぞれmとIC50値を求めた。(以降、IC50値をDmと表記し、塩酸アムルビシノールについては添え字1、塩酸イリノテカンについては添え字2で表わした。例:Dm1)
【0073】
ある増殖抑制率(fa)を得るために必要とされる塩酸アムルビシノールおよび塩酸イリノテカンの濃度Dを式(1)より求めた。単剤での濃度をDf1、Df2および併用時での濃度をDx1、Dx2とし、式(2)よりCombination index(CI)を算出した(M.Pegram et al.,Oncogene,18,2241−2251(1999))。
【0074】
D=Dm×{fa/(1−fa)}1/m・・・・(1)
CI=Dx1/Df1+Dx2/Df2+(Dx1×Dx2)/(Df1×Df2)・・・・(2)
【0075】
CI=1で相加効果、CI<1で相乗効果、CI>1で拮抗効果と判断される。
【0076】
図19に、塩酸アムルビシノールとイリノテカンのin vitro併用効果を示す。横軸は増殖抑制率fa、縦軸はcombination index(CI)を表す。図19に示されるように、Combination index(CI)はfa=0.1〜0.9の範囲において1より小さい値を示し、CIによる併用効果の判定では、塩酸アムルビシノールと塩酸イリノテカンとの併用で強い相乗効果が認められた。
【0077】
実施例5
正常および腫瘍組織でのカルボニルレダクターゼ遺伝子発現の変動解析
ヒト肺正常組織69サンプルとヒトの肺腺癌組織44サンプル、肺扁平上皮癌組織32サンプル、肺大細胞癌組織5サンプルおよび白血病細胞18サンプルからそれぞれ調製したtotal RNAを用いて、DNAチップ解析を行った。DNAチップ解析は、Affymetrix社Gene Chip Human Genome U95A,B,C,D,Eを用いて行った。具体的には、解析は、(1)total RNAからのcDNAの調製、(2)該cDNAからラベル化cRNAの調製、(3)ラベル化cRNAのフラグメント化、(4)フラグメント化cRNAとプローブアレイとのハイブリダイズ、(5)プローブアレイの染色、(6)プローブアレイのスキャンおよび(7)遺伝子発現解析の手順で行った。
【0078】
(1)Total RNAからのcDNAの調製
ヒト肺正常組織69サンプルとヒトの肺腺癌組織44サンプル、肺扁平上皮癌組織32サンプル、肺大細胞癌組織5サンプルおよび白血病細胞18サンプルから調製した各total RNA 10μgおよびT7−(dT)24プライマー(Amersham社製)100pmolを含む11μLの混合液を、70℃で10分間加熱した後、氷上で冷却した。冷却後、SuperScript Choice System for cDNA Synthesis(Gibco−BRL社製)に含まれる5×First Strand cDNA Buffer 4μL、該キットに含まれる0.1M DTT(dithiothreitol)2μLおよび該キットに含まれる10mM dNTP Mix 1μLを添加し、42℃で2分間加熱した。更に、該キットに含まれるSuper ScriptII RT 2μL(400U)を添加し、42℃で1時間加熱した後、氷上で冷却した。冷却後、DEPC処理水(ナカライテスク社製)91μL、該キットに含まれる5×Second Strand Reaction Buffer 30μL、10mM dNTP Mix 3μL、該キットに含まれるE.coli DNA Ligase 1μL(10U)、該キットに含まれるE.coli DNA Polymerase I 4μL(40U)および該キットに含まれるE.coli RNaseH 1μL(2U)を添加し、16℃で2時間反応させた。次いで、該キットに含まれるT4 DNA Polymerase 2μL(10U)を加え、16℃で5分間反応させた後、0.5M EDTA 10μLを添加した。次いで、フェノール/クロロホルム/イソアミルアルコール溶液(ニッポンジーン社製)162μLを添加して混合した。該混合液を、予め室温、14,000rpm、30秒間遠心分離しておいたPhase Lock Gel Light(エッペンドルフ社製)に移し、室温で14,000rpm、2分間遠心分離した後、145μLの水層をエッペンドルフチューブに移した。得られた溶液に、7.5M酢酸アンモニウム溶液72.5μLおよびエタノール362.5μLを加えて混合した後、4℃、14,000rpm、20分間遠心分離した。遠心分離後、上清を捨て、作製したcDNAを含むDNAペレットを得た。その後、該ペレットに80%エタノール0.5mLを添加し、4℃、14,000rpm、5分間遠心分離した後、上清を捨てた。再度同様の操作を行った後、該ペレットを乾燥させ、DEPC処理水12μLに溶解した。
【0079】
以上の操作によって、ヒト肺正常組織69サンプルとヒトの肺腺癌組織44サンプル、肺扁平上皮癌組織32サンプル、肺大細胞癌組織5サンプルおよび白血病細胞18サンプル由来のtotalRNAからcDNAを取得した。
【0080】
(2)cDNAからラベル化cRNAの調製
上記(1)で調製した各cDNA溶液5μLに、DEPC処理水17μL、BioArray High Yield RNA Transcript Labeling Kit(ENZO社製)に含まれる10×HY Reaction Buffer 4μL、該キットに含まれる10×Biotin LabeledRibonucleotides 4μL、該キットに含まれる10×DTT 4μL、該キットに含まれる10×RNase Inhibitor Mix 4μLおよび該キットに含まれる20×T7 RNA Polymerase 2μLを混合し、37℃で5時間反応させた。反応後、該反応液にDEPC処理水60μLを加えた後、RNeasy Mini Kitを用いて添付プロトコールに従って、調製したラベル化cRNAを精製した。
【0081】
(3)ラベル化cRNAのフラグメント化
上記(3)で精製した各ラベル化cRNA 20μgを含む溶液に、5×Fragmentation Buffer(200mM トリス−酢酸,pH8.1(Sigma社製)、500mM酢酸カリウム(Sigma社製)および150mM酢酸マグネシウム(Sigma社製))8μLを加え、得られる反応液40μLを、94℃で35分間加熱した後、氷中に置いた。これによってラベル化cRNAをフラグメント化した。
【0082】
(4)フラグメント化cRNAとプローブアレイとのハイブリダイズ
上記(3)で得た各フラグメント化cRNA 40μLに、5nM Contol Oligo B2(Amersham社製)4μL、100×ControlcRNA Cocktail 4μL、Herring sperm DNA(Promega社製)40μg、Acetylated BSA(Gibco−BRL社製)200μg、2×MES Hybridization Buffer(200mM MES、2M[Na+]、40mM EDTA、0.02% Tween20(Pierce社製)、pH6.5−6.7)200μLおよびDEPC処理水144μLを混合し、400μLのハイブリカクテルを得た。得られた各ハイブリカクテルを99℃で5分間加熱し、更に45℃で5分間加熱した。加熱後、室温で14,000rpm、5分間遠心分離し、ハイブリカクテル上清を得た。
【0083】
一方、1×MESハイブリダイゼーションバッファーで満たしたHuman genome U95プローブアレイ(Affymetrix社製)を、ハイブリオーブン内で、45℃、60rpmで10分間回転させた後、1×MESハイブリダイゼーションバッファーを除去してプローブアレイを調製した。上記で得られたハイブリカクテル上清200μLを該プローブアレイにそれぞれ添加し、ハイブリオーブン内で45℃、60rpmで16時間回転させ、フラグメント化cRNAとハイブリダイズしたプローブアレイを得た。
【0084】
(5)プローブアレイの染色
上記(4)で得たハイブリダイズ済みプローブアレイのそれぞれから、ハイブリカクテルを回収除去した後、Non−Stringent Wash Buffer(6×SSPE(20×SSPE(ナカライテスク社製)を希釈)、0.01%Tween20および0.005%Antifoam0−30(Sigma社製))で満たした。次に、Non−Stringent Wash BufferおよびStringent Wash Buffer(100mM MES、0.1M NaClおよび0.01%Tween20)をセットしたGeneChip Fluidics Station400(Affymetrix社製)の所定の位置に、フラグメント化cRNAとハイブリダイズしたプローブアレイを装着した。その後、染色プロトコールEuKGE−WS2に従って、一次染色液(10μg/mL Streptavidin Phycoerythrin(SAPE)(MolecμLar Probe社製)、2mg/mL Acetylated BSA、100mM MES、1M NaCl(Ambion社製)、0.05%Tween20および0.005%Antifoam0−30)、および二次染色液(100μg/mL Goat IgG(Sigma社製)、3μg/mL Biotinylated Anti−Streptavidin antibody(Vector Laboratories社製)、2mg/mL Acetylated BSA、100mM MES、1M NaCl、0.05%Tween20および0.005%Antifoam0−30)でそれぞれ染色した。
