説明

脂肪族ポリウレア樹脂組成物及び脂肪族ポリウレア樹脂

【課題】塗工がし易く、柔軟性、耐温水性、安全性に優れる塗膜を作製することを可能にする脂肪族ポリウレア樹脂組成物及び脂肪族ポリウレア樹脂を提供する。
【解決手段】下記(A)と(B)とからなる樹脂組成物であることを特徴とする、脂肪族ポリウレア樹脂組成物。
(A)脂環族イソシアネート末端プレポリマー5重量%〜80重量%と、脂肪族ポリイソシアネート変性体95重量%〜20重量%と、を含む脂肪族ポリイソシアネート
(B)アスパラギン酸エステル骨格を有する第2級脂環族ジアミン

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脂肪族ポリウレア樹脂組成物及び脂肪族ポリウレア樹脂に関する。
【背景技術】
【0002】
脂肪族ポリウレアは、室温下でも硬化速度が速く、機械強度に優れているという特長を有している他、芳香族ポリウレアの欠点である紫外線暴露による表面の黄変がない。このため従来から各種塗料、床材、防水材等、広範囲な用途で利用されている。脂肪族ポリウレアやその樹脂組成物(脂肪族ポリウレア樹脂組成物)の製造は、従来から様々な方法で行われている。その具体例の一つとして、アミノ基を嵩高いアルキル基で置換した第2級脂環族ジアミンであるビス(N−アルキルアミノシクロヘキシル)メタン類を鎖延長剤として使用する方法が特許文献1に開示されている。
【0003】
特許文献1で開示されている方法は、第1級の脂環族ポリアミンを用いて製造した脂肪族ポリウレアに比べて高圧衝突混合スプレーによるスプレー性が改善されているため塗料等への実用化がなされている。しかし特許文献1で開示されている方法で得られる脂肪族ポリウレアのポットライフは数秒〜数分である。このため、例えば、下記に示す問題点があり使用用途が限定されていた。
(i)塗工時に専用の高圧衝突混合スプレー機が必須であること
(ii)微細な泡が塗膜中に吹き込まれるために表面仕上がりが悪いこと
(iii)硬化速度が速く塗り継ぎ部分が均質にできないこと
(iv)スプレーミストの飛散による周辺汚染があること
【0004】
特許文献2には、脂肪族ポリイソシアネート等のポリイソシアネート成分と、アスパラギン酸エステル骨格を有する第2級ポリアミンとからなる脂肪族ポリウレア樹脂組成物が開示されている。特許文献2の脂肪族ポリウレア樹脂組成物は、ポットライフが長いという特徴を有している。また特許文献2の脂肪族ポリウレア樹脂組成物は、塗膜の硬度が高いことから高圧衝突混合スプレー機を使用せずに施工可能であるという特徴を有している。
【0005】
しかし特許文献2の脂肪族ポリウレア樹脂組成物やポリウレア樹脂は、そのポットライフがロールや刷毛等による手塗り塗工に適用させるには十分といえず、また以下に示す問題点があった。
(i)塗膜の伸びが小さく柔軟性に欠けること
(ii)塗膜が高硬度にも係わらず耐温水性に劣ること
(iii)溶剤や毒性の高いイソシアネート単量体が、塗膜成型時に多く飛散することがあり、安全性に改善の余地があること
【0006】
特に、耐温水性は塗料、防水材及び床材等の広範な用途において重要な要求性能であり、強く上記課題の解決が待たれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平7−149860号公報
【特許文献2】特開平3−43472号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記課題を解決するためになされるものであり、その目的は、塗工がし易く、柔軟性、耐温水性、安全性に優れる塗膜を作製することを可能にする脂肪族ポリウレア樹脂組成物及び脂肪族ポリウレア樹脂を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の脂肪族ポリウレア樹脂組成物は、下記(A)と(B)とを含むことを特徴とする。
【0010】
