説明

脂肪代謝改善効果を有する被験試料のスクリーニング方法

【課題】 生体内での脂肪の代謝を促進する物質を、より簡便かつ安価にスクリーニングする方法を提供すること。
【解決手段】 脂肪代謝改善効果を有する被験試料のスクリーニング方法を提供する。この方法は、脂肪代謝改善効果を有すると思われる試料を溶媒に溶解する工程、肝実質細胞に、該試料含有溶液を添加して培養する工程、該培養された肝実質細胞を破砕して上清を得る工程、該上清の中性脂質量を測定する工程、および該中性脂質量が、試料非含有溶液を添加して培養された肝実質細胞中の中性脂質量と比較して、低い値の試料を選別する工程を包含する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脂肪代謝改善効果を有する被験試料のスクリーニング方法および試料の脂肪代謝改善効果の測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、日本などの先進諸国を始め、急速な近代化および欧米化が進展しているアジア諸国(中国、インドなど)では、食生活やライフスタイルの変化に伴い、糖質の摂取量が減少し、脂肪およびタンパク質の摂取量が増加してきている。その結果、人口中に占める肥満者の数が増加をきたし、これに起因する生活習慣病(高血圧、糖尿病、高脂血症など)の罹患者も増加している。現在、肥満状態である者の改善を考えた場合、摂取エネルギーの低下も重要であるが、すでに体内に蓄積している脂肪をいかに低減するかが、より重要と考えられる。
【0003】
現在までに、脂肪の代謝や燃焼を促進したり、体脂肪の蓄積を抑制する素材として、藻類の抽出物(特許文献1)、果実ポリフェノール(特許文献2)、共役ポリエン脂肪酸(特許文献3)、特定のアミノ酸類とキサンチン誘導体の混合物(特許文献4)、大豆や卵黄のリン脂質(特許文献5)、ジテルペン化合物(特許文献6)等が提案されている。
【0004】
しかしながら、これらの素材を使用した場合、実際には肥満防止効果あるいは脂肪代謝効果が小さかったり、実用的ではない簡単な実験結果に基づくものであったり、あるいは通常の食事形態において多量に摂取しなければならないなどの実用上問題がある場合がある。このような問題点は、肥満防止効果あるいは脂肪代謝改善効果について検討方法が確立されていない点にある。
【0005】
脂肪代謝改善効果の有無の判断基準の1つに、脂肪の代謝・燃焼に関わる系として、核内受容体型転写因子の一種であるペルオキシソーム増殖剤活性化受容体(PPAR−α)の活性化が知られている。PPAR−αは、主に肝臓に発現する他、骨格筋や腎臓にも発現しており、内因性のリガンドや食事由来の外因性のリガンドにより、その活性化が制御されている転写因子である(例えば、非特許文献1〜3)。このPPAR−αが活性化すると、脂肪代謝が促進されることが知られている。現在、この転写因子PPAR−αの活性化を観察する方法として、例えば、レポータージーンアッセイ(例えば、非特許文献4)などが繁用されている。しかし、遺伝子の導入操作が必要であることなど、実験操作が煩雑なことや試薬が高価であることから、広く有用な物質を探索するうえでは不向きである。
【特許文献1】特開2000−72642号公報
【特許文献2】特開平10−330278号公報
【特許文献3】特開2000−355538号公報
【特許文献4】特開平10−330264号公報
【特許文献5】特開平10−84880号公報
【特許文献6】特表2001−508801号公報
【特許文献7】特開2001−57869号公報
【非特許文献1】Schoonjans K.ら、J. Lipid Res.、第37巻、 第907-925頁(1996)
【非特許文献2】Su J.L.ら、Hybridoma、第17巻、第47-53頁(1998)
【非特許文献3】Auboeuf D.ら、Diabetes、第46巻、第1319-1327頁(1997)
【非特許文献4】Takahashi N.ら、FEBS Lett.、第514巻、第315-322頁(2002)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、生体内での脂肪の代謝を促進する物質、特に肝臓内の脂肪の代謝を促進する物質を、より簡便かつ安価にスクリーニングする方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、脂肪代謝改善効果を有する物質のスクリーニング方法について検討した結果、試料含有溶液を肝実質細胞に添加して培養すると、試料によっては肝実質細胞中の中性脂質が減少し得、この減少量を測定することによって、試料の脂肪代謝改善効果を客観的に把握できること、そしてこの減少量により試料の脂肪代謝改善効果の有無を判断できることを見出して、本発明を完成するに至った。
