説明

肺高血圧の臨床的または超音波心臓検査上の証拠を伴う低酸素性呼吸器不全に罹った満期産およびほぼ満期産の新生児を治療する方法

【課題】一酸化窒素の吸入を用いた治療に適格である、先在性左心室機能障害(LVD)を有する患者を評価して、場合により治療から除外すること。
【解決手段】(a)医療提供者へ医薬上許容される一酸化窒素ガスを提供する;および(b)医療提供者に先在性左心室機能障害を有するヒト患者を一酸化窒素の吸入を含む医学的処置から除外することは医学的処置に関連する有害事象もしくは重篤な有害事象のリスクを減少させる、左心室後負荷は、患者へのニトログリセリンもしくはカルシウムチャネルブロッカーを含む医薬投与形態を投与することによって最小限に抑える、または減少させることができる。左心室後負荷は、さらにまた大動脈内バルーンポンプを用いて最小限に抑える、または減少させることができる。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
(関連出願の相互参照)
該当なし
【0002】
(政府の所有権に関する陳述)
該当なし
【0003】
吸入用のINOmax(登録商標)(一酸化窒素)は、肺高血圧の臨床的または超音波心臓検査上の証拠を伴う低酸素性呼吸器不全に罹った満期産およびほぼ満期産(妊娠34週齢超)の新生児を治療するために承認された薬物製品である。
【0004】
吸入用NO(iNO)の使用はこれまで研究されており、文献に報告されている(非特許文献1;非特許文献2;非特許文献3;非特許文献4;非特許文献5;非特許文献6)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Kieler-Jensen M et al.,1994, Inhaled Nitric Oxide in the Evaluation of Heart Transplant Candidates with Elevated Pulmonary Vascular Resistance, J Heart Lung Transplantation 13:366-375
【非特許文献2】Pearl RG et al.,1983, Acute Hemodynamic Effects of Nitroglycerin in Pulmonary Hypertension, American College of Physicians 99:9-13
【非特許文献3】Ajami GH et al.,2007, Comparison of the Effectiveness of Oral Sildenafil Versus Oxygen Administration as a Test for Feasibility of Operation for Patients with Secondary Pulmonary Arterial Hypertension, Pediatr Cardiol
【非特許文献4】Schulze-Neick I et al.,2003, Intravenous Sildenafil Is a Potent Pulmonary Vasodilator in Children With Congenital Heart Disease, Circulation 108(Suppl II):II-167-II-173
【非特許文献5】Lepore JJ et al.,2002, Effect of Sildenafil on the Acute Pulmonary Vasodilator Response to Inhaled Nitric Oxide in Adults with Primary Pulmonary Hypertension, The American Journal of Cardiology 90:677-680
【非特許文献6】Ziegler JW et al., 1998, Effects of Dipyridamole and Inhaled Nitric Oxide in Pediatric Patients with Pulmonary Hypertension, American Journal of Respiratory and Critical Care Medicine 158:1388-95
【発明の概要】
【0006】
本発明の1つの態様は、iNOを用いて患者を治療する前に医療提供者によって評価されなければならない除外基準を有するプレスクリーニング法もしくはプロトコールに関する。本発明の1つの目的は、iNOを用いた治療に適格である、先在性左心室機能障害(LVD)を有する患者を評価して、場合により治療から除外することである。先在性LVDを有する患者は、iNOを用いて治療されると、増加した比率の有害事象もしくは重篤な有害事象(例、肺水腫)を経験する可能性があり、リスク状態にある。そのような患者は、20mmHgより高い肺毛細血管楔入圧(PCWP)を有すると特徴付けることができ、治療選択肢としてiNOを使用することのベネフィット対リスクに関してケースバイケースで評価されなければならない。
【課題を解決するための手段】
【0007】
したがって、本発明の1つの態様は、ヒト患者において一酸化窒素の吸入を含む医学的処置に関連する有害事象(AE)もしくは重篤な有害事象(SAE)のリスクを減少させる、または発生を防止する方法であって、(a)医療提供者へ医薬上許容される一酸化窒素ガスを提供する;および(b)医療提供者に先在性左心室機能障害を有するヒト患者を前記治療から除外することは前記医学的処置に関連する有害事象もしくは重篤な有害事象のリスクを減少させる、または発生を防止することを知らせる工程もしくは行為を含む方法を含む。
【0008】
本明細書ではさらに、ヒト患者において一酸化窒素の吸入を含む医学的処置に関連する有害事象もしくは重篤な有害事象のリスクを減少させる、または発生を防止する方法であって、(a)医療提供者へ医薬上許容される一酸化窒素ガスを提供する;および(b)医療提供者に先在性左心室機能障害を有するヒト患者は前記医学的処置に関連する重篤な有害事象の上昇したリスクを経験することを知らせる工程もしくは行為を含む方法もまた提供されている。
【0009】
本発明のまた別の態様は、iNOを用いた治療を必要とする意図された患者集団においてAEもしくはSAEの1つ以上を減少させる方法であって、(a)iNO治療に対して適格である患者を同定する;(b)患者が先在性LVDを有するかどうかを同定するために患者を評価およびスクリーニングする;および(c)先在性LVDを有すると同定された患者をiNO治療から除外する工程または行為を含む方法である。
【0010】
