説明

脂環式構造含有重合体を含有するクレーズを有するフィルム

【課題】
本発明は、クレーズの幅が狭く、クレーズとクレーズの間隔が狭い、クレーズを有する高分子フィルムを安定して精度よく形成することである。
【解決手段】本発明は、透明性の高分子フィルムに規則的なクレーズ領域を設けたことを特徴とするクレーズを有するフィルムにおいて、該高分子フィルムが脂環式構造含有共重合体を含むことを特徴とするクレーズを有するフィルムである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細かいひび割れ(クレーズ)を有する、脂環式構造含有重合体を含有する高分子フィルムおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、クレーズと呼ばれる細かいひび割れが入った高分子フィルムやシート(クレーズフィルムとも言う)を、通気性フィルム、光学用フィルムなどに用いることが知られている。例えば、規則的に方向性のあるクレーズを有するフィルムを、特定の範囲方向には光を通すが、他の方向には光を通さない性質を有する光制御フィルム、視野角制御フィルムに利用することは、特許文献1〜6等に開示されている。また、その製造方法について、特許文献7〜9等に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6−82607号公報
【特許文献2】特開平7−146403号公報
【特許文献3】特開平9−166702号公報
【特許文献4】特開平9−281306号公報
【特許文献5】特開平11−64609号公報
【特許文献6】特開平11−231108号公報
【特許文献7】特開平8−85161号公報
【特許文献8】特開平11−320670号公報
【特許文献9】特開平7−241917号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、これらの特許文献には、高分子フィルムの材料として、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリフッ化ビニリデン、ポリカーボネート等の樹脂が記載されている。しかし、これらの樹脂では、樹脂が有する柔軟性や耐熱性の点で、クレーズの幅(クレーズの割れ目の壁面間の間隔)が狭く、クレーズとクレーズとの間隔が狭い高分子フィルムを形成するのは困難であった。
【0005】
また、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリフッ化ビニリデン、ポリカーボネート等の樹脂は、吸水性があり寸法安定性に乏しい点で、クレーズの幅(クレーズの割れ目の壁面間の間隔)が安定せず、例えば通気性フィルムでは通気量が変化する欠点がある。また、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリフッ化ビニリデン樹脂は、透明性が十分でなく、光の透過率が低く、散乱光が多い。例えば光学用フィルムなどでは光量が低下する、表示が不明瞭になる等の不具合を引き起こす欠点がある。
【0006】
更には、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリフッ化ビニリデン、ポリカーボネート樹脂は、フィルムを引っ張り、破断した際の伸び(破断伸び)が大きく、クレーズを容易に生成させるのが困難である。配向処理を行うなどして破断伸びを小さくできるが、破断伸びが小さくなるにつれ、裂けが発生しやすくなる欠点がある。裂けを起こすことなく配向処理しクレーズを安定して生成するには高度な配向処理、クレーズ加工処理が必要であり工業的に生産することは困難である。
【0007】
例えば高分子フィルムの材料にプロピレン系樹脂を用いた例として、一方向に分子配向したプロピレンフィルムにおいて分子配向方向と直角方向に張力を掛けてクレーズを形成する用法が開示されている(特許文献9)。しかし、分子配向と略平行な方向にしかクレーズを形成できない、更には一定以下の分子配向フィルムではクレーズが形成できない、配向させすぎるとフィルムが裂けやすくなる、などの欠点があり工業的に安定してクレーズを形成することは困難である。また、一方向に分子配向したフィルムの製造方法として特許文献9にて具体的に記載されている態様ではいわゆる溶融樹脂のドローイングによる分子配向を用いている。しかし、ドローイングによる分子配向はフィルムの流れ方向に配向しており、よってクレーズを形成するにはフィルムの幅方向に引っ張る必要がある。フィルムの幅方向に引っ張るにはテンターが必要でありコストを抑えるのが困難である。
【0008】
本発明の目的は、クレーズの幅が狭く、クレーズとクレーズの間隔が狭い高分子フィルムを安定して精度よく形成することを可能にすることである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、本発明は、以下の通りである。
(1)透明性の高分子フィルムに規則的なクレーズ領域を設けたことを特徴とするクレーズを有するフィルムにおいて、該高分子フィルムが脂環式構造含有共重合体を含むことを特徴とするクレーズを有するフィルム。
(2)前記脂環式構造含有共重合体がノルボルネン系重合体であることを特徴とする(1)項に記載のクレーズを有するフィルム。
(3)前記クレーズが光吸収性物質または光散乱性物質を含むことを特徴とする(1)項または(2)項に記載のクレーズを有するフィルム。
(4)脂環式構造含有共重合体を含む高分子フィルムを折り曲げ、このときの曲げ応力をきっかけとして外周部よりクレーズを発生させるとともに、折り曲げ部における折り曲げ線に対して直交する方向にフィルムを移動させることで連続的にクレーズを発生させることを特徴とする(1)項から(3)項のいずれか一項に記載のクレーズを有するフィルムの製造方法。
