説明

肺送達のためのインスリン含有エアロゾル化可能製剤

等電点(pI)約6〜8を有するインスリン誘導体;および沈殿剤を含む薬学的に許容される賦形剤を含んで成るエアロゾル化可能製剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、医薬製剤および関連する方法に関する。例えば、1つ以上の態様において、本発明は徐放製剤を含む肺送達製剤に関する。本発明の製剤はインスリン誘導体、例えばグラルギンインスリン、および薬学的に許容される賦形剤、例えば沈殿剤を含んでいてよい。いくつかの態様において、本発明はグラルギンインスリンおよび沈殿剤としての2価カチオンを含む。1つ以上の態様において、製剤は深部肺に到達すると可溶性となり、次に沈殿し得る。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
ペプチド医薬製剤の投与は伝統的には注射によって行われており、これによって消化管による薬剤分解を回避する。しかし注射は一般に、注射部位の急速な不快感ならびに共通領域への反復注射によって引き起こされ得る長期組織損傷のため、望ましくないと見なされる。注射以外の他の投与経路には、経皮、経鼻、気管内および肺送達が含まれる。
【0003】
肺経路による医薬の送達がとりわけ有利である。このアプローチは針の必要性を無くし、皮膚および体粘膜への刺激(薬剤の経皮、イオントフォレシスおよび経鼻送達による一般的な副作用)を限定し、鼻および皮膚浸透促進剤(しばしば皮膚または膜刺激/炎症を引き起こす典型的な経鼻および経皮系の成分)の必要性を無くする。肺投与はまた、経済的に魅力的であり、患者自身での投与が容易であり、そしてしばしば他の投与形態よりも患者に好まれる。
【0004】
しかし、肺投与は他の投与経路においては遭遇することのない多くの困難をもたらす。例えば、経鼻または経皮投与は吸収される薬剤を実際に吸収するポイントのすぐ、または極めて近くに投与することを含むが、肺投与は実際の吸収ポイントから数フィート離れて薬剤を投与する必要がある。したがって、肺製剤は口を通過し、気管を下り、肺へと比較的長い旅を生き残らなければならない。適切に製剤または送達されなければ、薬剤は末梢の肺における吸収部位に到達せず、アベイラビリティーが低下する。
【0005】
肺送達薬剤の制御または遅延放出が望まれるとき、問題はさらに複雑になる。肺医薬組成物からの薬剤放出速度を制御するために多くの方法が使用されている(例えばZeng、X. M., et al., “The controlled delivery of drugs to the lung,” Int. J. Pharmaceutics 124, 149-164 (1995)参照)。これらの方法の例には例えば、リポソームもしくは生分解性マイクロスフェアの使用、および薬剤の活性形態が容易に放出されないような薬剤の修飾が含まれる。他の方法は、不溶性複合体に薬剤を含有せしめることである。例えば、注射用徐放インスリン製剤はしばしば結晶形態のインスリンを含み、これによって遊離インスリンを含む組成物よりもよりゆっくりとインスリンが放出される。しかし、注射用組成物において満足のいく徐放プロファイルを示すインスリン結晶は、結晶が大きすぎて、深部肺に到達する前に早期に堆積するため、肺送達には好適でない。
【0006】
グラルギンインスリンまたはインスリングラルギンは、インスリンのアスパラギン21がグリシンで置換されており、そしてインスリンのB鎖のC末端に2個のアルギニン残基が加えられているインスリンアナログである。分子修飾によって等電点がインスリンのpH5.4からグラルギンのpH6.7にシフトし、グラルギン6量体を安定化させる。したがって、pH4.0でインスリングラルギンは透明な、可溶性溶液である。インスリングラルギンを生理学的pHを有する組織に注射すると、pHの変化によって薬剤の沈殿が引き起こされる。沈殿の形成、インスリングラルギン6量体の上昇した安定化、ならびに6量体間の相互作用によって、注射後の吸収が遅延し、それによって長期の血漿レベルをもたらす。
【0007】
米国公開特許公報2005/0084537(その全体を出典明示により本明細書の一部とする)は、ポリマーマトリックス中に分散した治療薬剤、例えばグラルギンを含むマイクロパーティクルを開示している。該マトリックスはヒアルロン酸の第1ポリマーおよび非イオン性ポリマー、ポリマー性ゴムまたはその組合せの第2ポリマーを含む。マイクロパーティクルは鼻または肺送達のために製剤することができる。
【0008】
そのユニークな物理化学的特徴のため、グラルギンインスリンは肺投与のために製剤するさらなる挑戦を与えてくれる。したがって本発明は、インスリン誘導体を含む肺投与用製剤の製造に関する。
【発明の概要】
【0009】
発明の要約
いくつかの態様において本発明は、等電点(pI)約6.0〜約8.0を有するインスリン誘導体;および少なくとも1種の薬学的に許容される賦形剤を含むエアロゾル化可能製剤であって、該少なくとも1種の薬学的に許容される賦形剤が沈殿剤を含む製剤を提供する。
【0010】
いくつかの態様において、本発明は、エアロゾル製剤を製造する方法であって:等電点(pI)約6〜約8を有するインスリン誘導体および薬学的に許容される賦形剤を含む溶液を製造し;そして薬学的に許容されるバッファーを加えて溶液のpHを約3〜約6とすることを含む方法を提供する。
【0011】
いくつかの態様において、本発明は哺乳類の血糖値を減少させる方法であって:等電点約6〜約8を有するインスリン誘導体の粒子、および薬学的に許容される賦形剤を含んで成る医薬製剤を哺乳類に肺投与することを含み、該投与によって少なくとも約6時間血糖値が減少する方法を提供する。
【0012】
いくつかの態様において本発明はまた、哺乳類の血糖値を減少させる方法であって:等電点約6〜約8を有するインスリン誘導体の溶液、および少なくとも1種の沈殿剤を含んで成る吸入用医薬製剤を哺乳類に肺投与することを含み、肺組織との接触によってインスリン誘導体の少なくとも一部が沈殿し、インスリン誘導体の少なくとも一部が吸収されて血糖値の初期減少をもたらし、沈殿したインスリン誘導体が少なくとも約6時間にわたって吸収され;そして血糖値の減少が少なくとも約6時間維持される方法を提供する。
【0013】
いくつかの態様において本発明はまた、哺乳類の血糖値を減少させる方法であって:
等電点約6〜約8を有する沈殿インスリン誘導体を含む粒子、および少なくとも1種の薬学的に許容される賦形剤を含んで成る医薬製剤を哺乳類に肺投与することを含み;該投与によって少なくとも約6時間血糖値が減少する方法を提供する。
【0014】
さらに本発明は、いくつかの態様において、グラルギンインスリン、亜鉛、ロイシンおよびトレハロースを含む空気動力学的質量中央粒子径10μm未満を有する粒子を含む吸入用医薬製剤を提供する。
【0015】
本発明の他の特徴および利点は、後記発明の説明に記載されており、そして一部が本明細書から明らかとなり、あるいは本発明の実施によって習得することができる。本発明は、とりわけ本明細書に記載の説明および特許請求の範囲において指摘したデバイスおよび方法によって理解され、そして実施される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図面の簡単な説明
本発明はさらに、複数の非限定的図面を参照して、下記のとおり本発明の説明に記載されている:
【0017】
【図1】図1はSprague-Dawleyラット(n=2)にインスリングラルギン80μgを気管内注入した後の個体の血糖濃度を示すグラフである。エラーバーは標準偏差である。
【0018】
【図2】図2はSprague-Dawleyラット(n=2)にインスリングラルギン160μgを気管内注入した後の個体の血糖濃度を示すグラフである。エラーバーは標準偏差である。
【0019】
【図3】図3はSprague-Dawleyラット(n=2)にインスリングラルギン320μgを気管内注入した後の個体の血糖濃度を示すグラフである。エラーバーは標準偏差である。動物3-2は投与240分後に低血糖のために安楽死させた。
【0020】
【図4】図4はSprague-Dawleyラット(n=2)にインスリングラルギン640μgを気管内注入した後の個体の血糖濃度を示すグラフである。エラーバーは標準偏差である。動物4-1は投与480分後に低血糖のために安楽死させ、動物4-2は投与240分後に低血糖のために安楽死させた。
【0021】
【図5】図5はSprague-Dawleyラット(n=2)にインスリングラルギン960μgを気管内注入した後の個体の血糖濃度を示すグラフである。エラーバーは標準偏差である。動物4-1および5-2は投与180分後に低血糖のために安楽死させた。
【0022】
【図6】図6はSprague-Dawleyラットにインスリングラルギン80〜960μgを気管内注入した後の平均血糖濃度を示すグラフである。エラーバーは標準偏差である。
【0023】
【図7】図7はSprague-Dawleyラット(n=6)に再製剤したインスリングラルギン160μgを気管内注入した後の個体の血糖濃度を示すグラフである。エラーバーは標準偏差である。
【0024】
【図8】図8はSprague-Dawleyラットに再製剤したインスリングラルギン160μgを気管内注入した後の平均血糖濃度を示すグラフである。エラーバーは標準偏差である。
【0025】
【図9】図9は対照と比較した、老化試験後に得た本発明のインスリングラルギン製剤の典型的なHPLCクロマトグラフを示す。
【0026】
【図10】図10は本発明の20%インスリングラルギン製剤(4ヶ月老化後)の電子顕微鏡写真(分解能5μm)である。
【0027】
【図11】図11は本発明の90%インスリングラルギン製剤(時間=0)の電子顕微鏡写真(分解能5μm)である。
【0028】
【図12】図12は本発明の20%インスリングラルギン製剤(4ヶ月老化後)の電子顕微鏡写真(分解能2μm)である。
【0029】
【図13】図13は本発明の90%インスリングラルギン製剤(時間=0)の電子顕微鏡写真(分解能2μm)である。
【0030】
【図14】図14は本発明の20%インスリングラルギン製剤の熱重量分析のグラフを示す。
【0031】
【図15】図15は本発明の90%インスリングラルギン製剤の熱重量分析のグラフを示す。
【0032】
【図16】図16は沈殿後上清のインスリングラルギン濃度のグラフを示す。
【0033】
【図17】図17は沈殿後上清のインスリングラルギン百分率のグラフを示す。
【発明を実施するための形態】
【0034】
発明の詳細な説明
そうでないと断らない限り、化合物または成分についての言及には当該化合物または成分それ自体、ならびに他の化合物または成分との組合せ、例えば化合物の組合せを含む。
【0035】
本明細書において用いるとき、文脈が明示的にそうでないと断らない限り、単数形「a」、「an」および「the」は複数についての言及を含む。
【0036】
そうでないと断らない限り、本明細書および特許請求の範囲において用いされている成分の量、反応条件などを表現する全ての数は、「約」なる用語によって全ての具体例において修正されると理解される。したがって、そうでないと断らない限り、下記明細書および添付の特許請求の範囲に記載の数値的パラメーターは、本発明によって得られると考えられる所望の特性に依存して変化し得る概略値である。特許請求の範囲の均等論の適用を限定しようとするものではないが、各数値パラメーターは有効数字および通常の四捨五入の数の範囲を構成するべきである。
【0037】
さらに、本明細書において数値範囲の記載は、その範囲内の全ての数値および範囲の開示であると理解される。例えば、範囲が約1〜約50であるとき、これは例えば1、7、34、46.1、23.7または当該範囲内の全ての数値または範囲を含むものと見なされる。
【0038】
さらなる議論の前に、下記用語の定義は本発明の理解を補助する。
【0039】
定義
この開示において用いる用語は、そうでないと断らない限り、下記のとおり定義する。標準的な用語は、本明細書において明示的に定義しない限り、当業者によって理解される通常かつ常套の意味を有する。
【0040】
「アミノ酸」は、アミノ基およびカルボン酸基のいずれもを含むあらゆる化合物を意味する。アミノ基は極一般的にはカルボキシ官能基に隣接する位置(α位)に存在するが、アミノ基は分子内のあらゆる位置に存在していてもよい。アミノ酸はまた、さらなる官能基、例えばアミノ、ヒドロキシ、チオ、カルボキシ、カルボキシアミド、イミダゾール等を含んでいてもよい。アミノ酸は合成または天然由来であり得て、ラセミ形態または光学的に活性な(D−またはL−)形態で使用することができる。
【0041】
1個のアミノ酸として、またはペプチドのアミノ酸成分として存在する「ロイシン」はアミノ酸ロイシンを意味し、これはラセミ混合物またはそのD−もしくはL−形態、ならびにロイシンの修飾形態(すなわちロイシンの1個以上の原子が他の原子または官能基によって置換されている)(ここで、修飾アミノ酸またはペプチドの分散性改善効果は非修飾物質と比較して実質的に変化していないか、または改善していない)であってよい。
【0042】
本明細書において2量体とも称される「ジペプチド」は、2個のアミノ酸を含むペプチドを意味する。
【0043】
本明細書において3量体とも称される「トリペプチド」は、3個のアミノ酸を含むペプチドを意味する。
【0044】
「界面活性」物質は、それが溶解している液体の表面張力を減少させる能力によって特徴付けられる界面活性(例えば表面張力測定によって測定する)を有するものである。液体と他の相の界面に関する表面張力は、表面分子が内側への引力を示すことによる液体の特性である。
【0045】
典型的には本発明の文脈において、界面活性ジペプチドまたはトリペプチドは、様々な濃度(例えば、約0.01%wt/vol(0.1mg/ml)〜約2%wt/vol(20mg/ml))の対象ペプチドの水溶液を調製し、各溶液の表面張力を測定することによって同定される。界面活性ペプチドは、溶液中に任意の濃度で存在するとき、典型的には0.25mg/ml以上の量で存在するとき、対照値から水の表面張力を低下させるのに有効であるものである。他のペプチドよりも界面活性性であるペプチドは、液体中に同じ濃度で存在し、同じ実験条件下で測定したときより高い程度で水の表面張力を減少させるものである。
【0046】
「徐放組成物」は「速放」組成物よりも比較的長い時間にわたってゆっくりと活性成分を放出する組成物である。一般に、活性成分が少なくとも約3時間、または少なくとも約4時間、または少なくとも約5時間、または少なくとも約8時間にわたって放出される。
【0047】
物質の粒子が一定の形態を有さないとき物質は「アモルファス」である。例えば、結晶物質はアモルファスではない。
【0048】
