説明

胚性幹細胞の自己複製決定因子

本発明により、ECAT4が強制発現されたES細胞が提供される。ECAT4を強制発現したES細胞は、フィーダー細胞やLIFの非存在下でも培養することができる。さらに、本発明は、ECAT4が認識するコンセンサス配列、ECAT4エンハンサー、ECAT4プロモーター領域およびそれらの用途も提供する。ECAT4のES細胞の自己複製促進転写因子としての機能が明確に示されたため、これらはES細胞の研究および開発において極めて有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、ECAT4が強制発現された哺乳動物細胞、ECAT4エンハンサー、ECAT4が認識するコンセンサス配列およびそれらの用途に関する。
【背景技術】
哺乳類胞胚の内部細胞集団に由来する胚性幹細胞(ES細胞)は急速かつ無期限に成長し、同時に多能性、つまり多種類の型の細胞に分化する能力を保持する。ES細胞のこのような性質は対称的自己複製により維持されており、これによって細胞分裂時には2個の同一な幹細胞の娘細胞が生じる。この2種類の性質から、ES細胞を用いて組織や細胞を作り出して治療に用いようとする、新たな再生医療の可能性が注目されている。しかしながらヒトES細胞は、ES細胞の産生のためにヒト胚を破壊しなければならないため、倫理問題も孕んでいる。
このような倫理問題を避ける解決法の一つは、多能性細胞を体細胞や他の細胞から直接産生することである。この目標に到る最初のステップは、多能性細胞において特異的に機能し、細胞の特性を決定するマスター遺伝子の同定である。
これまでにSTAT3およびOct3/4の2種類の転写因子が、マウスES細胞が自己複製をおこなうために重要であることが判明しているが(Burdon et al.,(1999).Cells Tissues Organs 165,131−43.、Niwa,(2001).Cell Struct Funct 26,137−48.)、マスター遺伝子の要件を満たすものは見出されていない。
STAT3は白血病抑制因子(LIF)により活性化されるが、このLIFは多能性維持に不可欠なサイトカインの一種である(Smith et al.,(1988).Nature 336,688−90.、Williams et al.,(1988).Nature 336,684−7.)。活性化されたSTAT3は、LIF非存在下でも単独で自己複製を支持する(Matsuda et al.,(1999).Embo J 18,4261−9.)。遺伝子ターゲッティング実験によっても、ES細胞の自己複製に対するSTAT3の重要性が示されている(Raz et al.,(1999).Proc Natl Acad Sci USA 96,2846−51.)。しかしながらSTAT3の発現は広範囲の細胞型に認められ、一部の細胞では逆に分化を誘導する(Nakajima et al.,(1996).Embo J 15,3651−8.)。
ES細胞の自己複製に対する鍵と考えられているもう一つの転写因子Oct3/4はPOUファミリーの転写因子であり、ES細胞、外胚葉や原始的胚細胞などの多能性細胞中で発現する。マウスOct3/4遺伝子を破壊すると、初期胚が着床後まもなく死亡する結果が得られ、Oct3/4を欠く胞胚の内部細胞塊は多能性を持たず、トロフォブラスト系統にのみ分化する。Niwa et al.はこれをES細胞において確認し、Oct3/4を抑制することでトロフォブラストへの自立的分化が生じることを示した(Niwa et al.,(2000).Nat Genet 24,372−6.)。これらのデータをその特異的な発現パターンと併せると、Oct3/4が多能性細胞に対するマスター遺伝子である可能性が考えられる。
しかしながら、外因性プロモーターより恒常的にOct3/4を発現しているES細胞は、それでも自己複製のためにLIFを必要としており、適切量のOct3/4発現が見られる場合ですら、LIFの除去の結果として原始内胚葉への分化が生じる(Niwa et al.,(2000).Nat Genet 24,372−6.)。
【発明の開示】
本発明は、ECAT4を強制発現させた細胞、ECAT4エンハンサー、ECAT4が認識するコンセンサス配列、およびこれらの用途を提供することを目的とする。
ES細胞にとって主要な自己複製決定因子の転写または機能を活性化することで、ES細胞培養の効率性と経済性の向上が期待できる。また、該因子の転写または機能を抑制することにより、ES細胞を特定の機能細胞へ分化誘導する際に未分化細胞を確実になくすことが期待できるため、臨床応用する際、懸念されている未分化細胞由来の腫瘍細胞(テラトーマ)出現の危険性を回避することができる。
従ってES細胞にとって主要な自己複製決定因子を見出し、該因子の転写あるいは機能を調節するエンハンサーなどは、ES細胞の分化誘導能または分化抑制能を有する物質の探索や、ES細胞の研究・開発に極めて有用である。
本発明者は、既に、ES細胞の特異的発現遺伝子としてECAT4遺伝子を見出している。そして、鋭意ECAT4遺伝子を検討した結果、ES細胞のマウスECAT4遺伝子を標的破壊すると、自然な分化を起こして高レベルの内胚葉マーカーを発現する胚体外内胚葉系列となることを確認した。ECAT4欠損胚盤胞は着床後まもなく死亡し、ECAT4欠損胚盤胞の内部細胞塊はin vitroで、ほとんど増殖しなかった。また、ES細胞にECAT4遺伝子を強制発現させたES細胞は、LIF非存在下で培養を行っても未分化状態が維持されるという知見を得たため、ECAT4がES細胞にとって主要な自己複製決定因子であることを見出した。
更に本発明者は、ECATエンハンサーおよびECAT4が結合するコンセンサス配列を同定した。また、ECAT4タンパクが結合するECAT4コンセンサス配列がマウスのGATA6遺伝子の5’−フランキング領域の転写開始サイトの4kb上流に存在していること、マウスおよびヒトのGATA6遺伝子の遺伝子配列においてこの領域が良く保存されていることを確認した。
本発明は、これらの知見に基づき完成するに至ったものである。
即ち本発明の要旨は以下のとおりである。
項1.ECAT4からなる胚性幹(ES)細胞の自己複製決定因子、
項2.ECAT4がマウスECAT4、ヒトECAT4またはサルECAT4である項1記載のES細胞の自己複製決定因子、
項3.以下の(a)または(b)に記載されるDNAを含むサルECAT4遺伝子:
(a)配列番号10で示される塩基配列からなるDNA、
(b)配列番号10で示される塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下にハイブリダイズし、且つES細胞の自己複製決定因子としての能力を有するDNA、
項4.ECAT4が強制発現された哺乳動物幹細胞、
項5.幹細胞がES細胞である、項4記載の哺乳動物幹細胞、
項6.ECAT4がマウスECAT4、ヒトECAT4またはサルECAT4である、項4または項5記載の細胞、
項7.配列番号8、配列番号9または配列番号10で示されるポリヌクレオチドの塩基配列に相補的または実質的に相補的な塩基配列またはその一部を含有するアンチセンスポリヌクレオチド、
項8.項7記載のアンチセンスポリヌクレオチドを含有してなる細胞分化促進剤、
項9.ECAT4エンハンサー、
項10.配列番号7で示される塩基配列の一部または全部を含むことを特徴とする項9記載のECAT4エンハンサー、
項11.配列番号17、配列番号18または配列番号19で示される塩基配列を含有する項9記載のECAT4エンハンサー、
項12.配列番号15で示される塩基配列の一部であり、且つ配列番号17、配列番号18または配列番号19で示される塩基配列を含有する項11記載のECAT4エンハンサー、
項13.配列番号15で示される塩基配列を含有する項9記載のECAT4エンハンサー、
項14.配列番号14で示される塩基配列の一部であり、且つ配列番号15で示される塩基配列を含有する項13記載のECAT4エンハンサー、
項15.項10〜項14のいずれか記載のECAT4エンハンサーの塩基配列において1個もしくは複数個の塩基が欠失、置換もしくは付加された塩基配列を含み、且つECAT4遺伝子の転写を促進する能力を有することを特徴とする項9記載のECAT4エンハンサー、
項16.項10〜項14のいずれか記載のECAT4エンハンサーの塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下にハイブリダイズし、且つECAT4遺伝子の転写を促進する能力を有することを特徴とする項9記載のECAT4エンハンサー、
項17.項9〜項16いずれか記載のECAT4エンハンサーを含有することを特徴とするECAT4プロモーター領域、
項18.ECAT4が認識するコンセンサス配列、
項19.以下の(a)〜(c)のいずれかに記載されるDNAを含むことを特徴とする項18記載のコンセンサス配列:
(a)配列番号4で示される塩基配列からなるDNA、
(b)配列番号4で示される塩基配列において1個もしくは複数個の塩基が欠失、置換もしくは付加された塩基配列からなり、且つECAT4と結合する能力を有するDNA、
(c)配列番号4で示される塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下にハイブリダイズし、且つECAT4と結合する能力を有するDNA、
項20.以下の(a)〜(c)のいずれかに記載されるDNAを含むことを特徴とする項18記載のコンセンサス配列:
(a)配列番号5、配列番号6または配列番号16で示される塩基配列からなるDNA、
(b)配列番号5、配列番号6または配列番号16で示される塩基配列において1個もしくは複数個の塩基が欠失、置換もしくは付加された塩基配列からなり、且つECAT4と結合する能力を有するDNA、
(c)配列番号5、配列番号6または配列番号16で示される塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下にハイブリダイズし、且つECAT4と結合する能力を有するDNA、
項21.項9〜項16のいずれか記載のエンハンサー、項17記載のプロモーター領域または項18〜項20のいずれか記載のコンセンサス配列を含有することを特徴とする組換えベクター、
項22.項21記載の組換えベクターで形質転換された形質転換細胞、
項23.下記の工程(a)、(b)及び(c)を含む、ECAT4エンハンサーまたはECAT4プロモーター領域の活性を制御する作用を有する物質のスクリーニング方法:
(a)項9〜項16のいずれか記載のECAT4エンハンサーまたは項17記載のECAT4プロモーター領域をレポーター遺伝子に連結させたDNAで形質転換した細胞と被験物質とを接触させる工程、
(b)被験物質を接触させた細胞におけるレポーター遺伝子の活性を測定し、該発現量を被験物質を接触させない対照細胞における活性と比較する工程、
(c)上記(b)の比較結果に基づいて、ECAT4エンハンサーまたはECAT4プロモーター領域の活性を制御する被験物質を選択する工程、
項24.ECAT4遺伝子を挿入したpCAG−IPベクターを導入したES細胞
項25.項24記載のES細胞を注入して得られた遺伝子改変動物。
【図面の簡単な説明】
図1は、ECAT4の同定を示すものである。
(A)マウスNkx2.3、マウスECAT4およびそのヒト相同蛋白と考えられるFLJ12581の比較。(B)マウスECAT4、Oct3/4およびNAT1の発現プロファイルを示すRT−PCR分析。1.未分化MG1.19 ES細胞;2.分化したMG1.19 ES細胞;3.未分化RF8 ES細胞(RT−マイナス対照);4.未分化RF8 ES細胞;5.分化したMG1.19 ES細胞;6.脳;7.心臓;8.腎臓;9.精巣;10.脾臓;11.筋肉;12.肺;13.胃;14.卵巣;15.胸腺;16.肝臓;17.皮膚。(C)RF8、J1、CGR8およびMG1.19 ES細胞系列でのECAT4発現を示すウエスタンブロット分析。未分化状態に保った(U)、あるいは5日間にわたりRAを用いて処理した(D)ES細胞からの抽出液を解析した。ウエスタンブロットの実施は抗ECAT4血清または抗CDK4抗体を用いて行った。
図2は、マウスECAT4遺伝子の標的破壊を示すものである。
(A)マウスECAT4遺伝子、ターゲティングベクター、および相同組換え後の遺伝子構造。サザンブロットに用いたプローブと制限酵素の位置を示す。矢印はPCR分析用のプライマーを示す。(B)3’−プローブを用いたサザンブロットにより、野生型遺伝子座から11kbのバンド、β−geo標的遺伝子座から15.4kbのバンド、そしてhygr標的遺伝子座から7.3kbのバンドが生じた。(C)PCRにより、野生型遺伝子座から3.2kbのバンド、β−geo標的遺伝子座から8.5kbのバンド、そしてhygr標的遺伝子座から4.2kbのバンドが生じた。(D)ノーザンブロットによりノックアウト細胞にはECAT4の転写物が存在しないことが確認された。
図3は、ECAT4欠損ES細胞の分析を示すものである。
(A)STO支持細胞上で育成した野生型RF8細胞の形態(上)。STO支持細胞上で育成したECAT4細胞(中央)、および支持細胞なしで育成したECAT4欠損細胞(下)。(B)生育曲線。(C)マーカー遺伝子に対するノーザンブロット分析。(D)マーカー遺伝子に対するRT−PCR分析。
