説明

胃癌の悪性度診断用キット

【課題】胃癌の悪性度を決めるために使用するキットを提供する。
【解決手段】ヒトLAT1アミノ酸残基の、N末端から1〜52位を特異的に認識する抗LAT1モノクローナル抗体を有する、免疫組織学染法によって胃癌の悪性度を決定するために使用されるキットを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は胃癌の悪性度を決めるために使用するキットである。詳しくは抗LAT1抗体を使用した免疫組織学的染色法によって、胃癌の悪性度を決めるためのキットである。
【背景技術】
【0002】
細胞が増殖や成長のために細胞膜を介してアミノ酸を細胞内に取り込むためには正常細胞のみならず癌細胞でもアミノ酸トランスポーターが必須である。大型の中性アミノ酸の輸送にはL型アミノ酸トランスポーターが必要であり、多くはL型アミノ酸トランスポーター(LAT1, SLC7A5)に依存しており、このLAT1は金井らによって最初にクローニングされた1。続いて、2番目のタイプとして機能的にも分子的にも別個のLAT2 が分離された。このLAT2は大型のみならず小型のアミノ酸も輸送する2
【0003】
LAT1は主としてヒトの正常脳、脾臓、胸腺、精巣、胎盤組織や前立腺、食道、肺などの癌組織に発現している3-5。本発明者らは前立腺癌の予後の判定には従来のGleason の組織学的グレイドシステムとともにLAT1の発現が有効なマーカーであることを以前に示した。さらに幾つかの癌細胞株でもLAT1 mRNAの発現が高いことも認めている6
【0004】
しかしながら胃癌においてはこれまで不明であった。その為、胃癌におけるLAT1の免疫組織学的発現を本研究で検索した。すなわち我々が最近発明した抗LAT1モノクローナル抗体を使用して、非腫瘍性胃粘膜、腺腫、スキルス胃癌、非スキルス胃癌でLAT1発現を比較した。
【発明の概要】
【0005】
アミノ酸トランスポーターは正常細胞、腫瘍細胞の維持・増殖にとって不可欠である。本研究では、我々が最近開発したモノクローナル抗体を使って、胃癌におけるL型アミノ酸トランスポーター1 (LAT1) の免疫組織化学的発現を胃腺腫及び非腫瘍性胃粘膜と比較して検索した。進行胃癌87症例を検索して、胃スキルス癌よりも非スキルス癌の方で癌細胞の細胞膜に有意に高いLAT1発現をみとめた。また、リンパ節転移のある胃癌症例では転移のない症例よりもLAT1発現が有意に高かった。LAT1発現と細胞増殖能のマーカーであるKi-67標識率(LI)とは正の相関がみとめられ、非スキルス胃癌では高LAT1発現症例が低発現症例に比較して、有意に予後が不良であった。Cox hazard test によって、非スキルス胃癌ではTNM stage (腫瘍の大きさ、リンパ節転移、血行性転移による進行度)とLAT1発現は互いに独立した予後因子になることを明らかにした。さらにスキルス胃癌を除いた未分化型胃癌では、高LAT1発現群で有意に予後が悪いことも示した。胃癌に比較して胃腺腫ではLAT1発現が有意に低かった。結論として、LAT1発現は胃癌の細胞増殖及び予後とリンクしており、LAT1を標的とした抑制剤が抗癌剤として将来役に立つ可能性があげられる。
【0006】
このように本発明は、
[1]抗LAT1モノクローナル抗体を使用した免疫組織化学染色キットは胃癌の悪性度の判定に使用できる。
[2]本モノクローナル抗体はヒトLAT1のN末端1-52のペプチドを特異的に認識することから、ヒト癌の悪性度を評価できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】胃癌細胞膜での代表的なL型アミノ酸トランスポーター(LAT1) の免疫反応性発現:(a) 強さ 0, なし;1,弱陽性;2, 中等度陽性; 3, 強陽性。
【図2】正常胃粘膜、胃癌症例の背景胃粘膜(腸上皮化生, IMなし) 、胃癌症例の背景胃粘膜(腸上皮化生あり) 、胃腺腫、胃癌におけるLAT1 発現の(a) 強さと (b) スコアの比較。 胃癌分化型と未分化型とにおけるLAT1発現の強さとスコアの比較(c, d)。胃癌の非スキルス型とスキルス型とにおけるLAT1発現の強さとスコアの比較(e, f)。*p値<0.05.
