背景光低減部材および光測定方法
【課題】測定対象物の周囲に存在するバッファー等の液中において生じる背景光を、測定対象物に影響を与えることなく、また容器が小径であっても効果的に低減し、さらにバッファーの置換を不要とする、背景光低減部材および光測定方法を提供する。
【解決手段】背景光低減部材1は、有底の容器40内のバッファーB中に配置された測定対象物Sが蛍光性または発光性の物質を取り込むことで発する光を容器40の底部を介して測定する際に、測定対象物Sの周囲のバッファーBにおいて生じる背景光を低減する為に用いられる部材であって、容器40内に挿入されてバッファーBと接触するとともに、該挿入方向に沿った所定軸線Cを囲むように配置された疎水性の接触部10を有し、容器40内のバッファーBと接触部10との上記接触に因って背景光を低減する。
【解決手段】背景光低減部材1は、有底の容器40内のバッファーB中に配置された測定対象物Sが蛍光性または発光性の物質を取り込むことで発する光を容器40の底部を介して測定する際に、測定対象物Sの周囲のバッファーBにおいて生じる背景光を低減する為に用いられる部材であって、容器40内に挿入されてバッファーBと接触するとともに、該挿入方向に沿った所定軸線Cを囲むように配置された疎水性の接触部10を有し、容器40内のバッファーBと接触部10との上記接触に因って背景光を低減する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、背景光低減部材および光測定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、創薬における化合物ライブラリーのスクリーニングのため、蛍光測定が用いられる。このような蛍光測定では、まずシャーレ、バイエル瓶等の透明な有底容器の底部に、細胞等の測定対象物を培養して配置する。そして、蛍光指示薬を含むバッファー(緩衝液、外液)を追加注入する。このままでは、細胞等に吸収されなかった蛍光指示薬の蛍光が背景光となり、容器底部において測定対象物からの蛍光を識別して測定することが困難となるため、このような過剰の蛍光指示薬を含むバッファーを吸引除去し、蛍光指示薬を含まないバッファーを追加することを繰り返す洗浄(バッファー置換、ウォッシュアウト)が行われる。その後、スクリーニングを行いたい化合物(試薬)等を投入し、容器底部を介して測定対象物の蛍光状態を測定することにより、スクリーニングを行うことができる。
【0003】
上記のような蛍光測定において、スクリーニングを行いたい化合物には自家蛍光を持つものが多い。自家蛍光を有する化合物を分注して試験する場合、計測される蛍光値が細胞等の測定対象物に由来するものなのか、バッファー中の化合物の自家蛍光(すなわち背景光)に由来するものなのか判断することが困難である。その結果、偽陽性が増大するという問題が生じる。特に、高スループットな化合物のスクリーニングにおいては、検出精度低下、さらにはスループット低下の原因となる。
【0004】
このような化合物の自家蛍光の問題を解決するため、例えば、黒色色素あるいは様々な種類の色素をバッファー中に混ぜて化合物の自家蛍光による影響を低減する方法が実用化されている(例えば、特許文献1の図2参照)。あるいは、ポリマーラテックスビーズ、無機粒子等をバッファー中に添加し、測定対象物上に供して積層させて光学的な分離層を形成することにより、測定対象物を上から覆い、それにより分離層より上のバッファー由来の背景蛍光を遮光する方法も提案されている(例えば、特許文献1の図6参照)。
【0005】
また、特許文献2には、細胞等の測定対象物が収容された透明容器内に蛍光指示薬を含むバッファーを加えたのち、遮光性および液体透過性を有するマスキング部材を透明容器内の測定対象物上部に配置することにより、測定対象物上部のバッファーから透明容器の底部へ進もうとする背景光を遮光する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3452068号公報
【特許文献2】国際公開第2005/095929号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載された方法のうち、黒色色素等をバッファー中に混ぜる方法では、この黒色色素等自体が、測定対象物である細胞の機能に影響を及ぼして各種反応の阻害を引き起こす場合があり、全ての測定系に対応することが難しい。また、色素での消光の場合、波長ごとに吸収帯域が異なるので、蛍光指示薬の種類や測定系により最適な色素の選択が不可欠となる。
【0008】
一方、ポリマーラテックスビーズ等をバッファー中に添加し、測定対象物上に供して積層させて光学的な分離層を形成する方法では、ポリマーラテックスビーズ等の粒子が測定対象物である細胞に直接接触することにより、細胞への悪影響が生じるおそれがある。また、ポリマーラテックスビーズ等により分離層が形成された後に、さらに試薬を分注すると、ピペットの吐出圧等によって分離層にクレーターが生じて分離層が乱れ、分離層の厚さにばらつきが生じる。その結果、細胞等に由来する蛍光の高分解能な検出ができなくなるおそれもある。
【0009】
また、引用文献2に記載された方法に関する本発明者の研究によれば、透明容器の内径が比較的大きい場合には顕著な効果が得られるが、透明容器の内径が小さくなるほど効果が漸減することが判明した。考えられる原因は次の通りである。通常、透明容器内において測定対象物が配置される箇所は親水性である必要があるので、透明容器の内面には親水処理が施されている。このため、透明容器内の液面は、表面張力に起因する凹状の歪み(メニスカス)が形成される。バッファー等の液中において生じた蛍光等は、この凹状の歪みにおいて反射・散乱し、その一部は透明容器の底部へ進むこととなる。そして、透明容器の内径が小さいほど、透明容器内の液面の歪みが顕著となり、容器底部における背景光量が増大する。
【0010】
なお、従来のバッファー置換を行う方法は、手間がかかりスループット低下の原因となる。また、容器内のバッファーの置換を繰り返すことによって、細胞等の測定対象物が容器の底から剥離してしまう問題もある。
【0011】
本発明は、上記した問題点に鑑みてなされたものであり、測定対象物の周囲に存在するバッファー等の液中において生じる背景光を、測定対象物に影響を与えることなく、また容器が小径であっても効果的に低減し、さらにバッファーの置換を不要とする、背景光低減部材および光測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記した課題を解決するために、本発明による背景光低減部材は、有底容器内の液中に配置された測定対象物が蛍光性または発光性の物質を取り込むことで発する光を有底容器の底部を介して測定する際に、測定対象物の周囲の液中において生じる背景光を低減する為に用いられる部材であって、有底容器内に挿入されて有底容器内の液と接触するとともに、該挿入方向に沿った所定軸線を囲むように配置された疎水性の接触部を有し、有底容器内の液と接触部との上記接触に因って背景光を低減することを特徴とする。
【0013】
また、本発明による光測定方法は、有底容器内の液中に配置された測定対象物が蛍光性または発光性の物質を取り込むことで発する光を有底容器の底部を介して測定する方法であって、所定軸線を囲むように配置された疎水性の接触部を有する部材の接触部を所定軸線に沿って有底容器内に挿入して有底容器内の液と接触させることに因って、測定対象物の周囲の液中において生じる背景光を低減することを特徴とする。
【0014】
前述したように、有底容器の内面には親水処理が施されているため、有底容器に注入されたバッファー等の表面張力によって液面が凹状に歪み、その液面における蛍光等の反射・散乱作用によって容器底部での背景光量が増大すると考えられる。このような現象に対し、本発明者は、有底容器内の液面に疎水性の部材を接触させることにより、その液面の形状を改善し得ることを見出した。そして、この部材を或る特定の形状、すなわち有底容器内に挿入する際の挿入方向に沿った所定軸線を囲むように配置された形状とすることにより、有底容器の底部に達する背景光を効果的に低減できることを見出した。これは、上記形状を有する疎水性の部材を液面に接触させることによって、有底容器内の液面の歪みが平坦または凸状となり、液中において生じた蛍光等が液面を透過して外部へ放出されるためと考えられる。
【0015】