【0085】
(6)プローブアレイのスキャン、および(7)遺伝子発現解析
上記(5)で染色した各プローブアレイをHP GeneArray Scanner(Affymetrix社製)に供し、染色パターンを読み取った。
【0086】
染色パターンをもとにGeneChip Workstation System(Affymetrix社製)によってプローブアレイ上のカルボニルレダクターゼ1遺伝子の発現を解析した。次に、解析プロトコールに従ってNormalizationおよび遺伝子発現の比較解析を行った。
【0087】
その結果、ヒト白血病細胞ではカルボニルレダクターゼ1の発現頻度は11%(18例中2例)であり、発現量中央値は−39となり、殆ど発現していないことが見出された。一方、ヒト肺組織のカルボニルレダクターゼ1の発現頻度は腺癌、扁平上皮癌、大細胞癌および正常組織では、それぞれ55%(44例中24例)、63%(32例中20例)、40%(5例中2例)および32%(69例中22例)であり、また、発現量はそれぞれ51、96、34および22であり、肺正常組織に比べて肺癌組織ではカルボニルレダクターゼ1の発現が亢進していること、とくに肺腺癌と扁平上皮癌の発現量は肺正常組織の発現量の2倍および4倍以上であることが見出された。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明により、肺癌患者を治療するために有用な、塩酸アムルビシンと他の肺癌治療剤の併用治療剤が提供される。他の肺癌治療剤との併用により、塩酸アムルビシンの抗腫瘍治療効果を向上させることができると共に、該肺癌治療剤の副作用を低減させた癌治療が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】図1は、塩酸アムルビシンの最大耐量(MTD)の0.5倍量とイリノテカンの最大耐量の0.5倍量を併用した場合の、小細胞肺癌細胞の増殖抑制効果を表す。直線はビークル群、□は塩酸アムルビシン単独投与群、△はイリノテカン単独投与群、▲は併用投与群を示す。
【0090】
【図2】図2は、塩酸アムルビシンの最大耐量の0.5倍量とイリノテカンの最大耐量の0.5倍量を併用した場合における、副作用としての体重減少作用を表す。直線はビークル群、□は塩酸アムルビシン単独投与群、△はイリノテカン単独投与群、▲は併用投与群を示す。
【0091】
【図3】図3は、塩酸アムルビシンの最大耐量の0.8倍量とイリノテカンの最大耐量の0.8倍量を併用した場合の、小細胞肺癌細胞の増殖抑制効果を表す。直線はビークル群、□は塩酸アムルビシン単独投与群、△はイリノテカン単独投与群、◆は併用投与群を示す。
【0092】
【図4】図4は、塩酸アムルビシンの最大耐量の0.8倍量とイリノテカンの最大耐量の0.8倍量を併用した場合における、副作用としての体重減少作用を表す。直線はビークル群、□は塩酸アムルビシン単独投与群、△はイリノテカン単独投与群、◆は併用投与群を示す。
【0093】
【図5】図5は、塩酸アムルビシンの最大耐量の1.0倍量とイリノテカンの最大耐量の1.0倍量を併用した場合の、小細胞肺癌細胞の増殖抑制効果を表す。直線はビークル群、□は塩酸アムルビシン単独投与群、△はイリノテカン単独投与群、●は併用投与群を示す。
【0094】
【図6】図6は、塩酸アムルビシンの最大耐量の1.0倍量とイリノテカンの最大耐量の1.0倍量を併用した場合における、副作用としての体重減少作用を表す。直線はビークル群、□は塩酸アムルビシン単独投与群、△はイリノテカン単独投与群、●は併用投与群を示す。
【0095】
【図7】図7は、塩酸アムルビシンの最大耐量の0.5倍量とビノレルビンの最大耐量の0.5倍量を併用した場合の、肺扁平上皮癌細胞の増殖抑制効果を表す。直線はビークル群、□は塩酸アムルビシン単独投与群、△はビノレルビン単独投与群、▲は併用投与群を示す。
【0096】
【図8】図8は、塩酸アムルビシンの最大耐量の0.5倍量とビノレルビンの最大耐量の0.5倍量を併用した場合における、副作用としての体重減少作用を表す。直線はビークル群、□は塩酸アムルビシン単独投与群、△はビノレルビン単独投与群、▲は併用投与群を示す。
【0097】
【図9】図9は、塩酸アムルビシンの最大耐量の0.8倍量とビノレルビンの最大耐量の0.8倍量を併用した場合の、肺扁平上皮癌の増殖抑制効果を表す。直線はビークル群、□は塩酸アムルビシン単独投与群、△はビノレルビン単独投与群、◆は併用投与群を示す。
【0098】
【図10】図10は、塩酸アムルビシンの最大耐量の0.8倍量とビノレルビンの最大耐量の0.8倍量を併用した場合における、副作用としての体重減少作用を表す。直線はビークル群、□は塩酸アムルビシン単独投与群、△はビノレルビン単独投与群、◆は併用投与群を示す。
【0099】
【図11】図11は、塩酸アムルビシンの最大耐量の1.0倍量とビノレルビンの最大耐量の1.0倍量を併用した場合の、肺扁平上皮癌の増殖抑制効果を表す。直線はビークル群、□は塩酸アムルビシン単独投与群、△はビノレルビン単独投与群、●は併用投与群を示す。
【0100】
【図12】図12は、塩酸アムルビシンの最大耐量の1.0倍量とビノレルビンの最大耐量の1.0倍量を併用した場合における、副作用としての体重減少作用を表す。直線はビークル群、□は塩酸アムルビシン単独投与群、△はビノレルビン単独投与群、●は併用投与群を示す。
【0101】
【図13】図13は、塩酸アムルビシンの最大耐量の0.5倍量とゲムシタビンの最大耐量の0.5倍量を併用した場合の、肺扁平上皮癌細胞の増殖抑制効果を表す。直線はビークル群、□は塩酸アムルビシン単独投与群、△はゲムシタビン単独投与群、▲は併用投与群を示す。
【0102】
【図14】図14は、塩酸アムルビシンの最大耐量の0.5倍量とゲムシタビンの最大耐量の0.5倍量を併用した場合における、副作用としての体重減少作用を表す。直線はビークル群、□は塩酸アムルビシン単独投与群、△はゲムシタビン単独投与群、▲は併用投与群を示す。
【0103】
【図15】図15は、塩酸アムルビシンの最大耐量の0.8倍量とゲムシタビンの最大耐量の0.8倍量を併用した場合の、肺扁平上皮癌の増殖抑制効果を表す。直線はビークル群、□は塩酸アムルビシン単独投与群、△はゲムシタビン単独投与群、◆は併用投与群を示す。
【0104】
【図16】図16は、塩酸アムルビシンの最大耐量の0.8倍量とゲムシタビンの最大耐量の0.8倍量を併用した場合における、副作用としての体重減少作用を表す。直線はビークル群、□は塩酸アムルビシン単独投与群、△はゲムシタビン単独投与群、◆は併用投与群を示す。
【0105】
【図17】図17は、塩酸アムルビシンの最大耐量の1.0倍量とゲムシタビンの最大耐量の1.0倍量を併用した場合の、肺扁平上皮癌の増殖抑制効果を表す。直線はビークル群、□は塩酸アムルビシン単独投与群、△はゲムシタビン単独投与群、●は併用投与群を示す。
【0106】
【図18】図18は、塩酸アムルビシンの最大耐量の1.0倍量とゲムシタビンの最大耐量の1.0倍量を併用した場合における、副作用としての体重減少作用を表す。直線はビークル群、□は塩酸アムルビシン単独投与群、△はゲムシタビン単独投与群、●は併用投与群を示す。
【0107】
【図19】図19は、塩酸アムルビシノールとイリノテカンのin vitro併用効果を表す。横軸は増殖抑制率を示すfa値とし、縦軸をCI(combination index)値として、fa値が0.1から0.9までをプロットした。
【技術分野】
【0001】
本発明は、他の肺癌治療剤と併用して肺癌を治療するための、アムルビシンまたはその薬学上許容される塩を有効成分とする治療剤に関する。
【背景技術】
【0002】
アムルビシン((+)−(7S,9S)−9−アセチル−9−アミノ−7−[(2−デオキシ−β−D−エリスロ−ペントピラノシル)オキシ]−7,8,9,10−テトラヒドロ−6,11−ジヒドロキシ−5,12−ナフタセンジオン)は、下記化学構造式で示されるアンスラサイクリン系化合物である(特公平3−5397号、US 4673668)。
【0003】
【化1】
【0004】
アムルビシンは生体内で容易に還元されて、13位水酸化体である代謝体(アムルビシノール)が生成されるが、このアムルビシノールはアムルビシンより腫瘍細胞増殖抑制作用がかなり強い。他のアンスラサイクリン系化合物であるドキソルビシンやダウノマイシンでも還元代謝体が生成されるが、逆に活性は減少する(Cancer Chemother.Pharmacol.,30,51−57(1992))。アムルビシンは心毒性に関してもウサギ慢性実験モデルにおいてドキソルビシンよりもはるかに弱い(Invest.New Drug,15,219−225(1997))。
【0005】