【0008】
本発明は、脂肪代謝改善効果を有する被験試料のスクリーニング方法を提供し、この方法は、脂肪代謝改善効果を有すると思われる試料を溶媒に溶解する工程、肝実質細胞に、該試料含有溶液を添加して培養する工程、該培養された肝実質細胞を破砕して上清を得る工程、該上清の中性脂質量を測定する工程、および該中性脂質量が、試料非含有溶液を添加して培養された肝実質細胞中の中性脂質量と比較して、低い値の試料を選別する工程を包含する。
【0009】
好ましい実施態様においては、上記肝実質細胞は、マウス肝初代培養細胞である。
【0010】
本発明はまた、試料の脂肪代謝改善効果の測定方法を提供し、この方法は、試料を溶媒に溶解する工程、肝実質細胞に、該試料含有溶液を添加して培養する工程、該培養された肝実質細胞を破砕して上清を得る工程、および該上清の中性脂質量を測定する工程を包含する。
【0011】
好ましい実施態様においては、上記肝実質細胞は、マウス肝初代培養細胞である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の脂肪代謝改善効果を有する被験試料のスクリーニング方法は、肝実質細胞に蓄積された脂肪の減少量を直接的に観察することによって試料の脂肪代謝改善効果の有無を判断するため、脂肪代謝改善に有効な試料をより効率的にスクリーニングすることができる。さらに、本発明のスクリーニング方法は、脂肪代謝改善に有効な試料の中でも、特にPPAR−αの活性化に寄与する試料のスクリーニングに有用である。本発明のスクリーニング方法は、従来の試料によるPPAR−αの活性化を観察する方法に比べて、特殊な試薬、設備、および手技を必要とせず、簡便でかつ安価な方法である。本発明の試料の脂肪代謝改善効果の測定方法は、簡便かつ安価に試料の脂肪代謝改善効果を客観的に把握することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
(脂肪代謝改善効果を有する被験試料のスクリーニング方法)
本発明の脂肪代謝改善効果を有する被験試料のスクリーニング方法は、脂肪代謝改善効果を有すると思われる試料を溶媒に溶解させ、この試料含有溶液を肝実質細胞に添加して培養し、培養後に測定される肝実質細胞中の中性脂質量が、試料非含有溶液を添加して培養された肝実質細胞中の中性脂質量と比較して低い値の試料を選別することによって行われる。
【0014】
(1)試料
本発明の方法によってスクリーニング可能な試料は、脂肪代謝改善効果を有すると思われる試料であれば特に制限なく使用することができる。このような試料としては、例えば、動植物(例えば、ハーブなど)自体あるいはこれらの抽出物などが挙げられる。特に、ハーブまたはハーブ抽出物が試料として好適である。
【0015】
上記試料として、植物自体を用いる場合は、植物の部位(植物全体、葉、花、茎、鱗茎、根、種子、種皮など)の乾燥物、破断物、破砕物、細断物、あるいはこれらを粉末化した乾燥粉末、乾燥物を粉砕後成形したものなどのいずれの形態であってもよい。
【0016】
本明細書において、抽出物とは、上記動植物を極性または非極性溶媒で抽出して得られる抽出液、その希釈液、濃縮液またはペースト状で、あるいは、さらにこれらを乾燥した乾燥物などの種々の形態の乾燥物を意味する。
【0017】
上記試料を、溶媒に溶解させて試料含有溶液を調製する。使用される溶媒は、例えば、ジメチルスルホキシド(DMSO)、水、エタノールなどが好適に用いられる。試料の濃度は、通常、溶液中に0.0001質量%〜0.1質量%、好ましくは0.001質量%〜0.03質量%の範囲で調製される。
【0018】
(2)肝実質細胞
本発明の方法には、肝実質細胞が用いられる。肝実質細胞は、肝臓の70%を占める直径約30μmの細胞である。この肝実質細胞を用いることによって、試料の脂肪代謝改善効果の有無を、体内(肝実質細胞)に蓄積された脂肪の減少量の直接的な観察により判断することができるため、脂肪代謝改善に有効な試料のより効率的にスクリーニングが可能である。
【0019】
