説明

肺高血圧を予防および治療するための組成物および方法

本願発明は、1ないし4個の酸化窒素(NO)ドナー基および反応性酸素種(ROS)分解触媒を含む、ピペリジン、ピロリジンまたはアゼパン誘導体を用いる、肺高血圧の予防、治療または管理のための医薬組成物および方法を提供する。該方法はさらに、該誘導体を含むナノ粒子を含む水分散性粉末、ならびにその医薬組成物および使用法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、肺高血圧の予防、治療または管理のための医薬組成物および方法における一酸化窒素(NO)ドナーおよび反応性酸素種(ROS)分解触媒を含む化合物の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
肺高血圧(PH)は、高い肺血管抵抗および肺動脈圧により特徴付けられ、最終的には換気血流関係に干渉し、心室機能を危うくする、肺血管リモデリング作用により特徴付けられる重度の疾患である。該疾患は安静時に>25mmHgまたは運動の際に>30mmHgの平均肺動脈圧により定義される。
【0003】
現在、PHは5つの群に分類され、そこでは肺動脈高血圧(PAH)は群1に分類され;左心疾患に付随するPHは群2に分類され;肺疾患および/または低酸素血症に付随するPHは群3に分類され;慢性気管支炎および/または塞栓症によるPHは群4に分類され;および他の器官のPHは群5に分類される(Galieら、2004)。
【0004】
PAHは、突発性および家族性の両方のPAH、ならびに硬皮症、CREST(皮膚石灰沈着症(calcinosis cutis);レイノー現象(Raynaud phenomenon);食道運動障害(esophageal motility disorder);手指硬化症(sclerodactyly)および毛細血管拡張症(teleangiectasia))、サルコイドーシス、全身性エリテマトーデスおよび関節リウマチなどの自己免疫結合組織疾患;鎌状赤血球病、発作性夜間ヘモグロビン尿症、アルファおよびベータサラセミアおよびグルコース−6−ホスフェートデヒドロゲナーゼ欠損症などの異常ヘモグロビン症;細菌性(マイコプラズマを含む)、ウイルス性、真菌性またはリケッチア性肺炎;誤嚥またはトラウマに二次的な急性肺損傷;肺シャントに対して全身性の先天性障害、例えば、大動脈・肺動脈窓、動脈管遺残、総動脈幹症、心室中隔欠損症または心房中隔欠損症;門脈圧亢進症;HIV;および薬物、例、食欲減退薬またはトキシン摂取に付随するPAHを包含する。小さな(500μm以下の径の)肺細動脈の筋肉化(muscularization)は、PAHの病理学的な共通の特徴として広く認められている;しかしながら、それは、慢性閉塞性肺疾患(COPD)または血栓性および/または血栓塞栓性疾患に付随する病気などの他の形態のPHでも起こる可能性がある。PHの突出した解剖学的特徴として、(筋)線維芽細胞または平滑筋細胞の移動および増殖に基づいて、血管内膜が厚くなること、ならびに細胞外マトリックスを過剰生成すること、内皮が損傷および/または増殖すること、血管周囲炎症細胞が浸潤することが挙げられる。
【0005】
その多様な病因にも拘わらず、PHの疾患経過は厳しく、治療されないと、末期の右心室不全(肺性心)まで進行する。原発性PHの患者の予後は芳しくなく、治療なしでは、生存期間は診断から平均して2ないし3年である。一般に、該障害の進行は容赦なく失神および右心不全につながり、突然死に至ることも多い。
【0006】
PHには複数のトリガーがあるが、そのすべてが肺血管系における酸素中心フリーラジカルなスーパーオキシドの過多および窒素中心フリーラジカルなNOの欠乏により生じる血管および組織損傷の最終的に共通のエフェクター機構に集中する生物学的カスケードを開始させると考えられる。NO欠乏はスーパーオキシドによるその消耗、およびその先駆体(L−アルギニン)および合成補因子テトラヒドロビオプテリン(BH4)の枯渇に続発する、内皮NOシンターゼ(ecNOS)によるその合成の減少の両方に起因する。スーパーオキシドは、非カップリングのミトコンドリア、NADPHオキシダーゼ、キサンチンオキシダーゼ、および非カップリングのecNOSによる過剰産生が原因で、あるいは極低出生体重(VLBW)の未熟胎児の特別な場合では、抗酸化防御の発生的不在の結果として、相応に引き上げられる。
【0007】
PHにおけるNOの役割:急性PHの状況においては、NOは、酵素グアニレートシクラーゼの活性化を通して、血小板を吸着および活性化することなく、血管系を拡張した状態に維持する。慢性PHの状況においては、NOは、平滑筋細胞分裂を制御する生物学的カスケードにトリガーを付与することで、血管肥大およびリモデリングを遮断する。特に、NOは、臨界的なODCシステイン残基のニトロシル化を介して血管壁にあるオルニチンデカルボキシラーゼ(ODC)を不活化し、それによりODC介在のオルニチンからのプトレシンの産生を減少させる。プトレシンの枯渇はMAPK1/2介在のサイクリン依存性キナーゼ阻害剤p21(waf1/cip1)の活性化を引き起こし、p21活性の上昇はG(1)→S期への細胞周期移行を止め、それにより血管平滑筋細胞の増殖は阻害される。
【0008】
PHにおける活性酸素種の役割:生理条件下で、内皮細胞は、NOに加えて、スーパーオキシドおよび他のROSを産生する。スーパーオキシドはNOの主たるスカベンジャーであり、NO濃度を下げる。加えて、スーパーオキシドは、L型カルシウムチャネルを開け、NOと化学的に合わさることで血管収縮を誘発し、ペルオキシ亜硝酸を産生する。ペルオキシ亜硝酸は肺の血管拡張を媒介する3種の重要な酵素、(i)cGMPの生成を介して血管弛緩を誘発するNOの生物学的標的である、グアニレートシクラーゼ、;(ii)その連結していない状態で、NOの代わりにスーパーオキシドを産生するecNOS;および(iii)cAMPを増やす血管拡張性プロスタグランジンであるプロスタサイクリンを産生する酵素である、プロスタサイクリンシンターゼ(PGI2)を攻撃する。ペルオキシ亜硝酸はさらにはDNA一本鎖切断を誘発し、DNA修復酵素ポリ(ADPリボース)ポリメラーゼの活性化をもたらし、次に内皮依存性平滑筋弛緩に必要とされる、NADPHおよびATPを消費する。肺にある過剰量のペルオキシ亜硝酸は、溶血性疾患、自己免疫、肺炎、成人呼吸窮迫症候群および早熟に付随するPHで説明される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
NOとスーパーオキシドの不均衡は、肺細動脈を拡張させて、血液を低血圧で流せる能力を直接害し、最終的に、血管平滑筋に不可逆的なダメージを与える。さらに詳細には、スーパーオキシドの過剰およびNOの不足は、それらが一緒に起こると、血管平滑筋の生理機能を大いに破壊し、その結果として、肺細動脈収縮および高血圧、肺血管肥大、右心不全および死がもたらされる。かくして、外因的なNOの提供および内因的なスーパーオキシドの除去を同時に行うことで、NO−スーパーオキシドの均衡を修復することに対する要求がある。
【0010】
米国特許第5958427号は、あるNOドナー化合物およびNOを粘膜の先端面に送達するための該化合物を含む組成物であって、ここでNOが粘膜の上皮単層を横切って放出される、化合物および組成物を開示する。開示される化合物は、第三および第四アミノ脂肪族NOドナー化合物ならびにポリアルキレンアミンノノエートを包含し、PHおよび性的不全の治療に特に有用である。この療法に対する潜在的関心は、強力なトキシンとしてのペルオキシ亜硝酸の形成をもたらす、外因的に投与されたNOと周辺にあるスーパーオキシドとの化学反応である。
【0011】
米国特許第7378438号は、ROSスカベンジャー基およびNOドナーを含むβ−アゴニストであって、喘息および慢性気管支炎などの気道閉塞を含む呼吸器疾患の治療に有用である化合物を開示する。それでも、この特許は一般に、NOドナーのROS分解触媒との使用について、具体的にはPHの処置について何ら開示も示唆もしていない。
【0012】
米国特許第6448267号、第6455542号および第6759430号は、出典明示により本願明細書の一部とされ、とりわけ、NO供給源として、ROS分解触媒として作用する、NOドナーおよびスーパーオキシドスカベンジャーを含む、ピペリジン、ピロリジンおよびアゼパン誘導体、それらの製造、および酸化的ストレスまたは内皮機能不全に伴う種々の症状の処置におけるそれらの使用を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本願発明によれば、ある1−ピロリジニルオキシ誘導体、より具体的には、3−ニトラトメチル−2,2,5,5−テトラメチルピロリジニルオキシの投与が、モノクロタリン(MCT)を投与した38日後に開始し、10日間の治療コースにわたる、ラット肺高血圧実験にて、肺動脈高血圧(PAH)の上昇および組織学的肺損傷、すなわち肺胞損傷、炎症細胞浸潤および血管平滑筋肥大の両方を顕著に緩和し、MCT投与に対する応答を発展させることが見出された。これらの知見は、MCT注射の後に、PAHおよび肺損傷が既に確立された時点で、3−ニトラトメチル−2,2,5,5−テトラメチルピロリジニルオキシ療法を開始するため、極めて重大である。
【0014】
一の態様にて、本願発明は、その必要とする個体での、肺高血圧(PH)の予防、治療または管理方法であって、該個体に治療的に有効な量の一般式I:
【0015】
【化1】


[式中、
は、各々独立して、H、−OH、−COR、−COOR、−OCOOR、−OCON(R、−(C−C16)アルキレン−COOR、−CN、−NO、−SH、−SR、−(C−C16)アルキル、−O−(C−C16)アルキル、−N(R、−CON(R、−SO、−S(=O)R、または式:−X−X−Xで示されるNOドナー基であって、ここでXは存在しないか、または−O−、−S−または−NH−より選択され;Xは存在しないか、または1または複数の−ONO基で置換されていてもよく、さらに一般式D:
【化2】


で示される部分により置換されていてもよい(C−C20)アルキレンであり;およびXは−NOまたは−ONOである、ただし少なくとも一のR基はNOドナー基であり;
は、各々独立して、(C−C16)アルキル、(C−C16)アルケニルまたは(C−C16)アルキニルから選択され;
は、各々独立して、H、(C−C)アルキル,(C−C10)シクロアルキル、4−12員のヘテロシクリルまたは(C−C14)アリールより選択され、その水素以外の各々は、−OH、−COR、−COOR、−OCOOR、−OCON(R、−(C−C)アルキレン−COOR、−CN、−NO、−SH、−SR、−(C−C)アルキル、−O−(C−C)アルキル、−N(R、−CON(R、−SOまたは−S(=O)Rで置換されていてもよく;
は、各々独立して、H、(C−C)アルキル、(C−C10)シクロアルキル、4−12−員のヘテロシクリルまたは(C−C14)アリールより選択され;および
nおよびmは、各々独立して、1ないし3の整数である]
で示される化合物、あるいはそのエナンチオマー、ジアステレオマー、ラセミ体、または医薬上許容される塩もしくは溶媒和物を投与することを含む、方法に関する。
【0016】
もう一つ別の態様において、本願発明は、上記した一般式Iの化合物、あるいはそのエナンチオマー、ジアステレオマー、ラセミ体、または医薬上許容される塩または溶媒和物、および医薬上許容される担体を含む、PHの予防、治療または管理のための医薬組成物を提供する。
【0017】
さらにもう一つ別の態様において、本願発明は、PHの予防、治療または管理にて用いるための上記した一般式Iの化合物、あるいはそのエナンチオマー、ジアステレオマー、ラセミ体、または医薬上許容される塩または溶媒和物を提供する。
【0018】
さらにもう一つ別の態様において、本願発明は、PHの予防、治療または管理用の医薬組成物の製造における、上記した一般式Iの化合物、あるいはそのエナンチオマー、ジアステレオマー、ラセミ体、または医薬上許容される塩または溶媒和物の使用に関する。
【0019】
上記した3−ニトラトメチル−2,2,5,5−テトラメチルピロリジニルオキシは酢酸エチルおよびジメチルスルホキシド(DMSO)に可溶性であるのに対して、水、セイライン、デキストロース溶液およびポリエチレングリコールなどの、ヒト投与に適する非毒性の水性液体には不溶性である。さらに、本願発明によれば、3−ニトラトメチル−2,2,5,5−テトラメチルピロリジニルオキシなどの1−ピロリジニルオキシ誘導体のナノ粒径の粒子への処方は、1mlの水、セイラインまたはデキストロース溶液に付き、2mgまでの活性物質の安定した半透明な懸濁液を生成する。かかる懸濁液は0.22μフィルターを介して容易に滅菌濾過され、齧歯動物に非経口注射される場合にも十分に許容される。
【0020】
もう一つ別の態様において、本願発明は、上記した一般式Iの化合物、あるいはそのエナンチオマー、ジアステレオマー、ラセミ体、または医薬上許容される塩または溶媒和物を含む、ナノ粒子からなる水分散性粉末を提供する。
【0021】
