説明

脂肪代謝改善剤、該脂肪代謝改善剤を含有する医薬及び食品、並びに新規フラボノイド化合物

【課題】茶花の新規用途として、肝細胞内の中性脂肪を低減することにより、種々疾病(肥満、糖尿病、高脂血症等の生活習慣病)の予防、改善に寄与することが期待できる脂肪代謝改善剤、脂肪代謝改善作用を有する医薬、食品、及び茶花に含まれる新規化合物を提供する。
【解決手段】茶花、その抽出物又は茶花に含まれる化合物であって脂肪代謝改善作用を有する化合物を有効成分として含有する脂肪代謝改善剤、該脂肪代謝改善剤を含有するヒト又は動物用の医薬、及び茶花に含まれる新規フラボノイド化合物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ツバキ科植物であるチャの花もしくは花蕾(茶花)、その抽出物もしくは抽出エキス、又はこれらから得られる化合物を有効成分として含有する脂肪代謝改善剤、及びその脂肪代謝改善剤を含有する医薬や食品に関する。本発明は、さらに、茶花、その抽出物又は抽出エキスから得られる新規フラボノイド化合物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ツバキ科(Theaceae)植物のツバキ属(Camellia)に属するチャ(Camellia sinensis、別名Thea sinensis)は、本来、熱帯及び亜熱帯性の多年性植物であるが、インド、スリランカ、インドネシア、中国及び日本等アジアにおいて広く自生または栽培されている常緑樹である。特に、緑茶原料としては中国の福建省において大量栽培が行なわれている。
【0003】
従来、チャの幼葉を摘んで不発酵、半発酵または発酵加工して、緑茶、ウーロン茶または紅茶等に製茶したものは、嗜好飲料として古くから広く日常的に愛飲されている。また、チャの興奮作用及び利尿作用は古くから知られ、中国においては、明時代の「本草綱目」に、そして我が国においては、江戸時代の「本朝食鑑」に記載されているほどである。
【0004】
さらに近年、チャに関しては、主として、その葉部の成分として含まれるカテキン等のポリフェノール類が、活性酸素の消去等に対して有効であることが報告され、一段と注目されている。また、チャ葉には抗炎症、抗菌作用を有するサポニン化合物が含まれることも報告されている(例えば、非特許文献1及び特許文献1等)。さらにチャの木の花芽が、抗菌作用を有する新規サポニンを含有することも報告されている(例えば、非特許文献2)。
【0005】
また、最近、本発明者により茶花が、中性脂肪吸収抑制、糖吸収抑制及び胃粘膜保護作用または抗高脂血症作用を有する新規サポニン化合物を含むことが見出されたことも報告されている(例えば、特許文献2、非特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平7-61998号公報
【特許文献2】特開2006-70018号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】提坂裕子ら、薬学雑誌、116巻、238-243頁(1996)
【非特許文献2】Masayuki Yoshikawaら、Chem. Pharm. Bull., 55(4) pp598-605(2007)
【非特許文献3】Masayuki Yoshikawaら、J. Nat. Prod., 68, pp1360-1365 (2005)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、茶花の新規用途として、肝細胞内の中性脂肪を低減することにより、種々疾病(肥満、糖尿病、高脂血症等の生活習慣病)の予防、改善に寄与することが期待できる脂肪代謝改善剤を提供することを目的とする。本発明は、又、茶花に含まれる化合物からなる脂肪代謝改善剤であって、茶花そのものから得られるものよりも、さらに優れた作用を有する脂肪代謝改善剤を提供することを課題とする。本発明は、さらに、茶花に含まれる新規化合物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、茶花の成分及びその薬理作用を明らかにすべく研究に着手し、茶花、水、低級脂肪族アルコールもしくは含水低級脂肪族アルコールにより茶花を抽出して得られる抽出液、該抽出液より得られる抽出エキス、及び該抽出エキスより分離、精製して得られる成分(化合物)についてそれらの薬理作用を鋭意研究した。その結果、茶花、前記抽出液及び前記抽出エキスが、脂肪代謝改善作用を有することを見出した。
【0010】
さらに、本発明者は、前記抽出エキスより特定の分離、精製手段により得られる成分(化合物)の中には、より優れた脂肪代謝改善作用を有する化合物が含まれていることを見出した。さらに、本発明者は、前記の、より優れた脂肪代謝改善作用を有する化合物の中には、新規フラボノイド化合物が含まれていることを見出し、その化学構造の決定を行った。以下に示す本発明は、これらの知見に基づき完成されたものである。
【0011】
本発明はその第1の態様として茶花、水、低級脂肪族アルコールもしくは低級脂肪族アルコールの含水物により茶花を抽出して得られる抽出液、または前記抽出液を濃縮して得られる抽出エキス、を有効成分として含むことを特徴とする脂肪代謝改善剤を提供する。ここで茶花とは、チャ(Camellia sinensis)の花部、すなわち花及び花蕾を意味する。
【0012】
茶花、水、低級脂肪族アルコールもしくは低級脂肪族アルコールの含水物により茶花を抽出して得られる抽出液、または前記抽出液を濃縮して得られる抽出エキスは、脂肪代謝改善作用を有する。従って、これらを有効成分として利用することにより脂肪代謝改善剤が得られる。
【0013】
また、第2の態様として、下記の構造式(1)で表されるフラボノイド化合物
【0014】
【化1】