本発明に用いられる肝実質細胞は、特に制限されないが、入手容易な点(飼育場所、安価など)からマウス肝初代培養細胞が好適に用いられる。肝実質細胞の採取は、例えば、コラゲナーゼ灌流法を用いたSeglenの方法(Seglem P.O., Methods Cell Biol., 13, 29-83 (1976))に準じて行うことができる。
【0020】
肝実質細胞は、予備培養することが好ましい。予備培養は、例えば、10(v/v)%のウシ胎児血清、100unit/mLのペニシリン、および100μg/mLのストレプトマイシンを添加した液体培地(シグマ社製WILLIAM'S MEDIUM Eなど)に、肝実質細胞を懸濁させ、5%二酸化炭素存在下で行われる。培養温度および培養時間は、目的とする肝実質細胞の培養プレートへの定着の程度に応じて、例えば、100,000個/200μL培地程度となるように適宜設定され得る。好ましくは、37℃にて1時間予備培養される。
【0021】
(3)スクリーニング方法
本発明のスクリーニング方法は、具体的には、以下のようにして行われる。まず、上記試料含有溶液を肝実質細胞に添加して培養し、培養後の肝実質細胞中の中性脂質量を測定する(試料添加中性脂質量という)。これとは別に、試料含有溶液に用いた溶媒(試料非含有溶液)を肝実質細胞に添加したこと以外は、上記と同様にして培養した肝実質細胞中の中性脂質量を測定する(試料非添加中性脂質量という)。そして、これらの試料添加中性脂質量の測定値と試料非添加中性脂質量の測定値との比較を行い、試料添加中性脂質量が試料非添加中性脂質量に比べて低ければ、上記試料は脂肪代謝改善効果を有するとし、逆に試料添加中性脂質量が高ければ、上記試料は脂質代謝改善効果を有しないとすることによってスクリーニングを行う。本発明のスクリーニング方法は、内臓脂肪、特に肝臓内脂肪を直接的に減少させる試料を簡便にスクリーニングすることができるため、極めて有用である。なお、内臓脂肪というときは、腹腔内にある肝臓、腎臓、膵臓、腸などの内臓、これらの内臓の周辺(例えば、腎臓周囲、腸間膜周辺)の脂肪、および副睾丸脂肪を含めた脂肪を意味する。
【0022】
培養は、48(6×8)ウェル培養プレート中で行われ、例えば、肝実質細胞を含む予備培養液を、試料含有溶液を含む培地に添加して、5%〜10%、好ましくは5%二酸化炭素存在下で保持することによって行われる。上記培養に用いられる培地は、肝実質細胞が生存し得る培地であれば特に制限はないが、予備培養で用いた培地と同じ培地を用いることが好ましい。この培地に、通常、試料含有溶液が0.5容量%(v/v)含まれるように調製される。
【0023】
培養温度および時間は、肝実質細胞が生存し得る範囲内であれば、特に制限されない。通常、36℃〜37℃にて16時間〜48時間培養される。中性脂肪量の減少をより明確に判断する点から、好ましくは37℃にて16時間〜20時間、より好ましくは37℃にて20時間程度培養される。
【0024】
培養後、肝実質細胞と培地とを分離して肝実質細胞を回収する。分離は、遠心分離、濾過などの当業者が通常用いる分離方法が採用され得る。遠心分離を行う場合、例えば、2000rpmにて10分間行うことによって肝実質細胞が確実に沈澱するため、容易に上清(培地)を除去することができる。このようにして肝実質細胞が回収される。
【0025】
次いで、肝実質細胞中の中性脂質量を測定するために、蒸留水100μL〜500μL、好ましくは120μLを各ウェルに添加した後、回収された肝実質細胞を破砕して上清を得る。破砕には、通常、超音波処理などの方法が用いられる。破砕後、遠心分離、濾過などにより上清を回収する。
【0026】
得られた上清の中性脂質量を測定する。測定方法に特に制限はなく、当業者が通常用いる測定方法が採用され得る。例えば、和光純薬社製試薬トリグリセライドEテストワコーを用いることによって、上清中の中性脂肪量を簡便に定量することができる。
【0027】
このようにして得られた中性脂質量(試料添加中性脂質量)と、試料含有溶液の代わりに溶媒(試料非含有溶液)を肝実質細胞に添加したこと以外は、上記と同様の操作で得られた試料非添加中性脂質量とを比較する。その結果、試料添加中性脂肪量が、試料非添加中性脂肪量に比べて低い値を示した試料を、脂肪代謝改善効果を有する被験試料としてスクリーニングする。なお、試料添加中性脂質量と試料非添加中性脂質量とを比較する際の判断基準として、例えば、以下の式により算出された細胞内中性脂質含量(%)を用いてもよい。この場合、細胞内中性脂質含量が100%未満の試料を、脂肪代謝改善効果を有する被験試料としてスクリーニングすることができる。
【0028】
【数1】

