説明

胚性幹細胞におけるゲノムの安定性およびテロメアの伸長を促進するための方法

本開示は、例えば、胚性幹(ES)細胞または人工多能性幹(iPS)細胞を、その細胞におけるZscan4の発現を増加させる薬剤と接触させることによって、ES細胞またはiPS細胞のゲノム安定性を高めるため、ES細胞またはiPS細胞におけるテロメア長を伸ばすため、もしくはその両方のための方法を提供する。例えば、Zscan4のES細胞またはZscan4のiPS細胞を、ES細胞またはiPS細胞の集団(Zscan4のES細胞またはiPS細胞とZscan4のES細胞またはiPS細胞の両方を含み得る)から選択することによって、ES細胞またはiPS細胞の集団におけるゲノム安定性を高めるため、ES細胞またはiPS細胞の集団におけるテロメア長を伸ばすため、もしくはその両方のための方法が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願への相互参照
本願は、2009年9月4日に出願された米国仮特許出願61/275,983号の利益を主張し、この米国仮特許出願は、その全体が本明細書中に参考として援用される。
分野
本開示は、胚性幹(ES)細胞および人工多能性幹(iPS)細胞、ならびにES細胞およびiPS細胞においてゲノムの安定性およびテロメアの伸長を促進することにおけるZscan4の発現の役割に関する。
【背景技術】
【0002】
背景
マウス胚性幹(ES)細胞は、胚盤胞の内部細胞塊(ICM)に由来し、ICMと類似の遺伝子発現パターンを共有する。ES細胞を定義する特色は、多能性および自己複製であり、これらの両方ともが、長年にわたる集中的な研究の焦点である。マウスES細胞のもう一つの特徴は、細胞老化に抗し、クライシスまたは形質転換なく250回を超す倍加により増殖する能力である(非特許文献1)。正倍数性細胞の割合が、長期培養において減少する傾向があるが(非特許文献2)、マウスES細胞のゲノムの完全性は、その他の任意の培養細胞よりも厳しく維持される。例えば、ES細胞は、多数回の継代後でさえ生殖細胞系列となる適格性を有するキメラ動物を形成する能力を維持する(非特許文献3;非特許文献4;非特許文献5)。ES細胞における変異頻度もまた、マウス胚性線維芽細胞およびその他の体細胞における変異頻度よりもかなり低い(>100倍)(非特許文献6)。マウスES細胞の独特の特色は、ES細胞と類似の特徴を共有する胎児性癌腫細胞(非特許文献7)ならびにいくつかのヒトES細胞(非特許文献8)と比べて低い頻度の染色体異常によってさらに強調され得る。しかしながら、マウスES細胞がゲノム安定性を維持する機構は、現在のところ理解されていないことが多い。
【0003】
テロメアは、各細胞周期における継続的な分解から各染色体の末端をキャップおよび保護することによって染色体の完全性を確保および保護するタンパク質を伴っている、反復DNA配列である。テロメアの短縮は、ゲノム不安定性に関与することによってがんをもたらし得(非特許文献9)、また、加齢および細胞老化に関連している(非特許文献10)。テロメア伸長の維持に関わることが知られている主要な酵素としてテロメラーゼが同定された。テロメラーゼは、ES細胞において活性であるが(非特許文献11)、テロメラーゼノックアウトES細胞(Terc−/−)は、400回の細胞倍加で初めてテロメア長の著しい短縮を示し、その後10〜30回倍加した後に劇的な老化事象に達し、その後、著しく短いテロメアを有しないテロメラーゼ非依存的集団が確立される(非特許文献12;非特許文献13)。それゆえ、テロメア維持のためのテロメラーゼ非依存的機構(テロメアの代替延長(alternative lengthening of telomeres)(ALT)と命名されている)(非特許文献14)が、Terc−/−ES細胞について提唱されている。どうやら、テロメアの組換え、すなわちテロメア姉妹染色分体交換(T−SCE)が、テロメラーゼ活性の欠如を補い得る。実際に、T−SCE事象の頻度の上昇は、Terc−/−ES細胞の長期培養物において証明されている(非特許文献15;非特許文献16)。
【0004】
さらに、テロメアの組換えは、着床前胚では正常な機構であると見られる。テロメラーゼの酵素活性が、未受精の卵母細胞期から胚盤胞期までの着床前胚において検出され得ないとしても(非特許文献17)、テロメア長は、この期間中に急速に長くなる。たった1回の細胞周期において、2細胞期のマウス胚の平均テロメア長は、未受精卵と比べて2倍になる(非特許文献18)。T−SCE事象が、いくつかの研究において証明されているが、この重要なプロセスに関わる遺伝子は、依然として同定されていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Sudaら、J Cell Physiol 133:197−201,1987
【非特許文献2】Rebuzziniら、Cytotechnology 58:17−23,2008
【非特許文献3】Longoら、Transgenic Res 6:321−328,1997
【非特許文献4】Nagyら、Proc Natl Acad Sci USA 90:8424−8428,1993
【非特許文献5】Sugawaraら、Comp Med 56:31−34,2006
【非特許文献6】Cervantesら、Proc Natl Acad Sci USA 99:3586−3590,2002
【非特許文献7】Blellochら、Proc Natl Acad Sci USA 101:13985−13990,2004
【非特許文献8】Brimbleら、Stem Cells Dev 13:585−597,2004
【非特許文献9】Raynaudら、Crit Rev Oncol Hematol 66:99−117,2008
【非特許文献10】Yang,Cytogenet Genome Res 122:211−218,2008
【非特許文献11】Thomsonら、Science 282:1145−1147,1998
【非特許文献12】Niidaら、Nat Genet 19:203−206,1998
【非特許文献13】Niidaら、Mol Cell Biol 20:4115−4127,2000
【非特許文献14】Bryanら、EMBO J 14:4240−4248,1995
【非特許文献15】Baileyら、Nucleic Acids Res 32:3743−3751,2004
【非特許文献16】Wangら、Proc Natl Acad Sci USA 102:10256−10260,2005
【非特許文献17】Wrightら、Dev Genet 18:173−179,1996
【非特許文献18】Liuら、Nat Cell Biol 9:1436−1441,2007
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
要旨
本開示は、胚性幹(ES)細胞または人工多能性幹(iPS)細胞のゲノム安定性を高めるため、またはES細胞またはiPS細胞においてテロメア長を伸ばすため、もしくはその両方のための方法を提供する。例えば、そのような方法は、細胞において、正常な核型の存在を増加させ得るか、染色体の融合および断片化を減少させ得るか、ゲノム姉妹染色体交換(genomic sister chromosome exchange)を減少させ得るか、テロメアの組換えを増加させ得るか、またはそれらの組み合わせであり得る。特定の例において、方法は、ES細胞またはiPS細胞においてZscan4の発現を増加させる薬剤の非存在下の細胞におけるZscan4の発現と比べてZscan4の発現を増加させるその薬剤と、ES細胞またはiPS細胞を接触させる工程(例えば、その薬剤をES細胞またはiPS細胞に導入する工程)を包含する。Zscan4の発現を増加させる例示的な薬剤としては、Zscan4をコードする核酸分子、レチノイン酸、および酸化ストレスを誘導する薬剤が挙げられるが、これらに限定されない。
【0007】
ES細胞またはiPS細胞の集団においてゲノム安定性を高めるため、ES細胞またはiPS細胞の集団においてテロメア長を伸ばすため、もしくはその両方のための方法が、提供される。特定の例において、方法は、Zscan4のES細胞またはiPS細胞を、ES細胞またはiPS細胞の集団(Zscan4とZscan4の両方のES細胞またはiPS細胞を含み得る)から選択する工程を包含する。例えば、ES細胞またはiPS細胞の集団は、レポーター遺伝子に作動可能に連結されたZscan4プロモーターを含む発現ベクターでトランスフェクトされ得、ここで、そのレポーター遺伝子の発現は、Zscan4がES細胞またはiPS細胞の部分集団において発現されていることを示す。レポーター遺伝子を発現している細胞が、検出され得(例えば、そのレポーター遺伝子によってコードされるタンパク質によって生成されるシグナルを検出することによって)、次いで、単離され得る。例えば、そのレポーター遺伝子が、緑色蛍光タンパク質(GFP)または関連する蛍光タンパク質(例えば、Emerald)である場合、Zscan4陽性細胞は、その蛍光に基づいて認識され得、蛍光標示式細胞分取器(FACS)によって選別され得る。そのレポーター遺伝子が、細胞表面マーカーである場合、Zscan4陽性細胞は、FACS、またはその細胞表面マーカーに結合し得る磁気ビーズによって選別され得る。
【0008】
Zscan4を発現しているES細胞またはiPS細胞は、治療用に使用され得る。例えば、ES細胞治療を必要とする被験体が選択され得、そしてZscan4である治療有効量の未分化なES細胞またはiPS細胞の部分集団が投与され得る。例えば、Zscan4のES細胞またはiPS細胞から完全に分化した細胞もまた、治療上の投与のために使用され得る。そのような治療の恩恵を受けることができる被験体の例としては、がん、自己免疫疾患、神経損傷または神経変性障害、ならびに再生治療の恩恵を受け得るその他の障害を有する被験体が挙げられる。
【0009】
がんを有する被験体にZscan4の発現を増加させる薬剤を投与することによって、その被験体を処置する方法もまた本明細書において提供される。
【0010】
単離されたES細胞または単離されたiPS細胞の生殖細胞への分化を誘導する方法がさらに提供される。いくつかの態様において、その方法は、そのES細胞またはiPS細胞を、ES細胞またはiPS細胞においてZscan4の発現を増加させる薬剤と接触させることによって、そのES細胞またはiPS細胞の生殖細胞への分化を誘導する工程を包含する。
【0011】
単離されたES細胞または単離されたiPS細胞において減数分裂、減数分裂特異的組換えおよび/またはDNA修復を誘導する方法もまた提供される。いくつかの態様において、その方法は、そのES細胞またはiPS細胞を、そのES細胞またはiPS細胞におけるZscan4の発現を増加させる薬剤と接触させることによって、そのES細胞またはiPS細胞において減数分裂、減数分裂特異的組換えおよび/またはDNA修復を誘導する工程を包含する。
【0012】
Zscan4の発現を増加させる薬剤と上記細胞を接触させることによってその細胞をDNA傷害剤から保護する方法も提供される。
【0013】
本開示の前述およびその他の目的および特色は、添付の図面を参照して進められる以下の詳細な説明からより明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1A】図1Aは、Zscan4の発現がマウスES細胞コロニーにおいて高度に不均一である(RNAホールマウントインサイチュハイブリダイゼーション(WISH)によって証明される)のに対し、コントロールPou5f1の発現は均一であることを示しているデジタル画像の対である。
【図1B】図1Bは、Zscan4−プロモーターEmerald−レポーターベクターの模式図である。
【図1C】図1Cは、位相差蛍光顕微鏡(左パネル)および共焦点顕微鏡セクション(右パネル)によるpZscan4−Emerald細胞におけるZscan4プロモーター下のEmerald発現の可視化を示しているデジタル画像の対である。全ての核が、DAPIで標識された。
【図1D】図1Dは、pZscan4 Emerald細胞のFACSプロットである。
【図1E】図1Eは、それらの蛍光強度に従った、pZscan4−Emerald細胞の4群へのFACS選別を示している(上パネル)。各細胞集団におけるZscan4cの発現レベルは、qRT−PCRによって測定された(下パネル)。
【図1F−1】図1Fは、pZscan4−Emerald細胞の経時的なFACS解析を示している一連のFACSプロットである。
【図1F−2】図1Fは、pZscan4−Emerald細胞の経時的なFACS解析を示している一連のFACSプロットである。
【図1F−3】図1Fは、pZscan4−Emerald細胞の経時的なFACS解析を示している一連のFACSプロットである。
【図1G】図1Gは、DNAマイクロアレイ解析によるEmerald(+)細胞とEmerald(−)細胞との間の遺伝子発現プロファイルの対比較を示している散布図である。色分けされたスポットは、統計的に有意に差次的に発現される遺伝子である(FDR<0.05および変化倍率>1)。
【図1H】図1Hは、Em細胞における上位20個の差次的に発現された遺伝子の表である。
【図2A】図2Aは、Zscan4、およびEm(+)細胞におけるアップレギュレーションについて選択された8つの追加の遺伝子(Tcstv1、Eif1a、Pif1、AF067063、EG668777、LOC332923、BC061212およびEG627488)のRNAインサイチュハイブリダイゼーションを示していて、かつ「Zscan4様」発現パターンを示している一連のデジタル画像である。コントロール遺伝子は、未分化なESコロニーを取り囲む分化した細胞を染色する栄養外胚葉および臓側内胚葉マーカーであるKrt2−8/EndoA;および多能性マーカーとしてのPou5f1(Oct4またはOct3/4)である。
【図2B】図2Bは、Zscan4転写物(FITC)と、Tcstv3、Eif1a、AF067063、EG668777、LOC332923、BC061212およびEG627488の転写物との同時発現を示している二重蛍光RNAインサイチュハイブリダイゼーションのデジタル画像の一式である。
【図2C】図2Cは、Zscan4、およびEm(+)細胞においてアップレギュレートされるその他の6つの選択された遺伝子(EG627488、Arg2、AF067063、Gm428、Tcstv1/3、BC061212)のqRT−PCR解析を示している一連の棒グラフである。未受精の卵母細胞(MII)、1細胞胚(1)、初期2細胞胚(E2)、後期2細胞胚(L2)、4細胞胚(4)、8細胞胚(8)、桑実胚(M)および胚盤胞(BL)からの結果が示されている。
【図3A】図3Aは、pZscan4−CreERT2ベクターの模式図である。cre−リコンビナーゼ遺伝子は、Zscan4プロモーターの下で発現される。タモキシフェンの存在下において、CreERT2融合酵素は、核に転位し、LacZ遺伝子の上流のネオマイシン耐性遺伝子を切除し、LacZ発現を活性化させる。
【図3B】図3Bは、Zscan4に対するRNA−FISHおよびCre−リコンビナーゼに対する免疫染色のデジタル画像の一式であり、これらは、pZscan4−CreERT2 ES細胞をタモキシフェンに短時間曝した後の細胞の小さい集団におけるZscan4 RNAとCre−リコンビナーゼとの共染色を示している。
【図3C】図3Cは、pZscan4−CreERT2 ES細胞をタモキシフェンに長期間曝した後のPou5f1およびLacZの共免疫染色解析を示しているデジタル画像の一式である。全ての核が、DAPIで標識された。
【図3D】図3Dは、9継代まで(27日間)タモキシフェンの存在下において維持され、続いて、LacZ活性を証明するためにX−galで染色されたpZscan4−CreERT2細胞の一連の位相差像である。継代9代目まで、その細胞の大部分が、LacZを特徴とする。
【図3E】図3Eは、CMFDG染色によるLacZ発現の解析を示している一連のFACSプロットである。タモキシフェンの持続的な存在下におけるLacZ陽性細胞集団の持続的な増加が観察された。
【図3F】図3Fは、2つの異なる方法:CMFDGを用いたFACS解析およびX−galで細胞を染色した後の手動でのカウントによって計数されたLacZ陽性細胞を示しているグラフである。両方の方法が、継代するにつれてLacZ陽性細胞が直線的に増加するという類似の結果を示している。
【図3G】図3Gは、pZscan4−CreERT2 LacZ陽性細胞が、胚様体(EB)分化アッセイによって3つ全ての主要な細胞系統に寄与することができることを示している一連のデジタル画像である。それらの細胞のX−gal染色の位相差像は、内胚葉、外胚葉(上皮、分化の3日目までの神経ロゼット(neural rosettes)、分化の7日目までのニューロン)および中胚葉(拍動している筋肉)におけるLacZ陽性Zscan4娘細胞を示している。
【図3H】図3Hは、LacZおよび異なる胚葉マーカーに対する共免疫染色を示している一連のデジタル画像である。Zscan4娘細胞(LacZ発現を特徴とする細胞)は、3つ全ての胚葉に寄与することができる:内胚葉についてはDab2;中胚葉についてはASM−1;および神経外胚葉についてはNestin。
【図3I】図3Iは、9つの胚(E10.5)のジェノタイピングを示しているゲルの像であり、これは、試験された9つの胚のうち8つの胚におけるキメラ現象を証明している。
【図4A】図4Aは、Zscan4 shRNAベクターが、Zscan4の発現を約90%ダウンレギュレートしたのに対し、Dox除去によるZscan4c−ORF誘導がZscan4の発現をレスキューしたことを証明しているqRT−PCR解析を示しているグラフの対である(上パネル)。ルシフェラーゼに対するshRNAを、陰性コントロールとして同じ親細胞において使用した。qRT−PCR解析は、Zscan4dの誘導をもたらすZscan4cの過剰発現を示した(下パネル);両方のパラログが、shRNAによってノックダウンされた。
【図4B】図4Bは、Zscan4ノックダウン細胞、および3日間Doxを除去することによるZscan4−ORFの誘導によってレスキューされた細胞の代表的な像の対である。Venusを遺伝子誘導に対するレポーターとして使用した。
【図4C】図4Cは、Zscan4ノックダウン表現型の模式的な説明図である。細胞は、最初の数継代において正常なコロニーの形態を示した;しかしながら、クローン単離後の8継代(およそ31回の細胞倍加)では、細胞培養物のクライシスが観察された。生き残った細胞を維持することができたが、それらの倍加時間は、異常に長かった。
【図4D】図4Dは、Zscan4ノックダウンによる細胞増殖の低下を示しているグラフである。各継代について、4×10細胞を播種し、培養3日後に細胞を数えた。
【図4E】図4Eは、細胞培養物のクライシス前の継代7代目における、Zscan4ノックダウンによる増殖の低下(○,△)に対し、Zscan4のレスキューが増殖率を改善したこと(●,▲)を示しているグラフである。コントロールには、Dox+(◇)およびDox−(◆)のTet−Empty細胞;Dox+(△)およびDox−(▲)のtet−Zscan4c細胞;ならびにDox+(□)およびDox−(■)のshCont細胞が含まれた。2回の独立した実験において、生物学的な三つ組でアッセイを行った。
【図4F】図4Fは、Zscan4ノックダウン細胞におけるアポトーシスの増加を示しているグラフである。アネキシン−Vによるアポトーシスアッセイを、FACS解析によって行った。コントロールには、基礎アポトーシスレベルのためのtet−Zscan4c細胞(Zscan4);可能性のあるオフターゲット効果のためのshRNAコントロール細胞(shCont);およびドキシサイクリン効果のためのtet−Empty細胞(Empty)が含まれた。アポトーシス細胞を、V−PE結合体化アネキシン−V抗体、ならびに死細胞に対する指示薬としての細胞不透過色素(7−AAD)によって可視化した。培養物中のアポトーシス生細胞の総数を得るために、死細胞を除外した。
【図4G】図4Gは、shRNAコントロールと比べたときの、Zscan4ノックダウン細胞およびZscan4レスキュー細胞の核型解析を示している表である。継代3代目の結果(左パネル)は、Zscan4レスキューによって部分的に妨げられる、融合および断片化のような複数の核型異常を示している。細胞クライシス後の継代10代目の結果(右パネル)は、Zscan4レスキューによって部分的に妨げられる、さらなる核型の変質(30%だけが正常)を示している。
【図5A】図5Aは、Zscan4ノックダウン細胞の核型の不安定性を示している一連の像である。DAPIによって染色された分裂中期染色体スプレッドでの代表的なテロメアFISH像が示されている。左の2つのパネルが、Zscan4ノックダウン細胞の像である。白色の矢印が、欠損したまたは非常に短いテロメアを指し示している。融合は、融合された染色体を示す。右の2つのパネルは、正常なテロメアを有するshRNAコントロール細胞、ならびにテロメア長および核型が改善されたZscan4レスキュー細胞である。
【図5B】図5Bは、細胞培養物のクライシスの前(継代6代目)および後(継代9代目)におけるZscan4ノックダウン細胞のqPCR解析によって測定された相対的なテロメア長の比(T/S)を示しているグラフである。相対的なテロメア長の比(T/S)は、単一コピー遺伝子によってテロメア長を正規化することによって算出された。エラーバーは、S.E.M.を示している。
【図5C】図5Cは、Zscan4ノックダウン細胞において行われたQ−FISHを示しているグラフの対であり、これによって有意なテロメアの短縮が確認された。相対的なテロメア長の分布図は、プールされた10個の核(合計1600個のテロメア)をQ−FISHおよびTFL−Teloソフトウェアによって解析した結果である。X軸:テロメア蛍光単位(1TFU≒1kb)。
【図5D】図5Dは、Zscan4cを過剰発現している細胞におけるテロメアFISH:Cy3結合体化PNA−テロメアプローブおよびDAPIの代表的な像の対である。
【図5E】図5Eは、Zscan4cを過剰発現している細胞における相対的なテロメア長の分布を示しているグラフの対である。
【図5F】図5Fは、Zscan4cを過剰発現している細胞およびFACSによって選別されたpZscan4−Emerald細胞(Em+およびEm−)のqPCR解析によって測定された、相対的なテロメア長の比(T/S)を示しているグラフである。エラーバーは、S.E.M.を示している。
【図6A】図6Aは、TRAPアッセイによって測定されたテロメラーゼ活性を示しているグラフである。
【図6B】図6Bは、Dox+およびDox−条件におけるtet−Zscan4c細胞の一連の代表的な像である:ZSCAN4C−FLAGは、Alexa546結合体化抗体によって可視化されている;Venusレポーター;および全ての核が、DAPIによって可視化されている。
【図6C】図6Cは、分裂中期スプレッドにおける姉妹染色分体におけるZSCAN4C−FLAGの共局在を示している像の一式である。染色体は、DAPIによって染色されている。矢印は、テロメア領域に強い染色を有する染色体を表わしている。
【図6D】図6Dは、Zscan4を過剰発現している細胞におけるT−SCEの発生数の増加を示している像の一式である。テロメアの組換えの代表的な像が、染色体配向(chromosome orientation)FISH(CO−FISH)アッセイによって可視化されている。染色体は、DAPIによって染色されている。Cy3結合体化(cojugated)テロメアプローブは、テロメアを表わしている。左パネル:ほとんどの核においてテロメアの組換えが起きていないtet−Zscan4c細胞(Dox+)。中央および右パネル:テロメアの組換え事象の多いtest−Zscan4c細胞(Dox−)(矢頭)。像は、3回の独立した実験の代表的なものである。
【図6E】図6Eは、tet−Zscan4c細胞におけるZscan4過剰発現によるT−SCE頻度の10倍を超える増加を示している表である。この表は、試料1つあたり20個を超える核において観察されたT−SCE事象の合計を示している。陰性コントロールとして、Dox+条件におけるtet−Zscan4c細胞、およびT−SCEに対する可能性のあるドキシサイクリン効果のためのtet−Empty細胞を使用した。
【図7A】図7Aは、Zscan4ノックダウン細胞における姉妹染色分体交換(SCE)の比率の増加を示している像の一式である。Zscan4ノックダウン細胞において行われたSCEアッセイの代表的な像が示されている。矢印は、SCE事象を表わしている。
【図7B】図7Bは、SCEアッセイの結果を示しているグラフであり、これは、Zscan4ノックダウン細胞におけるSCEを提示している細胞のパーセンテージの2.5倍の増加およびゲノム不安定性を証明している。このSCE実験は、3回の独立した実験において行われ、各実験につき分裂中期の50個を解析した(n=50,合計n=150)。エラーバーは、S.E.M.を示している。
【図7C】図7Cは、影響を受けた分裂中期1つあたりのSCE事象数もまた有意に増加したことを示しているグラフである。エラーバーは、S.E.M.を示している。
【図7D】図7Dは、ES状態の特色およびES細胞に対するZscan4ノックダウンの影響を示している模式図である。
【図8A】図8Aは、共焦点顕微鏡検査によって証明されているように、ZSCAN4の免疫染色、およびZSCAN4とテロメアマーカーTRF1(上パネル)およびTRF2(下パネル)との共局在を示している一連の像である。核は、DAPIによって示されている。サイズバー=10μm。
【図8B】図8Bは、qPCR解析の結果を示しているグラフであり、これにより、Zscan4が、減数分裂特異的相同組換え遺伝子Spo11、Dmc1およびSmc1βのアップレギュレーションを誘導することが確認された。
【図8C】図8Cは、共焦点顕微鏡検査による免疫染色解析を示している一連の像である。ZSCAN4細胞増殖巣は、SPO11と共局在しており(上パネル)、ほとんどの細胞においてγ−H2AX細胞増殖巣と共局在している(下パネル)。
【図8D】図8Dは、pZscan4−Emerald細胞におけるZSCAN4と、TRF1(上パネル)およびDMC1/γ−H2AX細胞増殖巣(下パネル)とのテロメア局在を示している一連の像である。
【図9】図9は、白血病抑制因子(LIF)の存在下または非存在下、およびレチノイン酸(RA)の存在下または非存在下でのMC1−ZE7細胞の処理後のEmerald細胞のパーセンテージを示している線グラフである。細胞を、LIFの存在下(LIF+)かつatRAの非存在下(atRA−)において、ゼラチンコートプレートに継代した。翌日(0日目)、各ウェルの培地を4つの異なる条件:LIF+atRA−、LIF+atRA+、LIF−atRA−およびLIF−atRA+に変更した。その細胞を、培地を毎日交換するが継代せずに、同じ培地中で8日間維持した。細胞を毎日回収し、Emerald GFP細胞の数をフローサイトメトリーによって測定した。
【図10A】図10Aは、培養物中のZscan4細胞のパーセンテージに対する種々のレチノイド(atRA、9−cisRA、13−cisRAまたはビタミンA)の作用を示している線グラフである。レチノイドに曝された7日後までのEmeraldMC1−ZE−7細胞のパーセンテージが示されている。
【図10B】図10Bは、ES細胞増殖に対する種々のレチノイド(reintoid)の作用を示している線グラフである。
【図11】図11は、酸化ストレスに応答したZscan4発現の誘導を示している一連のフローサイトメトリーのプロットである。MC1−ZE7細胞を標準ES細胞培地(LIF+)中で培養した。その培地に、100μM、300μMまたは1000μMの最終濃度で過酸化水素(H)を加えた。それらの細胞を2日間培養し、Emerald(すなわち、Zscan4細胞)の割合をフローサイトメトリーによって測定した。
【図12A】図12Aおよび12Bは、マイトマイシンC(MMC)で処理した後のコントロールES細胞(A)およびtet−Zscan4 ES細胞(B)の生存を示しているグラフである。コントロールES細胞は、コントロールプラスミド(tet−Empty)を含んでいた。細胞を標準ES培地(LIF+)中で培養し、2群:(1)ドキシサイクリン(Dox)の非存在下、または(2)最終濃度0.2μg/mlでのDoxの存在下に継代した。そのDox+およびDox−培地は、毎日交換した。4日目に、0〜600ng/mlの範囲の最終濃度のMMCの存在下において細胞を6時間培養した。その培地を交換することによって、MMCをその培地から除去し、次いで、細胞をさらに3日間、Dox+培地中でインキュベートし、その培地は毎日交換した。細胞を回収し、生細胞数を数えた。
