説明

胃内滞留性錠剤用の最適ポリマー混合物

【課題】膨潤することによる胃内滞留の実現と、徐々に崩壊することによる薬物放出後の胃腸管からの排出とを可能にする錠剤の提供。
【解決手段】薬物送達用の単位剤形の錠剤が、ポリ(エチレンオキシド)とヒドロキシプロピルメチルセルロースの組合せから形成される固形単一マトリックスに薬物を分散させて製造することによる。この組合せは放出速度制御と再現性の点で特有の利点をもたらす。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は医薬品剤形の技術に関し、特に、胃及び上部消化(GI)管での長時間徐放によって、並びに下部GI管ではなく胃/上部GI管で吸収される確率の向上によって利点がもたらされる薬物製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
薬物は胃で放出されるときに、特にその放出が制御されながら連続的に持続するときに、最大の治療効果を発揮するものが多い。こうした徐放性薬物は副作用が少ないし、また反復又は頻回投与する必要もなく治療効果を発揮する。薬物放出の胃内への局在化は、食道逆流症といったような胃の局所障害の治療に、胃粘膜内の潰瘍性細菌の除去に、そして持続的制酸作用を必要とする障害の治療に有利である。胃内での徐放は胃ですぐには吸収されないような治療薬にも有用である。というのは、徐放は、吸収が起こり接触時間が限られる場である胃又は小腸上部で治療薬の接触時間を長引かせるからである。
【0003】
正常な消化過程では胃内容物の胃からの排出は消化期モード、食後期モード又は「食後モード」(fedmode)など多様な呼び方の生理状態により遅らされる。食後モード間の胃は消化間期又は「空腹期」(fasting)モードにある。両モードの違いは胃十二指腸自発運動パターンにある。
【0004】
空腹期モードでは、胃は食間期伝播性運動群(IMMC)という周期活動を示す。これには次の4相がある:
第I相 少なくとも45〜60分間続く休止期であり、胃の収縮はほとんど又はまったく見られない。
第II相 不規則な断続的パターンで起こり次第に振幅を増していく広範囲の収縮を特徴とする。
第III相 胃と小腸の両方で激しい突発的な蠕動波が見られ、5〜15分続く。
第IV相 活動が弱まっていく過渡期であり、次の周期が始まるまで続く。
【0005】
以上の4相を合わせた全周期時間は約90分である。活動が頂点に達するのは第III相であり、その強力な蠕動波により嚥下唾液、胃液、食物粒子及び粒状破片が胃から小腸、結腸へと排出される。従って第III相は、次の食事に備えて上部GI管を準備し細菌の過剰増殖を防止する胃腸内ハウスキーパーとしての役目を果たす。
【0006】
食後モードは食物の摂取により栄養物が胃に入ると開始されるが、その開始には上部GI管運動パターンの30秒〜1分間にわたる急速な著しい変化を伴う。この変化はGI管の全部位でほほ同時に観察され、また胃内容物が遠位小腸に到達する前に起こる。食後モードが確立されると、胃は毎分3〜4回の連続的、規則的な収縮を起こす。これは空腹期モードの収縮に似るが、振幅はその約半分である。幽門が半開して、液体と小粒子を胃から小腸へと連続的に流出させる一方で幽門口よりも大径の消化できない粒子は逆行させ胃内に留めるというふるい効果を及ぼす。こうして、このふるい効果により径が約1cmを超える粒子は胃内に約4〜6時間滞留させられることになる。
【0007】
空腹期モードでの胃内滞留のために必要な粒子サイズは食後モードの場合の粒子サイズをかなり上回る。空腹期モードで滞留させるために十分に大きな粒子はほとんどの患者には大きすぎて実際には投与できない。もっと小さいサイズの粒子でも食後モードの患者に投与すれば胃内に滞留させることができるので、これは粒子の胃内滞留時間を引き延ばす手段となる。
【0008】
