説明

脂肪族ジカルボン酸・ポリアルキレンポリアミン・2,3−エポキシスルホネートの重縮合物の製造方法

【課題】本発明目的は、優れた湿潤紙力性能を有し、かつ、環境上好ましくないAOXを樹脂中に含有しない湿潤紙力向上剤として有用な脂肪族ジカルボン酸・ポリアルキレンポリアミン・2,3−エポキシスルホネートの重縮合物を工業的に有利に製造する方法を提供することである。
【解決手段】以下に示す方法により前記の課題を解決する。1)該ポリアミドポリアミンの50重量%水溶液の25℃における粘度が400〜1000mPa・sであること 2)該ポリアミドポリアミンに、該ポリアミドポリアミン中の2級アミノ基に対して0.9〜1.6倍モルの(C)2,3−エポキシスルホネート化合物を添加し、添加後の反応系の水溶液濃度が25〜70重量%、内温10〜45℃で反応させること(1次保温) 3)次いで水を加えまたは加えることなく、反応系の水溶液濃度が15〜50重量%、30〜70℃かつ1次保温より5℃以上高い温度で保温すること(2次保温)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紙の湿潤紙力向上剤として有用な脂肪族ジカルボン酸・ポリアルキレンポリアミン・2,3−エポキシスルホネートの重縮合物の製造方法に関するものである。さらに詳しくは、吸着性有機ハロゲン化合物(以降AOXと記す)を含有せず、かつ湿潤紙力性能に優れる、ポリアミドポリアミン系の脂肪族ジカルボン酸・ポリアルキレンポリアミン・2,3−エポキシスルホネートの重縮合物の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
紙の強度、特に湿潤強度を向上させる薬剤(湿潤紙力向上剤)として、ポリアミドポリアミン−エピハロヒドリン樹脂が有用であることは、例えば特開昭56−34729号公報に記載されており、公知である。しかしながら、ポリアミドポリアミン−エピハロヒドリン樹脂水溶液中には、原料として用いられるエピハロヒドリン由来の副生成物として、ジハロヒドリンの1種である1,3−ジクロロ−2−プロパノール(以下DCPと記す)を代表とするAOXが含まれている。AOXは、人体等に対する有害性の面から、近年の環境保護の気運が高まる中、非常に注目されている物質であり、AOXを含有しない湿潤紙力向上剤の開発が望まれている。
【0003】
AOXを含有しない湿潤紙力向上剤となる樹脂を製造する方法としては、上記ポリアミドポリアミン−エピハロヒドリン樹脂の原料として用いられるエピハロヒドリンを使用せずに製造する方法がある。これまでに、エピハロヒドリンの代わりに、アミノ基と反応性を持つ官能基を有する化合物を使用した方法としては、(A)脂肪族ジカルボン酸系化合物と(B)ポリアルキレンポリアミンを反応させて得られるポリアミドポリアミン水溶液に(C)2,3−エポキシスルホネート化合物を反応させて脂肪族ジカルボン酸・ポリアルキレンポリアミン・2,3−エポキシスルホネートの重縮合物を製造する方法(特許文献1)、ポリアミン、ポリアミノアミドもしくはアルキル化ポリアミノアミドとジエポキシド、ピペラジンジクロロヒドリン、メチレンビス−アクリルアミド、クロロアセチルクロリドおよび無水マレイン酸からなる群から選択された架橋剤とを反応させる方法(特許文献2)、ポリアルキレンポリアミンとジカルボン酸から生成するポリアミドポリアミンをジグリシジル化合物と変性反応させる方法(特許文献3)などが提案されている。
【0004】
しかし、本発明者らが特許文献1に記載された方法で、AOXを含有しない脂肪族ジカルボン酸・ポリアルキレンポリアミン・2,3−エポキシスルホネートの重縮合物を製造した場合、反応の進行が阻害され、目標とする粘度まで製品粘度が到達しない傾向があるために製造が困難であった。
【0005】
これに対して本発明者らは、(A)脂肪族ジカルボン酸系化合物と(B)ポリアルキレンポリアミンを反応させて得られるポリアミドポリアミン水溶液に(C)2,3−エポキシスルホネート化合物を反応させて脂肪族ジカルボン酸・ポリアルキレンポリアミン・2,3−エポキシスルホネートの重縮合物を製造する方法において、(C)を反応させる前、もしくは反応中に(D)塩基を添加する事により、目的とする粘度まで製品粘度が上昇(増粘)する脂肪族ジカルボン酸・ポリアルキレンポリアミン・2,3−エポキシスルホネートの重縮合物を製造する方法(特許文献4)を提案した。