図4は、着床前胚の分析を示すものである。
(A)野生型メスとヘテロ接合オスから得た8細胞期の胚と胚盤胞を、X−galを用いて染色した。(B)ヘテロ接合交雑により得た胚盤胞を、ES細胞培地を用いてゼラチンコートしたシャーレ上で育成した。10日後に形態を記録し、PCRにより遺伝子型を決定した。
図5は、構成プロモーターからのECAT4の強制発現を示すものである。
(A)親プラスミドまたはCAG−ECAT4を形質転換させたMG1.19細胞におけるECAT4、Oct3/4およびNAT1の発現レベルを示すPCR−RT分析。細胞はLIF存在下または非存在下で育成した。(B)ウエスタンブロットにより外因性ECAT4の構成的発現が確認された。(C)LIF存在下(上)または非存在下(下)条件で生育した対照(左)およびCAG−ECAT4発現細胞(右)の形態。(D)細胞の増殖速度
図6は、ECAT4の転写調節を示すものである。
SELEXにより得られたECAT4結合に対するコンセンサスシーケンスを示すシーケンスロゴ(Schneider and Stephens,1990)。シーケンスロゴの生成はWebLogo(www.bio.cam.ac.uk/cgi−bin/seqlogo/logo.cgi)を用いて行った。(B)マウスおよびヒトGATA−6の5’調節領域に見られるECAT4コンセンサスシーケンス。この領域を含むルシフェラーゼレポーター遺伝子を構築した。
図7は、マウスECAT4遺伝子のエンハンサー領域解析に関する。
(A)マウスECAT4遺伝子構造と、エンハンサー解析に用いたDNA断片。(B)エンハンサー解析に用いたレポーター遺伝子構造。チミジンキナーゼ遺伝子のプロモーター、ルシフェラーゼcDNA、ポリA付加配列からなるレポーター遺伝子の3’端に図7Aの各遺伝子断片を挿入した。
図8は、マウスECAT4遺伝子のエンハンサー領域解析に関する。
(A)エンハンサー解析に用いた断片の領域(左)と、その断片の活性を示した(右)。
(B)マウスECAT4遺伝子のエンハンサー領域(−4737/−4387の領域)を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、本明細書において、アミノ酸、(ポリ)ペプチド、(ポリ)ヌクレオチドなどの略号による表示は、IUPAC−IUBの規定〔IUPAC−IUB Communication on Biological Nomenclature,Eur.J.Biochem.,138:9(1984)〕、「塩基配列又はアミノ酸配列を含む明細書等の作成のためのガイドライン」(日本国特許庁編)および当該分野における慣用記号に従う。
本発明の「ES細胞の自己複製決定因子」とは、胚性幹細胞(ES細胞)等が分化せずに同一細胞を複製するという自己複製能に関与するマスター遺伝子のことである。このES細胞の自己複製決定因子はES細胞等の自己複製能を有する細胞のマーカーとして利用することができ、この因子の発現を調べることにより、調べた細胞が自己複製能を有しているか、あるいはES細胞であるかどうかの検査をすることができる。この因子を強制発現させることにより、フィーダー細胞非存在下でかつLIFなどのサイトカイン非存在下でES細胞の持つ全能性を維持したまま安全に細胞の増殖性を保つことができる。これにより、ES細胞培養の効率性と経済性の向上が期待できる。また臨床応用する際に懸念されているフィーダー細胞由来の内在性ウイルス等、感染性物質混入のリスクがなくなるため、安全性向上が期待できる。
また、ES細胞を特定の機能細胞へ分化誘導する際には、相同組換え、アンチセンスやRNAi(RNAインヒビター)等の既知の方法(多比良和誠編 遺伝子の機能阻害実験法 羊土社、2001)を用いてこのES細胞の自己複製決定因子の発現を抑制することにより、未分化細胞を従来より確実になくすことが期侍できる。これにより、臨床応用する際、懸念されている未分化細胞由来の腫瘍細胞(テラトーマ)出現の危険性を回避することで更に安全性向上が期待できる。
本発明の「ECAT4」とは、天然型ECAT4または遺伝子組換型ECAT4であり、哺乳動物由来のものであればよい。例えば、マウスECAT4、ラットECAT4、サルECAT4やヒトECAT4などを挙げることができる。
また当該「遺伝子」または「DNA」には、特定の塩基配列(配列番号:4〜10、14〜19)で示される「遺伝子」または「DNA」だけでなく、機能(活性)が同等であることを限度として、あるいはタンパク質をコードする遺伝子の場合には生物学的機能が同等であることを限度として、その同族体(ホモログ)、誘導体および変異体をコードする「遺伝子」または「DNA」が包含される。これら同族体(ホモログ)、誘導体および変異体をコードする「遺伝子」または「DNA」とは、具体的には、ストリンジェントな条件下で、前記の配列番号:4〜10のいずれかで示される特定塩基配列とハイブリダイズする塩基配列を有する「遺伝子」または「DNA」を挙げることができる。
なお、ストリンジェントな条件は、Berger and Kimmel(1987,Guide to Molecular Cloning Techniques Methods in Enzymology,Vol.152,Academic Press,San Diego CA)に示されるように、複合体或いはプローブと結合する核酸の融解温度(Tm)に基づいて決定することができる。例えば、ハイブリダイズ後の洗浄条件として、通常「1×SSC、0.1%SDS、37℃」程度の条件を挙げることができる。相補鎖はかかる条件で洗浄しても対象とする正鎖とハイブリダイズ状態を維持するものであることが好ましい。特に制限されないが、より厳しいハイブリダイズ条件としては「0.5×SSC、0.1%SDS、42℃」程度、さらに厳しいハイブリダイズ条件としては「0.1×SSC、0.1%SDS、65℃」程度の洗浄条件を挙げることができる。具体的には、このような相補鎖として、対象の正鎖の塩基配列と完全に相補的な関係にある塩基配列からなる鎖並びに該鎖と70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、更に好ましくは95%以上の相同性を有する塩基配列からなる鎖を例示することができる。
また、前記の特定塩基配列(配列番号:4〜10、14〜19)の同族体(ホモログ)をコードする遺伝子、例えばヒト遺伝子に対応する他生物種の遺伝子は、HomoloGene(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/HomoloGene/)により同定することができる。具体的には、特定ヒト塩基配列をBLAST(Proc.Natl.Acad.Sci.USA.,90:5873−5877,1993、http://www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/)にかけて一致する(Scoreが最も高く、E−valueが0でかつIdentityが100%を示す)配列のアクセッション番号を取得し、そのアクセッション番号をHomoloGeneに入力して得られた他生物種遺伝子とヒト遺伝子との遺伝子ホモログの相関を示したリストから、選抜することができる。なお、上記遺伝子またはDNAは機能領域の別を問うものではなく、例えば発現制御領域、コード領域、エキソンまたはイントロンを含むことができる。
本明細書において「ECAT4遺伝子」または「ECAT4のDNA」といった用語を用いる場合、特に言及しない限り、特定塩基配列で示されるECAT4遺伝子(DNA)(配列番号:8〜10)、それらの同族体、変異体及び誘導体などをコードする遺伝子(DNA)を包含する趣旨で用いられる。具体的には、配列番号:9に記載のヒトECAT4遺伝子(GenBank Accession No.AB093576)、配列番号:8に記載のマウスECAT4遺伝子(GenBank Accession No.AB093574)、配列番号:10に記載のサルECAT4遺伝子、およびラットホモログなどが包含される。
本明細書において「ポリヌクレオチド」とは、RNAおよびDNAのいずれをも包含する趣旨で用いられる。なお、上記DNAには、cDNA、ゲノムDNAおよび合成DNAのいずれもが含まれる。また上記RNAには、total RNA、mRNAおよび合成のRNAのいずれもが含まれる。
本明細書において「タンパク質」または「(ポリ)ペプチド」には、特定のアミノ酸配列(配列番号:1〜3)で示される「タンパク質」または「(ポリ)ペプチド」だけでなく、これらと生物学的機能が同等であることを限度として、その断片、同族体(ホモログやスプライスバリアント)、変異体、誘導体およびアミノ酸修飾体などが包含される。ここでホモログとしては、ヒトのタンパク質に対応するマウスやラットなど他生物種のタンパク質が例示でき、これらはHomoloGene(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/HomoloGene/)により同定された遺伝子の塩基配列から演繹的に同定することができる。また変異体には、天然に存在するアレル変異体、天然に存在しない変異体、および人為的に欠失、置換、付加および挿入されることによって改変されたアミノ酸配列を有する変異体が包含される。なお、上記変異体としては、変異のないタンパク質または(ポリ)ペプチドと、少なくとも70%、好ましくは80%、より好ましくは95%、さらにより好ましくは97%相同なものを挙げることができる。またアミノ酸修飾体には、天然に存在するアミノ酸修飾体、天然に存在しないアミノ酸修飾体が包含され、具体的にはアミノ酸のリン酸化体が挙げられる。
従って本明細書において「ECAT4タンパク質」または単に「ECAT4」といった用語を用いる場合、特に言及しない限り、特定アミノ酸配列(配列番号:1〜3)で示されるECAT4およびそれらの同族体、変異体、誘導体及びアミノ酸修飾体などを包含する趣旨で用いられる。具体的には、配列番号:2に記載のアミノ酸配列を有するヒトECAT4、配列番号:1に記載のアミノ酸配列を有するマウスECAT4、配列番号:3に記載のアミノ酸配列を有するサルECAT4、およびそれらのラットホモログなどが包含される。
以下、本発明の具体的な内容を説明する。
(1)ECAT4が強制発現された哺乳動物幹細胞
本発明の「ECAT4が強制発現された哺乳動物幹細胞」とは、哺乳動物細胞にECAT4を強制発現させることによって得られる細胞のことである。哺乳動物細胞とは、ヒト、サル、マウスやラット等の哺乳動物の組織・臓器等由来の細胞であって、個体から取り出した初代細胞であっても、または培養細胞であっても、哺乳動物由来の細胞であればよい。哺乳動物細胞とは、例えば、市販の培養細胞(ATCC社など)やマウスES細胞、サルES細胞やヒトES細胞であり、より好ましくはLIF非存在下では分化するマウスES細胞、サルES細胞やヒトES細胞等の胚性幹細胞であるが、これらに限定されるものではない。
ECAT4を強制発現させるには、例えば、ECAT4遺伝子を含む発現ベクターを細胞に導入すれば良く、発現ベクターの導入方法としては、具体的にはリン酸カルシウム法、DEAE−デキストラン法、エレクトロポレーション法、遺伝子導入用リピッド(Lipofectamine、Lipofectin;Gibco−BRL社)を用いる方法、マイクロインジェクション法等の公知の方法が挙げられる。
ECAT4遺伝子を含む発現ベクターは、通常の遺伝子工学的手法に基づいて作製することができる。ここで用いる発現ベクターとしては、用いる宿主や目的等に応じて適宜選択することができ、プラスミド、ファージベクター、ウイルスベクター等が挙げられる。
例えば、pCEP4、pKCR、pCDM8、pGL2、pcDNA3.1、pRc/RSV、pRc/CMVなどのプラスミドベクターや、レトロウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ関連ウイルスベクターなどのウイルスベクターが挙げられる。
前記ベクターは、発現誘導可能なプロモーター、シグナル配列をコードする遺伝子、選択用マーカー遺伝子、ターミネーターなどの因子を適宜有していても良い。また、マーカータンパクとECAT4の融合タンパクをコードする遺伝子を有しているものであってもよい。
ここで「マーカー遺伝子」とは、遺伝子学的解析に役立つ表現型のはっきりした遺伝子のことであり、遺伝子導入すると発現を直接観察できるものである。例えば、GFPやGFPの変異体であるCFPやYFPなどの蛍光タンパク質の遺伝子を挙げることができるが、これに限らず、細胞内に遺伝子導入して発現させることにより、生きた細胞のままで遺伝子が導入されたことが確認できるものであれば全て、本発明のマーカー遺伝子の範疇に含まれる。なお、マーカータンパクとはマーカー遺伝子にコードされるタンパクである。
このようなマーカー遺伝子を付加したベクターを導入することにより、ECAT4を発現する細胞を簡便に検出することができる。更に、このような遺伝子を導入したES細胞を使用することにより、ECAT4を発現する幹細胞のみを選別できるため、ES細胞を機能細胞に分化させる際に未分化の細胞と分化した細胞とを選別できるマーカーとしても利用することができる。これにより、テラトーマ形成の危険が懸念される未分化な細胞を生体に移植する危険を回避することができる。
