説明

肺表面活性物質の配合物

ジパルミトイルホスファチジルコリン、ホスファチジルグリセロール、及び本質的に中性の脂質を含み、本質的に、1−パルミトイル2−オレイルホスファチジルグリセロール及びパルミチン酸を有しない、合成の肺表面活性組成物を提供する。呼吸疾患を治療する方法であって、治療上有効な量の、ジパルミトイルホスファチジルコリン、ホスファチジルグリセロール、及び本質的に中性の脂質を含み、本質的に、1−パルミトイル2−オレイルホスファチジルグリセロール及びパルミチン酸を有しない、合成の肺表面活性物質を投与することを含む当該方法も又、提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この出願は、35U.S.C.§119(e)の下で、2004年12月23日に出願された出願No.60/638,665号及び2005年12月21日に出願された米国特許出願(弁理士ドケットNo.DISC−0020)に対する優先権を主張する。上記の出願の各々の開示は、そっくりそのまま参考として援用する。
【0002】
この発明は、肺表面活性物質と中性脂質とを含む、表面張力の減少、低い粘性及び増大された貯蔵安定性を示す新規な肺表面活性組成物に関係する。
【背景技術】
【0003】
肺表面活性物質は、複雑な脂質とタンパク質の組成物であり、動物から抽出して、精製して、新生児呼吸障害症候群の治療に用いることができる。動物由来の表面活性物質は、精製するのが困難であり、それらを製造することのできる規模が制限され、反復使用において免疫原反応を引き起こす可能性を有しており、それ故、他の臨床適応における利用が示されていない。ある範囲の肺の病状において表面活性物質の潜在的用途を利用することは、機能的表面活性物質の利用可能性(必要な規模で製造されうること及び特定の送達システムによる利用及び特定の病状に対する利用のために改変される柔軟性を有していることの両方)を必要とする。一つの開発中のかかる表面活性物質は、合成により製造されて、pH7.7の等張の水性トリス塩緩衝溶液中に分散されたジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)、又は1−パルミトイル2−オレオイルホスファチジルグリセロール(POPG)、パルミチン酸(PA)及びシナプルチド(KL4又はKL4)と呼ばれる表面活性タンパク質Bの巧みに処理された模倣物の組成を有する。この組成物は、現在、RDS、胎便吸引症候群及び急性呼吸障害症候群における利用について様々な濃度で評価されている。この組成物は又、用途のために、一種以上の成分を減らし、増やし又は置換することにより改変することもできる。
【0004】
以前の仕事は、30mg/ml Surfaxin(登録商標)(即ち、4.05mg/ml PA)と比較して減じた濃度のパルミチン酸(PA)又はセチルアルコール(CA)を有する配合物は、Surfaxin(登録商標)と比較して一層低い粘度を示すということを示している。しかしながら、これは、パルミチン酸又はセチルアルコールの含有量がイン・ビトロ技術により測定して低下するので、機能的表面張力の活性の喪失を犠牲にしている。しかしながら、POPGではなくてDPPGを用いること及びコレステロールを加えることにより、パルミチン酸を、この配合物から完全に除外することができ、その結果生成する組成物は、低粘度を示すが、良好な表面活性を維持している。
【0005】
最近、低濃度のコレステロールが、肺表面活性物質の界面膜の加圧中の相分離の終結に有意に寄与するということが見出された(Discher等、1999, Biochemistry 38:374-83)。他の研究は、低濃度で、コレステロールが、脂質二重層において近くの脂質の弾力性応答に寄与することを示唆した。この弾力性応答は、周囲の脂質の、コレステロールの疎水性形状に適合する傾向により表現される(Kessel等、2001, Biophys J. 81:643-58)。事実、コレステロールは、脂質二重層の物理的特性を変調して、脂質相共存及び対応ドメイン形成を誘導することができる(Radhakrishnan及びMcConnell, 1999, Biophys J. 77:1507-17)。
【0006】
これらの発見、及び天然の肺表面活性物質中のコレステロールの存在により、この報告は、様々な濃度のコレステロール(1〜30モル%、2〜15モル%に収束)をKL4含有配合物に含有させてそれらの特性を改良することに関係する。特に(但し、制限はしない)、それは、KL4含有配合物のエアゾール化に、それらの配合物の粘度を低下させ或は濃縮された脂質ベースの分散体の構造を改変して、エアゾール化されうる表面活性物質の量の増大を達成することによって役立ちうる。加えて、コレステロールを飽和脂質と共に表面活性配合物に含有させることは、肺胞の拡張に必須の単層の側面安定性の増大を促進し増大させうるであろう。その上、DPPCの転移温度は、体温に近い(41℃)ので、コレステロールは、二重層を「軟化させ」、その透過性を増して、肺胞の圧縮及び拡張中の相分離を排除するであろう。その上更に、コレステロールは、膜摂動効果に寄与し、それ故、界面張力のエネルギーを減少させて線張力を低下させるであろう(臨床的点において、2つの相の特性が同様になるとき)。特にそれは、脂質−ペプチド−相互作用(特にKL4−DPPC/DPPG相互作用)を改善しうる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
現行の標準的な送達方法は、表面活性物質を気道と肺胞の表面に即座には送達しない。この手順は、表面活性物質のボーラスの、挿管された患者への導入を含む(侵襲的手順)。肺中に分配するためには、表面活性物質が、呼吸運動中、肺表面を横切って流れて広がると同時に、肺の中へ一層深く吸引されなければならない。従って、エアゾールとして十分な量で効果的に送達されうる、適当なエアゾールサイズ及びサイズ特性の配合物は、侵襲的送達手順を用いることなく、肺中に分配されて治療応答を発揮するはずである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明の要約
本発明は、新規な肺表面活性組成物及びそれらに関連した利用方法に関係する。この発明は、部分的に、表面活性物質、1,2−ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)、ホスファチジルグリセロール(DPPG)、本質的に中性の脂質を含むが、本質的にパルミチン酸(PA)又は1−パルミトイル2−オレオイルホスファチジルグリセロール(POPG)を含まない配合物が、PA及び/又はPOPG含有配合物と比較して、様々なエアゾール発生器からの一層高いエアゾール産出速度及び低い粘度をを示すという発見に関係している。従って、本発明は、ジパルミトイルホスファチジルコリン、ホスファチジルグリセロール及び本質的に中性の脂質を含み且つ本質的に1−パルミトイル2−オレオイルホスファチジルグリセロール及びパルミチン酸を含まない肺表面活性物質に関係する。
【0009】
本発明は又、ジパルミトイルホスファチジルコリン、ホスファチジルグリセロール及び本質的に天然の脂質を含み且つ本質的に1−パルミトイル2−オレオイルホスファチジルグリセロール及びパルミチン酸を有しない合成の肺表面活性物質をも提供する。幾つかの面において、ホスファチジルグリセロールは、飽和しており、不飽和であり又は半飽和である。このような幾つかの面において、肺表面活性物質飽和ホスファチジルグリセロールは、ジパルミトイルホスファチジルグリセロールである。幾つかの面において、1−パルミトイル2−オレオイルホスファチジルグリセロール及びパルミチン酸の各表面活性物質は、全リン脂質の約5モルパーセント未満の量で存在する。幾つかの面において、本質的に中性の脂質には、コレステロールが含まれる。他の面において、肺表面活性物質本質的に中性の脂質には、脂肪酸、脂肪酸エステル、脂肪酸アルコール、コレステロール、コルチコステロイド、グルココルチコステロイド、トリフルオリネートグルココルチコイド、β2アゴニスト、植物ステロール、リン脂質、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルイノシトール、スフィンゴミエリン、ジグリセリド、ジオレイン、ジパルミトレイン、混合カプリリン−カプリン、トリグリセリド、トリオレイン、トリパルミトレイン、トリリノレイン、トリカプリリン、又はトリラウリンが含まれる。このような幾つかの面において、コレステロール濃度は、約0.1〜50モル%である。このような幾つかの面において、コレステロール濃度は、約1〜20モル%である。このような幾つかの面において、コレステロール濃度は、約8〜15モル%コレステロール濃度である。このような幾つかの面において、ジパルミトイルホスファチジルコリンのジパルミトイルホスファチジルグリセロールに対するモル比は、4〜1である。このような幾つかの面において、ジパルミトイルホスファチジルコリンのジパルミトイルホスファチジルグリセロールに対するモル比は、7〜3である。このような幾つかの面において、ジパルミトイルホスファチジルコリンのジパルミトイルホスファチジルグリセロールに対するモル比は、3〜1である。このような幾つかの面において、ジパルミトイルホスファチジルコリン及びホスファチジルグリセロールの全濃度は、約10〜150mg/mlである。幾つかの面において、ジパルミトイルホスファチジルコリン及びホスファチジルグリセロールの全濃度は、約50〜125mg/mlである。他の面において、脈動泡表面張力測定法により測定した表面活性物質の動的表面張力は、約10mN以下である。このような幾つかの面において、肺表面活性物質は、更に、表面活性ポリペプチドを含む。ある面において、この表面活性ポリペプチドは、少なくとも10〜約60アミノ酸残基を含み、式(ZaUb)cZdにより表される交互の疎水性及び親水性アミノ酸残基の領域を有する表面を含む(式中、Zは、R及びKよりなる群から独立に選択する親水性アミノ酸残基であり;Uは、L及びCよりなる群から独立に選択する疎水性アミノ酸残基であり;aは、1又は2であり;bは、約3〜8の平均値を有し;cは、1〜10であり;そしてdは、0〜2である)。このような幾つかの面において、肺表面活性物質は、式KLLLLKLLLLKLLLLKLLLLKにより表されるアミノ酸残基配列を有する。
【0010】
本発明は又、本質的にジパルミトイルホスファチジルコリン、不飽和ホスファチジルグリセロール、本質的に中性の脂質及び表面活性ポリペプチドよりなる合成の肺表面活性物質をも提供する。幾つかの面において、不飽和ホスファチジルグリセロールは、パルミトイルオレイルホスファチジルグリセロールである。このような幾つかの面において、本質的に中性の脂質は、コレステロールである。このような幾つかの面において、表面活性ポリペプチドは、式KLLLLKLLLLKLLLLKLLLLKにより表されるアミノ酸残基配列を有する。
【0011】
本発明は、本質的にジパルミトイルホスファチジルコリン、不飽和ホスファチジルグリセロール、パルミチン酸、本質的に中性の脂質及び表面活性ポリペプチドよりなる合成の肺表面活性物質を提供する。このような幾つかの面において、不飽和ホスファチジルグリセロールは、パルミトイルオレイルホスファチジルグリセロールである。このような幾つかの面において、中性の脂質は、コレステロールである。このような幾つかの面において、表面活性ポリペプチドは、式KLLLLKLLLLKLLLLKLLLLKにより表されるアミノ酸残基配列を有する。
【0012】
本発明は又、本質的にジパルミトイルホスファチジルコリン、ジパルミトイルホスファチジルグリセロール、本質的に中性の脂質及び表面活性ポリペプチドよりなる合成の肺表面活性物質をも提供する。このような幾つかの面において、本質的に中性の脂質は、コレステロールである。このような幾つかの面において、本質的に中性の脂質には、脂肪酸、脂肪酸エステル、脂肪酸アルコール、コレステロール、コルチコステロイド、グルココルチコステロイド、トリフルオリネート、グルココルチコイド、β2アゴニスト、植物ステロール、リン脂質、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルイノシトール、スフィンゴミエリン、ジグリセリド、脂肪アルコール、ジオレイン、ジパルミトレイン、混合カプリリン−カプリン、トリグリセリド、トリオレイン、トリパルミトレイン、トリリノレイン、トリカプリリン、又はトリラウリンが含まれる。このような幾つかの面において、表面活性ポリペプチドは、少なくとも10〜約60以下のアミノ酸残基を含み、式(ZaUb)cZdにより表される交互の疎水性及び親水性アミノ酸残基の領域を有する配列を含む(式中、Zは、R及びKよりなる群から独立に選択する親水性アミノ酸残基であり;Uは、L及びCよりなる群から独立に選択する疎水性アミノ酸残基であり;aは、1又は2であり;bは、約3〜8の平均値を有し;cは、1〜10であり;そしてdは、0〜2である)。このような幾つかの方法において、肺表面活性物質は、式KLLLLKLLLLKLLLLKLLLLKにより表されるアミノ酸残基配列を有する。
【0013】
本発明は、ジパルミトイルホスファチジルコリン、ジパルミトイルホスファチジルグリセロール、及び本質的に中性の脂質よりなる合成の肺表面活性物質を提供する。幾つかの面において、本質的に中性の脂質には、コレステロールが含まれる。このような幾つかの面において、本質的に中性の脂質には、脂肪酸、脂肪酸エステル、脂肪酸アルコール、コレステロール、コルチコステロイド、グルココルチコステロイド、トリフルオリネートグルココルチコイド、β2アゴニスト、植物ステロール、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルイノシトール、スフィンゴミエリン、ジグリセリド、ジオレイン、ジパルミトレイン、混合カプリリン−カプリン、トリグリセリド、トリオレイン、トリパルミトレイン、トリリノレイン、トリカプリリン、又はトリラウリンが含まれる。
【0014】
本発明は、更に、呼吸疾患例えば新生児呼吸困難症候群を治療する方法であって、治療上有効な量の、ジパルミトイルホスファチジルコリン、ホスファチジルグリセロール、及び本質的に中性の脂質を含み且つ1−パルミトイル2−オレオイルホスファチジルグリセロール及びパルミチン酸を本質的に有しない合成の肺表面活性物質を投与することを含む当該方法を提供する。このような幾つかの方法において、ホスファチジルグリセロールは、飽和であり、不飽和であり又は半飽和である。このような幾つかの方法において、飽和ホスファチジルグリセロールは、ジパルミトイルホスファチジルグリセロールである。他の方法において、本質的に中性の脂質には、コレステロールが含まれる。幾つかの方法において、本質的に中性の脂質には、脂肪酸、脂肪酸エステル、脂肪酸アルコール、コレステロール、コルチコステロイド、植物ステロール、リン脂質、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルイノシトール、スフィンゴミエリン、ジグリセリド、ジオレイン、ジパルミトレイン、混合カプリリン−カプリン、トリグリセリド、トリオレイン、トリパルミトレイン、トリリノレイン、トリカプリリン、又はトリラウリンが含まれる。
【0015】
本発明は、更に、呼吸疾患例えば新生児呼吸困難症候群を治療する方法であって、該方法は、治療上有効な量の、本質的に、ジパルミトイルホスファチジルコリン、ホスファチジルグリセロール、本質的に中性の脂質及び表面活性ポリペプチドよりなる合成の肺表面活性物質を投与することを含み、該ポリペプチドが、式(ZaUb)cZdにより表される交互の疎水性及び親水性アミノ酸残基の領域を有する当該方法を提供する(式中:Zは、R及びKよりなる群から独立に選択する親水性アミノ酸残基であり;Uは、L及びCよりなる群から独立に選択する疎水性アミノ酸残基であり;aは、1又は2であり;bは、約3〜8の平均値を有し;cは、1〜10であり;そしてdは、0〜2である)。このような幾つかの方法において、ホスファチジルグリセロールは、飽和の、不飽和の又は半飽和のものである。このような幾つかの方法において、飽和ホスファチジルグリセロールは、ジパルミトイルホスファチジルグリセロールである。このような幾つかの方法において、本質的に中性の脂質には、コレステロールが含まれる。このような幾つかの方法において、ポリペプチドは、式KLLLLKLLLLKLLLLKLLLLKにより表されるアミノ酸残基配列を有する。
【0016】
本発明は、更に、呼吸疾患例えば呼吸困難症候群を治療する方法であって、治療上有効な量の、ジパルミトイルホスファチジルコリン、ジパルミトイルホスファチジルグリセロール、及び本質的に中性の脂質を含み且つ本質的に1−パルミトイル2−オレオイルホスファチジルグリセロール及びパルミチン酸を有しない合成の表面活性物質を投与することを含む当該方法を提供する。
【0017】
本発明は、更に、呼吸疾患例えば呼吸困難症候群を治療する方法であって、該方法は、治療上有効な量の合成の肺表面活性物質を投与することを含み、該表面活性物質が、式(ZaUb)cZdにより表される交互の疎水性及び親水性アミノ酸残基の領域を有するポリペプチドと混合した一種以上の製薬上許容しうるリン脂質を含む当該方法を提供する(式中:Zは、R及びKよりなる群から独立に選択する親水性アミノ酸残基であり;Uは、L及びCよりなる群から独立に選択する疎水性アミノ酸残基であり;aは、1又は2であり;bは、約3〜8の平均値を有し;cは、1〜10であり;そしてdは、0〜2である)。このような幾つかの方法において、ポリペプチドは、式KLLLLKLLLLKLLLLKLLLLKにより表されるアミノ酸残基配列を有する。
【0018】
本発明は又、本発明の表面活性物質を最後にオートクレーブにより殺菌することを含む、合成の肺表面活性物質を製造する方法をも提供する。
【0019】
本発明は、更に、肺系への薬物送達のための方法であって、該方法は、治療を必要とする患者に、有効量の本発明の合成の表面活性物質を、肺への投与のための製薬上許容しうるキャリアーにて投与することを含み、微粒子が、約8〜15モル%のコレステロール濃度で、直径0.5〜5ミクロン及び30cP未満の粘度を有する当該方法を提供する。
【0020】
本発明は、更に、肺系への薬物送達用配合物の粘度を低下させる方法であって、コレステロールを、上記のように、約8〜15モル%の濃度で、本発明の合成の肺表面活性物質に加えることを含む当該方法を提供する。
【0021】
本発明は、更に、肺系への薬物送達用配合物のエアゾール化速度を増大させる方法であって、コレステロールを、上記のように、約8〜15モル%の濃度で、本発明の合成の肺表面活性物質に加えることを含む当該方法を提供する。
【0022】
本発明は、更に、肺系への薬物送達用配合物の貯蔵安定性を増大させる方法であって、コレステロールを、上記のように、約8〜15モル%の濃度で、請求項1に記載の合成の肺表面活性物質に加えることを含む当該方法を提供する。
図面の簡単な説明
【0023】
図1。3mg/ml TPLで測定したDPPG配合物の表面活性。
【0024】
図2。3mg/ml TPLで測定した配合物の表面活性。
【0025】
図3。1日及び4日間冷蔵した後の、配合物についての、コレステロール濃度対見かけ粘度のプロット。
【0026】
図4。粒度分析。体積中央値直径(D50)の10回の測定を行なって、各配合物ロットにつき平均した。各配合物のロットについてのD50の平均を標準偏差と共に示してある。粘度との相関を示すために、水和の4日後の粘度もプロットした。
【0027】
図5。60mg/ml(mg−TPL/分)で測定した配合物のエアゾール生産速度。
【0028】
図6。長期の見かけ粘度。
【0029】
図7。粒度分析。体積中央値直径(D50)の10回の測定を行なって、各配合物ロットにつき平均した。各配合物の3つのロットについてのD50の平均を、標準偏差と共に示してある。見かけ粒度には殆ど差は認められず、但し、2モル%コレステロール配合物は、60mg/mlの濃度で一層大きい見かけ粒度を示した。
【0030】
図8。25℃及び湿度60%で30日後の、見かけ粘度及び表面活性。
【0031】
図9。30mg/ml DPPC、DPPG及びコレステロール(10モル%)配合物での処理後の、ビヒクルで処理した対照用動物(n=6)と比較しての、ウサギ胎児肺のコンプライアンスの変化(n=6)。
【0032】
図10。熱安定性における配合物についての、見かけ粘度データ。
【0033】
図11。熱安定性における配合物についての、エアゾール生産速度測定値。
【0034】
図12。5℃貯蔵における熱安定性における配合物についての、KL4の損失パーセント。
【0035】
図13。25℃貯蔵における熱安定性における配合物についての、KL4の損失パーセント。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
発明の詳細な説明
A.一般的概観
この発明は、特定の方法、試薬、化合物、組成物又は生物系に限られず、当然変化しうるということは、理解されるべきである。ここで用いる用語は、特定の具体例を記載するだけの目的のためのものであって、制限することを意図するものではないということも又、理解されるべきである。この明細書及び添付の請求の範囲で用いる場合、単数形は、明らかに違う場合を除いて、複数形をも包含する。従って、例えば、「細胞」という場合、2以上の細胞の組合せを包含する。
【0037】
用語「約」は、ここで用いる場合、量、持続時間などの測定可能な値を指す場合、±20%の又は±10%の、一層好ましくは±5%の、尚一層好ましくは±1%の、更に一層好ましくは±0.1%の、特定の値からの変動を包含することを意味し、例えば、変動は、開示した方法を実行するのに適している。
【0038】
別途規定しない限り、ここで用いるすべての技術的及び科学的用語は、一般に、当業者によって理解されるものと同じ意味を有している。ここに記載したものと類似の又は同等の任意の方法及び物を本発明の試験の実施において用いることができるが、好適な物及び方法は、ここに記載したものである。本発明の説明及び請求の範囲においては、下記の用語を用いる。
【0039】
本発明は、活性物質の混合物を媒質にて送達する。ここで用いる場合、用語「混合物」は、溶液、懸濁液、分散体又は乳濁液を意味する。「乳濁液」は、2以上の一般に不混和性脂質の混合物を指し、一般にコロイドの形態である。この混合物は、例えば、乳濁液中に均質に又は不均質に分散しうる脂質であってよい。或は、これらの脂質は、例えばクラスター又は層(単層又は二重層を含む)の形態に凝集してよい。「懸濁液」又は「分散体」は、好ましくは微粉化された、2相以上(固体、液体又は気体)の混合物例えば液体中の液体、固体中の固体、液体中の気体などであって、好ましくは長期にわたって安定なままでいることのできるものを指す。好ましくは、この発明の分散体は、液体分散体である。
【0040】
この混合物は、所望の濃度の活性物質及び媒質を含む。好ましくは、媒質中の活性物質の濃度は、患者が有効量の活性物質を受けることを確実にするように選択し、それは、典型的には、約1〜100mg/mlである。選択した活性物質及び媒質に基づいて、当業者は、適当な濃度を容易に決定することができる。混合物は、しばしば、一種以上の湿潤剤を含む。用語「湿潤剤」は、脂質の表面張力を減らし、それ故、その固体表面への粘着力を増す物質を意味する。好ましくは、湿潤剤は、親水性の基を一端に有し疎水性の基を他端に有する分子を含む。この親水性の基は、鼻状部分などの表面における物質のビーディング又はコレクションを防止すると考えられている。適当な湿潤剤は、石鹸、アルコール、脂肪酸、これらの組合せなどである。