【0015】
下記の構造式(2)で表されるフラボノイド化合物
【0016】
【化2】

【0017】
下記の構造式(3)で表されるフラボノイド化合物
【0018】
【化3】

【0019】
下記の構造式(4)で表されるフラボノイド化合物
【0020】
【化4】

【0021】
下記の構造式(5)で表されるフラボノイド化合物
【0022】
【化5】

【0023】
下記の構造式(6)で表されるフラボノイド化合物
【0024】
【化6】

【0025】
下記の構造式(7)で表されるフラボノイド化合物
【0026】
【化7】

【0027】
下記の構造式(8)で表されるフラボノイド化合物
【0028】
【化8】

【0029】
下記の構造式(9)で表されるフラボノイド化合物
【0030】
【化9】

【0031】
下記の構造式(10)で表されるフラボノイド化合物
【0032】
【化10】

【0033】
下記の構造式(11)で表されるフラボノイド化合物
【0034】
【化11】

【0035】
下記の構造式(12)で表されるフラボノイド化合物
【0036】
【化12】

【0037】
下記の構造式(13)で表されるカテキン化合物
【0038】
【化13】

【0039】
下記の構造式(14)で表されるカテキン化合物、及び
【0040】
【化14】

【0041】
下記の構造式(15)で表されるカテキン化合物
【0042】
【化15】

【0043】
からなる群の中から選ばれる化合物を有効成分として含むことを特徴とする脂肪代謝改善剤を提供する。
【0044】
本発明者は、前記の抽出液又は抽出エキスを分離、精製して得られた成分(化合物)について、詳細な探索等を行いその構造を決定するとともに、ヒト肝癌細胞HepG2を使用して、肝細胞内の中性脂肪含量に与える影響を検討した結果、いくつかの化合物が脂肪代謝改善作用を有することを見いだした。そして、この脂肪代謝改善作用を有する化合物は、前記構造式(1)〜(15)のいずれかで表される構造であることが判明した。本発明の第2の態様は、この脂肪代謝改善作用を有する化合物の中から選ばれた1又は2以上の化合物を有効成分として利用することによる脂肪代謝改善剤である。
【0045】
本発明の第2の態様は、この脂肪代謝改善作用を有する化合物の中から選ばれた1又は2以上の化合物を有効成分として利用することによる脂肪代謝改善剤である。第2の態様の脂肪代謝改善剤は、第1の態様の脂肪代謝改善剤より、さらに優れた脂肪代謝改善作用を示す。
【0046】
前記の第1の態様、第2の態様の脂肪代謝改善剤は、肝細胞中の中性脂肪含量を低減させることにより、各種生活習慣病(肥満症、糖尿病、メタボリック症候群、高脂血症等)の改善または予防効果を有する。従って、この脂肪代謝改善剤を医薬や食品に適用することにより、優れた脂肪代謝改善効果を有し、前記の改善または予防効果を奏する医薬や健康食品を製造することができる。
【0047】
そこで、本発明はその第3の態様として、前記の第1の態様又は第2の態様の脂肪代謝改善剤、すなわち、請求項1又は請求項2に記載の脂肪代謝改善剤を含有することを特徴とするヒト又は動物用の医薬(請求項3)を提供する。又、その第4の態様として、前記の第1の態様又は第2の態様の脂肪代謝改善剤、すなわち、請求項1又は請求項2に記載の脂肪代謝改善剤を含有することを特徴とする食品(請求項4)を提供する。
【0048】
前記の構造式(1)で表されるフラボノイド化合物、8−メトキシケンフェロール3−O−α−L−ラムノピラノシル−(1→2)[β−D−グルコピラノシル(1→3)]−β−D−グルコピラノシド、は、新規な化合物である。そこで、本発明はその第4の態様として、構造式(1)で表されるフラボノイド化合物またはその塩を提供する。
【発明の効果】
【0049】
本発明の第1の態様及び第2の態様の脂肪代謝改善剤は、ヒト肝細胞由来の細胞であるHepG2細胞において中性脂肪量の低減作用を示し、脂肪代謝改善剤としての優れた生物活性を有する。そこで、この脂肪代謝改善剤を用いることにより、肝細胞中の中性脂肪含量を低減させることができ、中性脂肪含量の低減により、各種生活習慣病の改善または予防効果が期待される。特に、第2の態様の脂肪代謝改善剤はこの効果が大きい。