(5)脂環式構造含有共重合体を含む高分子フィルムを任意の一方向に引き伸ばすことにより、引き伸ばし方向と直交する方向にクレーズを発生させることを特徴とする(1)項から(3)項のいずれか一項に記載のクレーズを有するフィルムの製造方法。
(6)脂環式構造含有共重合体を含む高分子フィルムを、該フィルムを溶解しない溶剤、及び/又は界面活性剤溶液中に所定の温度と時間で浸漬した後に、曲げ応力、及び又は引張応力を加えることによりクレーズを発生させることを特徴とする(1)項から(3)項のいずれか一項に記載のクレーズを有するフィルムの製造方法。
(7)光吸収性物質または光散乱性物質を含む溶液の存在下でクレーズを発生させることでクレーズ内に光吸収性物質または光散乱性物質を導入することを特徴とする(4)項から(6)項のいずれか一項に記載のフィルムの製造方法。
(8)予め形成されたクレーズに、光吸収性物質または光散乱性物質を含む溶液を塗布することでクレーズ内に光吸収性物質または光散乱性物質を導入することを特徴とする(4)項から(6)項のいずれか一項に記載のフィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、クレーズの幅が狭く、クレーズとクレーズの間隔が狭い高分子フィルムが提供される。また、本発明のクレーズを有するフィルムは吸水による寸法変化が少なく透明性に優れることから、クレーズの幅が安定し、つまりはクレーズによる様々な性能が安定する。またクレーズ部分を通過しない光の透過率が高く散乱が少ないことから、例えば視野角制御フィルムに好適であり、正面の透過率が高く、更には透過像が鮮明となる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、透明性の高分子フィルムに規則的なクレーズ領域を設けたことを特徴とするクレーズを有するフィルムにおいて、該高分子フィルムが脂環式構造含有共重合体を含むことを特徴とするクレーズを有するフィルムである。
【0012】
本発明にいうクレーズとは、高分子フィルムに形成される略直線上のひび、あるいは割れ目のことをいう。尚、一般には高分子フィルムに形成されるひびあるいは割れ目の壁面間に樹脂フィブリルが残存しているものをクレーズといい、さらにそれが広げられ樹脂フィブリルが残存していないものを「クラック」という場合があるが、本発明にいうクレーズはそれらのいずれをも含む。
【0013】
また「規則的な方向性」とは、上記のクレーズが一定の方向に略平行に縞状に形成されており、また各クレーズはその深さ方向においても略平行であることを示す。
本発明のクレーズを有するフィルム(以後クレーズフィルムという)のクレーズはクレーズフィルムの厚み全体を貫通してクレーズフィルムの両表面に達するものであっても、貫通せずに表面からクレーズフィルム内部まで達しているものであってもよい。貫通していないものは、クレーズがクレーズフィルム表面の片側だけにあっても両面にあってもよい。
尚、本発明において使用する「フィルム」は狭義にいう「フィルム」のみならず「シート」も含む意味である。
【0014】
本発明のクレーズフィルムは、脂環式構造含有重合体を含む樹脂からなる。ここで、「からなる」とは、当該フィルムの全部が当該脂環式構造含有重合体で構成されている場合、および、当該フィルムの一部が当該脂環式構造含有重合体で構成されている場合、の双方を含む趣旨である。脂環式構造含有重合体の含有量に特に制限はないが、フィルムの寸法安定性、吸水率、透湿度、透明性、酸素透過率、機械強度、耐熱性、光学的な均質性の観点等から、通常、50〜100質量%、好ましくは60〜100質量%、さらに好ましくは、70〜100質量%である。また、当該樹脂以外の成分には特に制限はないが、例えば、耐衝撃性向上等の観点から、オレフィン系エラストマーやスチレン系エラストマーを添加することができる。また、後述するように、それ以外の各種添加剤を用いてもよい。
【0015】
脂環式構造含有重合体は、重合体の繰り返し単位中に脂環式構造を含有するものであり、主鎖及び側鎖のいずれに脂環式構造を有していてもよい。脂環式構造としては、シクロアルカン構造、シクロアルケン構造などが挙げられるが、寸法安定性、透明性、耐熱性等の観点からシクロアルカン構造が好ましい。脂環式構造を構成する炭素原子数は、格別制限されないが、通常4〜30個、好ましくは5〜20個、より好ましくは5〜15個の範囲であると、耐熱性及び機械強度に優れたフィルムが得られる。脂環式構造含有重合体中の脂環式構造を有する繰り返し単位の割合は、使用目的に応じて適宜選択されればよいが、通常20質量%以上、好ましくは40質量%以上、より好ましくは60質量%以上である。脂環式構造含有重合体中の脂環式構造を有する繰り返し単位の割合が過度に少ないと、フィルムの機械強度(剛直性)が低下し、耐熱性が低下し好ましくない。なお、脂環式構造含有重合体中の脂環式構造を有する繰り返し単位以外の残部は、格別限定されず、使用目的に応じて適宜選択される。
【0016】
脂環式構造を含有する重合体の具体例としては、(1)ノルボルネン系重合体、(2)単環の環状オレフィン系重合体、(3)環状共役ジエン系重合体、(4)ビニル脂環式炭化水素重合体、及びこれらの水素添加物などが挙げられる。これらの中でも、寸法安定性、吸水率、透湿度、透明性、酸素透過率、機械強度、耐熱性等の観点から、ノルボルネン系重合体、ビニル脂環式炭化水素重合体及びそれらの水素化物などが好ましい。
【0017】
(1)ノルボルネン系重合体
ノルボルネン系重合体としては、ノルボルネン系モノマーの開環重合体、ノルボルネン系モノマーとこれと開環共重合可能なその他のモノマーとの開環共重合体、及びそれらの水素添加物、ノルボルネン系モノマーの付加重合体、ノルボルネン系モノマーとこれと共重合可能なその他のモノマーとの付加共重合体などが挙げられる。
