説明

脂肪族ニトリルの製造方法

【課題】 低い製造コストで脂肪族アミンを得る脂肪族アミンの製造方法の提供。
【解決手段】 酸化チタンゾルの存在下で、脂肪族カルボン酸、脂肪族ジカルボン酸又はこれらのアルキルエステル(アルキル基の炭素数は1〜5)とアンモニアを反応させて脂肪族ニトリルを製造した後、水素化触媒の存在下で水素化反応を行う脂肪族アミンの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製造コストを低減させることができる脂肪族ニトリルの製造方法及び前記方法で製造された脂肪族ニトリルからの脂肪族アミンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
脂肪族ニトリルの製造法としては、一般に脂肪族カルボン酸又はその誘導体とアンモニアとを反応させる方法が工業的に知られており、その反応形態としては大別して気相法と液相法がある。
【0003】
特許文献1には、気相法の反応として、触媒にZr,Ta,Ga,In,Sc,Nb,Hf,Fe,Zn,Snの酸化物を使用して、予め気化させた脂肪族カルボン酸又はその誘導体をアンモニアと共に250〜600℃の温度で接触させる方法が開示されている。
【0004】
特許文献2には、金属多価カチオンで被毒した酸化ジルコニウムを使用して、予め気化させた脂肪族カルボン酸又はそのアルキルエステルをアンモニアと共に200〜400℃の温度で接触させる方法が開示されている。
【0005】
特許文献3には、チタン及びジルコニウムから選ばれた少なくとも1種の元素の酸化物を含有する固体触媒を用い、炭素数2〜8の脂肪族カルボン酸そのアルキルエステルをアンモニアと共に250〜550℃の温度で製造する方法が開示されている。
【0006】
特許文献1〜3の反応では、原料物質である脂肪酸や脂肪酸誘導体を気化させる必要があり、液相法に比べてエネルギーコストがかかるという欠点を有する。
【0007】
一方、液相法で反応させる場合には、触媒の存在下で脂肪族カルボン酸又はその誘導体を加熱溶解させ、この中にアンモニアガスを吹き込むことにより、回分式もしくは連続式で反応させる方法が広く行われている。
【0008】
特許文献4には、鉄又は鉄化合物を使用して、150〜290℃で反応させる方法が開示されている。しかし、この反応では、触媒が脂肪族カルボン酸に溶出してしまい、この溶出物は、例えばこの脂肪族ニトリルから水素化反応により脂肪族アミンを製造する方法においては、反応の阻害因子として作用する。そのため、溶出物を分離、回収操作するための新たな設備が必要になり、また脂肪族ニトリルの収率低下も起こり、脂肪族ニトリルの製造法として好ましくない。
【0009】
特許文献5には、反応温度が300℃以下で、酸化チタンに珪素、ニオブ、ジルコニウム、タンタル、ガリウム及びゲルマニウムからなる群から選ばれる1種以上の元素の酸化物を複合した、反応液に難溶な複合酸化物を使用する製造法が開示されている。この触媒は、確かに脂肪族カルボン酸への溶出を抑制できるが、触媒調製用の原料であるこれら金属のアルコキシドが高価であり、反応性も充分でなく、工業的に改善の余地がある。
【特許文献1】特開平4−208260号公報
【特許文献2】特開平10−195035号公報
【特許文献3】特開2002−284753号公報
【特許文献4】特開昭58−39653号公報
【特許文献5】特開2000-80069号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、反応性が良く、製造コストを低減させることができ、工業的に有利な脂肪族ニトリルの製造方法、及び前記脂肪族ニトリルを原料とする脂肪族アミンの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、課題の解決手段として、酸化チタンゾルの存在下で、脂肪族カルボン酸、脂肪族ジカルボン酸又はこれらのアルキルエステル(アルキル基の炭素数は1〜5)とアンモニアを反応させる脂肪族ニトリルの製造方法を提供する。
