説明

肺線維症処置剤

【課題】 肺線維症治療剤を提供する。
【解決手段】 レチノイドを含む、肺における細胞外マトリックス産生細胞用の物質送達担体、および同担体を利用した肺線維症処置剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、肺における細胞外マトリックス産生細胞を標的とする物質送達用担体、ならびにこれを利用した肺線維症処置剤および肺線維症の処置方法に関する。
【背景技術】
【0002】
肺線維症は、肺胞壁におけるび漫性線維増殖を特徴とし、乾性咳嗽や労作時呼吸困難を主症状とする疾患であり。狭義には間質性肺炎の終末病態を指すが、広義には狭義の肺線維症と間質性肺炎との併存状態を意味する。あらゆる間質性肺炎が肺線維症の原因となり得る。間質性肺炎は、肺の間質(狭義では肺胞隔壁、広義では小葉間間質、胸膜近傍などを含む)に炎症を生じる疾患の総称であり、感染、膠原病、放射線、薬剤、粉塵など特定の原因によるものと、原因が不明の特発性間質性肺炎とを含む。特発性間質性肺炎は、胸腔鏡下肺生検(VATS)や高分解能コンピュータ断層写真(HRCT)所見などに基づいて、特発性肺線維症(idiopathic pulmonary fibrosis:IPF)、非特異性間質性肺炎(nonspecific interstitial pneumonia:NSIP)、急性間質性肺炎(acute interstitial pneumonia:AIP)、特発性器質化肺炎(cryptogenic organizing pneumonia:COP)、呼吸細気管支炎関連性間質性肺疾患(respiratory bronchiolitis-associated interstitial lung disease:RB−ILD)、剥離性間質性肺炎(desquamative interstitial pneumonia:DIP)、リンパ球性間質性肺炎(lymphoid interstitial pneumonia:LIP)などにさらに分類される。原因が特定できる間質性肺炎は、その原因の除去や、ステロイド剤などの抗炎症剤の投与などにより治癒する場合が多いが、特発性間質性肺炎については現在のところ根治療法が存在せず、症状増悪時のステロイド剤やアザチオプリン、シクロホスファミドなどの投与や、低酸素血症発症時の酸素療法などが施される程度であり、肺線維症に進行して死亡するケースが多い。このため、診断確定後の平均生存期間は2.5〜5年間と短く、日本では特定疾患に指定されている。
【0003】
こうした状況を受けて、肺線維症治療剤の開発に多大な研究努力が注がれてきた。その結果、例えば、コルヒチン、D−ペニシラミン、パーフェニドン(5−メチル−1−フェニル−2−[1H]−ピリドン)、インターフェロンβ1a、リラキシン、ロバスタチン、Beractant、N−アセチルシステイン、ケラチノサイト増殖因子、カプトプリル(非特許文献1)、肝細胞増殖因子(特許文献1)、Rhoキナーゼ阻害剤(特許文献2)、トロンボモジュリン様タンパク質(特許文献3)、ビリルビン(特許文献4)、PPARγアクチベーター(特許文献5)、イマチニブ(特許文献6)、インターフェロンγ(特許文献7)などの薬剤が、肺線維症動物モデルまたは臨床試験においてある程度の成果を収めたことが報告されている。しかしながら、いずれの薬剤も未だ満足できるものではなく、さらなる肺線維症治療剤の開発が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−268906号公報
【特許文献2】国際公開第00/57913号パンフレット
【特許文献3】特開2002−371006号公報
【特許文献4】特開2003−119138号公報
【特許文献5】特表2005−513031号公報
【特許文献6】特表2005−531628号公報
【特許文献7】特表2006−502153号公報
【特許文献8】国際公開第2006/068232号パンフレット
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Ann Intern Med. 2001;134(2):136-51
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、肺における細胞外マトリックス産生細胞に特異的に薬物等の物質を送達できる担体、これを利用した肺線維症処置剤および肺線維症の処置方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、新たな肺線維症治療剤を探求する中で、レチノイドを含む担体に細胞外マトリックス産生阻害剤を担持させた組成物の投与により、肺線維症を効果的に処置できることを見出し、本発明を完成させた。
ビタミンAを含む担体が、ビタミンAを貯蔵する星細胞に薬物を送達することは知られていたが(特許文献8参照)、肺線維症との関係についてはこれまで全く知られていなかった。
【0008】
すなわち、本発明は、レチノイドを標的化剤として含む、肺における細胞外マトリックス産生細胞への物質送達用担体に関する。
また、本発明は、レチノイド誘導体がレチノールを含む上記担体に関する。