本発明のまた別の態様は、患者において、iNOを含む医学的処置に関連するAEもしくはSAEの1つ以上のリスクを減少させる、または発生を防止する方法であって、(a)iNO治療を受けることを必要とする患者を同定する;(b)患者が先在性LVDを有するかどうかを同定するために患者を評価およびスクリーニングする;および(c)患者が先在性LVDを有していない場合はiNOを投与する工程または行為を含み、それによりiNO治療に関連するAEもしくはSAEのリスクを減少させる、または発生を防止する方法である。または、工程(c)は、患者におけるiNOを利用することのリスク対ベネフィットを、患者が臨床的に重大なLVDを有する場合には患者へiNOを投与する前に評価する工程をさらに含んでもよい。
【0011】
本方法の典型的な実施形態では、本方法は、医療提供者に、先在性もしくは臨床的に重大な左心室機能障害を有するヒト患者においては吸入用一酸化窒素を使用することに関連するリスクが存在することと、そのようなリスクはケースバイケースで評価すべであることを知らせることをさらに含む。
【0012】
本方法のまた別の典型的な実施形態では、本方法は、医療提供者に、左心室機能障害を有するヒト患者においては吸入用一酸化窒素を使用することに関連するリスクが存在することを知らせることをさらに含む。
【0013】
本明細書に記載した本方法の典型的な実施形態では、先在性LVDを有する患者は、20mmHgを超えるPCWPを有すると特徴付けられている。
【0014】
本方法の典型的な実施形態では、先在性LVDを有する患者は、20mmHg以上のPCWPを示す。
【0015】
本方法のまた別の典型的な実施形態では、iNO治療は、酸素(O)の吸入または同時換気をさらに含む。
【0016】
本方法のまた別の典型的な実施形態では、先在性LVDを有する患者は、拡張期機能障害、高血圧性心筋症、収縮期機能障害、虚血性心筋症、ウイルス性心筋症、特発性心筋症、自己免疫疾患関連性心筋症、薬物関連性心筋症、毒素関連性心筋症、構造的心疾患、弁膜心疾患、先天性心疾患、またはそれらの組み合わせのうちの1つ以上を有する。
【0017】
本方法のまた別の典型的な実施形態では、患者集団は、小児を含む。
【0018】
本方法のまた別の典型的な実施形態では、患者集団は、成人を含む。
【0019】
本方法のまた別の典型的な実施形態では、先在性LVDを有する患者は、肺水腫、低血圧、心停止、心電図変化、低酸素血症、低酸素症、徐脈もしくはそれらの組み合わせから選択される1つ以上のAEもしくはSAEを経験する、および比率が増大するリスク状態にある。
【0020】
本方法のまた別の典型的な実施形態では、一酸化窒素の吸入を用いて治療する必要がある意図された患者集団は、静止時に25mmHg超の平均肺動脈圧(PAPm)、15mmHg以下のPCWP、および3u・m超の肺血管抵抗指数(PVRI)を特徴とする特発性肺動脈性高血圧;静止時の25mmHg超のPAPmおよび3u・m超のPVRIを特徴とする修復済みおよび未修復の肺高血圧を伴う先天性心疾患;静止時の25mmHg超のPAPmおよび3u・m超のPVRIを特徴とする心筋症のうちの1つ以上を有する;または患者は、急性肺血管拡張試験により肺血管反応性を評価するための右心カテーテル検査を受けることが予定されている。
【0021】
上記の方法のいずれかのまた別の典型的な実施形態では、本方法は、患者における肺水腫である有害事象もしくは重篤な有害事象の発生のリスクを最小限に抑える、または減少させるために左心室後負荷を減少させることをさらに含む。左心室後負荷は、患者へのニトログリセリンもしくはカルシウムチャネルブロッカーを含む医薬投与形態を投与することによって最小限に抑える、または減少させることができる。左心室後負荷は、さらにまた大動脈内バルーンポンプを用いて最小限に抑える、または減少させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
吸入用のINOmax(登録商標)(一酸化窒素)は、米食品医薬品局(「FDA」)によって1999年に米合衆国内で販売するために承認された。INOmax(登録商標)中の活性物質である一酸化窒素は、肺のより良好に換気された領域内の肺血管を拡張させ、低換気/潅流(V/Q)比を備える肺領域から正常な比率を備える領域に向けて肺血流を再分布させることにより動脈血酸素の部分圧(PaO)を増加させる、選択的肺血管拡張剤である。INOmax(登録商標)は、酸素供給を有意に改善し、体外酸素供給の必要を減少させ、換気補助およびその他の適切な薬剤と併せて使用するように指示されている。INOmax(登録商標)についての現行FDA承認処方情報は、全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0023】
INOmax(登録商標)は、NOおよび窒素のガス状混合物(800ppmについては各々0.08%および99.92%;ならびに100ppmについては各々0.01%および99.99%)であり、高圧下の圧縮ガスとしてアルミニウム製ボンベに入れて供給される。一般に、INOmax(登録商標)は、換気補助およびOと併用して患者に投与される。吸入用のガス状NOの安全かつ有効な送達のために適切な送達デバイスには、INOvent(登録商標)、INOmax DS(登録商標)、INOpulse(登録商標)、INOblender(登録商標)、または全体が参照により本明細書に組み込まれる米国特許第5,558,083号明細書;第5,732,693号明細書;第5,752,504号明細書;第5,732,694号明細書;第6,089,229号明細書;第6,109,260号明細書;第6,125,846号明細書;第6,164,276号明細書;第6,581,592号明細書;第5,918,596号明細書;第5,839,433号明細書;第7,114,510号明細書;第5,417;950号明細書;第5,670,125号明細書;第5,670,127号明細書;第5,692,495号明細書;第5,514,204号明細書;第7,523,752号明細書;第5,699,790号明細書;第5,885,621号明細書;米国特許出願第11/355,670(US2007/0190184)号明細書;米国特許出願第10/520,270(US2006/0093681)号明細書;米国特許出願第11/401,722(US2007/0202083)号明細書;米国特許出願第10/053,535(US2002/0155166)号明細書;米国特許出願第10/367,277(US2003/0219496)号明細書;米国特許出願第10/439,632(US2004/0052866)号明細書;米国特許出願第10/371,666(US2003/0219497)号明細書;米国特許出願第10/413,817(US2004/0005367)号明細書;米国特許出願第12/050,826(US2008/0167609)号明細書;および国際出願PCT/US2009/045266号明細書を含む様々な特許文書に記載されているその他の適切な送達および調節デバイスもしくはその中に組み込まれたコンポーネント、または他の関連プロセスが含まれる。