【0041】
「組成物」及び「配合物」は、一種より多くの要素又は成分を合わせ又は混合することにより生じる生成物を指すために交換可能に用いる。
【0042】
「貯蔵安定性」は、薬物製品の、予想される貯蔵条件下での安定性を指す。増進又は改良された貯蔵安定性を有する配合物は、貯蔵中又は長期間にわたって、一層少ない化学分解及び一層少ない鍵となる物理的特性の変化(例えば、肺表面活性物質の場合、イン・ビトロでの表面活性の喪失)を示すであろう。
【0043】
「活性剤」は、ここで用いる場合、治療目的(例えば、薬物)、診断目的又は予防目的に、肺送達により用いることのできる物質又は物質の組合せを指す。例えば、活性剤は、患者における病気の存在又は非存在を診断するのに及び/又は患者における病気を治療するのに有用でありうる。従って、「活性剤」は、肺経路で投与した場合に、生物学的効果を発揮することのできる物質又は物質の組合せを指す。この生物活性剤は、おそらく中性であってよく、又は負に帯電していてよい。典型的な剤には、例えば、インスリン、オータコイド、抗菌剤、解熱剤、抗炎症剤、表面活性剤、抗体、抗真菌剤、抗細菌剤、鎮痛剤、食欲抑制剤、鎮痙剤、抗鬱剤、抗精神病剤、抗癲癇剤、抗マラリア剤、抗原虫剤、抗痛風剤、精神安定剤、抗不安薬、麻酔剤アンタゴニスト、抗パーキンソン剤、コリン作動性アゴニスト、抗甲状腺剤、抗酸化剤、抗新生物剤、抗ウイルス剤、食欲抑制剤、制吐剤、抗コリン作動剤、抗ヒスタミン剤、抗片頭痛剤、骨調節剤、気管支拡張剤及び抗喘息剤、キレート剤、解毒剤及びアンタゴニスト、造影剤、コルチコステロイド、粘液溶解剤、咳止め及び鼻鬱血除去剤、脂質調節剤、全身麻酔剤、局所麻酔剤、筋弛緩剤、栄養剤、副交感神経様作動剤、プロスタグランジン、放射性医薬、利尿剤、抗不整脈剤、制吐剤、免疫調節剤、造血剤、抗凝固剤及び血栓溶解剤、冠動脈、脳又は末梢血管拡張剤、ホルモン、避妊薬、利尿剤、抗高血圧症薬、心臓血管薬、催眠剤、ビタミン、ワクチンなどが含まれる。
【0044】
好ましくは、活性剤は、高投与量治療剤である。かかる高投与量治療剤には、抗生物質例えばアミカシン、ゲンタマイシン、コリスチン、トブラマイシン、アンホテリシンBが含まれる。他のものには、粘液溶解剤例えばN−アセチルシステイン、ナシステリン、アルギナーゼ、メルカプトエタノールなどが含まれる。抗ウイルス剤例えばリバビリン、ガンシクロバーなど、ジアミジン例えばペンタミジンなど及びタンパク質例えば抗体も又、企図される。
【0045】
現在、少なくとも次の3つのクラスの、呼吸疾患の治療のための肺表面活性物質代替物が企図されている:(1)「天然」;(2)「合成」;及び「生体模倣物」。天然の表面活性物質代替物は、動物の肺から洗浄又は有機溶媒による抽出により調製され、クロマトグラフィーにより精製される(例えば、Creuwels等、1997 Lung 175:1-39; Notter 及び Wang, 1997, Reviews in Chemical Engineering 13:1-118; 及びKattwinkel, 1998, Clinics in Perinatology 25:17-32参照)。動物由来の表面活性物質代替物の幾つかは、FDA認可されている(例えば、Kattwinkel, 1998, Clinics in Perinatology 25:17-32; Gortner, 1990, Lung 168(補遺):864-869; Kendig等、1991, N.Engl.J.Med.324:865-871; Collaborative European Multicenter Study Group. Surfactant replacement therapy in severe neonatal respiratory distress syndrome: An international randomized clinical trial. 1988 Pediatrics 82:683-691参照)。合成の表面活性物質代替物は、定義によりタンパク質を含まず、合成リン脂質と、吸着及び拡散を容易にするために添加された化学剤(脂質又は洗剤)から作成される(例えば、Morley等、1981 Lancet i:64-68及びPhibbs等、1991, Pediatrics 88:1-9参照)。第三のクラスの配合物は、「生体模倣肺表面活性物質」である。生体模倣表面活性物質は、正確な分子組成を共有していないが、天然の肺表面活性物質の生物物理的特性を真似るようにデザインされる。これらの配合物は、合成のリン脂質の混合物を、組換えにより誘導され又は化学的に合成された、SP−B及び/又はSP−Cのペプチド類似体と共に含む(生体模倣表面活性物質の総説としては、例えば、McLean及びLewis, 1995, Life Sciences 56:363-378を参照されたい)。表面活性物質のすべての3つのクラスは、別段記してない限り、本発明の配合物における利用が企図される。それ故、「表面活性物質」は、ここで用いる場合、天然の、合成の及び生体模倣の表面活性物質を包含する。
【0046】
好適な活性剤は、肺の予防的又は救済のための治療に用いられる物質又は物質の組合せ(例えば、表面活性物質)である。特に好適な表面活性物質は、表面活性タンパク質Bのペプチド模倣物を組み込んだ「KL4」(「KL4活性物質」とも呼ばれる)である(WO89/06657;WO92/22315;WO98/49191;米国特許第5,260,273号;5,164,369号;5,407,914号;5,789,381号;5,952,303号;6,013,619号;6,013,764号;6,120,795号;及び6,613,734号参照;これらのすべてを、そっくりそのまま、参考として、すべての目的のために援用する)。KL4は、Surfaxin(登録商標)をベースとしており、好ましくは、本発明中にジパルミトイルホスファチジルコリン、ホスファチジルグリセロール及び本質的に中性の脂質(例えば、コレステロール)の水性分散体として存在し、本質的に1−パルミトイル2−オレオイルホスファチジルグリセロール及びパルミチン酸を有しない。かかる表面活性ペプチドは、動物起源から誘導することができ又は上記のように合成により誘導することのできるカチオン性ペプチドである。動物由来の表面活性物質を用いる場合には、その表面活性物質は、しばしば、ウシ又はブタ由来である。
【0047】
好ましくは、このペプチドは、脂肪酸又は脂肪アルコールを含まないリン脂質の水性分散体中に存在し、本件においては、1,2−ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)、ホスファチジルグリセロール(DPPG)、及びコレステロールの水性分散体であって、本質的にパルミチン酸(PA)又は1−パルミトイル2−オレオイルホスファチジルグリセロール(POPG)を含まない水性分散体中に存在する。
【0048】
この発明は、KL4を超える他のカチオン性ペプチドの利用を企図している。好ましくは、カチオン性ペプチドは、約10以上、好ましくは11以上で約60以下の、通常約35未満の、好ましくは約25未満のアミノ酸残基よりなる。
【0049】
当分野では、多くのカチオン性ペプチドが開示されている。例えば、米国特許第5,164,369号(すべての目的のために、そっくりそのまま、参考として本明細書中に援用する)を参照されたい。カチオン性ポリペプチドの例には、KLLLLKLLLLKLLLLK(KL4)、DLLLLDLLLLDLLLLDLLLLD(DL4)、RLLLLRLLLLRLLLLRLLLLR(RL4)、RLLLLLLLLRLLLLLLLLRLL(RL8)、RRLLLLLLLRRLLLLLLLRRL(R2L7)、RLLLLCLLLRLLLLLCLLLR、RLLLLLCLLLRLLLLCLLLRLL、及びRLLLLCLLLRLLLLCLLLRLLLLCLLLRDLLLDLLLDLLLDLLLDLLLD、並びにポリリジン、マゲイナン、デフェンシン、ポリミキシン、イセガナン、ヒスタチンなどが含まれる。好ましくは、カチオン性ペプチドは、KL4である。
【0050】
タンパク質又はポリペプチドの「表面活性」は、単独で又は他のタンパク質と共に、脂質と合わせたときに、Robertson 1980, Lung 158:57-68のイン・ビトロアッセイにおいて活性を示す能力として規定される。このアッセイにおいては、アッセイすべき試料を、気管内挿入管により、帝王切開により早産で得られたウサギ又は仔ヒツジに投与する。(これらの「早産児」は、自身のPSを欠いており、人工呼吸器上に維持される。) 肺コンプライアンス、血中ガス及び人工呼吸器圧の測定値は、活性のインデックスを与える。活性の予備的測定は、イン・ビトロアッセイ例えば、King及びClements, 1972, Am.J.Physiol. 223:715-726のもの又は以下で説明するタンパク質又はポリペプチドをリン脂質及び中性脂質と混合する場合に空気−水界面での表面張力の測定を利用するものによって行うこともできる。
【0051】
表面活性組成物において有用なリン脂質の例には、天然の及び/又は合成のリン脂質が含まれる。用いることのできるリン脂質には、ホスファチジルコリン、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、ホスファチジン酸及びホスファチジルエタノールアミンが含まれる。典型的リン脂質には、1,2ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)、ホスファチジルグリセロール(DPPG)、ジラウリルホスファチジルコリン(DLPC)(C12:0)、ジミリストイルホスファチジルコリン(DMPC)(C14:0)、ジステアロイルホスファチジルコリン(DSPC)、ジフィタノイルホスファチジルコリン、ノナデカノイルホスファチジルコリン、アラキドイルホスファチジルコリン、ジオレオイルホスファチジルコリン(DOPC)(C18:1)、ジパルミトオレオイルホスファチジルコリン(C16:1)、リノレオイルホスファチジルコリン(C18:2)、ジパルミトイルホスファチジルエタノールアミン(DPPE)、ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)、ジオレオイルホスファチジルグリセロール(DOPG)、パルミトイルオレオイルホスファチジルグリセロール(POPG)、ジステアロイルホスファチジルセリン(DSPS)大豆レシチン、卵黄レシチン、スフィンゴミエリン、ホスファチジルイノシトール、ジホスファチジルグリセロール、ホスファチジルエタノールアミン、及びホスファチジン酸、卵ホスファチジルコリン(EPC)が含まれる。
【0052】
一つの好適具体例において、この発明の表面活性組成物において有用なリン脂質には、1,2ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)及びホスファチジルグリセロールが含まれ、本質的にパルミトイルオレオイルホスファチジルグリセロール(POPG)は含まれない。他の好適具体例においては、ホスファチジルグリセロールは、飽和の、不飽和の又は半飽和のものである。他の好適具体例において、飽和ホスファチジルグリセロールは、ジパルミトイルホスファチジルグリセロール(DPPG)である。
【0053】
この発明の表面活性組成物において有用な中性脂質の例には、天然の及び/又は合成の中性脂質が含まれる。中性脂質には、脂肪酸、脂肪酸エステル、脂肪酸アルコール、コレステロール、コルチコステロイド、グルココルチコステロイド、トリフルオリネートグルココルチコイド、β2アゴニスト、植物ステロール、リン脂質、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルイノシトール、スフィンゴミエリン、ジグリセリド、ジオレフィン、ジパルミトレイン、混合カプリリン−カプリン、トリグリセリド、トリオレイン、トリパルミトレイン、トリリノレイン、トリカプリリン、又はトリラウリンが含まれうる。好適具体例において、本質的に中性の脂質は、コレステロールである。
【0054】
表面活性組成物において有用な脂肪酸、脂肪酸エステル及び脂肪酸アルコールの例には、メチルパルミテート、コレステリルパルミテートなど、パルミチン酸、セチルアルコール、ラウリン酸、ミリスチン酸、ステアリン酸、フィタン酸、ジパルミチン酸などが含まれる。好適具体例において、この表面活性物質は、本質的に、パルミチン酸を含まない。
【0055】
用語「媒質」は、水性媒質及び非水性媒質の両方を指す。好適な媒質は、送達される活性剤の生物学的活性に対して如何なる悪影響も引き起こさないように選択される。
【0056】
好ましくは、非水性媒質は、例えば、水素含有クロロフルオロカーボン、フルオロカーボンある種の有機化合物及びこれらの混合物を含む。幾らかの付随的呼吸支持を与えるため及び脱気状態で効率的な肺充満を与えるために、ペルフルオロカーボン液は、約40ml/100mlより大きい酸素溶解度を有するべきである。代表的なペルフルオロカーボン液には、FC−84、FC−72、RM−82、FC−75(3M Company, ミネソタ、Minneapolis)、RM−101(MDI Corporation, コネチカット、Bridgeport)、ジメチルアダマンタン(Sun Tech, Inc.)、トリメチルビシクロノナン(Sun Tech, Inc.)、及びペルフルオロデカリン(Green Cross Corp., 日本国)、これらの組合せなどが含まれるが、これらに限られない。
【0057】
好ましくは、水性媒質を用いる場合には、その媒質は、水を含む液体である。適当な媒質には、好ましくは生理的pH(7.3)から1pH単位以内に緩衝された等張イオン性溶液を含まれる。この媒質は、病原体その他の有害な物質を含まないべきであり、純水により構成されうるだけでなく、約20体積%以下の好ましくは約5体積%以下の非毒性有機液体例えばオキシ基含有液体例えばアルコール、エステル、エーテル、ケトンなどを含んでよい。有機成分の選択において、望ましくない反応例えば中毒、鎮静などを生じさせそうな物質を避けることは重要である。好ましくは、この媒質は、塩溶液又はトロメタミン緩衝液である。
【0058】
「呼吸」は、鼻、咽喉、喉頭、気管、気管支及び肺を含む身体組織によって、酸素を体内に取り込んで二酸化炭素を排出する過程を指す。
【0059】
「呼吸疾患」、「呼吸障害」、「呼吸状態」及び「呼吸症候群」は、炎症を含んで、特に気管、気管支及び肺を含む呼吸系の構成要素に影響を及ぼす幾つかの病気の何れか一つを指す。かかる病気の例には、急性肺胞疾患、閉塞性呼吸疾患(例えば、喘息、気管支炎;及びとCOPD呼ばれる慢性閉塞性呼吸疾患)、上気道疾患(例えば、中耳炎、鼻炎/副鼻腔炎及び睡眠無呼吸)、間質性肺疾患、アレルギー、及び呼吸感染症(例えば、肺炎、カリニ肺炎、及びRSウイルス(RSV))が含まれる。
【0060】
急性肺胞疾患には、急性肺損傷(ALI)、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、胎便吸引症候群(MAS)及び呼吸障害症候群(RDS)が含まれる。ALIは、直接又は間接に肺の気嚢である肺胞を損傷する状態と関連している。ALIは、関連する肺表面活性物質層の崩壊を伴う肺の炎症及び透過性の増大した症候群である。ALIの最も重い現われは、ARDSである。ALIの原因には、典型的には、生命の危険を伴う手術と関係した合併症、機械的人工呼吸器による肺損傷(しばしば、VILIと呼ばれる)、煙の吸入、肺炎、及び敗血症がある。
【0061】
成人におけるARDSは、生命を脅かす病気であり、世界の何処にも認められた治療が存在しない。それは、患者における肺内の過剰の液体及び低下した酸素レベルを特徴とする。この病気の一つの顕著な特徴は、肺組織の天然の表面活性物質の破壊である。この病状は、肺炎及び敗血症性ショック(感染症により引き起こされる中毒状態)及び事故例えば煙の吸入、液体に浸ること、産業上の災難又は他の外傷を含む疾病により引き起こされる。
【0062】
満期産児におけるMASは、満期産児が、天然の表面活性物質が涸渇した肺内に胎便を伴って生れる状態である。胎便は、胎児の母親の子宮内での最初の排便であり、吸入した場合にMASを起こしうる。MASは、肺の機能不全の結果として生命を脅かしうる。
【0063】
未熟児におけるRDSは、不十分な量の天然の表面活性物質を有する未熟児が生れる状態である。妊娠32週前に生れた未熟児は、天然の肺表面活性物質を完全に発生しておらず、それ故、生命を維持するための治療を必要とする。この状態は、しばしば、機械的換気の必要を生じる。
【0064】
COPDは、包括的用語であり、ここで用いる場合、空気の流れの閉塞と関係する肺の病気を記載するのに用いる。最も一般的には、肺気腫、慢性気管支炎及び慢性の喘息が、単独で又は組み合わせて、この範疇に入る。
【0065】
喘息は、突然の肺の収縮及び炎症を特徴とする一般的な病気である。上気道系の収縮は、気道の筋肉が締まるときに起きるが、炎症は、通常、気道刺激物により引き起こされるアレルギー反応による気道の膨潤である。これらの事象は、両方とも、気道を狭くして、ゼイゼイいう音、呼吸の短さ及び胸郭の緊張を生じる。幾つかの研究は、表面活性物質の損傷及び機能不全が喘息の重要な構成要素であることを示している。気道の収縮は、喘息発作中に発生する種類の表面活性物質機能不全が肺深部の気道にあるときに起きる。
【0066】
加えて、本発明の組成物及び方法は、他の呼吸疾患及び異常例えば急性気管支炎、気管支拡張症、肺炎(人工呼吸器に関連した肺炎、院内感染による肺炎、ウイルス性肺炎、細菌性肺炎、ミコバクテリウム性肺炎、真菌性肺炎、レフレル症候群及びカリニ肺炎を含む)、結核、嚢胞性繊維症(CF)、肺気腫、放射性肺炎、喫煙により引き起こされる炎症、肺水腫、塵肺症、サルコイドーシス、珪肺症、石綿症、ベリリウム中毒症、炭坑夫塵肺症(CWP)、綿肺症、間質性肺疾患(ILD)例えば特発性肺繊維症、コラーゲン血管異常と関連したILD、全身性エリテマトーデス、リウマチ様関節炎、強直性脊椎炎、全身性硬化症、及び他の異常例えばインフルエンザなどから又は二次的に生じる肺の炎症の治療において有用である。
【0067】
「炎症」又は「炎症性応答」は、細菌、外傷、毒素、熱又は他の任意の原因により組織が損傷したときに生じる先天的な免疫応答を指す。損傷した組織は、ヒスタミン、ブラジキニン及びセロトニンを含む化合物を放出する。炎症は、急性応答(即ち、炎症過程が活性である応答)及び慢性応答(即ち、遅い進行及び新たな結合組織の形成を特徴とする応答)の両方を指す。急性と慢性の炎症は、関与する細胞型によって区別することができる。急性炎症は、しばしば、多形核好中球を含み;慢性炎症は、通常、リンパ組織球増多性及び/又は肉芽腫性応答を特徴とする。炎症は、特異的及び非特異的防御系の両方の反応を含む。特異的防御系の反応は、抗原(おそらく、自己抗原を含む)に対する特異的な免疫系反応応答である。非特異的防御系反応は、免疫学的記憶のできない白血球により媒介される炎症性反応である。かかる細胞には、顆粒球、マクロファージ、好中球及び好酸球が含まれる。炎症の特定の型の例は、広汎性炎症、局所的炎症、クループ性炎症、間質性炎症、閉塞性炎症、実質性炎症、特異的炎症、毒性炎症及び外傷性炎症である。
【0068】
「ポリペプチド」、「ペプチド」及び「タンパク質」は、ここでは、アミノ酸残基のポリマーを指すために交換可能に用いる。これらの用語は、少なくとも一のアミノ酸残基が対応する天然アミノ酸の人工的模倣物であるアミノ酸ポリマー並びに天然アミノ酸ポリマー及び非天然アミノ酸ポリマーに適用される。
【0069】
「アミノ酸」は、天然の及び合成のアミノ酸、並びに天然のアミノ酸と類似の様式で機能するアミノ酸類似体及びアミノ酸模倣物を指す。天然のアミノ酸は、遺伝コードによりコードされるもの、並びに後で修飾されるアミノ酸例えばヒドロキシプロリン、γ−カルボキシグルタミン、及びO−ホスホセリンである。アミノ酸類似体は、天然のアミノ酸と同じ基本的化学構造即ち水素、カルボキシル基、アミノ基及びR基に結合したα炭素を有する化合物例えばホモセリン、ノルロイシン、メチオニンスルホキシド、メチオニンメチルスルホニウムを指す。かかる類似体は、修飾されたR基を有し(例えば、ノルロイシン)又は修飾されたペプチド主鎖を有するが、天然のアミノ酸と同じ基本的化学構造を保持している。アミノ酸類似体は、アミノ酸の一般的化学構造と異なる構造を有するが、天然のアミノ酸と類似の様式で機能する化学化合物を指す。
【0070】
アミノ酸は、ここでは、一般に知られている三文字記号又はIUPAC−IUB生化学命名法委員会により推奨されている一文字記号によって言及することができる(下記の表1参照)。ヌクレオチドも、同様に、一般的に受け入れられている一文字コードにより言及することができる。
【表1】

【0071】
全アミノ酸残基配列が、ここでは、左から右への向きが慣用のアミノ末端からカルボキシ末端への向きである式により表されているということに注意すべきである。その上、ダッシュは、それぞれアミノ及びカルボキシ末端のH及びOH(水素及び水酸基)などの基への、又は一つ異常のアミノ酸残基の更なる配列への結合を示すものであることに注意すべきである。
【0072】
「保存的に改変された変異体」は、アミノ酸及び核酸配列の両方に適用される。特定の核酸配列に関して、保存的に改変された変異体は、同じ又は本質的に同じアミノ酸配列をコードする核酸を指し、又は核酸がアミノ酸配列をコードしない場合は、本質的に同じ配列を指す。遺伝コードの縮重の故に、多数の機能的に同じ核酸が、任意所定のタンパク質をコードする。例えば、コドンGCA、GCC、GCG及びGCUは、すべて、アミノ酸アラニンをコードする。従って、一のコドンによりアラニンが特定されるすべての位置において、そのコドンは、コードされるポリペプチドを変えることなく、記載した対応するコドンの何れかに変えることができる。かかる核酸の変異は、「サイレント変異」であり、保存的に改変された変異の一種である。ここでは、ポリペプチドをコードするすべての核酸配列は、その核酸のすべての可能なサイレント変異をも記載する。当業者は、核酸中の各コドン(通常メチオニンだけをコードするコドンAUG、及び通常トリプトファンだけをコードするコドンTGGを除く)を、機能的に同じ分子を生じるように改変できることを認めるであろう。従って、ポリペプチドをコードする核酸の各サイレント変異は、発現産物に関して各記載された配列中に内在するが、現実のプローブ配列に関しては内在しない。
【0073】
「組換え体」は、ここで、例えば細胞又は核酸、タンパク質若しくはベクターに関して用いる場合には、その細胞、核酸、タンパク質又はベクターが、異質の核酸若しくはタンパク質の導入により又はネイティブな核酸若しくはタンパク質の変化によって改変されていること、又は細胞がそのように改変された細胞に由来することを示す。従って、例えば、組換え体の細胞は、ネイティブな(非組換え)型の細胞中では見出されない遺伝子を発現、即ち、組換え体中でなければ、異常発現され、過少発現され又は全く発現されないネイティブな遺伝子を発現する。
【0074】
「製薬上許容しうる賦形剤」は、一般に、安全で、無毒性で、望ましい、医薬組成物の製造において有用な賦形剤を意味し、獣医学用途並びにヒトの医薬用途に許容される賦形剤を包含する。かかる賦形剤は、固体、液体、半固体であってよく、エアゾール組成物の場合には、気体であってよい。