【0012】
本発明は、課題の他の解決手段として、酸化チタンゾルが、水(25℃でのpHが6〜14)、有機溶媒、又は水と有機溶媒の混合溶媒に分散されている請求項1記載の脂肪族ニトリルの製造方法を提供する。
【0013】
本発明は、他の課題の解決手段として、請求項1又は2に記載の方法で得られた脂肪族ニトリルを、水素化触媒の存在下で水素化反応を行う脂肪族アミンの製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、酸化チタンゾルを用いることから、高い反応性及び収率で、さらに低い製造コストで脂肪族ニトリルを得ることができ、この脂肪族ニトリルを原料とすることで、高い収率で、かつ低い製造コストで脂肪族アミンを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
<脂肪族ニトリルの製造方法>
本発明の脂肪族ニトリルの製造方法は、酸化チタンゾルの存在下で脂肪族カルボン酸、脂肪族ジカルボン酸又はこれらのアルキルエステル(アルキル基の炭素数は1〜5)とアンモニアを反応させる方法である。
【0016】
本発明で使用する酸化チタンゾルは、酸化チタン粒子が分散媒に分散されたもので、液体を分散媒として直径1〜500nm程度の大きさの粒子が均一に分散した懸濁液である。
【0017】
このような酸化チタンゾルとしては、(I)酸化チタン粒子が水(25℃のpHが6〜14)に分散された、酸化チタンゾル、(II)酸化チタン粒子が有機溶媒に分散された酸化チタンゾル、(III)酸化チタン粒子が水と有機溶媒の混合溶媒に分散された酸化チタンゾルのいずれでもよい。なお、酸化チタンゾルは、本発明の製造方法における反応を阻害しない成分又は助触媒成分として、酸化チタン100質量部に対して、1〜25質量部の珪素、ニオブ、ジルコニウム等の酸化物を含有してもよい。
【0018】
酸化チタン粒子は、反応性がよいことから、全粒子の80質量%以上の粒径が0.1μm以下のものが好ましく、より好ましくは全粒子の90質量%以上の粒径が0.1μm以下のものである。
【0019】
酸化チタンの粒径分布は動的光散乱法で測定する。測定方法は次のとおり。測定セルに酸化チタン粒子が0.05〜0.1質量%程度になるように水で希釈した試料を仕込み、PARTICLE SIZE SYSTEMS社 NICOMP 380ZLS〔波長532nm(緑)〕を使用して測定し、ヒストグラム法により体積加重平均の粒径分布を求める。
【0020】
酸化チタンゾル中の酸化チタン粒子の含有量は、5〜20質量%が好ましく、6〜18質量%がより好ましく、8〜15質量%がさらに好ましい。
【0021】
分散媒としての有機溶媒は、本発明の製造方法における反応温度より低い温度で留去できる蒸気圧の高い有機溶媒が好ましく、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール等のアルコール類、ジエチルエーテル、1,2-ジメトキシエタン、1,2-ジエトキシエタン、2-メトキシエタノール等のエーテル類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類を例示することができる。
【0022】
分散媒を水と有機溶媒の混合物にするときの水の含有量は特に制限はなく、安定な分散状態のゾルを形成していれば任意の比率で混合してよい。
【0023】
酸化チタンゾルは、公知の製造方法により得ることができ、例えば、チタンの硫酸塩、硝酸塩、ハロゲン化物等の無機チタン塩を原料とし、これに含まれる酸根を何らかの方法で除去又はアルカリ溶液を加えることにより得る方法;乳酸チタンを水に加えて加水分解を行うことにより得る方法;チタンアルコキシドを各種の手段で加水分解し、ゾルを得る方法を適用して得ることができる。
【0024】
酸化チタンゾルの製造で使用するアルカリ溶液としては、本発明の製造方法における反応を阻害したり、脂肪族ニトリルの収率を低下させたりしないものが好ましく、アンモニア水、重炭酸アンモニウム、炭酸アンモニウム等を例示することができる。また、本発明で使用する酸化チタンゾルは、市販品としても入手することができる。