さらに、本発明は、レチノイドの含有量が担体全体の0.2〜20重量%である上記担体に関する。
さらにまた、本発明は、リポソームの形態を有し、レチノイドと、リポソームに含まれる脂質とのモル比が8:1〜1:4である上記担体に関する。
本発明はまた、上記担体と、肺における細胞外マトリックス産生細胞の活性または増殖を制御する薬物とを含む、肺線維症処置用組成物に関する。
本発明はさらに、肺における細胞外マトリックス産生細胞の活性または増殖を制御する薬物が、ゼラチナーゼA、ゼラチナーゼBおよびアンギオテンシノーゲンからなる群から選択される生理活性物質の活性または産生阻害剤、細胞活性抑制剤、増殖阻害剤、アポトーシス誘導剤、および、細胞外マトリックス構成分子または該細胞外マトリックス構成分子の産生もしくは分泌に関与する分子の少なくとも1つを標的とするsiRNA、リボザイム、アンチセンス核酸、DNA/RNAキメラポリヌクレオチドおよびこれらを発現するベクターからなる群から選択される上記組成物に関する。
本発明はさらにまた、細胞外マトリックス構成分子の産生もしくは分泌に関与する分子がHSP47である上記組成物に関する。
また、本発明は、薬物と担体とを、医療の現場またはその近傍で混合してなる上記組成物に関する。
さらに、本発明は、肺における細胞外マトリックス産生細胞の活性または増殖を制御する薬物、レチノイド、ならびに、必要に応じてレチノイド以外の担体構成物質を、単独でまたは組み合わせて含む1つまたはそれ以上の容器を含む、上記組成物の調製キットに関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の肺線維症処置用組成物の正確な作用機序は未だ完全には解明されていないが、レチノイドが、線維芽細胞や筋線維芽細胞などの肺における細胞外マトリックス産生細胞への標的化剤として機能し、有効成分、例えば肺における細胞外マトリックス産生細胞の活性または増殖を制御する薬物等を同細胞に送達することにより、抗肺線維症効果を奏するものと考えられる。
したがって、本発明の担体により、有効成分を作用部位、さらには標的細胞に効率的に送達できるため、肺線維症、特にこれまで治療が困難であった特発性間質性肺炎などの治癒、進行の抑制または発症の予防が可能となり、ヒト医療および獣医療への貢献は極めて大きい。
また、本発明の担体は、任意の薬剤(例えば、既存の肺線維症治療薬)と組み合わせてその作用効率を高めることができるため、製剤的な応用範囲が広く、効果的な処置剤の製造を簡便に行うことができるという利点もある。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】ラットにおける肺線維症の惹起および薬剤の投与スケジュールを示した模式図である。
【図2】ブレオマイシン投与後21日目におけるBAL液中の総細胞数を示したグラフである。正常対照(control)は、ブレオマイシンを投与していない正常ラットである。
【図3】ブレオマイシン投与後21日目における肺ヒドロキシプロリン量(HP)を示したグラフである。正常対照(control)は、ブレオマイシンを投与していない正常ラットである。
【図4】ブレオマイシン投与後21日目における肺組織のHE染色像を示した写真図である。
【図5】ブレオマイシン投与後21日目における肺組織のアザン染色像を示した写真図である。
【図6】ブレオマイシン投与後21日目における肺組織におけるαSMA陽性細胞の分布を示した写真図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明において、肺における細胞外マトリックス産生細胞は、肺に存在する細胞外マトリクス産生能を有する細胞であれば特に限定されずに、例えば、肺に存在する線維芽細胞や筋線維芽細胞を含む。肺に存在する線維芽細胞としては、例えば、血管外膜線維芽細胞や細気管支外膜線維芽細胞等が挙げられる。肺に存在する筋線維芽細胞は、こうした肺に存在する線維芽細胞に由来するものばかりでなく、循環血液中の線維芽細胞に由来するものや、内皮間葉分化転換により内皮細胞から転換されたものをも含み得る。筋線維芽細胞はα−SMA(α平滑筋アクチン)の発現を特徴としている。本発明における筋線維芽細胞は、検出可能に標識された抗α−SMA抗体を用いた免疫染色などによって同定されるものである。また、線維芽細胞は間葉系細胞に特徴的なビメンチンを発現するが、α−SMAを発現していないため、ビメンチンとα−SMAとの二重染色などにより同定することができる。
【0012】
本発明におけるレチノイドは、肺における細胞外マトリックス産生細胞への物質送達を促進するものであれば特に限定されず、例えばレチノール(ビタミンA)、エトレチナート、トレチノイン、イソトレチノイン、アダパレン、アシトレチン、タザロテン、パルミチン酸レチノールなどのレチノイド誘導体、およびフェンレチニド(4−HPR)、ベキサロテンなどのビタミンAアナログを用いることができる。
本発明におけるレチノイドは、肺における細胞外マトリックス産生細胞への特異的な物質送達を促進するものである。レチノイドによる物質送達促進の機構は未だ完全には解明されていないが、例えば、RBP(retinol binding protein)と特異的に結合したレチノイドが、肺における細胞外マトリックス産生細胞の細胞表面上に位置するある種のレセプターを介して同細胞に取り込まれることが考えられる。
