説明

胃癌の検出方法、胃癌の血液マーカーおよびその使用

【課題】胃癌の検出、予後経過のモニタリング、胃癌の治療方法の選択のための情報の提供などを高い信頼性で行なうことができる、胃癌の検出方法、胃癌の血液マーカーおよびその使用を提供する。
【解決手段】血液試料中のmiR−451、前記miR−451の機能的変異体、miR−486および前記miR−486の機能的変異体からなる群より選ばれた少なくとも1種のマイクロRNAを胃癌の血液マーカーとして用いる、胃癌の検出方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、胃癌の検出方法、胃癌の血液マーカーおよびその使用に関する。さらに詳しくは、胃癌の診断、予後経過のモニタリング、胃癌の治療方法の選択などに有用な、胃癌の検出方法、胃癌の術後モニタリング方法、胃癌の血液マーカーおよびその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
胃癌は、癌による死因のなかでも高い割合を占めている。近年の診断技術と術前術後管理の発達により、胃癌患者の死亡率が低下している。しかしながら、癌が進行した患者では、外科的手術後に癌が再発することがある。そのため、胃癌患者の治癒率を高めるためには、胃癌の原発巣を初期段階での発見することや、癌の再発を微小や不顕性の段階で発見することが重要である。
【0003】
近年、マイクロRNAは、発生、細胞死、細胞増殖、代謝などの生理学的経路や、癌の形成および発達に関与している可能性が報告されている。また、マイクロRNAは、血漿や血清で安定して検出できることが報告されている。例えば、非特許文献1には、胃癌患者の血漿に含まれるマイクロRNAであるmiR−17−5p、miR−21、miR−106a、miR−106bおよびlet−7aを胃癌の血漿マーカーとして用いることが報告されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】ツジウラ(M Tsujiura)ら、「胃癌患者の血漿中における循環マイクロRNA(Circulating microRNAs in plasma of patients with gastric cancers)」、ブリティッシュ・ジャーナル・オブ・キャンサー(British Journal of Cancer)、2010年、第102巻、pp.1174−1179
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、臨床で用いるためには、より信頼性の高いマーカーの開発が望まれている。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、胃癌の検出、予後経過のモニタリング、胃癌の治療方法の選択のための情報の提供などを高い信頼性で行なうことができる、胃癌の検出方法、胃癌の血液マーカーおよびその使用を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
〔1〕 (A)被験者から採取された血液試料中のmiR−451、前記miR−451の機能的変異体、miR−486および前記miR−486の機能的変異体からなる群より選ばれた少なくとも1種のマイクロRNAの量に関する値を取得する工程、および
(B) 前記工程(A)で得られたマイクロRNAの量に関する値に基づいて、胃癌に関する情報を取得する工程、
を含む、胃癌の検出方法、
〔2〕 胃癌に関する情報が、被験者が胃癌を有するか否かの情報である、前記〔1に記載の方法、
〔3〕 前記工程(A)において、
(I−1)配列番号:1に示された塩基配列からなるマイクロRNA、
(I−2)配列番号:1において、1または数個の塩基の置換、欠失または付加を有する塩基配列からなり、かつ胃癌を有する個体の血液と比べて胃癌を有しない個体の血液においてダウンレギュレーションされるマイクロRNA、
(I−3)配列番号:1と相補的な配列からなる核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ胃癌を有する個体の血液と比べて胃癌を有しない個体の血液においてダウンレギュレーションされるマイクロRNA、
(II−1)配列番号:2に示された塩基配列からなるマイクロRNA、
(II−2)配列番号:2において、1または数個の塩基の置換、欠失または付加を有する塩基配列からなり、かつ胃癌を有する個体の血液と比べて胃癌を有しない個体の血液においてダウンレギュレーションされるマイクロRNA、および
(II−3)配列番号:2と相補的な配列からなる核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ胃癌を有する個体の血液と比べて胃癌を有しない個体の血液においてダウンレギュレーションされるマイクロRNA
からなる群より選ばれた少なくとも1種のマイクロRNAの量に関する値を取得する、前記〔1〕または〔2〕に記載の方法、
〔4〕 血液試料が、胃癌の疑いのある被験者から採取された血液試料である、前記〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の方法、
〔5〕 前記工程(B)において、前記工程(A)で得られたマイクロRNAの量に関する値を、健常者の血液試料中の前記マイクロRNAの量に関する値と比較することにより、胃癌に関する情報を取得する、前記〔4〕に記載の方法、
〔6〕 血液試料が、胃癌患者から外科的手術の前後に採取された術前血液試料および術後血液試料である、前記〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の方法、
〔7〕 前記工程(B)において、外科的手術前に採取された血液試料中のマイクロRNAの量に関する値と、手術後に採取された血液試料中のマイクロRNAの量に関する値とを比較し、健常者の血液試料中の前記マイクロRNAの量に関する値と比較することにより、胃癌に関する情報を取得する、前記〔6〕に記載の方法、
〔8〕 血液試料中のマイクロRNAの量を、DNAアレイ法、ノーザンブロット法、RT−PCR法およびリアルタイムRT−PCR法のいずれかの方法で測定する、前記〔1〕〜〔7〕のいずれかに記載の方法、
〔9〕 血液試料中に存在しており、かつ胃癌の指標となるマーカーであって、
(I−1)配列番号:1に示された塩基配列からなるマイクロRNA、
(I−2)配列番号:1において、1または数個の塩基の置換、欠失または付加を有する塩基配列からなり、かつ胃癌を有する個体の血液と比べて胃癌を有しない個体の血液においてダウンレギュレーションされるマイクロRNA、および