【図3】胃正常粘膜 (a)、腸上皮化生(IM) (b), 胃腺腫 (c)、分化型腺癌 (d) の組織像(HE組織像)。それぞれのLAT1 発現。正常の胃粘膜(陰窩底部で強さ1の発現)(e)、腸上皮化生のある粘膜固有層の下1/2 で強陽性 (f)、腺腫(強さ2の発現)(g)、分化型腺癌(強さ3の強発現)(h)。
【図4】正常胃粘膜、胃癌症例の背景胃粘膜(腸上皮化生, IMなし) 、胃癌症例の背景胃粘膜(腸上皮化生あり)、胃腺腫、胃癌におけるKi-67(LI)の比較。*p値<0.05.
【図5】a) 全体の症例における生存曲線。LAT1発現低スコア(0-4) 群とLAT1発現高スコア(6-9) 群との間に有意な差なし(p =0.0997)。b) 非スキルス型胃癌症例での生存曲線。 LAT1発現高スコア(6-9) 群はLAT1発現低スコア(0-4) 群と比較して予後が有意に不良(p =0.0270)。c) 非スキルス型胃癌症例中の進行度stage IB とII に限定した症例での解析。LAT1発現高スコア(6-9) 群はLAT1発現低スコア(0-4) 群と比較して、予後が有意に不良(p =0.0156)。
【図6】a) 進行癌I型(癌細胞の粘液が腸型)を除いた胃癌症例の生存曲線。LAT1発現高スコア(6-9) 群はLAT1発現低スコア(0-4) 群と比較して予後不良な傾向あり(p =0.057)。b) 未分化型胃癌症例の生存曲線。LAT1発現高スコア(6-9) 群はLAT1発現低スコア(0-4) 群と比較して予後不良な傾向あり(p =0.0558)。c) 非スキルス型胃未分化癌の生存曲線。LAT1発現高スコア(6-9) 群はLAT1発現低スコア(0-4) 群と比較して予後が有意に不良(p =0.0177)。
【具体的記載】
【0008】
本発明の目的は、ヒト胃癌におけるLAT1発現が正常胃粘膜や非癌性病変とでは違うことを証明することである。本発明者は、既に報告されている脳グリオーマ(神経膠腫)、肺癌、食道癌と同様に、胃癌においてもLAT1高発現が悪性度を示すことを確認した4,5,12。しかし、スキルス型胃癌は非スキルス型胃癌に比較してLAT1発現スコアが低く、この型の癌細胞はアミノ酸輸送においてLAT1依存度が低いことが示唆される。この現象は、今後real time PCR等の他の方法で確認する必要がある。
【0009】
胃腺腫はLAT1 発現スコアも強さも胃癌と正常腺腺窩上皮との中間の値を示した。本発明者は胃における良性及び悪性上皮性腫瘍のLAT1発現を確認した。他の臓器の良性腫瘍では、口腔の異形成病変、肺の異型腺腫様過形成病変でLAT1発現が報告されている。驚いたことに、胃癌症例の背景胃粘膜の腸上皮化生で胃癌と同様のLAT1高発現がみとめられた13,14。このことは、ヒト大腸の粘膜にLAT1が発現していることと関連しているかもしれない15。このように胃の腸上皮化生における高LAT1発現は粘膜の表現型として説明しうる。しかしながら、I型胃癌(癌細胞の粘液が腸型)とG型胃癌(癌細胞の粘液が胃型)の間にはLAT1発現において有意な差が認められなかった。すなわち、本発明者はG型胃癌でもLAT1高発現を確認した。腸型胃癌を除いた胃癌に限定すると、LAT1発現高スコア群が低スコア群に比較して予後が不良な傾向を認めた。
【0010】
胃癌においてKi-67標識率とLAT1発現強さとの弱い相関が認められたことはLAT1が細胞増殖に寄与していることを意味しているかもしれない。この現象は肺の非小細胞癌でも報告されている16。しかしながら、他の幾つかの癌ではそのような相関が認められていないので、この食い違いについてはさらなる研究が必要である。本研究では、胃癌におけるLAT1とp53発現との間で弱い相関がみとめられたことは、LAT1発現がp53によって規制されている可能性がある。しかし、この点についてはやはりさらなる検索による確認が必要である。
【0011】
