説明

胚性幹細胞株及びその製造方法

【課題】ヒトの胚性幹細胞株及びその製造方法を提供する。
【解決手段】ヒトの体細胞核を脱核されたヒトの卵子に移植することにより製造された核移植卵由来の胚性幹細胞株は、所望の様々な細胞種類に分化することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は胚性幹細胞株及びその製造方法に係り、さらに詳しくは、ヒトの体細胞核を脱核されたヒトの卵子に移植して形成された核移植卵を胚盤胞まで培養し、前記胚盤胞から分離した内細胞塊を培養して得た胚性幹細胞株及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
通常、幹細胞とは、人体を構成するあらゆる種類の成熟した機能性の細胞に分化できる未分化細胞を言う。例えば、造血幹細胞は、最終的に、各種の種類の血球細胞のうちいずれかに分化することができる。胚幹(embryonic stem;ES)細胞は、胚様由来の多能性の細胞であるため、人体を構成するあらゆる種類の器官、組織、細胞に分化・発達可能な能力をもっている。
【0003】
1981年に行われたマウスES細胞株の樹立は、ヒトES細胞の発達のための相当な技術及びパラダイムを提供していた。ES細胞の発達は、マウスの奇形癌種(teratocarcinoma;一部の同種繁殖された系統の生殖腺にできる腫瘍)に関する研究から始まっている(Evans & Kaufman, et al., Nature, 292:154-156 (1981))。
【0004】
ボングソらは、生体外において受精されたヒトの胚様から出た細胞の短期間での培養及び維持方法について報告している(Bongso et al., Human Reproduction, 9:2110-2117 (1994))。ボングソらによって分離された細胞は、多能性の幹細胞に見られると予想されるモルフォロジーは持っていたものの、かかる初期の研究は、適切な栄養細胞層を利用できていなかったが故に、長期に亘っての培養は行うことができなかった。
【0005】
赤毛猿またはマーモセットサルの胚盤胞からの霊長類のES細胞の製造が報告されている。かかる霊長類のES細胞は2倍体ではあるが、ヒトのES細胞と極めて類似している。
【0006】
猿及びヒトのES細胞に関する研究は、これらのES細胞はその表現型の観点から幾分マウスのES細胞と違ったところがあるものの、多能性の幹細胞がヒトの胚盤胞から由来する可能性があることを示唆している(Thomson et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 92:7844-7848 (1995))。
【0007】
1998年にトムソンらによって開発された多能性のヒト幹細胞株の特性は、下記の通りである(Thomson et al., Science, 282:1145-1147 (1998)):
(1)SSEA−3(stage-specific embryonic antigen-3)、SSEA−4(stage-specific embryonic antigen-4)、TRA−1−60(tumor rejection antigen 1-60)、TRA−1−81(tumor rejection antigen 1-81)及びアルカリ性ホスファターゼを発現する。
【0008】
(2)高いテロメラーゼ活性を示す。
【0009】
(3)マウスへの注入時に3胚葉細胞に分化する。
【0010】
(4)栄養細胞に依存する。
【0011】
(5)ヒトの白血病抑制因子(hLIF)に反応しない。
【0012】
トムソンらは、不妊治療中のカップルから贈与された上記の胚盤胞からES細胞を得た。詳しくは、ES細胞の樹立を抑えると予想される栄養外胚葉を免疫手術的な方法により除去し、内細胞塊(inner cell mass;ICM)をマウスの胚芽由来の繊維芽栄養細胞層にプレーティングし、短い付着及び拡張期間を経た後、別の栄養細胞層上にさらにプレーティングした。トムソンらの方法は、培地または培養システムの点からは、マウスのES細胞プロトコルとは大した違いはないものの、相対的に高い成功率を達成していた。
【0013】
ヒトにおける多能性ES細胞の分離及び哺乳動物における体細胞核移植技術の発展(Solter, Nat. Rev. Genet., 1:199-207 (2000))は、ヒトにおいても、体細胞核移植を用いて組織修復及び移植用の医薬の研究に応用できる未分化細胞の無限な源泉を提供できる可能性をもたらしている。かような「治療的なクローニング」の考え方は、体細胞の核を脱核された卵子に移植することを採用する(Lanza et al., Nat. Med., 5:975-977 (1999))。
【0014】
ウシにおけるES−類似細胞の生産(Cibelli et al., Nat. Biotechnol., 16:642-646 (1998))、及びクローニングされた胚盤胞の内細胞塊からのマウスES細胞の生産(Munsie et al., Curr. Biol., 10:989-992 (2000); Wakayama et al., Science, 292:740-743 (2001)) 、さらには、クローニングされたヒト胚芽を8〜10細胞期まで発達(Cibelli et al., J. Regen. Med., 2:25-31 (2001))させることに関する以前の報告は、細胞治療的なクローニングの可能性を提供している。
【0015】
たとえ、ヒトではなく、哺乳類の卵子を用いてES細胞株が得られるということが多数の論文に記述されてはいるが、現在のところ、核移植の技術分野においてヒトの卵子からES細胞株を製造したという報告は何らなされていない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
しかしながら、本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、核移植されたヒトの卵子を培養することで胚性幹細胞株を樹立することに成功した。
【課題を解決するための手段】
【0017】
そこで、本発明の目的は、ヒトの体細胞核を脱核されたヒトの卵子に移植して形成された核移植卵由来の胚性幹細胞株を提供することである。
【0018】
本発明の他の目的は、
(1)ヒトの体細胞を培養して供与核細胞を用意するステップと、
(2)ヒトの卵子を脱核して受核卵子を用意するステップと、
(3)前記供与核細胞の核を前記受核卵子に移植し、前記供与核細胞の核と前記受核卵子を融合することにより核移植卵を製造するステップと、
(4)前記核移植卵をリプログラミング、活性化及び生体外培養させて胚盤胞を形成するステップと、
(5)前記胚盤胞から内細胞塊を分離し、前記内細胞塊を未分化のままで培養して胚性幹細胞株を樹立するステップと、を含む胚性幹細胞株の製造方法を提供することである。
【0019】
本発明のさらに他の目的は、本発明に従い製造された核移植卵の生体外培養に適した培地を提供することである。
【0020】
本発明のさらに他の目的は、ヒトの体細胞核を脱核されたヒトの卵子に移植して形成された核移植卵由来の胚性幹細胞株から分化された神経細胞または神経前駆細胞を提供することである。
【0021】
本発明のさらに他の目的は、
(1)胚性幹細胞株を培養して胚芽体を形成するステップと、
(2)前記胚芽体を、前記胚芽体の細胞を神経前駆細胞に分化させるのに適した製剤の存在下で培養するステップと、
(3)神経前駆細胞のマーカーを発現する細胞を選別及び培養して神経前駆細胞を得るステップと、を含む、
ヒトの体細胞核を脱核されたヒトの卵子に移植して形成された核移植卵由来の胚性幹細胞株から分化された神経細胞を製造する方法を提供することである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本願明細書中で用いられる用語「核移植」とは、体細胞(または、「供与核細胞」とも呼ばれる。)の核を脱核された卵子(または、「受核卵子」とも呼ばれる。)に移植する過程を意味し、かかる過程によって得られた細胞を「核移植卵」と呼ぶ。なお、この明細書中で用いられる用語「体細胞」とは、単一の染色体(n)を持つ生殖細胞を除き、2倍体の染色体(2n)を持つ、人体を構成するあらゆる細胞を意味する。
【0023】
また、本願明細書中で用いられる用語「自家核移植卵」とは、体細胞の核を脱核された卵子に移植して得た核移植卵であり、前記核移植卵由来の幹細胞または前記幹細胞から分化された特定の細胞または組織を受ける予定である患者から分離された体細胞の核を脱核された卵子に移植して得た核移植卵を意味する。
【0024】