(I−3)配列番号:1と相補的な配列からなる核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ胃癌を有する個体の血液と比べて胃癌を有しない個体の血液においてダウンレギュレーションされるマイクロRNA
からなる群より選択されたマイクロRNA、または
(II−1)配列番号:2に示された塩基配列からなるマイクロRNA、
(II−2)配列番号:2において、1または数個の塩基の置換、欠失または付加を有する塩基配列からなり、かつ胃癌を有する個体の血液と比べて胃癌を有しない個体の血液においてダウンレギュレーションされるマイクロRNA、および
(II−3)配列番号:2と相補的な配列からなる核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ胃癌を有する個体の血液と比べて胃癌を有しない個体の血液においてダウンレギュレーションされるマイクロRNA
からなる群より選択されたマイクロRNA
を含有してなる、胃癌の血液マーカー、
〔10〕 血液試料が、血漿試料である、前記〔9〕に記載の血液マーカー、ならびに
〔11〕 胃癌の診断用または予後経過のモニタリング用の試薬の製造のための前記〔9〕または〔10〕に記載の血液マーカーの使用
に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の胃癌の血液マーカー、胃癌の検出方法およびその使用によれば、胃癌の検出、予後経過のモニタリング、胃癌の治療方法の選択のための情報の提供などを高い信頼性で行なうことができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】(A)は実施例2において、術前胃癌患者群の血漿試料または健常者群の血漿試料とmiR−451の濃度との関係を調べた結果を示すグラフ、(B)は実施例2において、術前胃癌患者群の血漿試料または健常者群の血漿試料とmiR−486の濃度との関係を調べた結果を示すグラフである。
【図2】(A)は実施例2において、miR−451の濃度のROC曲線解析を行なった結果を示すグラフ、実施例2において、miR−486の濃度のROC曲線解析を行なった結果を示すグラフである。
【図3】(A)は実施例3において、術前血漿試料または術後血漿試料とmiR−451の濃度との関係を調べた結果を示すグラフ、(B)は実施例3において、術前血漿試料または術後血漿試料とmiR−486の濃度との関係を調べた結果を示すグラフである。
【図4】(A)は参考例1において、非癌組織または胃癌組織とmiR−451の相対発現比との関係を調べた結果を示すグラフ、(B)は参考例1において、非癌組織または胃癌組織とmiR−486の相対発現比との関係を調べた結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[胃癌の検出方法]
本発明の胃癌の検出方法(以下、単に、「本発明の方法」という)は、(A)被験者から採取された血液試料中のmiR−451、前記miR−451の機能的変異体、miR−486および前記miR−486の機能的変異体からなる群より選ばれた少なくとも1種のマイクロRNAの量に関する値を取得する工程、および
(B) 前記工程(A)で得られたマイクロRNAの量に関する値に基づいて、胃癌に関する情報を取得する工程、
を含むことを特徴とする。
【0011】
本発明の方法は、血液試料中の前記マイクロRNAの量に関する値を取得することに1つの大きな特徴がある。胃癌患者から外科的手術前に採取された血液試料(「術前血液試料」という)では、同じ胃癌患者から手術後に採取された血液試料(「術後血液試料」という)や健常者の血液試料と比べて、前記マイクロRNAの量が顕著に多い。しかも、術前血液試料と、術後血液試料または健常者の血液試料との間における前記マイクロRNAの量の差は、非癌組織と胃癌組織との間におけるマイクロRNAの量(相対発現比)の差と比べて大きい。したがって、本発明の方法によれば、組織試料を用いる場合と比べて、低侵襲で、かつ高い信頼性で胃癌を検出することができる。また、前記マイクロRNAは、リンパ節浸潤の有無、TMN病期の種類などによって、血液試料中における量の有意な差異が見られることから、本発明の方法によれば、かかる差異に基づく胃癌の治療方法の選択のための情報の提供にも用いることができる。
【0012】
本発明の方法では、まず、被験者から採取された血液試料中のmiR−451、前記miR−451の機能的変異体、miR−486および前記miR−486の機能的変異体からなる群より選ばれた少なくとも1種のマイクロRNAの量に関する値を取得する〔「工程(A)」という〕。
【0013】
被験者としては、例えば、胃癌の疑いがある被験者、胃癌患者などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0014】
前記被験者から採取された血液試料としては、例えば、胃癌の疑いのある被験者から採取された血液試料、胃癌患者から外科的手術の前後に採取された術前血液試料および術後血液試料などが挙げられる。前記血液試料としては、より具体的には、例えば、血漿試料、血清試料などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。前記血液試料は、前記マイクロRNAを効率よく検出することができ、かつ取り扱いや調製が容易であることから、血漿試料であることが好ましい。
【0015】
前記工程(A)で測定されるマイクロRNAは、miR−451、前記miR−451の機能的変異体、miR−486および前記miR−486の機能的変異体のいずれか1つであってもよく、miR−451またはその機能的変異体とmiR−486またはその機能的変異体との組み合せであってもよい。ここで、本明細書において、「miR−451の機能的変異体」とは、miR−451の塩基配列と1または数個の塩基が異なるが、miR−451と同様の生物学的挙動を示すマイクロRNAをいう。同様に、「miR−486の機能的変異体」とは、miR−486の塩基配列と1または数個の塩基が異なるが、miR−486と同様の生物学的挙動を示すマイクロRNAをいう。前記マイクロRNAについては、後述の「[胃癌の血液マーカー]」の項でより具体的に説明する。なお、本発明の目的を妨げないのであれば、前記miR−451およびmiR−486は、それぞれ、成熟型(mature form)であってもよく、前駆体(pre−miRNA)の状態であってもよい。
【0016】
血液試料中のマイクロRNAの量に関する値としては、例えば、血液試料中に含まれるマイクロRNAの量、血液試料におけるマイクロRNAの濃度、血液試料中の対照の量に対するマイクロRNAの相対量(例えば、相対発現比など)、血液試料中に含まれるマイクロRNAの量や濃度を間接的に反映する値(例えば、蛍光強度、吸光度など)などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0017】
