説明

脂環式トリエポキシ化合物、及びその製造方法

【課題】重合することにより、優れた耐熱性及び強靱性を有する硬化物を形成することができる新規の脂環式トリエポキシ化合物、及びその製造方法、前記脂環式トリエポキシ化合物を得る上で有用な新規のアセタール化合物、及びその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の脂環式トリエポキシ化合物は、下記式(1)で表される。前記式(1)で表される脂環式トリエポキシ化合物は、例えば、下記式(2)で表されるアセタール化合物を酸化剤を用いて酸化することにより得られる。下記式中、R1、R2、R3は、同一又は異なって、単結合又は炭素数1〜2のアルキレン基を示す。
【化10】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重合することにより速やかに硬化して、優れた耐熱性及び強靱性を有する硬化物を形成することができる脂環式トリエポキシ化合物、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エポキシ樹脂は電気特性、耐湿性、耐熱性等に優れる樹脂として知られており、光学部品材料、機械部品材料、電気・電子部品材料、自動車部品材料、土木建築材料、成形材料、コーティング材料、接着剤、封止材等に用いられている。特にレンズ等の光学部品の材料としては、比較的複雑な形状の部品も容易に成形でき、ガラスに比べ軽量であり、靱性を有し割れにくい等の点でエポキシ樹脂が好適に使用される。
【0003】
また、近年、電気・電子部品材料の分野では、電気・電子部品の多機能・軽量化に対応するため、半導体素子の基板への実装化が進められており、特に、面実装型パッケージにおいては、半田が鉛フリー化されるのに伴い、鉛フリー半田実装にも適用可能なリフロー耐熱性を有するパッケージ用樹脂が求められている。
【0004】
エポキシ化合物としては、分子内にグリシジル基を有する化合物(特許文献1、2等)や分子内に脂環エポキシ基(脂環を形成する隣接する炭素原子2個と酸素原子1個の三員環からなる基)を有する化合物がある。前記分子内に脂環エポキシ基を有する化合物の硬化物は、分子内にグリシジル基を有する化合物の硬化物に比べ、耐熱性、強靱性及び透明性の点で優れていることが知られている。
【0005】
そして、前記分子内に脂環エポキシ基を有する化合物としては、脂環エポキシ基を2個有する化合物が知られている(特許文献3、4等)。しかし、上記鉛フリー半田による実装化に伴い、更に優れた耐熱性及び強靱性を有する硬化物を形成することができるエポキシ化合物が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第3158590号明細書
【特許文献2】米国特許第3255215号明細書
【特許文献3】特開2006−52187号公報
【特許文献4】特開2007−146021号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明の目的は、重合することにより、優れた耐熱性及び強靱性を有する硬化物を形成することができる新規の脂環式トリエポキシ化合物、及びその製造方法、前記脂環式トリエポキシ化合物を得る上で有用な新規のアセタール化合物、及びその製造方法を提供することにある。
本発明の他の目的は、前記新規の脂環式トリエポキシ化合物を含む樹脂組成物、及び前記樹脂組成物を硬化して得られる優れた耐熱性及び強靱性を有する硬化物を提供することにある。
【0008】
尚、本明細書において、脂環式トリエポキシ化合物とは1分子内に脂環エポキシ基を3個有する化合物である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、シクロヘキセン環を有するアルコールとシクロヘキセン環を有するアルデヒドとを縮合することにより、1分子中にシクロヘキセン環を3個有する新規のアセタール化合物を得ることができること、前記1分子中にシクロヘキセン環を3個有するアセタール化合物を酸化することにより、新規の脂環式トリエポキシ化合物が得られること、前記新規の脂環式トリエポキシ化合物はモノマー単位当たりの架橋点が多いため(=オキシラン酸素濃度が高いため)、重合すると、3次元架橋構造を密に有し、優れた耐熱性及び強靱性を有する硬化物を形成することができることを見いだした。本発明はこれらの知見に基づいて完成させたものである。
【0010】
すなわち、本発明は、下記式(1)
【化1】

(式中、R1、R2、R3は、同一又は異なって、単結合又は炭素数1〜2のアルキレン基を示す)
で表される脂環式トリエポキシ化合物を提供する。
【0011】
本発明は、また、下記式(2)
【化2】

(式中、R1、R2、R3は、同一又は異なって、単結合又は炭素数1〜2のアルキレン基を示す)
で表されるアセタール化合物を提供する。
【0012】
本発明は、さらに、下記式(2)
【化3】