このように、上記した背景光低減部材および光測定方法によれば、有底容器の内径が小さい場合であっても、背景光を効果的に低減することができる。また、当該部材自体が細胞等の測定対象物に接触することなく背景光を効果的に低減できるので、細胞等の測定対象物に影響を与えることなく、背景光の影響を排除した高感度な測定が可能となる。そして、蛍光指示薬の種類(蛍光波長)や測定系を選ばず、どのような測定にも対応できる。また、有底容器内に上記した背景光低減部材を挿入するだけで、液中の過剰な蛍光指示薬に起因する背景光も低減することができるので、バッファーの置換が不要となり、スループットの向上を図ることができる。
【0016】
上記した背景光低減部材は、有底容器としての複数のウェルを有するマイクロプレートを使用する際に用いられ、複数のウェルに対応する複数の接触部を有することを特徴としてもよい。また、上記した光測定方法は、有底容器としての複数のウェルを有するマイクロプレートを使用すると共に、部材が、複数のウェルに対応する複数の接触部を有することを特徴としてもよい。これにより、マイクロプレートの複数のウェルに測定対象物を配置し、複数の測定を同時に行う場合においても、一括して各ウェルの背景光を低減することができ、スループットをさらに向上させることができる。
【0017】
また、上記した背景光低減部材および光測定方法は、所定軸線と交差する平面内での接触部の形状が、有底容器の内側面に沿った形状であることを特徴としてもよい。接触部がこのような形状を有することによって、有底容器内の液面の形状を広範囲にわたって改善し、背景光をより効果的に低減することができる。
【0018】
また、上記した背景光低減部材および光測定方法は、接触部の形状が、所定軸線の方向に延びる筒状であることを特徴としてもよい。或いは、接触部が、相互に間隔をあけて所定軸線の周囲に配列された複数の疎水性部分から成ることを特徴としてもよい。接触部がこれらのうち何れの形状を有しても、上記した効果を好適に得ることができる。
【0019】
なお、上記した背景光低減部材および光測定方法において、疎水性の接触部が有底容器内の液と接触するとは、(1)疎水性である接触部の先端が液面と接触している(接触部自体が液の内部に入っていない)場合と、(2)接触部を含む部分が液内に挿入されており、当該部分における液面と接触する部位が疎水性(すなわち接触部)である場合とを含むものとする。
【発明の効果】
【0020】
本発明による背景光低減部材および光測定方法によれば、測定対象物の周囲に存在するバッファー等の液中において生じる背景光を、測定対象物に影響を与えることなく効果的に低減し、さらにバッファーの置換を不要にできる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】(a)本発明の第1実施形態に係る背景光低減部材の斜視図である。(b)背景光低減部材の縦断面図である。
【図2】背景光低減部材1の使用状態を示す縦断面図である。
【図3】背景光低減部材1の作用について説明するための図であり、背景光低減部材1を使用しない状態での容器内の様子を概念的に示している。
【図4】背景光低減部材1の作用について説明するための図であり、容器内に背景光低減部材1を挿入した場合の液面の変化の様子を概念的に示している。
【図5】背景光低減部材1による効果を示す写真である。(a)背景光低減部材1を使用しない場合における容器40の底部の写真である。(b)背景光低減部材1を使用した場合における容器40の底部の写真である。
【図6】(a)本発明の第2実施形態に係る背景光低減部材の全体斜視図である。(b)背景光低減部材の拡大図である。(c)接触部周辺の拡大図である。(d)使用状態を示す縦断面図である。
【図7】(a)〜(d)第2実施形態に係る光測定方法を示した説明図である。
【図8】(a)〜(d)第2実施形態に係る別の光測定方法を示す説明図である。
【図9】背景光低減部材2による効果を示す写真である。(a)背景光低減部材2を使用しない場合のマイクロプレート50の底部の写真である。(b)領域Fに含まれる各ウェル55に対して背景光低減部材2を使用した場合のマイクロプレート50の底部の写真である。
【図10】ウェル55の底部を介して検出された蛍光強度の時間変化(レスポンス)を示すグラフである。
【図11】(a)〜(d)接触部の平面形状(所定軸線Cに垂直な平面における接触部の断面形状)の例を示す図である。
【図12】図11(a)に示した形状の接触部を使用した場合における(a)使用前、(b)使用中それぞれの蛍光の様子を示す写真である。
【図13】図11(b)に示した形状の接触部を使用した場合における(a)使用前、(b)使用中それぞれの蛍光の様子を示す写真である。
【図14】図11(c)に示した形状の接触部を使用した場合における(a)使用前、(b)使用中それぞれの蛍光の様子を示す写真である。
【図15】(a)〜(c)接触部の平面形状の他の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、添付図面を参照しながら本発明による背景光低減部材および光測定方法の実施の形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0023】
(第1の実施の形態)
図1(a)は本発明の一実施形態に係る背景光低減部材の斜視図であり、図1(b)はその縦断面図である。本実施形態の背景光低減部材1は、接触部10を備えている。接触部10は、後述する有底の容器に挿入され、該容器内の液(バッファー)と接触される部分である。接触部10は、容器への挿入方向(図中の矢印A)に沿った所定軸線Cを囲むように壁面が配置された枠のような形状をしており、本実施形態では所定軸線Cの方向に延びる円筒状を呈している。また、所定軸線Cと交差する平面内での接触部10の形状は、容器の内側面に沿った形状をしており、好ましくは容器の内側面に嵌合できるような形状である。接触部10は疎水性・非吸収性を有しており、材質としてはポリスチレンやポリプロピレン、ポリエチレンが好ましい。また、遮光および消光をするため、背景光低減部材1は黒色であることが好ましい。
【0024】
図2は、背景光低減部材1の使用状態を示す縦断面図である。図2に示すように、底部が透明な容器40の底部には、培養された細胞やコーティングされた抗体等の測定対象物Sが配置される。容器40には、蛍光指示薬といった蛍光性または発光性の物質を含む液(バッファー)Bが入れられ、測定対象物SはバッファーB中の上記物質(蛍光指示薬)を取り込む。そして、反射鏡43を介して励起光Eが照射されると、この励起光Eによって測定対象物S中の蛍光指示薬が励起され、所定波長の蛍光Lを発する。また、バッファーB中には、スクリーニングを行いたい化合物(試薬)Dも投入される。そして、容器40には、本実施形態に係る背景光低減部材1の接触部10が挿入される。この状態で、測定対象物Sから発する蛍光Lは、容器40の透明な底部を通過した後に、反射鏡43を透過し反射鏡43の下部に配置された撮像装置(不図示)によって撮像されることにより測定される。
【0025】
ここで、図3及び図4を参照して、本実施形態の背景光低減部材1の作用について説明する。図3は、背景光低減部材1を使用しない状態での容器内の様子を概念的に示しており、図4は、容器内に背景光低減部材1を挿入した場合の液面の変化の様子を概念的に示している。
【0026】
通常、容器40の内面において、測定対象物Sが配置される箇所は親水性である必要があるので、容器40の内面には親水処理が施されている。したがって、図3に示すように、容器40内のバッファーBの液面には、表面張力に起因する凹状の歪み(メニスカス)が形成される。
【0027】
一方、測定対象物Sに取り込まれなかった蛍光指示薬から発した蛍光は、この凹状の液面において反射・散乱し、その多くが容器40の底部へ進む。また、スクリーニングの対象である化合物(試薬)Dには自家蛍光を持つものが多く、このような自家蛍光を有する化合物を分注して試験する場合、該化合物Dからの蛍光もまたバッファーBの液面において反射・散乱し、その多くが容器40の底部へ進む。したがって、これらの光が背景光となり、容器40の底部を介して出力されることとなる。なお、容器40の内径が小さいほど容器40内の液面の歪みが顕著となるので、このような現象が顕著に現れる。
【0028】
これに対し、図4に示すように、疎水性の接触部10をバッファーBの液面に接触させると、バッファーBの液面の歪みが平坦または凸状となる。このような作用は、本実施形態に係る背景光低減部材1の接触部10の形状、すなわち所定軸線Cを囲むように壁面が配置された枠のような形状に起因するものと考えられる。このような作用により、バッファーBの液中において生じた蛍光、すなわち測定対象物Sに取り込まれなかった蛍光指示薬から発した蛍光や化合物Dの自家蛍光は、バッファーBの液面を透過して外部へ放出されることとなる。このため、容器40の底部に達する蛍光が少なくなり、背景光が効果的に低減される。