血液試料中の前記マイクロRNAの量に関する値の取得に際しては、血液試料から調製されたマイクロRNAを含むRNA試料が用いられる。血液試料からのRNA試料の調製は、例えば、グアニジン−塩化セシウム超遠心法、酸性グアニジン−フェノール−クロロホルム(Acid guanidinium−Phenol−Chloroform;AGPC)法などの方法によって行なうことができるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。また、血液試料からのRNA試料の調製は、RNAを抽出するための市販のキットを用いることもできる。ここで、市販のキットとしては、アンビオン(Ambion)社製、商品名:miRVAna PARIS kit(登録商標)などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0018】
前記マイクロRNAの量に関する値の取得方法としては、例えば、マイクロアレイ法;RT−PCR法;リアルタイムRT−PCR法などの定量的RT−PCR法;ノーザンブロット法などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。前記方法のなかでは、迅速かつ簡便にマイクロRNAの量に関する値の取得することができることから、定量的RT−PCR法およびマイクロアレイ法が好ましい。高い感度かつ高い精度で選択的にマイクロRNAに関する情報の取得することが望まれる場合、定量的RT−PCRが望ましい。また、迅速かつ網羅的にマイクロRNAに関する情報の取得することが望まれる場合、マイクロアレイ法が望ましい。
【0019】
前記マイクロアレイ法は、例えば、
1−1) 前記RNA試料中のRNAを標識物質で標識して標識RNAを含有する試料を得る工程、
1−2) 得られた標識RNAを含有する試料中に含まれうるマイクロRNAと、前記マイクロRNAの配列に相補的な塩基配列またはその一部からなる核酸が基材上に固定化されたマイクロアレイとを、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズさせる工程、および
1−3) マイクロアレイ上に捕捉された標識RNAに含まれる標識物質の量を測定する工程
により、実施することができる。しかしながら、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0020】
前記標識物質としては、例えば、Cy2、FluorX、Cy3、Cy3.5、Cy5、Cy5.5、Cy7、イソチオシアン酸フルオレセイン(FITC)、テキサスレッド、ローダミンなどの蛍光物質などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。前記工程1−1)において、標識物質によるRNAの標識は、用いられる標識物質の種類などに応じた方法により適宜行なうことができる。
【0021】
マイクロアレイに用いられる核酸は、前記工程1−2)において、前記マイクロRNAにストリンジェントな条件、好ましくは中程度のストリンジェントな条件、より好ましくは高ストリンジェントな条件下にハイブリダイズする核酸であればよい。かかる核酸としては、例えば、DNAなどの天然核酸、ペプチド核酸などの人工核酸などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。マイクロアレイに用いられる基材としては、例えば、ガラス基板、プラストック基板などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。前記マイクロアレイは、例えば、前記核酸を前記基材に固定化することによって作製されうる。なお、本明細書において、「ストリンジェントな条件」は、短鎖のヌクレオチドのハイブリダイゼーションに関して、一般に知られたものを用いることができる。なお、「ストリンジェントな条件」は、例えば、モレキュラー・クローニング・ア・ラボラトリー・マニュアル(Molecular Cloning,A Laboratory Mannual) 第2版〔ザンブルーク(J.Sambrook)ら、コールド・スプリング・ハーバー・ラボラトリー・プレス(Cold Spring Harbor Laboratory Press)、1989年発行〕に記載されている短鎖のヌクレオチドのハイブリダイゼーションに関する条件等を参照して設定することができる。かかる「ストリンジェントな条件」としては、例えば、6×SSC(1×SSCの組成:0.15M塩化ナトリウム、0.015Mクエン酸ナトリウム、pH7.0)と0.5質量%SDSと5×デンハルトと50質量%ホルムアミドとを含む溶液中、42℃で一晩保温し、2×SSC、よりストリンジェントな条件として0.1×SSCを用いるイオン強度条件下に、42℃以上、よりストリンジェントな条件として、50℃以上、より一層ストリンジェントな条件として60℃以上の温度の条件下での洗浄を行なう条件などが挙げられるは、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0022】
前記工程1−3)において、標識物質の量の測定は、用いられる標識物質の種類などに応じた方法により適宜行なうことができる。なお、測定値は、必要に応じて、統計学的手法により、正規化し、解析してもよい。かかる測定値から、血液試料中のマイクロRNAの量を算出することができる。
【0023】
前記RT−PCR法は、例えば、
2−1) 前記RNA試料を鋳型とし、逆転写反応を行なう工程、
2−2) 得られた産物を鋳型とし、前記マイクロRNAを増幅するプライマーセットを用いてPCRを行なう工程、および
2−3) PCRのエンドポイントで、得られたPCR産物を定量する工程
により、実施することができる。しかしながら、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0024】