【0006】
しかし、この特許文献4に記載された方法でAOXを含有しない脂肪族ジカルボン酸・ポリアルキレンポリアミン・2,3−エポキシスルホネートの重縮合物を製造する場合、(D)塩基を加えることで確実に目的とする粘度まで製品粘度を上昇(増粘)させることが可能であるが、塩基を添加することから、塩基に耐えうる装置等が必要であったり、塩基を添加する操作自身が煩雑である等、必ずしも有利な製造方法とは言い難たかった。
【0007】
このようなことから、(A)脂肪族ジカルボン酸系化合物と(B)ポリアルキレンポリアミンを反応させて得られるポリアミドポリアミン水溶液に(C)2,3−エポキシスルホネート化合物を反応させて脂肪族ジカルボン酸・ポリアルキレンポリアミン・2,3−エポキシスルホネートの重縮合物を製造する方法において、前述のような反応の進行が阻害されることを防止し、かつ、工業的に有利な製造方法が望まれていた。
【0008】
【特許文献1】特開平2−8219号公報
【特許文献2】特表平9−511551号公報
【特許文献3】特開昭56−62822号公報
【特許文献4】特願2009−185703号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、優れた湿潤紙力性能を有し、かつ、環境上好ましくないAOXを樹脂中に含有しない湿潤紙力向上剤として有用な脂肪族ジカルボン酸・ポリアルキレンポリアミン・2,3−エポキシスルホネートの重縮合物を工業的に有利に製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、下記に示す方法により目的とする粘度まで製品粘度が上昇(増粘)し、かつ得られた脂肪族ジカルボン酸・ポリアルキレンポリアミン・2,3−エポキシスルホネートの重縮合物を湿潤紙力向上剤として使用することにより、AOXを含有せず、さらには優れた湿潤紙力性能を有するということを見出し、本発明を完成するに至った。
(A)脂肪族ジカルボン酸系化合物と(B)ポリアルキレンポリアミンを反応させて得られるポリアミドポリアミン水溶液に(C)2,3−エポキシスルホネート化合物を反応させて脂肪族ジカルボン酸・ポリアルキレンポリアミン・2,3−エポキシスルホネートの重縮合物水溶液を製造する方法において、
1)該ポリアミドポリアミンの50重量%水溶液の25℃における粘度が400〜1000mPa・sであること
2)該ポリアミドポリアミンに、該ポリアミドポリアミン中の2級アミノ基に対して0.9〜1.6倍モルの(C)2,3−エポキシスルホネート化合物を添加し、添加後の反応系の水溶液濃度が25〜70重量%、内温10〜45℃で反応させること(1次保温)
3)次いで水を加えまたは加えることなく、反応系の水溶液濃度が15〜50重量%、30〜70℃かつ1次保温より5℃以上高い温度で保温すること(2次保温)
【発明の効果】
【0011】
本発明により、優れた湿潤紙力性能を有することはもちろん、環境上好ましくないAOXを樹脂中に含有しない湿潤紙力向上剤につき、工業的に実施可能かつ有利な製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を具体的に説明する。
本発明においては、まず(A)脂肪族ジカルボン酸類と(B)ポリアルキレンポリアミンとの縮合反応により、ポリアミドポリアミンを生成させる。本発明における(A)脂肪族ジカルボン酸類とは、分子内に2個のカルボキシル基を有する脂肪族化合物およびその誘導体を意味する。分子内に2個のカルボキシル基を有する脂肪族化合物としては、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、セバシン酸等の遊離酸が挙げられる。また、分子内に2個のカルボキシル基を有する脂肪族化合物の誘導体としては、前記遊離酸のエステル類や酸無水物などが挙げられ、これらの中でもコハク酸、グルタル酸、アジピン酸、セバシン酸、およびこれら遊離酸のエステル類や酸無水物が好ましい。
