説明

胚性幹細胞の誘導

【課題】胚を破壊しない、胚性幹細胞、それらの細胞及び細胞系を誘導するための新規な方法、並びに治療及び研究目的のための細胞の使用方法を提供する。IVFなどの生殖治療と連動して、胚の着床に先立って自己幹細胞系を樹立及び保存する新規な方法を提供する。
【解決手段】胚性幹(ES)細胞を作製する方法であって、胚から得られる割球を培養するステップであり、胚が生存し続けるステップを含む方法。所望の分化した細胞又は組織を作製する方法であって、胚から得られる割球を培養するステップであり、胚が生存し続けるステップと、割球の分化を誘発し所望の細胞又は組織を作製するステップとを含む方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、米国仮出願、2004年11月4日に出願された第60/624,827号;2005年3月15日に出願された第60/662,489号;2005年6月3日に出願された第60/687,158号;2005年10月3日に出願された第60/723,066号及び2005年10月14日に出願された第60/726,775号の利益を主張するものである。これらの出願の開示は、参照により全体として本明細書に組み込まれるものとする。
【0002】
本発明は、一般的に、胚性幹細胞、それらの細胞及び細胞系を誘導するための新規な方法、並びに治療及び研究目的のための細胞の使用に関する。また、本発明は、例えば、体外受精などの介助生殖技術と連動して、胚の着床に先立って自己幹細胞系を樹立及び保存する新規な方法に関する。
【背景技術】
【0003】
ほとんど例外なく、胚性幹細胞は、胚盤胞期(blastocyst−stage)胚からのみ培養されてきた。従来、ES細胞系は、胚盤胞の内部細胞塊及び少数の例では卵割期胚から単離されている。これらの細胞を作製するのに使用される技法にはいくつかの欠点がある。技法の観点からすると、胚の胎盤胞への培養は、比較的低い成功率であることがたまにある。一部の人々は、胚性幹(ES)細胞研究が、ES細胞誘導は完全なヒトへと成長するあらゆる可能性を着床前期胚から奪ってしまうという事実に根差しているという根本的な反対を表明している。以下の発明は、研究及び医学で使用するために胚性幹細胞系及び他の胚由来細胞を誘導する新規且つ予想外な方法を提供する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、胚性幹細胞、それらの細胞及び細胞系を誘導するための新規な方法、並びに治療及び研究目的のための胚性の幹細胞及び細胞系の用途に関する。また、本発明は、例えば、体外受精(「IVF」)などの介助生殖技術と連動して、胚の着床に先立って取り出される割球から自己幹細胞系を樹立及び保存する方法に関する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、胚性幹細胞を作製する方法であって、胚から得られる割球(blastomere)を培養するステップであり、胚が生存し続けるステップを含む方法を提供する。一実施形態において、割球は、桑実胚のコンパクション(compaction)に先立って胚から得られる。別の実施形態において、胚は、胞胚腔(blastocoel)の形成前に得られる。割球は、胚を取り囲む透明帯の部分的又は完全な除去によって得ることができる。胚は、着床又は冷凍保存(cryopreserve)することができる。
【0006】
胚から得られる割球を、任意の適当な細胞と一緒に培養し、ES細胞を作製する。割球を培養するのに適している細胞には、すでに樹立された系からなどの胚性幹細胞、胚癌細胞、マウス胚線維芽細胞、他の胚様細胞、胚起源の細胞又は胚に由来する細胞が含まれるが、これらに限定されるものではなく、それらの多くは、当技術分野において知られており、the American Type Culture Collection、Manassas、VA 20110−2209、USA、及び他の供給源から入手可能である。また、割球を、ES細胞の分化を阻害する因子と一緒に培養することができる。一実施形態において、割球は、ヘパリンの存在下で培養される。別の実施形態において、Oct−4が割球に導入されるか、或いは、内因性Oct−4の発現が割球において誘発される。
【0007】
一実施形態において、本発明は、ES細胞を作製する方法であって、胚から割球を得るステップであり、胚が生存し続けるステップと、割球をES細胞と一緒に凝集させるステップと、凝集した割球及びES細胞を、割球がES細胞の特性を示すまで培養するステップと、割球に由来するES細胞を単離するステップとを含む方法を提供する。
【0008】
別の実施形態において、胚から得られる割球は、自己(autologous)フィーダー細胞と一緒に培養され、フィーダー細胞は、割球を体細胞に分化させる条件下で同じ胚から得られる割球を培養して自己フィーダー細胞を作製することにより作製される。
【0009】
他の実施形態において、胚から得られる割球は、細胞分裂を起こし、一方の子孫細胞は、遺伝子検査に使用され、もう一方の子孫細胞は、ES細胞を作製するのに使用される。
【0010】
一実施形態において、ES細胞又はES細胞系を作製する方法は、生検により割球を得ること、透明帯を除去すること、胚盤胞を2つの断片に分離すること、ES細胞又はES細胞系を作製するために1つの胚盤胞断片を培養すること、及び胚盤胞の残部を着床又は冷凍保存することを含む。別の実施形態において、方法は、着床に先立って及び胞胚腔の形成前に単一割球を得るステップと、割球を培養するステップと、すでに樹立された系からのES細胞を加えるステップと、ES細胞を、割球がES細胞成長を示すまで割球の周りに集塊させるステップと、治療目的のため、得られたES細胞を収集するステップとを含む。さらに別の実施形態において、方法は、桑実胚のコンパクション前に単一割球を得るステップと、標準培養条件で割球を培養するステップと、ES細胞が生成し始めるまで、すでに樹立された系からの分裂不活性化ES細胞を加えるステップと、得られたES細胞を収集又は冷凍保存するステップとを含む。他の実施形態において、方法は、着床に先立って及び胞胚腔の形成前に単一割球を得るステップと、割球を培養するステップと、すでに樹立された系からのES細胞を加えるステップと、組換えOct−4を割球に導入するか、内因性Oct−4を活性化するステップとを含む。