【図12B】図12Aおよび12Bは、マイトマイシンC(MMC)で処理した後のコントロールES細胞(A)およびtet−Zscan4 ES細胞(B)の生存を示しているグラフである。コントロールES細胞は、コントロールプラスミド(tet−Empty)を含んでいた。細胞を標準ES培地(LIF+)中で培養し、2群:(1)ドキシサイクリン(Dox)の非存在下、または(2)最終濃度0.2μg/mlでのDoxの存在下に継代した。そのDox+およびDox−培地は、毎日交換した。4日目に、0〜600ng/mlの範囲の最終濃度のMMCの存在下において細胞を6時間培養した。その培地を交換することによって、MMCをその培地から除去し、次いで、細胞をさらに3日間、Dox+培地中でインキュベートし、その培地は毎日交換した。細胞を回収し、生細胞数を数えた。
【発明を実施するための形態】
【0015】
配列表
添付の配列表に収載された核酸配列およびアミノ酸配列は、米国特許法施工規則.1.822において定義されるようなヌクレオチド塩基のための標準的な略号およびアミノ酸のための3文字記号を使用して示される。各核酸配列の一方の鎖のみが示されるが、表示された鎖の参照により相補鎖も含まれるものと理解される。
【0016】
配列表は、本明細書において参照により組み入れられる、2010年9月1日に作成された88KBのASCIIテキストファイル,Annex C/St.25テキストファイルとして提出されている。
【0017】
添付の配列表において:
配列番号1および2は、Zscan4プロモーターを増幅するために使用されたそれぞれ順方向プライマーおよび逆方向プライマーのヌクレオチド配列である。
【0018】
配列番号3〜20は、qPCRプライマーのヌクレオチド配列である。
【0019】
配列番号21および22は、Zscan4 shRNAを増幅するために使用されたプライマー配列である。
【0020】
配列番号23は、CO−FISH解析のために使用されたヌクレオチドリピートの配列である。
【0021】
配列番号24および25は、Zscan4aのヌクレオチド配列およびアミノ酸配列である。
【0022】
配列番号26および27は、Zscan4bのヌクレオチド配列およびアミノ酸配列である。
【0023】
配列番号28および29は、Zscan4cのヌクレオチド配列およびアミノ酸配列である。
【0024】
配列番号30および31は、Zscan4dのヌクレオチド配列およびアミノ酸配列である。
【0025】
配列番号32および33は、Zscan4eのヌクレオチド配列およびアミノ酸配列である。
【0026】
配列番号34および35は、Zscan4fのヌクレオチド配列およびアミノ酸配列である。
【0027】
配列番号36および37は、2009年9月4日現在でGenbankアクセッション番号NM_152677の下で寄託されているヒトZSCAN4のヌクレオチド配列およびアミノ酸配列である。
【0028】
配列番号38は、Zscan4−Emerald発現ベクターのヌクレオチド配列(9396bp)である。Zscan4cプロモーター配列の開始ヌクレオチドは、906であり、終止ヌクレオチドは、4468である。
【0029】
配列番号39は、抗体を作製するために使用されたZscan4のN末端エピトープである。
【0030】
詳細な説明
I.緒言
Zscan4遺伝子は、大規模cDNA配列決定プロジェクト(Koら、Development 127:1737−1749,2000;Sharovら、PLoS Biol 1:E74,2003;WO2008/118957)およびDNAマイクロアレイ解析(Hamataniら、Dev Cell 6:117−131,2004)を用いたマウス胚の全ての着床前期の発現プロファイリングを用いて以前に同定された。Zscan4は、7番染色体のおよそ850kbの領域にクラスター形成している6つのパラログ遺伝子(Zscan4a〜Zscan4f)および3つの偽遺伝子(Zscan4−ps1〜Zscan4−ps3)からなる。その6つのパラログのうち、Zscan4c、Zscan4dおよびZscan4fのオープンリーディングフレームは、SCANドメインならびに4つ全てのジンクフィンガードメインをコードすることから、転写因子としてのそれらの潜在的な役割が示唆される。Zscan4の高発現のピークは、マウス胚の後期2細胞期を特徴づける。Zscan4の発現(胚盤胞では通常、検出閾値未満である)は、培養下の少数のES細胞においてインビトロで再活性化される。6つ全てのZscan4パラログがES細胞において発現されるが、Zscan4cが、主要なパラログであるのに対し、Zscan4dが、2細胞胚において主要なパラログである(Falcoら、Dev Biol 307:539−550,2007)。
【0031】
Zscan4が、未分化ES細胞(他の2細胞胚特異的遺伝子が活性化されている)における独特の一過性の状態に関連するという知見が、本明細書に開示される。さらに、Zscan4は、ゲノム完全性の長期間維持のために不可欠であること、および正常な未分化ES細胞におけるテロメア組換えの制御を媒介するがゆえに、それがES細胞における長期間にわたる適切な自己複製にとって欠くことができないものになっていることが解明された。Zscan4が、テロメアに対する減数分裂特異的相同組換え機構の誘導および動員に関わるという知見も本明細書に開示される。本発明者らはさらに、Zscan4の発現が、レチノイドまたは酸化ストレスによって誘導され得ること、およびZscan4の発現が、DNA傷害剤から細胞を保護することを解明した。
【0032】
II.省略形
ALT テロメアの代替延長
atRA オールトランスレチノイド酸
bp 塩基対
BrdU ブロモデオキシウリジン
BSA ウシ血清アルブミン
cDNA 相補DNA
CO−FISH 染色分体配向FISH
DNA デオキシリボ核酸
Dox ドキシサイクリン
DSB 二本鎖DNA切断
EB 胚様体
EC 胎児性癌腫
EG 胚性生殖
Em(+) emerald陽性
Em(−) emerald陰性
ES 胚性幹
ES zscan4ES細胞
FACS 蛍光標示式細胞分取
FBS ウシ胎仔血清
FISH 蛍光インサイチュハイブリダイゼーション
GS 生殖細胞系列幹
GFP 緑色蛍光タンパク質
hCG ヒト絨毛性ゴナドトロピン
ICM 内部細胞塊
iPS細胞 人工多能性幹細胞
IRES 内部リボソーム侵入部位
IU 国際単位
LIF 白血病抑制因子
maGSC 多分化能性成体生殖細胞系列幹細胞
MAPC 多分化能性成体前駆細胞
ORF オープンリーディングフレーム
PCR ポリメラーゼ連鎖反応
PFA パラホルムアルデヒド
PMSG 妊娠ウマ血清ゴナドトロピン
Q−FISH 定量的FISH
qPCR 定量的ポリメラーゼ連鎖反応
qRT−PCR 定量的逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応
RA レチノイン酸
RNA リボ核酸
SEM 平均値の標準誤差
shRNA 短ヘアピンRNA
SSC 食塩水−クエン酸ナトリウム
SCE 姉妹染色分体交換
Tet テトラサイクリン
TFU テロメア蛍光単位
TRAP テロメア反復増幅プロトコル
TS トロホブラスト幹
T−SCE テロメア姉妹染色分体交換
USSC 非制限的体性幹細胞
UTR 非翻訳領域
UV 紫外線
WISH ホールマウントインサイチュハイブリダイゼーション。
【0033】
II. 用語および方法
特記しない限り、技術用語は、慣例的用法に従って使用される。分子生物学における一般的な用語の定義は、Oxford University Press出版のBenjamin Lewin, Genes V(1994)(ISBN 0−19−854287−9);Blackwell Science Ltd.出版のKendrew et al.(eds.),The Encyclopedia of Molecular Biology(1994)(ISBN 0−632−02182−9);およびVCH Publishers, Inc.出版のRobert A. Meyers (ed.), Molecular Biology and Biotechnology:a Comprehensive Desk Reference(1995)(ISBN 1−56081−569−8)に見出され得る。
【0034】
本発明の様々な態様の概説を容易にするため、特定の用語の以下の説明を提供する。
【0035】
投与:被験体に薬剤(例えば、Zscan4を発現するES細胞またはES細胞の集団)を任意の有効な経路によって提供することまたは与えること。例示的な投与経路としては、注入(例えば、皮下、筋肉内、皮内、腹腔内、静脈内または動脈内)が挙げられるがこれに限定されない。
【0036】
成体幹細胞:細胞分裂によって増加することにより、死んでいる細胞を埋め合わせて、損傷した組織を再生する、胚発生後の全身に見られる未分化な細胞。体性幹細胞としても知られる。
【0037】
薬剤:任意のタンパク質、核酸分子、化合物、小分子、有機化合物、無機化合物または関心対象のその他の分子。いくつかの態様において、「薬剤」は、Zscan4の発現を増加させる任意の薬剤である。特定の例において、その薬剤は、Zscan4をコードする核酸分子、レチノイド、または酸化ストレスを誘導する薬剤である。
【0038】
自己免疫疾患:異常な免疫応答(例えば、自己抗原または被験体自身の細胞または組織に特異的な抗体または細胞傷害性T細胞の産生)に起因する疾患。
【0039】
がん:異常なまたは制御されない細胞成長を特徴とする悪性腫瘍。がんに関連することの多いその他の特色としては、転移、付近の細胞の正常な機能の干渉、サイトカインまたはその他の分泌産物の異常なレベルでの放出、および炎症性応答または免疫学的応答の抑制または悪化、周囲のまたは遠位の組織または器官(例えば、リンパ節)の浸潤などが挙げられる。「転移性疾患」とは、最初の腫瘍部位に残っているがん細胞、および例えば血流またはリンパ系を介して身体のその他の部分に移動するがん細胞をさす。
【0040】
接触させる:直接的な物理的結合に置くこと;固体と液体の両方の形態を含む。本明細書において使用されるように、「接触させる」は、「曝す」と交換可能に使用される。
【0041】
縮重バリアント:遺伝暗号の結果として縮重している配列を含む、Zscan4ポリペプチドのようなポリペプチドをコードするポリヌクレオチド。20種の天 然アミノ酸が存在し、その大部分が複数のコドンにより特定される。従って、ヌクレオチド配列によりコードされるポリペプチドのアミノ酸配列が不変である限 り、全ての縮重ヌクレオチド配列が含まれる。
【0042】
分化:細胞が特定の型の細胞(例えば、筋細胞、皮膚細胞等)へと発達するプロセスをさす。本開示の情況において、胚性幹細胞の分化とは、特定の細胞系統に向け た細胞の発達をさす。細胞は、より分化するにつれて、分化能、または複数の異なる細胞型になる能力を失う。本明細書において使用されるように、分化の阻害 とは、特定の系統への細胞の発達の防止または遅延を意味する。
【0043】
DNA修復:細胞が、そのゲノムをコードするDNA分子に対する損傷を特定し、訂正するプロセスの一群をさす。
【0044】
胎児性癌腫(EC)細胞:胚性幹(ES)細胞の悪性の対応物と考えられている奇形癌腫に由来する多能性幹細胞。
【0045】
胚性幹(ES)細胞:発生中の胚盤胞の内部細胞塊から単離された多能性細胞。ES細胞は、哺乳動物のような任意の生物に由来し得る。一つの態様において、ES細胞は、マウス、ラット、ウサギ、モルモット、ヤギ、ブタ、ウシ、サルおよびヒトから作製される。ヒトおよびマウスに由来するES細胞が例示的である。ES細胞は、多能性細胞であり、このことは、それらが、体内に存在する細胞の全て(骨細胞、筋肉細胞、脳細胞など)を生じ得ることを意味する。マウスES細胞を作製するための方法は、例えば、米国特許第5,670,372号に認め得る。ヒトES細胞を作製するための方法は、例えば、米国特許第6,090,622号、PCT公開番号WO00/70021およびPCT公開番号WO00/27995に見られ得る。いくつかのヒトES細胞系が、当該分野で公知であり、公的に入手可能である。例えば、National Institutes of Health(NIH)Human Embryonic Stem Cell Registryは、開発されたいくつかのヒトES細胞系のリストを提供している(リストは、NIH Office of Extramural Researchのウェブサイトhttp://grants.nih.gov/stem_cells/registry/current.htmにてオンラインで閲覧できる)。
【0046】
封入されている:本明細書において使用されるように、ナノ粒子に「封入されている」分子とは、ナノ粒子内に含まれているか、もしくはナノ粒子の表面に付着されているか、またはそれらの組み合わせである、分子(例えば、Zscan4タンパク質)をさす。
【0047】
ES細胞治療:ES細胞を被験体に投与することを含む処置。特定の例において、そのES細胞は、Zscan4であり、ここで、そのZscan4は、そのES細胞にとって内因性または外因性である。
【0048】
蛍光タンパク質:特定の波長の光に曝されたときに蛍光を示す遺伝子にコードされるタンパク質。ほぼ全ての可視光線スペクトルに及ぶ蛍光発光スペクトルプロファイルを特色にする広範囲の蛍光タンパク質の遺伝子バリアントが開発されている。例としては、花虫類の蛍光タンパク質、緑色蛍光タンパク質(GFP)(青色光に曝されると緑色蛍光を示す)ならびにそれらの変異体(例えば、EGFP)、青色蛍光タンパク質(EBFP、EBFP2、Azurite、mKalama1(mKalama1以外のものはY66H置換を含む))、シアン蛍光タンパク質(ECFP、Cerulean、CyPet(これらはY66W置換を含む))、および黄色蛍光タンパク質誘導体(YFP、Citrine、Venus、YPet(これらはT203Y置換を含む))が挙げられる。その他の特定の例としては、Emerald緑色蛍光タンパク質(EmGFP)およびStrawberryが挙げられる。概要については、例えば、Shanerら、Nat.Methods 2(12):905−909,2005を参照のこと。
【0049】
ゲノム安定性:細胞がDNAを正確に複製し、DNA複製機構の完全性を維持する能力。安定なゲノムを有するES細胞は、一般に、細胞老化に抗し、クライシスまたは形質転換を起こすことなく250回を超す倍加により増殖し得、低変異頻度および低頻度の染色体異常を有し(例えば、胎児性癌腫細胞と比べて)、ゲノム完全性を維持する。長いテロメアは、細胞老化に対する緩衝を提供すると考えられており、一般に、ゲノム安定性および全体的な細胞の健康状態を示すと考えられている。染色体の安定性(例えば、変異がほとんどないこと、染色体再配列や染色体数の変化がないこと)もまた、ゲノム安定性に関連する。ゲノム安定性の喪失は、がん、神経障害および早期老化に関連する。ゲノム不安定性の徴候としては、変異率の上昇、甚だしい染色体再配列、染色体数の変化、およびテロメアの短縮が挙げられる。
【0050】
生殖細胞:有性生殖する生物の配偶子(すなわち、卵および精子)を生じる細胞。
【0051】
異種性:異種性のポリペプチドまたはポリヌクレオチドとは、異なる供給源または種に由来するポリペプチドまたはポリヌクレオチドをさす。例えば、ヒトES細胞において発現するマウスZscan4ペプチドは、そのES細胞にとって異種性である。
【0052】
宿主細胞:ベクターが伝搬され得るおよびそのDNAが発現され得る細胞。その細胞は、原核生物細胞であってもよいし、真核生物細胞であってもよい。この用語は、被験体宿主細胞の任意の子孫も含む。複製中に起きる変異が存在し得るので、全ての子孫が親細胞と同一でない可能性があることが理解される。しかしながら、「宿主細胞」という用語が使用されるとき、そのような子孫は含まれる。
【0053】
人工多能性幹(iPS)細胞:ある特定の遺伝子の「強制的な」発現を誘導することによって、非多能性細胞、代表的には成体の体細胞から人工的に得られるあるタイプの多能性幹細胞。iPS細胞は、哺乳動物のような任意の生物に由来し得る。一つの態様において、iPS細胞は、マウス、ラット、ウサギ、モルモット、ヤギ、ブタ、ウシ、サルおよびヒトから作製される。ヒトおよびマウスに由来するiPS細胞が例示的である。特定の(particualr)例において、iPS細胞は、本明細書に記載されるES細胞の代わりに(またはそれに加えて)使用される。例えば、Zscan4であるiPS細胞が、Zscan4ES細胞の代わりに(またはそれに加えて)使用され得る。
【0054】
iPS細胞は、多くの点(例えば、ある特定の幹細胞遺伝子およびタンパク質の発現、クロマチンのメチル化パターン、倍加時間、胚様体形成、奇形腫形成、生存可能なキメラの形成、ならびに分化能(potency)および分化能力(differentiability))においてES細胞と似ている。iPS細胞を作製するための方法は、当該分野で公知である。例えば、iPS細胞は、代表的には、成体の線維芽細胞のような非多能性細胞への、ある特定の幹細胞関連遺伝子(例えば、Oct−3/4(Pouf51)およびSox2)のトランスフェクションによって得られる。トランスフェクションは、ウイルスベクター(例えば、レトロウイルス、レンチウイルスまたはアデノウイルス)によって達成され得る。例えば、細胞は、レトロウイルス系を用いてOct3/4、Sox2、Klf4およびc−Mycでトランスフェクトされ得るか、またはレンチウイルス系を用いてOCT4、SOX2、NANOGおよびLIN28でトランスフェクトされ得る。3〜4週間後、少数のトランスフェクトされた細胞が、多能性幹細胞と形態学的におよび生化学的に類似し始め、そして代表的には、形態学的選択、倍加時間、またはレポーター遺伝子および抗生物質選択によって単離される。一つの例において、成体ヒト細胞からのiPSは、Yuら(Science 318(5854):1224,2007)またはTakahashiら(Cell 131(5):861−72,2007)の方法によって作製される。
【0055】
単離された:単離された核酸は、他の核酸配列、およびその核酸が天然に存在している生物の細胞、即ち、他の染色体および染色体外のDNAおよびRNAから実質的に分離または精製されている。従って、「単離された」という用語には、標準的な核酸精製法により精製された核酸が包含される。その用語には、宿主細胞における組み換え発現により調製された核酸も、化学的に合成された核酸も包含される。同様に、「単離された」タンパク質は、そのタンパク質が天然に存在している生物の細胞の他のタンパク質から実質的に分離または精製されており、宿主細胞における組み換え発現により調製されたタンパク質も、化学的に合成されたタンパク質も包含する。
【0056】
減数分裂:細胞1個あたりの染色体の数が半減する減数の分裂のプロセス。動物では、減数分裂は常に配偶子を形成し、その他の生物では、胞子を生じ得る。有糸分裂と同様に、減数分裂が開始する前に、細胞周期のS期の間に元の細胞内のDNAが複製される。2回の細胞分裂によって、複製された染色体が4つの半数体の配偶子または胞子に分離する。減数分裂は、有性生殖にとって不可欠であり、ゆえに、有性生殖する全ての真核生物(単細胞生物を含む)において生じる。減数分裂中に、二倍体生殖細胞のゲノム(染色体に詰められたDNAの長いセグメントから構成されている)は、DNA複製の後、2回の分裂を起こし、4つの半数体の細胞を生じる。これらの細胞の各々は、1つの完全な染色体セット、または元の細胞の半分の遺伝子含量を含む。
【0057】
多分化能細胞:全ての細胞系統ではないが複数の細胞系統を形成し得る細胞をさす。
【0058】
ナノ粒子:直径が約1000ナノメートル(nm)未満の粒子。本明細書に提供される方法とともに使用するための例示的なナノ粒子は、生体適合性および生分解性のポリマー材料で作製される。いくつかの態様において、それらのナノ粒子は、PLGAナノ粒子である。本明細書において使用されるように、「ポリマーナノ粒子」は、特定の物質(単数または複数)の反復サブユニットで構成されているナノ粒子である。「ポリ(乳酸)ナノ粒子」は、反復された乳酸サブユニットを有するナノ粒子である。同様に、「ポリ(グリコール酸)ナノ粒子」は、反復されたグリコール酸サブユニットを有するナノ粒子である。
【0059】
神経損傷:損傷を受けた患者の運動および/または記憶に悪影響を及ぼす、神経系(例えば、脳または脊髄または特定のニューロン)に対する外傷。例えば、そのような患者は、構音障害(運動性言語障害)、片側不全麻痺または片麻痺に苦しんでいることがある。
【0060】
神経変性障害:脳および脊髄の細胞を失った状態。神経変性疾患は、やがて機能不全および機能障害をもたらす、ニューロンまたはそのミエリン鞘の変質に起因する。結果として生じる状態は、運動に関する問題(例えば、運動失調)および記憶に関する問題(例えば、認知症)を引き起こし得る。
【0061】
非ヒト動物:ヒト以外の全ての動物を含む。非ヒト動物には、非ヒト霊長類、ブタ、ウシ、および家禽のような家畜、イヌ、ネコ、ウマ、ハムスターのような競技動物もしくはペット、マウスのようなげっ歯動物、またはライオン、トラ、もしくはクマのような動物園動物が含まれるが、これらに限定はされない。一例に おいて、非ヒト動物は、トランスジェニックのマウス、ウシ、ヒツジ、またはヤギのようなトランスジェニック動物である。非限定的な一つの具体例において、トランスジェニック非ヒト動物はマウスである。
【0062】
作動可能に連結された:第一の核酸配列が第二の核酸配列と機能的関係に置かれている場合、その第一の核酸配列はその第二の核酸配列と作動可能に連結されている。例えば、プロモーターがコード配列の転写または発現に影響を与える場合、そのプロモーターはそのコード配列と作動可能に連結されている。一 般に、作動可能に連結された核酸配列は、連続しており、二つのタンパク質コード領域を接合する必要がある場合には、同一のリーディングフレーム内にある。
【0063】
酸化ストレス:活性酸素種の生成と、生体系がその反応中間体を容易に解毒する能力または生じた損傷を修復する能力との間の不均衡。組織の正常な酸化還元状態の撹乱は、細胞の全ての構成要素(タンパク質、脂質およびDNAを含む)を損傷する過酸化物およびフリーラジカルの生成によって有毒作用を引き起こし得る。開示される方法のいくつかの態様において、酸化ストレスを誘導する薬剤は、過酸化水素(H)である。
【0064】
薬学的に許容され得るキャリア:有用な薬学的に許容され得るキャリアは、従来のものである。Remington’s Pharmaceutical Sciences,E.W.Martin著,Mack Publishing Co.,Easton,PA,第15版(1975)には、Zscan4タンパク質、Zscan4核酸分子または本明細書に開示される細胞の薬学的送達に適した組成物および製剤が記載されている。
【0065】
一般に、キャリアの性質は、利用される特定の投与モードに依るであろう。例えば、非経口製剤は、通常、水、生理食塩水、平衡塩溶液、水性デキストロース、グリ セロール等のような薬学的かつ生理学的に許容される液体を媒体として含んでいる注入可能な液体を含む。固形組成物(例えば、散剤、丸剤、錠剤、またはカプ セル剤)の場合、従来の非毒性の固形キャリアには、例えば、薬学的等級のマンニトール、ラクトース、デンプン、またはステアリン酸マグネシウムが含まれ得る。 生物学的に中性のキャリアに加えて、投与される薬学的組成物は、湿潤剤または乳化剤、保存剤、およびpH緩衝剤等、例えば、酢酸ナトリウムまたはソルビタンモノラウレートのような微量の非毒性の補助物質を含有することができる。
【0066】
薬学的薬剤:被験体または細胞に適切に投与された場合に、所望の治療的または予防的な効果を誘導することができる化学的化合物、低分子、またはその他の組成 物。「インキュベートすること」は、薬物が細胞と相互作用するために十分な量の時間を含む。「接触させること」は、固形または液状の薬物を細胞と共にイン キュベートすることを含む。
【0067】
多能性細胞:生殖細胞を含む、生物の細胞系統(内胚葉、中胚葉、および外胚葉)の全てを形成することができるが、完全な生物を自律的に形成することはできない細胞をさす。
【0068】
ポリヌクレオチド:任意の長さの(直鎖配列のような)核酸配列。従って、ポリヌクレオチドには、オリゴヌクレオチドが含まれ、染色体に見出される遺伝子配 列も含まれる。「オリゴヌクレオチド」とは、ネイティブのリン酸ジエステル結合により接合された複数の接合されたヌクレオチドである。オリゴヌクレオチド は6〜300ヌクレオチド長のポリヌクレオチドである。オリゴヌクレオチドアナログとは、オリゴヌクレオチドと同様に機能するが、天然には存在しない部分 を有するモエティをさす。例えば、オリゴヌクレオチドアナログは、ホスホロチオエートオリゴデオキシヌクレオチドのような改変された糖モエティまたは糖間結合のような天然には存在しない部分を含有していてもよい。天然に存在するポリヌクレオチドの機能的アナログは、RNAまたはDNAに結合することができ、ペプチド核酸(PNA)分子を含む。
【0069】
ポリペプチド:単量体がアミド結合を通して接合されているアミノ酸残基である重合体。アミノ酸がアルファ−アミノ酸である場合、L−光学異性体またはD−光学異性体のいずれかが使用され得るが、L−異性体が好ましい。本明細書において使用されるような「ポリペプチド」または「タンパク質」という用語は、任意のアミノ酸配列を包含し、糖タンパク質のような修飾された配列を含むものとする。「ポリペプチド」という用語には、特に、天然に存在するタンパク質も、組み換えまたは合成により作製されたものも内含されるものとする。
【0070】
「ポリペプチド断片」という用語は、少なくとも一つの有用なエピトープを示すポリペプチドの部分をさす。「ポリペプチドの機能的断片」という用語は、Zscan4のようなポリペプチドの活性を保持しているポリペプチドの断片全てをさす。生物学的に機能的な断片は、例えば、抗体分子に結合することができるエピトープのような小さいポリペプチド断片から、細胞内の表現型変化の特徴的な誘導またはプログラミングに関与することができる、例えば、細胞の増殖または分化に影響することができる大きなポリペプチドまで、様々なサイズであり得る。「エピトープ」とは、抗原との接触に応答して生成した免疫グロブリンに 結合することができるポリペプチドの領域である。従って、Zscan4またはZscan4の保存的バリアントの生物学的活性を含有している、より小さいペプチドは、有用なものとして含まれる。
【0071】
「可溶性の」という用語は、細胞膜に挿入されていないポリペプチドの型をさす。
【0072】
本明細書において使用されるような「実質的に精製されたポリペプチド」という用語は、それが天然に関連している他のタンパク質、脂質、炭水化物、またはその他の材料が実質的に除去されているポリペプチドをさす。一つの態様において、ポリペプチドは、それが天然に関連している他のタンパク質、脂質、炭水化物、またはその他の材料が少なくとも50%、例えば、少なくとも80%除去されている。もう一つの態様において、ポリペプチドは、それが天然に関連している他のタンパク質、脂質、炭水化物、またはその他の材料が少なくとも90%除去されている。さらにもう一つの態様において、ポリペプチドは、それが天然に関連している他のタンパク質、脂質、炭水化物、またはその他の材料が少なくとも95%除去されている。
【0073】
保存的置換は、あるアミノ酸を、サイズ、疎水性等が類似しているもう一つのアミノ酸に交換する。保存的置換の例は、以下に示される:
【0074】
【化1】

保存的であっても保存的でなくても、アミノ酸変化をもたらすcDNA配列の変動は、コードされたタンパク質の機能的および免疫学的な同一性を保存するために、最小限に抑えられるべきである。従って、いくつかの非限定的な例において、Zscan4ポリペプチドまたは本明細書に開示されたその他のポリペプチドは、高々2個、高々5個、高々10個、高々20個、または高々50個の保存的置換を含む。タンパク質の免疫学的同一性は、それが抗体により認識されるか否かを決定することにより査定され得;そのような抗体により認識されるバリアントは、免疫学的に保存されている。cDNA配列バリアントは、好ましくは、20個以下、好ましくは10個以下のアミノ酸置換をコードされたポリペプチドへ導入するであろう。バリアントのアミノ酸配列は、ネイティブアミノ酸配列(例えば、ネイティブZscan4配列)と、例えば、少なくとも80%、90%、またはさらには95%もしくは98%同一であり得る。
【0075】