前記工程2−1)において、逆転写反応は、オリゴ(dT)プライマー、ランダムヘキサマー、マイクロRNAに特異的なプライマーなどのプライマーなどを用い、慣用の方法にしたがって実施することができる。用いることができるプライマーとしては、例えば、配列番号:1〜4のいずれかの塩基配列、好ましくは配列番号:1または2の塩基配列を有するマイクロRNAを増幅できるプライマー(例えば、配列番号:1または2の塩基配列を有するプライマー、配列番号:3の一部または配列番号:4の一部を有するプライマーなど)を含むプライマーセット、キット〔例えば、インビトロジェン社製、商品名:TaqMan MicroRNA Assay、インビトロジェン社製、商品名:NCodeTM VILOTM miRNA、アジレント・テクノロジー社製、商品名:High−Specificity miRNA QRT−PCR Detection Kitなど〕に添付のプライマーセットなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。なお、「配列番号:3の一部」とは、配列番号:3に含まれ、当該配列番号:3に特有の配列をいう。また、「配列番号:4の一部」とは、配列番号:4に含まれ、当該配列番号:4に特有の配列をいう。「配列番号:3に特有の配列」及び「配列番号:4」に特有の配列は、配列データベース、好ましくはヒトの配列データベースにおいて、ホモロジーを有する配列が存在することが確認されない配列であることが望ましい。
【0025】
前記工程2−2)で用いられるマイクロRNAを増幅するプライマーセットとしては、例えば、配列番号:1〜4のいずれかの塩基配列、好ましくは配列番号:1または2の塩基配列を有するマイクロRNAを増幅できるプライマー(例えば、配列番号:1または2の塩基配列を有するプライマー、配列番号:3の一部または配列番号:4の一部を有するプライマーなど)を含むプライマーセットなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。前記工程2−2)において、PCRは、マイクロRNAを増幅するプライマーセットなどを用い、慣用の方法にしたがって実施することができる。
【0026】
前記工程2−3)において、前記PCR産物の定量は、電気泳動法などによって実施することができる。
【0027】
前記定量的RT−PCR法は、例えば、前記RT−PCR法において、PCRのエンドポイントでPCR増幅産物を定量するのではなく、PCRを行なう際に、PCR産物に特異的な標識プローブまたは検出可能なインターカレーターを用いることにより、反応中にリアルタイムにCt値を算出し、算出されたCt値と検量線とを用いて初期鋳型量を求めることによって実施することができる。しかしながら、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0028】
前記PCR産物に特異的な標識プローブとしては、例えば、TaqMan(登録商標)プローブ、モレキュラービーコン(Molecular Beacon)、サイクリングプローブなどの蛍光物質で標識されたプローブなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。かかる標識プローブの塩基配列は、前記マイクロRNAの配列に相補的な塩基配列であればよい。また、検出可能なインターカレーターとしては、例えば、SYBR(登録商標) Green Iなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0029】
前記ノーザンブロット法は、例えば、
3−1) 前記RNA試料を変性ゲル上で電気泳動した後、当該変性ゲル上のRNAをメンブランに転写する工程、
3−2)得られたメンブランと、前記マイクロRNAの配列に相補的な塩基配列またはその一部からなる核酸が標識物質で標識された標識プローブとを、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズさせる工程、および
3−3) メンブラン上の標識プローブに含まれる標識物質の量を測定する工程
により、実施することができる。しかしながら、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0030】
本発明の方法では、つぎに、前記工程(A)で得られたマイクロRNAの量に関する値に基づいて、胃癌に関する情報を取得する〔「工程(B)」という〕。
【0031】
前記胃癌に関する情報としては、例えば、被験者が胃癌を有するか否かの情報、胃癌患者の予後経過に関する情報、被験者に適した治療方法の選択のための情報などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらのなかでも、本発明の方法によれば、被験者が胃癌を有するか否かの情報を容易に、かつ高い精度で取得することができる。
【0032】
血液試料が、胃癌の疑いのある被験者から採取された血液試料である場合、胃癌の有無などに関する情報、被験者に適した治療方法の選択のための情報などを得ることができる。この場合、前記工程(B)において、前記工程(A)で得られたマイクロRNAの量に関する値を、健常者の血液試料中の前記マイクロRNAの量に関する値と比較することにより、胃癌に関する情報を取得する。
【0033】
ここで、「健常者の血液試料中の前記マイクロRNAの量や濃度と比べて、被験者から採取された血液試料中の前記マイクロRNAの量や濃度が大きい」ことを示す結果が得られた場合、被験者が胃癌を有することを示唆する情報が得られる。一方、「被験者から採取された血液試料中の前記マイクロRNAの量や濃度が、健常者の血液試料中の前記マイクロRNAの量や濃度と同等またはそれ以下である」ことを示す結果が得られた場合、被験者が胃癌を有しないことを示唆する情報が得られる。なお、健常者の血液試料中の前記マイクロRNAの量に関する値は、前記工程(A)において、被験者の血液試料の代わりに健常者の血液試料を用いることを除き、前記工程(A)と同様の操作を行なうことによって得ることができる。
【0034】
血液試料が、胃癌患者から外科的手術の前後に採取された術前血液試料および術後血液試料である場合、胃癌患者の外科的手術後の術後モニタリングに関する情報、被験者に適した治療方法の選択のための情報などを得ることができる。この場合、前記工程(B)において、外科的手術前に採取された血液試料中のマイクロRNAの量に関する値と、手術後に採取された血液試料中のマイクロRNAの量に関する値とを比較し、健常者の血液試料中の前記マイクロRNAの量に関する値と比較し、得られた比較結果に基づいて、胃癌に関する情報を取得する。
【0035】
ここで、「術後血液試料中の前記マイクロRNAの量や濃度と比べて、術前血液試料中の前記マイクロRNAの量や濃度が小さい」ことを示す結果が得られた場合、被験者が胃癌を有しないこと(術後経過が良好であること)を示唆する情報が得られる。一方、「術後血液試料中の前記マイクロRNAの量や濃度が、術前血液試料中の前記マイクロRNAの量や濃度と同等またはそれ以上である」ことを示す結果が得られた場合、被験者が胃癌を有すること(胃癌の再発)を示唆する情報が得られる。
【0036】