【0011】
割球から作製されるES細胞は、多能性又は全能性であってよい。ES細胞の多能性又は全能性は、ES細胞マーカータンパク質についてアッセイすることにより決定することができる。そのようなタンパク質には、Oct−4、SSEA−1、Nanog、アルカリホスファターゼ及びRes−1が含まれる。
【0012】
本発明の方法は、哺乳類、例えば、マウス、ウサギ、ヒツジ、ブタ、ウシ、霊長類及びヒトで行うことができる。一実施形態において、哺乳類は、非ヒト哺乳類である。別の実施形態において、哺乳類は、ヒトである。
【0013】
また、本発明は、本発明の方法により作製されるES細胞を分化させる方法を提供する。ES細胞は、中胚葉、内胚葉及び外胚葉起源の細胞タイプを含む任意の細胞タイプに分化させることができる。
【0014】
割球からES細胞を始めに作製することなく、胚から得られる割球を、分化した細胞タイプ、例えば、中胚葉、内胚葉及び外胚葉に分化させる方法も企図されている。
【0015】
また、本発明は、ES細胞又は細胞系に由来する分化した細胞と同様に、本発明の方法によって作製されるES細胞、これらのES細胞に由来するES細胞系を包含する。
【0016】
本発明により提供されるES細胞又はES細胞に由来する細胞は、細胞治療に適している疾患を治療するのに有用である。薬学的に許容できる媒体又は担体と一緒にこれらの細胞を含む医薬組成物も提供される。
【0017】
栄養芽層幹(TS)細胞を作製する方法であって、胚から得られる割球を培養するステップであり、胚が生存し続けるステップを含む方法も提供される。一実施形態において、割球は、桑実胚のコンパクションに先立って胚から得られる。別の実施形態において、割球は、胞胚腔の形成前に得られる。割球は、胚を取り囲む透明帯の部分的又は完全な除去によって得ることができる。
【0018】
胚から得られる割球を、任意の適当な細胞と一緒に培養し、TS細胞を作製する。割球を培養するのに適している細胞には、すでに樹立された系からなどの胚性幹細胞、胚癌細胞、マウス胚線維芽細胞、他の胚様細胞、胚起源の細胞又は胚に由来する細胞が含まれるが、これらに限定されるものではなく、それらの多くは、当技術分野において知られており、the American Type Culture Collection、Manassas、VA 20110−2209、USA、及び他の供給源から入手可能である。また、割球を、ES細胞の分化を誘発する因子と一緒に培養することができる。一実施形態において、割球は、FGF−4の存在下で培養される。
【0019】
本発明の方法により作製されるTS細胞は、TS細胞マーカー、例えば、Nanog、Rex−1、cdx−2を発現することができる。また、TS細胞は、Oct−4又はα−フェトプロテインの発現を欠くことがある。また、TS細胞を培養してTS細胞系を作製するか、或いは分化させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明は、幹細胞を、胚の生存度に影響を及ぼすことなく胚から作製することができるという発見に部分的に基づいている。一実施形態において、これらの方法は、着床前遺伝子診断(PGD)において現在使用されているin vitro技法を利用する。本明細書で明らかにされるように、多能性胚性幹(ES)細胞系を、出生までの胚の正常な発育を妨害することなく、胚から摘出される単一割球から作製することができる。
【0021】
割球の摘出
割球は、桑実胚のコンパクション前、桑実胚のコンパクション中、胞胚腔の形成前又は胚盤胞期中を含むがこれらに限定されない、着床に先立つ様々な発育段階において胚から摘出することができる。
【0022】
一実施形態において、本発明は、胚性幹細胞を生じるはずの胚盤胞を生検するための方法を提供し、胚盤胞の残部は、着床されて妊娠及び後の出産をもたらす。この一例において、透明帯は、当業者に知られている任意の手段によって胚盤胞から除去され(この場合、酸性タイロード液pH2.4を用いて)、無タンパク質培地(CZB無タンパク質培地pH7.4を使用するが、他の無タンパク質培地を使用してもよい)と一緒に培養器上に置かれ、接着し、次いで、胚盤胞は生検される。これは、ピペットに取り付けられているかみそりの刃の小断片を用いて行い、一度切断して胚盤胞を2つの断片に分離したが、胚盤胞の30%、20%、10%又は5%未満が生検されることが好ましい。次いで、血清を培地に添加して胚盤胞を解離させ、生検された断片を用い、当業者によく知られている手段(例えば、生検体を、胚線維芽細胞上、フィーダー非含有マトリックス上などで成長させる)により胚性幹細胞又は胚由来細胞を誘導し、一方、胚盤胞の残部は、着床させるか冷凍保存する。
【0023】
別の実施形態において、胚性幹細胞の誘導に関する論争は、好ましくは桑実胚のコンパクション前に胚から単一割球を摘出する着床前遺伝子診断(PGD)において使用される技法と同様の技法を用いることにより回避される。これらの方法は、胚の継続する発育に影響を及ぼすことなく胚から1つ又は複数の細胞を摘出するため本発明で使用するように適応させることができる。一実施形態において、生検された割球に細胞分裂を起こさせ、1つの子孫細胞を遺伝子検査に使用し、残りの細胞を使用して幹細胞を作製する。生検された胚は、胚盤胞期に着床させるか、或いはその後の着床のために冷凍することができる。
