説明

脂溶性薬物内包ナノ粒子の製造方法

【課題】保存安定性が優れる脂溶性薬物内包ナノ粒子を、有機溶剤を用いることなく簡便に得る。
【解決手段】有機溶剤不存在下でナノ粒子分散液を調製することによりナノ粒子を製造する方法は、炭素数10〜36の脂肪酸及び/又は脂肪酸塩である(A)成分の水溶液と界面活性剤である(B)成分及び脂溶性薬物である(C)とを混合する工程1と、前記工程1で得られた液と酸である(D)成分及び/又は2価〜3価の金属塩である(E)成分とを混合する工程2と、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は脂溶性薬物内包ナノ粒子の製造方法及びその脂溶性薬物内包ナノ粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
脂溶性薬物を分散液とする場合、その粒径が小さいほどクリーミングや凝集を効果的に回避することができる。従って、安定した分散液を得るためには、そのナノサイズ化が有効である。このような理由から、例えば、特許文献1〜3には、脂溶性薬物をナノサイズ化することが開示されている。
【0003】
具体的には、特許文献1には、ポリグリセリン脂肪酸エステルを含む水溶液とトコフェロールとを200MPaという高圧で均質化処理することによりナノ粒子を得ることが開示されている。
【0004】
特許文献2には、酢酸トコフェロールに、ポリグリセリン脂肪酸エステル及びポリオキシエチレン系非イオン界面活性剤を多量に配合すると共に、グリセリンのような多価アルコールも同時に多量に配合して混合したものを水と混合することにより、高圧乳化を用いずに簡便な攪拌だけでナノ粒子を得ることが開示されている。
【0005】
特許文献3には、薬物をレシチン、界面活性剤、及びエタノールと相溶させたものを水と混合することにより、高圧乳化を用いずに簡便な攪拌だけでナノ粒子を得ることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−175664号公報
【特許文献2】特開2004−277375号公報
【特許文献3】特開平11−335261号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記先行技術文献に開示された技術では、高圧乳化のような特殊装置を用いたり、多価アルコールや界面活性剤を使用したり、後述するような調整したナノ粒子を不安定化させるエタノールを使用して、脂溶性薬物のナノ粒子を調製している。
【0008】
また、脂溶性薬物をナノ分散液とした場合、脂溶性薬物の保存安定性を確保する必要がある。例えば、脂溶性薬物が殺菌剤であるトリクロサンの場合、その物性により保存容器などへの吸着が生じ易く、さらに、長期間保管する間に有効含有量が低下する恐れがある。
【0009】
この様に、簡便に脂溶性薬物のナノ分散液を調製し、かつ、脂溶性薬物の保存安定性を向上させる技術は見当たらない。
【0010】
本発明の課題は、保存安定性が優れる脂溶性薬物内包ナノ粒子を、有機溶剤を用いることなく簡便に得ることができる脂溶性薬物内包ナノ粒子の製造方法及びその脂溶性薬物内包ナノ粒子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の脂溶性薬物内包ナノ粒子の製造方法は、有機溶剤不存在下でナノ粒子分散液を調製することにより脂溶性薬物内包ナノ粒子を製造する方法であって、
炭素数10〜36の脂肪酸及び/又は脂肪酸塩である(A)成分の水溶液と、界面活性剤である(B)成分と、脂溶性薬物である(C)成分と、を混合する工程1と、
前記工程1で得られた液と、酸である(D)成分及び/又は2価〜3価の金属塩である(E)成分と、を混合する工程2と、
を含む。
【0012】
