説明

脂環式スルホン酸アルカリ金属塩の製造方法

【課題】取り扱い容易な原料を用いて、簡便な操作、穏やかな条件で、脂環式スルホン酸アルカリ金属塩を製造する方法を提供する。
【解決手段】ビニルスルホン酸アルカリ金属塩と、RCH=C(R)−C(R)=CHRで表されるジエン化合物を反応させることによる、下式(III)で表される脂環式スルホン酸アルカリ金属塩の製造方法。


[式中、RおよびRはそれぞれ独立して水素原子、アルキル基もしくはアルコキシ基を表すか、または両者が結合して任意の位置に酸素原子を含んでもよいアルキレン基、もしくは−O−を表し、RおよびRはそれぞれ独立して水素原子、アルキル基もしくはアルコキシ基を表す。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、下記式(III)
【化1】


(式中、Mはアルカリ金属原子を表す。RおよびRはそれぞれ独立して水素原子、アルキル基もしくはアルコキシ基を表すか、または両者が結合して任意の位置に酸素原子を含んでもよいアルキレン基、もしくは−O−を表し、RおよびRはそれぞれ独立して水素原子、アルキル基もしくはアルコキシ基を表す。)
で示される脂環式スルホン酸アルカリ金属塩(以下、脂環式スルホン酸金属塩(III)と称する)の製造方法に関する。本発明により得られる脂環式スルホン酸金属塩(III)は、機能性高分子の原料および医薬、農薬その他の精密化学品の合成中間体などとして有用である。
【背景技術】
【0002】
脂環式スルホン酸金属塩(III)の製造方法としてはいくつか知られている。例えば、Mがナトリウム原子、RおよびRが水素原子、RとRが結合してメチレン基である(ビシクロ〔2.2.1〕−ヘプタ−2−エン)−5−スルホン酸ナトリウム(B)の製造方法として、塩化ビニルとシクロペンタジエンとをDiels−Alder反応させ塩化ノルボルネン(A)を得、続いて亜硫酸ナトリウムを作用させることにより得る方法(1)が知られている(特許文献1を参照)。
【0003】
【化2】

【0004】
【特許文献1】特公−昭48−4105号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記方法には、原料となる塩化ビニルが常温で引火性の気体であり、また、発ガン性を有するため取り扱いが難しいという問題があった。更に、出発物質より目的物を合成するのに2工程かかること、200℃という高温条件が必要であることから、経済性、簡便性の観点の問題があった。
【0006】
本発明は、上記した背景技術の問題点を解決するため、取り扱い容易な原料を用いて、簡便な操作、穏やかな条件で、経済性良く、脂環式スルホン酸金属塩(III)を製造する方法について鋭意検討してなされたものである。
【0007】
本発明者らは、脂環式スルホン酸金属塩(III)を製造する方法について鋭意検討を行った結果、ビニルスルホン酸アルカリ金属塩とジエンのDiels−Alder反応による脂環式スルホン酸金属塩(III)の製造方法を見出し、発明を完成させるに至った。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、上記課題は、下記一般式(I)
【0009】
【化3】

【0010】
(式中、Mは前記定義の通り。)
で示されるビニルスルホン酸アルカリ金属塩(以下、ビニルスルホン酸アルカリ金属塩(I)と称する)と、下記一般式(II)
【0011】
【化4】