以上説明したように、本発明の方法によれば、胃癌に関する情報を高い信頼性で取得することができる。また、前記マイクロRNAは、リンパ節浸潤の有無、TMN病期の種類などによって、血液試料中における量の有意な差異が見られることから、胃癌の治療方法の選択にも用いることができる。したがって、本発明の方法は、胃癌の診断、予後経過のモニタリング、胃癌の治療方法の選択などに有用である。
【0037】
[胃癌の血液マーカー]
本発明の胃癌の血液マーカーは、血液試料中に存在しており、かつ胃癌の指標となるマーカーであって、
(I−1)配列番号:1に示された塩基配列からなるマイクロRNA、
(I−2)配列番号:1において、1または数個の塩基の置換、欠失または付加を有する塩基配列からなり、かつ胃癌を有する個体の血液と比べて胃癌を有しない個体の血液においてダウンレギュレーションされるマイクロRNA、および
(I−3)配列番号:1と相補的な配列からなる核酸とストリンジェントな条件、好ましくは中程度のストリンジェントな条件、より好ましくは高ストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ胃癌を有する個体の血液と比べて胃癌を有しない個体の血液においてダウンレギュレーションされるマイクロRNA
からなる群より選択されたマイクロRNA、または
(II−1)配列番号:2に示された塩基配列からなるマイクロRNA、
(II−2)配列番号:2において、1または数個の塩基の置換、欠失または付加を有する塩基配列からなり、かつ胃癌を有する個体の血液と比べて胃癌を有しない個体の血液においてダウンレギュレーションされるマイクロRNA、および
(II−3)配列番号:2と相補的な配列からなる核酸とストリンジェントな条件、好ましくは中程度のストリンジェントな条件、より好ましくは高ストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ胃癌を有する個体の血液と比べて胃癌を有しない個体の血液においてダウンレギュレーションされるマイクロRNA
からなる群より選択されたマイクロRNA
を含有している。本発明の胃癌の血液マーカーは、前記塩基配列からなるマイクロRNAを含有するため、高い信頼性で胃癌を検出することができる。
【0038】
本発明の胃癌の血液マーカーが存在する血液試料としては、例えば、血漿試料、血清試料などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。かかる血液試料の中では、検出が容易であることから、血漿試料が好ましい。
【0039】
前記(I−1)のマイクロRNAはmiR−451である。また、また、前記(II−1)のマイクロRNAはmiR−486である。前記(I−1)および(II−1)のマイクロRNAは、胃癌を有する個体の血液と比べて胃癌を有しない個体の血液において顕著にダウンレギュレーションされる。
【0040】
miR−451またはmiR−486の塩基配列とmiR−451の塩基配列と1または数個の塩基が異なっていても、miR−451またはmiR−486と同様の生物学的挙動を示す場合、かかる変異を有する機能的変異体、本発明に含まれる。前記(I−2)および(I−3)のマイクロRNAはmiR−451の機能的変異体である。また、前記(II−2)および(II−3)のマイクロRNAはmiR−486の機能的変異体である。
【0041】
本明細書において、「1または数個」とは、好ましくは1〜5個、より好ましくは1〜3個、さらに好ましくは1〜2個をいう。
【0042】
なお、本発明においては、機能的変異体は、miR−451またはmiR−486と同様の生物学的挙動を示すのであれば、配列番号:1または配列番号:2に示される塩基配列に対する配列同一性が少なくとも80%、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上であり、かつ胃癌を有する個体の血液と比べて胃癌を有しない個体の血液においてダウンレギュレーションされるマイクロRNAであってもよい。なお、前記配列同一性は、配列番号:1または配列番号:2に示される塩基配列(参照配列)に対して、評価対象の塩基配列(クエリー配列)を、短鎖ヌクレオチドの場合のデフォルトの条件で、BLASTアルゴリズムを用いてアライメントし、算出された値をいう。
【0043】
なお、本発明の目的を妨げないのであれば、前記マイクロRNAは、前駆体(pre−miRNA)の状態であってもよい。ここで、前駆体(pre−miRNA)の状態のマイクロRNAとしては、miR−451に関して、
(III−1)配列番号:3に示された塩基配列からなるマイクロRNA、
(III−2)配列番号:3において、1または数個の塩基の置換、欠失または付加を有する塩基配列からなり、かつ胃癌を有する個体の血液と比べて胃癌を有しない個体の血液においてダウンレギュレーションされるマイクロRNA、
(III−3)配列番号:3と相補的な配列からなる核酸とストリンジェントな条件、好ましくは中程度のストリンジェントな条件、より好ましくは高ストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ胃癌を有する個体の血液と比べて胃癌を有しない個体の血液においてダウンレギュレーションされるマイクロRNA
など、miR−486に関して、
(IV−1)配列番号:4に示された塩基配列からなるマイクロRNA、
(IV−2)配列番号:4において、1または数個の塩基の置換、欠失または付加を有する塩基配列からなり、かつ胃癌を有する個体の血液と比べて胃癌を有しない個体の血液においてダウンレギュレーションされるマイクロRNA、
(IV−3)配列番号:4と相補的な配列からなる核酸とストリンジェントな条件、好ましくは中程度のストリンジェントな条件、より好ましくは高ストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ胃癌を有する個体の血液と比べて胃癌を有しない個体の血液においてダウンレギュレーションされるマイクロRNA
などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0044】
以上説明したように、本発明の胃癌の血液マーカーは、胃癌を有する個体の血液と比べて胃癌を有しない個体の血液において顕著にダウンレギュレーションされることから、胃癌の検出、予後経過のモニタリングなどに有用である。また、本発明の胃癌の血液マーカーは、リンパ節浸潤の有無、TMN病期の種類などによって、血液試料中における量の有意な変動が見られることから、胃癌の治療方法の選択にも用いることができる。
【0045】
[胃癌の血液マーカーの用途]