本発明の脂溶性薬物内包ナノ粒子は、本発明の脂溶性薬物内包ナノ粒子の製造方法により製造されたものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、工程1及び2を含む方法によりナノ粒子分散液を調製することで、脂溶性薬物を内包したナノ粒子が小粒径化されて経時安定性の劣化が抑制され、それにより、保存安定性が優れる脂溶性薬物内包ナノ粒子を、有機溶剤を用いることなく簡便に得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、実施形態について詳細に説明する。
【0015】
本実施形態に係る脂溶性薬物内包ナノ粒子(以下、「ナノ粒子」と略す。)の製造方法は、少なくとも下記工程1及び2を含み、有機溶剤不存在下でナノ粒子分散液を調製することによりナノ粒子を製造するものである。そして、このナノ粒子の製造方法によれば、下記工程1及び2を含む方法によりナノ粒子分散液を調製することで、脂溶性薬物を内包したナノ粒子が小粒径化されて経時安定性の劣化が抑制され、それにより、保存安定性が優れる脂溶性薬物内包ナノ粒子を、有機溶剤を用いることなく簡便に得ることができる。
【0016】
ここで、このナノ粒子の製造方法では有機溶剤が用いられないが、かかる有機溶剤とは、固体、気体、或いは液体を溶解することができる液体有機化合物であって、例えば、メタノール、エタノール、アセトン、プロパノール、ブタノール等が挙げられる。
【0017】
(工程1)
工程1では、炭素数10〜36の脂肪酸及び/又は脂肪酸塩である(A)成分の水溶液と界面活性剤である(B)成分と脂溶性薬物である(C)成分とを混合する。
【0018】
(A)成分は炭素数10〜36の脂肪酸及び/又は脂肪酸塩である。
【0019】
炭素数10〜36の脂肪酸としては、例えば、ラウリン酸(C12)、ミリスチン酸(C14)、パルミチン酸(C16)、ステアリン酸(C18)、アラキン酸(C20)、ベヘン酸(C22)、リグノセリン酸(C24)、セロチン酸(C26)、モンタン酸(C28)、パルミトレイン酸(C16)、オレイン酸(C18)、エルカ酸(C22)、リノール酸(C18)、リノレン酸(C18)、ドコサヘキサエン酸(C22)、エイコサペンタエン酸(C20)、イソステアリン酸(C18)等が挙げられる。これらの中でも、融点が50℃以上の脂肪酸が好ましく、例えば、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、モンタン酸等が挙げられる。
【0020】
脂肪酸塩としては、例えば、脂肪酸カリウム、脂肪酸ナトリウム、脂肪酸トリエタノールアミン、脂肪酸アンモニウム等が挙げられる。これらのうち脂肪酸カリウム、脂肪酸ナトリウムが好ましく、より粒径が小さく且つ高濃度な脂肪酸のナノ粒子を得るには脂肪酸カリウムが好ましい。
【0021】
脂肪酸塩は、炭素数10〜36の脂肪酸をアルカリ剤により処理して得られるものであってもよい。その場合のアルカリとしては、例えば、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、トリエタノールアミン等が挙げられる。これらのうち水酸化カリウム、水酸化ナトリウムが好ましく、水酸化カリウムが特に好ましい。
【0022】
(A)成分は、単一種又は複数種の脂肪酸だけであってもよく、また、単一種又は複数種の脂肪酸塩だけであってもよく、さらに、単一種又は複数種の脂肪酸と単一種又は複数種の脂肪酸塩との組合せであってもよい。
【0023】
(A)成分の配合量は、調製されるナノ粒子分散液中における含有量が0.1質量%以上となる量が好ましく、0.5質量%以上となる量がより好ましい。一方、ナノ粒子分散液中における脂肪酸の含有量は、その脂肪酸塩の飽和溶解度の量が上限となることから、(A)成分の配合量は、調製されるナノ粒子分散液中における含有量が20質量%以下となる量が好ましく、10質量%以下となる量がより好ましい。なお、加温することで溶解度は高くなることから、特に融点が50℃以上の脂肪酸の場合、高濃度な脂肪酸のナノ粒子を得るには水溶液をその融点以上に加温することが好ましい。
【0024】