【0050】
この脂肪代謝改善剤を含有させた本発明の医薬(第3の態様)や食品(第4の態様)は、優れた脂肪代謝改善作用を示す医薬または食品であり、肝細胞中の中性脂肪含量を低減させる効果を有し、各種生活習慣病の改善または予防効果が期待されるものである。
【0051】
本発明の第5の態様である構造式(1)で表される新規なフラボノイド化合物は、脂肪代謝改善を有するものであり、それを有効成分として利用することにより、本発明の第2の態様である脂肪代謝改善剤となる。
【発明を実施するための形態】
【0052】
次に、本発明を実施するための最良の形態について説明するが、本発明の範囲はこの実施の形態のみに限定されるものではない。
【0053】
本発明の第1の態様の脂肪代謝改善剤としては、茶花(ツバキ科植物チャの花及び/又は花蕾)そのものを用いたものを例示することができる。茶花そのものを用いる方法としては、未乾燥の茶花をそのまま用いる方法、茶花に粉砕、破砕、切断、すりつぶし等の形状変化を行って用いる方法、又は、茶花に乾燥等の調製を実施したものを用いる方法を例示することができる。
【0054】
本発明の第1の態様の脂肪代謝改善剤としては、茶花を水、低級脂肪族アルコールもしくは低級脂肪族アルコールの含水物により抽出して得られる抽出液も例示することができる。さらに、前記抽出液を濃縮した抽出エキスも例示することができる。
【0055】
この抽出液は、茶花をそのまま、水、低級脂肪族アルコール及び低級脂肪族アルコールの含水物より選ばれる抽出溶媒により、抽出して得ることもできるが、茶花を粉砕、破砕、切断またはすりつぶし等による形状変化を行ったものを用いて抽出する方法が、抽出効率の面で望ましい。
【0056】
抽出溶媒として用いられる低級脂肪族アルコールとしては、炭素数1〜4の低級アルコール類が挙げられ、具体的には、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、t−ブタノール又はこれらの混液が挙げられる。抽出溶媒としては、好ましくは、これらの低級脂肪族アルコール、又はこれらの低級脂肪族アルコールに30容量%までの水を含有する含水アルコールが用いられる。前記のアルコールの中でもメタノール又はエタノールが好ましい。これらの抽出溶媒は、抽出材料に対して、1〜50倍(重量)程度、好ましくは10〜30倍程度用いられる。
【0057】
抽出温度は、室温〜溶媒の沸点の間で任意に設定できるが、例えば50℃〜抽出溶媒の沸点の温度で、振盪下もしくは非振盪下または還流下に、前記の抽出材料、即ち、茶花そのもの、又は、それを粉砕、破砕、切断、すりつぶし等による形状変化を行ったもの等を、前記の抽出溶媒に浸漬することにより行うのが適当である。
【0058】
好ましい抽出時間は、抽出温度や抽出の際の振盪の有無等により変動し、特に限定されない。例えば、抽出材料を振盪下に浸漬する場合には、30分間〜10時間程度行うのが適当であり、非振盪下に浸漬する場合には、1時間〜20日間程度行うのが適当である。又、抽出溶媒の還流下に抽出するときは、30分間〜数時間加熱還流するのが好ましい。なお、50℃より低い温度で浸漬して抽出することも可能であるが、その場合には、前記の時間よりも長時間浸漬するのが好ましい。抽出操作は、同一材料について1回だけ行ってもよいが、複数回、例えば2〜5回程度繰り返すのが好ましい。
【0059】
前記の抽出工程により得られた抽出液には茶花の含有成分が溶出されている。本発明の脂肪代謝改善剤には、このようにして得られた抽出液をそのまま加えてもよいが、前記抽出液を濃縮して抽出エキスにして脂肪代謝改善剤としてもよい。濃縮は、低温で減圧下に行うのが好ましい。なお、濃縮する前に濾過して濾液を濃縮してもよい。
【0060】
抽出エキスは、濃縮したままの状態で脂肪代謝改善剤として用いることができる。また、濃縮は乾固するまで行ってもよく、粉末状又は凍結乾燥品等として用いてもよい。濃縮する方法、粉末状及び凍結乾燥品とする方法は、当該分野での公知の方法を用いることができる。
【0061】