アンスラサイクリン系化合物は類似する構造を有しているものの、以下のようにその適応症や作用機序などが異なることが知られている。ダウノルビシンおよびイダルビシンは白血病に対する効能を有しているが、固形癌に対する効能を有していない。他方、ドキソルビシン、エピルビシン、ピラルビシンおよびアクラルビシンは固形癌に対する効能を有している。ダウノルビシンおよびドキソルビシンはDNA合成とRNA合成を同程度に阻害するが、アクラルビシンおよびマルセロマイシンはDNA合成よりRNA合成を強く阻害し、抗腫瘍効果の発現機序が全く異なっている(JJSHP,27,1087−1110(1991))。このように、癌の種類によって同じアンスラサイクリン系薬剤でも有効性が異なっており、また、同じ抗癌剤でも癌の種類によって有効性が相違することが知られている。従って、ある特定の腫瘍(癌)に関して、特定の抗癌剤が有効か否かは、具体的に実験で確認することが必要である。
【0006】
アムルビシンについては、ヒトT細胞白血病MOLT−3細胞株とヒト骨肉種MG−63細胞株に対して、塩酸アムルビシンとシスプラチン等の併用により相加的な効果を示すことが報告されている(Investigational New Drugs,14,357−363(1996))。さらに、マウス白血病P388細胞株を用いた実験により、アムルビシンとシスプラチンとのインビボの系での併用効果も報告されている(柳義和等、癌学会要旨集、講演No.2168(1989))。しかしながら、アムルビシンと他の肺癌治療剤との併用による肺癌の治療およびその副作用についてはなんら知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特公平3−5397号公報
【特許文献2】US 4673668
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Cancer Chemother.Pharmacol.,30,51−57(1992)
【非特許文献2】Invest.New Drug,15,219−225(1997)
【非特許文献3】JJSHP,27,1087−1110(1991)
【非特許文献4】Investigational New Drugs,14,357−363(1996)
【非特許文献5】柳義和等、癌学会要旨集、講演No.2168(1989)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、肺癌に対する抗腫瘍治療効果を向上させて、副作用を低減させた治療剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、鋭意検討の結果、アムルビシンと他の肺癌治療剤を併用すれば、それぞれ単剤での副作用が増悪されることなく顕著に肺癌を治療できること、またアムルビシンと他の肺癌治療剤との併用において、治療効果を維持しつつそれぞれの投与量を減らした場合は、副作用を劇的に減らすことができることを見出した。さらに、本発明者らは、アムルビシンを活性代謝体のアムルビシノールに変換するカルボニルレダクターゼ1遺伝子が、肺正常細胞および白血病細胞よりも、小細胞肺癌、肺腺癌、肺扁平上皮癌、肺大細胞癌等の肺癌細胞で発現量が多いこと、従って、肺癌細胞では、肺正常細胞や白血病細胞よりも選択的にアムルビシンがアムルビシノールに変換されて作用を示し、ゆえに副作用が少ないであろうことを見出した。
以上の知見に基づき、本発明は完成された。
【0011】
すなわち、本発明は、以下の通りである。
[1] 他の肺癌治療剤と併用して肺癌を治療するための、アムルビシンまたはその薬学上許容される塩を有効成分とする治療剤。
[2] 肺癌が小細胞肺癌、肺腺癌、肺扁平上皮癌または肺大細胞癌である[1]記載の治療剤。
[3] 肺癌が小細胞肺癌または肺扁平上皮癌である[1]記載の肺癌治療剤。
[4] アムルビシンまたはその薬学上許容される塩が塩酸アムルビシンである[1]〜[3]のいずれか記載の治療剤。
[5] 他の肺癌治療剤がイリノテカン、ノギテカン、ビノレルビン、ビンクリスチン、ゲムシタビン、5−FU、パクリタキセル、ドセタキセルまたはZD 1839である[1]〜[4]のいずれか記載の治療剤
【0012】
[6] 他の肺癌治療剤がイリノテカン、ビノレルビン、ゲムシタビン、パクリタキセル、ドセタキセルまたはZD 1839である[1]〜[4]のいずれか記載の治療剤。
[7] 他の肺癌治療剤の投与と同時に、分離して、または続けて投与される[1]〜[6]のいずれか記載の治療剤。
[8] 他の肺癌治療剤を投与した、または投与予定である肺癌患者のための[1]〜[7]のいずれか記載の肺癌治療剤。
[9] アムルビシンまたはその薬学上許容される塩を約60〜約150mg/m2単回または2〜5回に分けて投与されるように包装された[1]〜[8]のいずれか記載の治療剤。
[10] アムルビシンまたはその薬学上許容される塩が約80〜約130mg/m2単回投与されるよう包装されている[9]記載の治療剤。
【0013】
[11] アムルビシンまたはその薬学上許容される塩が約110〜約130mg/m2単回投与されるよう包装されている[9]記載の治療剤。
[12] アムルビシンまたはその薬学上許容される塩が1日1回約25〜約50mg/m2を3日間投与されるよう包装されている[9]記載の治療剤。
[13] アムルビシンまたはその薬学上許容される塩が1日1回約30〜約45mg/m2を3日間投与されるよう包装された[9]記載の治療剤。
[14] アムルビシンまたはその薬学上許容される塩が1日1回約35〜約45mg/m2を3日間投与されるよう包装された[9]記載の治療剤。
[15] アムルビシンまたはその薬学上許容される塩が3日間連日投与される[12]〜[14]のいずれか記載の治療剤。
【0014】
[16] 他の肺癌治療剤がその最大耐量の約0.4倍〜約1.0倍の量、またはその最高投与量の約0.4倍〜約1.0倍の量で併用されるための[1]〜[15]のいずれか記載の治療剤。
[17] 副作用によって他の肺癌治療剤による治療の継続ができない肺癌患者であって、副作用が軽減される量の該肺癌治療剤の投与を受けている患者のための[1]〜[16]のいずれか記載の治療剤。
[18] 他の肺癌治療剤と併用して肺癌を治療するための治療剤の製造のためのアムルビシンまたはその薬学上許容される塩の使用。
[19] アムルビシンまたはその薬学上許容される塩、および他の肺癌治療剤を投与することによる肺癌の治療方法。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の肺癌治療剤は、アムルビシンまたはその薬学上許容される塩を有効成分とする肺癌治療剤であって、他の肺癌治療剤と併用される。
【0016】
アムルビシンまたはその薬学上許容される塩は、例えばJ.Org.Chem.,52,4477−4485(1987)に従って製造することができる。アムルビシンの薬学上許容される塩としては、酸付加塩および塩基付加塩が挙げられる。酸付加塩としては、例えば塩酸塩、臭化水素酸塩、硫酸塩、ヨウ化水素酸塩、硝酸塩、リン酸塩等の無機酸塩、クエン酸塩、シュウ酸塩、酢酸塩、ギ酸塩、プロピオン酸塩、安息香酸塩、トリフルオロ酢酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩、酒石酸塩、アスパラギン酸塩、グルタミン酸塩、メタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、カンファースルホン酸塩等の有機酸塩が挙げられる。塩基付加塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、アンモニウム塩等の無機塩基塩、トリエチルアンモニウム塩、トリエタノールアンモニウム塩、ピリジニウム塩、ジイソプロピルアンモニウム塩等の有機塩基塩等が挙げられる。好ましい薬学上許容される塩として塩酸塩等を挙げることができる。
【0017】
アムルビシンまたはその薬学上許容される塩の最大耐量は、塩酸アムルビシンで言えば、マウスで25mg/kg(75mg/m2)であり、ヒトで1日1回の単回投与で130mg/m2、3日連日投与では1日当たり50mg/m2である。
【0018】
他の肺癌治療剤としては、アムルビシンまたはその薬学上許容される塩以外の肺癌治療剤であればよく、例えば、DNAトポイソメラーゼI阻害剤(イリノテカン、ノギテカンなど)、チューブリン重合阻害剤(ビノレルビン、ビンクリスチンなど)、代謝拮抗剤(ゲムシタビン、5−FUなど)、チューブリン脱重合阻害剤(パクリタキセル、ドセタキセルなど)、およびチロシンキナーゼ阻害剤(ZD 1839など)などが挙げられる。
【0019】
好ましい他の肺癌治療剤としては、例えば、以下の化合物等が挙げられる。
イリノテカン(Irinotecan):
特開昭60−19790,US 4604463,J.Clin.Oncol.,11,909(1993)
ノギテカン(Nogitecan):
EP 0 321 122 B1
ビノレルビン(Vinorelbine):
特開昭55−31096,US 4307100,Cancer Letters,27,285(1985)
ビンクリスチン(vincristine)
ゲムシタビン(Gemcitabine):
US 4808614,Cancer Treat.Rev.,19,45−55(1993)
【0020】