プロモーター:核酸の転写を指示する核酸調節配列。プロモーターは、必要な核酸配列を転写開始部位付近に含む。プロモーターには、必要に応じて、遠位のエンハンサーエレメントまたはリプレッサーエレメントも含まれる。「構成的プロモーター」は、継続的に活性であり、かつ外部のシグナルまたは分子による調節を受けないプロモーターである。対照的に、「誘導性プロモーター」の活性は、外部のシグナルまたは分子(例えば、転写因子)によって調節される。
【0076】
レポーター遺伝子:もう一つの遺伝子または関心対象の核酸配列(例えば、プロモーター配列)に作動可能に連結された遺伝子。レポーター遺伝子は、関心対象の遺伝子または核酸が、細胞内で発現されているかまたは細胞内で活性化されているかを決定するために使用される。レポーター遺伝子は、代表的には、蛍光のような容易に同定可能な特徴、または酵素のような容易にアッセイされる生成物を有する。レポーター遺伝子はまた、宿主細胞に抗生物質耐性を付与し得る。例示的なレポーター遺伝子としては、蛍光タンパク質および発光タンパク質(例えば、緑色蛍光タンパク質(GFP)およびdsRed遺伝子由来の赤色蛍光タンパク質)、ルシフェラーゼ酵素(ルシフェリンとの反応を触媒することにより光を生じる)、lacZ遺伝子(基質アナログのX−galを含む培地において生育させると、遺伝子を発現している細胞が青色に見えるようにするβ−ガラクトシダーゼタンパク質をコードする遺伝子)、およびクロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)遺伝子(抗生物質クロラムフェニコールに対する耐性を付与する遺伝子)が挙げられる。一つの態様において、上記レポーター遺伝子は、蛍光タンパク質Emeraldをコードする。もう一つの態様において、上記レポーター遺伝子は、蛍光タンパク質Strawberryをコードする。追加の例は、以下に提供される。
【0077】
レチノイド類:ビタミンAと化学的に関係するあるクラスの化合物。レチノイド類は、それが上皮細胞の成長を調節する方法に主に起因して、医療において使用される。レチノイド類は、視力、細胞の増殖および分化の調節、骨組織の成長、免疫機能、ならびに腫瘍抑制遺伝子の活性化における役割をはじめとした、全身にわたる多くの重要かつ多様な機能を有する。レチノイド類の例としては、オールトランスレチノイン酸(atRA)、9−cisレチノイン酸(9−cisRA)、13−cisRAおよびビタミンA(レチノール)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0078】
老化:細胞がそれ以上に分裂することができないこと。老化細胞は、なおも生存可能であるが、分裂しない。
【0079】
配列同一性/類似性:2つ以上の核酸配列間または2つ以上のアミノ酸配列間の同一性/類似性は、それらの配列間の同一性または類似性に関して表される。配列同一性は、同一性のパーセンテージに関して測定され得る;このパーセンテージが高いほど、配列がより同一である。配列類似性は、類似性のパーセンテージ(保存的アミノ酸置換を考慮に入れたもの)に関して測定され得る;このパーセンテージが高いほど、配列がより類似である。核酸配列またはアミノ酸配列のホモログまたはオルソログは、標準的な方法を用いてアラインメントされるとき、比較的高い程度の配列同一性/類似性を有する。この相同性は、オルソロガスなタンパク質またはcDNAがより密接な関係のある種に由来するとき(例えば、ヒト配列とマウス配列)、より遠縁の種(例えば、ヒト配列とC.elegans配列)と比べて、より意味がある。
【0080】
比較するための配列のアラインメント方法は、当該分野で周知である。様々なプログラムおよびアラインメントアルゴリズムが:Smith&Waterman,Adv.Appl.Math.2:482,1981;Needleman&Wunsch,J.Mol.Biol.48:443,1970;Pearson&Lipman,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85:2444,1988;Higgins&Sharp,Gene,73:237−44,1988;Higgins&Sharp,CABIOS 5:151−3,1989;Corpetら、Nuc.Acids Res.16:10881−90,1988;Huangら、Computer Appls.in the Biosciences 8,155−65,1992;およびPearsonら、Meth.Mol.Bio.24:307−31,1994に記載されている。Altschulら、J.Mol.Biol.215:403−10,1990には、配列のアラインメント方法および相同性の計算に関する詳細な考慮すべき事柄が示されている。
【0081】
NCBIベーシックローカルアラインメントサーチツール(BLAST)(Altschulら、J.Mol.Biol.215:403−10,1990)は、National Center for Biological Information(NCBI,National Library of Medicine,Building 38A,Room 8N805,Bethesda,MD 20894)をはじめとしたいくつかの供給源から入手可能であり、また、配列解析プログラムblastp、blastn、blastx、tblastnおよびtblastxに関連して使用するために、インターネット上で利用可能である。追加情報は、NCBIウェブサイトに見出し得る。
【0082】
BLASTNは、核酸配列を比較するために使用され、BLASTPは、アミノ酸配列を比較するために使用される。比較された2つの配列が相同性を共有する場合、指定された出力ファイルは、アラインメントされた配列として相同性領域を示し得る。比較された2つの配列が相同性を共有しない場合、指定された出力ファイルは、アラインメントされた配列を示さない。
【0083】
いったんアラインメントされると、両方の配列において同一のヌクレオチドまたはアミノ酸残基が存在する位置の数を数えることによって、マッチ数が決定される。配列同一性パーセントは、そのマッチ数を、特定された配列に示される配列の長さで除すかまたはつながった長さ(例えば、特定された配列に示される配列からの100個連続したヌクレオチドまたはアミノ酸残基)で除した後、得られた値に100を乗じることによって決定される。例えば、1154ヌクレオチドを有する試験配列とアラインメントされたときに1166マッチを有する核酸配列は、その試験配列と75.0パーセント同一である(1166÷1554100=75.0)。この配列同一性パーセントの値は、最も近い小数第1位に丸められる。例えば、75.11、75.12、75.13および75.14は、75.1に切り下げられ、75.15、75.16、75.17、75.18および75.19は、75.2に切り上げられる。長さの値は、常に整数である。もう一つの例において、特定された配列由来の20個の連続したヌクレオチドとアラインメントする20ヌクレオチド領域を含む標的配列は、以下のとおりその特定された配列と75パーセントの配列同一性(つまり、15÷20100=75)を共有する領域を含む。
【0084】
約30アミノ酸を超えるアミノ酸配列を比較する場合、デフォルトのパラメータ(11というギャップ存在コスト(gap existence cost)および1という1残基当たりのギャップコスト(per residue gap cost))に設定されたデフォルトのBLOSUM62行列を用いるBlast2配列関数が使用される。ホモログは、代表的には、nrまたはswissprotデータベースのようなデータベースを用いたNCBI Basic Blast2.0,gapped blastpを用いてアミノ酸配列との完全長のアラインメントにわたってカウントされる少なくとも70%の配列同一性を有することを特徴とする。blastnプログラムを用いて検索されるクエリーは、DUSTによってフィルターにかけられる(Hancock and Armstrong,1994,Comput.Appl.Biosci.10:67−70)。その他のプログラムは、SEGを使用し得る。さらに、手動のアラインメントが行われ得る。
【0085】
短いペプチド(およそ30アミノ酸より短いペプチド)をアラインメントするとき、そのアラインメントは、デフォルトのパラメータ(オープンギャップ9、伸長ギャップ1のペナルティ)に設定されたPAM30行列を使用するBlast2配列関数を用いて行われる。全配列より短い配列が、配列同一性について比較されるとき、ホモログは、代表的には、10〜20アミノ酸という短い領域(short window)にわたって少なくとも75%の配列同一性を有し、また、参照配列に対するその同一性に応じて少なくとも85%、90%、95%または98%の配列同一性を有し得る。そのような短い領域にわたる配列同一性を決定する方法は、NCBIのウェブサイトに記載されている。
【0086】
2つの核酸分子が密接に関係する1つの指標は、その2つの分子が、上に記載したようにストリンジェントな条件下で互いにハイブリダイズするというものである。それにもかかわらず、高い同一性の程度を示さない核酸配列が、遺伝暗号の縮重に起因して同一または類似の(保存された)アミノ酸配列をコードし得る。全てが実質的に同じタンパク質をコードする複数の核酸分子を生じるこの縮重を用いて、核酸配列の変化がもたらされ得る。2つの核酸配列が実質的に同一であることの代替の指標(必ずしも累積的なものではない)は、第1の核酸がコードするポリペプチドが、第2の核酸によってコードされるポリペプチドと免疫学的に交差反応性であるというものである。
【0087】
当業者は、特定の配列同一性の範囲が、指針としてのみ提供されることを認識する;提供される範囲に入らない非常に重要なホモログが得られ得る可能性がある。
【0088】
幹細胞:変更のない娘細胞を生じる独特の能力(自己複製;細胞分裂によって、親細胞と同一の少なくとも1つの娘細胞がもたらされること)および特殊化された細胞型を生じる独特の能力(分化能)を有する細胞。幹細胞としては、ES細胞、EG細胞、GS細胞、MAPC、maGSC、USSCおよび成体幹細胞が挙げられるが、これらに限定されない。一つの態様において、幹細胞は、1つより多い所与の細胞型の完全に分化した機能的な細胞を生じ得る。インビボにおける幹細胞の役割は、動物の通常の生存中に破壊される細胞を交換することである。一般に、幹細胞は、無制限に分裂することができる。幹細胞は、分裂後、幹細胞として残留する場合もあり、前駆細胞になる場合もあり、最終分化へ進む場合もある。前駆細胞は、少なくとも1つの所与の細胞型の完全に分化した機能的な細胞を生じ得る細胞である。一般に、前駆細胞は、分裂することができる。前駆細胞は、分裂後、前駆細胞のままであり得るか、または最終分化へ進むこともある。
【0089】
部分集団:集団の同定可能な一部。本明細書において使用されるように、Zscan4を発現しているES細胞の「部分集団」は、Zscan4を発現していると同定された所与の集団内のES細胞の一部である。一つの態様において、その部分集団は、Zscan4プロモーターおよびレポーター遺伝子を含む発現ベクターを用いて同定され、ここで、細胞におけるそのレポーター遺伝子の発現の検出によって、その細胞がZscan4を発現していることおよびその部分集団の一部であることが示される。
【0090】
テロメア:染色体の複製および安定性に関わる特殊化された構造である、真核生物の染色体の末端をさす。テロメアは、特定の配向の短いDNA配列の多くの反復からなる。テロメアの機能には、染色体の末端が接合されないように染色体の末端を保護すること、および染色体のもっとも末端の複製を可能にすること(テロメラーゼによって)が含まれる。染色体の末端におけるテロメアDNAの反復の数は、加齢に伴って減少する。
【0091】
治療量:意図される目的を達成するのに十分な治療薬の量。例えば、Zscan4ES細胞の治療量は、ES細胞治療の恩恵を受け得る障害または障害の症状を減少させるのに十分な量である。治療量は、いくつかの例では、その障害または症状を100%処置しないかもしれない。しかしながら、ES細胞治療(例えば、Zscan4ES細胞)の恩恵を受け得る障害の任意の公知の特色または症状の減少(例えば、少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも85%、少なくとも95%またはそれより多くの減少)は、治療的であり得る。所与の治療薬の治療量は、薬剤の性質、投与経路、治療薬を受ける動物のサイズおよび種、ならびに投与の目的のような因子によって変動し得る。各個別の場合における治療量は、当該分野における確立された方法に従って、当業者によって、過度の実験を行うことなく経験的に決定され得る。
【0092】
全能性細胞:生物全体を自律的に形成することができる細胞をさす。受精卵(卵母細胞)だけが、この能力を有する(幹細胞は有しない)。
【0093】
トランスフェクトするまたはトランスフェクション:核酸を細胞または組織に導入するプロセスをさす。トランスフェクションは、いくつかの方法(例えば、リポソーム媒介性トランスフェクション、エレクトロポレーションおよび注入であるがこれらに限定されない)のうちのいずれか1つによって達成され得る。
【0094】
ベクター:宿主細胞に導入されることにより、形質転換された宿主細胞をもたらす核酸分子。ベクターは、複製起点(DNA合成の開始に関与するDNA配列)のような、宿主細胞内でそのベクターが複製することを可能にする核酸配列を含み得る。例えば、発現ベクターは、挿入された遺伝子(単数または複数)の転写および翻訳を可能にするのに必要な制御配列を含む。ベクターは、1つ以上の選択マーカー遺伝子および当該分野で公知のその他の遺伝エレメントも含み得る。ベクターとしては、例えば、ウイルスベクターおよびプラスミドベクターが挙げられる。
【0095】
Zscan4:2細胞特異的発現およびES細胞特異的発現を示すものとして同定された遺伝子の群。マウスでは、「Zscan4」という用語は、3つの偽遺伝子(Zscan1−ps1、Zscan4−ps2およびZscan4−ps3)および6つの発現される遺伝子(Zscan4a、Zscan4b、Zscan4c、Zscan4d、Zscan4eおよびZscan4f)を含む遺伝子の集団をさす。本明細書において使用されるように、Zscan4は、ヒトZSCAN4も含む。Zscan4とは、Zscan4ポリペプチド、およびそのZscan4ポリペプチドをコードするZscan4ポリヌクレオチドをさす。
【0096】
他に説明されない限り、本明細書において使用される全ての技術用語および科学用語が、本発明が属する技術分野の当業者により一般的に理解されるのと同一の意味を有する。単数形「一つの(a)」、「一つの(an)」、および「その(the)」は、文脈がそうでないことを明白に示さない限り、複数の対象を含む。同様に、「または」という単語は、文脈がそうでないことを明白に示さない限り、「および」を含むものとする。従って、「AまたはBを含む」とは、A、またはB、またはAおよびBを含むことを意味する。核酸またはポリペプチドについて与えられた全ての塩基サイズまたはアミノ酸サイズおよび全ての分子量または分子量値が、近似であり、説明のために提供されていることが、さらに理解されるべきである。本明細書に記載されたものと類似しているかまたは等価である方法および材料が、本発明の実施または試行において使用され得るが、好適な方法および材料が以下に記載される。本明細書中に言及された全ての刊行物、特許出願、特許、Genbankアクセッション番号およびその他の参照が、参照により完全に組み入れられる。矛盾する場合には、用語の説明を含む本明細書が適用されるであろう。さらに、材料、方法、および例は、例示的なものであり、限定するためのものではない。
【0097】
III.いくつかの態様の概要
例外的なゲノム安定性は、マウス胚性幹(ES)細胞の特徴の1つである。しかしながら、この安定性に寄与する遺伝子は、未だ同定されていない。Zscan4が、ES細胞におけるテロメアの維持および長期間にわたるゲノム安定性に関わることが本明細書において示される。ES細胞の未分化な状態を維持する標準ES細胞培養条件(例えば、LIFを含む)において、約5%のES細胞しか、所与の時点においてZscan4を発現しないが、ほぼ全てのES細胞が、9回の継代以内にZscan4状態を経験する。一過性のZscan4陽性状態は、テロメアの組換え、およびテロメア上でZSCAN4と共局在するタンパク質をコードする減数分裂特異的な相同組換え遺伝子のアップレギュレーションによる迅速なテロメア伸長に関連する。さらに、Zscan4ノックダウンは、8回の継代によるクライシスに達するまで、テロメアを徐々に短縮させ、核型の異常および自発的な姉妹染色分体交換を増加させ、細胞増殖を遅延させる。
【0098】
Zscan4遺伝子クラスターは、6つの転写される偽の(paralogous)遺伝子(Zscan4a〜Zscan4f)を含み、これらは、高い配列類似性を共有するので、ひとまとめにしてZscan4と呼ばれる。Zscan4の鋭い発現ピークは、マウス胚の後期2細胞期を特徴づけ、胚の着床、および組織培養における胚盤胞の成長に不可欠である。Zscan4dは、主に2細胞胚において転写されるのに対し、Zscan4cは、主にES細胞において転写され、自己複製と関連する。Zscan4cとZscan4dの両方が、タンパク質間相互作用を媒介すると予測されているSCANドメイン、および4つのDNA結合ジンクフィンガードメインをコードする。Zscan4が、正常な未分化ES細胞において、核型の完全性の長期間維持および調節されるテロメア組換えの媒介に関わることが本明細書において示される。
【0099】
Zscan4が、未分化ES細胞における自発的なテロメア姉妹染色分体交換(telomere sister chromatic exchange)(T−SCE)のアクチベーターとしての独特の機能を有し、テロメア長および核型安定性の調節に関わることも本明細書において示される(図7D)。Zscan4ノックダウンが、最終的に核型の変質および細胞増殖の減少をもたらすので、これらの結果は、Zscan4が、長期間にわたるES細胞の自己複製にとって重要であることを示す。さらに、そのデータから、核型の変質が、テロメアの分解ならびに自発的な非テロメアSCEの増加に起因することが示される。したがって、本開示は、長期間にわたるゲノム安定性およびテロメア維持を持続させる、ES細胞によって利用される新規機構に対する初めての関連を提供する。
【0100】
マウスES細胞におけるZscan4によるテロメアの調節は、以前に報告されたものと異なる。第1に、Zscan4が、ES細胞では一過性に発現されるので任意の所与の時点において約5%の未分化ES細胞だけしかZscan4陽性でないことが本明細書で示されるのに対し、ES細胞において不均一に発現されるその他の遺伝子(Tanaka,Reprod.Fertil.Dev.21:67−75,2009;Carterら、Gene Expr.Patterns 8:181−198,2008)は、特定の細胞系統を特徴づけることが多い(Toyookaら、Development 135:909−18,2008;Hayashiら、Cell Stem Cell 3:391−401,2008)。構成的なZscan4の発現は、異常に長いテロメアをもたらすことがあり、これは、なぜこの遺伝子が遍在的に発現されないかを説明し得る。実際に、本明細書における結果は、ZSCAN4タンパク質が、減数分裂特異的な相同組換えメディエーターとともに、テロメア上に細胞増殖巣を形成することができることを示し、これにより、ES細胞がT−SCEのための新規機構を利用することができることが示唆される。第2に、T−SCEによるテロメアの伸長は、例えば、テロメラーゼノックアウトTerc−/−ES細胞の長期培養物中のほとんどまたは全くテロメラーゼ活性のない細胞において以前に観察されていた(Wangら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 102:10256−60,2005;Niidaら、Mol.Cell.Biol.20:4115−27,2000;Baileyら、Nucleic Acids Res 32:3743−51,2004)。同様に、T−SCEは通常、テロメラーゼの再活性化を示さない腫瘍細胞において生じる。対照的に、テロメラーゼが、Zscan4を発現している正常な未分化ES細胞において活性であることが本明細書において示される。第3に、テロメアの調節について以前に同定されたほとんどの遺伝子(例えば、DNAメチルトランスフェラーゼDNMT1およびDNMT3(Gonzaloら、Nat.Cell Biol.8:416−424,2006)ならびにウェルナー症候群タンパク質(WRN)(Laudら、 Genes Dev.19:2560−70,2005))のダウンレギュレーションが、T−SCEを増加させるおよび/またはテロメア長を伸ばす(De Boeckら、J.Pathol.217:327−44,2009)ので、これらの遺伝子は、T−SCEの阻害剤である。Rtel−/−ES細胞は、分化誘導後にテロメアの短縮を示すので、Rtel遺伝子は例外である(Dingら、Cell 117:873−86,2004)が、Rtelとは異なり、Zscan4は、未分化ES細胞においてこの表現型を示す。第4に、T−SCEによるテロメアの伸長は、通常、非テロメア配列におけるSCEの増加とともに、全体的な染色体の不安定性に起因する(Wangら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 102:10256−60,2005)。対照的に、Zscan4によって媒介されるT−SCEは、一般的なSCEの増加と関連せず、正常な核型は、自発的なSCE率がより低い状態で安定したままである。
【0101】
Zscan4の発現レベルは、種々の多能性幹細胞の間で様々であり、このことは、ゲノム安定性の差と相関し得る。例えば、胎児性癌腫(EC)細胞がゲノム完全性を維持する能力が劣ることと一致して(Blellochら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 101:13985−90,2004)、EC細胞におけるZscan4の発現は、ES細胞よりもかなり低い(Aibaら、DNA Res.16:73−80,2009)。iPS細胞におけるZscan4の発現レベル(Takahashi&Yamanaka,Cell 126:663−76,2006)は、ES細胞に匹敵する(Aibaら、DNA Res.16:73−80,2009)ことから、iPSが、ES様のゲノム維持能力を取り戻した可能性があることが示される。Zscan4を活性化することができる細胞を選択することによって、将来の治療目的により適した細胞について富化された培養物が生成され得る。さらに、Zscan4の発現の誘導および制御は、その他の細胞型(例えば、幹細胞または癌細胞)におけるゲノム安定性を高める手段を提供する。
【0102】
これらの結果に基づいて、単離されたES細胞またはiPS細胞のゲノム安定性を高める方法、ES細胞またはiPS細胞においてテロメア長を伸ばす方法、もしくはその両方の方法が本明細書に提供される。特定の例において、そのような方法は、上記ES細胞またはiPS細胞と薬剤とを接触させる工程であって、上記薬剤が、上記ES細胞またはiPS細胞におけるZscan4の発現を、該薬剤が存在しないES細胞またはiPS細胞におけるZscan4の発現と比較して増加させる工程を包含する。例えば、そのES細胞またはiPS細胞は、その薬剤がES細胞またはiPS細胞に入ってZscan4の発現を増加させるのを可能にする条件下で、その薬剤とともにインキュベートされ得る。
【0103】
単離されたES細胞または単離されたiPS細胞の生殖細胞への分化を誘導する方法が、さらに提供される。いくつかの態様において、その方法は、ES細胞またはiPS細胞を、ES細胞またはiPS細胞におけるZscan4の発現を増加させる薬剤と接触させることによって、そのES細胞またはiPS細胞の生殖細胞への分化を誘導する工程を包含する。いくつかの態様において、その薬剤は、Zscan4をコードする核酸分子、またはZscan4タンパク質もしくはその機能的断片である。その他の態様において、その薬剤は、レチノイド(例えば、atRA、9−cisRA、13−cisRAおよびビタミンAであるがこれらに限定されない)である。その他の態様において、その薬剤は、酸化ストレスを誘導する。
【0104】
単離されたES細胞または単離されたiPS細胞における減数分裂、減数分裂特異的組換えおよび/またはDNA修復を誘導する方法も提供される。いくつかの態様において、その方法は、ES細胞またはiPS細胞を、ES細胞またはiPS細胞におけるZscan4の発現を増加させる薬剤と接触させることによって、そのES細胞またはiPS細胞における減数分裂、減数分裂特異的組換えおよび/またはDNA修復を誘導する工程を包含する。いくつかの態様において、その薬剤は、Zscan4をコードする核酸分子、またはZscan4タンパク質もしくはその機能的断片である。その他の態様において、その薬剤は、レチノイド(例えば、atRA、9−cisRA、13−cisRAおよびビタミンAであるがこれらに限定されない)である。その他の態様において、その薬剤は、酸化ストレスを誘導する。
【0105】
DNA傷害剤から細胞を保護する方法であって、その方法は、Zscan4の発現を増加させる薬剤と細胞を接触させる工程およびその細胞をDNA傷害剤に曝す工程を包含し、ここで、コントロールと比べてその細胞の生存の増加は、その薬剤がそのDNA傷害剤からその細胞を保護していることを示唆する方法である。いくつかの態様において、そのコントロールは、そのDNA傷害剤に曝された、Zscan4を発現するように誘導されていない細胞である。いくつかの態様において、その細胞は、DNA傷害剤に曝される前にその薬剤と接触される。その他の態様において、その細胞は、同時にDNA傷害剤に曝されつつ、その薬剤と接触される。なおもその他の態様において、その細胞は、DNA傷害剤に曝された後にその薬剤と接触される。いくつかの態様において、その薬剤は、Zscan4をコードする核酸分子、またはZscan4タンパク質もしくはその機能的断片である。いくつかの態様において、その薬剤は、レチノイド(例えば、atRA、9−cisRA、13−cisRAおよびビタミンAであるがこれらに限定されない)である。いくつかの態様において、その薬剤は、酸化ストレスを誘導する。いくつかの態様において、そのDNA傷害剤は、化学療法薬である。特定の例において、そのDNA傷害剤は、マイトマイシンCまたはシスプラチンである。
【0106】
ES細胞が本願全体にわたって記載されるが、当業者は、開示される組成物および方法においてES細胞の代わりにiPS細胞が使用され得ることを認識することに注意されたい。したがって、例えば、ES細胞治療を必要とする患者を処置するためにiPS細胞を使用する方法が提供されるのと同様に、iPS細胞のゲノム安定性を高める方法、iPS細胞におけるテロメア長を伸ばす方法またはその両方が提供される。iPS細胞は、ES細胞に非常に似ているが、核移植(クローニング)の手法を経ることなく、ヒト線維芽細胞およびその他の分化した細胞から作製され得る。Zscan4は、iPS細胞において、ES細胞内と同レベルで発現され、本発明者らは、Zscan4が、培養下の少数(5%)のiPS細胞だけで発現されることも示した。したがって、ヒトまたはその他の哺乳動物のiPS細胞(例えば、Zscan4を発現しているiPS細胞(Zscan4iPS細胞))は、本明細書に提供される方法において、ES細胞の代わりに(またはそれに加えて)使用され得る。
【0107】
さらに、本開示される組成物および方法が、がんの処置に有用であり得ること(下記にさらに詳細に記載される)にさらに注意されたい。したがって、ES細胞が、本願全体にわたって記載されるが、当業者は、開示される組成物および方法においてES細胞の代わりにがん細胞が使用され得ることを認識する。例えば、がん細胞への直接的な投与のような、Zscan4ポリペプチドまたはポリヌクレオチドを投与することによってがんを有する被験体を処置する方法が提供されるのと同様に、がん細胞のゲノム安定性を高める方法、がん細胞においてテロメア長を伸ばす方法、またはその両方の方法が提供される。
【0108】