【0024】
そのようなデバイスは、INOmax(登録商標)を、吸気を通して患者へ一定濃度のNOを提供する方法で患者の呼吸回路の吸息肢(inspiratory limb)へ送達する。重要なことに、適切な送達デバイスは、吸い込まれたO、NOおよびNOの持続的統合監視、包括的アラームシステム、連続的なNO送達のために適切な電源装置ならびに予備NO送達能力を提供する。
【0025】
本明細書で使用する用語「小児」(およびその変形)には、約4週齢〜18歳のヒトが含まれる。
【0026】
本明細書で使用する用語「成人」(およびその変形)には、18歳を越えるヒトが含まれる。
【0027】
本明細書で使用する用語「有害事象」もしくは「AE」(およびその変形)は、医薬製品(一酸化窒素など)が投与された被験者もしくは臨床試験被験者における、そのような治療との因果関係を必ずしも有していない、あらゆる不都合な発生を意味している。したがって有害事象は、試験製品に関連するかどうかには関わらず、医薬製品/試験製品の使用に時間的に関連するあらゆる不都合かつ意図されない徴候(異常な検査所見を含む)、症状、または疾患であってもよい。試験製品との関連は、必ずしも証明もしくは暗示されない。しかし、異常な数値は、試験責任医師が臨床的に有意であると見なさない限り、有害事象としては報告されない。
【0028】
本明細書で使用する用語「有害薬物反応」もしくは「ADR」(およびその変形)は、任意の用量に関連する医薬製品に対するあらゆる非毒性および意図されない反応を意味する。
【0029】
本明細書で使用する用語「重篤な有害事象」もしくは「SAE」(または「重篤な有害薬物反応」もしくは「重篤なADR」)(およびその変形)は、試験製品との関係に関する試験責任医師の見解とは無関係に、重大な危険もしくは副作用を意味する。重篤な有害事象もしくは反応は、任意の用量で死亡を生じさせるあらゆる望ましくない医療事件である;生命を脅かす(これは患者がその事象/反応の時点に死亡のリスク状態にある事象/反応を意味するが、仮説的にそれがより重篤であれば死亡を惹起した可能性のある事象/反応は意味していない);入院加療を必要とする、または現在の入院期間の延長を生じさせる;持続性もしくは重大な身体障害/無能を生じさせる;先天性異常/出生異常である;または医学的に重要な事象もしくは反応である。直ちに生命が脅かされることはない、または死亡もしくは入院を生じさせる可能性はないが被験者を危険にさらす、または上記に列挙した他の結果の1つを防止するために内科的もしくは外科的介入を必要とする可能性がある重要な医療事象などの他の状況において報告が適切であるかを決定する際には医学的および科学的判断が下される−これらもまた重篤であると見なされる。そのような医療事象の例には、癌、救急治療室もしくは在宅での集中治療を必要とするアレルギー性気管支狭窄、結果として入院を生じさせない造血機能障害もしくは痙攣、または薬物依存性もしくは薬物乱用の発生が含まれる。関係のある臨床徴候もしくは症状に直接的に関連する重篤な臨床検査異常もまた報告される。
【0030】
左心室機能障害。先在性LVDを有する患者は、一般に、拡張期機能障害(高血圧性心筋症を含む)を有する患者、収縮期機能障害(心筋症(虚血性もしくはウイルス性心筋症、もしくは特発性心筋症、もしくは自己免疫疾患関連性心筋症、および薬物関連性もしくは中毒関連性心筋症に起因する副作用を含む)を有する患者を含む)を含む上昇した肺動脈毛細血管楔入圧を有する患者、または構造的心疾患、心臓弁膜症、先天性心疾患、特発性肺動脈性高血圧、肺高血圧および心筋症、またはそれらの組み合わせを有する患者であると記載することができる。先在性LVDを有する患者を同定することは、医療分野の当業者には公知であり、そのような技術には、例えば、心不全の臨床徴候および症状の評価、または心エコー検査による診断的スクリーニングを含むことができる。
【0031】
肺毛細血管楔入圧。肺毛細血管楔入圧、もしくは「PCWP」は、左心房圧の推定値を提供する。先在性PCWPを有する患者を同定することは、医療分野の当業者には公知であり、そのような技術には、例えば、バルーンチップを備えるマルチルーメンカテーテル(Swan−Ganzカテーテルとしても公知である)を挿入することによる測定を含むことができる。PCWPの測定は、LVD(時には左心室不全と呼ばれることがある)の重症度を診断するための手段として使用できる。PCWPは、さらにまた肺高血圧を評価する場合の望ましい尺度でもある。肺高血圧は、肺血管抵抗(PVR)の増加によって誘発されることが多いが、さらにまた左心室不全および僧帽弁もしくは大動脈弁疾患に続発する肺静脈圧および肺血流量の増加の結果として生じることもある。
【0032】
心臓生理学では、後負荷(afterload)は、心室によって収縮するために生成される張力を意味するために使用される。心室について特に言及されない場合、通常は左心室であると推定される。しかし、この用語の厳密な定義は、単一の心筋細胞の特性に関連する。したがって、それは検査室においてのみ直接的な意義がある;臨床では、用語「収縮末期圧」が通常はより適切であるが、同意義ではない。
【0033】
用語「左心室後負荷」(およびその変形)は、心室から外へ血液を拍出するために心室が生成しなければならない圧力を意味する。それは大動脈圧の結果であるが、それは心室内の圧力は大動脈弁を開かせるために収縮期圧より大きくなければならないからである。その他すべてのことは、後負荷が増加するにつれて心拍出量が減少するので、同等に保持される。左心室後負荷を増加させる疾患プロセスには、上昇した血圧および大動脈弁疾患が含まれる。高血圧(上昇した血圧)は、左心室後負荷を増加させるが、それは左心室は大動脈内へ血液を拍出するためにより激しく作動しなければならないからである。これは、左心室内で生成された圧力が上昇した血圧より高くなるまで大動脈弁が開かないためである。大動脈弁狭窄症は後負荷を増加させるが、それは左心室は、血液を大動脈内へ拍出するために血圧に加えて狭窄性大動脈弁によって誘発される圧勾配を乗り越えなければならないからである。例えば、血圧が120/80であり、大動脈弁狭窄症が30mmHgの経弁圧較差を作り出すと、左心室は大動脈弁を開いて血液を大動脈内へ拍出するために110mmHgの圧力を生成しなければならない。大動脈弁閉鎖不全症は、前方へ拍出されるあるパーセンテージの血液が罹患大動脈弁を通して逆流するので後負荷を増加させる。これは上昇した収縮気圧を導く。拡張期血圧は、逆流に起因して低下する。これは、脈圧の増加を生じさせる。僧帽弁逆流は、後負荷を減少させる。心室収縮中には、血液は罹患僧帽弁を通して逆流し、ならびに大動脈弁を通して拍出され得る。これは、左心室は血液を拍出するためにより少なく機能すればよく、減少した後負荷を誘発することを意味する。後負荷は、大動脈圧に大きく依存する。
