説明

脂肪族エステル類、該化合物を含有する香料組成物および該化合物の製造法

【課題】 香料化合物として有用な、新規の脂肪族エステル類とその製法およびこれを含有する香料化合物を提供すること。
【解決手段】 下記式(1)
【化1】


(式中Xは>C(CHまたは>C=Oを表し、Yは−CH−、−(CH−または−CH(CH)−を表し、Zは−CHまたは−CHCHを表す)で表される脂肪族エステル類で表される脂肪族エステル類とその製法およびこれを含有する香料組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、香料化合物として有用な新規な脂肪族エステル類および該化合物を有効成分として含有する香料組成物、ならびに該化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、飲食品、香粧品、トイレタリー製品、保健衛生材料、医薬部外品、医薬品類などに対する消費者の嗜好性の要求は、製品の香りにも及んでいる。香気の繊細さ、優雅さ、荒々しさなどが求められ、そうした多様性に対応するためには、従来にない、嗜好性が高くユニークな香気を有した香料物質の開発が要求されてきている。
【0003】
特徴的なムスク香を有する化合物は、極めて特徴的な香気を有し、香粧品香料として有用なため、多くの化合物が開発され、使用されている。例えば、ムスコン、エチレンブラシレート、ハバノライド、シクロペンタデカノライド、アンブレットライドなどの構造を有する大環状ムスク;ガラクソライド、トナライド、ファントリド、セレストライドなどの多環状ムスク;ヘルベトリド、ロマンドリドなどの脂肪族ムスクが知られている(非特許文献1、2、3)。
【0004】
特に、ヘルベトリド(Helvetolide(登録商標):フィルメニッヒ社製、特許文献1)、ロマンドリド(Romandolide(登録商標):フィルメニッヒ社製、特許文献2)などの脂肪族ムスクは、最も後発組として開発され、市場で使われるようになったのはここ10年ほどである。特徴的なムスク香が嗜好的に注目されるとともに、環境中で分解されやすいこともプラス要因となり、市場で好ましく受け入れられている。ヘルベトリドは、化学名:4−(3,3−ジメチル−1−シクロヘキシル)−2,2−ジメチル−3−オキサペンチル プロパノエートであり、ロマンドリドは、化学名:1−〔(3,3−ジメチル−1−シクロヘキシル)−エトキシカルボニル〕メチル プロパノエートであり、共に脂肪族エステル化合物(非特許文献2)である。
また、悪臭抑制物質に関する提案にも構造の類似した脂肪族エステル化合物の記載がある(特許文献3)。
【0005】
しかしながら、市場の要望に応えるために、上記の脂肪族ムスク以外の、好ましい香気特性を有する脂肪族ムスク化合物の開発が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第5166412号明細書
【特許文献2】米国特許第6384269号明細書
【特許文献3】国際公開WO2008/049257号パンフレット
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】合成香料、増補改訂版、化学と商品知識、p391−419(化学工業日報社)
【非特許文献2】”Brain Aided Musk Design”,Chemistry & Biodiversity 1(12),1957−1974(2004)
【非特許文献3】”New Alicyclic Musks: The Fourth Generation of Musk Odorants”, Chemistry&biodiversity 1(12):1975-1984(2004)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、香粧品などに特徴あるムスク香およびその他の香気を賦与することができる新規な脂肪族エステル類、および該化合物を含有する新規な香料組成物ならびに該化合物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前述の課題を解決するために鋭意検討した結果、今回、従来にない脂肪族エステル類を合成し、該化合物の物性などについて検討したところ、該化合物が特徴あるムスク香を有すること、他の香料と併用したときに調和性に優れていること、従来知られているヘルベトリド、ロマンドリドに比べ、香気の保留性、残香性にきわめて優れていることを見出した。また、該化合物を高収率、高純度で簡便に製造する方法を見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
かくして本発明は、下記式(1)
【0011】
【化1】

【0012】
(式中Xは>C(CHまたは>C=Oを表し、Yは−CH−、−(CH−または−CH(CH)−を表し、Zは−CHまたは−CHCHを表す)
で表される脂肪族エステル類を提供するものである。
【0013】
また、本発明は、下記式(1−1)
【0014】
【化2】

【0015】
で表される前記の脂肪族エステル類を提供するものである。
【0016】
また、本発明は、前記の脂肪族エステル類を有効成分として含有することを特徴とする香料組成物を提供するものである。
【0017】
また、本発明は、下記式(2)
【0018】
【化3】

【0019】
(式中Xは>C(CH、または、>C=Oを表す)
で表されるアルコール類を下記式(3)、
【0020】
【化4】

【0021】
(式中Yは−CH−、−(CH−または−CH(CH)−を表し、Zは−CHまたは−CHCHを表す)
で表されるカルボン酸類または下記式(4)、
【0022】
【化5】

