説明

脂肪族ポリエステルの製造方法

【課題】 ポリエステルの粘度コントロールを容易にして、ゲル状の異物が少なく、しかも着色の少ない高粘度の脂肪族ポリエステルの効率的な製造方法を提供する。
【解決手段】
脂肪族ジカルボン酸と脂肪族ジオールとを混合する原料調製工程、エステル化反応槽において原料をエステル化するエステル化工程、およびエステル化工程で得られた反応物を重縮合反応槽において重縮合する重縮合反応工程を有する脂肪族ポリエステルの製造方法において、脂肪族ジカルボン酸成分と脂肪族ジオール成分とからなる環状一量体化合物を、原料調製工程およびエステル化工程に供給する全脂肪族ジオールの合計量に対して3重量%以上15重量%以下の量、原料調製工程以降エステル化工程までの間のいずれかの工程に供給する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
脂肪族ポリエステルの製造方法、特に色調良好な脂肪族ポリエステルを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年環境問題が重視されてきており、プラスチックの原料となる化石燃料原料の枯渇問題、大気中の二酸化炭素増加という地球規模での環境負荷の問題に対する対策が必要となっている。
こうした背景のもと、脂肪族ジカルボン酸と脂肪族ジオールからなる脂肪族ポリエステルは、原料の脂肪族ジカルボン酸、例えばコハク酸、アジピン酸は植物由来のグルコースから発酵法を用いて製造でき、また脂肪族ジオール、例えばエチレングリコール、プロパンジオール、ブタンジオールなども植物由来原料から製造できるので、原料供給が化石燃料原料の枯渇とは無関係になるとともに、植物の育成により二酸化炭素が吸収されるため二酸化炭素排出削減に大きく貢献することができ、また、生分解性プラスチックとしても期待されている。
脂肪族ポリエステルは、通常脂肪族ジカルボン酸と脂肪族ジオールとからエステル化反応、溶融重縮合反応を経て得ることができるが、ポリエチレンテレフタレートのような芳香族ポリエステルと異なり、溶融時の熱安定性が比較的悪く、着色しやすく高粘度のものが得にくい。
このため、例えば特許文献1には、3官能オキシカルボン酸を加えて反応させ粘度を高めるという提案がなされている。また、特許文献2には、ジイソシアネート化合物を添加して重合度をあげ、粘度を高めるという提案がなされている。そして特許文献3には、反応触媒とともにリン化合物を重合中に存在させ、高分子量化工程で二軸連続反応装置を使用することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】:特許第3079717号公報
【特許文献2】:特開平5−70543号公報
【特許文献3】:特開2006−274253号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
3官能オキシカルボン酸を加えて反応させる技術や、ジイソシアネート化合物を添加する技術では、ポリエステルの粘度の上昇が急激で粘度コントロールが難しく、またゲル状の異物を生成しやすいという問題があった。
また、反応触媒とともにリン化合物を重合中に存在させ、高分子量化工程で二軸連続反応装置を使用する技術では、エステル化反応時間が比較的長く、また特定以上の高分子量化工程の前にペレット化して、再度重合反応装置にかけるなどするため、必ずしも効率的な方法とはいえなかった。本発明の解決しようとする課題は、脂肪族ポリエステルの製造に際し、製造するポリエステルの粘度コントロールを容易にして、ゲル状の異物が少なく、しかも着色の少ない高粘度の脂肪族ポリエステルの効率的な製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは脂肪族ジカルボン酸と脂肪族ジオールとを原料とし、エステル化工程、および重縮合反応工程を経てポリエステルを得る脂肪族ポリエステルの製造方法において、
反応中に特定成分を供給することにより、色調良好で、高重合度のポリエステルを得ることができることを見出し本発明に至った。即ち本発明の要旨は以下である。
(1)脂肪族ジカルボン酸と脂肪族ジオールとを混合する原料調製工程、エステル化反応槽において原料をエステル化するエステル化工程、およびエステル化工程で得られた反応物を重縮合反応槽において重縮合する重縮合反応工程を有する脂肪族ポリエステルの製造方法において、脂肪族ジカルボン酸成分と脂肪族ジオール成分とからなる環状一量体化合物を、原料調製工程およびエステル化工程に供給する全脂肪族ジオールの合計量に対して3重量%以上15重量%以下の量、原料調製工程以降エステル化工程までの間のいずれかの工程に供給する脂肪族ポリエステルの製造方法。
(2) 前記脂肪族ジオールが、1,4−ブタンジオールを含有し、且つ原料調製工程およびエステル化工程に供給される全1,4−ブタンジオール合計量に対して0.1重量%
以上0.5重量%以下の量の2−(4’−ヒドロキシブトキシ)テトラヒドロフランを含有する、(1)に記載の脂肪族ポリエステルの製造方法。
(3) エステル化反応槽および重縮合反応槽から選ばれる少なくとも1つの反応槽から得られる留出物を、原料調製工程以降エステル化工程までのいずれかの工程に供給する、(1)または(2)に記載の脂肪族ポリエステルの製造方法。
(4) 連続式に脂肪族ポリエステルを製造する、(1)から(3)のいずれか1つに記載の脂肪族ポリエステルの製造方法。
(5) エステル化反応槽および重縮合反応槽から選ばれる少なくとも1つの反応槽が湿式凝縮器を有し、凝縮器より排出される環状一量体化合物を原料調製工程以降エステル化工程までの間のいずれかの工程に供給する、(1)から(4)のいずれか1つに記載の製造方法。