従って、本発明の際立った長所又は利益は、自家核移植卵由来の特定の細胞または組織を受ける患者が、そのような細胞または組織が患者自分の遺伝子型を持っているため、免疫拒否反応を示さない又は有害な副作用に苦しまないであろう点にある。
【0025】
本願明細書中で用いられる用語「胚性幹細胞」とは、胚様から由来して様々な成熟細胞種類に分化できる能力を持っている未分化の細胞を言う。通常、「胚性」又は「胚芽」とは、受精してから約8週までの受精卵、またはそれに相当する発生段階にある核移植卵を言う。胚芽は、受精卵の分割の繰り返しにより発生し、通常、内細胞塊及び外部栄養膜細胞を含む胚盤胞の段階を有する。
【0026】
このため、本願明細書中で用いられる用語「自家核移植卵由来の胚性幹細胞株または自家核移植された胚性幹細胞株」は、自家核移植卵から分離された内細胞塊由来の幹細胞株を意味する。
【0027】
なお、本願明細書中で用いられる用語「神経前駆細胞」とは、ニューロンと、星状細胞、乏突起膠細胞、シュワン細胞、衛星細胞、上衣細胞及び小グリア細胞のグリアなどの神経細胞に分化される細胞を言う。
【0028】
本発明は、
(1)ヒトの体細胞を培養して供与核細胞を用意するステップと、
(2)ヒトの卵子を脱核して受核卵子を用意するステップと、
(3)前記供与核細胞の核を前記受核卵子に移植し、前記供与核細胞の核と前記受核卵子を融合することにより核移植卵を製造するステップと、
(4)前記核移植卵をリプログラミング、活性化及び生体外培養させて胚盤胞を形成するステップと、
(5)前記胚盤胞から内細胞塊を分離し、前記内細胞塊を未分化のままで培養して胚性幹細胞株を樹立するステップと、を含む胚性幹細胞株の製造方法を提供する。
【0029】
以下、本発明による胚性幹細胞株の製造方法を詳述する。
【0030】
ステップ1:供与核細胞の製造
ヒトの体細胞を培養して供与核細胞を用意する。ヒト由来の体細胞が供与核細胞として使用可能であり、その核を脱核されたヒトの卵子に供与する。
【0031】
ヒトから得られる体細胞であれば、特に制限無しに供与核細胞として使用可能である。なお、商業的な目的でヒトの細胞を保存する機関から得られた体細胞を用いることもできる。ヒトの皮膚細胞、神経細胞、卵管上皮細胞または卵丘細胞などが好ましい体核細胞の例である。
【0032】
本発明による自家核移植卵を製造する場合に、体細胞としては、前記核移植卵由来の幹細胞、前記幹細胞から分化された特定の細胞、または組織を移植される患者から分離されたものを用いることが好ましい。
【0033】
これらの供与核細胞は、例えば、マザー・アンド・バーンズの方法(Animal Cell Culture Methods: vol.57 of Methods in Cell Biology (Mather & Barnes eds., Academic Press, 1998))を応用して培養することにより細胞株として作製することができる。
【0034】
本発明の好ましい一実施の形態によれば、前記培養の一様態は、得られた体細胞に子宮灌流液及びP/S抗生剤(ペニシリン10,000IU、ストレプトマイシン10mg)入りリン酸塩緩衝食塩水(PBS)を添加し、遠心分離して洗浄した後、ヒト血清(HS;human serum)、非必須アミノ酸(NEAA;non-essential amino acid)及びP/S抗生剤入りDMEM(Dulbeccoo’s modified Eagle medium)において39℃、5%のCO2の条件下で培養する。
【0035】
特に、卵丘細胞を供与核細胞として用いる場合、卵丘・卵母細胞複合体をヒアルロニダーゼで処理して卵子を囲んでいる卵丘細胞層を分離し、卵丘細胞層にトリプシン−EDTA溶液を添加して39℃、5%のCO2の飽和湿度培養器内に静置した後、遠心分離して洗浄し、上記の条件下で培養して供与核細胞として用いる。
【0036】
ステップ2:受核卵子の製造
本発明において、受核卵子とは、自分(すなわち、卵子)の核を欠如し、外部から体細胞の核を受ける卵子を言う。
【0037】
本発明においては、当業界における公知の方法(Yuzpe et al., J. Reprod. Med., 34:937-942 (1989))に従いヒトの卵子から過排卵卵子を採取し、あるいは、商業的な目的でヒトの卵子を保存する機関から卵子を入手した後、培養して成熟した卵子を用意することができる。例えば、5%のヒト血清アルブミン(HSA)入りG1.2培地(Vitro Life、Goteborg、Sweden)において5%のCO2の条件下で約4時間培養することにより卵子を成熟させることができる。
【0038】
次いで、前記成熟した卵子からそれを囲んでいる卵丘細胞を除去した後、卵子の透明帯の一部を除去し、第1の極体を含む細胞質を除去して脱核された受核卵子を作製することができる。
【0039】
本発明においては、一様態として、下記のようにして脱核が行われる。成熟した卵子をヒアルロニダーゼが溶解されている洗浄用の培養液に入れて卵丘細胞を物理的に除去した後、前記G1.2培地で洗浄する。その後、卵丘細胞の除去された卵子の透明帯を切開して切開窓を設けた後、これを介して、卵子の全体の細胞質の10〜15%に見合う分の第1の極体を含む細胞質を除去して脱核する。次いで、脱核された卵子を前記G1.2培地で洗浄して前記G1.2培地に静置する。
【0040】
脱核後、例えば、UV検出器を用いてHoechst 33342(Sigma Co., St. Louis, MO, U.S.A.)で染色された細胞質体を観察することにより、脱核の有無を再確認することが好ましい。
【0041】
ステップ3:核移植卵の製造及び電気融合
前記ステップ1の方法と同様にして用意された供与核細胞をステップ2に従い得られた脱核された受核卵子に移植し、次いで、電気融合させて核移植卵を作製する。
【0042】
体細胞核を受核卵子に移植するために、体細胞の核だけを受核卵子に移植しても良く、体細胞の全体を受核卵子に移植しても良い。
【0043】
本発明において、核移植及び電気融合は、下記のようにして行うことができる。
【0044】
先ず、前記ステップ2に従い得られたG1.2培地に静置されている脱核された卵子をG1.2培地で洗浄し、移植用のピペットを用いて供与核細胞をPHA−P(phytohemagglutin−P)溶液にある脱核卵子の透明帯に設けられている切開窓に注入して核移植卵を作製する。次いで、その結果として生じた核移植卵をG1.2培地で洗浄し、その培地に静置させる。
【0045】
続けて、前記静置された核移植卵を細胞操作機を用いて電気融合させる。核移植卵のあるG1.2培地にマンニトール溶液を添加した後、核移植卵を含有するマンニトール溶液を細胞操作機に接続されている両電極の間に詰め込んだ後、体細胞(供与核細胞)を(+)電極に向かせて核移植卵を位置させる。次いで、電圧:0.75〜2.00kV/cm、時間:10〜15μs、回数:約1秒置きに1〜5回の条件下で直流電流を通電して核移植卵を電気融合させる。
【0046】
最後に、融合された核移植卵をマンニトール溶液とG1.2培地で洗浄する。このときに用いられるマンニトール溶液は、HEPES緩衝溶液にBSA(ウシ血清アルブミン)及びマンニトールが溶解されているpH7.2〜7.4の溶液である。
【0047】
ステップ4:核移植卵のリプログラミング、活性化及び生体外培養
前記ステップ3に従い製造された核移植卵に精子と卵子が出会って形成された通常の受精卵と同様な発達過程を経させるためには、リプログラミング時間、活性化方法及び体外培養培地などの幾つかの重要な要素を適切に設定する必要がある。
【0048】
本発明においては、体細胞の核が移植された前記核移植卵を活性化させて培養することにより、正常的な受精及び発達過程と殆ど同じ環境を造成する。すなわち、前記ステップ3において電気融合させた核移植卵をリプログラミング時間の経過後に活性化させ、胚盤胞の段階まで生体外培養する。
【0049】
リプログラミング時間とは、受核卵子と供与核細胞を電気融合させてから活性化させるまで核移植卵を静置する時間のことであり、これは、核移植卵の発達能力(特に、胚盤胞の形成率)に影響を及ぼすことがある。前記リプログラミング時間は、体細胞の遺伝子の発現パターンを核移植卵の発達に適する所要パターンに戻す上で必要となる。この時間は、クロマチン再構築に重要な役割を果たし、生体内(in vivo)と生体外(in vitro)において核移植卵の発達能力を決めるものであると知られている。
【0050】
本発明におけるリプログラミング時間は、20時間以内、好ましくは、6時間以内、より好ましくは3時間以内、さらに好ましくは約2時間である。
【0051】