レチノイドは、4個のイソプレノイド単位がヘッド−トゥー−テイル式に連結した骨格を持つ化合物の群の1員であり(G. P. Moss, “Biochemical Nomenclature and Related Documents,” 2nd Ed. Portland Press, pp. 247-251 (1992)を参照)、ビタミンAは、レチノールの生物学的活性を定性的に示すレチノイドの一般的な記述子である。本発明において用いることができるレチノイドとしては、特に限定されず、例えばレチノール、レチナール、レチノイン酸、レチノールと脂肪酸とのエステル、脂肪族アルコールとレチノイン酸とのエステル、エトレチナート、トレチノイン、イソトレチノイン、アダパレン、アシトレチン、タザロテン、パルミチン酸レチノールなどのレチノイド誘導体、およびフェンレチニド(4−HPR)、ベキサロテンなどのビタミンAアナログを挙げることができる。
これらのうち、レチノール、レチナール、レチノイン酸、レチノールと脂肪酸とのエステル(例えばレチニルアセテート、レチニルパルミテート、レチニルステアレート、およびレチニルラウレートなど)および脂肪族アルコールとレチノイン酸とのエステル(例えばエチルレチノエートなど)は、肺における細胞外マトリックス産生細胞への特異的な物質の送達の効率の点で好ましい。
レチノイドのシス−トランスを含む異性体全ては、本発明の範囲内に入る。レチノイドはまた1または2以上の置換基で置換されることもある。本発明におけるレチノイドは、単離された状態のものはもちろんのこと、これを溶解または保持することができる媒体に溶解または混合した状態のレチノイドをも含む。
【0013】
本発明の担体は、これらのレチノイド自体で構成してもよいし、レチノイドを、これとは別の担体構成成分に結合または包含させることにより構成してもよい。したがって、本発明の担体は、レチノイド以外の担体構成成分を含んでいてもよい。かかる成分としては、特に限定されずに、医薬および薬学の分野で知られる任意のものを用いることができるが、レチノイドを包含し得るか、または、これと結合し得るものが好ましい。
このような成分としては、脂質、例えば、グリセロリン脂質などのリン脂質、スフィンゴミエリンなどのスフィンゴ脂質、コレステロールなどのステロール、大豆油、ケシ油などの植物油、鉱油、卵黄レシチンなどのレシチン類等が挙げられるが、これらに限定されない。このうち、リポソームを構成し得るもの、例えば、レシチンなどの天然リン脂質、ジミリストイルホスファチジルコリン(DMPC)、ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)、ジステアロイルホスファチジルコリン(DSPC)などの半合成リン脂質、ジオレイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)、ジラウロイルホスファチジルコリン(DLPC)、コレステロールなどが好ましい。
【0014】
特に好ましい成分としては、細網内皮系による捕捉を回避し得る成分、例えば、N−(α−トリメチルアンモニオアセチル)−ジドデシル−D−グルタメートクロリド(TMAG)、N,N’,N’’,N’’’−テトラメチル−N,N’,N’’,N’’’−テトラパルミチルスペルミン(TMTPS)、2,3−ジオレイルオキシ−N−[2(スペルミンカルボキサミド)エチル]−N,N−ジメチル−1−プロパンアミニウムトリフルオロアセテート(DOSPA)、N−[1−(2,3−ジオレイルオキシ)プロピル]−N,N,N−トリメチルアンモニウムクロリド(DOTMA)、ジオクタデシルジメチルアンモニウムクロリド(DODAC)、ジドデシルアンモニウムブロミド(DDAB)、1,2−ジオレイルオキシ−3−トリメチルアンモニオプロパン(DOTAP)、3β−[N−(N’,N’−ジメチルアミノエタン)カルバモイル]コレステロール(DC−Chol)、1,2−ジミリストイルオキシプロピル−3−ジメチルヒドロキシエチルアンモニウム(DMRIE)、O,O’−ジテトラデカノイル−N−(α−トリメチルアンモニオアセチル)ジエタノールアミンクロリド(DC−6−14)などのカチオン性脂質が挙げられる。
【0015】
本発明の担体へのレチノイドの結合または包含は、化学的および/または物理的な方法によってレチノイドを担体の他の構成成分に結合させるかまたは包含させることによっても可能となる。または、本発明の担体へのレチノイドの結合または包含は、該担体の作製時に、レチノイドと、それ以外の担体構成成分とを混合することによっても可能となる。本発明の担体に結合させるかまたは包含させるレチノイドの量は、担体構成成分中の重量比で0.01%〜100%、好ましくは0.2%〜20%、さらに好ましくは1〜5%とすることが可能である。担体へのレチノイドの結合または包含は、該担体に薬物等を担持させる前に行ってもよいし、担体、レチノイド誘導体等および薬物等を同時に混合することなどによって行ってもよいし、または、薬物等を既に担持した状態の担体と、レチノイド誘導体等とを混合することなどによって行ってもよい。したがって、本発明はまた、既存の任意の薬物結合担体や薬物封入担体、例えば、DaunoXome(登録商標)、Doxil、Caelyx(登録商標)、Myocet(登録商標)などのリポソーム製剤にレチノイドを結合させる工程を含む、肺における細胞外マトリックス産生細胞特異的な製剤の製造方法にも関する。