(6) 重縮合反応槽が湿式凝縮器を有し、重縮合反応槽と湿式凝縮器との間に設置した分離器に捕集された脂肪族ポリエステル低重合体を、エステル化反応槽へ供給する、(1)から(5)のいずれか1つに記載の脂肪族ポリエステルの製造方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明により、脂肪族ジカルボン酸と脂肪族ジオール成分とを主成分とする脂肪族ポリエステル製造するに際し、色調良好で、高重合度のポリエステルを効率的に得ることができる。また、製造反応における留出物を再利用することにより、再利用しない場合よりも着色が少なく高重合度のポリエステルが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明における原料調製工程の工程図の一例を示す図である。
【図2】本発明におけるエステル化反応工程の工程図の一例を示す図である。
【図3】本発明における重縮合反応工程の工程図の一例を示す図である。
【図4】本発明における重縮合反応工程の留出系の回収工程図の部分例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明は、脂肪族ジカルボン酸と脂肪族ジオールとを原料として、原料調製工程、エステル化工程、および重縮合反応工程を有する脂肪族ポリエステルの製造方法であって、原料調製工程及びエステル化反応槽に供給される全脂肪族ジオールの合計量に対して3重量%以上15重量%以下の量の、環状一量体化合物(以下、CMと略記することがある)を、原料調製工程以降エステル化工程までの間のいずれかの工程に供給する。
ここで、CMとは、脂肪族ジカルボン酸と脂肪族ジオールとが脱水縮合してなる環状化合物であって、脂肪族ジカルボン酸に由来する構造部分(以下、脂肪族ジカルボン酸成分と呼ぶことがある)と、脂肪族ジオールに由来する構造部分(以下、脂肪族ジカルボン酸成分と呼ぶことがある)とからなり、脂肪族ジカルボン酸成分と脂肪族ジオール成分とを、それぞれ一つのみ有する化合物である。
【0009】
<ジカルボン酸>
本発明に係る脂肪族ジカルボン酸としては、通常ポリエステルの原料に用いられるものであれば特に制限なく使用することができる。より具体的には、脂肪族炭化水素にカルボキシル基を2つ有する脂肪族炭化水素が用いられ、当該脂肪族炭化水素は、直鎖脂肪族炭化水素であっても、分岐を有する脂肪族炭化水素であっても、環状の脂肪族炭化水素(脂環式炭化水素)であっても構わないが、好ましくは直鎖脂肪族炭化水素が用いられる。本発明に係る脂肪族ジカルボン酸としては、当該脂肪族炭化水素の有する炭素数が、好ましくは2以上40以下の化合物が用いられ、より好ましくは炭素数20以下、更に好ましくは炭素数12以下、特に好ましくは炭素数8以下の脂肪族炭化水素にカルボキシル基が2つ結合した化合物が用いられる。例えば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、無水コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカジカルボン酸、ドデカジカルボン酸、ダイマー酸、ヘキサヒドロフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸、ヘキサヒドロテレフタル酸などが挙げられ、これらの中で、得られるポリエステルの物性の面から、コハク酸、無水コハク酸、アジピン酸、セバシン酸が好ましい。特にはコハク酸、無水コハク酸が好ましい。なお、これらは2種以上が併用されていてもよい。
【0010】
ジカルボン酸としてコハク酸を用いた場合、コハク酸の使用量は得られるポリエステルの融点(耐熱性)、生分解性、力学特性の観点から、全脂肪族ジカルボン酸に対して50モル%以上であることが好ましく、70モル%以上がより好ましく、特に好ましくは90モル%以上である。
【0011】
また、本発明の脂肪族ポリエステルの製造方法においては、原料として脂肪族ジカルボン酸以外のジカルボン酸を併用しても構わない。この場合、併用する脂肪族ジカルボン酸以外のジカルボン酸の量は、ジカルボン酸全体に対するモル比率で脂肪族ジカルボン酸のモル比率を超えない範囲である。中でもポリエステルの物性、生分解性の観点から、脂肪族ジカルボン酸の合計が、原料ジカルボン酸の合計に対して、50モル%以上であることが好ましく、より好ましくは、60モル%以上、更に好ましくは、70%、特に好ましくは90%以上である。
脂肪族ジカルボン酸以外のジカルボン酸としては、芳香族ジカルボン酸があげられる。芳香族ジカルボン酸としては、芳香族環の数が2以下の者が好ましく、より好ましくは芳香族環が1つである芳香族ジカルボン酸が好ましい。具体的な例としては、テレフタル酸、イソフタル酸、4,4'−ジフェニルジカルボン酸、4,4'−ジフェニルエーテルジカルボン酸、4,4'−ベンゾフェノンジカルボン酸、4,4'−ジフェノキシエタンジカルボン酸、4,4'−ジフェニルスルホンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸などが
挙げられ、より好ましくは、テレフタル酸、イソフタル酸があげられる。これらは、単独でも2種以上の混合物として上記脂肪族ジカルボン酸に加えて使用してもよい。また、本発明で用いるジカルボン酸は、石油から誘導された化合物を由来とするものであっても、植物原料から誘導された化合物を由来とするものであってもかまわないが、植物原料から誘導された化合物を由来とするものを含む事が好ましい。特には、植物原料から誘導されたコハク酸、無水コハク酸、アジピン酸、セバシン酸を含むことが好ましい。