本発明の胃癌の血液マーカーは、胃癌の診断に用いることができることから、胃癌の診断用の試薬の製造に用いることができる。胃癌の診断用の試薬の製造のための本発明の血液マーカーの使用も本発明に包含される。
【0046】
胃癌の診断用の試薬としては、例えば、前記マイクロRNAの配列に相補的な塩基配列またはその一部からなる核酸が基材上に固定化されたマイクロアレイ、前記マイクロRNAの配列に相補的な塩基配列またはその一部からなる核酸が標識物質で標識された標識プローブ、前記マイクロRNAを増幅するプライマーセットなどが挙げられる。本発明の胃癌の血液マーカーは、かかる胃癌の診断用の試薬の設計に好適である。
【実施例】
【0047】
(調製例1)
[血液からの解析用試料の調製]
(1)血漿試料の調製
3人の胃癌患者それぞれから、根治切除手術の術前と、術後1〜2月経過時とに採血された血液を、細胞核酸による汚染を防止するために、150×g(1500rpm)で30分間、600×g(3000rpm)で5分間および1300×g(4500rpm)で5分間の遠心処理に供し、細胞核酸から無細胞核酸を隔離して血漿試料(術前血漿試料および術後血漿試料)を得た。なお、3人の胃癌患者すべてが、根治切除手術を受けてから2011年8月までに再発していない患者である。
【0048】
(2)RNAの抽出
前記(1)で得られた血漿試料400μLと精製キット(Ambion社製、商品名:miRVana PARIS Kit)とを用い、前記キットに付属のプロトコールにしたがってRNAを抽出した。その後、得られたRNAを、95℃に予め加熱された溶出溶液100μL中に溶離させ、解析用試料として、RNA溶液100μLを得た。
【0049】
(実施例1)
(1)マイクロアレイ解析
調製例1で得られた解析用試料400μLと、miRNAマイクロアレイチップ(東レ(株)製、商品名:3D−Gene miRNAマイクロアレイ)とを用い、前記チップに付属のプロトコールにしたがってマイクロアレイ解析を行ない、3人の胃癌患者それぞれについて、術前血漿試料に含まれるマイクロRNAおよび術後血漿試料中に含まれるマイクロRNAの発現プロファイルを調べた。
【0050】
その後、マイクロアレイ解析のデータを解析し、術前血漿試料における発現レベルと比べて術後血漿試料における発現レベルが顕著に減少したマイクロRNAのなかから、9個のマイクロRNAを選択した。
【0051】
(2)定量的RT−PCR
つぎに、前記(1)のマイクロアレイ解析の結果の有効性を評価するため、定量的RT−PCRを行なった。具体的には、前記(1)と同じ被験者の術前血漿試料または術後血漿試料と、逆転写反応キット〔アプライドバイオシステムズ(Applied Biosystems)社製、商品名:TaqMan Micro RNA Reverse Transcription Kit〕と、アッセイキット〔アプライドバイオシステムズ(Applied Biosystems)社製、商品名:human TaqMan Micro RNA Assay Kit〕とを用い、キットに添付のプロトコールにしたがい、PCRシステム〔アプライドバイオシステムズ(Applied Biosystems)社製、商品名:7300 Real−time PCR system〕で、定量的RT−PCRを行なった。そして、サイクル閾値を、ソフトウェア〔アプライドバイオシステムズ(Applied Biosystems)社製、商品名:SDS 1.4 software〕で算出した。
【0052】
マイクロRNAの濃度は、合成マイクロRNA分子のプール〔アンビオン(Ambion)社製、商品名:miRVana miRNA Reference Panel〕の合成microRNAを用いて得られた検量線を利用し、濃度(amol/μL)を算出した。
【0053】
その結果、前記(1)で選択されたマイクロRNAのうちのほとんどマイクロRNA(9個のマイクロRNAのうちの7個)が、前記(1)のマイクロアレイ解析の結果と同様の傾向を示すことがわかった。これらのマイクロRNAのなかから、術前血漿試料における量が多く、かつ術前血漿試料と比べて術後血漿試料で著しく量が減少する2個のマイクロRNA、miR−451(配列番号:1)およびmiR−486(配列番号:2)を、胃癌患者の新たな血漿バイオマーカーの候補として選択した。
【0054】
(調製例2)
調製例1において、3人の胃癌患者から採血された血液を用いる代わりに、30人の健常者それぞれから採血された血液および56人の胃癌患者それぞれから術前に採血された血液を用いたことを除き、調製例1と同様の操作を行ない、解析用試料を得た。
【0055】
(実施例2)
実施例1(1)において、調製例1で得られた解析用試料を用いる代わりに調製例2で得られた解析用試料を用いたことを除き、実施例1(1)と同様の操作を行ない、30人の健常者および56人の術前胃癌患者それぞれの血漿試料におけるmiR−451またはmiR−486の濃度を調べた。つぎに、マン−ホイットニーU検定により、術前胃癌患者群の血漿試料と健常者群の血漿試料との間におけるmiR−451またはmiR−486の濃度の差を比較した。実施例2において、術前胃癌患者群の血漿試料または健常者群の血漿試料とmiR−451の濃度との関係を調べた結果を図1(A)、実施例2において、術前胃癌患者群の血漿試料または健常者群の血漿試料とmiR−486の濃度との関係を調べた結果を図1(B)に示す。図中、ボックスの上限および下限ならびにボックスの内部の線は、それぞれ、75番目および25番目のパーセンタイルならびにメジアンを示す。また、図中、ボックスの上方および下方の水平バーは、それぞれ、90番目および10番目のパーセンタイルを示す。
【0056】
図1(A)に示された結果から、術前胃癌患者群の血漿試料におけるmiR−451の濃度は、健常者群の血漿試料におけるmiR−451の濃度と比べて有意に(p<0.01)高いことがわかる。また、図1(B)に示された結果から、術前胃癌患者群の血漿試料におけるmiR−486の濃度は、健常者群の血漿試料におけるmiR−486の濃度と比べて有意に(p<0.01)高いことがわかる。
【0057】
つぎに、血漿試料におけるmiR−451またはmiR−486の濃度のROC曲線解析を行ない、miR−451またはmiR−486が、胃癌の検出のための診断ツールとして有用であるかどうかを評価した。また、ヨーデンの指標を用い、血漿試料におけるmiR−451またはmiR−486の濃度のカットオフ値を決定した。実施例2において、miR−451の濃度のROC曲線解析を行なった結果を図2(A)、実施例2において、miR−486の濃度のROC曲線解析を行なった結果を図2(B)に示す。
【0058】
胃癌のマーカーとしての各マイクロRNAの精度の判断基準は、以下のとおりである。
<判断基準>
AUC値が0.9以上1.0以下である 高精度