【0075】
「製薬上許容しうる塩及びエステル」は、製薬上許容しえて且つ望ましい薬理学的特性を有する塩及びエステルを意味する。かかる塩には、化合物中に存在する酸性プロトンが無機又は有機塩基と反応することのできる場合に形成することができる塩が含まれる。適当な無機塩には、アルカリ金属例えばナトリウム及びカリウム、マグネシウム、カルシウム及びアルミニウムにより形成されるものが含まれる。適当な有機塩には、有機塩基例えばアミン塩基例えばエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、トロメタミン、Nメチルグルカミンなどにより形成されるものが含まれる。かかる塩には、無機酸(例えば、塩化水素酸及び臭化水素酸)及び有機酸(例えば、酢酸、クエン酸、マレイン酸、及びアルカン−及びアレーンスルホン酸例えばメタンスルホン酸及びベンゼンスルホン酸)により形成される酸付加塩も又含まれる。製薬上許容しうるエステルには、化合物中に存在するカルボキシ、スルホニルオキシ、及びホスホンオキシ基から形成されるエステル例えば、C1−6アルキルエステルが含まれる。2つの酸性基が存在する場合には、製薬上許容しうる塩又はエステルは、一酸一塩若しくはエステル又は二塩若しくはエステルであってよく;同様に、2つより多くの酸性基が存在する場合には、かかる基の幾つか又は全部が、塩化又はエステル化されてよい。この発明において指名される化合物は、塩化若しくはエステル化されてない形態、又は塩化及び/若しくはエステル化された形態で存在しえて、かかる化合物のネーミングは、元の(塩化及びエステル化してない)化合物並びに製薬上許容しうる塩及びエステルの両方を意図している。この発明において指名されるある化合物は、一つより多い立体異性形態でも存在しえて、かかる化合物のネーミングは、すべての単独の立体異性体及びかかる立体異性体のすべての混合物(ラセミ体又はその他)を包含することを意図している。
【0076】
「製薬上許容しうる」、「生理的に耐えうる」及びこれらの文法にかなった変形物は、それらが、組成物、キャリアー、希釈剤及び試薬を指す場合、交換可能に用いられ、それらの物質を、ヒトに、その投与を妨げるような望ましくない生理的効果を生じることなく投与することができることを表す。
【0077】
注記ある場合を除き、「被験者」又は「患者」は、交換可能に用いて、哺乳動物例えばヒト患者及び非ヒト霊長類並びに実験用動物例えばウサギ、イヌ、ネコ、ラット、マウス及び他の動物を指す。従って、「被験者」又は「患者」は、ここで用いる場合、この発明の組成物を投与することのできる任意の哺乳動物患者又は被験者を意味する。本発明の幾つかの具体例において、患者は、呼吸の病気又は病状を引き起こす状態に遭遇する(例えば、ARDS又はRDS)。本発明の代表的具体例において、この発明の方法による一種以上の表面活性組成物を含む医薬組成物での治療について患者を同定するために、許容されたスクリーニング方法を用いて、患者に存在する病気若しくは病状の状態又は標的の若しくは疑わしい病気若しくは病状の危険因子を測定する。これらのスクリーニング方法には、例えば、患者が呼吸の病気を病んでいるかどうかを測定する試験が含まれる。これらの及び他の日常的方法は、臨床医が治療を必要とする患者を選択することを可能にする。
【0078】
「治療」は、治療処置における任意の成功の徴候又は例えば呼吸疾患例えばARDS若しくはRDSの改善若しくは防止を指す(任意の客観的又は主観的パラメーター例えば徴候の減少;軽減;漸減又は病状を患者にとって一層耐えられるものにすること;退行又は減退の速度の低下;又は退行の最終点を衰弱より軽度とすることを含む)。徴候の治療又は改善は、客観的又は主観的パラメーター(試験の結果を含む)に基づくものであってよい。従って、用語「治療」は、本発明の化合物又は薬剤を、呼吸疾患と関連する徴候又は病状の発展を防止し若しくは遅らせるため、緩和するため、又は抑え若しくは阻止するために投与することを含む。
【0079】
「治療効果」は、患者における、病気、病気の徴候又は病気の副作用の軽減、排除又は防止を指す。「治療上有効な量」は、病気、病状又は異常を治療するために患者に投与した場合に、その病気に対する治療を達成するのに十分な量を意味する。
【0080】
「治療用化合物」は、ここで用いる場合、呼吸疾患又は病状の予防又は治療に有用な化合物を指す。
【0081】
「治療上有効な」は、ここで用いる場合、治療用化合物の量の特徴、又は組み合わせ療法における組み合わせた治療用化合物の量の特徴を指す。この量及び組み合わせた量は、呼吸疾患又は病状の防止、回避、軽減又は排除のゴールを達成する。
【0082】
「プロドラッグ」は、薬物前駆体である化合物を指し、それは、患者への投与とその後の吸収後に、イン・ビボで幾つかの過程(例えば、代謝過程)を経て活性種に変換される。この変換過程からの他の生成物は、身体により容易に処理される。一層好適なプロドラッグは、一般に安全として受け入れられる生成物を生成する変換過程を含むものである。
【0083】
「随伴投与」、「共同投与」又は「同時投与」は、ここで用いる場合、活性剤(例えば、KL4組成物)を、互いに、一緒に、又は前後して投与することを包含する。多数の薬剤を、それらが、作用部位においてすべての薬剤が有効濃度に達することを可能にするのに十分な仕方で与えられるならば、同じ又は異なる経路で、同時に又は順次的に投与することができる。当業者は、本発明の特定の薬物及び組成物の投与の適当なタイミング、順序及び投薬量を決定するのに困難を有しないであろう。
B.肺表面活性物質−概観
【0084】
天然の肺表面活性物質は、肺胞の空気−水界面における単層の形成を促進し、圧縮中に生じる高い表面圧に耐えるように表面張力を低下させて単層を安定化させることにより、呼息中に肺胞が潰れるのを防止する脂質及びタンパク質の複雑な混合物である。未熟児及び時には満期産児は、十分な内因性表面活性物質を欠いているか又は正常な肺機能のための完全に機能的な表面活性物質を欠いていることがありうる。これは、呼吸障害症候群(RDS)と呼ばれる病状を生じえて、該症候群は、機械的換気及び高圧酸素の投与を必要とするかも知れない。かかる介入は、不幸にも、肺組織に永久的損傷を生じうるし、盲目へと導く未熟児網膜症(ROP)を引き起こしうる。
【0085】
肺表面活性物質(PS)は、成熟哺乳動物の肺の肺胞上皮を裏打ちする。天然のPSは、肺の気液界面で表面張力を低下させるように相互作用するリン脂質とアポタンパク質の両方を含有するので、「リポタンパク質複合体」と記載されてきた。天然の表面活性物質は、幾つかの脂質種を含み、ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)がその主成分であり、ホスファチジルグリセロール(PG)及びパルミチン酸(PA)を伴っている。少なくとも4種のタンパク質が関係しており、SP−A、SP−B、SP−C及びSP−Dと呼ばれている。これら4つのうちで、SP−BとSP−Cは、はっきりしており、低分子量で、比較的疎水性の、表面活性リン脂質混合物の表面活性特性を増進することが示されたタンパク質である。それらは、脂質のバルク相ラメラ組織から空気−水界面への移動を促進し、呼息中脂質単層を安定化させると考えられている。SP−B(別の表記法としてSP18とも記す)の構造は、帯電したアミノ酸(主に塩基性)が疎水性残基のストレッチ内にきちんと規則的な間隔で配置された珍しいものである。天然のSP−B配列の残基59〜80よりなるドメインについて、これらの帯電した原子団は、生物学的活性に必要であることが示されている。加えて、この疎水性−親水性ドメインに合った天然の及び合成のペプチドは、DPPC及びPGと合わせたときに、良好な表面活性を示す。
【0086】
表面活性物質は、肺の上皮細胞にラメラ体の形態で貯蔵され、搬出後に、構造変化を受けて、空気−水界面で単層を生じさせる前に管状ミエリンを形成する。表面活性タンパク質SP−A、−B及び−Cは、肺胞の拡張及び収縮中にこれらの構造変化を促進して脂質単層を安定化することができるということが提案されてきたが、分子レベルでの脂質−タンパク質相互作用の理解は、現在、欠けている。それ故、本発明は、幼児並びに成人におけるRDSの治療に関してのみならず、それが一般に脂質−タンパク質相互作用を見抜く洞察力の故にも、重要な含意を有する。
【0087】
幾つかの外因性表面活性配合物が、現在、幼児のRDSの治療に用いられている。これらは、減じた罹患率及び死亡率を有するが、継続的な改良が求められている。特に、機械的換気及び高圧酸素の投与により生じる合併症の故に、未熟児において、早く正常な肺機能が確立できるほど、一層有望な臨床成果となる。
【0088】
前述と一致して、外因性表面活性物質の重要な特徴には、投与後迅速に肺胞を広げる能力及びは違法の空気−水界面に安定な単層を維持して繰り返し治療することを不要にする能力が含まれる。従って、優れた外因性表面活性物質の調製物において有用な様々な化合物及び組成物を、ここに開示する。
C.表面活性組成物
【0089】
本発明の表面活性組成物は、呼吸障害症候群の治療において有用な肺表面活性物質(PS)を形成する表面活性を有する様々な製薬上許容しうる化合物の何れかを含むことができる。典型的には、表面活性組成物は、その中に、一種以上のリン脂質を混合している。肺胞表面活性物質の形成において有用なリン脂質は、当分野で周知である。天然及び合成のリン脂質の両方の表面活性物質への利用の総説については、Notter, R.H.及びD.L.Shapiro, 1987, Clin. Perinatol 14:433-79,を参照されたい。
【0090】
タンパク質、ポリペプチド、アミノ酸残基含有分子又は、表面活性を有する本発明の他の有機分子(集合的に「表面活性分子」と称する)(一種以上のリン脂質及び中性脂質を含みうる)を用いて調製されるこの発明の表面活性組成物は、呼吸疾患例えばRDS及びARDSの治療によく適している。かかる表面活性組成物は、典型的には、本明細書中で更に記載するように、意図する用途に依って、希釈物から濃縮物にまで及ぶ。
【0091】
従って、表面活性組成物は、生成する組成物が表面活性を有する限り、脂質を約0.05ほどの少量から殆ど100重量パーセントまで含むことができる。重量パーセントとは、組成物の重量に対する化合物の重量のパーセンテージを意味する。従って、50重量パーセントの脂質を有する組成物は、例えば、100グラムの全組成物当たり50グラムの脂質を含有する。典型的には、表面活性組成物は、0.1〜50重量パーセントの脂質を含む(一層高濃度の脂質を、「ボーラス」法に用い、一層薄い表面活性組成物を高濃度のストックから調製するために用いることはできるが)。
【0092】
それ故、リン脂質及び表面活性分子を含む典型的表面活性組成物は、0.1、1、10、50、80〜殆ど100重量パーセントの脂質及び約50、20、10〜1重量パーセント未満の表面活性分子を含むことができる。同様に、中性脂質及び表面活性分子を含む典型的表面活性組成物は、それ故、0.1、1、10、50、80〜殆ど100重量パーセントの脂質及び約50、20、10〜1重量パーセント未満の表面活性分子を含むことができる。表面活性組成物は、表面活性分子の溶液を脂質成分の分散体と混合することにより、又は表面活性分子を脂質の分散体と混合することにより、又は表面活性分子をリン脂質と有機溶媒の存在下で直接混合することにより調製することができる。
【0093】
本発明の脂質ベースの表面活性組成物は、一般に、有機溶媒系において、脂質及び脂肪酸、アルコール又は中性脂質と合わせて、乾燥してから再水和した本発明の表面活性分子を含む無菌のコロイド分散体である。表面活性を有する非常に多様な化合物及び物質の故に、本発明において有用な表面活性組成物は、検出可能なタンパク質又はポリペプチドを含まなくてよく、リン脂質、水性媒質及び/又は緩衝剤のみを含むということは理解されるべきである。本発明の様々な好適具体例において、有効量の表面活性分子を製薬上許容しうるリン脂質及び中性脂質と混合して含む、呼吸疾患例えばRDS又はARDSの治療において有効な肺表面活性物質を開示する。一つの好適具体例において、表面活性分子は、ポリペプチド又はタンパク質であり;他の好適具体例においては、該表面活性分子は、アミノ酸残基、改変アミノ酸、アミノ酸誘導体、アミノ酸類似体及び類似分子を含みうる表面活性を示す有機分子、又はその活性を模倣する他の有機分子である。
【0094】
所与のポリペプチド−リン脂質−中性脂質の組合せについて、最適のポリペプチド:脂質重量比を決定する方法は、周知である。治療上有効な比は、約1:5〜1:10,000の、好ましくは約1:7〜1:5,000の、一層好ましくは約1:10〜1:1000の、一層好ましくは約1:15〜1:100の範囲にある。本発明の表面活性組成物の脂質部分は、好ましくは、約50〜90、一層好ましくは、約50〜75重量パーセントのジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)であり、残りは、ホスファチジルグリセロール(PG)、本質的に中性の脂質又はこれらの混合物よりなる。
【0095】
本発明の表面活性組成物の形成に有用なリン脂質は、当分野で周知である(表面活性物質のための天然及び合成のリン脂質の両方の利用の総説については、例えば、Notter, R.H.及びD.L. Shapiro 1988を参照されたい)。ここに開示したような好適な表面活性組成物の製法において有用な方法及び材料も又、後記の実施例において記載する。WO89/06657;WO92/22315;WO98/49191;米国特許第5,260,273号;5,164,369号;5,407,914号;5,789,381号;5,952,303号;6,013,619号;6,013,764号;6,120,795号;及び6,613,734号も参照されたい。
【0096】
本発明の肺表面活性物質は、一般に、主題のポリペプチドの溶液をリポソームの懸濁液と混合することにより、又は主題のポリペプチド(又は、他の有機表面活性分子)と脂質を有機溶媒の存在下で直接混合することにより調製される。次いで、この溶媒を透析又は窒素下での蒸発及び/又は真空への曝露により又は他の適当な技術によって除去する。
【0097】
肺表面活性組成物は、好ましくは、気管内投与のために、例えば、典型的には懸濁液、乾燥粉末「ダスト」、又はエアゾールとして配合される。当業者は、本発明の表面活性組成物が、洗浄に用いることのできる懸濁液又はエアゾールを含む(限定はしない)様々な用途及び投与方法のために配合されうることを認めるであろう。
【0098】
例えば、表面活性物質(表面活性分子−脂質ミセル)を、製薬上許容しうる賦形剤を含む液体液体例えば水、塩溶液、デキストロース、グリセロールなどの中に懸濁させることができる。表面活性物質を含む治療用組成物は又、少量の非毒性の補助物質例えばトロメタミンアセテートを含むpH緩衝剤(TRISアセテート)、酢酸ナトリウム、リン酸ナトリウムなども含むことができる。ダスト形態の表面活性物質を調製するためには、表面活性物質を、ここに記載のように調製してから、凍結乾燥して、乾燥粉末として回収する。表面活性物質は、それ自体公知であって当業者に周知の方法(例えば、WO95/32992に記載されたもの)によって製造することができる。凍結乾燥された調製物は、例えば、WO97/35882、WO91/00871及びDE3229179に開示されている。WO97/26863は、吹付け乾燥による粉末化肺表面活性配合物の製造方法を記載している。他のアプローチ例えば超臨界流体抽出も又、乾燥粉末を製造する手段として構想されうる。
【0099】
もしエアゾール投与にて用いるべきであるならば、主題の表面活性物質は、微粉形態で、更なる表面活性物質及び噴射剤と共に供給される。投与することのできる典型的表面活性物質は、リン脂質及びエステルである。しかしながら、この場合には、表面活性物質複合体の他の成分、DPPC及びPGを本質的に中性の脂質と共に利用するのが好ましい。有用な噴射剤は、典型的には、周囲条件で気体であり、加圧して濃縮されている。低級アルカン及びフッ素化アルカン例えばフレオンを用いることができる。このエアゾールは、適当な弁を備えた容器中に、それらの成分が放出されるまで加圧されたまま維持できるようにパッケージ化される。
【0100】
表面活性組成物を製造するためには、表面活性分子又はポリペプチド分子を、その分子を単量体に、実質的に凝集のない形態に維持する有機溶媒に溶解させる。好適なかかる溶媒は、極性であっても非極性であってもよく、約9〜15(cal・cm3)1/2即ち約9ヒルデブランド単位(H)〜約15Hの範囲内の溶解度パラメーターデルタ(δ)値を示す。
【0101】
特に好適な溶媒は、水素結合した溶媒例えばC1〜C4脂肪族アルコール例えばメタノール(δ=14.5H)、エタノール(δ=12.7H)、n−プロパノール(δ=11.9H)、イソ−プロパノール(δ=11.5H)、n−ブタノール(δ=11.4H)、イソ−ブタノール(δ=10.8H)及びt−ブタノール(?)である。ハロゲン化溶媒のうちで、特に好適なものは、トリフルオロエチレン(TFE)及びクロロホルム(δ=9.3H)である。脂肪族アルコール及びハロゲン化溶媒の混合物又はブレンドも又、用いることができる。表面活性組成物を生成する好適方法においては、ポリペプチド又は他の表面活性分子を、有機溶媒に、リン脂質と共に溶解させて、生成した溶液を水性緩衝液と合わせる。その結果生成した分散体を、次いで、透析し又は蒸発させて有機溶媒を除去し、水性分散体が残る。或は、有機及び水性溶媒成分は、蒸発及び真空によって除去することができる。そうして生成した乾燥又は部分乾燥した脂質/ポリペプチド混合物を水性緩衝系にて再水和して、表面活性分散体を生成する。
【0102】
本発明は又、様々な表面活性組成物、特に脂質ベースの表面活性物質をも企図している。従って、一つの好適具体例において、この発明は、約10アミノ酸残基を含み約60アミノ酸残基以下のポリペプチド(帯電アミノ酸残基及び非帯電アミノ酸残基の改変基により構成される)、及び製薬上許容しうるリン脂質から製造した脂質ベースの表面活性組成物であって、該ポリペプチドが、リン脂質の表面活性より大きく組成物の表面活性を増大させるのに十分な量で存在する当該表面活性物質を開示する。
【0103】
他の好適な変化において、本発明の表面活性組成物は、帯電及び非帯電残基の改変基により構成される表面活性分子を含み;これらの残基は、アミノ酸、改変アミノ酸、アミノ酸類似体又は誘導体などであってよい。ここに開示したような表面活性を有する分子は、本発明の組成物において用いるのに特に好適である。
【0104】
本発明の様々な好適具体例において、前記したように、表面活性組成物は又、一種以上のリン脂質をも含む。ポリペプチド:脂質の重量比は、本発明の様々な好適表面活性組成物において、約1:7〜1:1,000の範囲にある。適当なリン脂質は、好ましくは、下記の群から選択される:
1,2−ジパルミトイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン(ジパルミトイルホスファチジルコリン、DPPC);ホスファチジルグリセロール(PG);及びDPPCとPGの重量比約3:1の混合物。
【0105】
本発明の表面活性組成物は、本質的に、様々な好適具体例において、1−パルミトイル2−オレオイルホスファチジルグリセロール及びパルミチン酸を有しえない。
【0106】
一つの好適具体例において、本発明の表面活性組成物において有用なリン脂質には、1,2−ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)及びホスファチジルグリセロールが含まれ、本質的にパルミトイルオレオイルホスファチジルグリセロール(POPG)は含まれない。他の好適具体例において、ホスファチジルグリセロールは、飽和、不飽和又は半飽和である。他の好適具体例において、飽和ホスファチジルグリセロールは、ジパルミトイルホスファチジルグリセロール(DPPG)である。もしDPPCとPGの混合物を選択するならば、DPPCとPGが重量比約4:1で;一層好ましくは約7:3で;最も好ましくは3:1で存在するのが好適である。
【0107】
例えば、本発明の一具体例において、30mg/mlの本発明の表面活性組成物は、各1ml中に、0.801mgのKL4ペプチド、22.5mgのDPPC、7.5mgのDPPG、1.575mgのコレステロールを含み、本質的にPA又はPOPGを含まない。様々な具体例において、この表面活性物質は、無菌的に調製されて、様々な体積の分散体を送達するのに十分な体積を含むバイアルにて供給される。
【0108】
従って、一の典型的配合物において、約5mL/kgの投薬体積で投与される約30mg/mLのリン脂質濃度を有する調製物は、約150mg/kgの投与量を生じる。同様に、約5mL/kgの投薬体積で投与される約60mg/mLの脂質濃度を有する典型的調製物は、約300mg/kgの投与量を生じる。
【0109】
一つの好適な最終表面活性組成物は、表面活性ポリペプチド(又は本発明の他の表面活性分子)を含む無菌のコロイド分散体を含む。説明のために、KL4ペプチドを含む薬物生成物/表面活性組成物を、典型例として記載する。
【0110】
ペプチドを、好ましくは、有機溶媒系において脂質と合わせてから、水性緩衝系に加える(又は、逆にする)。この有機溶媒を、生成した水−有機混合物から、薄膜蒸発によって除去して、コロイド分散体を形成する。すべての処理を、無菌的に行なう。
【0111】
一つの典型的な組成物は、表面活性ペプチド及び脂質成分を含む。一具体例において、この脂質成分は、1,2−ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)及びホスファチジルグリセロール、本質的に中性の脂質を含み、本質的にパルミトイルオレオイルホスファチジルグリセロール(POPG)を有しない。他の好適具体例において、ホスファチジルグリセロールは、飽和、不飽和又は半飽和である。他の好適具体例において、飽和ホスファチジルグリセロールは、ジパルミトイルホスファチジルグリセロール(DPPG)である。
【0112】
例えば、KL4ペプチドを含む表面活性組成物は、DPPCとPGの3:1の重量比の混合物、及びリン脂質に対して5.25重量%のコレステロール(有機溶媒中)から調製することができる。KL4ペプチドは、表面活性分散体中で、2.7重量%のリン脂質の濃度として調製される。有機溶媒は、脂質/ペプチド混合物から、窒素及び真空下での蒸発又は関連手段によって除去することができる。トリス緩衝溶液を加えて、ペプチド含有表面活性物質のコロイド分散体を形成することができる。
【0113】
サム緩衝系も又、本発明の表面活性組成物に含有させることができる。(サムは、トリス、トロメタミン、及びトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンとしても知られる緩衝剤である。) 様々な好適具体例において、これらの組成物は、約6.5〜8.0のpH範囲を有している。
【0114】
開示した方法に従って用いるのに好適な広範な表面活性分子、タンパク質及びポリペプチドは、上記されており、後記の節に記載される。ここに開示したような用いられる表面活性組成物の他の好適成分には、ここで更に記載するように、様々なリン脂質及び中性脂質が含まれる。
【0115】