細胞におけるZscan4の発現を増加させ得る例示的な薬剤としては、Zscan4をコードする単離された核酸分子が挙げられる。Zscan4タンパク質およびコード配列は、下記で詳細に検討されるように当該分野で周知である。下記のIV項に記載される分子のいずれかが、本明細書に提供される方法において使用され得る。当業者は、マウスZscan4cまたはヒトZSCAN4をコードする核酸配列のような任意のZscan4コード配列が使用され得ることを認識する。例えば、ES細胞またはiPS細胞は、ES細胞またはiPS細胞におけるZscan4の発現を可能にするのに十分な条件下において、Zscan4をコードする単離された核酸分子でトランスフェクトされ得る。いくつかの例において、Zscan4をコードする単離された核酸分子は、ウイルスベクターまたはプラスミドベクターのようなベクターの一部である。一つの例において、Zscan4をコードする単離された核酸分子は、Zcsan4の発現を駆動するプロモーターに作動可能に連結され得る。構成的プロモーターおよび誘導性プロモーターが使用され得る。
【0109】
いくつかの態様において、Zscan4の発現を誘導する薬剤は、レチノイドである。例示的なレチノイドとしては、atRA、9−cisRA、13−cisRAおよびビタミンAが挙げられるが、これらに限定されない。その他の態様において、Zscan4の発現を誘導する薬剤は、酸化ストレス、例えば、過酸化水素を誘導する薬剤である。
【0110】
ES細胞またはiPS細胞の集団におけるゲノム安定性を高めるため、ES細胞またはiPS細胞の集団におけるテロメア長を伸ばすため、もしくはその両方のための方法も提供される。特定の例において、その方法は、Zscan4のES細胞またはiPS細胞を、ES細胞またはiPS細胞の集団から選択する工程を包含する。つまり、Zscan4を発現しているES細胞またはiPS細胞およびZscan4を発現していないES細胞またはiPS細胞を含むES細胞またはiPS細胞の集団が、例えば、Zscan4を発現していない細胞を排除するかまたはZscan4を発現している細胞を選択することによって、Zscan4を発現しているES細胞またはiPS細胞について富化され得る。一つの例において、Zscan4細胞は、少なくともZscan4プロモーターおよびレポーター遺伝子を含む発現ベクターで細胞の集団をトランスフェクトすることによって選択され、ここで、そのレポーター遺伝子の発現は、Zscan4が、ES細胞またはiPS細胞の部分集団において発現されていることを示す。Zscan4の発現が検出される細胞は、例えば、FACSによって、選択され得る。一つの例において、発現ベクターは、配列番号38として示されている核酸配列、または配列番号38と少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%もしくは少なくとも98%の配列同一性を有する配列である。もう一つの例において、レポーター遺伝子は、薬物(例えば、抗生物質)選択マーカーであり、ここで、Zscan4を発現していない細胞は、適切な薬物(例えば、ハイグロマイシン、ネオマイシンなど)を加えることによって殺滅される。
【0111】
ES細胞治療を必要とする被験体を処置するための方法も提供される。いくつかの例において、その方法は、処置を必要とする被験体を選択する工程、および選択された被験体に、Zscan4である未分化なES(またはiPS)細胞の部分集団を投与する工程を包含する。ES細胞治療の恩恵を受け得る被験体の例としては、がん、自己免疫疾患、神経損傷または神経変性障害、ならびに細胞の再生が望まれるその他の障害(例えば、創傷治癒、筋肉修復(心筋を含む)、軟骨置換術(例えば、関節炎を処置するため)、歯の再生、失明、聴覚消失、骨髄移植およびクローン病)を有する被験体が挙げられるがこれらに限定されない。いくつかの例において、上記方法は、Zscan4のES細胞またはiPS細胞を、ES細胞またはiPS細胞の集団から選択する工程を包含し、そのZscan4のES細胞またはiPS細胞が、被験体に投与される。例えば、Zscan4のES細胞またはiPS細胞は、ES細胞またはiPS細胞の集団を、Zscan4プロモーター(例えば、Zscan4cプロモーター)およびレポーター遺伝子を含む発現ベクターでトランスフェクトすることによって選択され得、ここで、レポーター遺伝子の発現は、Zscan4が、ES細胞またはiPS細胞の部分集団において発現されていることを示す。
【0112】
がんを有する被験体にZscan4ポリペプチドまたはポリヌクレオチドを投与することによって、その被験体を処置する方法もまた本明細書に提供される。いくつかの態様において、その方法は、そのような治療を必要とする患者を選択する工程をさらに包含する。いくつかの態様において、その方法は、Zscan4ポリペプチドまたはポリヌクレオチドを、注入などによって腫瘍細胞、腫瘍組織に直接投与する工程を包含する。特定の例において、その被験体には、Zscan4ポリヌクレオチドを含むベクターが投与される。その他の態様において、そのZscan4ポリペプチドは、ナノ粒子によって封入されている。
【0113】
被験体における腫瘍の化学療法反応性(chemoresponsiveness)を増強する方法がさらに提供され、その方法は、Zscan4の発現を阻害する薬剤を被験体に投与する工程を包含する。いくつかの例において、その薬剤は、腫瘍細胞に直接投与される。Zscan4の発現を阻害する薬剤と、単離された細胞を接触させることによって、その細胞における化学療法剤の効能を高める方法も提供される。
【0114】
IV.Zscan4ポリヌクレオチド配列およびポリペプチド配列
Zscan4核酸配列およびアミノ酸配列は、当該分野において以前に報告されている(例えば、WO2008/118957(この開示は、本明細書において参照により組み入れられる);Falcoら、Dev.Biol.307(2):539−550,2007;およびCarterら、Gene Expr.Patterns.8(3):181−198,2008を参照のこと)。本明細書において使用されるように、「Zscan4」という用語には、2細胞胚期またはES細胞に特異的な発現を示すマウス遺伝子の群(Zscan4a、Zscan4b、Zscan4c、Zscan4d、Zscan4eおよびZscan4fを含む)、ヒトオルソログZSCAN4、またはZSCAN4の他の任意の種のオルソログのうちのいずれか1つが含まれる。特定の例において、Zscan4は、マウスZscan4cまたはヒトZSCAN4である。
【0115】
例示的なZscan4アミノ酸配列は、配列番号25(Zscan4a)、配列番号27(Zscan4b)、配列番号29(Zscan4c)、配列番号31(Zscan4d)、配列番号33(Zscan4e)、配列番号35(Zscan4f)および配列番号37(ヒトZSCAN4)として配列表に示されている。当業者は、これらの配列と少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%または少なくとも98%の配列同一性を有し、かつZscan4活性(例えば、ES細胞においてゲノム安定性を高める能力およびテロメア長を伸ばす能力)を保持する配列が、本明細書に提供される方法において使用され得ることを認識する。
【0116】
イヌZSCAN4(GenBankアクセッション番号XP_541370.2およびXP_853650.1);ウシZSCAN4(GenBankアクセッション番号XP_001789302.1);およびウマZSCAN4(GenBankアクセッション番号XP_001493994.1)をはじめとした、その他の種由来のZSCAN4アミノ酸配列が公的に入手可能である。上に列挙されたGenBankアクセッション番号の各々は、2009年9月4日付けのGenBankデータベースに見られるように、本明細書において参照により組み入れられる。
【0117】
本明細書に提供される方法を用いてES細胞において発現され得るZscan4ポリペプチドの特定の非限定的な例としては、配列番号25、27、29、31、33、35または37に示されているアミノ酸配列と少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%または少なくとも99%相同なアミノ酸配列を含むポリペプチドが挙げられる。さらなる態様において、Zscan4ポリペプチドは、配列番号25、27、29、31、33、35または37の保存的バリアントであり、Zscan4ポリペプチドは、配列番号25、27、29、31、33、35または37において50個以下の保存的アミノ酸置換(例えば、2個以下、5個以下、10個以下、20個以下または50個以下の保存的アミノ酸置換)を含む。もう一つの態様において、Zscan4ポリペプチドは、配列番号25、27、29、31、33、35または37に示されているアミノ酸配列を含むアミノ酸配列を有する。もう一つの態様において、Zscan4ポリペプチドは、配列番号25、27、29、31、33、35または37に示されているアミノ酸配列からなるアミノ酸配列を有する。
【0118】
Zscan4ポリペプチドの断片およびバリアントは、分子技術を用いて当業者によって容易に調製され得る。一つの態様において、Zscan4ポリペプチドの断片は、Zscan4ポリペプチドの少なくとも50個、少なくとも100個、少なくとも150個、少なくとも200個、少なくとも250個、少なくとも300個、少なくとも350個、少なくとも400個、少なくとも450個または少なくとも500個連続したアミノ酸を含む。さらなる態様において、Zscan4の断片は、関心対象の細胞に移されたときにZscan4の機能(例えば、ゲノム安定性を高めることおよび/またはテロメア長を伸ばすことであるがこれらに限定されない)を付与する断片である。
【0119】
Zscan4ポリペプチド一次アミノ酸配列の軽微な修飾は、本明細書に記載された未修飾の対応するポリペプチドと比較して実質的に等価な活性を有するペプチドをもたらし得る。そのような修飾は、部位特異的変異誘発によるもののような計画的なものであるかもしれないし、または自発的なものであるかもしれない。これらの修飾により作製されたポリペプチドは、全て、本明細書に含まれる。
【0120】
当業者は、Zscan4ポリペプチドおよび第二の関心対象のポリペプチドを含む融合タンパク質を容易に作製することができる。必要に応じて、リンカーが、Zscan4ポリペプチドと第二の関心対象のポリペプチドとの間に含まれていてもよい。融合タンパク質には、Zscan4ポリペプチドおよびマーカータンパク質を含むポリペプチドが含まれるが、これに限定はされない。一つの態様において、マーカータンパク質は、Zscan4ポリペプチドを同定または精製するために使用され得る。例示的な融合タンパク質は、緑色蛍光タンパク質、6ヒスチジン残基、またはmycと、Zscan4ポリペプチドとを含むが、これらに限定はされない。
【0121】
当業者は、開示される方法にとって有用なZscan4のそのようなバリアント、断片および融合物が、Zscan4活性(例えば、ES細胞においてゲノム安定性を高めることができることおよびテロメア長を伸ばすことができることまたはその両方)を保持するものであることを認識する。
【0122】
Zscan4ポリペプチドをコードする核酸分子は、Zscan4ポリヌクレオチドまたはZscan4核酸分子と呼ばれる。これらのポリヌクレオチドには、Zscan4をコードするDNA配列、cDNA配列およびRNA配列が含まれる。Zscan4ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドが、認識されるZscan4活性(例えば、ゲノム安定性またはテロメア長を調整することができること)を有するポリペプチドをコードする限り、それらのポリヌクレオチドの全ても本明細書に含まれることが理解される。それらのポリヌクレオチドは、遺伝暗号の結果として縮重する配列を含む。20種の天然アミノ酸が存在し、その大部分が複数のコドンにより特定される。従って、ヌクレオチド配列によりコードされるZscan4ポリペプチドのアミノ酸配列が機能的に不変である限り、全ての縮重ヌクレオチド配列が含まれる。Zscan4ポリヌクレオチドは、本明細書に開示されるようにZscan4ポリペプチドをコードする。本明細書に提供される方法を用いてES細胞またはiPS細胞において発現され得るZscan4をコードする例示的なポリヌクレオチド配列は、配列番号24(Zscan4a)、配列番号26(Zscan4b)、配列番号28(Zscan4c)、配列番号30(Zscan4d)、配列番号32(Zscan4e)、配列番号34(Zscan4f)および配列番号36(ヒトZSCAN4)として配列表に示されている。
【0123】
イヌZSCAN4(GenBankアクセッション番号XM_541370.2およびXM_848557.1);ウシZSCAN4(GenBankアクセッション番号XM_001789250.1);およびウマZSCAN4(GenBankアクセッション番号XM_001493944.1)をはじめとした、その他の種由来のZSCAN4核酸配列が公的に入手可能である。上に列挙されたGenBankアクセッション番号の各々は、2009年8月11日付けのGenBankデータベースに見られるように、本明細書において参照により組み入れられる。
【0124】
いくつかの態様において、本明細書に提供される方法を用いてES細胞またはiPS細胞において発現されるZscan4ポリヌクレオチド配列は、配列番号24、26、28、30、32、34または36と少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%または少なくとも99%同一である。いくつかの態様において、そのZscan4ポリヌクレオチド配列は、配列番号24、26、28、30、32、34または36に示されている核酸配列を含む。いくつかの態様において、そのZscan4ポリヌクレオチド配列は、配列番号24、26、28、30、32、34または36に示されている核酸配列からなる。特定の例において、ES細胞またはiPS細胞において発現されるZscan4ポリヌクレオチド配列は、その細胞にとって外来性である。例えば、そのZscan4ポリヌクレオチド配列は、組換えであり得るか、またはES細胞またはiPS細胞にとって非ネイティブ配列であり得る。
【0125】
Zscan4ポリヌクレオチドの断片およびバリアントは、分子技術を用いて当業者によって容易に調製され得る。一つの態様において、Zscan4ポリヌクレオチドの断片は、Zscan4ポリヌクレオチドの少なくとも250個、少なくとも500個、少なくとも750個、少なくとも1000個、少なくとも1500個または少なくとも2000個の連続した核酸を含む。さらなる態様において、Zscan4の断片は、関心対象の細胞において発現されたときにZscan4の機能(例えば、ゲノム安定性を高めることおよび/またはテロメア長を伸ばすことであるがこれらに限定されない)を付与する断片である。
【0126】
Zscan4ポリヌクレオチド配列の軽微な修飾は、本明細書に記載された未修飾の対応するポリヌクレオチドと比較して実質的に等価な活性を有するペプチドの発現をもたらし得る。そのような修飾は、部位特異的変異誘発によるもののような計画的なものであるかもしれないし、または自発的なものであるかもしれない。これらの修飾により作製されたポリペプチドは、全て、本明細書に含まれる。
【0127】
Zscan4ポリヌクレオチドには、ベクターに;自己複製するプラスミドまたはウイルスに;あるいは原核生物もしくは真核生物のゲノムDNAに組み込まれる組換えDNA、またはその他の配列と独立して別個の分子(例えば、cDNA)として存在する組換えDNAが含まれる。それらのヌクレオチドは、リボヌクレオチド、デオキシリボヌクレオチド、またはいずれかのヌクレオチドの修飾型であり得る。この用語には、一本鎖および二本鎖の形態のDNAが含まれる。
【0128】
上に記載されたいくつかのZscan4核酸配列およびタンパク質配列の提供によって、標準的な研究室の技術を用いたES細胞またはiPS細胞における任意のZscan4タンパク質(例えば、異種性Zscan4タンパク質)の発現が、現在可能である。いくつかの例において、Zscan4核酸配列は、プロモーターの制御下にある。いくつかの例において、Zscan4を発現するために、ベクター系(例えば、プラスミド、バクテリオファージ、コスミド、動物ウイルスおよび酵母人工染色体(YACs))が用いられる。次いで、これらのベクターは、ES細胞またはiPS細胞に導入され得、それらの細胞は、異種性Zscan4 cDNAの導入によって組換えとなる。
【0129】
Zscan4コード配列は、Zscan4をコードする核酸配列の転写を指示する異種性プロモーターに作動可能に連結され得る。プロモーターは、ポリメラーゼII型プロモーター、TATAエレメントの場合のように、必要な核酸配列を転写の開始部位付近に含む。プロモーターは、転写の開始部位から数千塩基対も離れて位置し得る遠位のエンハンサーまたはリプレッサーエレメントも必要に応じて含む。一つの例において、プロモーターは、CAG−プロモーター(Niwaら、Gene 108(2):193−9,1991)またはホスホグリセリン酸キナーゼ(PGK)プロモーターのような構成的プロモーターである。もう一つの例において、プロモーターは、テトラサイクリン誘導性プロモーター(Masuiら、Nucleic Acids Res.33:e43,2005)のような誘導性プロモーターである。Zscan4の発現を駆動するために使用され得るその他の例示的なプロモーターとしては:lac系、trp系、tac系、trc系、ラムダファージの主要なオペレーター領域およびプロモーター領域、fdコートタンパク質の制御領域、SV40の初期および後期プロモーター、ポリオーマ、アデノウイルス、レトロウイルス、バキュロウイルスおよびサルウイルスに由来するプロモーター、3−ホスホグリセリン酸キナーゼに対するプロモーター、酵母の酸ホスファターゼのプロモーター、ならびに酵母のアルファ接合因子のプロモーターが挙げられるがこれらに限定されない。いくつかの例において、ネイティブのZscan4プロモーターが使用される。
【0130】
Zscan4を発現するために、ベクター系が使用され得る。ES細胞においてZscan4を発現するために使用され得る例示的なベクターとしては、プラスミドおよびウイルスベクターが挙げられるがこれらに限定されない。一つの例において、SV40のプロモーター領域およびエンハンサー領域またはラウス肉腫ウイルスの末端長反復配列(LTR)ならびにSV40由来のポリアデニル化シグナルおよびスプライシングシグナルを含むベクター(Mulligan and Berg,1981,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 78:2072−6;Gormanら、1982,Proc.Natl.Acad.Sci USA 78:6777−81)が使用される。一つの例において、ベクターは、ウイルスベクター(例えば、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルス(AAV)(例えば、米国特許第4,797,368号(Carterら)およびMcLaughlinら(J.Virol.62:1963−73,1988)に記載されているもの、ならびにAAV4型(Chioriniら、J.Virol.71:6823−33,1997)およびAAV5型(Chioriniら、J.Virol.73:1309−19,1999)))、またはレトロウイルスベクター(例えば、モロニーマウス白血病ウイルス、脾臓壊死ウイルス、およびレトロウイルス(例えば、ラウス肉腫ウイルス、ハーベイ肉腫ウイルス、トリ白血病ウイルス、ヒト免疫不全ウイルス、骨髄増殖性肉腫ウイルスおよび乳腺腫瘍ウイルス)に由来するベクター)である。ワクシニアウイルス(Mossら、1987,Annu.Rev.Immunol.5:305−24)、ウシパピローマウイルス(Rasmussenら、1987,Methods Enzymol.139:642−54)またはヘルペスウイルス群のメンバー(例えば、エプスタイン・バーウイルス(Margolskeeら、1988,Mol.Cell.Biol.8:2837−47))をはじめとしたその他のウイルスによるトランスフェクション系を利用してもよい。さらに、ベクターは、そのベクター(およびゆえにZscan4核酸)の長期間にわたる安定した発現を示すトランスフェクトされた細胞の選択を可能にする抗生物質選択マーカー(例えば、ネオマイシン、ハイグロマイシンまたはミコフェノール酸(mycophoenolic acid))を含み得る。
【0131】
上記ベクターは、パピローマ(Sarverら、1981,Mol.Cell Biol.1:486)またはエプスタイン・バー(Sugdenら、1985,Mol.Cell Biol.5:410)のようなウイルスの調節エレメントを使用することによって、自由に複製するエピソーム実体として細胞内で維持され得る。あるいは、そのベクターをゲノムDNAにインテグレートした細胞系を作製することもできる。これらのタイプの細胞系の両方が、継続的に遺伝子産物を産生する。ベクター(およびゆえに同様にcDNA)のコピー数を増幅させた細胞系を作製することにより、高レベルの遺伝子産物を産生し得る細胞系を作り出すこともできる。
【0132】
DNAをヒトまたはその他の哺乳動物の細胞に移すことは、従来技術である。例えば、単離されたZscan4核酸配列(例えば、裸のDNAとして、または発現ベクターの一部として)は、例えば、リン酸カルシウム(Graham and vander Eb,1973,Virology 52:466)またはリン酸ストロンチウム(Brashら、1987,Mol.Cell Biol.7:2013)を用いた沈殿、エレクトロポレーション(Neumannら、1982,EMBO J.1:841)、リポフェクション(Felgnerら、1987,Proc.Natl.Acad.Sci USA 84:7413)、DEAEデキストラン(McCuthanら、1968,J.Natl.Cancer Inst.41:351)、マイクロインジェクション(Muellerら、1978,Cell 15:579)、プロトプラスト融合(Schafner,1980,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 77:2163−7)またはペレットガン(Kleinら、1987,Nature 327:70)によって、レシピエント細胞に導入され得る。あるいは、Zscan4核酸配列は、感染によってES細胞に導入されるウイルスベクターの一部であり得る。例えば、レトロウイルス(Bernsteinら、1985,Gen.Engrg.7:235)、アデノウイルス(Ahmadら、1986,J.Virol.57:267)またはヘルペスウイルス(Spaeteら、1982,Cell 30:295)を使用する系が開発されている。
【0133】
V.ゲノム安定性の測定
ES細胞またはES細胞の集団(例えば、Zscan4ES細胞)におけるゲノム安定性を高めるためおよび/またはテロメア長を伸ばすための方法が提供される。特定の例において、ゲノム安定性は、例えば、Zscan4を発現していないES細胞(またはZscan4ES細胞において予想される値もしくは値の範囲)と比べて、またはマウス胚線維芽(MEF)細胞または皮膚線維芽細胞と比べて、ES細胞において、少なくとも20%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%または少なくとも98%高められる。ゲノム安定性およびテロメア長を測定する方法は、当該分野において常習的なものであり、本開示は、特定の方法に限定されない。本明細書に提供される特定の例は、例示的なものである。
【0134】
いくつかの例において、Zscan4ES細胞のようなES細胞におけるゲノム安定性は、細胞増殖を検出することによって測定される。ゲノム安定性は、例えば、Zscan4ES細胞と比べて細胞増殖が増加している場合、高められている。例えば、ES細胞の増殖は、培養でES細胞を生育させ、各継代後にそれらの細胞の倍加時間を測定することによって検出され得る。一つの例において、ゲノム安定性は、継代8代目またはそれ以前の継代においてクライシス(例えば、細胞死)が起きない場合に、高められている。
【0135】
いくつかの例において、Zscan4ES細胞のようなES細胞におけるゲノム安定性は、核型解析を行うことによって測定される。ゲノム安定性は、核型の異常(例えば、染色体の融合および断片化)の存在が、例えば、Zscan4ES細胞と比べて、減少しているかまたは存在しない場合に、高められている。例えば、核型解析は、分裂中期での停止を誘導し、次いで、分裂中期の染色体スプレッドを調製することによって、ES細胞において行われ得る。
【0136】
いくつかの例において、Zscan4ES細胞のようなES細胞におけるゲノム安定性は、テロメア姉妹染色分体交換(T−SCE)を測定することによって測定される。ゲノム安定性は、T−SCEの存在が、例えば、Zscan4ES細胞と比べて、増加している場合に、高められている。例えば、T−SCEは、テロメア染色体配向FISH(CO−FISH)を使用することによって、ES細胞において測定され得る。
【0137】
いくつかの例において、Zscan4ES細胞のようなES細胞におけるゲノム安定性は、姉妹染色分体交換(SCE)を測定することによって測定される。ゲノム安定性は、SCEの存在が、例えば、Zscan4ES細胞と比べて、減少している場合に、高められている。例えば、SCEは、分裂中期スプレッドにおいてSCEを検出することによって、ES細胞において測定され得る。
【0138】
いくつかの例において、テロメア長は、Zscan4ES細胞のようなES細胞において測定される。いくつかの例において、テロメア長は、テロメアの長さが、例えば、Zscan4ES細胞におけるテロメア長と比べて長い場合に、ES細胞において長くなっている。例えば、テロメア長は、蛍光インサイチュハイブリダイゼーション(FISH)、定量的FISH(Q−FISH)またはテロメアqPCRによって、ES細胞において検出され得る。
【0139】
VI.Zscan4プロモーター配列および発現ベクター
特定の例において、ES細胞の集団におけるゲノム安定性および/またはテロメア長は、ES細胞の集団からZscan4ES細胞を選択することによって高められる。例えば、異種性ポリペプチドをコードする核酸配列(例えば、レポーター遺伝子)に作動可能に連結されたZsan4プロモーター配列を含む発現ベクターを用いることにより、Zscan4を発現する細胞が同定され得る。レポーター遺伝子の発現、ひいてはZscan4+ES細胞を検出する方法は、レポーター遺伝子のタイプに応じて様々であり、当該分野で周知である。例えば、蛍光レポーターが使用されるとき、発現の検出は、FACSまたは蛍光顕微鏡検査によって達成され得る。Zscan4を発現している幹細胞の部分集団の同定は、Zscan4に特異的な抗体の使用またはインサイチュハイブリダイゼーションによる方法を含むがこれらに限定されない代替方法を用いて達成され得る。
【0140】
いくつかの例において、異種性核酸配列(例えば、レポーター分子)は、Zscan4プロモーター(例えば、ベクター内のもの)の調節下において発現される。いくつかの態様において、そのZscan4プロモーターは、Zscan4cプロモーターである。例えば、そのZscan4cプロモーターは、配列番号38のヌクレオチド906〜4468として示されている核酸配列を含み得る。いくつかの例において、そのZscan4cプロモーターは、Zscan4cエキソンおよび/またはイントロンの配列を含む。その他の発現調節配列(適切なエンハンサー、転写ターミネーター、タンパク質をコードする遺伝子の直前の開始コドン(すなわち、ATG)、イントロンに対するスプライシングシグナル、および終止コドンを含む)が、Zscan4プロモーターとともに発現ベクター内に含められ得る。一般に、そのプロモーターは、異種性核酸配列の転写を指示するのに十分な少なくとも最小の配列を含む。いくつかの例において、その異種性核酸配列は、レポーター分子をコードする。
【0141】
その他の例において、異種性核酸配列(例えば、レポーター分子)は、相同組換えなどによって被験体のゲノムDNAに組み込まれる。例えば、GFPに対するコード配列は、GFPが内因性Zscan4と同じ様式で発現されるように、ZSCAN4のコード領域に挿入され得るか、またはZSCAN4のコード領域を置き換え得る。相同組換えによる遺伝子「ノックイン」方法が、当該分野で周知である。
【0142】