(式中、R1、R2、R3は、同一又は異なって、単結合又は炭素数1〜2のアルキレン基を示す)
で表されるアセタール化合物を酸化剤を用いて酸化することにより、下記式(1)
【化4】

(式中、R1、R2、R3は上記に同じ)
で表される脂環式トリエポキシ化合物を得る、脂環式トリエポキシ化合物の製造方法を提供する。
【0013】
前記酸化剤としては、過酸が好ましい。
【0014】
本発明は、更にまた、下記式(3-1)及び(3-2)
【化5】

(式中、R1、R2は、同一又は異なって、単結合又は炭素数1〜2のアルキレン基を示す)
で表されるアルコール化合物と、下記式(4)
【化6】

(式中、R3は単結合又は炭素数1〜2のアルキレン基を示す)
で表されるアルデヒド化合物とを縮合させることにより、下記式(2)
【化7】

(式中、R1、R2、R3は上記に同じ)
で表されるアセタール化合物を得るアセタール化合物の製造方法を提供する。
【0015】
本発明は、また、下記式(1)
【化8】

(式中、R1、R2、R3は、同一又は異なって、単結合又は炭素数1〜2のアルキレン基を示す)
で表される脂環式トリエポキシ化合物を含む樹脂組成物を提供する。
【0016】
本発明は、更に、前記樹脂組成物を硬化して得られる硬化物を提供する。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る上記式(1)で表される新規の脂環式トリエポキシ化合物は1分子内に脂環エポキシ基を3個有するため架橋点が多く、重合することにより架橋密度が高く極めて優れた耐熱性及び強靱性を有し、リフロー耐熱性を有する硬化物を形成することができる。そのため、本発明に係る上記式(1)で表される新規の脂環式トリエポキシ化合物は、光学部品材料、機械部品材料、電気・電子部品材料、自動車部品材料、土木建築材料、成形材料、コーティング材料、接着剤、封止材、繊維強化プラスチック(FRP:fiber reinforced plastics、例えばGFRP(glass fiber reinforced plastics)、CFRP(carbon fiber reinforced plastics)等)材料、プラスチック形成材料等、特に電気・電子部品材料、光学部品材料、繊維強化プラスチック材料の分野で有用である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
[脂環式トリエポキシ化合物]
本発明に係る脂環式トリエポキシ化合物は、上記式(1)で表される。式(1)中、R1、R2、R3は、同一又は異なって、単結合又は炭素数1〜2のアルキレン基を示す。
【0019】
1、R2、R3における炭素数1〜2のアルキレン基は、メチレン基又はエチレン基である。前記炭素数1〜2のアルキレン基は、水素原子が置換基で置換されていてもよい。前記置換基としては、例えば、炭素数1〜4の直鎖状又は分岐鎖状アルキル基(例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル基)を挙げることができる。
【0020】
本発明に係る式(1)で表される脂環式トリエポキシ化合物としては、例えば、下記式で表される化合物等を挙げることができる。
【化9】

【0021】
本発明に係る脂環式トリエポキシ化合物としては、なかでも、オキシラン酸素濃度が高く、架橋点間分子量が小さいため、より架橋密度が高い硬化物を形成することができる点で、上記式(1)で表される脂環式トリエポキシ化合物におけるR1、R2、R3のうち少なくとも1つが単結合である化合物が好ましく、特に、高い耐熱性と強靱性とを兼ね備える硬化物を形成することができる点で、R1及びR2が同一又は異なって炭素数1〜2のアルキレン基(特に好ましくは、R1及びR2がメチレン基)であり、且つR3が単結合である化合物が好ましい。
【0022】
[脂環式トリエポキシ化合物の製造方法]
前記式(1)で表される脂環式トリエポキシ化合物は、例えば、下記式(2)で表されるアセタール化合物を酸化剤を用いて酸化することにより製造することができる。
【化10】

【0023】
上記式(2)中のR1、R2、R3は、同一又は異なって、単結合又は炭素数1〜2のアルキレン基を示し、上記式(1)で表される脂環式トリエポキシ化合物におけるR1、R2、R3に対応する。上記式(2)で表されるアセタール化合物としては、例えば、下記式で表される化合物等を挙げることができる。
【化11】

