説明

胃腸薬

【課題】パンクレアチン単独よりもリパーゼ活性の高い胃腸薬を提供する。
【解決手段】パンクレアチン1重量部に対して、胆汁酸またはその塩を0.01〜0.55重量部の割合で含有する胃腸薬、特に制酸剤を含まない胃腸薬。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パンクレアチンを含有する胃腸薬に関する。
【背景技術】
【0002】
日常生活において、健常者であっても、時として、ストレス、食べ過ぎ、アルコールの過度の摂取、又は薬物の服用等を原因として、胃のもたれ、胸焼け、又は食欲不振等の症状を呈することがある。特に、近年では、複雑な社会構造の中でのストレスや薬剤服用による副作用から、胃もたれや胃重などの慢性的な胃腸症状、すなわち消化管愁訴を訴える症例が増えており、大きな社会問題となっている。
【0003】
消化管愁訴の主原因は、消化不良、慢性胃炎、食後の胃排出遅延、胃酸過多、及び消化性潰瘍等であり、腹部膨満感、上腹部不快感、食欲不振、胸焼け、またはおくび(げっぷ)等の自覚症状が現れる。
【0004】
これらの自覚症状の改善には症状に応じて種々の薬剤が用いられている。例えば、胃排出遅延に対してはアセチルコリン作動薬(ナパジシル酸アクラトニウム製剤)、抗ドーパミン薬(ドンペリドン製剤)、セロトニン拮抗薬(シサプリド製剤)、オピエト作動薬(マレイン酸トリメブチン製剤)、ウルソデスオキシコール酸製剤等が開発され応用されている。
【0005】
しかしながら、アセチルコリン作動薬等は薬効の選択性が低く、さらに中枢神経系に作用する等の副作用の問題もあった。また、その他の薬剤についてもその副作用として下痢、軟便、腹痛、悪心、及び嘔吐等が引き起こされる可能性があり、使用を中止したり、その使用量を低減する必要があった。その反面、これらの製剤は、比較的頻繁に投与されることが多いため、特に高い安全性が要求されている。
【0006】
近年、安全性の高い胃排出能亢進作用を有する物質の探索が精力的に行われている。これまでに、脂肪分解酵素を用いた方法として、真菌由来のリパーゼを投与する方法につき検討がなされているが(特許文献1及び2)、効果の面で満足できるものは未だ報告されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000-26311号公報
【特許文献2】特開2000-38349号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、パンクレアチンを含有する胃腸薬、より詳細には、パンクレアチンのリパーゼ活性が増強され、胃排出亢進活性がより高い胃腸薬を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決すべく、鋭意検討をしていたところ、パンクレアチンと胆汁酸とを併用することで、パンクレアチンが有するリパーゼ活性が増強することを見出した。さらに、本発明者は、当該パンクレアチンと胆汁酸との併用によるリパーゼ活性の増強は、本来パンクレアチンの至適pHである弱アルカリ性領域(pH8付近)ではなく、中性〜酸性領域において特有に生じることを見出し、かかることから、パンクレアチン及び胆汁酸を含有する薬剤は、中性〜酸性領域にある消化管内、特に胃内への適用に適しており、当該消化管内で優れたリパーゼ活性、ひいてはより高い胃排出亢進活性を発揮することを確認した。
【0010】
本発明は、かかる知見に基づき、さらに検討を重ねた結果完成されたものであり、下記の実施形態を有するものである。
【0011】
(I)胃腸薬
I-1.パンクレアチン1重量部に対して、胆汁酸またはその塩を0.01〜0.55重量部の割合で含有する胃腸薬。
I-2.胆汁酸が、コール酸、ケノデオキシコール酸、ヒオコール酸、5α-シプリノール、デオキシコール酸、リトコール酸、ヒオデオキシコール酸、ウルソデオキシコール酸、これらのタウリンまたはグリシン抱合体、及びこれらの薬学的に許容される塩からなる群から選択される少なくとも1種であるI-1に記載する胃腸薬。