【0016】
本発明の担体の形態は、所望の物質や物体を、標的とする肺における細胞外マトリックス産生細胞に運搬できればいずれの形態でもよく、例えば、限定するものではないが、高分子ミセル、リポソーム、エマルジョン、微小球、ナノ小球などのうちいずれの形態をとることもできる。本発明においては、送達効率の高さ、送達できる物質の選択肢の広さや製剤の容易性等の観点から、これらのうちリポソームの形態が好ましく、中でもカチオン性脂質を含むカチオン性リポソームが特に好ましい。担体がリポソームの形態である場合、レチノイドと、これ以外のリポソーム構成脂質とのモル比は、レチノイドの担体への結合または包含の効率性を考慮すると、好ましくは8:1〜1:4、より好ましくは4:1〜1:2、さらに好ましくは3:1〜1:1、特に2:1である。
【0017】
本発明の担体は、これに含まれるレチノイドが、標的化剤として機能する態様で存在していれば、運搬物を内部に含んでも、運搬物の外部に付着して存在しても、また、運搬物と混合されていてもよい。ここで、標的化剤として機能するとは、レチノイドを含む担体が、これを含まない担体よりも迅速かつ/または大量に、標的細胞である肺における細胞外マトリックス産生細胞に到達し、かつ/または取り込まれることを意味し、これは、例えば、標識を付した、または標識を含む担体を標的細胞の培養物に添加し、所定時間後に標識の存在部位を分析することにより容易に確認することができる。構造的には、例えば、レチノイドが、遅くとも標的細胞に到達するまでに、担体を含む製剤の外部に少なくとも部分的に露出していれば、上記要件を充足し得る。レチノイドが、製剤の外部に露出しているか否かは、製剤をレチノイドと特異的に結合する物質、例えば、レチノール結合タンパク質(RBP)などと接触させ、製剤への結合を調査することにより評価することができる。
【0018】
本担体が送達する物質や物体は特に制限されないが、投与部位から標的細胞が存在する病変部位へ、生物の体内を物理的に移動できるような大きさであることが好ましい。したがって、本発明の担体は、原子、分子、化合物、タンパク質、核酸等の物質はもとより、ベクター、ウイルス粒子、細胞、1以上の要素で構成された薬物放出システム、マイクロマシン等の物体をも運搬することができる。前記物質または物体は、好ましくは標的細胞に何らかの影響を与える性質を有し、例えば、標的細胞を標識するものや、標的細胞の活性または増殖を制御する(例えば、これを増強または抑制する)ものを含む。
【0019】
したがって、本発明の一態様においては、担体が送達する物は「肺における細胞外マトリックス産生細胞の活性または増殖を制御する薬物」である。ここで、肺における細胞外マトリックス産生細胞の活性とは、肺における細胞外マトリックス産生細胞が示す分泌、取り込み、遊走等の種々の活性を指すが、本発明においては、典型的に、これらのうち特に肺線維症の発症、進行および/または再発などに関与する活性を意味する。かかる活性としては、例えば、限定することなく、ゼラチナーゼAおよびB(それぞれMMP2および9)、アンギオテンシノーゲン等の生理活性物質、コラーゲン、プロテオグリカン、テナスチン、フィブロネクチン、トロンボスポンジン、オステオポンチン、オステオネクチン、エラスチン等の細胞外マトリックス成分などの産生・分泌などの産生・分泌が挙げられる。
【0020】
したがって、肺における細胞外マトリックス産生細胞の活性または増殖を制御する薬物とは、肺線維症の発症、進行および/または再発に関係する同細胞の物理的、化学的および/または生理的な作用等を直接または間接に抑制する何れの薬物であってもよく、限定されずに、上記生理活性物質の活性もしくは産生を阻害する薬物、バチマスタットなどのMMP阻害剤、および前記生理活性物質を中和する抗体および抗体断片、前記生理活性物質の発現を抑制するsiRNA、リボザイム、アンチセンス核酸(RNA、DNA、PNA、またはこれらの複合物を含む)などの物質、もしくはドミナントネガティブ変異体等のドミナントネガティブ効果を有する物質、またはこれらを発現するベクター、上記細胞外マトリックス成分などの産生・分泌を阻害する薬物、例えば、細胞外マトリックス成分の発現を抑制する、siRNA、リボザイム、アンチセンス核酸(RNA、DNA、PNA、またはこれらの複合物を含む)などの物質、もしくはドミナントネガティブ変異体等のドミナントネガティブ効果を有する物質、またはこれらを発現するベクター、ナトリウムチャンネル阻害剤などの細胞活性抑制剤、アルキル化剤(例えば、イホスファミド、ニムスチン、シクロホスファミド、ダカルバジン、メルファラン、ラニムスチン等)、抗腫瘍性抗生物質(例えば、イダルビシン、エピルビシン、ダウノルビシン、ドキソルビシン、ピラルビシン、ブレオマイシン、ペプロマイシン、ミトキサントロン、マイトマイシンC等)、代謝拮抗剤(例えば、ゲムシタビン、エノシタビン、シタラビン、テガフール・ウラシル、テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム配合剤、ドキシフルリジン、ヒドロキシカルバミド、フルオロウラシル、メトトレキサート、メルカプトプリン等)、エトポシド、塩酸イリノテカン、酒石酸ビノレルビン、ドセタキセル水和物、パクリタキセル、硫酸ビンクリスチン、硫酸ビンデシン、硫酸ビンブラスチン等のアルカロイド、およびカルボプラチン、シスプラチン、ネダプラチン等の白金錯体などの細胞増殖抑制剤、ならびにcompound 861、gliotoxin、ロバスタチン、Beractantなどのアポトーシス誘導剤を包含する。