【0034】
大動脈内バルーンポンプ(IABP)は、同時に心拍出量を増加させながら、心筋酸素需要を減少させるために使用される機械的デバイスである。心拍出量を増加させることによって、それはさらに冠動脈血流量、およびこのために心筋酸素運搬量も増加させる。IABPは、大動脈内に据えられてカウンターパルセーションする円筒形バルーンからなる。つまり、IABPは、収縮期には活動的に収縮して後負荷を減少させることによって順方向血流を増加させ、したがって拡張期には活動的に拡張して冠動脈への血流量を増加させる。これらの活動は、減少する心筋酸素需要および増加する心筋酸素供給の結合した結果を有する。バルーンは、拡張期中には、通例はECGまたはカテーテルの遠位チップで圧トランスデューサのいずれかに連結されたコンピュータ制御機構によって膨張させられる;一部のIABP、例えばDatascope System 98XTなどは、設定されたレートで非同期カウンターパルセーションを許容するが、この設定が使用されることはまれである。コンピュータは、ボンベからバルーンの内外へのヘリウムの流量を制御する。ヘリウムが使用されるのは、その低い粘度が長い結合チューブを通って迅速に移動することを許容し、使用中にバルーン破裂が生じると有害な塞栓症を誘発するより低いリスクを有するためである。大動脈内バルーンカウンターパルセーションは、心臓自身の心拍出量が身体の酸素供給需要を満たすために不十分である状況において使用される。これらの状況には、心原性ショック、重症敗血症性ショック、心臓手術後および多数のその他の状況が含まれる。
【0035】
iNOによる治療に適格な患者。一般に、iNOの治療について承認された患者は、新生児における持続性肺高血圧(PPHN)としても公知の状態である肺高血圧の臨床的または超音波心臓検査上の証拠を伴う低酸素性呼吸器不全に罹った満期産およびほぼ満期産(妊娠>34週齢)の新生児である。肺高血圧を減少させるためのiNOの選択的な非全身性の性質に起因して、当分野における熟練の医師は、更にINOmax(登録商標)を使用して、肺高血圧を治療もしくは予防し、および急性呼吸窮迫症候群(ARDS)に苦しんでいる小児および成人患者の両方、心臓もしくは移植手術を受けている小児および成人患者、可逆性肺高血圧を診断するための試験を受ける小児および成人患者、ならびに先天性横隔膜ヘルニアを有する小児患者における状況を含む多種多様な臨床状況における血中Oレベルを改善する。これらの用途のうち、全部ではなくとも大多数において、INOmax(登録商標)は、可逆性肺血管収縮を防止もしくは治療する、肺動脈圧を減少させる、および肺ガス交換を改善することによって機能する。
【0036】
INOmax(登録商標)売上の小さな割合は、早産児集団における臨床医による使用から生じる。これらの患者では、INOmax(登録商標)は、一般には医師によって主として肺への血管を拡張して肺ガス交換を改善するための救命療法として利用される。一部の医師は、これらの患者のサブセット群においてINOmax(登録商標)療法が肺の発達を促進する、および/または肺疾患の将来の発生を減少させる、もしくは防止できると推測している。これらの患者におけるINOmax(登録商標)療法のベネフィットの原因となる正確な機序は完全には理解されていないが、これらの患者の少なくとも大多数において達成されるベネフィットは、INOmax(登録商標)が可逆性肺血管収縮を治療もしくは防止するための能力に起因すると思われる。
【0037】
臨床実務では、INOmax(登録商標)の使用は、PPHNを治療するための高リスクの全身性血管拡張剤の使用を減少させて、もしくは排除してきた。INOmax(登録商標)は、全身性血管拡張剤とは対照的に、全身性血管を拡張せずに肺血管構造を特異的に拡張させる。さらに、iNOは、酸素供給される肺胞の血管を優先的に拡張し、したがってV/Qマッチングを改善する。これとは対照的に、全身性血管拡張剤は、無気肺の(収縮もしくは虚脱した)肺胞への血流を増加させ、これによりV/Qミスマッチを増加させ、動脈酸素供給を悪化させる可能性がある(例えば、Rubin LJ, Kerr KM, Pulmonary Hypertension, in Critical Care Medicine:Principles of Diagnosis and Management in the Adult, 2d Ed., Parillo JE, Dellinger RP(eds.), Mosby, Inc. 2001, pp.900-09 at 906;Kinsella JP, Abman SH, The Role of Inhaled Nitric Oxide in Persistent Pulmonary Hypertension of the Newborn, in Acute Respiratory Care of the Neonate:A Self-Study Course, 2d Ed, Askin DF (ed.), NICU Ink Book Publishers, 1997, pp.369-378 at 372-73を参照)。
【0038】
INOmax(登録商標)は、他の名目上は「肺特異的である血管拡張剤」と比較した場合に、肺特異的血管拡張剤としての高度に望ましい薬物動態特性をさらに有する。例えば、INOmax(登録商標)の短い半減期は、INOmax(登録商標)が非ガス状代替薬とは対照的に、INOmax(登録商標)投与に相対する迅速な「オン」および「オフ」応答を示すことを許容する。この方法で、INOmax(登録商標)は、望ましい肺血管拡張の大きさおよび持続時間を容易に制御するための有用な治療ツールを医師に提供できる。さらに、血液中でのINOmax(登録商標)のほぼ瞬時の不活性化は、非肺血管の血管拡張を有意に減少させる、または防止する。
【0039】
INOmax(登録商標)の承認を導いた主試験は、CINRGIおよびNINOS試験であった。
【0040】
CINRGI試験(Davidson et al.,March 1998, Inhaled Nitric Oxide for the Early Treatment of Persistent Pulmonary Hypertension of the term Newborn;A Randomized, Double-Masked, Placebo-Controlled, Dose-Response, Multicenter Study;PEDIATRICS Vol.101, No.3, p.325を参照)。
【0041】