I-3.胆汁酸が、ウルソデオキシコール酸であるI-1に記載する胃腸薬。
I-4.制酸剤を含まない、I-1〜I-3のいずれかに記載する胃腸薬。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、パンクレアチンを単独で用いる場合に比べて、より高いリパーゼ活性を発揮する胃腸薬を提供することができる。また本発明によれば、中性〜酸性の消化管内、特に胃内で、より高いリパーゼ活性を発揮する胃腸薬を提供することができる。
【0013】
また、本発明の胃腸薬は、有効成分として既に安全性が認められているパンクレアチンと胆汁酸を有効成分とする。このため、本発明によれば、安全性が担保された状態で、高いリパーゼ活性を有する胃腸薬を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の胃腸薬は、パンクレアチン及び胆汁酸を含有する医薬組成物である。
【0015】
1.パンクレアチン
パンクレアチンは、食用獣、主としてブタの膵臓から製造され、膵アミラーゼ、トリプシン、キモトリプシン、カルボキシペプチダーゼ、リパーゼ、リボヌクレアーゼ、その他多くの酵素を含み、でんぷん消化力、たん白消化力及び脂肪消化力を有する複合消化酵素剤である。日本薬局方で規定されているように、1gあたり、2800でんぷん糖化力単位以上、28000たん白消化力単位以上、及び960脂肪消化力単位以上を含むことが好ましい。
【0016】
本発明の胃腸薬中に配合するパンクレアチンの割合として、制限はされないものの、胃腸薬100重量%中に通常1〜99重量%を挙げることができる。好ましくは1〜55重量%である。
【0017】
本発明においてパンクレアチンは、市販の経口投与用医薬品であるパンクレアチンを制限なく使用することができる。その一例を挙げると、例えば、膵臓性消化酵素8AP(天野エンザイム株式会社製)、膵臓性消化酵素TA(天野エンザイム株式会社製)、「純生」パンクレアチン(純生薬工株式会社製)、パンクレアチン「ヒシヤマ」(ニプロファーマ株式会社製)、パンクレアチン原末「マルイシ」(丸石製薬株式会社製)等を挙げることができる。
【0018】
2.胆汁酸またはその塩
胆汁酸は、哺乳類の胆汁に広範に認められるステロイド誘導体であり、コラン酸骨格を有する化合物の総称である。胆汁酸は、消化管内でミセルの形成を促進し、食物脂肪をより吸収しやすくする作用を有する。また、胃液や膵液などの消化液の分泌を促して、食物の消化を助ける役割も有している。
【0019】
本発明で対象とする胆汁酸には、肝臓で生合成される一次胆汁酸、及び一次胆汁酸が腸管で微生物による変換をうけて生成される二次胆汁酸が含まれる。ここで一次胆汁酸としては、コール酸、ケノデオキシコール酸、ヒオコール酸、及び5α-シプリノールを挙げることができる。また二次胆汁酸としては、デオキシコール酸、リトコール酸、ヒオデオキシコール酸、及びケノデオキシコール酸の7β異性体であるウルソデオキシコール酸を挙げることができる。
【0020】
これらの胆汁酸は、いずれもタウリンと抱合(アミド結合)したタウリン抱合型胆汁酸の形態を有していても良いし、またグリシンと抱合(ペプチド結合)したグリシン抱合型胆汁酸の形態を有していても良い。さらにこれらの胆汁酸は、塩の形態を有していても良く、例えばカリウムやナトリウム等のアルカリ金属との塩、またはカルシウムやマグネシウムなどのアルカリ土類金属との塩等の薬学的に許容される塩を例示することができる。
【0021】
本発明において、パンクレアチンとの相性が良く、リパーゼ活性の向上に優れることから、胆汁酸として好ましくはウルソデオキシコール酸、コール酸、デヒドロコール酸、並びにこれらの胆汁酸とタウリンまたはグリシンとの抱合体を挙げることができる。より好ましくはウルソデオキシコール酸である。