(B)成分は、(A)成分以外の界面活性剤である。
【0025】
界面活性剤は、脂肪酸をナノサイズで分散させる観点から、非イオン界面活性剤、陰イオン界面活性剤、両性イオン界面活性剤が好ましい。具体的には、例えば、非イオン活性剤としては、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル等が挙げられる。陰イオン活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキル酢酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸塩、N-アシルタウリン塩、N-アシルアミノ酸塩等が挙げられる。両性イオン活性剤としては、例えば、アルキルベタイン、アミンオキサイド、イミダゾリニウムベタイン、酵素分解レシチン等が挙げられる。これらのうちアルキル鎖長が炭素数12であるものが特に好ましい。
【0026】
界面活性剤は、単一種又は複数種の非イオン界面活性剤だけであってもよく、また、単一種又は複数種の陰イオン界面活性剤だけであってもよく、また、単一種又は複数種の両性イオン界面活性剤だけであってもよく、さらに、これらの組合せであってもよい。
【0027】
界面活性剤の配合量は、(A)成分に対する(B)成分の質量比率が(B)成分の質量/(A)成分の質量=0.1〜5.0となる量が好ましく、0.5〜3.0となる量がより好ましい。
【0028】
(C)成分は脂溶性薬物である。
【0029】
脂溶性薬物としては、例えば、香料、脂溶性ビタミン類、殺菌・静菌能を有する難水溶性活性作用物質等が挙げられる。
【0030】
脂溶性ビタミン類としては、例えば、ビタミンA群、ビタミンD群、ビタミンE群、ビタミンK群、ビタミンCステアレート、ビタミンCパルミテート等が挙げられる。殺菌・静菌能を有する難水溶性活性作用物質としては、例えば、トリクロサン、トリクロロカルバニリド、メチルパラベン、エチルパラベン、プロピルパラベン、イソプロピルメチルフェノール、ドデシルアルコール、デシルアルコール、及びデカンジオール等が挙げられる。
【0031】
(C)成分の配合量は、調製されるナノ粒子分散液中における(C)成分の含有量は0.01〜10質量%であることが好ましく、0.05〜5質量%であることがより好ましい。
【0032】
(A)成分の水溶液と(B)成分及び(C)成分との混合手段としては、特に限定されるものではなく、例えば、プロペラ、タービン、ディスパー、アンカーなどの攪拌翼やスターラー等の公知の攪拌手段が挙げられる。混合温度は、(A)成分の融点以上が好ましく、例えば、40〜100℃であることが好ましく、50〜90℃であることがより好ましい。
【0033】
この工程1では、脂肪酸の粒径を小さくする観点から、(A)成分の水溶液と(B)成分及び(C)成分との混合温度を、(A)成分の融点又は40℃を超える温度のいずれか高い温度とし、それらを混合した液を20〜40℃まで急冷却することが好ましい。その場合、冷却手段としては、特に限定されるものではなく、例えば、二重管向流式冷却装置等を用いた公知の方法が挙げられる。冷却時間は、10秒以内であることが好ましく、5秒以内であることがより好ましい。急冷却の際の単位時間当たりの冷却温度は、10℃/秒以上であることが好ましく、10〜50℃/秒であることがより好ましく、15〜30℃/秒であることが更に好ましい。
【0034】
なお、この工程1において、増粘剤、防腐剤、着色剤、崩壊防止剤、酸化防止剤等を混合してもよい。
【0035】
(工程2)
工程2では、工程1で得られた液と酸である(D)成分及び/又は2価〜3価の金属塩である(E)成分とを混合する。これにより脂溶性薬物を内包したナノ粒子の分散液が生成する。
【0036】
(D)成分は酸である。
【0037】
酸としては、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、クエン酸、乳酸、リンゴ酸、フマル酸、コハク酸等が挙げられる。なかでも、塩酸、クエン酸が好ましい。