【0023】
(式中Yは−CH−、−(CH−または−CH(CH)−を表し、Zは−CHまたは−CHCHを表し、Pはハロゲン原子を表す)
で表される酸ハロゲン化物類でエステル化することを特徴とする前記のエステル類の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0024】
本発明の式(1)の脂肪族エステル類は、特徴あるムスク香およびその他の香気を賦与することができ、これまでにない高い保留性、残香性ゆえに、香粧品などに用いる香料組成物の調合素材として有用である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の前記式(1)の化合物、その製造方法および香料組成物としての用途について、さらに詳細に説明する。
本発明の式(1)の化合物は具体的には、式(1−1):2,2−ジメチル−4−(3,3−ジメチルシクロヘキシル)−3−オキサペンチル メトキシアセテート、式(1−2):2,2−ジメチル−4−(3,3−ジメチルシクロヘキシル)−3−オキサペンチル 3−メトキシプロパノエート、式(1−3):2,2−ジメチル−4−(3,3−ジメチルシクロヘキシル)−3−オキサペンチル エトキシアセテート、式(1−4):2,2−ジメチル−4−(3,3−ジメチルシクロヘキシル)−3−オキサペンチル 2−メトキシプロパノエート、式(1−5):4−(3,3−ジメチルシクロヘキシル)−3−オキサ−2−オキソペンチル メトキシアセテート、式(1−6):2,2−ジメチル−4−(3,3−ジメチルシクロヘキシル)−3−オキサペンチル 3−エトキシプロパノエート、式(1−7):2,2−ジメチル−4−(3,3−ジメチルシクロヘキシル)−3−オキサペンチル 2−エトキシプロパノエート、式(1−8):4−(3,3−ジメチルシクロヘキシル)−3−オキサ−2−オキソペンチル エトキシアセテート、式(1−9):4−(3,3−ジメチルシクロヘキシル)−3−オキサ−2−オキソペンチル 3−メトキシプロパノエート、式(1−10):4−(3,3−ジメチルシクロヘキシル)−3−オキサ−2−オキソペンチル 2−メトキシプロパノエート、式(1−11):4−(3,3−ジメチルシクロヘキシル)−3−オキサ−2−オキソペンチル 3−エトキシプロパノエート、式(1−12):4−(3,3−ジメチルシクロヘキシル)−3−オキサ−2−オキソペンチル 2−エトキシプロパノエートであり、いずれも、従来、文献未記載の新規化合物である。なお、4位のシクロヘキサン環とメチル基の立体異性体はシス/トランス何れでもよく、また任意の割合での混合物でもよく、また光学異性体混合物が任意の割合で存在してもよい。
【0026】
式(1)で表される脂肪族エステル類は、式(2)で示されるアルコール類を式(3)で示されるカルボン酸類または式(4)で示される酸ハロゲン化物を用いてエステル化することにより製造することができる(下記反応経路1)。なお、エステル化は、例えば、新実験化学講座14 有機化合物の合成と反応II(丸善株式会社、昭和52年発行)、第4版 実験化学講座22 有機合成IV(丸善株式会社、平成4年発行)、第5版 実験化学講座16 有機合成IV(丸善株式会社、平成17年発行)に記載されているような、一般に、当業者に周知のいかなる方法を用いてもよい。従って、以下にエステル化の例を挙げるが、これらに限定されるものではない。
【0027】
【化6】