【0012】
<ジオール>
本発明に係る脂肪族ジオールとしては、通常ポリエステルの原料に用いられるものであれば特に制限無く使用することができるが、より具体的には水酸基を2つ有する、脂肪族炭化水素またはエーテル結合基により連結された脂肪族炭化水素が用いられ、該脂肪族炭化水素は、直鎖脂肪族炭化水素であっても、分岐を有する脂肪族炭化水素であっても、環状の脂肪族炭化水素(脂環式炭化水素)であっても構わないが、該脂肪族炭化水素の有する炭素数が、好ましくは2以上20以下の化合物が用いられ、より好ましくは炭素数12
以下、特に好ましくは炭素数6以下の脂肪族炭化水素に水酸基が2つ結合した化合物が用いられる。なお、脂肪族炭化水素がエーテル結合基により連結されている場合は、連結されている各々の炭素数が、上記範囲であることが好ましい。例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ジブチレングリコール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチル
グリコール、1,6−ヘキサンジオール、1,8−オクタンジオールなどの脂肪族ジオール、1,2−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,1−シクロヘ
キサンジメチロール、1,4−シクロヘキサンジメチロール、イソソルビド、イソマンニ
ド、イソイデット、エリトリタン、各種のトリシクロデカンジメタノールなどの脂環式ジオールが挙げられる。
これらの中でも、水酸基を2つ有する炭化水素部分の炭素数が4以下の直鎖脂肪族炭化水素が好ましく、更には1,4−ブタンジオールが好ましい。特には、脂肪族ジオールが1,4−ブタンジオールであり、原料調製工程およびエステル化反応槽に供給される全1,4−ブタンジオール量の合計に対して、0.1重量%から0.5重量%の2−(4’−
ヒドロキシブトキシ)テトラヒドロフラン(以下、HBTFと略記することがある)を含有する、1,4−ブタンジオールを用いることが好ましい。
【0013】
また、本発明の脂肪族ポリエステルの製造方法においては、原料として上記の脂肪族ジオール以外のジオールを併用しても構わない。この場合、併用する脂肪族ジオール以外のジオールの量は、ジオール全体に対するモル比率で脂肪族ジオールのモル比率を超えない範囲である。中でもポリエステルの物性、生分解性の観点から、脂肪族ジオールの合計が、原料ジオールの合計に対して、50モル%以上であることが好ましく、より好ましくは、60モル%以上、更に好ましくは、70%、特に好ましくは90%以上である。
脂肪族ジオール以外のジオールとしては、芳香族ジオールがあげられる。芳香族ジオールとしては、芳香族環の数が2以下の者が好ましく、より好ましくは芳香族環が1つである芳香族ジオールが好ましい。具体的には例えば、キシリレングリコール、4,4'−ジヒドロキシビフェニル、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホンなどの芳香族ジオールが挙げられる。
なお、これらジオールは2種以上が併用されていてもよい。ジオールとしては1,4−ブタンジオールが工業的入手のしやすさ、反応性、得られるポリエステルの物性などの観点から特に好ましく用いることができる。1,4−ブタンジオールを用いた場合、1,4−ブタンジオールの使用量は、得られるポリエステルの融点(耐熱性)、生分解性、力学特性の観点から全脂肪族ジオールに対して50モル%以上であることが好ましく、70モル%以上がより好ましく、特に好ましくは90モル%以上である。
また、本発明で用いるジオールは、石油から誘導された化合物を由来とするものであっても、植物原料から誘導された化合物を由来とするものであってもかまわないが、植物原料から誘導された化合物を由来とするものを含む事が好ましい。特には、イソソルビド、イソマンニド、イソイデット、エリトリタンなどの植物原料由来のジオール等を挙げることができ、また、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオールなども植物原料由来のものを使用することができる。
【0014】
<その他の共重合成分>
本発明のポリエステルには、上記ジカルボン酸、上記ジオール以外のその他の構成成分を共重合させても構わない。この場合に使用することのできる共重合成分としては、乳酸、グリコール酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシカプロン酸、2−ヒドロキシ3,3−ジメチル酪酸、2−ヒドロキシ−3−メチル酪酸、2−ヒドロキシイソカプロン酸、リンゴ酸、マレイン酸、クエン酸、フマル酸等のオキシカルボン酸、およびこれらオキシカルボン酸のエステルやラクトン、オキシカルボン酸重合体等、あるいはグリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等の3官能以上の多価アルコール、あるいは、プロ
パントリカルボン酸、ピロメリット酸、トリメリット酸ベンゾフェノンテトラカルボン酸およびこれらの無水物などの3官能以上の多価カルボン酸またはその無水物等が挙げられる。また、3官能以上のオキシカルボン酸、3官能以上のアルコール、3官能以上のカルボン酸などは少量加えることにより高粘度のポリエステルを得やすい。中でも、リンゴ酸、クエン酸、フマル酸などのオキシカルボン酸が好ましく、特にはリンゴ酸が好ましく用いられる。