5−FU(5−Fluorourasil)
パクリタキセル(paclitaxel):
J.Am.Chem.Soc.,93,2325−2327(1971)
ドセタキセル(docetaxel):
J.Natl.Cancer Inst.,83,288−291(1991)
ZD 1839(4−(3−クロロ−4−フルオロアニリノ)−7−メトキシ−6−(3−モルホリノプロポキシ)キナゾリン;一般名ゲフィチニブ;商品名イレッサ):
Drugs 2000:60 Suppl.1,33−40
【0021】
イリノテカンのマウスでの最大耐量は120mg/kg、ヒトでの最高投与量は、例えば、1週間間隔投与では150mg/m2、3週間間隔投与では350mg/m2である。ビノレルビンのマウスでの最大耐量は16mg/kg、ヒトでの最高投与量は25mg/m2である。ゲムシタビンのマウスでの最大耐量は300mg/kg/dose、ヒトでの最高投与量は1000mg/m2である。パクリタキセルのマウスでの最大耐量は12.5mg/kg/dose、ヒトでの最高投与量は210mg/m2である。ドセタキセルのマウスでの最大耐量は30mg/kg/dose、ヒトでの最高投与量は70mg/m2である。ZD 1839のマウスでの最大耐量は200mg/kg、ヒトでの最大耐量は700mg/日、ヒトでの最高投与量は500mg/日程度である。
【0022】
肺癌としては、例えば小細胞肺癌、肺腺癌、肺扁平上皮癌、肺大細胞癌、カルチノイド、腺様嚢胞癌、粘表皮癌、悪性混合腫瘍等が挙げられる。この中で、本発明の肺癌治療剤が好ましい効果を示すものの例として、小細胞肺癌、肺腺癌、肺扁平上皮癌、肺大細胞癌等が挙げられ、特に好ましくは小細胞肺癌および肺扁平上皮癌を挙げることができる。
【0023】
マウスを用いた実施例1〜3の結果から、以下のことが見出された。
(1)塩酸アムルビシン最大耐量の0.5倍量(12.5mg/kg)、および他の肺癌治療剤の最大耐量の0.5倍量の併用では、それぞれの単剤の最大耐量投与群と比較して同程度の抗癌効果があり、一方、それらの副作用は激減した。
【0024】
(2)塩酸アムルビシン最大耐量の0.8または1.0倍量(20または25mg/kg)、および他の肺癌治療剤の最大耐量の0.8または1.0倍量の併用では、それぞれの単剤の最大耐量投与群と比較して強力な抗癌効果があり、一方、それらの副作用は増えることなく同程度であった。
【0025】
このように、アムルビシンまたはその薬学上許容される塩の最大耐量の約0.5〜約1倍量および他の肺癌治療剤の最大耐量(もしくは最高投与量)の約0.5〜約1倍量を併用することで、該肺癌治療剤およびアムルビシンまたはその薬学上許容される塩の副作用を増やすことなく、時として副作用を減らして、安全にそして十分に抗癌効果を得ることができる。例えば、該肺癌治療剤またはアムルビシンの副作用が問題となる場合は、アムルビシンまたはその薬学上許容される塩の最大耐量の約0.5〜約1倍量および他の肺癌治療剤の最大耐量(もしくは最高投与量)の約0.5〜約1倍量の範囲の中でより低い投与量を用いることができ、他方、他の肺癌治療剤またはアムルビシンの副作用が問題とならない場合は、アムルビシンまたはその薬学上許容される塩の最大耐量の約0.5〜約1倍量および他の肺癌治療剤の最大耐量(もしくは最高投与量)の約0.5〜約1倍量の範囲の中でより高い投与量を用いて、最大の抗癌効果を安全に得ることができる。
【0026】
ヒトの肺癌の治療においては、患者の状態、年齢、体重等により適宜変更されるが、例えばアムルビシンまたはその薬学上許容される塩を約60〜約150mg/m2および他の肺癌治療剤をその最大耐量(もしくは最高投与量)の0.4倍〜1.0倍の量で併用することができる。そのアムルビシンまたはその薬学上許容される塩は、例えば約60〜約150mg/m2を単回または2〜5回に分けて投与することができる。好ましいアムルビシンまたはその薬学上許容される塩の投与スケジュールとしては、例えば単回投与、1日1回3日間投与等を挙げることができ、特に好ましくは1日1回3日間連日投与を挙げることができる。単回投与をする際の投与量としては、例えば約80〜約130mg/m2の範囲を挙げることができ、好ましくは約110〜約130mg/m2の範囲を挙げることができ、特に好ましくは約120mg/m2等を挙げることができる。3日間連日投与をする際の1日当たりの投与量としては、例えば約25〜約50mg/m2の範囲を挙げることができ、好ましくは約30〜約45mg/m2の範囲が挙げられ、さらに好ましくは約35〜約45mg/m2の範囲が挙げられ、特に好ましくは約40mg/m2、約45mg/m2等を挙げることができる。
【0027】
併用される他の肺癌治療剤の投与量としては、例えば単回投与でその最大耐量もしくは最高投与量の約0.4倍〜約1.0倍の範囲が挙げられ、好ましくは単回投与でその最大耐量もしくは最高投与量の約0.5倍〜約0.9倍の量が挙げられる。例えば、イリノテカンでは約75〜約135mg/m2が、ビノレルビンでは約12.5〜約22.5mg/m2が、ゲムシタビンでは約500〜約900mg/m2が、パクリタキセルでは約105〜約190mg/m2が、ドセタキセルでは約35〜約63mg/m2が、ZD 1839では約350〜約630mg/日程度が挙げられる。ZD 1839では最高投与量よりかなり低い投与量でも効果を表すことが知られているので、約125〜約630mg/日程度で併用効果を示すことが可能である。なお、これら他の肺癌治療剤は数回に分けて、1日あるいは数日かけて投与することもできる。
【0028】
他の肺癌治療剤による治療を行った肺癌患者で、その肺癌治療剤の副作用等のために治療の継続ができないと判断された場合は、その副作用が軽減される投与量の該肺癌治療剤を投与し、さらにアムルビシンまたはその薬学上許容される塩を投与することで、該肺癌治療剤の副作用を低減させて治療を続行することができる。その副作用が軽減される量の該肺癌治療剤としては、例えばその最大耐量(もしくは最高投与量)の約0.4倍〜約0.8倍の量が挙げられ、好ましくはその最大耐量(もしくは最高投与量)の約0.4倍〜約0.6倍の量が挙げられる。
【0029】
本発明の肺癌治療剤において、アムルビシンまたはその薬学上許容される塩は、他の肺癌治療剤の投与と同時に、分離して、または続けて投与される。分離してまたは続けて投与される場合は、アムルビシンまたはその薬学上許容される塩を他の肺癌治療剤より先に投与しても、後に投与してもよい。その際の両投与の間隔としては、適宜決めることができるが、例えば、1〜数時間、十〜数十時間、1〜数日、1週間等とすることができる。例えば、アムルビシンまたはその薬学上許容される塩と、他の肺癌治療剤を同じ日に投与するのが、患者の通院等の手間を考えると好ましい。
【0030】
本発明の肺癌治療剤は、患者の症状、年齢、体重、投与形態、併用される他の肺癌治療剤の投与量、投与回数等によって適宜変化するが、上記アムルビシンまたはその薬学上許容される塩および他の肺癌治療剤の各投与後、さらに同各投与を、約7日間〜約60日の間隔をあけて繰り返すのが好ましい。特に好ましくは、約2週間〜約4週間ごとに、さらに好ましくは約3週間ごとに繰り返すのがよい。
【0031】
アムルビシンまたはその薬学上許容される塩は、通常、非経口的(例えば、静脈内、動脈内、皮下、筋肉内注射、膀胱内、腹腔内、胸腔内、局所的、経直腸的、経皮的、経鼻的等)に投与することができる。好ましくは、静脈内投与を挙げることができる。また、経口投与に用いることもでき、経口投与のための形態としては、例えば、錠剤、カプセル剤、丸剤、顆粒剤、散剤、液剤、シロップ剤または懸濁剤などが挙げられる。
【0032】
他の肺癌治療剤は、通常、非経口的(例えば、静脈内、動脈内、皮下、筋肉内注射、膀胱内、腹腔内、胸腔内、局所的、経直腸的、経皮的、経鼻的等)に投与することができる。好ましくは、静脈内投与を挙げることができる。また、経口投与に用いることもでき、経口投与のための形態としては、例えば、錠剤、カプセル剤、丸剤、顆粒剤、散剤、液剤、シロップ剤または懸濁剤などが挙げられる。
【0033】
本発明の肺癌治療剤においては、さらに他の肺癌治療剤、放射線療法、外科的手段等を組み合わせることもできる。また、(a)有効成分としてアムルビシンまたはその薬学上許容される塩を含む第1の組成物、および(b)有効成分として他の肺癌治療剤を含む第2の組成物からなる、肺癌併用治療のためのキットとすることもできる。
【実施例】
【0034】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0035】
実施例1
塩酸アムルビシンとイリノテカンとの併用による抗腫瘍効果
6週令のヌードマウス(59匹)にヒト小細胞肺癌LX−1細胞株を皮下移植した。腫瘍移植の11日後に腫瘍容積が約100〜300mm3となった36匹を1群6匹で6群に群分けした。その日に、「ビークル群」にはシステイン緩衝液を、「塩酸アムルビシン単独投与群」には塩酸アムルビシン最大耐量(25mg/kg)を、「イリノテカン単独投与群」にはイリノテカン最大耐量(120mg/kg)を、「併用群(0.5×MTD)」には塩酸アムルビシン最大耐量の0.5倍量およびイリノテカン最大耐量の0.5倍量を、「併用群(0.8×MTD)」には塩酸アムルビシン最大耐量の0.8倍量およびイリノテカン最大耐量の0.8倍量を、「併用群(1×MTD))には塩酸アムルビシン最大耐量およびイリノテカン最大耐量を、それぞれ静脈内投与した。その後、23日間、マウスの腫瘍容積と体重を測定した。