【0028】
(式中Xは>C(CHまたは>C=Oを表し、Yは−CH−、−(CH−または−CH(CH)−を表し、Zは−CHまたは−CHCHを表す)
式(2)で示されるアルコールは、例えば、特許第2974834号、特許第3802346号に示されており、公知である。式(2)で示されるアルコールと式(4)で示される酸ハロゲン化物との反応は、例えば、ピリジンなどの塩基の存在下、適当な溶媒中で反応することにより、式(1)の脂肪族エステル類を調製することができる。
【0029】
式(2)のアルコールに対する酸ハロゲン化物の使用量は、通常1〜50当量、好ましくは1〜2当量の範囲内とすることができ、塩基の使用量は、通常、式(2)のアルコールに対して1〜50倍量、好ましくは1〜3倍量とすることができる。
【0030】
反応には、触媒を使用することができ、例えば、4−(ジメチルアミノ)ピリジンなどが挙げられ、これらの触媒の使用量は、式(2)のアルコールに対して、通常0.001〜50当量、好ましくは0.01〜1当量の範囲内とすることができる。反応温度としては、通常、−10〜40℃、好ましくは、0〜30℃の範囲で、反応時間としては、通常0.1〜24時間、好ましくは0.5〜5時間の範囲で行うことができる。
【0031】
得られた反応物から、必要に応じて、クロマトグラフィーや蒸留などの手段を用いた精製を行い、式(1)のエステル類を製造することができる。
【0032】
式(3)で示されるカルボン酸から式(4)で示される酸ハロゲン化物を製造することもできるが、式(3)のカルボン酸と式(2)で示されるアルコールを、例えば、適当な溶媒の存在下、N,N’−ジイソプロピルカルボジイミドを縮合剤としてエステル化して、式(1)で示されるエステルを製造することも可能である。この場合、1−ヒドロキシベンゾトリアゾールのような縮合反応補助剤を用いてもよい。また、触媒を加えて反応速度を早めることも可能である。
【0033】
式(2)のアルコールに対する式(3)のカルボン酸の使用量は、通常1〜50当量、好ましくは1〜2当量の範囲内とすることができ、N,N’−ジイソプロピルカルボジイミドの使用量は、通常、式(2)のアルコールに対して1〜50倍量、好ましくは1〜3倍量とすることができる。
【0034】
触媒には例えば、4−(ジメチルアミノ)ピリジンのような塩基が挙げられ、これらの触媒の使用量は、式(2)のアルコールに対して、通常0.001〜50当量、好ましくは0.01〜1当量の範囲内とすることができる。
【0035】
反応温度としては、通常0〜70℃、好ましくは、0〜30℃の範囲で、反応時間としては、通常0.5〜240時間、好ましくは1〜120時間の範囲で行うことができる。
【0036】
本発明の脂肪族エステル類を含有する香料素材は、そのまま香粧品、保健・衛生・医薬品に配合して香気を付与または増強することができるが他の成分と混合して種々の香調を持つ香料組成物を調製し、該香料組成物を用いて飲食品、香粧品、保健・衛生・医薬品に香気を付与または増強することもできる。該香料組成物と共に使用しうる他の香料成分としては、各種の合成香料、天然香料、天然精油、植物エキスなどを挙げることができる。例えば、香料化学総覧1,2,3(奥田治著、廣川書店出版)、合成香料(印藤元一著、化学工業日報社)、「特許庁、周知慣用技術集(香料)第III部香粧品香料、P26−103、平成13年6月15日発行」に記載されている天然精油、天然香料、合成香料を挙げることができる。
【0037】
種々の香調として、例えば、ムスク様、ウッディ様、パウダリー様、ミュゲ様、フローラル様などの香調を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。ただし、ムスク様の香調に用いる場合にその香気をもっとも効果的に強調することができる。
【0038】
本発明の脂肪族エステル類の配合量は、配合の目的や香料組成物の種類により異なるが、例えば、香料組成物の全体重量に対して0.1〜50質量%の範囲、好ましくは1〜30質量%の範囲を例示することができる。これらの範囲内で添加することにより、香料組成物に対し、ムスク様、ウッディ様、パウダリー様、ミュゲ様、フローラル様などの香調を付与することができる。
【0039】
本発明の脂肪族エステル類を含有する香料組成物には、必要に応じて、香料組成物において通常使用されている、例えば、水、エタノールなどの溶剤;エチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、グリセリン、ヘキシルグリコール、ベンジルベンゾエート、トリエチルシトレート、ジエチルフタレート、ハーコリン、中鎖脂肪酸トリグリセライド、中鎖脂肪酸ジグリセリド等の香料保留剤を配合することができる。
【0040】
本発明の脂肪族エステル類を含有する香料素材は、上記したようにそれ自身単独で、または、脂肪族エステル類と他の香料素材を含有させた香料組成物を調製して、各種の製品、例えば、香粧品、保健・衛生・医薬品に添加することにより、ムスク様、ウッディ様、パウダリー様、ミュゲ様、フローラル様などの香調を付与または増強することができる。
【0041】
本発明の脂肪族エステル類を含有する香料組成物によって香気を付与することのできる香粧品、保健・衛生・医薬品の具体例としては何ら限定されるものではなく、例えば、フレグランス製品、基礎化粧品、仕上げ化粧品、頭髪化粧品、日焼け用化粧品、薬用化粧品、ヘアケア製品、石鹸、身体用洗剤、浴用剤、洗剤、柔軟仕上げ剤、漂白剤、エアゾール剤、消臭・芳香剤、忌避剤、口腔用組成物、皮膚外用剤などを挙げることができる。
【0042】
また、本発明の脂肪族エステル類の香粧品などへの配合量は、その目的あるいは香粧品の種類によっても異なるが、前記の脂肪族エステル類を含有する香料素材または香料組成物を有効量添加することによりムスク様、ウッディ様、パウダリー様、ミュゲ様、フローラル様などの香調を付与、増強することができる。その際の香粧品などへの脂肪族エステル類の添加量は、製品の種類や形態に応じて異なり一概に言えないが、例えば、香粧品の全体重量に対して0.1〜50質量%、好ましくは1〜30質量%の範囲を例示することができる。
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。
【実施例】
【0043】
[実施例1]式(1−1)の化合物の合成:2,2−ジメチル−4−(3,3−ジメチルシクロヘキシル)−3−オキサペンチル メトキシアセテート
2,2−ジメチル−4−(3,3−ジメチルシクロヘキシル)−3−オキサペンタノール22.9g(100mmol)とピリジン18.6g(235mmol)をエーテル70mLに溶かし、氷冷下、メトキシアセチルクロライド16.3g(150mmol)のエーテル溶液(30mL)を30分で滴下し、滴下終了後0℃で1時間、さらに室温で3.5時間攪拌した。反応終了後水を加えて沈殿を溶解し、エーテル抽出を行なった。エーテル層を集めて5%塩酸水溶液、水、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和食塩水の順で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥後、エバポレーターで濃縮した。得られた残渣30.46gを減圧蒸留によって精製し、微黄色の油状物質26.02g(式(1−1)の化合物、86.61mmol、沸点140〜142℃/0.5mmHg、収率86%)を得た。
【0044】
式(1−1)の化合物は、微黄色を取り除くため、活性炭処理を行なった。すなわち、2%重量の活性炭を加え5時間攪拌後セライト濾過を行い、無色の油状物質とした。
式(1−1)の化合物の物性
H−NMR(400MHz,CDCl, 結合定数J[Hz]):δ=0.71(br t,J=12.8Hz,1H,H−シクロヘキシル2ax),0.75〜0.9(m,1H,H−シクロヘキシル6ax),0.79,0.83(各s,各3H,H−シクロヘキシル3,3−ジメチル),0.9〜1.0(m,1H,H−シクロヘキシル4ax),0.98(d,J=6.0Hz,3H,H−ペンチル5−メチル),1.12(s,6H,H−ペンチル−2,2−ジメチル),1.2〜1.3(m,2H,H−シクロヘキシル4eq&5ax),1.3〜1.4(m,2H,H−シクロヘキシル1ax&2eq),1.49(m,1H,H−シクロヘキシル5eq),1.59(m,1H,H−シクロヘキシル6eq),3.30(brquin,J=6.0Hz,1H,H−ペンチル4−メチン),3.39(s,3H,H−メトキシ),3.9〜4.0(m,2H,H−ペンチル1−メチレン),4.00(s,2H,H−アセチル−メチレン).
13C−NMR(100MHz,CDCl):δ=19.66(C−ペンチル5),22.24(C−シクロヘキシル5),23.66,23.91(C−ペンチル−2,2−ジメチル),24.62(C−シクロヘキシル3−メチルax),28.26(C−シクロヘキシル6),30.60(C−シクロヘキシル3),33.67(C−シクロヘキシル3−メチルeq),39.32(C−シクロヘキシル4),40.32(C−シクロヘキシル1),42.17(C−シクロヘキシル2),59.35(C−メトキシ),69.68(C−アセチル−メチレン),70.64(C−ペンチル1),71.80(C−ペンチル4),73.58(C−ペンチル2),170.20(C−カルボニル)。
【0045】
[実施例2]式(1−2)の化合物の合成:2,2−ジメチル−4−(3,3−ジメチルシクロヘキシル)−3−オキサペンチル 3−メトキシプロパノエート
2,2−ジメチル−4−(3,3−ジメチルシクロヘキシル)−3−オキサペンタノール1.50g(6.57mmol)、3−メトキシプロピオン酸(96%)0.71g(6.55mmol)、1−ヒドロキシベンゾトリアゾール(以下HOBt・HOと表記)1.78g(13.2mmol)、4−(ジメチルアミノ)ピリジン(以下DMAPと表記)0.80g(6.55mmol)を塩化メチレン10mLに溶かし、氷冷下、N,N’−ジイソプロピルカルボジイミド(以下DICと表記)1.66g(13.2mmol)の塩化メチレン溶液(3mL)を滴下し、室温で47時間攪拌した。この時点で反応を停止し、反応液をろ過し、酢酸エチルで希釈した。有機層を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和塩化アンモニウム水溶液、飽和食塩水の順で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥後、エバポレーターで濃縮した。得られた残渣2.04gをシリカゲルカラム(33mmφ×23.5cmL,n−ヘキサン−酢酸エチル=20:1〜5:1)で精製し、10:1で無色油状物質である目的物0.62g(1.97mmol)を溶出し(単離収率30%)、続いて10:1〜5:1で目的物のエステルと原料アルコールの混合物0.91g(式(1−2)の化合物)を溶出した。この画分に含まれるエステルの量を考慮すると反応の収率は44%となる。沸点149〜152℃/0.5mmHg。