【0015】
3官能以上の多官能化合物は全ジカルボン酸に対して、0.001〜5モル%であることが好ましく、より好ましくは0.05〜0.5モル%である。この範囲の上限超過では得られるポリエステル中にゲル(未溶融物)が生成しやすく、下限未満では多官能化合物を使用したことによる利点(通常、得られるポリエステルの粘度を上昇させることが可能となる)が得られにくくなる。
【0016】
<ポリエステルの製造>
本発明においてポリエステルを製造する際の各反応は、回分法でも連続法でも行うことができるが、品質の安定化、エネルギー効率の観点から、原料を連続的に供給し、連続的にポリエステルを得るいわゆる連続法が好ましい。
以下に連続製造法を例にして本発明のポリエステル製造方法について述べるが本発明の要旨を超えない限りこれに限定されるものではない。
【0017】
本発明において、連続法では、連続する複数のエステル化反応槽、重縮合反応槽を用いて、エステル化反応工程、溶融重縮合反応工程を経て連続的にポリエステルを得ることができる。
【0018】
(原料調製工程)
原料である脂肪族ジカルボン酸、脂肪族ジオールなどは、エステル化反応工程に供する前に、原料調製工程において予め混合しスラリー状または液状の流体にする。
この場合脂肪族ジカルボン酸に対する脂肪族ジオールのモル比は下限が通常1.10、好ましくは1.12、更に好ましくは1.15、特に好ましくは1.20である。上限は通常2.00、好ましくは1.80、更に好ましくは1.60、特に好ましくは1.55である。原料を混合している間にも、ジカルボン酸とジオールがエステル化反応を起こす場合もあるが、本発明においては原料調製工程中に一部エステル化反応が起こることを妨げない。ただし、混合温度は脂肪族ジオールの融点以上で、エステル化反応が顕著には進まない温度が好ましく、上限は通常70℃、好ましくは60℃、更に好ましくは50℃、特に好ましくは40℃である。
【0019】
(エステル化反応工程)
本発明におけるエステル化反応工程とは、原料のジカルボン酸とジオールとを反応させてエステル化を行う工程であるが、一部エステル化反応が起きているとしても、原料調製工程はエステル化工程とは区別される。より具体的にエステル化工程とは、反応槽出口でのエステル化率が50%以上となる工程を指し、この場合の反応槽をエステル化反応槽と呼ぶ。エステル化反応を複数の反応槽によって行っても構わないが、その場合であってもそれぞれの反応槽出口において、エステル化率が50%以上となっている反応槽をエステル化反応槽と呼ぶ。
ジカルボン酸とジオールとのエステル化反応は、連続する複数の反応槽で行うことができるが、1つの槽で行うこともできる。反応温度は、下限が通常200℃、好ましくは210℃、上限は通常250℃、更に好ましくは245℃、より好ましくは240℃である。下限未満であるとエステル化反応速度が遅く反応時間を長時間必要とし、脂肪族ジオールの脱水分解など好ましくない反応が起こる虞がある。上限超過では脂肪族ジオール、脂肪族ジカルボン酸の分解が多くなり、また反応槽内に飛散物が増加し異物発生原因となり
やすく反応物に濁り(ヘーズ)を生じやすくなる。また、エステル化温度は一定温度であることが好ましい。一定温度であることによりエステル化率が安定する。一定温度とは設定温度±5℃、好ましくは±2℃である。
【0020】
反応雰囲気は、通常、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下である。反応圧力は、通常50kPa〜200kPaであり下限は好ましくは60kPa、更に好ましくは70kPa、上限は好ましくは130kPa、更に好ましくは110kPaである。下限未満では反応槽内に飛散物が増加し反応物のヘーズが高くなり異物増加の原因となりやすく、また脂肪族ジオールの反応系外への留出が多くなり重縮合反応速度の低下を招きやすい。上限超過では脂肪族ジオールの脱水分解が多くなり、重縮合速度の低下を招きやすい。
【0021】
反応時間は、通常1時間以上であり、上限が通常10時間以下、好ましくは、4時間以下である。エステル化反応を行う脂肪族ジカルボン酸に対する脂肪族ジオールのモル比は、エステル化反応槽の気相および反応液相に存在する、脂肪族ジカルボン酸およびエステル化された脂肪族ジカルボン酸に対する、脂肪族ジオールおよびエステル化された脂肪族ジオールとのモル比を表し、反応系で分解されエステル化反応に寄与しない脂肪族ジカルボン酸、脂肪族ジオールおよびそれらの分解物は含まれない。分解されてエステル化反応に寄与しないとは、例えば、脂肪族ジオールである1,4−ブタンジオールが分解してテトラヒドロフランになったものはこのモル比には含めない。本発明において 上記モル比は下限が通常1.10であり、好ましくは1.12、更に好ましくは1.15、特に好ましくは1.20である。上限は通常2.00、好ましくは1.80、更に好ましくは1.60、特に好ましくは1.55である。下限未満ではエステル化反応が不十分になりやすく後工程の反応である重縮合反応が進みにくく高重合度のポリエステルが得にくい。上限超過では脂肪族ジオール、脂肪族ジカルボン酸の分解量が多くなる。このモル比を好ましい範囲に保つ為にエステル化反応系に脂肪族ジオールを適宜補給するのは好ましい方法である。
【0022】
また、本発明では原料調製工程以降エステル化工程までの間の少なくともいずれか1つの工程にCMを供給するが、このCMを構成する脂肪族ジカルボン酸成分および脂肪族ジオール成分は、それらの由来となる脂肪族ジカルボン酸あるいは脂肪族ジオールとして上記モル比の対象に含まれる。
