説明

脂肪族アルコールの製造方法

脂肪族アルコールの製造方法において、植物油および動物脂肪が、加圧下において蒸気に対する向流内で脂肪酸およびグリセリンに分解され、反応生成物は物理的に、脂肪酸を含む相およびグリセリンを含む砂糖水に分離され、脂肪酸は蒸留され、分離された脂肪酸留分は230から270℃および大気圧で脂肪族アルコールとともに強く混合され、エステル化によって得られたワックスエステルは、固定台触媒上で、水素を添加することにより脂肪族アルコールに水素化され、反応生成物は脂肪族アルコールおよび水素に分解される。ワックスエステルの水素化を簡単にするため、押し出しによって製造される、主成分の銅および銅−クロム酸化物と二次成分の亜鉛、アルミニウム、鉄、ケイ素およびアルカリ土類元素とからなる均一に成形された触媒体からなる固定台上で180から220℃および70から100bar[a]でワックスエステルを水素化する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、植物油または動物脂肪が蒸気に対する向流内で220から275℃の範囲の温度および45から65bar[a]の範囲の圧力で脂肪酸およびグリセリンに分解され、生成された分散体は重力または遠心力によって脂肪酸を含む相および12から25体積%のグリセリンを含む砂糖水に物理的に分離され、当該砂糖水はさらなる処理のために排出され、少なくとも一つの脂肪酸留分が脂肪酸を含む相から蒸留によって分離され、当該脂肪酸留分は当該方法で生成される脂肪族アルコールとともに、ワックスエステルを形成することにより得られる反応水を同時に除去しつつ、230から270℃の範囲の温度および大気圧で6から24時間あるいは真空下あるいは保護ガス下で少なくとも一段階、強く混合され、1から3[mgKOH/g]の酸価で得られたワックスエステルは成形された触媒体からなる台により形成された固定台上で水素化され、その際、当該ワックスエステルは薄層の形で前記固定台上に流れ落ち、並流または向流内で案内された水素相が連続的に通され、反応して脂肪族アルコールが得られ、反応生成物は冷却により脂肪族アルコールおよび水素に分離され、ワックスエステルを水素化するための水素は当該方法に再循環され、製造された粗脂肪族アルコールの一部は脂肪酸留分と混合するために脂肪酸の量の1.2から1.4倍に対応する量で当該方法に再循環され、粗脂肪族アルコールの他の一部はさらなる処理のために排出される脂肪族アルコールの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フランクフルト アム マインのルルギアーゲー(Lurgi AG)の会社のパンフレットNo.274e/3.05/15および274e/4.05/10より、分離カラム中において向流内で植物油または動物脂肪に、260℃の温度および55bar[a]の圧力で蒸気を直接接触させ、それによって脂肪酸および12から25体積%のグリセリンを含む砂糖水を製造することが知られている。グリセリンを再生するために、溶けた脂肪およびタンパク質から精製された砂糖水は、水の多段階の蒸発によって濃縮されて約88体積%のグリセリンを含む粗グリセリンが得られ、続いて粗グリセリンは約15mbar[a]の真空および約160℃の温度での蒸留によってできる限り濃縮されて92から95体積%のグリセリンが得られる。油または脂肪を分解することによって製造される脂肪酸は、二段階の蒸留によって上部留分および中間留分に分離される。この場合、モノグリセリド、ジグリセリドおよび塩が底に不純物として蓄積される。両脂肪酸留分は、反応水を連続的に排出しながら、脂肪族アルコールを加えることによって約250℃の温度および大気圧で平均として12時間、攪拌された反応炉中で強く混合される。油または脂肪のトリグリセリドのエステル結合は分離され、ワックスエステルが得られ、続いて200から270bar[a]の範囲の圧力および240から330℃の範囲の温度での水素化によって生成される。エステル化の際に得られる反応生成物は冷却され、それによって水素および粗脂肪族アルコールに分離される。水素は再び、銅−クロム酸化物触媒粒子からなる固定台触媒上でワックスエステルを水素化するために使用される。粗脂肪族アルコールの一部は脂肪酸のエステル化のために攪拌された反応炉に再循環され、他の一部は例えば薬剤グリセリンを製造するために精留カラムに装填される。
【0003】
EP−B−0737664に記載されている脂肪族アルコールの製造方法においては、120から320℃の温度および20から400bar[a]の圧力で、脂肪酸を含む液体の出発混合物から、少なくとも50wt%のワックスエステルからなる液体の中間生成物が製造され、この中間生成物は水素を添加することにより、および、微細な粒状触媒を混合することにより水素化され、少なくとも75wt%の脂肪族アルコールからなる粗生成物が形成される。この粗生成物から、脂肪族アルコールを含む部分流が分離され、液体の出発混合物に添加される。気相での脂肪酸メチルエステルの水素化は別の回路を必要とする。
【0004】
DE−C−3425758の主題は、対応する数の炭素原子を有する化合物を、酸、エステルまたはアルデヒドの作用で水素化し、この水素化は、約20から約40wt%の銅(酸化物として計算される)を含む銅とクロムとの混合物および約5から約45wt%の銅を含む担体上に存在する銅成分からなる触媒の存在下で、20から100barの範囲の水素圧および150から300℃の範囲の温度で行われるアルコールの製造方法である。
【0005】