これらの(A)脂肪族ジカルボン酸類は、一種類のみ用いても、また二種類以上併用してもよい。さらには、これらの脂肪族ジカルボン酸類とともに、本発明の効果を阻害しない範囲で、芳香族系など、他のジカルボン酸類を併用してもよい。また(A)脂肪族ジカルボン酸類は通常、一括で添加されるが、2回以上に分割して添加することもできる。
【0013】
本発明における(B)ポリアルキレンポリアミンは、分子内に2個の第1級アミノ基および少なくとも1個の第2級アミノ基を有する脂肪族化合物であり、具体的には、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、イミノビスプロピルアミンなどが挙げられ、これらの中でもジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、イミノビスプロピルアミンが好ましい。
これらの(B)ポリアルキレンポリアミンは、一種類のみ用いても、また二種類以上併用してもよい。また、エチレンジアミンやプロピレンジアミンのような脂肪族ジアミンを、本発明の効果を阻害しない範囲で上記のポリアルキレンポリアミンと併用することもできる。
【0014】
本発明における(A)脂肪族ジカルボン酸類と(B)ポリアルキレンポリアミンとのポリアミド化反応において、(A)と(B)のモル比は通常限定されないが、好ましくは(A)1モルに対し、(B)を1.0〜1.2モルの範囲で、より好ましくは1.03〜1.08モルの範囲で反応させる。またこの際、本発明により得られる水溶性樹脂の性能を阻害しない範囲で、アミノカルボン酸類を併用することもできる。アミノカルボン酸類の例としては、グリシン、アラニン、アミノカプロン酸のようなアミノカルボン酸およびそのエステル誘導体、カプロラクタムのようなラクタム類などが挙げられる。
【0015】
前記ポリアミド化反応は加熱下で行われ、その際の温度は、通常、100〜250℃であり、好ましくは130〜200℃である。そして、生成ポリアミドポリアミンを50重量%水溶液としたときの25℃における粘度が400〜1000mPa・sとなるまで反応を続ける。ポリアミド化反応終了時の粘度が400mPa・sより低いと、最終製品である脂肪族ジカルボン酸・ポリアルキレンポリアミン・2,3−エポキシスルホネートの重縮合物が十分な湿潤紙力向上効果を発現せず、また1000mPa・sを越えると、最終製品の安定性が悪くなり、ゲル化に至ることが多い。
【0016】
(A)脂肪族ジカルボン酸類と(B)ポリアルキレンポリアミンとのポリアミド化反応に際しては、触媒として、硫酸やスルホン酸類を用いることができる。スルホン酸類としては、ベンゼンスルホン酸やパラトルエンスルホン酸などが挙げられる。酸触媒は、(B)ポリアルキレンポリアミン1モルに対して0.005〜0.1モルの範囲で用いるのが好ましく、さらには0.01〜0.05モルの範囲がより好ましい。
【0017】
こうして得られるポリアミドポリアミンは次に、(C)2,3−エポキシスルホネート化合物との反応に供される。
【0018】
本発明における(C)2,3−エポキシスルホネート化合物は、式(1)において、R1〜R6が特に限定されない任意の置換基を有する化合物を指す。
【化1】

本発明における(C)2,3−エポキシスルホネート化合物のうち、式(1)において、R1、R2、R3、R4、R5は相互に独立に水素、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、又はアラルキル基である化合物が好ましく、R6はアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、又はアラルキル基である化合物が好ましい。さらには、式(1)においてR1、R2、R3、R4、R5は相互に独立に水素、又はアルキル基であり、R6はアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、又はアラルキル基である化合物がより好ましい。