【0024】
生検は、2段階からなる。第1段階は、胚を取り囲む透明帯に穴を開けるか、或いは、場合によっては、透明帯を完全に除去することである。いったん穴が開いたら、細胞(好ましくは、1つ又は2つ)を胚から摘出することができる。特定の好ましい実施形態において、方法は、透明帯を除去するか、或いは透明帯に抽出穴を作製するものであり、物理的操作、化学的処理及び酵素消化からなる群から選択される1つ又は複数の技法により行うことができる。使用することができる例示的技法には、
・透明帯部分切開法(PZD):マイクロピペットを用いる透明帯の部分切開;
・透明帯開孔法:タイロード酸による部分消化を介する透明帯の化学的開口;
・透明帯開孔法:プロナーゼ又は他のプロテアーゼによる部分消化を介する透明帯の酵素的開口;
・透明帯菲薄化法:タイロード酸又はレーザーによる透明帯の菲薄化;
・レーザーによる透明帯の点状開口;
・ピエゾマイクロマニピュレーターによる透明帯の点状機械的開口が含まれる。
【0025】
一実施形態を簡単に説明すると、手順は、胚が約6〜8細胞期である胚発生の3日目に行われる。胚を、ホールディングピペットで保持することにより、鉱油下の1滴の生検培地に入れる。アシスタントハッチングピペットを介して酸性化タイロード液(Sigma、St.Louis、Mo.63178)を放出することにより、透明帯を局所的に消化する。いったん穴が開いたら、穴を通して細胞(割球)を吸引することができる。
【0026】
別の実施形態を説明すると、胚盤胞の透明帯を、プロナーゼなどの1つ若しくは複数の酵素又は酵素の混合物で処理することにより少なくとも部分的に消化することができる。透明帯が無傷である胚盤胞の短時間のプロナーゼ(Sigma)処理は、透明体の除去をもたらす。プロナーゼと同じか類似のプロテアーゼ活性のある他のタイプのプロテアーゼも使用することができる。
【0027】
割球の培養
単離された割球は、すでに樹立された系からなどの胚性幹細胞、胚癌細胞、マウス胚線維芽細胞、他の胚様細胞、胚起源の細胞又は胚に由来する細胞が含まれるがこれらに限定されない任意の適当な細胞と一緒に標準培養条件で培地と一緒に培養器具上(例えば、マイクロウエル中)に置くことにより培養することができ、それらの多くは、当技術分野において知られており、the American Type Culture Collection、Manassas、VA 20110−2209、USA、及び他の供給源から入手可能である。これらの細胞は、割球の周りに集塊又は凝集する。マイクロウエルマイクロビーズを用いる方法若しくは懸滴法、又は当技術分野において知られているその他の凝集法を含む他の凝集法を使用することができる。特定の理論に束縛されたいわけではないが、数日又は数週間にわたり、培養された割球は、おそらく割球と共培養された胚細胞の間の細胞間相互作用の結果として、又は割球と胚細胞により分泌される因子の間の相互作用からES細胞成長を示すと考えられる。
【0028】
1つ又は複数の割球を、残りの胚と一緒に共培養することができる。一実施形態において、割球は、細胞間、細胞分泌因子間及び/又は細胞マトリックス間の接触を可能にする微液滴培養システム又は当技術分野において知られている他の培養システムで残りの胚細胞と一緒に共培養される。微液滴の体積を例えば50マイクロリットルから約5マイクロリットルまで減らし、シグナルを強めて細胞間相互作用を促進することができる。
【0029】
特定の実施形態において、割球培養条件には、細胞の分化を阻害するか、さもなければ強化する、例えば、細胞の非ES細胞、栄養外胚葉又は他の細胞タイプへの分化を防ぐことができる因子と細胞を接触させることが含まれてもよい。そのような条件には、培養細胞をヘパリンと接触させること又は細胞にOct−4を導入すること(培地にOct−4を含めることによるなど)又は細胞中の内因性Oct−4を活性化することが含まれてよい。
【0030】
自己フィーダー細胞
また、本発明は、早期に胚盤胞前期胚をプレーティングして自己フィーダー細胞上に幹細胞を作製する方法を提供する。一実施形態において、この方法は、(a)胚盤胞前期胚を分割すること、(b)体細胞に直接分化させる条件下で組織培養液中に一方の部分をプレーティングし、フィーダー細胞を作製すること及び(c)胚盤胞前期胚の他の部分を自己フィーダー細胞上にプレーティングすることを含む。別の実施形態において、自己フィーダー細胞及びES細胞は、胚盤胞前期胚から摘出された割球から作製されるため、胚の着床される能力を保存する。
【0031】
ES細胞の多能性
本発明の方法により作製されるES細胞の多能性は、ES細胞マーカータンパク質の発現を検出することにより決定することができる。そのようなタンパク質の例には、八量体結合タンパク質4(Oct−4)、発生段階特異的胚抗原(stage−specific emryonic antigen、SSEA)−1、Nanog、アルカリホスファターゼ及びRes−1が含まれるが、これらに限定されるものではない。一部の実施形態において、推定上のES細胞系は、13、20、30、40、50、60、70、80、90又は100を超える継代後に多能性を維持する。また、ES細胞を、正常な核型の維持についてアッセイすることができる。
【0032】
TS細胞の作製
また、本発明は、割球増殖体をFGF−4と接触させることにより、形態学的に栄養芽層及び/又は胚外内胚葉と似ているが、ES細胞と似ていない栄養芽層幹(「TS」)細胞を作製する方法を提供する。例えば、増殖体の培養培地にFGF−4を加える。TS細胞は、当技術分野において標準的な手順を用い、Nanog、Rex−1、及びCdx−2などのタンパク質の発現をアッセイすることにより検出することができる。また、TS細胞同定は、Oct−4及びα−フェトプロテインなどであるがこれらの限定されないタンパク質の発現がないことにより証明することができる。