【0012】
(式中、R〜Rは前記定義の通り。)
で示されるジエン化合物(以下、ジエン化合物(II)と称する)を反応させることによる脂環式スルホン酸金属塩(III)の製造方法を提供することにより達成される。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、取り扱いの容易な化合物を原料として、脂環式スルホン酸金属塩(III)を製造することができる。さらに、操作が簡便で且つ短工程で製造できるため、工業的製造に有利である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明におけるMは、アルカリ金属原子を表す。アルカリ金属の具体例としては、例えばナトリウム、カリウムなどが挙げられる。ビニルスルホン酸アルカリ金属塩(I)の入手容易性の観点から、ナトリウムが好ましい。
【0015】
本発明におけるRおよびRはそれぞれ独立して水素原子、アルキル基もしくはアルコキシ基を表すか、または両者が結合して任意の位置に酸素原子を含んでもよいアルキレン基、もしくは−O−を表す。
およびRが表すアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、i−ブチル基、t−ブチル基等が挙げられる。
およびRが表すアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、n−プロピルオキシ基、i−プロピルオキシ基、n−ブチルオキシ基、sec−ブチルオキシ基、i−ブチルオキシ基、t−ブチルオキシ基等が挙げられる。
およびRが結合して表すアルキレン基としては、メチレン基、1,2−エチレン基、1,1−エチレン基、1,3−プロピレン基、1,2−プロピレン基、2,2−プロピレン基、1,4−ブチレン基、等が挙げられる。
本発明におけるRおよびRはそれぞれ独立して水素原子、アルキル基もしくはアルコキシ基を表す。
およびRが表すアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、i−ブチル基、t−ブチル基等が挙げられる。
およびRが表すアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、n−プロピルオキシ基、i−プロピルオキシ基、n−ブチルオキシ基、sec−ブチルオキシ基、i−ブチルオキシ基、t−ブチルオキシ基等が挙げられる。
【0016】
本発明で使用するビニルスルホン酸アルカリ金属塩(I)は、公知の方法により調製することができ、その際の調製方法について特に制限はない。また、ビニルスルホン酸ナトリウムは、その水溶液が市販品として入手可能であり、水溶液のまま本発明に使用できる。
【0017】
本発明で使用するジエン化合物(II)は市販品を使用することができる。また、公知の方法により調製することができ、その際の調製方法について特に制限はない。
【0018】
本発明におけるジエン化合物(II)の使用量は、経済性の観点から、ビニルスルホン酸アルカリ金属塩(I)1モルに対し、通常は1〜30モル程度であり、好ましくは1〜10モル程度である。
【0019】
本発明は溶媒の存在下または非存在下で実施することができる。溶媒を使用する場合は、溶媒として、水;メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、s−ブタノール、t−ブタノール、1−ペンタノール、1−ヘキサノール等のアルコール;ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン等の脂肪族炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素;ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン等のエーテル;ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン等のアミド;塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素等のハロゲン化炭化水素等を用いることができる。これらの中で、水;エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、s−ブタノール、t−ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール等のアルコールが好ましく、水、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノールがより好ましい。
溶媒を使用する場合の使用量は、経済性の観点から、ビニルスルホン酸アルカリ金属塩(I)1質量部に対して、好ましくは1〜20質量部であり、より好ましくは1〜10質量部である。なお、これらの溶媒は1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上の混合溶媒として用いられてもよい。
【0020】
本発明は、相間移動触媒の存在下で行われてもよいし、相間移動触媒の非存在下で行われてもよいが、収率向上の観点から、相間移動触媒の存在下で行われることが好ましい。相間移動触媒としては、例えば、テトラアミルアンモニウムクロリド、テトラブチルアンモニウムクロリド、テトラエチルアンモニウムクロリド、テトラメチルアンモニウムクロリド、テトラプロピルアンモニウムクロリド、テトラアミルアンモニウムブロミド、テトラブチルアンモニウムブロミド、テトラエチルアンモニウムブロミド、テトラメチルアンモニウムブロミド、テトラプロピルアンモニウムブロミド、テトラアミルアンモニウムヨージド、テトラブチルアンモニウムヨージド、テトラエチルアンモニウムヨージド、テトラメチルアンモニウムヨージド、テトラプロピルアンモニウムヨージド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシドなどのアンモニウム塩;12−クラウン−4−エーテル、15−クラウン−5−エーテル、18−クラウン−6−エーテルなどのクラウンエーテルが挙げられる。これらのうち、テトラブチルアンモニウムクロリド、テトラブチルアンモニウムブロミド、テトラブチルアンモニウムヨージドが好ましい。
相間移動触媒を使用する場合の使用量は、経済性の観点から、ビニルスルホン酸アルカリ金属塩(I)1モルに対し、通常0.01〜5モル、好ましくは0.05〜3モル、さらに好ましくは0.1〜2モルである。なお、これらの相間移動触媒は1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上を用いてもよい。
【0021】