本試験は、肺高血圧および低酸素性呼吸不全を有する186例の満期およびほぼ満期出産の新生児を対象とする二重盲験無作為化プラセボ対照多施設共同試験であった。本試験の主目的は、INOmax(登録商標)がこれらの患者における体外膜型酸素供給(ECMO)の摂取を減少させるかどうかを決定することであった。低酸素性呼吸不全は、胎便吸引症候群(MAS)(35%)、新生児の特発性持続性肺高血圧(PPHN)(30%)、肺炎/敗血症(24%)、または呼吸窮迫症候群(RDS)(8%)によって誘発された。54mmHgの平均PaOおよび44cm HO/mmHgの平均酸素飽和指数(OI)を有する患者が、彼らの換気補助に加えて20ppmのINOmax(登録商標)(n=97)または窒素ガス(プラセボ;n=89)のいずれかを摂取するように割り当てられた。60mmHg超のPaOおよび7.55未満のpHを示した患者は、5ppmのINOmax(登録商標)またはプラセボへ慣れさせた。CINRGI試験からの一次結果は、表4に示した。ECMOは、本試験の一次エンドポイントであった。
【表1】

【0042】
PaO、OI、および肺胞−動脈勾配によって測定した場合にECMOを必要としたのはECMO群における新生児の方が有意に少なく、INOmax(登録商標)は酸素供給を有意に改善した。
【0043】
NINOS試験(Inhaled Nitric Oxide in Full-Term and Nearly Full-Term Infants with Hypoxic Respiratory Failure;NEJM, Vol.336, No.9, 597を参照)。
【0044】
NINOS(新生児の一酸化窒素吸入試験)グループは、低酸素性呼吸不全を有する235例の新生児において二重盲験無作為化プラセボ対照マルチセンター試験を実施した。本試験の目的は、iNOが、従来型療法に対して非応答性である低酸素性呼吸不全を有する満期もしくはほぼ満期出産の新生児のプロスペクティブに規定した群において死亡の発生および/またはECMOの開始を減少させるかどうかを決定することであった。低酸素性呼吸不全は、胎便吸引症候群(MAS)(49%)、肺炎/敗血症(21%)、新生児の特発性持続性肺高血圧(PPHN)(17%)、または呼吸窮迫症候群(RDS)(11%)によって誘発された。46mmHgの平均PaOおよび43cm HO/mmHgの平均酸素飽和指数(OI)を備える14日齢以内(平均、1.7日齢)の幼児を最初に14日間まで20ppmのNOを伴って(n=114)または伴わずに(n=121)100% Oを摂取するように無作為割り付けした。試験薬への応答は、治療開始30分後のPaOにおけるベースライン値からの変化であると規定された(完全応答=20mmHg超、部分応答=10〜20mmHg、応答なし=10mmHg未満)。完全未満の応答を示す新生児については、80ppmのNOもしくはコントロールガスに対する応答について評価した。NINOS試験からの一次結果は、表2に示した。
【表2】

【0045】
CINRGI&NINOSからの有害事象。比較対照試験は、5〜80ppmのINOmax(登録商標)投与を摂取した患者325例およびプラセボを摂取した患者251例を含んでいた。統合試験における総致死率は、プラセボでは11%およびINOmax(登録商標)では9%であり、プラセボより40%超不良であるINOmax(登録商標)致死率を排除するために適正な結果であった。
【0046】
NINOSおよびCINRGI試験の両方において、入院期間はINOmax(登録商標)群およびプラセボ処置群において類似であった。
【0047】
全比較対照試験から、INOmax(登録商標)を摂取した患者278例およびプラセボを摂取した患者212例について少なくとも6カ月間のフォローアップ結果を入手できる。これらの患者の中では、再入院の必要、特殊医療サービス、肺疾患、または神経学的後遺症に治療のAEが及ぼす証拠は見られなかった。
【0048】
NINOS試験では、治療群は、頭蓋内出血、グレードIV出血、脳室周囲白質軟化症、脳梗塞、抗痙攣薬療法を必要とする発作、肺出血、または胃腸出血の発生率および重症度に関しては類似であった。
【0049】
以下の表は、CINRGI試験においてINOmax(登録商標)を摂取した患者の少なくとも5%において発生した有害反応を示している。これらの有害反応における差は、iNO患者をプラセボを摂取した患者と比較した場合に、統計的有意ではなかった。
【表3】

【0050】
市販後の経験。下記のAEは、市販後サーベイランスの一部として報告されてきた。これらの事象は、上記には報告されていない。自発的に報告された市販後サーベイランスデータの性質を前提にすると、事象の実際の発生率を決定する、または試験薬に対するそれらの因果関係を断定的に確定することは不可能である。列挙はアルファベット順である:送達系に関連する用量誤差;病院スタッフにおけるINOmax(登録商標)の環境曝露に関連する頭痛;薬物の急性離脱に関連する低血圧;薬物の急性離脱に関連する低酸素血症;CREST症候群を有する患者における肺水腫。
【0051】
市販後サーベイランスに加えて、CINRGIおよびNINOS試験療法からのAEおよびSAEの分析は、先在性LVDを有する患者がAEまたはSAEの増加したリスクを経験することを示唆しなかった。先在性LVDを有する患者(おそらくは20mmHg超のPCWPを有する患者と同定された)は、臨床的に有意なLVDを有する患者においてiNOを使用することについてのベネフィット対リスクに関して評価すべきであり、これらの患者はケースバイケースで評価すべきであることもまた当分野における熟練の医師に予測可能でもなかった。
【実施例】
【0052】
実施例1:INOT22試験
「急性肺血管拡張試験中の肺血管構造の反応性の評価における補給用酸素と吸入用一酸化窒素+酸素についての比較」と題するINOT22試験は、肺高血圧の評価(一次エンドポイント)を受けている患者における診断薬としてのINOmax(登録商標)の安全性および有効性を評価し、肺血管構造に対してiNOが選択的であるという仮説を確証する両方のために実施された。(二次エンドポイント)
【0053】
INOT22試験の実施中および試験結果の最終分析後に、本出願人らは、そのような治療を必要とする患者へのiNOの投与によって、肺血管抵抗が急速に減少することは、付随する先在性LVDを有する患者にとっては不利益となる可能性があることを見いだした。このため、LVDを有する患者にとっての予防措置をINOmax(登録商標)についての修正処方情報に含めるべきであると提案した。医師らにはさらに、先在性LVDを有する患者における肺水腫の発生を最小限に抑えるために左心室後負荷を減少させることを考察するようにさらに情報提供した。
【0054】