胃内滞留を実現するための先行技術の剤形もまた、楽に飲み込めるほど小さいが胃内で胃液と接触すると膨潤して大きくなるような粒子を使用すれば薬剤製剤粒子の胃内滞留時間を引き延ばせることを教示している。この種の粒子は膨潤度が十分に大きければ、患者が食後、空腹期いずれのモードにあろうとも、胃内に滞留する。膨潤性粒子を実現する一手段は胃液を吸収しその結果として膨潤するような物質で形成した固体マトリックス中に薬物を分散させることである。この種の粒子は以下の特許又は特許出願明細書で開示されている:米国特許第5,007,790号["Sustained-Release Oral Drug Dosage Forms (徐放性の経口薬物剤形)"; 発明者Shell; 1991年4月16日]; 米国特許第 5,582,837号["Alkyl-Substituted Cellulose-Based Sustained-Release Oral Drug Dosage Forms (アルキル置換セルロース系の徐放性経口薬物剤形)"; 発明者Shell; 1996年12月10日]; 米国特許第 5,972,389号["Gastric-Retentive Oral Drug Dosage Forms for the Controlled Release of Sparingly Soluble Drugs and Insoluble Matter"(難溶性薬物及び不溶性物質の放出制御のための胃内滞留性経口薬物剤形)";発明者Shell et al.; 1999年10月26日]; 及び国際(PCT)特許出願WO 98/55107号["Gastric-Retentive Oral Drug Dosage Forms for Controlled Release of Highly Soluble Drugs(易溶性薬物の放出制御のための胃内滞留性経口薬物剤形)";発明者Shell et al.; 公開日1998年12月10日]。
【0009】
ポリマーマトリックスはまた薬物の長時間徐放の実現にも使用されてきた。そうした徐放は、周囲の胃液がマトリックス中に拡散し薬物まで到達して薬物を溶出させ溶出薬物と共に外へと再拡散する速度を制限することにより、又は徐々に浸食されながら新鮮な薬物を周囲の胃液へと連続的に接触させていくようなマトリックスを使用することにより、実現される。これら2つのうちいずれかの仕方で機能するポリマーマトリックスは以下の特許又は特許出願明細書で開示されている:米国特許第 6,210,710号["Sustained release
polymer blend for pharmaceutical applications(製薬用徐放性ポリマーブレンド)";発明者Skinner; 2001年4月3日]; 米国特許第 6,217,903号["Sustained release polymer blend for pharmaceutical applications(製薬用徐放性ポリマーブレンド)";発明者Skinner;2001年4月17日]; 国際(PCT)特許出願WO 97/18814号["Pharmaceutical Formulations(医薬品製剤)"; 発明者MacRae et al.; 公開日1997年5月29日]; 米国特許第 5,451,409号["Sustained release matrix system using hydroxyethyl cellulose and hydroxypropyl cellulose polymer blends(ヒドロキシエチルセルロートとヒドロキシプロピルセルロースのポリマーブレンドを使用する徐放性マトリックス系)"; 発明者Rencher et al.; 1995年9月19日]; 米国特許第 5,945,125号["Controlled release tablet(徐放性錠剤)"; 発明者Kim; 1999年8月31日]; 国際(PCT)特許出願WO 96/26718号["Controlled release tablet(徐放性錠剤)"; 発明者Kim; 公開日1996年9月6日]; 米国特許第 4,915,952号["Composition comprising drug, HPC, HPMC and PEO(薬物、HPC、HPMC及びPEOを含む組成物)"; 発明者Ayer et al.; 1990年4月10日]; 米国特許第5,328,942号["Seed film composition(種子用のフィルム組成物)"; 発明者Akhtar et al.; 1994年7月12日]; 米国特許第 5,783,212号["Controlled release drug delivery system(徐放性薬物送達システム)"; 発明者Fassihi et al.; 1998年7月21日]; 米国特許第 6,120,803号["Prolonged release active agent dosage form for gastric retention(胃内滞留のための持効性薬物剤形)"; 発明者Wong et al.; 2000年9月19日]; 米国特許第 6,090,411号["Monolithic tablet for controlled drug release(薬物徐放性モノリシック錠剤)"; 発明者Pillay et al.; 2000年7月18日]。