上記のリプログラミング時間が経過後に核移植卵を活性化させるが、本発明において利用可能な活性化方法は、カルシウムイオノフォア、イオノマイシン、エタノール、タイロード(Tyrode)溶液(Sigma-Aldrich, St. Louis, MO, U.S.A.)及びピューロマイシンなどの化学物質による化学的な刺激または物理的な刺激などを含む。本発明においては、リプログラミング時間が経過した核移植卵にカルシウムイオノフォアを処理する活性化方法が好適に用いられ、カルシウムイオノフォアを処理した後、6−ジメチルアミノプリン(6−DMAP)を処理する活性化方法が好適に用いられる。ここで、前記カルシウムイオノフォアの濃度は5μM〜15μMであることが好ましく、約10μMであることがより好ましい。さらに、6−DMAPの濃度は1.5mM〜2.5mMであることが好ましく、約2.0mMであることがより好ましい。前記カルシウムイオノフォア及び6−DMAPの濃度が前記各範囲内に入る場合、前記核移植卵は効率よく活性化することが可能になる。
【0052】
このとき、6−DMAP及びカルシウムイオノフォアの両方ともを体外培養用の培地に溶解させて用いることが好ましい。体外培養用の培地としては、NaCl、KCl、NaHCO3、NaH2PO4、CaCl2、乳酸ナトリウム、葡萄糖、フェノールレッド、BSA、カナマイシン、必須アミノ酸(EAA;essential amino acid)、非必須アミノ酸(NEAA)、グルタミンなどを含むG1.2培地(Vitro Life、Goteborg、Sweden)を用いることが好ましい。
【0053】
加えて、核移植卵の効率よい生体外培養のために、当業界において公知のように、様々なエネルギー基質で培養培地を補充したり、あるいは、胚芽発達の段階別に有効成分を含有する2以上の培地を用いた順次的な培養システムを用いることが好ましい。本発明において利用可能な順次的な培養システムは、商業的に入手可能な培養システムであってもよい。例えば、前記生体外培養は、G1.2/G2.2培地(Vitro Life、Goteborg、Sweden)などの相異なる組成を持つ2種類の培地を順次に用いることにより行われてもよい。
【0054】
好ましい生体外培養培地には、アミノ酸を持つ「ヒト変形合成卵管液(human modified synthetic oviductal fluid with amino acids;hmSOFaa)培地」が含まれるが、この培地を「SNUnt−2培地」と命名する。前記hmSOFaa培地は、mSOFaa培地(Choi et al., Theriogenology, 58:1187-1197 (2002))のエネルギー物質であるグルコースをフルクトースに置換し、ウシ血清アルブミン(BSA)に代えてヒト血清アルブミン(human serum albumin;HSA)を添加することにより製造されたものである。ここで、mSOFaa培地は、ウシ胚様の培養に汎用されている。
【0055】
具体的に、前記「SNUnt−2培地」は、(1)95〜110mMのNaCl、(2)7.0〜7.5mMのKCl、(3)20〜30mMのNaHCO3、(4)1.0〜1.5mMのNaH2PO4、(5)3〜8mMの乳酸ナトリウム、(6)1.5〜2.0mMのCaCl2・2H2O、(7)0.3〜0.8mMのMgCl2・6H2O、(8)0.2〜0.4mMのピルビン酸ナトリウム、(9)1.2〜1.7mMのフルクトース、(10)6〜10mg/mlのHSA、(11)0.7〜0.8μg/mlのカナマイシン、(12)1.5〜3%の必須アミノ酸、(13)0.5〜1.5%の非必須アミノ酸、(14)0.7〜1.2mMのL−グルタミン及び(15)0.3〜0.7%のITS(インシュリン:1.0g/L、トランスフェリン:0.55g/L及び亜セレン酸ナトリウム:0.67mg/Lの混合物)により構成されている。好ましくは、「SNUnt−2培地」は、下記表1に示す含量の成分よりなる。
【0056】
【表1】

【0057】
*ITS:インシュリン1.0g/L、トランスフェリン0.55g/L及び亜セレン酸ナトリウム0.67mg/Lの混合物
他方、本発明による順次的な培養システムとしては、相異なる培地の組み合わせを用いることができる。例えば、1次培養はG1.2培地において、2次培養はSNUnt−2培地において培養を行う2段階の培養システムであることが好ましい。
【0058】
ステップ5:透明帯またはその一部の除去
前記ステップ4に従い得られた胚盤胞から由来した胚性幹細胞を得るためには、上述した過程により培養された胚盤胞の透明帯またはその一部を除去する必要がある。
【0059】
本発明における胚盤胞から透明帯またはその一部を除去する方法としては、通常の方法がいずれも制限無しに使用可能である。例えば、プロナーゼ処理、酸性タイロード溶液及びレーザー切開などの物理的な方法などが挙げられる。
【0060】
好ましくは、本発明においては、プロナーゼ処理を用いる。プロナーゼは、PBS、G2培地(Vitro Life、Goteborg、Sweden)またはS2培地(Scandinavian IVF Sciences、Goteborg、Sweden)に溶解して用いる。例えば、一様態として、PBSとS2培地を1:1で混合した培地にプロナーゼを溶解して用いることができる。胚盤胞から透明帯を除去するために、約0.1%のプロナーゼを透明帯が除去されるのに十分な時間をかけて適用する。ここで、適用時間は、好ましくは、約1−2分間、より好ましくは、1−1.5分間である。
【0061】
ステップ6:栄養膜細胞の除去及び内細胞塊の分離
このようにして透明帯が除去されると、栄養膜細胞が露出される。この栄養膜細胞は、内細胞塊から完全に分離されることが好ましい。本発明においては、栄養膜細胞を内細胞塊から分離するために通常用いる方法、例えば、抗体を用いる免疫手術的な方法またはピペットを用いる機械的な方法が両方とも採用可能である。
【0062】
本発明の好適な具体例においては、栄養膜細胞の表面にあるエピトープに反応する抗体を栄養膜細胞に処理して栄養膜細胞を分離する免疫手術的な方法を用いる。より好ましくは、補体処理と前記免疫手術的な方法を併用する。この場合、抗体及び補体の処理は個別的に、または同時に行うことができる。好適な抗体及び補体の組み合わせは、抗胎盤性のアルカリ性ホスファターゼ抗体(anti−AP)及び子ウサギ補体(baby rabbit complement)または抗ヒト血清抗体及びモルモット補体などを含む。
【0063】
抗体及び補体は、SNUnt−2、G2.2またはS2培地などに希釈して用いる。好ましくは、抗胎盤性のアルカリ性ホスファターゼ抗体はS2培地で1:20の割合で希釈して用い、他の抗体及び補体は1:1で希釈して用いることが好ましい。
【0064】
本発明においては、透明帯の除去された胚盤胞に抗体を処理した後、補体を処理することが好ましい。胚盤胞は、抗体で約30分間処理することが好ましい。抗体に露出後、胚盤胞は、SNUnt−2、G2.2またはS2培地などで洗浄し、その後、補体で処理することが好ましい。このとき、適用時間は約30分であることが好ましい。
【0065】
前記胚盤胞をSNUnt−2、G2.2またはS2培地で洗浄して栄養膜細胞またはその一部を胚盤胞から分離することができる。このとき、栄養膜細胞の分離は物理的な手段により行うことができ、好ましくは、このような分離は、小さな穴を持つピペットを用いた胚盤胞含有溶液のピペット操作など当業界における周知の方法により行うことができる。
【0066】
このような過程を経て透明帯及び栄養膜細胞を除去し、内細胞塊、すなわち、残留部分を得る。
【0067】
ステップ7:繊維芽栄養細胞層における内細胞塊の培養
前記ステップ6に従い分離された内細胞塊は、その未分化の状態を保持するように繊維芽栄養細胞層において培養する。場合によっては、hLIF(白血病抑制因子)は、栄養細胞層の代わりに内細胞塊を未分化の状態に保持する上で用いるが、ヒト細胞の場合に、高濃度LIFの場合であっても、繊維芽栄養細胞層がなければ細胞を未分化の状態に保持することができない。このため、通常、胚性幹細胞と関わる胚外分化及び細胞死滅を誘導しない条件とは、繊維芽栄養細胞層上において培養することを言う。
【0068】
繊維芽栄養細胞層を製造するために、マウス及び/またはヒトの繊維芽細胞を用いることが好ましい。これらは単体で、または混合して用いることができる。より好ましくは、患者の自家核移植卵由来の胚性幹細胞から分化された細胞を栄養細胞層として用いる(本発明者は、これを自家栄養細胞層と称する)。最も好ましくは、自家核移植卵由来の胚性幹細胞から繊維芽細胞に分化された細胞を栄養細胞層として用いる。このような細胞の利用により、究極的に得たい自家核移植された胚性幹細胞が他の細胞、つまり、由来の異なる繊維芽栄養細胞層を構成する細胞によって汚染されることを防ぐことができる。