既報では、肺癌において、LAT1発現が有意な予後規定因子であり、予後不良な結果を示している3,16,17。例えば、Kaira らによると、LAT1陽性肺癌は陰性肺癌に比べてリンパ節転移率が有意に高い16。この報告と同様に、本発明者はリンパ節転移のある胃癌症例ではリンパ節転移のない胃癌症例に比較して、LAT1発現スコアが有意に高いことを示した。しかしながら、我々の研究では、悪性度の高いスキルス癌を含む胃癌症例全体の検索ではLAT1発現と予後との有意な関連を見つけられなかった。一方、非スキルス癌に限定すると、LAT1発現高スコア群は有意に予後が不良であり、多変量解析でもLAT1発現が予後決定因子であることを確認できた。このことはLAT1発現とp53発現とに有意に相関があったことと関連しているかもしれない。また、スキルス胃癌症例の予後が不良であることは癌性腹膜炎を生じやすいなど、他の因子によっている可能性があげられる。
【0012】
結論として、正常胃粘膜に比較して胃腺腫はLAT1発現が高く、胃癌細胞はさらに高い。LAT1発現の強さは胃癌の細胞増殖と予後に相関しているため、近い将来開発されるLAT1抑制物質が画期的な分子標的抗癌治療になりうる可能性を示している。LAT1発現が増強していることは、癌細胞が細胞増殖に必要な栄養物を強く要求していると考えられる。このように、LAT1機能を抑制することはヒトの多くの種類の癌治療法の開発につながる18。今後、癌細胞の増殖を抑制する低分子LAT1抑制物質が胃癌において有意に治療効果を示しうることは、大いに期待できる。
【実施例】
【0013】
1.モノクローナル抗体の作成
LAT1のN末端の52 アミノ酸(アミノ酸1-52に相当)に対する抗ヒトLAT1モノクローナル抗体をハイスループットプロテオミクス法にて作成した20,21。この方法で、特異的な抗LAT1モノクローナル抗体を作るハイブリドーマを得た。このハイブリドーマ細胞をマウスBALB/c に腹腔内に注射した後に、腹水を回収してこれをアフィ二ティカラム(HiTrap protein G, GE Healthcare Bio-science AB) を通して精製抗体を得た。
【0014】
2.患者と試料
1993年6月より2003年4月までに北里大学東病院で外科的に切除された進行胃癌(胃壁固有筋層内またはそれより深く浸潤)87症例を収集した。切除された胃は全て、10%フォルマリン固定し、腫瘍病変は5mmの厚さで全割して、パラフィンに包埋した。パラフィンブロックから、4μm厚さの切片を作り、HE染色を施した。全ての症例は日本胃癌取り扱い規約に則り7、組織学的に診断した。87症例中、28例がスキルス型胃癌であった。残りの59症例は非スキルス型胃癌であったが、その内訳は高分化型腺癌11例、中分化型腺癌15例、充実性低分化型腺癌20例、非充実性低分化型腺癌10例、印鑑細胞癌3例であった。
本発明者は、癌病変のLAT1発現に加えて、他に4群におけるLAT1発現を検索した。すなわち、正常胃粘膜20例(gastrointestinal stromal tumor 例や膵癌症例で胃粘膜に病変がないもの)、腸上皮化生のない背景胃粘膜32例(40才以下の胃癌症例の背景胃粘膜)、腸上皮化生のある背景胃粘膜37例(75才以上の胃癌症例で背景に腸上皮化生があるもの)、及び胃腺腫36症例である。
【0015】
3.免疫組織化学
既に報告されている方法に従って3、外科的に切除されてフォルマリン固定・パラフィン包埋された組織の4μm厚さ切片を使って免疫組織学的染色を行った。使用した一次抗体、希釈、抗原賦活は表1にまとめた。
簡潔に記載すると、組織切片を脱パラフィンし、1%過酸化水素を含むメタノール中で30分間処理して、内因性peroxidase をブロックした。その後、非特異的反応のブロックの為にProtein block Serum-Free (Dakocytomation, Kyoto, Japan)であらかじめ培養し、切片を一次抗体とともに37℃で1時間培養した。さらにperoxidaseでラベルしたpolymer (Envision, Dakocytomation, Kyoto, Japan), 続いて抗マウスIgG (Gout, Nichirei Bioscience, Tokyo, Japan)抗体で各30分間培養し、3,3’-diaminobenzidine で発色した。核はMeyerのヘマトキシリン溶液で対比染色した。