【0033】
ES細胞の治療用途
本発明は、細胞治療に適している障害を治療する方法であって、治療有効量の本発明のES細胞を罹患対象に投与することを含む方法を提供する。本発明のES細胞は、ES細胞が有用であるいかなる使用にも適している。
【0034】
一実施形態において、本発明の方法を用い、胚の着床に先立って割球を摘出し、その胚から生じる子供が、将来、例えば、疾患治療、組織修復、移植、細胞衰弱の治療、又は細胞機能障害の治療を必要とする場合には、細胞治療を用いる治療的用途のために胚性幹細胞を誘導及び保存するためその後、割球を前述のように培養する。
【0035】
本発明の別の実施形態において、割球、コンパクション前の桑実胚、コンパクションを起こしている桑実胚、又は区分化胚盤胞に由来する細胞を、in vitro又はin vivoで直接分化させ、胚性幹細胞系を作製することなく、分化しているか、分化した細胞を作製する。これらの胚由来細胞は、胚性幹細胞と同様、医学的及び生物学的研究において並びに細胞治療、例えば、同種(allogeneic)細胞治療において使用するための細胞を提供することによる疾患の治療において有用である。
【0036】
上述の新規な技法によって作製される胚性幹細胞及び胚由来細胞は、細胞生物学、薬物発見に関する研究において、並びに血液障害、血管障害、心臓疾患、癌の治療、及び創傷治癒のための造血細胞及び血管芽細胞、糖尿病の治療に有用な膵臓β細胞、網膜色素変性症及び黄斑変性症などの網膜疾患の治療に有用な神経細胞及び網膜色素上皮細胞などの網膜細胞、パーキンソン病、アルツハイマー病、慢性疼痛、脳卒中、精神障害、及び脊髄損傷を治療するのに有用なニューロン、心不全などの心臓疾患を治療するのに有用な心筋細胞、傷跡を残さない創傷修復のために創傷、火傷を治療するのに、創傷修復を促進するのに、及び皮膚の老化を治療するのに有用な皮膚細胞、硬変肝疾患などの肝疾患の治療のための肝細胞、腎不全などの腎疾患の治療のための腎細胞、関節炎の治療のための軟骨、肺疾患の治療のための肺細胞並びに骨粗鬆症などの骨障害の治療に有用な骨細胞の作製を含むがこれらに限定されない細胞治療において利用される。
【0037】
そのような細胞治療法は、増殖因子、系列−コミットメント因子(lineage−commitment factor)、又は当該遺伝子若しくはタンパク質と組み合わせて本発明のES細胞を使用するものである。治療法には、組織がin vivoで再生される場合には直接移植するために幹細胞又は適切な前駆体細胞を提供することが、又はin vitroで望ましい組織を再生し、次いで罹患対象にその組織を提供することが含まれてよい。
【0038】
特段の規定がない限り、本明細書において使用されるすべての技術及び科学用語は、当業者によって一般的に理解されているのと同じ意味を有する。相違する場合は、本明細書が、定義を含め、管理するはずである。さらに、文脈により特に必要でない限り、単数形の用語には、複数であることが含まれるものとし、複数形の用語には、単数形が含まれるものとする。一般的に、本明細書に記載されている細胞及び組織培養、分子生物学、免疫学、微生物学、遺伝学、発生生物学、細胞生物学に関連して使用される命名法、及びそれらの技法は、当技術分野においてよく知られており一般に使用されている命名法及び技法である。例示的な方法及び材料を以下に記載するが、本明細書に記載されている方法及び材料に類似した又はそれらと等価な方法及び材料も、本発明の実施又は試験において使用することができる。
【0039】
本明細書に記述されているすべての刊行物及び他の参考文献は、参照により全体として組み込まれるものとする。本明細書には多くの文書が引用されているが、この引用は、これらの文書が、当技術分野における共通一般知識の一部を形成していることを認めるものではない。この明細書及び特許請求の範囲を通して、単語「含む(comprise)」、又は「含む(comprises)」若しくは「含むこと(comprising)」などの変形形態は、その他の整数若しくは整数の群の排除ではなく、記述された整数又は整数の群の包含を意味すると理解すべきである。
【実施例】
【0040】
本発明をより一層理解できるように、以下の実施例を示す。これらの実施例は、例示のみを目的とし、決して本発明の範囲を限定すると解釈してはならない。
【0041】
(実施例1)
実施例1:ES細胞系の作製
単一割球は、ピエゾパルスを用いて開けた透明帯の穴を介する生検か、或いはCa++/Mg++非含有PBS中で透明帯剥離胚を10分間脱凝集することのどちらかにより、8細胞期129/Sv−ROSA26:LacZマウス胚から単離した。生検された(7細胞)胚を、性交後日数(d.p.c.)1.5の同期化代理母の卵管に移し、各々の分離割球を、プラスチックの組織培養プレートの底に凝集針を押しつけることにより作成した300μmの凹み内で緑色蛍光タンパク質(GFP)陽性129Sv/CD−1マウスES(mES)細胞の小さな集塊(約100細胞)と一緒に凝集させた。24〜48時間のインキュベーション後に、GFP−mESクラスターの大部分の(60%)側面でGFP陰性細胞の増殖する「芽」が観察された(図4A、Bを参照)。細胞集塊を、マイトマイシンC処理マウス胚線維芽細胞(MEF)上にプレーティングし、ノックアウトDMEM(15%FCS、ペニシリン/ストレプトマイシン、Glutamax−I、β−メルカプトエタノール、非必須アミノ酸、LIF[2000U/ml]、及びMEK1阻害剤[50μM](mES培養培地))中で培養した。例えば、Hogan他「マウス胚の操作:実験室マニュアル(Manipulating the Mouse Embryos:A Laboratory Manual)」Cold Spring Harbor Laboratory Press;第2版、1994を参照されたい。割球の大部分(54/91)は、増殖する細胞集塊を4日以内に形成し、それらを、蛍光顕微鏡下でGFP陽性mES細胞から分離した。細胞を、機械的解離又はトリプシン処理により広げ、ES細胞と形態学的に似ているコロニーを選択し、すべてのGFP陽性細胞を排除した(図4、C、D、E、F)。