【0010】
胃内滞留と徐放という目標は必ずしも両立しない。膨潤性と徐放性を兼ね備えたマトリックス材料としてポリ(エチレンオキシド)があるが、高用量の投薬に必要とされる量、特に胃内滞留を実現するために十分な膨潤に必要とされる量でのポリ(エチレンオキシド)の使用は規制問題を引き起こす。米国食品医薬品局がポリ(エチレンオキシド)を、十分に高用量で長期使用した場合に不確定の毒性問題を伴う物質として指定しているからである。他のマトリックス材料は膨潤するだけでなく、胃液環境中でより均一に、また概してより急速に浸食を受けるため、数時間の薬物放出後のGI管の通過が予想しやすくなるという利点もある。膨潤はするがポリ(エチレンオキシド)ほどではないヒドロキシプロピルメチルセルロースはそうした材料の1つである。FDAはヒドロキシプロピルメチルセルロースを何れのレベルでも毒性リスクを伴う物質とはみなしていない。しかし、より浸食を受けやすいマトリックスには、きわめて集中的な初期薬物放出と初期薬物放出過程の薬物放出に対する制御性の低下とを引き起こすという難点がある。
【発明の概要】
【0011】
ポリ(エチレンオキシド)とヒドロキシプロピルメチルセルロースを組み合わせて膨潤性、徐放性錠剤のマトリックスとして使用することにより、胃内滞留のための膨潤能力と薬物放出制御能力を両方とも保持しつつ、前記の諸問題を回避し又は大幅に軽減して制御性と信頼性を高めるという予想外の有利な効果が得られることが、今般、見出された。ポリ(エチレンオキシド)の膨潤挙動は保持されるが、膨潤の度合いと進行を調節するヒドロキシプロピルメチルセルロースの浸食挙動とのバランスが図られる。本発明のある種の好ましい実施態様では、該錠剤は比較的低レベルのポリ(エチレンオキシド)であるにもかかわらず、胃液と接触してから30分以内に当初重量の約120%に増量し、なお膨大し続け、8時間以内にその最大重量又はサイズの少なくとも約90%に達し、胃内滞留を実現するのに十分な時間にわたり膨潤状態を保つ。膨潤と浸食という競合しながら補完する関係にある両作用はまた、該錠剤の機械的一体性を強めるため、該錠剤はポリ(エチレンオキシド)を唯一の又は主要なマトリックス材料とする錠剤に比べてより緩慢に、より均一に崩壊する。この複合ポリマーマトリックス錠は、より再現性の高い浸食速度をもたらすことにより、胃内滞留を結果として生じさせる膨潤挙動を依然として保持しながら、薬物放出速度とGI管内通過時間の再現性を高める。本発明の複合ポリマーマトリックスには、ポリ(エチレンオキシド)のある種の毒性効果とされるものを考慮して設定された何れの規制レベルをも下回るレベルにポリ(エチレンオキシド)を維持しながらポリ(エチレンオキシド)の膨潤挙動を錠剤に付与するという格別の利点がある。
【0012】
本発明の複合ポリマーマトリックスは、該マトリックスからの薬物送達が主として胃液による溶出後の拡散によって起こる易溶性薬物から、該マトリックスからの薬物送達が主として該マトリックスの浸食によって起こる難溶性薬物にいたるまで、種々の薬物に対して利点がある。易溶性薬物では、マトリックスのポリ(エチレンオキシド)成分が初期薬物放出を制限するとともに膨潤による胃内滞留を実現する一方で、ヒドロキシプロピルメチルセルロース成分がポリ(エチレンオキシド)の所要含量を低下させつつなお膨潤が起こるようにする。難溶性薬物では、ヒドロキシプロピルメチルセルロース成分がポリ(エチレンオキシド)の浸食速度を落とすことにより薬物の早期放出を防ぐ一方で、ポリ(エチレンオキシド)が優れた胃内滞留を実現する。従って、易溶性、難溶性の両方の薬物で、また中間的な溶解度の薬物でも、両ポリマーは補完的に機能し、胃内滞留と薬物除放の点で利点がもたらされる。
【0013】
以上のような本発明の特徴、利点、適用分野及び実施態様について、それ以外のものも含めて、以下にさらに詳しく説明する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】胃液環境中での錠剤からの塩酸シプロフロキサシンの経時的な累計放出量を(各錠中に当初存在する総量のパーセントとして)示すグラフであり、PEOとHPMCの組合せからなるポリマーマトリックスをPEO単独及びHPMC単独からなるマトリックスと比較するものである。
【図2】胃液環境中での塩酸シプロフロキサシン錠の経時的な膨潤プロファイルを質量基準で示すグラフであり、前図と同様の比較を与えるものである。