更に、ECAT4遺伝子を含む発現ベクターをコンディショナルな遺伝子発現制御システムを利用して作製することもできる。例えばテトラサイクリンの共存下では導入した目的遺伝子が発現し、非共存下では発現しない強制発現システムを挙げることができる(Niwa et al.,(2000).Nat Genet 24,372−6.)。これらのベクターを導入した細胞は培養条件によってECAT4発現細胞をスイッチオン/オフできるため、ES細胞の間はECAT4を安定に強制発現させ、分化誘導する際には発現をシャット・オフすることで、分化を効率よく誘導することができると考えられ、様々な用途に利用することができる。
なお、ECAT4遺伝子を含む発現ベクターは、一定条件下で消失する性質を有するベクターであってもよい。具体的には、例えば、pCAG−IPベクターなどを挙げることができる。このような性質を有するECAT4発現ベクターを導入したES細胞は、トランスジェニックマウスなどの遺伝子改変動物を作製するのに非常に有用である。当該ベクターを導入したES細胞は、一定条件下でベクター自体が細胞から消失するため、regulated promoterなど細胞内にベクターが残る方法を用いてECAT4の発現量を制御するよりも、簡便かつ確実に遺伝子改変動物を作製することができる。
例えば、ECAT4遺伝子を含むpCAG−IPベクターを用いて作製したCAG−ECAT4細胞は、LIFやフィーダー細胞の非存在下で培養することが可能であるため、CAG−ECAT4細胞に所望の標的遺伝子を発現、ノックアウト、ノックダウンまたはノックインさせるための他のベクターを導入する操作は非常に容易である。
ここで遺伝子改変動物とは、標定遺伝子を過剰発現、ノックアウト、ノックダウンまたはノックインさせた動物のことである。遺伝子改変動物は公知の方法で作製することができ、動物は哺乳動物であればよく、例えばマウス、ラットなどを挙げることができる。
(2)本発明のアンチセンスポリヌクレオチド
本発明のアンチセンスポリヌクレオチドは、ECAT4遺伝子の塩基配列に相補的な、または実質的に相補的な塩基配列またはその一部を有するものであり、ECAT4遺伝子の発現を抑制し得る作用を有するものであればよく、アンチセンスRNA、アンチセンスDNAなどが含まれる。
ここで、実質的に相補的な塩基配列とは、例えば、ECAT4遺伝子の塩基配列に相補的な塩基配列と約70%以上、好ましくは約80%以上、より好ましくは約90%以上、最も好ましくは約95%以上の相同性を有する塩基配列などが挙げられる。特に、ECAT4遺伝子の塩基配列のN末端部位をコードする部分の塩基配列(例えば、開始コドン付近の塩基配列など)の相補鎖と約70%以上、好ましくは約80%以上、より好ましくは約90%以上、最も好ましくは約95%以上の相同性を有するアンチセンスポリヌクレオチドが好適である。具体的には、配列番号:8〜10のいずれかに記載の塩基配列に相補的な、もしくは実質的に相補的な配列、またはその一部分を有するアンチセンスポリヌクレオチドなどが挙げられる。
相補的な塩基配列を有するポリヌクレオチド(相補鎖、逆鎖)とは、上記各配列番号に示される塩基配列からなるポリヌクレオチドの全長配列、または該塩基配列において少なくとも連続した15塩基長の塩基配列を有するその部分配列(ここでは便宜上、これらを「正鎖」ともいう)に対して、A:TおよびG:Cといった塩基対関係に基づき、塩基的に相補的な関係にあるポリヌクレオチドを意味するものである。ただし、かかる相補鎖は、対象とする正鎖の塩基配列と完全に相補配列を形成する場合に限らず、対象とする正鎖とストリンジェントな条件でハイブリダイスすることができる程度の相補関係を有するものであってもよい。
また、正鎖側のポリヌクレオチドには、ECAT4遺伝子の塩基配列、またはその部分配列を有するものだけでなく、上記相補鎖の塩基配列に対してさらに相補的な関係にある塩基配列からなる鎖を含めることができる。
アンチセンスポリヌクレオチドは通常、10〜1000個程度、好ましくは15〜500個程度、更に好ましくは16〜30個程度の塩基から構成される。ヌクレアーゼなどの加水分解酵素による分解を防ぐために、アンチセンスDNAを構成する各ヌクレオチドのリン酸残基(ホスフェート)は、例えば、ホスホロチオエート、メチルホスホネート、ホスホロジチオネートなどの化学修飾りん酸残基に置換されていてもよい。これらのアンチセンスポリヌクレオチドは、公知のDNA合成装置などを用いて製造することができる。
かかるアンチセンスポリヌクレオチドは、ECAT4遺伝子のRNAとハイブリダイズすることができ、該RNAの合成または機能を阻害することができるか、あるいは該RNAとの相互作用を介してECAT4遺伝子の発現を調節・制御することができる。
本発明のアンチセンスポリヌクレオチドは、生体内および生体外でECAT4の発現を調節・制御するのに有用であり、前述のように未分化細胞を従来より確実になくしたりするうえで有用である。タンパク質遺伝子の5’端ヘアピンループ、5’端6−ベースペア・リピート、5’端非翻訳領域、ポリペプチド翻訳開始コドン、タンパク質コード領域、ORF翻訳終止コドン、3’端非翻訳領域、3’端パリンドローム領域または3’端ヘアピンループなどは、好ましい対象領域として選択しうるが、タンパク質遺伝子内の如何なる領域も対象として選択しうる。目的核酸と、対象領域の少なくとも一部に相補的なポリヌクレオチドとの関係については、目的核酸が対象領域とハイブリダイズすることができる場合は、その目的核酸は、当該対象領域のポリヌクレオチドに対して「アンチセンス」であるということができる。
アンチセンスポリヌクレオチドは、2−デオキシ−D−リボースを含有しているポリヌクレオチド、D−リボースを含有しているポリヌクレオチド、プリンまたはピリミジン塩基のN−グリコシドであるその他のタイプのポリヌクレオチド、非ヌクレオチド骨格を有するその他のポリマー(例えば、市販のタンパク質核酸および合成配列特異的な核酸ポリマー)または特殊な結合を含有するその他のポリマー(但し、該ポリマーはDNAやRNA中に見出されるような塩基のペアリングや塩基の付着を許容する配置をもつヌクレオチドを含有する)などが挙げられる。それらは、2本鎖DNA、1本鎖DNA、2本鎖RNA、1本鎖RNA、DNA:RNAハイブリッドであってもよく、さらに非修飾ポリヌクレオチド(または非修飾オリゴヌクレオチド)、公知の修飾の付加されたもの、例えば当該分野で知られた標識のあるもの、キャップの付いたもの、メチル化されたもの、1個以上の天然のヌクレオチドを類縁物で置換したもの、分子内ヌクレオチド修飾のされたもの、例えば非荷電結合(例えば、メチルホスホネート、ホスホトリエステル、ホスホルアミデート、カルバメートなど)を持つもの、電荷を有する結合または硫黄含有結合(例、ホスホロチオエート、ホスホロジチオエートなど)を持つもの、例えばタンパク質(例、ヌクレアーゼ、ヌクレアーゼ・インヒビター、トキシン、抗体、シグナルペプチド、ポリ−L−リジンなど)や糖(例、モノサッカライドなど)などの側鎖基を有しているもの、インターカレント化合物(例、アクリジン、ソラレンなど)を持つもの、キレート化合物(例えば、金属、放射活性をもつ金属、ホウ素、酸化性の金属など)を含有するもの、アルキル化剤を含有するもの、修飾された結合を持つもの(例えば、αアノマー型の核酸など)であってもよい。ここで「ヌクレオシド」、「ヌクレオチド」および「核酸」とは、プリンおよびピリミジン塩基を含有するのみでなく、修飾されたその他の複素環型塩基をもつようなものを含んでいて良い。このような修飾物は、メチル化されたプリンおよびピリミジン、アシル化されたプリンおよびピリミジン、あるいはその他の複素環を含むものであってよい。修飾されたヌクレオチドおよび修飾されたヌクレオチドはまた糖部分が修飾されていてよく、例えば、1個以上の水酸基がハロゲンとか、脂肪族基などで置換されていたり、またはエーテル、アミンなどの官能基に変換されていてよい。本発明のアンチセンスポリヌクレオチドは、RNA、DNAまたは修飾された核酸(RNA、DNA)である。修飾された核酸の具体例としては、核酸の硫黄誘導体、チオホスフェート誘導体、ポリヌクレオシドアミドやオリゴヌクレオシドアミドの分解に抵抗性のものなどが挙げられる。
本発明のアンチセンスポリヌクレオチドは、例えば、以下のように設計されうる。すなわち、細胞内でのアンチセンスポリヌクレオチドをより安定なものにする、アンチセンスポリヌクレオチドの細胞透過性をより高める、目標とするセンス鎖に対する親和性をより大きなものにする、また、もし毒性があるような場合はアンチセンスポリヌクレオチドの毒性をより小さなものにする。このような修飾は、例えばPharm Tech Japan,8巻,247頁または395頁,1992年、Antisense Research and Applications,CRC Press,1993年などで数多く報告されている。
本発明のアンチセンスポリヌクレオチドは、リポゾーム、ミクロスフェアのような特殊な形態で供与されたり、遺伝子治療により適合した付加された形態で供与されてもよい。こうして付加形態で用いられるものとしては、リン酸基骨格の電荷を中和するように働くポリリジンのようなポリカチオン体、細胞膜との相互作用を高めたり、核酸の取込みを増大せしめるような脂質(例、ホスホリピド、コレステロールなど)などの疎水性のものが挙げられる。付加するに好ましい脂質としては、コレステロールやその誘導体(例、コレステリルクロロホルメート、コール酸など)が挙げられる。こうしたものは、核酸の3’端または5’端に付着させることができ、塩基、糖、分子内ヌクレオシド結合を介して付着させることができうる。その他の基としては、核酸の3’端または5’端に特異的に配置されたキャップ用の基で、エキソヌクレアーゼ、RNaseなどのヌクレアーゼによる分解を阻止するためのものが挙げられる。こうしたキャップ用の基としては、ポリエチレングリコール、テトラエチレングリコールなどのグリコールをはじめとした当該分野で知られた水酸基の保護基が挙げられるが、それに限定されるものではない。アンチセンスポリヌクレオチドの阻害活性は、本発明のスクリーニング方法を用いて調べることができる。
本発明のアンチセンスポリヌクレオチドは、前述のように2本鎖であってもよく、ECAT4をコードするRNAに結合し、該RNAを破壊またはその機能を抑制するものである。すなわち、ECAT4をコードするRNAの一部とそれに相補的なRNAを含有する2本鎖RNA等も本発明のアンチセンスポリヌクレオチドに含まれる。
上記アンチセンスポリヌクレオチドの利用につき詳述すれば、通常のこの種の遺伝子治療と同様にして、例えばアンチセンスオリゴヌクレオチドまたはその化学的修飾体を直接標的の培養細胞あるいは組織などに投与することにより目的遺伝子の発現を制御する方法により実施できる。本発明のアンチセンスポリヌクレオチドは、そのままもしくは遺伝子治療用ベクターにこれを組込むことにより、細胞に投与することもできる。これらの場合も、投与量、投与方法は細胞の種類、細胞数などにより変動し、当業者であれば適宜選択することが可能である。
アンチセンスポリヌクレオチドまたはその化学的修飾体は、細胞内でセンス鎖mRNAに結合して、目的遺伝子の発現、即ちECAT4の発現を制御することができ、かくしてECAT4の機能(活性)を制御することができる。
アンチセンスポリヌクレオチドまたはその化学的修飾体を直接培養細胞に投与する方法において、用いられるアンチセンスポリヌクレオチドまたはその化学修飾体は、好ましくは10〜1000塩基、さらに好ましくは15〜500塩基、最も好ましくは16〜30塩基の長さを有するものとすればよい。その投与に当たり、アンチセンスオリゴヌクレオチドまたはその化学的修飾体は、通常慣用される安定化剤、緩衝液、溶媒などを用いて製剤化(試薬化)され得る。
上記組換えウイルスを用いる方法としては、例えばレトロウイルス、レンチウイルス、アデノウイルス、アデノ関連ウイルス、ヘルペスウイルス、センダイウイルス、ワクシニアウイルス、ポリオウイルス、シンビスウイルスなどのウイルスゲノムに本発明のアンチセンスポリヌクレオチドを組込んで生体内に導入する方法が挙げられる。この中では、レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ関連ウイルスなどを用いる方法が特に好ましい。非ウイルス的導入法としては、リポソーム法、リポフェクチン法などが挙げられ、特にリポソーム法が好ましい。他の非ウイルス的導入法としては、例えばマイクロインジェクション法、リン酸カルシウム法、エレクトロポレーション法なども挙げられる。
本発明の細胞分化促進剤は、上述したアンチセンスポリヌクレオチドまたはその化学修飾体、これらを含む組換えウイルスおよびこれらウイルスが導入された感染細胞などを有効成分とするものである。本発明の細胞分化促進剤は、試薬または医薬として用いることができる。該組成物の投与形態などは、標的細胞または組織に応じて適宜決定できる。本発明の医薬または試薬は、例えば本発明のアンチセンスポリヌクレオチドを含有するウイルスベクターをリポソームまたは膜融合リポソームに包埋した形態(センダイウイルス(HVJ)−リポソームなど)とすることができる。これらのリポソーム製剤形態には、懸濁剤、凍結剤、遠心分離濃縮凍結剤などが含まれる。また、上記本発明のアンチセンスポリヌクレオチドを含有するベクターを導入されたウイルスで感染された細胞培養液の形態とすることもできる。これら各種形態の製剤中の有効成分の投与量は、目的により適宜調節することができる。通常、ECAT4遺伝子に対するアンチセンスポリヌクレオチドの場合は、約0.001μg−100mg、好ましくは約0.001μg−10mgを数日ないし数カ月に1回添加/投与される量とすればよい。例えば10cmシャーレの場合は、本発明アンチセンスヌクレオチドを0.0001μg〜100mg、好ましくは0.001μg〜10mgを数日ないし数カ月に1回添加すればよい。