【0069】
ヒト由来の繊維芽細胞は、マウス繊維芽細胞と適するように混合して最適な幹細胞の生長及び分化の抑制を図ることができる。
【0070】
繊維芽細胞層の細胞密度は、その安定性及び性能に影響を及ぼす。細胞密度としては、1cm2当たりに、約2.5×104個のヒト繊維芽細胞と7.0×104個のマウス繊維芽細胞を持つような密度が最適である。マウス繊維芽細胞を単体で用いるときには、7.5×104-1.0×105細胞/cm2の密度が好適である。この栄養細胞層は、ES細胞を添加する6−48時間前に樹立されることが好ましい。
【0071】
好ましくは、マウスまたはヒトの繊維芽細胞は、継代数の少ない細胞である。繊維芽細胞の質は、幹細胞を支持する能力に影響を及ぼす。胚芽の繊維芽細胞が特に好適に用いられるが、胚芽の繊維芽細胞は、マウス繊維芽細胞の場合に13.5日目の胎児から、そしてヒトの繊維芽細胞の場合には胚芽または胎児の組織から得ることができ、通常の細胞培養プロトコルを用いて培養することができる。
【0072】
マウス胚様の繊維芽細胞を取り扱うに当たって、基本的なガイドラインは、トリプシンの利用を極力抑えて過密化を回避することを含む。このような取扱いがなされていない胚芽の繊維芽細胞は、未分化ES細胞の生長を支持することができない。新たに製造されたマウス胚様の繊維芽細胞の各バッチは、これらが幹細胞の保持に適しているかどうかを確認するために、先ずテストを受ける必要がある。
【0073】
新たな1次胚芽繊維芽細胞の方が、冷凍−解凍された繊維芽細胞に比較して幹細胞の再生を支持する上で一層好適である。しかしながら、幾つかのバッチは、繰り返し的な冷凍及び解凍を経てからも、それらの潜在的な支持力を有することがある。
【0074】
一部のマウス系統は、他の系統よりも幹細胞の維持に一層好適な胚様繊維芽細胞を生産することができる。例えば、同種繁殖された129/SvまたはCBA系統または129/SvとC57/B16系統の異種交配により生産されたマウス由来の繊維芽細胞が幹細胞の保持に最適であることが立証されている。
【0075】
他方、栄養細胞は、これらの成長を阻止するように処理されることが好ましい。幾つかの方法が利用可能であるが、例えば、放射線の照射またはマイトマイシンCなどの化学物質を処理する。最も好ましくは、栄養細胞をマイトマイシンCで処理する。
【0076】
このような繊維芽栄養細胞層は、通常、ゼラチンで処理された皿上において培養され、好ましくは、0.1%のゼラチンで処理される。
【0077】
繊維芽栄養細胞層は、ES培地において維持可能である。好適なES培地は、DMEM/F12培地に、20%の血清置換物、0.1mMのβ−メルカプトエタノール、1%の非必須アミノ酸(NEAA)、2mMのグルタミン及びペニシリン(100units/ml)、ストレプトマイシン(100μg/ml)、ヒト組換え繊維芽細胞成長因子(fibroblast growth factor;bFGF)(4ng/ml)が補われている培地である。
【0078】
ES培地には、幹細胞の成長または生存を促進可能な、あるいは、幹細胞の分化が抑制可能な可溶性の成長因子をさらに補うことができる。これらの因子は、例えば、ヒトの多能性幹細胞因子または胚性幹細胞の再生因子などを含む。
【0079】
分離された内細胞塊は、少なくとも6日以上培養可能であり、この段階で細胞のコロニーができる。このコロニーは、原則としては、未分化幹細胞により構成されている。未分化幹細胞の分離は、当業界における1以上の周知の方法により達成可能であるが、マイクロピペットを用いることが好ましい。この物理的な分離は、Ca2+/Mg2+の無いPBS培地またはディスパーゼなどの細胞の分離に有効な酵素処理と並行可能である。
【0080】
ステップ8:胚性幹細胞の継代培養
前記ステップ7に従い培養された幹細胞を栄養細胞層から取って新たな栄養細胞層に移した後、これを形態学的に未分化の状態で増殖する上で十分な時間をかけて培養することができる。
【0081】
このとき、細胞は、5−7日間培養することが好ましい。その後、未分化の幹細胞コロニーが観察され始める。幹細胞は、高い核/細胞質の割合、顕著な核小体、凝縮されたコロニーの形成及びはっきりとした細胞の境界によって形態学的に確認可能である。
【0082】
未分化幹細胞の増殖は、幹細胞コロニーから未分化の幹細胞凝集体を分離することから始まる。この分離は、化学的または物理的な手段など当業界における公知の方法によって行われる。より好ましくは、幹細胞は、Ca2+/Mg2+の無いPBS培地で洗浄したり、あるいは、物理的な方法または両方法を組み合わせてコロニーから分離することができる。より好ましくは、物理的な方法により破砕して継代する。
【0083】
本発明の一具体例において、Ca2+/Mg2+の無いPBS培地が細胞同士の付着力を低減する上で利用可能である。前記培地において約15−20分間培養すると、細胞は次第に栄養細胞層から互いに分離され始め、結局として、目的サイズの凝集体に分離可能である。細胞の分離が不十分に行われている場合には、マイクロピペットの尖った角部を用いた物理的な分離が凝集体の分離及び切断に有効になることがある。
【0084】
選択的な化学的な方法は、酵素の利用を含む。酵素は単体で、または物理的な方法と併用可能であり、酵素としては、ディスパーゼを用いることが好ましい。
【0085】
他の具体例として、コロニーの物理的な切断後に、ディスパーゼを用いて前記コロニーから凝集体を分離する混合方式が挙げられる。コロニーの切断は、Ca2+/Mg2+を含有するPBS培地において行う。マイクロピペットの尖った角部は、コロニーを約100個の細胞を含む凝集体に切断する上で利用可能である。凝集体が分離されると、直ちにこれを広い穴付きマイクロピペットで取ってCa2+/Mg2+含有のPBS培地で洗浄した後、新たな繊維芽栄養細胞層に移す。
【0086】
この培養過程において、幹細胞が未分化の状態を維持しているかどうかを確認する必要がある。未分化の胚性幹細胞は、上述したように、形態学的な特性を持っている。幹細胞を確認可能な他の方法としては、細胞マーカーまたは多能性細胞の特徴的な遺伝子の発現を測定することが挙げられる。
【0087】
多能性細胞の特徴的な遺伝子または独特な系統の例は、必ずしもこれに制限されるものではないが、幹細胞のマーカーとして、アルカリ性ホスファターゼ(AP)、Oct−4(オクターマ−4)、SSEA−3、SSEA−4を含む。幹細胞に独特な他の遺伝子は、ジェネシス、GDF−3及びクリプトを含む。このような遺伝子の発現プロファイルは、逆転写−重合酵素連鎖反応法(RT−PCR)、分化遺伝子発現方法及びマイクロアレイ分析などの公知の方法によって得られる。
【0088】
好ましくは、幹細胞は、SSEA−4、GCTM−2抗原、TRA1−60を含むヒトの多能性幹細胞マーカーとの免疫反応の有無によって確認可能である。好ましくは、これらの細胞は、転写因子としてOct−4を発現し、且つ、正常2倍体核型を保持している。
【0089】
幹細胞の成長過程及びこれらの分化または未分化状態の維持は、培養培地に分泌される幹細胞に特異的なタンパク質の定量測定やELISAまたは関連技術を用い、細胞の固定された顕微標本の分析によりモニタリングすることができる。これらの幹細胞に特異的なタンパク質は、CD抗原の可溶性の形態またはGCTM−2抗原を含み、且つ、これらのタンパク質は、細胞マーカーを検出したり、または遺伝子の発現を測定することによりモニタリングすることができる。
【0090】
なお、本発明は、ヒトの体細胞核を脱核されたヒトの卵子に移植して形成された核移植卵由来の胚性幹細胞株から分化された神経細胞または神経前駆細胞を提供する。
【0091】
さらに、本発明は、
(1)胚性幹細胞株を培養して胚芽体を形成するステップと、
(2)前記胚芽体を、前記胚芽体の細胞を神経前駆細胞に分化させるのに適した製剤の存在下で培養するステップと、
(3)神経前駆細胞のマーカーを発現する細胞を選別して培養して神経前駆細胞を得るステップと、を含む、
ヒトの体細胞核を脱核されたヒトの卵子に移植して形成された核移植卵由来の胚性幹細胞株から分化された神経前駆細胞を製造する方法を提供する。
【0092】
以下では、本発明による、ヒトの体細胞核を脱核されたヒトの卵子に移植して形成された核移植卵由来の胚性幹細胞株から分化された神経前駆細胞を製造する方法を段階別に詳述する。
【0093】
ステップA:胚芽体の生成