EP−B−0454704には、対応する低級エステルを形成することにより、低級アルカノールを有する脂肪酸から脂肪族アルコールを製造する方法が記載されており、この方法では、触媒の存在下で、80から140℃の範囲の温度および0.1から25barの範囲の圧力でエステルが水素化されて脂肪族アルコールを得、水素化された生成物は、水素化された生成物の未反応エステルを脂肪族アルコールとの反応によりワックスエステルに変換するために、酸イオン交換触媒を用いることによってトランスエステル化が行われる。未反応のアルカノールは混合物から蒸発され、残った混合物が蒸留され、それによってエステルのない脂肪族アルコールが上部生成物として製造され、脂肪族アルコールおよびワックスエステルを含む蒸留残留物が得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】EP−B−0737664
【特許文献2】DE−C−3425758
【特許文献3】EP−B−0454704
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本明細書の導入部で述べた従来技術から進んで、この発明に内在する目的は、公知の方法を、ワックスエステルの水素化に関する方法の一部ができるだけ簡単になるように設計し、それによってその方法のより費用の掛からない実施が達成されるようにすることである。特に、この方法の実施は、高圧装置を使用することなく、かつ比較的低エネルギーコストで可能となる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この目的は、押し出しによって製造された、主要成分として銅および銅−クロム酸化物を、二次成分として亜鉛、アルミニウム、鉄、ケイ素およびアルカリ土類元素を含む、均一に成形された触媒体からなる台により形成された固定台上で、180から220℃の範囲の温度および70から100bar[a]の範囲の圧力でワックスエステルが水素化されることにより解決される。
【0009】
この発明の特定の実施例によれば、固定台を形成する成形された触媒体は、0.1から3.0ml/gのマクロポア(>100nm)および0.2から0.6ml/gのメソポア(<225nm)の限定されたポア構造を有する比較的大きなポアを有する。ポア構造から生じる大きな表面積と成形された触媒体の合金組成との組み合わせにより、液相中のワックスエステルと水素との間の接触が強力となり、その結果、<10、取り分け3から8のエステル価を有する粗脂肪族アルコールを容易に製造することができる。先にワックスエステルを水素化するために用いられた、固定台を形成する成形された触媒体は、小さな部分だけが比較的大きなワックスエステル分子が接近することが可能なポア構造を有し、従ってワックスエステルの水素化が比較的遅い速さで進行する。加えて、コンプレッサーの段階がもう必要でなくなるため、エネルギー消費の低減が達成される。供給原料に関しては、比較的大きなフレキシビリティーが存在する。この発明によれば、ワックスエステルの水素化は、平均圧力85bar[a]および平均温度200℃で行われるが、従来の粒状銅−クロム酸化物触媒を用いた時には、対応する圧力および温度の値は平均で約250bar[a]および270℃である。加えて、ワックスエステルを水素化するためには1molのワックスエステル当たり平均50molの水素が必要とされるが、従来の粒状銅−クロム酸化物触媒を用いた時には、1molのワックスエステル当たり平均135molの水素を水素化段階で再循環しなければならない。カスケードシステムを用いる時には、ワックスエステルを水素化するために必要とされる圧力をさらに≦50bar[a]の平均値に減少させることができ、それによって水素の供給量を明確に減少させることができる。
【0010】
成形された触媒体は0.5から6mmの長さを有し、二本または三本または四本の糸の強固な結合体からなり、この結合体の外周は2.5から3.5mmの直径を有する。
【0011】
この発明のさらなる側面によれば、脂肪酸を含む相は多段階、好適には二段階の蒸留が行われる。
【0012】
好適には、脂肪酸を含む相は蒸留により、C12からC14の脂肪酸からなる相およびC16からC18の脂肪酸からなる相に分離される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】この発明の一実施の形態による脂肪族アルコールの製造方法の実施に用いる装置を示す略線図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
この発明を、図面に概略的に示された基本的なフロー図とともに実施例によって詳細に説明する。
【0015】
導管(1)を介して、250℃の温度を有する導管(3)を介して供給される蒸気と直接接触する1000kg/hのヤシの実油が分離カラム(2)に装填され、この分離カラム(2)において235℃の温度および55bar[a]の圧力で脂肪酸およびグリセリンに分解される。分離カラム(2)の上部において、導管(4)を介して高揮発性の不純物が排出され、さらなる処理に供給される。導管(5)を介して、生成された分散体は分離カラム(2)の底から遠心分離機(6)に流れ、この遠心分離機(6)において脂肪酸およびグリセリンへの分離が行われる。遠心分離機(6)から、18体積%のグリセリンを含む100kgの砂糖水が導管(7)を介して、さらなる処理のために排出され、導管(8)を介して900kgの脂肪酸が蒸留カラム(9)の最下部に供給される。蒸留カラム(9)においてC12からC14の脂肪酸留分が分離され、蒸留カラム(9)の上部から666kgの脂肪酸が導管(10)を介して回収され、攪拌された反応炉(11)に導入され、この反応炉(11)内で1260kgの量の、脂肪酸留分およびこの方法で生成され導入された付加的な脂肪族アルコールが255℃の温度で13時間、窒素を用いた剥離により大気圧で、あるいは、ワックスエステルを形成することにより0.075bar[a]の真空下で強く混合される。エステル化の際に形成される反応水は導管(13)を介して吸収され、それによって真空も形成される。導管(14)を介して、攪拌された反応炉(11)の底部から回収される2.1[mgKOH/g]の酸価を有するワックスエステルは反応タンク(15)の上部に装填される。この反応タンク(15)内には、タイプ