さらに、本発明は、(i)ECAT4をコードするRNAの一部とそれに相補的なRNAを含有する二重鎖RNA、(ii)前記二重鎖RNAを含有してなる医薬、(iii)ECAT4をコードするRNAの一部を含有するリボザイム、(iv)前記リボザイムを含有してなる医薬、(v)前記リボザイムをコードする遺伝子(DNA)を含有する発現ベクターなども提供する。上記アンチセンスポリヌクレオチドと同様に、二重鎖RNA、リボザイムなども、本発明のDNAから転写されるRNAを破壊またはその機能を抑制することができる。ECAT4またはそれをコードするDNAの機能を抑制することができる二重鎖RNA、リボザイムなど試薬または治療剤などとして使用することができる。
二重鎖RNAは、公知の方法(例、Nature,411巻,494頁,2001年)に準じて、ECAT4をコードするポリヌクレオチド配列を基に設計して製造することができる。リボザイムは、公知の方法(例、TRENDS in Molecular Medicine,7巻,221頁,2001年)に準じて、ECAT4をコードするポリヌクレオチドの配列を基に設計して製造することができる。例えば、公知のリボザイムの配列の一部をECAT4をコードするRNAの一部に置換することによって製造することができる。ECAT4をコードするRNAの一部としては、公知のリボザイムによって切断され得るコンセンサス配列NUX(式中、Nはすべての塩基を、XはG以外の塩基を示す)の近傍の配列などが挙げられる。上記の二重鎖RNAまたはリボザイムを上記の試薬または医薬として使用する場合、アンチセンスポリヌクレオチドと同様にして製剤化し、投与することができる。また、前記の発現ベクターは、公知の遺伝子治療法などと同様に用い、上記試薬または医薬として使用する。
(3)本発明のECAT4エンハンサー、ECAT4プロモーター領域、ECAT4が認識するコンセンサス配列、組換えベクターおよび形質転換細胞
本発明の「ECAT4エンハンサー」とは、ECAT4の転写を促進する塩基配列のことである。本発明のECAT4エンハンサーを含むECAT4プロモーター領域を用いれば、ECAT4遺伝子の転写などを効率的に行うことができる。
本発明のECAT4エンハンサーは、(i)配列番号7で示される塩基配列の一部または全部を含むことを特徴とするECAT4エンハンサー、(ii)配列番号17、配列番号18または配列番号19で示される塩基配列を含有するECAT4エンハンサー、(iii)配列番号15で示される塩基配列の一部であり、且つ配列番号17、配列番号18または配列番号19で示される塩基配列を含有するECAT4エンハンサー(iv)配列番号15で示される塩基配列を含有するECAT4エンハンサー、(v)配列番号14で示される塩基配列の一部であり、配列番号15で示される塩基配列を含有するECAT4エンハンサー、(vi)前記(i)〜(v)のいずれか記載のECAT4エンハンサーの塩基配列において1個もしくは複数個の塩基が欠失、置換もしくは付加された塩基配列を含み、且つECAT4遺伝子の転写を促進する能力を有することを特徴とするECAT4エンハンサー、(vii)前記(i)〜(v)のいずれか記載のECAT4エンハンサーの塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下にハイブリダイズし、且つECAT4遺伝子の転写を促進する能力を有することを特徴とするECAT4エンハンサーである。
なお、(i)の具体例としては、例えば、図8(B)で示される塩基配列の−4737位から−4611位の領域(配列番号15において第1位から第127位の領域)のDNAを含有するECAT4エンハンサー、および図8(B)で示される塩基配列の−4497位から−4387位の領域(配列番号15において第241位から第351位の領域)のDNAを含有するECAT4エンハンサーを挙げることができる。
本発明において「プロモーター領域」とは、調節遺伝子の一種で、遺伝子の転写の開始部位を決定し、またその頻度を直接的に調節するDNA上の領域である。細胞型特異的もしくは組織特異的な制御を受けるプロモーター要素、または外来性のシグナルもしくは因子(例えば、転写活性化タンパク質)によって誘導されるプロモーター依存的遺伝子発現を引き起こすために十分なプロモーター要素を含んでいてもよい。
本発明の「ECAT4プロモーター領域」は、前述の本発明ECAT4エンハンサーを含んでいるものであり、ECAT4のプロモーター活性を有するDNAであればいかなるものであってもよい。具体的には、例えば、配列番号14に示される塩基配列の一部または全部からなるDNAなどを挙げることができる。
本発明の「ECAT4が認識するコンセンサス配列」とは、ECAT4が遺伝子に結合して転写制御作用を示す際に、ECAT4が認識する部位の遺伝子配列である。
本発明のECAT4が認識するコンセンサス配列としては、
(i)以下の(a)〜(c)のいずれかに記載されるDNAを含むことを特徴とするECAT4が認識するコンセンサス配列:
(a)配列番号4で示される塩基配列を含有する配列からなるDNA、
(b)配列番号4で示される塩基配列において1個もしくは複数個の塩基が欠失、置換もしくは付加された塩基配列からなり、且つECAT4と結合する能力を有するDNA、
(c)配列番号4で示される塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下にハイブリダイズし、且つECAT4と結合する能力を有するDNA、
(ii)以下の(a)〜(c)のいずれかに記載されるDNAを含むことを特徴とするECAT4が認識するコンセンサス配列:
(a)配列番号5、配列番号6または配列番号16で示される塩基配列からなるDNA、
(b)配列番号5、配列番号6または配列番号16で示される塩基配列において1個もしくは複数個の塩基が欠失、置換もしくは付加された塩基配列からなり、且つECAT4と結合する能力を有するDNA、
(c)配列番号5、配列番号6または配列番号16で示される塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下にハイブリダイズし、且つECAT4と結合する能力を有するDNA、
(iii)前述(i)または(ii)記載の配列の一部を含有することを特徴とするECAT4が認識するコンセンサス配列、
を挙げることができる。ここで、「1個もしくは複数個の塩基」とは、好ましくは1〜3個の塩基であり、更に好ましくは1〜2個の塩基である。また(iii)における「配列の一部」とは、例えば、配列番号5、配列番号6または配列番号16で示される塩基配列の5’側末端から数塩基〜10塩基のDNA、あるいは3’側末端から数塩基〜10塩基のDNAを挙げることができるが、これに限定されない。
本発明のECAT4エンハンサー、ECAT4が認識するコンセンサス配列およびECAT4プロモーター領域は、ヒトまたは他の哺乳動物の細胞(例えば、ヒトリンパ球細胞、マウス線維芽細胞、マウスES細胞、ラットES細胞、ヒトES細胞)もしくはそれらの細胞が存在するあらゆる組織等に由来のゲノムDNA、cDNA、合成DNAのいずれでもよい。
本発明のECAT4エンハンサー、ECAT4が認識するコンセンサス配列およびECAT4プロモーター領域の調製方法としては、例えば、化学合成法、PCRあるいはハイブリダイゼーション法などが挙げられる。
化学合成法を用いて調製する場合、DNA自動合成機、例えばDNA合成機モデル380A(ABI社製)等を用いることができる。
次に、PCRを用いて本発明のECAT4エンハンサーまたはECAT4プロモーター領域を調製する方法について説明する。鋳型とするゲノムライブラリーは、例えば、「Molecular Cloning:A Laboratory Manual 2nd edition」(1989)、Cold Spring Harbor Laboratory Press等に記載されている方法に準じてヒト、マウス等の哺乳動物の組織から調製することができる。また、ヒトゲノムDNA(クローンテック製)等の市販のゲノムDNAや、ヒトゲノムウォーカーキット(クローンテック製)等の市販ゲノムライブラリーを用いることができる。次いで、増幅させるプロモーターに対応したプライマーを用いてPCRを行う。尚、前記プライマーは、配列番号7、配列番号14または配列番号15で示される塩基配列に基づいて適宜設計することができ、また、その5’末端側に、制限酵素認識配列等を付加してもよい。前記のようにして増幅されたDNAは、「Molecular Cloning:A Laboratory Manual 2nd edition」(1989),Cold Spring Harbor Laboratory Press、「Current Protocols In Molecular Biology」(1987),John Wiley & Sons,Inc.ISBN0−471−50338−X等に記載される通常の方法に準じてベクターにクローニングすることができる。具体的には例えばInvitrogen製のTAクローニングキットに含まれるプラスミドベクターやStratagene製のpBluescriptIIなどのプラスミドベクターを用いてクローニングすることができる。クローニングされたDNAの塩基配列は、F.Sanger,S.Nicklen,A.R.Coulson著、Proceedings of National Academy of Science U.S.A.(1977),74,5463−5467等に記載されるダイデオキシターミネーティング法などにより分析することができる。
次に、ハイブリダイゼーション法を用いて調製する方法について説明する。
まず、プローブに用いるDNAを標識する。プローブに用いるDNAとしては、調製しようとするエンハンサー、プロモーター領域等の塩基配列の少なくとも一部を有するDNA、例えば、配列番号4〜7、および配列番号14〜19のいずれかで示される塩基配列もしくはその連続した一部の塩基配列からなるDNAであってその鎖長が16塩基以上160塩基以下であるDNA、前記DNAの塩基配列において1個もしくは複数個の塩基が欠失、置換もしくは付加された塩基配列からなるDNA、前記DNAとストリンジェントな条件下にハイブリダイズするDNA等を挙げることができる。
プローブに用いる前記DNAは、例えば、化学合成法、PCR、ハイブリダイゼーション法等、前述した通常のDNAの調製方法によって得ることができる。なお、プローブに用いる前記DNAは、それ自身がECAT4をコードする遺伝子の転写を制御する能力を有していても良い。
プローブに用いる前記DNAを放射性同位元素により標識するには、例えば、ベーリンガー製、宝酒造製のRandom Labelling Kit等を用いることができ、通常のPCR反応組成中のdCTPを[α−32P]dCTPに替えて、プローブに用いる前記DNAを鋳型にしてPCR反応を行うことにより、標識を行うこともできる。また、プローブに用いるDNAを蛍光色素で標識する場合には例えば、ECL Direct Nucleic Acid Labelling and Ditection System(Amersham Pharmacia Biotech製)等を用いることができる。プローブをハイブリダイズさせるDNAライブラリーとしては、例えば、マウスなどのげっ歯類等の動物由来のゲノムDNAライブラリー等を使用することができる。当該DNAライブラリーには、市販のゲノムDNAライブラリーを用いることもできるし、また「Molecular Cloning:A Laboratory Manual 2nd edition」(1989),Cold Spring Harbor Laboratory Pressや「Current Protocols In Molecular Biology」(1987),John Wiley & Sons,Inc.ISBN0−471−50338−X等に記載される通常のライブラリー作製法に従い、例えば、Stratagene製のλ FIX II、λ EMBL3、λ EMBL4、λ DASH II等のλベクターを用い、Gigapack packaging Extracts(Stratagene製)等をin vitroパッケージングに用いてゲノムDNAライブラリーを作製し、これを用いることもできる。