【0024】
上記式(2)で表されるアセタール化合物を酸化する反応(以後、「酸化反応」と称する場合がある)に使用する酸化剤としては、過酸(例えば、過ギ酸、過酢酸、トリフルオロ過酢酸、過安息香酸、メタクロロ過安息香酸、モノペルオキシフタル酸等の有機過酸;過マンガン酸等の無機過酸)や、過酸化物(例えば、過酸化水素、ペルオキシド、ヒドロペルオキシド、ペルオキソ酸、ペルオキソ酸塩等)等を挙げることができる。本発明においては、なかでも、触媒を用いることなく効率よく優れた収率で前記式(1)で表される脂環式トリエポキシ化合物を得られる点で、過酸を使用することが好ましい。
【0025】
酸化剤の使用量としては、上記式(2)で表されるアセタール化合物1モルに対して、例えば3.0〜6.0モル程度、好ましくは3.1〜5.0モル程度、特に好ましくは3.2〜4.0モル程度である。酸化剤の使用量が上記範囲を上回ると、不経済となる傾向があり、また、副反応が増加する傾向がある。一方、酸化剤の使用量が上記範囲を下回ると、モノエポキシド及び/又はジエポキシドの生成が増加する傾向がある。
【0026】
上記酸化反応は、溶媒の存在下又は非存在下で行われる。前記溶媒としては、例えば、t−ブチルアルコール等のアルコール;ヘキサン、ヘプタン、オクタン等の脂肪族炭化水素;シクロヘキサン等の脂環式炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素;クロロホルム、塩化メチレン、1,2−ジクロロエタン等のハロゲン化炭化水素;エチルエーテル、テトラヒドロフラン等の鎖状又は環状エーテル;酢酸エチル等のエステル;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等のアミド;アセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル;酢酸等の有機酸等を挙げることができる。これらの溶媒は単独で又は2種以上を混合して用いられる。
【0027】
溶媒の使用量としては、例えば、上記式(2)で表されるアセタール化合物の3〜20重量倍程度、好ましくは8〜15重量倍程度である。
【0028】
反応温度は、例えば0〜90℃程度、好ましくは20〜70℃程度である。反応時間は、例えば1〜10時間程度、好ましくは、2〜6時間程度である。反応は常圧で行ってもよく、減圧又は加圧下で行ってもよい。反応の雰囲気は反応を阻害しない限り特に限定されず、例えば、空気雰囲気、窒素雰囲気、アルゴン雰囲気等の何れであってもよい。また、反応はバッチ式、セミバッチ式、連続式等の何れの方法で行うこともできる。
【0029】
酸化反応は、例えば、チオ硫酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム等を添加することにより反応を終了させることができる。
【0030】
反応終了後、反応生成物は、例えば、濾過、濃縮、蒸留、抽出、晶析、再結晶、カラムクロマトグラフィー等の分離手段や、これらを組み合わせた分離手段により分離精製できる。
【0031】
また、上記式(2)で表されるアセタール化合物は、下記式(3-1)、及び下記式(3-2)で表されるアルコール化合物と、下記式(4)で表されるアルデヒド化合物とを縮合させることにより合成することができる。下記式(3-1)、(3-2)、及び(4)中のR1、R2、R3は、同一又は異なって、単結合又は炭素数1〜2のアルキレン基を示し、それぞれ、上記式(1)で表される脂環式トリエポキシ化合物におけるR1、R2、R3に対応する。
【化12】

【0032】
上記式(3-1)、及び上記式(3-2)で表されるアルコール化合物としては、例えば、下記式で表される化合物等を挙げることができる。上記式(3-1)で表されるアルコール化合物と下記式(3-2)で表されるアルコール化合物は同一であっても良く、異なっていても良い。
【化13】