以上において得られた自家核移植卵由来の胚性幹細胞株(核移植胚性幹細胞、またはntES細胞)を神経前駆細胞に分化させるための最初の段階は、ntES細胞を胚芽体として生成することである。幹細胞から胚芽体を形成する方法は、当業界において既に公知である(Zhang et al., Nat. Biotechnol., 19:1129-1133 (2001))。
【0094】
具体的に、本発明は、一様態として、培養されたntES細胞コロニーを非接着性の培養皿に移して3日〜5日間20%の血清置換物入りDMEM/F12培地において培養することにより、胚芽体を生成することができる。前記培養に際し、通常、1日の経過後に、浮遊胚芽体(約40〜60個の胚芽体/皿)が生え始める。このとき、前記胚芽体を新たな皿に移しながら、残留する栄養細胞を除去することが好ましい。その後、このようにして生成された胚芽体は、(ポリオルニチン/ラミニンでコートされた)接着性の皿にプレートする。
【0095】
ステップB:因子による神経前駆細胞への分化誘導
本発明において、前記ステップAに従い得られた胚芽体を神経前駆細胞に分化可能に誘導する化学物質としては、特に制限はないが、例えば、ITSF(インシュリン、トランスフェリン、亜セレン酸ナトリウム及びフィブロネクチンの混合物)、レチノイン酸、アスコルビン酸、ニコチンアミド、N−2補充剤(100X、17502−048; Gibco, Grand Island, NY, U.S.A.)及びB−27補充剤(50X、17504−044;Gibco, Grand Island, NY, U.S.A.)などが挙げられる。これを培地に添加して培養し続け、拡張及び分化を誘導することにより、ntESから分化された神経前駆細胞を得ることができる。
【0096】
本発明の好適な一具体例において、上記のステップAに従い生成された胚芽体を1日間さらに培養した後、ITSF、すなわち、インシュリン(約25μg/ml)、トランスフェリン(約100μg/ml)、亜セレン酸ナトリウム(約30nM)及びフィブロネクチン(約5μg/ml)で補われたDMEM/F12培地において5日〜10日間培養して、ntES細胞の神経前駆細胞への分化を誘導することができる。
【0097】
ステップC:神経前駆細胞マーカーを発現する細胞の選別及び培養
前記ステップBに従い分化された細胞から、神経前駆細胞マーカー、例えば、ネスチンを発現する細胞を選別した後、これを培養することにより自家核移植された胚性幹細胞株から分化された神経前駆細胞を得ることができる。また、得られた神経前駆細胞から特定な所望の神経細胞型への分化が誘導可能であり、この分化の誘導は、化学物質を用いた誘導などの通常の方法により行われる。
【0098】
本発明の好適な具体例において、神経前駆細胞マーカーに陽性を示す細胞を選別し、N−2補充剤、ラミニン、bFGFで補われたDMEM/F12培地において5〜7日間培養して細胞の拡張を誘導し、その後、これをbFGFを除き、N−2補充剤及びラミニンだけで補われたDMEM/F12培地において8日〜14日間培養する。
【0099】
胚性幹細胞をいかなる種類の細胞にも分化させることが可能であることは周知である。このため、本発明による胚性幹細胞株は、種々な類型の細胞を提供する立派な供給源になりうる。例えば、胚様幹細胞は、細胞の分化に適した培地及び条件下で培養することにより、造血幹細胞、神経細胞、β細胞、筋肉細胞、肝細胞、軟骨細胞、上皮細胞などへの分化が誘導可能になる。このときの培地及び培養条件は、当業界において周知である。
【0100】
このため、本発明による胚性幹細胞株は、数多くの治療的及び診断的な応用を有する。特に、ES細胞は糖尿病、パーキンソン病、アルツハイマー病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、大脳麻痺及び癌などの数多くの疾患の治療のための細胞移植治療法に利用可能である。さらには、自家核移植卵由来の自家胚性幹細胞は、治療途中やそれ以降に免疫拒否反応の副作用がないことから、細胞移植治療法に一層有効である。
【0101】
以下、実施例を挙げて本発明を一層詳述する。但し、これらの実施例は単に本発明を一層詳しく説明するためのものであり、本発明の要旨によって本発明の範囲がこれらの実施例に何ら制限されないことは、当業界における通常の知識を持った者にとって明らかである。
【0102】
下記の実施例に用いられるG1.2培地及びG1ver.3培地(Vitro Life、Goteborg、Sweden)は、特に断りのない限り、5%のHSA入り培地である。
【実施例】
【0103】
<実施例1>
卵子及び供与核細胞の製造
卵子寄贈者を身体及び精神検査により詳しくスクリーニングした後、卵胞刺激ホルモン(follicle stimulation hormone;FSH)を連続して注入して過排卵を誘導した。
【0104】
ヒト絨毛性の性腺刺激ホルモン(human chorionic gonadotropin;hCG)を卵子寄贈者に注入した後、36時間目に卵丘・卵母細胞複合体(cumulus-oocyte complex;COCs)を回収してG1.2培地(Vitro Life、Goteborg、Sweden)において、37℃、5%のCO2の飽和湿度培養器を用いて40分間培養した。卵丘・卵母細胞複合体は、0.1%(w/v)のヒアルロニダーゼ(Sigma Co., St. Louis, MO, U.S.A.)で1時間に亘って処理して、卵丘細胞を分散させた。
【0105】
卵子は、卵丘・卵母細胞複合体から卵丘細胞を分散することにより得られた。この後、マウスピペットを用いて卵丘細胞を剥がした後、G1.2培地で洗浄した。ここで、モード径:10−12mmの卵丘細胞が供与核細胞として選ばれた。
【0106】
<実施例2>
卵子の脱核及び細胞融合
実施例1に従い得られた卵子をG1.2培地において1〜2時間に亘って培養することにより、脱核前に核の成熟を誘導した。続けて、脱核、核移植及び電気融合を下記のようにして行った。
【0107】
(2−1)卵子の脱核及び体細胞の核移植
卵子をG1.2培地で1回洗浄し、5mlのG1.2培地にヒアルロニダーゼ0.05gを溶解させた溶液111μlとG1.2培地1mlを混合して最終的な濃度を0.1%(w/v)に調整したヒアルロニダーゼ溶液内に卵子を移した後、卵丘細胞を除去し、G1.2培地で3回洗浄して静置させた。次いで、7.5μg/mlの濃度になるようにDMSOにサイトカラシンBを溶解させた溶液1μlと10%のウシ胎児血清(FBS)入りG1.2培地1mlを混合したサイトカラシンB溶液に卵子を移し、微細な操作機で静置された卵子の透明帯を切開して切開窓を設けた後、これを介して全体細胞質の10〜15%に見合う分の第1の極体を含む卵子の細胞質を除去することにより卵子を脱核させた。
【0108】
図3は、固定用のピペット1と切開用のピペット2により卵子3の透明帯を切開する過程を示す。 また、図4は、卵子の第1の極体と核を除去する脱核過程を示す。図4から明らかなように、卵子3を回転させて切開窓を垂直に位置させ、固定用のピペット1を卵子の下部に位置させて卵子が下方に動かないように支持した後、切開用のピペット2を卵子の上から軽く押下して卵子を脱核させた。このようにして脱核された卵子をG1.2培地で3回洗浄し、G1.2培地に静置させた。
【0109】
その後、1%のBSA入りPBSの4μlの微小滴に存在する供与核細胞を、400μlのG1.2培地と100μlのPHA−P溶液(10mlのG1.2培地に5mgのPHA−Pを溶解させた溶液)を混合して得られた溶液4μlの微小滴に存在する脱核卵子に固定用のピペットと移植用のピペットを用いて移植した。供与核細胞と脱核卵子を含有する前記微小滴に、蒸発防止のための鉱油を塗布した。
【0110】
図5は、脱核された卵子に供与核細胞を移植する過程を示す。 図5から明らかなように、脱核された卵子3が固定用のピペット1により固定され、移植用のピペット4が脱核卵子の切開窓に注入された後、油圧で供与核細胞を注入して核移植卵を作製した。このようにして作製された核移植卵をG1.2培地で3回洗浄した後、同じ培地に静置させた。
【0111】
(2−2)電気融合による核移植卵の作製
BTX−電子細胞操作機(BTX Inc., San Diego, CA, U.S.A.)を用いて核移植卵を電気融合させた。
【0112】