具体的な化合物としては、例えば、2,3−エポキシプロピルメタンスルホネート、2,3−エポキシブチルメタンスルホネート、2,3−エポキシペンチルメタンスルホネート、2,3−エポキシヘキシルメタンスルホネート、2,3−エポキシプロピルエタンスルホネート、2,3−エポキシプロピルプロパンスルホネート、2,3−エポキシプロピルブタンスルホネート、2,3−エポキシプロピルペンタンスルホネート、2,3−エポキシプロピルヘキサンスルホネート、2,3−エポキシプロピルシクロヘキシルスルホネート、2,3−エポキシプロピルベンゼンスルホネート、2,3−エポキシプロピル−4−メチルベンゼンスルホネート、2,3−エポキシプロピルベンジルスルホネートなどが挙げられ、これらの中でも2,3−エポキシプロピルメタンスルホネート、2,3−エポキシプロピル−4−メチルベンゼンスルホネートが好ましい。
【0019】
これらの(C)2,3−エポキシプロピルスルホネートは、一種類のみ用いても、また二種類以上併用してもよい。
【0020】
(C)2,3−エポキシプロピルスルホネートの使用範囲としては、反応させるポリアミドポリアミン中の第2級アミノ基に対する(C)2,3−エポキシプロピルスルホネートのモル比が0.9〜1.6の範囲、好ましくは1.0〜1.5の範囲、さらに好ましくは1.2〜1.5の範囲となるように用いる。当該モル比が0.9より小さいと、最終製品の湿潤紙力剤としての加工性能が悪くなる。また、当該モル比が1.6より大きいと、反応の進行が阻害され、本発明の製造方法をとったとしても目標とする粘度まで製品粘度が到達しない傾向がある。
【0021】
ポリアミドポリアミンと(C)2,3−エポキシスルホネート化合物との反応は2段階もしくは3段階以上に温度を設定して行われる。2段階の場合は、得られたポリアミドポリアミンに水を加えまたは加えることなく、(C)2,3−エポキシスルホネート化合物を添加し、該反応物を全て仕込んだ後の反応系の水溶液濃度を25〜70重量%となるように調整し、10〜45℃の温度で反応させる(1次保温)。1次保温後、水を加えまたは加えることなく、反応系の水溶液濃度が15〜50重量%となるように調整し、30〜70℃かつ1次保温より5℃以上高い温度で保温する(2次保温)。前述の保温条件について、好ましくは1次保温を該反応物を全て仕込んだ後の反応系の水溶液濃度が30〜40重量%、温度25〜35℃ととなるように調整し、2次保温を反応系の水溶液濃度が濃度20〜30重量%、40〜65℃ととなるように調整する。
【0022】
さらに好ましくは3段階に温度を設定して行われる。得られたポリアミドポリアミンに水を加えまたは加えることなく、(C)2,3−エポキシスルホネート化合物を添加し、該反応物を全て仕込んだ後の反応系の水溶液濃度を25〜70重量%となるように調整し、10〜45℃の温度で反応させる(1次保温)。1次保温後、水を加えまたは加えることなく、反応系の水溶液濃度20〜50重量%となるように調整し、30〜70℃かつ1次保温より5℃以上高い温度で保温する(2次保温)。2次保温終了後は、水を加えまたは加えることなく、反応系の水溶液濃度が15〜45重量%となるように調整し、前記2次保温温度より低い温度、かつ30〜60℃で保温する(3次保温)。3次保温時には、系内の粘度を制御しやすくするため、2次反応の保温温度よりも5℃以上下げるのが好ましい。
【0023】
前述の各保温時の粘度及び温度条件について、好ましくは以下の通り調整する。
1次保温:該反応物を全て仕込んだ後の反応系の水溶液濃度30〜40重量%、温度25〜35℃
2次保温:反応系の水溶液濃度を20〜30重量%、温度55〜65℃
3次保温:反応系の水溶液濃度を20〜30重量%、温度40〜50℃
【0024】
上述の各保温は通常、以下の時間範囲によって実施される。
1次保温:通常0.5〜8時間、好ましくは1〜5時間
2次保温:通常0.5〜6時間、好ましくは1〜4時間
3次保温:通常1〜10時間、好ましくは2〜8時間
【0025】
これらの反応において、反応物濃度や設定温度が上記範囲の上限より高い場合には、増粘速度が速く、ゲル化を起こす可能性がある。また、反応物濃度や設定温度が上記範囲の下限よりも低い場合には、本発明の効果である反応の進行が阻害され、目標とする粘度まで製品粘度まで到達しない傾向がある。また、当該脂肪族ジカルボン酸・ポリアルキレンポリアミン・2,3−エポキシスルホネートの重縮合物水溶液の湿潤紙力向上効果が十分ではない傾向がある。