【0029】
このような効果は、容器40の内径が小さい場合により顕著となる。上述した表面張力に起因するバッファーB液面の凹状の歪みは、容器40の内側面とバッファーBの液面とが相互に接触する付近に形成されるので、容器40の内径が小さいほど、測定領域である容器中央付近における液面の凹みが顕著となるからである。
【0030】
このように、本実施形態の背景光低減部材1、およびこれを用いた光測定方法によれば、容器40の内径が小さい場合であっても、背景光を効果的に低減することができる。したがって、容器40の底部を介した蛍光測定において、背景光に邪魔されることなく、測定対象物Sからの蛍光Lのみを測定することができ、偽陽性の少ない高精度な蛍光測定が可能となる。また、背景光低減部材1を測定対象物Sに接触させずに済むので、測定対象物Sに影響を及ぼすことなく、背景光の影響を排除した高感度な測定が可能となる。そして、蛍光指示薬の種類(蛍光波長)や測定系を選ばず、どのような測定にも対応できる。また、容器40内に背景光低減部材1の接触部10を挿入するだけで、バッファーB液中の過剰な蛍光指示薬に起因する背景光も低減することができるので、バッファーBの置換が不要となり、スループットの向上を図ることができる。
【0031】
図5は、本実施形態の背景光低減部材1による効果を示す写真である。図5(a)は、背景光低減部材1を使用しない場合(図3を参照)における容器40の底部の写真であり、図5(b)は、背景光低減部材1を使用した場合(図4を参照)における容器40の底部の写真である。なお、これらの写真は、容器40の底部に測定対象物SとしてCHO細胞を配置し、これをFluo4(Caイオン蛍光指示薬)にて染色し、バッファーBとして1μMのFITC(Fluorescein Isothiocyanate)を使用することにより背景光を多くしたものである。
【0032】
図5(a)に示すように、背景光低減部材1を使用しない場合には、背景光によって底部全体が明るくなり、CHO細胞からの蛍光を見分けることが困難となっている。対して、図5(b)に示すように、背景光低減部材1をFITCの液面に接触させると、FITCからの背景光のみを除去してCHO細胞からの蛍光をクリアに観察可能となる。
【0033】
なお、前述したように、所定軸線Cと交差する平面内での接触部10の形状は、容器40の内側面に沿った形状であることが好ましい。接触部10がこのような形状を有することによって、バッファーBの液面の形状を広範囲にわたって改善し、背景光をより効果的に低減することができる。
【0034】
(第2の実施の形態)
図6(a)は本発明の第2実施形態に係る背景光低減部材の全体斜視図であり、図6(b)はその拡大図であり、図6(c)は接触部周辺の拡大図であり、図6(d)は使用状態を示す縦断面図である。
【0035】
この第2実施形態の背景光低減部材が第1実施形態と異なる点は、有底容器としての複数のウェルを備えるマイクロプレートに使用されることにある。
【0036】
図6(a)〜図6(c)に示すように、本実施形態の背景光低減部材2は、測定対象物を収容する複数のウェルを備えるマイクロプレートに使用されるものであり、そのマイクロプレートの複数のウェルに対応した複数の接触部10を備えている。これら複数の接触部10は、マイクロプレートの上面を覆う一体構造のシート状部21によって支持されており、マイクロプレートの上面形状と嵌合して、マイクロプレートの各ウェル内にそれぞれ挿入される。
【0037】
図6(d)に示すように、本実施形態の背景光低減部材2の使用状態において、マイクロプレート50に設けられたウェル55の透明な底部には、培養された細胞等の測定対象物Sが配置される。各ウェル55内には、蛍光指示薬といった蛍光性または発光性の物質を含む液(バッファー)Bが投入され、測定対象物SはバッファーB中の上記物質(蛍光指示薬)を取り込む。そして、図示しない反射鏡を介して励起光が照射されると、この励起光によって測定対象物S中の蛍光指示薬が励起され、所定波長の蛍光Lを発する。バッファーB中には、スクリーニングを行いたい化合物(試薬)も投入される。そして、マイクロプレート50には背景光低減部材2が、各接触部10と各ウェル55とが相互に嵌合するように挿入される。一体構造のシート状部21がマイクロプレート50の上部を覆うようにして嵌合することにより、接触部10はウェル55内の所定の位置に位置決めされる。
【0038】
次に、背景光低減部材2を使用した光測定方法について具体的に説明する。図7(a)〜(d)は、本実施形態に係る光測定方法を示した説明図である。この方法では、まず第1ステップとして、マイクロプレート50の各ウェル55の透明な底部に、培養した細胞またはコーティングされた抗体等の形で測定対象物Sを配置する(図7(a))。次に第2ステップとして、各ウェル55内に、蛍光指示薬を含んだバッファーBを加える(図7(b))。このとき、バッファーBの液面には、表面張力に起因する凹状の歪みが生じる。そして第3ステップとして、蛍光指示薬を含んだバッファーBを除去することなく(洗浄を行うことなく)、背景光低減部材2をマイクロプレート50に挿入・嵌合して、各接触部10を各ウェル55へ挿入する(図7(c))。これにより、各接触部10がバッファーBの液面に接触し、液面の形状が制御されて、バッファーBから発する蛍光が液面から放出される。その後、第4ステップとして、測定対象物Sからの蛍光Lを各ウェル55の底部を介して観察する(図7(d))。なお、スクリーニングの対象である試薬等は、適宜バッファーBへ投入することができる。
【0039】
図8(a)〜(d)は、本実施形態に係る別の光測定方法を示す説明図である。この方法では、第1ステップとして、測定対象物Sをマイクロプレート50の各ウェル55に配置する(図8(a))。第2ステップとして、背景光低減部材2をマイクロプレート50に挿入・嵌合して、各接触部10を各ウェル55へ挿入する(図8(b))。そして第3ステップとして、蛍光指示薬を含んだバッファーBを各ウェル55中に加える(図8(c))。その後、第4ステップとして、蛍光指示薬を含んだバッファーBを除去することなく(洗浄を行うことなく)、測定対象物Sからの蛍光Lを各ウェル55の底部を介して観察する(図8(d))。
【0040】
本実施形態においても第1実施形態と同様に、各ウェル55中の測定対象物Sからの蛍光Lを、ウェル55の透明な底部を介して測定することができる。そして、疎水性の接触部10をバッファーBの液面に接触させると、バッファーBの液面の歪みが平坦または凸状となる。したがって、バッファーBの液中において生じた蛍光は、バッファーBの液面を透過して外部へ放出されることとなる。このため、ウェル55の底部に達する蛍光が少なくなり、背景光が効果的に低減される。
【0041】
このように、本実施形態の背景光低減部材2、及びこれを用いた光測定方法によれば、背景光を効果的に低減することができる。したがって、ウェル55の底部を介した蛍光測定において、背景光に邪魔されることなく、測定対象物Sからの蛍光Lのみを測定することができ、偽陽性の少ない高精度な蛍光測定が可能となる。また、背景光低減部材2を測定対象物Sに接触させずに済むので、測定対象物Sに影響を及ぼすことなく、背景光の影響を排除した高感度な測定が可能となる。そして、蛍光指示薬の種類(蛍光波長)や測定系を選ばず、どのような測定にも対応できる。また、ウェル55内に接触部10を挿入するだけで、バッファーB液中の過剰な蛍光指示薬に起因する背景光も低減することができるので、バッファーBの置換が不要となり、スループットの向上を図ることができる。
【0042】
なお、本実施形態において使用されるマイクロプレート50としては、例えば、ウェル55が8×12の格子状に並んだ96ウェルタイプ、この96ウェルタイプの半分のサイズのウェル55が16×24の格子状に並んだ384ウェルタイプ、並びに、384ウェルタイプの更に半分のサイズのウェルが32×48の格子状に並んだ1536ウェルタイプがある。近年、測定効率の向上のため、より多くのウェル55を備えた(すなわちウェルサイズが小さい)マイクロプレート50が用いられる傾向がある。
【0043】
特に、384ウェルタイプのマイクロプレートを使用する場合には、ウェルサイズが3.5mm以下と小さくなり、従来の方法では液面の歪みの影響が大きくなるので、本実施形態に係る背景光低減部材2、及びこれを用いた光測定方法の効果がより顕著となる。