「タンパク質」はペプチド結合で結合した1個以上のアミノ酸残基の鎖を含む有機化合物である。本明細書において使用するとき、「タンパク質」なる用語は、あらゆる長さのタンパク質またはその誘導体、例えばペプチド、糖ペプチド、リポペプチド、糖タンパク質およびリポタンパク質を含む。これらの用語は本明細書に置いて相互交換可能なように使用され得る。
【0049】
「医薬タンパク質」は、医薬目的に有用なタンパク質である。
【0050】
「インスリン誘導体」は、本明細書において使用するとき、天然由来のインスリンまたは化学的に、例えばインスリン主鎖の1個以上の位置に側鎖を導入することによって、またはインスリンのアミノ酸残基を酸化もしくは還元することによって、または遊離カルボン酸基をエステル基もしくはアミド基に変換することによって修飾したインスリンアナログを意味する。誘導体には、遊離アミノ基またはヒドロキシ基のアクリル化によって得られるものが含まれる。誘導体はまた、得られた誘導体がインスリン活性を有するように、1個以上(例えば1個、2個、3個、4個、5個またはそれ以上)のアミノ酸が欠失および/またはコード不可能なアミノ酸を含む他のアミノ酸で置換されているもの、およびさらなるアミノ酸、すなわち51個以上(例えば1個、2個、3個、4個、5個またはそれ以上)のアミノ酸を含むものを含む。
【0051】
特定の時間についてのタンパク質の「持続血漿レベル」は、特定された期間の間タンパク質が検出可能であることを意味する。タンパク質を検出するためのあらゆる方法、例えば免疫学的、生化学的または機能的方法によってタンパク質を検出することができる。例えば、グラルギンインスリンを酵素免疫測定法(ELISA)、マススペクトロメトリー、または血糖値の測定によって検出することができる。
【0052】
「沈殿剤」は、該剤をタンパク質水溶液に加えたとき目的のタンパク質を沈殿させることができる化合物または化合物の混合物である。タンパク質を様々なメカニズム、例えば限定されないが、アフィニティー沈殿、塩析および等電沈殿によって沈殿させることができる。
【0053】
「不溶性複合体」は、過剰の水、または特定されているとき指定の溶媒に37℃で1時間で完全には溶解しない複合体である。典型的には、不溶性複合体は約30%未満の溶解度を有し、すなわち約30%未満の複合体が1時間で溶解する。不溶性複合体は約20%未満、または約10%未満、または約5%未満の溶解度を有し得る。
【0054】
「肺投与に適している」組成物は、エアロゾル化することができ、そして対象に吸引されてエアロゾル化粒子の一部が肺に到達して肺胞を通過することができる組成物を意味する。かかる組成物は「呼吸用」または「吸入用」であり得る。
【0055】
「エアロゾル化」組成物は、典型的には吸入デバイス、例えば乾燥粉末吸入器、噴霧器、定量吸入器またはネブライザーの動作(または発射)の結果として、ガス(典型提起には空気)中に懸濁した液体または固体粒子を含む。
【0056】
「ジェットネブライザー」は、薬剤溶液を通じて圧縮空気を押し出して、微細スプレーを顔面に送達し、吸入することができる系、例えばデバイスである。ネブライザーはしばしば、定量吸入器または呼吸活性化吸入器を用いることができない者に薬剤を投与するために使用される。
【0057】
「乾燥粉末吸入器」は、粉末形態の薬剤の単位用量を収容するデバイスである。例えば、カプセルまたはブリスターを穿刺し、粉末を分散させてこれを例えば“Spinhaler”または“Rotahaler”で吸入することができる。“Turbohalers”は粉末形態の薬剤の測定用量を送達するキャニスターを装着している。
【0058】
「定量吸入器」または「MDI」は、加圧下プロペラントによって吸入器から分散される極端に小さい液体または固体粒子の懸濁形態で薬剤の一定用量を送達するデバイスである。かかる吸入器は口に当て、押圧して(作動させて)、個体が呼吸するように薬剤を放出する。
【0059】
本明細書において用いるとき、「放出量」または「ED」なる用語は、粉末ユニットまたはリザーバーから作動もしくは分散事象の後、吸入デバイスからの乾燥粉末の送達の指標を意味する。EDは予定量(すなわち、射出前の好適な吸入デバイスに存在する単位用量あたりの粉末質量)に対する吸入デバイスによって送達された用量の比と定義される。EDは実験的に測定される量であり、患者投与を模したインビトロデバイス設定を用いて測定することができる。ED値を測定するために、本明細書において用いるとき、乾燥粉末を米国特許第6,257,233号(出典明示によりその全体を本明細書の一部とする)に記載のPulmonary Delivery System(PDS)デバイス(Nektar Therapeutics)に入れる。PDSデバイスを作動させると、粉末が分散する。得られたエアロゾル雲をデバイスからバキューム(30L/分)で、作動後2.5秒間吸引し、デバイスマウスピースに取り付けた風袋を測定したガラスファイバーフィルター(Gelman、直径47 mm)で捕集する。フィルターに到達した粉末の量が送達量を構成する。例えば乾燥粉末5mgを含むカプセルについて、これを吸入デバイスにセットし、粉末の分散が上記のとおり風袋を測定したフィルターで4mg回収されたとき、乾燥粉末製剤のEDは80%(=4mg(送達量)/5mg(予定量))である。
【0060】
「乾燥粉末形態」の組成物は、典型的には約20%未満の水分を含む粉末組成物である。
【0061】
本明細書において使用するとき、「質量中央径」または「MMD」は、典型的には多分散粒子群、すなわちある範囲の粒度からなる複数粒子の中央径を意味する。本明細書に記載のMMD値は、文脈がそうでないと断らない限り、レーザー回折(Sympatec Helos, Clausthal-Zellerfeld, Germany)で測定する。典型的には、粉末サンプルをSympatec RODOS乾燥粉末分散ユニットのフィーダー筒に直接加える。これをVIBRI振動フィーダー部の先端から手動でまたは機械的撹拌によって遂行され得る。サンプルを、真空減圧(吸引)を伴う、加圧空気(2〜3bar)にる最大化分散圧を適用して1次粒子に分散させる。分散した粒子を、分散粒子の軌道と直角に交差する632.8nmレーザービームで探査する。粒子集団によるレーザー光散乱をフォトマルチプライヤー検出器要素の同心配列上に、逆フーリエレンズアセンブリを用いて現像する。散乱光を5msの時間スライスで取得する。粒度分布を散乱光の空間的/強度的分布から、アルゴリズムを用いて逆算する。
【0062】
「空気動力学的質量中央粒子径」または「MMAD」は、分散粒子の空気動力学的径の測定である。空気動力学的径を用いて、エアロゾル化粉末をその散乱態様について説明し、そしてこれは粒子として空気中で同じ散乱速度を有する単位密度球体の直径である。空気動力学的径は粒子の形状、密度、および粒子の物理的サイズを含む。本明細書において使用するとき、そうでないと断らない限り、MMADは、米国特許第6,257,233(出典明示によりその全体を本明細書の一部とする)に記載のPulmonary Delivery System(PDS)デバイス(Nektar Therapeutics)を用いて標準状態でカスケードインパクションによって測定したエアロゾル化粉末の空気動力学的粒度分布の中間点または中央値を意味する。
【0063】
「微粒子フラクション」は、5ミクロン(μm)未満である空気動力学的径を有する粒子のフラクションである。とりわけ、微粒子フラクションはまた、3.3ミクロン未満である空気動力学的径を有する粒子のフラクションを意味し得る。
【0064】
「薬学的に許容される賦形剤または担体」は、本発明の組成物に所望により含まれ得る賦形剤を意味する。顕著な有害毒性効果を対象に、とりわけ対象の肺に与えることなく肺に取り込まれ得る賦形剤が好ましい。
【0065】
「ガラス転移温度(TG)」は、本明細書において使用するとき、組成物がガラスまたはガラス状状態からシロップまたはゴム状状態に変化する温度範囲の始点である。一般的にTgは、示差走査熱量測定(DSC)を用いて測定する。Tgの標準的な指標は、遷移をスキャンすると組成物の熱容量(Cp)の変化が開始する温度である。しかし、Tgの定義は、遷移の開始、中間または終了点として任意に定義することができる。本発明の目的において、本発明者らはDSCを用いたときのCpの変化の開始を用いる。“Formation of Glasses from Liquids and Biopolymers”と題したC. A. Angellの文献: Science, 267、1924-1935 (Mar. 31, 1995)および“Differential Scanning Calorimetry Analysis of Glass Transitions”と題したJan P. Wolanczykの文献: Cryo-Letters, 10, 73-76 (1989)を参照のこと。詳細な数学的処理について、Gibbs and DiMarzio による“Nature of the Glass Transition and the Glassy State”: Journal of Chemical Physics, 28, No. 3, 373-383 (March, 1958)を参照のこと。これらの文献を参照により本明細書の一部とする。
【0066】
「ガラス形成賦形剤」は、組成物に加えたとき、組成物のガラス状態形成を促進する賦形剤である。
【0067】
「ガラス」または「ガラス状態」なる用語は、本明細書において使用するとき、流動能を喪失した液体を意味し、これはすなわち、粘度が1010〜1014パスカル秒の範囲である極めて高い粘度を有する液体である。これは、分子が振動運度および減少した回転運度を有するが、液体状態と比較したとき極めて遅い(ほぼ測定不能)並進運動を有する準安定なアモルファス系として見ることができる。準安定系のため、これはガラス転移温度未満で保存したとき長期間安定である。ガラスは熱力学的平衡状態ではないため、ガラス転移温度またはその付近で保存されたガラスは貯蔵中に平衡を脱してそれらの高粘度を失う。得られたゴム状またはシロップ状流動性液体は物質の物理的不安定さを導き得る。溶媒蒸発技術(米国特許第6,309,671号)ならびに許容されるTgを有するガラス状態とすることができる他の方法、例えば凍結乾燥とそれに続く微粉化摩砕を用いて、ガラス状態を得ることができる。
【0068】
疾患または病状の「処置または改善」は、疾患または病状の症状の減少または排除を意味する。いくつかの態様において、疾患または病状の「処置または改善」は疾患または病状の原因を標的とする。疾患の処置は疾患の治癒をもたらし得る。
【0069】
「糖尿病および関連する状態」なる用語は、インスリンの欠如もしくは不作用、または利用能の欠如によって引き起こされる疾患または病状を意味する。糖尿病および関連する状態は、I型およびII型糖尿病、とりわけI型糖尿病を含む。
【0070】
医薬組成物の「薬理学的有効量」または「生理学的有効量」は、医薬組成物の意図した目的に十分な量である。例えば、糖尿棒を処置または改善するための医薬組成物の有効量は、糖尿病の症状を減少または排除するのに十分な量、例えば血糖を減少させる血流中のインスリン誘導体の所望のレベルを提供するのに必要な量である。ある医薬組成物の薬理学的有効量は、組成物中の活性成分の性質、投与経路、組成物を投与される動物のサイズおよび種、および投与の目的のような要素で変化する。好適な量は当業者によって、利用可能な文献および本明細書によって提供される情報によって容易に決定することができる。
【0071】
本発明の製剤
いくつかの態様において、ペプチドまたはタンパク質のような薬学的活性分子の製剤を、肺組織に吸収されるように製造する。ペプチドまたはタンパク質の等電点は、この分子が正味の電荷を担持しないときのpHである。この特性に伴う現象は、ペプチドまたはタンパク質が一般的に、それらのpIに等しいpHで最も低い溶解度を有するということである。それらのpIよりも低いかまたは高いpHでは、ペプチドまたはタンパク質がより多くの電荷を担持するため溶解度が増加し、これによって溶解が促進される。結果として、溶解したペプチドまたはタンパク質を、そのpH環境をpIに変化させたとき、沈殿させることができる。したがって、生理学的pHにほぼ等しいpIを有するタンパク質は一般的に、例えば酸性溶液から投与したとき、組織内または上で沈殿し、それによって持続的に溶解しおよび吸収されるデポが形成される。
【0072】
一般に、多くのタンパク質が生理的pHで可溶性である。しかし修飾すると、タンパク質のpIを生理的pHの範囲から外れるように操作することができ、それによって持続溶解のための所望の沈殿となる。1個以上の態様において、かかる操作は1個、2個または数個以上のタンパク質配列のアミノ酸を所望の範囲にpIを誘導する残基を担持するように交換する、タンパク質の点変異によって行い得る。1個以上の態様において、インスリンまたはインスリン誘導体を完全巨大分子のpIを所望のpH範囲に変化させるのに十分な残基を担持する他のペプチドでタグ化することができる。1個以上の態様において、インスリンまたはインスリン誘導体の残基を化学的に修飾してpIを変化させることができる。例えば、負に荷電した酸性残基、例えばグルタミン酸またはアスパラギン酸を中性エステルに修飾することができる。同様に、残基、例えばリシンの正に荷電したアミノ基を有機酸で処理して中性アミドを形成することができる。また、目的のタンパク質を含む溶液を、沈殿を促進する薬剤で処理することができる。かかる沈殿剤は溶液中のタンパク質の正味の電荷以外の要素を操作することができる。例えば、沈殿剤は溶液の極性、または加速沈殿をもたらすタンパク質の3級または4級構造を変化させ得る。したがって、生理的pHと類似のpIを得るためのタンパク質の操作を用いて、生理的pHでこのタンパク質の沈殿を生じ得て、これは長い時間にわたって効果を発揮するために用い得ることができる。
【0073】
環境pHをほぼそのpIとすることによってタンパク質を沈殿させることができ、またはあらゆる他の方法によって固体として製造することができ、そして固体として肺腔に投与することができることも、明白に意図される。かかる製剤は例えば、沈殿形態でインスリン誘導体を含む、液体懸濁剤またはかかる懸濁液から形成した乾燥粉末の形態を取り得る。
【0074】
グラルギンインスリンまたはインスリングラルギンは、インスリンのアスパラギン21がグリシンで置換されており、そしてインスリンのB鎖のC末端に2個のアルギニン残基が加えられているインスリンアナログである。分子修飾によって等電点がインスリンのpH5.4からグラルギンのpH6.7にシフトし、グラルギン6量体を安定化させる。したがって、pH4.0でインスリングラルギンは透明な、可溶性溶液である。インスリングラルギンを生理学的pHを有する組織に注射すると、pHの変化によって薬剤の沈殿が引き起こされる。沈殿の形成、インスリングラルギン6量体の上昇した安定化、ならびに6量体間の相互作用によって、注射後の吸収が遅延し、それによって長期の血漿レベルをもたらす。