【0036】
塩酸アムルビシンはシステイン緩衝液(0.4mg/mLのL−システイン塩酸塩1水和物、6.25mg/mLの乳糖を含む)により2.5mg/mLになるように溶解し、また、これをシステイン緩衝液で希釈することで2.0および1.25mg/mLの溶液を調製して、それぞれ10mL/kgの液量を投与することで、塩酸アムルビシン最大耐量、その0.8倍量、およびその0.5倍量の投与とした。
【0037】
イリノテカンは(株)第一製薬より購入したトポテシン注(20mg/mL含有)を120、96および60mg/kgの液量で投与することで、イリノテカン最大耐量、その0.8倍量、およびその0.5倍量の投与とした。
【0038】
図1および図2に、併用群(0.5×MTD)の腫瘍容積と体重の変化を、それぞれ、塩酸アムルビシン単独投与群とイリノテカン単独投与群のデータと共に示す。
【0039】
図3および図4に、併用群(0.8×MTD)の腫瘍容積と体重の変化を、それぞれ、塩酸アムルビシン単独投与群とイリノテカン単独投与群のデータと共に示す。
【0040】
図5および図6に、併用群(1×MTD)の腫瘍容積と体重の変化を、それぞれ、塩酸アムルビシン単独投与群とイリノテカン単独投与群のデータと共に示す。
【0041】
表1に、各群の腫瘍増殖率の最小T/C%値を示す。最小T/C%値は以下のように計算した。
最小T/C%値:ビークル投与群の腫瘍増殖率*)に対するそれぞれの投与群の腫瘍増殖率*)の比率(%)の測定期間中の最低値。
*)腫瘍増殖率:薬剤投与時点の腫瘍容積の1群6匹の平均値に対する各測定時点の腫瘍容積の1群6匹の平均値の比率。
【0042】
【表1】
【0043】
1.併用群(0.5×MTD)の結果
図1に示されるように、併用投与の抗腫瘍効果は、それぞれの単剤の最大耐量投与群と比較し同程度の効果であった。すなわち、最小T/C%値は塩酸アムルビシン単独投与群では40.79%、イリノテカン単独投与群では45.61%であったが、併用群(0.5×MTD)の場合は45.05%であった。
副作用は、動物の体重減少で評価すると、図2で示されるように、それぞれの単剤の単独投与群と比較し、イリノテカン単剤投与群と同程度であった。
【0044】
2.併用群(0.8×MTD)の結果
図3に示されるように、腫瘍の縮退が見られ、併用投与の抗腫瘍効果は、それぞれの単剤の単独投与群と比較し、強い抗腫瘍効果を示した。すなわち、最小T/C%値は塩酸アムルビシン単独投与群では40.79%、イリノテカン単独投与群では45.61%であったが、併用群(0.8×MTD)の場合は28.17%であった。
副作用は、動物の体重減少で評価すると、図4で示されるように、塩酸アムルビシン単独投与群と同程度であった。
【0045】
3.併用群(1×MTD)の結果
図5に示されるように、0.8倍量の場合と同様に腫瘍の縮退が見られ、併用投与の抗腫瘍効果は、それぞれの単剤の単独投与群と比較し、強い抗腫瘍効果を示した。すなわち、最小T/C%値は塩酸アムルビシン単独投与群では40.79%、イリノテカン単独投与群では45.61%であったが、併用群(1×MTD)の場合は24.24%であった。
副作用は、動物の体重減少で評価すると、図6で示されるように、一時的に3g程度の体重減少が見られるが回復した。
【0046】
実施例2
塩酸アムルビシンとビノレルビンとの併用による抗腫瘍効果
実施例1と同様にして、塩酸アムルビシンとビノレルビンとの併用による抗腫瘍効果を試験した。ただし、ヒト小細胞肺癌LX−1細胞株の代わりにヒト肺扁平上皮癌QG−56細胞株を用い、ビノレルビンの最大耐量を16mg/kgとした。ビノレルビンは(株)協和醗酵工業より購入したナベルビン注(10mg/mL含有)を16、12.8および8mL/kgの液量で投与することで、ビノレルビン最大耐量、その0.8倍量、およびその0.5倍量の投与とした。また、5週令のヌードマウス(100匹)を使用した。
【0047】
図7および図8に、併用群(0.5×MTD)の腫瘍容積と体重の変化を、それぞれ、塩酸アムルビシン単独投与群とビノレルビン単独投与群のデータと共に示す。
【0048】
図9および図10に、併用群(0.8×MTD)の腫瘍容積と体重の変化を、それぞれ、塩酸アムルビシン単独投与群とビノレルビン単独投与群のデータと共に示す。
【0049】
図11および図12に、併用群(1×MTD)の腫瘍容積と体重の変化を、それぞれ、塩酸アムルビシン単独投与群とビノレルビン単独投与群のデータと共に示す。
【0050】
表2に、各群の腫瘍増殖率の最小T/C%値を示す。
【0051】
【表2】
【0052】
1.併用群(0.5×MTD)の結果
図7に示されるように、併用投与の抗腫瘍効果は、それぞれの単剤の最大耐量投与群と比較し同程度の効果であった。すなわち、最小T/C%値は塩酸アムルビシン単独投与群では37.73%、ビノレルビン単独投与群では38.24%であったが、併用群(0.5×MTD)の場合は42.43%であった。
副作用は、動物の体重減少で評価すると、図8で示されるように、それぞれの単剤の単独投与群と比較し、体重減少はほとんどなく、副作用の増強はみられなかった。
【0053】
2.併用群(0.8×MTD)の結果
図9に示されるように、腫瘍の縮退が見られ、併用投与の抗腫瘍効果は、それぞれの単剤の単独投与群と比較し、強い抗腫瘍効果を示した。すなわち、最小T/C%値は塩酸アムルビシン単独投与群では37.73%、ビノレルビン単独投与群では38.24%であったが、併用群(0.8×MTD)の場合は31.10%であった。
副作用は、動物の体重減少で評価すると、図10で示されるように、両単独投与群と同程度であった。
【0054】
3.併用群(1×MTD)の結果
図11に示されるように、0.8倍量の場合と同様に腫瘍の縮退が見られ、併用投与の抗腫瘍効果は、それぞれの単剤の単独投与群と比較し、強い抗腫瘍効果を示した。すなわち、最小T/C%値は塩酸アムルビシン単独投与群では37.73%、ビノレルビン単独投与群では38.24%であったが、併用群(1×MTD)の場合は27.15%であった。
副作用は、動物の体重減少で評価すると、図12で示されるように、一時的に1.4g程度の体重減少が見られるが回復した。
【0055】
実施例3
塩酸アムルビシンとゲムシタビンとの併用による抗腫瘍効果
実施例2と同様にして、塩酸アムルビシンとゲムシタビンとの併用による抗腫瘍効果を試験した。ただし、ゲムシタビンの最大耐量を300mg/kg/dayとし、1週間に1回腹腔内投与を2クール投与した。ゲムシタビンは(株)日本イーライリリーより購入したジェムザール注(200mg/バイアル含有)を300、240および150mL/kgの液量で投与することで、ゲムシタビン最大耐量、その0.8倍量、およびその0.5倍量の投与とした。また、5週令のヌードマウス(80匹)を使用した。
【0056】
図13および図14に、併用群(0.5×MTD)の腫瘍容積と体重の変化を、それぞれ、塩酸アムルビシン単独投与群とゲムシタビン単独投与群のデータと共に示す。
【0057】
図15および図16に、併用群(0.8×MTD)の腫瘍容積と体重の変化を、それぞれ、塩酸アムルビシン単独投与群とゲムシタビン単独投与群のデータと共に示す。
【0058】
図17および図18に、併用群(1×MTD)の腫瘍容積と体重の変化を、それぞれ、塩酸アムルビシン単独投与群とゲムシタビン単独投与群のデータと共に示す。
【0059】
表3に、各群の腫瘍増殖率の最小T/C%値を示す。
【0060】
【表3】
【0061】
1.併用群(0.5×MTD)の結果
図13に示されるように、併用投与の抗腫瘍効果は、それぞれの単剤の最大耐量投与群と比較し同程度の効果であった。すなわち、最小T/C%値は塩酸アムルビシン単独投与群では51.06%、ゲムシタビン単独投与群では69.47%であったが、併用群(0.5×MTD)の場合は56.67%であった。
副作用は、動物の体重減少で評価すると、図14で示されるように、それぞれの単剤の単独投与群と比較し、ゲムシタビンの投与量半減に起因すると考えられる強い副作用の軽減効果が得られた。
【0062】
2.併用群(0.8×MTD)の結果
図15に示されるように、腫瘍の縮退が見られ、併用投与の抗腫瘍効果は、それぞれの単剤の単独投与群と比較し、強い抗腫瘍効果を示した。すなわち、最小T/C%値は塩酸アムルビシン単独投与群では51.06%、ゲムシタビン単独投与群では69.47%であったが、併用群(0.8×MTD)の場合は34.27%であった。
副作用は、動物の体重減少で評価すると、図16で示されるように、塩酸アムルビシン単剤の最大耐量投与群と同程度の副作用であった。
【0063】
3.併用群(1×MTD)の結果
図17に示されるように、0.8倍量の場合と同様に腫瘍の縮退が見られ、併用投与の抗腫瘍効果は、それぞれの単剤の単独投与群と比較し、強い抗腫瘍効果を示した。すなわち、最小T/C%値は塩酸アムルビシン単独投与群では51.06%、ゲムシタビン単独投与群では69.47%であったが、併用群(1×MTD)の場合は41.33%であった。