(A)脂環族イソシアネート末端プレポリマー5重量%〜80重量%と、脂肪族ポリイソシアネート変性体95重量%〜20重量%と、を含む脂肪族ポリイソシアネート
(B)アスパラギン酸エステル骨格を有する第2級脂環族ジアミン
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、塗工がし易く、柔軟性、耐温水性、安全性に優れる塗膜を作製することを可能にする脂肪族ポリウレア樹脂組成物及び脂肪族ポリウレア樹脂を提供することができる。このため本発明の脂肪族ポリウレア樹脂組成物及び脂肪族ポリウレア樹脂は、各種塗料、床材、トップレス防水材等広汎な用途への展開が可能である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の脂肪族ポリウレア樹脂組成物は、下記(A)と(B)とを含む樹脂組成物である。
【0013】
(A)脂環族イソシアネート末端プレポリマー5重量%〜80重量%と、脂肪族ポリイソシアネート変性体95重量%〜20重量%と、を含む脂肪族ポリイソシアネート
(B)アスパラギン酸エステル骨格を有する第2級脂環族ジアミン
まず脂肪族ポリイソシアネートについて説明する。
【0014】
脂肪族ポリイソシアネートに含まれる脂環族イソシアネート末端プレポリマーは、下記(a1)と(a2)との反応生成物である。
(a1)脂環族イソシアネート単量体
(a2)ポリオール
【0015】
脂環族イソシアネート単量体とは、例えば、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、水素添加キシリレンジイソシアネート(H6−XDI)、水素添加ジフェニルメタンジイソシアネート(H12−MDI)、1,4−シクロヘキサンジイソシアネート、2,5−ジイソシアネートメチルビシクロ[2,2,1]ヘプタン及び2,6−ジイソシアネートメチルビシクロ[2,2,1]ヘプタンから少なくとも1種類選ばれる化合物である。好ましくは、IPDI、H6−XDI及びH12−MDIから少なくとも1種類選ばれ、特に好ましくは、IPDIである。
【0016】
ポリオールとして、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン(TMP)、ネオペンチルグリコール、ペンタエリスリトール等の多価アルコール類、ポリオキシエチレンポリオール(PEG)、ポリオキシプロピレンポリオール(PPG)、ポリオキシブチレンポリオール(PBG)等の平均分子量200〜10000のポリエーテルポリオール類、テトラヒドロフラン(THF)の開環重合によって得られるポリオキシテトラメチレングリコール(PTMEG)、THFとプロピレンオキサイド、3−メチルテトラヒドロフラン、ネオペンチルグリコール等とのカチオン共重合により製造される平均分子量500〜5000の共重合ポリエーテルポリオール、ハイドロキノン、ビスフェノールA等の多価フェノールにエチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド等の低分子アルキレンオキシドの1種以上を付加重合して得られる平均分子量300〜5000のポリエーテルポリオール、ポリエチレンアジペートグリコール、ポリエチレンプロピレンアジペートグリコール、ポリブチレンアジペートグリコール、ポリヘキサメチレンアジペートグリコール、ポリカプロラクトンポリオール(PCL)、PCLとアジペート系ポリエステルポリオールとのエステル交換反応により製造される平均分子量500〜4000の共重合ポリエステルポリオール、アクリルポリオール、変性ひまし油ポリオール、ポリカーボネートポリオール、水添ビスフェノールA、水添ポリブタジエンポリオール等の平均分子量150〜5000の各種ポリオールが挙げられる。尚、ポリオールは、脂肪族ポリウレアに要求される性能及び物性に応じて適宜選択することが可能である。このとき2種類以上のポリオールを併用して使用してもよい。
【0017】