その上さらなる態様において、本願発明は、上記した水分散性粉末および医薬上許容される担体または希釈体を含む、医薬組成物を提供する。
【0022】
その上さらなる態様において、本願発明は、その必要とする個体にてPHを予防、治療または管理するための方法であって、該個体に、上記した水分散性粉末および医薬上許容される担体または希釈体からなる医薬組成物を投与することを含む、方法に関する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】図1はモノクロタリン(MCT;60mg/kg)の平均肺動脈圧(MPAP)についての効果、および化合物1a(R100;1.5mg/kg/日、一日二回、IP;または2mg/kg/日、一日二回、POを投与し、MCTを投与した38日後から開始し、10日間投与)のMCT誘発のMPAPにおける変化についての効果を示す。
【図2】図2A−2Cは化合物1aのMCT誘発の肺血管リモデリングについての効果を示す。MCT+ビヒクル、POで処置されたラットの肺血管リモデリング(2A);MCT+化合物1a(1.5mg/kg/日 一日二回、IP)で処置されたラットの肺血管リモデリング(2B);MCT+化合物1a(2mg/kg/日 一日二回、PO)で処置されたラットの肺血管リモデリング(2C)(各図面において、上段の3枚のパネルは、10xであり、下段のパネルは30xである)。
【図3】図3A−3Bは水(3A)および等張デキストロース溶液(3B)に分散させた場合に調製される粉末の数による粒径(直径、ナノメーター)分布を表すグラフを示す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
一の態様において、本願発明は、1ないし4種のNOドナー群、および活性酸素種(ROS)分解触媒、すなわちスーパーオキシドスカベンジャーを含む、上記した一般式Iのピペリジン、ピロリジンまたはアゼパン誘導体を投与することによる肺高血圧(PH)の予防、治療または管理方法を提供する。
【0025】
本願明細書にて用いられる「アルキル」なる語は、典型的には、1−16個の炭素原子を有する直鎖または分岐鎖飽和炭化水素基を意味し、例えば、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、sec−ブチル、イソブチル、tert−ブチル、n−ペンチル、2,2−ジメチルプロピル、n−ヘキシル、n−ヘプチル、n−オクチル、n−ノニル、n−デシル、n−ウンデシル、n−ドデシル、n−トリデシル、n−テトラデシル、n−ペンタデシル、n−ヘキサデシル等を包含する。好ましくは(C−C)アルキル基、より好ましくは(C−C)アルキル基、最も好ましくはメチルおよびエチルである。「アルケニル」および「アルキニル」なる語は、典型的には、2−16個の炭素原子および1個の二重結合または三重結合を有する直鎖または分岐鎖炭化水素基を意味し、各々、エテニル、プロペニル、3−ブテン1−イル、2−エテニルブチル、3−オクテン−1−イル、3−ノネニル、3−デセニル等、およびプロピニル、2−ブチン−1−イル、3−ペンチン−1−イル、3−ヘキシニル、3−オクチニル、4−デシニル等を包含する。C−Cアルケニルおよびアルキニル基が好ましく、C−Cアルケニルおよびアルキニルがより好ましい。
【0026】
「アルキレン」なる語は、典型的には、1−20個の炭素原子を有する二価の直鎖または分岐鎖炭化水素基を意味し、例えば、メチレン、エチレン、プロピレン、ブチレン、2−メチルプロピレン、ペンチレン、2−メチルブチレン、ヘキシレン、2−メチルペンチレン、3−メチルペンチレン、2,3−ジメチルブチレン、ヘプチレン、オクチレン等を包含する。好ましくは(C−C)アルキレン、より好ましくは(C−C)アルキレン、最も好ましくは(C−C)アルキレンである。
【0027】
本願明細書にて使用される「シクロアルキル」なる語は、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチル、アダマンチル、ビシクロ[3.2.1]オクチル、ビシクロ[2.2.1]ヘプチル等などの3−12個の炭素原子を有する環式または二環式炭化水素基を意味する。好ましくは(C−C10)シクロアルキルであり、より好ましくは(C−C)シクロアルキルである。
【0028】
「アリール」なる語は、限定されるものではないが、フェニル、ナフチル、フェナントリルおよびビフェニルなどの単環または共有結合により縮合または連結されている多環からなる、炭素数6−14の芳香族炭素環基を意味する。
【0029】
「ヘテロ環式環」なる語は、少なくとも1個の炭素原子および1ないし3個の硫黄、酸素または窒素より選択されるヘテロ原子を含有する4−12個の原子の単または多環式非芳香族環を意味し、それは飽和であっても、不飽和であってもよく、すなわち、少なくとも1個の不飽和結合を含有してもよい。好ましくは5−または6−員のヘテロ環式環である。本願明細書にて用いられる「ヘテロシクリル」なる語は、環原子より水素を取り除くことで、上記したヘテロ環式環より誘導される一価の基をいう。かかる基の例として、限定されるものではないが、ピペリジノ、4−モルホリニルまたはピロリジニルが挙げられる。
【0030】
本願明細書にて定義される「NOドナー基」なる語は、式:−X−X−Xで示される基であって、ここでXは存在しないか、または−O−、−S−または−NH−より選択され;Xは存在しないか、または(C−C20)アルキレンであり、所望により1または複数の−ONO基で置換され、さらには所望により上記した一般式Dの部分により置換されていてもよく;およびXは−NOまたは−ONOである、基をいう。好ましくは、NOドナー基は、Xが存在しないか、または−O−であり、;Xが存在しないか、または−(C−C)アルキレン、好ましくは−(C−C)アルキレン、より好ましくはメチレンであり;およびXが−NOまたは−ONO、好ましくは−ONOであり、該アルキレンは上記のように所望により置換されていてもよい、基である。本願発明の方法によれば、一般式Iの化合物は1個のNOドナー基または1個より多くの、同一または異なるNOドナー基を含んでもよい。
【0031】
特定の実施態様において、本願発明の方法に従って使用される化合物は、一般式Iの化合物であって、ここでRが、各々独立して、H、−COOR、−CON(RまたはNOドナー基より選択され;およびRがHである、化合物である。
【0032】
特定の実施態様において、本願発明の方法に従って使用される化合物は、一般式Iの化合物であって、ここでRが、各々独立して、(C−C)アルキル、好ましくは(C−C)アルキル、より好ましくは(C−C)アルキル、最も好ましくはメチルである、化合物である。好ましい実施態様は、式IにてすべてのR基が同じである、化合物である。
【0033】
特定の実施態様において、本願発明の方法に従って使用される化合物は、一般式Iの化合物であって、ここで該NOドナー基中、Xが存在しないか、または−O−であり;Xが存在しないか、または(C−C20)アルキレン、好ましくは−(C−C)アルキレン、より好ましくは−(C−C)アルキレン、最も好ましくはメチレンであり;Xが−NOまたは−ONO、好ましくは−ONOであり;該アルキレンが所望により1または複数の−ONO基で置換されていてもよく、所望によりさらに上記した一般式Dの部分により置換されていてもよい、化合物である。
【0034】
特定の実施態様において、本願発明の方法に従って使用される化合物は、一般式Iの化合物であって、ここでnが1、2または3、好ましくは1または2である、化合物である。
【0035】
特定の実施態様において、本願発明の方法に従って使用される化合物は、一般式Iで示され、式中、nが1である、すなわち、式Iaの1−ピロリジニルオキシ誘導体(表1を参照)である。特定の実施態様において、本願発明の方法に従って使用される化合物は、一般式Iaで示され、式中、ピロリジン環の3位にある炭素原子またはピロリジン環の4位にある炭素原子のいずれかが、または両方がNOドナー基に連結されている、化合物である。
【0036】
他の特定の実施態様において、本願発明の方法に従って使用される化合物は、一般式Iで示され、式中、nが2である、すなわち、式Ibの1−ピペリジニルオキシ誘導体(表1を参照のこと)である。特定の実施態様において、本願発明の方法に従って使用される化合物は、一般式Ibで示され、式中、ピペリジン環の3ないし5位にある炭素原子の1、2または3個の炭素原子がNOドナー基に連結されている、化合物である。より具体的な実施態様において、(i)ピペリジン環の3位にある炭素原子がNOドナー基に連結され、および所望によりピペリジン環の4または5位にある1または複数の炭素原子の各々がNOドナー基に連結されていてもよく;(ii)ピペリジン環の4位にある炭素原子がNOドナー基に連結され、および所望によりピペリジン環の3または5位にある1または複数の炭素原子の各々がNOドナー基に連結されていてもよく;あるいは(iii)ピペリジン環の5位にある炭素原子がNOドナー基に連結され、および所望によりピペリジン環の3または4位にある1または複数の炭素原子の各々がNOドナー基に連結されていてもよい。
【0037】
さらなる特定の実施態様において、本願発明の方法に従って使用される化合物は、一般式Iで示され、式中、nが3である、すなわち、式Icの1−アゼパニルオキシ誘導体(表1を参照のこと)である。特定の実施態様において、本願発明の方法に従って使用される化合物は、一般式Icで示され、式中、アゼパン環の3ないし6位にある炭素原子の1、2、3または4個の炭素原子の各々がNOドナー基に連結されている、化合物である。より具体的な実施態様において、(i)アゼパン環の3位にある炭素原子がNOドナー基に連結され、および所望によりアゼパン環の4ないし6位にある1または複数の炭素原子の各々がNOドナー基に連結されていてもよく;(ii)アゼパン環の4位にある炭素原子がNOドナー基に連結され、および所望によりアゼパン環の3、5または6位にある1または複数の炭素原子の各々がNOドナー基に連結されていてもよく;(iii)アゼパン環の5位にある炭素原子がNOドナー基に連結され、および所望によりアゼパン環の3、4または6位にある1または複数の炭素原子の各々がNOドナー基に連結されていてもよく;あるいは(iv)アゼパン環の6位にある炭素原子がNOドナー基に連結され、および所望によりアゼパン環の3ないし5位にある1または複数の炭素原子の各々がNOドナー基に連結されていてもよい。
【0038】
特定の実施態様において、本願発明の方法に従って使用される化合物は、式Iaの1−ピロリジニルオキシ誘導体、式Ibの1−ピペリジニルオキシ誘導体、または式Icの1−アゼパニルオキシ誘導体であり、該化合物のNOドナー基の各々は、独立して、式:−(C−C)アルキレン−ONO、好ましくは−(C−C)アルキレン−ONO、より好ましくは−CH−ONOまたは−O−(C−C)アルキレン−ONOで示される基であり、ここで該アルキレンは、所望により、1または複数の−ONO基で置換されているか、あるいは−ONOである。
【0039】
本願明細書に記載の一般式Ia、IbおよびIcの個々の化合物であって、R基の各々が、独立してHまたはNOドナー基−CH−ONOまたは−ONOである、化合物が、本願明細書中、太文字で化合物1a/b−15a/bとして示されており(化合物1aはまたR100と同定される)、その全体の化学構造が表2て示されている。本願明細書に記載の一般式IaおよびIbの個々の他の化合物であって、一のR基がNOドナー基、−CH−ONOまたは−ONOであって、もう一方のR基がH以外の基である、化合物が、本願明細書中、太文字で化合物16a/b−17a/bとして示されており、その全体の化学構造が表3にて示されている。本願明細書に記載の一般式Ibのさらに個々の化合物であって、一のR基がNOドナー基、−O−CH−CH(ONO)CH−ONOであって、他方のR基がHである、化合物が、本願明細書中、太文字で化合物18として示されており、その全体の化学構造が表3にて示されている。
【0040】
表1:1−ピロリジニルオキシ、1−ピペリジニルオキシおよび1−アゼパニルオキシ誘導体の各々を含む構造式Ia、IbおよびIc
【表1】


【0041】
具体的な実施態様において、本願発明の方法に従って使用される化合物は、式Iaの化合物、すなわち一般式Iの、nが1で、Rの各々がメチルである化合物であって;(i)ピロリジン環の3位の炭素原子に連結したR基がNOドナー基、−CH−ONOまたは−ONOであり;ピロリジン環の4位の炭素原子に連結したR基がHである、すなわち、各々、3−ニトラトメチル−2,2,5,5−テトラメチルピロリジニルオキシ(化合物1a;R100)または3−ニトラト−2,2,5,5−テトラメチルピロリジニルオキシ(化合物1b)であるか;または(ii)ピロリジン環の3および4位の炭素原子に連結したR基の各々がNOドナー基、−CH−ONOまたはONOである、すなわち、各々、3,4−ジニトラトメチル−2,2,5,5−テトラメチルピロリジニルオキシ(化合物2a)または3,4−ジニトラト−2,2,5,5−テトラメチルピロリジニルオキシ(化合物2b)の化合物である。
【0042】