【0075】
本発明のいくつかの態様は、最初は可溶性であるか、または溶液であるグラルギンインスリンの肺製剤に関する。深部肺に到達すると、pH変化のために、グラルギンインスリンが沈殿して徐放性複合体を形成する。本製剤における成分の選択を、初期溶解度、続く微粒子形成のいずれもを最大化するように行う。操作の具体的な理論に縛られることを意図するものではないが、本発明の製剤は、遠くの肺に到達すると、ある程度は初期溶解し、続いて沈殿および/または複合体が形成されると考えられる。したがっていくつかの態様において、製剤はグラルギンインスリンの溶液を含む液体製剤、例えば低pH製剤であり、そしていくつかの態様において、製剤はグラルギンインスリンの可溶製剤を含む乾燥粉末である。
【0076】
また上記のとおり、グラルギンインスリンまたは本発明の範囲に含まれる沈殿し得る他のタンパク質は、投与前に沈殿していてもよい。かかる製剤は沈殿したグラルギンインスリンの懸濁液の形態またはそれから形成した乾燥粉末製剤であり得る。
【0077】
本明細書を通じて、グラルギンインスリンについて言及するとき、当該教示は約6−8の等電点を有するあらゆるインスリン誘導体に等しく適用可能であることに注意するべきである。かかるインスリン誘導体を、例えば非酸性残基で酸性残基21の置換によって、および/または末端に塩基性残基、例えばリシンを加えることによってそれらのpIを修飾して、製造することができる。生物学的活性に有害な影響なくpIを修飾する方法によるインスリンの修飾は常套であり、当業者の技術レベル内である。したがって、かかるインスリン誘導体または均等物は、意図され、そして本発明の範囲内であると見なされる。
【0078】
肺におけるタンパク質の沈殿
結晶構造分析は、インスリンが好適な薬剤、例えば亜鉛のような沈殿剤と、各インスリン6量体に対して2または4個の亜鉛分子の比で、錯体を形成することが示される。しかし本発明のいくつかの態様において、グラルギンインスリン−亜鉛錯体は、結晶、錯体よりもむしろ、より多くの亜鉛を含み、アモルファスを形成することがある。理論によって限定されることを意図しないが、本発明の組成物中の高含量の亜鉛(または他の沈殿剤)が上記インスリン−亜鉛結晶よりもより遙かに遅く解離する「動力学的に不可逆性の沈殿」を形成すると思われる。「動力学的に不可逆性」なる用語は、沈殿プロセスが不可逆性であるという意味ではない。むしろこれは、解離、そして続く溶解が動力学的に制御された遅いプロセスであることを意味する。
【0079】
「動力学的に不可逆性の」タンパク質沈殿の形成は、様々な方法で誘導され得る。例えば、限定されないが:(a)錯体形成および適当なカチオン、例えば2価カチオン(例えば亜鉛、マグネシウム、カルシウム、コバルト、銅、鉄、それらの有機および無機塩)との特定の相互作用によるアフィニティー沈殿;(b) Hofmeisterシリーズ塩による塩析;(c) 適当量の大型ポリマー例えばポリエチレングリコール(異なる分子量)、デキストラン等の添加によって誘導される体積排除;および(d) pH調節(酸または塩基)による等電沈殿が含まれる。
【0080】
Hofmeisterシリーズ塩は、ニワトリ卵白タンパク質の混合物を沈殿させる能力についての様々なイオンの順序に由来する。これらの塩のアニオンは、例えばチオシアニド、ニトレート、フルオライド、クロライド、ブロマイド、アイオダイド、サイトレート、アセテート、ホスフェートおよびスルフェートを含む。これらの塩のカチオンは、例えばカルシウム、マグネシウム、ナトリウム、カリウム、アンモニウム、テトラメチルアンモニウム、セシウムおよびアルミニウムを含む。あるタンパク質を沈殿させる当該塩の相対的能力は、タンパク質の性質、pHおよび温度に依存し、そして実験的に測定することができる。
【0081】
本発明のいくつかの態様は、少なくとも1種の沈殿剤を含む。沈殿剤は当該技術分野において既知である。沈殿剤の例には、限定されないが、2価カチオン、例えば亜鉛、銅、コバルト、鉄、マグネシウム、バナジウム、カドミウム、マグネシウム、カルシウムおよびバリウムが含まれる。他の沈殿剤には、ポリエチレングリコール(PEG)、デキストラン、ポリリシン、ポリビニルピロリドン、およびシクロデキストリンが含まれる。さらに他の沈殿剤には、2 メチル−2,4−ペンタンジオール(MPD)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、およびエタノールが含まれる。2価金属カチオン、とりわけ亜鉛が本発明の特定の態様の沈殿剤として使用される。
【0082】
タンパク質はおそらく、主として表面露出ヒスチジン残基、およびより低い程度でシステイン、トリプトファンおよびグルタミン酸残基を介してこれらのカチオンと不溶性錯体を形成する。亜鉛イオンは、これらのアミノ酸側鎖のヘテロ原子の孤立対電子と配位して溶液から選択的にタンパク質を沈殿させる。したがって、本発明はタンパク質の機能、サイズ、全体の電荷または物理的特性に限定されることなく、タンパク質を送達するために用いることができる。低タンパク質濃度での多くの沈殿は、金属イオンおよび遊離表面基のタンパク質間架橋のために生じると考えられる。亜鉛を用いた沈殿は極めて急速であり、そして動力学的に不可逆であることが見出される。溶液のプロトンはタンパク質結合部位について亜鉛イオンと競合し;金属沈殿のコース中、プロトンがそれらの配位部位からより強い結合性亜鉛イオンによって排出されるため、pHの変化が通常存在する。この競合的結合は溶解プロセスの動力学の制御のための可能性を提示する。
【0083】
2価金属イオンには、限定されないが、遷移金属およびアルカリ土類金属が含まれる。遷移金属イオン、例えば亜鉛、銅、コバルトおよび鉄がとりわけ好ましい。亜鉛が本発明において最も好ましい沈殿剤である。いくつかの態様において、1価金属イオン、例えばアルカリ金属を加えることができる。
【0084】
理論に縛られることを望まないが、2価金属:グラルギンインスリンが比較的高い本発明のいくつかの態様において、本発明の錯体は結晶よりもむしろアモルファスであり得ると考えられる。いくつかの態様において、アモルファス錯体(より高い比)を結晶錯体(より低い比)と混合して組み合わせた放出特性を有する組成物を作成することができる。したがって、本発明の組成物は下記乾燥重量百分率の少なくとも1個のアモルファス錯体を有し得る:0%、1%、2%、4%、6%、8%、10%、15%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%および90%。
【0085】
本発明の組成物は典型的には、固体重量百分率約0.1%〜約95%、より好ましくは約10%〜約85%、さらにより好ましくは約30%〜約75%、最も好ましくは約50%〜約70%の沈殿剤を含む。薬学的に有用なタンパク質を塩析、体積排除または等電沈殿によって沈殿させるとき、沈殿剤は不溶性複合体の一部を形成するよりもむしろ、沈殿を促進させるのみであるため、当該組成物は沈殿剤を含まなくともよい。一旦沈殿が形成されると、沈殿剤は所望により懸濁液から除去して最終組成物中の沈殿剤をなくすかまたは微量のみにすることができる。賦形剤の添加によっても沈殿剤の割合が変化し得る。したがって、賦形剤の量に基づいて、本発明の組成物は乾燥重量百分率の少なくとも1個の沈殿剤を含む:0.1%、0.2%、0.4%、0.5%、0.7%、1.0%、5%、10%、15%または20%。
【0086】
インスリン誘導体に加えて、該組成は治療剤として有用な任意のタンパク質を含んでいてもよい。該タンパク質はまた、炭水化物または脂質のような非ペプチド部分を含んでいてもよい。したがって本発明のこれら薬学的に有用なタンパク質(「医薬タンパク質」)は、末梢神経、アドレナリン受容体、コリン作動性受容体、骨格筋、心臓血管系、平滑筋、血液循環系、シナプス部位、神経効果器接合部位、内分泌系およびホルモン系、免疫系、生殖器系、骨格系、オータコイド系、消化器系および排泄系、ヒスタミン系、ならびに中枢神経系に作用する薬剤を含み得る。好適なタンパク質は、例えば睡眠薬および鎮静剤、精神賦活剤、精神安定剤、呼吸系剤、抗けいれん剤、筋弛緩剤、パーキンソン病治療剤(ドーパミンアンタゴニスト)、抗アレルギー剤、抗炎症剤、抗不安剤(抗不安薬)、食欲抑制剤、抗偏頭痛薬、筋収縮剤(muscle contractants)、抗感染剤(抗生物質、抗ウイルス剤、抗真菌剤、ワクチン)、抗関節炎剤、抗マラリア薬、制吐剤、抗癲癇薬、気管支拡張剤、サイトカイン、増殖因子、抗がん剤、抗血栓剤、抗高血圧剤、心臓脈管薬、抗不整脈剤、抗酸化剤、抗喘息剤、避妊薬を含むホルモン剤、交感神経刺激剤、利尿剤、脂質調節剤、抗アンドロゲン剤、抗寄生虫剤、抗凝血剤、新生物剤、抗新生物薬、血糖降下剤、栄養剤およびサプリメント、成長サプリメント、抗腸炎剤、ワクチン、抗体、診断薬および造影剤(contrasting agent)を含み得る。医薬タンパク質は局所的または全身的に作用し得る。
【0087】
インスリン誘導体と組合せて用いるのに適した医薬タンパク質の例には、限定されないが、カルシトニン、エリスロポエチン(EPO)、Factor VIII、Factor IX、セレダーゼ、セレザイム、シクロスポリン、顆粒球コロニー刺激因子(GCSF)、トロンボポエチン(TPO)、アルファ−1プロテイナーゼ阻害剤、エルカトニン、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GMCSF)、成長ホルモン、ヒト成長ホルモン(HGH)、成長ホルモン放出ホルモン(GHRH)、インターフェロンアルファ、インターフェロンベータ、インターフェロンガンマ、インターロイキン−1受容体、インターロイキン−2、インターロイキン−1受容体アンタゴニスト、インターロイキン−3、インターロイキン−4、インターロイキン−6、黄体化ホルモン放出ホルモン(LHRH)、因子IXインスリン、プロ−インスリン、インスリンアナログ(例えば米国特許第5,922,675号に記載のモノアクリル化インスリン)、C−ペプチド、ソマトスタチン、ソマトスタチンアナログ、例えばオクトレオチド、バソプレシン、卵胞刺激ホルモン(FSH)、インスリン様増殖因子(IGF)、インスリントロピン(insulintropin)、マクロファージコロニー刺激因子(M−CSF)、神経成長因子(NGF)、組織成長因子、ケラチノサイト成長因子(KGF)、グリア成長因子(GGF)、腫瘍壊死因子(TNF)、内皮成長因子、副甲状腺ホルモン(PTH)、Ilb/IIIa阻害剤、アルファ−1アンチトリプシン、ホスホジエステラーゼ(PDE)化合物、呼吸器合胞体ウイルス抗体、デオキシリボヌクレアーゼ(DNase)、殺菌性/透過性改善タンパク質(BPI)、抗CMV抗体、および適用可能であるとき、上記のもののアナログ、アゴニスト、アンタゴニストおよび阻害剤、例えば合成、天然、糖化、非糖化、ペグ化形態、および生物学的に活性なそのフラグメントおよびアナログが含まれる。
【0088】
医薬タンパク質の組成物および対応する用量を、使用するインスリン誘導体の生物活性によって変化する。具体的な投与経路のために使用される正確なインスリン誘導体組成物の薬力学と薬物動態を組み合わせたとき、正確な投与量を当業者が決定することができ、そして定期的なグルコースモニタリングによって容易に調節することができる。
【0089】
吸入用グラルギンインスリン組成物の個々の投与量(吸入ベースで)は、典型的にはインスリン誘導体約2mg〜約40mg、約4mg〜約20mg、または約6mg〜約10mgであり、所望の総投与量は典型的には、約1〜10呼吸、例えば約1〜4呼吸で得られる。平均して、1日あたりの吸入によって投与されるグラルギンインスリンの総用量は、平均して、約0.1U〜約20Uである。実際の投与量は医師によって患者の必要、インスリン初回使用者か既存のインスリン使用者か、そして投与に対する応答に基づき決定することができる。
【0090】
本発明を用いてグラルギンインスリンを吸入により肺に送達するとき、組成物中のグラルギンインスリンの量は、天然インスリンの治療効果の少なくとも1つ、すなわち血糖レベルを正常血糖近くに制御する能力を達成するための単位用量あたり治療上有効量のグラルギンインスリンを送達するのに必要な量である。とりわけ、これは処置する糖尿病状態、患者集団、組成物の安定性などに依存して広く変化する。
【0091】
組成物は一般的に、固体重量として、約1%〜約99%、例えば約2%〜約95%、約5%〜約85%、または約70%〜約95%の医薬タンパク質を含む。組成物中の医薬タンパク質の百分率はまた、組成物中に含まれる賦形剤/添加剤の相対的量に依存する。より具体的には、組成物は典型的には、下記固体重量百分率の少なくとも1個の医薬タンパク質を含む:10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%またはそれ以上。いくつかの態様において、粉末組成物は少なくとも約60%、例えば約60〜100重量%の医薬タンパク質を含む。1種以上の医薬タンパク質が本明細書に記載の組成物に含まれ得ることが理解される。さらにまた、組成物は1種以上の医薬タンパク質の形態、例えばグラルギンインスリンおよび他のタイプのインスリンを含んでいてもよい。
【0092】
本発明の組成物の沈殿剤と医薬タンパク質のモル比は、約1:50〜約50:1であり得る。当該比はより一般的には、約1:20〜約20:1、または約1:10〜約10:1、または約1:5〜約5:1である。沈殿剤と医薬タンパク質の理想的なモル比は当業者によって決定され、一般的におよそ下記のものである:1:10、1:9、1:8、1:7、1:6、1:5、1:4、1:3、1:2、1:1、2:1、3:1、4:1、5:1、6:1、7:1、8:1、9:1、10:1、15:1、20:1、30:1、40:1、50:1、またはそれ以上。
【0093】
本発明の1つの態様は、プロタミンを含まない組成物を提供する。プロタミンは魚から単離されるタンパク質の一群であり、期間を延長するためにインスリン製剤において一般的に用いられている(例えば、Vanbever R. et al., “Sustained release of insulin from insoluble inhaled particles,” Drug Dev. Res. 48, 178- 185, 1999参照)。しかし、プロタミンならびにプロタミン−インスリン複合体は、潜在的に免疫原性であることが示された(Samuel T. et al., “Studies on the immunogenicity of protamines in humans and experimental animals by means of a micro-complement fixation test,” Clin. Exp. Immunol. 33(2), 252-260 (1978); Kurtz A. B. et al., “Circulating IgG antibody to protamine in patients treated with protamine-insulins,” Diabetologia. 25(4), 322-324 (1983))。本発明の組成物はプロタミンなしで徐放することができるため、本発明はプロタミンを含まず、それによってプロタミンによって引き起こされ得る有害反応を回避するという選択肢を提供する。