【0026】
反応は、当該脂肪族ジカルボン酸・ポリアルキレンポリアミン・2,3−エポキシスルホネート重縮合物水溶液の濃度を25重量%としたときの25℃における粘度が、通常、80〜400mPa・s、好ましくは80〜300mPa・s、さらに好ましくは80〜150mPa・sとなるまで続けられる。反応終了時の当該脂肪族ジカルボン酸・ポリアルキレンポリアミン・2,3−エポキシスルホネート重縮合物水溶液の25重量%濃度の水溶液の粘度が80mPa・sより低いと、最終製品である樹脂の湿潤紙力向上効果が十分でない傾向があり、400mPa・sを越えると、樹脂水溶液の安定性が悪くなる傾向があり、また抄紙過程でパルプスラリーに添加した際に強い発泡を伴い、抄紙作業を困難にするばかりでなく、紙の地合いを損なうことにもなる。
【0027】
反応終了後は、必要により水で希釈した後、当該樹脂に長期貯蔵安定性を付与するため、例えば、塩酸、硫酸、リン酸等の無機酸、ギ酸、酢酸等の有機酸を加えて、pHを1〜8に調整し、目的物である脂肪族ジカルボン酸・ポリアルキレンポリアミン・2,3−エポキシスルホネートの重縮合物を得る。
【0028】
本発明の脂肪族ジカルボン酸・ポリアルキレンポリアミン・2,3−エポキシスルホネートの重縮合物は、優れた湿潤紙力向上効果を紙に付与し、しかも環境に好ましくないAOXを含有せず、かつ、卓越した安定性を有するという、極めて優れた性質を有している。ここでいうAOXには、エピハロヒドリンに由来して副反応で生成するジハロヒドリン(例えば、DCP)およびモノハロヒドリン(例えば、3−ハロ−1,2−プロパンジオール)が包含される。例えば、エピハロヒドリンの1種であるエピクロロヒドリンを原料とした場合は、副反応によって、DCPおよび3−クロロ−1,2−プロパンジオールが生成する可能性がある。
【0029】
本発明によれば、かかる優れた性質を有する脂肪族ジカルボン酸・ポリアルキレンポリアミン・2,3−エポキシスルホネートの重縮合物を目標とする製品粘度まで到達しない事を避けつつ、反応中の急激な増粘やゲル化を起こすことなく目標とする製品粘度の重縮合物が製造できる。さらには従来の製造方法に比べ容易に製造できる。
【0030】
こうして得られる脂肪族ジカルボン酸・ポリアルキレンポリアミン・2,3−エポキシスルホネートの重縮合物は、本発明において湿潤紙力向上剤として用いられる。当該樹脂は、例えば、抄紙された紙にサイズプレス、ゲートロールコーター等を用いて、水溶液の形で塗布またはスプレーしたり、この樹脂を含む水溶液に紙を浸漬して紙にこの樹脂を含浸するなどの方法で紙中に含有させても、湿潤紙力向上効果を発揮するが、パルプスラリーにこの樹脂を添加して抄紙する、いわゆる内添法において、それもパルプの乾燥重量を基準に0.1重量%以上添加した場合に、高い効果を発揮する。パルプの乾燥重量基準でこの樹脂の添加量が0.1重量%未満の場合でも、湿潤紙力向上効果は発揮されるが、0.1重量%以上用いた場合に特にその効果が顕著である。この樹脂の添加量の上限は、5重量%程度までとするのが好ましい。
【0031】
本発明の湿潤紙力向上剤を含有する紙の製造法としては、この樹脂を、パルプとよく混合できるように添加すればよく、その添加時期に特別な制限はない。また、本発明の方法を実施するにあたり、抄紙自体は従来から公知の方法に従って行うことができる。すなわち、パルプの水性分散液に、前記の樹脂を添加し、よく混合してから抄紙すればよい。
【0032】
この際、紙の製造に通常用いられている薬剤も、本発明の効果を損なわない範囲で添加することができ、これらの例として、サイズ剤や定着剤などが挙げられる。具体的な薬剤として硫酸アルミニウム(いわゆる硫酸バンド)が代表的である。
【0033】
本発明の紙とは本発明によって得られる脂肪族ジカルボン酸・ポリアルキレンポリアミン・2,3−エポキシスルホネートの重縮合物が湿潤紙力向上剤として含有されており、用途としては例えばPPC用紙・感光紙原紙・感熱紙原紙のような情報用紙、ティシュペーパー・タオルペーパー・ナプキン原紙のような衛生用紙、化粧板原紙・壁紙原紙・印画紙用紙・積層板原紙・食品容器原紙のような加工原紙、重袋用両更クラフト紙・片艶クラフト紙などの包装用紙、電気絶縁紙、耐水ライナー、耐水中芯、新聞用紙、紙器用板紙等が該当し、何れの抄紙工程においても、抄造された紙に有用な湿潤紙力向上効果を与える。なお、本発明でいう紙には板紙も含まれる。