【0018】
ノルボルネン系モノマーの開環重合体の水素添加物、および、ノルボルネン系モノマーとこれと開環共重合可能なその他のモノマーとの開環共重合体の水素添加物においては、その水素添加率が99%以上であると、透明性(とりわけ、初期黄変度が低いこと)、安定性(とりわけ、長期的に黄変が発生しにくいこと)等に優れ、ゲルの発生を抑制できる場合が多く、好ましい。
【0019】
ノルボルネン系モノマーの開環重合体、ノルボルネン系モノマーとこれと開環共重合可能なその他のモノマーとの開環共重合体、及びそれらの水素添加物としては、(株)オプテスのゼオノアフィルム、JSR(株)のアートンフィルムがある。
【0020】
ノルボルネン系重合体の中でも、ノルボルネン系モノマーとこれと共重合可能なその他のモノマーとの付加共重合体が特に好ましい。
【0021】
ノルボルネン系モノマーとしては、ビシクロ〔2.2.1〕−ヘプト−2−エン(慣用名:ノルボルネン)、5−メチル−ビシクロ〔2.2.1〕−ヘプト−2−エン、5,5−ジメチル−ビシクロ〔2.2.1〕−ヘプト−2−エン、5−エチル−ビシクロ〔2.2.1〕−ヘプト−2−エン、5−ブチル−ビシクロ〔2.2.1〕−ヘプト−2−エン、5−ヘキシル−ビシクロ〔2.2.1〕−ヘプト−2−エン、5−オクチル−ビシクロ〔2.2.1〕−ヘプト−2−エン、5−オクタデシル−ビシクロ〔2.2.1〕−ヘプト−2−エン、5−エチリデン−ビシクロ〔2.2.1〕−ヘプト−2−エン、5−メチリデン−ビシクロ〔2.2.1〕−ヘプト−2−エン、5−ビニル−ビシクロ〔2.2.1〕−ヘプト−2−エン、5−プロペニル−ビシクロ〔2.2.1〕−ヘプト−2−エン、5−メトキシ−カルボニル−ビシクロ〔2.2.1〕−ヘプト−2−エン、5−シアノ−ビシクロ〔2.2.1〕−ヘプト−2−エン、5−メチル−5−メトキシカルボニル−ビシクロ〔2.2.1〕−ヘプト−2−エン、5−メトキシカルボニル−ビシクロ〔2.2.1〕−ヘプト−2−エン、5−エトキシカルボニル−ビシクロ〔2.2.1〕−ヘプト−2−エン、5−メチル−5−エトキシカルボニル−ビシクロ〔2.2.1〕−ヘプト−2−エン、ビシクロ〔2.2.1〕−ヘプト−5−エニル−2−メチルプロピオネイト、ビシクロ〔2.2.1〕−ヘプト−5−エニル−2−メチルオクタネイト、ビシクロ〔2.2.1〕−ヘプト−2−エン−5,6−ジカルボン酸無水物、5−ヒドロキシメチル−ビシクロ〔2.2.1〕−ヘプト−2−エン、5,6−ジ(ヒドロキシメチル)−ビシクロ〔2.2.1〕−ヘプト−2−エン、5−ヒドロキシ−i−プロピル−ビシクロ〔2.2.1〕−ヘプト−2−エン、ビシクロ〔2.2.1〕−ヘプト−2−エン、5,6−ジカルボキシ−ビシクロ〔2.2.1〕−ヘプト−2−エン、ビシクロ〔2.2.1〕−ヘプト−2−エン−5,6−ジカルボン酸イミド、5−シクロペンチル−ビシクロ〔2.2.1〕−ヘプト−2−エン、5−シクロヘキシル−ビシクロ〔2.2.1〕−ヘプト−2−エン、5−シクロヘキセニル−ビシクロ〔2.2.1〕−ヘプト−2−エン、5−フェニル−ビシクロ〔2.2.1〕−ヘプト−2−エン、トリシクロ〔4.3.12,5.01,6〕−デカ−3,7−ジエン(慣用名ジシクロペンタジエン)、トリシクロ〔4.3.12,5.01,6〕−デカ−3−エン、トリシクロ〔4.4.12,5.01,6〕−ウンデカ−3,7−ジエン、トリシクロ〔4.4.12,5.01,6〕−ウンデカ−3.8−ジエン、トリシクロ〔4.4.12,5.01,6〕−ウンデカ−3−エン、テトラシクロ〔7.4.110,13.01,9.02,7〕−トリデカ−2,4,6−11−テトラエン(1,4−メタノ−1,4,4a,9a−テトラヒドロフルオレンともいう:慣用名メタノテトラヒドロフルオレン)、テトラシクロ〔8,4,111,14,01,10,03,8〕−テトラデカ−3,5,7,12−11−テトラエン(1,4−メタノ−1,4,4a,5,10,10a−ヘキサヒドロアントラセンともいう)、テトラシクロ〔4.4.12,5.17,10.0〕−ドデカ−3−エン(テトラシクロドデセンともいう)、8−メチル−テトラシクロ〔4.4.12,5.17,10.0〕−ドデカ−3−エン、8−メチル−テトラシクロ〔4.4.12,5.17,10.0〕−ドデカ−3−エン、8−エチル−テトラシクロ〔4.4.12,5.17,10.0〕−ドデカ−3−エン、8−メチリデン−テトラシクロ〔4.4.12,5.17,10.0〕−ドデカ−3−エン、8−エチリデン−テトラシクロ〔4.4.12,5.17,10.0〕−ドデカ−3−エン、8−ビニル−テトラシクロ〔4.4.12,5.17,10.0〕−ドデカ−3−エン、8−プロペニル−テトラシクロ〔4.4.12,5.17,10.0〕−ドデカ−3−エン、8−メトキシカルボニル−テトラシクロ〔4.4.12,5.17,10.0〕−ドデカ−3−エン、8−メチル−8−メトキシカルボニル−テトラシクロ〔4.4.12,5.17,10.0〕−ドデカ−3−エン、8−ヒドロキシメチル−テトラシクロ〔4.4.12,5.17,10.0〕−ドデカ−3−エン、8−カルボキシ−テトラシクロ〔4.4.12,5.17,10.0〕−ドデカ−3−エン、8−シクロペンチル−テトラシクロ〔4.4.12,5.17,10.0〕−ドデカ−3−エン、8−シクロヘキシル−テトラシクロ〔4.4.12,5.17,10.0〕−ドデカ−3−エン、8−シクロヘキセニル−テトラシクロ〔4.4.12,5.17,10.0〕−ドデカ−3−エン、8−フェニル−テトラシクロ〔4.4.12,5.17,10.0〕−ドデカ−3−エン、ペンタシクロ〔6.5.11,8.13,6.02,7.09,13〕−ペンタデカ−3,10−ジエン、ペンタシクロ〔7.4.13,6.110,13.01,9.02,7〕−ペンタデカ−4,11−ジエンなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらのノルボルネン系モノマーは、それぞれ単独であるいは2種以上組み合わせて用いられる。