異種性核酸配列によってコードされる異種性タンパク質は、代表的には、レポーター分子(例えば、マーカー、酵素、蛍光タンパク質、細胞に抗生物質耐性を付与するポリペプチド、または従来の分子生物学手法を用いて同定され得る抗原)である。レポーター分子は、Zscan4ES細胞のような関心対象の細胞または細胞の集団を同定するために使用され得る。一つの態様において、その異種性タンパク質は、蛍光マーカー(例えば、緑色蛍光タンパク質またはそのバリアント、例えば、Emerald(Invitrogen,Carlsbad,CA))、抗原マーカー(例えば、ヒト成長ホルモン、ヒトインスリン、ヒトHLA抗原);細胞表面マーカー(例えば、CD4または任意の細胞表面レセプター);または酵素マーカー(例えば、lacZ、アルカリホスファターゼ)である。レポーター遺伝子の発現は、その細胞がZscan4を発現していることを示す。レポーター遺伝子の発現を検出する方法は、レポーター遺伝子のタイプに応じて様々であり、当該分野で周知である。例えば、蛍光レポーターが使用されるとき、発現の検出は、FACSまたは蛍光顕微鏡検査によって達成され得る。
【0143】
発現ベクターは、代表的には、複製起点、ならびに形質転換された細胞の表現型選択を可能にする特定の遺伝子(例えば、抗生物質耐性遺伝子)を含む。ウイルスベクターおよびプラスミドベクター(例えば、上記のIV項に記載されたベクター)をはじめとした使用に適したベクターは、当該分野で周知である。一つの例において、エンハンサーは、Zscan4プロモーターの上流に位置するが、エンハンサーエレメントは、一般に、ベクター上の任意の場所に位置してもよく、なおも増強作用を有する。しかしながら、増加される活性の量は、一般に、距離とともに減少する。さらに、2コピー以上のエンハンサー配列は、順々に作動可能に連結されることにより、プロモーター活性がさらに大きく高められ得る。
【0144】
Zscan4プロモーターを含む発現ベクターが、宿主細胞(例えば、ES細胞であるがこれに限定されない)を形質転換するために使用され得る。宿主において発現および複製することができる生物学的に機能的なウイルスベクターおよびプラスミドDNAベクターは、当該分野で公知であり、関心対象の任意の細胞をトランスフェクトするために使用され得る。
【0145】
「トランスフェクトされた細胞」は、核酸分子(例えば、DNA分子)(例えば、Zscan4プロモーターエレメントを含むDNA分子)が導入された宿主細胞(またはその祖先)である。組換え核酸分子による宿主細胞のトランスフェクションは、当業者に周知のような従来技術によって行われ得る。本明細書において使用されるように、トランスフェクションには、リポソーム媒介性トランスフェクション、エレクトロポレーション、注入、または核酸分子を細胞に導入するためのその他の任意の好適な技術が含まれる。
【0146】
VII.胚性幹細胞の単離
哺乳動物のES細胞(例えば、マウス、霊長類またはヒトのES細胞)が、本明細書に開示される方法とともに使用され得る。ES細胞は、未分化な状態で無制限に増殖し得る。さらに、ES細胞は、多能性細胞であり、このことは、それらが、体内に存在する細胞の全て(骨細胞、筋肉細胞、脳細胞など)を生じ得ることを意味する。ES細胞は、発生中のマウス胚盤胞の内部細胞塊(ICM)から単離された(Evansら、Nature 292:154−156,1981;Martinら、Proc.Natl.Acad.Sci.78:7634−7636,1981;Robertsonら、Nature 323:445−448,1986)。さらに、ES特性を有するヒト細胞が、胚盤胞の内部細胞塊(Thomsonら、Science 282:1145−1147,1998)および発生中の生殖細胞(Shamblottら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 95:13726−13731,1998)から単離されており、ヒトおよび非ヒト霊長類の胚性幹細胞が作製されている(米国特許第6,200,806号を参照のこと)。
【0147】
米国特許第6,200,806号に開示されているように、ES細胞は、ヒトおよび非ヒト霊長類から作製され得る。一つの態様において、霊長類のES細胞は、SSEA−3;SSEA−4、TRA−1−60およびTRA−1−81を発現している細胞である(米国特許第6,200,806号を参照のこと)。ES細胞は、例えば、20%ウシ胎仔血清(FBS;Hyclone)、0.1mM β−メルカプトエタノール(Sigma)、1%非必須アミノ酸原液(Gibco BRL)を含む80%ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM;ピルビン酸塩不含、高グルコース処方、Gibco BRL)からなるES培地を用いて、単離され得る。一般に、霊長類ES細胞は、ES細胞培地の存在下でマウス胚性線維芽細胞のコンフルエントな層の上に単離される。一例において、胚性線維芽細胞は、(SASCOより入手可能なCF1のような)非近交系マウスに由来する12日齢胎仔から入手されるが、その他の株が代用されてもよい。0.1%ゼラチン(I型;Sigma)により処理された組織培養ディッシュが利用され得る。成体に存在する拘束された「多分化能性」幹細胞と比較して、ES細胞を区別する特色には、培養物中で未分化状態を無限に維持するES細胞の能力、およびES細胞が有する全ての異なる細胞型へと発達する潜在能力が含まれる。マウスES細胞とは異なり、ヒトES(hES)細胞は、期特異的な胚性抗原SSEA−1を発現せず、特異的なモノクローナル抗体により認識さ れるもう一つの糖脂質細胞表面抗原であるSSEA−4を発現する(例えば、Amit et al.,Devel. Biol. 227:271−278,2000を参照のこと)。
【0148】
アカゲザル胚の場合、正常な卵巣周期を示す成体雌アカゲザル(4歳超)を、月経出血の証拠について毎日観察する(周期1日目=月経開始日)。月経周期8日目から開始する卵胞期の間、毎日、血液試料を採取し、黄体形成ホルモンの血清濃度をラジオイムノアッセイにより決定する。月経周期9日目から黄体形成ホルモンサージの48時間後まで、雌を、立証された繁殖能を有する雄アカゲザルと対にし;黄体形成ホルモンサージの翌日に排卵を採取する。排卵後6日目、拡大した胚盤胞を、非外科的子宮フラッシングにより収集する。この手法は、一般に、1ヶ月にアカゲザル1匹につき平均0.4〜0.6個の生存可能な胚の回収をもたらす(Seshagiri et al.,Am J Primatol 29:81−91, 1993)。
【0149】
マーモセット胚の場合、規則的な卵巣周期を示す成体雌マーモセット(2歳超)を、繁殖性の雄および最大5匹の子孫を含む家族内で維持する。黄体期の中期か ら後期の間、0.75gのプロスタグランジンPGF2aアナログクロプロステノール(Estrumate, Mobay Corp,Shawnee, KS)を筋肉注入することにより、卵巣周期を制御する。0日目(クロプロステノール注入直前)、3日目、7日目、9日目、11日目、および13日目に血液試料を採取する。血漿プロゲステロン濃度をELISAにより決定する。血漿プロゲステロン濃度が10ng/ml以上になる前日を排卵日とする。排卵後8日目、拡大した胚盤胞を、非外科的子宮フラッシュ法(Thomson et al.,J Med Primatol. 23:333−336, 1994)により回収する。この手法は、1ヶ月にマーモセット1匹につき平均1個の生存可能な胚の作製をもたらす。
【0150】
プロナーゼ(Sigma)への短時間の曝露等により、透明帯を胚盤胞から除去する。免疫手術(immunosurgery)のため、胚盤胞を、30分間、DMEM中の50倍希釈のウサギ抗マーモセット脾臓細胞抗血清(マーモセット胚盤胞のため)または50倍希釈のウサギ抗アカゲザル(アカゲザル胚盤胞のため)に曝し、次いで、DMEMで5分間3回洗浄し、次いで5倍希釈のモルモット補体(Gibco)に3分間曝す。DMEMでさらに2回洗浄した後、穏和なピペッティングにより、完全な内部細胞塊(ICM)から、溶解した栄養外胚葉細胞を除去し、ICMをマウス不活性化(3000ラドのガンマ照射)胚性線維芽細胞に播種する。
【0151】
7〜21日後、立体顕微鏡下で直接観察しながら、マイクロピペットにより、ICMに由来する塊を内胚葉アウトグロースから除去し、3〜5分間、1%ニワトリ血清が補足された0.05%トリプシン−EDTA(Gibco)に曝し、火炎研磨されたマイクロピペットによる穏和なピペッティングにより穏和に分離させる。
【0152】
分離した細胞を、新鮮なES培地中の胚フィーダー層上に再び播き、コロニー形成について観察する。ES様の形態を示すコロニーを個別に選択し、上記のようにして再分割する。ES様の形態とは、高い核・細胞質比および大きな核小体を有する緻密なコロニーと定義される。次いで、得られたES細胞を、その培養物が密になる1〜2週毎に短時間のトリプシン処理またはダルベッコリン酸緩衝生理食塩水(カルシウムまたはマグネシウム不含および2mM EDTA含有のPBS)への曝露により定期的に分割する。初期継代細胞も凍結し液体窒素中に保管する。
【0153】
細胞系は、(ルーチンの核型分析サービスを提供するCytogenetics Laboratory of the University of Wisconsin State Hygiene Laboratoryによるもののような)標準的なGバンディング(G−banding)技術により核型分析され、霊長類種の公開された核型と比較され得る。
【0154】
その他の霊長類種からのES細胞系の単離は、類似の手法に従うであろう。ただし、胚盤胞への発達の速度は、種間で数日変動する場合があり、培養ICMの発達の速度が種間で変動するであろう。例えば、排卵の6日後、アカゲザル胚は拡大胚盤胞期にあるが、マーモセット胚は排卵の7〜8日後まで同期に達しない。アカゲザルES細胞系は、免疫手術の7〜16日後に初めてICM由来細胞を分割することにより入手され得るが;マーモセットES細胞は免疫手術の7〜10日後の初回分割により導出された。その他の霊長類も発達速度が異なっているため、胚収集のタイミングおよび初回ICM分割のタイミングは、霊長類種間で変動するが、同一の技術および培養条件が、ES細胞単離を可能にするであろう(霊長類ES細胞についての完全な考察およびそれらの作製については、米国特許第6,200,806号を参照のこと)。
【0155】
ヒトES細胞系は、存在しており、本明細書に開示される方法において使用され得る。ヒトES細胞は、インビトロで受精された(IVF)胚由来の着床前胚からも得ることができる。高品質の胚だけが、ESの単離に適している。1細胞ヒト胚を拡大した胚盤胞まで培養するための現在定義されている培養条件が報告されている(Bongsoら、Hum Reprod.4:706−713,1989を参照のこと)。ヒト胚をヒト卵管細胞と共培養することにより、高品質の胚盤胞がもたらされる。細胞の共培養系または改善された限定培地において生育させたIVF由来の拡大したヒト胚盤胞は、非ヒト霊長類について上に記載された同じ手法を用いたヒトES細胞の単離を可能にする(米国特許第6,200,806号を参照のこと)。
【0156】
VIII.Zscan4ES細胞の治療上の使用
ES細胞治療を必要とする被験体を処置するための方法が提供される。これらの方法には、ES細胞および/またはiPS細胞の使用が含まれる。特定の例において、その方法は、処置を必要とする被験体を選択する工程、および治療量の未分化ES細胞の部分集団をその被験体に投与する工程であった、ここで、その未分化ES細胞の部分集団は、Zscan4である工程を包含する。その他の例において、上記方法は、未分化ES細胞(特にZscan4部分集団)からインビトロにおいて分化したより成熟した細胞(例えば、成熟したニューロン、筋細胞、特定の器官の細胞など)の投与を包含する。Zscan4のES細胞またはiPS細胞から分化した細胞は、Zscan4細胞よりも良好なゲノム安定性を有する。それにより、Zscan4ES細胞(未分化な細胞またはより成熟した細胞のいずれか)の投与は、被験体における疾患を処置する。(Zscan4)を発現する未分化ES細胞を選択または作製する方法は、上に記載されている。
【0157】
未分化ES細胞をインビトロにおいて分化させる方法は、公知である。未分化ES細胞の分化は、より特殊化されてさらに分裂または分化することができないほぼ最終分化した細胞により近い細胞と関連することが知られているマーカーを発現している細胞の形成をもたらす。細胞がそれほど拘束されていない細胞から、次第に特定の細胞型に拘束されて最終的には最終分化した細胞に進む経路は、進行性分化または進行性拘束と呼ばれる。より特殊化されている(例えば、進行性分化の進路に沿って進み始めた)がまだ最終分化していない細胞は、部分的に分化していると呼ばれる。例えば、米国特許出願番号2006/0194321には、内胚葉細胞(例えば、膵臓の細胞)へのES細胞の分化が記載されており、米国特許出願番号2004/0014209には、心臓細胞へのES細胞の分化が記載されており、米国特許出願番号2008/0194023には、血管平滑筋細胞へのES細胞の分化が記載されている。
【0158】
本明細書に提供される方法を用いて処置され得る被験体には、哺乳動物の被験体(例えば、獣医学の被験体またはヒト被験体)が含まれる。被験体には、胎仔(児)、新生仔(児)、乳児、小児および/または成体が含まれる。特定の例において、処置される被験体が選択される(例えば、ES細胞治療、特に、Zscan4ES細胞の投与を含む治療の恩恵を受ける被験体の選択)。
【0159】
Zscan4ES細胞のようなES細胞の投与の恩恵を受け得る障害または疾患の例としては、がん、自己免疫疾患、および細胞再生が有益である疾患(例えば、神経損傷または神経変性障害、ならびに失明、聴覚消失、歯の脱落、関節炎、心筋梗塞、骨髄移植、禿頭症、クローン病、糖尿病および筋ジストロフィー)が挙げられる。特定の例において、これらの障害の1つ以上を有する被験体が、本明細書に開示されている処置のために選択される。
【0160】
がんには、異常なまたは制御されていない細胞成長を特徴とする悪性腫瘍が含まれる。本明細書に開示されるES細胞で処置される患者は、がんを有し得るか、または過去に処置された(例えば、外科的切除、化学療法、放射線治療によって処置された)がんを有していた可能性がある。例えば、Zscan4のES細胞またはiPS細胞は、腫瘍が除去された患者において使用され得、ここで、Zscan4のES細胞またはiPS細胞から分化した特定の細胞が、除去された組織/器官を復元するために使用される。さらに、ゲノム不安定性がしばしばがんと関連するので、ゲノム不安定性に起因してがん細胞がより高悪性度になるのを防ぐために、Zscan4の発現(例えば、がん細胞における外来性Zscan4核酸分子の発現)を誘導もしくは増強し得るかまたはZscan4経路を活性化し得る薬剤が、投与され得る。
【0161】
本明細書に提供されるZscan4のES細胞またはiPS細胞の恩恵を受け得る例示的ながんとしては、心臓(例えば、肉腫(血管肉腫、線維肉腫、横紋筋肉腫、脂肪肉腫)、粘液腫、横紋筋腫、線維腫、脂肪腫および奇形腫)、肺(例えば、気管支原性癌腫(扁平上皮細胞、未分化小細胞、未分化大細胞、腺癌)、肺胞(細気管支)癌腫、気管支腺腫、肉腫、リンパ腫、軟骨腫様過誤腫、中皮腫);消化管(例えば、食道(扁平上皮癌腫、腺癌、平滑筋肉腫、リンパ腫)、胃(癌腫、リンパ腫、平滑筋肉腫)、膵臓(管腺癌、インスリノーマ、グルカゴノーマ、ガストリノーマ、カルチノイド腫瘍、ビポーマ)、小腸(腺癌、リンパ腫、カルチノイド腫瘍、カポジ(Karposi’s)肉腫、平滑筋腫、血管腫、脂肪腫、神経線維腫、線維腫)、大腸(腺癌、管状腺腫、絨毛腺腫、過誤腫、平滑筋腫)、泌尿生殖器(例えば、腎臓(腺癌、ウィルムス腫瘍、腎芽細胞腫、リンパ腫、白血病)、膀胱および尿道(扁平上皮癌、移行上皮癌、腺癌)、前立腺(腺癌、肉腫)、精巣(セミノーマ、奇形腫、胎児性癌腫、奇形癌腫、絨毛上皮腫、肉腫、間質細胞癌腫、線維腫、線維腺腫、類腺腫瘍、脂肪腫)、肝臓(例えば、ヘパトーム(肝細胞癌腫)、胆管癌、肝芽腫(hepatoblastom)、血管肉腫、肝細胞腺腫、血管腫)、骨(例えば、骨原性肉腫(骨肉腫)、線維肉腫、悪性線維性組織球腫、軟骨肉腫、ユーイング肉腫、悪性リンパ腫(細網肉腫)、多発性骨髄腫、悪性巨細胞腫、脊索腫、骨軟骨腫(osteochronfroma)(骨軟骨性外骨腫症)、良性軟骨腫、軟骨芽細胞腫、軟骨粘液線維腫、類骨骨腫および巨細胞腫)、神経系(例えば、頭蓋(骨腫、血管腫、肉芽腫、黄色腫、変形性骨炎)、髄膜(髄膜腫、髄膜肉腫、神経膠腫症)、脳(星状細胞腫、髄芽腫、神経膠腫、上衣腫、胚細胞腫>松果体腫!、多形神経膠芽腫、乏突起膠腫、神経鞘腫、網膜芽細胞腫、先天性腫瘍)、脊髄(神経線維腫、髄膜腫、神経膠腫、肉腫))、婦人科がん(例えば、子宮(子宮内膜癌腫)、子宮頸部(子宮頸癌腫、前腫瘍(pre−tumor)子宮頸部異形成)、卵巣(卵巣癌、漿液性嚢胞腺癌、粘液性嚢胞腺癌、類内膜腫瘍、腹部芽細胞腫(celioblastoma)、明細胞癌腫、未分類癌腫、顆粒膜卵胞膜(granulosa−thecal)細胞腫瘍、セルトリライディッヒ細胞腫、未分化胚細胞腫、悪性奇形腫)、外陰部(扁平上皮癌腫、上皮内癌腫、腺癌、線維肉腫、メラノーマ)、膣(明細胞癌腫、扁平上皮癌腫、ブドウ状肉腫、胎児性横紋筋肉腫、ファロピウス管(癌腫))、血液がん(例えば、血液(骨髄性白血病(急性および慢性)、急性リンパ芽球性白血病、慢性リンパ性白血病、骨髄増殖性疾患、多発性骨髄腫、骨髄異形成症候群)、ホジキン病、非ホジキンリンパ腫(悪性リンパ腫))、皮膚(例えば、悪性黒色腫、基底細胞癌腫、扁平上皮癌腫、カポジ肉腫、色素性母斑、異形成母斑、脂肪腫、血管腫、皮膚線維腫、ケロイド、乾癬)および副腎(例えば、神経芽細胞腫)のがんが挙げられるがこれらに限定されない。
【0162】
一つの例において、自己免疫疾患を有する患者が、処置のために選択される。自己免疫疾患は、体内に通常存在する物質および組織に対する身体の過活動の免疫応答に起因し得る。いくつかの例において、自己免疫疾患は、ある特定の器官に限定される(例えば、甲状腺炎)か、または種々の場所における特定の組織が関わり得る(例えば、肺と腎臓の両方における基底膜に影響し得るグッドパスチャー病)。本明細書に開示されるZscan4ES細胞で処置される患者は、自己免疫疾患を有し得る。本明細書に提供されるZscan4ES細胞の恩恵を受け得る例示的な自己免疫疾患としては、関節リウマチ、若年性少関節炎(juvenile oligoarthritis)、コラーゲン誘導関節炎、アジュバント誘発関節炎、シェーグレン症候群、多発性硬化症、実験的自己免疫性脳脊髄炎、炎症性腸疾患(例えば、クローン病、潰瘍性大腸炎)、自己免疫性胃萎縮、尋常性天疱瘡、乾癬、白斑、1型糖尿病、非肥満性糖尿病、重症筋無力症、バセドウ病、橋本甲状腺炎、硬化性胆管炎、硬化性唾液腺炎、全身性エリテマトーデス(systemic lupus erythematosis)、自己免疫性血小板減少性紫斑病、グッドパスチャー症候群、アジソン病、全身性硬化症、多発性筋炎、皮膚筋炎、自己免疫性溶血性貧血および悪性貧血が挙げられるがこれらに限定されない。
【0163】
いくつかの例において、選択される被験体は、神経損傷を受けた被験体または神経変性障害に罹患している被験体である。神経損傷は、損傷を受けた患者の運動および/または記憶に悪影響を及ぼす、神経系(例えば、脳または脊髄または特定のニューロン)に対する外傷に起因し得る。そのような外傷は、感染性病原体(例えば、細菌またはウイルス)、トキシン、転倒もしくはその他のタイプの事故に起因する損傷、または遺伝的障害によって、あるいはその他の不明な理由のために、引き起こされ得る。本明細書に開示されるES細胞で処置される患者は、神経損傷(例えば、事故(例えば、自動車事故もしくはダイビング中の事故)または脳卒中に起因する脳または脊髄の損傷)を受けた可能性がある。
【0164】
神経変性疾患は、脳および脊髄の細胞が失われた状態である。本明細書に開示されるES細胞で処置される患者は、神経変性疾患を有し得る。本明細書に提供されるZscan4+ES細胞で処置され得る例示的な神経変性疾患としては:副腎脳白質ジストロフィー(ALD)、アルコール依存症、アレキサンダー病、アルパース病、アルツハイマー病、筋萎縮性側索硬化症(ルー・ゲーリッグ病)、毛細血管拡張性運動失調、バッテン病(シュピールマイアー・フォークト・シェーグレン・バッテン病としても知られる)、ウシ海綿状脳症(BSE)、カナバン病、脳性麻痺、コケイン症候群、大脳皮質基底核変性症、クロイツフェルト・ヤコブ病、致死性家族性不眠症、前頭側頭葉性変性症、ハンチントン病、HIV関連認知症、ケネディ病、クラッベ病、レヴィー小体型認知症、神経ボレリア症、マシャド・ジョセフ病(3型脊髄小脳失調)、多系統萎縮症、多発性硬化症、ナルコレプシー、ニーマン・ピック病、パーキンソン病、ペリツェウス・メルツバッハー病、ピック病、原発性側索硬化症、プリオン病、進行性核上性麻痺、レフサム病、サンドホフ病、シルダー病、悪性貧血に続発する脊髄亜急性連合性変性症、シュピールマイアー・フォークト・シェーグレン・バッテン病(バッテン病としても知られる)、脊髄小脳失調、脊髄性筋萎縮症、スティール・リチャードソン・オルスゼフスキー病、脊髄癆、中毒性脳症が挙げられるがこれらに限定されない。
【0165】
Zscan4のES細胞またはiPS細胞は、本明細書に記載される方法を用いて得ることができるかまたは作製することができる。ES細胞またはiPS細胞を哺乳動物被験体に投与する方法は、当該分野で公知である。例えば、Zscan4のES細胞またはiPSは、そのような治療を必要とする被験体に注入(例えば、皮下、筋肉内、皮内、腹腔内、静脈内または動脈内投与)を介して投与され得る。いくつかの例において、Zscan4のES細胞またはiPS細胞は、処置を必要とする領域(例えば、がんの器官もしくは組織、または脳もしくは脊髄)に直接投与される。いくつかの例において、Zscan4のES細胞またはiPS細胞は、薬学的に許容され得るキャリア(例えば、好適な重合体に封入されているキャリア)の存在下またはその他の治療薬の存在下において単独で投与される。いくつかの態様において、被験体には、少なくとも20,000個のZscan4ES細胞(例えば、少なくとも50,000個、少なくとも100,000個、少なくとも500,000個、少なくとも1,000,000個または少なくとも2,000,000個のZscan4ES細胞)が投与される。
【0166】
一つの例において、Zscan4のES細胞またはiPS細胞は、半透性重合体膜に封入され、その重合体膜は、宿主被験体の組織部位に移植される。そのような方法は、物質の放出を調節する能力を有する治療用物質の局所的な長期間にわたる長期的な送達を達成し得る。化合物および細胞の封入に関する説明については、米国特許第5,573,528号を参照のこと。一つの態様において、Zscan4ES細胞は、重合体膜内に封入される。次いで、その封入重合体膜は、宿主被験体の組織部位に移植される。一つの例において、その組織部位は、脳または脊髄のような中枢神経系である。
【0167】
上記半透性重合体膜は、合成のものまたは天然のものであり得る。使用され得る重合体の例としては、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリアクリロニトリル−co−塩化ビニル(P[AN/VC]、ポリ(乳酸)、ポリ(乳酸−co−グリコール酸)、メチルセルロース、ヒアルロン酸、コラーゲンなどが挙げられる。重合体膜内に封入されたZscan4ES細胞の送達は、細胞に対する宿主の拒絶反応および免疫応答、ならびに拒絶反応および炎症に関連する問題を回避し得る。さらに、重合体膜内に含まれる細胞は、なおも細胞の生存能を維持しつつ、かつ重合体の壁(すなわち、個別の繊維、小繊維、フィルム、スプレー、液滴、粒子などの壁)を越えて分子、栄養分および代謝産物の輸送を可能にしつつ、その重合体の壁によって免疫監視機構から守られている。重合体に封入されている細胞の移植術は、Aebischerら、1991,Transplant,111:269−275によって開発され、非ヒト霊長類とヒトの両方において使用に成功している(Aebischerら、1994,Transplant,58:1275−1277)。米国特許第6,110,902号もまた参照のこと。
【0168】
一つの例において、Zscan4のES細胞またはiPS細胞は、まずそれらの細胞をコラーゲン、アガロースまたはPVA(ポリビニルアルコール)のマトリックスに包埋することによって、封入される。続いて、包埋された細胞を、ポリアクリルニトリル:ポリ塩化ビニルの60:40共重合体のポリプロピレンで作製された中空糸の中に注入する。その繊維を小片に切断し、移植にむけて末端を塞ぐ。一つの例において、封入された細胞は、約20,000〜約2,000,000個のZscan4ES細胞を有する。
【0169】
いくつかの例において、Zscan4のES細胞またはiPS細胞は、外来性起源のものである。「外来性」という用語は、処置のために細胞が移植される被験体以外の供給源から得られた細胞を意味する。外来性細胞は、同じ種の他の生物からの細胞であり得る(例えば、ヒト患者において使用するためのヒトに由来する細胞)。外来性細胞は、異種の供給源、すなわち、治療的に処置される被験体とは異なる種からの細胞でもあり得る(例えば、ヒトにおいて使用するためのマウス細胞)。Zscan4のES細胞またはiPS細胞は、同遺伝子系の供給源、すなわち、それらの細胞を投与される被験体から採取された細胞でもあり得る。被験体から細胞を回収した後、その細胞は、遺伝子改変され得る(例えば、Zscan4をコードする核酸が導入される)か、またはZscan4のES細胞またはiPS細胞について選択/富化され、次いでその被験体に再移植され得る。それらの細胞は同遺伝子系であるので、免疫応答は予想されない。
【0170】
一つの局面において、Zscan4のES細胞またはiPS細胞は、不死化される。限定のつもりではなく例えば、細胞は、当該分野で周知の方法によって、条件付きで不死化され得る(それらの細胞は、低温での組織培養ではよく成長するが、いったん患者に移植され、37℃で維持されると分裂を中止する)かまたは恒常的に不死化され得る(例えば、ラージT抗原を発現する構築物でのトランスフェクション、またはエプスタイン・バーウイルスによる不死化)。
【0171】
Zscan4のES細胞またはiPS細胞を宿主被験体に送達するもう一つの方法は、それらの細胞を組織部位の標的領域に直接移植することである。これらの細胞は、いったん移植されると、生存し、移動し、途切れなく宿主組織に入り込む。一つの例において、Zscan4のES細胞またはiPS細胞は、宿主被験体の神経系(例えば、発生中の神経系、または外傷を受けたもしくは神経障害を有する被験体内の神経系)に直接移植される。Zscan4ES細胞は、発生中の神経系に移植されるとき、正常な発生のプロセスに参加し、宿主の発生上のキュー(cue)に応答する。移植された神経前駆細胞は、確立された移動経路に沿って移動し、神経系の散在した区域に広く広がり、時間的および領域的に適切な様式で、宿主の発生プログラムに合わせてニューロン系統とグリア系統の両方から子孫に分化する。移植されたZscan4のES細胞またはiPS細胞は、宿主の神経前駆細胞ならびに分化した細胞と非破壊的に混ざり合うことができる。移植された細胞は、欠陥のある特定のニューロン細胞またはグリア細胞の集団を置換し得、不完全な機能を回復し得、広範な分布において外来遺伝子を発現し得る。
【0172】
Zscan4のES細胞またはiPS細胞は、発達した神経系にも移植され得る。移植される神経前駆体は、安定な移植片を形成し得、宿主神経系内を移動し得、宿主の神経前駆細胞および分化した細胞と混ざり合い、それらと相互作用し得る。それらは、欠陥のある特定のニューロン細胞集団またはグリア細胞集団を置換し得、欠陥のある機能を回復させ得、宿主の神経系における再生および治癒のプロセスを活性化し得る。一つの例において、安定な移植片は、中枢神経系または末梢神経系において確立された移植片である。
【0173】
同様の方法を用いることにより、ES細胞治療を必要とする任意の領域にZscan4のES細胞またはiPS細胞を直接移植することができる。そのような細胞は、未分化であってもよいし、インビトロにおいて所望の細胞型に分化されていてもよい(次いで、それを必要とする被験体に投与される)。例えば、器官の再生が望まれる場合、例えば、がんを処置するために除去されたまたはその他の理由のために失われた器官または組織(例えば、歯、毛、耳もしくは眼の細胞、皮膚または筋肉)の置換のため。一つの例において、Zscan4のES細胞またはiPS細胞は、例えば、心筋梗塞のために失われた心臓の組織または細胞を再生するために、心臓に直接移植される。一つの例において、Zscan4のES細胞またはiPS細胞は、例えば、糖尿病を有する被験体における細胞を再生するために、膵臓に直接移植される。一つの例において、Zscan4のES細胞またはiPS細胞は、例えば、がんを有する被験体における骨髄細胞を再生するために、骨に直接移植されるか、または全身投与される。