他の具体的な実施態様において、本願発明の方法に従って使用される化合物は、式Ibの化合物、すなわち、一般式Iの、nが2で、Rの各々がメチルである化合物であって;(i)ピペリジン環の3位の炭素原子に連結したR基がNOドナー基、−CH−ONOまたは−ONOであり;ピペリジン環の4および5位の炭素原子に連結したR基の各々がHである、すなわち、各々、3−ニトラトメチル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジニルオキシ(3−ニトラトメチル−TEMPO;化合物3a)または3−ニトラト−2,2,6,6−テトラメチルピペリジニルオキシ(3−ニトラト−TEMPO;化合物3b)であり;(ii)ピペリジン環の4位の炭素原子に連結したR基がNOドナー基、−CH−ONOまたは−ONOであり;ピペリジン環の3および5位の各々の炭素原子に連結したR基がHである、すなわち、各々、4−ニトラトメチル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジニルオキシ(4−ニトラトメチル−TEMPO;化合物4a)または4−ニトラト−2,2,6,6−テトラメチルピペリジニルオキシ(3−ニトラト−TEMPO;化合物4b)であり;(iii)ピペリジン環の3および4位の炭素原子に連結したR基の各々がNOドナー基、−CH−ONOまたは−ONOであり;およびピペリジン環の5位の炭素原子に連結したR基がHである、すなわち、各々、3,4−ジニトラトメチル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジニルオキシ(3,4−ジニトラトメチル−TEMPO;化合物5a)または3,4−ジニトラト−2,2,6,6−テトラメチルピペリジニルオキシ(3,4−ジニトラト−TEMPO;化合物5b)であり;(iv)ピペリジン環の3および5位の炭素原子に連結したR基の各々がNOドナー基、−CH−ONOまたは−ONOであり;およびピペリジン環の4位の炭素原子に連結したR基がHである、すなわち、各々、3,5−ジニトラトメチル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジニルオキシ(3,5−ジニトラトメチル−TEMPO;化合物6a)または3,5−ジニトラト−2,2,6,6−テトラメチル ピペリジニルオキシ(3,5−ジニトラト−TEMPO;化合物6b)であり;または(v)ピペリジン環の3ないし5位の炭素原子に連結したR基の各々がNOドナー基−CH−ONOまたは−ONOである、すなわち、各々、3,4,5−トリニトラトメチル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジニルオキシ(3,4,5−トリニトラトメチル−TEMPO;化合物7a)または3,4,5−トリニトラト−2,2,6,6−テトラメチルピペリジニルオキシ(3,4,5−トリニトラト−TEMPO;化合物7b)の化合物である。
【0043】
さらに具体的な実施態様において、本願発明の方法に従って使用される化合物は、式Icの化合物、すなわち、一般式Iの、nが3で、Rの各々がメチルである化合物であって;(i)アゼパン環の3位の炭素原子に連結したR基がNOドナー基、−CH−ONOまたは−ONOであり;アゼパン環の4ないし6位の炭素原子に連結したR基の各々がHである、すなわち、各々、3−ニトラトメチル−2,2,7,7−テトラメチルアゼパニルオキシ(化合物8a)または3−ニトラト−2,2,7,7−テトラメチルアゼパニルオキシ(化合物8b)であり;(ii)アゼパン環の4位の炭素原子に連結したR基がNOドナー基、−CH−ONOまたは−ONOであり;アゼパン環の3、5および6位の炭素原子に連結したR基の各々がHである、すなわち、各々、4−ニトラトメチル−2,2,7,7−テトラメチルアゼパニルオキシ(化合物9a)または4−ニトラト−2,2,7,7−テトラメチルアゼパニルオキシ(化合物9b)であり;(iii)アゼパン環の3および4位の炭素原子に連結したR基の各々がNOドナー基、−CH−ONOまたは−ONOであり;アゼパン環の5および6位の炭素原子に連結したR基の各々がHである、すなわち、各々、3,4−ジニトラトメチル−2,2,7,7−テトラメチルアゼパニルオキシ(化合物10a)または3,4−ジニトラト−2,2,7,7−テトラメチルアゼパニルオキシ(化合物10b)であり;(iv)アゼパン環の3および5位の各々の炭素原子に連結したR基がNOドナー基、−CH−ONOまたは−ONOであり;アゼパン環の4および6位の炭素原子に連結したR基の各々がHである、すなわち、各々、3,5−ジニトラトメチル−2,2,7,7−テトラメチルアゼパニルオキシ(化合物11a)または3,5−ジニトラト−2,2,7,7−テトラメチルアゼパニルオキシ(化合物11b)であり;(v)アゼパン環の3および6位の炭素原子に連結したR基の各々がNOドナー基、−CH−ONOまたは−ONOであり;アゼパン環の4および5位の炭素原子に連結したR基の各々がHである、すなわち、各々、3,6−ジニトラトメチル−2,2,7,7−テトラメチルアゼパニルオキシ(化合物12a)または3,6−ジニトラト−2,2,7,7−テトラメチルアゼパニルオキシ(化合物12b)であり;(vi)アゼパン環の3ないし5位の炭素原子に連結したR基の各々がNOドナー基、−CH−ONOまたは−ONOであり;アゼパン環の6位の炭素原子に連結したR基がHである、すなわち、各々、3,4,5−トリニトラトメチル−2,2,7,7−テトラメチルアゼパニルオキシ(化合物13a)または3,4,5−トリニトラト−2,2,7,7−テトラメチルアゼパニルオキシ(化合物13b)であり;(vii)アゼパン環の3、4および6位の炭素原子に連結したR基の各々がNOドナー基、−CH−ONOまたは−ONOであり;アゼパン環の5位の炭素原子に連結したR基がHである、すなわち、各々、3,4,6−トリニトラトメチル−2,2,7,7−テトラメチルアゼパニルオキシ(化合物14a)または3,4,6−トリニトラト−2,2,7,7−テトラメチルアゼパニルオキシ(化合物14b)であるか;または(viii)アゼパン環の3ないし6位の炭素原子に連結したR基の各々がNOドナー基、−CH−ONOまたは−ONOである、すなわち、各々、3,4,5,6−テトラニトラトメチル−2,2,7,7−テトラメチルアゼパニルオキシ(化合物15a)または3,4,5,6−テトラニトラト−2,2,7,7−テトラメチルアゼパニルオキシ(化合物15b)の化合物である。
【0044】
さらに別の具体的な実施態様において、本願発明の方法に従って使用される化合物は、式Iaの、Rの各々がメチルである化合物であって;ピロリジン環の3位にある炭素原子に連結したR基がNOドナー基、−CH−ONOまたは−ONOであり;ピロリジン環の4位の炭素原子に連結したR基が−CONHである、すなわち、各々、3−ニトラトメチル−4−カルバモイル−2,2,5,5−テトラメチルピロリジニルオキシ(化合物16a)または3−ニトラト−4−カルバモイル−2,2,5,5−テトラメチルピロリジニルオキシ(化合物16b)の化合物である。
【0045】
さらにもう一つ別の具体的な実施態様において、本願発明の方法に従って使用される化合物は、式Ibの、Rの各々がメチルである化合物であって;ピペリジン環の3位の炭素原子に連結したR基がNOドナー基、−CH−ONOまたは−ONOであり;ピペリジン環の4位の炭素原子に連結したR基が−COOHであり;ピペリジン環の5位の炭素原子に連結したR基がHである、すなわち、各々、3−ニトラトメチル−4−カルボキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジニルオキシ(3−ニトラトメチル−4−カルボキシ−TEMPO;化合物17a)または3−ニトラト−4−カルボキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジニルオキシ(3−ニトラト−4−カルボキシ−TEMPO;化合物17b)の化合物である。
【0046】
その上さらに具体的な実施態様において、本願発明の方法に従って使用される化合物は、式Ibの、Rの各々がメチルである化合物であって;ピペリジン環の4位の炭素原子に連結したR基がNOドナー基、−O−CH−CH(ONO)CH−ONOであり;ピペリジン環の3および5位にある炭素原子に連結したR基の各々がHである、すなわち、4−(2,3−ジニトラトプロピルオキシ)−2,2,6,6−テトラメチルピペリジニルオキシ(4−(2,3−ジニトラトプロピルオキシ)−TEMPO;化合物18)の化合物である。
【0047】
表2:1a−15aで示される、一般式Ia、IbおよびIcの化合物
【表2】


−CH−ONO基の各々が−ONO基で置換されている1a−15aに対応する化合物を、本願明細書にて、化合物1b−15bと称する。
【0048】
表3:16a−17aおよび18で示される、一般式IaおよびIbの化合物
【表3】


−CH−ONO基の各々が−ONO基で置換されている16aおよび17aに対応する化合物を、本願明細書にて、化合物16bおよび17bと称する。
【0049】
他の特定の実施態様において、本願発明の方法に従って使用される化合物は、式Iaの1−ピロリジニルオキシ誘導体、式Ibの1−ピペリジニルオキシ誘導体または式Icの1−アゼパニルオキシ誘導体であって、該化合物のNOドナー基のうち少なくとも1つが式:−O−(C−C)アルキレン−ONOであり;該アルキレンは上記した一般式Dの部分で置換されており、さらには所望により1または複数の−ONO基によって置換されていてもよい、化合物である。酸素原子が環の3または4位にある炭素原子に結合する、一般式Dは、3−ヒドロキシ−ピロリジノキシ、3−または4−ヒドロキシ−ピペリジニルオキシ、あるいは3−または4−ヒドロキシ−アゼパニルオキシ誘導体で表される。概念的には、この場合に使用される化合物は、その各々が、1−ピロリジニルオキシ、1−ピペリジニルオキシまたは1−アゼパニルオキシ誘導体より独立して選択される、2または複数の同一または異なる存在が、1または複数の−ONO基により置換されているアルキレン架橋を介して連結されており、各アルキレン架橋は2つの存在だけを連結するに過ぎない、二量体またはより多くの多量体様化合物である。
【0050】
本願発明の方法に従って使用される好ましい二量体またはより多くの多量体様化合物は、(i)一般式Iaの1−ピロリジニルオキシ誘導体が、1または2個のそのNOドナー基を介して1または2個の同一または異なる3−ヒドロキシ−ピロリジノキシの部分、すなわち、1または2個の、mが1である、一般式Dの部分に連結されている、化合物;(ii)一般式Ibの1−ピペリジニルオキシ誘導体が、1、2または3個のそのNOドナー基を介して、1、2または3個の同一または異なる3−または4−ヒドロキシ−ピペリジニルオキシの部分、すなわち、1ないし3個の、mが2である、一般式Dの部分に連結されている、化合物;または(iii)一般式Icの1−アゼパニルオキシ誘導体が、1、2、3または4個のNOドナー基を介して、1、2、3または4個の同一または異なる3−または4−ヒドロキシ−アゼパニルオキシの部分、すなわち、1ないし4個の、mが3である、一般式Dの部分に連結されている、化合物である。
【0051】
本願明細書に記載の一般式Ibの、二量体様構造の、具体的な化合物は、本願明細書にて太文字で化合物19−20として示されており、その化学構造全体を表4に示す。
【0052】
具体的な実施態様において、本願発明の方法に従って使用される化合物は、式Ibの、ピペリジン環の3および5位にある炭素原子に連結したRの各々がHである、化合物であって;(i)ピペリジン環の4位にある炭素原子に連結したRがNOドナー基、−O−CH−CH(ONO)−CH(ONO)−CH−Dであり、一般式Dにて、mが2であり、酸素原子がピペリジン環の4位の炭素原子に連結しており;Rが、各々、メチルである化合物、すなわち、1,4−ジ−(4−オキソ−TEMPO)−2,3−ジニトラトブタン(化合物19);または(ii)ピペリジン環の4位にある炭素原子に連結したRがNOドナー基、−O−CH−CH(ONO)−CH−Dであり、一般式Dにて、mが2であり、酸素原子がピペリジン環の4位の炭素原子に連結しており;Rが、各々、メチルである化合物、すなわち、1,3−ジ−(4−オキソ−TEMPO)−2−ニトラトプロパン(化合物20)の化合物である。
【0053】
表4:19−20で示される、一般式Ibの化合物
【表4】

【0054】
一般式Iの化合物は、当該分野にて既知の方法または操作に従って、例えば、米国特許第6,448,267号、第6,455,542号および第6,759,430号に記載されるように調製されてもよい。
【0055】
一般式Iの化合物は1または複数の不斉中心を有してもよく、したがってエナンチオマー、すなわち、光学異性体(R、Sまたはラセミ体であって、特定のエナンチオマーは90%、95%、99%またはそれ以上の光学純度を有してもよい)として、およびジアステレオマーとして存在してもよい。具体的には、これらのキラル中心は、例えば、一般式Ia、IbおよびIcで示される各1−ピロリジニルオキシ誘導体、1−ピペリジニルオキシ誘導体および1−アゼパニルオキシ誘導体の炭素原子の一つで存在してもよい。本願発明の方法によれば、肺高血圧の予防、治療または管理は、かかるあらゆるエナンチオマー、異性体およびその混合物、ならびにその医薬上許容される塩および溶媒和物を投与することにより実施され得る。