【0034】
本発明に使用されるパルプは特に限定されるものではなく、木材チップより得られるパルプ原料としては、クラフトパルプ、サルファイトパルプの晒し並びに未晒し化学パルプ、砕木パルプ、機械パルプ、サーモメカニカルパルプ、ケミサーモメカニカルパルプなどの晒し又は未晒し高収率パルプなどを挙げることができる。また、用途、品質に応じて合成繊維、内添填料、ガラス繊維など適宜選択/配合できる。
【0035】
本発明により得られる脂肪族ジカルボン酸・ポリアルキレンポリアミン・2,3−エポキシスルホネートの重縮合物は、紙の湿潤紙力向上剤としての用途のみならず、製紙工程中に添加される填料の歩留向上剤、製紙速度を向上させるために使用される濾水性向上剤、あるいは工場排液などの汚水中に含まれる微粒子を除去するための沈殿凝集剤としても使用することができる。
【0036】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。例中にある%および量比は、特にことわらないかぎり重量基準である。
また、本文中の粘度は以下の装置及び条件にて測定した。
装置:TOKYO KEIKI社製 DIGITAL VISCOMETER DVL−B
測定温度:25℃
ローターNo.:No.1
回転数:60rpm
【0037】
(製造例1)((A)脂肪族ジカルボン酸類と(B)ポリアルキレンポリアミンの反応例1)
温度計、リービッヒ冷却器および撹拌棒を備えた四つ口フラスコに、ジエチレントリアミン520.0g(5.04モル)、水37.3g、アジピン酸699.5g(4.79モル)および71%硫酸15.3g(0.11モル)を仕込み、145℃まで昇温し、1時間還流した後、水を抜きながら、140〜160℃で18時間反応させた。その後、水1005.5gを徐々に加えて、ポリアミドポリアミンの水溶液を得た。このポリアミドポリアミン水溶液は、固形分50. 7%、25℃における粘度462mPa・sであった。
【0038】
(製造例2)((A)脂肪族ジカルボン酸類と(B)ポリアルキレンポリアミンの反応例2)
温度計、リービッヒ冷却器および撹拌棒を備えた四つ口フラスコに、ジエチレントリアミン520g(5.04モル)、水37.3g、コハク酸565.3g(4.79モル)および71%硫酸15.3g(0.11モル)を仕込み、145℃まで昇温し、1時間還流した後、水を抜きながら、140〜160℃で12時間反応させた。その後、水735.6gを徐々に加えて、ポリアミドポリアミンの水溶液を得た。このポリアミドポリアミン水溶液は、固形分51.1%、25℃における粘度143mPa・sであった。
【実施例1】
【0039】
温度計、還流管および撹拌棒を備えた四つ口フラスコに、製造例1で得られたポリアミドポリアミン水溶液40.0g(2級アミノ基として0.10モル)に該反応物を全て仕込んだ後の反応系の水溶液濃度が35%になるように水55.5gを仕込み、2,3−エポキシプロピルメタンスルホネート20.3g(0.13モル(2級アミノ基に対する架橋剤のモル比1.4))を液温27〜30℃で3時間かけて滴下した後、30℃で4時間保温した(1次保温)。その後、水46.3gを加え、水を加えた後の反応系の水溶液濃度を25%とし、50℃で6.0時間保温した(2次保温)。これにより、反応により生成する樹脂分の濃度を25重量%としたときの25℃における粘度が24mPa・s(2次保温開始時)から105mPa・s(2次保温終了時)まで増粘した。その後、冷却しながら、71%硫酸0.5g、水89.2gを加え、固形分15.7%、粘度39mPa・s(25℃)、pH3.2の脂肪族ジカルボン酸・ポリアルキレンポリアミン・2,3−エポキシスルホネートの重縮合物水溶液を得た。
【実施例2】
【0040】