AUC値が0.7以上0.9未満である 中程度の精度
AUC値が0.7未満である 低精度
【0059】
図2(A)に示された結果から、AUC値が0.96であるため、miR−451は、胃癌患者を検出するのに有用であることがわかる。また、ヨーデンの指標によるmiR−451の濃度の最適なカットオフ値は、0.97amol/μL(感度96%および特異度100%)であった。
【0060】
図2(B)に示された結果から、AUC値が0.92であるため、miR−486は、胃癌患者を検出するのに有用であることがわかる。また、ヨーデンの指標によるmiR−486の濃度の最適なカットオフ値は、0.073amol/μL(感度86%および特異度97%)であった。
【0061】
したがって、これらの結果から、miR−451およびmiR−486は、胃癌患者のスクリーニングおよび/または治療の評価のためのマーカーとして有用であることがわかる。
【0062】
なお、56人の術前胃癌患者におけるリンパ管浸潤の有無と血液試料におけるmiR−451の濃度との関係を調べたところ、血液試料におけるmiR−451の濃度は、リンパ管浸潤がある場合とリンパ管浸潤がない場合との間で有意な差異が見られる傾向があることがわかった。また、56人の術前胃癌患者におけるTMN病期と血液試料におけるmiR−451の濃度との関係を調べたところ、血液試料における低いmiR−451の濃度は、ステ−ジIおよびIIの場合とステージIIIおよびIVの場合との間で有意な差異が見られる傾向があることがわかった。したがって、かかる結果から、かかるマイクロRNAが胃癌の病態の早期の状態から検出される可能性が示唆される。
【0063】
(調製例3)
調製例1において、3人の胃癌患者から採血された血液を用いる代わりに、29人の胃癌患者それぞれから術前および術後に採血された血液を用いたことを除き、調製例1と同様の操作を行ない、解析用試料を得た。なお、前記胃癌患者は、調製例2で用いられた血液が採血された胃癌患者に含まれており、根治切除手術を受けた後、再発が認められていない患者である。
【0064】
(実施例3)
実施例1(1)において、調製例1で得られた解析用試料を用いる代わりに調製例3で得られた解析用試料を用いたことを除き、実施例1(1)と同様の操作を行ない、29人の胃癌患者それぞれの術前血漿試料におけるmiR−451またはmiR−486の濃度および術後血漿試料におけるmiR−451またはmiR−486の濃度を調べた。
【0065】
つぎに、ウィルコクソンt検定を用い、術前血漿試料と術後血漿試料との間におけるmiR−451またはmiR−486の濃度の差を比較した。実施例3において、術前血漿試料または術後血漿試料とmiR−451の濃度との関係を調べた結果を図3(A)、実施例3において、術前血漿試料または術後血漿試料とmiR−486の濃度との関係を調べた結果を図3(B)に示す。図中、ボックスの上限および下限ならびにボックスの内部の線は、それぞれ、75番目および25番目のパーセンタイルならびにメジアンを示す。また、図中、ボックスの上方および下方の水平バーは、それぞれ、90番目および10番目のパーセンタイルを示す。
【0066】
図3(A)に示された結果から、術後血漿試料におけるmiR−451の濃度は、術前血漿試料におけるmiR−451の濃度と比べて有意に(p<0.01)減少していることがわかる。また、術後血漿試料におけるmiR−451の濃度は、26人の胃癌患者(26人/29人、90%)において、術前血漿試料におけるmiR−451の濃度よりも減少していた。
【0067】
また、図3(B)に示された結果から、術後血漿試料におけるmiR−486の濃度は、術前血漿試料におけるmiR−486の濃度と比べて有意に(p<0.01)減少していることがわかる。また、術後血漿試料におけるmiR−486の濃度は、27の胃癌患者(27人/29人、93%)において、術前血漿試料におけるmiR−486の濃度よりも減少していた。
【0068】
したがって、これらの結果から、miR−451およびmiR−486によれば、現在胃癌を患っている個体と、以前胃癌を患っていたが、術後に胃癌の再発がない個体とを明確に判別できることが示唆される。
【0069】
(調製例4)
[組織からの解析用試料の調製]
19人の胃癌患者から採取された組織をホルマリンで固定した後、パラフィンで包埋し、組織試料を得た。得られた組織試料をスライスして、厚さ15μmの4つの切片を得た。得られた4つの切片と、核酸単離キット〔アンビオン(Ambion)社製、商品名: RecoverAll Total Nucleic Acid Isolation Kit〕とを用い、前記キットに付属のプロトコールにしたがってRNAを抽出した。その後、得られたRNAを95℃に予め加熱された溶出溶液60μL中に溶離させ、解析用試料としてRNA溶液60μLを得た。
【0070】
(参考例1)
実施例1(2)において、調製例1で得られた解析用試料を用いる代わりに調製例4で得られた解析用試料を用いたことを除き、実施例1(2)と同様の操作を行ない、19人の胃癌患者それぞれの胃癌組織におけるmiR−451またはmiR−486の濃度および胃癌組織の周辺の非癌組織におけるmiR−451またはmiR−486の濃度を調べた。つぎに、ΔCT法により、U6 small nuclear RNA(RNU6B)の濃度に対してmiR−451またはmiR−486の濃度を正規化した。非癌組織と胃癌組織との間におけるmiR−451またはmiR−486の濃度の変化を、equation 2−ΔΔCtを用いて算出した。つぎに、ウィルコクソンt検定を用い、非癌組織と胃癌組織との間におけるmiR−451またはmiR−486の相対発現比の差を比較した。参考例1において、非癌組織または胃癌組織とmiR−451の相対発現比との関係を調べた結果を図4(A)、参考例1において、非癌組織または胃癌組織とmiR−486の相対発現比との関係を調べた結果を図4(B)に示す。図中、ボックスの上限および下限ならびにボックスの内部の線は、それぞれ、75番目および25番目のパーセンタイルならびにメジアンを示す。また、図中、ボックスの上方および下方の水平バーは、それぞれ、90番目および10番目のパーセンタイルを示す。
【0071】
図4(A)に示された結果から、胃癌組織におけるmiR−451の相対発現比は、非癌組織におけるmiR−451の相対発現比と比べて小さい傾向があることがわかる。また、図4(B)に示された結果から、胃癌組織におけるmiR−486の相対発現比は、非癌組織におけるmiR−486の相対発現比と比べて小さい傾向があることがわかる。これらの結果から、胃癌を有する個体の血漿試料におけるmiR−451またはmiR−486の濃度が、胃癌を有しない個体(または切除されている個体)の血漿試料におけるmiR−451またはmiR−486の濃度と比べて変化がないか、もしくは小さい傾向にあると予想するのが一般的であると考えられる。