【0056】
一般式Iの化合物の光学活性な形態は、当該分野にて公知の方法を用いて、例えば、ラセミ形態を再結晶技術により分割することにより、キラル合成により、キラル溶媒で抽出することにより、またはキラル固定相を用いるクロマトグラフィー分離により調製されてもよい。光学活性な物質を得るための一の方法の一例が、限定されるものではないが、キラル膜を通して移動させることであり、すなわち、ラセミ体を薄膜バリアと接触するように置き、濃度差または圧力差で該膜バリアを通る優先的移動を生じさせ、ラセミ体の一方のエナンチオマーだけを透過させる、該膜の非ラセミ性キラル特性の結果として分離が起こる、技法である。擬似移動床クロマトグラフィーを含む、キラルクロマトグラフィーもまた使用され得る。広範な種々のキラル固定相は商業的に利用され得る。
【0057】
本願明細書にて使用される「肺高血圧」(PH)なる語は、高肺血管抵抗、肺動脈圧(PAP)により、最終的には、換気血流の関係に干渉し、心室機能を低下させる、肺血管リモデリング作用により特徴付けられる重度の疾患をいう。Evian Nomenclature and C lassification of PH(1998)およびRevised Nomenclature and Classification of PH(2003)(McCrory and Lewis、2004)を含む、PHについて数種の分類システムが公表されている。
【0058】
PHは原発性または続発性のいずれであってもよく、上記したように、現在では次の5群に分類される:肺動脈高血圧(PAH)は群1として分類され;左心疾患に付随するPHは群2に分類され;肺疾患および/または低酸素血症に付随するPHは群3に分類され;慢性気管支炎および/または塞栓症によるPHは群4に分類され;および他の器官のPHは群5に分類される(Galieら、2004)。
【0059】
本願明細書で使用されるPAHなる語は、限定されるものではないが、突発性PAH(IPAH);家族性PAH(FPAH);膠原血管病、例えば、硬皮症に伴うPAH;先天性障害、例えば、全身および肺循環の間の先天的シャント、門脈圧亢進症に伴うPAH;HIV感染に伴うPAH;静脈または毛細血管疾患に伴うPAH;甲状腺障害、グリコーゲン貯蔵疾患、ゴーシェ病、異常ヘモグロビン症または骨髄増殖性疾患に伴うPAH;煙吸収または煙吸収と火傷の組み合わせに伴うPAH;誤嚥に伴うPAH;換気障害に伴うPAH;肺炎に伴うPAH;成人呼吸窮迫症候群に伴うPAH;新生児の持続性PH;未熟児の新生児性呼吸窮迫症候群;新生児胎便吸引;新生児横隔膜ヘルニア;肺毛細血管腫症;および肺静脈閉塞性疾患を含む、いずれのPAHもいう。
【0060】
群2に付随してもよい左心室疾患の例として、限定されるものではないが、左側心房または心室疾患、および弁膜症、例えば、僧帽弁狭窄症が挙げられる。
【0061】
群3に付随してもよい肺疾患の例として、限定されるものではないが、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、間質性肺疾患(ILD)、睡眠呼吸障害、肺胞低換気障害、高高度への常時暴露、および進行性肺異常が挙げられる。
【0062】
群4に付随してもよい慢性気管支炎および/または塞栓症の例として、限定されるものではないが、遠位性または近位性肺動脈の血栓塞栓性閉塞および、例えば腫瘍細胞または寄生体の非血栓性肺塞栓症が挙げられる。
【0063】
群5に付随してもよい障害または疾患の例として、限定されるものではないが、リンパ節肥大による肺血管の圧迫、線維性縦隔炎、リンパ管腫症、肺ランゲルハンス細胞肉芽腫症(組織球増殖症)、サルコイドーシス、異常ヘモグロビン症および腫瘍が挙げられる。
【0064】
上記した疾患、障害および症状の多くは、PHの危険性の増加と関連しうる。その特定の例として、限定されるものではないが、先天性心疾患、例えばアイゼンメンゲル症候群;左心疾患;肺静脈疾患、例えば繊維組織による肺静脈および小静脈の狭窄または閉鎖;肺動脈疾患;肺胞性低酸素症を惹起する疾患;線維性肺疾患;ウィリアム症候群;静脈内薬物乱用の対象での損傷;ウェグナー、グッドパスチャーおよびチャーグストラウス症候群などの肺血管炎;肺気腫;慢性気管支炎;後側弯症;嚢胞性線維症;肥満過呼吸および睡眠時無呼吸障害;肺線維症;サルコイドーシス;珪肺症;CREST(皮膚石灰沈着症、レイノー現象;食道運動障害;手指硬化症および毛細血管拡張症)および他の結合組織疾患が挙げられる。例えば、骨形成蛋白受容体E(BMPR2)変異を有する対象はFPAHを獲得する生涯リスクが10−20%であり、遺伝性出血性毛細管拡張症の対象、特にALK1にて変異している対象はまた、IPAHの危険があるものとして同定される。PHについての危険因子および診断基準はMcGoonら、2004に記載されている。
【0065】
本願発明の方法は、限定されるものではないが、軽度の、すなわち、安静時に平均肺動脈圧(MPAP)の30mmHgまでの上昇に伴う;中程度の、すなわち、安静時にMPAPの30−39mmHgの上昇に伴う;および重度の、安静時にMPAPの40mmHg以上の上昇に伴う、PHを含む、いずれの形態のPHの治療にも用いることができる。
【0066】
PHに関して本願明細書にて用いられる「治療」なる語は、PHの徴候をそのいずれかの形態にて発症した後に、上記した一般式Iの化合物、またはそのエナンチオマー、ジアステレオマー、ラセミ体、または医薬上許容される塩もしくは溶媒和物を投与することをいう。PHに関して本願明細書にて用いられる「予防」なる語は、徴候を発症する前に、特にPHの危険のある患者に、該化合物を投与することをいい;PHに関して本願明細書にて用いられる「管理」なる語は、以前にPHを患ったことのある患者にて、PHの再発を防止することをいう。本願明細書にて用いられる「治療的に有効な量」なる語は、PHの治療、予防または管理に有用である、上記した一般式Iの化合物、またはそのエナンチオマー、ジアステレオマー、ラセミ体、または医薬上許容される塩もしくは溶媒和物の量をいう。
【0067】
以下の実施例のセクションで示されるように、モノクロタリン(MCT;よく特徴付けられたPHの実験モデルを誘発する植物毒)投与の38日後に開始する10日間のラットPH実験では、化合物1aは、MCT投与後に生じるPAHの上昇を顕著に減少させた。さらには、化合物1aでの長期間処置は、ビヒクル対照と比べて、肺胞損傷、炎症細胞浸潤および血管平滑筋肥大を顕著に減少させた。これらの知見は、MCT投与後の化合物1a療法の着手を遅らせ、PAHおよび肺損傷の確立の時点で開始されることを鑑みれば、極めて重要である。
【0068】
もう一つ別の態様において、本願発明は、上記した一般式Iの化合物、またはそのエナンチオマー、ジアステレオマー、ラセミ体、または医薬上許容される塩もしくは溶媒和物(以下、「活性物質」と称される)、および医薬上許容される担体を含む、PHの予防、治療または管理するための医薬組成物を提供する。詳細な実施態様において、本願発明の医薬組成物は、化合物1a、1b、2a、2b、3a、3b、4a、4b、5a、5b、6a、6b、7a、7b、8a、8b、9a、9b、10a、10b、11a、11b、12a、12b、13a、13b、14a、14b、15a、15b、16a、16b、17a、17b、18、19または20より選択される化合物、好ましくは化合物1a、またはそのエナンチオマー、ジアステレオマー、ラセミ体、または医薬上許容される塩もしくは溶媒和物を含む。
【0069】
本願発明の医薬組成物は、種々の製剤にて、例えば、医薬上許容される形態および/または塩の形態にて、ならびに種々の投与量にて提供され得る。
【0070】
一の実施態様において、本願発明の医薬組成物は、活性物質の非毒性の医薬上許容される塩を含む。適当な医薬上許容される塩は、限定されるものではないが、塩酸、フマル酸、p−トルエンスルホン酸、マレイン酸、コハク酸、酢酸、クエン酸、酒石酸、カルボン酸またはリン酸で形成される塩などの酸付加塩を包含する。アミン基の塩はまた、アミノ窒素原子がアルキル、アルケニル、アルキニルまたはアラルキル部分などの適当な有機基を担持する第四級アンモニウム塩を含む。さらには、一般式Iの化合物が酸性部分を担持する場合、その適当な医薬上許容される塩はまた、アルカリ金属塩、例えばナトリウムまたはカリウム塩、およびアルカリ土類金属塩、例えばカルシウムまたはマグネシウム塩などの金属塩を包含しうる。
【0071】
本願発明の医薬上許容される塩は、慣用的手段により、例えば、活性物質の遊離塩基形態を1当量以上の適当な酸と、塩が不溶性である溶媒または媒体中で、または真空でもしくは凍結乾燥させることで除去される水などの溶媒中で反応させることにより、あるいは適当なイオン交換樹脂で存在する塩のアニオンをもう一つ別のアニオンと交換することにより形成されてもよい。
【0072】
本願発明は活性物質の溶媒和物ならびにその塩、例えば溶媒和物を包含する。
【0073】
本願発明により得られる医薬組成物は、慣用的手段により、例えば、Remington: The Science and Practice of Pharmacy、19th Ed.、1995に記載されるように調製されてもよい。該組成物は、例えば、活性物質を、均一かつ親密に、液体担体と、もしくは微粉化固体担体と、またはその両方と連結させ、次に必要ならば、生成物を所望の製剤に成型することにより調製され得る。該組成物は液体、固体または半固体形態であってもよく、さらに医薬上許容される充填剤、担体、希釈体またはアジュバント、および他の不活性成分および賦形剤を含んでもよい。
【0074】
組成物はいずれか適当な投与経路に処方され得るが、非経口投与、例えば静脈内、動脈内、筋肉内、皮下内または腹腔内投与用に、ならびに吸入用の処方化されるのが好ましい。投与量は患者の状態に応じて変化し、開業医により適当であると考えられるものとして決定されるであろう。個々の実施態様において、投与量は0.001−20mg/kg、好ましくは0.01−15mg/kg、より好ましくは0.1−10mg/kg、さらにより好ましくは0.1−5mg/kgである。本願発明の医薬組成物は、特にPHの治療または予防に用いられる場合、継続的に、毎日、一日に2回、一日に3回または一日に4回、および/または該症状に伴う徴候が始まってから種々の期間、例えば、数週間、数ヶ月、数年または数十年の間投与されてもよい。
【0075】
本願発明の医薬組成物は滅菌注射性の水性または油性懸濁液の形態であってもよく、適当な分散剤、湿潤剤または懸濁化剤を用いて既知の技術に従って処方されてもよい。滅菌注射製剤は、非毒性の非経口的に許容される希釈剤または溶媒中の滅菌注射性の溶液または懸濁液でもある。利用が許容され得るビヒクルおよび溶媒は、限定されるものではないが、水、リンガー溶液および生理食塩水を包含する。
【0076】
本願発明の医薬組成物は、それが吸入用に処方される場合、計量吸入器、乾燥粉末吸入器、液体噴霧器、噴霧器、熱吸入器、電気流体力学的噴霧器などを用いて投与されてもよい。個々の吸入方法および装置は、限定されないが、米国特許第5,277,195号、第5,320,094号、第5,327,883号、第5,364,838号、第5,404,871号、第5,419,315号、第5,492,112号、第5,506,203号、第5,518,998号、第5,558,085号、第5,577,497号、第5,622,166号、第5,645,051号、第5,654,007号、第5,655,523号、第5,658,878号、第5,661,130号、第5,672,581号、第5,743,250号、第5,780,014号、第6,060,069号、第6,238,647号、第6,241,969号、第6,335,316号、第6,616,914号および第7,678,364号;米国特許出願公開番号20020006901;および国際特許出願公開番号WO95/24183、WO96/32149およびWO98/33480に開示される方法および装置を包含する。
【0077】
「MMAD」および「MMEAD」なる略語は当該分野にて周知であり、各々、「空気動力学的中央粒子径」および「空気動力学的等価中央粒子径(mass median equivalent aerodynamic diameter)」を示し、それらは実質的に均等である。粒子の「空気動力学的に等価な」大きさは、実際の密度または形状に関係なく、粒子として同じ空気動力学的挙動を示す単位密度の球体の径である。MMADは、通常、粒径を高速気流中での空気動力学的挙動の関数として測定する、カスケードインパクターを用いて測定される。中央粒径は、累積分布データを線形回帰分析に付すことで得られる。一の実施態様において、吸入装置は小さな粒子、例えば、約10μm未満のMMADを有する粒子を送達する。
【0078】