【0044】
図9は、本実施形態の背景光低減部材2による効果を示す写真である。図9(a)は、背景光低減部材2を使用しない場合のマイクロプレート50の底部の写真であり、図9(b)は、領域Fに含まれる各ウェル55に対して背景光低減部材2を使用した場合のマイクロプレート50の底部の写真である。なお、これらの写真は、マイクロプレート50として384ウェルタイプを使用し、ウェル55の底部に測定対象物SとしてCHO細胞を配置し、これをFluo4にて染色し、バッファーBとして1μMのFITCを使用したものである。
【0045】
図9(a)に示すように、背景光低減部材2を使用しない場合には、背景光によって底部全体が明るくなり、CHO細胞からの蛍光を見分けることが困難となっている。対して、図9(b)の領域Fに示されるように、背景光低減部材2をFITCの液面に接触させると、FITCからの背景光を効果的に低減できる。
【0046】
図10は、ウェル55の底部を介して検出された蛍光強度の時間変化(レスポンス)を示すグラフである。このグラフの縦軸は光強度の相対値を示しており、横軸は時間である。また、図10において、グラフ群Gは背景光低減部材2をマイクロプレート50に挿入する前のグラフであり、グラフ群Hは背景光低減部材2をマイクロプレート50に挿入した後のグラフである。グラフ群Gに示されるように、背景光低減部材2を使用しない場合には、背景光が主に検出されてCHO細胞からの蛍光強度を測定することができない。これに対し、グラフ群Hに示されるように、背景光低減部材2を使用すると、背景光が低減されてCHO細胞からの蛍光強度の時間変化を明確に検出できている。
【0047】
(変形例)
上記各実施形態において、接触部10の形状は、所定軸線Cを囲むように壁面が配置された枠のような形状であればよく、様々な変形が可能である。図11は、接触部の平面形状(所定軸線Cに垂直な平面における接触部の断面形状)の例を示す図である。また、図12〜14は、図11に示した各形状の接触部を使用した場合における(a)使用前、(b)使用中それぞれの蛍光の様子を示す写真である。
【0048】
図11(a)は、上記実施形態の接触部10と同様に、所定軸線Cに沿って延びる円筒形状を示している。このような形状は、金型を用いて接触部を作成する場合に最も作成が容易な形状である。このような接触部10を使用した場合には、図12(a)と図12(b)との比較からわかるように、十分に背景光が低減されており、その低減効果は他の形状と比較して最も高い。また、分注器を使用して試薬を分注した際に、測定対象物Sに試薬が均一に注がれるという利点もある。
【0049】
図11(b)は、円筒形状のうち対向する二つの部分に所定軸線Cに沿った切り欠きが入った形状の接触部11を示している。この接触部11は、相互に間隔をあけて所定軸線Cの周囲に配列された2つの円弧型の疎水性部分11a,11bから成る。このような接触部11を使用した場合においても、図13(a)と図13(b)との比較からわかるように、十分に背景光が低減されており、その低減効果は図11(a)の形状と殆ど変わらない。但し、分注器を使用して試薬を分注した際に、2つの疎水性部分11a,11bの隙間から試薬が漏れ出すので、測定対象物Sに注がれる試薬にムラが生じるおそれがある。
【0050】
図11(c)は、円筒形状のうち三つの部分に所定軸線Cに沿った切り欠きが入った形状の接触部12を示している。この接触部12は、相互に間隔をあけて所定軸線Cの周囲に配列された3つの円弧型の疎水性部分12a〜12cから成る。このような接触部12を使用した場合においても、図14(a)と図14(b)との比較からわかるように、十分に背景光が低減されており、その低減効果は図11(a)の形状と殆ど変わらない。但し、図11(b)に示した接触部11より隙間が多いため、測定対象物Sに注がれる試薬のムラがより大きくなるおそれがある。
【0051】
図11(d)は、円筒形状のうち四つの部分に所定軸線Cに沿った切り欠きが入った形状の接触部13を示している。この接触部13は、相互に間隔をあけて所定軸線Cの周囲に配列された4つの円弧型の疎水性部分13a〜13dから成る。このような接触部13を使用した場合においても、図12〜図14の結果から、十分に背景光が低減され、その低減効果は図11(a)の形状と殆ど変わらないものと推測される。
【0052】
図15は、接触部の平面形状の他の例を示す図である。図15(a)に示す接触部14は、矩形枠状といった平面形状を有しており、所定軸線Cに沿って延びる角筒状を呈している。また、図15(b)に示す接触部15は、図15(a)に示した形状において対向する二辺に所定軸線Cに沿った切り欠きが入った形状を有しており、相互に間隔をあけて所定軸線Cの周囲に配列された2つのコの字型の疎水性部分15a,15bから成る。また、図15(c)に示す接触部16は、図15(a)に示した形状において四辺の全てに所定軸線Cに沿った切り欠きが入った形状を有しており、相互に間隔をあけて所定軸線Cの周囲に配列された4つのくの字型の疎水性部分16a〜16dから成る。
【0053】
本発明における接触部は、例えば図15(a)〜図15(c)に示したような形状であっても、上記実施形態と同様の効果を好適に奏することができる。
【0054】
本発明による背景光低減部材および光測定方法は、上記した実施形態に限られるものではなく、他に様々な変形が可能である。例えば、上記実施形態に記載された化合物(試薬)とは、(1)測定対象物の内部に取り込まれるもの、(2)測定対象物と直接結合するもの、(3)測定対象物とリガンドなどを介して間接的に結合するものの何れであってもよい。
【符号の説明】
【0055】
1,2…背景光低減部材、10〜16…接触部、21…シート状部、40…容器、50…マイクロプレート、55…ウェル、B…バッファー、C…所定軸線、D…化合物(試薬)、E…励起光、L…蛍光、S…測定対象物。
【技術分野】
【0001】
本発明は、背景光低減部材および光測定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、創薬における化合物ライブラリーのスクリーニングのため、蛍光測定が用いられる。このような蛍光測定では、まずシャーレ、バイエル瓶等の透明な有底容器の底部に、細胞等の測定対象物を培養して配置する。そして、蛍光指示薬を含むバッファー(緩衝液、外液)を追加注入する。このままでは、細胞等に吸収されなかった蛍光指示薬の蛍光が背景光となり、容器底部において測定対象物からの蛍光を識別して測定することが困難となるため、このような過剰の蛍光指示薬を含むバッファーを吸引除去し、蛍光指示薬を含まないバッファーを追加することを繰り返す洗浄(バッファー置換、ウォッシュアウト)が行われる。その後、スクリーニングを行いたい化合物(試薬)等を投入し、容器底部を介して測定対象物の蛍光状態を測定することにより、スクリーニングを行うことができる。
【0003】
上記のような蛍光測定において、スクリーニングを行いたい化合物には自家蛍光を持つものが多い。自家蛍光を有する化合物を分注して試験する場合、計測される蛍光値が細胞等の測定対象物に由来するものなのか、バッファー中の化合物の自家蛍光(すなわち背景光)に由来するものなのか判断することが困難である。その結果、偽陽性が増大するという問題が生じる。特に、高スループットな化合物のスクリーニングにおいては、検出精度低下、さらにはスループット低下の原因となる。
【0004】
このような化合物の自家蛍光の問題を解決するため、例えば、黒色色素あるいは様々な種類の色素をバッファー中に混ぜて化合物の自家蛍光による影響を低減する方法が実用化されている(例えば、特許文献1の図2参照)。あるいは、ポリマーラテックスビーズ、無機粒子等をバッファー中に添加し、測定対象物上に供して積層させて光学的な分離層を形成することにより、測定対象物を上から覆い、それにより分離層より上のバッファー由来の背景蛍光を遮光する方法も提案されている(例えば、特許文献1の図6参照)。
【0005】
また、特許文献2には、細胞等の測定対象物が収容された透明容器内に蛍光指示薬を含むバッファーを加えたのち、遮光性および液体透過性を有するマスキング部材を透明容器内の測定対象物上部に配置することにより、測定対象物上部のバッファーから透明容器の底部へ進もうとする背景光を遮光する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3452068号公報