詳細には、INOT22試験プロトコールは、米国およびヨーロッパの16カ所の試験施設でプロスペクティブに登録された、心カテーテル法を受けた連続する小児について試験した。登録基準:4週齢〜18歳、肺高血圧との診断、つまり3u・m超の肺血管抵抗指数(PVRI)を備える、特発性肺高血圧(IPAH)または先天性心疾患(CHD)(修復済みまたは未修復)もしくは心筋症との関連。本明細書で考察する後期修正条項は、20mmHg未満のPCWPという追加の登録基準を加えた。患者は、試験責任医師の実践にしたがって、全身麻酔下で、または意識下鎮静を用いて試験された。除外基準:胸部X線上での限局性浸潤、内因性肺疾患の病歴、および/またはPDE−5阻害剤、プロスタサイクリンアナログもしくはニトロプルシドナトリウムの現在服用中。本試験は、急性肺血管拡張試験中の肺血管構造の反応性の評価において、Oの補給および吸入用NO+Oを含んでいた。米国およびヨーロッパの16カ所の試験施設で、心カテーテル法を受けた連続する小児がプロスペクティブに登録された。これらの新生児集団では低血圧が予測されるので、iNO群とプラセボ群との比較は、評価するのが困難である。より明確な評価を提供するためにINOT22試験において、特定の二次エンドポイントが評価された。
【0055】
主目的は、iNO+O対O単独を用いた場合の応答頻度を比較することであった;さらに、全被験者はiNO単独を用いて試験された。患者は、5つの期間中に試験された:第1ベースライン、第1治療期間、第2治療期間、第2ベースラインおよび第3治療期間。全患者が全3種の治療を受けた;治療順序は試験施設によって4つのブロックに無作為割り付けされた;第1期間には、患者はNO単独もしくはO単独のいずれかを摂取し、第3期間には代替治療を受けた。第2期間には、全患者がiNOおよびOの併用療法を受けた。順序が指定されると、治療は非盲験化された。各治療は10分間与えられ、その後に血行動態測定が実施され、第2ベースライン期間は少なくとも10分間であった。
【0056】
薬物を摂取するように無作為割り付けされた全患者として規定された治療意図(ITT)集団についての結果は、NO+OおよびO単独による治療は、全身性血管抵抗指数(SVRI)を有意に増加させることを示した(表4)。NO+Oについてのベースラインからの変化は、1.4 Woods Unit/平方メートル(WU・m)(p=0.007)であり、Oについては1.3WU・mであった(p=0.004)。NO単独を用いたSVRIにおけるベースラインからの変化は−0.2WU・m(p=0.899)であったが、これは全身性作用の欠如を示している。
【表4】

【0057】
理想的な肺血管拡張剤は、全身性血圧もしくはSVRIに感知可能な作用を及ぼさずにPVRIおよび/またはPAPmを減少させなければならない。この場合には、PVRI対SVRIの比率は、肺血管床に対する薬物の選択性の尺度であることを前提とすると、低下する。治療によるPVRI対SVRIの比率における変化は、表5に示した。
【表5】

【0058】
全3種の治療は、肺血管床に優先作用を有するので、これは全3種が選択的肺血管拡張剤であることを示唆している。比率における最大の減少は、NO+Oを用いた治療中であったが、これはおそらくOおよびNO+Oを用いてみられるSVRI作用における減少に起因した。これらの結果は、比率におけるパーセンテージの変化として表示した(表6を参照)。
【表6】

【0059】
NO+Oは、比率における最大の減少を提供すると思われたが、これはNO+Oはいずれかの薬剤単独より肺血管構造に対してより選択的であることを示唆した。
【0060】
心血管安全性についての概観。INOT22診断試験では、全治療(NO+O、O、およびNO)は、良好に忍容された。治療された患者134例中7例は、試験中にAEを経験した。これらは、心停止、徐脈、低心拍出量(CO)症候群、心電図(ECG)検査でのST区間(心電図のQRS群の終わりとT波の始まりとの間の部分)上昇、減少したO飽和、低血圧、口腔出血および肺高血圧(PH)を含んでいた。患者および事象の数は、AEについてのリスクが、治療、診断、年齢、性別もしくは人種によって相違するかどうかを決定するには小さすぎた。8例の患者は、事象が報告された期間に起因して表5に示されている。AEは、12時間にわたり、または退院(そのような事象を報告できる期間を限定する)まで報告された。SAEを報告すべきかについての技術的な時間制限はない。そこで、試験中には7例のAEおよび試験後には少なくとも1例のSAEが生じた。
【0061】
計4例の患者は、試験薬に関連すると評価されたAEを有した。これらの事象は、徐脈、低CO症候群、ECG上でのST区間上昇、低O飽和度、PHおよび低血圧を含んでいた。2例を除く全AEは、強度において軽度もしくは中等度であり、消退した。試験治療は、心拍数、収縮期動脈圧および拡張期動脈圧を含むバイタルサインにわずかな、臨床的に有意ではない作用を及ぼした。試験責任医師がAEを記録する場合は、彼らは(彼らの見解において)その事象が治療に関連するか否かについて発言することを要求された。この場合には、7例中4例は、試験責任医師によって治療に関連すると考察された。
【0062】
小児における正常PCWPの上限は10〜12mmHgであり、成人においては15mmHgである。INOT22試験では、ベースラインPCWP値は、除外基準としては含まれなかった。しかし、早期に試験された患者におけるSAEの驚くべき、予想外の同定後に、先在性LVDを有する患者が投与後にはAEまたはSAEを経験する上昇したリスクを有する(例えば、肺を通る血流量の増加に起因する左心室機能の悪化)と決定された。したがって、INOT22試験のためのプロトコールは、その後、1例の患者が急性循環虚脱を経験して試験中に死亡した後に、20mmHg超のベースライン時PCWPを有する患者を除外するように修正された。数値「20mmHg」は、これらのSAEについて最もリスク状態が高くなるLVDを有する小児集団の登録を回避するために選択された。
【0063】
SAEは、試験治療の開始時から退院または12時間後までのいずれか後に発生した時点に収集された。3例のSAEは、試験期間中に報告され、計7例のSAEが報告された。これらのうち3例は致死性SAEであり、4例は非致死性であった(これらの内1例は試験中止をもたらした。)さらに、1例の非重篤AEもまた、中止をもたらした。死亡した、中止した、またはSAEを経験した被験者のリストは、下記の表5に提供した。
【表7】

【0064】