また、本発明における「肺における細胞外マトリックス産生細胞の活性または増殖を制御する薬物」は、肺線維症の発症、進行および/または再発の抑制に直接または間接に関係する肺における細胞外マトリックス産生細胞の物理的、化学的および/または生理的な作用等を直接または間接に促進する何れの薬物であってもよい。
【0021】
本発明の担体の送達物としてはまた、限定されずに、肺線維症の発症、進行および/または再発を抑制する上記以外の薬物、例えば、限定することなく、コルヒチン、D−ペニシラミン、パーフェニドン(5−メチル−1−フェニル−2−[1H]−ピリドン)、インターフェロンβ1a、リラキシン、N−アセチルシステイン、ケラチノサイト増殖因子、カプトプリル、肝細胞増殖因子、Rhoキナーゼ阻害剤、トロンボモジュリン様タンパク質、ビリルビン、PPARγアクチベーター、イマチニブ、インターフェロンγ、TGFβ受容体キナーゼ阻害剤などを挙げることができる。
本発明の担体が送達する物質や物体は、標識されていてもいなくてもよい。標識化により、運搬の成否や、標的細胞の増減などをモニタリングすることが可能となり、特に試験・研究レベルにおいて有用である。標識は、当業者に公知な任意のもの、例えば、任意の放射性同位体、磁性体、標識化物質に結合する物質(例えば抗体)、蛍光物質、フルオロフォア、化学発光物質、および酵素などから選択することができる。
本発明において「肺における細胞外マトリックス産生細胞用」または「肺における細胞外マトリックス産生細胞送達用」とは、肺における細胞外マトリックス産生細胞を標的細胞として使用するのに適することを意味し、これは例えば、同細胞に、他の細胞、例えば正常細胞よりも迅速、高効率かつ/または大量に物質を送達できることを含む。例えば、本発明の担体は、肺における細胞外マトリックス産生細胞に、他の細胞に比べ、1.1倍以上、1.2倍以上、1.3倍以上、1.5倍以上、2倍以上、さらには3倍以上の速度および/または効率で物質を送達することができる。
【0022】
本発明はまた、前記担体と、前記肺における細胞外マトリックス産生細胞の活性または増殖を制御する薬物とを含む、肺における細胞外マトリックス産生細胞の活性または増殖を制御するための、または肺線維症を処置するための組成物、ならびに、前記担体の、これらの組成物の製造への使用に関する。
本発明において肺線維症は、狭義の肺線維症のみならず、間質性肺炎との併存を含む広義の肺線維症を含む。本発明における肺線維症は、任意の間質性肺炎、例えば、ウイルス性肺炎、真菌性肺炎、マイコプラズマ肺炎などに伴う感染性間質性肺炎、関節リウマチ、全身性強皮症、皮膚筋炎、多発性筋炎、混合性結合組織病(MCTD)などの膠原病に伴う間質性肺炎、放射線被曝に伴う間質性肺炎、ブレオマイシンなどの抗癌剤、小柴胡湯などの漢方薬、インターフェロン、抗生物質、パラコートなどによる薬剤性間質性肺炎、特発性肺線維症、非特異性間質性肺炎、急性間質性肺炎、特発性器質化肺炎、呼吸細気管支炎関連性間質性肺疾患、剥離性間質性肺炎、リンパ球性間質性肺炎などの特発性間質性肺炎などに起因し得、したがって、これらの間質性肺炎が慢性化したものを含む。本発明における肺線維症は、好ましくは薬剤性間質性肺炎および特発性間質性肺炎が慢性化したものを含む。
【0023】
本発明の組成物においては、担体に含まれるレチノイドが標的化剤として機能する態様で存在する限り、担体は、送達物をその内部に含んでも、送達物の外部に付着して存在しても、また、送達物と混合されていてもよい。したがって、投与経路や薬物放出様式などに応じて、上記組成物を、適切な材料、例えば、腸溶性のコーティングや、時限崩壊性の材料で被覆してもよく、また、適切な薬物放出システムに組み込んでもよい。
本発明の組成物は、経口および非経口の両方を包含する種々の経路、例えば、限定することなく、経口、静脈内、筋肉内、皮下、局所、肺内、気道内、気管内、気管支内、経鼻、直腸内、動脈内、門脈内、心室内、骨髄内、リンパ節内、リンパ管内、脳内、髄液腔内、脳室内、経粘膜、経皮、鼻内、腹腔内および子宮内等の経路で投与してもよく、各投与経路に適した剤形に製剤してもよい。かかる剤形および製剤方法は任意の公知のものを適宜採用することができる(例えば、標準薬剤学、渡辺喜照ら編、南江堂、2003年などを参照)。
例えば、経口投与に適した剤形としては、限定することなく、散剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、液剤、懸濁剤、乳剤、ゲル剤、シロップ剤などが挙げられ、また非経口投与に適した剤形としては、溶液性注射剤、懸濁性注射剤、乳濁性注射剤、用時調製型注射剤などの注射剤が挙げられる。非経口投与用製剤は、水性または非水性の等張性無菌溶液または懸濁液の形態であることができる。