脂環族イソシアネート末端プレポリマーの合成に使用するポリオールのうち、好ましくは、PPG、PBG、PTMEG、PCL、THFとプロピレンオキサイド、3−メチルテトラヒドロフラン、ネオペンチルグリコール等とのカチオン共重合により製造される低融点の共重合ポリエーテルポリオール、PCLとアジペート系ポリエステルポリオールのエステル交換反応により製造される共重合ポリエステルポリオールである。
【0018】
脂環族イソシアネート末端プレポリマーは、具体的には、脂環族イソシアネート単量体とポリオールとを、不活性ガス雰囲気下で、必要により触媒の存在下で、60℃〜100℃で加熱して行う。残存するイソシアネート単量体を減少させるために、NCO/OH当量比が1.5〜2.2/1.0、好ましくは、1.6〜2.0/1.0の範囲となるまで脂環族イソシアネート単量体と活性水素化合物との反応を行う。ここで、2個のイソシアネート基の反応性がそれぞれ異なるIPDIを使用すると、得られるイソシアネート末端プレポリマーは、低粘度でイソシアネート単量体含量が少ないという良好な性能を示すので好ましい。また、脂環族イソシアネート単量体を大過剰にして脂環族イソシアネート単量体とポリオールとを反応させ、反応完了後に未反応のイソシアネート単量体を薄膜蒸留法等で除去する方法も採用することができる。
【0019】
脂肪族ポリイソシアネートに含まれる脂肪族ポリイソシアネート変性体は、広く塗料用の架橋剤として使用されている1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)のイソシアヌレート体(3量体)、HDIのウレトジオン体(2量体)、HDIのアロハネート体、HDIのビューレット体、IPDIのアロハネート体から選ばれる少なくとも1種である。これらの脂肪族ポリイソシアネート変性体は、従来公知の方法でHDIを変性した後、残存するイソシアネート単量体を薄膜蒸留等で除去したもので、通常HDI単量体の含有量は0.3重量%以下である。また市販品、例えば、約30%のイソシアヌレート体(3量体)が含まれているHDIウレトジオン体も使用することができる。好ましい脂肪族ポリイソシアネート変性体はHDIのイソシアヌレート体、HDIのウレトジオン体、HDIのアロハネート体、IPDIのアロハネート体から少なくとも1種類が選ばれる。
【0020】
脂肪族ポリイソシアネートとして、好ましくは、HDIのイソシアヌレート体、HDIのウレトジオン体、HDIのアロハネート体、IPDIのアロハネート体から選ばれる1種以上と、分子量が200〜3000のPPG、PTMEG、PCL、THFとプロピレンオキサイド、3−メチルテトラヒドロフラン、ネオペンチルグリコール等とのカチオン共重合により製造される共重合ポリエーテルポリオール、PCLとアジペート系ポリエステルポリオールのエステル交換反応により製造される共重合ポリエステルポリオールから選ばれたポリオールを主成分とするポリオールとIPDIを反応させたイソシアネート末端プレポリマーの混合物で、イソシアネート単量体が1重量%以下のものである。
【0021】
脂肪族ポリイソシアネートに含まれる脂肪族ポリイソシアネート変性体の含有量は、95重量%〜20重量%であり、好ましくは、90重量%〜40重量%である。
【0022】
一方、脂肪族ポリイソシアネートに含まれる脂環族イソシアネート末端プレポリマーの含有量は、5重量%〜80重量%であり、好ましくは10重量%〜60重量%である。脂環族イソシアネート末端プレポリマーの含有量が5%未満では、靱性、柔軟性に欠けた高硬度の脆い塗膜となる。一方、含有量が80重量%を超えると、A成分の粘度が高くなり、その結果多量に溶剤等を添加する場合があるため、安全性が低下する。
【0023】
次に、第2級脂環族ジアミンについて説明する。本発明の脂肪族ポリウレア樹脂組成物の原料となる第2級脂環族ジアミンは、アスパラギン酸エステル骨格を有する脂肪族アミン化合物である。好ましくは、下記一般式(1)に示される化合物である。
【0024】
【化1】

【0025】
式(1)において、R1は、下記(b1)〜(b7)に示される2価の置換基のいずれかである。好ましくは、(b1)又は(b2)である。