【0022】
本発明において胆汁酸は、上記で説明する各種化合物を1種単独で含有するものであってもよいし、2種以上を任意に組み合わせて含むものであってもよい。また、種々の胆汁酸が含有される胆汁エキス末を好適に使用することができる。
【0023】
胆汁酸の配合割合は、前述するパンクレアチン1重量部に対して、総量で0.01〜0.55重量部になるような割合を挙げることができる。好ましくはパンクレアチン1重量部に対して0.01〜0.5重量部であり、より好ましくは0.01〜0.35重量部、特に好ましくは0.01〜0.2重量部である。この配合割合とすることで、パンクレアチンのリパーゼ活性を効率よく向上させることができる。本発明の胃腸薬中の胆汁酸の配合割合(総量)は、胃腸薬に含まれるパンクレアチン1重量部に対して上記の割合になるように調製されればよく、特に制限されないが、通常0.05〜3重量%、好ましくは0.05〜2重量%、より好ましくは0.05〜1重量%である。
【0024】
本発明において胆汁酸としては、市販の経口投与用医薬品である胆汁酸を制限なく使用することができる。その一例を挙げると、例えば、ウルソデオキシコール酸としては、天野エンザイム株式会社製の「ウルソデオキシコール酸」、胆汁エキス末としては、ミクニ化学産業株式会社製の「豚胆汁エキス末」等を挙げることができる。
【0025】
3.その他の薬効成分
本発明の胃腸薬は、必要に応じてさらに他の薬効成分を含んでいてもよい。他の薬効成分としては、当該分野で従来公知のものを広く使用することができる。
【0026】
他の薬効成分としては、特に限定されないが、消化剤、利胆剤、健胃剤、粘膜修復剤、中枢神経刺激薬、抗ヒスタミン又は抗アレルギー薬、副交感神経遮断薬、交感神経興奮薬(血管収縮薬)、消炎酵素、抗炎症薬、生薬、鎮咳薬、去痰薬、鎮暈薬、解熱鎮痛薬、整腸剤、鎮痛鎮痙剤、及び止瀉剤等が挙げられる。
【0027】
消化剤としては、パンクレアチン及び胆汁酸以外の消化剤として、タンパク質消化酵素、でんぷん消化酵素、脂肪消化酵素、繊維消化酵素、オキシコーラン酸塩類、動物胆等が挙げられる。とくに脂肪消化酵素を併用することで、さらにリパーゼ活性を向上させることが可能になる。脂肪消化酵素としては、位置特異性を有するもの、位置特異性を有さないものなど種々のものが挙げられるが、例えば、1,3位置特異性を有する脂肪消化酵素を併用することでより優れたリパーゼ活性を有する胃腸薬とすることが可能になる。
【0028】
1,3位置特異性を有する脂肪消化酵素としては、例えば、真菌由来のものが挙げられ、特に限定されないが、Chromobacterium属由来のリパーゼ、Mucor属由来のリパーゼ、penicillium属由来のリパーゼ、Rhizopus属由来のリパーゼ、Aspergillus属由来のリパーゼ等が挙げられる。なかでも、Aspergillus属由来のリパーゼが好ましい。Aspergillus属由来のリパーゼとしては、例えば、リパーゼAP4、リパーゼAP6、リパーゼAP12、リパーゼ−M−AP5、リパーゼMAP10、リパーゼM−AP20として天野エンザイム株式会社から販売されているものが挙げられる。
【0029】
本発明において、脂肪消化酵素をさらに含有させる場合、パンクレアチン1重量部に対して、脂肪消化酵素を好ましくは0.1〜1重量部、より好ましくは0.1〜0.5重量部とすることができる。この配合割合とすることで、リパーゼ活性を有する成分としてパンクレアチンを単独で配合する場合に比べて優れたリパーゼ活性を有する胃腸薬とすることができる。
【0030】
利胆剤としてはトレピブトン等が挙げられる。
【0031】