【0033】
また、上記式(4)で表されるアルデヒド化合物としては、例えば、下記式で表される化合物等を挙げることができる。
【化14】

【0034】
上記式(4)で表されるアルデヒド化合物の使用量は、例えば、上記式(3-1)、及び上記式(3-2)で表されるアルコール化合物の総和 1モルに対して、例えば0.2〜1.0モル程度、好ましくは0.3〜0.8モル程度、特に好ましくは0.4〜0.6モル程度である。上記式(4)で表されるアルデヒド化合物の使用量が多すぎると、反応中間体のヘミアセタール体が増加する傾向があり、また副生物が増える傾向がある。一方、上記式(3-1)、及び上記式(3-2)で表されるアルコール化合物の使用量が多すぎると、不経済となる傾向がある。
【0035】
上記縮合反応は酸触媒の存在下で行うことが、高収率で目的物を得ることができ、且つ副生物の生成を抑制することができる点で好ましい。前記酸触媒としては、例えば、硫酸、塩酸、リン酸、ヘテロポリ酸等の無機酸;ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、スルホン酸系強酸性イオン交換樹脂等のスルホン酸類を挙げることができる。酸触媒は単独で又は2種以上組み合わせて使用してもよい。酸触媒の使用量は、例えば、上記式(3-1)、及び上記式(3-2)で表されるアルコール化合物の総和 100重量部に対して、0.01〜10重量部、好ましくは0.1〜1.0重量部程度である。
【0036】
上記縮合反応は、溶媒の存在下又は非存在下で行われる。前記溶媒としては、例えば、水;メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、エチレングリコール等のアルコール類;ヘキサン、ヘプタン、オクタン等の脂肪族炭化水素;シクロヘキサン等の脂環式炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素;ジエチルエーテル、ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等のアミド;ジメチルスルホキシド(DMSO)等を挙げることができる。これらの溶媒は単独で又は2種以上を混合して用いられる。
【0037】
反応温度は、例えば0〜120℃程度、好ましくは20〜100℃程度である。反応時間は、例えば1〜48時間程度、好ましくは5〜36時間程度、特に好ましくは10〜24時間程度である。反応は常圧で行ってもよく、減圧又は加圧下で行ってもよい。反応の雰囲気は反応を阻害しない限り特に限定されず、例えば、空気雰囲気、窒素雰囲気、アルゴン雰囲気等の何れであってもよい。また、反応はバッチ式、セミバッチ式、連続式等の何れの方法で行うこともできる。
【0038】
また、上記縮合反応では、反応中に生じる水を除去することが反応を効率的に進める点で好ましい。水を除去する方法としては、例えば、蒸留、共沸脱水、脱水剤(例えば、無水硫酸ナトリウム、モレキュラーシーブス等)の添加等が挙げられる。
【0039】
反応終了後、反応生成物は、例えば、濾過、濃縮、蒸留、抽出、晶析、再結晶、カラムクロマトグラフィー等の分離手段や、これらを組み合わせた分離手段により分離精製できる。
【0040】
本発明に係る脂環式トリエポキシ化合物の製造方法によれば、式(1)で表される脂環式トリエポキシ化合物を効率よく合成することができる。
【0041】
[樹脂組成物]
本発明に係る樹脂組成物は、モノマー成分(カチオン重合性モノマー成分)を樹脂組成物全量(不揮発分全量)の例えば5〜99重量%程度、好ましくは10〜98重量%程度含有する。そして、本発明に係る樹脂組成物は、モノマー成分として上記式(1)で表される脂環式トリエポキシ化合物を含むことを特徴とし、その含有量としては、例えば、樹脂組成物に含有する全モノマー成分の10重量%以上程度(好ましくは10〜100重量%程度、特に好ましくは15〜90重量%程度)である。本発明に係る樹脂組成物は、モノマー単位当たりの架橋点の数が多い、上記式(1)で表される脂環式トリエポキシ化合物を上記範囲で含有するため、重合することにより架橋密度が高く、耐熱性及び強靱性に優れる硬化物を形成することができる。一方、上記式(1)で表される脂環式トリエポキシ化合物の含有量が上記範囲を下回ると、モノマー単位当たりの架橋点の数が減少し架橋密度が低下するため、得られる硬化物の耐熱性及び靱性が低下する傾向がある。
【0042】
本発明に係る樹脂組成物は、モノマー成分として上記式(1)で表されるトリエポキシ化合物以外にも、上記式(1)で表されるトリエポキシ化合物と共重合可能な他のエポキシ化合物を含有していてもよい。他のエポキシ化合物としては、例えば、前記式(1)で表されるトリエポキシ化合物以外の脂環式エポキシ化合物、芳香族グリシジルエーテル型エポキシ化合物、脂肪族多価アルコールポリグリシジルエーテル等を挙げることができる。
【0043】
本発明に係る樹脂組成物は、モノマー成分以外に、硬化剤及び/又は硬化触媒を含有することが好ましい。
【0044】
前記硬化剤としては、エポキシ化合物の硬化剤として使用される周知慣用の化合物を挙げることができ、例えば、3又は4−メチル−1,2,3,6−メチルテトラヒドロ無水フタル酸、3又は4−メチル−ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチル−3,6エンドメチレン−1,2,3,6−テトラヒドロ無水フタル酸、5−ノルボルネン−2,3−カルボン酸無水物等の酸無水物;ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン等の鎖状脂肪族ポリアミン;N−アミノメチルピペラジン等の環状脂肪族ポリアミン;メタキシレンジアミン、メタフェニレンジアミン等の芳香族アミン;ポリアミド樹脂;2−メチルイミダゾール等のイミダゾール類;アミンのBF3錯体化合物;脂肪族スルホニウム塩、芳香族スルホニウム塩、ヨードニウム塩、及びホスホニウム塩等のブレンステッド酸塩類;アジピン酸;セバシン酸;テレフタル酸;トリメリット酸;カルボキシル基含有ポリエステル等のポリカルボン酸類等である。
【0045】
本発明における硬化剤としては、なかでも酸無水物を使用することが、樹脂組成物の粘度が低く作業性に優れ、耐熱性、及び透明性に優れた硬化物を得ることができる点で好ましい。酸無水物としては、例えば、商品名「リカシッド MH−700」、「リカシッド MH」、「リカシッド HH」、「リカシッド TH」、「リカシッド MT−500」、「リカシッド HNA−100」(以上、新日本理化(株)製)、商品名「HN−2200」、「HN−2000」、「HN−5000」、「MHAC−P」、「無水ハイミック酸」(以上、日立化成工業(株)製)、商品名「クインハード200」(日本ゼオン(株)製)等の市販品を使用することができる。
【0046】
硬化剤の使用量としては、例えば、樹脂組成物に含有する全モノマー成分の50〜130重量%程度、好ましくは60〜120重量%程度である。
【0047】
硬化剤は、硬化促進剤と共に使用することが好ましい。前記硬化促進剤としては、例えば、トリフェニルホスフィン等のリン系化合物やその誘導体;ベンジルジメチルアミン等のアミン系化合物やその誘導体;テトラブチルアンモニウムブロミド、テトラベンジルアンモニウムブロミド等の第4級アンモニウム化合物やその誘導体;2−エチル−4−メチル−イミダゾール、2,3−ジヒドロ−1H−ピロロ[1,2a]ベンズイミダゾール、1−シアノエチル−2−メチル−イミダゾール等のイミダゾール系化合物やその誘導体;1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]ウンデセン−7やその誘導体等を挙げることができる。本発明においては、例えば、商品名「U−CAT SA−1」、「U−CAT SA−102」、「U−CAT SA−5003」、「U−CAT SA−5002」、「U−CAT SA−603」、「U−CAT 18X」(以上、サンアプロ(株)製)等の市販品を使用することができる。
【0048】
硬化促進剤の使用量としては、上記硬化剤100重量部に対して0.05〜5.0重量部程度、好ましくは0.1〜4.0重量部程度である。
【0049】
前記硬化触媒としては、光カチオン重合開始剤、熱カチオン重合開始剤等の重合開始剤を挙げることができる。
【0050】