【0026】
【化2】

【0027】
(b1)〜(b7)において、★は、結合部位を表し、Rは、水素原子又はメチル基を表す。
【0028】
式(1)において、R2及びR3は、それぞれ炭素数1〜10のアルキル基を表す。好ましくは、エチル基である。
【0029】
2同士、R3同士、並びにR2及びR3は、同一であってもよいし異なっていてもよい。
【0030】
尚、第2級脂環族ジアミンは、市販品を使用することができる。例えば、Bayer MaterialScience社よりそれぞれDesmophen NH−1420、Desmophen NH−1520を使用することができる。
【0031】
本発明の脂肪族ポリウレア樹脂組成物を製造する際に、脂肪族ポリイソシアネートと第2級脂環族ジアミンとの混合比は、イソシアネート基とアミン基の当量比(NCO/NH2)が0.8〜1.5になるよう調整する。好ましくは、0.9〜1.1である。当量比が0.8未満では第2級脂環族ジアミンが過剰のため、物性(引張強度、硬度等)の低下が起こる。一方、当量比が1.5を超えると過剰のイソシアネートが塗膜中に残り、水分との反応により発泡の危険性がある。
【0032】
本発明の脂肪族ポリウレア樹脂組成物は、そのポットライフが所定の時間であることが好ましい。ポットライフとは、所定量の脂肪族ポリイソシアネートと第2級脂環族ジアミンとを常温(25℃)で攪拌混合した後の粘度の経時変化を示すパラメータである。具体的には、撹拌後から20,000mPa・s/25℃に到達するまでの時間で表すが、本発明において、好ましくは10分〜60分であり、より好ましくは、15〜50分である。
【0033】
尚、撹拌する際に、撹拌時間や脱泡時間が長いとポットライフに影響を及ぼす。このため、撹拌と脱泡を同時に短時間(1分〜5分)で処理できる方法が好ましい。
【0034】
また本発明の脂肪族ポリウレア樹脂を製造する際、好ましくは、無触媒で行う。ただし、必要によりオレイン酸等の有機酸、オクテン酸錫、オレイン酸錫、スタナスオクトエート、ジブチル錫ジアセテート、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジオクトエート等の錫系触媒、ネオデカン酸ビスマス等のビスマス系触媒やジルコンキレート等のジルコン系触媒等従来公知の触媒を使用してもよい。
【0035】
本発明のポリウレア樹脂は必要により従来公知の可塑剤を使用することができる。具体的にはジブチルフタレート、ジオクチルフタレート、ジノニルフタレート、ジオクチルアジペート、ジノニルアジペート、アクリルオリゴマー等が挙げられる。
【0036】
本発明の脂肪族ポリウレア樹脂組成物は、顔料や染料等の着色剤、体質顔料、難燃剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、消泡剤、脱水剤等の添加剤を必要に応じて添加することができる。これら添加剤は、脂肪族ポリイソシアネート、第2級脂環族ジアミンのいずれかに添加してもよいが、通常は第2級脂環族ジアミンに添加する。またこの添加剤は脂肪族ポリイソシアネートや第2級脂環族ジアミンにそれぞれ個別に添加してもよいし、また第2級脂環族ジアミンや可塑剤と混練又は溶解したマスターバッチとして別途添加してもよい。
【0037】
さらに本発明においては、粘度等の調整を目的として必要に応じて溶剤を加えてもよい。溶剤としては、脂肪族ポリイソシアネート、第2級脂環族ジアミン及び上記添加剤に対して不活性であり、溶質を均一に溶解又は分散させることができれば特に限定されるものではない。ただし塗膜成型時の安全性を考慮すると溶媒を加えない無溶剤の状態であることが好ましい。
【0038】
本発明の脂肪族ポリウレア樹脂は、脂肪族ポリイソシアネートと、第2級脂環族ジアミンとを所定量を混合して得られる本発明の脂肪族ポリウレア樹脂組成物を、シート状等に成型加工した樹脂である。また塗料等への応用を考える際に、本発明の脂肪族ポリウレア樹脂は、JIS D硬度が50〜85であり、かつ引張伸びが20%〜300%であることが好ましい。