本発明においては、エステル化率80%以上のエステル化反応物を重縮合反応に供する。本発明において、重縮合反応とは反応圧力50kPa以下で行うポリエステルの高分子量化反応をいい、エステル化反応は50〜200kPaで、通常エステル化反応槽で行い、重縮合反応は50kPa以下、好ましくは10kPa以下で重縮合反応槽で行う。本発明でエステル化率とはエステル化反応物試料中の全酸成分に対するエステル化された酸成分の割合を示すものであり次式で表される。
【0023】
エステル化率(%)=(ケン化価−酸価)/ケン化価×100
【0024】
エステル化反応物のエステル化率は、好ましくは85%以上、更に好ましくは88%以上、特に好ましくは90%以上である。下限以下であると後工程の反応である重縮合反応性が悪くなる。また、重縮合反応時の飛散物増え、壁面に付着して固化し、更にこの飛散物が反応物内に落下し、ヘーズの悪化(異物発生)の要因となる。上限は後工程の反応である重縮合反応の為には高いほうが良いが、通常99%である。
【0025】
本発明において、エステル化反応におけるジカルボン酸とジオールとのモル比、反応温度、反応圧力および反応率とを上記範囲にして連続反応を行い、連続的に重縮合反応に供することにより、ヘーズが低く異物が少ない高品質のポリエステルを効率的に得ることができる。
【0026】
(重縮合反応工程)
本発明における重縮合反応工程とは、エステル化工程を経て得られた反応物を重縮合する工程であるが、工程中で一部エステル化反応が起きているとしても、エステル化工程とは区別される。より具体的に重縮合反応工程とは、反応槽に投入されるエステル化工程を経て得られた反応物のエステル化率が80%以上である工程を指し、この場合の反応槽を重縮合反応槽と呼ぶ。
重縮合反応は連続する複数の反応槽を用い減圧下で行うことができる。最終重縮合反応槽の反応圧力は、下限が通常0.01kPa以上、好ましくは0.03kPa以上であり上限が通常1.4kPa以下、好ましくは0.4kPa以下として行う。重縮合反応時の圧力が高すぎると、重縮合時間が長くなり、それに伴いポリエステルの熱分解による分子量低下や着色が引き起こされ、実用上充分な特性を示すポリエステルの製造が難しくなる傾向がある。
【0027】
一方、反応圧力を0.01kPa未満とするような超高真空重縮合設備を用いて製造する手法は重縮合反応速度を向上させる観点からは好ましい態様であるが、極めて高額な設備投資が必要となる為、経済的には不利である。反応温度は、下限が通常215℃、好ましくは220℃であり、上限が通常270℃好ましくは260℃の範囲である。下限未満であると、重縮合反応速度が遅く、高重合度のポリエステル製造に長時間を要するばかりでなく、高動力の撹拌機も必要となる為、経済的に不利である。一方、上限超過であると製造時のポリエステルの熱分解が引き起こされやすく、高重合度のポリエステルの製造が難しくなる傾向がある。
【0028】
反応時間は、下限が通常1時間であり、上限が通常15時間、好ましくは10時間、より好ましくは8時間である。反応時間が短すぎると反応が不充分で高重合度のポリエステルが得にくく、その成形品の機械物性が劣る傾向となる。一方、反応時間が長すぎると、ポリエステルの熱分解による分子量低下が顕著となり、その成形品の機械物性が劣る傾向となるばかりでなく、ポリエステルの耐久性に悪影響を与えるカルボキシル基末端量が熱分解により増加する場合がある。
【0029】
重縮合反応温度と時間および圧力をコントロールすることにより所望の固有粘度のポリエステルを得ることができる。
【0030】
(環状一量体化合物(CM)の供給)
本発明では原料として使用する全脂肪族ジオールに対して、3重量%から15重量%の量のCMを、原料調製工程以降であってエステル化工程までの間の少なくともいずれかの工程に供給する。脂肪族ジオールに対するCMの添加量は、好ましくは下限は5重量%、より好ましくは8重量%であり上限は好ましくは12重量%、より好ましくは10重量%である。CM含有量が下限未満であると得られるポリエステルの色調b値が大きくなり劣る傾向となる。上限超過ではエステル化反応槽、重縮合反応槽から留出する留出液中に閉塞性の留出物が多くなり配管閉塞などを起こし易くなる。
【0031】
本発明におけるCMは、脂肪族ジカルボン酸と脂肪族ジオールとを脂肪族ジオール中で反応させて得ることができる。CMの具体的な例として、脂肪族ジカルボン酸としてコハク酸、脂肪族ジオールとして1,4−ブタンジオールから成る環状一量体化合物があげられ、ガスクロマトグラフィーや液体クロマトグラフィー等による定量測定が可能である。
【0032】
また、エステル化反応、重縮合反応において各反応槽から留出する脂肪族ジオール、水を主成分とする留出物中のCMを利用することもできる。この場合、重縮合反応槽からの留出液はCM濃度が高く、液状であるので貯留し或いは直接にこの液を原料脂肪族ジオー
ルまたは原料調製工程またはエステル化反応工程に、CMの添加量が適量になるよう投入して使用するのは効率的な方法である。
【0033】
(反応触媒)
エステル化反応および重縮合反応は反応触媒を使用することにより、反応が促進される。エステル化反応においてはエステル化反応触媒が無くても十分な反応速度を得ることができる。またエステル化反応時にエステル化反応触媒が存在するとエステル化反応によって生じる水により触媒が反応物に不溶の析出物を生じ、得られるポリエステルの透明性を損なう(即ちヘーズが高くなる)ことがあり、また異物化することがあるので、反応触媒はエステル化反応中には添加使用しないことが好ましい。また、触媒を反応槽の気相部に添加するとヘーズが高くなることがあり、また触媒が異物化することがあるので反応液中に添加することが好ましい。