例えば、現在、記載した関連する方法で用いられてきた公知の様々な表面活性物質がある。これらの表面活性物質は、すべて、希釈表面活性物質洗浄が有益であるという発見による本発明において用いるのに適している。これらの表面活性物質には、ウシ、ブタ又はヒツジ種を含む(限定はしない)哺乳動物の肺の洗浄液に由来する天然の表面活性物質、例えばBLES、Infasurf又はCLSE(Calf Lung Surfactant、Forest Products)、Alveofact(Thomae, ドイツ国);動物の肺から有機溶媒(限定はしない)により抽出された表面活性物質、例えばSurfactant TA(Tokyo Tanabe, 日本国)、Survanta(Beractant, Abbott Laboratories, イリノイ、Abbott Park)、Curosurf(Chiesi Farmaceutici, イタリア国、Parma)が含まれる。表面活性物質は、リン脂質、展着剤及びタンパク質又はペプチドの混合物を含有することができる。これらのリン脂質は、ホスファチジルコリン(例えば、DPPC)及びホスファチジルグリセロール(例えば、DPPG)である。これらの展着剤は、空気−水界面に沿った展開の速度を増大させるものであり、コレステロール、洗剤などが含まれうる。これらのタンパク質及びペプチドは、ここに記載したもの又はリン脂質の表面活性を増大させるものの何れであってもよく、天然起源から単離し、化学合成し又は組換えDNA方法論(例えば、SP−C)によって作成することができる。
【0116】
これらの及び他の表面活性物質の組成物及び製造方法に関する詳細は、米国特許第4,603,124号、5,013,720号、5,024,995号、5,171,737号、5,185,154号、5,238,920号、5,302,581号、5,547,937号、5,552,161号、及び5,614,216号に見出すことができる(これらの開示を、参考として、本明細書中に援用する)。
【0117】
本発明の表面活性物質は、投薬形態に適していれば、気管内挿入管により、気管支鏡により、カニューレにより、噴霧投与により、又は懸濁液若しくはダストの吸入ガス中へのエアゾール化(微粒化、噴霧化、分散化及び脱凝集化)によって投与される。約1.0〜500mg/kgの、好ましくは約50〜500mg/kgのPSの量(典型的には、約50、100、133又は200mg/kgの投与量)(全リン脂質含量に関して測定)を、一投与量にて投与する。新生児における利用に関して、1又は2回の投与で、一般に十分である。成人については、十分な再構成表面活性物質複合体を、好ましくは、PO2を正常範囲内で生成するように投与する(例えば、Hallman等、1982, J Clin Inves 70:673-682参照)。この治療養生法は、呼吸疾患の重さ、存在する症状、及び他の関連事項に依って、個人ごとに変わりうるものであり;従って、単一又は多数の投与量を、個人に投与することができるということは認められなければならない。
【0118】
ここに開示したように、この発明は、濃縮及び希釈した表面活性組成物の両方の利用(ここに更に記載した特別の利用による)を企図している。濃縮した表面活性組成物は、典型的には、「ボーラス」型投与のために用いられ、希釈した表面活性組成物は、典型的には、「洗浄」型投与のために用いられる。
【0119】
典型的には、濃縮した表面活性物質は、1ミリリットル(ml)当たり20〜200ミリグラム(mg)の、一層好ましくは、約25〜100mg/mlの活性な表面活性化合物を有する。典型的な希釈した表面活性物質は、活性な表面活性化合物を、約0.1〜20mg/mlの、一層好ましくは約0.5〜10mg/mlの濃度で有する。
【0120】
本発明による表面活性物質の製造に適したポリペプチドを、下記のD節で更に説明する。
D.タンパク質及びポリペプチド
【0121】
本発明のタンパク質又はポリペプチド(主題のタンパク質又はポリペプチド)は、アミノ酸残基配列及び新規な機能特性を特徴とする。主題のタンパク質又はポリペプチドは、製薬上許容しうるリン脂質と混合すると、そのリン脂質(又はリン脂質及び脂質だけ)の表面活性より大きな表面活性を有する肺表面活性物質を形成する。例えば、表面活性を有するタンパク質又はポリペプチドは、表面活性物質において測定すると、一層低いΔPを示す。
【0122】
60以上のアミノ酸残基を含む分子即ちタンパク質分子は、本発明による表面活性組成物において有用でありうるということも又、理解されるべきである。本開示は、主としてポリペプチド分子及びアミノ酸残基を含む分子及び/又は他の有機分子に集中し、変化する疎水性及び親水性アミノ酸残基領域を有するタンパク質及びここに記載の表面活性能を有するタンパク質も又、本開示により企図され、包含される。
【0123】
10以下のアミノ酸残基を含む表面活性を示す分子も又、本発明により企図される。例えば、5アミノ酸誘導体又は類似体に結合された5アミノ酸残基を含む分子は、ここに開示のように、特にそれが変化する疎水性及び親水性アミノ酸残基領域を有して、ここに規定のように表面活性を有するならば有用でありうる。従って、肺胞との相互作用を最大にする構成を有する2〜100アミノ酸残基を含む分子は、本発明により基とされる。一層大きい分子は、幾分か合成するのが困難であるが、関連分野の当業者は、ここに記載のように、60以上のアミノ酸残基を含む分子(又はそれらの類似体)でさえ、それらが開示した特性を有するならば、優秀な表面活性物質でありうることを認めるであろう。
【0124】
本発明による脂質ベースの表面活性物質の調製に適したポリペプチドは、アミノ酸から、ポリペプチドの分野の当業者に公知の技術によって合成することができる。多くの利用可能な技術の概要は、例えば、固相ペプチド合成については、Steward及びYoung, 1969, Solid Phase Peptide Synthesis、W.H. Freeman Co., San Francisco, 1969、及び Meienhofer, 1983, Hormonal Proteins and Peptides, Vol.2, p.46, Academic Press, New York中に見出すことができ、古典的な溶液合成については、Schroder and Kubke, 1965, The Peptide, Vol.1, Academic Press, New York中に見出すことができる。
【0125】
一般に、これらの方法は、一以上のアミノ酸残基又は適当に保護されたアミノ酸残基の、成長中のペプチド鎖への順次的付加を含む。通常、第一のアミノ酸残基のアミノ基又はカルボキシル基を、適当な選択的に除去できる保護基によって保護する。反応性側鎖を含むアミノ酸(例えば、リジン)に対しては、異なる選択的に除去できる保護基が用いられる。
【0126】
典型的に固相合成を利用して、保護又は誘導体化されたアミノ酸を、不活性な固体支持体に、その保護されてないカルボキシル基又はアミノ基を介して結合する。このアミノ又はカルボキシル基の保護基は、その後、選択的に除去されて、適当に保護された相補的(アミノ又はカルボキシル)基を有する配列中の次のアミノ酸を、既に固体支持体に結合されている残基とのアミド結合を形成するのに適した条件下で混合して反応させる。このアミノ又はカルボキシル基の保護基は、その後、この新たに加えられたアミノ酸残基から除去され、次いで、次のアミノ酸(適当に保護されている)が追加される。すべての所望のアミノ酸を適当な順序で結合した後に、任意の残っている末端及び側鎖の基の保護基(及び任意の固体支持体)を順次的に又は同時に除去して、最終的なポリペプチドを与える。そのポリペプチドを、次いで、低級脂肪族アルコールに溶解させることによって洗い、乾燥させる。この乾燥した表面活性ポリペプチドを、更に、所望であれば、公知の技術によって精製することができる。(本発明のポリペプチドを製造するための様々な方法は又、WO89/06657;WO92/22315;WO98/49191;米国特許第5,260,273号;5,164,369号;5,407,914号;5,789,381号;5,952,303号;6,013,619号;6,013,764号;6,120,795号;及び6,613,734号にも記載されており;それらの内容を、そっくりそのまま、すべての目的のために、参考として、本明細書中に援用する)。幾つかの具体例において、これらの表面活性ポリペプチドは、交互の帯電及び非帯電アミノ酸残基の領域を有するアミノ酸残基配列を含むポリペプチドである。交互の疎水性及び親水性アミノ酸残基の領域を有するアミノ酸残基配列を含むポリペプチドも又、本発明により好適である。これらのグループ分けの内で特に好適な表面活性ポリペプチドは、更に、少なくとも4の、一層好ましくは少なくとも8の、尚一層好ましくは少なくとも約10のアミノ酸残基を有して、一般に60アミノ酸残基長以上であるとして特徴付けられる。
【0127】
他の具体例において、本発明の表面活性ポリペプチドは、式[(帯電)a(非帯電)b]c(帯電)d(式中、aは、約1〜5の平均値を有し;bは、約3〜20の平均値を有し;cは、1〜10であり;そしてdは、0〜3である)により表されるように、帯電アミノ酸残基及び非帯電アミノ酸残基の交互の群により構成される。アミノ酸残基単独のみから構成されない有機表面活性分子は、好ましくは、帯電及び非帯電(又は親水性/疎水性)構成要素分子の交互の群により構成された類似の構造を有する。
【0128】
一つの好適具体例において、表面活性ポリペプチドは、式(Zab)cd(式中、Zは、R、D、E、及びKよりなる群から独立に選択されるアミノ酸残基であり;Jは、α−アミノ脂肪族カルボン酸であり;aは、約1〜5の平均値を有し;bは、約3〜20の平均値を有し;cは、1〜10であり;そしてdは、0〜3である)により表されるアミノ酸残基の交互の群を有する配列を含む。
【0129】
他の具体例において、本発明の好適なポリペプチドは、式(Bab)cd(式中、Bは、H、5−ヒドロキシリジン、4−ヒドロキシプロリン及び3−ヒドロキシプロリンよりなる群から独立に選択するアミノ酸残基であり;Uは、V、I、L、C、Y、及びFよりなる群から独立に選択するアミノ酸残基である)により表されるアミノ酸残基領域の交互の群を有する。一つの好適変化において、Bは、コラーゲンに由来するアミノ酸であり、好ましくは、5−ヒドロキシリジン、4−ヒドロキシプロリン、及び3−ヒドロキシプロリンよりなる群から選択され;aは、約1〜5の平均値を有し;bは、約3〜20の平均値を有し;cは、1〜10であり;そしてdは、0〜3である。
【0130】
更に別の好適具体例において、本発明の表面活性ポリペプチドは、式(Bab)cd(式中、Bは、H、5−ヒドロキシリジン、4−ヒドロキシプロリン、及び3−ヒドロキシプロリンよりなる群から独立に選択するアミノ酸残基であり;及びJは、α−アミノ脂肪族カルボン酸;aは、約1〜5の平均値を有し;bは、約3〜20の平均値を有し;cは、1〜10であり;及びdは、0〜3である)により表されるアミノ酸残基の交互の群を有する配列を含む。
【0131】
関連する式中に「J」を含む様々な具体例において、Jは、4〜6炭素を有するα−アミノ脂肪族カルボン酸である。他の好適変化において、Jは、6炭素以上を有するα−アミノ脂肪族カルボン酸である。更に別の変化において、J、は、好ましくは、α−アミノブタン酸、α−アミノペンタン酸、α−アミノ−2−メチルプロパン酸、及びα−アミノヘキサン酸よりなる群から選択する。
【0132】
他の好適具体例は、式(Zab)cd(式中、Zは、R、D、E、及びKよりなる群から独立に選択するアミノ酸残基であり;Uは、V、I、L、C、Y及びFよりなる群から;V、I、L、C及びFよりなる群から;又はL及びCよりなる群から独立に選択するアミノ酸残基であり;aは、約1〜5の平均値を有し;bは、約3〜20の平均値を有し;cは、1〜10であり;そしてdは、0〜3である)により表されるアミノ酸残基の交互の群を有する配列を含む表面活性ポリペプチドを開示している。
【0133】
前述の式において、Z及びU、Z及びJ、B及びU、並びにB及びJは、各出現につき独立に選択されるアミノ酸残基である。加えて、前述の式の各々において、aは、一般に、約1〜5の平均値を有し;bは、一般に、約3〜20の平均値を有し;cは、1〜10であり;そしてdは、0〜3である。
【0134】
前述の具体例の一つの変化において、Z及びBは、帯電アミノ酸残基である。他の好適具体例において、Z及びBは、親水性又は正に帯電したアミノ酸残基である。他の変化において、Zは、好ましくは、R、D、E及びKよりなる群から選択する。関連する具体例において、Zは、好ましくは、R及びKよりなる群から選択する。更に別の好適具体例において、Bは、H、5−ヒドロキシリジン、4−ヒドロキシプロリン、及び3−ヒドロキシプロリンよりなる群から選択する。一つの好適具体例において、Bは、Hである。他の好適具体例において、Bは、コラーゲン構成要素のアミノ酸残基であり、5−ヒドロキシリジン、(δ−ヒドロキシリジン)、4−ヒドロキシプロリン、及び3−ヒドロキシプロリンよりなる群から選択する。
【0135】
様々な開示した具体例において、U及びJは、好ましくは、非帯電アミノ酸残基である。他の好適具体例において、U及びJは、疎水性アミノ酸残基である。一具体例において、Uは、好ましくは、V、I、L、C、Y、及びFよりなる群から選択する。他の好適具体例において、Uは、V、I、L、C、及びFよりなる群から選択する。更に別の好適具体例において、Uは、L及びCよりなる群から選択する。様々な好適具体例において、Uは、Lである。
【0136】
同様に、様々な具体例において、Bは、好ましくは、H、5−ヒドロキシリジン、4−ヒドロキシプロリン、及び3−ヒドロキシプロリンよりなる群から選択するアミノ酸である。或は、Bは、5−ヒドロキシリジン、4−ヒドロキシプロリン及び3−ヒドロキシプロリンを含むコラーゲン由来のアミノ酸よりなる群から選択することができる。
【0137】
本発明の他の具体例において、帯電した及び非帯電のアミノ酸を、改変アミノ酸の群から選択する。例えば、一つの好適具体例において、帯電アミノ酸は、シトルリン、ホモアルギニン、又はオルニチンよりなる群から選択する(多少の具体例を指定)。同様に、様々な好適具体例において、非帯電アミノ酸は、α−アミノブタン酸、α−アミノペンタン酸、α−アミノ−2−メチルプロパン酸及びα−アミノヘキサン酸よりなる群から選択する。
【0138】
本発明の好適具体例において、項目「a」、「b」、「c」及び「d」は、帯電又は非帯電残基(又は、親水性又は疎水性残基)の数を示す数である。様々な具体例において、「a」は、約1〜5の、好ましくは約1〜3の、一層好ましくは約1〜2の、尚一層好ましくは1の平均値を有する。
【0139】
様々な具体例において、「b」は、約3〜20の、好ましくは約3〜12の、一層好ましくは約3〜10の、尚一層好ましくは、約4〜8の範囲に平均値を有する。一つの好適具体例において、「b」は、約4である。
【0140】
様々な具体例において、「c」は、1〜10であり、好ましくは、2〜10であり、一層好ましくは、3〜8又は4〜8の範囲にあり、尚一層好ましくは、3〜6の範囲にある。一つの好適具体例において、「c」は、約4である。
【0141】
様々な具体例において、「d」は、0〜3又は1〜3である。一つの好適具体例において、「d」は、0〜2又は1〜2であり;他の好適具体例においては、「d」は、1である。
【0142】
アミノ酸残基例えばZ又はUにより表される残基を独立に選択するとは、各出現につき、特定の群からの残基を選択することを意味する。即ち、「a」が例えば2であるならば、Zにより表される親水性残基の各々は、RR、RD、RE、RK、DR、DD、DE、DKなどから独立に選択する(従って、これらを含みうる)。「a」及び「b」が平均値を有するとは、反復配列(例えば、Zab)内の残基の数がペプチド配列内で幾らか変化しえても、「a」及び「b」の平均値は、それぞれ、約1〜5及び約3〜20であることを意味する。
【0143】
例えば、下記の表2中の「KL8」と称するペプチドについて、式(Zab)cdを用いると、この式は、K181812(式中、「b」の平均値は、6であり[即ち、(8+8+2)/3=6]、cは、3であり、dは、0である)と書き直される。
上記の式の典型的な好適ポリペプチドを、下記の表2に示す:
【表2】

【0144】
やはり適しているのは、肺胞との相互作用を最大にするコンフィギュレーションを有する約4〜60アミノ酸残基の複合ポリペプチドである。複合ポリペプチドは、本質的に、アミノ末端配列とカルボキシ末端配列とからなる。アミノ末端配列は、疎水性領域のポリペプチドの又はこの発明の疎水性ペプチドの、好ましくは、上記の式で規定したような疎水性ポリペプチドのアミノ酸配列を有する。カルボキシ末端配列は、主題のカルボキシ末端ペプチドのアミノ酸残基配列を有する。
【0145】
天然の表面活性タンパク質(SP)から誘導された又は該タンパク質と類似の特徴を有するタンパク質及びポリペプチドは、本発明の方法において有用である。記したように、ウシ、ブタ及びヒトの表面活性物質が特に好適であるが、任意の哺乳動物種から単離されたSPを利用することができる。
【0146】
天然の表面活性タンパク質には、SP−A、SP−B、SP−C若しくはSP−D又はこれらの断片が、単独で又は脂質と組み合わせて含まれる。好適な断片は、SP−Bのアミノ末端残基1〜25である。
【0147】
一つの関連ペプチドは、配列スクシニル−Leu−Leu−Glu−Lys−Leu−Leu−Gln−Trp−Lys−アミドを有するWMAP−10ペプチド(Marion Merrell Dow Research Institute)である。別のペプチドは、ここに記載のように、リン脂質の混合物において表面張力の低下を誘導するリジン、アルギニン又はヒスチジンのポリマーである。
【0148】
加えて、ヒトSP18(SP−B)表面活性タンパク質を、ここに記載のように利用することができる。例えば、WO89/06657;WO92/22315;WO98/49191;米国特許第5,260,273号;5,164,369号;5,407,914号;5,789,381号;5,952,303号;6,013,619号;6,013,764号;6,120,795号;及び6,613,734号を参照されたい(これらすべてを、そっくりそのまま、すべての目的のために、参考として本明細書中に援用する)。
【0149】
従って、一つの好適具体例において、本発明の表面活性分子は、一つのポリペプチドを含む。一つの変化において、表面活性ポリペプチドは、約4の一層好ましくは約10のアミノ酸残基を含む。様々な具体例において、表面活性ポリペプチドは、好ましくは、60以下のアミノ酸残基を、一層通常は、約35より少ない、尚一層好ましくは、約25より少ないアミノ酸残基を含む。様々な好適具体例において、主題のポリペプチドは、SP18モノマーの配列例えばSP18の直線的配列中の隣接する残基の単一の群に相当する。他の具体例において、主題のポリペプチドは、好ましくは、交互の帯電及び非帯電アミノ酸残基の領域を有し又は交互の疎水性及び親水性アミノ酸残基の領域を有する。
【0150】
アミノ酸配列について、当業者は、コードされる配列中の単一のアミノ酸又は少しのパーセンテージのアミノ酸を変え、加え又は欠失する、核酸、ペプチド、ポリペプチド又はタンパク質配列への個々の置換、欠失又は付加は、その変化が化学的に類似したアミノ酸でのアミノ酸置換を生じる「保存的改変変異体」であることを認めるであろう。機能的に類似のアミノ酸を与える保存的置換の目録は、当分野で周知である。かかる保存的に改変された変異体は、この発明の多型変異体、種間同族体、及び対立遺伝子を排除しない。
【0151】
下記の8つのグループは、各々、互いに保存的置換であるアミノ酸を含んでいる:1)アラニン(A)、グリシン(G);2)アスパラギン酸(D)、グルタミン酸(E);3)アスパラギン(N)、グルタミン(Q);4)アルギニン(R)、リジン(K);5)イソロイシン(I)、ロイシン(L)、メチオニン(M)、バリン(V);6)フェニルアラニン(F)、チロシン(Y)、トリプトファン(W);7)セリン(S)、スレオニン(T);及び8)システイン(C)、メチオニン(M)(例えば、Creighton, Proteins (1984)を参照されたい)。用語「保存的置換」は又、置換されたアミノ酸の、未置換の親アミノ酸の代りの利用を含んでいる(かかるポリペプチドが、必要な結合活性を示すことを条件とする)。
【0152】
更なる残基を、本発明のポリペプチドの末端に、かかるポリペプチドを標識又は固体マトリクス、又はキャリアーに重宝に結合することのできる「リンカー」を与えることを目的として加えることができる。この発明のポリペプチドと共に用いることのできる標識、固体マトリクス及びキャリアーは、当分野で公知であり;幾つかの例は、本明細書中にも記載している。
【0153】
アミノ酸残基リンカーは、通常、少なくとも一残基であり、40残基以上であってよく、最もしばしば、1〜10残基である。結合に用いられる典型的アミノ酸残基は、チロシン、システイン、リジン、グルタミン酸及びアスパラギン酸などである。加えて、この発明のポリペプチド配列は、末端−NH2アシル化(例えば、アセチル化)又はチオグリコール酸のアミド生成、末端カルボキシルアミド生成(例えば、アンモニア、メチルアミンなど)により改変された配列によって、天然配列から異なってよい。
【0154】
他の具体例において、この発明のポリペプチドは、0未満の、好ましくは−1以下の、一層好ましくは−2以下の複合疎水性を有するアミノ酸残基配列を有する。これらの疎水性ポリペプチドは、SP8の疎水性領域の機能を遂行する。従って、一つの好適具体例において、アミノ酸配列は、SP18の帯電及び非帯電残基又は疎水性及び親水性残基のパターンを真似る。
【0155】
しかしながら、本発明のポリペプチド及び他の表面活性分子は、天然のSP18の配列に似た配列を有する分子に限られないということは、理解されるべきである。対照的に、本発明の最も好適な表面活性分子の幾つかは、SP18に対して、特異的アミノ酸残基配列に関して、それらが、類似の表面活性及び交互の帯電/非帯電(又は疎水性/親水性)残基配列を有すること以外、類似性を殆ど有していない。
【0156】
本発明の一つの開示した具体例は、ペプチド含有調製物を含み、その21残基のペプチドは、ヒトSP−Bの模倣物であって、4つの疎水性ロイシン(L)残基が塩基性で極性のリジン(K)残基により境界を付けられた反復ユニットよりなる。この典型的ペプチドは、本明細書においては、「KL4」(又は「KL4」)と略記され、下記のアミノ酸残基配列を有する:
KLLLLKLLLLKLLLLKLLLLK (SEQ ID NO:1)
【0157】
リン脂質のジパルミトイルホスファチジルコリン及びパルミトイル−、オレオイルホスファチジルグリセロール(3:1)及びパルミチン酸と合せて、このリン脂質−ペプチドの水性分散体は、「KL4−表面活性物質」と呼ばれ、通常、本明細書では、そのように呼ぶ。様々な実験的及び臨床的研究におけるKL4−表面活性物質の効力は、以前に報告されている。例えば、Cochrane及びRevak, 1991, Science 254:566-568;Vincent等、1991, Biochemistry 30:8395-8401;Cochrane等、1996, Am J Resp & Crit Care Med, 152:404-410;及びRevak等、1996, Ped. Res. 39:715-724を参照されたい。
E.アミノ酸、天然代謝産物、誘導体、デザインされた類似体、及び他の有機分子
