説明

脂肪分の固結分離を防止し、高度に分散させる方法

【課題】乳脂肪または可食性油脂を含む飲料の、のどごしや風味を損なうことなく、長期保存や高温条件化での保存においても飲料中の油脂成分の固結および分離、沈殿することなく、高度に分散させることができる方法を提供する。
【解決手段】ローカストビーンガムに低分子化処理を施し、分子量が100〜300kDaである低分子化ガラクトマンナン。この低分子化ガラクトマンナンを、乳脂肪または可食性油脂を含む飲料に添加することで、長期保存や高温での保存においても飲料中の油脂成分が固結および分離、沈殿することなく安定に保存できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乳脂肪および可食性油脂を含有する飲食物の乳化安定方法に関し、詳しくは低分子化ガラクトマンナンを添加することで長期保存や高温保存においても風味を損なうことなく、乳脂肪および可食性油脂の固結を防止し、高度に分散させることができる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ミルクコーヒー、ミルクティー等の乳成分を含んだ密封容器飲料は商品設計上様々な条件にて流通させるが、乳脂肪分を含んでいることが多いため保管中における乳化状態が不安定になり、経時的に乳脂肪分の浮上によるオイルリングの発生(以下リングの発生)、乳脂肪分の凝集固化した白色物の発生(以下白色物の発生)、乳化破壊による油滴の浮上(以下油滴浮上)等商品価値を低下させる様々な現象が発生し問題となっている。特に従来は低温での流通、販売であったが、最近ではペットボトル、瓶等での常温流通、販売の割合が増えてきており、オイルリングが発生しやすい条件になってきている。
【0003】
こうした品質劣化を抑制するために、(1)食品用乳化剤の添加、(2)食品用乳化剤及び増粘多糖類もしくは糖アルコール、(3)加熱および遠心分離処理、(4)酵素処理のいずれかの方法が行われている。
【0004】
特許文献1および2には食品用乳化剤を複数種添加する方法、20%塩化ナトリウム水溶液中、1重量%の濃度で雲点が90℃以上であるポリグリセリン脂肪酸エステル、及び該当乳化安定化剤を添加する方法が記載されている。
【0005】
特許文献3〜5には数種の食品用乳化剤とガラクトマンナン、キサンタンガム、ラムザンガムを添加する方法、特許文献6数種の食品用乳化剤には糖アルコールを添加する方法が記載されている。
【0006】
特許文献7には予め牛乳とコーヒー調合液を短時間で高温殺菌して乳の沈殿を起こさせ、生じた沈殿物を遠心分離して取り除いた後、レトルト殺菌する方法が記載されている。
【0007】
特許文献8および9には、コーヒー抽出物をマンナン分解酵素やプロテアーゼで処理を行い、乳脂肪分の固結を防止する方法が記載されている。
【0008】
しかし、特許文献1および2の方法では脂肪分の固結やリングの発生を抑制することができる量を添加すると、味質に変化が生じてしまう。特許文献3〜5の方法では、脂肪分の固結やリングを抑制する濃度を添加すると、粘度が上昇し食感が損なわれてしまう。特許文献6の方法では、飲食物の粘度の上昇は見られないものの、固結やリングを十分に抑制することはできない。特許文献7の方法では沈殿物の発生は抑制できるが、飲食物の風味が損なわれてしまう。特許文献8および9の方法では、分解酵素によって分解することによって脂肪酸等の物質が生じ、飲食物の風味が変化してしまう。これらの理由から、飲食物の風味・食感を損なうことなく、脂肪分の固結やリングを防止するより有効な方法の開発が待たれている。
【0009】
【特許文献1】特開平8−116873
【特許文献2】特開2001−136903
【特許文献3】特開平8−252080
【特許文献4】特開2001−136903
【特許文献5】特開2007−159573
【特許文献6】特開2001−178360
【特許文献7】特開平3−67548
【特許文献8】特開2002−272375
【特許文献9】特開2008−109926
【特許文献10】特表2003−512152
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記のように乳脂肪または可食性油脂を含有した飲食物中の乳脂肪の固結やリングの発生を防止するには、食品用乳化剤の添加、食品用乳化剤及び増粘多糖類もしくは糖アルコール、加熱および遠心分離処理、酵素処理のいずれかの方法が用いられてきたが、いずれも十分に乳脂肪の固結やリングの発生を抑制することができず、さらに食感や風味が損なわれてしまうことから食感や風味が損なわれることなく、味に変化を与えず十分に固結を防止する方法が嘱望されていた。
【0011】