【0094】
リポソームの使用も薬剤効果の期間を延長するために一般的に使用されるが、本発明はリポソームの使用を必要としない。したがって、本発明の他の態様は、脂質を含まない組成物、ならびに医薬タンパク質に加えてポリマーを含まない組成物を提供する。しかし、本発明の組成物は脂質またはリポソームの使用を排除する可能性が存在するべきであるが、後に詳述するとおり、本発明の1次粒子は脂質を含んでいるか、またはリポソーム製剤に含まれていてもよいことにも注意する。
【0095】
賦形剤
本明細書に記載のとおり、いくつかの態様において、pI約6〜約8を有するインスリン誘導体を製剤で肺に投与して、肺組織に到達したとき製剤の沈殿を生じる。この態様において、製剤は一般的に液体または固体製剤である。
【0096】
液体製剤はインスリン誘導体と、深部肺組織に到達する前にインスリン誘導体の溶解度を向上させる賦形剤の溶液であってよい。深部肺組織に到達すると、pHは一般的に約6〜8であり、インスリン誘導体の沈殿が生じる。
【0097】
固体製剤はインスリン誘導体と、深部肺組織したときインスリン誘導体の初期溶解度を向上させる賦形剤の粉末であってよい。しかし、いくらかの溶解期間の後、肺組織の生理的pHはインスリン誘導体の沈殿を惹起する。
【0098】
本明細書に記載の固体および液体製剤のいずれにおいても、沈殿が生じ、そして肺中に残留するように注意深く賦形剤を選択する。したがって、賦形剤の選択は、沈殿反応との干渉を最小限にするように行う。したがって例えば、製剤中の沈殿剤、例えば金属カチオンをキレートする賦形剤は望ましくない。同様に、深部肺組織に到達したとき、インスリン誘導体程度に浸透圧を増加させる賦形剤も望ましくない;かかる賦形剤は局所水体積を過度に増加させ、それによって沈殿速度を低下させ得る。さらに、製剤中の賦形剤の量も、あらゆる干渉効果を最小とするために注意深く選択すべきである。
【0099】
下記群の賦形剤を、本発明の製剤のいくつかの態様において用いることができる。
【0100】
緩衝化剤
グラルギンインスリンが等電点6.7を有し、そして遠位肺に到達したときある程度の製剤の初期溶解が望ましいことに鑑みて、本発明の組成物はさらに1種以上の緩衝化またはpH調節もしくは制御剤を含んでいてもよい。これらの剤は一般的に、有機酸または塩基から製造される塩である。代表的なバッファーには、クエン酸、アスコルビン酸、グルコン酸、炭酸、酒石酸、コハク酸、酢酸またはフタル酸のような有機酸塩、Tris、塩酸トロメタミン、またはリン酸バッファーが含まれる。緩衝化能をも有し得る好適なアミノ酸は、アラニン、グリシン、アルギニン、ベタイン、ヒスチジン、グルタミン酸、アスパラギン酸、システイン、リシン、ロイシン、イソロイシン、バリン、メチオニン、フェニルアラニン、アスパルテーム、チロシン、トリプトファン等を含む。
【0101】
これらの剤は、存在するとき一般的に、組成物の約0.01重量%〜約10重量%の量で存在する。いくつかの態様において、量は組成物の約0.02重量%〜約9重量%、または約0.03重量%〜約8重量%、または約0.04重量%〜約7重量%、または約0.05重量%〜約6重量%の範囲である。量の選択は、組成物にる所望の効果に依存し、そして必要なように変更することができる。
【0102】
乾燥製剤改善賦形剤
本発明のいくつかの態様は、肺送達のために設計された乾燥製剤である。本発明のいくつかの態様は、所望の物理的特性を最終生成物に与え、さらに処置される対象に望ましいまたは改善された作用を与えるために設計される賦形剤を含む。したがって、本発明の組成物は、患者に、とりわけ患者の肺に対して顕著に有害な毒性効果を有さずに肺に取り込まれ得る薬学的に許容される希釈剤または担体を含んでいてもよい。
【0103】
一般的に、かかる賦形剤は、存在するとき、少なくとも一部は、例えば活性剤のさらなる効果および/または再現性のよい送達を提供すること、粉末の取り扱い特性、例えば流動性および稠度を改善すること、および/または単位投与形態の製造および/または充填を促進することによって、活性剤の特徴をさらに改善するために用いる。とりわけ、賦形剤物質はしばしば、活性剤の物理的および化学的安定性をさらに改善するため、残留水分を最小にし、水分吸収を妨げるため、そして粒度、凝集度、粒子表面特性、例えばしわ特性、吸入しやすさおよび肺への粒子標的化のために機能する。1種以上の賦形剤はまた、製剤中の活性剤の濃度を低下させることが望まれるとき、増量剤として使用するために提供され得る。遠位肺で沈殿が生じることが望まれ、このプロセスは過剰の液体の存在によって遅延し得るため、賦形剤は製剤の浸透効果を最小にするように選択するべきであることにも注意する。
【0104】
該製剤中に含まれ得る乾燥製剤改善賦形剤のある具体的なタイプは、分散性改善賦形剤である。この賦形剤は一般的に、乾燥製剤の物理的特徴を改善することによってグラルギンインスリンのより良い効果および/または再現性のよい送達を提供する。分散性改善剤には、限定されないが、分散剤として機能するアミノ酸およびポリペプチドが含まれる。このカテゴリーに含まれるアミノ酸は、限定されないが、疎水性アミノ酸、例えばロイシン、ノルロイシン、バリン、イソロイシン、トリプトファン、アラニン、メチオニン、フェニルアラニン、チロシン、ヒスチジンおよびプロリンを含む。分散性改善ペプチド賦形剤には、上記のもののような疎水性アミノ酸成分を1個以上含む二量体、三量体、四量体および五量体が含まれる。例えば、限定されないが、ジロイシンおよびトリロイシンが含まれる。
【0105】
これらの賦形剤は、存在するとき、組成物中約0.01重量%〜約95重量%、例えば約0.5重量%〜約80重量%、または約1重量%〜約60重量%で存在する。該量は組成物の約10重量%〜約60重量%、または約20重量%〜約50重量%、または約30重量%〜約40重量%、または約35重量%であり得る。量の選択は、組成物に対する所望の効果に依存し、そして必要なとおりに変更することができる。乾燥製剤改善賦形剤の理想的な量およびタイプは、グラルギンインスリンの分散性および送達性を改善するが、沈殿平衡を顕著に妨げない量およびタイプである。
【0106】
ガラス転移安定化賦形剤
本発明のいくつかの態様は乾燥製剤であり、組成物のガラス転移温度を安定化スル成分の添加が遊離であり得ることがある。いくつかの態様において、この組成物はグラルギンインスリンよりも高いガラス転移温度を有する。いくつかの態様において、賦形剤は示差走査熱量測定(DSC)で測定したとき、約35℃以上、例えば約40℃以上、約45℃以上、約55℃以上、約60℃以上、約65℃以上、約70℃以上、75℃以上、約80℃以上、約85℃以上、または約90℃以上のガラス転移温度(Tg)を有し得る。
【0107】
ガラス安定化剤、ガラス転移安定化剤、およびガラス形成剤としても知られているガラス転移安定化賦形剤には、限定されないが、炭水化物が含まれる。本発明での使用に好適な炭水化物賦形剤は、例えば単糖類、例えばフルクトース、マルトース、ガラクトース、グルコース、D−マンノース、ソルボース等;2糖類、例えばラクトース、スクロール、トレハロース、セロビオース等;多糖類、例えばラフィノース、メレジトース、モルトデキストリン、デキストラン、スターチ等;ならびにアルジトール、例えばマンニトール、キシリトール、マルチトール、ラクチトール、キシリトールソルビトール(グルシトール)、ピラノシルソルビトール、ミオイノシトール等が含まれる。ガラス形成剤の他の例は、米国特許第6,309,671号に記載されており、その全開示を出典明示により本明細書の一部とする。
【0108】
ガラス転移安定化賦形剤は、存在するとき、一般的に、組成物の約1重量%〜約50重量%の量で存在する。いくつかの態様において、それらは組成物の約2重量%〜約25重量%、または約4重量%〜約12重量%、または約5重量%〜約10重量%、または約7重量%の量で存在する。該量は組成物の10、20、30、40、または50重量%であり得る。量の選択は、組成物に対する所望の効果に依存し、そして必要なとおりに変更することができる。ガラス転移安定化賦形剤の理想的な量およびタイプは、グラルギンインスリンの分散性および送達性を改善するが、沈殿平衡を顕著に妨げない量およびタイプである。
【0109】
本発明の医薬製剤に有用な他の医薬賦形剤および添加剤には、限定されないが、アミノ酸、ペプチド、タンパク質、非生物学的ポリマー、生物学的ポリマー、炭水化物、例えば糖、糖誘導体、例えばアルジトール、アルドン酸、糖エステル、および糖ポリマーを含み、これらは単独で、または組合せとして存在し得る。タンパク質賦形剤の例には、アルブミン、例えばヒト血清アルブミン(HSA)、組換えヒトアルブミン(rHA)、ゼラチン、カゼイン、ヘモグロビン等が含まれる。好適な賦形剤は米国特許第6,136,346号およびWO 96/32096に記載のものである(それらの全体を、出典明示により本明細書の一部とする)。
【0110】
本発明の組成物はまた、ポリマー性賦形剤/添加剤、例えばポリビニルピロリドン、セルロース誘導体、例えばヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロースおよびヒドロキシプロピルメチルセルロース、Ficolls(重合糖)、ヒドロキシエチルスターチ、デキストレート(例えば、シクロデキストリン、例えば2−ヒドロキシプロピル−[ベータ]−シクロデキストリンおよびスルホブチルエーテル−[ベータ]−シクロデキストリン)、ポリエチレングリコール、およびペクチンを含んでいてもよい。1つ以上の態様において、製剤はポリマーを含まない。
【0111】
本発明の組成物はさらに、風味剤、味覚マスキング剤、無機塩(例えば塩化ナトリウム)、抗微生物剤(例えば、塩化ベンザルコニウム)、甘味剤、抗酸化剤、帯電防止剤、界面活性剤(例えばポリソルベート、例えばTWEEN 20およびTWEEN 80)、ソルビタンエステル、脂質(例えばリン脂質、例えばレシチンおよび他のホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン)、脂肪酸および脂肪エステル、ステロイド(例えばコレステロール)、およびキレート剤(例えばEDTA、亜鉛および他の好適なカチオン)を含んでいてもよい。本発明の組成物に用いるのに適した他の医薬賦形剤および/または添加剤は、“Remington: The Science & Practice of Pharmacy”, 21st ed., Lippincott, Williams & Wilkins, (2005), and in the “Physician’s Desk Reference”, 60th ed., Medical Economics, Montvale, NJ (2006)に列記されている(いずれも、それらの全体について参照により本明細書の一部とする)。
【0112】
定量吸入器(MDI)適用のために、該組成物はまた、より高い溶解度を有するように処理することができる。HFA(ヒドロフルオロアルカン)プロペラントにおける界面活性剤の溶解度を上昇させることによって懸濁液の安定性を改善しようとする試みもある。この目的を達成するため、米国特許第5,1 18,494号、ならびにWO 91/1 1 173およびWO 92/00107は、懸濁液安定性を改善するためのHFA溶解性フッ素化界面活性剤の使用を開示している。HFAプロペラントと他の過フッ素化共溶媒の組合せは、WO 91/04011にも開示されている。安定化のための他の試みには、非フッ素化界面活性剤の添加が含まれる。これに関して、米国特許第5,492,688号は、いくつかの親水性界面活性剤(親水性/疎水性バランスが9.6以上)はHFAに十分な溶解性を有しており、医薬懸濁液を安定化することが開示されている。常套の非フッ素化MDI界面活性剤(例えばオレイン酸、レシチン)の溶解度の増加はまた、米国特許第5,683,677号および第5,605,674号、ならびにWO 95/17195に記載のとおり、アルコールのような共溶媒の使用によって報告のとおりに得ることができる。上記全ての文献を、それらの全体について、参照により本明細書の一部とする。
【0113】
本発明の組成物のいくつかの態様は、刺激を引き起こし、高レベルで毒性であり、しばしば吸収の実質的向上を得るために必要であり得る浸透促進剤を除外することができる。典型的には本発明の組成物には存在しない具体的な促進剤は、洗剤様促進剤、例えばデオキシコール酸塩、ラウレス-9、DDPC、グリココール酸塩およびフシジン酸塩である。しかし、医薬タンパク質を酵素分解から保護するもの、例えばプロテアーゼおよびペプチダーゼ阻害剤、例えばアルファ−1抗プロテアーゼ、カプトロプリル、チオルファンおよびHIVプロテアーゼ阻害剤のようなある促進剤は、本発明のある態様において、本発明の組成物に含まれてもよい。
【0114】
一般に、本発明の医薬製剤は約1重量%〜約90重量%の賦形剤、または約5重量%〜80重量%の賦形剤、または約15〜60重量%の賦形剤を含む。いくつかの態様において、スプレー乾燥製剤は約0〜50重量%の賦形剤、または0〜40重量%の賦形剤を含む。一般的に、高濃度の医薬タンパク質が最終医薬製剤において望まれる。
【0115】
本開示多くは本発明に含み得る賦形剤に関するが、本発明はまた、ある要素の除外を明確に意図する。一般的に、化合物、要素、成分等の群またはリストの記載は、該グループまたはリストの除外の意図の表明であると理解し得る。とりわけ、本発明からポリマーを除外することは明示的に意図される。
【0116】
製剤
本明細書に記載の組成物は、(例えば本発明の粒子を含む)粉末形態であってよいか、あるいは流動性の液体であり得る。液体製剤は好ましくは、活性薬剤が溶媒(例えば水、エタノール、エタノール−水、食塩水)に溶解しており、コロイド状懸濁液はあまり好ましくない。液体製剤はまた、グラルギンインスリンの低沸点プロペラント溶液または懸濁液であり得る。
【0117】
ジロイシル含有ペプチド、例えば限定されないが、ジロイシンおよびトリロイシンを含む液体製剤はまた、極めて分散しやすく、高いED値を有する。
【0118】