ハイブリダイゼーション方法としては、コロニーハイブリダイゼーションやプラークハイブリダイゼーションをあげることができ、ライブラリーの作製に用いられたベクターの種類に応じて方法を選択するとよい。例えば、使用されるライブラリーがプラスミドベクターで構築されたライブラリーである場合には、コロニーハイブリダイゼーションを行うことができる。具体的にはまず、ライブラリーのDNAを宿主微生物に導入して形質転換細胞を取得し、得られた形質転換細胞を希釈して寒天培地にまき、コロニーが現れるまで37℃で培養を行う。また、使用されるライブラリーがファージベクターで構築されたライブラリーである場合には、プラークハイブリダイゼーションを行うことができる。具体的にはまず、宿主微生物とライブラリーのファージを感染可能な条件下で混合した後さらに軟寒天培地と混合し、これを寒天培地上にまく。その後プラークが現れるまで37℃で培養を行う。より具体的には、例えば、Molecular Cloning 2nd edition(J.Sambrook,E.F.Frisch,T.Maniatis著、Cold Spring Harbor Laboratory Press 1989年)2.60から2.65等に記載されている方法に準じて、NZY寒天培地に寒天培地1mm当り0.1〜1.0pfuの密度で、約9.0×10pfuのファージライブラリーを広げ、37℃で6〜10時間培養する。
次いで、前記のいずれのハイブリダイゼーション法を用いた場合も、前述の培養を行った寒天培地の表面にメンブレンフィルターをのせ、プラスミドを保有する形質転換細胞やファージを当該メンブレンフィルターに転写する。このメンブレンフィルターをアルカリ処理した後、中和処理し、次いで、DNAを当該フィルターに固定する処理を行う。より具体的には例えば、プラークハイブリダイゼーションの場合には、クローニングとシークエンス:植物バイオテクノロジー実験マニュアル(渡辺、杉浦編集、農村文化社1989年)等に記載の通常の方法に準じて、前記寒天培地の上にニトロセルロースフィルター又はナイロンフィルター等、例えば、Hybond−N(Amersham Pharmacia Biotech製)を置き、約1分間静置してファージ粒子をメンブレンフィルターに吸着させる。次に、当該フィルターをアルカリ溶液(1.5M塩化ナトリウム、0.5N水酸化ナトリウム)に約3分間浸してファージ粒子を溶解させてファージDNAをフィルター上に溶出させた後、中和溶液(1.5M塩化ナトリウム、0.5Mトリス塩酸、pH7.5)に約5分間浸す処理を行う。当該フィルターを洗浄溶液(300mM塩化ナトリウム、30mMクエン酸ナトリウム、200mMトリス塩酸)で約5分間洗った後、例えば、約80℃で約90分間ベーキングすることによりファージDNAをフィルターに固定する。このように調製されたフィルターと、前記プローブとを用いてハイブリダイゼーションを行う。ハイブリダイゼーションを行う際の試薬及び温度条件は、例えば、D.M.Glover編「DNA cloning,a practical approach」IRL PRESS(1985)ISBN 0−947946−18−7、クローニングとシークエンス:植物バイオテクノロジー実験マニュアル(渡辺、杉浦編集、農村文化社1989年)、または、Molecular Cloning 2nd edition(J.Sambrook,E.F.Frisch,T.Maniatis著、Cold Spring Harbor Laboratory Press、1989年)等の記載の方法に準じて行うことができる。例えば、450〜900mMの塩化ナトリウム、45〜90mMのクエン酸ナトリウムを含み、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)を0.1〜1.0%(W/V)の濃度で含み、変性した非特異的DNAを0〜200μg/mLの濃度で含み、場合によってはアルブミン、フィコール、ポリビニルピロリドン等をそれぞれ0〜0.2%(W/V)の濃度で含んでいてもよいプレハイブリダイゼーション溶液、好ましくは、900mMの塩化ナトリウム、90mMのクエン酸ナトリウム、1%(W/V)のSDSおよび100μg/mLの変性Calf−thymus DNAを含むプレハイブリダイゼーション溶液を、前記のようにして作製したフィルター1cm当り50〜200μLの割合で準備し、当該溶液に前記フィルターを浸して42〜68℃で1〜4時間、好ましくは、45℃で2時間保温する。次いで、例えば、450〜900mMの塩化ナトリウム、45〜90mMのクエン酸ナトリウムを含み、SDSを0.1〜1.0%(W/V)の濃度で含み、変性した非特異的DNAを0〜200μg/mLの濃度で含み、場合によってはアルブミン、フィコール、ポリビニルピロリドン等をそれぞれ0〜0.2%(W/V)の濃度で含んでいてもよいハイブリダイゼーション溶液、好ましくは、900mMの塩化ナトリウム、90mMのクエン酸ナトリウム、1%(W/V)のSDSおよび100μg/mLの変性Calf−thymus DNAを含むハイブリダイゼーション溶液と、前述の方法で調製して得られたプローブ(フィルター1cm当り1.0×10〜2.0×10cpm相当量)とを混合した溶液をフィルター1cm当り50〜200μLの割合で準備し、当該溶液にフィルターを浸し42〜68℃で4〜20時間、好ましくは、45℃で16時間保温しハイブリダイゼーション反応を行う。当該ハイブリダイゼーション反応後、フィルターを取り出し、15〜300mMの塩化ナトリウム、1.5〜30mMのクエン酸ナトリウム、および0.1〜1.0%(W/V)のSDS等を含む42〜68℃の洗浄溶液等、好ましくは、300mMの塩化ナトリウム、30mMのクエン酸ナトリウム、および1%(W/V)のSDSを含む55℃の洗浄溶液で、10〜60分間のフィルター洗浄を1〜4回、好ましくは15分間の洗浄を2回行う。さらに、フィルターを2×SSC溶液(300mM塩化ナトリウム、および30mMクエン酸ナトリウムを含む。)で軽くすすいだのち乾燥させる。このフィルターを、例えば、オートラジオグラフィーなどに供してフィルター上のプローブの位置を検出することにより、用いたプローブとハイブリダイズするDNAのフィルター上の位置を検出する。検出されたDNAのフィルター上の位置に相当するクローンをもとの寒天培地上で特定しこれを釣菌することにより、当該DNAを有するクローンを単離することができる。具体的には例えば、フィルターをイメージングプレート(富士フィルム)に4時間露光させ、次いで当該プレートをBAS2000(富士フィルム)を用いて解析し、シグナルを検出する。フィルターの作製に用いた寒天培地のうち、シグナルが検出された位置に相当する部分を約5mm角にくり抜き、これを約500μLのSMバッファー(50mMトリス−塩酸pH7.5、0.1M塩化ナトリウム、7mM硫酸マグネシウム、および0.01%(W/V)ゼラチンを含む。)に2〜16時間、好ましくは3時間浸してファージ粒子を溶出させる。得られたファージ粒子溶出液をMolecular Cloning 2nd edition(J.Sambrook,E.F.Frisch,T.Maniatis著、Cold Spring Harbor Laboratory Press、1989年)2.60から2.65に記載の方法に準じて寒天培地に広げ、37℃で6〜10時間培養する。この寒天培地を用いて前述の方法と同様の方法でファージDNAをフィルターに固定し、このフィルターと前述のプローブを用いてハイブリダイゼーションを行う。フィルターの作製に用いた寒天培地のうちの、シグナルが検出された位置に相当する部分からファージ粒子を溶出し、これを寒天培地に広げ、前述の方法と同様にフィルターを作製し、ハイブリダイゼーションを行う。このようなファージクローンの特定と純化を繰り返すことにより、用いたプローブとハイブリダイズする塩基配列からなるDNAを含むファージクローンが得られる。前述のようなハイブリダイゼーションによるスクリーニングを行うことにより得られたクローンの保有するDNAは、DNA調製や解析が容易なプラスミドベクター、例えば市販のpUC18、pUC19、pBLUESCRIPT KS+、pBLUESCRIPT KS− 等にサブクローニングして、プラスミドDNAを調製し、F.Sanger,S.Nicklen,A.R.Coulson著、Proceedings of National Academy of Science U.S.A.(1977),74,5463−5467等に記載されるダイデオキシターミネーティング法を用いてその塩基配列を決定することができる。塩基配列分析に用いる試料の調製は、例えば、Molecular Cloning 2nd edition(J.Sambrook,E.F.Frisch,T.Maniatis著、Cold Spring Harbor Laboratory Press、1989年)13.15等に記載されているプライマーエクステンション法に準じて行うことができる。また、ファージクローンをMolecular Cloning 2nd edition(J.Sambrook,E.F.Frisch,T.Maniatis著、Cold Spring Harbor Laboratory Press、1989年)2.60から2.65等に記載の方法に準じてNZYM液体培地で増幅し、ファージ液を調製して、これから例えば、Lambda−TRAPPLUS DNA Isolation Kit(Clontech製)等を用いてファージクローンDNAを抽出し、当該DNAを鋳型として、例えば、前述のプライマーエクステンション法により塩基配列分析用の試料を調製し、塩基配列を分析することもできる。このようにして得られるDNAのECAT4遺伝子の転写を制御する能力を後述のようにして確認することもできる。尚、本願において「転写を制御する能力」とは、例えば、プロモーター領域の下流に位置する遺伝子の転写を開始および/または促進させる活性等を意味する(以下、プロモーター活性と記すこともある。)。
本発明のECAT4エンハンサー、ECAT4が認識するコンセンサス配列およびECAT4プロモーター領域は、配列番号4〜7および配列番号14〜19のいずれかで示される塩基配列を含む配列に変異を導入することによって作製しても良い。具体的には、例えば、A.Greener,M.Callahan、Strategies(1994)7,32−34等に記載される方法を用いてランダムに変異を導入することによって取得することができ、W.Kramer,et al.、Nucleic Acids Research(1984)12,9441もしくはW.Kramer,H.J.Frits、Methods in Enzymology(1987)154,350等に記載のギャップド・デュープレックス(gapped duplex)法、またはT.A.Kunkel、Proc.of Natl.Acad.Sci.U.S.A.(1985)82,488もしくはT.A.Kunkel,et al.、Methods in Enzymology(1987)154,367等に記載のクンケル(Kunkel)法を用いて部位特異的に変異を導入することによって取得することができる。あるいは、配列番号15で示される塩基配列を含むECAT4プロモーター領域等のうち1ヶ所ないし数カ所の部分塩基配列を、他のプロモーターのDNAの一部と入れ換えたキメラDNAを作製することによって取得することができ、例えば、S.Henikoff,et al.、Gene(1984)28,351、C.Yanisch−Perron,et al.、Gene(1985)33,103等に記載された方法を用いることができる。
前記の種々の方法で調製される本発明プロモーター領域を、通常の方法、例えば、「田村隆明著(羊土社刊)、新転写制御のメカニズム(2000年)」33〜40頁、「野村慎太郎、渡辺俊樹監修著(秀潤社刊)、脱アイソトープ実験プロトコール(1998年)」等に記載された方法に準じて、プロモーター活性を維持したまま、その一部分の塩基を欠失させて得られる(即ち、適当な制限酵素を用いて切り出すことにより調製される)DNAも本発明プロモーター領域として使用することができる。得られたDNAのECAT4遺伝子の転写を制御する能力は後述する方法により確認することができる。
本発明組換えベクターの調製において、本発明ECAT4エンハンサーまたはECAT4プロモーター領域(以下、本明細書において「ECAT4エンハンサー/プロモーター領域」という)を挿入するための組換えベクターとしては、所望の細胞内で機能可能な組換えベクターであれば良い。本発明のECATエンハンサーを用いる場合は、公知の適切なプロモーターを機能可能な形に連結することができる。なお、本発明組換えベクターは、当該組換えベクターが導入された細胞を選択するためのマーカー遺伝子(例えば、カナマイシン耐性遺伝子、ハイグロマイシン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子等)を含んでいてもよい。また、前記組換えベクターにおいて、本発明エンハンサー/プロモーター領域および所望の遺伝子が組換えベクター上で機能可能な形で連結されるような位置、例えば当該エンハンサー/プロモーター領域を挿入する部位の下流に遺伝子挿入部位がさらに有ると、所望の遺伝子を細胞内で発現させるための組換えベクターの構築等に好ましく利用できる。ここで遺伝子挿入部位とは、例えば、遺伝子工学的手法で通常用いられる制限酵素が特異的に認識切断可能な塩基配列であり、本発明エンハンサー/プロモーター領域を有する組換えベクター上に唯一存在する種類の制限酵素認識配列が好ましい。当該組換えベクターとして具体的には、例えば、pUC系プラスミド[pUC118,pUC119(宝酒造製)など]、pSC101系プラスミド、pBR322プラスミド(Boehringer Mannheim製)等が挙げられる。