【図3】胃液環境中での錠剤からのガバペンチンの経時的な累計放出量を(各錠中に当初存在する総量のパーセントとして)示すグラフであり、前図と同様の比較を与えるものである。
【図4】胃液環境中での錠剤からの塩酸メトホルミンの経時的な累計放出量を(各錠中に当初存在する総量のパーセントとして)示すグラフであり、前図と同様の比較を与えるものである。
【図5】胃液環境中での塩酸メトホルミン錠の経時的な膨潤プロファイルを示すグラフであり、前図と同様の比較を与えるものである。
【図6】本発明により調製した2種類のガバペンチン製剤のin vivo胃内滞留特性を示す薬物動態データのグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本明細書でポリエチレンオキシド又は「PEO」ともいう、ポリ(エチレンオキシド)は、非置換エチレンオキシドの線状ポリマーである。ポリエチレンオキシドは粘度平均分子量が約100,000Da以上のものを使用することができる。市販されるポリ(エチレンオキシド)の例は次のとおりである:
POLYOX(登録商標)NF、グレードWSR Coagulant、分子量500万;
POLYOX(登録商標)、グレードWSR 301、分子量400万;
POLYOX(登録商標)、グレードWSR 303、分子量700万;
POLYOX(登録商標)、グレードWSR N-60K、分子量200万。
これらのポリマーはDow Chemical社(Midland, Michigan, USA)の製品である。また他の例も存在し、同様に使用可能である。
【0016】
セルロースはアンヒドログルコースの線状ポリマーであり、本明細書で「HPMC」ともいうヒドロキシプロピルメチルセルロースは、一部のヒドロキシル基がメチル基へと置換されてメチルエーテル部分を形成し、他のヒドロキシル基がヒドロキシプロピル基又はメトキシプロピル基へと置換されてヒドロキシプロピルエーテル又はメトキシプロピルエーテル部分を形成しているアンヒドログルコースである。市販されるHPMCの例は、メトキシル及びヒドロキシプロピル置換度がやや異なる、いずれもDow Chemical社(Midland, Michigan, USA)製品であるMETHOCEL E(USP タイプ2910)、METHOCEL F(USP タイプ2906)、METHOCEL J(USP タイプ1828)、METHOCEL K(USP タイプ2208)及びMETHOCEL 310シリーズである。これらの製品の平均メトキシル置換度は(セルロースポリマーの各単位上の置換可能な3部位のうち)約1.3〜約1.9であり、またモル表示の単位あたり平均ヒドロキシプロピル置換度は約0.13〜約0.82である。
【0017】
ポリ(エチレンオキシド)又はヒドロキシプロピルメチルセルロースに関する特定分子量範囲の選択は、錠剤に含まれる薬物の溶解度に応じて変えることができる。比較的易溶性の薬物は、マトリックスの浸食よりもマトリックスを通じた拡散によって放出される速度のほうが大きくなる傾向にあり、これは比較的高い分子量のポリマーを使用して制御することができる。というのは、分子量が大きくなるほど薬物の外部への拡散速度が小さくなるからである。比較的難溶性の薬物は、その放出のためにマトリックスの浸食への依存度を強めざるを得ないであろうから、より速く浸食されやすい比較的低い分子量のポリマーが有益となる。従って、易溶性薬物では、好ましいポリ(エチレンオキシド)は粘度平均分子量で表わした分子量が約2,000,000〜約10,000,000、より好ましくは約4,000,000〜約7,000,000の範囲にあるものである。ヒドロキシプロピルメチルセルロースポリマーのサイズは分子量ではなく代わりに2重量%水溶液の粘度として表わす。易溶性薬物では、好ましいヒドロキシプロピルメチルセルロースは粘度が約4,000〜約200,000センチポワズ(cps)、より好ましくは約50,000〜約20,000センチポワズ、最も好ましくは約80,000〜約120,000センチポワズの範囲にあるものである。
【0018】
従って、難溶性薬物では、好ましいポリ(エチレンオキシド)は粘度平均分子量が約100,000〜約5,000,000、最も好ましくは約500,000〜約2,500,000の範囲のものであり、一方、好ましいヒドロキシプロピルメチルセルロースは粘度が約1,000〜約100,000センチポワズ、最も好ましくは約4,000〜約30,000センチポワズの範囲にあるものである。