【0025】
本発明で使用する脂肪族カルボン酸、脂肪族ジカルボン酸又はこれらのアルキルエステル(アルキル基の炭素数は1〜5)としては、直鎖又は分岐鎖の炭素数6〜22の飽和又は不飽和脂肪族モノカルボン酸、ジカルボン酸又は前記脂肪族カルボン酸のアルキルエステル(アルキル基の炭素数は1〜5)を挙げることができる。
【0026】
ここで、炭素数1〜5のアルキル基としては、具体的にはメチル、エチル、プロピル、イソプロピルを挙げることができ、特にメチルが好ましい。これらの脂肪族カルボン酸、脂肪族ジカルボン酸又はこれらのアルキルエステル(アルキル基の炭素数は1〜5)は、各々単独若しくは2種以上混合して使用することができる。
【0027】
脂肪族カルボン酸、脂肪族ジカルボン酸の具体例としては、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキン酸、ベヘン酸、ジメチルオクタン酸、ブチルヘペチルノナン酸、ヘキセン酸、オクテン酸、デセン酸、ドデセン酸、テトラデセン酸、ヘキサデセン酸、オクタデセン酸、エイコセン酸、ドコセン酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、デカメチレンジカルボン酸、ヘキサデカメチレンジカルボン酸、オクタデカメチレンジカルボン酸等を挙げることができる。
【0028】
脂肪族カルボン酸のアルキルエステル(アルキル基の炭素数は1〜5)の具体例としては、前記脂肪族カルボン酸、脂肪族ジカルボン酸のメチル、エチル、プロピル、イソプロピルエステル等を挙げることができる。
【0029】
本発明で使用するアンモニアの使用量は、脂肪族カルボン酸、脂肪族ジカルボン酸又はこれらのアルキルエステル1モルに対して、好ましくは1〜100モル、より好ましくは2〜50モル、さらに好ましくは2〜20モルである。
【0030】
触媒となる酸化チタンゾルは、脂肪族カルボン酸、脂肪族ジカルボン酸又はこれらのアルキルエステル100質量部に対して0.05〜20質量部が好ましく、より好ましくは0.1〜15質量部、さらに好ましくは0.1〜10質量部の範囲である。
【0031】
本発明の脂肪族ニトリルの製造方法における反応は、懸濁床による回分、半回分、連続式でも、また固定床流通式でも実施できる。
【0032】
回分、半回分を用いた製造法では、脂肪酸を溶解させ、所定量の触媒を仕込み、反応槽を充分に窒素置換した後、反応させる温度まで昇温させた後にアンモニアガスを流入させる方法を適用できる。
【0033】
連続式、固定床流通式を用いた製造法では、触媒を充填し、反応させる温度まで昇温させた後に溶解した脂肪族カルボン酸、脂肪族ジカルボン酸又はこれらのアルキルエステルとアンモニアガスを流入させる方法を適用できる。
【0034】
反応圧力は、通常やや加圧された状態がよいが、常圧でもよい。反応温度は、好ましくは180〜350℃、より好ましくは230〜320℃、さらに好ましくは250〜300℃である。反応時間は、好ましくは1〜15時間、より好ましくは1〜10時間、さらに好ましくは1〜8時間である。
【0035】
本発明の製造方法では、酸化チタンゾルを触媒として使用するが、酸化チタンゾルは反応液中への溶解が殆どないため、特に精製処理は不要である。しかし、必要に応じて、蒸留等の精製処理をしてもよい。
【0036】
<脂肪族アミンの製造方法>
本発明の脂肪族アミンの製造方法は、上記方法で製造された脂肪族ニトリルを原料としし、水素化触媒を用いて水素化を行う方法である。上記したとおり、得られた脂肪族ニトリル中には酸化チタンゾルは殆ど含まれていないため、蒸留工程等の精製を行わなくても、効率的に水素化反応が起こり、脂肪族アミンを製造することができるが、蒸留により精製したものを原料として用いてもよい。
【0037】