本発明のいくつかの態様は、深部肺に送達することができる物理特性を有する粒子を含む。1つの態様において、本発明において使用するための粉末または液体製剤には、肺胞に浸透することができるように選択された粒子サイズを有するエアロゾルを含む。本発明の乾燥粉末は肺に浸透するのに有効なエアロゾル化可能な粒子からなる。本発明の粒子は一般的に、約30μm未満、または約20μm未満、または約10μm未満、または約7.5μm未満、または約4μm未満、または約3.3μm未満の質量中央径(MMD)、または体積幾何学的中央径(VMGD)、または質量エンベロープ中央径(MMED)、または質量幾何学的中央径(MMGD)を有し、そして通常0.1μm〜5μmの範囲の直径である。好ましい粉末は約1〜5μmのMMD、VMGD、MMED、またはMMGDを有する粒子から成る。いくつかの場合において、粉末はまた、非呼吸用担体粒子、例えばラクトースを含み、ここで該非呼吸用担体粒子は典型的には、約40ミクロン以上のサイズである。一般的に、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、および30μmのMMDを有する粒子は、これらの個々の値のいずれか未満の値であるか、これらの個々の値のいずれかからこれらの個々の値のいずれかの範囲、例えば1〜30μm、または7〜16μm、または11〜29μm等であると理解される。
【0119】
本発明の粉末はまた、約10、9、8、7、6もしくは5μm未満、または4.0μm未満、さらにより好ましくは3.3μm未満、および最も好ましくは、3μm未満のMMADを有するエアロゾル粒子サイズ分布 −空気動力学的質量中央粒子径(MMAD)− によって特徴付けられる。小さな空気動力学的径は最適なスプレー乾燥条件、ならびに賦形剤の選択および濃度によって得ることができる。一般的に、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19および20のMMADを有する粒子は、これらの個々の値のいずれか未満の値であるか、これらの個々の値のいずれかからこれらの個々の値のいずれかの範囲、例えば1〜20μm、または7〜16μm、または11〜19μm等であると理解される。
【0120】
本発明の粉末はまた、それらの密度によって特徴付けることができる。粉末は一般的に、約0.1〜10g/立方センチメートル、または約0.1〜2g/立方センチメートル、または約0.15〜1.5g/立方センチメートルのバルク密度を有する。本発明の1つの態様において、粉末は、約0.4g/立方センチメートル未満の密度および5〜30ミクロンのMMDを有する大きな綿毛状粒子を有する。直径、密度および空気動力学的径の関係を下記式によって決定することができることは注目に値する(Gonda, “Physico-chemical principles in aerosol delivery,” in Topics in Pharmaceutical Sciences 1991, Crommelin, D.J. and K.K. Midha, Eds., Medpharm Scientific Publishers, Stuttgart, pp. 95-117, 1992.)。
【0121】
乾燥粉末形態において医薬製剤は約10wt%未満、例えば約5wt%未満、または約3wt%未満の水分含有量を有し得る。かかる粉末はWO 95/24183、WO 96/32149、WO 99/16419およびWO 99/16422に記載されており、これら全てを出典明示によりそれらの全体について本明細書の一部とする。
【0122】
本発明の粒子は、組成物が粒子内で均一に分散しているような形態である場合もある。すなわち、グラルギンインスリン、ならびに沈殿剤、バッファー、分散性改善剤および/またはガラス安定化剤を含み得る組成物の他の要素が、粒子内で均一に分散している。
【0123】
本発明の他の態様において、粒子は、とりわけ粒子のセクションにおける製剤の特定の要素を富化する様な方法で形成する。例えば、粒子は一般的に、核をその中心に含み、その周辺部に表面を含むように記載される。粒子内の不均一性について、核から表面への変遷は段階的または突然、あるいはその任意の変形であってもよい。粒子は核が1個の要素を多く含んでおり、そして表面が他のものを多く含むように製造することができる。
【0124】
この不均一性は核および表面を異なる製造工程で、異なる工程中で異なる組成要素を用いて得ることができる。あるいは、不均一性は均一混合物に粒子の特定のセクションに親和性を有するか、または例えば乾燥フェーズ中に移動する成分を導入することによって得ることができる。かかる方法の例は、米国特許第6,518,239号に記載されており、その全開示を出典明示により本明細書の一部とする。
【0125】
本発明の1つの態様において、グラルギンインスリンおよび1種以上の賦形剤を含む液体組成物を形成させて、不均一粒子を形成させる。液体組成物はさらに少なくとも1種の、粒子の表面に移動する傾向がある表面賦形剤を含み得る。かかる表面賦形剤は米国特許第6,518,239号に記載のような「界面活性剤」であり得る。かかる剤の例には、限定されないが、少なくとも2個のロイシンを含むジおよびトリペプチドが含まれる。
【0126】
改善された分散性および取り扱い特性に通常関連する粒子の特徴は、しわ特性である。しわ特性は、非孔質球体粒子と推定したときの、特定領域(例えばBET、分子表面吸着または他の常套の技術で測定したとき)と、粒度分布(例えば、遠心沈降粒度分析機、Horiba Capa 700で測定したとき)および粒子密度(例えば、ピクノメトリー(pycnometry)で測定したとき)から計算した表面積の比である。しわ特性はまた、空気透過法(air permeametry)によって測定することができる。粒子が一般的に結節性の形状であると知られているとき、スプレー乾燥の場合、しわ特性は表面の畳み込みおよび折り畳みの程度の測定である。これによって、本発明によって製造した粉末をSEMで確認することができる。1のしわ特性は粒子表面が球体であり孔が無いことを意味する。1以上のしわ特性は粒子表面が均一ではなく、少なくともある程度屈曲していることを示しており、高い数値は高い非均一性の程度を示している。本発明の粉末について、粒子は少なくとも約2,例えば少なくとも約3、少なくとも約4、または少なくとも約5のしわ特性を有しており、そして2〜10、例えば4〜8、または4〜6の範囲であり得ることを見出した。
【0127】
乾燥操作は、上記のとおりしわ特性約2のような粒子特性を有する乾燥粒子を得るように制御することができる。約2のしわ特性は、物質の粘稠層が滴の外側に急速に形成されるように乾燥速度を制御することによって得ることができる。その後、乾燥速度は水分が物質の外層を通じて除去されて、外層の崩壊および畳み込みが生じて極めて不規則な外側表面が得られるように十分速やかであるべきである。しかし、乾燥は物質の外層が裂けるほど速くするべきでない。乾燥速度は、粒度分布、気流の吸気口温度、気流の外部温度、液滴の内部温度、および微粉化スプレーと熱乾燥ガスを混合する方法を含む様々な可変部分に基づいて制御され得る。
【0128】
窒素吸着によって測定した粉末表面積は典型的には、約6m2/g〜約13m2/g、例えば約7m2/g〜約10m2/gの範囲である。粒子はしばしば、滑らかな球体表面よりもむしろ、折りたたまれた「レーズン」構造を有する。
【0129】
組成物の製造
本発明の1個以上の態様の組成物は、当業者に既知かつ利用可能な様々な方法および技術によって製造することができる。
【0130】
乾燥粉末製剤を、例えばスプレー乾燥(または凍結乾燥もしくはスプレー凍結乾燥)によって製造することができる。製剤のスプレー乾燥を、例えば“Spray Drying Handbook”, 5th ed., K. Masters, John Wiley & Sons, Inc., NY, N.Y. (1991)、およびWO 97/41833に一般的に記載のとおりに行う(参照によりそれらの内容を本明細書の一部とする)。
【0131】
本発明のグラルギンインスリン組成物を水溶液からスプレー乾燥することができる。このアプローチを用いると、グラルギンインスリンが最初に、一般的に上記生理学的に許容されるバッファーまたは他の賦形剤を含む水に溶解する。活性剤含有溶液のpH範囲は一般的に、4〜6である。水性製剤は所望により、さらなる水混和性溶媒、例えばアセトン、アルコール等を含んでいてもよい。代表的なアルコールは低級アルコール、例えばメタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール等である。スプレー乾燥前の溶液は一般に、0.01%(重量/体積)〜約20%(重量/体積)、通常0.1%〜3%(重量/体積)の濃度で溶解している固体を含む。分散性改善剤、ガラス安定化剤および/または沈殿剤が溶液に含まれ得る。
【0132】
溶液をスプレー乾燥機、例えば商業的サプライヤーから入手可能なもの、例えばNiro A/S (Denmark)、Buchi (Switzerland)等でスプレー乾燥して、分散性乾燥粉末を得る。溶液をスプレー乾燥するための最適な条件は製剤の成分に基づいて変化し、そして一般的に実験的に決定される。物質をスプレー乾燥するために用いるガスは典型的には空気であるが、窒素またはアルゴンのような不活性ガスも好適である。さらに、スプレー物質を乾燥するために用いるガスの吸気および排出温度はスプレー物質中の活性剤の分解が起こらないものである。かかる温度は典型的には実験的に決定されるが、一般的に、吸気温度は約50℃〜約200℃、排出温度は約30℃〜約150℃の範囲である。
【0133】
上記の変更を行うことができる。1つのかかるプロセスは米国特許第5,985,248号(Nektar Therapeuticsに譲渡された、出典明示によりその全体について本明細書の一部とする)に記載されている。この方法において、疎水性薬剤を有機溶媒または共溶媒系に溶解させ、疎水性成分(例えばロイシル含有ペプチドおよび所望により他の賦形剤)を少なくとも部分的に同じ有機溶媒または共溶媒系に溶解させる。得られた溶液をスプレー乾燥させて粒子を形成させる。典型的には、活性剤および疎水性成分の溶解度は有機溶媒系の選択によって決定される。有機溶媒を、疎水性成分の溶解度が少なくとも1mg/ml、好ましくは少なくとも5mg/ml、および疎水性薬剤の溶解度が少なくとも0.01mg/ml、好ましくは少なくとも0.05mg/mlとなるように選択する。
【0134】
あるいは、米国特許第5,976,574号(Nektar Therapeuticsに譲渡、出典明示によりその全体について本明細書の一部とする)に記載のとおり、懸濁液をスプレー乾燥させることによって組成物を製造することができる。この方法において、疎水性薬剤を有機溶媒、例えばメタノール、エタノール、イソプロパノール、アセトン、ヘプタン、ヘキサン、クロロホルム、エーテルに溶解させ、次に有機溶媒に親水性賦形剤を懸濁して懸濁液を形成させる。該懸濁液をスプレー乾燥させて、粒子を形成させる。上記スプレー乾燥方法の両方に好ましい溶媒は、アルコール、エーテル、ケトン、炭化水素、極性非プロトン性溶媒およびそれらの混合物を含む。
【0135】
本発明の乾燥粉末はまた、米国特許第6,001,336号(Nektar Therapeuticsに譲渡、出典明示によりその全体について本明細書の一部とする)に記載のとおり、製剤成分の水溶液または懸濁液を混合し、そしてそれらをスプレー乾燥機中で同時にスプレー乾燥することによって製造することができる。あるいは、WO 98/29096(出典明示によりその全体について本明細書の一部とする)に記載のとおり、親水性賦形剤または添加剤の水溶液を製造し、疎水性薬剤の有機溶液を製造し、そして該水溶液と該有機溶液を同時に、ノズル、例えば同軸ノズル(coaxial nozzle)を通して乾燥させて、乾燥粉末を形成させることによって、乾燥粉末を製造することができる。
【0136】
あるいは、粉末を凍結乾燥、真空乾燥、スプレー凍結乾燥、超臨界流体処理、空気乾燥または他の形態の蒸発乾燥によって製造することができる。いくつかの例において、米国特許第5,654,007号(出典明示によりその全体について本明細書の一部とする)に記載のとおり、乾燥粉末製剤を改善された取り扱い/処理特性、例えば低減された静電気、より良い流動性、低い粘結性等を有する形態で、良好な粒子凝集物から成る組成物、すなわち上記乾燥粉末粒子の凝集体または塊(ここで、該凝集体は肺送達のために容易に崩壊して微粉体成分に戻る)を製造することによって入手することが望ましい。
【0137】
他のアプローチにおいて、WO 95/09616(出典明示によりその全体について本明細書の一部とする)に記載のとおり、粉末成分を凝集し、該物質を篩過して凝集体を得て、これを球形化して、均一に篩にかけられた生成物を得ることによって、乾燥粉末を製造することができる。
【0138】
乾燥粉末はまた、乾燥粉末形態で製剤成分を混合、摩砕、篩過またはジェットミルすることによって、製造することができる。
【0139】
形成されると、乾燥粉末組成物は好ましくは、製造、処理および貯蔵中、乾燥(すなわち比較的低湿度)条件下で維持される。使用する乾燥プロセスとは無関係に、該プロセスによってグラルギンインスリン、沈殿剤および任意の他の所望の賦形剤を含む呼吸用、高度分散性粒子が得られる。
【0140】
パッケージングおよび容器
単位用量医薬組成物は容器中に含まれる。容器の例には、限定されないが、金属、ポリマー(例えばプラスチック、エラストマー)、ガラス等から製造したカプセル、ブリスター、バイアル、アンプルまたは容器密封システムが含まれる。
【0141】
容器をエアロゾル化デバイスに挿入することができる。容器は医薬組成物を含み、使用可能な条件で医薬組成物を提供するために好適な形状、サイズおよび材料のものであってよい。例えば、カプセルまたはブリスターは医薬組成物と有害な反応を起こさない材料を含む障壁を含んでいてよい。さらに、該障壁はカプセルが開くと医薬組成物がエアロゾル化する物質を含んでいてもよい。1つの態様において、障壁はゼラチン、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ポリエチレングリコール含有HPMC、ヒドロキシプロピルセルロース、寒天、アルミニウム箔等の1種以上を含む。1つの態様において、カプセルは例えば米国特許第4,247,066号(出典明示によりその全体について本明細書の一部とする)に記載のとおり、伸縮可能に接合した部分を含んでいてもよい。カプセルのサイズは、医薬組成物の用量を適切に含むように選択することができる。サイズは一般的にそれぞれ、サイズ5〜サイズ000、外径約4.91mm〜9.97mm、高さ約11.10mm〜約26.14mm、容積約0.13mL〜約1.37mLの範囲である。好適なカプセルは例えば、Shionogi Qualicaps Co. (Nara, Japan)およびCapsugcl (Greenwood, South Carolina)から商業的に入手可能である。米国特許第4,846,876号および第6,357,490号、ならびにWO 00/07572(出典明示によりそれらの全体について本明細書の一部とする)に記載のとおり、充填後、頂部を底部に位置させてカプセル形状を形成させ、そして該カプセル中に粉末を含めることができる。頂部を底部にかぶせた後、該カプセルを所望により固結させることができる。