式(1−2)の化合物の物性
H−NMR(400MHz,CDCl,結合定数J[Hz]):δ=0.76(br t,J=13.2Hz,1H,H−シクロヘキシル2ax),0.8〜0.9(m,1H,H−シクロヘキシル6ax),0.84,0.88(各s,各3H,H−シクロヘキシル3,3−ジメチル),0.95〜1.05(m,1H,H−シクロヘキシル4ax),1.03(d,J=6.0Hz,3H,H−ペンチル5−メチル),1.17(brs,6H,H−ペンチル−2,2−ジメチル),1.3〜1.4(m,2H,H−シクロヘキシル4eq&5ax),1.4〜1.5(m,2H,H−シクロヘキシル1ax&2eq),1.55(m,1H,H−シクロヘキシル5eq),1.65(m,1H,H−シクロヘキシル6eq),2.60(t,J=6.4Hz,2H,H−プロパノイル2−メチレン),3.3〜3.4(m,1H,H−ペンチル4−メチン),3.33(s,3H,H−メトキシ),3.66(t,J=6.4Hz,2H,H−プロパノイル3−メチレン),3.94,3.97(各d,各J=11.2Hz,各1H,H−ペンチル1−メチレン)。
13C−NMR(100MHz,CDCl):δ=19.68(C−ペンチル5),22.26(C−シクロヘキシル5),23.74,23.98(C−ペンチル−2,2−ジメチル),24.63(C−シクロヘキシル3−メチルax),28.28(C−シクロヘキシル6),30.61(C−シクロヘキシル3),33.68(C−シクロヘキシル3−メチルeq),35.06(C−プロパノイル2),39.34(C−シクロヘキシル4),40.32(C−シクロヘキシル1),42.21(C−シクロヘキシル2),58.67(C−メトキシ),67.88(C−プロパノイル3),70.45(C−ペンチル1),71.75(C−ペンチル4),73.66(C−ペンチル2),171.34(C−カルボニル)。
【0046】
[実施例3]式(1−3)の化合物の合成:2,2−ジメチル−4−(3,3−ジメチルシクロヘキシル)−3−オキサペンチル エトキシアセテート
2,2−ジメチル−4−(3,3−ジメチルシクロヘキシル)−3−オキサペンタノール1.50g(6.57mmol)、エトキシ酢酸(98%)0.70g(6.59mmol)、HOBt・HO1.78g(13.2mmol)、DMAP0.80g(6.55mmol)を塩化メチレン10mLに溶かし、氷冷下、DIC1.66g(13.2mmol)の塩化メチレン溶液(3mL)を滴下し、室温で119時間攪拌した。この時点で反応を停止し、反応液をろ過し、塩化メチレンで希釈した。塩化メチレン層を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和塩化アンモニウム水溶液、飽和食塩水の順で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥後、エバポレーターで濃縮した。得られた残渣2.03gをシリカゲルカラム(33mmφ×22cmL,n−ヘキサン−酢酸エチル=20.1〜5:1)で精製し、無色油状物質1.03g(式(1−3)の化合物)、3.28mmol、収率50%)を得た。また、原料アルコール0.47g(2.06mmol、回収率31%)を回収した。沸点150〜155℃/0.5mmHg。
式(1−3)の化合物の物性
H−NMR(400MHz,CDCl,結合定数J[Hz]):δ=0.78(t,J=13.6Hz,1H,H−シクロヘキシル2ax),0.8〜0.9(m,1H,H−シクロヘキシル6ax),0.86,0.90(各s,各3H,H−シクロヘキシル3,3−ジメチル),1.0〜1.1(m,1H,H−シクロヘキシル4ax),1.05(d,J=6.0Hz,3H,H−ペンチル5−メチル),1.18(s,6H,H−ペンチル−2,2−ジメチル),1.26(t,J=6.8Hz,3H,H−エトキシ−メチル),1.3〜1.4(m,2H,H−シクロヘキシル4eq&5ax),1.4〜1.5(m,2H,H−シクロヘキシル1ax&2eq),1.56(m,1H,H−シクロヘキシル5eq),1.66(m,1H,H−シクロヘキシル6eq),3.37(br quin,J=6.0Hz,1H,H−ペンチル4−メチン),3.61(q,J=6.8Hz,2H,H−エトキシ−メチレン),4.01,4.04(各d,各J=11.6Hz,各1H,H−ペンチル1−メチレン),4.11(s,2H,H−アセチル−メチレン)。
13C−NMR(100MHz,CDCl):δ=14.97(C−エトキシ−メチル),19.64(C−ペンチル5),22.23(C−シクロヘキシル5),23.68,23.90(C−ペンチル−2,2−ジメチル),24.61(C−シクロヘキシル3−メチルax),28.24(C−シクロヘキシル6),30.59(C−シクロヘキシル3),33.66(C−シクロヘキシル3−メチルeq),39.31(C−シクロヘキシル4),40.31(C−シクロヘキシル1),42.15(C−シクロヘキシル2),67.15(C−エトキシ−メチレン),67.94(C−アセチル−メチレン),70.58(C−ペンチル1),71.76(C−ペンチル4),73.58(C−ペンチル2),170.48(C−カルボニル)。
【0047】
[実施例4]式(1−4)の化合物の合成:2,2−ジメチル−4−(3,3−ジメチルシクロヘキシル)−3−オキサペンチル 2−メトキシプロパノエート
(工程1)2−メトキシプロピオン酸の調製
200mL三口フラスコに60%水素化ナトリウム5.76g(144mmol)を加え、n−ヘキサン(30mL×2)で洗浄しオイルフリーとした。乳酸メチル(ラセミ体)5.00g(48.0mmol)の塩化メチレン溶液(10mL)を室温で20分かけて滴下し、室温で20分攪拌した。次にヨードメタン10.23g(72.10mmol)の塩化メチレン溶液(10mL)を30分かけて滴下し、室温で5時間撹拌した。さらにヨードメタン10.23g(72.10mmol)を加え、室温で18時間、続いて40℃に加熱しながら7時間、さらに室温で40時間撹拌した。この時点で約5割反応が進行していると推定し、後処理を行った。氷冷下、メタノールを加えて未反応の水素化ナトリウムを分解後、希塩酸でpHを3〜4に調整し、酢酸エチルで抽出した。有機層を飽和食塩水で洗浄後、無水硫酸マグネシウムによる乾燥、エバポレーターでの濃縮を行い、オレンジ色の油状物質1.86gを得た。このものは、2−メトキシプロピオン酸(約50%の純度)と推定されるが、これ以上精製をしないで次の反応に用いた。
(工程2)エステル化反応
(工程1)で得られた2−メトキシプロピオン酸(純度50%)1.09g(5.24mmol)、2,2−ジメチル−4−(3,3−ジメチルシクロヘキシル)−3−オキサペンタノール0.80g(3.5mmol)、HOBt・HO0.95g(7.03mmol)、DMAP0.43g(3.5mmol)を塩化メチレン6mLに溶かし、氷冷下、DIC0.88g(7.0mmol)を滴下し、室温で64.5時間攪拌した。この時点で反応を停止し、反応液をろ過し、酢酸エチルで希釈した。有機層を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和塩化アンモニウム水溶液、飽和食塩水の順で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥後、エバポレーターで濃縮した。得られた残渣1.40gをシリカゲルカラム(32mm i.d.×23.5cm,n−ヘキサン−酢酸エチル=20:1〜11:1)で精製し、無色油状物質0.54g(式(1−4)の化合物、1.72mmol、収率49%)を得た。沸点145〜159℃/0.5mmHg。プロパノイル基中の2位の不斉炭素に関しては、ほぼ1:1のジアステレオ比で生成していると思われる。また、原料アルコール0.27g(1.18mmol、回収率34%)を回収した。
式(1−4)の化合物の物性
H−NMR(400MHz,CDCl,結合定数J[Hz]):δ=0.72(br t,J=13.6Hz,1H,H−シクロヘキシル2ax),0.75〜0.85(m,1H,H−シクロヘキシル6ax),0.79,0.83(各s,各3H,H−シクロヘキシル3,3−ジメチル),0.9〜1.0(m,1H,H−シクロヘキシル4ax),0.98(d,J=6.4Hz,3H,H−ペンチル5−メチル),1.12(s,6H,H−ペンチル−2,2−ジメチル),1.2〜1.4(m,4H,H−シクロヘキシル1ax,2eq,4eq&5ax),1.36(d,J=7.2Hz,3H,H−プロパノイル3−メチル),1.49(m,1H,H−シクロヘキシル5eq),1.59(m,1H,H−シクロヘキシル6eq),3.31(m,1H,H−ペンチル4−メチン),3.34(s,3H,H−メトキシ),3.84(q,J=7.2Hz,1H,H−プロパノイル2−メチン),3.92(d,J=10.8Hz,1H,H−ペンチル1−メチン),3.96,3,99(各d,各J=10.8Hz,各0.5H,各H−ペンチル1−メチン)。
13C−NMR(100MHz,CDCl):δ=18.50(C−プロパノイル3),19.68(C−ペンチル5),22.25(C−シクロヘキシル5),23.59,23.70,23.88,23.95(各0.5C,C−ペンチル−2,2−ジメチル),24.63(C−シクロヘキシル3−メチルax),28.25,28.28(各0.5C,C−シクロヘキシル6),30.62(C−シクロヘキシル3),33.67(C−シクロヘキシル3−メチルeq),39.35(C−シクロヘキシル4),40.33(C−シクロヘキシル1),42.14(C−シクロヘキシル2),57.73(C−メトキシ),70.65,70.75(各0.5C,C−ペンチル1),71.76(C−ペンチル4),73.64(C−ペンチル2),76.28,76.30(各0.5C,C−プロパノイル2),172.94(C−カルボニル)。
【0048】
[実施例5]式(1−5)の化合物の合成:4−(3,3−ジメチルシクロヘキシル)−3−オキサ−2−オキソペンチル メトキシアセテート
(工程1)1−(3,3−ジメチルシクロヘキシル)エチル ベンジルオキシアセテートの合成