また、本発明組換えベクターの調製において、本発明のECAT4が認識するコンセンサス配列を挿入するための組換えベクターとしては、所望の細胞内で機能可能な組換えベクターであれば良く、当該組換えベクターが導入された細胞を選択するためのマーカー遺伝子(例えば、カナマイシン耐性遺伝子、ハイグロマイシン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子等)を含んでいてもよい。また、前記組換えベクターにおいて、本発明のコンセンサス配列および所望の遺伝子が組換えベクター上で機能可能な形で連結されるような位置、例えば当該コンセンサス配列を挿入する部位の下流に適切なプロモーターおよび遺伝子挿入部位がさらに有ると、所望の遺伝子を細胞内で発現させるための組換えベクターの構築等に好ましく利用できる。ここで遺伝子挿入部位とは、例えば、遺伝子工学的手法で通常用いられる制限酵素が特異的に認識切断可能な塩基配列であり、本発明のECAT4が認識するコンセンサス配列を有する組換えベクター上に唯一存在する種類の制限酵素認識配列が好ましい。当該組換えベクターとして具体的には、例えば、pUC系プラスミド[pUC118,pUC119(宝酒造製)など]、pSC101系プラスミド、pBR322プラスミド(Boehringer Mannheim製)等が挙げられる
さらにECAT4エンハンサー/プロモーター領域の活性、またはECAT4とECAT4が認識するコンセンサス配列の結合を調べるためには、ECAT4エンハンサー/プロモーター領域またはECAT4が認識するコンセンサス配列の下流に検出可能な構造遺伝子を連結すればよい。エンハンサー/プロモーター領域またはコンセンサス配列の下流に連結される構造遺伝子としては、種々のレポーター遺伝子が用いられる。レポーター遺伝子としては、ルシフェラーゼ遺伝子、CAT(クロラムフェニコールアセチル転移酵素(Chloramphenicol acetyl transferase)遺伝子、アルカリフォスファターゼ遺伝子の他に、β−ガラクトシダーゼ遺伝子が汎用されているが、他のいかなる構造遺伝子であっても、その遺伝子産物の検出法があれば使用され得る。上記構造遺伝子をベクターに組み込むには、ECAT4エンハンサー/プロモーター領域またはECAT4が認識するコンセンサス配列の下流に存在する適当な制限酵素切断部位に、上記構造遺伝子が正しく転写される方向に連結すればよい。例えば、pGL3 Basic、pGL3 promoter(プロメガ社)などの市販のベクターを用いることもできる。
上記組換えベクターにより形質転換する宿主としては、例えば、エシェリヒア属菌、バチルス属菌、酵母、昆虫細胞、動物細胞などが用いられる。動物細胞としては、例えば、サル細胞COS−7,Vero,チャイニーズハムスター細胞CHO(以下、CHO細胞と略記),dhfr遺伝子欠損チャイニーズハムスター細胞CHO(以下、CHO(dhfr−)細胞と略記),マウスL細胞,マウスAtT−20,マウスミエローマ細胞,ラットGH3,マウス繊維芽細胞3T3−L1,ヒト肝臓ガン細胞HepG2(以下、HepG2細胞と略記)、ヒト骨肉腫細胞MG−63(以下、MG−63細胞と略記)、ヒトFL細胞、白色脂肪細胞、卵細胞、ES細胞(Evans,M.J.とKaufman,K.H.(1981)Nature,292,154)などが用いられる。好ましくは哺乳動物由来の組織幹細胞またはES細胞であり、特に好ましくは、マウスES細胞、ラットES細胞およびヒトES細胞などを挙げることができる。
これらの細胞への形質転換の方法としては、リン酸カルシウム法(Grahamら(1973)Virology,52,456)、エレクトロポレーション法(石崎ら(1986)細胞工学,5,577)、マイクロインジェクション法、遺伝子導入用リピッド(Lipofectamine、Lipofectin;Gibco−BRL社)を用いる方法などが用いられる。より具体的には、動物細胞を形質転換するには、例えば、細胞工学別冊8新細胞工学実験プロトコール.263−267(1995)(秀潤社発行)、ヴィロロジー(Virology),52巻,456(1973)に記載の方法に従って行なうことができる。上記形質転換体は、特定の化合物の存在下に培養し、培養物中の遺伝子産物の量を測定し比較することにより、該化合物のプロモーター活性のコントロール能を知ることができる。該形質転換体の培養はそれ自体公知の方法で行なう。培地のpHは約5〜8に調整するのが好ましい。
本発明の組換えベクターがECAT4エンハンサーまたはECAT4のプロモーター領域を含有するDNAであれば、上記の形質転換体を用いることによって、ECAT4エンハンサーまたはECAT4プロモーター領域の活性を制御(活性化/抑制)する化合物をスクリーニングすることが可能である。また、本発明の組換えベクターがECAT4が認識するコンセンサス配列を含有するDNAであれば、上記の形質転換体を用いることによって、ECAT4と該コンセンサス配列の結合を制御(活性化/抑制)する化合物のスクリーニングに用いることが可能である。
(4)ECAT4エンハンサーまたはECAT4プロモーター領域の活性を制御(活性化/抑制)する物質をスクリーニングする方法、およびECAT4が認識するコンセンサス配列を用いたスクリーニング方法
本発明のECAT4遺伝子、ECAT4エンハンサー、ECAT4プロモーター領域、またはECAT4が認識するコンセンサス配列を利用することにより、ECAT4の発現を制御(活性化/抑制)する物質、あるいはECAT4の機能を制御(活性化/抑制)する物質をスクリーニングすることができる。
例えば、ECAT4エンハンサー/プロモーター領域の塩基配列にルシフェラーゼ遺伝子を結合したキメラ遺伝子を細胞(例えば、ES細胞など)に導入することで、ECAT4の発現を活性化または抑制する物質をスクリーニングすることができる。また同様に、ECAT4が認識するコンセンサス配列を含むプロモーター遺伝子とレポーター遺伝子とのキメラ遺伝子を細胞(例えば、ES細胞など)に導入することで、ECAT4による転写活性化または転写抑制に影響を及ぼす物質、あるいはECAT4と同様の活性を有する物質をスクリーニングすることができる。更に、公知のBindingアッセイ、例えばSPA法(アマシャムファルマシア社)を用いたBindingアッセイなどで、ECAT4と本発明のコンセンサス配列の結合を阻害する物質を探索することも可能である。
本発明のECAT4エンハンサーまたはECAT4プロモーター領域の活性を制御する物質のスクリーニング方法は、次の工程(a)、(b)及び(c)を含むものが例示される:
(a)ECAT4エンハンサーまたはECAT4プロモーター領域をレポーター遺伝子に連結させたDNAで形質転換した細胞と被験物質とを接触させる工程、
(b)被験物質を接触させた細胞におけるレポーター遺伝子の活性を測定し、該発現量を被験物質を接触させない対照細胞における活性と比較する工程、
(c)上記(b)の比較結果に基づいて、ECAT4エンハンサーまたはECAT4プロモーター領域の活性を制御する被験物質を選択する工程。
かかるスクリーニングに用いられる細胞としては、前述(3)に記載の本発明の形質転換体が、有用である。
本発明スクリーニング方法によってスクリーニングされる被験物質(候補物質)は、制限されないが、核酸(本発明のアンチセンスヌクレオチドを含む)、ペプチド、タンパク質、有機化合物、無機化合物などであり、本発明スクリーニングは、具体的にはこれらの被験物質またはこれらを含む試料(被験試料)を上記細胞と接触させることにより行われる。かかる被験試料としては、被験物質を含む細胞抽出液、遺伝子ライブラリーの発現産物、合成低分子化合物、合成ペプチド、天然化合物などが挙げられるが、これらに制限されない。
また本発明スクリーニングに際して、被験物質と細胞とを接触させる条件は、特に制限されないが、該細胞が死滅しない培養条件(温度、pH、培地組成など)を選択するのが好ましい。
実施例に示すように、ECAT4を強制発現させた細胞は、LIFやファーダー細胞非存在下でもES細胞の持つ全能性を維持するため、ES細胞の自己複製能に関与するマスター遺伝子であると考えられる。よって本発明のスクリーニング方法には、このECAT4エンハンサー/プロモーター領域の転写能を指標として、その活性を制御(活性化/抑制)する物質を探索する方法が包含される。このスクリーニング方法によって、ES細胞の培養維持に有効な候補物質、またはES細胞を分化させるのに有効な候補物質を提供することができる。ECAT4エンハンサー/プロモーター領域の転写能を活性化する候補物質はES細胞の培養維持に有用であり、抑制する物質はES細胞を分化させるのに有用であると考えられる。
より具体的には、被験物質(候補物質)を添加した細胞におけるECAT4エンハンサー/プロモーター領域の活性が、被験物質(候補物質)を添加しない細胞のそのレベルに比して変動(高くなる/低くなる)場合に、選択することができる。
ECAT4エンハンサー/プロモーター領域の活性の定量は、前述のように、ECAT4遺伝子の発現を制御する遺伝子領域(発現制御領域)に、例えばルシフェラーゼ遺伝子などのマーカー遺伝子をつないだ融合遺伝子を導入した細胞株を用いて、マーカー遺伝子由来のタンパク質の活性を測定することによって実施できる。測定方法としては、例えば、Brasier,A.R.ら(1989)Biotechniques vol.7,1116−1122の記載に準じた方法により、ルシフェラーゼ活性を測定することなどがあげられる。
なお、上記マーカー遺伝子としては、発光反応や呈色反応を触媒する酵素の構造遺伝子が好ましい。具体的には、前述(3)に記載のように、ルシフェラーゼ遺伝子のほか、分泌型アルカリフォスファターゼ遺伝子、クロラムフェニコール・アセチルトランスフェラーゼ遺伝子、βグルクロニダーゼ遺伝子、βガラクトシダーゼ遺伝子、及びエクオリン遺伝子などのレポーター遺伝子を例示できる。
【実施例】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によりなんら限定されるものではなく、本発明の技術分野における通常の変更ができることは言うまでもない。
【実施例1】
ECAT4の同定
多能性細胞の主要な転写因子の候補を同定するために、ここではNational Center for Biological Informationにより開発されたデジタルディフェレンシャルディスプレイを実施した。この方法により、各種細胞および組織に由来する発現シーケンスタグ(EST)ライブラリ中におけるそれぞれの遺伝子の発現頻度を比較することが可能である。今回比較したのは、マウスES細胞に由来するESTライブラリ(27705クローン)と各種体細胞組織および器官に由来するESTライブラリ(1328835クローン)であった。
(1)デジタルディフェレンシャルディスプレイ
本発明ではDigital Differential Displayプログラム(http://www,ncbi.nlm.nih.gov/Unigene/ddd/cgi)を用いて、ES細胞および他の組織に由来するcDNAライブラリー中の遺伝子発現を分析した。ES細胞由来のESTライブラリーは#274および220であった(合計27705エントリー)。各種体細胞組織を代表して用いたライブラリーは#467、318、198、408、239、400、453、109、16、523、161、483、258、264、419、529、327、411、417、418、399、196、271、255、495、101、98、351、416、321、251、412、379、549、329、265、449、328、516、320、436、427、297、366、390、315、228、277、292、284、285および30であった(合計1328835エントリー)。
同プログラムによる解析の結果、20遺伝子がES細胞においては、体細胞組織と比較して少なくとも20倍以上の高頻度で発見された。これらの中には、例えばOct3/4、UTF1(Okuda et al.,1998)、およびRex1(Rogers et al.,1991)などの実験的に同定されたES細胞特異的マーカー遺伝子が存在しており、この技術の有用性を示している。ノーザンブロット分析により、特徴が知られていない少なくとも9個の遺伝子についてES細胞に特異的な発現が確認されたが、ここではその中の1個でホメオボックスドメインを有しているものをECAT4と命名した(図1(A))。
ECAT4の転写は未分化RF8(Meiner et al.,1996)およびMG1.19(Gassmann et al.,1995)ES細胞において認められ(図1(B))、レチノイン酸により誘導された分化で減少した。成体マウスの12臓器において、ECAT4転写物は検出できなかった。さらに抗ECAT4ポリクローナル抗体を作成し、ECAT4がRF8、MG1.19、J1(Li et al.,1992)、およびCGR8(Nichols et al.,1990)の4種類のES細胞ラインにおいて発現していることを確認した(図1(C))。レチノイン酸処理を行うと、4種類の系列全てにおいてECAT4の発現が抑制された。これらのデータによって、新しいホメオボックス遺伝子であるECAT4の特異的な発現が、ES細胞に共通に見られる特性であることが示された。