光カチオン重合開始剤としては、例えば、トリアリルスルホニウムヘキサフルオロホスフェート、トリアリールスルホニウムヘキサフルオロアンチモネート等のスルホニウム塩;ジアリールヨードニウムヘキサフルオロホスフェート、ジフェニルヨードニウムヘキサフルオロアンチモネート、ビス(ドデシルフェニル)ヨードニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、ヨードニウム[4−(4−メチルフェニル−2−メチルプロピル)フェニル]ヘキサフルオロホスフェート等のヨードニウム塩;テトラフルオロホスホニウムヘキサフルオロホスフェート等のホスホニウム塩;ピリジウム塩等を挙げることができる。本発明においては、例えば、商品名「CYRACURE UVI−6994」、「CYRACURE UVI−6974」(以上、ダウケミカル社製)、商品名「フォトイニシエーター PI−2074」(ローディアジャパン(株)製)、商品名「イルガキュア 250」(チバ・ジャパン製)等の市販品を使用することができる。
【0051】
熱カチオン重合開始剤としては、例えば、アリールジアゾニウム塩、アリールヨードニウム塩、アリールスルホニウム塩、アレン−イオン錯体等を挙げることができる。本発明においては、例えば、商品名「PP−33」、「CP−66」、「CP−77」(以上、(株)ADEKA製)、商品名「FC−509」(スリーエム(株)製)、商品名「UVE1014」(G.E.(株)製)、商品名「サンエイド SI−60L」、「サンエイド SI−80L」、「サンエイド SI−100L」、「サンエイド SI−110L」(以上、三新化学工業(株)製)、商品名「CG−24−61」(チバ・ジャパン(株)製)等の市販品を使用することができる。
【0052】
硬化触媒の使用量としては、例えば、樹脂組成物に含有する全モノマー成分の0.1〜10.0重量%程度、好ましくは0.3〜5.0重量%程度、特に好ましくは0.3〜3.0重量%程度、最も好ましくは0.3〜1.5重量%程度である。
【0053】
さらに、本発明に係る樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲内で、必要に応じて他の添加物を添加してもよい。他の添加物としては、例えば、オルガノシロキサン化合物、金属酸化物粒子、ゴム粒子、シリコーン系やフッ素系の消泡剤、シランカップリング剤、充填剤、可塑剤、レベリング剤、帯電防止剤、離型剤、難燃剤、着色剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、イオン吸着体、顔料、溶剤等を挙げることができる。これら各種の添加剤の配合量は樹脂組成物全量(不揮発分全量)に対して、例えば5重量%以下程度である。
【0054】
本発明の樹脂組成物は、例えば、上記式(1)で表される脂環式トリエポキシ化合物、必要に応じて共重合可能な他のモノマー成分、硬化剤及び硬化促進剤、又は硬化触媒、その他の添加剤等を配合して、必要に応じて真空下で気泡を排除しつつ、撹拌・混合することにより調製される。撹拌・混合する際の温度は、例えば、10〜60℃程度である。撹拌・混合には、公知の装置、例えば、自転公転型ミキサー、1軸又は多軸エクストルーダー、プラネタリーミキサー、ニーダー、ディソルバー等を使用できる。
【0055】
上記方法により調製された樹脂組成物は、例えば、周知慣用の成形方法により成形し、その後、加熱処理を行うことによって重合反応を促進し、硬化物を得ることができる。加熱温度としては、例えば50〜200℃程度、好ましくは60〜180℃程度である。加熱時間は、例えば0.5〜12時間程度、好ましくは、1〜10時間である。加熱手段としては、オーブン等が挙げられる。前記加熱処理後、さらにポストベークを行っても良い。ポストベークは、例えば、50〜200℃程度、好ましくは60〜180℃程度で、0.5〜12時間程度、好ましくは、1〜10時間程度加熱することにより行われる。
【0056】
上記重合反応は常圧下で行ってもよく、減圧下又は加圧下で行ってもよい。反応の雰囲気は反応を阻害しない限り特に限定されず、例えば、空気雰囲気、窒素雰囲気、アルゴン雰囲気等の何れであってもよい。
【0057】
こうして得られる本発明の硬化物は、耐熱性及び強靱性に優れる。動的粘弾性測定により求められる貯蔵弾性率(E’)が109Pa以下となる温度は、脂環式トリエポキシ化合物と硬化剤とを含む本発明の樹脂組成物の硬化物の場合、例えば180℃以上、好ましくは185℃以上である。また、脂環式トリエポキシ化合物と硬化触媒とを含む本発明の樹脂組成物の硬化物の場合、例えば220℃以上、好ましくは230℃以上である。
【0058】
また、損失正接(tanδ=E''/E')のピークトップ温度(=変曲点温度:ガラス転移温度に相当する)は、脂環式トリエポキシ化合物と硬化剤とを含む本発明の樹脂組成物の硬化物の場合、例えば210℃以上、好ましくは220℃以上である。また、脂環式トリエポキシ化合物と硬化触媒とを含む本発明の樹脂組成物の硬化物の場合、例えば260℃以上、好ましくは270℃以上である。
【0059】
そのため、本発明に係る樹脂組成物は光学部品材料、機械部品材料、電気・電子部品材料、自動車部品材料、土木建築材料、成形材料、コーティング材料、接着剤、封止材、繊維強化プラスチック(FRP:fiber reinforced plastics、例えばGFRP(glass fiber reinforced plastics)、CFRP(carbon fiber reinforced plastics)等)材料、プラスチック形成材料等、特に電気・電子部品材料、光学部品材料、繊維強化プラスチック材料として好適に用いられる。
【0060】
前記光学部品としては、例えば、カメラ(車載カメラ、デジタルカメラ、PC用カメラ、携帯電話用カメラ、監視カメラ等)の撮像用レンズ、メガネレンズ、フィルター、回折格子、プリズム、光案内子、光ビーム集光レンズ、光拡散用レンズ、表示装置用カバーガラス、フォトセンサー、フォトスイッチ、LED、発光素子、光導波路、光分割器、光ファイバー接着剤、表示素子用基板、カラーフィルター用基板、タッチパネル用基板、ディスプレイ保護膜、ディスプレイバックライト、導光板、反射防止フィルム等を挙げることができる。
【0061】
更にまた、本発明の硬化物は上記のように耐熱性に優れるため、鉛フリー半田実装にも適用可能なリフロー耐熱性を有し、本発明の樹脂組成物により封止された半導体素子、本発明の樹脂組成物からなる光学部品等を基盤上に実装する工程において、他の電子部品の表面実装と同一の半田リフロープロセスにて、直接、非常に効率良く実装することができ、極めて効率的な製品の製造が可能となる。
【実施例】
【0062】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。尚、実施例で使用される「部」は、特別の説明がない限り「重量部」を意味する。
【0063】
実施例1[1−ビス(3−シクロヘキセニルメトキシ)メチル−3−シクロヘキセン:化合物(II)の合成]
3−シクロヘキセン−1−メタノール(44.9g)、p−トルエンスルホン酸(97.3mg)、無水硫酸ナトリウム(9.02g)の混合液を撹拌しながら、25℃で3−シクロヘキセン−1−カルボキシアルデヒド(22.1g)を1時間かけて滴下した。20℃で20時間撹拌した後、p−トルエンスルホン酸(97.5mg)、無水硫酸マグネシウム(9.00g)、ヘキサン(12.0g)を添加し、さらに20℃で20時間撹拌した。ヘキサン(32.1g)を添加した後、不溶物をろ過し、ろ紙上の不溶物をヘキサン(43.2g)でリンスした。得られたろ液をまとめて7重量%炭酸水素ナトリウム水溶液(66.3g)1回、水(66.2g)3回で洗浄した後、減圧濃縮し、濃縮残渣 60.12gを無色透明の粘調な液体として得た。trans−スチルベンを内部標準物質として添加して測定した1H−NMRの結果から、化合物(II)の純度は92.6%だった。残渣中の化合物(II)の収率は、3−シクロヘキセン−1−カルボキシアルデヒド基準で88.0%だった。
1H-NMR(500MHz,CDCl3,TMS基準)δ 5.72-5.63(br m,6H), 4.23(d,1H,J=6.9Hz), 3.58-3.46(m,2H), 3.35-3.27(m,2H), 2.19-1.69(m,18H), 1.38-1.23(m,3H)
【0064】
【化15】