500mL三つ口フラスコに、1−(3,3−ジメチルシクロヘキシル)エタノール13.5g(86.4mmol)とピリジン13.9g(176mmol)を加え、エーテル110mLに溶かし、窒素置換後、氷冷下、ベンジルオキシアセチルクロライド(95%)25.0g(129mmol)のエーテル溶液(30mL)を20分かけて滴下し、滴下終了後室温で20.5時間攪拌した。反応終了後、水を加えて白色沈殿を溶かし、エーテル抽出を行なった。エーテル層を希塩酸水溶液、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥後、エバポレーターで濃縮した。得られた残渣28.7gをシリカゲルカラム(72mm i.d.×32.5cm,n−ヘキサン−酢酸エチル=30:1〜15:1)で精製し、無色の油状物質25.5g(1−(3,3−ジメチルシクロヘキシル)エチル ベンジルオキシアセテート、83.9mmol、収率97%)を得た。
上記の1−(3,3−ジメチルシクロヘキシル)エチル ベンジルオキシアセテートの物性
H−NMR(400MHz,CDCl,結合定数J[Hz]):δ=0.8〜0.9(m,2H,H−シクロヘキシル2ax&6ax),0.87,0.90(各s,各3H,H−シクロヘキシル3,3−ジメチル),1.05(m,1H,H−シクロヘキシル4ax),1.18(d,J=6.4Hz,3H,H−エチル2−メチル),1.3〜1.5(m,3H,H−シクロヘキシル2eq,4eq&5ax),1.58(m,1H,H−シクロヘキシル5eq),1.6〜1.7(m,2H,H−シクロヘキシル1ax&6eq),4.07(m,2H,H−アセチル−メチレン),4.62(s,2H,H−ベンジル−メチレン),4.81(br quin,J=6.4Hz,1H,H−エチル1−メチン),7.27〜7.38(m,5H,フェニル).
13C−NMR(100MHz,CDCl):δ=16.87(C−エチル2),21.62(C−シクロヘキシル5),24.29(C−シクロヘキシル3−メチルax),28.06(C−シクロヘキシル6),30.21(C−シクロヘキシル3),33.22(C−シクロヘキシル3−メチルeq),38.01(C−シクロヘキシル1),38.76(C−シクロヘキシル4),40.96(C−シクロヘキシル2),67.06(C−アセチル−メチレン),72.94(C−ベンジル−メチレン),75.21(C−エチル1),127.64(C−フェニルp位),127.72,128.15(各2C,C−フェニルo,m位),137.01(C−フェニル4級),169.71(C−カルボニル)。
(工程2)ベンジル基の脱保護、1−(3,3−ジメチルシクロヘキシル)エチル ヒドロキシアセテートの合成
(工程1)で合成したベンジル保護体である、1−(3,3−ジメチルシクロヘキシル)エチル ベンジルオキシアセテート24.4g(80.2mmol)を99%エタノール25mLに溶かし、20%Pd/C(wet・type)1.29gを加え、水素雰囲気下、室温にて48時間攪拌した。薄層クロマトで原料消失を確認後、反応液をセライトろ過して触媒を取り除き、エタノールで洗浄後、ろ液と洗浄液を合わせてエバポレーターで濃縮した。得られた残渣16.51gをシリカゲルカラム(72mmi.d.×27cmL,n−ヘキサン−酢酸エチル=15:1〜5:1)で精製し、無色の油状物質15.48g(1−(3,3−ジメチルシクロヘキシル)エチル ヒドロキシアセテート、72.24mmol、収率90%)を得た。
上記の1−(3,3−ジメチルシクロヘキシル)エチル ヒドロキシアセテートの物性
H−NMR(400MHz,CDCl,結合定数J[Hz]):δ=0.8〜0.9(m,2H,H−シクロヘキシル2ax&6ax),0.88,0.91(各s,各3H,H−シクロヘキシル3,3−ジメチル),1.06(m,1H,H−シクロヘキシル4ax),1.21(d,J=6.4Hz,3H,H−エチル2−メチル),1.3〜1.5(m,3H,H−シクロヘキシル2eq,4eq&5ax),1.55〜1.7(m,3H,H−シクロヘキシル1ax,5eq&6eq),2.2(br s,1H,OH),4.13(m,2H,H−アセチル−メチレン),4.82(br quin,J=6.4Hz,1H,H−エチル1−メチン).
13C−NMR(100MHz,CDCl):δ=17.09(C−エチル2),21.83(C−シクロヘキシル5),24.52(C−シクロヘキシル3−メチルax),28.22(C−シクロヘキシル6),30.48(C−シクロヘキシル3),33.43(C−シクロヘキシル3−メチルeq),38.26(C−シクロヘキシル1),38.96(C−シクロヘキシル4),41.21(C−シクロヘキシル2),60.64(C−アセチル−メチレン),76.68(C−エチル1),173.08(C−カルボニル)。
(工程3)エステル化反応による式(1−5)の化合物の合成
(工程2)で合成したアルコール10.02g(46.8mmol)とピリジン8.99g(114mmol)をエーテル10mLに溶かし、氷冷下、メトキシアセチルクロライド7.68g(70.8mmol)のエーテル溶液(13mL)を滴下し、滴下終了後0℃で1時間、さらに室温で2.5時間攪拌した。反応終了後水を加えて沈殿を溶解し、エーテル抽出を行なった。エーテル層を集めて5%塩酸水溶液、水、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和食塩水の順で洗浄し、無水硫酸マグネシウムと活性炭220mgを加えて室温で2時間攪拌した。セライト濾過を行って硫酸マグネシウムと活性炭を除去した後、濾液をエバポレーターで濃縮した。得られた残渣13.15gを減圧蒸留によって精製し、無色の油状物質12.04g(式(1−5)の化合物、42.0mmol、収率90%:沸点140〜148℃/0.5mmHg)を得た。
式(1−5)の化合物の物性
H−NMR(400MHz,CDCl,結合定数J[Hz]):δ=0.8〜0.9(m,2H,H−シクロヘキシル2ax&6ax),0.88,0.91(各s,各3H,H−シクロヘキシル3,3−ジメチル),1.06(m,1H,H−シクロヘキシル4ax),1.20(d,J=6.4Hz,3H,H−ペンチル5−メチル),1.3〜1.5(m,3H,H−シクロヘキシル2eq,4eq&5ax),1.55〜1.7(m,3H,H−シクロヘキシル1ax,5eq&6eq),3.48(s,3H,H−メトキシ),4.16(br s,2H,H−アセチル−メチレン),4.69(m,2H,H−ペンチル1−メチレン),4.79(br quin,J=6.4Hz,1H,H−ペンチル4−メチン)。
13C−NMR(100MHz,CDCl):δ=16.90(C−ペンチル5),21.78(C−シクロヘキシル5),24.45(C−シクロヘキシル3−メチルax),28.15(C−シクロヘキシル6),30.41(C−シクロヘキシル3),33.38(C−シクロヘキシル3−メチルeq),38.15(C−シクロヘキシル1),38.92(C−シクロヘキシル4),41.01(C−シクロヘキシル2),59.35(C−メトキシ),60.81(C−ペンチル1),69.40(C−アセチル−メチレン),76.51(C−ペンチル4),166.96(C−ペンチル2),169.61(C−アセチル−カルボニル)。
【0049】
[実施例6]式(1−6)の化合物の合成:2,2−ジメチル−4−(3,3−ジメチルシクロヘキシル)−3−オキサペンチル 3−エトキシプロパノエート
実施例2の3−メトキシプロピオン酸のかわりに3−エトキシプロピオン酸を用いて同様な方法により合成した。沸点159〜163℃/0.5mmHg。
【0050】
[実施例7]式(1−7)の化合物の合成:2,2−ジメチル−4−(3,3−ジメチルシクロヘキシル)−3−オキサペンチル 2−エトキシプロパノエート
実施例4のヨードメタンのかわりにヨードエタンを用いて合成した2−エトキシプロピオン酸を用いて同様な方法により合成した。沸点158〜163℃/0.5mmHg。
【0051】
[実施例8]式(1−8)の化合物の合成:4−(3,3−ジメチルシクロヘキシル)−3−オキサ−2−オキソペンチル エトキシアセテート
実施例5で得られた中間体である、1−(3,3−ジメチルシクロヘキシル)エチル ヒドロキシアセテートを実施例3と同様にエトキシ酢酸を用いてエステル化することにより合成した。沸点149〜153℃/0.5mmHg。
【0052】
[実施例9]式(1−9)の化合物の合成:4−(3,3−ジメチルシクロヘキシル)−3−オキサ−2−オキソペンチル 3−メトキシプロパノエート
実施例5で得られた中間体である、1−(3,3−ジメチルシクロヘキシル)エチル ヒドロキシアセテートを実施例2と同様にメトキシプロピオン酸を用いてエステル化することにより合成した。沸点145〜150℃/0.5mmHg。
【0053】
[実施例10]式(1−10)の化合物の合成:4−(3,3−ジメチルシクロヘキシル)−3−オキサ−2−オキソペンチル 2−メトキシプロパノエート
実施例5で得られた中間体である、1−(3,3−ジメチルシクロヘキシル)エチル ヒドロキシアセテートを実施例4の工程1で得られた2−メトキシプロピオン酸を用いてエステル化することにより合成した。沸点145〜149℃/0.5mmHg。
【0054】
[実施例11]式(1−11)の化合物の合成:4−(3,3−ジメチルシクロヘキシル)−3−オキサ−2−オキソペンチル 3−エトキシプロパノエート
実施例5で得られた中間体である、1−(3,3−ジメチルシクロヘキシル)エチル ヒドロキシアセテートを3−エトキシプロピオン酸を用いて実施例2と同様な方法でエステル化することにより合成した。沸点160〜163℃/0.5mmHg。
【0055】
[実施例12]式(1−12)の化合物の合成:4−(3,3−ジメチルシクロヘキシル)−3−オキサ−2−オキソペンチル 2−エトキシプロパノエート
実施例5で得られた中間体である、1−(3,3−ジメチルシクロヘキシル)エチル ヒドロキシアセテートを実施例7で得られた2−エトキシプロピオン酸を用いて実施例4と同様の方法でエステル化することにより合成した。沸点155〜161℃/0.5mmHg。
【0056】
[実施例13]式(1−1)〜式(1−5)の化合物の香気評価
実施例1〜5で得られた、式(1−1)〜(1−5)の化合物の香気評価を10名の良く訓練されたパネルにより行なった。香料評価は、6mm×15cmの匂い紙の先端に上記の化合物を少量浸み込ませたものを嗅ぐことにより行なった。その結果を表1に示す。
【0057】
【表1】