吸入装置は、使用が容易であり、持ち運びが便利なように十分に小型であり、複数回投与が可能であり、そして耐久性があるという意味で、実践的であることが好ましい。限定されるものではないが、市販されている吸入装置の例として、Turbohaler(Astra、Wilmington、Del.)、Rotahaler(Glaxo、Research Triangle Park、N.C.)、Diskus(Glaxo、Research Triangle Park、N.C.)、Ultravent噴霧器(Mallinckrodt)、Acorn II噴霧器(Marquest Medical Products、Totowa、N.J.)およびVentolin計量吸入器(Glaxo、Research Triangle Park、N.C.)が挙げられる。
【0079】
本願発明の組成物の製剤、ならびに製剤の送達量および単回用量の投与期間は、とりわけ、利用される吸入装置の型に依存する。噴霧器などのエアロゾル送達系では、投与頻度および該系を動かす時間は、主に、エアロゾル中の活性物質の濃度に依存し、より高濃度の活性物質を含有する噴霧溶液でより短い投与期間が選択され得る。計量吸入器などの装置はより高いエアロゾル濃度を生成することができ、かくして所望量の活性物質を送達するのに、時間を短くして操作され得る。乾燥粉末吸入器などの装置は、単回投与用の用量を決定する、所定量の物質が、該装置より放出されるまで、活性物質を送達する。活性物質の製剤は選択された吸入装置で所望の粒径が得られるように選択される。
【0080】
乾燥粉末の生成は、典型的には、スクレーパーブレイドまたはエアブラストなどの方法を用い、活性物質の固体製剤から粒子を生成することでなされる。該粒子は、一般に、容器の中で造られ、次にキャリア気流を介して患者の肺に移される。典型的には、流通している乾燥粉末吸入器で、固体を粉砕する応力および気流は、患者の吸入によってのみ得られる。一の適当な乾燥粉末吸入器がTurbohaler(Astra、Wilmington、Del.)である。
【0081】
活性物質を乾燥粉末吸入器より投与するための製剤は、典型的には、該活性物質ならびに充填剤、緩衝剤、担体および/または賦形剤を含有する微細化乾燥粉末を包含する。付加的な添加剤が、例えば、特定の粉末吸入器より送達するのに必要とされる粉末を希釈するために;該製剤の処理を容易にするために;該製剤に有利な粉末特性を付与するために;該粉末の吸入装置からの分散を容易にするために;該製剤を安定化するために;および/または該製剤に味を付けるために、該製剤に添加され得る。典型的な添加剤の例が、限定されるものではないが、単糖、二糖および多糖類;糖アルコールおよびラクトース、グルコース、ラフィノース、メレジトース、ラクチトール、マルチトール、トレハロース、シュークロース、マンニトール、スターチまたはその組み合わせなどの他のポリオール;およびソルビトール、ジホスファチジルコリンまたはレシチンなどの界面活性剤を包含する。
【0082】
ある種の実施態様において、活性物質を含む噴霧は、活性物質の懸濁液または溶液を加圧下でノズルを推し進めることで生成され得る。ノズルの大きさおよび配置、加えられる圧力、液体供給速度は、所望の出力および粒径が得られるように選択される。エレクトロスプレはキャピラリーまたはノズル供給との関連で、電場により生成され得る。噴霧器での使用に適する製剤は、活性物質を水溶液中に約1−20mg/mlの濃度で含みうる。該製剤は、賦形剤、緩衝剤、等張性剤、保存剤、界面活性剤および/または亜鉛などの添加剤を含みうる。圧縮空気源を用いてオリフィスを通して高速空気ジェットを作り出す、ジェット噴霧器、または超音波噴霧器などの噴霧器により活性物質は投与され得る。ジェットまたは超音波のいずれかの噴霧器での使用に適する活性物質の製剤は、典型的には、活性物質を、所望により賦形剤、緩衝剤、等張性剤、保存剤、界面活性剤および/または亜鉛などの添加剤を含む。該製剤はさらに、活性物質を安定化するための賦形剤または成分、例えば、緩衝剤、還元剤、バルク蛋白または炭水化物を含み得る。バルク蛋白、界面活性剤、炭水化物および他の添加剤は、活性物質を処方するのに有用であり、上記したように用いることができる。
【0083】
計量吸入装置にて、活性物質は噴射剤、賦形剤および/または他の添加剤と一緒になって一の容器中に液化圧縮気体を含む混合物として含有される。
【0084】
本願発明の医薬組成物は、非経口投与以外の投与経路用に処方される場合、経口的使用に適する形態、例えば錠剤、トローチ、ロゼンジ、水性または油性懸濁液、分散性粉末または顆粒、エマルジョン、ハードまたはソフトカプセル、あるいはシロップまたはエリキシルであってもよい。経口使用を意図とする組成物は、医薬組成物の製造用にて当該分野にて公知の方法にしたがって調製されてもよく、さらには調剤学的に滑らかで口当たりのよい製剤を提供するために、甘味剤、矯味矯臭剤、着色剤および保存剤より選択される1または複数の物質を含んでもよい。錠剤は活性物質を錠剤の製造に適する非毒性の医薬上許容される賦形剤と混合して含有する。これらの賦形剤は、例えば、炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム、ラクトース、リン酸カルシウムまたはリン酸ナトリウムなどの不活性な希釈剤;顆粒化剤および崩壊剤、例えば、トウモロコシ澱粉またはアルギン酸;結合剤、例えば、澱粉、ゼラチンまたはアカシア;および滑沢剤、例えばステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸またはタルクであってもよい。錠剤は被覆されていないか、または消化管での崩壊および吸収を遅らせ、それにより長期にわたって持続的作用を提供するように既知の方法を利用して被覆されていてもよい。例えば、モノステアリン酸グリセリルまたはジステアリン酸グリセリルなどの遅延物質を利用してもよい。また、米国特許第4,256,108号、第4,166,452号および第4,265,874号に記載される方法を用いて被覆し、放出を制御するための浸透圧療法の錠剤を形成してもよい。本願発明の医薬組成物はまた、水中油型エマルジョンの形態であってもよい。
【0085】
本願発明の医薬組成物は活性物質の放出を制御するために処方されてもよい。かかる組成物は、放出制御マトリックスとして、例えば可溶性活性物質の放出が、親水性ポリマーを溶解液(インビトロ)または胃腸液(インビボ)と接触させて膨潤させた後に形成されるゲルを通して活性物質を拡散させることで調節される、放出制御マトリックス錠として処方されてもよい。かかるゲルを形成する能力を有するものとして多くのポリマー、例えばセルロース誘導体、特にヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、メチルセルロースまたはメチルヒドロキシプロピルセルロースなどのセルロースエーテルが記載されており、その中でも、商用グレードの異なるこれらエーテルはかなり高い粘度を示すものである。他の形状において、組成物はマイクロカプセル化された剤形にて放出制御するように処方された活性物質を含み、そこでは活性物質の小さいな液滴がコーティングまたは膜で囲われ、数マイクロメーターないし数ミリメーターの範囲にある粒子を形成する。
【0086】
もう一つ別の意図とする製剤は、生分解性ポリマーを基礎とする、デポー系であり、ポリマーが分解すると、活性物質がゆっくりと放出される。最も一般的な種類の生分解性ポリマーが、乳酸、グリコール酸またはその組み合わせより調製される加水分解に不安定なポリマー、例えばポリ(D,L−ラクチド)(PLA)、ポリ(グリコリド)(PGA)およびコポリマー ポリ(D,L−ラクチド−コ−グリコリド)(PLG)である。
【0087】
さらにもう一つ別の態様において、本願発明は、PHの予防、治療または管理に用いるための、上記した一般式Iの化合物、あるいはそのエナンチオマー、ジアステレオマー、ラセミ体、または医薬上許容される塩もしくは溶媒和物を提供する。
【0088】
もう一つ別の態様において、本願発明は、PHの予防、治療または管理用の医薬組成物を製造するための、上記した一般式Iの化合物、あるいはそのエナンチオマー、ジアステレオマー、ラセミ体、または医薬上許容される塩もしくは溶媒和物の使用に関する。
【0089】
水難溶性薬物は多くの疾患の治療のための鍵となることが多い。かくして、体内での溶解度およびバイオアベイラビリティを改善するためにかかる薬物を処方する方法を生み出すことは科学者にとって達成が困難な仕事であり、課題でもある。水不溶性薬物を含むナノ粒子製剤が、例えば米国特許公開番号2008/0187595に開示されており、それは治療的な活性な物質を細胞に、特に癌細胞に送るためのナノ粒子含有の組成物を開示する。国際特許公開番号WO2009/126938は、薬物、例えば疎水性薬物と、キャリア蛋白を含む、ナノ粒子とからなるナノ粒子を含む組成物を提供する。薬物を送達するための粒子の製造方法は、例えば国際特許公開番号WO2010/036211および米国特許公開番号2009/0196933にて提供される。国際特許公開番号WO2005/102507は、相変換方法により製造された水中油型ナノエマルジョンよりナノ粒子を製造する方法を提供する。国際特許公開番号WO2008/032327は、出典明示により本願明細書の一部とされ、再分散性粉末または水性分散液の形態の、水不溶性有機化合物のナノ粒子、およびかかるナノ粒子のマイクロエマルジョンからの製法を開示する。これらの文献はいずれも、NOドナー部分およびROS分解触媒部分の両方を有する化合物を含むナノ粒子を教示も示唆もしていない。
【0090】
本願明細書に特に具体的に記載される化合物1aなどの一般式Iの化合物が酢酸エチルおよびDMSOに可溶性であるのに対して、該化合物はヒトに投与するのに適する非毒性の水性液体に不溶である。したがって、かかる化合物をヒト使用に適合する液体中で提供する方法は、静脈内、皮下または気管内経路によって臨床的に送達することを可能とするため望ましい。以下、実施例2−4は、化合物1aを含むナノ粒子からなる分散性粉末の製造を示す。これら粉末の製造には、化合物1aと、1または複数の界面活性剤と、所望によりシュークロースを一緒にした水中油型ミクロエマルジョンをまず調製し、次に凍結乾燥させた。調製された分散性粉末は、約18−25(重量)%の化合物1aおよび約60−80(重量)%の界面活性剤を含有し、水および5重量%までのデキストロースの等張溶液に容易に分散し、0.22μフィルターを介して容易に滅菌濾過され、齧歯動物に非経口注射された場合に問題なく許容される、2mg/mlまでの活性物質の安定した半透明の懸濁液を生成した。得られたナノ粒子の大部分は、光散乱測定における数の分散により測定した場合に、その平均の大きさは80nmであった。かかるナノ粒子は通常のマイクロ粒子よりも優れた溶解速度および溶解度を有し、かくして活性物質のバイオアベイラビリティを強化し得る。
【0091】
さらなる態様において、本願発明は、活性物質、すなわち上記した一般式Iの化合物、あるいはそのエナンチオマー、ジアステレオマー、ラセミ体、または医薬上許容される塩もしくは溶媒和物を含むナノ粒子からなる水分散性粉末を提供する。
【0092】
本願明細書にて用いられる「ナノ粒子」または「ナノ微粒子」なる語は平均粒径が約1nmないし約1000nmである粒子をいう。好ましくは、ナノ粒子は直径が約350nm以下であり、より好ましくは300nm以下であり、最も好ましくは約250nm以下である。詳細な実施態様において、ナノ粒子は直径が10−500nm、20−350nm、30−300nm、40−250nmまたは50−200nmの範囲にある。
【0093】
本願明細書に用いられる「溶解速度」なる語は、溶質の溶媒中での相対的溶解速度をいい、より具体的には、溶質を溶媒に溶解させるのに必要とされる、特定の割合の溶媒と溶質を溶かすのに要する相対的時間をいう。ナノ粒子の溶解度は、分散物を0.22μフィルターを通して濾過した後の、活性物質の水溶液中濃度として定義される。本願明細書に記載されるように、ナノ粒子の形態の活性物質は、加工処理していない形態、すなわち、粒径を小さくしていない、またはその溶解度および溶解速度を増加させるように他の処理をしていない形態の同じ化合物と比較した場合に、溶解度および溶解速度を顕著に増加させ得る。特定の実施態様において、活性物質の溶解度、すなわち、0.22μフィルターで濾過した、ナノ粒子として処方されている場合の活性物質の液体中の濃度は、加工処理されていない形態の溶解度の、少なくとも約5倍、好ましくは約10倍である。他の実施態様において、ナノ粒子として処方されている場合の活性物質の溶解速度は、加工処理されていない形態の溶解速度の、少なくとも約5倍、好ましくは約10倍である。
【0094】
特定の実施態様において、本願発明の水分散性粉末は上記のナノ粒子を含み、ここで該ナノ粒子はさらに少なくとも一の界面活性剤を、所望によりヒトへの投与が許容される、ポリマー、好ましくは非架橋ポリマーを含む。個々の実施態様において、該少なくとも一の界面活性剤はカチオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、両性界面活性剤、非イオン性界面活性剤またはポリマー界面活性剤である。
【0095】