【0174】
患者の処置にとって最も適切な治療用量および治療レジメンは、処置される疾患または状態によって、ならびに患者の体重およびその他のパラメータに従って、変化する。効果的な投薬および処置プロトコルは、従来の手段によって、実験動物における低用量から開始し、次いで、その効果をモニターしながら投薬量を増加し、および計画的に投与レジメンを変更して、決定され得る。所与の被験体に対する最適な投薬量を決定するとき、数多くの因子が臨床医によって考慮され得る。因子としては、患者のサイズ、患者の年齢、患者の全般的な状態、処置される特定の疾患、疾患の重症度、患者におけるその他の薬物の存在などが挙げられる。試用投薬量は、動物試験の結果および臨床文献を考慮した後に選択される。
【0175】
したがって、Zscan4のES細胞またはiPS細胞は、特定の障害に関連する症状を減少させるかまたは回復させるために、被験体に投与される。がんの処置に対する治療上のエンドポイントとしては、腫瘍のサイズもしくは体積の減少、腫瘍への新脈管形成の減少、または腫瘍の転移の減少が挙げられ得る。腫瘍が除去された場合、もう一つの治療上のエンドポイントは、除去された組織または器官の再生であり得る。がんの処置の有効性は、当該分野における方法、例えば、腫瘍のイメージング、または腫瘍マーカーもしくはがんの存在のその他の指標の検出を用いて測定され得る。自己免疫疾患の処置に対する治療上のエンドポイントとしては、自己免疫性応答の減少が挙げられ得る。自己免疫疾患の処置の有効性は、当該分野における方法、例えば、自己免疫性抗体の測定を用いて測定され得、ここで、処置された被験体におけるそのような抗体の減少は、その治療が成功であることを示す。神経変性障害の処置に対する治療上のエンドポイントとしては、神経変性に関する欠陥の減少、例えば、運動、記憶または行動上の欠陥の増加が挙げられ得る。神経変性障害の処置の有効性は、当該分野における方法を用いて、例えば、認知障害を測定することによって、測定され得、ここで、処置された被験体におけるそのような機能障害の減少は、その治療が成功であることを示す。神経損傷の処置に対する治療上のエンドポイントは、損傷に関する欠陥の減少、例えば、運動、記憶または行動上の欠陥における増加が挙げられ得る。神経損傷の処置の有効性は、当該分野における方法を用いて、例えば、可動性および柔軟性を測定することによって、測定され得、ここで、処置された被験体におけるそのような点の増加は、その治療が成功であることを示す。処置は、100%の有効性を要求しない。例えば、Zscan4のES細胞またはiPS細胞で処置されない場合と比べたときの、疾患(またはその症状)の少なくとも約10%、約15%、約25%、約40%、約50%またはそれより多くの減少は、有効であると考えられる。
【0176】
いくつかの例において、Zscan4のES細胞またはiPS細胞は、マウスもしくはその他の小型哺乳動物においては約1×10細胞〜約1×10細胞の用量で、またはヒトもしくはその他の大型哺乳動物においては約1×10細胞〜約1×1010細胞の用量で、投与される。一つの特定の非限定的な例において、治療有効量は、約1×10細胞である。処置される被験体において所望の効果を達成するために、その他の治療薬(例えば、化合物、小分子またはペプチド)が、Zscan4ES細胞と組合わせてb(例えば、すぐ前もしくは後で、または同時に)治療的に有効な用量で投与され得る。有効量のZscan4ES細胞が、単回投与で、または数回の投与、例えば、処置期間中における毎日の投与で投与され得る。しかしながら、当業者は、Zscan4ES細胞の有効量が、適用される薬剤、処置される被験体、苦痛の重症度およびタイプ、ならびに薬剤の投与様式に依存することを認識する。
【0177】
IX.Zscan4ポリペプチドおよびポリヌクレオチドの使用
Zscan4の発現が、ゲノム安定性を高め、DNA損傷から細胞を保護し、DNA修復を促進することが本明細書に開示される。したがって、がんを有する被験体にZscan4ポリペプチドまたはポリヌクレオチドを投与することによってその被験体を処置する方法が本明細書に提供される。いくつかの態様において、その方法は、そのような治療を必要とする患者(例えば、がんと診断されている被験体)を選択する工程をさらに包含する。
【0178】
本明細書に開示される方法のいくつかの態様において、被験体には、Zscan4ポリヌクレオチドが投与される。いくつかの例において、被験体には、Zscan4ポリヌクレオチドを含むベクターが投与される。Zscan4を発現するベクターを作製および使用する方法は、本願の他の項に記載される。いくつかの場合において、Zscanポリヌクレオチド(またはZscan4ポリヌクレオチドを含むベクター)が、注入などによって腫瘍細胞に、腫瘍組織に直接投与される。
【0179】
その他の態様において、被験体には、Zscan4ポリペプチドが投与される。いくつかの例において、Zscan4ポリペプチドは、腫瘍細胞へのZscan4ポリペプチドの送達を助けるナノ粒子によって封入される。開示される方法とともに使用するために適したナノ粒子は、当該分野で公知であり、下記に記載される。
【0180】
ナノ粒子は、迅速な放出または制御された放出のための、封入される薬物(例えば、合成小分子、タンパク質、ペプチドおよび核酸に基づく生物治療薬(biotherapeutics))を保持し得るサブミクロン(約1000nm未満)のサイズの薬物送達媒体である。種々の分子(例えば、タンパク質、ペプチドおよび核酸分子)が、当該分野で周知のプロセスを用いてナノ粒子内に効率的に封入され得る。
【0181】
本明細書に記載される組成物および方法とともに使用するためのナノ粒子は、任意のタイプの生体適合性ナノ粒子(例えば、生分解性ナノ粒子、例えば、ポリマーナノ粒子(ポリアミド、ポリカーボネート、ポリアルケン、ポリビニルエーテル類およびセルロースエーテルナノ粒子が挙げられるがこれらに限定されない))であり得る。いくつかの態様において、ナノ粒子は、生体適合性かつ生分解性の材料で作製される。いくつかの態様において、ナノ粒子には、ポリ(乳酸)もしくはポリ(グリコール酸)、またはポリ(乳酸)とポリ(グリコール酸)の両方を含むナノ粒子が含まれるが、これらに限定されない。特定の態様において、ナノ粒子は、ポリ(D,L−乳酸−co−グリコール酸)(PLGA)ナノ粒子である。
【0182】
PLGAは、吸収性縫合糸および生分解性移植片として使用されている、FDAによって承認されたバイオマテリアルである。PLGAナノ粒子は、数多くの投与経路(皮下、静脈内、眼球、経口および筋肉内が含まれるがこれらに限定されない)を介した種々の薬物のための薬物送達系においても使用されている。PLGAは、天然の代謝副産物である、その単量体成分の乳酸およびグリコール酸に分解されることから、その材料は高度に生体適合性である。さらに、PLGAは、ナノ粒子を合成するための臨床的等級の材料として商業的に入手可能である。
【0183】
その他の生分解性のポリマー材料(例えば、ポリ(乳酸)(PLA)およびポリグリコリド(PGA))が、本明細書に記載される組成物および方法とともに使用するために企図される。さらなる有用なナノ粒子としては、生分解性ポリ(アルキルシアノアクリレート)ナノ粒子(Vauthierら、Adv.Drug Del.Rev.55:519−48,2003)が挙げられる。経口吸着もまた、粘膜付着性のカチオン性重合体であるキトサンでコーティングされたポリ(ラクチド−グリコリド)ナノ粒子を用いて促進され得る。そのようなナノ粒子の製造は、例えば、Takeuchiら(Adv.Drug Del.Rev.47:39−54,2001)によって報告されている。
【0184】
ヒトにおける適用のために現在使用されている生分解性重合体のうち、PLA、PGAおよびPLGAは、インビボにおいて、無害な乳酸およびグリコール酸への加水分解を受けるので、広く安全であることが知られている。これらの重合体は、手術後の除去を必要としない縫合糸を作製する際、およびヒトでの使用についてFDAが承認した封入された酢酸ロイプロリドを製剤化する際に使用されている(Langer and Mose,Science 249:1527,1990);Gilding and Reed,Polymer 20:1459,1979;Morrisら、Vaccine 12:5,1994)。これらの重合体の分解速度は、そのグリコリド/ラクチド比およびその分子量によって様々である。ゆえに、封入されている分子(例えば、タンパク質またはペプチド)の放出は、その重合体の分子量およびグリコリド/ラクチド比、ならびにカプセル製剤の粒径およびコーティングの厚さを調整することによって、数ヶ月にわたって持続され得る(Hollandら、J.Control.Rel.4:155,1986)。
【0185】
いくつかの態様において、本明細書に記載される組成物および方法とともに使用するためのナノ粒子は、直径が約50nm〜約1000nmのサイズ範囲である。いくつかの場合において、そのナノ粒子は、約600nm未満である。いくつかの態様において、そのナノ粒子は、直径約100〜約600nmである。いくつかの態様において、そのナノ粒子は、直径約200〜約500nmである。いくつかの態様において、そのナノ粒子は、直径約300〜約450nmである。当業者は、そのナノ粒子のサイズが、用いられる調製方法、臨床適用およびイメージング物質に応じて変動し得ることを容易に認識する。
【0186】
様々なタイプの生分解性および生体適合性のナノ粒子、そのようなナノ粒子(PLGAナノ粒子を含む)を作製する方法、ならびに種々の合成化合物、タンパク質および核酸を封入する方法は、当該分野において十分に報告されている(例えば、米国特許出願公開番号2007/0148074;米国特許出願公開番号20070092575;米国特許出願公開番号2006/0246139;米国特許第5,753,234号;米国特許第7,081,489号;およびPCT国際公開番号WO/2006/052285を参照のこと)。
【0187】
以下の実施例は、ある特定の特色および/または態様を例証するために提供される。これらの実施例は、記載される特定の特色または態様に本開示を限定すると解釈されるべきでない。
【実施例】
【0188】
実施例1:実験手法
ES細胞培養
129S6/SvEvTacに由来するMC1 ES細胞(Olsonら、Cancer Res 63,6602−6606,2003)を、Johns Hopkins University School of Medicine,Baltimore,MD,USAのTransgenic Core Laboratoryから購入した。R26R3 ES細胞(Sorianoら、Nat.Genet.21:70−71,1999)を、親系統として使用して、系統追跡実験のためにpZscan4−CreERT2細胞を作製した。通常は、全てのES細胞系を、さらなる実験の前に、ゼラチンコートフィーダー不含プレートで2回の継代にわたって培養し、続いて、完全ES培地:DMEM(Gibco)、15%FBS(Atlanta Biologicals);1000U/mlの白血病抑制因子(LIF)(ESGRO,Chemicon);1mMピルビン酸ナトリウム;0.1mM非必須アミノ酸;2mM GlutaMAXTM;0.1mMベータ−メルカプトエタノール;およびペニシリン/ストレプトマイシン(50U/50μg/ml)が入った、ゼラチンコート6ウェルプレートにおいて維持した。全ての細胞系について、培地を毎日交換し、細胞を2〜3日ごとに通例どおりに継代した。
【0189】
pZscan4−Emeraldベクターの構築
Zscan4cの開始メチオニンに対して3563bp上流にわたるゲノム領域を、推定上のZscan4プロモーターとして選択した。このDNA領域を、5’末端におけるMluI切断配列で修飾した順方向プライマー
【0190】
【化2】

および逆方向プライマー
【0191】
【化3】

を使用し、高忠実度TITANIUMTMTaq(Clontech)を用いてBAC RP23−63I1から増幅した。続いて、そのPCR産物をpCDNA6.2/C−EmGFP TOPOTMベクター(Invitrogen)にクローニングした。Zscan4プロモーター領域のクローニングの前に、配列が確認されたプラスミドDNAをMluI消化によって直鎖化した(それにより、サイトメガロウイルスプロモーターも除去した)。得られたベクターのヌクレオチド配列は、配列番号38として示されている。
【0192】
pZscan4−Emerald ES細胞およびpZscan4−CreERT2細胞の作製
MC1 ES細胞(pZscan4−Emeraldトランスフェクション用)およびR26R6 ES細胞(pZscan4−CreERT2トランスフェクション用)を、6ウェルプレート内のゼラチン上で生育し、EffecteneTM(QIAGEN)を製造者のプロトコルに従って使用して、懸濁物中の5×10細胞を1μgの直鎖化されたpZscan4−EmeraldベクターまたはpZscan4−CreERT2ベクターでトランスフェクトし、ゼラチンコート100mmディッシュで培養した。5μg/mlのブラスチシジンを用いて細胞を選択し、8日目にコロニーを拾い、増やし、さらなる解析のために凍結した。
【0193】
pZscan4−Emerald ES細胞の選別
細胞を少なくとも2時間にわたって育てた(fed)後、AccutaseTM(Chemicon)によって回収し、1%FBSおよび1000U/mlのLIFを含む25mM HEPES緩衝液(Chemicon)を含むIscove変法ダルベッコ培地(IMDM)に再懸濁した。細胞を、Emerald強度に従ってFACSによって選別した。全ての実験について、同じゲーティングを使用した。それらの細胞を、35%血清、1mMピルビン酸ナトリウム、2mM GlutaMAXTM、100μM β−メルカプトエタノール、100U/mlのペニシリン、100μg/mlのストレプトマイシン、0.1mM非必須アミノ酸および1000U/mlのLIFを含むIMDM中に選別した。マイクロアレイ実験のために、選別した直後に製造者のプロトコルに従ってTRIZOLTM(Invitrogen)によってRNAを回収した。
【0194】
二重蛍光RNAインサイチュハイブリダイゼーション
ジゴキシゲニン(DIG)標識RNAプローブおよびビオチン(BIO)標識RNAプローブを、RNA Labeling Mix(Roche)を用いて、PCR産物の鋳型から転写した。エタノール沈殿させたプローブを、水に再懸濁し、2100 BioanalyzerTM(Agilent Technologies)においてRNA 6000 Nano Assayによって定量した。細胞(10細胞/ウェル)をガラスチャンバースライドに播き、3日間培養し、パラホルムアルデヒド(PFA)で固定し、0.5%TritonX−100で透過処理した。細胞を洗浄し、ハイブリダイゼーション溶液中、60℃において12時間にわたって1μg/mlのDIGプローブおよびBIOプローブとともにインキュベートした。プローブを、マウス抗DIG抗体およびヒツジ抗BIO抗体によって検出し、フルオロフォア結合体化二次抗体によって可視化した。核をDAPI(青色)で染色した。
【0195】
pZscan4−CreERT2a Zscan4系統追跡ベクターの構築
pCre−ERT2 ORFを、pBluescriptIISK(+)プラスミドのEcoRI部位にサブクローニングした(Feilら、Biochem.Biophys.Res.Commun.237:752−7,1997)。続いて、Zscan4cプロモーターのPCR断片を、Cre−ERT2 ORFの5’末端に位置するEcoRVとEcoRIとの間に平滑末端ライゲーションによってサブクローニングした。次いで、Zscan4cプロモーター−Cre−ERT2を含むSalI−NotI断片を、pEF6/V5−His−TOPOTMのHindIII−PmeI断片に平滑末端ライゲーションによってサブクローニングした。
【0196】
pZscan4−CreERT2系を用いたZscan4を発現している細胞の運命の追跡
pZscan4−CreERT2 ES細胞を、100nMタモキシフェンを含む標準ES培地中で生育させた。継代1、2、3、4および9代目における生物学的な三つ組を、市販のキット(Chemicon)を製造者のプロトコルに従って使用してベータ−ガラクトシダーゼについて染色した。さらに、タモキシフェンの存在下においてより長い期間にわたって維持された細胞を、継代1、2、3および4代目で回収し、DetectaGeneTM Green CMFDG LacZ Gene Expressionキット(Invitrogen)を用いてベータ−ガラクトシダーゼについて染色し、CytoSoft4.1ソフトウェア(Guava Technologies)とともにGuava EasyCyte Miniフローサイトメトリーシステムを用いて解析した。
【0197】
胚様体の分化を介したZscan4系統の追跡
胚様体(EB)形成アッセイにおける系統追跡のために(Doetschmanら、J.Embryol.Exp.Morphol.87:27−45,1985)、pZscan4−CreERT2 ES細胞を、100nMタモキシフェンを含む完全培地中にて3日間ゼラチン上で生育させ、回収し、そして4×10個のESを、タモキシフェンを含まないLIF不含培地が入った100mmの細菌学的Ultra−Low Culture Dish(Corning)で培養することにより、浮遊EBを形成させた。7日目に、浮遊EBを回収し、タモキシフェンを含まないLIF不含培地が入った、ゼラチンコート6ウェルプレートで培養することにより、接着を可能にした。11日目に、拍動している領域を記録し、続いて、細胞をLacZ染色および免疫組織化学にむけて4%PFA中で固定した。
【0198】
定量的逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応(qRT−PCR)
RNAを、生物学的な三つ組でTRIZOLTM(Invitrogen)によって細胞から単離した。1反応あたり100ngのオリゴdTプライマー(Promega)を使用して、全RNA(1μg)を製造者のプロトコルに従ってSuperscript IIIによって逆転写した。qPCRについては、SYBRグリーンマスターミックス(Applied Biosystems)を製造者のプロトコルに従って、96ウェルの光学プレート、1ウェルあたり25μlの総反応体積および10ngのcDNAとともに、使用した。プレートを7900HTまたは7500システム(Applied Biosystems)において実行した。別段述べられない限り、正規化するものとしてH2Aを使用して、ΔΔCt法(Livak and Schmittgen,Method.Methods 25:402−8,2001)によって誘導倍率を計算した。
【0199】
マウス着床前胚におけるRNA単離、cDNA調製およびqPCR解析
5IUの妊娠ウマ血清ゴナドトロピン(PMSG;Sigma)および5IUのヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG;Sigma)を用いて、4〜6週齢のB6D2F1雌マウスを過排卵させた。qRT−PCR実験用の卵または胚を、MII胚、1細胞胚、初期および後期2細胞胚、4細胞胚、8細胞胚、桑実胚ならびに胚盤胞胚について、それぞれhCG注入の20、23、30、43、55、66、80および102時間後に回収した。3セットの10個の同調卵または同調胚を液体窒素中に保管し、cDNA調製用鋳型にするために凍結/融解工程によって機械的に破裂させた。オリゴdTプライマーおよびSuper Script III逆転写酵素(Invitrogen)を製造者の指示書に従って使用した。ABI7500 Fast Real Time PCRシステム(Applied Biosystems)において解析を行った。qPCRプライマー配列のリストを下記の表1に示す。データを、ΔΔCt法(Falcoら、Reprod.Biomed.Online 13:394−403,2006;Livak and Schmittgen,Method.Methods 25:402−8,2001)を用いてChukによって正規化した。
【0200】
表1
qPCRプライマー配列
【0201】
【表1】

Vector NTIソフトウェア(Invitrogen,Carlsbad,CA)を用いてプライマーを設計し、以前に記載されたように(Falcoら、Reprod.Biomed.Online 13:394−403,2006)Syber Green PCR Master Mix(Applied Biosystem,Foster City,CA)とともに卵巣cDNA混合物を用いて試験した。
【0202】
ROSA/Emptyノックイン親細胞クローンの作製
MC1 ES細胞をフィーダー上で生育させ、3日目に回収した。Gene Pulser XcellTMエレクトロポレーションシステム(BioRad)を使用して、26μgの直鎖化されたpMWRosaTcHベクターで細胞(10個)をエレクトロポレートした。続いて細胞を、ゼラチンコートフィーダー不含プレートで培養した。100μg/mlのハイグロマイシンを用いて細胞を10日間にわたって選択した。17個の耐性コロニーを拾い、ランダムプライムド32P標識外部プローブおよびランダムプライムド32P標識内部プローブを用いたサザンブロットによってノックインを確認した(Masuiら、Nucleic Acids Res.33:e43,2005)。
【0203】
ROSA/Tet−off Zscan4−Flag標的化ベクターの構築、ならびにtet−Zscan4c細胞およびtet−Empty細胞の作製
骨格のpZhcSfiプラスミド(Masuiら、Nucleic Acids Res.33:e43,2005)を修飾し、Zeocin耐性遺伝子をピューロマイシン耐性遺伝子で置き換えた。PGKpAをpIRESpuro3(Clontech)由来のSV40pAで置き換え、マルチクローニングサイトに挿入した。Zscan4c ORF断片をPCRによって増幅し、修飾pZhcSfiにサブクローニングした。6xHis−FLAGエピトープタグ配列を、LoxPVの5’末端に挿入することにより、Zscan4cに融合されたC末端エピトープタグに隣接させた。Zscan4cのORFを配列決定によって確認した。EffecteneTM(QIAGEN)を製造者の指示書に従って使用して、Zscan4c ORFを有する修飾pZhcSfiおよびpCAGGS−CreプラスミドでMC1 Rosa26ノックイン親ES細胞を同時トランスフェクトし、ドキシサイクリン(0.2μg/ml)の存在下においてピューロマイシンによって選択した。クローンを単離し、その後、tet−Zscan4c細胞と名付けた。上記ORFを有しない修飾pZhcSfiを用いることにより、tet−Emptyコントロール細胞を確立した。
【0204】
RNAインサイチュハイブリダイゼーション
以前に報告されているように(Carterら、Gene Expr.Patterns 8:181−198,2008)、インサイチュハイブリダイゼーションを行った。簡潔には、ドキシサイクリンの存在下または非存在下において3日間生育させた三つ組のtet−Zscan4c細胞を、4℃において一晩、4%PFA中で固定した。細胞をプロテイナーゼKで消化した後、細胞を1μg/mlのジゴキシゲニン標識リボプローブと62℃において一晩ハイブリダイズさせた。次いで、細胞を洗浄し、ブロッキングし、アルカリホスファターゼ結合体化抗ジゴキシゲニン抗体とともにインキュベートし、そしてNBT/BCIP検出緩衝液とともに30分間インキュベートした。
【0205】
Zscan4ノックダウンベクターの構築
Zscan4ノックダウン実験にむけて、Zscan4遺伝子由来の4つの異なる19マー(mer)配列を、19マーのセンスオリゴ、ヘアピンループおよび同じ配列のアンチセンスを有する、Zscan4に対するshRNAとして設計した。最も効果的な配列は:プライマー順方向:
【0206】
【化4】

プライマー逆方向:
【0207】
【化5】

だった。
【0208】
GeneSilencer U6−GFP PCRキット(Gelantis)を製造者のプロトコルに従って用いて、shRNAを増幅した。それらのshRNAは、外来性Zscan4の発現によるレスキューを可能にするZscan4cおよびZscan4dパラログの3’−UTRにおける共有配列を標的にすることを目的としていた。最初に、tet−Zscan4c細胞を、製造者のプロトコルに従ってEffecteneTM(QIAGEN)によって一過性にトランスフェクトし;GFPをトランスフェクション効率に対するレポーター(reported)遺伝子として使用した。ハイグロマイシンを用いて細胞を選択し、クローンを単離することにより、Zscan4ノックダウン細胞およびZscan4レスキュー細胞を確立した。レスキューを達成するために、細胞を、Doxを含まない完全ES培地とともに3日間インキュベートした。
【0209】
RNAを単離した;cDNAを記載されているように作製し、qPCRによって試験してZscan4の発現を測定した。
【0210】
マイクロアレイ解析
pZscan4−Emerald細胞のDNAマイクロアレイ解析を、記載されているように(Aibaら、DNA Res.16:73−80,2009)行った。簡潔には、ユニバーサルマウス参照RNA(Stratagene)を、Cy5色素で標識し、Cy3標識試料と混合し、NIA Mouse 44K Microarray v2.2(Carterら、Genome Biol.6:R61,2005)(Agilent Technologiesが製造、#014117)におけるハイブリダイゼーションのために使用した。各遺伝子機能(gene feature)に関する強度を、Feature Extraction 9.5.1.1ソフトウェア(Agilent Technologies)を用いて、スキャンされたマイクロアレイイメージから抽出した。ANOVAおよびその他の解析を行うために開発されたアプリケーション(NIA Array Analysisソフトウェア;lgsun.grc.nia.nih.gov/ANOVA/を参照のこと)(Sharovら、Bioinformatics 21:2548−9,2005)を使用することによって、マイクロアレイデータの解析を行った。全てのDNAマイクロアレイデータは、NCBI Gene Expression Omnibus(GEO,http://www.ncbi.nlm.nih.gov/geo/)に寄託されており、GEO Seriesアクセッション番号(GSE#15604)およびNIA Array Analysisソフトウェアウェブサイト(lgsun.grc.nia.nih.gov/ANOVA/)(Sharovら、Bioinformatics 21:2548−9,2005)を介してアクセス可能である。
【0211】
Zscan4抗体の作製
ポリクローナルウサギ抗Zscan4抗体(Genescript)を、製造者のプロトコルに従って、Zscan4のN末端エピトープ:LQTNNLEFTPTDSSC(配列番号39)に対して作製した。
【0212】
テロメア定量的蛍光インサイチュハイブリダイゼーション(Q−FISH)
全ての細胞を、ドキシサイクリンを含む完全ES培地中で維持した。Zscan4誘導のために、合計3日間にわたってその培地からドキシサイクリンを除去した。培地を毎日交換した。3日目に、培地にコルセミド0.1μg/ml(Invitrogen)を補充し、4時間インキュベートすることにより、細胞を分裂中期において停止させた。低張性0.075M KCl緩衝液を試料に加え、次いで、細胞を3:1比の冷メタノール:酢酸中で固定した。分裂中期スプレッドを調製した。製造者のプロトコルに従ってテロメアペプチド核酸(PNA)FISHキット/Cy3(DakoCytomation)によって、テロメアFISHを行った。染色体を0.5μg mlのDAPIで染色した。染色体およびテロメアを、Cy3−DAPIフィルターセットを備えたZeiss顕微鏡においてデジタル画像化した。テロメア長の定量的測定のために、TFL−TELOソフトウェア(Poonら、Cytometry 36:267−278,1999)によってテロメアのサイズおよび蛍光強度を評価した。
【0213】
テロメア染色体配向FISH(CO−FISH)