本発明は上記の問題を解決するため、乳脂肪または可食性油脂を含有した飲食物に低分子化ガラクトマンナンを0.01%〜0.5%添加することで脂肪分を含有した飲食物の食感や風味を損なうことなく、油脂の固結やリングを防止し、脂肪分を高度に分散させることを目的とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の脂肪分の固結を防止し、高度に分散させる方法は脂肪分を含有した飲食物に低分子化ガラクトマンナンを添加することで後述のような作用・効果を奏する。
【0013】
本発明の方法で乳飲料を保存した場合、後述実施例に示すとおり、常温で2時間保存後でも乳脂肪の固結およびリングを防止した。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
上記の課題は、脂肪分を含有した飲食物に低分子化ガラクトマンナンを0.01%〜0.5%添加することで解決するものである。
【0015】
また、本発明の脂肪分の固結を防止し、高度に分散させる方法は低分子化ガラクトマンナンが有効且つ必須な成分とする構成により解決するものである。低分子化ガラクトマンナンの添加量は、脂肪分を含有した飲食物に対して0.01重量%未満では、脂肪分が無添加群と比べてほぼ同等に固結し、当該ガラクトマンナンの添加効果はほとんど見られない。また、添加量が0.5重量%を超える範囲では、飲食物の粘度が上昇したり、場合によっては糖質同士の相互作用によりゲル化が生じ商品価値を著しく低下させてしまうことから好ましくない。
【0016】
原料であるガラクトマンナンに分散乳化効果があることはこれまでの研究で、既に見出されていた(特許文献10)。しかし、当該低分子化ガラクトマンナンは低分子化処理を施すことにより特定の親水基、疎水基が存在する界面活性剤的な分子構造を有することで、原料であるガラクトマンナンよりも高度な分散乳化効果を有することは知られていない。
【0017】
当該ガラクトマンナンの低分子化処理は、処理後得られる分子構造が、分子量が100〜300kDa、β−1,4結合したD−マンノース単位の主鎖およびα−1,6結合したD−ガラクトース単位の側鎖を有し、その構成比が4〜15:1である。製造方法は、ガラクトマンナン溶液を原料とし、ガラクトマンナン100質量部に対して15〜200質量部の無機アンモニウム含有塩を触媒として添加し、110℃〜210℃にて加熱することを特徴としている。
【実施例】
【0018】
以下に、本発明の実施例を示し、本発明をさらに具体的に説明する。
【実施例1】
【0019】
図1に示す処方に従ってミルクコーヒーを調整した。まず無糖コーヒー1200gにグラニュー糖140g、生クリーム200gの順に添加した。さらに、実施例には1重量%低分子化ガラクトマンナンを200g、比較例1は無添加、比較例2はカラギーナンを2gそれぞれ添加し、全量が2000gとなるように水を加えた。その後、常温で2時間放置し、目視による乳脂肪の沈殿・固化の様子を確認した。
【0020】
図2より、比較例1はコーヒー部と乳脂肪部が穏やかに分離し、器壁に脂肪の微小固形物が付着し、比較例2はコーヒー部と乳脂肪部が完全に分離した。それに対し、実施例では、コーヒー部と乳脂肪部が分離・固結することなく、良好に分離状態を維持したままであった。
【産業上の利用可能性】
【0021】
本発明により、乳脂肪および可食性油脂を含有した飲食物の安定化の向上に貢献すると共に、従来乳脂肪が分離しやすい条件である長期保存や高温保存においても風味を損なうことなく、保存する技術の改善に資するものである。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】ミルクコーヒーの組成
【図2】ミルクコーヒーの常温保存試験の結果

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳脂肪または可食性油脂を0.3〜72重量%含む飲料に、乳化安定剤として低分子化ガラクトマンナンを0.01〜0.5重量%添加することで、可食性油脂及び乳成分の分離や固結、沈殿を防止し、安定に乳化させる方法。
【請求項2】
請求項1記載の低分子化ガラクトマンナンは、原料となるローカストビーンガムに低分子化処理を施し、分子量が100〜300kDaである低分子化ガラクトマンナン。
【請求項3】
請求項1記載の乳脂肪及び可食性油脂を含む飲食物がミルクコーヒー、ミルク紅茶、ミルクココア、抹茶入り乳飲料、ミルクセーキ、ミルク入り野菜ジュース、ミルク入り果実ジュース、コーヒーミルク、クリームである乳化安定化方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−167098(P2011−167098A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−32078(P2010−32078)
【出願日】平成22年2月17日(2010.2.17)
【出願人】(000226415)物産フードサイエンス株式会社 (30)
【Fターム(参考)】