【特許文献2】国際公開第2005/095929号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載された方法のうち、黒色色素等をバッファー中に混ぜる方法では、この黒色色素等自体が、測定対象物である細胞の機能に影響を及ぼして各種反応の阻害を引き起こす場合があり、全ての測定系に対応することが難しい。また、色素での消光の場合、波長ごとに吸収帯域が異なるので、蛍光指示薬の種類や測定系により最適な色素の選択が不可欠となる。
【0008】
一方、ポリマーラテックスビーズ等をバッファー中に添加し、測定対象物上に供して積層させて光学的な分離層を形成する方法では、ポリマーラテックスビーズ等の粒子が測定対象物である細胞に直接接触することにより、細胞への悪影響が生じるおそれがある。また、ポリマーラテックスビーズ等により分離層が形成された後に、さらに試薬を分注すると、ピペットの吐出圧等によって分離層にクレーターが生じて分離層が乱れ、分離層の厚さにばらつきが生じる。その結果、細胞等に由来する蛍光の高分解能な検出ができなくなるおそれもある。
【0009】
また、引用文献2に記載された方法に関する本発明者の研究によれば、透明容器の内径が比較的大きい場合には顕著な効果が得られるが、透明容器の内径が小さくなるほど効果が漸減することが判明した。考えられる原因は次の通りである。通常、透明容器内において測定対象物が配置される箇所は親水性である必要があるので、透明容器の内面には親水処理が施されている。このため、透明容器内の液面は、表面張力に起因する凹状の歪み(メニスカス)が形成される。バッファー等の液中において生じた蛍光等は、この凹状の歪みにおいて反射・散乱し、その一部は透明容器の底部へ進むこととなる。そして、透明容器の内径が小さいほど、透明容器内の液面の歪みが顕著となり、容器底部における背景光量が増大する。
【0010】
なお、従来のバッファー置換を行う方法は、手間がかかりスループット低下の原因となる。また、容器内のバッファーの置換を繰り返すことによって、細胞等の測定対象物が容器の底から剥離してしまう問題もある。
【0011】
本発明は、上記した問題点に鑑みてなされたものであり、測定対象物の周囲に存在するバッファー等の液中において生じる背景光を、測定対象物に影響を与えることなく、また容器が小径であっても効果的に低減し、さらにバッファーの置換を不要とする、背景光低減部材および光測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記した課題を解決するために、本発明による背景光低減部材は、有底容器内の液中に配置された測定対象物が蛍光性または発光性の物質を取り込むことで発する光を有底容器の底部を介して測定する際に、測定対象物の周囲の液中において生じる背景光を低減する為に用いられる部材であって、有底容器内に挿入されて有底容器内の液と接触するとともに、該挿入方向に沿った所定軸線を囲むように配置された疎水性の接触部を有し、有底容器内の液と接触部との上記接触に因って背景光を低減することを特徴とする。
【0013】
また、本発明による光測定方法は、有底容器内の液中に配置された測定対象物が蛍光性または発光性の物質を取り込むことで発する光を有底容器の底部を介して測定する方法であって、所定軸線を囲むように配置された疎水性の接触部を有する部材の接触部を所定軸線に沿って有底容器内に挿入して有底容器内の液と接触させることに因って、測定対象物の周囲の液中において生じる背景光を低減することを特徴とする。
【0014】
前述したように、有底容器の内面には親水処理が施されているため、有底容器に注入されたバッファー等の表面張力によって液面が凹状に歪み、その液面における蛍光等の反射・散乱作用によって容器底部での背景光量が増大すると考えられる。このような現象に対し、本発明者は、有底容器内の液面に疎水性の部材を接触させることにより、その液面の形状を改善し得ることを見出した。そして、この部材を或る特定の形状、すなわち有底容器内に挿入する際の挿入方向に沿った所定軸線を囲むように配置された形状とすることにより、有底容器の底部に達する背景光を効果的に低減できることを見出した。これは、上記形状を有する疎水性の部材を液面に接触させることによって、有底容器内の液面の歪みが平坦または凸状となり、液中において生じた蛍光等が液面を透過して外部へ放出されるためと考えられる。
【0015】
このように、上記した背景光低減部材および光測定方法によれば、有底容器の内径が小さい場合であっても、背景光を効果的に低減することができる。また、当該部材自体が細胞等の測定対象物に接触することなく背景光を効果的に低減できるので、細胞等の測定対象物に影響を与えることなく、背景光の影響を排除した高感度な測定が可能となる。そして、蛍光指示薬の種類(蛍光波長)や測定系を選ばず、どのような測定にも対応できる。また、有底容器内に上記した背景光低減部材を挿入するだけで、液中の過剰な蛍光指示薬に起因する背景光も低減することができるので、バッファーの置換が不要となり、スループットの向上を図ることができる。
【0016】
上記した背景光低減部材は、有底容器としての複数のウェルを有するマイクロプレートを使用する際に用いられ、複数のウェルに対応する複数の接触部を有することを特徴としてもよい。また、上記した光測定方法は、有底容器としての複数のウェルを有するマイクロプレートを使用すると共に、部材が、複数のウェルに対応する複数の接触部を有することを特徴としてもよい。これにより、マイクロプレートの複数のウェルに測定対象物を配置し、複数の測定を同時に行う場合においても、一括して各ウェルの背景光を低減することができ、スループットをさらに向上させることができる。
【0017】
また、上記した背景光低減部材および光測定方法は、所定軸線と交差する平面内での接触部の形状が、有底容器の内側面に沿った形状であることを特徴としてもよい。接触部がこのような形状を有することによって、有底容器内の液面の形状を広範囲にわたって改善し、背景光をより効果的に低減することができる。
【0018】
また、上記した背景光低減部材および光測定方法は、接触部の形状が、所定軸線の方向に延びる筒状であることを特徴としてもよい。或いは、接触部が、相互に間隔をあけて所定軸線の周囲に配列された複数の疎水性部分から成ることを特徴としてもよい。接触部がこれらのうち何れの形状を有しても、上記した効果を好適に得ることができる。
【0019】
なお、上記した背景光低減部材および光測定方法において、疎水性の接触部が有底容器内の液と接触するとは、(1)疎水性である接触部の先端が液面と接触している(接触部自体が液の内部に入っていない)場合と、(2)接触部を含む部分が液内に挿入されており、当該部分における液面と接触する部位が疎水性(すなわち接触部)である場合とを含むものとする。
【発明の効果】
【0020】
本発明による背景光低減部材および光測定方法によれば、測定対象物の周囲に存在するバッファー等の液中において生じる背景光を、測定対象物に影響を与えることなく効果的に低減し、さらにバッファーの置換を不要にできる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】(a)本発明の第1実施形態に係る背景光低減部材の斜視図である。(b)背景光低減部材の縦断面図である。
【図2】背景光低減部材1の使用状態を示す縦断面図である。
【図3】背景光低減部材1の作用について説明するための図であり、背景光低減部材1を使用しない状態での容器内の様子を概念的に示している。
【図4】背景光低減部材1の作用について説明するための図であり、容器内に背景光低減部材1を挿入した場合の液面の変化の様子を概念的に示している。
【図5】背景光低減部材1による効果を示す写真である。(a)背景光低減部材1を使用しない場合における容器40の底部の写真である。(b)背景光低減部材1を使用した場合における容器40の底部の写真である。
【図6】(a)本発明の第2実施形態に係る背景光低減部材の全体斜視図である。(b)背景光低減部材の拡大図である。(c)接触部周辺の拡大図である。(d)使用状態を示す縦断面図である。
【図7】(a)〜(d)第2実施形態に係る光測定方法を示した説明図である。
【図8】(a)〜(d)第2実施形態に係る別の光測定方法を示す説明図である。
【図9】背景光低減部材2による効果を示す写真である。(a)背景光低減部材2を使用しない場合のマイクロプレート50の底部の写真である。(b)領域Fに含まれる各ウェル55に対して背景光低減部材2を使用した場合のマイクロプレート50の底部の写真である。
【図10】ウェル55の底部を介して検出された蛍光強度の時間変化(レスポンス)を示すグラフである。