【実施例2】
ECAT4タンパク質と新規なホメオボックス
5’RACE法により、2184塩基からなるECAT4の全長cDNAを単離した(図1(A))。そして305個のアミノ酸ポリペプチドをコードする単一のオープンリーディングフレームが同定された。
このECAT4 cDNAには比較的長い1077塩基の3’非翻訳領域がある。ホモロジー検索により、ECAT4タンパク質はホメオボックスドメインを含むことが明らかになった。系統分析によれば、このECAT4ホメオボックスはNk−2遺伝子ファミリー(Harvey,1996)に最も近いことが示された(図2(B))。しかしながら、アミノ酸の同一性は40%未満である。さらにECAT4では、NK−2ファミリーでは厳密に保存されているチロシンに対応する位置にバリンが存在する。NK−2ファミリーでは保存されているTNドメインおよびNK−2特異的ドメインは、ECAT4には存在しない。これらのデータからECAT4はNK−2ファミリーではないことが示唆される。ECAT4は、Oct3/4、Pem(Fan et al.,1999)やEhox(Jackson et al.,2002)などといった、ES細胞内で発現する他のホメオボックス遺伝子におけるホメオボックスドメインに対して、低い相同性しか持っていない。ホメオボックス以外にはECAT4蛋白質に既知のドメインは存在しない。したがってECAT4は、既知のサブファミリーのいずれにも属さない、新しいホメオボックス転写因子であると考えられる。
【実施例3】
マウスES細胞中のマウスECAT4遺伝子の標的破壊
(1)マウスECAT4遺伝子の標的破壊
ホメオボックスドメインを持つマウスECAT4遺伝子のエクソン2を、IRES(内部リボソーム結合部位)−β−geo(βガラクトシダーゼとネオマイシン抵抗性遺伝子の融合体)カセット(Moundtford et al.,1994)またはハイグロマイシン抵抗性遺伝子置換するためのターゲティングベクターを作製した。イントロン1を含む4kb断片とエクソン3からエクソン4までの1.5kbp断片をBACクローンから増幅し、ターゲティングベクターの5’および3’相同領域として用いた(図2(A))。得られたターゲティングベクターを、エレクトロポレーションによりRF8 ES細胞内に導入した(Meiner et al.,1996)。G418−抵抗性コロニーからの相同組み替えに関するゲノムDNAのスクリーニングを、サザンブロットにより行った。
β−geo標的ベクターを用いた場合、スクリーニングされた96個のコロニー中27個が陽性であることが判明した。hygrベクターを用いた場合には、27個中8個が陽性であった。相同組み替えの確認はサザンブロットを用いて行った(図2(B))。
ホモ接合ES細胞を得るために、本研究ではβ−geoベクターを用いて確立されたヘテロ変異細胞に、hygrベクターを導入した。細胞の選別はLIFを用いたMEF細胞上でハイグロマイシンを用いて行った。スクリーニングされた83個のうち34個中に、hygrベクターの相同組み替えが確認された。これらの中で、11個のクローンがECAT4変異に対してホモ接合であることが、サザンブロット(図2(B))およびPCR(図2(C))の両方により判明した。ノーザンブロット(図2(D))分析により、ホモ接合細胞内におけるECAT4発現の欠如が確認された。他の23個のクローンでは、hygrベクターがβ−geoカセットを置換していた。
次に、反対のアプローチでホモ接合細胞を作成することを試みた。すなわちハイグロマイシンベクターにより確立されたヘテロ変異細胞にβ−geoベクターを導入した。細胞の選別はLIFを発現するSNL支持細胞上でG418を用いて行った。スクリーニングされた397個のうち114個において、β−geoベクターの相同組み替えが確認された。これらの中で、6個のクローンがホモ接合であることが判明した。両方の組み合わせによって得られたECAT4欠損細胞は、以下の実施例4および実施例5に示されるような挙動を示した。
(2)相同組み替えに関するPCRスクリーニング
相同組み替えに対する初期スクリーニングはExTaqポリメラーゼを用いたPCRにより行った。6047−insS1.2および6047−intAS1プライマーを用いた特異的増幅により、野生型遺伝子座からは3.2−kbバンドが、β−geoベクターの標的遺伝子座からは8.5−kbバンドが、そしてhygrベクターの標的遺伝子座からは4.2−kbバンドが得られた。
(3)相同組み替えのスクリーニングに関するサザンブロット分析
相同組み替えの確認はサザンブロット分析を用いて行った。5’サザンブロット分析のためにはゲノムDNAをBamHIで消化し、0.8%アガロースゲル上で分離し、既出の方法でナイロン膜に転写した(Yamanaka et al.,2000;Yamanaka et al.,1998)。5’フランキング領域由来の470bpプローブを用いたハイブリダイゼーションにより、野生型遺伝子座から8.8kbのバンドが、βgeo標的ベクターを用いた標的遺伝子座から11.4kbのバンドが、ハイグロマイシンベクターを用いた標的遺伝子座から9.8kbのバンドが生じた。3’サザンブロット分析のためにScalを用いて消化を行った。3’フランキング領域由来の1kbプローブを用いたハイブリダイゼーションにより、野生型遺伝子座から11kbのバンドが、βgeo標的ベクターを用いた標的遺伝子座から15.4kbのバンドが、ハイグロマイシンベクターを用いた標的遺伝子座から7.3kbのバンドが生じた。
(4)マウス遺伝子型の特定
正しく標的されたES細胞クローンの同定後、3プライマーPCRを用いてマウスの遺伝子型を決定した。一つ目のセンスプライマ6047−S5は野生型遺伝子座を増幅するため、エクソン2をもとに設計した。2つ目のセンスプライマβ−geo screening 1は標的化遺伝子座を増幅するため、βgeoカセットをもとに設計した。共通のアンチセンスプライマ6047−intAS3は野生型および標的化遺伝子座の両方を増幅するため、イントロン2をもとに設計した。これらのプライマーを用いたPCRにより野生型遺伝子座から850bpの断片が、標的化遺伝子座から600bpの断片が生じた。PCRの実施はExTaq(Takara)を用い、製造元のプロトコルに従い行った。PCRプログラムは、初期変性(94℃、2分)、35サイクル(94℃ 30秒、53℃ 30秒、68℃ 1分)および最終伸張(68℃ 7分)であった。
【実施例4】
ECAT4ホモ変異ES細胞の胚体外内胚葉への分化
薬剤選別終了時におけるECAT4欠損細胞のコロニーは、形態学的に野生型およびヘテロ接合ES細胞の場合と異なっていた。中心の細胞は未分化のようであったが、周辺の細胞は分化していた。SNL支持細胞上で組み替えLIFの添加により維持した場合、ほぼ全ての細胞が急速かつ自然に分化し、巨大な円形の細胞になった(図3(A))。支持細胞の存在しない状態で培養を行った場合には、ECAT4欠損細胞はさらに平坦になり、壁側内胚葉に類似した形態を示した。ECAT4欠損細胞の成長速度は非常に阻害されていた(図3(B))。
ノーザンブロット(図3(C))およびRT−PCR(図3(D))分析によれば、ECAT4細胞はGATA4、GATA6、Hinf1β、Hinf4α、Coup−tfI、Coup−tfII等の原始内胚葉転写因子、ラミニンB1、disabled homolog 2(Dab2)、Sparc、組織プラスミノーゲン活性化因子(tPA)、トロンボモジュリン(TM)等の壁側内胚葉マーカー、そしてα−フェトプロテイン(AFP)、骨形成タンパク質2(BMP2)、Indian hedgehog(Ihh)、トランスサイレチン(Ttr)等の臓側内胚葉マーカーを発現していた。しかし、中胚葉マーカーT、トロフォブラストマーカーCdx2、原始外胚葉マーカー線維芽細胞成長因子(Fgf)−5、あるいは神経外胚葉マーカーislet−1(Isl1)は増加しなかった。
ECAT4欠損細胞が分化多能性を喪失したことを確認するため、これらの細胞をC57BL/6マウスの胚盤胞に注入した。ヘテロ変異細胞を注射した場合には、毛皮の色から判断してES細胞が大きく寄与する複数のキメラマウスが得られた。対照的にECAT4ホモ変異細胞を注射した場合にはキメラマウスは得られず、これらの細胞の多能性が消失したことが確認された。
【実施例5】
ECAT4欠損マウスにおける初期胚性致死
ECAT4のin vivo機能を調べるために、β−geoベクターを用いて得たECAT4ヘテロ接合ES細胞を、C57BL/6胚盤胞に注入した。生殖細胞系の伝搬が、3種類の独立したESクローンより得られた。ECAT4ヘテロ接合マウスは予想されるメンデル比で得られ、全体的な外見は正常であり、繁殖可能であった。着床前の胚をX−gal染色すると、胚盤胞の内部細胞塊に限定して、β−geo発現が検出された(図4(A))。ヘテロ接合性の交雑はホモ接合性の子孫を全く産生せず、胚性致死であることが示された。
胚が致死となる時期を決定するために、ここでは各種段階におけるヘテロ接合交雑の胚を分析した。7.5dpcおよびその後では、ホモ接合胚はなかった。およそ1/3の脱落膜が空であったことから、ECAT4欠損胚は着床後すぐに死亡することが示された。対照的に、ホモ接合およびヘテロ接合の胚盤胞はメンデル比により存在することが判明した。しかしながらゼラチンコートしたプレート上で培養した場合には、ECAT4欠損胚盤胞の内部細胞塊は増殖しなかった(図4(B))。これらのデータから、ECAT4は原始外胚葉(エピブラスト)の自己複製に必須であることが示された。
【実施例6】
ECAT4を強制発現したES細胞の効率的な樹立
(1)ECAT4を強制発現したES細胞の作製
スーパートランスフェクションシステムを用いて、ECAT4のコード領域をpCAG−IPベクターに導入し、遺伝子ベクターを構築した。この導入遺伝子ベクターをMG1.19ES細胞内にLipofectamin 2000(Invitrogen社)を用いて、製造元が提供するES細胞用プロトコルに従って行った。具体的には、MG1.19細胞を6ウェルプレート中に播種し(1.2x10cells/well)、24時間培養後、8μgの導入遺伝子を4μlのLipofectamin 2000と複合体を形成させた後に培地に添加した。翌日、細胞を100mmシャーレに播種し、2μg/mlのピューロマイシンを用いて選別した。選別は実験を通して継続した。
この導入遺伝子ベクターにおいては単一のCAGプロモーターの下流に目的遺伝子とピューロマイシン耐性遺伝子が連続して存在しており、2つの遺伝子を含んだmRNAが転写される。両者の間にInternal ribosome entry siteが存在しており、ここからピューロマイシン耐性遺伝子の翻訳が行われる。したがって、ピューロマイシン耐性となった細胞はすべてが目的遺伝子も発現することとなる。実際、この方法を用いて、MG1.19細胞内にECAT4を導入し、ピューロマイシン選別した結果、90%以上の細胞でECAT4の発現が認められた。得られたCAG−ECAT4細胞は、親ベクターをトランスフェクトした対照細胞と比較して、著しく多くのECAT4転写物(図5(A))およびタンパク質(図5(B))を発現した。
(2)強制発現したES細胞のLIF非依存的な自己複製
LIFの除去後には対照細胞でのECAT4レベルは減少したが、CAG−ECAT4細胞ではむしろ増加した。LIFの非存在下で対照細胞は徐々に分化し、平坦化し(図5(C))、Oct3/4の発現は抑制された(図5(A))、細胞の成長速度もLIFの除去により低下した(図5(D))。一方、CAG−ECAT4細胞は、LIF除去後においても未分化状態を維持しており(図5(C))、Oct3/4の発現も持続し(図5(A))、LIF除去により生じる成長抑制に対しても抵抗性を示した(図5(D))。これらのデータより、ECAT4の恒常的発現により、LIF非存在下においてもES細胞の未分化状態が十分に維持されることが示された。
(3)ECAT4発現ベクターの除去と分化全能性の回復
pCAG−IPベクターは染色体外で維持される発現ベクターであり、ピューロマイシンの非存在下で培養を続けると消失することが知られている。これを利用してCAG−ECAT4細胞を1ヶ月間ピューロマイシン非存在下、LIF存在下で培養したところ、外来遺伝子の発現の消失をウェスタンブロットにより確認した。この細胞はLIFを除去すると正常細胞と同様に分化した。また、CAG−ECAT4細胞をブラストシストにマイクロインジェクションしたところキメラマウスができた。したがってECAT4過剰発現細胞はLIF非存在下で培養しても、ECAT4を除去すれば分化全能性を再獲得できることが確認できた。CAG−ECAT4細胞はLIF非存在下においてもES細胞の未分化状態が十分に維持されるため、このCAG−ECAT4細胞を遺伝子改変動物の作製に供することにより、遺伝子改変動物の作製がより容易となる。
【実施例7】
ECAT4をもちいたDNA認識配列の同定
ECAT4による転写調節について最初の手がかりを得るため、ここでは試験管内人工進化法(SELEX)によるそのDNA認識配列の決定を目指した。
(1)SELEXの実施