このようにして得られる抽出液又は抽出エキスを、精製処理に付し、含有される各成分に分離することができる。そして、分離された成分中には、脂肪代謝改善作用を有する化合物、具体的には、構造式(1)〜(15)のいずれかで表される化合物が含まれており、これらも脂肪代謝改善剤として用いることができ(本発明の第2の態様)、この脂肪代謝改善剤は、前記の第1の態様の脂肪代謝改善剤より、脂肪代謝改善作用が大きいものである。
【0062】
精製処理は、例えば、クロマトグラフ法、イオン交換樹脂を使用する溶離法、溶媒による分配抽出等を単独又は組み合わせて採用することができる。クロマトグラフ法としては、順相クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー、薄層クロマトグラフィー、遠心液体クロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー等を挙げることができ、これらのいずれか又はそれらを組み合わせで行う方法が挙げられる。この際の担体、溶出溶媒等の精製条件は、各種クロマトグラフィーに対応して適宣選択することができる。
【0063】
本発明の第1の態様及び第2の態様の脂肪代謝改善剤は、脂肪代謝改善剤としての活性評価の指標として実施した、ヒト肝がん由来細胞であるHepG2細胞を用いた細胞内脂肪代謝促進作用試験において活性が見出された。特に第2の態様の脂肪代謝改善剤は活性が大きかった。
【0064】
この細胞内脂肪代謝促進作用試験は、ヒト肝がん由来細胞であるHepG2細胞を用い、高濃度グルコースを含む培地にて培養し細胞内に脂肪を蓄積させた後、培地を、低濃度グルコース含有培地へ交換するとともに被検サンプルを添加し、培養後の細胞内トリグリセリド残存量を脂肪代謝の指標として評価するものである。この試験により、肝細胞における脂肪代謝促進作用の高い検体は、肝臓における脂肪代謝を改善すると判断される。
【0065】
本発明の第1の態様及び第2の態様の脂肪代謝改善剤は、そのままの状態で、又は適当な媒体で希釈して、医薬品等の製造分野における公知の方法により、散剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤又は液剤等の種々の形態にして、ヒト又は動物用の医薬(本発明の第3の態様)として用いることができる。
【0066】
種々の形態にする場合においては、適当な媒体を添加してもよい。適当な媒体としては、医薬的に許容される賦形剤、例えば結合剤(例えばシロップ、アラビアゴム、ゼラチン、ソルビトール、トラガント又はポリビニルピロリドン)、充填剤(例えば乳糖、砂糖、トウモロコシ澱粉、リン酸カルシウム、ソルビトール又はグリシン)、錠剤用滑剤(例えばステアリン酸マグネシウム、タルク、ポリエチレングリコール又はシリカ)、崩壊剤(例えば馬鈴薯澱粉)又は湿潤剤(例えばラウリル硫酸ナトリウム)等が挙げられる。
【0067】
錠剤とする場合は、通常の製薬における周知の方法でコートしてもよい。液体製剤の場合は、例えば水性又は油性の懸濁液、溶液、エマルジョン、シロップ又はエリキシルの形態であってもよい。又、使用前に水や他の適切な賦形剤と混合する乾燥製品として提供してもよい。
【0068】
こうした液体製剤は、通常の添加剤、例えば、ソルビトール、シロップ、メチルセルロース、グルコースシロップ、ゼラチン水添加食用脂等の懸濁化剤、レシチン、ソルビタンモノオレエート、アラビアゴム等の乳化剤(食用脂を含んでもよい)、アーモンド油、画分ココヤシ油又はグリセリン、プロピレングリコールやエチレングリコールのような油性エステル等の非水性賦形剤、p−ヒドロキシ安息香酸メチルもしくはプロピル又はソルビン酸等の保存剤、を含んでもよく、さらに所望により着色剤又は香料等を含んでもよい。
【0069】
本発明の第1の態様及び第2の態様の脂肪代謝改善剤を、それぞれ単独で又は混合物として食品に含有させることにより、食品に脂肪代謝改善効果を与えることができる(本発明の第4の態様)。ここで言う食品には健康食品も含まれる。
【0070】