E 860(製造者:BASF AG、ルートヴィヒスハーフェン)の成形された触媒体により形成された固定台が設置されるとともに、1molのワックスエステル当たり50molの量の水素が導管(14)を介して供給される。195℃の温度および85bar[a]の圧力でワックスエステルが脂肪族アルコールに変換される。導管(17)を介して反応タンク(15)から離れた混合物は冷却機(18)内で水素および脂肪族アルコールに分離される。導管(19)を介して水素がコンプレッサー(20)に導入され、圧縮されて反応タンク(15)に再循環され、消費された水素が補給される。導管(12)を介して脂肪族アルコールの一部が1260kgの量、攪拌された反応炉(11)に導入され、残りはさらなる処理のために導管(21)を介して排出される。通常、脂肪族アルコールの約50%がワックスエステルの製造のために再循環され、残りはさらなる処理のためにこの方法から排出される。
【符号の説明】
【0016】
1、3、4、5、7、8、10、12、13、14、17、19、21…導管、2…分離カラム、6…遠心分離機、9…蒸留カラム、11…反応炉、15…反応タンク、18…冷却機、20…コンプレッサー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物油または動物脂肪が蒸気に対する向流内で220から275℃の範囲の温度および45から65bar[a]の範囲の圧力で脂肪酸およびグリセリンに分解され、生成された分散体は重力または遠心力によって脂肪酸を含む相および12から25体積%のグリセリンを含む砂糖水に物理的に分離され、当該砂糖水はさらなる処理のために排出され、少なくとも一つの脂肪酸留分が前記脂肪酸を含む相から蒸留によって分離され、当該脂肪酸留分は当該方法で生成される脂肪族アルコールとともに、ワックスエステルを形成することにより得られる反応水を同時に除去しつつ、230から270℃の範囲の温度および大気圧で6から24時間あるいは真空下あるいは保護ガス下で少なくとも一段階、強く混合され、1から3[mgKOH/g]の酸価で得られたワックスエステルは成形された触媒体からなる台により形成された固定台上で水素化され、その際、当該ワックスエステルは薄層の形で前記固定台上に流れ落ち、並流または向流内で案内された水素相が連続的に通され、反応して脂肪族アルコールが得られ、反応生成物は冷却により脂肪族アルコールおよび水素に分離され、ワックスエステルを水素化するための水素は当該方法に再循環され、製造された粗脂肪族アルコールの一部は脂肪酸留分と混合するために脂肪酸の量の1.2から1.4倍に対応する量で当該方法に再循環され、粗脂肪族アルコールの他の一部はさらなる処理のために排出される脂肪族アルコールの製造方法において、前記ワックスエステルは、押し出しによって製造された、主要成分として銅および銅−クロム酸化物を、二次成分として亜鉛、アルミニウム、鉄、ケイ素およびアルカリ土類元素を含む均一に成形された触媒体からなる台により形成された固定台上で、180から220℃の範囲の温度および70から100bar[a]の範囲の圧力で水素化されることを特徴とする脂肪族アルコールの製造方法。
【請求項2】
前記成形された触媒体は0.1から0.3ml/gのマクロポア(>100nm)および0.2から0.6ml/gのメソポア(<225nm)を有することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記成形された触媒体は0.5から6mmの長さを有し、二本または三本または四本の糸の強固な結合体からなり、前記結合体の外周は2.5から3.5mmの直径を有することを特徴とする請求項1および2のいずれか一項に記載の方法。
【請求項4】
前記脂肪酸を含む相は複数段階の蒸留が行われることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記脂肪酸を含む相は二段階の蒸留が行われることを特徴とする請求項4に記載の方法。

【請求項6】
前記脂肪酸を含む相は蒸留により、C12からC14の脂肪酸からなる相およびC16からC18の脂肪酸からなる相に分離されることを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。

【図1】
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【公表番号】特表2011−511819(P2011−511819A)
【公表日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−546259(P2010−546259)
【出願日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際出願番号】PCT/EP2009/000981
【国際公開番号】WO2009/100902
【国際公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【出願人】(503046552)ルルギ・ゲーエムベーハー (4)
【Fターム(参考)】