【0065】
実施例2[3,4−エポキシ−1−ビス(3,4−エポキシシクロヘキシルメトキシ)メチルシクロヘキサン:化合物(I)の合成]
実施例1で得られた化合物(II)(1−ビス(3−シクロヘキセニルメトキシ)メチル−3−シクロヘキセン、58.6g)を塩化メチレン(775g)に溶解した溶液へ、30℃で含水のメタクロロ過安息香酸(170g)を87分かけて添加した後、30℃で4時間撹拌した。その後、30℃で20重量%チオ硫酸ナトリウム水溶液(214g)を18分かけて滴下した後30分撹拌した。さらに7重量%炭酸水素ナトリウム水溶液(814g)を添加した後、有機層を7重量%炭酸水素ナトリウム水溶液(816g)1回、水(597g)3回で洗浄し、濃縮した。得られた濃縮残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製して化合物(I) 40.7gを無色透明の粘調な液体として得た。化合物(II)基準の収率は64%であった。1H−NMRでは、原料の2重結合に由来するδ5.72〜5.63ppmのピーク消失と、エポキシ基に由来するδ3.23〜3.05ppmのプロトンピーク生成が確認された。
1H-NMR(500MHz,CDCl3,TMS基準)δ 4.08-3.97(m,1H), 3.43-3.25(m,2H), 3.23-3.05(m,8H), 2.23-1.45(m,18H), 1.22-0.93(m,3H)
【0066】
【化16】