温度計、還流管および撹拌棒を備えた四つ口フラスコに、製造例1で得られたポリアミドポリアミン水溶液40.0g(2級アミノ基として0.10モル)に該反応物を全て仕込んだ後の反応系の水溶液濃度が35%になるように水55.5gを仕込み、2,3−エポキシプロピルメタンスルホネート20.3g(0.13モル(2級アミノ基に対する架橋剤のモル比1.4))を液温27〜30℃で3時間かけて滴下した後、30℃で4時間保温した(1次保温)。その後、水46.3gを加え、水を加えた後の反応系の水溶液濃度を25%とし、60℃で1.5時間保温した(2次保温)。次いで、45℃まで冷却し、同温で2時間保温した(3次保温)。これにより、反応により生成する樹脂分の濃度を25重量%としたときの25℃における粘度が24mPa・s(2次保温開始時)から100mPa・s(3次保温終了時)まで増粘した。その後、冷却しながら、71%硫酸0.5g、水88.0gを加え、固形分15.6%、粘度38mPa・s(25℃)、pH3.2の脂肪族ジカルボン酸・ポリアルキレンポリアミン・2,3−エポキシスルホネートの重縮合物水溶液を得た。
【0041】
(比較例1)
温度計、還流管および撹拌棒を備えた四つ口フラスコに、製造例1で得られたポリアミドポリアミン水溶液40.0g(2級アミノ基として0.10モル)に該反応物を全て仕込んだ後の反応系の水溶液濃度が35%になるように水55.5gを仕込み、2,3−エポキシプロピルメタンスルホネート20.3g(0.13モル(2級アミノ基に対する架橋剤のモル比1.4))を液温27〜30℃で15分間かけて滴下した。次いで、10〜45℃の温度で反応させること(1次保温)なく水46.3gを加え、水を加えた後の反応系の水溶液濃度を25%とした後、60〜80℃で11時間保温した。この間、反応により生成する樹脂分の濃度を25重量%としたときの25℃における粘度が53mPa・sから増粘しなくなった。
【0042】
(比較例2)
実施例1に記載のポリアミドポリアミン水溶液を製造例2のものに変える以外は実施例1と同様に反応を実施した。2次保温に到達してから24時間保温したものの、反応により生成する樹脂分の濃度が25%で25℃における粘度が32mPa・sから増粘しなくなった。
【0043】
実施例1〜2で得られたポリアミドポリアミン−エポキシスルホネートの重縮合物水溶液について、以下の評価を行った。結果を表1に示す。
【0044】
(DCP含有量)
実施例1〜3のポリアミドポリアミン―エポキシスルホネートの重縮合物水溶液に関して、AOXの代表物質として、DCP含有量をガスクロマトグラフィーにより測定した。
ガスクロマトグラフィー条件
装置:島津製作所社製GC−14B
カラム:DB−WAX(J&W社製)L=30m、Φ=0.53mm、D=0.25μmキャリヤー:窒素(ガス流量=10.0ml/min)
分析条件:
注入口温度;300℃
検出器温度;300℃
温度プログラム;Oven 50℃×5min、
Rate 10℃/min、
Final 220℃×10min
【0045】
(保存安定性)
得られた水溶液を50℃、2週間放置後の性状により判断した。
○:粘度の変化が少ない。×:ゲル化している、あるいは粘度の低下が激しい。
【0046】
(湿潤紙力強度)
実施例1および2で得られた水溶液を用いて、以下の抄紙試験を行った。比較試験としてポリアミドポリアミン−エポキシスルホネートの重縮合物水溶液を添加しない紙も併せて抄紙した(比較例3)。得られた紙の湿潤引っ張り強さをISO 1924/1−1992に準じて測定し、結果を湿潤裂断長として表1に示した。
【0047】
(抄紙条件)
使用パルプ:N−BKP/L−BKP=1/1
叩解度:411cc
樹脂添加量:0.6%(樹脂固形分の対パルプ乾燥重量)
熱処理条件:110℃、4分間
抄紙平均米坪量:60g/m
【0048】
【表1】


1)0.0005%未満(検出限界)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)脂肪族ジカルボン酸系化合物と(B)ポリアルキレンポリアミンを反応させて得られるポリアミドポリアミン水溶液に(C)2,3−エポキシスルホネート化合物を反応させて脂肪族ジカルボン酸・ポリアルキレンポリアミン・2,3−エポキシスルホネートの重縮合物水溶液を製造する方法において、