健胃剤としては、アニス実、アロエ、ウイキョウ、ウイキョウ油、ウコン、ウヤク、塩化カルニチン、塩化ベタネコール、塩酸ベタイン、延命草、オウゴン、オウバク、オウレン、加工大蒜、ガジュツ、カッコウ、カラムス根、カルニチン塩化物、乾燥酵母、乾薑、枳殻、キジツ、グルタミン酸塩酸塩、ケイヒ、ゲンチアナ、コウジン、コウボク、ゴシュユ、胡椒、コロンボ、コンズランゴ、サンショウ、山奈、シソシ、シュクシャ、ショウキョウ、ショウズク、ショウズク油、青皮、石菖根、睡菜葉、センタウリウム草、センブリ、ソウジュツ、ソヨウ、大茴香、ダイオウ、チクセツニンジン、チョウジ、チンピ、トウガラシ、トウヒ、動物胆、ニガキ、ニクズク、ニンジン、ハッカ、篳撥、ビャクジュツ、ホップ、ホミカエキス、l−メントール、dl−メントール、モッコウ、ヤクチ、リュウタン、リョウキョウ、レモン油等が挙げられる。
【0032】
粘膜修復剤としては、アズレンスルホン酸塩、アルジオキサ、グリチルリチン酸又はその塩、L−グルタミン、銅クロロフィリンカリウム、銅クロロフィリンナトリウム、塩酸ヒスチジン、甘草抽出物、赤芽柏、エンゴサク、カンゾウ、スクラルファート等が挙げられる。
【0033】
中枢神経刺激薬としては、カフェイン類が例示され、具体的には無水カフェイン、カフェイン、安息香酸ナトリウムカフェイン等が挙げられる。
【0034】
抗ヒスタミン又は抗アレルギー薬としては、塩酸イソチペンジル、塩酸プロメタジン、メチレンジサリチル酸プロメタジン、カルビノキサミン、アステミゾール、フマル酸クレマスチン、メキタジン、マレイン酸クロルフェニラミン、塩酸ジフェンヒドラミン、サリチル酸ジフェンヒドラミン、タンニン酸ジフェンヒドラミン、ジフェンヒドラミン、イブジラスト、アンレキサノクス、シプロヘプタジン、フマル酸ケトチフェン、酒石酸アリメマジン、トラニラスト、ペミロラストカリウム、塩酸アゼラスチン、オキサトミド、フマル酸エメダスチン、塩酸エピナスチン等又はそれらの塩類が挙げられる。
【0035】
副交感神経遮断薬としては、ダツラエキス、ベラドンナアルカロイド、ベラドンナ総アルカロイド、ベラドンナエキス、ロートエキス、ヨウ化イソプロパミド等が挙げられる。
【0036】
交感神経興奮薬としては、塩酸フェニルプロパノールアミン、塩酸フェニレフリン、塩酸メチルエフェドリン、塩酸エフェドリン、塩酸メトキシフェナミン、ノルエピネフリン、硝酸ナファゾリン、ジャイロメタゾリン、ミドドリン、メトキサミン、テトラハイドロゾリン等又はそれらの塩類が挙げられる。
【0037】
消炎酵素としては、塩化リゾチーム、セラペプターゼ、セミアルカリプロティナーゼ、プロクターゼ等が挙げられる。
【0038】
抗炎症薬としては、グリチルリチン酸、アスピリン、インドメタシン、インドメタシンファルネシル、ジクロフェナックナトリウム、アルクロフェナック、アンフェナックナトリウム、イブプロフェン、ケトプロフェン、ロキソプロフェンナトリウム、カンゾウ、ナプロキセン、プラノプロフェン、ザルトプロフェン、トラネキサム酸、メフェナム酸、フルフェナム酸、トルフェナム酸、フェニルブタゾン、サトフェニルブタゾン、ピロキシカム、テノキシカム、アンピロキシカム等が挙げられる。
【0039】
生薬としては、赤芽柏、アロエ、ウイキョウ、エンゴサク、オウバク、オウレン、カンゾウ、ケイヒ、シュクシャ、センブリ、ダイオウ、ニンジン、マオウ等が挙げられる。
【0040】
鎮咳薬としては、臭化水素酸デキストロメトルファン、デキストロメトルファン、塩酸ノスカピン、ノスカピン、塩酸メチルエフェドリン、塩酸フェニルプロパノールアミン、塩酸メトキシフェナミン等が挙げられる。
【0041】
去痰薬としては、塩酸ブロムヘキシン、塩酸アンブロキソール等が挙げられる。
【0042】
鎮暈薬としては、塩酸ジフェニドール、臭化水素酸スコポラミン等が挙げられる。
【0043】
解熱鎮痛薬としては、スルピリン等のピリン系解熱鎮痛薬、サリチル酸ナトリウム、アスピリン、エテンザミド、サリチルアミド、サザピリン等のサリチル酸系薬剤、アセトアミノフェン等のアニリン系薬剤、フルフェナム酸、メフェナム酸等のフェナム酸系薬剤、ジクロフェナクナトリウム、インドメタシン等のアリール酢酸系薬剤、フェニルブタゾン、オキシフェニルブタゾン等のピラゾリジン系薬剤、ブコローム等のピリミジン系薬剤、ピロキシカム等のオキシカム系薬剤、イソプロピルアンチピリン等が挙げられる。