染色分体配向(CO)−FISH解析を、いくつかの軽微な修飾を行って以前に報告されているように(Baileyら、Mutagenesis 11:139−44,1996;Goodwin and Meyne,Cytogenet.Cell.Genet.63:126−7,1993)行った。簡潔には、ES細胞を3日間の誘導のためにDox+またはDox−条件のいずれかにおいて生育した。培地を毎日交換した。3日目に、5’−ブロモ−2’−デオキシウリジン(BrdU)を12時間加えることにより、1回の細胞周期に対してBrdUの取り込みを可能にさせた。最後の4時間にわたって、コルセミド0.1μg/mlを加えた。分裂中期スプレッドを調製した。スライドを、0.5μg/mlのHoechst33258(Sigma)で染色し、2×食塩水−クエン酸ナトリウム(SSC)緩衝液中、室温において20分間洗浄し、McIlvaine緩衝液(pH8.0)を載せ、365nmの紫外(UV)光(Stratelinker 1800 UV照射器)に30分間曝した。BrdUで置換されたDNAを、室温において10分間、3単位/μlのエキソヌクレアーゼIII(Promega)で消化した。変性工程なしで、3’−Cy3結合体化(TTAGGG)(配列番号23)によってリーディング鎖のテロメアを明らかにし、37℃で一晩インキュベートした。染色体を1μg/mlのDAPI(Vector Laboratories)で対比染色した。
【0214】
定量的リアルタイムPCRによるテロメアの測定
ゲノムDNAを10個の細胞から抽出し、Nanodropによって定量化した。以前に報告されているように(Callicott and Womack,Comp.Med.56:17−22,2006)、リアルタイムPCRアッセイを用いて、平均テロメア長比を全ゲノムDNAから測定した。テロメアのプライマー、コントロール単一コピー遺伝子Rplp0および以前に報告されているようなPCR設定(同文献)を用いて、Prism 7500 Sequence Detection System(Applied Biosystems)においてPCR反応を行った。既知量のDNAの100ngから3.125ngまでの段階希釈によって、その参照遺伝子に対して検量線を作成した。テロメアのシグナルをRplp0に対して正規化することにより、相対的なテロメア長を示すT/S比を得た。
【0215】
テロメラーゼ活性の測定
ドキシサイクリンの存在下(Dox+)または非存在下(Dox−)の完全ES培地が入った、ゼラチンコートディッシュにおいて細胞を三つ組で3日間培養した。複製物1つあたり10個の細胞から細胞溶解産物を調製した。TRAPEZETM Telomerase Detection Kit(Millipore)を製造者の指示書に従って使用するテロメア反復増幅プロトコル(TRAP)アッセイによって、テロメラーゼ活性を測定した。
【0216】
核型解析
ES細胞培養物を、2時間にわたって0.1μg/mlのコルセミド(Invitrogen)で処理することにより、分裂中期での停止を誘導した。分裂中期染色体スプレッドを調製し、20分間にわたって0.3%Giemsa試薬で染色し、試料1つあたりn≧40分裂中期に対して染色体を数えた。ノックダウン細胞およびコントロール細胞に対する結果を、テロメアFISHによって解析された細胞におけるDAPI染色によっても確認した。
【0217】
姉妹染色分体交換(SCE)アッセイ
SCEアッセイを、以前に報告されているように(Perry and Wolff,Nature 251:156−8,1974)行った。簡潔には、マウスES細胞を、ドキシサイクリンを含む完全ES培地中で維持した。Zscan4誘導のために、合計3日間にわたってその培地からドキシサイクリンを除去した。最後の24時間にわたって、BrdUを含む培地を加えて、その細胞の2回の細胞周期を完了させた。最後の4時間にわたって培地に0.1μg/mlのコルセミドを補充することにより、細胞を分裂中期で停止させた。分裂中期スプレッドを調製し、SCE解析のために用いた。その実験については、試料1つあたりn>50分裂中期においてSCEを数え、試料1つあたり3〜4回の独立した実験を繰り返した(合計n>150分裂中期)。
【0218】
免疫蛍光染色解析
滅菌したカバーガラスの上の24ウェルプレートで細胞を培養した。複製物をドキシサイクリン培地(Dox+)中で維持し、3つの複製物については、Zscan4の過剰発現を誘導するために、3日間にわたってドキシサイクリンを除去した(Dox−)。培地を毎日交換した。細胞を室温において10分間、4%PFAで固定するか、または上に記載したような分裂中期スプレッドのために用いた。PFA中の細胞を0.25%NP−40で10分間にわたって透過処理した。細胞を1%BSA、10%FBSおよび0.2%サポニン中、室温において10分間ブロッキングし、ブロッキング溶液中の一次抗体:抗FLAG抗体1:1000希釈、抗ZSCAN4 1:400、抗SPO11 1:200、抗DMC1 1:200、抗TRF1 1:500、抗TRF2 1:400とともに4℃において一晩インキュベートした。陰性コントロールとして、一次抗体なしで染色した細胞ならびに抗FLAG抗体で染色したDox+細胞を用いた。結合した抗体を、蛍光Alexa546二次抗体(Invitrogen)を用いてZeiss510共焦点顕微鏡下において可視化した。室温において5分間DAPI(Roche)で染色して、核を可視化した。
【0219】
実施例2:Zscan4は、未分化な状態のES細胞の5%において発現される
Zscan4のRNAインサイチュハイブリダイゼーションは、MC1マウスES細胞コロニーにおいて高度に不均一な染色パターンを示した(図1A)(Carterら、Gene Expr.Patterns 8:181−198,2008;Falcoら、Dev.Biol.307:539−550,2007)。Zscan4を発現しているES細胞を特徴付ける第1の工程として、Zscan4cプロモーター下で緑色蛍光タンパク質(GFP)−Emeraldを発現するように設計されたレポータープラスミド(図1B)を、MC1 ES細胞にトランスフェクトし、安定な形質転換体であるpZscan4−Emerald細胞を単離した。予想どおり、培養物中の少数のES細胞においてEmeraldの発現が観察されたことから、RNAインサイチュハイブリダイゼーションによって以前に観察されたものが再現された(図1C)。FACS解析から、同じ培養条件を用いたとしてもわずかに数が変動する(2〜7%)が、上記ES細胞のおよそ5%がEmerald陽性であること(図1D)が示された。FACSによって選別された細胞の定量的リアルタイム逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(qRT−PCR)解析から、Emerald(+)(Em(+))細胞ではEm(−)細胞と比べてZscan4mRNAの約1,000倍の富化が証明された。さらに、それらの細胞をそれぞれのEmerald強度に従ってサブグループに選別したとき、Emerald蛍光強度とZscan4mRNAレベルとの間に直接的な相関関係が認められた(図1E)ので、Em(+)細胞がZscan4(+)細胞でもあることが立証された。
【0220】
実施例3:Zscan4の発現は、未分化ES細胞における一過性かつ可逆的な状態を特徴付ける
Zscan4の発現が、ES細胞コロニー内の示差的な細胞型を特徴付けるかどうかを調査するために、pZscan4−Emerald細胞を、FACSによってEm(+)細胞およびEm(−)細胞に選別し、続いて、再度別々に標準ES細胞培地で培養した。Em(+)細胞とEm(−)細胞の両方が、生存可能な未分化ES細胞コロニーを確立することができた。しかしながら、FACS解析によって示されるように、培養中の24時間までに、54%のEm(+)細胞がEm(−)になったのに対し、3.3%のEm(−)細胞が、Em(+)になった(図1F)。さらに、経時的(time−lapse)実験におけるpZscan4−Emerald細胞の生細胞のイメージングから、上記2つの状態間の細胞の移行が実証され、Em(+)細胞とEm(−)細胞の両方が、適切に複製し得、不均一なEmerald発現パターンを有する新しいコロニーを確立することが確認された。ゆえに、Zscan4は、ES細胞において一過性に発現され、Zscan4(+)状態とZscan4(−)状態との間の移行は可逆的である。その一過性のZscan4(+)状態のES細胞は、本明細書において「ES−star(ES)状態」と呼ばれる。
【0221】
実施例4:ES状態は、初期胚マーカーのアップレギュレーションと関連する
ES状態を、FACSによって選別されたEm(+)細胞およびEm(−)細胞のDNAマイクロアレイ解析によってさらに特徴付けた。Em(+)細胞は、550個の差次的に発現された遺伝子とだけ、Em(−)細胞と非常に似た遺伝子発現プロファイルを示した(図1G)。多能性に関するマーカーは、Em(+)細胞ではEm(−)細胞と比べて変化しないままだったが、Tcstv1およびTcstv3(2細胞特異的転写物バリアント1および3)遺伝子(GenBankアクセッションAF067057.1;Zhangら、Nucleic Acids Res.34:4780−90,2006)が、上位20個の最も高度にアップレギュレートした遺伝子に見られた(図1H)。
【0222】
RNAインサイチュハイブリダイゼーションから、上記リスト内のその他の8個の遺伝子(Tcstv1/3、Eif1a、Pif1、AF067063、EG668777、LOC332923、BC061212およびEG627488)について「Zscan4様」発現が明らかになった(図2A)。さらに、二重標識蛍光RNAインサイチュハイブリダイゼーションから、これらの遺伝子のZscan4との同時発現が確認された(図2B)。Zscan4は、2細胞胚マーカーであるので、Em(+)細胞において最も高度にアップレギュレートした上位20個の遺伝子からの6つの遺伝子の発現プロファイルを、着床前胚においてqRT−PCRによって調べた。調べられた6つ全ての遺伝子が、2細胞胚において高発現ピークを示した;3つの遺伝子が、Zscan4のように2細胞期後期において最高ピークを示したのに対し、その他の3つは、2細胞期初期において最高の発現を示した(図2C)。まとめると、これらの結果から、初期胚プログラムのいくつかは、ES状態において再活性化されることが示される。
【0223】
実施例5:培養物中のほとんどのES細胞は、ES状態を経る
ES細胞の運命を追跡するために、Zscan4cプロモーターによって駆動されるCreERT2を有するプラスミド(Feilら、Biochem.Biophys.Res.Commun.237:752−7,1997)を、LacZオープンリーディングフレーム(ORF)内においてloxPに挟まれた(floxed)ネオマイシンカセットを有するROSA26ノックインES細胞系(Soriano,Nat.Genet.21:70−71,1999)および安定な細胞系である単離されたpZscan4−CreERT2 ES細胞にトランスフェクトした(図3A)。この系では、Cre−リコンビナーゼが、ES状態の細胞において発現され、タモキシフェンの存在下においてのみ細胞質から核に転位し、LacZ−ORFからネオマイシンカセットを切り取ることにより、構成的LacZ発現がもたらされる(図3A)。したがって、ES状態の細胞は、LacZで遺伝的に標識される。
【0224】
予想どおり、蛍光インサイチュハイブリダイゼーションでZscan4RNAについて陽性の細胞が、免疫染色によって証明されるとおり、核に局在するCre−リコンビナーゼタンパク質と共染色された(図3B)。Zscan4の発現によって特徴付けられる細胞の全集団を同定するために、pZscan4−CreERT2 ES細胞を、9回の継代(27日間)にわたってタモキシフェンの存在下において未分化な状態で継続的に維持した。それらの細胞の免疫染色解析から、Pou5f1(Oct4またはOct3/4)がLacZと共染色されることが証明されたことから、それらは、なおも未分化であることが示された(図3C)。X−gal染色によるLacZ活性の可視化から、LacZによって特徴付けられた細胞の数が、継代とともに徐々に増加し、ES細胞コロニーの大多数が、継代9代目までにLacZ陽性になることが示された(図3Dおよび3F)。これらの観察結果は、CMFDG染色(緑色蛍光LacZ基質)後のFACS解析によってさらに確認された(図3Eおよび3F)。pZscan4−Emerald ES細胞からの観察結果とまとめると、細胞運命追跡実験から、所与の時点において、5%のES細胞のみがZscan4の発現について陽性であるが、9回継代した後は、培養物中のほとんどのES細胞が、Zscan4の発現を経験する(すなわち、ES状態)ことが確認された。
【0225】
実施例6:ES状態の細胞は、インビトロおよびインビボにおいて多能性を維持する
Zscan4の発現が、ES細胞においてある特定の細胞系統の拘束をもたらすかどうかを決定するために、pZscan4−CreERT2細胞をタモキシフェンのパルスに曝した後、胚様体(EB)形成アッセイおよび接着アッセイを行った(Doetschmanら、J.Embryol.Exp.Morphol.87:27−45,2007)。EBの分化において、ES状態由来の細胞は、細胞の形態ならびに特定の系統マーカーに対する免疫染色によって判断されるとおり、3つ全ての胚性胚葉(embryonic germ layer)からの系統を含む種々の細胞型に寄与することができた(図3Gおよび3H)。
【0226】
ES状態の細胞の多能性をインビボにおいて試験するために、FACSによって選別されたEm(+)細胞を16個のマウス胚盤胞に微量注入したところ、4匹の子が得られ、そのうちの2匹が、外皮の色に基づいてキメラだった。もう一つの実験において、作製された9個の胚(E10.5)のうち8個が、PCR解析によるジェノタイピングに基づいて、キメラだった(図3I)。ゆえに、そのデータから、ES状態の細胞が、EB形成によるインビトロでの分化の後の全ての細胞系統に寄与し得、インビボにおいてキメラを形成する能力を有し得るので、それらの細胞が、インビトロおよびインビボにおいて多能性を保持することが証明される。まとめると、これらの結果は、細胞培養における生理学的なZscan4の発現が、未分化ES細胞において一過性かつ可逆的であり、それらの細胞の多能性に影響しないことを示す。
【0227】
実施例7:Zscan4cノックダウンは、継代8代目までにES細胞の細胞培養物のクライシスに導く
Zscan4の断続的な発現がES細胞にとって必須のものであるかどうかを直接試験するために、Zscan4ノックダウン細胞およびZscan4レスキュー細胞を作製した。第1に、Cre−LoxP系を使用して、Zscan4cのテトラサイクリン(tet)抑制性ORFを、マウスゲノムのROSA26遺伝子座にインテグレートすることによって、tet−Zscan4c ES細胞を作製した(Masuiら、Nucleic Acids Res.33:e4,2005)。そのtet−Zscan4c ES細胞では、IRESによってZscan4c RNAに連結されたVenusレポーター遺伝子によって、遺伝子誘導のモニタリングが可能だった。続いて、tet−Zscan4c ES細胞を、Zscan4cとZscan4dの両方に共通の3’非翻訳領域を標的にするZscan4−shRNAベクターでトランスフェクトし、正常な形態を有するES細胞クローンを単離した。この系は、ドキシサイクリンの存在下(Dox+)においてZscan4cとZscan4dの両方の発現をノックダウンし、そしてドキシサイクリン除去(Dox−)によるZscan4c−ORFの外来性のコピーを発現することによってレスキューするように、設計された。qRT−PCR解析から、Zscan4c発現の90±2.4%のダウンレギュレーションならびにZscan4d発現の70±7.0%のダウンレギュレーションが確認された(図4A)。上記細胞をDox−条件で3日間培養することにより、Zscan4c−ORF発現が5.9±0.22倍誘導されたのに対し、コントロールshRNAは、同じ親細胞においてZscan4遺伝子発現に影響しなかった。Zscan4cの誘導は、2細胞胚において主に発現されるパラログであるZscan4dのアップレギュレーションももたらしたことから、これらの2つのパラログ間の正のフィードバックが示唆される(図4A)。
【0228】
Zscan4の一過性かつ断続的な発現からの予想どおり、Zscan4ノックダウンは、ES細胞に直ちに影響せず、クローン単離の際には代表的なES細胞の形態を示した(図4B)。しかしながら、継代するにつれて、Zscan4ノックダウン細胞の集団の倍加時間は、コントロール細胞よりも長くなり、扁平な非分裂細胞が、培養物中に蓄積し始めた(図4Cおよび4D)。継代8代目(トランスフェクション後のおよそ31回の細胞倍加)の間に、細胞の大部分が、培養1〜2日後に突然死滅し、非常に少数の小さなコロニーしか生き残らなかった(図4Cおよび4D)。それらの細胞を2週間にわたって分割せずに3日ごとに継代することによって、生き残ったコロニーを回復させることができた。しかしながら、生き残った細胞は、異常に長い倍加時間を有した。この表現型は、複数の独立した実験において再現性があった。
【0229】
実施例8:Zscan4ノックダウン細胞における細胞増殖の減少
継代8代目における細胞培養物のクライシスをもたらす事象を調査するために、細胞増殖アッセイおよびアポトーシスアッセイを継代7代目において行った。Dox+およびDox−条件におけるtet−Empty細胞、tet−Zscan4c細胞およびshRNAコントロール細胞を含む全てのコントロール細胞が、正常な増殖曲線を示したので(図4E)、Doxの存在または非存在だけでは、それらの細胞の増殖速度に影響しなかった。対照的に、増殖の有意な減少が、Dox+条件におけるZscan4ノックダウン細胞系1および2において観察された(図4E)。Dox−条件におけるZscan4cの外来性コピーの誘導によるレスキュー実験は、細胞増殖を回復させることができた(図4E)。
【0230】
継代7代目におけるZscan4ノックダウン細胞系およびコントロール細胞において3日間にわたって毎日、アポトーシス試験および生存能試験をさらに行った(図4F)。Zscan4ノックダウン細胞におけるアポトーシスのレベルは、全てのコントロール細胞(すなわち、Dox+およびDox−条件におけるtet−Zscan4c親細胞、tet−Empty細胞、ならびにshRNAコントロール細胞)におけるそれ(最大2%)よりも高かったが、それは14%までにしか達しなかったことから、Zscan4ノックダウンによる細胞数の有意な減少は、アポトーシスによってではなく主として細胞増殖の減少によって引き起こされるということが示唆される。さらに、このアポトーシス率の中程度の上昇は、Dox−条件におけるZscan4c−ORFの誘導によってレスキューされなかったことから、このアポトーシス率の上昇は、Zscan4ノックダウンの直接的な作用でなかったことが示唆される。
【0231】
実施例9:Zscan4ノックダウン細胞における核型の変質およびゲノムの不安定性
最初期の継代を、クローンを単離した後に拡張し、Zscan4ノックダウン(細胞系2)およびコントロール細胞を継代3代目において核型について解析した(図4G)。82.5%の正常な核型を有するコントロール細胞(Dox+)と対照的に、Zscan4ノックダウン細胞(Dox+)は、65%しか正倍数性の核型または正常な核型を示さず、様々なタイプの染色体の融合および断片化を含む複数の異常を有した。このことは、培養されたES細胞についてなおも許容され得ると考えられるが、レスキュー細胞(Dox−)が、より良い核型(75%正常)を示すことは明白だった。同様の条件下で維持されたコントロール細胞および親細胞は、同様の異常を示さなかった(図4G)。Zscan4ノックダウン細胞系1について同様の異常が観察されたことから(表2)、ゲノム不安定性が、特定のクローンの欠陥に起因せず、Zscan4ノックダウンによって引き起こされることが示唆された。細胞培養物のクライシス後の継代10代目において細胞を核型分析したとき、Zscan4ノックダウン細胞の35%しか正常な核型を示さなかった。注目すべきことに、レスキュー細胞は有意に良好であり、60%が正常な核型を示した。
【0232】
表2
核型解析についてのさらなるデータ
【0233】
【表2】

図4Gに示される細胞系2に対するデータと同様に、継代3代目においてZscan4ノックダウン細胞が、融合および断片化のような複数の核型異常を示したのに対し、Zscan4レスキュー細胞は、改善された核型を有した。細胞のクライシス後の継代10代目における核型が、さらに悪化したのに対し、Zscan4レスキュー細胞の核型は、60%が正常だった。コントロールとして使用した親tet−Zscan4細胞は、Zscan4誘導後に(Dox−条件において)核型のわずかな改善を示したのに対し、tet−Emptyコントロール細胞は、Dox+条件とDox−条件の両方において同様の結果を有した。
【0234】
実施例10:Zscan4ノックダウンES細胞における異常に短いテロメア
Zscan4ノックダウン細胞において核型が損なわれたことから、テロメア蛍光インサイチュハイブリダイゼーション(FISH)(図5A)およびテロメアqPCR(図5B)によるそれらのテロメアの検査が促された。qPCRについては、テロメア長の比を、以前に報告されているように(Callicott and Womack,Comp.Med.56:17−22,2006;Cawthon,Nucleic Acids Res.30:e47,2002)単一コピーの遺伝子と比較した。細胞のクライシスの前および後の2つの異なる継代において細胞を回収した。
【0235】
注目すべきことに、テロメアFISHとテロメアqPCRの両方が、Zscan4ノックダウン細胞系1および2の両方において有意なテロメアの短縮を示した。qPCR解析は、平均テロメア長が、継代6代目における細胞系1において30±5%(平均値±S.E.M.)および細胞系2において45±0.1%短くなったことを示した(図5B)。対照的に、同じ条件下のshRNAコントロール細胞、ならびに誘導されていないDox+条件におけるtet−Empty細胞および親tet−Zscan4c細胞のテロメアは、継代されてもインタクトなままだった。qPCRデータは、テロメアの短縮が、Zscan4cの過剰発現によってレスキューされることを示したことから(図5B)、Zscan4のノックダウンがテロメアの短縮を引き起こすということが示唆された。
【0236】
定量的蛍光インサイチュハイブリダイゼーション(Q−FISH)解析(Poonら、Cytometry 36:267−278,1999)によって、テロメアqPCRのデータをさらに検証した。Cy3結合体化プローブによってテロメアを可視化し(図5A)、シグナル強度をTFL−Teloソフトウェアによって測定した。テロメア長の分布図は、継代6代目のZscan4ノックダウン細胞におけるテロメア長全体が(図5C)、コントロール細胞のそれ(図5E)よりも短いことを証明した。
【0237】
驚いたことに、テロメアは、Zscan4cを過剰発現させることによってZscan4レスキュー細胞において伸長され;平均して、そのテロメアは、正常細胞におけるテロメアよりも1.7倍長く、ノックダウン細胞のテロメア(図5C)よりも2.4倍長かった。Zscan4レスキュー細胞についての分布図はまた、テロメア長の平均の延長が、異常に長いテロメアに起因するのではなく、テロメア長のより長いが正常な範囲への全体的なシフトに起因したことを示すものである(図5C)。
【0238】
実施例11:Zscan4の一過性の発現はES細胞においてテロメア長を伸長する
遺伝子誘導の前および後の親tet−Zscan4c細胞において、テロメアに対するZscan4過剰発現の作用も調べた(図5Dおよび5E)。実際に、テロメアQ−FISHの結果は、誘導されていないtet−Zscan4c細胞における39.4±0.13kb(平均値±S.E.M.)から、Zscan4を過剰発現している細胞における65.9±0.2kbへの、平均テロメア長の有意な増加(1.8倍)を示した(図5E)。図5Cに示されているZscan4レスキューの結果と一致して、テロメア長の分布図は、テロメア長のより長いが正常な範囲へのシフトを示した(図5E)。
【0239】
Q−FISHの結果を検証するために、テロメアqPCRによってもテロメアを測定した。Q−FISHの結果に一致して、Dox−条件下のtet−Zscan4c細胞における相対的なテロメア長は、誘導されていないDox+条件におけるテロメア長よりも長かった(2.47±0.38倍)(図5F)。予想どおり、コントロールtet−Empty細胞は、Dox+条件とDox−条件との間に有意差を示さなかったので、この作用は、Dox自体によって引き起こされたわけではなかった。さらに、テロメアqPCR解析は、FACSによって選別されたpZscan4−Emerald細胞を用いて、内因性ES状態とテロメア伸長を相関させることができた(図5F)。Em(+)細胞の相対的なテロメア長は、コントロールtet−Empty細胞よりも2.44±0.27倍長かったのに対し、Em(−)細胞の相対的なテロメア長は、0.89±0.15倍短かった(図5F)。まとめると、テロメアQ−FISHおよびqPCRデータから、ES状態(すなわち、Zscan4cの発現)が、伸長されたテロメア長と関連することが示される。
【0240】
Zscan4によるテロメアの延長が、テロメラーゼ活性の増加によって媒介される可能性を試験するために、テロメア反復増幅プロトコル(TRAP)アッセイを実施した。TRAPアッセイは、誘導されていないDox+細胞と比較して、誘導されたDox−tet−Zscan4c細胞におけるテロメラーゼ活性において軽度の効果(30%高い)しか証明しなかった(図6A)。しかしながら、tet−Empty細胞は、Dox除去に対しても同様の軽度の応答を示した(図6A)。ゆえに、テロメラーゼ活性のわずかな上昇は、Dox除去に関係し得るが、Zscan4誘導によって直接引き起こされない可能性がある。さらに、テロメラーゼ活性のそのわずかな上昇は、Zscan4過剰発現に関連する迅速なテロメア伸長を説明し得ることはありそうにない。
【0241】
実施例12:ZSCAN4は、テロメア上に減数分裂特異的相同組換えタンパク質と共局在する
ZSCAN4の予測される構造物から、SCANドメイン、ならびにその他のタンパク質をクロマチンにリクルートする役割を示すDNA結合ドメインの存在が示される。実際に、免疫染色解析から、Dox除去によって3日間誘導した後のZSCAN4C−FLAGの核局在化が示された(図6B)。ZSCAN4タンパク質が、M期中にクロマチンで活性であるかどうかを決定するために、Zscan4を過剰発現している細胞の遺伝子誘導の前および後の分裂中期染色体スプレッドを免疫染色解析によってアッセイした(図6C)。ZSCAN4C−FLAGは、分裂中期染色体に局在し;特に、その染色体のいくつかが、染色体の両端により強い染色を有したことから、ZSCAN4C−FLAGの、これらの染色体のテロメアへのより特異的な局在が示唆された。
【0242】
ZSCAN4タンパク質がテロメアの組換えにおいて機能するかどうかを試験するために、共局在に関する研究を、テロメアマーカーを用いてZSCAN4に対して行った。共焦点顕微鏡検査による免疫染色解析から、ZSCAN4の細胞増殖巣が、テロメア上でTRF1(Chongら、Science 270:1663−7,1995)およびTRF2(Opreskoら、J.Biol.Chem.277:41110−9,2002)と同時に標識されることが証明された(図8A)。さらに、マイクロアレイ解析から、減数分裂特異的相同組換え遺伝子が、ES細胞におけるZscan4cの過剰発現によって誘導されることが示された。qRT−PCRによる解析から、減数分裂の組換え中に二本鎖DNAの切断(DSB)を促進する酵素Spo11(Keeneyら、Cell 88:375−84,1997;Mahadevaiahら、Nat.Genet.27:271−6,2001)、DSBの修復に必要なリコンビナーゼDmc1(Reinholdtら、Chromosoma 114:127−34,2005)、およびコヒーシン(cohesion)Smc1(Revenkovaら、Nat.Cell Biol.6:555−62,2004)に対する結果が確証された(図8B)。免疫染色は、SPO11がZSCAN4細胞増殖巣と共局在することを示した(図8C,上パネル)ことから、SPO11が、T−SCEを開始する、テロメアにおけるDSBの誘導において役割を果たすことが示された。減数分裂の組換え中に、DSBは、Zscan4cの過剰発現後に形成するH2AX/ZSCAN4細胞増殖巣に包まれる(図8C,下パネル)。RecAホモログDMC1は、さらにEm+細胞においてTRF1と共局在した(図8D,下パネル);さらに、ZSCAN4細胞増殖巣は、Em+細胞においてTRF1と共局在することが確認された(図8D,上パネル)。まとめると、これらの結果から、Zscan4が、減数分裂特異的相同組換え機構の誘導およびテロメアへの動員に関わることが示される。