【0019】
易溶性薬物に関する前記範囲は難溶性薬物に関する範囲と部分的に重複又は隣接(限界値を共有)していることに気付こう。「易溶性」と「難溶性」は製薬分野の当業者には理解される意味をもつ用語であるが、これらの用語は相対的なものであり、重複部分は中間的な溶解度の薬物すなわち「難溶性」範囲に近い「易溶性」の薬物及びその逆の薬物をいう。
【0020】
PEOとHPMCの相対量は本発明の範囲内で変化してよく、決定的ではない。ほとんどの場合、PEO:HPMC重量比が約1:3〜約3:1、好ましくは約1:2〜約2:1の範囲にあれば、良好な結果が得られよう。錠剤全体に対するポリマーの総量はやはり変化してもよいし、望ましい薬物負荷に依存しよう。ほとんどの場合、ポリマーの組合せ(複合ポリマー)は剤形の約15〜約90重量%を、好ましくは約30〜約65重量%を、最も好ましくは約40〜約50重量%を占めよう。前述のように、該マトリックスのPEO含量はFDA設定の用量上限値(1錠あたり270mg)未満に維持して、なお本発明の有利な効果を実現することができる。従って、錠剤全体のPEO含量は270mg未満とするのが好ましく、250mg未満ならなお好ましい。
【0021】
比較的易溶性の薬物は一般に、37℃での水溶解度が水20重量部に対して薬物1重量部を超える薬物であるとされる。別の好ましい定義は、37℃での水溶解度が水10重量部に対して薬物1重量部を超える薬物であり、さらになお好ましい別の定義は、37℃での水溶解度が水3重量部に対して薬物1重量部を超える薬物である。易溶性薬物の例は塩酸メトホルミン、ガバペンチン、ロサルタンカリウム、塩酸バンコマイシン、カプトプリル、ラクトビオン酸エリスロマイシン、塩酸ラニチジン、塩酸セルトラリン、塩酸チクロピジン、トラマドール、塩酸フルオキセチン、ブプロピオン、リシノプリル、鉄塩、バルプロ酸ナトリウム、バルプロ酸、及びアンピシリンエステルなどである。比較的難溶性の薬物は一般に、37℃での水溶解度が約0.005〜約5重量%である薬物、好ましくは37℃での水溶解度が約0.01〜約5重量%である薬物とされる。難溶性薬物の例はセファクロール、シプロフロキサシン(及びその塩酸塩)、サギナビル、リトナビル、ネルフィナビル、クラリスロマイシン、アジスロマイシン、セフタジジン、シクロスポリン、ジゴキシン、パクリタキセル及びケトコナゾールである。本明細書で述べたような有利な効果を実現するために本発明の複合ポリマーマトリックス中に分散させることができる他の薬物は当業者には明らかであろう。
【0022】
本発明に従う錠剤は、製剤製造技術分野の当業者が常用している周知の混合、粉砕及び製造の各ステップを伴う通常の打錠法で製造することができる。そうした技術の例は次のとおりである:
(1) 一般に好適なロータリー打錠プレス機に装着した適当なパンチとダイの使用による直接圧縮;
(2) 射出又は圧縮成形;
(3) 流動床造粒、低又は高剪断造粒又はローラー圧縮造粒とそれに続く圧縮;
(4) ペーストのモールドへの又は押出材への押し出しと定寸。
【0023】
錠剤を直接圧縮法で製造するときは、粉体の流動を促進し除圧時の錠剤破壊を防ぐ意味で潤滑剤の添加が有効であろうし、また場合によっては重要である。代表的な潤滑剤の例はステアリン酸マグネシウム(粉末混合物中の濃度は0.25〜3重量%、好ましくは約1重量%以下)、ステアリン酸(0.5〜3重量%)、及び硬化植物油(好ましくはステアリン酸及びパルミチン酸の硬化・精製したトリグリセリド、約1〜5重量%、最も好ましくは約2重量%)である。追加の賦形剤を造粒助剤(たとえば低分子量HPMC、2〜5重量%)、結合剤(たとえば微結晶セルロース)、及び粉体流動性、錠剤硬度、錠剤粉砕性を改善したりダイ壁への付着を弱めたりするための添加剤として添加してもよい。他の増量剤及び結合剤の非限定的な例はラクトース(無水物又は一水和物)、マルトデキストリン、砂糖、デンプン、及び他の一般的な製薬添加剤などである。錠剤中のこれら追加の賦形剤の含量は1〜50重量%としてよいし、場合によってこれを上回ってもよい。
【0024】
本発明の剤形は食後モード又は空腹期モードの被検者に投与すると有用である。投与は食後モード時に行うのが好ましい。食後モードでの幽門口の縮小は、より広範囲のサイズの剤形に対応した胃内滞留を促進するさらなる手段として機能するからである。
【0025】