【0022】
これらノルボルネン系モノマーの開環重合体、またはノルボルネン系モノマーとこれと開環共重合可能なその他のモノマーとの開環共重合体は、モノマー成分を、開環重合触媒の存在下で重合して得ることができる。開環重合触媒としては、例えば、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム、白金などの金属のハロゲン化物と、硝酸塩またはアセチルアセトン化合物、及び還元剤とからなる触媒、あるいは、チタン、バナジウム、ジルコニウム、タングステン、モリブデンなどの金属のハロゲン化物またはアセチルアセトン化合物と、有機アルミニウム化合物とからなる触媒を用いることができる。重合反応は溶媒中または無溶媒で、通常、−50℃〜100℃の重合温度、0〜50kg/cm2の重合圧力で行われる。ノルボルネン系モノマーと開環共重合可能なその他のモノマーとしては、例えば、シクロヘキセン、シクロヘプテン、シクロオクテンなどの単環の環状オレフィン系単量体などを挙げることができるが、これらに制限されない。
【0023】
ノルボルネン系モノマーの開環重合体水素添加物は、通常、上記開環重合体の重合溶液に水素添加触媒を添加し、炭素−炭素不飽和結合を水素添加することにより得ることができる。水素化触媒としては、特に限定されないが、通常、不均一系触媒や均一系触媒が用いられる。
【0024】
ノルボルネン系モノマー、またはノルボルネン系モノマーとこれと共重合可能なその他のモノマーとの付加(共)重合体は、例えば、モノマー成分を、溶媒中または無溶媒で、チタン、ジルコニウム又はバナジウム化合物と有機アルミニウム化合物とからなる触媒の存在下で、通常、−50℃〜100℃の重合温度、0〜50kg/cm2の重合圧力で(共)重合させて得ることができる。
【0025】
ノルボルネン系モノマーと共重合可能なその他のモノマーとしては、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、3−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ペンテン、3−エチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ヘキセン、4,4−ジメチル−1−ヘキセン、4,4−ジメチル−1−ペンテン、4−エチル−1−ヘキセン、3−エチル−1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、1−テトラデセン、1−ヘキサデセン、1−オクタデセン、1−エイコセンなどの炭素数2〜20のα−オレフィン;
シクロブテン、シクロペンテン、シクロヘキセン、3,4−ジメチルシクロペンテン、3−メチルシクロヘキセン、2−(2−メチルブチル)−1−シクロヘキセン、シクロオクテン、3a,5,6,7a−テトラヒドロ−4,7−メタノ−1H−インデンなどのシクロオレフィン;
1、4−ヘキサジエン、4−メチル−1,4−ヘキサジエン、5−メチル−1,4−ヘキサジエン、1,7−オクタジエンなどの非共役ジエン;
などが用いられるが、これらに限定されない。これらの中でも、α-オレフィン、特にエチレンが好ましい。
【0026】
これらの、ノルボルネン系モノマーと共重合可能なその他のモノマーは、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。ノルボルネン系モノマーとこれと共重合可能なその他のモノマーとを付加共重合する場合は、付加共重合体中のノルボルネン系モノマー由来の構造単位と共重合可能なその他のモノマー由来の構造単位との割合が、質量比で通常20:80〜99:1、好ましくは40:60〜97:3、より好ましくは60:40〜95:5の範囲となるように適宜選択される。
【0027】
(2)単環の環状オレフィン系重合体
単環の環状オレフィン系重合体としては、例えば、シクロヘキセン、シクロヘプテン、シクロオクテンなどの単環の環状オレフィン系単量体の付加重合体を用いることができるが、これらに限定されるものではない。
【0028】
(3)環状共役ジエン系重合体
環状共役ジエン系重合体としては、例えば、シクロペンタジエン、シクロヘキサジエンなどの環状共役ジエン系単量体を1,2−または1,4−付加重合した重合体及びその水素添加物などを用いることができるが、これらに限定されるものではない。
【0029】
本発明で使用されるノルボルネン系重合体、単環の環状オレフィン系重合体又は環状共役ジエン系重合体の分子量は、使用目的に応じて適宜選択されるが、シクロヘキサン溶液(重合体が溶解しない場合はトルエン溶液)のゲル・パーミエーション・クロマトグラフィーで測定したポリイソプレンまたはポリスチレン換算の重量平均分子量Mwで、通常5,000〜1,000,000、好ましくは8,000〜800,000、より好ましくは10,000〜500,000の範囲であるときに、成形体の機械的強度、及び成形加工性とのバランスがよく好適な場合が多い。
【0030】
(4)ビニル脂環式炭化水素重合体
ビニル脂環式炭化水素重合体としては、例えば、ビニルシクロヘキセン、ビニルシクロヘキサンなどのビニル脂環式炭化水素系単量体の重合体及びその水素添加物;スチレン、α−メチルスチレンなどのビニル芳香族系単量体の重合体の芳香環部分の水素添加物;などを用いることができる。この場合、ビニル脂環式炭化水素重合体やビニル芳香族系単量体と、これらの単量体と共重合可能な他の単量体とのランダム共重合体、ブロック共重合体などの共重合体及びその水素添加物であってもよい。ブロック共重合体としては、ジブロック、トリブロック、またはそれ以上のマルチブロックや傾斜ブロック共重合体などが挙げられ、特に制限はない。