水素化触媒としては、公知の水素化触媒、例えばコバルト系触媒、ニッケル系触媒、銅系触媒、貴金属系触媒が使用される。好ましくは、ニッケル、コバルト、及び/又はルテニウムを主成分とする触媒、より好ましくはラネー型触媒が使用され、さらに別の金属としてアルミニウム、亜鉛、珪素等を含有していてもよい。また、これらの触媒には促進剤として、クロム、鉄、コバルト、マンガン、タングステン、モリブデンから選ばれる金属を含有できる。
【0038】
また、水素化触媒としては、完全固体触媒又は担持固体触媒、例えばニッケル、コバルト、ルテニウム等が酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化ジルコニウム、マグネシア/アルミナに担持されたものも使用できる。
【0039】
水素化触媒の使用量は、脂肪族ニトリル100質量部に対して、好ましくは0.05〜5質量部、より好ましくは0.1〜3質量部である。
【0040】
反応圧力は、好ましくは水素圧0.3〜5MPa、より好ましくは1.0〜4MPa、さらに好ましくは1.5〜3MPaである。反応温度は、好ましくは50〜200℃、より好ましくは80〜170℃、さらに好ましくは100〜140℃であり、水素化の反応が起こっている時に連続的又は段階的に反応温度を上昇させることが好ましい。反応時間は、好ましくは1〜15時間、より好ましくは1〜12時間、さらに好ましくは1〜10時間である。
【実施例】
【0041】
実施例1
撹拌器、ガス導入管、温度計及び脱水装置を装備した四つ口フラスコに、アンモニア水溶液に分散された酸化チタンゾル(20nm以下の酸化チタン粒子が97質量%含有されているもの。pH10。多木化学(株)製のA−6)16.7g(酸化チタンとして1.0g)とオレイン酸(花王(株)製ルナック0-A)500gを混合し、反応温度300℃で1000ml/minのアンモニアガスを導入して反応させた。
【0042】
得られた反応生成物をガスクロマトグラフィー[ガスクロ装置:HEWLETT PACKARD Series 6890、カラム:J & W Scientific 製HP-5(カラム内径×長さ:0.25mm×60m)]で組成分析した。アンモニアガスを導入してから、上記のガスクロマトグラフィーの測定で脂肪族アミドの生成量が検出限界以下になるまでの時間は、3.1時間であった。またその時のニトリル生成量は98.4%であった。
【0043】
実施例2
実施例1で得られた生成物450g、ラネーニッケル触媒1.6g、48%NaOH0.9g、イオン交換水7.8gをオートクレーブに仕込んだ後、オートクレーブの空間部を水素置換し、水素圧1.9MPaに調整した後、135℃まで昇温し、この温度で3時間反応させた。
【0044】
生成物をガスクロマトグラフィー[ガスクロ装置:HEWLETT PACKARD、カラム:JHEWLETT PACKARD製ウルトラ−2(内径×長さ:0.53mm×15m)]で組成分析してステアリルアミンの生成量を測定した結果、98.1%の収率であった。






【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化チタンゾルの存在下で、脂肪族カルボン酸、脂肪族ジカルボン酸又はこれらのアルキルエステル(アルキル基の炭素数は1〜5)とアンモニアを反応させる脂肪族ニトリルの製造方法。
【請求項2】
酸化チタンゾルが、水(25℃でのpHが6〜14)、有機溶媒、又は水と有機溶媒の混合溶媒に分散されている請求項1記載の脂肪族ニトリルの製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の方法で得られた脂肪族ニトリルを、水素化触媒の存在下で水素化反応を行う脂肪族アミンの製造方法。




【公開番号】特開2006−182708(P2006−182708A)
【公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−378840(P2004−378840)
【出願日】平成16年12月28日(2004.12.28)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】