【0158】
本発明の表面活性分子は又、上記のように及びここに更に記載のように表面活性を有する有機分子をも包含する。ポリペプチド及びタンパク質は、しばしば、典型的であるかのように記載されるが、本発明の表面活性分子は、慣用のアミノ酸側鎖又はポリアミド主鎖構造を有するものに限られない。
【0159】
上記のように、本発明は、タンパク質、ポリペプチド、及びアミノ酸残基を含む分子を含む様々な表面活性分子、並びに様々な表面活性組成物を企図している。「一般的な」天然アミノ酸(即ち、表1に列記したもの;上記のA節参照)が、生物学的組成物における利用に好適であると考えられる傾向があるが、一般的でないが天然のアミノ酸、天然アミノ酸の代謝産物及び異化生成物、置換されたアミノ酸、及びアミノ酸類似体、並びに「D」コンフィギュレーションのアミノ酸を含む広範な他の分子が本発明の分子及び組成物において有用であるということも又、真実である。加えて、「デザインされた」アミノ酸の誘導体、類似体及び模倣物も又、本発明の様々な化合物、組成物及び方法、並びに非アミド結合よりなる主鎖構造を含むポリマーにおいて有用である。
【0160】
例えば、上記のA節で列記したL−アミノ酸に加えて、アミノ酸代謝産物例えばホモアルギニン、シトルリン、オルニチン及びα−アミノブタン酸も又、本発明の分子及び組成物において有用である。従って、上記の様々な式において、「帯電した」Z又はBは、ホモアルギニン、シトルリン、又はオルニチン、並びにここで同定される様々な他の分子を含むことができる。同様に、Jは、α−アミノブタン酸(α−アミノ酪酸としても知られる)、α−アミノペンタン酸、α−アミノヘキサン酸、及びここで同定される様々な他の分子含むことができる。
【0161】
更に、一般にタンパク質から誘導されないが自然界で知られている置換されたアミノ酸は、ここでか開示するように有用であり、次の例を含んでいる:L−カナバニン;1−メチル−L−ヒスチジン;3−メチル−L−ヒスチジン;2−メチルL−ヒスチジン;α,ε−ジアミノピメリン酸(L型、メゾ型、又は両方);サルコシン;L−オルニチンベタイン;ヒスチジンのベタイン(ヘルツィニン);L−シトルリン;L−ホスホアルギニン;D−オクトピン;o−カルバミル−D−セリン;γ−アミノブタン酸;及びβ−リジン。下記を含むD−アミノ酸及びD−アミノ酸類似体も又、本発明のタンパク質、ペプチド及び組成物において有用である:D−アラニン、D−セリン、D−バリン、D−ロイシン、D−イソロイシン、D−アロイソロイシン、D−フェニルアラニン、D−グルタミン酸、D−プロリン、及びD−アロヒドロキシプロリンなど。前述のものは又、本発明の表面活性分子においても用いることができ;そのように用いるのに特に適しているのは、式{(帯電)a(非帯電)b}c(帯電)dに対応するものである。
【0162】
本発明は又、広範なアミノ酸(その代謝産物及び異化生成物を含む)を、表面活性を示す分子に組み込むことができることをも開示する。例えば、オルニチン、ホモアルギニン、シトルリン、及びa−アミノブタン酸は、ここに記載のように表面活性を示す分子の有用な構成成分である。本発明の表面活性分子は又、一層長い直鎖分子を含むこともでき;α−アミノペンタン酸及びα−アミノヘキサン酸は、かかる有用な分子の2つの更なる例である。
【0163】
本発明は、類似体、代謝産物、異化生成物、及び誘導体を含む広範な改変アミノ酸を、改変の起きる時間又は空間に関係なく、包含するということも又、認められよう。本質において、改変アミノ酸は、次の3つの範疇に入れることができる:(1)アミノ酸の異化生成物及び代謝産物;(2)翻訳後改変(例えば、側鎖の改変)により生成した改変アミノ酸;及び(3)アミノ酸に対して非代謝的又は非異化的過程によって為された改変(例えば、改変アミノ酸又は誘導体の実験室における合成)。
【0164】
本発明は又、一層長い又は短い側鎖を含む残基ユニットのアミノ酸の側鎖を、直鎖、分枝鎖又は炭化水素若しくは複素環式環配置におけるメチル基を加減することによって容易にデザインできるということをも企図している。これらの直鎖及び分枝鎖構造は又、非炭素原子例えばS、O、又はNを含むこともできる。脂肪酸も又、ここにおける表面活性分枝の有用な成分でありうる。デザインされた側鎖は、帯電した又は極性の付加原子団(R’)で終端することができ又は(R)を伴わずに終端することもできる。
【0165】
加えて、類似体(種々のリンカーの利用から生じた分子を含む)も又、ここに開示したように有用である。アミド結合以外の結合によって一緒に結合した側鎖を有する分子例えばアミノ酸側鎖又は他の側鎖(R−又はR’−)(これらの成分は、幾つかの例を示すと、カルボキシ−又はホスホ−エステル、エチレン、メチレン、ケトン又はエーテル結合によって結合される)を含む分子も又、ここに開示のように有用である。本質において、任意のアミノ酸側鎖、R又はR’基含有分子は、分子が交互の親水性及び疎水性残基(即ち、成分分子)を含んで、ここに記載の表面活性を示す限り、ここに記載のように有用でありうる。
【0166】
本発明は又、適当なリンカーにより結合されたペプチド二量体例えばシステイン分子により結合されたペプチド二量体を含む分子を企図している。(当業者は知っているように、2つのシステイン分子は、それらのチオール基の酸化により形成されるジスルフィド橋によって一緒に結合されうる。)。かかる結合又は橋は、それ故、異なるポリペプチド鎖、二量体、三量体などを架橋することができる。ペプチド二量体及び/又は他のペプチド多量体を連結するのに利用することのできる他の有用なリンカーには、上に列記したもの例えばカルボキシ−又はホスホ−エステル、エチレン、メチレン、ケトン又はエーテル結合などが含まれる。
【0167】
ここに開示した多くの有用なポリペプチド例えばKL4ポリペプチド(SEQ ID NO:1)は、天然のアミノ酸を、ペプチド結合で結合された「L」型で含むということは認められるが、アミノ酸側鎖類似体、非アミド結合(例えば、異なる主鎖)を含む分子も又、有意の表面活性を示すことができて、他の利点を有しうるということも又、理解されるべきである。例えば、容易に分解されない分子(例えば、表面活性組成物における利用のため)を構築することを所望するのであれば、一連のD−アミノ酸を含むポリペプチド分子を合成することを所望することができる。
【0168】
「ポリペプトイド」は、非天然の、ペプチド主鎖の別の誘導体を表す配列特異的なポリマーの一つのクラスである。構造的に、それらは、ポリペプチドと、それらの側鎖が、α−炭素ではなくてアミド窒素のペンダント基である点で異なっている(例えば、Simon等、1992, Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89:9367-9371及びZuckermann等、1992, J.Am.Chem.Soc. 114:10646-10647参照)。「レトロペプトイド」は、タンパク質結合が求められる場合には、側鎖及びカルボニルの相対的位置がペプチドと一層近くに「並ぶ」ので、生物学的活性の一層高い蓋然性を有すると考えられている(Kruijtzer, J.A., 1995 Tetrahedron Letters 36:6969-72)。N−置換は、ペプトイド主鎖のタンパク質加水分解を防止し(例えば、Miller等、1995, Drug Dev Res 35:20-32参照)、増大した生体安定性を与える。ポリペプトイドはタンパク質加水分解されないので、それらは、強力に免疫原性である(Borman, 1998, C & E News 76:56-57)。
【0169】
他の変化において、一層「硬い」コンホメーションを採用する分子を構築することを所望することができ;これを達成する一つの手段は、メチル又は他の基をアミノ酸の炭素原子に加えることである。
【0170】
上記のように、CH3基以外の別の基を炭素原子に加えることができ、即ち、本発明の表面活性分子は、CH3をα炭素に組み込むものだけに限られない。例えば、上記の側鎖及び分子の何れかを、α炭素成分の示したCH3基の代わりとすることができる。
【0171】
ここで用いる場合、ポリペプチド及びアミノ酸残基の「類似体」及び「誘導体」は、アミノ酸の代謝産物及び異化生成物並びに、「天然の」L−型アミノ酸と呼ばれるものにおいて元々見出されるものと異なる結合、主鎖、側鎖又は側鎖基を含む分子を包含することを意図している。(用語「類似体」及び「誘導体」は、ここでは、便利に、交換可能に用いることもできる。)。従って、D−アミノ酸、アミノ酸を模倣する分子及び「デザインされた」側鎖を有するアミノ酸(即ち、表面活性を有する分子中の一つ以上のアミノ酸の代用となりうる)も又、ここでは、用語「類似体」及び「誘導体」に包含される。
【0172】
有用な表面活性分子(一つ以上の拡大された又は置換されたR又はR’基を有するアミノ酸を含む)の広い分類も又、本発明は、企図している。
【0173】
再び、当業者は、個々のアミノ酸に対して、結合に対して、及び/又は鎖自体に対して、様々な改変を行なうことができ、これらの改変は、その結果生成した分子がここに記載の表面活性を有する限り、本発明の範囲内に入ることのできない分子を生成するであろうということを認めるであろう。
F.治療養生法
【0174】
この発明は、呼吸疾患例えばARDS及びRDSの治療のための肺表面活性物質を、製薬上許容しうるキャリアーと一緒に配合して含む医薬組成物を提供する。幾つかの組成物は、多数(例えば、2種以上)のこの発明の表面活性物質の組合せを含む。
【0175】
予防的応用において、医薬組成物又は医薬を、病気又は病状(即ち、呼吸疾患又は異常)になり易いか或はその病気の危険のある患者に、その危険を排除し若しくは軽減し、その重さを減じ、又は病気の発生(その生化学的、組織学的及び/又は作用兆候を含み、その病気の発生中に存在するその合併症及び中間の病理学的表現型を含む)を遅くするのに十分な量で投与する。治療応用においては、組成物及び医薬を、かかる病気が疑われる又は既に病気になっている患者に、その病気の兆候(生化学的及び/又は組織学的兆候)(その病気の発生中のその合併症及び中間の病理学的表現型を含む)を治癒させ又は少なくとも部分的に抑えるのに十分な量で投与する。治療及び予防処置を達成するのに十分な量は、治療上又は予防上有効な量として規定される。予防及び治療養生法の両方において、薬剤は、通常、数回の投薬で、十分な応答が達成させるまで投与される。典型的には、この応答は、モニターされて、応答が弱くなり始めたならば、反復投薬が与えられる。
G.有効な投薬量
【0176】
病気例えば呼吸の病気又は異常例えばここに記載のARDS及びRDSの治療のための肺表面活性物質の有効投与量は、投与手段、標的部位、患者の生理的状態、患者がヒトか動物か、投与された他の薬物処理、及び治療が予防的又は治療的であるかどうかを含む多くの異なる因子に依って変化する。通常、患者は、ヒトであるが、非ヒト哺乳動物も又、治療しうる。
【0177】
投薬は、治療すべき病状の重さ及び応答性に依存し、その治療コースは、数日から数ヶ月続き、又は治癒又は病状の縮小が達成されるまで続く。最適の投薬スケジュールは、薬物の患者の身体内での蓄積の測定から計算することができる。当業者は、容易に、最適の投薬量、投与方法及び反復速度を決定することができる。最適投薬量は、病気の治療に用いる個々の表面活性物質の相対的潜在力に依り、同時投与の場合には、公知の薬物又は他の表面活性物質の相対的潜在力に依って変化しうる。最適投薬量は、一般に、イン・ビトロ及びイン・ビボで動物モデルにおいて有効であることが見出されたEC50に基づいて見積もることができる。
【0178】
一般に、投薬量は、体重1kg当たり0.01μg〜100gであり、毎日、毎週、毎月又は毎年一回以上であってよく、2〜20年ごとでさえよい。この投薬量及び投与の頻度は、治療が予防的であるか治療的であるかに依って変わりうる。予防的適用においては、比較的低い投薬量を比較的長い間隔で投与する。何人かの患者は、余生を通して治療を受け続ける。治療的適用においては、ときには、病気の進行を減じ又は終焉させるまで、好ましくは、患者が、病気の症状の部分的な又は完全な回復を示すまで、比較的高い投薬量を、比較的短い間隔で必要とする。それ故、この患者は、予防的養生法を施与されうる。特定の投与様式で投与される治療上有効な量の核酸を送達するために最適な投与スケジュールを用いる。
【0179】
用語「治療上有効な量」は、ここで用いる場合、治療用化合物の特徴的量又は組合せ療法における合わせた治療用化合物の特徴的量を指す。この量又は合わせた量は、呼吸の病気又は異常を防止し、回避し、低減させ又は排除するゴールを達成する。個人の要求が変化しえても、配合物の有効量の最適範囲の決定は、当業者の技能の範囲内にある。ヒト用の投与量は、動物の研究から外挿することができる(Remington's Pharmaceutical Sciences, 第20版、Gennaro編、Mack Publishing Co., ペンシルベニア、Easton, 2000)。一般に、当業者が調整することのできる有効量の配合物を与えるのに必要とされる投薬量は、年齢、健康状態、物理的状態、体重、受容者の病気又は異常の種類及び程度、治療の頻度、併用する治療の性質及び所望の効果の性質及び範囲に依って変化する。配合物、投与量及び投与養生法に関する更なる案内として、Berkow等、1997, The Merck Manual Of Medical Information, Home編、Merck Research Laboratories, ニュージャージー、Whitehouse Station;Goodman等、1996, Goodman及びGilman's the Pharmacological Basis of Therapeutics, 第9版、McGraw-Hill Health Professions Division, ニューヨーク;Ebadi, 1998, CRC Desk Reference of Clinical Pharmacology, CRC Press, フロリダ、Boca Raton;Katzung, 2001, Basic & Clinical Pharmacology, 第8版、Lange Medical Books/McGraw-Hill Medical Pub. Division, ニューヨーク;Speight等、1997, AverV's Drug Treatment: A Guide to the Properties, Choice, Therapeutic Use and Economic Value of Drugus in Disease Management, 第4版、Adis International, ペンシルベニア、Auckland/Philadelphiaを参照されたい。
【0180】
診断応用のためには、検出可能な量のこの発明の組成物を患者に投与する。「検出可能な量」は、ここで用いる場合は、診断用組成物を指し、肺投与後にその存在がイン・ビボで測定されうるような組成物の投与量を指す。
【0181】
本発明の方法により治療することのできる患者には、呼吸の病気又は異常に苦しんでいる者、及び呼吸の病気又は異常を発生する危険にある者が含まれる。危険のある個人には、家族に呼吸の病気又は異常の病歴を有する個人、呼吸疾患について以前に治療を受けたことのある個人、及び呼吸の病気又は異常を発生する増大した見込みを有することを示唆する他の臨床的徴候を示す個人が含まれるが、これらに限られない。換言すれば、危険のある個人とは、呼吸疾患又は異常を発生することに関して一般的集団よりも一層高い危険にあると考えられる任意の個人である。用語「予防的に有効な量」は、呼吸疾患又は異常の開始又は再発の防御と認められる効果を生成する配合物の量を指すことを意味する。配合物の予防的に有効な量は、典型的には、それらが有する、活性剤を欠く第二の配合物を同様の状況の個人に投与した場合に認められる効果と比較しての効果によって決定される。
【0182】
本発明の組成物は、肺の発症の前又は発症中に投与することができる。更に、それらは又、片肺移植、両肺移植、又は心肺移植の前に投与することもできる。加えて、活性化合物を、患者に、例えば呼吸疾患及び異常の標準的治療の補助として、長期にわたって与えることは望ましい。
【0183】
上首尾の治療に次いで、患者を、病状の再発を防ぐための維持治療を受けさせることは望ましいであろう(この場合、表面活性物質を、毎日、毎週、毎月又は毎年、1回以上(又は、2〜20年ごとに1回)、体重1kg当たり0.1μg〜20gの範囲の維持投与量で投与する)。例えば、呼吸疾患又は病気になり易いことが既知又は疑われる個人の場合には、予防的効果は、防止的投与量(毎日、毎週、毎月又は毎年、1回以上、又は2〜20年ごとに1回、体重1kg当たり0.1μg〜20gの範囲)の投与によって達成することができる。
【0184】
本発明の組成物は、無菌の水溶液を含むことができ、それも又、無菌の水溶液を含むことができ、それも又、緩衝剤、希釈剤及び他の適当な添加剤を含むことができる。これらの医薬配合物は、便利に投薬単位形態で提供することができ、製薬工業において周知の慣用技術によって製造することができる。かかる技術には、活性成分を製薬キャリアー又は賦形剤と合わせる工程が含まれる。一般に、これらの配合物は、活性成分を液体キャリアー又は微粉固体キャリアー又は両者と均一且つ完全に合わせることにより調製される。これらの配合物は、単位投与量用又は多投与量用容器例えば密封したアンプル及びバイアルにて調製することができて、凍結又は凍結乾燥状態で保存することができ、使用直前に無菌の液体キャリアーを加えることが必要なだけである。
【0185】
医薬治療剤として用いる場合、本発明の組成物は、単独で投与することができるし、適宜、呼吸疾患又は異常の治療に用いられる他の化合物又は組成物と共に投与することもできる。例えば、もし患者が、細菌感染により引き起こされた呼吸障害について治療されているならば、本発明の組成物を、細菌感染の治療に用いられる他の化合物又は治療剤例えば抗生物質と共に投与することができる。かかる化合物(ここでは、「補助化合物」、又は「補助組成物」と呼ぶ)の例には、抗生物質、抗サイトカイン、抗喘息剤、抗リン脂質(例えば、ホスホリパーゼのインヒビター)、血管拡張剤(例えば、アデノシン、ベータ−アドレナリン作動性アゴニスト又はアンタゴニスト、β−アドレナリン作動性ブロッカー、α−アドレナリン作動性ブロッカー、利尿剤、平滑筋血管拡張剤、硝酸塩、及びアンギオテンシン変換酵素インヒビター)、及び嚢胞性繊維症の治療において有用であることが見出された化合物例えばピラジノイルグアニジンナトリウムチャンネルブロッカー(例えば、アミロリド、ベンザミル、フェナミル)が含まれるが、これらに限られない。
【0186】
これらの医薬組成物は、一般に、無菌で、実質的に等張に、そして、米国の食品医薬品局のすべてのGood Manufacturing Practice (GMP)の規定に関してフルコンプライアンスに配合される。
H.治療方法
【0187】
本願は又、ここに開示した様々な新規な化合物及び組成物と関連して有用である様々な治療方法をも開示する。KL4−表面活性物質の利用は、典型例としてここに記載してあるが、ここに開示した他の化合物及び組成物並びに表面活性を有して当業者に公知の化合物及び組成物も又、記載した方法により有用であるということは理解されるべきである。
【0188】
患者への肺投与のための本発明の表面活性組成物及び治療方法は、肺の病気又は障害例えば感染、免疫不全症候群、炎症性疾患、自己免疫疾患、新生物、又は癌の治療に有用である。特に、本発明は、肺送達のための治療用タンパク質配合するための改良された方法を提供する。
【0189】
本発明は又、新生児及び成人を含む任意の年齢の患者における呼吸疾患を治療する好適な方法をも開示する。一つのかかる方法は、かかる治療を必要とする患者に、本発明のポリペプチド(又は、他の表面活性分子)及び製薬上許容しうるリン脂質リン脂質から調製された治療上有効な量の表面活性組成物、好ましくは脂質ベースの表面活性組成物を投与することを含み、該ポリペプチドは、該リン脂質と、該組成物の表面活性を該リン脂質の表面活性より増大させるのに十分な量で合わされる。本発明は又、呼吸疾患例えばARDS及びRDSを治療する方法であって、ポリペプチドが約10〜60アミノ酸残基及び式[(帯電)a(非帯電)b]c(帯電)d(式中、aは、約1〜5の平均値を有し;bは、約3〜20の平均値を有し;cは、1〜10であり;そしてdは、0〜3である)により表される帯電アミノ酸残基及び非帯電アミノ酸残基の交互の群から構成される当該方法をも開示する。様々な好適具体例において、かかるポリペプチドは、製薬上許容しうるリン脂質と混合した場合、該リン脂質単独の表面活性より大きい表面活性を有する肺表面活性物質を形成する。
【0190】
ここに開示したように及び下記の実施例に更に記載したように、本発明の表面活性化合物及び組成物を投与するための様々な方法が、利用可能であり、当業者に周知である。治療を必要とする任意の個人例えば呼吸障害症候群の幼児又は成人の必要性に依って、種々の治療方法が、適当でありうる。
【0191】
従って、幼児が呼吸疾患例えば胎便吸引に苦しんでいる場合には、特定の治療様式が推奨されうる。一つのかかる治療法において、患者の肺の、本発明の表面活性組成物での洗浄が行なわれる。表面活性物質による単一の洗浄は、必要とされるすべてでありうるし;或は、多数回の表面活性物質洗浄が、適当でありうる。その上、塩溶液洗浄とその後の一回以上の表面活性物質洗浄は、たとえ以下において、希釈した表面活性物質洗浄が塩溶液と表面活性物質の組合せによる洗浄よりも良い結果を生じる傾向があることが示されても、適当な治療でありうる。
【0192】
表面活性物質を用いる洗浄手順は、本質的に、次のように行われる。KL4−表面活性物質又は他の表面活性物質(例えば、本発明の一つ)は、好ましくは、典型的には塩溶液洗浄手順で用いられる道具(様々な可撓性の管様器具例えば気管内挿入管、カニューレ及びカテーテルを含む)を用いて混合される。従って、例えば、気管内挿入管器具は、例えば吸い出し目的のために、その管に挿入することのできるカニューレを含み、開示した方法に従って用いるのに適している。好ましくは、洗浄液を肺に及び肺から、それぞれ安全に且つ有効に送達し、除去するために適当に用いられる適した任意の器具が、ここでの使用を企図している。
【0193】
肺洗浄のための典型的なデバイスは、気管支肺胞の洗浄(BAL)のために備えられた人工呼吸器デバイスであって、陽性呼気終圧(PEEP)を肺に加える手段、液体を肺に滴注する手段及び肺の液体を肺から陰圧吸引を利用して除去する手段を含まなければならない。
【0194】
代表的デバイスは、米国特許第4,895,719号、5,207,220号、5,299,566号及び5,309,903号(これらの開示を、すべての目的のために、そっくりそのまま、参考として本明細書中に援用する)に記載されている。
【0195】
ここに示したように、動脈酸素(PaO2)の持続的回収、正常肺コンプライアンス及び胎便吸引による又は本来の表面活性物質の部分的喪失による肺損傷後の減少した炎症を生じる希釈した肺表面活性物質を用いる肺洗浄方法を実施することによって、本明細書で細菌性LPSの点滴注入を用いるモデルにおいて示したように、特に有利な結果が得られた。これらの方法は、呼吸障害特にARDS及びRDSがある様々な肺の病気の治療における利用のために有用でありうる。
【0196】