【0024】
本発明の担体または組成物は、いずれの形態で供給されてもよいが、保存安定性の観点から、好ましくは用時調製可能な形態、例えば、医療の現場あるいはその近傍において、医師および/または薬剤師、看護士、もしくはその他のパラメディカルなどによって調製され得る形態で提供される。この場合、本発明の担体または組成物は、これらに必須の構成要素の少なくとも1つを含む1個または2個以上の容器として提供され、使用の前、例えば、24時間前以内、好ましくは3時間前以内、そしてより好ましくは使用の直前に調製される。調製に際しては、調製する場所において通常入手可能な試薬、溶媒、調剤器具などを適宜使用することができる。
【0025】
したがって、本発明はまた、レチノイド、および/または送達物、および/またはレチノイド以外の担体構成物質を、単独でもしくは組み合わせて含む1個または2個以上の容器を含む担体もしくは組成物の調製キット、ならびに、そのようなキットの形で提供される担体または組成物の必要構成要素にも関する。本発明のキットは、上記のほか、本発明の担体および組成物の調製方法や投与方法などに関する説明書や、CD、DVD等の電子記録媒体などを含んでいてもよい。また、本発明のキットは、本発明の担体または組成物を完成するための構成要素の全てを含んでいてもよいが、必ずしも全ての構成要素を含んでいなくてもよい。したがって、本発明のキットは、医療現場や、実験施設などで通常入手可能な試薬や溶媒、例えば、無菌水や、生理食塩水、ブドウ糖溶液などを含んでいなくてもよい。
【0026】
本発明はさらに、前記組成物の有効量を、それを必要とする対象に投与することを含む、肺における細胞外マトリックス産生細胞の活性または増殖を制御するための、または肺線維症を処置するための方法に関する。ここで、有効量とは、例えば、後者については、肺線維症の発症や再発を抑制し、症状を軽減し、または進行を遅延もしくは停止する量であり、好ましくは、肺線維症の発症および再発を予防し、またはこれを治癒する量である。また、投与による利益を超える悪影響が生じない量が好ましい。かかる量は、培養細胞などを用いたin vitro試験や、マウス、ラット、イヌまたはブタなどのモデル動物における試験により適宜決定することができ、このような試験法は当業者によく知られている。また、担体に含まれるレチノイド、および本発明の方法に用いる薬物の用量は当業者に公知であるか、または、上記の試験等により適宜決定することができる。
【0027】
本発明の方法において投与する組成物の具体的な用量は、処置を要する対象に関する種々の条件、例えば、症状の重篤度、対象の一般健康状態、年齢、体重、対象の性別、食事、投与の時期および頻度、併用している医薬、治療への反応性、および治療に対するコンプライアンスなどを考慮して決定され得る。
投与経路としては、経口および非経口の両方を包含する種々の経路、例えば、経口、静脈内、筋肉内、皮下、局所、肺内、気道内、気管内、気管支内、経鼻、直腸内、動脈内、門脈内、心室内、骨髄内、リンパ節内、リンパ管内、脳内、髄液腔内、脳室内、経粘膜、経皮、鼻内、腹腔内および子宮内等の経路が含まれる。
投与頻度は、用いる組成物の性状や、上記のような対象の条件によって異なるが、例えば、1日多数回(すなわち1日2、3、4回または5回以上)、1日1回、数日毎(すなわち2、3、4、5、6、7日毎など)、1週間に数回(例えば、1週間に2、3、4回など)、1週間毎、数週間毎(すなわち2、3、4週間毎など)であってもよい。
【0028】
本発明の方法において、用語「対象」は、任意の生物個体を意味し、好ましくは動物、さらに好ましくは哺乳動物、さらに好ましくはヒトの個体である。本発明において、対象は健常であっても、何らかの疾患に罹患していてもよいものとするが、肺線維症の処置が企図される場合には、典型的には間質性肺炎または肺線維症に罹患しているか、罹患するリスクを有する対象を意味する。例えば、肺線維症の予防が意図される場合は、限定することなく、間質性肺炎、特に特発性間質性肺炎に罹患した対象が典型例となる。
また、用語「処置」は、疾患の治癒、一時的寛解または予防などを目的とする医学的に許容される全ての種類の予防的および/または治療的介入を包含するものとする。例えば、「処置」の用語は、肺線維症の進行の遅延または停止、病変の退縮または消失、肺線維症発症の予防または再発の防止などを含む、種々の目的の医学的に許容される介入を包含する。
【0029】
本発明はまた、上記担体を利用した、肺における細胞外マトリックス産生細胞への薬物送達方法に関する。この方法は、限定されずに、例えば、上記担体に送達物を担持させる工程と、送達物を担持した担体を肺における細胞外マトリックス産生細胞を含む生物や媒体、例えば培養培地などに投与または添加する工程とを含む。これらの工程は、公知の任意の方法や、本明細書中に記載された方法などに従って適宜達成することができる。上記送達方法はまた、別の送達方法、例えば、肺を標的とする他の送達方法などと組み合わせることもできる。また、上記方法は、in vitroでなされる態様も、体内の肺における細胞外マトリックス産生細胞を標的とする態様も含む。