【0029】
(試料の脂質代謝改善効果の測定方法)
本発明はまた、試料の脂質代謝改善効果の測定方法を提供する。この方法は、試料を溶媒に溶解する工程、肝実質細胞に、該試料含有溶液を添加して培養する工程、該培養された肝実質細胞を破砕して上清を得る工程、および該上清の中性脂質量を測定する工程を包含する。具体的には、上記スクリーニング方法と同様に、試料含有溶液を用いた肝実質細胞中の中性脂質量(試料添加中性脂質量)と、試料非含有溶液を用いた肝実質細胞中の中性紙質量(試料非添加中性脂質量)とを測定する。そして、例えば上記式により細胞内中性脂質含量(%)を算出する。この細胞内中性脂質含量(%)の値が小さいほど、体内の脂肪を減少させる効果が高く、脂肪代謝改善効果が高い試料である。
【実施例】
【0030】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、各実施例においての試験群と対照群との有意差検定には、Dunnettの多重比較検定を用いて行った。この検定結果は、各表において、危険率(p)が0.05以下である場合を有意とし、有意な場合、末尾に*:p<0.05および**:p<0.01の符号を付して表記する。
【0031】
(実施例1:測定方法の有効性の確認)
PPAR-αリガンドとして脂質代謝改善効果を有する既知のフェノフィブレート(fenofibrate)を用いて、本発明の方法が脂質代謝改善効果の測定方法として有効であることの確認試験を以下のようにして行った。まず、フェノフィブレートをジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解し、表1に示す種々の抽出物濃度に調製して、試料溶液とした。
【0032】
これとは別に、Seglenの方法(Seglen P. O., Methods Cell Biol., 13, 29-83 (1976))に準じ、コラゲナーゼ灌流法により、マウス肝初代培養細胞から肝実質細胞を単離した。また、シグマ社製液体培地 WILLIAM'S MEDIUM E に対して10%(v/v)のウシ胎仔血清、100units/mLのペニシリン、および100μg/mLのストレプトマイシン(いずれも、Life Technologies社製)を添加した培地(以下、培地A)を調製した。上記肝実質細胞(以下、単に「肝細胞」という)を、上記培地A中に懸濁し、100,000個/培地200μL/ウェルとなるように、48ウェル培養プレート(住友ベークライト)に播種し、5%二酸化炭素存在下、37℃にて1時間予備培養した。
【0033】
予備培養後、各ウェルに、上記調製した各試料溶液 (DMSO溶液) を1%(v/v)含む培地Aを200μL添加して(合計400μL/ウェル、DMSO最終濃度0.5%(v/v))、さらに5%二酸化炭素存在下、37℃にて20時間培養した。なお、試料溶液を1%(v/v)含む培地Aの代わりに、DMSOのみを含む培地Aを添加した群(DMSO最終濃度0.5%(v/v))を対照群(コントロール)として設けた。
【0034】
培養後、培養プレートを遠心分離(2,000rpm、10分)して肝細胞を底面に沈降させた後、上清(培地)を除去し、各ウェルに蒸留水を120μLづつ添加し、ついで超音波処理により、各ウェル内の肝細胞を破砕した。培養プレートをさらに遠心分離(2,000rpm、10分)して、得られた上清80μLをアッセイプレート(アサヒテクノガラス)に分離した。この上清中の中性脂質(トリグリセリド)の量を和光純薬社製試薬トリグリセライドEテストワコーにより定量し、肝細胞内中性脂質量とした。なお、実験はn=4で行った。各試験群および対照群の中性脂質量の平均値を求め、対照群の中性脂質量に対する試験群の中性脂質量の割合を細胞内中性脂質含量(%)として、以下の式に従って計算した。結果を表1に示す。
【0035】
【数2】