【0042】
50を超える継代後に正常な核型(図8D)及び多能性のマーカーを維持するLacZ陽性ES様細胞のいくつかの系を作製した(表1、図6C)。各系は、八量体結合タンパク質4(Oct−4)、発生段階特異的胚抗原(SSEA)−1、Nanog、及びアルカリホスファターゼを発現した(図2及び図6E、G、I)。ES細胞タンパク質マーカーに対する間接的免疫蛍光染色を、4ウエル組織培養プレート上で増殖している細胞に対して行った。例えば、Lanza R、他編、幹細胞ハンドブック(Handbook of Stem Cells)Vol.1:胚性幹細胞(Embryonic Stem Cells)(Elsevier/Academic Press、San Diego、CA、2004);Evans,M.J.、Kaufman,M.H.、Nature292、154(1981);Thomson JA他、282、1145(1998);Cowan C.A.他、N.Engl J.Med.350、1353(2004)を参照されたい。以下の一次抗体、すなわちOct−4(Santa Cruz Biotechnology、Santa Crus、CA)、SSEA−1(Solter及びKnowlesにより開発され、University of Iowa、Iowa City、IAのDSHBを通じて入手した)、Troma−1(Brulet及びKemlerにより産生され、DSHBを通じて入手した)、α−フェトプロテイン(DACO)、βIIIチューブリン(Covance、Berkeley、CA.)及び筋肉アクチン(Abcam、Cambridge、MA)を使用した。アルカリホスファターゼ染色は、Vector Laboratories製のVector Redキットを用いて行った。
【0043】
ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)分析は、これらの細胞におけるGFPではなくLacZ遺伝子配列の存在を示し(図5A、B)、系が、凝集のために使用されたES細胞ではなく割球に由来することを裏付けた。手短に言えば、ゲノムDNAを、QIAamp DNA Mini Kit(Qiagen、Valencia、CA)を用いてES及びTS細胞から単離し、1反応あたり100ngを、GFPとLacZ双方の遺伝子増幅に使用した。我々は、95℃で9分間(1サイクル)及び94℃で45秒間、59℃で1分間、72℃で1.5分間の37サイクルという反応パラメーターでGFP遺伝子についてフォワード(5’−TTGAATTCGCCACCATGGTGAGC−3’)(配列番号1)及びリバース(5’−TTGAATTCTTACTTGTACAGCTCGTCC−3’)(配列番号2)プライマーを使用した。PCR産物を1.5%アガロースゲル上で分離し、臭化エチジウム染色により可視化した。LacZ遺伝子の遺伝子型分析は、The Jackson Laboratory(Bar Harbor、ME)により推奨されているプライマー及びPCRパラメーターで行った。
【0044】
2つの対照実験では、8細胞胚から単離された個々の割球(n=44)を、mES細胞培養培地を含有する20〜100μlの液滴中にプレーティングした。割球の大部分は、10日間の培養の間に分裂できなかったが、9個(20%)は、2〜6細胞期で静止する前に分化した栄養芽層様巨大細胞の小さなクラスターを生成した(図4G、H)。このことは、細胞の共培養すなわちES細胞により分泌される物質への割球の暴露が、この方法の成功に極めて重要であることを示唆している。
【0045】
(実施例2)
実施例2:ES細胞の分化
ES様細胞培養物を過剰増殖させた場合、筋肉アクチン(中胚葉)、βIIIチューブリン(外胚葉)、及びα−フェトプロテイン(原始内胚葉)に対する抗体による免疫染色から明らかなように、3つすべての胚層の細胞に自然発生的に分化した(図3B〜D及び図8A〜C)。拍動する心筋、胚外内胚葉及び複数の神経細胞タイプも、分化している培養液においてごく普通に観察された。誘導されたES細胞の多能性をさらに立証するため、ES細胞系を、CD−1マウス胚盤胞に注入するか、或いは前述のような(Hogan他、前掲書)8細胞期桑実胚と一緒に凝集させ、レシピエントの雌に移した。得られたキメラ胎児のX−Gal(5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリル−β−ガラクトピラノシド)染色は、ES細胞系が、心臓、腎臓、肝臓、肺、腸、脳、血液、皮膚及び性隆起などのすべての器官に寄与していることを示した(図3A)。胎児のうちの24匹(83%)はキメラであり(図8F、G)、9匹の仔のうちの8匹(89%)はキメラであった(図8H)(後者は、配偶子中にLacZ遺伝子を有し(PCR分析により裏付けられた;図9)、CD−1と交配された場合にLacZ子孫を生じ、生殖系列に対する割球由来ES細胞の寄与を裏付けた)。
【0046】
ES細胞の多能性をさらに分析するため、ES細胞を、NOD−SCIDマウスに注入し、様々な細胞タイプに分化するそれらの能力について調べた。手短に言うと、約100万個のES細胞を、NOD−SCIDマウスの後大腿部に注入した。約2ヶ月後、マウスを致死せしめ、奇形腫を切除し、4%パラホルムアルデヒド中で固定し、パラフィンに包埋し、切断した。奇形腫は、とりわけ骨及び軟骨(中胚葉)、神経ロゼット(外胚葉)、並びに繊毛性呼吸上皮(内胚葉)を含む3つすべての胚層由来の組織を含んでいた(図8E)。