食後モードは通常、食物の摂取によって誘発されるが、食事と同様の効果をもつ薬剤の投与により薬理的に誘発させてもよい。そうした食後モード誘発剤は別個に投与してもよいし、剤形中に又は即放性の外被中に分散させた成分として剤形中に含ませてもよい。食後モード誘発剤の例は、参照により本明細書に組み込まれる同時係属の米国特許出願第09/432,881号明細書[発明の名称 "Pharmacological Inducement of the Fed Mode
for Enhanced Drug Administration to the Stomach(胃への薬物投与を改善するための薬理的な食後モード誘発)"; 発明者Markey, Shell and Berner; 1999年11月2日]で開示されている。
【0026】
本発明のある種の実施態様では錠剤は二層(又は多層)構造であり、その第1層は胃内滞留を招く膨潤性を付与する役目を主に果たし、第2層は薬物貯層としての役目を主に果たす。本発明の複合ポリマーマトリックスはこれら2層のうち一方又は両方に使用してよい。
【0027】
本発明のある種のさらなる実施態様では、剤形は錠剤外表面の即溶性被膜中に追加の薬物を含んでもよい。これはマトリックス中の薬物と同じ薬物でも異なる薬物でもよい。該被膜は「負荷投与量」(loading dose)といい、その目的は該剤形が摂取されるとすぐに、ポリマーマトリックスを通じて薬物が外部に拡散するのを待たずして、追加の薬物を患者の血流中に即時放出させることにある。適した負荷投与量は、該薬物の血中濃度を急速に高めるのに十分な程に高いものの、非徐放性製剤中で投与される易溶性薬物に特徴的に見られる過渡的な過剰投与を招く程には高くないような量である。
【0028】
負荷投与量とは別の理由で該剤形の外表面に被膜を設けることもできる。該被膜はたとえば美的機能や保護機能を果たしてもよいし、また剤形を飲み込みやすくしたり薬物の味を隠したりする機能を果たしてもよい。
【0029】
以下の実施例は例示が目的であって、本発明を限定するものではない。
【実施例】
【0030】
実施例1
本例では、本発明による塩酸シプロフロキサシン一水和物の錠剤の調製を例示し、人工胃液(0.1N HCl)中での経時的な薬物徐放性及び膨潤挙動について、ポリ(エチレンオキシド)(PEO)とヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)の組合せを PEO単独のもの及びHPMC単独のものと比較する。
【0031】
錠剤は、塩酸シプロフロキサシン、ポリ(ビニルピロリドン)及び以下列挙する残りの賦形剤の乾式混合造粒と、それに続くCarver "Auto C" 打錠機((Fred Carver, Inc., Indiana)での圧縮により調製した。成分の明細は次のとおりであった:
塩酸シプロフロキサシン一水和物(「活性成分」)
ポリ(ビニルピロリドン)(「PVP」、グレードK-29-32、ISP製品)
ポリ(エチレンオキシド)(「PEO」、グレードPolyOx Coagulant, NF FPグレード、Dow Chemical社の完全所有子会社Union Carbideの製品)
ヒドロキシプロピルメチルセルロース(「K100M」、2%水溶液としての粘度100,000 cpsを有するグレードMethocel K100M、プレミアム、タイプUSP 2208 HPMC 規格に適合、Dow Chemical製品)
微結晶セルロース(「MCC」、タイプAvicel PH 101、FMC社製品)
ステアリン酸マグネシウム(「M. St.」)。
錠剤は1000mg錠であり、圧力4000 lbs、0秒滞留時間(Carverプレスの設定条件)及び100%ポンプ速度を用いる圧縮は0.7086”×0.3937” Mod Ovalダイ(Natoli Engineering)で行った。
【0032】
錠剤は3ロット調製したが、各ロットの成分組成は次のとおりであった(単位はいずれも重量%)(ロットBが本発明の組合せにあたる):
【表1.1】

累計溶出プロファイルを、USP apparatus I(40メッシュバスケット)を使用して100rpm、0.1N HClで、15分、30分、1、2、4、6及び8時間の各時間で5mL試料について溶出液を取り替えずに採取して求めた。これらのプロファイルは、製剤に添加された活性成分の理論%を基準にしており、その数値を表1.2に、グラフを図1にそれぞれ示す。グラフのひし形はロットAを、四角形はロットBを、また三角形はロットCを、それぞれ表わす。
【表1.2】

【0033】