本願発明の分散性粉末中に配合される界面活性剤は、該粉末の乳化、泡沫、分散、拡散および湿潤特性を強化し、さらにはヒトへの投与が許容される、表面活性剤である。カチオン性界面活性剤の例が、限定されるものではないが、ヘキシルデシルトリメチルアンモニウムブロミドおよびヘキシルデシルトリメチルアンモニウムクロリドを包含し;アニオン性界面活性剤の例が、限定されないが、ドデシル硫酸ナトリウム、スルホコハク酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、オレイン酸ナトリウム、グリチルリチン酸アンモニウム、グリチルリチン酸ジカリウム、グリチルリチン酸ジカルシウム、コール酸塩、デオキシコール酸ナトリウムなどのデオキシコール酸塩およびその混合物を包含する;両性界面活性剤の例が、限定されないが、卵レシチンおよび大豆レシチンなどのレシチン、ジミリストイルホスファチジルコリン、ジパルミトイルホスファチジルコリンおよびジステアロイルホスファチジルコリンなどの合成飽和レシチン、ジオレイルホスファチジルコリンおよびジリノレイルホスファチジルコリンなどの合成不飽和レシチン、ペグ化リン脂質またはその混合物を包含し;非イオン性界面活性剤の例が、ポリソルベート、例えばポリエチレンソルビタンモノオレエート、エトキシ化ソルビタンエステル、ソルビタンエステル、ポリグリセロールエステル、シュークロースエステル、アルキルポリグルコシド、ポリアルキレンオキシド修飾ヘプタメチルトリシロキサン、アリルオキシポリエチレングリコールメチルエーテル、サポニンまたはその混合物を包含し;およびポリマー界面活性剤の例が、限定されないが、ポロキサマー、ポリビニルアルコール、アラビアガム、キトサンまたはその混合物を包含する。
【0096】
ポリマーの例が、限定されないが、ポリ乳酸、酢酸セルロース、メチルセルロース、ヒドロキシルプロピルメチルセルロース、ポリ(ラクチッコ−グリコール酸)、ヒドロキシルプロピル セルロースフタレート、ポリビニルピロリドン(PVP)、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ポリエチレングリコール、ポリリジン、アルギナート、およびその混合物を包含する。
【0097】
特定の実施態様において、本願発明の水分散性粉末は重量で約10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%またはそれ以上の活性物質、重量で約40%、50%、60%、70%または80%の少なくとも一の界面活性剤、および所望により重量で10%、20%、30%、40%または50%までのポリマーを含む。
【0098】
本願明細書で例示されるような特定の実施態様において、水分散性粉末は、活性物質ならびに(i)ポリエチレンソルビタンモノオレエート、大豆レシチンおよびシュークロース;(ii)デオキシコール酸ナトリウムおよび大豆レシチン;または(iii)グリチルリチン酸アンモニウムおよび大豆レシチンを含む。
【0099】
具体的な実施態様において、本願発明の水分散性粉末中に含まれる活性物質は、化合物1a、1b、2a、2b、3a、3b、4a、4b、5a、5b、6a、6b、7a、7b、8a、8b、9a、9b、10a、10b、11a、11b、12a、12b、13a、13b、14a、14b、15a、15b、16a、16b、17a、17b、18、19または20、好ましくは化合物1a、あるいはそのエナンチオマー、ジアステレオマー、ラセミ体、または医薬上許容される塩もしくは溶媒和物より選択される。
【0100】
本願発明の水分散性粉末、ならびにそれを含む水性分散液は、当該分野にて既知のいずれか適当な操作に従って、例えばWO 2008/032327に記載されるように調製され得る。
【0101】
特定の実施態様において、本願発明の水分散性粉末は、本願明細書の実施例に示されるように、すなわち、(i)活性物質、揮発性水不混和性有機溶媒、水、少なくとも一の界面活性剤、および所望によりポリマーを含む水中油型ミクロエマルジョンを調製し;および(ii)揮発性水不混和性有機溶媒および水を除去し、かくして所望の分散性粉末を形成する、工程からなる方法により調製される。具体的な実施態様において、水中油型ミクロエマルジョンは、活性物質を揮発性水不混和性有機溶媒に溶かし、有機相を形成し、該有機相を水、界面活性剤、所望によりポリマーと混合することにより調製される。他の具体的な実施態様において、揮発性水不混和性有機溶媒および水は、減圧で、凍結乾燥で、または噴霧乾燥により、同時にまたはいずれかの順序で連続して除去される。
【0102】
本願明細書にて用いられる「ミクロエマルジョン」なる語は、水中油型ならびに「その逆の」、すなわち油中水型ミクロエマルジョンの両方をいう。水中油型ミクロエマルジョンは、液滴の直径の大きさがナノメーターの範囲にある、有機相の水相中にて半透明ないし透明な分散液である。その一方で、直径がより大きな液滴の水中油型エマルジョンは熱力学的に不安定であり、および/またはその形成を誘発するのに高い剪断力を必要とし得、本願明細書にて言及される水中油型ミクロエマルジョンは熱力学的に安定しており、適当な界面活性剤、共界面活性剤、溶媒、共溶媒、水不溶性材料および水と混合すると、一般に、自発的に自己乳化する。油中水型ミクロエマルジョンは、水相の有機相中にて半透明ないし透明な分散液であり、熱力学的に安定している。
【0103】
上記した方法の工程(i)にて調製される水中油型ミクロエマルジョンは、水不溶性揮発性有機溶媒の液滴の水性媒体中分散液またはエマルジョンであり、その液滴は活性物質を溶かし、少なくとも一の界面活性剤の界面フィルムにより囲まれている油性コアを有する。乳化プロセスは水相中に分散した液滴の形成を意味する。水中油型ミクロエマルジョンは活性物質、揮発水不混和性有機溶媒、水、少なくとも一の界面活性剤、所望によりポリマーを含む。ミクロエマルジョンはさらには分散助剤、すなわち、本願発明の粉末を水相中に分散させやすくする物質、または共溶媒を含んでもよい。適当な分散助剤として、例えば、湿潤剤、崩壊剤、水可溶性ポリマー、コロイド状シリカ粒子、ショ糖、マンニトールおよびその混合物が挙げられる。
【0104】
水中油型ミクロエマルジョンを調製するために、有機相および水相が別々に調製され、次に混合される。有機相の調製には、所望により共溶媒が組み合わされていてもよい揮発性水不混和性有機溶媒に活性物質を溶かす。水相は、通常、界面活性剤および水を含む水性成分を、所望によりポリマーおよび/または分散助剤と組み合わせて、混合することにより調製される。また、界面活性剤および所望によりポリマーおよび/または分散助剤を有機相中で混合する。かかる溶解工程は自発的とすることができ、または種々の機械攪拌装置を用いて行うことができる。該溶解工程を行うための温度および時間は、必要ならば、結果の改善が得られるように調整され得る。次にそうして得られた個々の有機および水相を混合してミクロエマルジョンを得、それは攪拌などの簡単な機械的手段により自発的に形成される。
【0105】
上記した方法の工程(i)にて用いられる揮発性水混和性有機溶媒は、活性物質を溶かすのに効果的である。さらには、該有機溶媒は使用される濃度で揮発性であり、その結果として、該方法の第二工程にて水中油型ミクロエマルジョンより除去され得る。揮発性水不混和性有機溶媒は微量にてヒトに投与するのに適するものでなければならない。適当な揮発性水不混和性有機溶媒の例は、限定されないが、酢酸n−ブチル、酢酸sec-ブチル、酢酸イソブチル、酢酸プロピル、トルエン、キシレン、R(+)−リモネン、ヘキサン、ペンタン、ヘプタンおよびその混合物を包含する。
【0106】
別法として、活性物質の溶解は、揮発性水不混和性有機溶媒を、水と混和または不混和のいずれかであり、微量にてヒトに投与するのに適する、共溶媒と一緒に用いて達成され得る。適当な共溶媒の例は、限定されないが、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、n−ペンタノール、n−ブタノール、酢酸エチル、プロピレングリコール、グリセロール、ポリエチレングリコールおよびその混合物を包含する。特定の実施態様において、共溶媒は、ミクロエマルジョンの全重量に基づいて約5ないし約30重量%の量にて存在する。
【0107】
その上さらなる態様において、本願発明は、上記した水分散性粉末および医薬上許容される担体または希釈体を含む、医薬組成物を提供する。特定の実施態様において、該組成物に含まれるナノ粒子は、一の微粒子の形態、すなわち、活性物質からなる別個の個々の凝集していない粒子の存在であり、そのため活性物質は囲まれて、組み込まれ、包埋され、カプセル化形態、ビーズ、担体、マトリックスまたは同様の送達物質にて含有、または結合されていない。特定の実施態様において、該組成物は分散性粉末、錠剤、カプセル、顆粒、ビーズ、水性分散液、エアロゾル、または懸濁液として処方される。分散性粉末は、液体形態と比べて保存期間が長く、最小のバルクおよび重量特性を有する製品を提供する。分散性粉末は、所望により、水、セイラインまたは他の等張溶液などの水性媒体と接触して水性分散液に変換され得る。具体的な実施態様において、該組成物は静脈内、筋肉内、皮下、吸入または気管内投与用である。
【0108】
水性分散組成物は、水分散性粉末の調製について上記した方法と同様の方法により調製され得る。この方法によれば、活性物質、揮発性水不混和性有機溶媒、水、少なくとも一の界面活性剤、所望によりポリマーを含む水中油型ミクロエマルジョンがまず調製され、次に揮発性水不混和性有機溶媒を除去し、所望の水性分散液を形成する。また、水中油型ミクロエマルジョンは、第一に活性物質を揮発性不混和性有機溶媒に溶かし、有機相を形成し;第二に該有機相を水、少なくとも一の界面活性剤および所望によりポリマーと混合し、自発的に水中油型ミクロエマルジョンを形成することで調製される。
【0109】
さらに別の態様において、本願発明は、その必要とする個体にてPHを予防、治療または管理する方法であって、該個体に、上記した水分散性粉末および医薬上許容される担体または希釈体を含む医薬組成物を投与することを含む、方法に関する。
【0110】
本願発明を次の実施例を用いて説明する。
実施例
材料および方法
【0111】
実験計画
成体の雄のスプレーグドーリーラット(250−350g)(3群;n=5匹/群)を、よく特徴付けられた実験モデルの肺高血圧を誘発する植物毒である、モノクロタリン(MCT;60mg/kg)を、あるいは等容量のセイライン(2ml/kg;対照)を単回皮下注射することで処置した。38日経過した後、ラットはその間に重度の肺動脈高血圧(PAH)を発症し、化合物1aの10日間にわたる投与を次のように開始した:群1(偽動物)はMCTで処置しなかった;群2はビヒクル対照を飲水にて処置された;群3は化合物1a 1.5mg/kg/日BID(一日2回)でIP経路を介して処置した;および群4は化合物1a 2mg/kg/日を飲水にて処置された。10日間の投与期間の最後に、ラットに麻酔をかけ、計器で測定し、安静時の血行動態インデックスを記録した。
【0112】
血圧測定
ラットを筋肉内注射用ケタミン(90mg/kg)およびペントバルビタールナトリウム(15mg/kg)で麻酔にかけた。気管を暴露し、ハーバードベンチレーターに接続したプラスチック管のカニューレをそれに挿入した。該動物を、1.5mlの一回換気量で100回/分の呼吸速度で室内の空気でベンチレートさせた。ポリエチレンカテーテル(PE−50)を右頸動脈に挿入し、平均全身動脈圧(SAP)を測定した。ポリビニル(PV−1)カテーテルを右頸静脈を通り右心房および心室を介して肺動脈に挿入し、平均肺動脈圧(MPAP)を測定した。血行力学変数を圧力変換器を用いて測定し、MacLab A/D変換器(AD Instruments)に記録し、Macintoshパーソナルコンピューターに格納し、表示させた。
【0113】
光学顕微鏡法
右肺下葉をホルマリン溶液で固定した。パラフィン包埋に付した後、5mmの切片をヘマトキシリンおよびエオジンで染色し、Dialux 22 Leitz(Wetziar、Germany)顕微鏡で観察した。肺線維症の評点をMasson Trichrome染色法で染色した切片について評価した。形態学的評価の場合、3つのすべての肺葉を調べた。各肺葉について、浮腫および炎症細胞を示す大きさが中程度および小さな血管を計数した。結果を、該切片にて計数される血管の総数に対する、疾患のインデックスを示す血管の割合として表す。被膜にある平滑筋の層の肥厚を示す血管の割合もまた、計数した血管の総数に対する割合として表した。
【0114】
実施例1.R100の全身および肺動脈圧におけるMCT誘発の変化についての効果、およびMCT誘発の肺血管リモデリングについての効果
【0115】
化合物1aの長期にわたる投与(10日間)は、肺高血圧(PH)の上昇を下げるのに極めて効果的であった。図1に示されるように、MCTおよびビヒクル対照(群2)で処理したラットの平均肺動脈圧(MPAP)は擬似処理ラット(群1)と比べて顕著に上昇したのに対して、化合物1aでの長期処理はMCT誘発のMPAPの上昇を顕著に約50%(群3および4)まで減少させた。
【0116】