【実施例】
【0039】
以下、実施例及び比較例により本発明を説明する。ただし、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。尚、以下の実施例及び比較例に記載の%、部は、それぞれ重量%、重量部を表す。
【0040】
[使用した試薬]
【0041】
1.脂環族イソシアネート末端プレポリマー
以下に示す方法で合成したプレポリマーI又はプレポリマーIIを、脂環族イソシアネート末端プレポリマーとして使用した。
(1)プレポリマーI
プレポリマーIは、下記に示す試薬(i)及び(ii)を、85℃で10時間反応させて得られた化合物である(NCO/OH=1.8)。プレポリマーIのNCO含有率は4.81%であり、IPDI単量体含有率は1.9%であり、25℃における粘度は22,700mPa・sである。
(i)ポリオキシプロピレンポリオール(PPG、平均分子量1,000):713重量部
(ii)イソホロンジイソシアネート(IPDI):287重量部
(2)プレポリマーII:
プレポリマーIIは、下記に示す試薬(i)〜(iii)を、85℃で8時間反応させた後、フリーのIPDIを薄膜蒸留で除去することで得られた化合物である(NCO/OH=5.6)。プレポリマーIIのNCO含有率は7.63%であり、IPDI単量体含有率は0.80%であり、75℃における粘度は2,100mPa・sである。
(i)ポリオキシテトラメチレングリコール(PTMEG、平均分子量1000):100重量部
(ii)トリメチロールプロパン(TMP):12.8重量部
(iii)IPDI:300部
【0042】
2.脂肪族ポリイソシアネート変性体
脂肪族ポリイソシアネート変性体として以下の試薬を使用した。
(1)コロネート HXLV(日本ポリウレタン工業(株)製のHDIのトリマー変成体:NCO含有率23.2%、HDI単量体含有率0.10%)
(2)コロネート 2365(日本ポリウレタン工業(株)製のHDIのウレトジオン変成体:NCO含有率22.9%、HDI単量体含有率0.21%)
(3)コロネート 2770(日本ポリウレタン工業(株)製のHDIのアロハネート変成体:NCO含有率19.3%、HDI単量体含有率0.34%)
(4)Desmodur NZ1(Bayer MaterialScience社製のHDI及びIPDIの混合変性体:NCO含有率20.0%、HDI単量体含有率0.10%、IPDI単量体含有率0.2%)
【0043】
3.第2級脂環族ジアミン
アスパラギン酸エステル骨格を有する第2級脂環族ジアミンとして、以下の試薬を使用した。
(1)Desmophen NH−1420(N,N’−(ジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイル)−ビス−アスパラギン酸テトラエチルエステル、Bayer MaterialScience社製)
(2)Desmophen NH−1220(N,N’−(2−メチルペンタン−1,5−ジイル)−ビス−アスパラギン酸テトラエチルエステル、Bayer MaterialScience社製)
【0044】
4.添加剤
添加剤として以下のものを使用した。
(1)EFKA2722(シリコン含有の消泡剤、Chiba Specialty Chemicals社製)
【0045】
5.溶剤
酢酸エチルを溶剤として使用した。
【0046】
[実施例1]
(1)脂肪族ポリイソシアネート(A液)の調製
攪拌機、温度計を取り付けたフラスコに、窒素雰囲気下で下記に示す試薬を仕込み、50℃で30分間攪拌し、均一混合した。
コロネート2365:50.0重量部
プレポリマー2:30重量部
次に、減圧下で脱泡することにより脂肪族ポリイソシアネートを得た。ここで脂肪族ポリイソシアネートの粘度は23℃で1,800mPa・sであり、HDI単量体及びIPDI単量体の含有量は合計で0.50%であった。以下、調製した脂肪族ポリイソシアネートをA液と呼ぶ。