ここで健康食品とは、通常の食品よりも積極的な意味で、保健、健康維持・増進等を目的とした食品を意味する。食品又は健康食品の形態としては、例えば、液体又は半固形、固形の製品、具体的には散剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤又は液剤等のほか、クッキー、せんべい、ゼリー、ようかん、ヨーグルト、まんじゅう等の菓子類、清涼飲料、お茶類、栄養飲料、スープ等の形態が挙げられる。これらの食品の製造工程において、あるいは最終製品に、前記の抽出物、抽出エキス、及び/又は化合物を混合又は塗布、噴霧等により添加して、健康食品とすることができる。
【0071】
本発明の医薬又は食品における、前記抽出液、抽出エキス、前記構造式(1)から(15)のいずれかで表される化合物の使用量は、濃縮、精製の程度、活性の強さ等、使用目的、対象疾患や自覚症状の程度、使用者の体重、年齢等によって適宣調整される。例えば、医薬として成人について使用する場合は、1回の投与毎に、抽出液又は抽出エキスでは、1mg〜20g程度の範囲で使用し、この範囲内で精製度や水分含量等に応じて調整することが適当な場合が多い。又、前記化合物を使用する場合は、1mg〜1g程度が適当な場合が多い。
【0072】
また、食品や健康食品として使用する場合は、食品の味や外観に悪影響を及ぼさない量、例えば、対象となる食品1kgに対して、前記抽出液、抽出エキス、前記構造式(1)から(15)のいずれかで表される化合物を、1mg〜20g程度の範囲で添加することが適当な場合が多い。
【実施例】
【0073】
以下、実施例により、本発明をさらに具体的に説明するが、実施例は本発明の範囲を限定するものではない。なお、以下の実施例では、特に記載がない限り、以下に示す各種溶媒、濾紙、クロマトグラフィー用担体及びHPLCカラムを用いた。また、特に明記しない試薬については、和光純薬工業社製試薬(特級)を用いた。
【0074】
[溶媒]
メタノール:ナカライテスク社製、一級
HPLC用メタノール:関東化学社製、特級
【0075】
[濾紙] アドバンテック社製:No.2
【0076】
[クロマトグラフィー用担体]
順相シリカゲルカラムクロマトグラフ用担体:富士シリシア社製、BW−200,150〜300メッシュ
逆相ODSカラムクロマトグラフ用担体:富士シリシア社製、Chromatorex ODS1020T,100〜200メッシュ
多孔質ポリマーカラムクロマトグラフ用担体:日本練水社製、ダイアイオンHP−20
【0077】
[HPLCカラム] YMC社製、YMC Pack−ODS−A、20mm(i.d.)×250mm
【0078】
実施例1 茶花抽出物の調整
福建省産茶花(Camellia sinensis)5.07kgを、50(10倍量)kgのメタノールで3時間還流下抽出し、その後抽出液を濾取し、メタノール抽出液を得た。濾過残渣にメタノールを加え、同様の抽出操作を計3回行い、それぞれメタノール抽出液を得た。得られたメタノール抽出液を合わせた後、減圧下溶媒留去しメタノール抽出エキス(1173.7g、植物からの収率23.1%。)を得た。
【0079】
実施例2 茶花抽出物の分離及び精製
実施例1で得られたメタノール抽出エキス(1032.5g)を、酢酸エチル(AcOEt)と水で分配抽出した。得られたAcOEt移行部を減圧下溶媒留去し、AcOEt可溶部(149.7g、植物からの収率3.3%)を得た。さらに、水可溶部をDiaion HP−20カラムクロマトグラフィーに付し、水及びメタノールで順次、成分を溶出させて水溶出部(471.6g、植物からの収率10.5%)及びメタノール溶出部(373.4g、植物からの収率8.3%)を得た。
【0080】
実施例3 AcOEt可溶部の精製
AcOEt可溶部(40g)を、順相シリカゲルカラムクロマトグラフィー[2.0kg、n−ヘキサン:酢酸エチル=(10:1→5:1→1:1→1:10)→クロロホルム→クロロホルム:メタノール=(5:1→1:1)→メタノール]で順次溶出し、溶出画分E1(7.6g)、E2(9.5g)、E3(1.8g)、E4(2.2g)、E5(3.9g)、E6(17.5g)、E7(2.9g)、E8(17.3g)、E9(2.5g)及びE10(2.1g)を得た。