呼吸ストレスが存在しうる状況には、新生児における胎便吸引、肺の炎症、及び肺感染症が含まれるが、これらに限られない。呼吸障害は、敗血症、肺外傷、肺浸出液の蓄積、膵炎、胃内容物の吸引、熱っした気体の吸入、煙又は有毒ガスの吸入、急性低酸素血症、胎児循環、先天性横隔膜ヘルニア、肺炎、感染又は多数の輸血から起きる炎症などを含む様々な条件と関係しうる。
【0197】
ここに示したように、本発明の希釈表面活性物質による洗浄法は、炎症のメディエーターを除去し且つ、同時に、肺機能を保存し及び/又は回復させ、それにより、有効な治療を与える。
【0198】
肺洗浄の応用は、幾つかの有益な特徴を与える。この洗浄の洗う効果は、残骸、死細胞、緩い炎症反応及び液体などを除去して、肺胞を閉塞している液体及び物質を除去して清浄化し、典型的には、肺及び洗浄液体の30〜95%を、胎便又は肺浸出液などの望ましくない物質と共に除去する。この希釈表面活性物質は、肺胞膜を処理して、その組織のコンプライアンスを改善する。表面活性物質による洗浄の前、洗浄中及び洗浄後における陽性呼気終圧(PEEP)の形態での人工呼吸器の空気圧の特定の量の適用は、肺を広げて、洗い及び処理相における接触を最大にし、それにより、洗浄プロセスの動力学を改善し、特に、不安定に肺胞中の酸素交換に負荷となりうるプロセス中の患者の酸素圧及びガス交換を改善する。最後に、肺(洗浄)液を除去するための気管気管支吸引の短い間隔の利用は、動脈酸素飽和を、許容しうる安全なレベルより低下させない仕方で、注意深く施与される。
【0199】
肺洗浄法は、呼吸障害を経験し又は呼吸疾患若しくは異常に苦しんでいる任意の哺乳動物において実施することができ、特に、成人、子供及び幼児(新生児及び乳児の両方)を含むヒトに適している。
【0200】
哺乳動物の肺洗浄の方法は、気相(気体)陽性呼気終圧(PEEP)を、人工呼吸器手段を用いて、哺乳動物の肺、肺部分又は肺葉に加えることを含む。その後、希釈表面活性物質を製薬上許容しうる水性媒質中に含む洗浄組成物を、哺乳動物の肺又は肺部分に滴注する。その後、肺部分に存在する洗浄組成物を含む肺液体の幾らか又は全部を、陰圧を利用する短い間隔の気管気管支吸引を適用することにより除去する。
【0201】
このPEEPは、典型的には、4〜20センチメートル(cm)水の圧力範囲で施与されるが、もっとも、この圧力は、患者及び肺の状態に依って変化しうる。肺が強健となっている成人、子供及び幼児(新生児以外)については、この範囲は、好ましくは、6〜12cm水であり、一層好ましくは、約8〜10cm水である。肺嚢が一層虚弱で加圧に対して一層脆弱な新生児については、PEEPは、約4〜15cm水の範囲、好ましくは、約6〜9cm水であり、一層好ましくは約8cm水であってよい。
【0202】
気体PEEPの施与は、典型的には、希釈表面活性物質による洗浄の前に、該手順前に血中酸素を安定化させるために、典型的には、洗浄前30分以内、一層好ましくは、約5〜30分に、肺に加えられる。加えて、PEEPは、好ましくは、該手順中、滴注するステップと除去するステップの両方において連続的に加える。連続的PEEPを加える圧力及び吸引の短い間隔に対する合わせた効果は、正味圧の短い一過性の低下を生じ、該吸引間隔が終わると維持されたPEEPレベルに迅速に復帰するということは理解されるべきである。加えて、該手順後に肺胞における酸素圧を維持するために、洗浄液除去ステップの後、ある時間にわたってPEEPを加えることができる。好ましくは、PEEPは、除去ステップ後、最長で約24時間、好ましくは最長で約12時間、一層好ましくは約0.5〜6時間にわたって維持する。
【0203】
加えられた気体は、補足的酸素を、典型的には、約21〜100%の酸素、好ましくは、約50〜100%の酸素を含有することができるということも又、企図される。
【0204】
これらの線状液及び肺の液体を除去するためのこの方法の吸引相は、短い間隔(即ち、1〜120秒)で施与される。典型的な吸引間隔は、30秒未満であり、好ましくは20秒未満であり、一層好ましくは約5〜20秒である。好適な間隔は、2〜120秒であり、好ましくは、5〜20秒である。この吸引時間は、この洗浄手順の吸引相に伴いうる飽和動脈酸素(SaO2)の減少を最小にするために短い。
【0205】
この吸引手順の、肺の液体を除去するのに2以上の吸引ステップを必要とする一つの変更において、一の吸引間隔を他の吸引間隔の直ぐ後に続けるよりも、PaO2レベルを回復する機会を与えるために、短い吸引間隔の間で停止することは望ましい。典型的な停止期間は、約30秒〜15分であり、好ましくは、約1〜5分である。
【0206】
肺の液体を除去するために加えられる吸引は、約10〜150ミリメートル(mm)水銀(Hg)の、好ましくは、約20〜120mmHgの、一層好ましくは約60〜100mmHgの陰圧である。吸引用カテーテル又は類似の吸引手段は、人工呼吸器デバイス中に、典型的には、器具の人工呼吸器チューブを通って気管支まで伸びるカニューレとして存在する。このカニューレの先端は、典型的には、光ファイバー観察手段の助成によって区域気管支内へと導かれ、滴注及び除去は、このカニューレ先端を介して与えられる。
【0207】
この希釈洗浄法の実施において、この洗浄は、繰り返し施与することができるということは理解される。従って、PEEPは、ここに記載のように加えるが、滴注のステップ及び除去のステップは、順次的に繰り返される。典型的には、滴注することと除去すること(洗浄洗いサイクル)は、順次的に、2〜5回繰り返すことができる(更なる、反復を行なうことはできるが)。加えて、希釈表面活性物質の含量は、反復洗浄洗いのコースにおいて変化しうる。例えば、1〜3の洗いサイクルの最初のシリーズを、洗浄組成物1ml当たり約0.1〜10mgの濃度で希釈表面活性物質を用いて行ない、1〜5の洗いサイクルの第二のシリーズを、希釈表面活性物質を、約10〜50mg/mlの濃度で用いて行なうということは企図される。
【0208】
気管内挿入管器具の肺内の位置に依って、この洗浄組成物は、肺葉、肺部分又は肺の全方面を浸し、これは、この器具が終端する気管内挿入管内の位置によって決定される。従って、用語「肺」は、択一的に、肺葉、肺部分、2若しくは3つの肺葉を含む肺の半分、又は全肺を内包し、方法のコンテキストにおいて言及されているが、体積については患者の体重に基づいて調整されてるということは理解される。
【0209】
洗浄組成物を滴注する際に、このプロセスは、カニューレ、気管支鏡、気管内挿入管によるなど様々な方法によって行なうことができるということも又、理解される。好適方法において、この滴注は、典型的には、器具の管の末端で肺を観察する手段によって、典型的には、光ファイバー気管支鏡及び気管支及び近位の肺葉の視覚的ディスプレーのための照射手段の利用によって視覚的にモニターされる。従って、たとえ適当な洗浄組成物体積の見積もりが述べられても、実際には、滴注する体積は、滴注するプロセス中の、観察手段に補助された実務家の判断に依存しうる。
【0210】
肺洗浄プロセスは、典型的には、肺の状態の程度に依って、必要とされるだけ多くの肺で、両肺、左及び右の肺、及び関係する肺葉にて行われる。典型的には、この手順を、左及び右の肺の気管支部分の30〜100%につき、順次的に行なう。
【0211】
気管支鏡又は気管内挿入管を、気管支管路の内径に適合するようにデザインされた固定された又は拡張式のつばで固定することができ、それにより、この方法を実施するための圧力範囲に耐えることのできる適合を確保することができる。この特徴は、それが、肺の一部分を洗浄して、肺の残りの部分が呼吸することを可能にし、それにより、この手順の患者におけるガス交換に対する障害を最小にする限りにおいて、特に望ましい。
【0212】
本発明のKL4−表面活性物質溶液又は他の新規な表面活性物質溶液を、洗浄により、この手順に適した配合物にて投与することができる。約10〜20ml/kgを含む表面活性物質の配合物が、ARDS及びRDSなどの呼吸疾患の治療に有用であるが、洗浄療法のための配合物は、一層希釈されている傾向があり、効率的な送達及び気管内挿入管による除去を促進する傾向がある。
【0213】
従って、「希釈表面活性物質」は、洗浄組成物のコンテキストで用いる場合には、その洗浄組成物が、それに表面活性を与える一種以上の物質を、表面活性を与えるのに十分な量で含むが、該物質が、該組成物が洗浄に従順な液体粘度を有するような量で存在することを指す。
【0214】
従って、被験者(又は、患者)への洗浄による投与に有用な表面活性物質含有組成物は、好ましくは、その粘度が、該組成物が、点滴注入後30秒未満での吸引除去に従順であるようなものである限り、約100mg/ml未満の濃度まで希釈されている。約0.1〜100mg/mlの範囲の投薬量が、典型的に、ここでの利用のために企図される。加えて、一層大きい投薬量での投与は、様々な事例において適当でありえ、例えば、被験者が低い投薬量に十分に応答しない場合、又は配合物が一層低い粘度であって尚且つ表面活性物質活性含有物質の増大した濃度を与える場合には適当である。
【0215】
一般に、患者の体重1kg当たり約4〜60mlの表面活性物質の量が、各投与中に与えられ、典型的には、右肺と左肺とに等しく分割され又は肺の部分間で分割される。個々の患者の必要性に依って、それは、この治療剤を投与している医師又は他の関連分野の当業者によって容易に決定されて、一層多い又は一層少ない量の表面活性物質が各投与中に送達されうる。約8〜30ml/kgを含む量が好適であり、約10〜25ml/kgを含む量は、幾分か一層好適である。従って、洗浄組成物は、典型的には、1キログラム(kg)当たり約4〜60mlの、好ましくは約8〜30mlの、一層好ましくは約16〜25mlの体積で滴注される。
【0216】
洗浄組成物中に存在する表面活性物質の量の記載において、重量は、別途特定されない限り、洗浄組成物の全体積当たりのリン脂質ホスフェートとして測定された量を指している。
【0217】
洗浄により投与される表面活性物質の量は又、特定の患者の「肺当たり」でも記載されうる。従って、洗浄目的に関して表面活性物質の有効量は、70kgの成人につき、約200〜1000ml/肺を、好ましくは約400ml/肺を含むことができ、3kgの幼児について、約30〜60ml/肺を、好ましくは約50ml/肺を含みうる。上記のように、治療を受ける個人の成熟度及び大きさに依って、投与される表面活性物質の量並びに投薬量は、適宜調整されうる。
【0218】
患者は、その病状の重さに依り及び最初の洗浄に対する応答に依って、少なくとも一回の洗浄を受けることができる。投薬量及び投与される表面活性物質の量は、同様に、その後の洗浄において変化しうる。例えば、もし患者が最初の洗浄で典型的な投与量を受けたならば、次の洗浄は、必要性及びその患者の応答に依って、同じ投薬量、一層少ない投薬量又は一層多い投薬量を用いて施与することができる。
【0219】
同様に、各洗浄中に投与される表面活性物質の量は、個々の患者の必要性に依って、変化し又は一定に維持することができる。適当な環境においては、最初の又はその後の洗浄の後に、一層高投与量例えば最大で10〜50mg/mlを投与する洗浄を行なうことができる。例えば、患者は、0.1〜10mg/mlの濃度で表面活性物質を有する洗浄を1〜3回受けた後で、10〜50mg/mlの濃度で表面活性物質を有する洗浄を1〜5回受けることができる。
【0220】
上記のように、投与されるべき投薬量は、患者の大きさ及び成熟度並びに患者の病状の重さに依って変化する。関連分野の当業者は、ここに教示したように、これらの因子を容易に測定して、洗浄により投与される投薬量を調整することができる。
【0221】
表面活性物質のボーラス投与も又、適当でありうる。従って、例えば、10〜300mg/kgのボーラスで15〜100mg/mlの表面活性剤を、少なくとも一回の洗浄治療の前後に投与することができる。
【0222】
治療の種類、投薬量及び用いる量は、当然、個々の患者の病状の性質及び重さに依って変化する。従って、例えば、もし患者が、胎便吸引に苦しんでいる新生児であれば、一種以上の表面活性剤による洗浄を含む治療養生法を施与することは、ありそうなことである。表面活性物質のボーラス投与も、該洗浄を可能にすることができる。
【0223】
上記のように、本発明の一つの面は、肺機能を改善するため及び、通常、気道中の胎便又は他の有害な物質の存在に応答して発生する炎症反応を阻止するために、胎便又は炎症性浸出液の、希釈表面活性物質での洗浄による気道からの除去であった。多くの実施例は、一つの好適な具体例(例えば、ペプチド含有の外因性表面活性物質)の利用に集中しているが、他の表面活性物質含有の洗浄組成物を、開示した方法に従って利用することができるということは、明確に理解されるべきである。表面活性物質の典型的配合物及び表面活性物質を利用する方法も又、本願明細書中に開示されている。
【0224】
本発明の組成物は、患者の肺に任意の適当な手段によって直接投与することができるが、好ましくは、気管内滴注により、一層好ましくは、ボーラス気管内滴注による。別の好適な投与方法は、この組成物を含む呼吸に適したエアゾール粒子の吸入による。肺洗浄は、上記の投与の別経路である。従って、この組成物は、この投薬形態に適しているならば、気管内挿入管により、気管支鏡により、カニューレにより、エアゾール投与により、又はこの組成物の懸濁液若しくはダストの吸われる気体中への噴霧化によって投与することができる。本発明の組成物は又、エアゾール化された形態でも、米国特許第5,874,064号及び5,934,273号(これらの開示を、すべての目的のために、そっくりそのまま、参考として本明細書中に援用する)に示された肺薬物送達システムを利用して、肺に送達することができる。
【0225】
この発明の一具体例において、この発明の組成物は、この組成物からなる呼吸に適した粒子のエアゾールを投与し、それを患者が吸入することにより投与することができる。この組成物は、乾燥粉末吸入薬、計量された投与量の吸入薬、ボーラス若しくは連続的に送達される液体溶液または分散体など(これらに限られない)の様々な形態でエアゾール化することができる。これらの呼吸に適した粒子は、液体又は固体であってよい。
本発明の実施のために調製された組成物の固体又は液体粒子形態には、次の呼吸に適した大きさの粒子が含まれる:即ち、吸入時に口及び喉頭を通過して気管支及び肺胞に到達するのに十分小さい大きさの粒子。一般に、約0.5〜5ミクロンの大きさの粒子は、呼吸に適した範囲にある。好適具体例において、これらの微粒子は、直径0.5〜5ミクロンの質量中央値空気力学的直径及び、コレステロール濃度約8〜15モル%で、肺への投与のための製薬上許容しうるキャリアー中で10cp未満の粘度(室温で測定)を有する。他の好適具体例において、これらの微粒子は、0.5〜5ミクロンの直径及び、コレステロール濃度約8〜15モル%で、肺への投与のための製薬上許容しうるキャリアー中で30cP未満の粘度を有する。ここに記載のように、25℃において、装備された円錐及びプレート式粘度計を用いて、約160秒-1の速度で操作して、30cP未満の粘度を流体粘度と規定することができる。回転速度を0から200秒-1まで増大させ、各10ステップの後に粘度を平衡に到達させてから、このプロセスを回転速度を下げながら反復することを含むステップ−フロー手順を用いることができる。
【0226】
エアゾールに含まれる呼吸に適さない大きさの粒子は、咽喉に付着して飲み下される傾向があり、呼吸に適さない粒子のエアゾール中の量は、好ましくは最少にされる。この粒子状医薬組成物は、適宜、分散体及び輸送における補助のためのキャリアーと合わせることができる。適当なキャリアー例えば糖(即ち、ラクトース、スクロース、トレハロース、及びマンニトール)を、活性化合物と任意の適当な比(例えば、1対1の重量比)でブレンドすることができる。
【0227】
これらの組成物を含む液体粒子のエアゾールは、任意の適当な手段によって、例えば圧力で駆動されるエアゾール噴霧器又は超音波噴霧器を用いて生成することができる。例えば、米国特許第4,501,729号を参照されたい。噴霧器は、市販されている装置であって、活性化合物(即ち、KL4表面活性物質)の溶液又は分散体を、圧縮ガス(典型的には、空気又は酸素)の加速によって、狭いベンチュリオリフィスを通すことにより、超音波攪拌により、電気流体力学により、液体の蒸発及び凝縮により又は振動する膜による攪拌によって、治療用エアゾール噴霧に変換する。噴霧器での使用に適した配合物は、液体キャリアー中の活性成分よりなり、該活性成分は、配合物の40%w/w以下を構成し、好ましくは20%w/w未満を構成する。このキャリアー媒質は、典型的には、水ベース(最も好ましくは無菌の、発熱物質を含まない水)であるか又は希釈した水性アルコール溶液であり、好ましくは、等張に作られるが、例えば塩化ナトリウムの添加により体液と比較して高張又は低張にすることもできる。随意の添加剤には、この配合物を無菌的に作らなかった場合には防腐剤例えばメチルヒドロキシベンゾエート、抗酸化剤、調味剤、揮発性油、緩衝剤、及び界面活性剤が含まれる。
【0228】
この組成物を含む固体粒子のエアゾールは、任意の固体粒状医薬エアゾール発生器を用いて同様に製造することができる。固体粒状医薬を患者に投与するためのエアゾール発生器は、上で説明したように、呼吸に適した粒子を生成し、予め決めた計量された投与量の医薬を含むある容積のエアゾールをヒトへの投与に適した速度で生成する。固体粒状エアゾール発生器の一つの説明のための型は、吸入器である。吸入器による投与のための適当な配合物には、吸入器によって送達されて、鼻から吸う仕方で鼻腔内に取り込まれうる細かく粉砕された粉末が含まれる。この吸入器において、この粉末(例えば、ここに記載した治療を実施するのに有効な計量された投与量)は、カプセル又はカートリッジ(典型的には、ゼラチン、プラスチック又はアルミフォイルから作られたもの)に収容され、それらは、イン・シトゥーで穴を開けられ又は開かれて、該粉末は、吸入時に該装置を通って引かれる空気により又は手動式ポンプによって送達される。この吸入器において用いられる粉末は、活性成分のみからなり又は活性成分、適当な粉末希釈剤例えばラクトース及び随意の界面活性剤を含む粉末ブレンドよりなる。この活性成分は、典型的には、配合物の0.1〜100w/wを構成する。
【0229】
説明のためのエアゾール発生器の第二の型は、計量された投与量の吸入器(MDI)を含む。MDIは、加圧されたエアゾールディスペンサーであり、典型的には、活性成分の懸濁液又は溶液配合物を液化噴射剤中に含む。使用中に、これらのデバイスは、配合物を、計量した容積(典型的には、10〜200μl)を送達するように適合させたバルブを通して排出して、活性成分を含む微粒子スプレーを生成する。適当な噴射剤には、ある種のクロロフルオロカーボン又はヒドロフルオロカーボン化合物例えばジクロロジフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、ジクロロテトラフルオロエタン及びこれらの混合物が含まれる。この配合物は、更に、一種以上の補助溶媒例えばエタノール、界面活性剤例えばオレイン酸又はソルビタントリオレエート、抗酸化剤及び適当な調味剤をも含むことができる。
【0230】
クロロフルオロカーボン含有噴射剤と非クロロフルオロカーボン含有噴射剤の両方を含む任意の噴射剤を、本発明の実施に用いることができる。従って、本発明の実施においては、すべての水素がフッ素で置換されたフルオロカーボン噴射剤、すべての水素が塩素及び少なくとも一つのフッ素で置換されたクロロフルオロカーボン噴射剤、水素含有フルオロカーボン噴射剤、及び水素含有クロロフルオロカーボン噴射剤並びにこれらの混合物を含むフルオロカーボンエアゾール噴射剤を用いることができる。特に好適なのは、ヒドロフルオロアルカン例えば1,1,1,2−テトラフルオロエタン及びヘプタフルオロプロパンである。適宜、安定化剤例えばフルオロポリマーを、米国特許第5,376,359号に記載のように、フルオロカーボン噴射剤の配合物に含ませることができる。
【0231】
このエアゾールは、固体粒子から形成されるものでも液体粒子から形成されるものでも、毎分約0.1〜1mLの速度でエアゾール発生器により生成することができる。一層多量の医薬を含むエアゾールを、一層迅速に投与することができる。典型的には、各エアゾールは、約30秒〜約20分の期間にわたって患者に送達することができるが、約5〜10分の送達期間が好適である。
【0232】
再灌流は又、好中球の活性化及び組織浸潤の有害な効果とも関係している。好中球媒介の傷害の性質は、完全には特性決定されていないが、部分的に、スーパーオキサイドアニオン(O2)及び/又は関連酸化生成物の産生によるものである。この事象のシーケンス(白血球の活性化、毒性メディエーターの放出、及びその結果生じる宿主における病態生理学的状態)は、多くの炎症性疾患に共通している。
【0233】
本発明は又、酸化的傷害と関連する病状を治療するための組成物及び方法をも提供する。例えば、本発明の組成物を、酸化的障害による細胞及び/又は組織損傷を減じること及び白血球による酸化体の生成を阻止することが知られた薬物又は他の活性剤と共に含むエアゾール組成物が企図される。酸化的傷害の危険にある組織には、血液潅流された組織及び炎症を起こした組織が含まれうる。
【0234】
これらの開示した組成物及び方法を用いて治療することのできる炎症性疾患及び異常には、急性肺傷害、急性呼吸障害症候群、関節炎、喘息、気管支炎、嚢胞性繊維症、再灌流障害、動脈閉塞、脳卒中、紫外線誘発性傷害、及び/又は脈管炎が含まれるが、これらに限られない。この炎症は、別の病気又は病状の例えば自己免疫疾患及び移植の症候でありうる。炎症性疾患及び異常には又、白血球の機能不全を特徴とする病状も含まれる。この炎症は、急性、慢性又は一過性の炎症であってよい。例えば、Weissmann等、1982, Ann N Y Acad Sci 389:11-24、Goldstein等、1982, Ann N Y Acad Sci 389:368-79、Janoff, 1985, Annu Rev Med 36:207-16、Hart 及び Fritzler, 1989, J Rheumatol 16:1184-91、Doring, 1994, Am J Respir Crit Care Med 150:S114-7、Demling, 1995, Annu Rev Med 46:193-202、Hansen, 1995, Circulation 91:1872-85、Dakik 及び Nasrallah, 2001, Heart Dis 3:362-4、Kehl等、1996, Intensive Care Med 22:968-71、及びMunkvad, 1993, Dan Med Bull 40:383-408を参照されたい。
【0235】
低下した組織炎症は、炎症により誘導されたタンパク質例えばサイトカイン、モノカイン、レセプター、及びプロテアーゼを検出することによりアッセイすることができる。例えば、ヒスタミンは、Shore等、1959, J Pharmacol Exp Ther 127:182-186により記載された蛍光アッセイを用いて測定することができる。一酸化窒素は、Hybertson, 1994, Anal Lett 127:3081-3093により記載された化学発光アッセイを用いて測定することができる。
【0236】