【図11】(a)〜(d)接触部の平面形状(所定軸線Cに垂直な平面における接触部の断面形状)の例を示す図である。
【図12】図11(a)に示した形状の接触部を使用した場合における(a)使用前、(b)使用中それぞれの蛍光の様子を示す写真である。
【図13】図11(b)に示した形状の接触部を使用した場合における(a)使用前、(b)使用中それぞれの蛍光の様子を示す写真である。
【図14】図11(c)に示した形状の接触部を使用した場合における(a)使用前、(b)使用中それぞれの蛍光の様子を示す写真である。
【図15】(a)〜(c)接触部の平面形状の他の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、添付図面を参照しながら本発明による背景光低減部材および光測定方法の実施の形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0023】
(第1の実施の形態)
図1(a)は本発明の一実施形態に係る背景光低減部材の斜視図であり、図1(b)はその縦断面図である。本実施形態の背景光低減部材1は、接触部10を備えている。接触部10は、後述する有底の容器に挿入され、該容器内の液(バッファー)と接触される部分である。接触部10は、容器への挿入方向(図中の矢印A)に沿った所定軸線Cを囲むように壁面が配置された枠のような形状をしており、本実施形態では所定軸線Cの方向に延びる円筒状を呈している。また、所定軸線Cと交差する平面内での接触部10の形状は、容器の内側面に沿った形状をしており、好ましくは容器の内側面に嵌合できるような形状である。接触部10は疎水性・非吸収性を有しており、材質としてはポリスチレンやポリプロピレン、ポリエチレンが好ましい。また、遮光および消光をするため、背景光低減部材1は黒色であることが好ましい。
【0024】
図2は、背景光低減部材1の使用状態を示す縦断面図である。図2に示すように、底部が透明な容器40の底部には、培養された細胞やコーティングされた抗体等の測定対象物Sが配置される。容器40には、蛍光指示薬といった蛍光性または発光性の物質を含む液(バッファー)Bが入れられ、測定対象物SはバッファーB中の上記物質(蛍光指示薬)を取り込む。そして、反射鏡43を介して励起光Eが照射されると、この励起光Eによって測定対象物S中の蛍光指示薬が励起され、所定波長の蛍光Lを発する。また、バッファーB中には、スクリーニングを行いたい化合物(試薬)Dも投入される。そして、容器40には、本実施形態に係る背景光低減部材1の接触部10が挿入される。この状態で、測定対象物Sから発する蛍光Lは、容器40の透明な底部を通過した後に、反射鏡43を透過し反射鏡43の下部に配置された撮像装置(不図示)によって撮像されることにより測定される。
【0025】
ここで、図3及び図4を参照して、本実施形態の背景光低減部材1の作用について説明する。図3は、背景光低減部材1を使用しない状態での容器内の様子を概念的に示しており、図4は、容器内に背景光低減部材1を挿入した場合の液面の変化の様子を概念的に示している。
【0026】
通常、容器40の内面において、測定対象物Sが配置される箇所は親水性である必要があるので、容器40の内面には親水処理が施されている。したがって、図3に示すように、容器40内のバッファーBの液面には、表面張力に起因する凹状の歪み(メニスカス)が形成される。
【0027】
一方、測定対象物Sに取り込まれなかった蛍光指示薬から発した蛍光は、この凹状の液面において反射・散乱し、その多くが容器40の底部へ進む。また、スクリーニングの対象である化合物(試薬)Dには自家蛍光を持つものが多く、このような自家蛍光を有する化合物を分注して試験する場合、該化合物Dからの蛍光もまたバッファーBの液面において反射・散乱し、その多くが容器40の底部へ進む。したがって、これらの光が背景光となり、容器40の底部を介して出力されることとなる。なお、容器40の内径が小さいほど容器40内の液面の歪みが顕著となるので、このような現象が顕著に現れる。
【0028】
これに対し、図4に示すように、疎水性の接触部10をバッファーBの液面に接触させると、バッファーBの液面の歪みが平坦または凸状となる。このような作用は、本実施形態に係る背景光低減部材1の接触部10の形状、すなわち所定軸線Cを囲むように壁面が配置された枠のような形状に起因するものと考えられる。このような作用により、バッファーBの液中において生じた蛍光、すなわち測定対象物Sに取り込まれなかった蛍光指示薬から発した蛍光や化合物Dの自家蛍光は、バッファーBの液面を透過して外部へ放出されることとなる。このため、容器40の底部に達する蛍光が少なくなり、背景光が効果的に低減される。
【0029】
このような効果は、容器40の内径が小さい場合により顕著となる。上述した表面張力に起因するバッファーB液面の凹状の歪みは、容器40の内側面とバッファーBの液面とが相互に接触する付近に形成されるので、容器40の内径が小さいほど、測定領域である容器中央付近における液面の凹みが顕著となるからである。
【0030】
このように、本実施形態の背景光低減部材1、およびこれを用いた光測定方法によれば、容器40の内径が小さい場合であっても、背景光を効果的に低減することができる。したがって、容器40の底部を介した蛍光測定において、背景光に邪魔されることなく、測定対象物Sからの蛍光Lのみを測定することができ、偽陽性の少ない高精度な蛍光測定が可能となる。また、背景光低減部材1を測定対象物Sに接触させずに済むので、測定対象物Sに影響を及ぼすことなく、背景光の影響を排除した高感度な測定が可能となる。そして、蛍光指示薬の種類(蛍光波長)や測定系を選ばず、どのような測定にも対応できる。また、容器40内に背景光低減部材1の接触部10を挿入するだけで、バッファーB液中の過剰な蛍光指示薬に起因する背景光も低減することができるので、バッファーBの置換が不要となり、スループットの向上を図ることができる。
【0031】
図5は、本実施形態の背景光低減部材1による効果を示す写真である。図5(a)は、背景光低減部材1を使用しない場合(図3を参照)における容器40の底部の写真であり、図5(b)は、背景光低減部材1を使用した場合(図4を参照)における容器40の底部の写真である。なお、これらの写真は、容器40の底部に測定対象物SとしてCHO細胞を配置し、これをFluo4(Caイオン蛍光指示薬)にて染色し、バッファーBとして1μMのFITC(Fluorescein Isothiocyanate)を使用することにより背景光を多くしたものである。
【0032】
図5(a)に示すように、背景光低減部材1を使用しない場合には、背景光によって底部全体が明るくなり、CHO細胞からの蛍光を見分けることが困難となっている。対して、図5(b)に示すように、背景光低減部材1をFITCの液面に接触させると、FITCからの背景光のみを除去してCHO細胞からの蛍光をクリアに観察可能となる。
【0033】
なお、前述したように、所定軸線Cと交差する平面内での接触部10の形状は、容器40の内側面に沿った形状であることが好ましい。接触部10がこのような形状を有することによって、バッファーBの液面の形状を広範囲にわたって改善し、背景光をより効果的に低減することができる。
【0034】
(第2の実施の形態)
図6(a)は本発明の第2実施形態に係る背景光低減部材の全体斜視図であり、図6(b)はその拡大図であり、図6(c)は接触部周辺の拡大図であり、図6(d)は使用状態を示す縦断面図である。
【0035】
この第2実施形態の背景光低減部材が第1実施形態と異なる点は、有底容器としての複数のウェルを備えるマイクロプレートに使用されることにある。
【0036】
図6(a)〜図6(c)に示すように、本実施形態の背景光低減部材2は、測定対象物を収容する複数のウェルを備えるマイクロプレートに使用されるものであり、そのマイクロプレートの複数のウェルに対応した複数の接触部10を備えている。これら複数の接触部10は、マイクロプレートの上面を覆う一体構造のシート状部21によって支持されており、マイクロプレートの上面形状と嵌合して、マイクロプレートの各ウェル内にそれぞれ挿入される。
【0037】