副作用は、動物の体重減少で評価すると、図18で示されるように、ゲムシタビン単剤の最大耐量投与群と同程度の副作用であった。
【0064】
以上の実施例1〜3のように、塩酸アムルビシンとイリノテカン、ビノレルビンおよびゲムシタビンの併用において副作用が低減され、顕著な治療効果が認められた。また、図1〜18で分かる通り、併用の効果は投与時から2週間の間が特に顕著に表れ、3週間後にほぼ効果が消滅する。従って、約2週間〜約4週間後に再度投与を繰り返すことが好ましく、特に約3週間後に再投与し、その後も継続するのが好ましいと考えられる。
【0065】
実施例1と同様にして、パクリタキセル(最大耐量は12.5mg/kg/dose)についても塩酸アムルビシンとの併用効果を確認することができる。また、ZD 1839(最大耐量は200mg/kg)については、細胞株をヒト扁平上皮癌であるA431に変えて実施例1と同様の実験を行うことにより、塩酸アムルビシンとの併用効果を確認することができる。
【0066】
実施例4
塩酸アムルビシノールとイリノテカンのin vitro併用効果
ヒト非小細胞肺癌細胞を用いて、塩酸アムルビシノールおよび塩酸イリノテカンのin vitroにおける併用効果を調べた。
【0067】
ヒト非小細胞肺癌細胞株A549をATCC(American Type CultureCollection)より入手した。D−MEM(Dulbecco’s Modified Eagle Mediunm)培地、10%ウシ胎児血清(FCS)を含有する培地にて、ヒト非小細胞肺癌細胞株A549を継代培養した。培養は、37℃、5%CO2にてインキュベータ中で実施した。以後の実験にも本培地を用いた。
【0068】
被験物質は以下のように調製した。
塩酸イリノテカンを第一製薬株式会社より入手し、使用時に培地で2倍段階希釈して用いた。
アムルビシノールは、文献記載の方法(Ishizumi et al.,J.Org.Chem.,52,4477−4485(1987))によって製造した。塩酸アムルビシノールは、ディープフリーザー(−80℃)で保存されているものを約1mgずつ秤量し、冷凍庫(−20℃)で保存した。使用時に1mg/mlになるように蒸留水で溶解し、濾過滅菌後、培地で2倍段階希釈して用いた。
【0069】
継代中のヒト非小細胞肺癌細胞株A549をトリプシン処理し、培地に懸濁後、96ウェルプレートに播種した。播種濃度は、5x102cells/0.1ml/wellとした。播種後、37℃、5%CO2にてインキュベータ中で一晩培養した(Day0)。
単剤評価群には被験物質希釈液0.05ml/wellと培地0.05ml/wellとを添加し、併用評価群には塩酸アムルビシノール希釈液0.05ml/wellと塩酸イリノテカン希釈液0.05ml/wellを添加した(Day1)。薬剤処理群はn=3、非処理(対照)群はn=6で行った。
【0070】
Day4まで、37℃、5%CO2にてインキュベータ中で培養した。
【0071】
Day4に、各ウェルに0.02mlのWST溶液(リン酸緩衝液(PBS)に、1.3mg/ml WST−1(2−(4−Iodophenyl)−3−(4−nitrophenyl)−5−(2,4−disulfophenyl)−2H−tetrezolium,sodium salt)および0.14mg/ml 1−Methoxy PMS(1−Methoxy−5−methylphenazinium methylsulfate)を含有する溶液)を添加した。その後、2〜4時間、37℃、5%CO2にてインキュベータ中で培養し、MICROPLATE READER Model 3550−UV(Biorad社)で吸光度を測定し、生細胞数を測定した。
【0072】
以下の式で増殖率fを計算した。
f=(各薬剤濃度での吸光度の平均値)/(薬剤濃度0mg/mlの吸光度の平均値)
吸光度:A420 − A630
log(薬剤濃度)に対しlog((1/f)−1)をプロットし、最小2乗法で回帰直線を引き、その傾きmとX切片を求めた。Exp(X切片の値)がIC50値(50%の細胞増殖抑制に必要な薬剤の濃度)となる。併用処理時の塩酸アムルビシノールと塩酸イリノテカンの濃度比は1:25として、それぞれmとIC50値を求めた。(以降、IC50値をDmと表記し、塩酸アムルビシノールについては添え字1、塩酸イリノテカンについては添え字2で表わした。例:Dm1)
【0073】
ある増殖抑制率(fa)を得るために必要とされる塩酸アムルビシノールおよび塩酸イリノテカンの濃度Dを式(1)より求めた。単剤での濃度をDf1、Df2および併用時での濃度をDx1、Dx2とし、式(2)よりCombination index(CI)を算出した(M.Pegram et al.,Oncogene,18,2241−2251(1999))。
【0074】
D=Dm×{fa/(1−fa)}1/m・・・・(1)
CI=Dx1/Df1+Dx2/Df2+(Dx1×Dx2)/(Df1×Df2)・・・・(2)
【0075】
CI=1で相加効果、CI<1で相乗効果、CI>1で拮抗効果と判断される。
【0076】
図19に、塩酸アムルビシノールとイリノテカンのin vitro併用効果を示す。横軸は増殖抑制率fa、縦軸はcombination index(CI)を表す。図19に示されるように、Combination index(CI)はfa=0.1〜0.9の範囲において1より小さい値を示し、CIによる併用効果の判定では、塩酸アムルビシノールと塩酸イリノテカンとの併用で強い相乗効果が認められた。
【0077】
実施例5
正常および腫瘍組織でのカルボニルレダクターゼ遺伝子発現の変動解析
ヒト肺正常組織69サンプルとヒトの肺腺癌組織44サンプル、肺扁平上皮癌組織32サンプル、肺大細胞癌組織5サンプルおよび白血病細胞18サンプルからそれぞれ調製したtotal RNAを用いて、DNAチップ解析を行った。DNAチップ解析は、Affymetrix社Gene Chip Human Genome U95A,B,C,D,Eを用いて行った。具体的には、解析は、(1)total RNAからのcDNAの調製、(2)該cDNAからラベル化cRNAの調製、(3)ラベル化cRNAのフラグメント化、(4)フラグメント化cRNAとプローブアレイとのハイブリダイズ、(5)プローブアレイの染色、(6)プローブアレイのスキャンおよび(7)遺伝子発現解析の手順で行った。
【0078】
(1)Total RNAからのcDNAの調製
ヒト肺正常組織69サンプルとヒトの肺腺癌組織44サンプル、肺扁平上皮癌組織32サンプル、肺大細胞癌組織5サンプルおよび白血病細胞18サンプルから調製した各total RNA 10μgおよびT7−(dT)24プライマー(Amersham社製)100pmolを含む11μLの混合液を、70℃で10分間加熱した後、氷上で冷却した。冷却後、SuperScript Choice System for cDNA Synthesis(Gibco−BRL社製)に含まれる5×First Strand cDNA Buffer 4μL、該キットに含まれる0.1M DTT(dithiothreitol)2μLおよび該キットに含まれる10mM dNTP Mix 1μLを添加し、42℃で2分間加熱した。更に、該キットに含まれるSuper ScriptII RT 2μL(400U)を添加し、42℃で1時間加熱した後、氷上で冷却した。冷却後、DEPC処理水(ナカライテスク社製)91μL、該キットに含まれる5×Second Strand Reaction Buffer 30μL、10mM dNTP Mix 3μL、該キットに含まれるE.coli DNA Ligase 1μL(10U)、該キットに含まれるE.coli DNA Polymerase I 4μL(40U)および該キットに含まれるE.coli RNaseH 1μL(2U)を添加し、16℃で2時間反応させた。次いで、該キットに含まれるT4 DNA Polymerase 2μL(10U)を加え、16℃で5分間反応させた後、0.5M EDTA 10μLを添加した。次いで、フェノール/クロロホルム/イソアミルアルコール溶液(ニッポンジーン社製)162μLを添加して混合した。該混合液を、予め室温、14,000rpm、30秒間遠心分離しておいたPhase Lock Gel Light(エッペンドルフ社製)に移し、室温で14,000rpm、2分間遠心分離した後、145μLの水層をエッペンドルフチューブに移した。得られた溶液に、7.5M酢酸アンモニウム溶液72.5μLおよびエタノール362.5μLを加えて混合した後、4℃、14,000rpm、20分間遠心分離した。遠心分離後、上清を捨て、作製したcDNAを含むDNAペレットを得た。その後、該ペレットに80%エタノール0.5mLを添加し、4℃、14,000rpm、5分間遠心分離した後、上清を捨てた。再度同様の操作を行った後、該ペレットを乾燥させ、DEPC処理水12μLに溶解した。
【0079】
以上の操作によって、ヒト肺正常組織69サンプルとヒトの肺腺癌組織44サンプル、肺扁平上皮癌組織32サンプル、肺大細胞癌組織5サンプルおよび白血病細胞18サンプル由来のtotalRNAからcDNAを取得した。