【0047】
【表1】

【0048】
割球生検胚は、発育能力の低下もなく発育出産した(対照非生検胚の51%[38/75]に比べて49%[23/47]の生存仔体(カイ二乗検定、p=0.85))。これらの結果は、ヒトデータと一致しており、正常な胚及びPGD生検胚が、同程度の効率で胚盤胞へと成長することを示している。91個の割球のうちの25個のみ(27%)が、内部細胞塊(ICM)様増殖体を生成し、ほんのわずかな安定ES幹細胞系がこの研究で得られたが、我々は、この成功率を、割球増殖体の最も早い段階にもっと着目すること、並びに多能性細胞の栄養外肺葉及び他の細胞タイプへの自然発生的分化を阻害又は影響する様々な手段の使用により増加させることができると考えている。
【0049】
これらのデータは、胚を破壊することなくES細胞系を誘導することができることを示している。
【0050】
(実施例3)
実施例3:TS細胞系の作製
ES細胞ではなく栄養芽層及び胚外内胚葉と形態学的に似ている割球増殖体を、これらの条件下に維持されトリプシンと一緒に継代されたFGF−4産生栄養芽層幹(TS)様細胞50ng/mlと一緒にmES細胞培地中でさらに培養した。7つの推定上のTS系が樹立され、それらは、正常な核型を維持し、TS細胞のマーカーを発現した(図6B、D、F、H、J)。これらの細胞は、Oct−4(図6H)及びα−フェトプロテインについて陰性であった。推定上のTS細胞は、LacZTS細胞との凝集によって作製されるキメラ胎児中の胚外系列に寄与していた(図7)。RT−PCR分析は、これらの細胞が、Oct−4ではなくCdx−2を発現することを裏付けた(図5C及びF)。Nanog及びRex−1は、推定上のTS細胞系とES細胞系の双方で発現された(図5D及びE)。
【0051】
手短に言うと、RT−PCR分析は以下の通り行った。全RNAを、RNAeasy Mini Kit(Qiagen)を用いてES及びTS細胞から単離し、RNA1μgを、AMV逆転写酵素(Promega、Madison、WI)を用い、オリゴ(dT)プライマーによる第1鎖cDNA合成にかけた。RT反応のうち10分の1をPCR増幅にかけた。すべての遺伝子についてのPCR条件は、64℃にてアニールさせたα−チューブリン遺伝子を除き、2mM Mg++濃度で95℃で9分間(1サイクル)、94℃で45秒間、62℃で1分間及び72℃で1.5分間とした。使用したプライマーは、Oct−4遺伝子、フォワード5’−CTGAGGGCCAGGCAGGAGCACGAG−3’(配列番号3)、リバース5’−CTGTAGGGAGGGCTTCGGGCACTT−3’(484bp)(配列番号4);Nanog遺伝子、フォワード5’−GGGTCTGCTACTGAGATGCTCTG−3’(配列番号5)、リバース5’−CAACCACTGGTTTTTCTGCCACCG−3(363bp)(配列番号6);Cdx2遺伝子、フォワード5’−GGCGAAACCTGTGCGAGTGGATGCGGAA−3’(配列番号7)、リバース5’−GATTGCTGTGCCGCCGCCGCTTCAGACC−3(492bp)(配列番号8);Rex−1遺伝子、フォワード5’−AGCAAGACGAGGCAAGGCCAGTCCAGAATA−3’(配列番号9)、リバース5’−GAGGACACTCCAGCATCGATAAGACACCAC−3’(423bp)(配列番号10);及びα−チューブリン遺伝子、フォワード5’−CACCCGTCTTCAGGGCTTCTTGGTTT−3’(配列番号11)、リバース5’−CATTTCACCATCTGGTTGGCTGGCTC−3’(527bp)(配列番号12)とした。PCR産物を1.5%アガロースゲル上で分離し、臭化エチジウム染色により可視化した。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】自己フィーダーとして使用するために増殖させることができるESコロニーに由来する線維芽細胞様細胞を示している。
【図2】Sigma製キットを用いてLac−Zについて染色された割球由来mES細胞を示している(A)。図2B〜2Dは、Oct−4(2B)とLac−Z(2C)の双方を発現する同じ細胞についての免疫染色を示している。図2Dは、DAPIによる対比染色を示している。バー、100μm。
【図3】in vivo及びin vitroでの割球由来mES細胞の分化を示している。図3Aは、2%グルタルアルデヒド、4%パラホルムアルデヒド中で一夜固定され、Sigma製のキットを用いてLac−Zについて染色されたマウス胚を示している。図3B〜3Dは、原始内胚葉(α−フェトプロテイン、3B)、外胚葉(βIIIチューブリン、3C)及び中胚葉(筋肉アクチン、3D)の分子マーカーについての免疫蛍光染色を示している。バー、100μm。
【図4】mES細胞の存在下(4A〜4F)又は非存在下(4G、4H)における単一割球増殖の段階を図示している。図4A(緑色蛍光)及び図4B(ホフマンモジュレーションオプティクス)は、単一割球との凝集から48時間後のGFPmES細胞の凝集体を可視化している。図4Bにおける矢印は、図4Aでは見えないGFP陰性細胞の突出クラスターを示している。図4C(緑色蛍光)及び図4D(位相差)は、マウス胚線維芽細胞(MEF)上にプレーティングされた後の、GFPmES細胞と一緒に凝集されたGFP陰性細胞の増殖体を示している。図4C及び4Dにおける矢印は、GFP陰性細胞を指している。図4E(緑色蛍光)及び図4F(位相差)は、GFPmES細胞及び初期増殖体の機械的解離後に単一割球から生じた細胞の増殖を示している。図4E及び4Fにおける矢印は、残存するGFPmES細胞を指している。図4Gは、ES細胞なしに4日間、MEFのみの上で増殖された単一割球に由来し、栄養芽細胞を標識するTromalで染色された細胞を示している。図4Hは、図Gと同じであるが、DAPIで染色されて3つの核を示す細胞を示している。スケールバー、100μm。