(2)第2級脂環族ジアミン(B液)の調製
市販のDesmophen NH−1420をB液として、以後の工程で使用した。尚、本実施例において、B液の粘度は23℃で1,800mPa・sであり、水分含有率は0.04重量%であった。
(3)A液とB液との混合
調製したA液とB液とを、下記表1に示す混合比(A液/B液=100.1重量部/95.9重量部=1.04)で仕込み、株式会社シンキー製の自転/公転ミキサー「あわとり練太郎AR−100」(装置仕様:自転800rpm、公転2000rpm)を用いてA液とB液とを混合した。またA液とB液とを混合する際に、混合時の温度を25℃とし、混合時間を、攪拌モード1.5分間、脱泡モード1.5分の計3分間とした。
(4)混合液の評価(粘度測定)
上記混合条件で混合した混合液を、50mLのサンプル瓶(アズワン社:型式9−852−09)に50g装入し、芝浦システム株式会社製のビスメトロン粘度計VSA−1型、プローブ#3、回転数1.5rpmで粘度を測定した。この測定の際、混合開始から4分後の粘度を混合直後粘度とし、粘度が20,000mPa・s/25℃に到達するまでの時間をポットライフとした。
(5)シート(試験体)の作製
上記混合条件で混合した混合液を、予め離型剤を塗布した金型に流延し、約2mm厚のシートを作製した。また得られたシートについて、下記(a)、(b)又は(c)の処理を行った。
(a)処理1
得られたシートを25℃で7日間養生した後、その一部を3号型ダンベル形状に打ち抜いた。
(b)処理2
処理1を行った後、ダンベル形状に打ち抜いたシートを、25℃の水に7日間浸漬した。その後、当該シートの表面水分を拭き取った。
(c)処理3
処理1を行った後、ダンベル形状に打ち抜いたシートを、60℃の水に7日間浸漬し、次いで25℃の水に2時間浸漬した。その後、当該シートの表面水分を拭き取り、シートを肉眼で観察し、シートの外観を処理1のシートと比較した。
(6)物性評価
上記(a)〜(c)のいずれかの方法で処理したシートについて、下記(1)及び(2)の実験を行い、シートの物性を評価した。結果を表1に示す。
【0047】
(1)引張強度及び破断時の伸び
上島製作所製ユニトロンTS−3013型試験機を用いて、JIS K 6251に規定される方法に従い測定した。尚、耐水性の評価の指標として、下記式から引張強度保持率を計算した。
[引張強度保持率(%)]=[処理2を行った後のシートの引張強度]/[処理1を行った後のシートの引張強度]
【0048】
(2)硬度
JIS D硬度計(Elastron社 ゴム硬度計ESD型)を使用し、JIS K 6253に規定される方法に従い測定した。尚、測定の際、シートを3枚重ねにした。
【0049】
[実施例2〜6]
実施例1において、A液を調製するときに使用する試薬及びその分量、並びにA液とB液との混合比を表1に示されるようにしたことを除いては、実施例1と同様の操作によりシートを作製した。作製したシートについて試験を行った。結果を表1に示す。
【0050】
【表1】

【0051】
[比較例1、2]
実施例1において、A液を調製するときに使用する試薬及びその分量、B液を調製するときに使用する試薬、並びにA液とB液との混合比を表1に示されるようにしたことを除いては、実施例1と同様の操作によりシートを作製した。作製したシートについて試験を行った。結果を表1に示す。尚、比較例2は混合中(1.5分以内)にゲル化したため標準物性及び耐温水性の試験を省略した。
【0052】
【表2】

【0053】
上記実施例及び比較例の結果から、本発明の脂肪族ポリウレア樹脂組成物及び脂肪族ポリウレア樹脂は、下記の特徴を有することがわかった。
(1)ポットライフが長く、ロールや刷毛塗り塗工等様々な塗工方法に適用可能であること
(2)硬化塗膜が強靭で高硬度なものから伸びの大きなものまで調整できること
(3)従来の脂肪族系ポリウレア樹脂の欠点であった耐温水性を大幅に改善できること
(4)毒性の高いイソシアネート単量体が1%以下であり溶剤の使用量も最小限に抑えられており、安全性が高いこと