【0080】
(2)cDNAからラベル化cRNAの調製
上記(1)で調製した各cDNA溶液5μLに、DEPC処理水17μL、BioArray High Yield RNA Transcript Labeling Kit(ENZO社製)に含まれる10×HY Reaction Buffer 4μL、該キットに含まれる10×Biotin LabeledRibonucleotides 4μL、該キットに含まれる10×DTT 4μL、該キットに含まれる10×RNase Inhibitor Mix 4μLおよび該キットに含まれる20×T7 RNA Polymerase 2μLを混合し、37℃で5時間反応させた。反応後、該反応液にDEPC処理水60μLを加えた後、RNeasy Mini Kitを用いて添付プロトコールに従って、調製したラベル化cRNAを精製した。
【0081】
(3)ラベル化cRNAのフラグメント化
上記(3)で精製した各ラベル化cRNA 20μgを含む溶液に、5×Fragmentation Buffer(200mM トリス−酢酸,pH8.1(Sigma社製)、500mM酢酸カリウム(Sigma社製)および150mM酢酸マグネシウム(Sigma社製))8μLを加え、得られる反応液40μLを、94℃で35分間加熱した後、氷中に置いた。これによってラベル化cRNAをフラグメント化した。
【0082】
(4)フラグメント化cRNAとプローブアレイとのハイブリダイズ
上記(3)で得た各フラグメント化cRNA 40μLに、5nM Contol Oligo B2(Amersham社製)4μL、100×ControlcRNA Cocktail 4μL、Herring sperm DNA(Promega社製)40μg、Acetylated BSA(Gibco−BRL社製)200μg、2×MES Hybridization Buffer(200mM MES、2M[Na+]、40mM EDTA、0.02% Tween20(Pierce社製)、pH6.5−6.7)200μLおよびDEPC処理水144μLを混合し、400μLのハイブリカクテルを得た。得られた各ハイブリカクテルを99℃で5分間加熱し、更に45℃で5分間加熱した。加熱後、室温で14,000rpm、5分間遠心分離し、ハイブリカクテル上清を得た。
【0083】
一方、1×MESハイブリダイゼーションバッファーで満たしたHuman genome U95プローブアレイ(Affymetrix社製)を、ハイブリオーブン内で、45℃、60rpmで10分間回転させた後、1×MESハイブリダイゼーションバッファーを除去してプローブアレイを調製した。上記で得られたハイブリカクテル上清200μLを該プローブアレイにそれぞれ添加し、ハイブリオーブン内で45℃、60rpmで16時間回転させ、フラグメント化cRNAとハイブリダイズしたプローブアレイを得た。
【0084】
(5)プローブアレイの染色
上記(4)で得たハイブリダイズ済みプローブアレイのそれぞれから、ハイブリカクテルを回収除去した後、Non−Stringent Wash Buffer(6×SSPE(20×SSPE(ナカライテスク社製)を希釈)、0.01%Tween20および0.005%Antifoam0−30(Sigma社製))で満たした。次に、Non−Stringent Wash BufferおよびStringent Wash Buffer(100mM MES、0.1M NaClおよび0.01%Tween20)をセットしたGeneChip Fluidics Station400(Affymetrix社製)の所定の位置に、フラグメント化cRNAとハイブリダイズしたプローブアレイを装着した。その後、染色プロトコールEuKGE−WS2に従って、一次染色液(10μg/mL Streptavidin Phycoerythrin(SAPE)(MolecμLar Probe社製)、2mg/mL Acetylated BSA、100mM MES、1M NaCl(Ambion社製)、0.05%Tween20および0.005%Antifoam0−30)、および二次染色液(100μg/mL Goat IgG(Sigma社製)、3μg/mL Biotinylated Anti−Streptavidin antibody(Vector Laboratories社製)、2mg/mL Acetylated BSA、100mM MES、1M NaCl、0.05%Tween20および0.005%Antifoam0−30)でそれぞれ染色した。
【0085】
(6)プローブアレイのスキャン、および(7)遺伝子発現解析
上記(5)で染色した各プローブアレイをHP GeneArray Scanner(Affymetrix社製)に供し、染色パターンを読み取った。
【0086】
染色パターンをもとにGeneChip Workstation System(Affymetrix社製)によってプローブアレイ上のカルボニルレダクターゼ1遺伝子の発現を解析した。次に、解析プロトコールに従ってNormalizationおよび遺伝子発現の比較解析を行った。
【0087】
その結果、ヒト白血病細胞ではカルボニルレダクターゼ1の発現頻度は11%(18例中2例)であり、発現量中央値は−39となり、殆ど発現していないことが見出された。一方、ヒト肺組織のカルボニルレダクターゼ1の発現頻度は腺癌、扁平上皮癌、大細胞癌および正常組織では、それぞれ55%(44例中24例)、63%(32例中20例)、40%(5例中2例)および32%(69例中22例)であり、また、発現量はそれぞれ51、96、34および22であり、肺正常組織に比べて肺癌組織ではカルボニルレダクターゼ1の発現が亢進していること、とくに肺腺癌と扁平上皮癌の発現量は肺正常組織の発現量の2倍および4倍以上であることが見出された。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明により、肺癌患者を治療するために有用な、塩酸アムルビシンと他の肺癌治療剤の併用治療剤が提供される。他の肺癌治療剤との併用により、塩酸アムルビシンの抗腫瘍治療効果を向上させることができると共に、該肺癌治療剤の副作用を低減させた癌治療が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】図1は、塩酸アムルビシンの最大耐量(MTD)の0.5倍量とイリノテカンの最大耐量の0.5倍量を併用した場合の、小細胞肺癌細胞の増殖抑制効果を表す。直線はビークル群、□は塩酸アムルビシン単独投与群、△はイリノテカン単独投与群、▲は併用投与群を示す。
【0090】
【図2】図2は、塩酸アムルビシンの最大耐量の0.5倍量とイリノテカンの最大耐量の0.5倍量を併用した場合における、副作用としての体重減少作用を表す。直線はビークル群、□は塩酸アムルビシン単独投与群、△はイリノテカン単独投与群、▲は併用投与群を示す。
【0091】
【図3】図3は、塩酸アムルビシンの最大耐量の0.8倍量とイリノテカンの最大耐量の0.8倍量を併用した場合の、小細胞肺癌細胞の増殖抑制効果を表す。直線はビークル群、□は塩酸アムルビシン単独投与群、△はイリノテカン単独投与群、◆は併用投与群を示す。
【0092】
【図4】図4は、塩酸アムルビシンの最大耐量の0.8倍量とイリノテカンの最大耐量の0.8倍量を併用した場合における、副作用としての体重減少作用を表す。直線はビークル群、□は塩酸アムルビシン単独投与群、△はイリノテカン単独投与群、◆は併用投与群を示す。
【0093】
【図5】図5は、塩酸アムルビシンの最大耐量の1.0倍量とイリノテカンの最大耐量の1.0倍量を併用した場合の、小細胞肺癌細胞の増殖抑制効果を表す。直線はビークル群、□は塩酸アムルビシン単独投与群、△はイリノテカン単独投与群、●は併用投与群を示す。
【0094】
【図6】図6は、塩酸アムルビシンの最大耐量の1.0倍量とイリノテカンの最大耐量の1.0倍量を併用した場合における、副作用としての体重減少作用を表す。直線はビークル群、□は塩酸アムルビシン単独投与群、△はイリノテカン単独投与群、●は併用投与群を示す。
【0095】
【図7】図7は、塩酸アムルビシンの最大耐量の0.5倍量とビノレルビンの最大耐量の0.5倍量を併用した場合の、肺扁平上皮癌細胞の増殖抑制効果を表す。直線はビークル群、□は塩酸アムルビシン単独投与群、△はビノレルビン単独投与群、▲は併用投与群を示す。
【0096】
【図8】図8は、塩酸アムルビシンの最大耐量の0.5倍量とビノレルビンの最大耐量の0.5倍量を併用した場合における、副作用としての体重減少作用を表す。直線はビークル群、□は塩酸アムルビシン単独投与群、△はビノレルビン単独投与群、▲は併用投与群を示す。
【0097】
【図9】図9は、塩酸アムルビシンの最大耐量の0.8倍量とビノレルビンの最大耐量の0.8倍量を併用した場合の、肺扁平上皮癌の増殖抑制効果を表す。直線はビークル群、□は塩酸アムルビシン単独投与群、△はビノレルビン単独投与群、◆は併用投与群を示す。
【0098】
【図10】図10は、塩酸アムルビシンの最大耐量の0.8倍量とビノレルビンの最大耐量の0.8倍量を併用した場合における、副作用としての体重減少作用を表す。直線はビークル群、□は塩酸アムルビシン単独投与群、△はビノレルビン単独投与群、◆は併用投与群を示す。