0.5mMのHEPES緩衝溶液(pH7.2)に0.1mMのMgSO4、0.05%のBSA及び0.28mMのマンニトールを溶解させて得られたマンニトール溶液20μlの微小滴、G1.2培地10μlと前記マンニトール溶液10μlを混合して得られた20μlの微小滴、そして、G1.2培地20μlの微小滴を用意した。前記(2−1)に従い製造した核移植卵を、先ず、G1.2培地10μlと前記マンニトール溶液10μlを混合して得られた20μlの微小滴中に1分間静置した後、マウスピペットを用いて前記核移植卵を前記マンニトール溶液20μlの微小滴に移して1分間静置させた。次いで、核移植卵をBTX−電子細胞操作機に接続されている両電極の間に分注されたマンニトール溶液に入れ、供与核細胞を(+)電極に向かせて核移植卵を位置させた。電圧:1kV/cm、時間:15μs、回数:1秒置きに2回の条件下で直流電流を通電して核移植卵を電気融合させた。融合された核移植卵をG1.2培地10μlと前記マンニトール溶液10μlを混合して得られた20μlの微小滴中に1分間静置させ、G1.2培地20μlの微小滴に移した後、G1.2培地で3回洗浄した。
【0113】
<実施例3>
核移植卵のリプログラミング、活性化及び生体外培養
実施例2に従い得られた核移植卵は、正常的な胚の発生を誘導する上で主な1因子である精子による活性化を受けないため、人工的な刺激が必要となる。人為的な胚の発生のための最適な条件を設定するために、下記表2〜4に示すように、核移植卵をリプログラミング時間の経過後に各種の方法により活性化させ、さらに生体外培養した。
【0114】
先ず、リプログラミング時間が胚盤胞の形成率に及ぼす影響を調べるために、リプログラミング時間をそれぞれ約2、4、6、20時間に変化させ、活性化方法及び生体外培養の条件を下記表2のように設定した。これより、リプログラミング時間が約2時間となったときに、最高の胚盤胞の形成率が得られることが分かる。
【0115】
【表2】

【0116】
*カルシウムイオノフォアA23187
また、活性化方法が胚盤胞の形成率に及ぼす影響を調べるために、固定された(約2時間)リプログラミング時間が経過した核移植卵を、下記表3に示すように、G1.2培地において37℃、5分間カルシウムイオノフォアA23187(5または10μM;Sigma Co., St. Louis, MO, U.S.A.)またはイオノマイシン(5または10μM;Sigma Co., St. Louis, MO, U.S.A.) で処理した後、G1.2培地で数回洗浄し、2.0mMの6−ジメチルアミノプリン(6−DMAP;Sigma Co., St. Louis, MO, U.S.A.)を含むG1.2培地に移して37℃、5%のCO2、5%のO2及び90%のN2で4時間活性化させた。その後、これを同じ培養条件下で生体外培養した。下記表3より、10μΜのカルシウムイオノフォアを処理し、その後、2.0mMの6−DMAPを順次に処理するような活性化方法が最高の胚盤胞の形成率を示すことが確認できた。
【0117】
【表3】

【0118】
*カルシウムイオノフォアA23187
さらに、生体外培養の条件が胚盤胞の形成率に及ぼす影響を調べるために、前記最適なリプログラミング時間及び活性化後に核移植卵をG1.2培地で勢いよく洗浄し、10μlのG1.2培地の微小滴またはSNUnt−2培地において37℃、5%のCO2、5%のO2及び90%のN2の条件下で48時間培養した。培養後に分離した核移植卵を新たなG2.2培地またはSNUnt−2培地に移してさらに6日間培養した。生体外培養培地の代表例はG2.2培地(Vitro Life, Goteborg, Sweden)であり、それはアラニン、アラニル−グルタミン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、塩化カルシウム、パントテン酸カルシウム、塩化コリン、シスチン、葉酸、グルコース、グルタミン酸、グリシン、ヒスチジン、ヒト血清アルブミン、イノシトール、イソロイシン、ロイシン、クジン、硫酸マグネシウム、メチオニン、ニコチンアミド、ペニシリンG、フェニルアラニン、塩化カリウム、プロリン、ピリドキサルHCL、リボフラビン、セリン、炭酸水素ナトリウム、塩化ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、乳酸ナトリウム、ピルビン酸ナトリウム、チアミン、スレオニン、トリプトファン、チロシン、バリン及び水を含む。
【0119】
【表4】

【0120】
*カルシウムイオノフォアA23187
表4より、G1.2培地において1次培養を行い、さらにSNUnt−2培地において2次培養を行うことにより、最高の胚盤胞の形成率が得られることが確認できた。
【0121】
要するに、核移植卵は、2時間のリプログラミング時間を経た後、10μMのカルシウムイオノフォアで処理し、2.0mMの6−DMAPで処理して活性化した後、G1.2培地において1次培養を行い、SNUnt−2培地において2次培養を行うことにより、最適な胚の発生が得られる。
【0122】
前記最適な条件下で、さらに66個の核移植卵をリプログラミング、活性化及び生体外培養して19個の胚盤胞(29%)を得た。胚盤胞から生じた本発明による核移植卵の前記割合は、ウシ(約25%)(Kwun et al., Mol. Reprod. Dev., 65:167-174 (2003))及び豚(約26%)(Hyun et al., Biol. Reprod., 69:1060-1068 (2003); Kuhholzer et al., Biol. Reprod., 64:1635-1698 (2004))において樹立されたSCNT方法により観察されたものに匹敵すべきものである。
【0123】
<実施例4>
透明帯の除去及び栄養膜細胞の除去と内細胞塊の分離
前記実施例3に従い得られた胚盤胞に0.1%のプロナーゼ(Sigma Co., St. Louis, MO, U.S.A.)を1分間適用して透明帯を除去した後、100%の抗ヒト血清抗体(Sigma Co., St. Louis, MO, U.S.A.)で20分間処理し、37℃、5%のCO2の条件下で10μMのモルモット補体(Life Technologies, Rockville, MD, U.S.A.)にさらに30分間露出させることにより、栄養膜細胞を除去して内細胞塊を分離した。
【0124】
<実施例5>
内細胞塊の培養
実施例4に従い分離された内細胞塊は、0.1%のゼラチンでコートされた組織培養皿を用い、マイトマイシンCで不活性化された1次マウス(C57BL breed)胚芽の繊維芽細胞栄養細胞層(7.5x104細胞/cm2)において培養した。培養培地としては、DMEM/F12培地(Life Technologies, Rockville, MO, U.S.A.)に20%の血清置換物、0.1mMのβ−メルカプトエタノール、1%の非必須アミノ酸、2mMのグルタミン、ペニシリン(100units/ml)、ストレプトマイシン(100μg/ml)、繊維芽細胞成長因子(Life Technologies, Rockville, MD, U.S.A.)(4ng/ml)が補われた培地を用いた。初期のES細胞培養中に、培地は、ヒト組換え白血病抑制因子(Chemicon, Temecula, CA, U.S.A.)(100units/ml)で補った。前記培養は、未分化のntES細胞コロニーが発現するまで6日以上行った。ntES細胞コロニーの形成後、5日または7日おきにマイクロピペットを用いて機械的にntES細胞を分離した。
【0125】
このようにして得られた自家核移植卵由来の胚性幹細胞を「hntES」と命名し、2003年12月29日付でブダペスト協約下の国際寄託機関である韓国細胞株研究財団(KCLRF;大韓民国ソウル市鍾路区蓮建洞28番地、ソウル大学校医科大学癌研究所内)に寄託し、受託番号KCLRF−BP−00092を付与された。
【0126】
<実験例1>
核型分析による実施例5に従い得られたヒトntES細胞の確認
上記の実施例5に従い得られた未分化ntES細胞のコロニーを0.1mMのCa2+及び0.1mMのMg2+を含有するPBSで洗浄した後、クエン酸−アセトン−ホルムアルデヒド(混合比:25:65:8(v/v/v))で4℃、1時間固定し、0.1mMのCa2+及び0.1 mMのMg2+を含むPBSで1回洗浄した。ntES細胞のアルカリ性ホスファターゼの活性度を検証するために、APキット(Sigma Co., St. Louis, MO, U.S.A.)を用いた。ntES細胞の独特な表面抗原を調べるために、下記のモノクローセル抗体を1次抗体として用い、免疫組織化学分析を行った:Oct−4(SC−5279; Santa Cruz Biotechnology, Santa Cruz, CA, U.S.A.); SSEA−1(MC480)、SSEA−3(MC631)及びSSEA−4(MC−813−70; Developmental Studies Hybridoma Bank, Iowa City, IA, U.S.A.); TRA−1−60及びTRA−1−80(Chemicon, Temecula, CA, U.S.A.)