【0044】
整腸剤としては、整腸生菌成分、赤芽柏、アセンヤク、ウバイ、ケツメイシ、ゲンノショウコ等が挙げられる。
【0045】
鎮痛鎮痙剤としては、アミノ安息香酸エチル、エンゴサク、塩酸オキシフェンサイクリミン、塩酸ジサイクロミン、塩酸パパベリン、塩酸メチキセン、カンゾウ、コウボク臭化水素酸スコポラミン、シャクヤク、臭化メチルアトロピン、臭化メチルアニソトロピン、臭化メチルスコポラミン、臭化メチル−l−ヒヨスチアミン、臭化メチルベナクチジウム、ベラドンナエキス、ヨウ化イソプロパミド、ヨウ化ジフェニルピペリジノメチルジオキソラン等が挙げられる。
【0046】
止瀉剤としては、アクリノール、アセンヤク、ウバイ、塩化ベルベリン、オウバク、オウレン、カオリン、グアヤコール、クジン、クレオソート、ゲンノショウコ、五倍子、サリチル酸フェニル、サンザシ、センブリ炭酸グアヤコール、タンニン酸ベルベリン、次サリチル酸ビスマス、次硝酸ビスマス、次炭酸ビスマス、次没食子酸ビスマス、タンニン酸、タンニン酸アルブミン、ヒドロキシナフトエ酸アルミニウム、ペクチン、メチレンチモールタンニン、薬用炭、ヨウバイヒ等が挙げられる。
【0047】
これらの成分は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0048】
なお、本発明の胃腸薬には、本発明の効果を妨げない範囲であれば制酸剤を配合することも可能である。制酸剤としては、オメプラゾール、ランソプラゾール、ラベプラゾールナトリウム等のプロトンポンプ阻害薬;シメチジン、塩酸ラニチジン、及びファモチジン等のH2受容体拮抗薬;乾燥水酸化アルミニウムゲル、ケイ酸アルミン酸マグネシウム、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、ケイ酸マグネシウム、合成ケイ酸アルミニウム、合成ヒドロタルサイト、酸化マグネシウム、水酸化アルミナマグネシウム、水酸化アルミニウムゲル、水酸化アルミニウム・炭酸水素ナトリウム共沈生成物、水酸化アルミニウム・炭酸マグネシウム混合乾燥ゲル、水酸化アルミニウム・炭酸マグネシウム・炭酸カルシウム共沈生成物、水酸化マグネシウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸マグネシウム、沈降炭酸カルシウム、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、無水リン酸水素カルシウム、リン酸水素カルシウム等の無機塩類;烏賊骨、石決明、ボレイ、アミノ酢酸、ジヒドロキシアルミニウムアミノアセテート及びロートエキス等の各種制酸剤等が挙げられる。
【0049】
但し、本発明の胃腸薬は、実験例1で示すように、弱酸性〜中性のpH領域で高いリパーゼ活性を発揮することを特徴とするものであるから、かかるpH条件下での作用効果を損なわないことが好ましい。その点から、本発明の胃腸薬は制酸剤を配合しないことが好ましい。
【0050】
4.本発明の胃腸薬の剤型、及びその他の配合成分
本発明の胃腸薬は、通常、経口投与されるため、経口投与形態を有することが好ましい。経口投与形態で使用される場合、その剤型は特に制限されないが、例えば、液剤や乳液剤等の液体製剤;散剤、錠剤、顆粒剤、丸剤、カプセル剤(軟カプセル剤、硬カプセル剤)、フィルム剤、トローチ、チュアブル錠、及びドライシロップ剤等の固形製剤が挙げられる。また、薬効成分の放出性を制御した製剤形態を有するものであってもよい(例えば、速放性製剤、徐放性製剤など)。また、好ましくは液剤、錠剤、顆粒剤、丸剤、カプセル剤(軟カプセル剤、硬カプセル剤)である。かかる剤型を有する製剤は、当業界の慣用法に従って調製することができる。