【図5】胚性幹細胞系及び栄養芽層幹(「TS」)細胞系におけるLacZ、GFP、及び幹細胞マーカー遺伝子のPCR分析を示している。図5Aは、LacZ特異的プライマーを用いるPCR分析を提供しており、ES及びTS細胞系におけるLacZ遺伝子の存在を示している。図5Bは、GFP特異的プライマーについてのPCR分析を示しており、ヘルパーES細胞(GFP陽性)混入のないことを示している。図5Cにおいて、RT−PCR分析は、ES細胞系におけるOct−4遺伝子の強い発現(5C)、TS細胞系におけるかなり低いレベルを示している。TS細胞系は、予想フラグメントの他に大きなPCR産物を示した。図5Dは、Nanog遺伝子の分析を示しており、ES細胞系における中レベルから高レベルの発現、及びTS細胞系における中レベルを示している。図5Eは、ES及びTS細胞系における同レベルのRex−1遺伝子発現を示している。図5Fは、TS細胞系における高レベルの栄養芽層マーカーCdx−2遺伝子発現、及びES細胞系における低レベルから無視できるレベルを示している。図5Gは、RNA試料の入力のために対照として使用されるα−チューブリンを示している。図5に含まれる略語は、以下の通りである。M、分子量マーカー;LacZ、129/Sv−ROSA26:LacZマウス断尾から単離されたゲノムDNA;GFP、緑色蛍光タンパク質(GFP)陽性129v/CD−1マウスES細胞から単離されたゲノムDNA;CD−1、CD−1マウス断尾から単離されたゲノムDNA;H、HO対照。PL、マウス胎盤RNA、M、分子量マーカー;H、HO対照。
【図6】単一割球に由来する推定上のES(左欄)細胞系とTS(右欄)細胞系の比較を図示している。図6A及び6Bは、典型的なコロニーの位相差写真を示している。図6C及び6Dは、Lac−Z染色コロニーを示しており、それらの単一割球起源を示している。図6E及び6Fは、アルカリホスファターゼ染色を示している。図6G及び6Hは、Oct−4に対する抗体による間接免疫蛍光を示している。図6Iは、SSEA−1に対する抗体で染色された推定上のES細胞を示している。図6Jは、推定上のTS細胞のTROMA−1抗体染色を示している(図6Hと同じ視野)。スケールバー、200μm。
【図7】単一割球由来TS細胞の寄与を示す10.5日キメラのLacZ染色胎盤を示している。胎盤の母体部分は剥がされている。この図において、示されている胚部分は、ディスクの遠位側から撮影されており、直径は約4mmである。
【図8】in vitro及びin vivoでの割球由来mES細胞の分化を示している。図8A〜8Cは、中胚葉(筋肉アクチン、図8A)、原始内胚葉(α−フェトプロテイン、図8B)、及び外胚葉(βIIIチューブリン、図8C)の分子マーカーの免疫蛍光分析を示している。図8Dは、2つの単一割球由来mES細胞系の代表的染色体スプレッドを示している。Gバンド核型分析は、系Y1(上)及びY7(下)が、それぞれXY及びXX核型を有することを示している。図8Eは、奇形腫によるヘマトキシリン及びエオシン染色切片を示しており、3つすべての胚層からの組織の例を示している。Bn、骨(中胚葉);nt、神経組織(外胚葉);cre、繊毛性呼吸上皮(内胚葉)。図8Eの挿入は、繊毛性呼吸上皮の拡大領域である。図8Fは、推定上のES細胞系のうちの3つから作製された11.5日キメラ胚を示しており、その各々は、頻繁に観察される高度のキメラ現象を示している。図8Gは、推定上のES系J−15からのLacZ染色キメラのクローズアップ写真である。矢印は、胎盤迷路層を指しており、これも、キメラであり、栄養外胚葉ではなく胚外中胚葉に由来する。図8Hは、割球由来(129/Sv)ES細胞(系J15及びY1)をCD−1マウス胚と凝集させることにより作製されるキメラ仔を示している。スケールバー:A〜D−−200μm、F−10mm、G−2mm。
【図9】2つの異なる割球由来ES細胞系から作製されたキメラマウスからの精製精子におけるLacZ遺伝子の存在を示すPCR分析を示している。図9に含まれる略語は、以下の通り解釈されるものとする。M、分子量マーカー;H、HO対照;ES、キメラ動物を作製するのに使用されたマウスES細胞からのDNA;CD−1、CD−1マウスからのDNA;SP−1、キメラマウスNo.1の精子からのDNA;SP−2、キメラマウスNo.2の精子からのDNA。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
胚性幹(ES)細胞を作製する方法であって、胚から得られる割球を培養するステップであり、胚が生存し続けるステップを含む方法。
【請求項2】
割球が、桑実胚のコンパクションに先立って胚から得られる請求項1に記載の方法。
【請求項3】
割球が、胞胚腔の形成前に胚から得られる請求項1に記載の方法。
【請求項4】
割球が、胚を取り囲む透明帯を部分的又は完全に除去することにより得られる請求項1に記載の方法。
【請求項5】
割球が、胚由来細胞と一緒に培養される請求項1に記載の方法。
【請求項6】
胚由来細胞が、ES細胞又は胚癌細胞である請求項5に記載の方法。
【請求項7】
割球が、ES細胞の分化を阻害する因子と一緒に培養される請求項1に記載の方法。
【請求項8】
割球を培養してES細胞を作製するステップ中に、組換えOct−4が割球中に導入されるか、又は内因性Oct−4が割球内で活性化される請求項1に記載の方法。
【請求項9】
ES細胞が、多能性又は全能性である請求項1に記載の方法。
【請求項10】
ES細胞が、ES細胞マーカータンパク質を発現する請求項1に記載の方法。
【請求項11】
ES細胞マーカータンパク質が、Oct−4、SSEA−1、Nanog、アルカリホスファターゼ又はRes−1である請求項10に記載の方法。