【0031】
本発明で使用されるビニル脂環式炭化水素重合体の分子量は、使用目的に応じて適宜選択されるが、シクロヘキサン溶液(重合体が溶解しない場合はトルエン溶液)のゲル・パーミエーション・クロマトグラフ法で測定したポリイソプレンまたはポリスチレン換算の重量平均分子量Mwで、通常10,000〜800,000、好ましくは15,000〜500,000、より好ましくは20,000〜300,000の範囲であるときに、成形体の機械的強度及び成形加工性とのバランスがよく好適な場合が多い。
【0032】
本発明で用いる、脂環式構造を含有する重合体は、ガラス転移温度が80℃以上、より好ましくは100℃以上であることが好ましい。上限は特に制限はないが、フィルムの成形性から、200℃以下であることが好ましい。ガラス転移温度が低いと、耐熱性に劣るため、形成したクレーズが熱によって変形し、クレーズの幅や深さが変化したり、形成されたクレーズが元に戻ってしまうおそれがある。
【0033】
脂環式構造含有重合体を含む樹脂には、必要に応じて各種添加剤を配合してもよい。添加剤としては、例えば、トリアセチルセルロースをはじめとする各種セルロース樹脂等の、吸水率が0.1%を超える各種樹脂や、また例えば、酸化防止剤、耐光安定剤、紫外線吸収剤などの安定剤、帯電防止剤などが挙げられるが、本発明の目的を損なわない限り特に制限はない。
【0034】
酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤などが挙げられ、これらの中でもフェノール系酸化防止剤、特にアルキル置換フェノール系酸化防止剤が好ましい。これらの酸化防止剤を配合することにより、透明性、耐熱性等を低下させることなく、酸化劣化等による着色や強度低下を防止できる。
【0035】
紫外線吸収剤としては、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤などが挙げられ、これらの中でも、2−(2'−ヒドロキシ−5'−メチル−フェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−メチル−6−(3,4,5,6−テトラヒドロフタルイミディルメチル)フェノール、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4,6−ビス(1−メチル−1−フェニルエチル)フェノールなどが、耐熱性、低揮発性などの観点から好ましい。
【0036】
耐光安定剤としては、ベンゾフェノン系耐光安定剤、ベンゾトリアゾール系耐光安定剤、ヒンダードアミン系耐光安定剤などが挙げられるが、本発明においては、透明性、耐着色性等の観点から、ヒンダードアミン系耐光安定剤を用いるのが好ましい。
【0037】
一般に、クレーズは放置しておくと、応力緩和による回復のため、クレーズの開口度が小さくなる(閉じる)性質がある。そのため、耐熱性の低い従来の材料を用いたクレーズフィルムではクレーズの形状が不安定であったり、クレーズの幅を保つために幅の広いクレーズを形成せざるを得ないことがあったりした。
【0038】
本発明の脂環式構造含有重合体を含む樹脂を用いたクレーズフィルムは、樹脂がクレーズ形成に最適な剛直性、耐熱性、吸水率を有するため、クレーズが形成され易く、クレーズの幅が狭く、クレーズとクレーズの間隔が狭い、クレーズ形状が安定したクレーズフィルムを形成することができる。本発明のクレーズフィルムは、光制御や通気性等の点で優位であり、より高性能なフィルムとすることができる。
【0039】
本発明のクレーズフィルムの厚さは特に問わない。クレーズフィルムに求める性能、クレーズを形成するときの作業性に応じて適宜選択すればよい。クレーズフィルムに使用する材料やクレーズの形成方法(後述する)にもよるが、一般的にクレーズフィルムの厚さは、3μm〜1000μmである。
【0040】
本発明のクレーズフィルムは、他のフィルムや層が積層されていてもよい。積層されたフィルムや層にはクレーズが形成されていても形成されていなくても構わない。積層されている場合、クレーズフィルム自身が自立するフィルムであるかどうかは問わない。
【0041】
クレーズの幅は特に制限されるものではなく、用いる材料、製造方法および条件を適宜選択し調節することにより自由に選択することができる。用途によって好ましい幅は異なるが、通常は0.01〜50μm、好ましくは0.1〜30μm、より好ましくは0.3〜10μm程度である。
【0042】
尚、クレーズは、クレーズが形成されたフィルムの表面においてその深さの数%程度までの範囲で変形を起こすことがあるが、わずかな変形はクレーズフィルムの性能に実質的に影響を与えるものではなく、上記のようにクレーズの幅を考慮する場合においては無視するものとする。
【0043】
クレーズとクレーズの間隔は特に限定されないが、本発明のクレーズフィルムではほぼ一定の間隔でクレーズが形成される。
【0044】
クレーズフィルム表面におけるクレーズの密度(クレーズフィルム表面におけるクレーズの部分の占める面積の割合)も特に制限されないが、一般にはクレーズの面積がフィルム全体に対して40%程度以下、好ましくは30%以下、より好ましくは20%以下である。
【0045】
本発明のクレーズフィルムでは、クレーズは公知の方法によって形成できる。
高分子フィルムにクレーズが発生する以上の力を規則的な方向に加えることにより、規則的な方向性を持ったクレーズを多数発生させる。
主な方法としては、(A)フィルムを折り曲げる方法、(B)フィルムを引き伸ばす方法、(C)フィルムを液体に浸漬後に物理的に歪みを与える方法、の3つがあげられる。(A)の方法は特許文献1、4等に、(B)の方法は特許文献8等に、(C)の方法は特許文献3等に記載されている。