【0243】
実施例13:Zscan4過剰発現はテロメアの組換えを促進する
最近の発見から、着床前胚が、テロメア姉妹染色分体交換(T−SCE)による1細胞周期以内での迅速なテロメアの伸長を活性化する能力を有することが確証された(Liuら、Nat.Cell Biol.9:1436−41,2007)。Zscan4は、ES細胞および2細胞胚に対する共通のマーカーであるので、テロメア染色体配向FISH(CO−FISH)を行うことによって、テロメアの代替延長(ALT)がES状態において活性化されるかどうかが調査された(Baileyら、Mutagenesis 11:139−144,1996)(図6D)。tet−Empty細胞(コントロール)におけるテロメアの組換え頻度は、非常に低く、Dox+条件とDox−条件との間で有意差は示されなかった:Dox+条件では核1つあたり0.19±0.13(平均値±S.E.M.)のT−SCE事象が認められ、Dox−条件では核1つあたり0.24±0.14の事象が認められた(図6E)。Dox+条件における誘導されていないtet−Zscan4c細胞について同様の頻度が観察された:核1つあたり0.26±0.15のT−SCE事象が認められた。対照的に、3日間にわたるZscan4c誘導は、T−SCE事象を>10倍加加させた:76%の核が、核1つあたり2.97±0.21のT−SCE事象を示した(図6E)。ゆえに、このデータは、Zscan4の一過性の発現が、テロメアの組換えを促進することを明らかに示した。
【0244】
実施例14:Zscan4ノックダウン細胞における姉妹染色分体交換の発生率上昇
Zscan4ノックダウン細胞のゲノム不安定性をさらに調べるために、姉妹染色分体交換(SCE)アッセイを行った。SCE事象の有意に高い頻度が、Zscan4ノックダウン細胞において認められた(図7A)。Tet−Empty細胞ならびに親tet−Zscan4c細胞をコントロールとして使用した。
【0245】
ES細胞についての以前の報告と一致して(Dronkertら、Mol.Cell Biol.20:3147−56,2000;Tateishiら、Mol.Cell Biol.23:474−81,2003)、基礎のSCEは、全てのコントロール細胞において比較的低かった:tet−Empty細胞は、Dox+におけるSCE陽性核1つあたりわずか5.25±2.55のSCE事象(すなわち、解析された全ての細胞の13±1.4%)(図7Bおよび7C)、およびDox−条件におけるSCE陽性核1つあたり6.25±2.65のSCE事象(すなわち、解析された全ての細胞の12.7±3%)であり、Dox除去による有意差がなかった(図7Bおよび7C)。Dox+条件における親tet−Zscan4c細胞に対する基礎のSCE率は、わずかに低く、わずか8±2%の核が、陽性核1つあたり4.75±1.26のSCEを有した。対照的に、29±0.7%のZscan4ノックダウン細胞が、陽性核1つあたり11.27±4.2のSCEを有した(図7Bおよび7C)。Zscan4の発現が、3日間にわたるDox−条件によってレスキューされるとき、自発的なSCEの数は、劇的に減少した。わずか13%の分裂中期スプレッドがSCE陽性であり(図7B)、SCE陽性核1つあたり少数(2.86±2.1)のSCE(図7C)を有し、これはコントロール細胞に匹敵した。
【0246】
驚いたことに、親tet−Zscan4c細胞におけるZscan4c過剰発現は、SCE事象を劇的に減少させ、わずか2±1.15%の細胞が、陽性核1つあたり2.25±1.5のSCE事象を有し、これは、Dox+条件下におけるものより4倍低く、tet−Emptyコントロールにおけるものより6倍低かった(図7Bおよび7C)。このデータから、Zscan4の発現が、ES細胞におけるSCEの発生率を減少させ得るのに対し、ノックダウンが、ゲノム不安定性およびSCE率を高めることが示される(図7D)。
【0247】
まとめると、これらのデータは、Zscan4が、例えば、SCE率ならびにテロメアの調節を含む機構による、長期間にわたるゲノム安定性に欠くことができない複数の系列の証拠を提供している。
【0248】
実施例15:レチノイン酸は、Zscan4の一過性発現を誘導する
この実施例には、レチノイド(ビタミンA、13−cis−レチノイン酸、9−cis−レチノイン酸およびオールトランス−レチノイン酸を含む)が、マウスES細胞培養物におけるZscan4細胞を一過性に増加させ得るという知見が記載される。
【0249】
材料
エタノール中のオールトランスレチノイン酸(atRA)の20mMの原液を1μM、2μMまたは50nMという最終濃度で使用した。9−cisRAおよび13−cisRAを最終1μMという最終濃度で使用した。ビタミンA(レチノール)を5μMの最終濃度で使用した。
【0250】
結果
Zscan4の発現は、オールトランスレチノイン酸(atRA)によって一過性に誘導される
Zscan4cのプロモーター下で調節される緑色蛍光タンパク質(Emerald:Em)を有するプラスミドがゲノム内にインテグレートされたマウスES細胞(pZscan4−Emerald7(MC1−ZE7)細胞と呼ばれる)を本研究において使用した。本発明者らの以前の研究では、Zscan4発現の誘導が、Emerald蛍光の誘導によってモニターされ得ることを示した。まず、白血病抑制因子の存在下(LIF+)かつatRAの非存在下(atRA−)のゼラチンコートプレートに細胞を継代した。翌日(0日目)、各ウェルの培地を4つの異なる条件:LIF+atRA−、LIF+atRA+、LIF−atRA−およびLIF−atRA+に変更した。atRAの最終濃度は、2μMであった。その細胞を、培地を毎日交換するが継代せずに、同じ培地中で8日間維持した。細胞を毎日回収し、Emerald GFP細胞の数をフローサイトメトリー(Guava)によって測定した。
【0251】
その培養物中のEm細胞(すなわち、Zscan4細胞)の画分は、atRAによって劇的に誘導され、atRA処理の2日目にピークに到達した(図9)。しかしながら、このZscan4細胞の誘導は、一過性であり、atRA処理の4日目までに基礎レベルに低下した。LIFは、ES細胞を未分化な状態で維持し得、標準ES細胞培地の一部である十分に確立された因子である。atRAによるZscan4細胞の一過性の誘導は、LIF+条件とLIF−条件の両方において観察された。
【0252】
Zscan4の発現は、その他のレチノイドによって一過性に誘導される
atRAは、哺乳動物の細胞培養系に対して最も一般的に使用されるが、それらの細胞に対して同様の活性を時折有するその他のレチノイドも存在する。その他のレチノイドをZscan4誘導性について試験するために、同様の経時的動態アッセイを、atRA(最終濃度50nM)、9−cisRA(最終濃度50nM)、13−cisRA(最終濃度50nM)またはビタミンA(最終濃度5μM)を用いて行った。Zscan4細胞の画分が、各レチノイドによって一過性に増加し、2日目にピークに到達した(図10A)。しかしながら、処理の7日以内に、Zscan4細胞の第二の増加が、ビタミンAおよび13−cisRAについて観察されたが、atRAおよび9−cisRAについては観察されなかった。このことは、細胞増殖に対するこれらのレチノイドの差次的な作用によって部分的に説明し得る;ビタミンAは、細胞増殖に影響せず、13−cisRAは、細胞増殖に対して中程度の抑制を示し、atRAと9−cisRAの両方は、細胞増殖に対してほぼ完全な抑制を誘導した(図10B)。Zscan4細胞は、ビタミンAおよび13−cisRAの存在下においてZscan4細胞よりも増殖優位性を有し得る。
【0253】
これらの知見から、レチノイド(ビタミンA、13−cis−RA、9−cis−RAおよびatRAを含む)が、マウスES細胞培養においてZscan4細胞を一過性に増加させ得ることが証明される。
【0254】
実施例16:酸化ストレスはZscan4の発現を誘導する
この実施例には、Zscan4の発現が、酸化ストレスに曝されたES細胞において増加するという知見が記載される。
【0255】
MC1−ZE7細胞を標準ES細胞培地(LIF+)中で培養した。その培地に、100μM、300μMまたは1000μMの最終濃度で過酸化水素(H)を加えた。それらの細胞を2日間培養し、Em(すなわち、Zscan4細胞)のパーセンテージをGuavaフローサイトメトリー(Guava)によって測定した。その結果から、酸化ストレス(Hによって誘導される)が、Zscan4細胞の数を増加させることが証明される(図11)。
【0256】
実施例17:Zscan4はES細胞をDNA傷害剤から保護する
この実施例には、ES細胞におけるZscan4の過剰発現が、マイトマイシンC(MMC)およびシスプラチンを含むDNA傷害剤に曝された後のそれらの細胞の生存を増強するという知見が記載される。
【0257】
コントロール細胞(tet−Emptyプラスミドを有する)およびZscan4を発現している細胞(tet−Zscan4プラスミドを有する)を本研究において使用した。これらの細胞を標準ES培地(LIF+)中で培養した。細胞を2群:(1)ドキシサイクリンの非存在下(Dox−)、または(2)最終濃度0.2μg/mlでのドキシサイクリンの存在下(Dox+)に継代した。Dox+およびDox−培地は、毎日交換した。4日目に、それらの細胞を0〜600ng/mlの範囲の最終濃度のMMCの存在下において6時間培養した。次いで、その培地を交換することによって、MMCを培養物から除去した。それらの細胞をさらに3日間、Dox+培地中でインキュベートし、その培地は毎日交換した。細胞を回収し、生細胞数を数えた。
【0258】
結果から、コントロール細胞では、MMCの用量が多くなるほど、細胞の生存率が低下することが示される(図12A)。しかしながら、コントロール細胞(Zscan4の発現が誘導されていない)の場合は、Dox+条件とDox−条件との間に有意差はない。対照的に、Zscan4を発現しているES細胞ではDox+条件とDox−条件との間に有意差が存在した(図12B)。これらの細胞は、MMC処理に対して生存率の上昇を示した。これらの結果から、Zscan4の過剰発現が、MMCのようなDNA傷害剤による遺伝毒性の攻撃からES細胞を保護することが示される。シスプラチンを用いたときも同様の結果が得られた。
【0259】
本開示の原理が適用され得る多くの可能な態様に照らして、例証された態様は本開示の単なる例でしかないと認識されるべきであり、本発明の範囲を限定すると見なされるべきでない。むしろ本発明の範囲は、以下の請求項によって定義される。ゆえに、本発明者らは、これらの請求項の範囲および精神に入る全てを本発明者らの発明と主張する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
単離された胚性幹(ES)細胞または単離された人工多能性幹(iPS)細胞のゲノム安定性を高めるため;または単離されたES細胞またはiPS細胞におけるテロメア長を伸ばすため;もしくはその両方のための方法であって、該方法は、該ES細胞またはiPS細胞と薬剤とを接触させる工程であって、該薬剤が、該ES細胞またはiPS細胞におけるZscan4の発現を、該薬剤が存在しないES細胞またはiPS細胞におけるZscan4の発現と比較して増加させる工程を包含する、方法。
【請求項2】
前記薬剤が、Zscan4をコードする単離された核酸分子である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ES細胞またはiPS細胞においてZscan4の発現を可能にするのに十分な条件下で、前記単離された核酸分子を該ES細胞またはiPS細胞にトランスフェクトする工程を包含する、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記単離された核酸分子が、ベクターを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記ベクターが、ウイルスベクターである、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記ベクターが、プラスミドベクターである、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
前記ベクターが、プロモーターに作動可能に連結されたZscan4をコードする、請求項4に記載の方法。
【請求項8】
前記プロモーターが、構成的プロモーターである、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記プロモーターが、誘導性プロモーターである、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
Zscan4が、マウスZscan4cまたはヒトZSCAN4である、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
マウスZscan4cのヌクレオチド配列が、配列番号28のヌクレオチド配列と少なくとも95%同一である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
マウスZscan4cのヌクレオチド配列が、配列番号28のヌクレオチド配列を含む、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
ヒトZSCAN4のヌクレオチド配列が、配列番号36のヌクレオチド配列と少なくとも95%同一である、請求項10に記載の方法。
【請求項14】
ヒトZSCAN4のヌクレオチド配列が、配列番号36のヌクレオチド配列を含む、請求項10に記載の方法。
【請求項15】
ヒトZSCAN4のヌクレオチド配列が、配列番号36からなる、請求項10に記載の方法。
【請求項16】
前記薬剤が、レチノイドである、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記レチノイドが、オールトランスレチノイン酸、9−cisレチノイン酸、13−cisレチノイン酸またはビタミンAである、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記薬剤が、酸化ストレスを誘導する薬剤である、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
前記ES細胞またはiPS細胞が、哺乳動物ES細胞または哺乳動物iPS細胞である、請求項1〜18のうちのいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
前記哺乳動物のES細胞またはiPS細胞が、ヒトES細胞またはヒトiPS細胞である、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記哺乳動物ES細胞または前記哺乳動物iPS細胞が、マウスES細胞またはマウスiPS細胞である、請求項19に記載の方法。
【請求項22】
単離されたES細胞または単離されたiPS細胞の集団におけるゲノム安定性を高めるため;または単離されたES細胞または単離されたiPS細胞の集団におけるテロメア長を伸ばすため;もしくはその両方のための方法であって、該方法は、該ES細胞またはiPS細胞の集団からZscan4細胞を選択する工程を包含する、方法。
【請求項23】
前記ES細胞またはiPS細胞の集団からZscan4のES細胞またはiPS細胞を選択する工程は、該ES細胞またはiPS細胞の集団を、レポーター遺伝子に作動可能に連結されたZscan4プロモーターを含む発現ベクターでトランスフェクトする工程を包含し、ここで、該レポーター遺伝子の発現は、Zscan4がES細胞またはiPS細胞の部分集団において発現されていることを示す、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記Zscan4プロモーターが、Zscan4cプロモーターである、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記Zscan4cプロモーターが、配列番号38のヌクレオチド906〜4468として示されている核酸配列を含む、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記レポーター遺伝子が、蛍光タンパク質をコードする、請求項23に記載の方法。
【請求項27】
前記蛍光タンパク質が、緑色蛍光タンパク質またはそのバリアントである、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記発現ベクターが、配列番号38として示されている核酸配列を含む、請求項23に記載の方法。
【請求項29】
前記ES細胞またはiPS細胞が、哺乳動物ES細胞または哺乳動物iPS細胞である、請求項22〜28のうちのいずれか1項に記載の方法。
【請求項30】
前記哺乳動物ES細胞または前記哺乳動物iPS細胞が、ヒトES細胞またはヒトiPS細胞である、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記哺乳動物ES細胞または前記哺乳動物iPS細胞が、マウスES細胞またはマウスiPS細胞である、請求項29に記載の方法。
【請求項32】
ES細胞治療を必要とする被験体を処置するための医薬の調製における、未分化なZscan4のES細胞または未分化なZscan4のiPS細胞の部分集団の使用。
【請求項33】
前記被験体が、がん、自己免疫疾患、神経損傷または神経変性障害を有する、請求項32に記載の使用。
【請求項34】
ES細胞治療を必要とする被験体を処置するための医薬の調製における、インビトロにおいて分化させたZscan4のES細胞またはZscan4のiPS細胞の部分集団の使用。
【請求項35】
前記被験体が、がん、自己免疫疾患、神経損傷または神経変性障害を有する、請求項34に記載の使用。
【請求項36】
Zscan4のES細胞またはZscan4のiPS細胞を、ES細胞またはiPS細胞の集団から選択する工程をさらに包含する、請求項32〜35のいずれか1項に記載の使用。
【請求項37】
Zscan4のES細胞またはZscan4のiPS細胞を選択する工程が、前記細胞の集団を、Zscan4プロモーターおよびレポーター遺伝子を含む発現ベクターでトランスフェクトする工程を包含し、ここで、該レポーター遺伝子の発現は、Zscan4がES細胞またはiPS細胞の部分集団において発現されていることを示す、請求項36に記載の使用。
【請求項38】
前記Zscan4プロモーターが、Zscan4cプロモーターである、請求項37に記載の使用。
【請求項39】
被験体におけるがんを処置するための医薬の調製における、単離されたZscan4ポリヌクレオチドまたは単離されたZscan4ポリペプチドの使用。
【請求項40】
前記単離されたZscan4ポリペプチドが、ナノ粒子に封入されている、請求項39に記載の使用。
【請求項41】
前記単離されたZscan4ポリヌクレオチドが、ベクターを含む、請求項39に記載の使用。
【請求項42】
単離されたES細胞または単離されたiPS細胞の生殖細胞への分化を誘導する方法であって、該方法は、該ES細胞またはiPS細胞を、該ES細胞またはiPS細胞または細胞においてZscan4の発現を増加させる薬剤と接触させることによって、該ES細胞またはiPS細胞の生殖細胞への分化を誘導する工程を包含する、方法。
【請求項43】
ES細胞またはiPS細胞の生殖細胞への分化を誘導するための医薬の調製における、ES細胞またはiPS細胞におけるZscan4の発現を増加させる薬剤の使用。
【請求項44】
単離されたES細胞または単離されたiPS細胞において減数分裂、減数分裂特異的組換えおよび/またはDNA修復を誘導する方法であって、該方法は、該ES細胞またはiPS細胞を、該ES細胞またはiPS細胞におけるZscan4の発現を増加させる薬剤と接触させることによって、該ES細胞またはiPS細胞において減数分裂、減数分裂特異的組換えおよび/またはDNA修復を誘導する工程を包含する、方法。
【請求項45】
ES細胞またはiPS細胞において減数分裂、減数分裂特異的組換えおよび/またはDNA修復を誘導するための医薬の調製における、ES細胞またはiPS細胞におけるZscan4の発現を増加させる薬剤の使用。
【請求項46】
ES細胞またはiPS細胞をDNA傷害剤から保護する方法であって、該方法は、該ES細胞またはiPS細胞と薬剤とを接触させる工程であって、該薬剤が、該ES細胞またはiPS細胞におけるZscan4の発現を、該薬剤が存在しないES細胞またはiPS細胞におけるZscan4の発現と比較して増加させる工程を包含する、方法。
【請求項47】
前記DNA傷害剤が、マイトマイシンCまたはシスプラチンである、請求項46に記載の方法。

【図1B】
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【図1D】
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【図1E】
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【図1F−1】
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【図1F−2】
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【図1F−3】
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【図1G】
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【図1H】
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【図2C】
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【図3A】
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【図3E】
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【図3F】
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【図4A】
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【図4C】
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【図4D】
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【図4E】
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【図4F】
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【図4G】
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【図5B】
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【図5C】
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【図5E】
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【図5F】
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【図6A】
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【図6D】
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【図6E】
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【図7B】
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【図7C】
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【図7D】
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【図8B】
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【図9】
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【図10A】
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【図10B】
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【図11】
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【図12A】
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【図12B】
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【図1A】
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【図1C】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3B】
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【図3C】
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【図3D】
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【図3G】
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【図3H】
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【図3I】
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【図4B】
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【図5A】
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【図5D】
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【図6B】
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【図6C】
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【図7A】
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【図8A】
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【図8C】
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【図8D】
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【公表番号】特表2013−503638(P2013−503638A)
【公表日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−528039(P2012−528039)
【出願日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際出願番号】PCT/US2010/047644
【国際公開番号】WO2011/028880
【国際公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【出願人】(508285606)ザ ユナイテッド ステイツ オブ アメリカ, アズ リプレゼンテッド バイ ザ セクレタリー, デパートメント オブ ヘルス アンド ヒューマン サービシーズ (8)
【Fターム(参考)】