3例の致死性SAE中2例は、両方に関連すると見なされた。全4例の非致死性SAEもまた、両方に関連すると考えられた。患者および事象の数は、AEについてのリスクが、治療、診断、年齢、性別もしくは人種によって相違するかどうかを決定するには小さすぎた。少なくとも2例の患者は、肺水腫の徴候を発生した(被験者05002および02002)。これは、肺水腫が以前にLVDを有する患者におけるiNOの使用と併せて報告されており、PVRIの減少および左心房の過剰重点に関連する可能性があるために、興味深い(Hayward CS et al.,1996, Inhaled Nitric Oxide in Cardiac Failure:Vascular Versus Ventricular Effects, J Cardiovascular Pharmacology 27:80-85;Bocchi EA et al.,1994, Inhaled Nitric Oxide Leading to Pulmonary Edema in Stable Severe Heart Failure, Am J Cardiology 74:70-72;およびSemigran MJ et al.,1994, Hemodynamic Effects of Inhaled Nitric Oxide in Heart Failure, J Am Coll Cardiology 24:982-988)。
【0065】
SAE率はこの集団についての範囲内にあるが、ベースライン時に最も上昇したPCWPを有する患者は不釣り合いに多数のこれらの事象を有したと思われる(Bocchi EA et al.,1994;Semigran MJ et al.,1994)。
【0066】
INOT22試験では、全134例の患者中10例は18mmHg(7.5%)以上のベースライン時PCWPを有しており、それらのうち3例の被験者(04001、02002および04003)はSAEを有していた、または試験を早期に中止した(30%)が、これは全コホートについては6.5%であった。
【0067】
INOT22試験では極めて小数の有意なAEしか生じなかったが、事象は重症LVDを有する患者において予想された生理学的変化と一致していた。これらの事象は、iNOが即効性であり、肺血管構造に対して選択的であり、大多数の患者において良好に忍容されるという以前の観察所見をさらに確証している。急性心不全(AVT)中の急性LVDの実際の発生率は不明である。しかし、疾患の基礎にある性質、すなわち肺高血圧およびより一般には心血管疾患の性質に基づくと、有意な数の患者がiNO治療を受けるとSAEの増加した発生率に対してリスク状態となると予測するのは合理的である。したがって、医師らにこの可能性のある結果について注意が喚起されるように、iNO治療を開始する前に医師らにこれらの患者を同定させることは有利である。
【0068】
ベネフィットおよびリスクに関する結論。INOT22試験は、肺高血圧を備える明確に規定された小児のコホート(すなわち、意図された患者集団)において、80ppmという高濃度、すなわち最大の薬力学的作用を有すると予想される濃度のiNOを用いて、iNOの生理学的作用を証明するために設計された。INOT22試験は、現在までに実施されたiNOの最大かつ最も厳密な薬力学試験であり、例えばiNOは即効性である、肺血管構造に対してより選択的である、さらに大多数の患者において良好に忍容されるなどの多数の以前の観察所見を確証している。
【0069】
PVRを迅速に減少させることは望ましくなく、付随性LVDを有する患者においては危険でさえあることもまた認識されている。INOT22試験では、SAEおよび致死性SAEの総数は、この程度の心肺疾患を有する患者については予想範囲内にある。総比率は7/124(5.6%)であり、これは極めて類似する患者コホートにおいて近年報告された6%という比率と密接に類似している(Taylor CJ et al.,2007, Risk of cardiac catheterization under anaesthesia in children with pulmonary hypertension, Br J Anaesth 98(5):657-61)。そこで、SAEの総比率は、本試験中に与えられた治療よりむしろ患者の基礎にある疾患の重症度により密接に関連すると思われる。
【0070】
INOT22試験の結果は、先在性LVDを有する患者は増加した比率のSAE(例、肺水腫)を経験する可能性があることを証明している。本試験の経過中、プロトコールは20mmHg超のPCWPを有する患者を除外するように修正された。臨床的に重大なLVDを有する患者においてiNOを使用するベネフィット/リスクは、ケースバイケースで評価すべきである。左心室後負荷の減少は、おそらく肺水腫の発生を最小限に抑えるために適合すると考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一酸化窒素の吸入による治療を必要とする意図された患者集団において1つ以上の有害事象もしくは重篤な有害事象を減少させる方法であって、先在性左心室機能障害を有する患者をそのような治療から除外することを含んでなる方法。
【請求項2】
前記患者が、20mmHgを超える肺毛細血管楔入圧をさらに有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記治療が、酸素の吸入をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記治療が、ベンチレーターを使用して送達される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
先在性左心室機能障害を有する前記患者が、拡張期機能障害、高血圧性心筋症、収縮期機能障害、虚血性心筋症、ウイルス性心筋症、特発性心筋症、自己免疫疾患関連性心筋症、薬物関連性心筋症、毒素関連性心筋症、構造的心疾患、弁膜心疾患、先天性心疾患、特発性肺動脈性高血圧および肺高血圧心筋症、またはそれらの組み合わせから選択される状態の1つ以上を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記患者集団が、小児を含む、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記患者集団が、成人を含む、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記患者が、肺水腫、低血圧、心停止、心電図変化、低酸素血症、低酸素症および徐脈、またはそれらの組み合わせから選択される有害事象もしくは重篤な有害事象のリスク状態にある、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
ヒト被験者において、一酸化窒素の吸入を含んでなる医学的処置に関連する1つ以上の有害事象もしくは重篤な有害事象のリスクを減少させる、または発生を防止する方法であって:
a.一酸化窒素の吸入治療に対して適格であるヒト被験者を同定すること;
b.前記患者が先在性左心室機能障害を有するかどうかを決定すること;および
c.前記患者が先在性左心室機能障害を有していない場合は前記医学的処置を投与することを含んでなり、