【0038】
(D)成分は、単一種だけであってもよく、また、複数種であってもよい。(D)成分のみを配合する場合、その配合量は、ナノ粒子分散液の安定性の観点から、(D)成分が有する酸性水素モル数/(A)成分のモル数=0.8〜3となる量が好ましく、0.9〜1.5となる量がより好ましい。
【0039】
(E)成分は2価〜3価の金属塩である。
【0040】
2価の金属塩としては、例えば、塩化カルシウム、乳酸カルシウムなどのカルシウム塩;塩化亜鉛、酢酸亜鉛、硫酸亜鉛などの亜鉛塩;塩化銅、硫酸銅などの銅塩等が挙げられる。3価の金属塩としては、塩化鉄、硫酸鉄などの鉄塩;塩化アルミニウム、硝酸アルミニウムなどのアルミニウム塩等が挙げられる。これらのうち塩化カルシウム、乳酸カルシウム、塩化亜鉛が好ましい。
【0041】
(E)成分は、単一種又は複数種の2価の金属塩だけであってもよく、また、単一種又は複数種の3価の金属塩だけであってもよく、さらに、単一種又は複数種の2価の金属塩と単一種又は複数種の3価の金属塩との組合せであってもよい。
【0042】
(E)成分のみを配合する場合、その配合量は、ナノ粒子分散液の安定性の観点から、2価の金属塩では、(E)成分が有する金属モル数/(A)成分のモル数=0.4〜1.5となる量が好ましく、0.45〜0.75となる量がより好ましく、また、3価の金属塩では、(E)成分が有する金属モル数/(A)成分のモル数=0.27〜1.2となる量が好ましく、0.3〜1となる量がより好ましい。
【0043】
(C)成分及び(D)成分は、いずれか一方だけであってもよく、また、それらの両方であってもよい。
【0044】
工程1で得られた液と(D)成分及び/又は(E)成分との混合手段としては、特に限定されるものではなく、例えば、プロペラ、タービン、ディスパー、アンカーなどの攪拌翼やスターラーを用いて静置型混合器やマイクロミキサー等の公知の手段が挙げられる。混合温度は、例えば、20〜40℃であることが好ましく、25〜35℃であることがより好ましい。工程1において液を20〜40℃まで急冷却した場合、液が不安定となっていることから、急冷直後に(D)成分及び/又は(E)成分を混合することが好ましい。
【0045】
なお、この工程2において、増粘剤、防腐剤、着色剤、崩壊防止剤、酸化防止剤等を混合してもよい。
【0046】
(工程3)
本実施形態に係るナノ粒子の製造方法では、工程2において(E)成分を混合した場合、工程3として、工程2で得られた液(ナノ粒子分散液)と1価〜3価の塩基性塩である(F)成分とを混合してもよい。
【0047】
(F)成分は1価〜3価の塩基性塩である。
【0048】
(F)成分としては、例えば、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウムなどの炭酸水素塩;リン酸水素ナトリウム、リン酸水素カリウムなどのリン酸水素塩;炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなどの炭酸塩;リン酸ナトリウム、リン酸カリウムなどのリン酸塩等が挙げられる。これらのうち炭酸塩及びリン酸塩が好ましい。
【0049】
(F)成分の配合量は、ナノ粒子分散液の安定性の観点から、(F)成分のモル数/(E)成分のモル数=0.05〜0.5となる量が好ましく、0.1〜0.3となる量がより好ましい。
【0050】
工程2で得られた液と(F)成分との混合手段としては、特に限定されるものではなく、例えば、プロペラ、タービン、ディスパー、アンカーなどの攪拌翼やスターラーを備えた静置型混合器やマイクロミキサー等の公知の手段が挙げられる。混合温度は、例えば、20〜40℃であることが好ましく、25〜35℃であることがより好ましい。
【0051】
なお、この工程3において、増粘剤、防腐剤、着色剤、崩壊防止剤、酸化防止剤等を混合してもよい。
【0052】
(ナノ粒子分散液)