【0016】
4.免疫組織染色の評価
LAT1の免疫反応性の評価はSinicropeの方法3の軽度変法を採用した。すなわち、癌細胞膜の免疫反応性をもとに、4カテゴリを次のように規定した。発現強さ0,反応なし;1, 弱くないしは点状に陽性;2, 中等度に細胞膜全体が陽性;3, 細胞膜全体が強く陽性。各症例で癌組織中における最も高いLAT1発現の強さを採用した。胃癌細胞での代表的なLAT1発現の強さを図1に示した。さらにLAT1発現の領域を全体の胃癌組織を観察してその百分率であらわした。すなわち、0, 陽性なし;1, 局所的 1-10%陽性;2, 部分的 11-30% ; 3, びまん性 30%以上とした。LAT1発現スコアはLAT1発現強さX発現領域の数値であらわした。
p53 発現は核に強く発現している領域を癌組織全体の百分率として、0, 陽性なし;1, 局所的 1-10%陽性;2, 部分的 11-30% ; 3, びまん性 30%以上と評価した。
胃癌組織の粘液表現型の分類は、CD10 (刷子縁), MUC2 (腸杯細胞), MUC5AC (胃腺窩上皮細胞) 及びMUC6 (胃幽門腺)の免疫組織化学的反応性によって行い、4カテゴリ、胃型(G型)、腸型(I型)、胃腸型(GI型)及び分類不可型(U型)を規定した9,10。いずれのマーカーにも陰性な癌はU型とした。
Ki-67陽性細胞は1000以上の有核細胞から陽性細胞を数え、その%をKI-67標識率(LI)とした。
【0017】
5.統計学的解析
各グループ間の比較はchi-squared, Mann-Whitney U 或いはKruskal-Wallis test を必要に応じて適用した。患者の生存曲線の比較の有意差はlog-rank testによった。LAT1, Ki-67 LI 及びp53の間での相関はSpearman’s rank correlation coefficient testによって解析した。全ての総計学的解析にはStatView software (Abacus Concepts, Inc. Berkeley, CA, USA)を採用し、p値が0.05以下を統計学的に有意とした。
【0018】
6.結果
(1) 患者の特徴
検索した胃癌患者症例は男性54,女性33からなっていた。年齢は33から85才にわたり、平均は60才であった。TNM分類11による病理学的進行度による症例の内訳は、pT IB 17, pT II 17, pT IIIA 15, pT IIIB 4, pT IV 34症例であった。本研究における胃癌症例の臨床病理学的因子は表2にまとめた。87症例中、56例が胃癌で死亡した。分化型胃癌は12,未分化型胃癌は44例であった。12例の分化型胃癌の中,3例に肝転移(25%)、1例に肺転移(8%)を認めた。一方、44例の未分化型胃癌では、2例に肝転移(4.5%)、11例に腹膜播種(25%),1例に癌性リンパ管症(2.3%)を認めた。
【0019】
(2) LAT1 発現
正常胃粘膜における腺か上皮のLAT1発現はごくわずかで、LAT1発現の強さは低値(1.1 ±1.2, 平均 ± 標準偏差, 図2-a)であった。しかし腸上皮化生のある背景胃粘膜では、LAT1発現強さはより強かった (2.4 ± 0.9)。胃腺腫でもLAT発現は認められ (1.9 ± 1.2)、粘膜固有層の下1/2よりも上1/2の方が強かった。
胃癌では癌細胞膜に強く発現していた (2.6 ± 0.8)。分化型胃癌と未分化型胃癌の間でのLAT1発現に有意な差はなかった。しかし、非スキルス型胃癌はスキルス型胃癌に比べて、LAT1発現スコアが有意に高かった(図2-f)。またLAT1発現スコアは胃腺腫に比較して胃癌でより高かった。さらに胃腺腫や腸上皮化生のある背景胃粘膜におけるLAT1発現の強さは正常粘膜よりも有意に強かった。
正常粘膜、腸上皮化生のある背景胃粘膜、胃腺腫及び胃癌の代表的なLAT1発現を図3に示した。