本発明は、重合禁止剤の存在下で行われてもよいし、重合禁止剤の非存在下で行われてもよいが、副反応としての重合を抑制する観点から、重合禁止剤の存在下で行われることが好ましい。用いる重合禁止剤としては、反応を阻害しなければ特に限定されず、例えばヒドロキノン、メトキシフェノール、ベンゾキノン、トルキノン、p−tert−ブチルカテコールなどのキノン系化合物;2,6−ジ−tert−ブチルフェノール、2,4−ジ−tert−ブチルフェノール、2−tert−ブチル−4,6−ジメチルフェノールなどのアルキルフェノール系化合物;フェノチアジンなどのアミン系化合物;2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル、4−アセトアミド−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシルなどのN−オキシル系化合物などが挙げられる。重合禁止剤は、1種類を用いても、2種類以上を併用しても良い。その使用量は、経済性の観点から、反応混合物全体の質量に対して0.0001質量%〜5質量%が好ましく、0.001質量%〜0.5質量%がより好ましい。
【0022】
本発明の反応温度は、通常0℃〜100℃であり、反応速度の観点からは、50℃〜100℃が好ましい。また、副反応としての重合を抑制する観点からは、80℃以下が好ましい。
【0023】
本発明の反応圧力に特に制限はない。常圧下で実施するのが簡便で好ましい。
【0024】
本発明の反応時間は、反応温度によって異なるが、通常は1時間〜20時間の範囲が好ましい。
【0025】
本発明における反応操作方法には特に制限はない。また、反応剤の投入方法・順序にも特に制限はなく、任意の方法・順序で添加することができる。具体的な反応操作方法としては、例えば、回分式反応器にビニルスルホン酸アルカリ金属塩(I)の水溶液、ジエン化合物(II)、重合禁止剤、所望によりアルコール及び相間移動触媒を仕込み、この混合液を所定温度で攪拌する方法が好ましい。
【0026】
本発明によって得られる脂環式スルホン酸金属塩(III)は、異性体の混合物であっても、単一の異性体であっても、機能性高分子の原料および医薬、農薬その他の精密化学品の合成中間体などとして使用することができる。
【実施例】
【0027】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
【0028】
<実施例1>
攪拌機、温度計、還流器を取り付けた内容積50mLの三つ口フラスコに、25質量%ビニルスルホン酸ナトリウム水溶液10.0g(19.2mmol)、4−メトキシフェノール4.8mg(0.039mmol)、シクロペンタジエン1.46g(22.1mmol)を仕込んだ。攪拌しながら78℃まで昇温し、その温度を保ったまま10時間攪拌した。液体クロマトグラフィーで定量分析したところ、(ビシクロ〔2.2.1〕−ヘプタ−2−エン)−5−スルホン酸ナトリウムを362mg(収率9.6%、1.85mmol)を含んでいた。なお、液体クロマトグラフィーの面積比から、(ビシクロ〔2.2.1〕−ヘプタ−2−エン)−5−スルホン酸ナトリウムのエンド/エキソ比は79/21であった。
【0029】
<実施例2>
攪拌機、温度計、還流器を取り付けた内容積50mLの三つ口フラスコに、25質量%ビニルスルホン酸ナトリウム水溶液10.0g(19.2mmol)、エタノール6.5g(141mmol)、4−メトキシフェノール4.8mg(0.039mmol)、シクロペンタジエン1.46g(22.1mmol)を仕込んだ。攪拌しながら78℃まで昇温し、還流しながら10時間攪拌した。液体クロマトグラフィーで定量分析したところ、(ビシクロ〔2.2.1〕−ヘプタ−2−エン)−5−スルホン酸ナトリウムを704mg(収率18.7%、3.59mmol)を含んでいた。なお、液体クロマトグラフィーの面積比から、(ビシクロ〔2.2.1〕−ヘプタ−2−エン)−5−スルホン酸ナトリウムのエンド/エキソ比は72/28であった。
【0030】
<実施例3>
攪拌機、温度計、還流器を取り付けた内容積50mLの三つ口フラスコに、25質量%ビニルスルホン酸ナトリウム水溶液10.0g(19.2mmol)、エタノール6.5g(141mmol)、4−メトキシフェノール4.8mg(0.039mmol)、シクロペンタジエン1.46g(22.1mmol)、テトラブチルアンモニウムクロリド0.53g(1.91mmol)を仕込んだ。攪拌しながら78℃まで昇温し、還流しながら10時間攪拌した。液体クロマトグラフィーで定量分析したところ、(ビシクロ〔2.2.1〕−ヘプタ−2−エン)−5−スルホン酸ナトリウムを885mg(収率23.5%、4.51mmol)を含んでいた。なお、液体クロマトグラフィーの面積比から、(ビシクロ〔2.2.1〕−ヘプタ−2−エン)−5−スルホン酸ナトリウムのエンド/エキソ比は75/25であった。
【0031】
<実施例4>
攪拌機、温度計、還流器を取り付けた内容積50mLの三つ口フラスコに、25質量%ビニルスルホン酸ナトリウム水溶液10.0g(19.2mmol)、エタノール6.5g(141mmol)、4−メトキシフェノール4.8mg(0.039mmol)、フラン6.5g(95.5mmol)、テトラブチルアンモニウムクロリド0.54g(1.94mmol)を仕込んだ。攪拌しながら33℃まで昇温し、還流しながら10時間攪拌した。液体クロマトグラフィーで定量分析したところ、(7−オキサ−ビシクロ〔2.2.1〕−ヘプタ−2−エン)−5−スルホン酸ナトリウムを350mg(収率9.2%、1.77mmol)を含んでいた。なお、液体クロマトグラフィーの面積比から、(7−オキサ−ビシクロ〔2.2.1〕−ヘプタ−2−エン)−5−スルホン酸ナトリウムのエンド/エキソ比は64/36であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)
【化1】


(式中、Mはアルカリ金属原子を表す。)
で示されるビニルスルホン酸アルカリ金属塩と、下記一般式(II)
【化2】


(式中、RおよびRはそれぞれ独立して水素原子、アルキル基もしくはアルコキシ基を表すか、または両者が結合して任意の位置に酸素原子を含んでもよいアルキレン基、もしくは−O−を表し、RおよびRはそれぞれ独立して水素原子、アルキル基もしくはアルコキシ基を表す。)
で示されるジエン化合物を接触させて、下記一般式(III)
【化3】


(式中、MおよびR〜Rは前記定義の通り。)
で示される脂環式スルホン酸アルカリ金属塩を製造する方法。
【請求項2】
水の存在下に反応を行うことを特徴とする請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
アルコールの存在下に反応を行うことを特徴とする請求項1〜2記載の製造方法。
【請求項4】
相間移動触媒の存在下に反応を行うことを特徴とする請求項1〜3記載の製造方法。

【公開番号】特開2011−190208(P2011−190208A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−57158(P2010−57158)
【出願日】平成22年3月15日(2010.3.15)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】