図6(d)に示すように、本実施形態の背景光低減部材2の使用状態において、マイクロプレート50に設けられたウェル55の透明な底部には、培養された細胞等の測定対象物Sが配置される。各ウェル55内には、蛍光指示薬といった蛍光性または発光性の物質を含む液(バッファー)Bが投入され、測定対象物SはバッファーB中の上記物質(蛍光指示薬)を取り込む。そして、図示しない反射鏡を介して励起光が照射されると、この励起光によって測定対象物S中の蛍光指示薬が励起され、所定波長の蛍光Lを発する。バッファーB中には、スクリーニングを行いたい化合物(試薬)も投入される。そして、マイクロプレート50には背景光低減部材2が、各接触部10と各ウェル55とが相互に嵌合するように挿入される。一体構造のシート状部21がマイクロプレート50の上部を覆うようにして嵌合することにより、接触部10はウェル55内の所定の位置に位置決めされる。
【0038】
次に、背景光低減部材2を使用した光測定方法について具体的に説明する。図7(a)〜(d)は、本実施形態に係る光測定方法を示した説明図である。この方法では、まず第1ステップとして、マイクロプレート50の各ウェル55の透明な底部に、培養した細胞またはコーティングされた抗体等の形で測定対象物Sを配置する(図7(a))。次に第2ステップとして、各ウェル55内に、蛍光指示薬を含んだバッファーBを加える(図7(b))。このとき、バッファーBの液面には、表面張力に起因する凹状の歪みが生じる。そして第3ステップとして、蛍光指示薬を含んだバッファーBを除去することなく(洗浄を行うことなく)、背景光低減部材2をマイクロプレート50に挿入・嵌合して、各接触部10を各ウェル55へ挿入する(図7(c))。これにより、各接触部10がバッファーBの液面に接触し、液面の形状が制御されて、バッファーBから発する蛍光が液面から放出される。その後、第4ステップとして、測定対象物Sからの蛍光Lを各ウェル55の底部を介して観察する(図7(d))。なお、スクリーニングの対象である試薬等は、適宜バッファーBへ投入することができる。
【0039】
図8(a)〜(d)は、本実施形態に係る別の光測定方法を示す説明図である。この方法では、第1ステップとして、測定対象物Sをマイクロプレート50の各ウェル55に配置する(図8(a))。第2ステップとして、背景光低減部材2をマイクロプレート50に挿入・嵌合して、各接触部10を各ウェル55へ挿入する(図8(b))。そして第3ステップとして、蛍光指示薬を含んだバッファーBを各ウェル55中に加える(図8(c))。その後、第4ステップとして、蛍光指示薬を含んだバッファーBを除去することなく(洗浄を行うことなく)、測定対象物Sからの蛍光Lを各ウェル55の底部を介して観察する(図8(d))。
【0040】
本実施形態においても第1実施形態と同様に、各ウェル55中の測定対象物Sからの蛍光Lを、ウェル55の透明な底部を介して測定することができる。そして、疎水性の接触部10をバッファーBの液面に接触させると、バッファーBの液面の歪みが平坦または凸状となる。したがって、バッファーBの液中において生じた蛍光は、バッファーBの液面を透過して外部へ放出されることとなる。このため、ウェル55の底部に達する蛍光が少なくなり、背景光が効果的に低減される。
【0041】
このように、本実施形態の背景光低減部材2、及びこれを用いた光測定方法によれば、背景光を効果的に低減することができる。したがって、ウェル55の底部を介した蛍光測定において、背景光に邪魔されることなく、測定対象物Sからの蛍光Lのみを測定することができ、偽陽性の少ない高精度な蛍光測定が可能となる。また、背景光低減部材2を測定対象物Sに接触させずに済むので、測定対象物Sに影響を及ぼすことなく、背景光の影響を排除した高感度な測定が可能となる。そして、蛍光指示薬の種類(蛍光波長)や測定系を選ばず、どのような測定にも対応できる。また、ウェル55内に接触部10を挿入するだけで、バッファーB液中の過剰な蛍光指示薬に起因する背景光も低減することができるので、バッファーBの置換が不要となり、スループットの向上を図ることができる。
【0042】
なお、本実施形態において使用されるマイクロプレート50としては、例えば、ウェル55が8×12の格子状に並んだ96ウェルタイプ、この96ウェルタイプの半分のサイズのウェル55が16×24の格子状に並んだ384ウェルタイプ、並びに、384ウェルタイプの更に半分のサイズのウェルが32×48の格子状に並んだ1536ウェルタイプがある。近年、測定効率の向上のため、より多くのウェル55を備えた(すなわちウェルサイズが小さい)マイクロプレート50が用いられる傾向がある。
【0043】
特に、384ウェルタイプのマイクロプレートを使用する場合には、ウェルサイズが3.5mm以下と小さくなり、従来の方法では液面の歪みの影響が大きくなるので、本実施形態に係る背景光低減部材2、及びこれを用いた光測定方法の効果がより顕著となる。
【0044】
図9は、本実施形態の背景光低減部材2による効果を示す写真である。図9(a)は、背景光低減部材2を使用しない場合のマイクロプレート50の底部の写真であり、図9(b)は、領域Fに含まれる各ウェル55に対して背景光低減部材2を使用した場合のマイクロプレート50の底部の写真である。なお、これらの写真は、マイクロプレート50として384ウェルタイプを使用し、ウェル55の底部に測定対象物SとしてCHO細胞を配置し、これをFluo4にて染色し、バッファーBとして1μMのFITCを使用したものである。
【0045】
図9(a)に示すように、背景光低減部材2を使用しない場合には、背景光によって底部全体が明るくなり、CHO細胞からの蛍光を見分けることが困難となっている。対して、図9(b)の領域Fに示されるように、背景光低減部材2をFITCの液面に接触させると、FITCからの背景光を効果的に低減できる。
【0046】
図10は、ウェル55の底部を介して検出された蛍光強度の時間変化(レスポンス)を示すグラフである。このグラフの縦軸は光強度の相対値を示しており、横軸は時間である。また、図10において、グラフ群Gは背景光低減部材2をマイクロプレート50に挿入する前のグラフであり、グラフ群Hは背景光低減部材2をマイクロプレート50に挿入した後のグラフである。グラフ群Gに示されるように、背景光低減部材2を使用しない場合には、背景光が主に検出されてCHO細胞からの蛍光強度を測定することができない。これに対し、グラフ群Hに示されるように、背景光低減部材2を使用すると、背景光が低減されてCHO細胞からの蛍光強度の時間変化を明確に検出できている。
【0047】
(変形例)
上記各実施形態において、接触部10の形状は、所定軸線Cを囲むように壁面が配置された枠のような形状であればよく、様々な変形が可能である。図11は、接触部の平面形状(所定軸線Cに垂直な平面における接触部の断面形状)の例を示す図である。また、図12〜14は、図11に示した各形状の接触部を使用した場合における(a)使用前、(b)使用中それぞれの蛍光の様子を示す写真である。
【0048】
図11(a)は、上記実施形態の接触部10と同様に、所定軸線Cに沿って延びる円筒形状を示している。このような形状は、金型を用いて接触部を作成する場合に最も作成が容易な形状である。このような接触部10を使用した場合には、図12(a)と図12(b)との比較からわかるように、十分に背景光が低減されており、その低減効果は他の形状と比較して最も高い。また、分注器を使用して試薬を分注した際に、測定対象物Sに試薬が均一に注がれるという利点もある。
【0049】
図11(b)は、円筒形状のうち対向する二つの部分に所定軸線Cに沿った切り欠きが入った形状の接触部11を示している。この接触部11は、相互に間隔をあけて所定軸線Cの周囲に配列された2つの円弧型の疎水性部分11a,11bから成る。このような接触部11を使用した場合においても、図13(a)と図13(b)との比較からわかるように、十分に背景光が低減されており、その低減効果は図11(a)の形状と殆ど変わらない。但し、分注器を使用して試薬を分注した際に、2つの疎水性部分11a,11bの隙間から試薬が漏れ出すので、測定対象物Sに注がれる試薬にムラが生じるおそれがある。
【0050】
図11(c)は、円筒形状のうち三つの部分に所定軸線Cに沿った切り欠きが入った形状の接触部12を示している。この接触部12は、相互に間隔をあけて所定軸線Cの周囲に配列された3つの円弧型の疎水性部分12a〜12cから成る。このような接触部12を使用した場合においても、図14(a)と図14(b)との比較からわかるように、十分に背景光が低減されており、その低減効果は図11(a)の形状と殆ど変わらない。但し、図11(b)に示した接触部11より隙間が多いため、測定対象物Sに注がれる試薬のムラがより大きくなるおそれがある。
【0051】