【0081】
実施例4
溶出画分E5(3.9g)を、逆相ODSカラムクロマトグラフィー[120g、メタノール:水=(10:90→30:70→70:30→メタノール)にて画分し、溶出画分E5−1(332.0mg)、E5−2(46.0mg)、E5−3(234.4mg)、E5−4(143.0mg)、E5−5(352.5mg)、E5−6(457.7mg)、E5−7(40.4mg)、E5−8(146.2mg)、E5−9(149.2mg)、E5−10(101.1mg)、E5−11(82.1mg、0.0039%(茶花5.07kgからの化合物の単離収率。以下同様)、化合物(11)とする。)、E5−12(56.5mg)、E5−13(310mg)及びE5−14(1.7g)を得た。
【0082】
画分E5−5(352.5mg)を逆相HPLC[移動相 MeOH:水=30:70、1%酢酸]を用いて分離精製し、化合物(13)(47.3mg、0023%)を単離した。さらに画分E5−6(457.7mg)を逆相HPLC[移動相 MeOH:水=30:70、1%酢酸]を用いて分離精製し化合物(14)(77.4mg、0.0037%)を単離した。また、画分E5−10(101.1mg)を逆相HPLC[移動相 MeOH:水=50:50、1%酢酸]を用いて分離精製し化合物(12)(66.1mg、0.0032%)を得た。
【0083】
実施例5
溶出画分E6(17.5g)を、逆相ODSカラムクロマトグラフィー[600g、メタノール:水=(20:80→40:60→50:50→70:30→メタノール)にて画分し、溶出画分E6−1(804.2mg)、E6−2(245.3mg)、E6−3(241.5mg)、E6−4(2.6g)、E6−5(1.8g)、E6−6(2.2g)、E6−7(843.9mg)、E6−8(484.2mg)、E6−9(653.2mg)、E6−10(807.6mg)、E6−11(401.4mg)、E6−12(357.8mg)、E6−13(371.5mg)、E6−14(4.5g)を得た。画分E6−6(500mg)を逆相HPLC[移動相 MeOH:水=30:70、1%酢酸]を用いて分離精製し、化合物(15)(25.0mg、0.0053%)を単離した。
【0084】
実施例6 MeOH溶出部の精製
MeOH溶出部(160.2g)を、順相シリカゲルカラムクロマトグラフィー[3.0kg、クロロホルム:MeOH:水=10:3:1(下層)→6:4:1(下層)→MeOH]で順次溶出させて、溶出画分M1(18.7g)、M2(7.0g)、M3(22.7g)、M4(97.9g)、M5(7.5g)を得た。
【0085】
実施例7
溶出画分M3(22.7g)を、逆相ODSカラムクロマトグラフィー[700g、メタノール:水=(40:60→60:40→80:20→メタノール)にて画分し、溶出画分M3−1(3.68g)、M3−2(0.91g)、M3−3(5.10g)、M3−4(5.58g)、M3−5(2.78g)を得た。さらに得られた画分M3−3(500mg)を、逆相HPLC[移動相 MeOH:水=40:60、1%酢酸]を用いて分離精製し、化合物(2)(6.0mg、0.0032%)、化合物(3)(11.7mg、0.0062%)、化合物(4)(19.9mg、0.0106%)、化合物A(94.6mg、0.0504%)、化合物(5)(39.5mg、0.0211%)を得た。
【0086】
実施例8
溶出画分M4(97.9g)を、逆相ODSカラムクロマトグラフィー[3.0kg、メタノール:水=(50:50→70:30→メタノール)にて画分し、溶出画分M4−1(26.2g)、M4−2(4.60g)、M4−3(22.5g)、M4−4(39.7g)、M4−5(8.60g)を得た。さらに得られた画分M4−1(500mg)を、逆相HPLC[移動相 MeOH:水=40:60、1%酢酸]を用いて分離精製し、化合物(6)(7.6mg、0.021%)、化合物(7)(8.3mg、0.023%)、化合物B(15.3mg、0.042%)、化合物(8)(17.3mg、0.047%)、化合物(9)(139.1mg、0.381%)、化合物(10)(10.2mg、0.0028%)及び化合物(1)(9.8mg、0.027%)を得た。