【0142】
組成物の投与
本発明の1種以上の態様の組成物を、当業者に既知であり入手可能な様々な方法および技術のいずれかによって投与することができる。
【0143】
例えば1つ以上の態様において、本明細書に記載の組成物はあらゆる好適な乾燥粉末吸入器(DPI)、すなわち患者の吸気をビークルとして利用して乾燥粉末薬剤を肺に送達するための吸入デバイスを用いて送達することができる。米国特許第5,458,135号;第5,740,794号;および第5,785,049号(これらの開示を全体について出典明示により本明細書の一部とする)に記載のNektar Therapeuticsの乾燥粉末吸入デバイスが好ましい。
【0144】
このタイプのデバイスを用いて投与するとき、粉末は穿孔可能なフタまたは他のアクセス表面を有する容器、好ましくはブリスターパッケージまたはカートリッジ中に含まれ、ここで該容器は1回投与単位または複数用量単位を含んでいてもよい。多数の空隙(すなわち、単位用量パッケージ)に一定用量の乾燥粉末医薬を充填するための常套の方法は、例えばWO 97/41031 (1997)(出典明示により、その全体について本明細書の一部とする)に記載されている。
【0145】
また本明細書に記載の粉末を送達するのに好適なものは、例えば米国特許第3,906,950号および第4,013,075号(出典明示により、それらの全体について本明細書の一部とする)に記載のタイプの乾燥粉末吸入器であり、これは予め測定した要領を対象に送達するため乾燥粉末を硬ゼラチンカプセル中に含む。
【0146】
乾燥粉末を肺投与するための他の乾燥粉末分散デバイスには、例えばEP 129985;EP 472598;EP 467172;および米国特許第5,522,385号(出典明示により、それらの全体について本明細書の一部とする)に記載のものが含まれる。また、本発明の乾燥粉末を送達するのに好適なものは、Astra-Draco “TURBUHALER”のような吸入デバイスである。このタイプのデバイスは米国特許第4,668,281号;第4,667,668号;および第4,805,811号(出典明示により、それら全ての全体について本明細書の一部とする)に詳細に記載されている。他の好適なデバイスには、ROTAHALER(TM) (Glaxo)、Discus(TM) (Glaxo)、Spiros(TM) 吸入器 (Dura Pharmaceuticals)、およびSpinhaler(TM) (Fisons)のような乾燥粉末吸入器が含まれる。例えば米国特許第5,388,572号(出典明示により、その全体について本明細書の一部とする)に記載のとおり、粉末医薬を搬送するか、支持篩から、該支持篩を通じて空気を通過させて医薬を浮上させるか、または混合チェンバー内で粉末医薬と空気を混合した後デバイスのマウスピースを通じて患者に粉末を導入するための、空気を提供するためにピストンを使用するデバイスも好適である。
【0147】
乾燥粉末はまた、米国特許第5,320,094号および第5,672,581号(出典明示により、それらの全体について本明細書の一部とする)に記載のとおり、薬剤の薬学的に不活性なプロペラント、例えば例えばクロロフルオロカーボンまたはフルオロカーボンの溶液または懸濁液を含む、加圧定量吸入器(MDI)、Ventolin(TM)定量吸入器を用いて送達することができる。
【0148】
使用前に乾燥粉末を一般的に、周囲条件下で貯蔵し、そして好ましくは約25℃以下、相対湿度(RH)約30〜60%で貯蔵する。より好ましい相対湿度条件、例えば約30%未満を、投与形態の2次的パッケージに乾燥剤を導入することによって達成することができる。
【0149】
投与時間は典型的には短い。1個のカプセルまたはブリスター(例えば5mg用量)について、合計用量時間は通常約1分未満である。2個のカプセルまたはブリスター用量(例えば10mg)は通常約1分を要する。5個のカプセルまたはブリスター用量(例えば25mg)は、投与に約3.5分を要する。したがって投与の時間は約5分未満、例えば約4分未満、約3分未満、約2分未満、または約1分未満であり得る。
【0150】
あるいは、本明細書に記載の組成物を噴霧化によって投与することができる。例えば、乾燥粉末を溶媒、例えば水、エタノールまたは食塩水に溶解または懸濁することができる。エアロゾル化溶液を送達するための噴霧器は、AERx(TM) (Aradigm)、Ultravent(TM) (Mallinkrodt)、およびAcorn II(TM) (Marquest Medical Products)を含む。
【0151】
液体製剤をあらゆる種類の方法で噴霧化することができる。例えば、液体を2液ノズル、加圧ノズル、または回転ディスクを通じてスプレーすることができ、あるいは超音波ネブライザーまたは振動オリフィスエアロゾルジェネレーター(VOAG)で微粉化することができる。1つ以上の態様において、液体製剤を加圧ノズル、例えばBD AccuSprayノズルで微粉化する。したがって、エアロゾル化装置は濃縮エアロゾル化、衝突噴流技術、電気スプレー技術、熱蒸発またはPeltierデバイスに基づき得る。
【0152】
ジェットネブライザーは液体溶液を破砕してエアロゾル滴とする空気圧を用いることを含む。1つ以上の態様において、ジェットネブライザー(例えば、Aerojet, AeroEclipse, Pari L. C, the Parijet, Whisper Jet, Microneb(R), Sidestream(R), Acom 11(R), Cirrus および Upmist(R))は、空気ポンプから管によって供給される高速空気流で液体流を破砕することによってミストとして液滴を形成する。この方法で製造された液滴は、典型的には直径約2〜5μmを有する。
【0153】
1つ以上の態様において、圧電変換器を用いて電流を機械的振動に変換する超音波ネブライザーを用いてエアロゾル滴を製造する。超音波ネブライザーの例には、限定されないが、Siemens 345 UltraSonic Nebulizer(TM)、ならびに例えばOmron Heathcare, Inc. およびDeVilbiss Health Care, Inc.から商業的に入手可能なものが含まれる。例えばEP 1 066 850(出典明示によりその全体について本明細書の一部とする)参照。得られる滴は典型的には、MMAD約1〜約5ミクロンを有する。
【0154】
振動多孔質プレートネブライザーは、多孔質プレートを通じて溶媒滴を押し出すための素早く振動多孔質プレートによって作成される超音波真空を用いることによって作動する。例えば、米国特許第5,758,637号;第5,938,1 17号;第6,014,970号;第6,085,740号;および第6,205,999号(出典明示により、それらの全体について本明細書の一部とする)参照。
【0155】
例えば、1つ以上の態様において、エアロゾル生成装置は、振動要素およびテーパー状孔を有するドーム形状の開口プレートを含む、商業的に入手可能なAerogen(Nektar Therapeutics, San Carlos, CAから入手可能)エアロゾル生成装置である。プレートが数千回/秒、例えば約100k/s〜150k/Sで振動するとき、マイクロポンピング作用が生じて液体がテーパー状孔に吸引され、正確に定義された範囲の滴サイズを有する低速度エアロゾルを生じる。Aerogenエアロゾル生成装置はプロペラントを必要としない。
【0156】
Aerogen AeronebおよびPari eFlow(Pan Respiratory Equipment, Germany)において、圧電発振器は振動メッシュの周辺に配置されており、そして振動は膜を通じてネブライザー内部の液滴を正確なサイズにシェイクして、呼吸用医薬のミストを反対側で形成する。他の振動メッシュネブライザー、Omron Micro-air(Omron、Japan)において、圧電発振器は周辺ではなく振動メッシュに隣接して位置し、膜の孔を通じてネブライザー内部の液滴をシェイクするよりもむしろ押し出して同じ結果を生じる。
【0157】
凝縮エアロゾル生成装置において、エアロゾルは医薬製剤を小さい、電気的に加熱したキャピラリーを通じてポンピングすることによって形成させる。キャピラリーから抜け出るとき、製剤は環境空気によって急速に冷却されて、そして周囲条件および使用者の吸引速度に比較的無関係である緩やかなエアロゾルを形成する。例えば、米国特許第6,701,922号およびWO 03/059413(出典明示により、それらの全体について本明細書の一部とする)参照。1つ以上の態様において、凝縮エアロゾル生成装置はAlexza Molecular Delivery Corporationによって開示のものを含む。例えば、米国公開特許公報第2004/0096402号(出典明示によりその全体について本明細書の一部とする)参照。
【0158】
一定量の液体医薬組成物の吸入による送達のための他の装置は、例えばWO 91/14468およびWO 97/12687(出典明示により、それらの全体について本明細書の一部とする)に記載されている。本明細書に記載のネブライザーは、Respimat(R)の名で知られている。
【0159】
1つ以上の電子スプレーを用いて液体製剤を噴霧化することができる。電子スプレー(電気流体力学スプレーまたはエレクトロスプレーとしても知られている)なる用語は、液体の分散がその電荷に依存しており、噴霧化およびガス流動プロセスが比較的分離しているシステムを意味する。電子スプレーデバイスの例は、米国特許第6,302,331号;第6,583,408号;および第6,803,565号(出典明示により、それらの全体について本明細書の一部とする)に記載されている。
【0160】
1つ以上の態様において、エアロゾル生成装置は熱蒸発デバイスを含む。かかるデバイスはインクジェット技術に基づいていてもよい。
【0161】
1つ以上の態様において、エアロゾル生成装置はPeltierデバイスを含む。かかるデバイスの例は、米国公開特許公報第2004/0262513号(出典明示によりその全体について本明細書の一部とする)に記載されている。
【0162】
1つ以上の態様において、エアロゾル生成装置は振動オリフィス単分散エアロゾル生成装置(VOAG)を含む。このデバイスは単分散エアロゾル生成装置の1つのタイプの例である。
【0163】
1つ以上の態様において、エアロゾル生成装置はキャピラリー力および相転移に基づく薄膜、高表面積ボイラーを含む。キャピラリー環境で相転移を誘導するため、圧力を拡張ガスに加えてこれを押し出す。この技術はVapore、Inc.によって開示され、Vapore-Jet CFV技術として知られている。例えば米国特許第5,692,095号;第5,870,525号;第6,162,046号;第6,347,936号;第6,585,509号;および第6,634,864号、ならびに米国公開特許公報10/691,067号(これらを全て、出典明示によりそれらの全体について本明細書の一部とする)参照。
【0164】
活性剤を同時に、好ましい順序で、および/または肺のある領域を標的とするあるサイズのエアロゾル中の1種の薬剤を提供しながら他の領域を標的とする他のサイズ中の他のものを提供することによって送達することができる。したがって、エアロゾルサイズの目的のある変化は、微小エアロゾル中でより深部に浸透させるために送気しながら、ある領域を処置するための気管内管のより近くに送達するためのある種のエアロゾルを形成し得る。
【0165】
有用性
本発明の組成物は、製剤中の薬理学的に活性な化合物の投与に応答性であるあらゆる状態の処置または予防のために、哺乳類対象に治療上有効量で肺送達するとき、有用である。例えば、薬理学的に活性な化合物がグラルギンインスリンであるとき、処置する状態は糖尿病であり得る。したがって例えば、本発明は糖尿病の処置における使用を見出す。
【0166】
下記実施例は本発明の説明であり、そして本発明の範囲を限定するものとして構成されることはない。この例示の変形および均等物は本開示、図面および特許請求の範囲の観点において当業者に理解される。そうでないと断らない限り、全ての百分率は全組成物の重量による。
【実施例】
【0167】
実施例
実施例1: Sprague-Dawleyラットへの気管内注入投与によるインスリングラルギンの用量範囲の発見
この実施例はラットに気管内注入により投与したとき、目標血糖減少を達成するのに必要なインスリングラルギンの用量を評価する。
【0168】
材料および方法
LANTUS(R)インスリングラルギン(Aventis Pharmaceuticals, Inc., Kansas City, MO [lot # 4OD 058])は通常のインスリンよりも長期間活性を有する(ヒトにおいて24時間まで)組換えヒトインスリンアナログであり;これはA21位でアミノ酸アスパラギンがグリシンに置換されており、2個のアルギニンがB鎖のC末端に付加されている点でヒトインスリンとは異なる(分子量6063Dalton)。インスリングラルギンを気管内投与のために再製剤した。
【0169】
簡潔には、80〜960μg/動物の5種の用量を並行して比較した。グループ1〜5に選択した用量のグラルギンインスリン製剤を同日に投与した。化合物投与後に底血糖濃度約40〜60mg/dLを達成する用量を評価した。
【0170】
該試験系には、予めカニューレ挿入した(内頸静脈カテーテル[JVC])成体オス絶食(−17時間)Sprague-Dawleyラット(Hilltop Lab Animals, Inc., Scottdale, PA)10匹を含めた。体重0.313〜0.367kgの動物10匹を用いた。投与前に、イソフルラン(Abbott Laboratories, Chicago, IL)吸入によってラットを軽く麻酔した。各動物に目的用量のグラルギンインスリン製剤を、IT注入によって肺に投与した。静脈血サンプル約0.4mLをJVCから、下記時点で採取した:投与前(投与の〜1時間前)、投与後20分、60分、120分、180分、240分、480分および720分。各時点の全血グルコース濃度(mg/dL)を、Glucometer Eliteグルコースモニター(Bayer Corp., Elkart, IN)を用いて2回読み込んだ。血液サンプルの残部を血漿に処理し、後の試験(データは示さず)のために−80℃で保存した。Microsoft Office Excel 2003を用いて薬力学的解析を行った。
【0171】
表1は試験デザインを示す。
【表1】