前記1次抗体を、ビオチン化2次抗体及びアビジン−ホースラディシュ・ペルオキシダーゼ接合体を含有するVectastatin ABCキット(Vector laboratory, Burlingame, CA, U.S.A.)で探知した。
【0127】
ゲノムDNA及びヒトのSTR(human short tandem repeat)マーカーに対し、自動化されたABI 310遺伝分析器(Applied Biosystems, Foster City, CA, U.S.A.)上においてSTR AMP FLSTR PROFILERキット(Applied Biosystems, Foster City, CA, U.S.A.)を用いてDNA指紋法による分析を行った。その分析結果を図6A〜図6Dに示す。
【0128】
図6A〜図6Dによれば、前記実施例1〜5に従い得られた核移植卵由来の胚性幹細胞株の核型の分析結果と、前記胚性幹細胞株に核を提供した女性の体細胞核型の分析結果が同じであることが分かる。このため、本発明に従い得られた胚性幹細胞株は、単位生殖により活性化された卵子からのものではなく、ある女性の体細胞核を移植して製造された核移植卵由来のものであることが分かる。
【0129】
<実験例2>
奇形腫分析によるヒトのntES細胞の確認
実施例5に従い得られた未分化のntES細胞100個コロニーを培養皿から分離して1mlの注射器に入れ、SCIDマウス(KRIBB;Korea Research Institute of Bioscience and Biotechnology, Korea)の生殖腺に注入した後、8週間培養した。形成された奇形腫をパラフィンで固定して免疫組織化学検査を行い、3胚葉細胞が生成されているかどうかを確認した。その分析結果を図7に示す。
【0130】
図7によれば、実施例5に従い得られたntES細胞は、生殖腺に3胚葉(軟骨A:内胚葉、腸管B:中胚葉、及び神経管C:外胚葉)を形成していることが分かる。これより、本発明に従い得られたntES細胞は、種々の組織に分化できる能力を持った多能性の胚性幹細胞であることが分かる。
【0131】
<実験例3>
免疫組織化学染色による胚芽体の形成確認
前記実施例5に従い得られたヒトntES細胞コロニーを0.1%トリプシン/1mMのEDTAで処理して分離した後、プラスチック製のペトリ皿に移した。ヒトntES細胞は、hLIF及びbFGF無しにDMEM/DMEMF12培地において14日間培養した。パラフィンの固定のために、ntES細胞はPBSに溶解された1%の低溶融温度のアガロースに移し、42℃まで冷却させた。その結果、ntES細胞を含む固体化されたアガロースをPBSに溶解された4%のパラホルムアルデヒドに固定させ、パラフィンに埋め込んだ。パラフィン埋め込み細胞の個々の6mmセクションをスライドに配置し、免疫組織化学分析を行った。このときに用いられた抗体は、下記の通りである:α−1−フェトプロテイン(18−0003)、サイトケラチン(18−0234)、デスミン(18−0016)、ニューロフィラメント(18−0171)及びS−100(18−0046)は、ゼメッド社(South San Francisco, CA, U.S.A.)から購入し、HNF−2−α(SC−6556)、BMP−4(SC−6896)、筋肉D(SC−760)及びNCAM(SC−7326)はサンタクルーズバイオテクノロジー(Santa Cruz, CA, U.S.A.)社から購入した。前記抗体を1次抗体として用い、ビオチン抗ウサギ、抗マウスまたは抗ヤギ抗体を2次抗体として用いた。前記免疫反応をストレプトアビジン接合のホースラディシュ・ペルオキシダーゼ及びジアミノベンジジン・クロマゲンで探知し、その結果を図8に示す。
【0132】
図8によれば、実施例5に従い得られたntES細胞から、内胚葉マーカータンパク質であるα−1−フェトプロテイン(A)、サイトケラチン7(B)及びHNF−2−α(C)と、中胚葉マーカータンパク質であるBMP−4(D)、筋肉D(E)及びデスミン(F)、そして、外胚葉マーカータンパク質であるニューロフィラメント(G)、S−100(H)及びNCAM(I)が発現していることが確認でき、その結果、前記ntES細胞が胚芽体を形成可能であることが確認できた。これより、本発明に従い得られた細胞は、胚性幹細胞であることが分かる。
【0133】
<実施例6>
神経前駆細胞への分化
(6−1)未分化ES細胞の拡張
上記の実施例5に従い得られたヒトの未分化ntES細胞を、37℃、5%のCO2の条件下で、2%のゼラチンでコートされた培養皿に充填された、細胞分裂が不活性化されたマウス胚様の繊維芽細胞栄養細胞層において培養した。前記培養に際し、DMEM F/12(1:1)、20%のノックアウト血清置換物、0.1mMの非必須アミノ酸、0.1mMのβ−メルカプトエタノール、1mMのL−グルタミン及び抗生剤(100U/mlのペニシリンG、100μg/mlのストレプトマイシン及び4ng/mlのbFGF)よりなる培地を用い、毎日のように交換した。
【0134】
(6−2)胚芽体の生成
培養されたntES細胞コロニーを集めて非接着性の培養皿に移し、37℃、5%のCO2の条件下で培養した。培養培地は、4ng/mlのbFGFがないことを除いては、前記(6−1)において用いられた培地と同じ培地を用いた。1日の経過後に、ES細胞コロニーは、浮遊胚芽体(〜50/皿)として生え始めた。このとき、胚芽体を新たな皿に移しながら、残留する栄養細胞はいずれも除去した。加えて、4日間の培養後に生成された胚芽体は、(ポリオルニチン/ラミニンでコートされた)接着性の皿にプレートした。
【0135】
(6−3)ネスチン陽性細胞の選別
接着性の皿において1日間培養した後、分化する胚芽体をITSF(インシュリン:25μg/ml、トランスフェリン:100μg/ml、亜セレン酸ナトリウム:30nM及びフィブロネクチン:5μg/ml)で補われたDMEM/F12に移して37℃、6日間培養した。このようにして培養された細胞は、ネスチン抗体(Chemicon, Temecula, CA, U.S.A.)を0.01MのPBS、1%のBSA、5mMのEDTA入り溶液で1/1000に希釈した溶液において37℃、40分間培養した。新たな前記DMEM/F12培地で洗浄した後、細胞をフィコエリスチン(phycoerythrine;PE)接合の2次抗体(Chemicon, Temecula, CA, U.S.A.)でさらに30分間培養した後、新たな前記DMEM/F12培地で3回洗浄してネスチン陽性細胞を選別した。
【0136】
(6−4)ネスチン陽性細胞の拡張
前記実施例(6−3)に従い選別されたネスチン陽性細胞をN−2補充剤、ラミニン(1ng/ml)、bFGF(10ng/ml)で補われたDMEM/F12培地において6日間培養することにより拡張した。
【0137】
(6−5)神経前駆細胞への分化
その後、ネスチン陽性の細胞をbFGFを除去し、N−2補充剤及びラミニン(1ng/ml)で補われたDMEM/F12培地において37℃、10日間培養して分化を誘導した。
【0138】
本発明による自家核移植卵由来の幹細胞から分化された神経前駆細胞を図2に示す。
【0139】
以上、本発明の特定な具体例について述べたが、特許請求の範囲により定義された発明の範囲内である限り、当業者による種々の変形及び変更が可能であることは言うまでもない。
寄託された微生物または他の生物学的な物質に関する言及
【0140】
【表5】

【図面の簡単な説明】
【0141】
本発明の上述した、そして他の目的と特徴は、添付図面と結び付けて行われる下記の本発明の説明から一層明らかになる:
【図1】本発明による核移植卵由来のES細胞の未分化コロニーの写真である(A;x100、B;x200)。
【図2】本発明に従い得られた未分化コロニーにITSF(すなわち、インシュリン、トランスフェリン、亜セレン酸ナトリウム及びフィブロネクチン)を添加して分化された神経前駆細胞の蛍光染色写真である(x400)。
【図3】固定用のピペット1と切開用のピペット2により卵子3の透明帯を切開する過程を示す写真である。
【図4】固定用のピペット1と切開用のピペット2により卵子3の第1の極体と核を除去する過程を示す写真である。
【図5】固定用のピペット1と移植用のピペット4により脱核された受核卵子3に体細胞を移植する過程を示す写真である。
【図6A】A〜Dは、本発明に従い製造された核移植卵由来の胚性幹細胞株の核型と、及び前記胚性幹細胞株を樹立するために用いられる核を提供した女性患者の体細胞の核型を分析した結果を示す写真である。
【図6B】A〜Dは、本発明に従い製造された核移植卵由来の胚性幹細胞株の核型と、及び前記胚性幹細胞株を樹立するために用いられる核を提供した女性患者の体細胞の核型を分析した結果を示す写真である。
【図6C】A〜Dは、本発明に従い製造された核移植卵由来の胚性幹細胞株の核型と、及び前記胚性幹細胞株を樹立するために用いられる核を提供した女性患者の体細胞の核型を分析した結果を示す写真である。