【0054】
このため本発明の脂肪族ポリウレア樹脂組成物及び脂肪族ポリウレア樹脂は、各種塗料、床材、トップレス防水材等広汎な用途に好適に使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(A)と(B)とからなる樹脂組成物であることを特徴とする、脂肪族ポリウレア樹脂組成物。
(A)脂環族イソシアネート末端プレポリマー5重量%〜80重量%と、脂肪族ポリイソシアネート変性体95重量%〜20重量%と、を含む脂肪族ポリイソシアネート
(B)アスパラギン酸エステル骨格を有する第2級脂環族ジアミン
【請求項2】
前記脂環族イソシアネート末端プレポリマーが、下記(a1)と(a2)との反応生成物であることを特徴とする、請求項1記載の脂肪族ポリウレア樹脂組成物。
(a1)イソホロンジイソシアネート(IPDI)、水素添加キシリレンジイソシアネート(H6−XDI)及び水素添加ジフェニルメタンジイソシアネート(H12−MDI)から少なくとも1種類選ばれる脂環族イソシアネート単量体
(a2)ポリオール
【請求項3】
前記脂環族イソシアネート単量体が、イソホロンジイソシアネート(IPDI)単量体であることを特徴とする、請求項2記載の脂肪族ポリウレア樹脂組成物。
【請求項4】
前記脂肪族ポリイソシアネート変性体が、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)のイソシアヌレート体、HDIのウレトジオン体、HDIのアロハネート体、HDIのビューレット体及びイソホロンジイソシアネート(IPDI)のアロハネート体から少なくとも1種類選ばれることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の脂肪族ポリウレア樹脂組成物。
【請求項5】
前記第2級脂環族ジアミンが、下記式(1)で示される化合物であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の脂肪族ポリウレア樹脂組成物。
【化1】

(式(1)において、R1は、下記に示される2価の置換基のいずれかである。
【化2】

(★は、結合部位を表し、Rは、水素原子又はメチル基を表す。)
2及びR3は、それぞれ炭素数1〜10のアルキル基を表す。R2同士、R3同士、並びにR2及びR3は、同一であってもよいし異なっていてもよい。)
【請求項6】
前記脂肪族ポリイソシアネートに含まれる前記脂環族イソシアネート単量体の含有率が1重量%以下であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載の脂肪族ポリウレア樹脂組成物。
【請求項7】
無溶剤であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の脂肪族ポリウレア樹脂組成物。
【請求項8】
前記脂肪族ポリイソシアネートと前記アスパラギン酸エステル骨格を有する第2級脂環族ジアミンとを混合した混合液の粘度が20,000mPa・s/25℃に到達するまでに要する時間が10分〜60分であることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一項に記載の脂肪族ポリウレア樹脂組成物。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の脂肪族ポリウレア樹脂組成物を成型加工した樹脂であって、JIS D硬度が50〜85であり、かつ引張伸びが20%〜300%であることを特徴とする、脂肪族ポリウレア樹脂。

【公開番号】特開2011−1397(P2011−1397A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−143170(P2009−143170)
【出願日】平成21年6月16日(2009.6.16)
【出願人】(393002634)キヤノン化成株式会社 (640)
【Fターム(参考)】