マルトース結合タンパク質とECAT4からなる融合タンパク質を作製するため、マウスECAT遺伝子のコーディング領域をpIH1119(New England Biolabsから提供)中に導入し、導入遺伝子ベクター(pIH1119−ECAT4)を構築した。このプラスミドpIH1119−ECAT4をE.coli株BL21AI(Invitrogen社)に導入してMBP−ECAT4を発現する形質転換体を得た。
37℃条件で500mlのLB培地中で培養し、培地のO.D.が0.3に達した時点でIPTG(最終濃度50μM)を添加後、30℃で4時間培養してタンパク質誘導を行った。細胞抽出物は、プロテアーゼ阻害剤カクテル(ナカライテスク社)および0.5mg/mlのlysozymeを含有する5mlの溶解緩衝液(20mM Tris−HCl(pH7.4)、200mM NaCl、1mM EDTA)中で集めた。
次にこの抽出物を250μlのアミロースビーズ(New England Biolabs)に供し、製品のプロトコルに従って洗浄した。SELEXは以下のように実施した。二重鎖オリゴヌクレオチドの合成を、1μgのSELEX−N20−Oligo(配列番号11)、1μgのSELEX−N20RVプライマー(配列番号12)、2.5μlの10x Klenow緩衝液、4μlの10mM dNTPおよび14.7μlの精製水を含む反応液中で行った。混合液の変性を95℃で5分間行い、アニーリングを54℃で5分間行った。
Klenowフラグメント(3.6μl 1x Klenow緩衝液中に0.225U)を混合液に添加し、これを次に25℃で40分間インキュベートした。二重鎖DNAの精製はフェノール/クロロホルム抽出およびエタノール沈殿により行い、20μlの精製水中に再懸濁した。DNA−タンパク質結合の実施は、20μlのDNA、30μlのMBP−ECAT4−結合ビーズ、20μlsの5x結合緩衝液(100mM HEPES−KOH、pH7.9、1mM EDTA、1M KCl、および50%グリセロール)および30μlの水から成る反応混合液中で、4℃で30分間行った。ビーズの洗浄は、1mM DTTおよび0.2mM PMSFを添加した100μlの溶解緩衝液を用いて6回行った。
DNAの精製はフェノール/クロロホルム抽出およびエタノール沈殿により行い、20μlの精製水中に再懸濁した。この5μlを用いてPCR増幅を行ったが、この時の反応液には5μlの10xExTaq緩衝液、4μlの2.5mM dNTP、1μlの30μM SELEX−N20FWプライマー(配列番号13)、1μlの30μM SELEX−N20RVプライマー、0.25μLのExTaqポリメラーゼおよび33.75μLの水が含まれていた。増幅産物の精製はMicro−bioスピンカラム(BioRad)により行い、エタノール沈殿により20μlに濃縮し、そのうち半分を次ラウンドに進めた。この手順を5回繰り返して濃縮を行った。
このようにして得られたMBP−ECAT4融合蛋白質に特異的に結合するオリゴヌクレオチドの最終溶出液中の増幅産物をpCR2.1ベクター(Invitrogen)中に連結させた。40個のクローンをランダムに選別し、シーケンス分析を行った。
(2)シーケンス分析
上記のように、本発明者らはE.coliでマルトース結合タンパク質(MBP)−ECAT4融合タンパク質を発現させ、それらをアミロース樹脂に結合させた。両端にアダプターシーケンスを持つ20量体のランダムオリゴヌクレオチドをMBP−ECAT4結合樹脂に適用し、十分に洗浄した。次に樹脂に結合したDNAを、アダプターシーケンスに対応するプライマーを用いて、PCRにより増幅した。増幅産物を新しいMBP−ECAT4カラムに適用した。この手順を5回繰り返し、MBP−ECAT4融合タンパク質に特異的に結合するオリゴヌクレオチドを濃縮した。最終反応から得た増幅産物をpCR2.1ベクター中にサブクローニングしてシーケンス分析を行った。
そして、ランダムに取り上げた37個のクローンに対するシーケンス分析により、コンセンサスシーケンスである(G/C)(A/G)(G/C)C(G/C)ATTAN(G/C)が同定された(図6(A)、配列番号4)。
本研究で用いたマーカー遺伝子のフランキングシーケンスを検索することにより、マウスGATA6遺伝子の5’−フランキング領域中、転写開始部位のおよそ4kb上流に、ECAT4コンセンサスシーケンスが同定された(図6(B)、配列番号5)。この領域は心臓におけるGATA6の発現に必須であることが知られている(Molkentin et al.,2000;Sun−Wada et al.,2000)。マウスとヒトのGATA6遺伝子のゲノムシーケンスを比較すると、この領域が高度に保存されていることが判明した。ヒトのシーケンスにもECAT4コンセンサスが含まれていた(図6(B)、配列番号6)。
【実施例8】
ECAT4エンハンサーの同定
マウスECAT4遺伝子がES細胞で特異的に発現する分子メカニズムを明らかとするために、ルシフェラーゼレポーター遺伝子を用いたエンハンサー解析を行った。マウスECAT4遺伝子を含む約35kbのゲノム領域を図7(A)に示す8断片に分け増幅した。これを図7(B)に示すレポーター遺伝子に挿入した。このレポーター遺伝子をES細胞に導入し、24時間後にルシフェラーゼ活性を測定した。その結果断片D(配列番号7)のみがES細胞で転写活性を示した。一方分化細胞であるNIH3T3細胞においてはどの断片も転写活性を示さなかった。したがって断片DはES細胞特異的なエンハンサーと考えられた。
ECAT4エンハンサー領域の解析の結果、−6086/−2292の領域(断片D、配列番号7)にES細胞特異的に活性の高い領域が存在したため、この領域をさらに短くし、当該領域のうちどの部分が活性化に関わっているのかを調べたところ、図8(A)に示すように、−4886/−3444の領域で活性を持ち、その中でも−4737/−4387の領域でES細胞特異的に最も活性が高いことがわかった。−4737/−4387の領域には、図8(B)に示すように、−4710/−4703にはWNTシグナルの下流である転写因子LEF/TCF1の結合配列が存在しており、これを含む−4737/−4611の領域を欠失させると活性が低下することから、ECAT4の転写活性化にはこの領域が重要であると考えられた。また−4524/−4516にはLIFシグナルの下流であるSTAT3の結合配列が存在し、点変異を入れると活性が低下したことから、やはりECAT4の転写活性に重要であると考えられた。その直後の−4515/−4508にもLEF/TCF1の結合配列が存在しており、ECAT4の転写調節への関与が示唆された。また−4497/−4387の領域を欠失させても活性が低下することから、ECAT4の転写活性化にはこの領域も重要であると考えられた。
【産業上の利用可能性】
本発明により、ECAT4が強制発現されたES細胞が提供される。さらに、本発明はECAT4のコンセンサス配列、ECAT4エンハンサーおよびそれらの用途も提供する。ECAT4のES細胞の自己複製促進転写因子としての機能が明確に示されたため、これらはES細胞の研究および開発において極めて有用である。
【配列表フリーテキスト】
配列番号:4に記載の塩基配列はECAT4が認識するコンセンサス配列である。
配列番号:11に記載の塩基配列はSELEX−N20−Oligoである。
配列番号:12に記載の塩基配列はSELEX−N20RVプライマーである。
配列番号:13に記載の塩基配列はSELEX−N20FWプライマーである。
【配列表】































【特許請求の範囲】
【請求項1】
ECAT4からなる胚性幹(ES)細胞の自己複製決定因子。
【請求項2】
ECAT4がマウスECAT4、ヒトECAT4またはサルECAT4である請求項1記載のES細胞の自己複製決定因子。
【請求項3】
以下の(a)または(b)に記載されるDNAを含むサルECAT4遺伝子:
(a)配列番号10で示される塩基配列からなるDNA、
(b)配列番号10で示される塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下にハイブリダイズし、且つES細胞の自己複製決定因子としての能力を有するDNA。
【請求項4】
ECAT4が強制発現された哺乳動物幹細胞。
【請求項5】
幹細胞がES細胞である、請求項4記載の哺乳動物幹細胞。
【請求項6】
ECAT4がマウスECAT4、ヒトECAT4またはサルECAT4である、請求項4または請求項5記載の細胞。
【請求項7】
配列番号8、配列番号9または配列番号10で示されるポリヌクレオチドの塩基配列に相補的または実質的に相補的な塩基配列またはその一部を含有するアンチセンスポリヌクレオチド。
【請求項8】
請求項7記載のアンチセンスポリヌクレオチドを含有してなる細胞分化促進剤。
【請求項9】
ECAT4エンハンサー。
【請求項10】
配列番号7で示される塩基配列の一部または全部を含むことを特徴とする請求項9記載のECAT4エンハンサー。
【請求項11】
配列番号17、配列番号18または配列番号19で示される塩基配列を含有する請求項9記載のECAT4エンハンサー。
【請求項12】
配列番号15で示される塩基配列の一部であり、且つ配列番号17、配列番号18または配列番号19で示される塩基配列を含有する請求項11記載のECAT4エンハンサー。
【請求項13】
配列番号15で示される塩基配列を含有する請求項9記載のECAT4エンハンサー。
【請求項14】
配列番号14で示される塩基配列の一部であり、且つ配列番号15で示される塩基配列を含有する請求項13記載のECAT4エンハンサー。
【請求項15】
請求項10〜請求項14のいずれか記載のECAT4エンハンサーの塩基配列において1個もしくは複数個の塩基が欠失、置換もしくは付加された塩基配列を含み、且つECAT4遺伝子の転写を促進する能力を有することを特徴とする請求項9記載のECAT4エンハンサー。
【請求項16】
請求項10〜請求項14のいずれか記載のECAT4エンハンサーの塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下にハイブリダイズし、且つECAT4遺伝子の転写を促進する能力を有することを特徴とする請求項9記載のECAT4エンハンサー。
【請求項17】
請求項9〜請求項16いずれか記載のECAT4エンハンサーを含有することを特徴とするECAT4プロモーター領域。
【請求項18】
ECAT4が認識するコンセンサス配列。
【請求項19】
以下の(a)〜(c)のいずれかに記載されるDNAを含むことを特徴とする請求項18記載のコンセンサス配列:
(a)配列番号4で示される塩基配列からなるDNA、
(b)配列番号4で示される塩基配列において1個もしくは複数個の塩基が欠失、置換もしくは付加された塩基配列からなり、且つECAT4と結合する能力を有するDNA、
(c)配列番号4で示される塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下にハイブリダイズし、且つECAT4と結合する能力を有するDNA。
【請求項20】
以下の(a)〜(c)のいずれかに記載されるDNAを含むことを特徴とする請求項18記載のコンセンサス配列:
(a)配列番号5、配列番号6または配列番号16で示される塩基配列からなるDNA、
(b)配列番号5、配列番号6または配列番号16で示される塩基配列において1個もしくは複数個の塩基が欠失、置換もしくは付加された塩基配列からなり、且つECAT4と結合する能力を有するDNA、
(c)配列番号5、配列番号6または配列番号16で示される塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下にハイブリダイズし、且つECAT4と結合する能力を有するDNA。
【請求項21】
請求項9〜請求項16のいずれか記載のエンハンサー、請求項17記載のプロモーター領域または請求項18〜請求項20のいずれか記載のコンセンサス配列を含有することを特徴とする組換えベクター。
【請求項22】
請求項21記載の組換えベクターで形質転換された形質転換細胞。
【請求項23】
下記の工程(a)、(b)及び(c)を含む、ECAT4エンハンサーまたはECAT4プロモーター領域の活性を制御する作用を有する物質のスクリーニング方法:
(a)請求項9〜請求項16のいずれか記載のECAT4エンハンサーまたは請求項17記載のECAT4プロモーター領域をレポーター遺伝子に連結させたDNAで形質転換した細胞と被験物質とを接触させる工程、
(b)被験物質を接触させた細胞におけるレポーター遺伝子の活性を測定し、該発現量を被験物質を接触させない対照細胞における活性と比較する工程、
(c)上記(b)の比較結果に基づいて、ECAT4エンハンサーまたはECAT4プロモーター領域の活性を制御する被験物質を選択する工程。

【国際公開番号】WO2004/067744
【国際公開日】平成16年8月12日(2004.8.12)
【発行日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−504735(P2005−504735)
【国際出願番号】PCT/JP2004/000790
【国際出願日】平成16年1月28日(2004.1.28)
【出願人】(501219312)
【出願人】(000002912)大日本住友製薬株式会社 (332)
【Fターム(参考)】