【実施例】
【0030】
実施例1 siRNAの作製
ヒトHSP47のラットホモログであるgp46(GenBank Accession No. M69246)を標的とする3種類のsiRNA、および、コントロールのrandom siRNAは、北海道システムサイエンスより購入した。各siRNAは3’側にオーバーハングを有する27の塩基からなり、配列は以下のとおりである。
配列A:5’−GUUCCACCAUAAGAUGGUAGACAACAG−3’(センス、配列番号:1)
5’−GUUGUCUACCAUCUUAUGGUGGAACAU−3’(アンチセンス、配列番号:2)
配列B:5’−CCACAAGUUUUAUAUCCAAUCUAGCAG−3’(センス、配列番号:3)
5’−GCUAGAUUGGAUAUAAAACUUGUGGAU−3’(アンチセンス、配列番号:4)
配列C:5’−CUAGAGCCAUUACAUUACAUUGACAAG−3’(センス、配列番号:5)
5’−UGUCAAUGUAAUGUAAUGGCUCUAGAU−3’(アンチセンス、配列番号:6)
random siRNA:5’−CGAUUCGCUAGACCGGCUUCAUUGCAG−3’(センス、配列番号:7)
5’−GCAAUGAAGCCGGUCUAGCGAAUCGAU−3’(アンチセンス、配列番号:8)
また、蛍光色素6’−カルボキシフルオレセイン(6−FAM)を5’側に標識したsiRNAも作製した。
【0031】
実施例2 siRNA含有VA結合リポソームの作製
リポソームとして、DC−6−14、コレステロールおよびDOPEを4:3:3のモル比で含むカチオン性リポソーム(Lipotrust、北海道システムサイエンス)を用いた。1.5mlチューブにて10nmolのリポソームと20nmolのビタミンA(VA:全トランスレチノール、Sigma)とをDMSO中で混合後、クロロホルムで溶解し、一度蒸散後、PBSに懸濁した。その後、実施例1で得たsiRNA(10μg/ml)とリポソーム懸濁液とを1:1(w/w)の割合で混合した。得られたリポソーム懸濁液に含まれる遊離のVAおよびsiRNAをマイクロパーティションシステム(Sartorion VIVASPIN 5000MWCO PES)で除去し、siRNA含有VA結合リポソーム(VA−lip−siRNA)を得た。添加したVA量と精製リポソーム内に含まれるVA量をHPLC法で測定し、リポソームに結合したVAの割合を検討したところ、VAの大部分(95.6±0.42%)がリポソームに結合したことが判明した。また、siRNAのリポソームへの取り込み効率は、RiboGreen assay(Molecular Probes)で測定したところ、94.4±3.0%と高いものであった。なお、この製剤は、VAを製剤の外部に少なくとも部分的に露出しているものであった。
【0032】
実施例3 in vivoにおけるsiRNA含有VA結合リポソームの抗肺線維症活性
(1)肺線維症の惹起および薬剤の投与
S−D雄性ラット(1群6匹、4週齢、チャールズリバー株式会社より購入)に対して、ブレオマイシン(BLM)0.5mgを0.5ccの生理食塩水に溶解したものを、麻酔下、気管内にカニューレを挿入して経気管的に1回肺内投与し、ブレオマイシン肺線維症モデルを作製した。この方法により、通常3週間程度で肺に顕著な線維化が生じる。実施例2で調製したVA−lip−siRNA(siRNA量としては0.75mg/kg、容量としては1ml/kg、すなわち200gのラットで200μl)またはPBS(1ml/kgの容量)を、ブレオマイシンを投与した日から、3回/週の頻度で尾静脈より投与した。ブレオマイシン投与後21日目に動物を安楽死させ、気管支肺胞洗浄(BAL)液の分析、肺内ヒドロキシプロリンの定量および肺組織の組織学的検討を行った(図1参照)。なお、統計学的有意差の評価にはStudentのt検定を用いた。
【0033】
(2)BAL液の分析
BALは次のようにして行った。すなわち、動物に致死量のペントバルビタールナトリウムを腹腔内投与した後に開胸し、気管を露出して気管内にカニューレを挿入した。その後、7mlの生理食塩水を気管カニューレを通して肺に注入し、その洗浄液を回収した。この注入、回収操作を5回繰り返し、回収した洗浄液を合わせ、250×gで10分間遠心した。総細胞数は血球計算板を用いて計数し、細胞分画の計数はメイ・ギムザ染色した細胞遠心による塗沫標本で行なった。細胞は最低200個を計数し、通常の形態的基準に基づいて、マクロファージ、好酸球、好中球、リンパ球に分類した。総細胞数の計数結果を図2に示す。同図より、BAL液中の細胞数は、VA−lip−siRNA投与群(BLM siRNA)において、ブレオマイシンの代わりにPBSを投与した正常対照ラット(control)と同程度まで、PBS投与群(BLM alone)に比べ有意に低下しており、炎症が改善していることが示された。
【0034】
(3)肺組織中のヒドロキシプロリンの定量