【0051】
本発明の胃腸薬は、上記の経口投与形態に製剤化するため、またその安定化のために、薬学上経口投与に許容される各種の担体並びに添加剤を配合することもできる(例えば、日本薬局方または「医薬品添加物事典」(薬事日報社発行)などが参照できる。)。
【0052】
経口投与剤用の担体または添加剤としては、基剤、乳化剤、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、懸濁化剤、界面活性剤、コーティング剤、矯味剤、可塑剤、保存剤、及び着色剤等が挙げられる。
【0053】
固形製剤の基剤としては、コハク化ゼラチン、ゼラチン、中鎖脂肪酸トリグリセリド、炭酸カルシウム、カルメロースナトリウム等が挙げられる。また、液体製剤の基剤としては、蒸留水、イオン交換水、注射用蒸留水などの水;エタノールなどのアルコール等が挙げられる。
【0054】
乳化剤としてはグリセリン脂肪酸エステル、大豆レシチン、メチルセルロース、モノステアリン酸グリセリン等が挙げられる。
【0055】
賦形剤としては、乳糖、白糖、ブドウ糖、マンニット、ソルビトール、トウモロコシデンプン、部分α化デンプン、結晶セルロース、低置換ヒドロキシプロピルセルロース、カルメロースナトリウム、タルク、マクロゴール400等が挙げられる。
【0056】
結合剤としては、デンプン、α−デンプン、寒天、ゼラチン、アラビアガム、デキストリン、メチルセルロース、エチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロースまたはその塩、結晶セルロース等が挙げられる。
【0057】
崩壊剤としては、炭酸カルシウム、クロスポピドン、デンプン、カルボキシメチルセルロースカルシウム、低置換ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルスターチ等が挙げられる。
【0058】
滑沢剤としては、ステアリン酸マグネシウム、タルク、ポリエチレングリコール、無水ケイ酸等が挙げられる。
【0059】
懸濁化剤としては、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、及びプルロニック等が挙げられる。
【0060】
界面活性剤としては、ポリソルベート80、ラウロマクロゴール、コレステロール等が挙げられる。
【0061】
コーティング剤としては、沈降炭酸カルシウム、アラビアゴム、プルラン、カルナウバロウ、ヒドロキシプロピルメチルフタレート等が挙げられる。
【0062】
矯味剤としては、白糖、ブドウ糖、サッカリンナトリウム、ソルビトール、クエン酸、及びアスパルテーム等が挙げられる。
【0063】
可塑剤としては、濃グリセリン、トリアセチン、D-ソルビトール等が挙げられる。
【0064】
保存剤としては、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸プロピル、クエン酸水和物等が挙げられる。
【0065】
着色剤としては、酸化チタン、薬用炭、銅クロロフィリンナトリウム等が挙げられる。
【0066】
また上記成分の他、本発明の効果が損なわれない範囲で、通常経口用の医薬品の添加物として許容される安定剤、分散剤、流動化剤、緩衝剤、湿潤剤、粘稠剤、防腐剤、pH調整剤、溶剤、溶解補助剤等の任意成分を必要に応じて添加することもできる。
【0067】
5.本発明の胃腸薬の製造方法
本発明の胃腸薬は、製剤の形態に応じて、例えば、混和、混練、造粒、打錠、コーティング、滅菌処理、若しくは乳化等の従来汎用されている方法を用い、又はこれらを適宜組み合わせて用いることによって製造できる。
【0068】
6.本発明の胃腸薬の使用方法