【0046】
まず(A)フィルムを折り曲げる方法について説明する。
上記の脂環式構造含有重合体を含む高分子フィルムを折り曲げ、このときの曲げ応力をきっかけとして外周部よりクレーズを発生させるとともに、折り曲げ部における折り曲げ線に対して直交する方向にフィルムを移動させることで連続的にクレーズを発生させる方法である。
【0047】
上記の脂環式構造含有重合体を含む樹脂を、熱プレス、もしくは溶融押し出しして引き取ることによりフィルム状とする。得られたフィルムに、フィルムが適度に折れ曲がるように先端部が鋭角の支持体(ブレード)を当てながらブレードの刃と垂直方向にテンションをかけるようにして引き取るか、もしくはフィルムに部分的に屈曲部をつくりながら引き取ることにより、フィルムに曲げ応力がかかり、引き取り方向と垂直方向にクレーズの入ったクレーズフィルムが得られる。このようにして1方向にクレーズを形成した後、さらに他方向に同様な処置を施し、また必要に応じてこれを繰り返すことにより、2方向以上にクレーズを形成してもよい。
【0048】
上記の、該樹脂を溶融押出して引き取る際に又は後に、延伸して、分子配向させたフィルムとしてもよい。得られたフィルムを、分子配向方向とほぼ平行に折り曲げてそこに局部的な折り曲げ部を形成し、その後折り曲げ部における折り曲げ線に対して直交する方向に引っ張ることによってフィルムの分子配向方向とほぼ平行に連続的な縞状のクレーズを形成してもよい。
【0049】
クレーズ形成時に、クレーズフィルムの材料である脂環式構造含有重合体を含む樹脂のフィルムまたは層は、別のフィルムや層との積層体となっていてもよい。
クレーズ形成時の傷つき防止用に、フィルムと支持体(ブレード)の間に保護フィルムを用いてもよい。尚、保護フィルムを両面に貼ることで、フィルムの両面からクレーズを形成する際も、フィルムの傷つきを防止できる。
【0050】
次に(B)フィルムを引き伸ばす方法について説明する。
上記の脂環式構造含有重合体を含む樹脂を公知の方法でフィルム状として得られたフィルムを、任意の一方向に引き伸ばすことにより、前記脂環式構造含有重合体を含む高分子フィルムに、引き伸ばし方向と直交する方向にクレーズを発生させる方法である。
【0051】
上記の脂環式構造含有重合体を含む樹脂を公知の方法でフィルム状として得られたフィルムに延伸処理または圧延処理を行って、分子配向した一軸配向フィルムを作製し、得られたフィルムを一定方向に引き伸ばすことによってクレーズを形成する。
【0052】
また、基材となる層にクレーズフィルムの材料である脂環式構造含有重合体を含む樹脂を積層した後、得られた積層体を引き伸ばすことでクレーズを形成する方法もある。この場合、基材となる層は、脂環式構造含有重合体を含む樹脂が引き伸ばされてクレーズが形成される時の伸び率ではクレーズを形成しない材料を選択する。
【0053】
(C)フィルムを液体に浸漬後に物理的に歪みを与える方法について説明する。
上記の脂環式構造含有重合体を含む樹脂を公知の方法でフィルム状として得られたフィルムを、該フィルムを溶解しない溶剤、及び/又は界面活性剤溶液中に所定の温度と時間で浸漬した後に、曲げ応力、及び又は引張応力を加えることによりクレーズを発生させる方法である。
【0054】
フィルムを、該フィルムを溶解しない溶剤、及び/又は界面活性剤の溶液中に、所定の温度と時間で浸漬した後、このフィルムを、前記溶剤、及び/又は界面活性剤の溶液中で、または、溶剤、及び/又は界面活性剤の溶液から引き出して、ロールに巻き付けて歪みを与えることにより、フィルムにクレーズを形成する。
【0055】
クレーズ形成時に、クレーズフィルムの材料である脂環式構造含有重合体を含む樹脂のフィルムまたは層は、別のフィルムや層との積層体となっていてもよい。
クレーズの幅、クレーズとクレーズの間隔等を制御しやすいのは、(A)の方法である。本発明の脂環式構造含有重合体を含む樹脂をクレーズフィルムに用いると、(A)の方法で、予め延伸させ分子配向したフィルムでも、延伸していない無配向のフィルムでも、曲げ応力をかけることで比較的容易にクレーズを形成させることができる。
【0056】
本発明で形成されたクレーズの空間内に光吸収性物質または光散乱性物質等を含んでいてもよい。これらの物質を含むことで、クレーズでの光吸収性、光散乱性等を向上させることができる。例えばフィルム面に対して垂直方向からの光は通し易いが、クレーズ方向とは垂直でフィルム面に対して斜めからの光は通しにくい所謂視野角制御性能を高めることができる。
【0057】
光吸収性物質としては、黒色顔料が望ましいが他の色でも良い。好適な材料としてはブラックカーボンやアニリンブラック等が挙げられる。また、紫外線硬化樹脂や熱硬化性樹脂であってもそれ自体着色している物であってもよい。
【0058】
光散乱性物質としては、白色顔料(酸化亜鉛,二酸化チタン,炭酸カルシウム他)や金属粉(アルミニウム粉,銅−亜鉛混合粉他)が挙げられる。
これらの光吸収性物質や光散乱性物質は、封入可能でクレーズフィルムを侵さないものであれば液体やゾル、ゲルであってもよい。
【0059】
クレーズに光吸収性物質または光散乱性物質を付与する方法としては、フィルムにあらかじめ規則的なクレーズを形成してから該フィルムを染料、顔料等の着色物質の溶液、分散液(着色液)に浸漬する方法が、あるいはそれらをフィルムに塗布することにより染料等をクレーズ中に充填、浸透、染着等させる方法がある。例えばクレーズを形成するためにフィルムを引き伸ばした後、引き伸ばしたままでクレーズが形成されたフィルム表面に着色液を浸漬、塗布等により適用することが好ましい。引き伸ばしたままで着色液を適用することにより、引き伸ばしのための張力を解放した後に着色液を適用するよりも多くの着色物質をクレーズに導入することができ、従ってより遮光性の優れたクレーズを形成することができ、得られる視野制御性フィルムの視野制御性はより優れたものとなる。また光吸収性物質または光散乱性物質を含む溶液の存在下でクレーズを発生させる、例えばフィルムの引き伸ばしの工程を着色液中で行ったり、あるいは着色液を塗布した状態で引き伸ばしたりすることもできる。さらに、クレーズフィルム中に有機溶媒を残留溶媒として残しておくこと、あるいはクレーズフィルムを適度に吸湿させておくことが、光吸収性物質、光散乱性物質の導入に有効である場合もある。