【0087】
実施例9
実施例4、5で得られた化合物(11)〜(15)、並びに、実施例7、8で得られた化合物(1)〜(10)及び化合物A、Bについて、H−NMR及び13C−NMR等の測定を行った。それらの測定値と、公知文献記載の物理化学的データの数値との比較から、化合物(2)〜(15)及び化合物A、Bは、それぞれ、以下に示す公知化合物であることが確認された。それぞれの構造及び[]内に化合物名を示す。
【0088】
・化合物(2):前記の構造式(2)で表される化合物[ケルセチン3−O−β−D−ガラクトピラノシド]
・化合物(3):前記の構造式(3)で表される化合物[ケルセチン3−O−β−D−グルコピラノシド]
・化合物(4):前記の構造式(4)で表される化合物[ケンフェロール3−O−β−D−ガラクトピラノシド]
・化合物(5):前記の構造式(5)で表される化合物[ケンフェロール3−O−β−D−グルコピラノシド]
・化合物(6):前記の構造式(6)で表される化合物[ルチン]
・化合物(7):前記の構造式(7)で表される化合物[アピゲニン6C−β−D−グルコピラノシル8C−α−L−アラビノシド]
【0089】
・化合物(8):前記の構造式(8)で表される化合物[ケンフェロール3−O−β−D−グルコピラノシル−(1→3)−α−L−ラムノピラノシル−(1→6)−β−D−グルコピラノシド]
・化合物(9):前記の構造式(9)で表される化合物[ケンフェロール3−O−β−D−グルコピラノシル−(1→3)−α−L−ラムノピラノシル−(1→6)−β−D−ガラクトピラノシド]
・化合物(10):前記の構造式(10)で表される化合物[ミリセチン3−O−β−D−ガラクトピラノシド]
・化合物(11):前記の構造式(11)で表される化合物[ケンフェロール]
・化合物(12):前記の構造式(12)で表される化合物[ケルセチン]
・化合物(13):前記の構造式(13)で表される化合物[(−)−エピカテキン]
・化合物(14):前記の構造式(14)で表される化合物[(−)−エピカテキン3−O−ガレート]
・化合物(15):前記の構造式(15)で表される化合物[(−)−エピガロカテキン3−O−ガレート]
【0090】
・化合物(A):[ケンフェロール3−O−ルチノシド]
・化合物(B):[ケルセチン3−O−ネオヘスペリドシド]
【0091】
化合物(1)についての質量分析、赤外吸収スペクトル、H−NMR及び13C−NMR等の測定結果を以下に示す。これらの測定結果から、化合物(1)は、前記の構造式(1)で表される新規化合物:8−メトキシケンフェロール3−O−α−L−ラムノピラノシル−(1→2)[β−D−グルコピラノシル(1→3)]−β−D−グルコピラノシド(8−Methoxykaempferol 3−O−α−L−rhamnopyranopsyl−(1→2)[β−D−glucopyranosyl(1→3)]−β−D−glucopyranoside)であることが決定された。
【0092】
・性状:黄色不定形粉末
・旋光度:[α]26: −38.9°(c=1.35,MeOH)
・紫外吸収スペクトル[MeOH,nm,(log ε)]:272.5(4.12)
・高分解能質量分析(High−resolution FAB−MS):
理論値 C345021Na [M+Na]: 809.2116
実測値 : 809.2112
・赤外吸収スペクトル(KBr,cm−1): 3469、1686、1541、1076
・Pos.FAB−MS:m/z 809[M+Na]
・Neg.FAB−MS:m/z 785[M−H]、623[M−C12、315[M−C183114
【0093】
・核磁気共鳴スペクトル:化合物(1)のH−NMR(600MHz:測定溶媒:ジメチルスルホキシド−d)及び13C−NMR(125MHz:測定溶媒:ジメチルスルホキシド−d)の測定値を以下の表1及び2にそれぞれ示す。なお、以下のH−NMR及び13C−NMRによる構造解析に用いたナンバリングは、次式に基づいている。
【0094】
【化16】