【0020】
(3) 胃癌の粘液表現型とLAT1発現
粘液の4マーカー発現に基づいて、87症例を4カテゴリへ分類した。26例はG型、22例はI型、38例はGI型、1例がU型であった。これら4カテゴリの間でLAT1発現を比較したが、有意な違いをみとめなかった。
【0021】
(4) リンパ節転移とLAT1発現との関連
リンパ節転移のある症例は転移のない症例と比較して、癌細胞のLAT1発現の強さが高い傾向を認めた (p=0.0573)。さらにLAT1スコアはリンパ節転移例で転移のない症例と比較して有意に高かった(p=0.0077)。癌細胞のリンパ管や血管侵襲とLAT1発現とは有意な相関がみられなかった(データ省略)。
【0022】
(5) p53 発現とLAT1発現との関連
Spearman’s rank correlation coefficient test によると、胃癌全症例でのp53スコアとLAT1発現の強さとの間には弱い相関を認めた(r=0.459, p<0.0001)。さらに胃癌全症例でのp53発現スコアとLAT1発現スコアとの間にも弱い相関を認めた(r=0.463, p<0.0001)。
【0023】
(6) Ki-67 LI とLAT1発現との関連
図4に示したように、胃癌におけるKi-67 LIは他の胃病変グループより高かった。胃癌全症例でのKi-67 LI とLAT1発現強さとの間に弱い相関を認めた(r=0.428, p<0.001)。Ki-67 LI とLAT1発現スコアとの間には有意な相関を認めなかった。
【0024】
(7) 患者の生存曲線
低及び高LAT1 発現スコア (低スコア0-4、高スコア6-9)で87症例を分けて生存曲線を比較した。全症例では、低LAT1スコア及び高LAT1 スコア群で有意な差がなかった(p=0.0997, 図5a)。しかし、非スキルス型胃癌では、高LAT1発現群は予後が有意に不良であった(p=0.0270, 図5b)。 特にstage IB とIIの非スキルス型胃癌に限定すると、高LAT1は予後が有意に不良であった(p=0.0156, 図5c)。
さらにI型(腸型)を除いた胃癌症例及び未分化癌では、高LAT1 スコア群が予後不良の傾向を示した(それぞれp=0.0570, 図6a;p=0.0558, 図6b)。
さらにスキルス型胃癌を除いた未分化癌(33例)では高LAT1 スコア群が有意に予後不良であった(p=0.0177, 図6c)。
【0025】
(8) Cox hazard テスト
87症例全体では、癌の進行度stage のみが予後規定因子であった(表3)。非スキルス型胃癌に限定すると、LAT1 スコアとstage が単変量解析で、予後規定因子として認められた。続いて多変量解析でも両者は個々の独立した予後因子であった(表4)。
【表1】

【表2】

【表3】

【表4】

【0026】
文献
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【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗LAT1モノクローナル抗体を有する、免疫組織学染法によって胃癌の悪性度を決定するために使用されるキット。
【請求項2】
該モノクローナル抗体は、ヒトLAT1アミノ酸残基の、N末端から1〜52位を特異的に認識する、請求項1記載の胃癌の悪性度を決定するために使用されるキット。

【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図1】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−163332(P2012−163332A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−16712(P2011−16712)
【出願日】平成23年1月28日(2011.1.28)
【出願人】(506334311)ジェイファーマ株式会社 (4)
【Fターム(参考)】