【0060】
着色工程の後にフィルム表面に残る着色汚れは、例えば着色液を形成するのに使用した溶剤で拭き取ることにより容易に除去できる。
上記の着色液としては、通常、前記の光吸収性物質を水、有機溶剤に溶解もしくは分散させたものを用いるが、さらに樹脂を加えて使用してもよい。光散乱性物質についても同様に用いることができる。
【実施例】
【0061】
以下に実施例および比較例を挙げ、本発明を具体的に説明する。本発明はいかなる意味においても、これらの実施例に限定されるものではない。
【0062】
以下の実施例および比較例において、フィルムの諸特性は次のようにして測定した。
(膜厚)
膜厚は、Mitsutoyo製マイクロメーターにて測定した。
(ガラス転移温度)
JISK7121法に従い、示差走査熱量測定(DSC)により、加熱速度10℃/分、雰囲気ガスとして窒素ガスを用いて測定した。
【0063】
(破断伸び)
引張試験において、フィルムが破断した際の伸びを破断伸びとした。引張試験は、JISK7127に従い、試験片には試験タイプ2の短冊状試験片を用いた。チャック間距離は100mm、引張速度は5mm/minとした。
【0064】
<クレーズの形成方法>
A:折り曲げることによりクレーズを発生させる方法
ブレード部分でフィルムに一定の折れ角θが生じるようにして所定の張力、速度でフィルムを引き取ることにより、ブレード部分で連続的にクレーズを発生させた。ここでは折れ角θを約90°とし、張力、引取速度はフィルムに応じて任意とした。
B:フィルムを引き伸ばしてクレーズを発生させる方法
引張試験機を用いた。サンプル形状は幅5cmの短冊として、チャック間隔を10cm、引き揚げ速度を50mm/分とした。
C:溶剤に浸漬した後に曲げることによりクレーズを発生させる方法
室温でメタノールに3分間浸漬した後、メタノールをふき取った。その後、基材フィルムを貼り合せ、続いて<クレーズの形成方法>Bにてクレーズを発生させた。
【0065】
(実施例1)
ノルボルネン系モノマーとして下記式のテトラシクロ〔4.4.12,5.17,10.0〕−ドデカ−3−エン(TCD−3)を、オレフィン系モノマーとしてエチレンを用いて、ランダム共重合体を得た。得られたランダム共重合体のモル比は、(TCD−3:エチレン)=30:70、質量比は、(TCD−3:エチレン)=71:29、ガラス転移温度は125℃、平均屈折率は1.54、吸水率は0.01%以下、ポリスチレン換算の分子量はMw1.2×10および数平均分子量(Mn)5.7×10であった。
【0066】
【化1】

【0067】
この樹脂を用いて、一軸押出機(径30mm)にて、シリンダ温度250℃の条件で溶融押出し成形を行い、膜厚100μmの実質的に無配向のフィルムを作製した。得られたフィルムの破断伸びは2%であった。このフィルムの片面に傷つき防止用の保護フィルム(50μm)を貼り合せた。
その後、保護フィルム面をブレード側とし、クレーズの形成方法Aにてクレーズを形成した。尚、折れ曲げ部における折り曲げ線に対して、フィルムのTransverse Direction(TD)方向を平行として処理を行った。
【0068】
(実施例2)
環状構造を含むポリオレフィン樹脂からなるフィルムとして、(株)オプテスのゼオノアフィルム(銘柄ZF14)を用いた。ゼオノアフィルム(ZF14)の膜厚は100μm、ガラス転移温度は136℃、平均屈折率は1.53、吸水率は0.01%以下(全てカタログ値)である。尚、用いたゼオノアフィルム(ZF14)は無延伸品である。このフィルムの破断伸びは4%であった。このフィルムの片面に傷つき防止用の保護フィルム(50μm)を貼り合せた。
その後、保護フィルム面をブレード側とし、クレーズの形成方法Aにてクレーズを形成した。尚、折れ曲げ部における折り曲げ線に対して、フィルムのTD方向を平行として処理を行った。
【0069】
(実施例3)
環状構造を含むポリオレフィン樹脂からなるフィルムとして、JSR(株)のアートンフィルムを用いた。アートンフィルムの膜厚は100μm、ガラス転移温度は165℃、平均屈折率は1.51、吸水率は0.4%(全てカタログ値)である。尚、用いたアートンフィルムは無延伸品である。このフィルムの破断伸びは4%であった。このフィルムの片面に傷つき防止用の保護フィルム(50μm)を貼り合せた。
その後、保護フィルム面をブレード側とし、クレーズの形成方法Aにてクレーズを形成した。尚、折れ曲げ部における折り曲げ線に対して、フィルムのTD方向を平行として処理を行った。
【0070】
(実施例4)
ノルボルネン系モノマーとして下記式のテトラシクロ〔4.4.12,5.17,10.0〕−ドデカ−3−エン(TCD−3)を、オレフィン系モノマーとしてエチレンを用いて、ランダム共重合体を得た。得られたランダム共重合体のモル比は、(TCD−3:エチレン)=30:70、ガラス転移温度は125℃、平均屈折率は1.54、吸水率は0.01%以下、ポリスチレン換算の分子量はMw1.2×10およびMn5.7×10であった。この樹脂を用いて、一軸押出機(径30mm)にて、シリンダ温度250℃の条件で溶融押出し成形を行い、膜厚200μmの実質的に無配向のフィルムを作製した。このフィルムをテンターで横一軸延伸し膜厚が約100μmのフィルムを得た。次に基材フィルムとしてPEフィルム(膜厚60μm)を粘着層を介して片面に貼り合せた。