低下した炎症は、好中球、マクロファージ、単球、好酸球、マスト細胞及び/又は好塩基球による酸化体の生成を含む酸化体生成の減少を測定することによってもアッセイすることができる。炎症細胞による酸化体の生成をアッセイする代表的方法は、実施例に記載してある。好中球の機能も又、当分野で公知の技術、例えばBell等、1990, Br Heart J 63:82-7、Riesenberg等、1995, Br Heart J 73:14-9、Zivkovic等、1995, J Pharmacol Exp Ther 272:300-9を用いてアッセイすることができる。
【0237】
この発明のエアゾール組成物は又、検出可能な標識をも含むことができる。好ましくは、検出可能な標識は、例えば、磁気共鳴イメージング、シンチグラフィックイメージング、超音波、又は蛍光を含む技術(これらに限られない)の何れか一つによってイン・ビボで検出することができる。従って、代表的な検出可能な標識には、蛍光体、エピトープ、放射性標識、及びコントラスト剤が含まれる。
【0238】
この発明の一具体例において、検出可能な標識は、タンパク質例えば蛍光タンパク質である。或は、検出可能な標識を、投与すべきタンパク質と結合体化させる。例えば、この発明の組成物は、検出可能な標識と結合体化され或は該標識に結合された診断用タンパク質を含むことができる。代表的な検出可能な標識、標識方法、及び肺のイメージング及び診断に適したイメージングシステムは、例えば、Desai, 2002, Clin Radiol 57:8-17、McLoud, 2002, Clin Chest Med 23:123-36、及びMcWilliams等、2002, Oncogene 21:6949-59に記載されている。
【0239】
肺の異常を治療する方法において有用であることに加えて(即ち、組成物が、医薬組成物である場合)、本発明の組成物及び方法は、一般に、患者における肺又は気道の機能の増進において有用でありうる。この具体例において、患者は、必ずしも呼吸疾患又は異常に苦しんでおらず、むしろ、一般に、身体的に健康であるが肺機能の改善(即ち、一層容易な呼吸)を希望している者であってよい。患者は、このコンテキストにおいて、煙草の煙(一次又は二次)、環境トキシン又は空気汚染若しくはスモッグへの偶発的曝露の故に;正常な加齢過程による肺機能の低下の故に;改善された心臓血管の適合性への希望などの故に、本発明の組成物の投与を望むことができる。この意味において、本発明の組成物は、処方された医薬(例えば、薬物)としてではなく、むしろ、一般的健康改善用強壮剤として投与される。「増進」とは、肺機能(例えば、呼吸)が、本発明の組成物の投与のない場合に生じる肺機能と比較して、改善されたレベルで起きることを意味する。
【0240】
本発明の表面活性組成物の肺への投与は、肺への送達のための他の技術、例えば、吸入療法の二酸化炭素増強(例えば、米国特許第6,440,393号参照)及び気管支,細気管支での気道の拡大(例えば、米国特許第5,674,860号及び米国特許出願公開第20020151597号参照)と組み合わせることができる。治療養生法は又、他の送達経路(例えば、経口及び血管内送達)による肺への送達を含むこともできる。
I.毒性
【0241】
好ましくは、ここに記載の表面活性組成物の治療上有効な投与量は、実質的な毒性を生じることなく、治療上の利益を与える。
【0242】
ここに記載のタンパク質の毒性は、標準的製薬手順によって、細胞培養又は実験動物において、例えば、LD50(集団の50%に致死的である投与量)又はLD100(集団の100%に致死的である投与量)を測定することにより測定することができる。毒性効果と治療効果の間の投与量比は、治療インデックスである。これらの細胞培養アッセイ及び動物での研究から得られたデータは、ヒトにおける利用について毒性でない投薬量の範囲の処方において利用することができる。ここに記載のタンパク質の投薬量は、好ましくは、有効投与量を含み殆ど又は全く毒性のない循環濃度の範囲内にある。この投薬量は、この範囲内で、用いる投薬形態及び投与経路に依って変化しうる。正確な処方、投与経路及び投薬量は、個々の医師により、患者の状態を考慮して選択されうる(例えば、Fingl等、1975(The Pharmacological Basis of Therapeutics, 第1章中)参照)。
J.キット
【0243】
この発明の更なる主題は、慣習的二次パッケージング、医薬製剤を含む一次パッケージング及び所望であればパッケージ内印刷物よりなる商業的製品であって、該医薬製剤が、患者における慢性的呼吸疾患又は異常の予防又は治療に適しており、この医薬製剤の、患者における呼吸疾患を予防し又は治療することに関する適性に対してこの商業的製品の二次パッケージング又はパッケージ内印刷物が参照され、そして該医薬製剤が、肺表面活性配合物又は製剤である、当該製品である。他の点では、この二次パッケージング、医薬製剤を含む一次パッケージング及びパッケージ内印刷物は、当業者が、この型の医薬製剤の標準と認めるであろうものに相当する。適当な一次パッケージングは、例えば、適当な材料例えば透明なポリエチレン又はガラスのアンプル又は瓶であり或は活性化合物の肺への投与のために慣習的に用いられる適当な投与手段である。例えば、活性化合物の溶液若しくは懸濁液の噴霧化のための又は活性化合物の粉末の噴霧化のための投与手段を挙げることができる。好ましくは、一次パッケージングは、ガラス瓶であり、例えば市販のゴム栓又は隔膜によって密封することができる。例として挙げることのできる適当な二次パッケージングは、折畳箱である。
【0244】
この発明のキットは又、吸入用器具、表面活性物質乾燥エアゾール粒子配合物及び検出システムを含むことができる。吸入用器具は、ここで用いる場合、乾燥エアゾールを投与するための任意のデバイスである。この型の装備は、当分野で周知であり、Remington's Pharmaceutical Sciences, 第20版、2000中に見出されるように、詳細に記載されている。吸入用デバイスは、例えば、米国特許第6,116,237号に記載されている。
【0245】
下記の実施例は、本発明を説明することを意図したものであり、制限するためのものではない。
【実施例】
【0246】
実施例
実施例1
DPPG及びコレステロールを含む新規な肺表面活性配合物の開発
肺表面活性物質の配合物:実験室規模の配合物を、下記のようにコレステロール含量を変化させて(表3)、60mg/ml(TPL)で製造した。各配合物を、n=1〜5で製造して(表3中のロット番号及び名称参照)、個々に特性決定した。DPPC、POPG/DPPG、PA/コレステロール及びKL4の適当な量(表3)(重量)を、順番に、適当な容積のアルコールを含む丸底フラスコに加えて、45〜50℃に加熱した。これらの成分の各々を、浴槽超音波処理を1〜2分行なって加えた。最後に、各成分を加えた後で、フラスコを、5分間より長時間にわたって浴槽超音波処理した。このフラスコを、ロータリーエバポレーターに取り付けて、エタノールを55℃で蒸発させた。ロータリーエバポレーターの速度は、約50rpmであり、10mbarより低い真空にした。フラスコ内に残っているエタノールが約15mlのときに、泡状フィルムを形成するために、ロータリーエバポレーターの速度を60rpmに増した。永存性フィルムの形成に際して、フラスコを、すべての残留エタノールを除去するために、真空デシケーター中に20時間置いた。翌日、それらの配合物を、約25℃に予備加熱した20mM トリス酢酸緩衝液(pH7.5)を用いて水和した。その結果生成した水性分散体を、30秒間にわたってフラスコに間欠的旋回を加えながら45〜50℃で浴槽超音波処理した。これは、高純度の白色の濃厚な分散体を生じた。5M NaClを、一定の超音波処理下で、緩衝液中のNaClの終濃度130mMを得るために、フラスコを振盪させながら、45〜50℃で、滴下して加えた。これは、非常に高純度の均質な濃厚な白色分散体を生成した。表3に、試験に用いた試料をまとめてある。
【表3】

【0247】
これらの配合物の物理化学的特性を、粘度、表面活性、ゼータ電位、及びエアゾール生成速度についての分析方法を用いて評価した。
【0248】
見かけ粘度についての流動度測定。見かけ粘度を、レオメーター(AR1000、TA Instruments, デラウェア、Newcastle)を用いて測定した。アリコート(約400μl)を、下記のように、ステップフロープログラムを用いて分析した:
【0249】
調節ステップ:温度を25℃に到達させる
【0250】
ステップフロー1:0〜200秒の、1/秒の直線的傾斜(15データ収集点を含む)
【0251】
ステップフロー2:200〜0秒の、1/秒の直線的傾斜(15データ収集点を含む)
【0252】
これらの両ステップからの剪断速度157.2秒-1での粘度値を記録して、これら2つの値の平均を報告した。
【0253】
表面活性についての脈動泡表面活性測定法(Pulsating Bubble Surfactometry)(PBS)。これらの配合物の表面活性を、脈動泡表面活性測定器(PBS、Electronetics Corporation, ニューヨーク、Amherst)を用いて、振動数20サイクル/分で、5分の読み時間で、37℃で測定した。最小表面張力値を、これらの試料について、3mg/mlの濃度で、エアゾール化前に測定した。これらの試料を、130mM NaClを含む20mM トリス−Ac緩衝液中で、3mg/mlTPLに希釈した。
【0254】
エアゾール生成速度の測定。Aeroneb Pro噴霧器を用いて、これらの試料をエアゾール化した。この噴霧器は、振動メッシュ技術(開口サイズ4.8ミクロン)を利用して、振動数128KHzで、エアゾールを生成する。すべての生成速度を、重量分折により計算して、2分間の操作時間にわたって平均した。各試料につき、測定値のセットを2つ作成した。高温での操作を、噴霧器の外側に堅く巻いた加熱テープを用いて達成した。この加熱テープを定時に10%機能させて、この装備を、エアゾール化の7分前に予備加熱した。予備加熱中に蒸発で物質が失われるの避けるために、噴霧器の貯蔵器のゴムフィルター栓を、操作開始まで閉じた。エアゾールの収集を、噴霧器の出力端に置いて氷浴に沈めた遠心管を用いて達成した。
【0255】
各配合物ロットの表面活性を、予備エアゾール化した配合物試料の最小表面張力値を記録することにより評価した。これらの試料を、PBSを用いて、3mg/mlの濃度で測定した(内部放出アッセイにより)。
【0256】
PBSにより3mg/mlで測定した予備エアゾール化の最小表面張力を図1に示した。図1は、すべてのDPPG配合物が、10mN/m未満の最小表面張力を示すこと及び、更に、これらの値は、本質的に、このアッセイにおいて互いに区別できないことを示している。
【0257】
図2は、最大10モル%のコレステロールを含むが、パルミチン酸は含まないDPPG配合物とPOPG配合物との間の表面張力の比較を示している。図2は、すべてのDPPG配合物が、3mN/m未満の最小表面張力を示すことを示している。対照的に、POPGとコレステロールを含む配合物は、全く、10mN/m未満の最小表面張力値を示すことができなかった。
【0258】
このDPPG配合物の見かけ粘度を、水和後1日目と4日目の両方について、図3にプロットした。図3は、すべてのDPPG−コレステロール配合物(最大で25モル%のコレステロール)が、水和後1日目で、非常に低い粘度(6cp未満)を示したことを示しているが、例外として、30モル%コレステロールの配合物が、一層高い粘度(160cp)を有している。水和後4日目では、0〜10モル%及び20〜30モル%のコレステロールを含む配合物の粘度が、有意に増大した。0〜10モル%コレステロールの配合物の粘度は、コレステロール含量が増大するにつれて、約10〜200cpの範囲で有意に減少した。12〜20モル%のコレステロールを含む配合物は、粘度の増加を示さずに、5cpより低いままであったが、25〜30モル%のコレステロールの範囲の配合物の粘度は、再び、160cpまで増加を開始した。
【0259】
液体分散配合物において行なった粒度分析の結果を、図4に示した。これらの配合物の見かけ粘度は、水和の4日後に、粒度と同じ方向を向いており、配合物について認められた一層高い見掛け粘度は、一層大きい粒度を有している。
【0260】
エアゾール生成速度を、室温及び高温(40〜45℃)で測定した。これらのエアゾール生成速度を、60mg/mlの配合物について、図5に示した(mg−TPL/分)。示した値は、各配合物の種類についての平均を表しており、製造した様々な個別のロット(n=1〜5)を用いて、各配合物型につき試験して、各ロットにつき2以上の測定を行なった。図5は、試験配合物の室温での生成速度がコレステロール含量に強く影響されることを示している。このエアゾール化速度は、増大するコレステロール含量(最大で15モル%)と共に増大し、その後、再び、増大するコレステロール含量(最大で30モル%)と共に減少している。この傾向は、60mg/mlの濃度で試験した配合物について認められた。高温でのエアゾール化速度は、コレステロール含量20モル%までは、ほぼ同レベル(20〜25TPLmg/分)であり、その後、増大するコレステロール含量と共に減少した。これらの配合物の、室温で、20mg/分に近い生成速度でエアゾール化される能力は、現在のKL4配合物を超える潜在的利益を有している。パルミチン酸を欠くDPPG配合物中の増大したコレステロール含量は、予備エアゾール化において活性であり、3mg/mlTPLで試験した場合に、10mN/m未満の最小表面張力値を示す。POPGを含むすべてのコレステロール配合物は、乏しい最小表面張力値を示した。60mg/mlTPLで調製したすべてのコレステロール配合物は、30mg/mlで試験したSurfaxin(登録商標)より一層高いエアゾール生成速度を示した。
実施例2
DPPG及びコレステロール−IIを含む新規な肺表面活性配合物の開発
【0261】
肺表面活性物質の配合物。実験室規模の配合物を、DOP−017に従って、60mg/ml(TPL)で、コレステロール含量を下記(表4)のように適当に変化させて製造した。各配合物を三連で調製して(表4中のロット番号及び名称参照)、個々に特性決定した。
【表4】

【0262】
これらの配合物を特性決定するために用いた分析アッセイ及び手順を、表5にまとめた。
【0263】
PBS活性測定を、失敗するまで希釈するアプローチ(dilution-until-failure-approach)を用いて行なった。即ち、各配合物を、10mg/mlTPLまで希釈して、PBSにより分析した。定常状態での最小表面張力が、任意の失敗基準(>10mN/m)を満たさなかったならば、その配合物を2倍に希釈してアッセイを繰り返した。この工程を、配合物ロットが、>10mN/mという基準を損なうだけ十分に希釈されるまで繰り返した。各配合物についての三連の測定を、最低の希釈(即ち、この失敗基準が三連の測定値の平均と合った濃度)にて行なった。PBS活性を、3mg/mlの配合物濃度で、単独で測定した。
【表5】

【0264】
各配合物ロットの表面活性を、次の2つの手段によって評価した:1)配合物試料の最小表面張力を、濃度3mg/mlでPBSを利用して測定し、2)失敗濃度を、配合物試料について測定した。第二のアッセイをデザインして、配合物ロットの活性における潜在的差異を同定した。
【0265】
3mg/mlでPBSにより測定した最小表面張力を、表6に示した(即ち、各配合物の3つのロットの平均(+/−標準偏差))。表6は、すべての配合物が、水和後、7又は14日目に測定した場合に、10mN/mより小さい表面張力値を示すことを示し、その上、これらの値が、本質的に、互いに及びこのアッセイで10mg/mLで測定したSurfaxin(登録商標)から区別できないことを示している。
【表6】

【0266】
個々の配合物ロットについての「失敗」濃度を、表7に列記した。
【0267】
Surffaxin(登録商標)の失敗濃度は、1.25mg/mlであった。一般に、所与の配合物型(即ち、2Ch1、2Ch2、及び2Ch3)の3つのロットについての失敗濃度は、表4に示したように、すべて同じ値であるか又はすべて一つの希釈内にあり、これは、これらの三連の配合物ロット間の妥当な一貫性を示している。すべての配合物は又、類似の表面活性をも示している。
【表7】

【0268】
この配合物の見かけ粘度を、図6にプロットした。図6は、すべてのコレステロール配合物(最大で15モル%コレステロール)が、水和後、1日目に、非常に低い粘度(6cp未満)を示したことを示している。しかしながら、調製後の最初の週では、10モル%(1.575mg/mL)未満のコレステロールを含む配合物は、粘度の増加を示し、それは、1週以降は、横ばい状態になった。それにもかかわらず、12及び15モル%のコレステロールを含む配合物は、2週間の試験期間中、粘度の増加を示さず、4cp未満のままであった。
【0269】
これらの液体分散配合物において実施した粒度分析の結果は、図7に示してある。有意の傾向は、この60mg/ml濃度での2モル%コレステロールの配合物ロットについての一層大きい見掛け粒度以外には認められなかった(それは又、貯蔵後の最高粘度をも示している)。この方法を用いて、Surfaxin(登録商標)について測定された中間粒度が11.0μmであったことに注意されたい。
【0270】
60mg/ml配合物についての脂質及びKL4のHPLCアッセイの結果を、表8に示した。標的DPPC、POPG及びKL4の濃度は、すべての配合物について、それぞれ、45、15及び1.60mg/mlであったことに注意されたい。コレステロールの標的濃度は、表1に示してある。表8は、測定された脂質及びペプチド濃度が、標的値と良く一致していることを示している。
【表8】

【0271】
25℃で相対湿度60%での30日間にわたるインキュベーションの後の、見かけ粘度及び表面活性による配合物の安定性の結果を図8にプロットした。図8は、25℃及び相対湿度60%での30日間の期間において、これらの配合物の初期粘度に変化がなく、6cp未満のままであったこと、これらの配合物が、依然として、表面活性により活性であること(3mg/mLで1mN/m未満)、及びHPLCにより検出した場合、これらの配合物の成分の分解がなかったことを示している。
実施例3
コレステロール含有組成物のイン・ビボ活性
【0272】
呼吸系の体積の変化を、動物(ここでは、早産児のウサギ)をプレチスモグラフにかけて、該プレチスモグラフ又はニューモタコグラフに出入りするガスの体積の変化を流量計を用いて測定することによって測定する。呼吸系の剛性を、機械的呼吸中の一回換気量変化を気道圧変化で割ることによって計算する。この剛性のパラメーターは、呼吸系のコンプライアンス(Crs)である。
【0273】
表面活性物質で処理した表面活性物質欠損ウサギ胎児において、Crsは、機械的換気において増大して、約10〜30分でプラトーに達することが予想される。この増大は、表面活性物質の広がりと肺胞の表面活性な裏打ちの確立によるものである。表面活性物質欠損動物においては、最少貯蔵表面活性物質の放出により、機械的換気によるCrsの小さな増加がありうるが、それらの肺は、各呼息で肺胞が潰れるのを防ぐ表面活性物質の不足のために堅いままである。Crsの予想されるコースを、30mg/mlのDPPC、DPPG(3:1)及びコレステロール(10モル%)配合物で処理した6匹のウサギ胎児、及び30分間の機械的換気においてビヒクルで処理した6匹の対照用動物(すべて妊娠27日)の平均Crsについて図9に示した。生データは、2分ごとに得られたコンプライアンスデータの20秒分の平均である。コンプライアンス値は、経時的に上昇する。これらのコンプライアンスの値は、これらの子ウサギの重量につき補正されている。このコレステロール含有配合物は、ビヒクル対照に対して改善されたコンプライアンスに向かう正の傾きを示しているということが分かる。
実施例4
パルミチン酸を含まない新規な肺表面活性配合物の開発
【0274】
配合物の詳細。製造したすべての配合物は、DPPC、POPG及びKL4(3対1対0.11の重量比)から構成された。これらの活性成分を、60%t−ブタノール(TBA)混合物(40%H2O残存)に溶解させて、予備分散溶媒系における最終的な全リン脂質濃度を30mg−TPL/mlとした。これらの活性成分を含むTBA溶液を、20mL血清バイアル中にアリコートとして採って(充填体積9.1+/−0.1mL)、開発規模の凍結乾燥装置を用いて凍結乾燥した。
【0275】
試料の再構成。これらの凍結乾燥したケークを、130mM NaClを含む20mM トリス−Ac緩衝液(pH7.6)を用いて、手で振盪することにより再構成した。再構成に用いた緩衝液の体積は、4.3+/−0.1mlであり、再構成した試料につき60mgTPL/mlの終濃度を生じた。これらの試料を、再構成の際に、見かけ粘度及びイン・ビトロ表面活性につき評価した。
【0276】
見かけ粘度の測定。これらの表面活性配合物の見かけ粘度を、温度25℃で、40mm/1°のアクリル円錐を備えたTA AR1000レオメーター(TA Instruments, デラウェア、New Castle)を用いて測定した。約350μLの未希釈表面活性物質をレオメーターに加え、25℃で熱平衡化させた。ステップフロー手順を用いて、これらの試料を、剪断速度の経時的な直線的増加(0〜200秒-1)及びその後の直線的減少(200〜0秒-1)により分析した。上昇及び下降過程の各傾斜において、15の点で収集を行なって、約6分間の全実行時間となった。剪断速度157秒-1で上昇及び下降傾斜中に測定した粘度を平均して、各試料の見かけ粘度として報告した。
【0277】
PBSを利用するイン・ビトロ活性測定。再構成した配合物の表面活性を、3mg−TPL/mlで、パルセーティングバブルサーファクトメーター(PBS、Electronetics Corp, フロリダ、Seminole)を利用して測定した。これらの試料を、130mM NaClを含む20mM トリス−Ac緩衝液(pH7.6)にて希釈した。希釈に際して、これらの試料を10秒間ボルテックスミキサーにかけて、37℃水浴中で10分間加熱した。この水浴から取り出した後、これらの試料を、10秒間ボルテックスミキサーにかけた。次いで、約50μLの試料を37℃で、PBSにて分析した。泡は、ユーザーにより形成されて、1分間平衡化された。次いで、この泡を、20サイクル/分の振動数で6分間脈動させ、その時間の間、泡は、最小半径0.4mmから最大半径0.55mmの間を循環した。このPBS器具内の圧力変換器は、圧力を測定し、それは、ラプラス方程式を用いて表面張力を計算するのに用いられる。100サイクル後の表面張力を測定して、その試料の最小表面張力として報告した。
【0278】
結果。これらの試験した配合物の見かけ粘度及びイン・ビトロ活性を、表9に表示した。この表に与えたデータは、すべての配合物の最小表面張力は、15mN/mより小さかったことを示している。
【表9】

実施例5
POPG(パルミトイルオレオイルホスファチジルグリセロール)を含む新規な肺表面活性配合物の開発
【0279】
配合物の詳細。製造したすべての配合物は、DPPC、PA及びKL4(重量比3対0.54対0.11)よりなった。これらの活性成分を、60%t−ブタノール(TBA)混合物(40%H2O残留)に溶解させて、予備分散溶媒系における最終的リン脂質濃度を30mg−TPL/mlとした。この活性成分を含むTBA溶液を、20mL血清バイアルに、充填体積9.1+/−0.1mLでアリコートとして採り、開発規模凍結乾燥器を用いて凍結乾燥した。
【0280】