【0036】
(実施例2および3)
フェノフィブレートの代わりに、別の既知のPPAR-αリガンドであるクロフィブレート(clofibrate)またはシプロフィブレート(ciprofibrate)を用いたこと以外は、実施例1と同様に操作して細胞内中性脂質含量(%)を得た。結果を表1に併せて示す。
【0037】
【表1】

【0038】
表1の結果から、脂質代謝改善効果を有する物質として知られるPPAR−αリガンドである各種薬剤(フェノフィブレート、クロフィブレート、およびシプロフィブレート)を用いることによって、本発明の試験方法が脂質代謝促進作用の有無を確認できることがわかる(実施例1〜3)。従って、本発明の方法は、脂質の代謝を賦活・亢進する物質を探索するうえで有用な手段の一つであることが示された。
【0039】
(実施例4:ローズヒップ(果皮および果肉)抽出物の脂質代謝改善効果)
ローズヒップ(果皮および果肉)粉砕物を室温下で10倍量の70%エタノール(エタノール:水=70:30:容積比)により3時間振盪して抽出した。抽出液を濾過した後、45℃以下の温度において、減圧下で溶媒留去して抽出物を得た。得られた抽出物をジメチルスルホキシド (DMSO) に溶解し、種々の抽出物濃度に調整して、試料溶液とした。これらの試料溶液を用いたこと以外は、実施例1と同様に操作して細胞内中性脂質含量(%)を得た。結果を表2に示す。
【0040】
【表2】

【0041】
表2の結果から、ローズヒップ抽出物を肝細胞に接触させることにより、肝細胞内に蓄積されている中性脂質が、ローズヒップ抽出物濃度に依存して減少する傾向が明らかになった。
【0042】
一方、この試験とは別に、実施例4で調製したローズヒップ抽出物を100μg/mL含む試料溶液(DMSOを0.5%(v/v)含む)が、中性脂質の定量に使用した測定試薬(トリグリセライドEテストワコー)の反応を阻害するか否かを検討した。この結果、抽出物とDMSOを含む試料溶液が測定試薬の反応を阻害しなかった。このことから、ローズヒップ抽出物は肝細胞内の中性脂質量を減少させることに寄与していることは明らかである。
【0043】
(実施例5:ローズヒップ抽出物のインビボでの脂質代謝改善効果1)
実施例4で調製したローズヒップ抽出物を、実験動物(マウス)に経口投与して、肝臓における脂肪代謝改善効果を検討した。
【0044】
実験は、紀和実験動物(和歌山)より購入したddY系雄性マウス(6〜7週齢)を約1週間、馴化飼育した。馴化期間中、MF固形食(オリエンタル酵母工業)を飼料として与え、飲水は水道水を自由摂取させた。馴化期間終了後、約20時間絶食させて本実験に供した。実験には、各試験群および対照群につき、一群7匹のマウスを用いた。絶食下の試験群の各マウスに対し、500mg/kg/体重または1000mg/kg/体重となるように、実施例4で調製したローズヒップ抽出物を含有する5%(質量/体積:w/v)アラビアガム末(和光純薬工業)の水性懸濁液を、胃ゾンデを用いて経口投与(単回投与)し、さらに絶食を継続したまま24時間放置した。対照群には、5(w/v)%アラビアゴム水溶液を投与して、試験群と同様、さらに絶食を継続したまま24時間放置した。その後、マウスをエーテル麻酔下で致死させ、肝臓を採取し、重量を記録した。得られた肝臓をクロロホルム:メタノール=2:1(容量比)混液中でホモジナイズした後、遠心分離(3000rpm、10分)して、肝臓より脂質を抽出した。得られた遠心上清25μLを試験管に採取し、約60℃の水浴中で加温して有機溶媒を除いた。試験管に蒸留水25μLを添加した後、中性脂質量を実施例1と同様に測定した。測定値を、ホモジナイズに使用した組織重量および肝臓重量より肝臓全体に含まれる中性脂質量に換算し、対照群の中性脂質含量を100%として、ローズヒップ抽出物投与群の肝臓内に含まれる中性脂質量を算出した。結果を表3に示す。
【0045】
【表3】