【0058】
表1の結果から明らかなように、ヘルベトリドは透明感のある、軽快なムスク様香気を有することがその特徴である。しかしながら、持続性にかけるという評価であった。
【0059】
一方、本発明の式(1−1)〜式(1−5)の化合物は、全体としてヘルベトリドの香気を有しているが、ヘルベトリドにはない香調を有していた。すなわち、式(1−1)の化合物は、ややウッディトーンのあるパウダリーなムスク様香気を有するとともに、やわらかさがあり、ムスク様の豊満感が非常に良く持続するという優れた利点を有していた。また、式(1−2)の化合物は、ややウッディトーンのあるムスク様香気を有し、ミュゲ感、クリーミー感も有するとともにムスク様の豊満感が非常に良く持続するとの評価であった。さらに、式(1−3)〜式(1−5)の化合物もそれぞれ、表1に示したような特徴的な香調を有するとともに、式(1−1)および式(1−2)の化合物には及ばないが、ムスク様の豊満感が良く持続するとの利点を有していた。
【0060】
結果として、本発明品である式(1−1)〜(1−5)の化合物は、従来の脂肪族ムスクであるヘルベトリドにはない種々の香調を有するとともに、ムスク様の豊満感が良く持続するという優れた特性を有することが確認された。
【0061】
[実施例14]式(1−1)の化合物およびヘルベトリドの香料組成物での比較
式(1−1)の化合物を表2に示す組成で、グリーンフローラルベースに添加し、ヘルベトリドとの香気の比較を10名の良く訓練されたパネルにより行なった。実施例13と同様、匂い紙により、香気を比較した。その結果を表2に示す。
【0062】
【表2】