以上の工程を経て調製されるナノ粒子分散液は、脂溶性薬物の濃度が0.01〜10質量%であることが好ましく、0.05〜5質量%であることがより好ましい。これは、工程1における(A)成分と(B)成分とに可溶化する(C)成分の配合量により制御することができる。
【0053】
ナノ粒子分散液は、ナノ粒子の動的散乱法により測定される動的散乱径が1〜250nmであることが好ましく、5〜200nmであることがより好ましい。これは、(A)成分の種類、(B)成分の種類と配合量、(C)成分の種類と配合量、(D)成分及び/又は(E)成分の配合量により制御することができる。より微細なナノ粒子を得るには、(B)成分である界面活性剤の種類をアルキル鎖が炭素数12のものとし、それを多く配合することが好ましい。
【0054】
ナノ粒子分散液は、製剤用組成物として含有する製品として、例えば、皮膚や毛髪や粘膜に適用する化粧品、石鹸、ボディーソープ、洗顔剤、入浴剤、化粧水、ローション、シャンプー、リンス、歯磨き剤、デンタルリンス、パップ剤、貼付け剤などの外用剤;経口投与剤等が挙げられる。
【実施例】
【0055】
(ナノ粒子分散液調製)
以下の実施例1〜3並びに比較例1のナノ粒子分散液を調製した。なお、それぞれの構成については表1にも示す。
【0056】
<実施例1>
イオン交換水272.46gにスターラーピースを用いて攪拌しながら(A)成分としてベヘン酸含有脂肪酸(花王社製 商品名:ルナックBA、ベヘン酸85質量%含有、中和価=166)7.5g及び10%水酸化カリウム11.79gを加えて85℃で30分間攪拌混合した。次に、この水溶液に攪拌を継続しながら(C)成分としてトリクロサン0.75gを加えて20分間攪拌混合した。更に、この水溶液に攪拌を継続しながら(B)成分としてN−ラウロイルメチルタウリンナトリウム(日光ケミカルズ社製 商品名:NIKKOL LMT)7.5gを加えて3分間攪拌混合して直ぐに、二重管向流式冷却装置を3秒かけて通過させることにより85℃から室温(25℃)まで急冷却した(20℃/秒)。そして、この水溶液に攪拌を継続しながら(D)成分として0.31Nの塩酸71.40gを加え、トリクロサン内包ナノ粒子分散液を得た。このナノ粒子分散液を実施例1とした。実施例1のpHは3.82であった。pHは、pHメーター(堀場製作所製 型番:D−53)を用いて25℃において測定した(実施例2以下同様)。
【0057】
なお、(A)成分の濃度は2.02質量%である。(A)成分に対する(B)成分の質量比率は(B)成分の質量/(A)成分の質量=1.00である。(C)成分の濃度は0.202質量%である。(D)成分が有する酸性水素モル数/(A)成分のモル数=0.95である。
【0058】
<実施例2>
(D)成分の塩酸の代わりに(E)成分として0.31N塩化カルシウム水溶液37.5gを用いたことを除いて実施例1と同様にしてトリクロサン内包ナノ粒子分散液を得た。このナノ粒子分散液を実施例2とした。実施例2のpHは6.75であった。
【0059】
なお、(A)成分の濃度は2.22質量%である。(A)成分に対する(B)成分の質量比率は(B)成分の質量/(A)成分の質量=1.00である。(C)成分の濃度は0.222質量%である。(E)成分が有する金属モル数/(A)成分のモル数=0.50である。
【0060】
<実施例3>
(E)成分の0.31N塩化カルシウム水溶液を加えた後、さらに攪拌を継続しながら(F)成分として0.31N炭酸ナトリウム水溶液9.38gを加えて60分間攪拌混合したことを除いて実施例2と同様にしてトリクロサン内包ナノ粒子分散液を得た。このナノ粒子分散液を実施例3とした。実施例3のpHは9.78であった。
【0061】
なお、(A)成分の濃度は2.16質量%である。(A)成分に対する(B)成分の質量比率は(B)成分の質量/(A)成分の質量=1.00である。(C)成分の濃度は0.216質量%である。(E)成分が有する金属モル数/(A)成分のモル数=0.50である。(F)成分のモル数/(E)成分のモル数=0.25である。