【0067】
臭化水素の酢酸溶液を用いた滴定により求められたオキシラン酸素濃度は12.85重量%であり、理論値(13.17重量%)の98%であった。
尚、下記化合物の構造式から求められる理論上のオキシラン酸素濃度は以下の通りである。
3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキサンカルボキシアルデヒド ビス(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル)アセタールのオキシラン酸素濃度:11.81重量%
3,4−エポキシシクロヘキシルメチル(3,4−エポキシ)シクロヘキサンカルボキシレート(商品名「CEL 2021P」、ダイセル化学工業(株)製)のオキシラン酸素濃度:12.68重量%
【0068】
実施例3
実施例2で得られた化合物(I)100部に対し、熱カチオン重合開始剤としてアリールスルホニウム塩(商品名「サンエイドSI−100L」、三新化学工業(株)製、以後「SI−100L」と称する場合がある)0.6部を添加して樹脂組成物を調製し、65℃で2時間硬化した後、さらに150℃で1.5時間硬化させ、透明な硬化物を得た。
【0069】
比較例1
化合物(I)に代えて下記式で表される3,4−エポキシシクロヘキシルメチル(3,4−エポキシ)シクロヘキサンカルボキシレート(商品名「CEL 2021P」、ダイセル化学工業(株)製、以後「CEL 2021P」と称する場合がある)100部を用いた以外は実施例3と同様にして樹脂組成物を調製し、硬化物を得た。
【0070】
【化17】