【0172】
結果
表2は個体の体重および平均体重を示す。表3は個体の血糖濃度および平均血糖濃度を示す。
【表2】

【表3】

【表4】

【表5】

【表6】

【表7】

a グルコメーター測定範囲未満のとき、19mg/dLと入力した。
低血糖のため、動物3-2を投与後413分で安楽死させた
低血糖のため、動物4-1を投与後615分で安楽死させた
低血糖のため、動物4-2を投与後244分で安楽死させた
低血糖のため、動物5-1を投与後224分で安楽死させた
低血糖のため、動物5-2を投与後220分で安楽死させた
【0173】
表4は、インスリングラルギンをオスラットに気管内注入により投与した後、用量範囲試験について選択された個体の薬力学的パラメーターおよび平均薬力学的パラメーターを要約する。
【表8】

グルコメーター測定範囲未満のとき、平均およびSDの計算のため19mg/dLと入力した;Cmin=最低血糖濃度;Tmin=Cminの時間;SD=標準偏差
【0174】
図1〜5は、Sprague-Dawleyラット(n=2)にインスリングラルギン80〜960μgを気管内注入した後の個体の血糖濃度を示す。エラーバーは標準偏差である。図6はインスリングラルギン80〜960μgを気管内注入した後の平均血糖濃度を示すグラフである。エラーバーは標準偏差である。
【0175】
結論
この用量範囲探索試験において、80〜320μg/動物が目標血糖抑制を達成し、ときにそれを超えるのに十分な用量であると考えられる(図6)。640および960μg/動物では一貫して低血糖が生じた(20mg/dLの血糖濃度)。80〜320μg IT用量によって下記平均最低血糖レベルおよび時間が得られた:
【表9】

Cmin=最低血糖濃度;Tmin=Cminの時間
【0176】
平均血糖濃度は80および160μg投与後、それぞれ240および480分後にベースラインに戻った(図6)。動物1の320μg用量(グループ3)の血糖値は、240分後にベースラインに戻り、投与後720分まで再び低下した;この変動の原因は未知である。動物2の320μg用量(グループ3)、および全動物の640および960μg用量(グループ4および5)を低血糖のため安楽死させた。
【0177】
長期活性のための最適IT用量は160〜320μg/動物であると考えられる。完全な試験のために十分な用量は160〜240μg/動物である。
【0178】
実施例2: 気管内注入投与後のインスリングラルギンの薬物動態/薬力学的評価
この実施例は、ラットに気管内注入投与したときのインスリングラルギンの薬物動態/薬力学(PK/PD)を示す。
【0179】
材料および方法
LANTUS(R)インスリングラルギン(Aventis Pharmaceuticals, Inc., Kansas City, MO [lot # 4OD 058])は通常のインスリンよりも長期間活性を有する(ヒトにおいて24時間まで)組換えヒトインスリンアナログであり;これはA21位でアミノ酸アスパラギンがグリシンに置換されており、2個のアルギニンがB鎖のC末端に付加されている点でヒトインスリンとは異なる(分子量6063Dalton)。インスリングラルギンを中性pHで低水溶性を有するように設計した。pH4で、LANTUS(R)注射液と同様に、これは完全に溶解する。注射の皮下部位の中性pH環境において、少量のインスリングラルギンがゆっくりと放出されて延長された活性プロファイルをもたらすマイクロ沈殿物が形成される。
【0180】
このPK/PD試験は気管内(IT)注入により投与したときのインスリングラルギンのグルコース抑制活性および血中濃度動力学を評価したため、酸性溶液を肺に注入しなかった(これは傷害を誘導し、したがってPK/PDプロファイルを変化させ得るため)。代わりに、希釈し、pHを約7.0に調節してインスリングラルギン用量懸濁液(酸性溶液を用いる)を製造することによって、インスリングラルギンをIT投与のために再製剤した。
【0181】
該試験系には、予めカニューレ挿入した(内頸静脈カテーテル[JVC])成体オス絶食(−17.5時間)Sprague-Dawleyラット(Hilltop Lab Animals, Inc., Scottdale, PA)6匹を含めた。動物は体重0.336〜0.362kgであった。投与前に、イソフルラン(Abbott Laboratories, Chicago, IL)吸入によってラットを軽く麻酔した。各動物に目的用量のグラルギンインスリン製剤を、IT注入によって肺に投与した。静脈血サンプル約0.4mLをJVCから、下記時点で採取した:投与前(投与の〜0.33時間前)、投与後0.33時間、1時間、2時間、3時間、4時間、6時間、8時間、10時間および12時間。各時点の全血グルコース濃度(mg/dL)を、Glucometer Eliteグルコースモニター(Bayer Corp., Elkart, IN)を用いて2回読み込んだ。血液サンプルの残部を血漿に処理し、後の試験(データは示さず)のために−80℃で保存した。Microsoft Office Excel 2003を用いて薬力学的解析を行った。
【0182】
表5は試験デザインを要約する。
【表10】

【0183】
結果
表6は個体の体重および平均体重を示し、表7は個体の血糖濃度および平均血糖濃度を示す。
【表11】

【表12】

【表13】

【表14】

【0184】
表8は、オスラットに再製剤したインスリングラルギンの気管内注入投与後のPK/PD試験についての個体の薬力学的パラメーターおよび平均薬力学的パラメーターを要約する。
【表15】