【0034】
重縮合反応においては無触媒では反応が進みにくく、触媒を用いることが好ましい。重縮合反応触媒としては、一般には、周期表1〜14族の金属元素のうち少なくとも1種を含む金属化合物が用いられる。金属元素としては、具体的には、 スカンジウム、イットリウム、サマリウム、チタン、ジルコニウム、バナジウム、クロム、モリブデン、タングステン、錫、アンチモン、セリウム、ゲルマニウム、亜鉛、コバルト、マンガン、鉄、アルミニウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、ナトリウムおよびカリウム等が挙げられる。その中では、スカンジウム、イットリウム、チタン、ジルコニウム、バナジウム、モリブデン、タングステン、亜鉛、鉄、ゲルマニウムが好ましく、特に、チタン、ジルコニウム、タングステン、ゲルマニウムが好ましい。更に、ポリエステルの熱安定性に影響を与えるポリエステル末端濃度を低減させる為には、上記金属の中では、ルイス酸性を示す周期表3〜6族の金属元素が好ましい。具体的には、スカンジウム、チタン、ジルコニウム、バナジウム、モリブデン、タングステンであり、特に、入手のし易さからチタン、ジルコニウムが好ましく、更には反応活性の点からチタンが好ましい。
【0035】
本発明においては、触媒として、これらの金属元素を含むカルボン酸塩、アルコキシ塩有機スルホン酸塩またはβ―ジケトナート塩等の有機基を含む化合物、更には前記した金属の酸化物、ハロゲン化物等の無機化合物およびそれらの混合物が好ましく用いられる。
本発明においては、触媒は、重合時に溶融あるいは溶解した状態であると重合速度が高くなる理由から、重合時に液状であるか、エステル低重合体やポリエステルに溶解する化合物が好ましい。また、重縮合は無溶媒で行うことが好ましいが、これとは別に、触媒を溶解させる為に少量の溶媒を使用しても良い。この触媒溶解用の溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノールなどのアルコール類、エチレングリコール、ブタンジオール、ペンタンジオールなどの前述のジオール類、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル類、アセトニトリル等のニトリル類、ヘプタン、トルエン等の炭化水素化合物、水ならびにそれらの混合物等が挙げられ、その使用量は、触媒濃度が、通常0.0001重量%以上、99重量%以下となるように使用する。
【0036】
チタン化合物としては、テトラアルキルチタネートおよびその加水分解物が好ましく、具体的には、テトラ−n−プロピルチタネート、テトライソプロピルチタネート、テトラ−n−ブチルチタネート、テトラ−t−ブチルチタネート、テトラフェニルチタネート、テトラシクロヘキシルチタネート、テトラベンジルチタネートおよびこれらの混合チタネート、およびこれらの加水分解物が挙げられる。
【0037】
また、チタン(オキシ)アセチルアセトネート、チタンテトラアセチルアセトネート、チタン(ジイソプロキシド)アセチルアセトネート、チタンビス(アンモニウムラクテイト)ジヒドロキシド、チタンビス(エチルアセトアセテート)ジイソプロポキシド、チタン(トリエタノールアミネート)イソプロポキシド、ポリヒドロキシチタンステアレート
、チタンラクテート、チタントリエタノールアミネート、ブチルチタネートダイマー等も好んで用いられる。また、アルコール、アルカリ土類金属化合物、リン酸エステル化合物、およびチタン化合物を混合することにより得られる液状物も用いられる。これらの中では、テトラ−n−プロピルチタネート、テトライソプロピルチタネートおよびテトラ−n−ブチルチタネート、チタン(オキシ)アセチルアセトネート、チタンテトラアセチルアセトネート、チタンビス(アンモニウムラクテイト)ジヒドロキシド、ポリヒドロキシチタンステアレート、チタンラクテート、ブチルチタネートダイマーおよび、アルコール、アルカリ土類金属化合物、リン酸エステル化合物、およびチタン化合物を混合することにより得られる液状物、が好ましく、テトラ−n−ブチルチタネート、チタン(オキシ)アセチルアセトネート、チタンテトラアセチルアセトネート、ポリヒドロキシチタンステアレート、チタンラクテート、ブチルチタネートダイマーおよび、アルコール、アルカリ土類金属化合物リン酸エステル化合物、およびチタン化合物を混合することにより得られる液状物がより好ましく、特に、テトラ−n−ブチルチタネート、ポリヒドロキシチタンステアレート、チタン(オキシ)アセチルアセトネート、チタンテトラアセチルアセトネートおよび、アルコール、アルカリ土類金属化合物、リン酸エステル化合物、およびチタン化合物を混合することにより得られる液状物が好ましい。
【0038】
ジルコニウム化合物としては、具体的には、ジルコニウムテトラアセテイト、ジルコニウムアセテイトヒドロキシド、ジルコニウムトリス(ブトキシ)ステアレート、ジルコニルジアセテイト、シュウ酸ジルコニウム、シュウ酸ジルコニル、シュウ酸ジルコニウムカリウム、ポリヒドロキシジルコニウムステアレート、ジルコニウムエトキシド、ジルコニウムテトラ−n−プロポキシド、ジルコニウムテトライソプロポキシド、ジルコニウムテトラ−n−ブトキシド、ジルコニウムテトラ−t−ブトキシド、ジルコニウムトリブトキシアセチルアセトネートならびにそれらの混合物が例示される。これらの中では、ジルコニルジアセテイト、ジルコニウムトリス(ブトキシ)ステアレート、ジルコニウムテトラアセテイト、ジルコニウムアセテイトヒドロキシド、シュウ酸ジルコニウムアンモニウム、シュウ酸ジルコニウムカリウム、ポリヒドロキシジルコニウムステアレート、ジルコニウムテトラ−n−プロポキシド、ジルコニウムテトライソプロポキシド、ジルコニウムテトラ−n−ブトキシド、ジルコニウムテトラ−t−ブトキシドが好ましく、ジルコニルジアセテイト、ジルコニウムテトラアセテイト、ジルコニウムアセテイトヒドロキシド、ジルコニウムトリス(ブトキシ)ステアレート、シュウ酸ジルコニウムアンモニウム、ジルコニウムテトラ−n−プロポキシド、ジルコニウムテトラ−n−ブトキシドがより好ましく、特にジルコニウムトリス(ブトキシ)ステアレートが着色のない高重合度のポリエステルが容易に得られる理由から好ましい。