【0071】
実施例4
化合物(I)100部に対し、3or4−メチル−1,2,3,6−テトラヒドロ無水フタル酸(商品名「HN2200」、日立化成工業(株)製、以後「HN2200」と称する場合がある)110部、硬化促進剤として第4級アンモニウム化合物(商品名「U−CAT 18X」、サンアプロ(株)製、以後「U−CAT 18X」と称する場合がある)2.1部、及びエチレングリコール(和光純薬工業(株)製試薬)1.1部を添加して樹脂組成物を調製し、110℃で3時間硬化した後、150℃で2時間さらに硬化させて硬化物を得た。
【0072】
比較例2
「CEL 2021P」100部に対し、「HN2200」130部、「U−CAT 18X」2.6部、及びエチレングリコール 1.3部を添加して樹脂組成物を調製し、実施例4と同じ条件で硬化させて硬化物を得た。
【0073】
実施例3、4、及び比較例1、2で得られた硬化物を固体粘度弾性測定装置(商品名「RSA−III」、TA Instruments製)を用いて、窒素雰囲気下、10℃から350℃まで5℃/分で昇温しつつ、引っ張りモード、強制振動周波数10Hzで貯蔵弾性率(E')と損失弾性率(E'')を測定し、貯蔵弾性率(E')が109Paとなる温度(℃)、及び損失正接(tanδ=E''/E')のピークトップ温度(℃)を求めた。
【0074】
【表1】

※明確なピークは見られなかった。
【0075】
表1から、本発明に係る脂環式トリエポキシ化合物は、脂環式ジエポキシ化合物に比べて、より優れた耐熱性を有する硬化物を形成することができることが分かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)
【化1】

(式中、R1、R2、R3は、同一又は異なって、単結合又は炭素数1〜2のアルキレン基を示す)
で表される脂環式トリエポキシ化合物。
【請求項2】
下記式(2)
【化2】

(式中、R1、R2、R3は、同一又は異なって、単結合又は炭素数1〜2のアルキレン基を示す)
で表されるアセタール化合物。
【請求項3】
下記式(2)
【化3】

(式中、R1、R2、R3は、同一又は異なって、単結合又は炭素数1〜2のアルキレン基を示す)
で表されるアセタール化合物を酸化剤を用いて酸化することにより、下記式(1)
【化4】

(式中、R1、R2、R3は上記に同じ)
で表される脂環式トリエポキシ化合物を得る、脂環式トリエポキシ化合物の製造方法。
【請求項4】
酸化剤が過酸である請求項3に記載の脂環式トリエポキシ化合物の製造方法。
【請求項5】
下記式(3-1)及び(3-2)
【化5】

(式中、R1、R2は、同一又は異なって、単結合又は炭素数1〜2のアルキレン基を示す)
で表されるアルコール化合物と、下記式(4)
【化6】

(式中、R3は単結合又は炭素数1〜2のアルキレン基を示す)
で表されるアルデヒド化合物とを縮合させることにより、下記式(2)
【化7】

(式中、R1、R2、R3は上記に同じ)
で表されるアセタール化合物を得るアセタール化合物の製造方法。
【請求項6】
下記式(1)
【化8】

(式中、R1、R2、R3は、同一又は異なって、単結合又は炭素数1〜2のアルキレン基を示す)
で表される脂環式トリエポキシ化合物を含む樹脂組成物。
【請求項7】
請求項6に記載の樹脂組成物を硬化して得られる硬化物。

【公開番号】特開2013−53097(P2013−53097A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−192163(P2011−192163)
【出願日】平成23年9月3日(2011.9.3)
【出願人】(000002901)株式会社ダイセル (1,236)
【Fターム(参考)】