【0062】
<比較例1>
イオン交換水272.46gにスターラーピースを用いて攪拌しながら(A)成分としてベヘン酸含有脂肪酸(花王社製 商品名:ルナックBA、ベヘン酸85質量%含有、中和価=166)7.5g及び10%水酸化カリウム11.79gを加えて85℃で30分間攪拌混合した。次に、この水溶液に攪拌を継続しながら(C)成分としてトリクロサン0.75gを加えて20分間攪拌混合した。更に、この水溶液に攪拌を継続しながら(B)成分としてN−ラウロイルメチルタウリンナトリウム(日光ケミカルズ社製 商品名:NIKKOL LMT)7.5gを加えて3分間攪拌混合した。本液を70℃まで冷却した後、スターラーピースを用いて攪拌しながら60.0gのエタノールを加え、3分間攪拌混合して直ぐに二重管向流式冷却装置により室温(25℃)まで急冷却した。そして、この水溶液に攪拌を継続しながら(E)成分として0.31Nの塩化カルシウム水溶液37.5gを加え、トリクロサン内包ナノ粒子分散液を得た。このナノ粒子分散液を比較例1とした。比較例1のpHは6.5であった。
【0063】
なお、(A)成分の濃度は2.22質量%である。(A)成分に対する(B)成分の質量比率は(B)成分の質量/(A)成分の質量=1.00である。(C)成分の濃度は0.222質量%である。(E)成分が有する金属モル数/(A)成分のモル数=0.50である。
【0064】
【表1】

【0065】
(試験評価方法)
<動的散乱径>
実施例1〜3及び比較例1のそれぞれについて、動的散乱粒度分布測定装置(大塚電子社製 型番:DLS−Z2)を用いて動的散乱径を測定した。
【0066】
<液安定性>
実施例1〜3及び比較例1のそれぞれについて、作製当初から12時間後の外観を目視にて評価した。
【0067】
<組成物の保存安定性>
実施例1〜3及び比較例1のそれぞれについて、トリクロサンの濃度が200ppmとなるようにN−ラウロイルメチルタウリンナトリウム(日光ケミカルズ社製 商品名:NIKKOL LMT)0.3質量%水溶液で希釈混合してモデル洗口剤組成物I〜IVを調製した。具体的には、実施例1を9.90質量%及びLMT水溶液を90.10質量%の割合で混合したモデル洗口剤組成物I、実施例2を9.01質量%及びLMT水溶液を90.99質量%の割合で混合したモデル洗口剤組成物II、及び実施例3を9.26質量%及びLMT水溶液を90.74質量%の割合で混合したモデル洗口剤組成物III、並びに比較例1を9.01質量%及びLMT水溶液を90.99質量%の割合で混合したモデル洗口剤組成物IVをそれぞれ調整した。また、濃度が200ppmとなるようにトリクロサンを単純にLMT水溶液に可溶化させたものをモデル洗口剤組成物Vとして調整した。なお、それぞれの構成については表2にも示す。
【0068】
得られた各モデル洗口剤組成物I〜Vのそれぞれについて、トリクロサンの濃度を液体クロマトグラフィーにて定量し、また、容量80mLのPETボトルに70g入れ、それを50℃の雰囲気下で1週間保存し、保存後のモデル洗口剤組成物中のトリクロサンの濃度も液体クロマトグラフィーにて定量した。そして、保存前のトリクロサンの濃度に対する保存後のトリクロサンの濃度の割合を残存率とした。
【0069】
【表2】

【0070】
(試験評価結果)
試験結果を表1及び2に示す。
【0071】
動的散乱径は、実施例1が20.0nm、実施例2が20.3nm、及び実施例3が20.8nm、並びに比較例1が400nmであった。
【0072】
液安定性は、実施例1〜3では、いずれも作製当初から12時間後まで青白く透明な外観を保って安定であったのに対し、比較例1では、作製当初は青白く透明な外観であったが、経時的に白く濁って、12時間後には液面にクリーミングが確認された。
【0073】
実施例2及び比較例1の結果より、有機溶剤のエタノールが存在することで粒子径が大きくなると共に、安定性も著しく低下することが分かる。
【0074】