【0046】
表3に示すように、ローズヒップ抽出物の経口投与によって、マウスの肝臓内の中性脂質含量は、有意に低下した。すなわち、ローズヒップ抽出物の経口摂取は、脂肪肝の改善に有効であることが示され、さらには脂質の代謝を亢進させることから、肥満症の改善および予防についても有効であると考えられる。
【0047】
(実施例6:ローズヒップ抽出物のインビボでの脂質代謝改善効果2)
肥満および生活習慣病のリスクファクターの一つである内臓脂肪に対するローズヒップ抽出物の摂取による影響を検討した。
【0048】
実験動物として、紀和実験動物(和歌山)から購入したddY系雄性マウス(10週齢)を使用した。ローズヒップ抽出物としては、実施例1で調製したローズヒップ抽出物を用いた。
【0049】
実験には、各試験群および対照群につき、一群8匹のマウスを用いた。各マウスにはMF固形食(オリエンタル酵母工業)を自由に摂取させ、飲水は水道水をポリカーボネート製吸水瓶にて自由に摂取させた。試験群のマウスに対して、実施例4で調製したローズヒップ抽出物(果皮及び果肉由来)を含有する5%(質量/体積:w/v)アラビアガム末(和光純薬工業)の水性懸濁液を毎日1回、経口投与した。ローズヒップ抽出物は、250、500および1000mg/kg体重/日となるように水性懸濁液に混合し、マウスに経口投与した。他方、対照群には5%(w/v)アラビアゴム水溶液のみを投与群と同量、経口投与した。飼育開始から30日間、各マウスの体重の推移を観察した。実験最終日に20時間の絶食後、エーテル麻酔により致死させ、脂肪部分を摘出、回収して、内臓脂肪量を測定した。なお、本実施例において、内臓脂肪量というときは、便宜上、マウス腹腔内における腸間膜脂肪、腎臓周囲脂肪および副睾丸脂肪の合計質量をいい、肝臓中の中性脂質の量を含まない。肝臓中の中性脂質の量は、実施例5と同じ方法で測定した。結果を表4示す。
【0050】
【表4】

【0051】
表4に示すように、ローズヒップ抽出物の経口投与により、有意な体重増加の抑制、内臓脂肪の低減、および肝臓中の中性脂質量の減少が見られることを示している。従って、ローズヒップ抽出物は、脂肪肝の改善だけではなく、体重の減少(痩身)に寄与し、さらに生活習慣病の発症において重要な役割を果たす内臓脂肪を減少させることがわかった。
【0052】
以上の結果から、本発明の方法によって脂質代謝改善効果が確認されたローズヒップ抽出物が(表2)、表3および表4に示されるようにインビボにおいても脂質代謝改善効果を有することが確認されたことから、本発明の方法が、試料の脂質代謝改善効果の有無を判断する方法として有効であることが確認された。
【0053】
(実施例7:ローズヒップ抽出物(種子を含む果実)の脂質代謝改善効果)
ローズヒップ(種子を含む果実)破砕物を用いたこと以外は実施例4と同様にして、ローズヒップの果実抽出物のDMSO溶液を調製し、実施例4と同様にして、対照群の中性脂質量に対する試験群の中性脂質量の割合を求めた。結果を表5に示す。
【0054】
【表5】

【0055】
表5の結果から、実施例4と同様、ローズヒップ(種子を含む果実)の抽出物を肝細胞に作用させることにより、肝細胞内の中性脂質量が、ローズヒップ抽出物濃度に依存して減少する傾向を示した。また、ローズヒップ抽出物による脂肪代謝改善効果は、種子を含む果実を原料とした方がより効果が高いことがわかる。
【0056】
(実施例8:ローズヒップ抽出物およびカルニチンの脂質代謝改善効果)
ローズヒップ抽出物の代わりに、脂肪の代謝を促進するL−カルニチンを0.1μg/mLとなるように添加したこと以外は、実施例4と同様にして細胞内中性脂質含量(%)を測定した。さらに、実施例4のローズヒップ抽出物に、L−カルニチンを添加した場合の脂肪代謝改善効果のさらなる強化について検討するために、培地A中にL−カルニチンを0.1μg/mLとなるように添加したこと以外は実施例4と同様にして、肝細胞の中性脂質含量を測定した。結果を表6に示す。
【0057】
【表6】