【0063】
表2の結果から明らかなように、ヘルベトリドを添加した調合品は、調合直後、パウダリー感のあるグリーンフローラルムスク様の香りで、軽いシャープなグリーン感が強調されているとの評価であった。一方、本発明の式(1−1)の化合物を添加した香料組成物は、パウダリー感、スイート感のあるグリーンフローラルムスク様の香りで、力強さ、拡散力に優れ、ボリューム感があるとの評価であり、ヘルベトリドにはない香気的特徴が認められた。
【0064】
次に上記の匂い紙を室温にて10日間放置した後、香気評価を行なった。その結果、ヘルベトリドを添加した香料組成物は、ややパウダリー感のあるグリーンフローラルフルーティ様の香りで、やや線が細い印象を受けるとの評価であった。一方、本発明の式(1−1)の化合物を添加した香料組成物は、パウダリー感、スイート感のあるグリーンフローラルムスク様の香りで、力強さ、拡散力、残香性に優れている。なかでもパウダリー感がより持続しているとの評価であり、ヘルベトリドに比べて力強さ、拡散力、かつ、残香性に優れているという評価であった。残香性については、調合直後の式(1−1)の化合物の残香の程度を10として、10名のパネルの評価の平均値で示した。その結果、ヘルベトリドは調合直後、9.5、10日後6.1であったのに対し、式(1−1)の化合物は10、8.7となり、高い、残香性が認められた。
【0065】
〔実施例15〕式(1−1)〜(1−4)の化合物のソフナーを用いた残香性試験
本発明品の化合物を賦香したソフナーを用いて柔軟剤仕上げ洗濯の模擬実験を行い、残香性をさらに比較した。
(ソフナーを用いた柔軟剤仕上げ洗濯の模擬実験および残存指数の算定)
下記、(1)〜(4)の方法により、一定量の試料を賦香したソフナーを用いて柔軟剤仕上げ洗濯の模擬実験を行ない、乾燥後に布に残る試料成分を、内部標準物質を加えて抽出し、GC−MS測定におけるトータルイオンクロマトグラム面積値で評価した。残香の程度は、単位内部標準物質当たりの数値を算出し、残香指数とした。
(1)実験材料
試験ソフナー:市販ソフナーに式(1−1)〜(1−4)の化合物または市販ムスク系香料を1%賦香したものを使用した。
使用布:サラシ布を35cm×70cm(24.90〜25.10g)に裁断し、アルコール・アセトン・水洗乾燥したものをさらにエーテル洗浄・乾燥し、使用した。
内部標準試料:3−メトキシ−3−メチルブタノ−ルの0.1%エタノール溶液を調整し内部標準試料とした。
(2)測定方法
(a)2リットルのビーカーに温度計と回転子を入れ、水2Lを入れて29℃に調整し、試験ソフナー2.8gを入れ、攪拌溶解した。
(b)この溶液に上記のサラシ布を秤量し、投入し、1分間手で撹拌した。
(c)3分間浸け置きしてから布を絞って重量を測定し、水分量が50gとなるように調整してからハンガーに掛け、4時間、恒温恒湿の室内で乾燥させた。
(d)乾燥した布をエーテル200mL中に浸漬させ30分間抽出してからエーテルをデカント分離した。
(e)エーテル抽出液はエーテルを留去して約2mL付近まで濃縮し、内部標準試料100μlを添加して更に濃縮したものを測定試料とした。
(3)GC−MSによる成分の同定
香料成分と内部標準試料成分の面積値を求めるために、測定試料を下記の測定条件により測定して成分同定を行った。
(GC−MS測定条件)
Instrument:5973MSD System(Agilent Technology)
Column:TC−WAX(0.32mmI.d.×60mL.d.f=0.25μm)
Column temp.:40℃〜230℃(3℃/min)
Column flow rate:1.8mL/min(Helium)
Split ratio:20:1
Injection port temp.:250℃
Detector temp.:250℃
Sample volume:1μl
(4)残香の程度(残存指数)の算出方法
GC−MS測定により得られた香料成分の面積値(S)と内部標準試料の面積値(IS)から下記式により算出した残存指数を残香の程度の指標とした。ただし、面積値はトータルイオンクロマトグラムの測定値を用いた。
残存指数=(S)/(IS)
【0066】
【表3】