1)該ポリアミドポリアミンの50重量%水溶液の25℃における粘度が400〜1000mPa・sであること
2)該ポリアミドポリアミンに、該ポリアミドポリアミン中の2級アミノ基に対して0.9〜1.6倍モルの(C)2,3−エポキシスルホネート化合物を添加し、添加後の反応系の水溶液濃度が25〜70重量%、内温10〜45℃で反応させること(1次保温)
3)次いで水を加えまたは加えることなく、反応系の水溶液濃度が15〜50重量%、30〜70℃かつ1次保温より5℃以上高い温度で保温すること(2次保温)
を特徴とする脂肪族ジカルボン酸・ポリアルキレンポリアミン・2,3−エポキシスルホネート重縮合物水溶液の製造方法。
【請求項2】
(A)脂肪族ジカルボン酸系化合物と(B)ポリアルキレンポリアミンを反応させて得られるポリアミドポリアミン水溶液に(C)2,3−エポキシスルホネート化合物を反応させて脂肪族ジカルボン酸・ポリアルキレンポリアミン・2,3−エポキシスルホネートの重縮合物水溶液を製造する方法において、
1)(A)脂肪族ジカルボン酸系化合物と(B)ポリアルキレンポリアミンの使用モル比が(A):(B)=1:1.0〜1.2であること
2)該ポリアミドポリアミンの50重量%水溶液の25℃における粘度が400〜1000mPa・sであること
3)該ポリアミドポリアミンに、該ポリアミドポリアミン中の2級アミノ基に対して0.9〜1.6倍モルの(C)2,3−エポキシスルホネート化合物を添加し、添加後の反応系の水溶液濃度が25〜70重量%、内温10〜45℃で反応させること(1次保温)
4)次いで水を加えまたは加えることなく、反応系の水溶液濃度が20〜50重量%、35〜70℃かつ1次保温より5℃以上高い温度で保温すること(2次保温)
5)さらに水を加えまたは加えることなく、反応系の水溶液濃度が15〜45重量%、前記2次保温温度より低い温度、かつ30〜60℃で保温すること(3次保温)
を特徴とする脂肪族ジカルボン酸・ポリアルキレンポリアミン・2,3−エポキシスルホネート重縮合物水溶液の製造方法。
【請求項3】
(A)脂肪族ジカルボン酸系化合物と(B)ポリアルキレンポリアミンを反応させて得られるポリアミドポリアミン水溶液に(C)2,3−エポキシスルホネート化合物を反応させて脂肪族ジカルボン酸・ポリアルキレンポリアミン・2,3−エポキシスルホネートの重縮合物水溶液を製造する方法において、
1)(A)脂肪族ジカルボン酸系化合物と(B)ポリアルキレンポリアミンの使用モル比が(A):(B)=1:1.03〜1.08であること
2)該ポリアミドポリアミンの50重量%水溶液の25℃における粘度が400〜1000mPa・sであること
3)該ポリアミドポリアミンに、該ポリアミドポリアミン中の2級アミノ基に対して1.2〜1.5倍モルの(C)2,3−エポキシスルホネート化合物を添加し、添加後の反応系の水溶液濃度が30〜40重量%、内温25〜35℃で反応させること(1次保温)
4)次いで水を加えまたは加えることなく、反応系の水溶液濃度が20〜30重量%、55〜65℃かつ1次保温より5℃以上高い温度で保温すること(2次保温)
5)さらに水を加えまたは加えることなく、反応系の水溶液濃度が20〜30重量%、前記2次保温温度より低い温度、かつ40〜50℃で保温すること(3次保温)
を特徴とする脂肪族ジカルボン酸・ポリアルキレンポリアミン・2,3−エポキシスルホネート重縮合物水溶液の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3に記載の方法で製造された脂肪族ジカルボン酸・ポリアルキレンポリアミン・2,3−エポキシスルホネートの重縮合物。
【請求項5】
請求項4記載の重縮合物を有効成分とする湿潤紙力向上剤。
【請求項6】
請求項5に記載の湿潤紙力向上剤を含有することを特徴とする紙。

【公開番号】特開2011−256342(P2011−256342A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−133999(P2010−133999)
【出願日】平成22年6月11日(2010.6.11)
【出願人】(000216243)田岡化学工業株式会社 (115)
【Fターム(参考)】