【請求項12】
ES細胞が、哺乳類細胞である請求項1に記載の方法。
【請求項13】
割球が、細胞分裂を起こし、1つの子孫細胞が、遺伝子検査に使用され、異なる子孫細胞が、ES細胞を作製するのに使用される請求項1に記載の方法。
【請求項14】
割球が、自己フィーダー細胞と一緒に培養され、フィーダー細胞が、割球を体細胞に分化させる条件下で胚から得られる割球を培養してフィーダー細胞を作製することにより得られる請求項1に記載の方法。
【請求項15】
ES細胞を作製する方法であって、
(a)胚から割球を得るステップであり、胚が生存し続けるステップと、
(b)割球をES細胞と一緒に凝集させるステップと、
(c)凝集した割球及びES細胞を割球がES細胞の特性を示すまで培養するステップと、
(d)割球に由来するES細胞を単離するステップと
を含む方法。
【請求項16】
請求項1に記載の方法により作製されるES細胞。
【請求項17】
ES細胞が、全能性又は多能性である請求項16に記載のES細胞。
【請求項18】
細胞が、ES細胞マーカータンパク質を発現する請求項16に記載のES細胞。
【請求項19】
ES細胞マーカータンパク質が、Oct−4、SSEA−1、Nanog、アルカリホスファターゼ又はRes−1である請求項18に記載のES細胞。
【請求項20】
ES細胞が、哺乳類細胞である請求項16に記載のES細胞。
【請求項21】
請求項16に記載のES細胞に由来する分化した細胞又は組織。
【請求項22】
細胞又は組織が、中胚葉性、内胚葉性又は外胚葉性である請求項21に記載の分化した細胞又は組織。
【請求項23】
ES細胞系を作製する方法であって、請求項20に記載のES細胞を培養してES細胞系を作製するステップを含む方法。
【請求項24】
請求項23に記載の方法により作製されるES細胞系。
【請求項25】
所望の分化した細胞又は組織を作製する方法であって、請求項16に記載のES細胞の所望の細胞又は組織への分化を誘発するステップを含む方法。
【請求項26】
所望の分化した細胞又は組織を作製する方法であって、胚から得られる割球を培養するステップであり、胚が生存し続けるステップと、割球の分化を誘発し所望の細胞又は組織を作製するステップとを含む方法。
【請求項27】
請求項25又は26に記載の方法により作製される分化した細胞又は組織。
【請求項28】
組織又は細胞が、中胚葉性、内胚葉性又は外胚葉性である請求項27に記載の分化した細胞又は組織。
【請求項29】
患者において細胞治療に適している障害を治療する方法であって、請求項16に記載のES細胞又は請求項21若しくは27に記載の分化した細胞若しくは組織を患者に投与するステップを含む方法。
【請求項30】
請求項16に記載のES細胞又は請求項21若しくは27に記載の分化した細胞若しくは組織、及び薬学的に許容できる媒体又は担体を含む医薬組成物。
【請求項31】
栄養芽層幹(TS)細胞を作製する方法であって、胚から得られる割球を培養するステップであり、胚が生存し続けるステップを含む方法。
【請求項32】
割球が、桑実胚のコンパクションに先立って胚から得られる請求項31に記載の方法。
【請求項33】
割球が、胞胚腔の形成前に胚から得られる請求項31に記載の方法。
【請求項34】
割球が、胚を取り囲む透明帯を部分的又は完全に除去することにより得られる請求項31に記載の方法。
【請求項35】
割球が、胚由来細胞と一緒に培養される請求項31に記載の方法。
【請求項36】
割球が、FGF−4と一緒に培養される請求項31に記載の方法。
【請求項37】
TS細胞が、TS細胞マーカータンパク質を発現する請求項31に記載の方法。
【請求項38】
TS細胞マーカータンパク質が、Nanog、Rex−1又はcdx−2である請求項31に記載の方法。
【請求項39】
TS細胞が、Oct−4又はα−フェトプロテインを発現しない請求項31に記載の方法。
【請求項40】
TS細胞を作製する方法であって、
(a)胚から割球を得るステップであり、胚が生存し続けるステップと、
(b)割球をES細胞と一緒に凝集させるステップと、
(c)割球から増殖体を得るステップであり、増殖体が栄養芽層又は胚外内胚葉細胞の特性を示すステップと
(d)増殖体をFGF−4と接触させてTS細胞を作製するステップと、
(e)割球に由来するTS細胞を単離するステップとを含む方法。
【請求項41】
TS細胞が、哺乳類細胞である請求項31に記載の方法。
【請求項42】
請求項31に記載の方法により作製されるTS細胞。
【請求項43】
TS細胞が、TS細胞マーカータンパク質を発現する請求項42に記載のTS細胞。
【請求項44】
TS細胞マーカータンパク質が、Nanog、Rex−1又はcdx−2である請求項43に記載のTS細胞。
【請求項45】
TS細胞が、哺乳類細胞である請求項42に記載のTS細胞。
【請求項46】
請求項42に記載のTS細胞に由来する分化した細胞又は組織。
【請求項47】
TS細胞系を作製する方法であって、請求項42に記載のTS細胞を培養してTS細胞系を作製するステップを含む方法。
【請求項48】
請求項47に記載の方法により作製されるTS細胞系。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−46623(P2013−46623A)
【公開日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−225193(P2012−225193)
【出願日】平成24年10月10日(2012.10.10)
【分割の表示】特願2007−540021(P2007−540021)の分割
【原出願日】平成17年11月4日(2005.11.4)
【出願人】(507145042)アドバンスド セル テクノロジー、インコーポレイテッド (3)
【Fターム(参考)】