【0039】
ゲルマニウム化合物としては、具体的には、酸化ゲルマニウムや塩化ゲルマニウム等の無機ゲルマニウム化合物、テトラアルコキシゲルマニウムなどの有機ゲルマニウム化合物挙げられる。価格や入手の容易さなどから、酸化ゲルマニウム、テトラエトキシゲルマニウムおよびムおよびテトラブトキシゲルマニウムなどが好ましく、特に、酸化ゲルマニウムが好ましい。
【0040】
重縮合触媒としてこれらの金属化合物を用いる場合の触媒添加量は、生成するポリエステルに対する金属量として、下限値が通常、0.1質量ppm以上、好ましくは0.5質量ppm以上、より好ましくは1質量ppm以上であり、上限値が通常、3000質量ppm以下、好ましくは1000質量ppm以下、より好ましくは250質量ppm以下、特に好ましくは130質量ppm以下である。使用する触媒量が多すぎると、経済的に不利であるばかりでなく、理由は未だ詳らかではないが、ポリエステル中のカルボキシル基末端濃度が多くなる場合がある為、カルボキシル基末端量ならびに残留触媒濃度の増大によりポリエステルの熱安定性や耐加水分解性が低下する場合がある。逆に少なすぎると重合活性が低くなり、それに伴いポリエステル製造中にポリエステルの熱分解が誘発され、
実用上有用な物性を示すポリエステルが得られにくくなる。
【0041】
触媒の反応系への添加位置は、重縮合反応工程以前であれば特に限定されず、原料仕込み時に添加しておいてもよいが、水が多く存在、もしくは発生している状況下で触媒が共存すると触媒が失活し、異物が析出する原因となり製品の品質を損なう場合がある為、エステル化反応工程以後に添加するのが好ましい。
【0042】
<反応槽>
(エステル化反応槽)
本発明に用いるエステル化反応槽としては、公知のものが使用でき、縦型攪拌完全混合槽、縦型熱対流式混合槽、塔型連続反応槽等の型式のいずれであってもよく、また、単数槽としても、同種または異種の槽を直列させた複数槽としてもよい。中でも攪拌装置を有する反応槽が好ましく、攪拌装置としては、動力部および受、軸、攪拌翼からなる通常のタイプの他、タービンステーター型高速回転式攪拌機、ディスクミル型攪拌機、ローターミル型攪拌機等の高速回転するタイプも用いることができる。
【0043】
攪拌の形態にも制限はなく、反応槽中の反応液を反応槽の上部、下部、横部等から直接攪拌する通常の攪拌方法の他、反応液の一部を反応槽の外部に配管等で持ち出してラインミキサ−等で攪拌し、反応液を循環させる方法もとることができる。 攪拌翼の種類も公知のものが選択でき、具体的にはプロペラ翼、スクリュー翼、タービン翼、ファンタービン翼、デイスクタービン翼、ファウドラー翼、フルゾーン翼、マックスブレンド翼等が挙げられる。
【0044】
(重縮合反応槽)
本発明に用いる重縮合反応槽の型式に特に制限はなく、例えば、縦型攪拌重合槽、横型攪拌重合槽、薄膜蒸発式重合槽などを挙げることができる。重縮合反応槽は、1基とすることができ、あるいは、同種または異種の複数基の槽を直列させた複数槽とすることもできるが、反応液の粘度が上昇する重縮合の後期は界面更新性とプラグフロー性、セルフクリーニング性に優れた薄膜蒸発機能を有した横型攪拌重合機を選定することが好ましい。
【0045】
(凝縮器)
本発明に用いる凝縮器としては、水冷式、空冷式、蒸発式等公知のものを使用することができ、例えば、水冷式としてはシェルアンドチューブ凝縮器、二重管凝縮器が、空冷式としてはプレートフィンチューブ凝縮器が、蒸発式としては、蒸発凝縮器等を採用することができる。本発明の凝縮器は、エステル槽、重縮合反応槽の、一方または両方に有していてもよく、複数有していてもよい。また、凝縮器の少なくとも一つが湿式コンデンサであるのが好ましく、脂肪族ジオールで凝縮する態様であることが好ましい。
湿式コンデンサとしては、棚段を1段又は複数段設け、その上方から冷却液として例えば1,4−ブタンジオールを循環・流下させて液膜を発生させ、この液膜に排気を接触させることでプロセス飛散物を溶解・捕集する棚段型による方法、上方にシャワーノズルを設け、冷却液として例えば1,4−ブタンジオールを噴霧して、この液滴に排気を接触させることでプロセス飛散物を溶解、捕集するシャワー型による方法、棚段型とシャワー型を組み合わせ、棚段型を上部に、シャワー型を下部に配置する方法等あるが、いずれを用いてもよい。
本発明の凝縮器より排出されるCMは、原料調製工程以降エステル化工程までの間のいずれかに供給されることが好ましい。また、本発明の凝縮器と重縮合反応槽の間には分離器があることが好ましく、分離器に捕集された低重合体をエステル化反応槽に供給するのは好ましい態様である。
【0046】
<製造プロセス例>
以下に例として、脂肪族ジカルボン酸としてコハク酸、脂肪族ジオールとして1,4−ブタンジオール(以下、BDと略記することがある)、多官能化合物としてリンゴ酸を原料とするポリエステルの製造方法の好ましい実施態様を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0047】