【図6D】A〜Dは、本発明に従い製造された核移植卵由来の胚性幹細胞株の核型と、及び前記胚性幹細胞株を樹立するために用いられる核を提供した女性患者の体細胞の核型を分析した結果を示す写真である。
【図7】本発明による未分化細胞コロニーを免疫不全マウスの生殖腺に注入した後に形成された奇形腫内において確認された3胚葉細胞の写真である(A:軟骨、B:腸管、C:神経管(A、B、C;x200))。
【図8】本発明による胚性幹細胞株から胚芽体の形成有無を確認した結果を示す写真である(A、B、C:内胚葉、D,E,F:中胚葉、G、H、I:外胚葉、A)α−1−フェトプロテイン、B)サイトケラチン、C)HNF−2−α、D)BMP−4、E)筋肉D、F)デスミン、G)ニューロフィラメント、H)S−100、I)NCAM)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトの体細胞の核を脱核されたヒトの卵子に移植することにより得られる核移植卵由来の胚性幹細胞。
【請求項2】
受託番号第KCLRF−BP−00092号で寄託された細胞株であることを特徴とする請求項1に記載の胚性幹細胞。
【請求項3】
下記のステップを含む胚性幹細胞株の製造方法:
(1)ヒトの体細胞を培養して供与核細胞を用意するステップと、
(2)ヒトの卵子を脱核して受核卵子を用意するステップと、
(3)前記供与核細胞の核を前記受核卵子に移植し、前記供与核細胞の核と前記受核卵子を融合することにより核移植卵を製造するステップと、
(4)前記核移植卵をリプログラミング、活性化及び生体外培養させて胚盤胞を形成するステップ、及び
(5)前記胚盤胞から内細胞塊を分離し、前記内細胞塊を未分化のままで培養して胚性幹細胞株を樹立するステップ。
【請求項4】
前記胚性幹細胞株は、受託番号第KCLRF−BP−00092号で寄託されたものであることを特徴とする請求項3に記載の胚性幹細胞株の製造方法。
【請求項5】
前記ステップ(4)におけるリプログラミングは、20時間以内で行われることを特徴とする請求項3に記載の胚性幹細胞株の製造方法。
【請求項6】
前記ステップ(4)におけるリプログラミングは、6時間以内で行われることを特徴とする請求項3に記載の胚性幹細胞株の製造方法。
【請求項7】
前記ステップ(4)におけるリプログラミングは、3時間以内で行われることを特徴とする請求項3に記載の胚性幹細胞株の製造方法。
【請求項8】
前記ステップ(4)におけるリプログラミングは、2時間以内で行われることを特徴とする請求項3に記載の胚性幹細胞株の製造方法。
【請求項9】
前記ステップ(4)における活性化は、前記核移植卵をカルシウムイオノフォアで処理した後、6−ジメチルアミノプリンで処理して行われることを特徴とする請求項3に記載の胚性幹細胞株の製造方法。
【請求項10】
前記カルシウムイオノフォアの濃度は、5μM〜15μMであることを特徴とする請求項9に記載の胚性幹細胞の製造方法。
【請求項11】
前記カルシウムイオノフォアの濃度は、約10μMであることを特徴とする請求項9に記載の胚性幹細胞の製造方法。
【請求項12】
前記6−ジメチルアミノプリンの濃度は、1.5mM〜2.5mMであることを特徴とする請求項9に記載の胚性幹細胞株の製造方法。
【請求項13】
前記6−ジメチルアミノプリンの濃度は、約2.0mMであることを特徴とする請求項9に記載の胚性幹細胞株の製造方法。
【請求項14】
前記ステップ(4)における生体外培養は少なくとも2以上の培地を用いて連続して行われ、前記各培地は相異なる組成を持つものであることを特徴とする請求項3に記載の胚性幹細胞株の製造方法。
【請求項15】
前記生体外培養は、相異なる組成を持つ2種類の培地を連続して用いて行われることを特徴とする請求項14に記載の胚性幹細胞株の製造方法。
【請求項16】
前記生体外培養は、G1.2培地及びSNUnt−2培地を順次に用いることにより行われることを特徴とする請求項15に記載の胚性幹細胞株の製造方法。
【請求項17】
前記ステップ(4)は、20時間以内で核移植卵をリプログラミングし、前記核移植卵を5μM〜15μMの濃度のカルシウムイオノフォアで処理し、さらに1.5mM〜2.5mMの濃度の6−ジメチルアミノプリンで処理した後、G1.2培地及びSNUnt−2培地において前記核移植卵を生体外培養することにより行われることを特徴とする請求項3に記載の胚性幹細胞株の製造方法。
【請求項18】
前記内細胞塊は、下記のステップを含む方法によりステップ(5)における胚盤胞から分離されることを特徴とする請求項3に記載の胚性幹細胞株の製造方法:
(1)胚盤胞から透明帯またはその一部を除去するステップ、及び
(2)その結果として生じる胚盤胞から栄養膜を除去して内細胞塊を分離するステップ。
【請求項19】
前記ステップ(5)における内細胞塊は、請求項1に記載の胚性幹細胞株から分化された細胞を含む栄養細胞層上において培養されることを特徴とする請求項3に記載の胚性幹細胞株の製造方法。
【請求項20】
ヒトの体細胞核を脱核されたヒトの卵子に移植することにより製造された核移植卵由来の胚性幹細胞株から分化された神経前駆細胞。
【請求項21】
前記胚性幹細胞株は、受託番号第KCLRF−BP−00092号で寄託されたものであることを特徴とする請求項20に記載の神経前駆細胞。
【請求項22】
請求項20に記載の神経前駆細胞を製造する方法であって、
(1)胚性幹細胞株を培養して胚芽体(embryoid body)を形成するステップと、
(2)前記胚芽体を、前記胚芽体の細胞を神経前駆細胞に分化させるのに適した因子の存在下で培養するステップと、
(3)神経前駆細胞のマーカーを発現する細胞を選別及び培養して神経前駆細胞を得るステップと、を含むことを特徴とする神経前駆細胞の製造方法。
【請求項23】
前記胚性幹細胞株は、受託番号第KCLRF−BP−00092号で寄託されたものであることを特徴とする請求項22に記載の神経前駆細胞の製造方法。
【請求項24】
前記ステップ(2)における因子は、レチノイン酸と、アスコルビン酸と、ニコチンアミドと、N−2補充剤と、B−27補充剤と、インシュリン、トランスフェリン、亜セレン酸ナトリウム(sodium selenite)及びフィブロネクチンの混合物と、よりなる群から選ばれるものであることを特徴とする請求項22に記載の神経前駆細胞の製造方法。
【請求項25】
請求項3に記載のステップ(4)における生体外培養を行うために用いられる培地であって、
95〜110mMのNaClと、7.0〜7.5mMのKClと、20〜30mMのNaHCO3と、1.0〜1.5mMのNaH2PO4と、3〜8mMの乳酸ナトリウムと、1.5〜2.0mMのCaCl2・2H2Oと、0.3〜0.8mMのMgCl2・6H2Oと、0.2〜0.4mMのピルビン酸ナトリウムと、1.2〜1.7mMのフルクトースと、6〜10mg/mlのヒト血清アルブミンと、0.7〜0.8μg/mlのカナマイシンと、1.5〜3%の必須アミノ酸と、0.5〜1.5%の非必須アミノ酸と、0.7〜1.2mMのL−グルタミンと、0.3〜0.7%のインシュリン、トランスフェリン及び亜セレン酸ナトリウムの混合物と、を含む培地。
【請求項26】
前記培地は、
99.1〜106mMのNaClと、7.2mMのKClと、25mMのNaHCO3と、1.2mMのNaH2PO4と、5mMの乳酸ナトリウムと、1.7mMのCaCl2・2H2Oと、0.5mMのMgCl2・6H2Oと、0.3mMのピルビン酸ナトリウムと、1.5mMのフルクトースと、8mg/mlのヒト血清アルブミンと、0.75μg/mlのカナマイシンと、2%の必須アミノ酸と、1%の非必須アミノ酸と、1mMのL−グルタミンと、0.5%のインシュリン、トランスフェリン及び亜セレン酸ナトリウムの混合物と、を含むことを特徴とする請求項25に記載の培地。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【図6C】
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【図6D】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2007−516720(P2007−516720A)
【公表日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−546844(P2006−546844)
【出願日】平成16年12月30日(2004.12.30)
【国際出願番号】PCT/KR2004/003528
【国際公開番号】WO2005/063972
【国際公開日】平成17年7月14日(2005.7.14)
【出願人】(503317485)ソウル ナショナル ユニバーシティー インダストリー ファウンデーション (25)
【Fターム(参考)】