【0067】
表3の結果から明らかなとおり、本発明の式(1−1)〜(1−4)の化合物は、ソフナーを用いた残香性試験において残存指数が5.36〜2.91となり、脂肪族ムスクである市販のヘルベトリドを上回る結果が得られた。特に、式(1−1)の化合物、すなわち、2,2−ジメチル−4−(3,3−ジメチルシクロヘキシル)−3−オキサペンチル メトキシアセテートは、脂肪族ムスクであるヘルベトリドの約2倍の残存指数であり、脂肪族ムスク以外のムスクT、ガラクソリド、トナリドなどに匹敵する数値であった。
【0068】
したがって、本発明の式(1−1)〜(1−4)の化合物はそのユニークなムスク香気と共に、非常に残香性の高い脂肪族ムスクとして種々の調合香料への応用が可能となる優れた特性を有することが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)
【化1】

(式中Xは>C(CHまたは>C=Oを表し、Yは−CH−、−(CH−または−CH(CH)−を表し、Zは−CHまたは−CHCHを表す)
で表される脂肪族エステル類。
【請求項2】
下記式(1−1)
【化2】

で表される請求項1の脂肪族エステル類。
【請求項3】
請求項1または請求項2記載の脂肪族エステル類を有効成分として含有することを特徴とする香料組成物。
【請求項4】
下記式(2)
【化3】

(式中Xは>C(CH、または、>C=Oを表す)
で表されるアルコール類を下記式(3)、
【化4】

(式中Yは−CH−、−(CH−または−CH(CH)−を表し、Zは−CHまたは−CHCHを表す)
で表されるカルボン酸類または下記式(4)、
【化5】

(式中Yは−CH−、−(CH−または−CH(CH)−を表し、Zは−CHまたは−CHCHを表し、Pはハロゲン原子を表す)
で表される酸ハロゲン化物類でエステル化することを特徴とする請求項1または請求項2記載のエステル類の製造方法。

【公開番号】特開2011−37761(P2011−37761A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−186426(P2009−186426)
【出願日】平成21年8月11日(2009.8.11)
【出願人】(000214537)長谷川香料株式会社 (176)
【Fターム(参考)】