本発明の胃腸薬は、そのリパーゼ活性に基づいて胃排出能亢進作用を示すことから、これにより治療され、症状の進行が緩和され、又は自覚症状が緩和され得るあらゆる症状に対して適用することができる。そのような症状としては、例えば、消化不良、食欲不振又は食欲減退、食べ過ぎ、もたれ、胸つかえ、消化不良による胃部又は腹部の膨満感、慢性胃炎、食後の胃排出遅延、胃酸過多、及び消化性潰瘍等が挙げられる。
【0069】
本発明の胃腸薬の一回あたりの投与量は治療有効量であればよい。例えば、パンクレアチンの投与量が、例えば成人1回服用当り5〜1000mgの範囲、好ましくは30〜1000mgの範囲になるように、また胆汁酸の投与量は、上記パンクレアチンの好ましい投与量の範囲内に基づいて、上述した好ましい配合比の範囲内で調整することができる。
【0070】
また、本発明の胃腸薬は、例えば、1日に1回投与しても、また1日に2若しくは3回等、複数回投与してもよい。好ましい用量・用法の具体例としては、例えば、1日3回、食前又は食後に服用することが挙げられる。
【実施例】
【0071】
以下に実験例、実施例、及び比較例により本発明をさらに詳細に説明する。但し、本発明はこれらの例に特に限定されるものではない。
【0072】
実験例1.リパーゼ活性の評価
各種の胃腸薬を調製し、リパーゼ活性を評価した。なお、リパーゼ活性の評価には、文献「リパーゼ活性測定法の改良」(宇都宮大学教育学部紀要 第2部(2006年)56、1-7頁)を参考にした。
【0073】
(1)基質溶液の調製
PVA(ポリビニルアルコール)試液/オリーブ油混液(3:1)を乳化器の容器に入れ、10℃以下に冷却しながら、毎分12,000〜16,000回転で10分間乳化して、基質溶液を調製した。
【0074】
(2)胃腸薬の調製
パンクレアチンとして、ブタ膵臓由来の複合性消化酵素の「膵臓性消化酵素8AP」(天野エンザイム(株)製)を、また胆汁酸としてウルソデオキシコール酸(天野エンザイム(株)製)を使用して、両者を表1〜3に記載する割合で混合して、各種の胃腸薬(実施例1〜8、及び比較例1〜8)を調製した。なお、「膵臓性消化酵素8AP」のリパーゼ活性の至適pHは8.0である。
【0075】
(3)実験方法
試験管に調製した基質溶液5ml及び0.1mol/Lリン酸塩緩衝液(実験系1:pH6.0、実験系2:pH7.0、実験系3:pH8.0)5mlを入れ、よく撹拌した後に、37℃で10分間静置した。その後、上記で調製した各種の胃腸薬を添加し、37℃で20分間静置した。その後、0.1%BTB溶液(ブロモチモールブルー(bromothymol blue)溶液)を数滴滴下して発色させ、マイクロプレートリーダーを用いて595nmの吸光度を測定した。
【0076】
リパーゼ活性(%)は、以下の式にしたがって算出した。
【0077】
【数1】

【0078】
なお、無処置(参考例1)の吸光度は、試験管に調製した基質溶液5ml及び0.1mol/Lリン酸塩緩衝液(実験系1:pH6.0、実験系2:pH7.0、実験系3:pH8.0)5mlを入れ、よく撹拌した後に、37℃で10分間静置した。その後、さらに37℃で20分間静置した後に、0.1%BTB溶液を数滴滴下して発色させ、マイクロプレートリーダーを用いて595nmの吸光度を測定することにより求めた。
【0079】
実験例1〜3(pH6.0〜8.0)について、実施例及び比較例の処方とリパーゼ活性を測定した結果を、表1〜3に示す。
(a)実験系:pH6.0
【0080】
【表1】

【0081】
(b)実験系:pH7.0
【0082】
【表2】

【0083】
(c)実験系:pH8.0
【0084】
【表3】

【0085】
(4)結果
表1及び2に示すように、パンクレアチンと胆汁酸(ウルソデオキシコール酸)を併用した胃腸薬は、pH6〜7の酸性〜中性条件で、パンクレアチン単独で使用した場合よりも、有意に高いリパーゼ活性を発揮した。このことは、パンクレアチンに胆汁酸を組み合わせて、当該pH条件下で使用することにより、パンクレアチンのリパーゼ活性が増強することを意味する。