【0072】
しかしながら、血漿試料を用いた実施例1〜3では、予想外にも、胃癌を有する個体の血漿試料におけるmiR−451またはmiR−486の濃度が、胃癌を有しない個体の血漿試料(または同個体での切除後の血漿試料)におけるmiR−451またはmiR−486の濃度と比べて多い傾向にある。
【0073】
また、組織試料を用いた場合、血漿試料を用いた場合(実施例2および3)よりもp値が大きくなる傾向が見られる。
【0074】
したがって、高い精度を確保する観点から、胃癌を有する個体と胃癌を有しない個体(または切除されている個体)との識別には、組織試料よりも血漿試料のほうがより有用であることが示唆される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A) 被験者から採取された血液試料中のmiR−451、前記miR−451の機能的変異体、miR−486および前記miR−486の機能的変異体からなる群より選ばれた少なくとも1種のマイクロRNAの量に関する値を取得する工程、および
(B) 前記工程(A)で得られたマイクロRNAの量に関する値に基づいて、胃癌に関する情報を取得する工程、
を含む、胃癌の検出方法。
【請求項2】
胃癌に関する情報が、被験者が胃癌を有するか否かの情報である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記工程(A)において、
(I−1)配列番号:1に示された塩基配列からなるマイクロRNA、
(I−2)配列番号:1において、1または数個の塩基の置換、欠失または付加を有する塩基配列からなり、かつ胃癌を有する個体の血液と比べて胃癌を有しない個体の血液においてダウンレギュレーションされるマイクロRNA、
(I−3)配列番号:1と相補的な配列からなる核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ胃癌を有する個体の血液と比べて胃癌を有しない個体の血液においてダウンレギュレーションされるマイクロRNA、
(II−1)配列番号:2に示された塩基配列からなるマイクロRNA、
(II−2)配列番号:2において、1または数個の塩基の置換、欠失または付加を有する塩基配列からなり、かつ胃癌を有する個体の血液と比べて胃癌を有しない個体の血液においてダウンレギュレーションされるマイクロRNA、および
(II−3)配列番号:2と相補的な配列からなる核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ胃癌を有する個体の血液と比べて胃癌を有しない個体の血液においてダウンレギュレーションされるマイクロRNA
からなる群より選ばれた少なくとも1種のマイクロRNAの量に関する値を取得する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
血液試料が、胃癌の疑いのある被験者から採取された血液試料である、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記工程(B)において、前記工程(A)で得られたマイクロRNAの量に関する値を、健常者の血液試料中の前記マイクロRNAの量に関する値と比較することにより、胃癌に関する情報を取得する、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
血液試料が、胃癌患者から外科的手術の前後に採取された術前血液試料および術後血液試料である、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記工程(B)において、外科的手術前に採取された血液試料中のマイクロRNAの量に関する値と、手術後に採取された血液試料中のマイクロRNAの量に関する値とを比較し、健常者の血液試料中の前記マイクロRNAの量に関する値と比較することにより、胃癌に関する情報を取得する、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
血液試料中のマイクロRNAの量を、DNAアレイ法、ノーザンブロット法、RT−PCR法、およびリアルタイムRT−PCR法のいずれかの方法で測定する、請求項1〜7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
血液試料中に存在しており、かつ胃癌の指標となるマーカーであって、
(I−1)配列番号:1に示された塩基配列からなるマイクロRNA、
(I−2)配列番号:1において、1または数個の塩基の置換、欠失または付加を有する塩基配列からなり、かつ胃癌を有する個体の血液と比べて胃癌を有しない個体の血液においてダウンレギュレーションされるマイクロRNA、および
(I−3)配列番号:1と相補的な配列からなる核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ胃癌を有する個体の血液と比べて胃癌を有しない個体の血液においてダウンレギュレーションされるマイクロRNA
からなる群より選択されたマイクロRNA、または
(II−1)配列番号:2に示された塩基配列からなるマイクロRNA、
(II−2)配列番号:2において、1または数個の塩基の置換、欠失または付加を有する塩基配列からなり、かつ胃癌を有する個体の血液と比べて胃癌を有しない個体の血液においてダウンレギュレーションされるマイクロRNA、および
(II−3)配列番号:2と相補的な配列からなる核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ胃癌を有する個体の血液と比べて胃癌を有しない個体の血液においてダウンレギュレーションされるマイクロRNA
からなる群より選択されたマイクロRNA
を含有してなる、胃癌の血液マーカー。
【請求項10】
血液試料が、血漿試料である、請求項9に記載の血液マーカー。
【請求項11】
胃癌の診断用または予後経過のモニタリング用の試薬の製造のための請求項9または10に記載の血液マーカーの使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−85542(P2013−85542A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−231658(P2011−231658)
【出願日】平成23年10月21日(2011.10.21)
【出願人】(390014960)シスメックス株式会社 (810)
【Fターム(参考)】