BAL後、肺を摘出して、片肺全てをポリトロンホモジナイザーを用いてホモジネートし、Kivirikkoらの方法(Kivirikko KI, et al. Analytical biochemistry 1967; 19: 249-255)により、肺ヒドロキシプロリンを定量した。すなわち、肺組織を、6N塩酸中110℃で18時間ホモゲナイズし、25μlのアリコートを60℃で乾燥させた。これを1.2mlの50%イソプロパノールで溶解し、pH6.0 acetate citrate、0.56% クロラミンT溶液200mlで10分間室温でインキュベートした後、1mlのEhrlich液を添加して50℃で90分間インキュベートし、560nmの吸光度を測定した。図3に示す結果によれば、肺ヒドロキシプロリン量は、VA−lip−siRNA投与群(BLM siRNA)においてPBS投与群(BLM alone)に比べ有意に低下しており、肺の線維化が顕著に抑制されたことが示された。
【0035】
(4)組織学的検討
摘出肺の一部を定法に従いホルマリン固定し、ヘマトキシリン・エオジン(HE)染色、アザン染色(アゾカルミン、アニリン青オレンジG液)または抗αSMA抗体による免疫染色に供した。免疫染色は、脱パラフィン後、マウス抗α−SMA抗体(ニチレイ、クローン1A4)を1次抗体として、次いでペルオキシダーゼ標識抗マウスIgGを2次抗体としてそれぞれ反応させ、DABで発色させた。図4のHE染色の結果が示すとおり、PBS投与群(BLM day 21)においては、肺胞の消失、出血像および間質の増生などの肺線維症に特徴的な所見が見られたのに対し、VA−lip−siRNA投与群(BLM+siRNA)では線維化病変が著明に改善していた。同様に、図5のアザン染色の結果が示すとおり、PBS投与群(BLM alone)においては、青色に染色された大量の膠原線維による間質の拡大を特徴とする顕著な線維化像が見られたのに対し、VA−lip−siRNA投与群(BLM+siRNA)では線維化が明白に抑制されていた。また、図6のαSMA染色の結果が示すとおり、PBS投与群(BLM alone)においては、間質に褐色を呈するαSMA陽性細胞が多数見られたのに対し、VA−lip−siRNA投与群(BLM+siRNA)ではαSMA陽性細胞が著明に減少していた。
siRNAが基本的に細胞質内で作用することを考慮すれば、以上の結果は、レチノイドが肺における細胞外マトリックス産生細胞への標的化剤として機能し、同細胞に効率的に薬物を送達することにより、肺線維症の病態を顕著に改善したことを示すものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レチノイドを標的化剤として含む、肺における細胞外マトリックス産生細胞への物質送達用担体。
【請求項2】
レチノイド誘導体がレチノールを含む、請求項1に記載の担体。
【請求項3】
レチノイドの含有量が担体全体の0.2〜20重量%である、請求項1または2に記載の担体。
【請求項4】
リポソームの形態を有し、レチノイドと、リポソームに含まれる脂質とのモル比が8:1〜1:4である、請求項1〜3のいずれかに記載の担体。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の担体と、肺における細胞外マトリックス産生細胞の活性または増殖を制御する薬物とを含む、肺線維症処置用組成物。
【請求項6】
肺における細胞外マトリックス産生細胞の活性または増殖を制御する薬物が、ゼラチナーゼA、ゼラチナーゼBおよびアンギオテンシノーゲンからなる群から選択される生理活性物質の活性または産生阻害剤、細胞活性抑制剤、増殖阻害剤、アポトーシス誘導剤、および、細胞外マトリックス構成分子または該細胞外マトリックス構成分子の産生もしくは分泌に関与する分子の少なくとも1つを標的とするsiRNA、リボザイム、アンチセンス核酸、DNA/RNAキメラポリヌクレオチドおよびこれらを発現するベクターからなる群から選択される、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
細胞外マトリックス構成分子の産生もしくは分泌に関与する分子がHSP47である、請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
薬物と担体とを、医療の現場またはその近傍で混合してなる、請求項5〜7のいずれかに記載の組成物。
【請求項9】
肺における細胞外マトリックス産生細胞の活性または増殖を制御する薬物、レチノイド、ならびに、必要に応じてレチノイド以外の担体構成物質を、単独でまたは組み合わせて含む1つまたはそれ以上の容器を含む、請求項5〜8のいずれかに記載の組成物の調製キット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−105742(P2011−105742A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−13933(P2011−13933)
【出願日】平成23年1月26日(2011.1.26)
【分割の表示】特願2008−68227(P2008−68227)の分割
【原出願日】平成20年3月17日(2008.3.17)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】