組成物の保存安定性の指標としてのトリクロサンの残存率は、実施例1のモデル洗口剤組成物Iが70.0%、実施例2のモデル洗口剤組成物IIが81.0%、及び実施例3のモデル洗口剤組成物IIIが91.0%、並びにモデル洗口剤組成物Vが2.8%であった。なお、比較例1のモデル洗口剤組成物IVは保存過程でクリーミングを生じた。
【0075】
この組成物の保存安定性の試験結果より、モデル洗口剤組成物Vのトリクロサンを単純にLMT水溶液に可溶化させた場合に比べ、実施例1〜3のトリクロサンをナノ粒子分散液として配合したモデル洗口剤組成物I〜IIIの場合の方が、保存時におけるトリクロサンのPETボトルへの吸着を抑制できることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明はナノ粒子の製造方法及びそのナノ粒子について有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機溶剤不存在下でナノ粒子分散液を調製することにより脂溶性薬物内包ナノ粒子を製造する方法であって、
炭素数10〜36の脂肪酸及び/又は脂肪酸塩である(A)成分の水溶液と、界面活性剤である(B)成分と、脂溶性薬物である(C)成分と、を混合する工程1と、
前記工程1で得られた液と、酸である(D)成分及び/又は2価〜3価の金属塩である(E)成分と、を混合する工程2と、
を含む脂溶性薬物内包ナノ粒子の製造方法。
【請求項2】
前記工程2で(E)成分を混合して得られた液と、1価〜3価の塩基性塩である(F)成分と、を混合する工程3をさらに含む、請求項1記載の脂溶性薬物内包ナノ粒子の製造方法。
【請求項3】
(A)成分の脂肪酸塩が炭素数10〜36の脂肪酸をアルカリ剤により処理して得られるものである、請求項1又は2記載の脂溶性薬物内包ナノ粒子の製造方法。
【請求項4】
前記工程1において、(A)成分の水溶液と(B)成分及び(C)成分とを混合した液を20〜40℃まで急冷却する、請求項1〜3のいずれかに記載の脂溶性薬物内包ナノ粒子の製造方法。
【請求項5】
調製されるナノ粒子分散液中における(A)成分の含有量が0.1〜20質量%であり、且つ(A)成分に対する(B)成分の質量比率が(B)成分の質量/(A)成分の質量=0.1〜5.0である、請求項1〜4のいずれかに記載の脂溶性薬物内包ナノ粒子の製造方法。
【請求項6】
(C)成分が香料、脂溶性ビタミン類、及び殺菌・静菌能を有する難水溶性活性作用物質のうち少なくとも1つを含み、調製されるナノ粒子分散液中における(C)成分の濃度が0.01〜10質量%である、請求項1〜5のいずれかに記載の脂溶性薬物内包ナノ粒子の製造方法。
【請求項7】
(C)成分が、脂溶性ビタミン類であるビタミンA群、ビタミンD群、ビタミンE群、ビタミンK群、ビタミンCステアレート、及びビタミンCパルミテート、並びに殺菌・静菌能を有する難水溶性活性作用物質であるトリクロサン、トリクロロカルバニリド、メチルパラベン、エチルパラベン、プロピルパラベン、イソプロピルメチルフェノール、ドデシルアルコール、デシルアルコール、及びデカンジオールのうち少なくとも1つを含む請求項6に記載の脂溶性薬物内包ナノ粒子の製造方法。
【請求項8】
製造される脂溶性薬物内包ナノ粒子の動的散乱法により測定される動的散乱径が1〜250nmである、請求項1〜7のいずれかに記載の脂溶性薬物内包ナノ粒子の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載された方法により製造された脂溶性薬物内包ナノ粒子。

【公開番号】特開2011−116713(P2011−116713A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−276726(P2009−276726)
【出願日】平成21年12月4日(2009.12.4)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】