その後、クレーズの形成方法Bにてクレーズを形成した。尚、引張方向は、フィルムのMachine Direction(MD)方向として処理を行った。
【0071】
(実施例5)
ノルボルネン系モノマーとして下記式のテトラシクロ〔4.4.12,5.17,10.0〕−ドデカ−3−エン(TCD−3)を、オレフィン系モノマーとしてエチレンを用いて、ランダム共重合体を得た。得られたランダム共重合体のモル比は、(TCD−3:エチレン)=30:70、ガラス転移温度は125℃、平均屈折率は1.54、吸水率は0.01%以下、ポリスチレン換算の分子量はMw1.2×10およびMn5.7×10であった。この樹脂を用いて、一軸押出機(径30mm)にて、シリンダ温度250℃の条件で溶融押出し成形を行い、膜厚200μmの実質的に無配向のフィルムを作製した。このフィルムをテンターで同時二軸延伸し膜厚が約100μmのフィルムを得た。
その後、クレーズの形成方法Cにてクレーズを形成した。尚、引張方向は、フィルムのMD方向として処理を行った。
【0072】
(比較例1)
ポリプロピレン樹脂として、(株)プライムポリマーのランダムPP樹脂(銘柄F327)を用いた。この樹脂を一軸押出機(径30mm)にて、シリンダ温度210℃の条件で溶融押出し成形を行い、膜厚100μmの実質的に無配向のフィルムを作製した。このフィルムの破断伸びは500%以上であった。このフィルムの片面に傷つき防止用の保護フィルム(50μm)を貼り合せた。
その後、保護フィルム面をブレード側とし、クレーズの形成方法Aにてクレーズを形成した。尚、折れ曲げ部における折り曲げ線に対して、フィルムのTD方向を平行として処理を行った。
【0073】
(比較例2)
二軸延伸ポロプロピレンフィルムとして、三井化学東セロ(株)のOPフィルムを用いた。OPフィルムの膜厚は50μm、融点は162℃、ガラス転移温度は−20℃、平均屈折率は1.49、吸水率は0.01%以下を用いた。このフィルムの片面に傷つき防止用の保護フィルム(50μm)を貼り合せた。
その後、保護フィルム面をブレード側とし、クレーズの形成方法Aにてクレーズを形成した。尚、折れ曲げ部における折り曲げ線に対して、フィルムのTD方向を平行として処理を行った。
【0074】
(評価及び結果)
以上のように作成した実施例1〜5、比較例1〜2について、光学顕微鏡にて規則的なクレーズの生成の有無を観察した。結果を表1に示す。
【0075】
(クレーズの有無の評価基準)
○ : 規則的なクレーズが観察される
× : クレーズがほとんど観察されない
【0076】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明のクレーズを有する高分子フィルムは、光制御フィルムや視野角制御フィルムなどの光学フィルム、通気性を生かした生鮮食品包装材料や水槽用酸素供給機、排水処理用酸素供給機、生理用ナプキンの防漏材、衣料材料、フィルター等の医療材料等に用いられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明性の高分子フィルムに規則的なクレーズ領域を設けたことを特徴とするクレーズを有するフィルムにおいて、該高分子フィルムが脂環式構造含有共重合体を含むことを特徴とするクレーズを有するフィルム。
【請求項2】
前記脂環式構造含有共重合体がノルボルネン系重合体であることを特徴とする請求項1に記載のクレーズを有するフィルム。
【請求項3】
前記クレーズが光吸収性物質または光散乱性物質を含むことを特徴とする請求項1または2に記載のクレーズを有するフィルム。
【請求項4】
脂環式構造含有共重合体を含む高分子フィルムを折り曲げ、このときの曲げ応力をきっかけとして外周部よりクレーズを発生させるとともに、折り曲げ部における折り曲げ線に対して直交する方向にフィルムを移動させることで連続的にクレーズを発生させることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載のクレーズを有するフィルムの製造方法。
【請求項5】
脂環式構造含有共重合体を含む高分子フィルムを任意の一方向に引き伸ばすことにより、引き伸ばし方向と直交する方向にクレーズを発生させることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載のクレーズを有するフィルムの製造方法。
【請求項6】
脂環式構造含有共重合体を含む高分子フィルムを、該フィルムを溶解しない溶剤、及び/又は界面活性剤溶液中に所定の温度と時間で浸漬した後に、曲げ応力、及び又は引張応力を加えることによりクレーズを発生させることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載のクレーズを有するフィルムの製造方法。
【請求項7】
光吸収性物質または光散乱性物質を含む溶液の存在下でクレーズを発生させることでクレーズ内に光吸収性物質または光散乱性物質を導入することを特徴とする請求項4から6のいずれか一項に記載のフィルムの製造方法。
【請求項8】
予め形成されたクレーズに、光吸収性物質または光散乱性物質を含む溶液を塗布することでクレーズ内に光吸収性物質または光散乱性物質を導入することを特徴とする請求項4から6のいずれか一項に記載のフィルムの製造方法。

【公開番号】特開2012−167159(P2012−167159A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−28215(P2011−28215)
【出願日】平成23年2月14日(2011.2.14)
【出願人】(000005887)三井化学株式会社 (2,318)
【出願人】(397010446)有限会社中島工業 (28)
【Fターム(参考)】