【0095】
【表1】

【0096】
【表2】

【0097】
実施例10 HepG2細胞を用いた脂肪代謝促進作用試験
実施例1、2で得られたメタノール抽出エキス、AcOEt可溶部、メタノール溶出部及び水溶出部、実施例4、5で得られた化合物(11)〜(15)、並びに、実施例7、8で得られた化合物(1)〜(10)及び化合物A、Bについて、脂肪代謝改善作用の指標として、HepG2細胞を用いた細胞内脂肪代謝促進作用試験を実施した。試験方法を以下に示す。
【0098】
[細胞内脂肪代謝促進作用試験]
大日本住友製薬より購入したヒト肝がん由来HepG2細胞を用いた。培地はminimum essential medium Eagle(MEM,シグマ−アルドリッチ社)に、10%(v/v)fatal calf serum(FCS)及び100units/mLペニシリンG、100μg/mLストレプトマイシン及び0.1mM非必須アミノ酸(インビトロジェン社)を添加して使用した。細胞の培養は、75cm培養フラスコ(ファルコン社)中で行い、5%CO雰囲気下37℃にて行った。継代操作は,培養した細胞をダルベッコPBS(−)(日水製薬社)で洗浄した後、0.02%(w/v)トリプシン(ディフコ社)及び0.05%(w/v)EDTA・2Na(同人化学社)を含むPBS(−)により剥離して、定法に従い行った。
【0099】
HepG2細胞を10cells/well(200μL/well)の細胞密度で48穴培養プレート(住友ベークライト社)に播種して実験を行った。培養1日後、高濃度グルコース(4500mg/L)含有DMEM(DULBECCO’S MODIFIED EAGLE’S MEDIUM)(200μL/well)に培地交換して計6日間(2日に1回培地を交換)培養した。高濃度グルコース含有DMEMによる培養終了後、被験サンプルを添加した低濃度グルコース(1000mg/L)含有DMEM(200μL/well)に培地交換して、さらに20時間培養した。
【0100】
培養期間終了後、培養上清を除去、次いで蒸留水(100μL/well)を加え、超音波破砕機にて細胞を破砕して細胞破砕液を得た。得られた細胞破砕液の中性脂肪濃度及びタンパク質濃度は、それぞれ市販キットであるトリグリセリドEテストワコー(和光純薬工業社)及びBCAprotein assay kit(Thermo社)を使用して定量した。尚、定量結果については、タンパク質あたりの中性脂肪量(下表のTG/Protein)で算出し、対照群に対する相対値(% of control)として表し、表3及び4に示した。なお、表3及び4中のTG/proteinの値は、平均値±標準誤差(N=4(対照群はN=8))で表記し、末尾の符号「*」及び「**」は、Dunnettの多重比較検定で検定した対照との有意差:pがそれぞれ0.05及び0.01未満であったことを表す。
【0101】
【表3】

【0102】
【表4】

【0103】
なお、化合物A(ケンフェロール3−O−ルチノシド)及び化合物B(ケルセチン3−O−ネオヘスペリドシド)についても、前記と同様にして細胞内脂肪代謝促進作用試験を行ったが活性は確認されなかった。
【0104】
表3及び表4の結果より、茶花から調製されたAcOEt可溶部、水溶出部、及び構造式(1)、(2)、(3)、(4)、(5)、(6)、(7)、(8)、(9)、(10)、(11)、(12)、(13)、(14)、及び(15)で表される化合物は、HepG2細胞を用いた脂肪代謝促進作用試験において有意な脂肪代謝改善作用あるいは脂肪代謝改善傾向を有することがわかる。従って、これらを有効成分として利用することにより、脂肪代謝改善剤が得られることが示されている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チャの花もしくは花蕾、水、低級脂肪族アルコールもしくは低級脂肪族アルコールの含水物によりチャの花もしくは花蕾を抽出して得られる抽出液、又は前記抽出液を濃縮して得られる抽出エキス、を有効成分として含むことを特徴とする脂肪代謝改善剤。
【請求項2】
下記の構造式(1)で表されるフラボノイド化合物
【化1】


下記の構造式(2)で表されるフラボノイド化合物
【化2】


下記の構造式(3)で表されるフラボノイド化合物
【化3】


下記の構造式(4)で表されるフラボノイド化合物
【化4】


下記の構造式(5)で表されるフラボノイド化合物
【化5】


下記の構造式(6)で表されるフラボノイド化合物
【化6】


下記の構造式(7)で表されるフラボノイド化合物
【化7】


下記の構造式(8)で表されるフラボノイド化合物
【化8】


下記の構造式(9)で表されるフラボノイド化合物
【化9】


下記の構造式(10)で表されるフラボノイド化合物
【化10】


下記の構造式(11)で表されるフラボノイド化合物
【化11】


下記の構造式(12)で表されるフラボノイド化合物
【化12】


下記の構造式(13)で表されるカテキン化合物
【化13】


下記の構造式(14)で表されるカテキン化合物、及び
【化14】


下記の構造式(15)で表されるカテキン化合物
【化15】


からなる群の中から選ばれる化合物を有効成分として含むことを特徴とする脂肪代謝改善剤。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の脂肪代謝改善剤を含有することを特徴とするヒト又は動物用の医薬。
【請求項4】
請求項1又は請求項2記載の脂肪代謝改善剤を含有することを特徴とする食品。
【請求項5】
下記の構造式(1)で表されるフラボノイド化合物。
【化16】


【公開番号】特開2011−51950(P2011−51950A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−204012(P2009−204012)
【出願日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 発行者 :社団法人 日本農芸化学会 刊行物名:日本農芸化学会2009年度(平成21年度)大会講演要旨集 発行日 :2009年3月5日
【出願人】(000125347)学校法人近畿大学 (389)
【出願人】(304026180)株式会社ダイアベティム (12)
【Fターム(参考)】