【0099】
【図11】図11は、塩酸アムルビシンの最大耐量の1.0倍量とビノレルビンの最大耐量の1.0倍量を併用した場合の、肺扁平上皮癌の増殖抑制効果を表す。直線はビークル群、□は塩酸アムルビシン単独投与群、△はビノレルビン単独投与群、●は併用投与群を示す。
【0100】
【図12】図12は、塩酸アムルビシンの最大耐量の1.0倍量とビノレルビンの最大耐量の1.0倍量を併用した場合における、副作用としての体重減少作用を表す。直線はビークル群、□は塩酸アムルビシン単独投与群、△はビノレルビン単独投与群、●は併用投与群を示す。
【0101】
【図13】図13は、塩酸アムルビシンの最大耐量の0.5倍量とゲムシタビンの最大耐量の0.5倍量を併用した場合の、肺扁平上皮癌細胞の増殖抑制効果を表す。直線はビークル群、□は塩酸アムルビシン単独投与群、△はゲムシタビン単独投与群、▲は併用投与群を示す。
【0102】
【図14】図14は、塩酸アムルビシンの最大耐量の0.5倍量とゲムシタビンの最大耐量の0.5倍量を併用した場合における、副作用としての体重減少作用を表す。直線はビークル群、□は塩酸アムルビシン単独投与群、△はゲムシタビン単独投与群、▲は併用投与群を示す。
【0103】
【図15】図15は、塩酸アムルビシンの最大耐量の0.8倍量とゲムシタビンの最大耐量の0.8倍量を併用した場合の、肺扁平上皮癌の増殖抑制効果を表す。直線はビークル群、□は塩酸アムルビシン単独投与群、△はゲムシタビン単独投与群、◆は併用投与群を示す。
【0104】
【図16】図16は、塩酸アムルビシンの最大耐量の0.8倍量とゲムシタビンの最大耐量の0.8倍量を併用した場合における、副作用としての体重減少作用を表す。直線はビークル群、□は塩酸アムルビシン単独投与群、△はゲムシタビン単独投与群、◆は併用投与群を示す。
【0105】
【図17】図17は、塩酸アムルビシンの最大耐量の1.0倍量とゲムシタビンの最大耐量の1.0倍量を併用した場合の、肺扁平上皮癌の増殖抑制効果を表す。直線はビークル群、□は塩酸アムルビシン単独投与群、△はゲムシタビン単独投与群、●は併用投与群を示す。
【0106】
【図18】図18は、塩酸アムルビシンの最大耐量の1.0倍量とゲムシタビンの最大耐量の1.0倍量を併用した場合における、副作用としての体重減少作用を表す。直線はビークル群、□は塩酸アムルビシン単独投与群、△はゲムシタビン単独投与群、●は併用投与群を示す。
【0107】
【図19】図19は、塩酸アムルビシノールとイリノテカンのin vitro併用効果を表す。横軸は増殖抑制率を示すfa値とし、縦軸をCI(combination index)値として、fa値が0.1から0.9までをプロットした。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
他の肺癌治療剤と併用して肺癌を治療するための、アムルビシンまたはその薬学上許容される塩を有効成分とする治療剤であって、他の肺癌治療剤がイリノテカンまたはビノレルビンであり、(1)他の肺癌治療剤がイリノテカンである場合は、イリノテカンがその最大耐量の0.8倍の量またはその最高投与量の0.8倍の量で併用され、(2)他の肺癌治療剤がビノレルビンである場合は、ビノレルビンがその最大耐量の0.5倍〜0.9倍の量、またはその最高投与量の0.5倍〜0.9倍の量で併用されることを特徴とする治療剤。
【請求項2】
アムルビシンまたはその薬学上許容される塩が塩酸アムルビシンである請求項1記載の治療剤。
【請求項3】
他の肺癌治療剤がイリノテカンであり、肺癌が小細胞肺癌である請求項1または2記載の治療剤
【請求項4】
他の肺癌治療剤がイリノテカンであり、肺癌が非小細胞肺癌である請求項1または2記載の治療剤。
【請求項5】
他の肺癌治療剤がビノレルビンであり、肺癌が肺扁平上皮癌である請求項1または2記載の治療剤。
【請求項6】
ビノレルビンの併用量がその最大耐量の0.5倍〜0.8倍の量、またはその最高投与量の0.5倍〜0.8倍の量である請求項5記載の治療剤。
【請求項7】
ビノレルビンの併用量がその最大耐量の0.8倍の量またはその最高投与量の0.8倍の量である請求項5記載の治療剤。
【請求項8】
ビノレルビンの併用量がその最大耐量の0.5倍の量またはその最高投与量の0.5倍の量である請求項5記載の治療剤。
【請求項9】
アムルビシンまたはその薬学上許容される塩と、イリノテカンとを組み合わせてなる小細胞肺癌治療剤または非小細胞肺癌治療剤であって、アムルビシンまたはその薬学上許容される塩、およびイリノテカンがそれぞれそれらの最大耐量の0.8倍の量、またはそれぞれそれらの最高投与量の0.8倍の量である治療剤。
【請求項10】
アムルビシンまたはその薬学上許容される塩と、ビノレルビンとを組み合わせてなる肺扁平上皮癌治療剤であって、アムルビシンまたはその薬学上許容される塩、およびビノレルビンがそれぞれそれらの最大耐量の0.8倍の量もしくはそれぞれそれらの最高投与量の0.8倍の量、またはそれぞれその最大耐量の0.5倍の量もしくはそれぞれそれらの最高投与量の0.5倍の量である治療剤。
【請求項1】
他の肺癌治療剤と併用して肺癌を治療するための、アムルビシンまたはその薬学上許容される塩を有効成分とする治療剤であって、他の肺癌治療剤がイリノテカンまたはビノレルビンであり、(1)他の肺癌治療剤がイリノテカンである場合は、イリノテカンがその最大耐量の0.8倍の量またはその最高投与量の0.8倍の量で併用され、(2)他の肺癌治療剤がビノレルビンである場合は、ビノレルビンがその最大耐量の0.5倍〜0.9倍の量、またはその最高投与量の0.5倍〜0.9倍の量で併用されることを特徴とする治療剤。
【請求項2】
アムルビシンまたはその薬学上許容される塩が塩酸アムルビシンである請求項1記載の治療剤。
【請求項3】
他の肺癌治療剤がイリノテカンであり、肺癌が小細胞肺癌である請求項1または2記載の治療剤
【請求項4】
他の肺癌治療剤がイリノテカンであり、肺癌が非小細胞肺癌である請求項1または2記載の治療剤。
【請求項5】
他の肺癌治療剤がビノレルビンであり、肺癌が肺扁平上皮癌である請求項1または2記載の治療剤。
【請求項6】
ビノレルビンの併用量がその最大耐量の0.5倍〜0.8倍の量、またはその最高投与量の0.5倍〜0.8倍の量である請求項5記載の治療剤。
【請求項7】
ビノレルビンの併用量がその最大耐量の0.8倍の量またはその最高投与量の0.8倍の量である請求項5記載の治療剤。
【請求項8】
ビノレルビンの併用量がその最大耐量の0.5倍の量またはその最高投与量の0.5倍の量である請求項5記載の治療剤。
【請求項9】
アムルビシンまたはその薬学上許容される塩と、イリノテカンとを組み合わせてなる小細胞肺癌治療剤または非小細胞肺癌治療剤であって、アムルビシンまたはその薬学上許容される塩、およびイリノテカンがそれぞれそれらの最大耐量の0.8倍の量、またはそれぞれそれらの最高投与量の0.8倍の量である治療剤。
【請求項10】
アムルビシンまたはその薬学上許容される塩と、ビノレルビンとを組み合わせてなる肺扁平上皮癌治療剤であって、アムルビシンまたはその薬学上許容される塩、およびビノレルビンがそれぞれそれらの最大耐量の0.8倍の量もしくはそれぞれそれらの最高投与量の0.8倍の量、またはそれぞれその最大耐量の0.5倍の量もしくはそれぞれそれらの最高投与量の0.5倍の量である治療剤。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図2】
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【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
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【図16】
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【図18】
【図19】
【公開番号】特開2011−168621(P2011−168621A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−122274(P2011−122274)
【出願日】平成23年5月31日(2011.5.31)
【分割の表示】特願2003−575985(P2003−575985)の分割
【原出願日】平成15年3月17日(2003.3.17)
【出願人】(000002912)大日本住友製薬株式会社 (332)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年5月31日(2011.5.31)
【分割の表示】特願2003−575985(P2003−575985)の分割
【原出願日】平成15年3月17日(2003.3.17)
【出願人】(000002912)大日本住友製薬株式会社 (332)
【Fターム(参考)】
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