この半浸食性錠剤に関する溶出プロファイルは、PEOとHPMCの組合せがPEO単独の場合とHPMC単独の場合との中間の溶出プロファイルをもち、PEO単独の場合よりも薬物放出に対する制御性が大きいことを示す。
【0034】
質量増加率で表わす膨潤プロファイルを、溶出プロファイルを求める場合と同じ条件で求めた。その結果を図2(質量による膨潤)に示す。図1の場合と同様にひし形はロットAを、四角形はロットBを、また三角形はロットCを、それぞれ表わす。図2はPEOとHPMCの組合せの膨潤がHPMC単独の場合よりも大きくなることを示し、従って該ポリマーの組合せがPEOの良好な膨潤特性を保持することを示す。
【0035】
実施例2
本例では、本発明によるガバペンチン錠の調製を例示し、人工胃液(0.1N HCl)中での経時的な薬物徐放性についてPEOとHPMCの組合せをPEO単独のもの及びHPMC単独のものと比較する。
【0036】
調製方法は、活性成分としてシプロフロキサシンの代りにガバペンチンを使用し、また追加の賦形剤又は結合剤は使用しなかったことを除いては、実施例1の場合と同じである。
【0037】
錠剤は3ロット調製したが、各ロットの成分組成は表2.1のとおりであった(単位はいずれも重量%)(ロットEが本発明の組合せにあたる):
【表2.1】

【0038】
この拡散性錠剤に関する累計溶出プロファイルを、試料の採取を1、4及び8時間でのみ行い、また溶出液を脱イオン水としたことを除いては実施例1の場合と同じ要領で求めた。これらのプロファイルは、製剤に添加した活性成分の理論%を基準にしており、その数値を表2.2に、グラフを図3にそれぞれ示す。グラフのひし形はロットDを、四角形はロットEを、また三角形はロットFを、それぞれ表わす。
【表2.2】

【0039】
上記の溶出プロファイルは、PEOとHPMCの組合せの溶出プロファイルがPEO単独のもの及びHPMC単独のものよりも意外に遅いことを示す。
【0040】
実施例3
本例では、本発明による塩酸メトホルミン錠の調製を例示し、人工胃液(0.1N HCl)中での経時的な薬物徐放性についてPEOとHPMCの組合せをPEO単独のもの及びHPMC単独のものと比較する。
【0041】
調製方法は、PVPとラクトース一水和物の代りにMethocel E5プレミアムというDow Chemical製品のヒドロキシプロピルメチルセルロースを使用したことを除いては、実施例1及び実施例2の場合と同じである。
【0042】
錠剤は3ロット調製したが、各ロットの成分組成は表3.1のとおりであった(単位はいずれも重量%)(ロットIが本発明の組合せにあたる)。(ロット2及び3の調製にはCarver Auto C打錠機ではなくManesty Betapressを使用した。)
【表3.1】

【0043】
累計溶出プロファイルを、試料の採取を2、4、6及び8時間でのみ行ったことを除いては実施例1及び実施例2の場合と同じ要領で求めた。これらのプロファイルは、製剤に添加した活性成分の理論%を基準にしており、その数値を表3.2に、グラフを図4にそれぞれ示す。グラフのひし形はロットGを、四角形はロットHを、また三角形はロットIを、それぞれ表わす。
【表3.2】

【0044】
上記の溶出プロファイルは、PEOとHPMCの組合せが、HPMC単独の場合に見られる6時間で90%の放出を超える薬物送達プロファイルの延長を可能にする溶出プロファイルをもつことを示す。
【0045】
質量増加率で表わす膨潤プロファイルを、溶出プロファイルを求める場合と同じ条件で求めた。その結果を図5に示すが、図のひし形はロットIを、四角形はロットGを、また三角形はロットHを、それぞれ表わす。これは前の実施例の図に使用した表記法とは異なることに注意。図5はPEOとHPMCの組合せがPEO単独の場合とHPMC単独の場合との中間の膨潤プロファイルをもつことを示す。
【0046】
実施例4
本例では、本発明による2製剤中のガバペンチンのin vivo胃内滞留を例示し、これをParke-Davis(Morris Plains, New Jersey, USA)製品である即放性ガバペンチン錠 NEURONTIN(登録商標)と比較する。
【0047】
試験はビーグル犬を対象に実施し、経口用量のNEURONTIN(登録商標)又は2種類のガバペンチン剤形のうち一方を各々5頭に投与した。いずれの場合も300mgのガバペンチンを含有する錠剤を用いた。表4.1は、ともに本発明による2種類のガバペンチン剤形GR−A及びGR−Bの成分組成を示す。使用されているHPMCはグレードが異なるMethocel K15MとMethocel K4Mであり、前者は2%水溶液として15,000cpsの粘度を有し、後者は2%水溶液として4,000cpsの粘度を有する。