Cmin=最低血糖濃度;Tmin=Cminの時間;SD=標準偏差
【0185】
図7は、Sprague-Dawleyラット(n=6)に再製剤インスリングラルギン160μgを気管内注入した後の個体の血糖濃度を示すグラフである。図8は、Sprague-Dawleyラット(n=6)に再製剤インスリングラルギン160μgを気管内注入した後の平均血糖濃度を示すグラフである。
【0186】
結論
上記実施例1から決定したこの完全PK/PD試験のために選択された用量160μgでは、投与後2.3±0.4時間で48±16mg/dLの平均最低血糖値がもたらされた(表8)。図8に示すように、平均血糖濃度は目標値40〜60mg/dLで、約1時間で作用が開始され、投与後4時間まで抑制した。
【0187】
実施例3: 20%および90%グラルギンインスリン製剤の製造
表9に列記する下記成分を有するグラルギンインスリン製剤を製造した。
【表16】

【0188】
表9は20%および90%インスリン製剤の固体成分を示す。簡潔には、上に列記した成分を有する溶液を、溶液の固体濃度1%で製造した。溶液は下記のとおり原液を混合して形成した:
【0189】
【表17】

インスリングラルギンをLANTUSから精製した。20%インスリングラルギン製剤のために、インスリングラルギンを第1に、LANTUSからPDlO脱塩カラムを用いて精製し、次にAmicon Ultra- 15 遠心濾過デバイスで分子量カットオフ5000で濃縮した。最後に、濃グラルギン溶液を0.05mMクエン酸バッファー(pH4)を用いて3.48mg/mlに希釈した。
【0190】
【表18】

20%製剤と同様に、インスリングラルギンをLANTUSから精製した。インスリングラルギンを脱塩し、そしてAmicon Ultra- 15 遠心濾過デバイスで分子量カットオフ5000で濃縮した(PD 10脱塩カラムを用いない)。グラルギンの最終濃度は24.88mg/mlであった。
【0191】
両製剤をBuchi Mini Spray Dryer B-191を用いてスプレー乾燥させた。両製剤について、供給溶液の固体含量は10mg/mlであり、そして溶液供給速度は4ml/分であった。20%製剤について、吸気および排出温度はそれぞれ85℃および55℃であった。90%製剤について、吸気および排出温度はそれぞれ90℃および60℃であった。粉末収率は20%製剤について60.9%、90%製剤について50.6%であった。
【0192】
実施例4: 20%および90%グラルギンインスリン製剤の化学的安定性試験
20%グラルギンインスリン製剤の4ヶ月および6.5ヶ月保存の、そして90%グラルギンインスリン製剤の2ヶ月保存の化学的安定性を試験した。
【0193】
簡潔には、製剤した乾燥粉末をブリスターに充填し、周囲乾燥箱内で保存した。試験時点で、製剤を1.0mg/mlの濃度で水に溶解した。逆相HPLCを用いてインスリングラルギンの分解を分析した。インスリングラルギン含量およびHMWP(高分子量タンパク質)含量をモニターした。LANTUS(TM)を対照として用いた。図9はサンプルおよび対照の典型的なクロマトグラフを示す。
【0194】
表10は安定性試験の結果を要約する。4ヶ月貯蔵後、ブリスター中20%製剤はメインピークの分解およびHMWPの出現を示した。しかし、さらに2.5ヶ月保存後、さらなるメインピーク分解はほとんど存在しなかった。20%製剤はまた、6.5ヶ月保存後に視認可能な凝結を示し、これは賦形剤の固体状態安定性を示唆する。スプレー乾燥したバルク粉末は最小のメインピーク分解および極めて少量のHMWPを示した。ブリスター中90%製剤は2ヶ月保存後にいくらかのメインピーク分解を示したが、20%製剤よりもより安定であった。
【表19】

【0195】
実施例5: 20%および90%グラルギンインスリン製剤のエアロゾルパフォーマンス
エアロゾルパフォーマンスを米国特許第6,257,233号(出典明示によりその全体について本明細書の一部とする)に記載のとおり、Andersen Cascade Impactorと接続して下記表11に示す条件下でPulmonary Delivery System (PDS)を用いて測定した。表11は4時間保存後の20%製剤のエアロゾル試験結果、および1.5ヶ月保存後の90%製剤の結果も示す。両製剤とも良好なエアロゾルパフォーマンスを有することが示されている。
【表20】

【0196】
実施例6: 20%および90%グラルギンインスリン製剤の粒子形態
図10〜13はインスリングラルギン製剤のSEM(走査電子顕微鏡)結果である。20%製剤は90%製剤よりもしわが寄っている。両製剤とも表11に示すように、PDSデバイスで高い分散性である。
【0197】
実施例7: 20%および90%グラルギンインスリン製剤の揮発成分含量
TGA(熱重量分析)を用いてインスリングラルギン製剤中の揮発成分含量を測定した。温度を100℃まで変化させたとき、揮発成分含量は20%製剤について1.782%、90%製剤について6.275%であった。図14および15は結果を示す。
【0198】
実施例8: 20%および90%グラルギンインスリン製剤の溶解性
インスリングラルギン製剤を水中で再構成し、元のグラルギン濃度として下記表12に記載のとおり様々な濃度とした。リン酸バッファー(200mM、pH7.4)を該溶液に加えて、最終リン酸濃度20mMとした。インスリングラルギンが中和溶液中で沈殿した。上清のインスリングラルギン濃度を逆相HPLCで分析した。結果を表12ならびに図16および図17にに示す。
【表21】

【0199】
該トレンドは元のインスリングラルギンの濃度が高くなると、中性バッファー中で再構成したとき形成される沈殿の溶解度が低くなることを示した。
【0200】
本発明はあるバージョンに関してかなり詳細に記載しているが、他のバージョンが可能であり、そして示されたバージョンの変形、置換および均等物は本明細書の読解および図面の研究によって、当業者に明らかとなる。また、本発明のバージョンの様々な特徴を様々な方法で組み合わせて、本発明のさらなるバージョンを得ることができる。さらにまた、ある用語が説明的記述の目的で使用されているとき、これは発明を限定しない。したがって、ここに記載した如何なる請求項も、本明細書に含まれる好ましいバージョンの記載によって限定されてはならず、本発明の真の精神および範囲に含まれる全ての変形、置換および均等物が含まれるべきである。
【0201】
本明細書において本発明を十分に記述したが、本発明の方法を本発明の範囲またはそのいずれかの態様から解離することなく広い均等な範囲の条件、組成および他のパラメーターで実施することができることが当業者に理解される。
【0202】
本明細書に記載の全ての特許および文献は、それらの全体について、参照により完全に本明細書の一部とする。あらゆる文献の言及は出願日前のその開示のためであり、かかる文献が先行技術であること、または本発明が先願のためかかる公報に先行する権利を有さないことの自白として構成されるべきでない。さらにまた、Stelios Tzannis による表題“SUSTAINED RELEASE FORMULATIONS FOR Pulmonary DELIVERY”の同日付米国特許出願を、その全体について参照により完全に本明細書の一部とすることを指摘する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
等電点(pI)約6.0〜8.0を有するインスリン誘導体;および
少なくとも1種の薬学的に許容される賦形剤;
を含んで成るエアロゾル化可能製剤:
ここで当該少なくとも1種の薬学的に許容される賦形剤は沈殿剤を含む。
【請求項2】
インスリン誘導体がグラルギンインスリンである、請求項1のエアロゾル化可能製剤。
【請求項3】
沈殿剤とインスリン誘導体がモル比(沈殿剤:インスリン誘導体)約1:3〜約5:1を有する、請求項1のエアロゾル化可能製剤。
【請求項4】
沈殿剤とインスリン誘導体がモル比(沈殿剤:インスリン誘導体)約5:3を有する、請求項3のエアロゾル化可能製剤。
【請求項5】
沈殿剤がカチオンを含む、請求項1のエアロゾル化可能製剤。
【請求項6】
カチオンが2価カチオンを含む、請求項5のエアロゾル化可能製剤。
【請求項7】
2価カチオンが亜鉛、銅、コバルト、鉄、マグネシウム、バナジウム、カドミウム、マグネシウム、カルシウムおよびバリウムの少なくとも1種である、請求項6のエアロゾル化可能製剤。
【請求項8】
薬学的に許容される賦形剤が乾燥製剤改善賦形剤である、請求項1のエアロゾル化可能製剤。
【請求項9】
乾燥製剤改善賦形剤がロイシン、ジロイシンおよびトリロイシンから選択される、請求項8のエアロゾル化可能製剤。
【請求項10】
薬学的に許容される賦形剤がガラス転移安定化賦形剤である、請求項1のエアロゾル化可能製剤。
【請求項11】
ガラス転移安定化賦形剤が単糖類、二糖類、多糖類およびアルジトールから選択される、請求項10のエアロゾル化可能製剤。
【請求項12】
沈殿剤が緩衝化剤を含む、請求項1のエアロゾル化可能製剤。
【請求項13】
インスリン誘導体が約20重量%〜約99重量%の量で存在する、請求項1のエアロゾル化可能製剤。
【請求項14】
pIが約6.5〜約7.5である、請求項1のエアロゾル化可能製剤。
【請求項15】
インスリンおよび異なる等電点を有するさらなるインスリン誘導体から選択されるメンバーをさらに含む、請求項1のエアロゾル化可能製剤。
【請求項16】
製剤が質量中央径(MMD)30μm未満を有する粒子を含む乾燥粉末製剤を含んで成る、請求項1のエアロゾル化可能製剤。
【請求項17】
乾燥粉末製剤がMMD15μm未満を有する粒子を含む、請求項16のエアロゾル化可能製剤。
【請求項18】
乾燥粉末製剤がMMD10μm未満を有する粒子を含む、請求項17のエアロゾル化可能製剤。
【請求項19】
乾燥粉末製剤がMMD5μm未満を有する粒子を含む、請求項18のエアロゾル化可能製剤。
【請求項20】
乾燥粉末が空気動力学的質量中央粒子径(MMAD)10μm未満を有する粒子を含む、請求項16のエアロゾル化可能製剤。
【請求項21】
乾燥粉末製剤がMMAD5μm未満を有する粒子を含む、請求項20のエアロゾル化可能製剤。
【請求項22】
乾燥粉末製剤がMMAD3μm未満を有する粒子を含む、請求項21のエアロゾル化可能製剤。
【請求項23】
乾燥粉末製剤が粉体表面積約6m/g〜約13m/gを有する粒子を含んで成る、請求項16のエアロゾル化可能製剤。
【請求項24】
粉体表面積約7m/g〜約10m/gである、請求項23のエアロゾル化可能製剤。
【請求項25】
エアロゾル製剤の製造方法であって:
等電点(pI)約6〜約8を有するインスリン誘導体、および薬学的に許容される賦形剤を含んで成る溶液を製造し;そして
薬学的に許容されるバッファーを加えて溶液のpHを約3〜約6とする
ことを含む方法。
【請求項26】
溶液のpHが約3.5〜4.5の範囲である、請求項25の方法。
【請求項27】
溶液をスプレー乾燥させて乾燥粉末製剤を形成させることをさらに含む、請求項25のエアロゾル化可能製剤。
【請求項28】
哺乳類の血糖値を減少させる方法であって:
等電点(pI)約6〜約8を有するインスリン誘導体の粒子、および薬学的に許容される賦形剤を含んで成る医薬製剤を哺乳類に肺投与することを含み、該投与によって少なくとも約6時間血糖値が減少する、方法。
【請求項29】
投与によって少なくとも約7時間血糖値が減少する、請求項28の方法。
【請求項30】
投与によって少なくとも約8時間血糖値が減少する、請求項29の方法。
【請求項31】
投与されたインスリン誘導体の少なくとも約75%が投与の2時間後に肺に存在する、請求項28の方法。
【請求項32】
哺乳類の血糖値を減少させる方法であって:
等電点(pI)約6〜約8を有するインスリン誘導体の溶液、および少なくとも1種の沈殿剤を含んで成る吸入用医薬製剤を哺乳類に肺投与することを含み、肺組織との接触によってインスリン誘導体の少なくとも一部が沈殿し、インスリン誘導体の少なくとも一部が吸収されて血糖値の初期減少をもたらし、沈殿したインスリン誘導体が少なくとも約6時間にわたって吸収され;そして血糖値の減少が少なくとも約6時間維持される、方法。
【請求項33】
グラルギンインスリン、亜鉛、ロイシンおよびトレハロースを含む空気動力学的質量中央粒子径10μm未満を有する粒子を含んで成る、吸入用医薬製剤。
【請求項34】
哺乳類の血糖値を減少させる方法であって:
等電点(pI)約6〜約8を有する沈殿インスリン誘導体を含む粒子、および少なくとも1種の薬学的に許容される賦形剤を含んで成る医薬製剤を哺乳類に肺投与することを含み;投与によって少なくとも約6時間血糖値が減少する、方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公表番号】特表2009−544716(P2009−544716A)
【公表日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−521852(P2009−521852)
【出願日】平成19年7月27日(2007.7.27)
【国際出願番号】PCT/US2007/016903
【国際公開番号】WO2008/013938
【国際公開日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【出願人】(597011463)ノバルティス アクチエンゲゼルシャフト (942)
【Fターム(参考)】