【0086】
また、パンクレアチンのリパーゼ活性を増強する胆汁酸の重量配合比率は、パンクレアチン1重量部に対して胆汁酸0.01重量部以上の非常に少ない割合であった。一方、パンクレアチン1重量部に対して胆汁酸の割合が0.55重量部を超えると、パンクレアチンに胆汁酸を配合することによるリパーゼ活性の上昇効果、特に胆汁酸単位量当たりのリパーゼ活性が減少する傾向が認められた。
【0087】
このことから、パンクレアチンのリパーゼ活性を増強する胆汁酸の重量配合比率は、パンクレアチン1重量部に対して胆汁酸0.01〜0.55重量部、好ましくは0.01〜0.5重量部、より好ましくは0.01〜0.35重量部の割合であることが望ましいと考えられる。
【0088】
また、実施例2において、1,3位置特異性を有する脂肪消化酵素としてリパーゼAP12(天野エンザイム株式会社製)を、パンクレアチン1重量に対して0.1重量部以上、とくに0.1〜0.5重量部配合したところ、リパーゼ活性を相乗的に向上させることができた。
【0089】
実施例2.自覚症状改善効果の評価
本発明の胃腸薬の薬効、特に胃もたれの自覚症状を改善する効果を評価した。
【0090】
(1)胃腸薬の調製
パンクレアチンとしてブタ膵臓由来の複合性消化酵素の「膵臓性消化酵素8AP」(天野エンザイム(株)製)60mg、胆汁酸としてウルソデオキシコール酸(天野エンザイム(株)製)5mgを使用して、これに制酸剤として水酸化アルミニウムを300mg配合して、「制酸剤入りの胃腸薬」を調製した。また、上記パンクレアチン60mgと胆汁酸5mgを用いて、制酸剤を配合することなく、「制酸剤なしの胃腸薬」を調製した。
【0091】
(2)実験方法
胃に器質的疾患がないにも関わらず、慢性的な胃もたれ症状を有する患者10名に対して、1日3回、毎食後に、上記「制酸剤入りの胃腸薬」または「制酸剤なしの胃腸薬」を服用させた。この服用を3日間続けさせた後に、胃もたれの自覚症状を調査した。
【0092】
(3)結果
結果を表4に示す。
【0093】
【表4】

【0094】
この結果からわかるように、実際に慢性的な胃もたれの症状を有する患者に対して「制酸剤なしの胃腸薬」を服用させることにより、「制酸剤入りの胃腸薬」を服用させた場合に比べて、胃もたれの自覚症状が有意に改善することが分かった。この効果は、実施例1で示したように、パンクレアチンに胆汁酸を併用することで、中性〜弱酸性の条件下でパンクレアチンのリパーゼ活性が増強することからも説明することができる。
【0095】
以下に本発明の胃腸薬の処方例を示すが、いずれにおいても上記実施例と同様に優れた効果が認められる。
【0096】
処方例I.顆粒剤
日本薬局方製剤総則、散剤の項に準じて表5および6記載の処方の顆粒剤を製造した。合計2000mgとなるように処方した。
【0097】
【表5】

【0098】
【表6】

【0099】
処方例II.散剤
日本薬局方製剤総則、顆粒剤の項に準じて表7および8記載の処方の散剤を製造した。合計2000mgとなるように処方した。
【0100】
【表7】

【0101】
【表8】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
パンクレアチン1重量部に対して、胆汁酸またはその塩を0.01〜0.55重量部の割合で含有する胃腸薬。
【請求項2】
制酸剤を含有しない請求項1に記載する胃腸薬。

【公開番号】特開2013−71929(P2013−71929A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−214325(P2011−214325)
【出願日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【出願人】(000186588)小林製薬株式会社 (518)
【Fターム(参考)】