図11(d)は、円筒形状のうち四つの部分に所定軸線Cに沿った切り欠きが入った形状の接触部13を示している。この接触部13は、相互に間隔をあけて所定軸線Cの周囲に配列された4つの円弧型の疎水性部分13a〜13dから成る。このような接触部13を使用した場合においても、図12〜図14の結果から、十分に背景光が低減され、その低減効果は図11(a)の形状と殆ど変わらないものと推測される。
【0052】
図15は、接触部の平面形状の他の例を示す図である。図15(a)に示す接触部14は、矩形枠状といった平面形状を有しており、所定軸線Cに沿って延びる角筒状を呈している。また、図15(b)に示す接触部15は、図15(a)に示した形状において対向する二辺に所定軸線Cに沿った切り欠きが入った形状を有しており、相互に間隔をあけて所定軸線Cの周囲に配列された2つのコの字型の疎水性部分15a,15bから成る。また、図15(c)に示す接触部16は、図15(a)に示した形状において四辺の全てに所定軸線Cに沿った切り欠きが入った形状を有しており、相互に間隔をあけて所定軸線Cの周囲に配列された4つのくの字型の疎水性部分16a〜16dから成る。
【0053】
本発明における接触部は、例えば図15(a)〜図15(c)に示したような形状であっても、上記実施形態と同様の効果を好適に奏することができる。
【0054】
本発明による背景光低減部材および光測定方法は、上記した実施形態に限られるものではなく、他に様々な変形が可能である。例えば、上記実施形態に記載された化合物(試薬)とは、(1)測定対象物の内部に取り込まれるもの、(2)測定対象物と直接結合するもの、(3)測定対象物とリガンドなどを介して間接的に結合するものの何れであってもよい。
【符号の説明】
【0055】
1,2…背景光低減部材、10〜16…接触部、21…シート状部、40…容器、50…マイクロプレート、55…ウェル、B…バッファー、C…所定軸線、D…化合物(試薬)、E…励起光、L…蛍光、S…測定対象物。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
有底容器内の液中に配置された測定対象物が蛍光性または発光性の物質を取り込むことで発する光を前記有底容器の底部を介して測定する際に、前記測定対象物の周囲の液中において生じる背景光を低減する為に用いられる部材であって、
前記有底容器内に挿入されて前記有底容器内の液と接触するとともに、該挿入方向に沿った所定軸線を囲むように配置された疎水性の接触部を有し、
前記有底容器内の液と前記接触部との上記接触に因って前記背景光を低減することを特徴とする、背景光低減部材。
【請求項2】
前記有底容器としての複数のウェルを有するマイクロプレートを使用する際に用いられ、
前記複数のウェルに対応する複数の前記接触部を有することを特徴とする、請求項1に記載の背景光低減部材。
【請求項3】
前記所定軸線と交差する平面内での前記接触部の形状が、前記有底容器の内側面に沿った形状であることを特徴とする、請求項1または2に記載の背景光低減部材。
【請求項4】
前記接触部の形状が、前記所定軸線の方向に延びる筒状であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の背景光低減部材。
【請求項5】
前記接触部が、相互に間隔をあけて前記所定軸線の周囲に配列された複数の疎水性部分から成ることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の背景光低減部材。
【請求項6】
有底容器内の液中に配置された測定対象物が蛍光性または発光性の物質を取り込むことで発する光を前記有底容器の底部を介して測定する方法であって、
所定軸線を囲むように配置された疎水性の接触部を有する部材の前記接触部を前記所定軸線に沿って前記有底容器内に挿入して前記有底容器内の液と接触させることに因って、前記測定対象物の周囲の液中において生じる背景光を低減することを特徴とする、光測定方法。
【請求項7】
前記有底容器としての複数のウェルを有するマイクロプレートを使用すると共に、
前記部材が、前記複数のウェルに対応する複数の前記接触部を有することを特徴とする、請求項6に記載の光測定方法。
【請求項8】
前記所定軸線と交差する平面内での前記接触部の形状が、前記有底容器の内側面に沿った形状であることを特徴とする、請求項6または7に記載の光測定方法。
【請求項9】
前記接触部の形状が、前記所定軸線の方向に延びる筒状であることを特徴とする、請求項6〜8のいずれか一項に記載の光測定方法。
【請求項10】
前記接触部が、相互に間隔をあけて前記所定軸線の周囲に配列された複数の疎水性部分から成ることを特徴とする、請求項6〜8のいずれか一項に記載の光測定方法。
【請求項1】
有底容器内の液中に配置された測定対象物が蛍光性または発光性の物質を取り込むことで発する光を前記有底容器の底部を介して測定する際に、前記測定対象物の周囲の液中において生じる背景光を低減する為に用いられる部材であって、
前記有底容器内に挿入されて前記有底容器内の液と接触するとともに、該挿入方向に沿った所定軸線を囲むように配置された疎水性の接触部を有し、
前記有底容器内の液と前記接触部との上記接触に因って前記背景光を低減することを特徴とする、背景光低減部材。
【請求項2】
前記有底容器としての複数のウェルを有するマイクロプレートを使用する際に用いられ、
前記複数のウェルに対応する複数の前記接触部を有することを特徴とする、請求項1に記載の背景光低減部材。
【請求項3】
前記所定軸線と交差する平面内での前記接触部の形状が、前記有底容器の内側面に沿った形状であることを特徴とする、請求項1または2に記載の背景光低減部材。
【請求項4】
前記接触部の形状が、前記所定軸線の方向に延びる筒状であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の背景光低減部材。
【請求項5】
前記接触部が、相互に間隔をあけて前記所定軸線の周囲に配列された複数の疎水性部分から成ることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の背景光低減部材。
【請求項6】
有底容器内の液中に配置された測定対象物が蛍光性または発光性の物質を取り込むことで発する光を前記有底容器の底部を介して測定する方法であって、
所定軸線を囲むように配置された疎水性の接触部を有する部材の前記接触部を前記所定軸線に沿って前記有底容器内に挿入して前記有底容器内の液と接触させることに因って、前記測定対象物の周囲の液中において生じる背景光を低減することを特徴とする、光測定方法。
【請求項7】
前記有底容器としての複数のウェルを有するマイクロプレートを使用すると共に、
前記部材が、前記複数のウェルに対応する複数の前記接触部を有することを特徴とする、請求項6に記載の光測定方法。
【請求項8】
前記所定軸線と交差する平面内での前記接触部の形状が、前記有底容器の内側面に沿った形状であることを特徴とする、請求項6または7に記載の光測定方法。
【請求項9】
前記接触部の形状が、前記所定軸線の方向に延びる筒状であることを特徴とする、請求項6〜8のいずれか一項に記載の光測定方法。
【請求項10】
前記接触部が、相互に間隔をあけて前記所定軸線の周囲に配列された複数の疎水性部分から成ることを特徴とする、請求項6〜8のいずれか一項に記載の光測定方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図6】
【図7】
【図8】
【図11】
【図15】
【図5】
【図9】
【図10】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図6】
【図7】
【図8】
【図11】
【図15】
【図5】
【図9】
【図10】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2010−190796(P2010−190796A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−36945(P2009−36945)
【出願日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【出願人】(000236436)浜松ホトニクス株式会社 (1,479)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【出願人】(000236436)浜松ホトニクス株式会社 (1,479)
【Fターム(参考)】
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