それにより前記医学的処置に関連する前記有害事象もしくは重篤な有害事象のリスクを減少させる、または発生を防止する方法。
【請求項10】
前記患者が、20mmHgを超える肺毛細血管楔入圧をさらに示す、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
先在性左心室機能障害を有する前記患者が、拡張期機能障害、高血圧性心筋症、収縮期機能障害、虚血性心筋症、ウイルス性心筋症、特発性心筋症、自己免疫疾患関連性心筋症、薬物関連性心筋症に起因する副作用、毒素関連性心筋症に起因する副作用、構造的心疾患、弁膜心疾患、先天性心疾患、特発性肺動脈性高血圧、肺高血圧および心筋症、またはそれらの組み合わせから選択される1つ以上の状態を有する、請求項9または10に記載の方法。
【請求項12】
前記医学的処置が、酸素の吸入をさらに含む、請求項9に記載の方法。
【請求項13】
前記治療が、ベンチレーターを使用して送達される、請求項9に記載の方法。
【請求項14】
前記患者が、小児である、請求項9に記載の方法。
【請求項15】
前記患者が、成人である、請求項9に記載の方法。
【請求項16】
ヒト患者において、一酸化窒素の吸入を含んでなる医学的処置に関連する1つ以上の有害事象もしくは重篤な有害事象のリスクを減少させる、または発生を防止する方法であって:
a.医療提供者へ医薬上許容される一酸化窒素ガスを提供すること;および
b.前記医療提供者に先在性左心室機能障害を有するヒト患者を前記治療から除外することが前記医学的処置に関連する有害事象もしくは重篤な有害事象のリスクを減少させる、または発生を防止することを知らせることを含んでなる方法。
【請求項17】
前記患者が、小児である、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記患者が、成人である、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
前記有害事象もしくは重篤な有害事象が、肺水腫、低血圧、心停止、心電図変化、低酸素血症、低酸素症および徐脈、またはそれらの組み合わせのうちの1つ以上である、請求項16に記載の方法。
【請求項20】
ヒト患者において、一酸化窒素の吸入を含んでなる医学的処置に関連する1つ以上の有害事象もしくは重篤な有害事象のリスクを減少させる、または発生を防止する方法であって:
a.医療提供者へ医薬上許容される一酸化窒素ガスを提供すること;および
b.前記医療提供者に先在性左心室機能障害を有するヒト患者は前記医学的処置に関連する有害事象もしくは重篤な有害事象の増加した比率を経験することを知らせることを含んでなる方法。
【請求項21】
前記医療提供者に、20mmHgを超える肺毛細血管楔入圧を有するヒト患者における有害事象もしくは重篤な有害事象のリスクを知らせることをさらに含む、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記医療提供者に、先在性もしくは臨床的に重大な左心室機能障害を有するヒト患者においては吸入用一酸化窒素を使用することに関連するリスクが存在すること、およびそのようなリスクはケースバイケースで評価すべきであることを知らせることをさらに含む、請求項20に記載の方法。
【請求項23】
前記医療提供者に、左心室機能障害を有するヒト患者においては吸入用一酸化窒素を使用することに関連するリスクが存在することを知らせることをさらに含む、請求項20に記載の方法。
【請求項24】
iNOによる治療を必要とする意図された患者集団において、1つ以上の有害事象もしくは重篤な有害事象を減少させる方法であって:
a.iNO治療に対して適格である患者を同定すること;
b.前記患者が先在性左心室機能障害を有するかどうかを同定するために前記患者を評価およびスクリーニングすること;および
c.先在性左心室機能障害を有すると同定された患者をiNO治療から除外することを含んでなる方法。
【請求項25】
一酸化窒素の吸入を含んでなる医学的処置に関連する1つ以上の有害事象もしくは重篤な有害事象のリスクを減少させる、または発生を防止する方法であって:
a.一酸化窒素の吸入治療を受ける必要のある患者を同定すること;
b.前記患者が先在性左心室機能障害を有するかどうかを同定するために前記患者を評価およびスクリーニングすること;および
c.前記患者が先在性左心室機能障害を有していない場合に前記一酸化窒素の吸入を投与することを含んでなり、
それにより前記一酸化窒素の吸入治療に関連する前記有害事象もしくは重大な有害事象のリスクを減少させる、または発生を防止する方法。
【請求項26】
先在性左心室機能障害を有する前記患者が、20mmHgを超える肺毛細血管楔入圧を示す、請求項24または25に記載の方法。
【請求項27】
前記一酸化窒素の吸入による治療を必要とする意図された患者集団が、静止時に25mmHg超のPAPm、15mmHg以下のPCWP、および3u・m超のPVRIを特徴とする特発性肺動脈性高血圧;静止時の25mmHg超のPAPmおよび3u・m超のPVRIを特徴とする修復済みおよび未修復の肺高血圧を伴う先天性心疾患;静止時の25mmHg超のPAPmおよび3u・m超のPVRIを特徴とする心筋症のうちの1つ以上を有するか;または前記患者が、急性肺血管拡張試験により肺血管反応性を評価するための右心カテーテル検査を受けることが予定されている、請求項1に記載の方法。
【請求項28】
前記患者における肺水腫である有害事象もしくは重篤な有害事象の発生のリスクを最小限に抑える、または減少させるために左心室後負荷を減少させることをさらに含む、請求項1、9、16、20、24または25に記載の方法。
【請求項29】
前記左心室後負荷を、前記患者へのニトログリセリンもしくはカルシウムチャネルブロッカーを含む医薬製剤を投与することによって最小限に抑える、または減少させる、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記左心室後負荷を、大動脈内バルーンポンプを用いて最小限に抑える、または減少させる、請求項28に記載の方法。

【公開番号】特開2011−251155(P2011−251155A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−175996(P2011−175996)
【出願日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【分割の表示】特願2010−139671(P2010−139671)の分割
【原出願日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【出願人】(509187705)アイカリア、ホールディングス、インコーポレーテッド (3)
【氏名又は名称原語表記】IKARIA HOLDINGS, INC.