化合物1aは、体重または活性レベルに対する作用が無いと記載されるように、十分に耐性であった。
【0117】
表1:化合物1aは肺におけるMCT誘発の組織学的変化に影響を及ぼす
【表5】

群1(擬似);群2(MCT+ビヒクル、PO);群3(MCT+化合物1a、1.5mg/kg/日 BID、IP);群4(MCT+化合物1a、2mg/kg/日 BID、PO)
切片にて計数された血管の総数に対する疾患のインデックスを示す血管の割合として示される
【0118】
表1に要約され、図2A−2Cに示されるように、擬似処理ラットからの肺組織にて、組織学的変化は観察されなかった。MCTで処理したラットの肺のヘマトキシリン−エオジン染色は、広範な肺胞損傷、肺胞中隔の肥厚した間質浮腫、血管周囲の浮腫、および炎症細胞浸潤を示した。肺浮腫の証拠はなかったが、肺のいくつかの領域は炎症性細胞浸潤に関連する線維病巣を発展させた(リンパ球および顆粒細胞)。血管平滑筋の層は影響を受け、外膜および血管周囲の浮腫の徴候があった。小肺動脈は線維領域にて筋肉化の明らかな徴候を示さなかった(図2A)。化合物1aでの長期処理(群3および4)は、ビヒクル対照(群2)と比べて肺胞損傷、炎症細胞浸潤および血管平滑筋肥大を顕著に減少させた。腸用化合物1aを用いる長期処理(図2C)は、IPでの処理(図2B)よりもわずかに保護作用を示した。該結果は、化合物1aが組織学的損傷を軽減し、MPAPの上昇を50%まで小さくしたことを示す。この知見は、化合物1a療法の開始がMCTを注射した38日後に遅らされており、すなわちPHおよび肺損傷が確立した時点で療法が開始されている状況のものである。現在市販されているエンドセリン受容体アンタゴニストであるボセンタン(bosentan)は、この化合物1aの実験のように、療法の開始を同等に遅らせた場合、この同じ齧歯動物実験システムにて効果がなかったと、文献で報告されている。
【0119】
実施例2.化合物1aのナノ粒子を含む分散性粉末の調製
【0120】
以下の材料を指示された重量%割合で有する水中油型ミクロエマルジョンを調製した:ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート(Tween-80TM;非イオン性界面活性剤;11.3%)、大豆レシチン(界面活性剤;11.3%)、酢酸n−ブチル(12.1%)、エタノール(19.3%)、シュークロース(6.5%)、水またはリン酸緩衝液 pH=7(33.0%)および化合物1a(6.5%)。
【0121】
ミクロエマルジョンを調製するために、必要な量の化合物1aをまず酢酸n−ブチルおよびエタノールの混合液に溶かし、次にTween-80および大豆レシチンを得られた溶液に分散させ、有機相を調製した。その後で、シュークロースを水またはリン酸緩衝液のいずれかに溶かし、水相を調製し、ついで水相および有機相を一緒に混合し、透明なミクロエマルジョンが形成されるまで激しく攪拌した。
【0122】
得られたミクロエマルジョンを凍結乾燥させ、得られた分散性粉末は18.3重量%の化合物1a、ならびに18.3重量%のシュークロース、31重量%のレシチンおよび31重量%のTween-80を含んだ。該粉末は水またはデキストロースの等張溶液(5重量%)に5重量%まで容易に分散した。得られたナノ粒子の大部分は、光散乱測定における数の分散により測定した場合に、その平均の大きさは80nmであった。図3A−3Bは、水(3A)およびデキストロース等張溶液(3B)に分散させた場合に、調製される粉末の粒径分布を表すグラフである。
【0123】
実施例3.化合物1aのナノ粒子を含む分散性粉末の調製
【0124】
以下の材料を指示された重量%割合で有する水中油型ミクロエマルジョンを調製した:デオキシコール酸ナトリウム(界面活性剤;10%)、大豆レシチン(界面活性剤;10%)、酢酸n−ブチル(15%)、sec−ブチルアルコール(20%)、水またはリン酸緩衝液 pH=7(40%)および化合物1a(5%)。
【0125】
ミクロエマルジョンを調製するために、必要な量の化合物1aをまず酢酸n−ブチルおよびsec−ブチルアルコールの混合液に溶かし、次にデオキシコール酸ナトリウムおよび大豆レシチンを得られた溶液に分散させ、有機相を調製した。その後で、水(または緩衝液)を該有機相に加え、ついで該系を透明なミクロエマルジョンが形成されるまで激しく攪拌した。
【0126】
得られたミクロエマルジョンを凍結乾燥させ、得られた分散性粉末は20重量%の化合物1a、ならびに40重量%のレシチンおよび40重量%のデオキシコール酸ナトリウムを含んだ。該粉末は水またはデキストロースの等張溶液(5重量%)に5重量%まで容易に分散した。
【0127】
実施例4.化合物1aのナノ粒子を含む分散性粉末の調製
【0128】
以下の材料を指示された重量%割合で有する水中油型ミクロエマルジョンを調製した:グリチルリチン酸アンモニウム(界面活性剤;10%)、大豆レシチン(界面活性剤;10%)、酢酸n−ブチル(14%)、sec−ブチルアルコール(10%)、水またはリン酸緩衝液 pH=7(50%)および化合物1a(6%)
【0129】
ミクロエマルジョンを調製するために、必要な量の化合物1aをまず酢酸n−ブチルおよびsec−ブチルアルコールの混合液に溶かし、次にグリチルリチン酸アンモニウムおよび大豆レシチンを得られた溶液に分散させ、有機相を調製した。その後で、水(または緩衝液)を該有機相に加え、ついで該系を透明なミクロエマルジョンが形成されるまで激しく攪拌した。
【0130】
得られたミクロエマルジョンを凍結乾燥させ、得られた分散性粉末は23重量%の化合物1a、ならびに38.5重量%のレシチンおよび38.5重量%のグリチルリチン酸アンモニウムを含んだ。該粉末は水またはデキストロースの等張溶液(5重量%)に5重量%まで容易に分散した。
【0131】
参考文献
Galie N.、Torbicki A.、Barst R.、Dartevelle P.、Haworth S.、Higenbottam T.、Olschewski H.、Peacock A.、Pietra G.、Rubin L.J.、Simonneau G.、Priori S.G.、Garcia M.A.、Blanc J.J.、Budaj A.、Cowie M.、Dean V.、Deckers J.、Burgos E.F.、Lekakis J.、Lindahl B.、Mazzotta G.、McGregor K.、Morais J.、Oto A.、Smiseth O.A.、Barbera J.A.、Gibbs S.、Hoeper M.、Humbert M.、Naeije R.、Pepke-Zaba J.、Guidelines on diagnosis and treatment of hypertension. The task force on diagnosis and treatment of pulmonary arterial hypertension of the European Society of Cardiology、Eur Heart J.、2004、25、2243-2278
Mc CroryおよびLewis、Methodology and grading for pulmonary hypertension evidence review and guideline development、Chest、2004、126、11-13
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【特許請求の範囲】
【請求項1】
その必要とする個体での、肺高血圧(PH)の予防、治療または管理方法であって、該個体に治療的に有効な量の一般式I:
【化1】


[式中、
は、各々独立して、H、−OH、−COR、−COOR、−OCOOR、−OCON(R、−(C−C16)アルキレン−COOR、−CN、−NO、−SH、−SR、−(C−C16)アルキル、−O−(C−C16)アルキル、−N(R、−CON(R、−SO、−S(=O)R、または式:−X−X−Xで示されるNOドナー基であって、ここでXは存在しないか、または−O−、−S−または−NH−より選択され;Xは存在しないか、または1または複数の−ONO基で置換されていてもよく、さらに一般式D:
【化2】


で示される部分により置換されていてもよい(C−C20)アルキレンであり;およびXは−NOまたは−ONOである、ただし少なくとも一のR基はNOドナー基であり;
は、各々独立して、(C−C16)アルキル、(C−C16)アルケニルまたは(C−C16)アルキニルから選択され;
は、各々独立して、H、(C−C)アルキル,(C−C10)シクロアルキル、4−12員のヘテロシクリルまたは(C−C14)アリールより選択され、その水素以外の各々は、−OH、−COR、−COOR、−OCOOR、−OCON(R、−(C−C)アルキレン−COOR、−CN、−NO、−SH、−SR、−(C−C)アルキル、−O−(C−C)アルキル、−N(R、−CON(R、−SOまたは−S(=O)Rで置換されていてもよく;
は、各々独立して、H、(C−C)アルキル、(C−C10)シクロアルキル、4−12−員のヘテロシクリルまたは(C−C14)アリールより選択され;および
nおよびmは、各々独立して、1ないし3の整数である]
で示される化合物、あるいはそのエナンチオマー、ジアステレオマー、ラセミ体、または医薬上許容される塩もしくは溶媒和物を投与することを含む、方法。
【請求項2】
が、各々独立して、H、−COOR、−CON(RまたはNOドナー基より選択され;RがHである、請求項1記載の方法。
【請求項3】
が、各々独立して、(C−C)アルキル、好ましくは(C−C)アルキル、より好ましくは(C−C)アルキル、最も好ましくはメチルである、請求項1記載の方法。
【請求項4】
が同一である、請求項3記載の方法。
【請求項5】
NOドナー基にて、Xが存在しないか、または−O−であり;Xが存在しないか、または(C−C20)アルキレン、好ましくは(C−C)アルキレン、より好ましくは(C−C)アルキレン、最も好ましくはメチレンであり;Xが−NOまたは−ONO、好ましくは−ONOであって;該アルキレンが一または複数の−ONO基で置換されていてもよく、さらには一般式Dの部分で置換されていてもよい、請求項1記載の方法。
【請求項6】
(i)nが1であり;ピロリジン環の3または4位にある炭素原子の1または2個がNOドナー基に連結し;(ii)nが2であり;ピペリジン環の3ないし5位にある炭素原子の1個または複数がNOドナー基に連結し;または(iii)nが3であり;アゼパン環の3ないし6位にある炭素原子の1個または複数がNOドナー基に連結している、請求項1ないし5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
化合物が1個より多くの同一または異なるNOドナー基を含む、請求項6記載の方法。
【請求項8】
NOドナー基の各々が、独立して、式:−(C−C)アルキレン−ONOで示され、好ましくは−(C−C)アルキレン−ONO、より好ましくは−CH−ONOまたは−O−(C−C)アルキレン−ONOであり、ここで該アルキレンは1または複数の−ONO基で置換されていてもよく;あるいは−ONOである、請求項6記載の方法。
【請求項9】
nが1で、Rの各々がメチルであって;
(i)ピロリジン環の3位にある炭素原子に連結したRがNOドナー基、−CH−ONOまたは−ONOであり;ピロリジン環の4位にある炭素原子に連結したRがHである(本願明細書中、各々、化合物1aおよび1bと称する);または
(ii)ピロリジン環の3および4位にある炭素原子に連結したRの各々がNOドナー基、−CH−ONOまたはONOである(本願明細書中、各々、化合物2aおよび2bと称する)、ところの請求項8記載の方法。
【請求項10】
nが2で、Rの各々がメチルであって;
(i)ピペリジン環の3位にある炭素原子に連結したRがNOドナー基、−CH−ONOまたは−ONOであり;ピペリジン環の4および5位にある炭素原子に連結したRの各々がHである(本願明細書中、各々、化合物3aおよび3bと称する);
(ii)ピペリジン環の4位にある炭素原子に連結したRがNOドナー基、−CH−ONOまたは−ONOであり;ピペリジン環の3および5位にある炭素原子に連結したRの各々がHである(本願明細書中、各々、化合物4aおよび4bと称する);
(iii)ピペリジン環の3および4位にある炭素原子に連結したRの各々がNOドナー基、−CH−ONOまたは−ONOであり;およびピペリジン環の5位にある炭素原子に連結したRがHである(本願明細書中、各々、化合物5aおよび5bと称する);
(iv)ピペリジン環の3および5位にある炭素原子に連結したRの各々がNOドナー基、−CH−ONOまたは−ONOであり;およびピペリジン環の4位にある炭素原子に連結したRがHである(本願明細書中、各々、化合物6aおよび6bと称する);
(v)ピペリジン環の3ないし5位の炭素原子に連結したRの各々がNOドナー基、−CH−ONOまたは−ONOである(本願明細書中、各々、化合物7aおよび7bと称する)、
ところの請求項8記載の方法。
【請求項11】
nが3で、Rの各々がメチルである化合物であって;