【表4.1】

【0048】
投与は、食後すぐに非無作為順に3回の別々の機会に実施した。次いで投与24時間後に各犬の血漿を採取した。試験結果を、各剤形につき5頭の平均値として表4.2に示す。表中のIRは即放性NEURONTIN(登録商標)錠を、AUCは濃度曲線下面積を、Cmaxは検出された最高血漿中濃度を、またtmaxは最高濃度に到達した時間を、それぞれ指す。
【表4.2】

【0049】
これらの数値を導き出した全データを図6に示す。図中のひし形はNEURONTIN(登録商標)データを、四角形はGR−Aデータを、また三角形はGR−Bデータをそれぞれ表わす。
【0050】
上記はもっぱら例示を目的とするものである。当業者には自明であろうが、本発明の精神と範囲から逸脱することなく、さらなる薬物を含めることが可能であり、また本明細書で記載した形状、成分、添加剤、比率、製剤方法及び他のパラメーターは様々に変更又は置換することが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
胃と上部消化管とによって確定される領域の少なくとも一部分に薬物を放出するための徐放性経口薬物剤形であって、前記剤形は該薬物を内部に分散させた固体モノリシックマトリックスを含んでなり、前記マトリックスは、胃液との接触後に胃内滞留を実現するために十分に大きなサイズに該マトリックスを膨潤させるような重量比のポリ(エチレンオキシド)とヒドロキシプロピルメチルセルロースの組合せを含んでなる、徐放性経口薬物剤形。
【請求項2】
前記マトリックスは、胃液中での浸漬後30分以内にその当初サイズの少なくとも約20%膨潤し、また8時間以内にその最大サイズの少なくとも約90%に到達する、請求項1に記載の徐放性経口薬物剤形。
【請求項3】
前記薬物は水10重量部に対して薬物1重量部を超える水溶解度を有し、前記ポリ(エチレンオキシド)は粘度平均分子量が約2,000,000〜約10,000,000ダルトンであり、また前記ヒドロキシプロピルメチルセルロースは2%水溶液として測定される粘度が約4,000〜約200,000センチポワズである請求項1に記載の徐放性経口薬物剤形。
【請求項4】
前記薬物は水3重量部に対して薬物1重量部を超える水溶解度を有する、請求項3に記載の徐放性経口薬物剤形。
【請求項5】
前記薬物は水10重量部に対して薬物1重量部よりも小さな水溶解度を有し、前記ポリ(エチレンオキシド)は粘度平均分子量が約100,000〜約5,000,000ダルトンであり、また前記ヒドロキシプロピルメチルセルロースは2%水溶液として測定される粘度が約1,000〜約100,000センチポワズである、請求項1に記載の徐放性経口薬物剤形。
【請求項6】
前記薬物は約0.05〜約10重量%の範囲の水溶解度を有する、請求項に記載の徐放性経口薬物剤形。
【請求項7】
前記ポリ(エチレンオキシド)とヒドロキシプロピルメチルセルロースの重量比が約1:3〜約3:1の範囲にある、請求項1に記載の徐放性経口薬物剤形。
【請求項8】
前記ポリ(エチレンオキシド)とヒドロキシプロピルメチルセルロースの組合せの重量比が前記剤形の約15〜約90重量%を占める、請求項1に記載の徐放性経口薬物剤形。
【請求項9】
前記ポリ(エチレンオキシド)とヒドロキシプロピルメチルセルロースの組合せが前記剤形の約40〜約50重量%を占める、請求項1に記載の徐放性経口薬物剤形。
【請求項10】
前記薬物が、塩酸メトホルミン、ロサルタンカリウム、シプロフロキサシン、バルプロ酸ナトリウム、バルプロ酸及びガバペンチンからなる群より選択されるものである、請求項1に記載の徐放性経口薬物剤形。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2013−6863(P2013−6863A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−196459(P2012−196459)
【出願日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【分割の表示】特願2003−537738(P2003−537738)の分割
【原出願日】平成14年10月22日(2002.10.22)
【出願人】(502202937)ディポメド,インコーポレイティド (5)
【Fターム(参考)】