試料の再構成。これらの凍結乾燥したケークを130mM NaClを含む20mM トリス−Ac緩衝液(pH7.6)を用いて、手で振盪することにより再構成した。再構成に用いた緩衝液の体積は、4.3+/−0.1mlであり、再構成した試料につき60mgTPL/mlの終濃度を生じた。これらの試料を、再構成の際に、見かけ粘度及びイン・ビトロ表面活性につき評価した。
【0281】
見かけ粘度の測定。実施例4に上記した通り。
【0282】
PBSを利用するイン・ビトロ活性測定。実施例4に上記した通り。
【0283】
結果。これらの試験した配合物の見かけ粘度及びイン・ビトロ活性を、表10に表示した。この表に与えたデータは、すべての配合物の最小表面張力は、15mN/mより小さかったことを示している。加えて、この配合物中のPOPGを他の脂質(両方とも中性で且つ帯電している)で置き換えることは、その配合物の減少した見かけ粘度を生じた。
【表10】

実施例6
POPG(パルミトイルオレオイルホスファチジルグリセロール)を含み且つパルミチン酸を含まない新規な表面活性配合物の開発
【0284】
配合物の詳細。製造したすべての配合物は、DPPC及びKL4(3対0.11の重量比)よりなった。これらの活性成分を、60%t−ブタノール(TBA)混合物(40%H2O残留)に溶解させて、予備分散溶媒系における最終的全リン脂質濃度を30mg−TPL/mlとした。これらの活性成分を含むTBA溶液を、20mL血清バイアルに、充填体積9.1+/−0.1mLでアリコートとして採り、開発規模凍結乾燥器を用いて凍結乾燥した。
【0285】
試料の再構成。これらの凍結乾燥したケークを130mM NaClを含む20mM トリス−Ac緩衝液(pH7.6)を用いて、手で振盪することにより再構成した。再構成に用いた緩衝液の体積は、4.3+/−0.1mlであり、再構成した試料につき60mgTPL/mlの終濃度を生じた。これらの試料を、再構成の際に、見かけ粘度及びイン・ビトロ表面活性につき評価した。
【0286】
見かけ粘度の測定。実施例4に上記した通り。
【0287】
PBSを利用するイン・ビトロ活性測定。実施例4に上記した通り。
【0288】
結果。これらの試験した配合物の見かけ粘度及びイン・ビトロ活性を、表11に表示した。この表に与えたデータは、すべての配合物の最小表面張力は、15mN/mより小さかったことを示している。加えて、この配合物中のPOPG及びパルミチン酸を代わりの脂質/エステルで置き換えることは、それらの試料の一層低い見かけ粘度を生じた。
【表11】

実施例7
パルミチン酸及びPOPGを含まない配合物の改善された熱安定性
【0289】
配合物の詳細。2つの配合物を製造した。DPPC/POPG/パルミチン酸/KL4(3/1/0.54/0.11の重量比)よりなる一の配合物を、30mg−TPL/mlの全リン脂質濃度で製造した。DPPC/DPPG/コレステロール/KL4(3/1/1.9/0.11の重量比)よりなる第二の配合物を、60mg−TPL/mlの全リン脂質濃度で製造した。これらの試料を、実施例4に記載のようにロータリーエバポレーター処理により製造した。
【0290】
安定性の研究。上で製造した試料を、10mlのバイアルに、充填体積8mlで、アリコートとして採った。これらの配合物を、下記のように、3つの異なる条件下に貯蔵して、0、7、14、30、60、90及び180日の時間にわたって試験した。
1. 5℃±3℃、周囲RH(相対湿度)で貯蔵
2. 25℃±3℃、60%RHで貯蔵
3. 40℃±3℃、75%RHで貯蔵
【0291】
熱安定性(促進された(熱)貯蔵安定性試験に等しい)をデザインして、増進された貯蔵安定性を測定した。
【0292】
この分析試験は、見かけ粘度、イン・ビトロ表面活性、KL4濃度の測定(RP−HPLC使用)及びエアゾール生成速度の測定を含んだ。
【0293】
見かけ粘度の測定。見かけ粘度の測定を、実施例4に記載したように行なった。
【0294】
PBSを利用するイン・ビトロ活性の測定。再構成した配合物の表面活性を、希釈曲線を用いて、パルセーティングバブルサーファクトメーター(PBS、Electronetics Corp, フロリダ、Seminole)を利用して測定した。これらの試料を、最初、10mg−TPL/mlまで希釈し、その後、100サイクルでの最小表面張力が>10mN/mとなるまで倍々に希釈した(この濃度を、その試料についての、失敗濃度と呼ぶ)。この希釈及び一つ前の希釈での表面張力を、その後、更に2回測定した。これらの試料についてのキー読み出しは、この失敗濃度及び10mg−TPL/mlでの最小表面張力を含んだ。PBSについての測定の詳細は、実施例4に記載してある。
【0295】
エアゾール生成速度の測定。Aeroneb Pro噴霧器を用いて、これらの試料をエアゾール化した。この噴霧器は、振動メッシュ技術(開口サイズ4.8ミクロン)を利用して、振動数128KHzで、エアゾールを生成する。すべての生成速度を、重量分折により計算して、2分間の操作時間にわたって平均した。各試料につき、測定値のセットを2つ作成した。高温での操作を、噴霧器の外側に堅く巻いた加熱テープを用いて達成した。この加熱テープを定時に10%機能させて、この装備を、エアゾール化の7分前に予備加熱した。予備加熱中に蒸発で物質が失われるの避けるために、噴霧器の貯蔵器のゴムフィルター栓を、操作開始まで閉じた。
【0296】
RP−HPLCを利用するKL4濃度の測定。約250mgの試料を、15mlのエッペンドルフチューブにて重量測定し、1mlのTFAをこの試料に加えた。この試料のTFAへの溶解に際して、H2O:ACNの1:1溶液10mlを加えた。この混合物をボルテックスミキサーにかけてから、脂質をペレット化するために3000rpmで20分間遠心分離した。250μlの上清のアリコートを、カラムに載せた。KL4分析を、HP1100(Agilen Technologies, カリフォルニア、Palo Alto)にて行なった。Zorbax−SB、C−18、5μ、4.6×250mm(Agilen Technologies, カリフォルニア、Palo Alto)を、この分析に用いた。溶離剤系は、H2OとACNの勾配よりなり、TFAを改変剤として用い(詳細は、後述)、流量は、1mL/分であった。このカラムを、60℃に維持し、214nmでのUVシグナル検出を利用した。実行用緩衝液は、60%H2O、40%ACN、0.1%TFA(溶媒A)及び90%ACN、10%H2O、0.1%TFA(溶媒B)であった。この溶離剤系は、0%Bで10分、0〜100%Bで10分、100%Bで10分で;100〜0%Bで1分及び0%Bで4分であった。
結果
【0297】
見かけ粘度。これらの配合物の見かけ粘度を、図10に描いてある。このデータは、コレステロール(CH)含有配合物の見かけ粘度が、25℃で、最長180日の貯蔵において変化しないことを示している。粘度の増加は、5℃で、コレステロール含有配合物について認められた。
【0298】
イン・ビトロ表面活性。これらの試料についてのイン・ビトロ表面活性データを表12に与える。このデータは、両対照(9P)及びCH配合物の失敗濃度に雑音があることを示している。これらのコレステロール配合物の失敗濃度は、一層高い貯蔵温度でパルミチン酸含有配合物より大きい。
【表12】

【0299】
エアゾール生成速度の測定。エアゾール生成速度を、図11に描いてある。このデータは、コレステロール含有配合物のエアゾール生成速度が、すべての貯蔵温度及び時間において、パルミチン酸含有配合物より大きいことを示している。
【0300】
これらの配合物のKL4濃度の経時的変化。5℃及び25℃で貯蔵したコレステロール及びパルミチン酸を含む試料についてのKL4濃度の変化を、それぞれ、図12及び13に描いてある。これらの図に与えたデータは、コレステロール含有配合物におけるKL4の、パルミチン酸含有配合物と比較して大いに改善された熱安定性を示している。5℃において、コレステロール含有配合物についてのKL4の喪失%は、パルミチン酸配合物についての25%と比較して、7.5%である(コレステロール含有配合物についての、熱安定性における3倍の改善)。同様に、図13は、パルミチン酸配合物についてのKL4の損失が、コレステロール含有配合物についての10%と比較して、69%であることを示している。
【0301】
たとえ前述の発明が、明確な理解の目的のための例により詳細に記載されていても、これらは、説明のために与えられており、制限するものではなく、この開示によって、ある種の変化及び改変が、添付の請求の範囲内で達成され、過度の実験をせずに実施することができるということは、当業者により認められよう。
【0302】
上記の引用されたすべての刊行物及び特許文献は、すべての目的のために、そっくりそのまま、参考として、各々が個別に示されたのと同じく、本明細書中に援用する。
【0303】
列記された範囲は、各々、そのすべての組合せ及びサブコンビネーション、並びにそこに含まれる特定の数値を包含する。
【図面の簡単な説明】
【0304】
【図1】3mg/ml TPLで測定したDPPG配合物の表面活性を示した図である。
【図2】3mg/ml TPLで測定した配合物の表面活性を示した図である。
【図3】1日及び4日間冷蔵した後の、配合物についての、コレステロール濃度対見かけ粘度のプロットを示した図である。
【図4】粒度分析を示した図である。
【図5】60mg/ml(mg−TPL/分)で測定した配合物のエアゾール生産速度を示した図である。
【図6】長期の見かけ粘度を示した図である。
【図7】粒度分析を示した図である。
【図8】25℃及び湿度60%で30日後の、見かけ粘度及び表面活性を示した図である。
【図9】30mg/ml DPPC、DPPG及びコレステロール(10モル%)配合物での処理後の、ビヒクルで処理した対照用動物(n=6)と比較しての、ウサギ胎児肺のコンプライアンスの変化(n=6)を示した図である。
【図10】熱安定性における配合物についての、見かけ粘度データを示した図である。
【図11】熱安定性における配合物についての、エアゾール生産速度測定値を示した図である。
【図12】5℃貯蔵における熱安定性における配合物についての、KL4の損失パーセントを示した図である。
【図13】25℃貯蔵における熱安定性における配合物についての、KL4の損失パーセントを示した図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジパルミトイルホスファチジルコリン、ホスファチジルグリセロール、及び本質的に中性の脂質を含むが、本質的に、1−パルミトイル2−オレオイルホスファチジルグリセロール及びパルミチン酸を有しない合成の肺表面活性物質。
【請求項2】
ホスファチジルグリセロールが、飽和、不飽和又は半飽和である、請求項1に記載の肺表面活性物質。
【請求項3】
飽和ホスファチジルグリセロールが、ジパルミトイルホスファチジルグリセロールである、請求項2に記載の肺表面活性物質。
【請求項4】
1−パルミトイル2−オレオイルホスファチジルグリセロール及びパルミチン酸が、全リン脂質の約5モルパーセントより少ない量で存在する、請求項1に記載の肺表面活性物質。
【請求項5】
本質的に中性の脂質が、コレステロールを含む、請求項1に記載の肺表面活性物質。
【請求項6】
本質的に中性の脂質が、脂肪酸、脂肪酸エステル、脂肪酸アルコール、コレステロール、コルチコステロイド、グルココルチコステロイド、トリフルオリネートグルココルチコイド、β2アゴニスト、植物ステロール、リン脂質、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルイノシトール、スフィンゴミエリン、ジグリセリド、ジオレイン、ジパルミトレイン、混合カプリリン−カプリン、トリグリセリド、トリオレイン、トリパルミトレイン、トリリノレイン、トリカプリリン、又はトリラウリンを含む、請求項1に記載の肺表面活性物質。
【請求項7】
コレステロール濃度が、約0.1〜50モル%である、請求項5に記載の肺表面活性物質。
【請求項8】
コレステロール濃度が、約1〜20モル%である、請求項5に記載の肺表面活性物質。
【請求項9】
コレステロール濃度が、約8〜15モル%である、請求項5に記載の肺表面活性物質。
【請求項10】
ジパルミトイルホスファチジルコリンのジパルミトイルホスファチジルグリセロールに対するモル比が、4〜1である、請求項3に記載の肺表面活性物質。
【請求項11】
ジパルミトイルホスファチジルコリンのジパルミトイルホスファチジルグリセロールに対するモル比が、7〜3である、請求項3に記載の肺表面活性物質。
【請求項12】
ジパルミトイルホスファチジルコリンのジパルミトイルホスファチジルグリセロールに対するモル比が、3〜1である、請求項3に記載の肺表面活性物質。
【請求項13】
ジパルミトイルホスファチジルコリン及びホスファチジルグリセロールの総濃度が、約10〜150mg/mlである、請求項1に記載の肺表面活性物質。
【請求項14】
ジパルミトイルホスファチジルコリン及びホスファチジルグリセロールの総濃度が、約50〜125mg/mlである、請求項13に記載の肺表面活性物質。
【請求項15】
脈動泡表面張力測定法により測定した動的表面張力が、約10mN以下である、請求項1に記載の肺表面活性物質。
【請求項16】
表面活性ポリペプチドを更に含む、請求項1に記載の肺表面活性物質。
【請求項17】
表面活性ポリペプチドが、10以上で約60以下のアミノ酸残基を含み、該ポリペプチドが、式(Zab)cdにより表される交互の疎水性及び親水性アミノ酸残基の領域を有する配列を含む、請求項16に記載の肺表面活性物質
(式中:
Zは、R及びKよりなる群から独立に選択する親水性アミノ酸残基であり;
Uは、L及びCよりなる群から独立に選択する疎水性アミノ酸残基であり;
aは、1又は2であり;
bは、約3〜8の平均値を有し;
cは、1〜10であり;そして
dは、0〜2である)。
【請求項18】
式:KLLLLKLLLLKLLLLKLLLLKにより表されるアミノ酸残基の配列を有する、請求項17に記載の肺表面活性物質。
【請求項19】
本質的に、ジパルミトイルホスファチジルコリン、不飽和ホスファチジルグリセロール、本質的に中性の脂質及び表面活性ポリペプチドよりなる合成の肺表面活性物質。
【請求項20】
不飽和ホスファチジルグリセロールが、パルミトイルオレオイルホスファチジルグリセロールである、請求項19に記載の肺表面活性物質。
【請求項21】
本質的に中性の脂質が、コレステロールである、請求項19に記載の肺表面活性物質。
【請求項22】
表面活性ポリペプチドが、式:KLLLLKLLLLKLLLLKLLLLKにより表されるアミノ酸残基の配列を有する、請求項19に記載の肺表面活性物質。
【請求項23】
本質的に、ジパルミトイルホスファチジルコリン、不飽和ホスファチジルグリセロール、パルミチン酸、本質的に中性の脂質及び表面活性ポリペプチドよりなる合成の肺表面活性物質。
【請求項24】
不飽和ホスファチジルグリセロールが、パルミトイルオレイルホスファチジルグリセロールである、請求項23に記載の表面活性物質。
【請求項25】
中性の脂質が、コレステロールである、請求項23に記載の肺表面活性物質。
【請求項26】
表面活性ポリペプチドが、式:KLLLLKLLLLKLLLLKLLLLKにより表されるアミノ酸残基の配列を有する、請求項23に記載の肺表面活性物質。
【請求項27】
本質的に、ジパルミトイルホスファチジルコリン、ジパルミトイルホスファチジルグリセロール、本質的に中性の脂質及び表面活性ポリペプチドよりなる合成の肺表面活性物質。
【請求項28】
本質的に中性の脂質が、コレステロールである、請求項27に記載の肺表面活性物質。
【請求項29】
本質的に中性の脂質が、脂肪酸、脂肪酸エステル、脂肪酸アルコール、コレステロール、コルチコステロイド、グルココルチコステロイド、トリフルオリネートグルココルチコイド、β2アゴニスト、植物ステロール、リン脂質、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルイノシトール、スフィンゴミエリン、ジグリセリド、脂肪アルコール、ジオレイン、ジパルミトレイン、混合カプリリン−カプリン、トリグリセリド、トリオレイン、トリパルミトレイン、トリリノレイン、トリカプリリン、又はトリラウリンを含む、請求項27に記載の肺表面活性物質。
【請求項30】
表面活性ポリペプチドが、10以上で約60以下のアミノ酸残基を含み、該ポリペプチドが、式(Zab)cdにより表される交互の疎水性及び親水性アミノ酸残基の領域を有する配列を含む、請求項27に記載の肺表面活性物質
(式中:
Zは、R及びKよりなる群から独立に選択する親水性アミノ酸残基であり;
Uは、L及びCよりなる群から独立に選択する疎水性アミノ酸残基であり;
aは、1又は2であり;
bは、約3〜8の平均値を有し;
cは、1〜10であり;そして
dは、0〜2である)。
【請求項31】
式:KLLLLKLLLLKLLLLKLLLLKにより表されるアミノ酸残基の配列を有する、請求項30に記載の肺表面活性物質。
【請求項32】
ジパルミトイルホスファチジルコリン、ジパルミトイルホスファチジルグリセロール、及び本質的に中性の脂質よりなる、合成の肺表面活性物質。
【請求項33】
本質的に中性の脂質が、コレステロールを含む、請求項32に記載の肺表面活性物質。
【請求項34】
本質的に中性の脂質が、脂肪酸、脂肪酸エステル、脂肪酸アルコール、コレステロール、コルチコステロイド、グルココルチコステロイド、トリフルオリネートグルココルチコイド、β2アゴニスト、植物ステロール、リン脂質、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルイノシトール、スフィンゴミエリン、ジグリセリド、ジオレイン、ジパルミトレイン、混合カプリリン−カプリン、トリグリセリド、トリオレイン、トリパルミトレイン、トリリノレイン、トリカプリリン、又はトリラウリンを含む、請求項32に記載の肺表面活性物質。
【請求項35】
治療上有効な量の、ジパルミトイルホスファチジルコリン、ホスファチジルグリセロール、及び本質的に中性の脂質を含み、本質的に、1−パルミトイル2−オレオイルホスファチジルグリセロール及びパルミチン酸を有しない、合成の肺表面活性物質を投与することを含む乳児の呼吸障害症候群を治療する方法。
【請求項36】
ホスファチジルグリセロールが、飽和、不飽和又は半飽和である、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
飽和ホスファチジルグリセロールが、ジパルミトイルホスファチジルグリセロールである、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
本質的に中性の脂質が、コレステロールを含む、請求項35に記載の方法。
【請求項39】
本質的に中性の脂質が、脂肪酸、脂肪酸エステル、脂肪酸アルコール、コレステロール、コルチコステロイド、植物ステロール、リン脂質、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルイノシトール、スフィンゴミエリン、ジグリセリド、ジオレイン、ジパルミトレイン、混合カプリリン−カプリン、トリグリセリド、トリオレイン、トリパルミトレイン、トリリノレイン、トリカプリリン、又はトリラウリンを含む、請求項35に記載の方法。
【請求項40】
乳児の呼吸困難症候群を治療する方法であって、該方法は、治療上有効な量の、本質的に、ジパルミトイルホスファチジルコリン、ホスファチジルグリセロール、本質的に中性の脂質及び表面活性ポリペプチドよりなる合成の肺表面活性物質を投与することを含み、該ポリペプチドが、式(Zab)cdにより表される交互の疎水性及び親水性アミノ酸残基の領域を有する当該方法
(式中:
Zは、R及びKよりなる群から独立に選択する親水性アミノ酸残基であり;
Uは、L及びCよりなる群から独立に選択する疎水性アミノ酸残基であり;
aは、1又は2であり;
bは、約3〜8の平均値を有し;
cは、1〜10であり;そして
dは、0〜2である)。
【請求項41】
ホスファチジルグリセロールが、飽和、不飽和又は半飽和である、請求項40に記載の方法。
【請求項42】
飽和ホスファチジルグリセロールが、ジパルミトイルホスファチジルグリセロールである、請求項41に記載の方法。
【請求項43】
本質的に中性の脂質が、コレステロールを含む、請求項40に記載の方法。
【請求項44】
ポリペプチドが、式:KLLLLKLLLLKLLLLKLLLLKにより表されるアミノ酸残基の配列を有する、請求項40に記載の方法。
【請求項45】
治療上有効な量の、ジパルミトイルホスファチジルコリン、ジパルミトイルホスファチジルグリセロール、及び本質的に中性の脂質を含み、本質的に、1−パルミトイル2−オレオイルホスファチジルグリセロール及びパルミチン酸を有しない、合成の肺表面活性物質を投与することを含む呼吸障害症候群を治療する方法。
【請求項46】
呼吸障害症候群を治療する方法であって、該方法は、治療上有効な量の合成の肺表面活性物質を投与することを含み、該表面活性物質が、式(Zab)cdにより表される交互の疎水性及び親水性アミノ酸残基の領域を有するポリペプチドと混合した一種以上の製薬上許容しうるリン脂質を含む当該方法
(式中:
Zは、R及びKよりなる群から独立に選択する親水性アミノ酸残基であり;
Uは、L及びCよりなる群から独立に選択する疎水性アミノ酸残基であり;
aは、1又は2であり;
bは、約3〜8の平均値を有し;
cは、1〜10であり;そして
dは、0〜2である)。
【請求項47】
ポリペプチドが、式:KLLLLKLLLLKLLLLKLLLLKにより表されるアミノ酸残基の配列を有する、請求項46に記載の方法。
【請求項48】
請求項1に記載の表面活性物質を、最後に、オートクレーブにより殺菌することを含む、合成の肺表面活性物質を製造する方法。
【請求項49】
薬物を肺系に送達する方法であって、該方法は、治療を必要とする患者に、有効量の請求項1に記載の合成の肺表面活性物質を、肺への投与のための製薬上許容しうるキャリアーにて投与することを含み、微粒子が、直径0.5〜5ミクロン及び、約8〜15モル%のコレステロール濃度で6cp未満の粘度を有する当該方法。
【請求項50】
肺系への薬物送達用配合物の粘度を低下させる方法であって、コレステロールを、約8〜15モル%の濃度で、請求項1に記載の合成の肺表面活性物質に加えることを含む当該方法。
【請求項51】
肺系への薬物送達用配合物のエアゾール化を増大させる方法であって、コレステロールを、約8〜15モル%の濃度で、請求項1に記載の合成の肺表面活性物質に加えることを含む当該方法。
【請求項52】
肺系への薬物送達用配合物の貯蔵安定性を増大させる方法であって、コレステロールを、約8〜15モル%の濃度で、請求項1に記載の合成の肺表面活性物質に加えることを含む当該方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公表番号】特表2008−525490(P2008−525490A)
【公表日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−548546(P2007−548546)
【出願日】平成17年12月22日(2005.12.22)
【国際出願番号】PCT/US2005/046862
【国際公開番号】WO2006/071796
【国際公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【出願人】(506387627)ディスカバリー ラボラトリーズ,インコーポレイテッド (6)
【Fターム(参考)】