【0058】
表6の結果から、L−カルニチンについても、本発明の方法で脂質代謝改善効果を測定することができることがわかる。なお、本発明の方法による測定の結果、ローズヒップ抽出物(果皮および果肉由来)およびL−カルニチンをそれぞれ単独投与した場合には脂肪減少効果がみられない濃度であっても、ローズヒップ抽出物とL−カルニチンとを併用することにより、有意に脂肪含量が低下していた。このことは、相乗的に肝細胞内での脂肪代謝が亢進されることを示している。
【0059】
(実施例9:脂質代謝改善効果を有する物質のスクリーニング)
ローズヒップの代わりに、表7に記載のハーブを用いたこと以外は実施例4と同じ方法で各ハーブの抽出物の調製および試料溶液の調製を行い、そして、肝細胞の中性脂質含量を測定した。結果を表7に示す。なお、試験に用いた各ハーブの抽出物の濃度は、300μg/mLであった。
【0060】
【表7】

【0061】
表7に記載の各ハーブに由来する抽出物のうち、No.1〜37のハーブの抽出物は、いずれも肝細胞内の中性脂質含量を有意に減少させた。しかし、No.38〜42のハーブの抽出物は、肝細胞内の中性脂質含量を有意に減少させなかった。
【0062】
(実施例10:ハーブ抽出物のインビボでの脂質代謝改善効果1)
実施例5のローズヒップ抽出物に代えて、表7のNo.1〜37のハーブ抽出物を用いたこと以外は実施例5と同様にして、経口投与によるマウス肝臓における脂肪代謝改善効果を検討した。結果を表8に示す。
【0063】
【表8】

【0064】
表8に示す各ハーブ抽出物は、経口摂取によってもマウス肝臓内の中性脂質含量を低下させることが明らかになった。従って、ハーブ抽出物を経口摂取することにより、脂肪の燃焼部位である肝臓における脂質の代謝を促進し、その結果、肝臓中の中性脂質含量の低下を促すと考えられる。また、脂質の燃焼が促進されることから、肥満の軽減に対しても寄与することが推察された。
【0065】
(実施例11:ハーブ抽出物のインビボでの脂質代謝改善効果2)
実施例6のローズヒップ抽出物の代わりに、表9に記載のハーブ抽出物を用いたこと以外は実施例6と同様にして、各ハーブ抽出物をマウスに経口投与(30日間)した場合の体重および内臓脂肪の質量変化を検討した。各ハーブ抽出物の投与量は1000mg/kg体重/日とした。結果を表9に示す。
【0066】
【表9】

【0067】
表9に記載の各ハーブ抽出物は、経口摂取によって、体重増加の抑制効果および内臓脂肪量の減少効果を奏することが示された。
【0068】
表7〜9の結果から、本発明の方法が、ローズヒップ抽出物だけではなく、その他のハーブ抽出物の脂質代謝改善効果の有無を判断する方法として有効であることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明の脂肪代謝改善効果を有する被験試料のスクリーニング方法を用いることによって、脂肪代謝改善に有効な試料、特にPPAR−αの活性化に寄与する試料をより効率的に提供することができる。本発明のスクリーニング方法は、特殊な試薬、設備、および手技を必要とせず、簡便でかつ安価な方法である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪代謝改善効果を有する被験試料のスクリーニング方法であって、
脂肪代謝改善効果を有すると思われる試料を溶媒に溶解する工程、
肝実質細胞に、該試料含有溶液を添加して培養する工程、
該培養された肝実質細胞を破砕して上清を得る工程、
該上清の中性脂質量を測定する工程、および
該中性脂質量が、試料非含有溶液を添加して培養された肝実質細胞中の中性脂質量と比較して、低い値の試料を選別する工程
を包含する、方法。
【請求項2】
前記肝実質細胞が、マウス肝初代培養細胞である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
試料の脂肪代謝改善効果の測定方法であって、
試料を溶媒に溶解する工程、
肝実質細胞に、該試料含有溶液を添加して培養する工程、
該培養された肝実質細胞を破砕して上清を得る工程、および
該上清の中性脂質量を測定する工程
を包含する、方法。
【請求項4】
前記肝実質細胞が、マウス肝初代培養細胞である、請求項3に記載の方法。

【公開番号】特開2006−61086(P2006−61086A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−248255(P2004−248255)
【出願日】平成16年8月27日(2004.8.27)
【出願人】(000191755)森下仁丹株式会社 (30)
【Fターム(参考)】