(i)アゼパン環の3位にある炭素原子に連結したRがNOドナー基、−CH−ONOまたは−ONOであり;アゼパン環の4ないし6位にある炭素原子に連結したRの各々がHである(本願明細書中、各々、化合物8aおよび8bと称する);
(ii)アゼパン環の4位にある炭素原子に連結したRがNOドナー基、−CH−ONOまたは−ONOであり;アゼパン環の3、5および6位にある炭素原子に連結したRの各々がHである(本願明細書中、各々、化合物9aおよび9bと称する);
(iii)アゼパン環の3および4位にある炭素原子に連結したRの各々がNOドナー基、−CH−ONOまたは−ONOであり;アゼパン環の5および6位にある炭素原子に連結したRの各々がHである(本願明細書中、各々、化合物10aおよび10bと称する);
(iv)アゼパン環の3および5位にある炭素原子に連結したRの各々がNOドナー基、−CH−ONOまたは−ONOであり;アゼパン環の4および6位にある炭素原子に連結したRの各々がHである(本願明細書中、各々、化合物11aおよび11bと称する);
(v)アゼパン環の3および6位にある炭素原子に連結したRの各々がNOドナー基、−CH−ONOまたは−ONOであり;アゼパン環の4および5位にある炭素原子に連結したRの各々がHである(本願明細書中、各々、化合物12aおよび12bと称する);
(vi)アゼパン環の3ないし5位にある炭素原子に連結したRの各々がNOドナー基、−CH−ONOまたは−ONOであり;アゼパン環の6位にある炭素原子に連結したRがHである(本願明細書中、各々、化合物13aおよび13bと称する);
(vii)アゼパン環の3、4および6位にある炭素原子に連結したR基の各々がNOドナー基、−CH−ONOまたは−ONOであり;アゼパン環の5位にある炭素原子に連結したRがHである(本願明細書中、各々、化合物14aおよび14bと称する);または(viii)アゼパン環の3ないし6位にある炭素原子に連結したRの各々がNOドナー基、−CH−ONOまたは−ONOである(本願明細書中、各々、化合物15aおよび15bと称する)、
ところの請求項8記載の方法。
【請求項12】
nが1であり;Rの各々がメチルであって;ピロリジン環の3位にある炭素原子に連結したRがNOドナー基、−CH−ONOまたは−ONOであり;およびピロリジン環の4位にある炭素原子に連結したRが−CONHである(本願明細書中、各々、化合物16aおよび16bと称する)
ところの請求項8記載の方法。
【請求項13】
nが2であり;Rの各々がメチルであって;ピペリジン環の3位にある炭素原子に連結したRがNOドナー基、−CH−ONOまたは−ONOであり;ピペリジン環の4位にある炭素原子に連結したRが−COOHであり;ピペリジン環の5位にある炭素原子に連結したRがHである(本願明細書中、各々、化合物17aおよび17bと称する)
ところの請求項8記載の方法。
【請求項14】
nが2であり;Rの各々がメチルであって;ピペリジン環の4位にある炭素原子に連結したRがNOドナー基、−O−CH−CH(ONO)CH−ONOであり;ピペリジン環の3および5位にある炭素原子に連結したRの各々がHである(本願明細書中、化合物18と称する)
ところの請求項8記載の方法。
【請求項15】
NOドナー基の各々が、独立して、式:−O−(C−C)アルキレン−ONOで示される基であり、ここで該アルキレンは一般式Dの部分で置換されており、さらには1または複数の−ONO基で置換されていてもよい、請求項6記載の方法。
【請求項16】
nが2であり;ピペリジン環の3および5位にある炭素原子に連結したRの各々がHであって;(i)ピペリジン環の4位にある炭素原子に連結したRがNOドナー基、−O−CH−CH(ONO)−CH(ONO)−CH−Dであり、ここで一般式Dにて、mが2であり、酸素原子がピペリジン環の4位にある炭素原子に連結しており;Rが、各々、メチルである(本願明細書中、化合物19という);または(ii)ピペリジン環の4位にある炭素原子に連結したRがNOドナー基、−O−CH−CH(ONO)−CH−Dであり、ここで一般式Dにて、mが2であり、酸素原子がピペリジン環の4位にある炭素原子に連結しており;Rが、各々、メチルである(本願明細書中、化合物20という)
ところの請求項15記載の方法。
【請求項17】
化合物1a、あるいはそのエナンチオマー、ジアステレオマー、ラセミ体、または医薬上許容される塩もしくは溶媒和物が投与される、請求項9記載の方法。
【請求項18】
PHが肺動脈高血圧(PAH)、左心疾患に付随するPH、肺疾患および/または低酸素血症に付随するPH、慢性気管支炎および/または塞栓症によるPHより選択される、請求項1〜17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
PAHが、突発性PAH;家族性PAH;膠原血管病に伴うPAH;先天性心障害に伴うPAH;HIV感染に伴うPAH;静脈または毛細血管疾患に伴うPAH;甲状腺障害、グリコーゲン貯蔵疾患、ゴーシェ病、異常ヘモグロビン症または骨髄増殖性障害に伴うPAH;煙吸収または煙吸収と火傷の組み合わせに伴うPAH;誤嚥に伴うPAH;換気障害に伴うPAH;肺炎に伴うPAH;成人呼吸窮迫症候群に伴うPAH;新生児の持続性PH;未熟児の新生児性呼吸窮迫症候群;新生児胎便吸引;新生児横隔膜ヘルニア;肺毛細血管腫症;または肺静脈閉塞性疾患である、請求項18記載の方法。
【請求項20】
左心疾患が左側心房または心室疾患、または弁膜症であり;肺疾患が慢性閉塞性肺疾患、間質性肺疾患、睡眠呼吸障害、肺胞低換気障害、高高度への常時暴露、発達性肺異常であり;および慢性気管支炎および/または塞栓症が遠位または近位肺動脈の血栓塞栓性閉塞、または非血栓性肺塞栓症である、請求項18記載の方法。
【請求項21】
請求項1に記載の一般式Iの化合物、あるいはそのエナンチオマー、ジアステレオマー、ラセミ体、または医薬上許容される塩もしくは溶媒和物、および医薬上許容される担体を含む、肺高血圧の予防、治療または管理のための医薬組成物。
【請求項22】
化合物が化合物1a、1b、2a、2b、3a、3b、4a、4b、5a、5b、6a、6b、7a、7b、8a、8b、9a、9b、10a、10b、11a、11b、12a、12b、13a、13b、14a、14b、15a、15b、16a、16b、17a、18b、18、19または20、好ましくは化合物1a、あるいはそのエナンチオマー、ジアステレオマー、ラセミ体、または医薬上許容される塩もしくは溶媒和物である、請求項21記載の医薬組成物。
【請求項23】
静脈内、筋肉内、皮下または吸入投与用の請求項21記載の医薬組成物。
【請求項24】
肺高血圧の予防、治療または管理に用いるための、請求項1に記載の一般式Iの化合物、あるいはそのエナンチオマー、ジアステレオマー、ラセミ体、または医薬上許容される塩もしくは溶媒和物。
【請求項25】
肺高血圧の予防、治療または管理に用いるため医薬組成物の調製における、請求項1に記載の一般式Iの化合物、あるいはそのエナンチオマー、ジアステレオマー、ラセミ体、または医薬上許容される塩もしくは溶媒和物の使用。
【請求項26】
請求項1に記載の一般式Iの化合物、あるいはそのエナンチオマー、ジアステレオマー、ラセミ体、または医薬上許容される塩もしくは溶媒和物を含む、ナノ粒子からなる水分散性粉末。
【請求項27】
ナノ粒子がさらに少なくとも一の界面活性剤を含み、所望によりポリマーを含んでもよい、請求項26記載の分散性粉末。
【請求項28】
界面活性剤がカチオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、両性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、ポリマー界面活性剤であり;該ポリマーがポリ乳酸、酢酸セルロース、メチルセルロース、ヒドロキシルプロピルメチルセルロース、ポリ(ラクチッコ−グリコール酸)、ヒドロキシルプロピル セルロース フタレート、ポリビニルピロリドン(PVP)、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ポリエチレングリコール、ポリリジン、アルギナートまたはその混合物である、請求項27記載の分散性粉末。
【請求項29】
カチオン性界面活性剤がヘキシルデシルトリメチルアンモニウムブロミドまたはヘキシルデシルトリメチルアンモニウムクロリドであり;アニオン性界面活性剤がドデシル硫酸ナトリウム、スルホコハク酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、オレイン酸ナトリウム、グリチルリチン酸アンモニウム、グリチルリチン酸二カリウム、グリチルリチン酸二カルシウム、コール酸塩、デオキシコール酸ナトリウムなどのデオキシコール酸塩またはその混合物であり;両性界面活性剤は卵レシチンおよび大豆レシチンなどのレシチン、ジミリストイルホスファチジルコリン、ジパルミトイルホスファチジルコリンおよびジステアロイルホスファチジルコリンなどの合成飽和レシチン、ジオレイルホスファチジルコリンおよびジリノレイルホスファチジルコリンなどの合成不飽和レシチン、ペグ化リン脂質またはその混合物であり;非イオン性界面活性剤がポリソルベート、例えばポリエチレンソルビタンモノオレエート、エトキシ化ソルビタンエステル、ソルビタンエステル、ポリグリセロールエステル、シュークロースエステル、アルキルポリグルコシド、ポリアルキレンオキシド修飾ヘプタメチルトリシロキサン、アリルオキシポリエチレングリコールメチルエーテル、サポニンまたはその混合物であり;およびポリマー界面活性剤がポロキサマー、ポリビニルアルコール、アラビアガム、キトサンまたはその混合物である、請求項28記載の分散性粉末。
【請求項30】
15−40重量%の化合物、40−80重量%の少なくとも一の界面活性剤および0−50重量%のポリマーを含む、請求項27記載の分散性粉末。
【請求項31】
化合物および
(i)ポリエチレンソルビタンモノオレエート、大豆レシチンおよびシュークロース;
(ii)デオキシコール酸ナトリウムおよび大豆レシチン;または
(iii)グリチルリチン酸アンモニウムおよび大豆レシチン
を含む、請求項29記載の分散性粉末。
【請求項32】
化合物が化合物1a、1b、2a、2b、3a、3b、4a、4b、5a、5b、6a、6b、7a、7b、8a、8b、9a、9b、10a、10b、11a、11b、12a、12b、13a、13b、14a、14b、15a、15b、16a、16b、17a、18b、18、19または20、好ましくは化合物1a、あるいはそのエナンチオマー、ジアステレオマー、ラセミ体、または医薬上許容される塩もしくは溶媒和物より選択される、請求項26ないし31のいずれか一項に記載の分散性粉末。
【請求項33】
(i)化合物、揮発性水不混和性有機溶媒、水、少なくとも一の界面活性剤、および所望によりポリマーを含む水中油型ミクロエマルジョンを調製し;および
(ii)揮発性水不混和性有機溶媒および水を除去し、かくして所望の分散性粉末を形成する、工程からなる方法により調製される、請求項27〜32のいずれか一項に記載の分散性粉末。
【請求項34】
(i)水中油型ミクロエマルジョンが、化合物を揮発性水不混和性溶媒に溶かし、有機相を形成し、該有機相を水、界面活性剤、所望によりポリマーと混合することで調製されるか;または
(ii)揮発性水不混和性有機溶媒および水が減圧、凍結乾燥またはスプレー乾燥により除去される、ところの請求項30記載の分散性粉末。
【請求項35】
請求項26〜34のいずれか一項に記載の水分散性粉末、および医薬上許容される担体または希釈体を含む、医薬組成物。
【請求項36】
水性分散液として処方される、請求項35記載の医薬組成物。
【請求項37】
静脈内、筋肉内、皮下、吸入または気管内投与用の請求項35または36記載の医薬組成物。
【請求項38】
その必要とする個体にて肺高血圧を予防、治療または管理する方法であって、該個体に請求項35記載の医薬組成物を投与することを含む、方法。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図3】
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【公表番号】特表2013−518097(P2013−518097A)
【公表日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−550564(P2012−550564)
【出願日】平成23年1月26日(2011.1.26)
【国際出願番号】PCT/IL2011/000087
【国際公開番号】WO2011/092690
【国際公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【出願人】(500155660)イッサム リサーチ ディヴェロップメント カンパニー オブ ザ ヘブリュー ユニバーシティー オブ エルサレム エルティーディー (5)
【出願人】(512195946)ラディカル・セラピューティックス・インコーポレイテッド (1)
【氏名又は名称原語表記】RADIKAL THERAPEUTICS INC.
【Fターム(参考)】