以下、添付図面に基づき、ポリエステルの製造方法の好ましい実施態様を説明する。図1は、本発明で採用する原料調製工程の一例の説明図、図2は本発明で採用するエステル化反応工程の一例の説明図、図3は、本発明で採用する重縮合工程の一例の説明図である。図4は本発明で採用する重縮合工程の留出系の一例の説明図である。
【0048】
図1において、原料供給ライン(1)よりコハク酸を、原料供給ライン(2)よりBDおよびリンゴ酸を、原料供給ライン(3)よりCMのBD溶液を原料調製槽(A)に供給し、攪拌混合し原料スラリーを調製し、スラリーライン(4)、(6)、ポンプ(C)より原料スラリー貯槽(B)に送る。スラリーの一部はスラリーライン(5)より原料調製槽(A)に循環される。ここでCMはライン(3)より供給する例を示したが原料供給ライン(10)より原料スラリー貯槽(B)、エステル化反応槽(E)に供給しても良い(供給ラインは図示していない)。貯槽(B)のスラリーは、ポンプ(D)を使用して、スラリー抜き出しライン(7)、循環ライン(8)を通じてスラリーを循環させながら攪拌混合を行い、保持する。調製されたスラリーは貯槽(B)よりスラリー供給ライン(9)を通じてエステル化反応槽(E)に供給される。また、原料のリンゴ酸は原料供給ライン(1)より、スラリー調製槽へ固体として添加することもできるし、原料供給ライン(10)よりBD溶液もしくは、BDスラリーとしてスラリー供給ライン(9)に添加することもできる。
また、エステル化反応時に触媒を添加する場合は、触媒調整槽(図示せず)でBDの溶液とした後、供給ライン(24)に溶液を供給してなされる。図1では再循環1,4−ブタンジオールの再循環ライン(22)に供給ライン(24)を連結し、両者を混合した後、エステル化反応槽(E)の液相部に供給する態様を示した。重縮合反応器より留出し、分離器(g、h、j)に捕集されたCMを含む低分子量成分は、再循環1,4−ブタンジオールの再循環ライン(22)に連結された供給ライン(24)よりエステル化反応槽(E)に添加することもできる。
【0049】
エステル化反応槽(E)から留出するガスは、留出ライン(13)を経て精留塔(F)で高沸成分と低沸成分とに分離される。通常、高沸成分の主成分はBDであり、低沸成分の主成分は、水およびBDの分解物であるテトラヒドロフラン(以下、THFと略記することがある)である。
【0050】
精留塔(F)で分離された高沸成分は抜出ライン(20)から抜き出され、ポンプ(J)を経て、一部はBD再循環ライン(22)からエステル化反応槽(E)に循環され、一部は循環ライン(21)から精留塔(F)に戻される。また余剰分は抜出ライン(23)から外部に抜き出される(貯槽へ、図なし)。一方、精留塔(F)で分離された軽沸成分はガス抜出ライン(14)から抜き出され、コンデンサ(G)で凝縮され、凝縮液ライン(16)を経てタンク(H)に一時溜められる。タンク(H)に集められた軽沸成分の一部は、抜出ライン(17)、ポンプ(K)および循環ライン(18)を経て精留塔(F)に戻され、残部は、抜出ライン(19)を経て外部に抜き出される。コンデンサ(G)はベントライン(15)を経て排気装置(図示せず)に接続されている。エステル化反応槽(E)内で生成したエステル化反応物は、抜出ポンプ(I)およびエステル化反応物の抜出ライン(12)を経て図2第1重縮合反応槽(L)に供される。
【0051】
図1に示す工程においては、再循環ライン(22)に供給ライン(24)が連結されているが、両者は独立していてもよい。また、原料供給ライン(9)はエステル化反応槽(
E)の液相部に接続されていてもよい。
【0052】
重縮合槽前のエステル化反応物に触媒を添加する場合は、触媒調製槽(図示せず)で所定濃度に調製した後、図2における触媒供給ライン(28)を経てエステル化反応物の抜出ライン(12)に供給される。
【0053】
次に、図3に示すエステル化反応物の抜出ライン(12)からフィルター(R)を経て第1重縮合反応槽(L)に供給されたエステル化反応物は、減圧下に重縮合されてポリエステル低重合体となりその後、抜出用ギヤポンプ(O)および抜出ライン(30)、フィルター(S)を経て第2重縮合反応槽(M)に供給される。第2重縮合反応槽(M)では、通常、第1重縮合反応槽(L)よりも低い圧力で更に重縮合反応が進む。得られた重縮合物は、抜出用ギヤポンプ(P)および出口流路である抜出ライン(31)、フィルター(T)を経て、第3重縮合槽(N)に供給される。第3重縮合反応槽(N)は、複数個の攪拌翼ブロックで構成され、2軸のセルフクリーニングタイプの攪拌翼を具備した横型の反応槽である。抜出ライン(31)を通じて第2重縮合反応槽(M)から第3重縮合反応槽(N)に導入された重縮合反応物は、ここで更に重縮合反応が進められた後、ペレット化される。フィルターR、S、T、Uは必ずしも全部設置する必要はなく、異物除去効果と運転安定性とを考慮して適宜設置することができる。
【0054】
溶融状態のポリエステルを抜出用ギヤポンプ(Q)、出口流路である抜出ライン(32)およびフィルター(U)を経てダイスヘッド(V)から溶融したストランドの形態で大気中に抜き出され、水などで冷却された後、回転式カッター(W)で切断されてポリエステルペレットとなる。また、大気中に抜き出さずに水中にストランドの形態で抜きだし、回転式水中カッターで切断してペレットとすることもできる。
【0055】
図3および図4に示す留出ライン(25)、(26)、(27)は、それぞれ、第1重縮合反応槽(L)、第2重縮合反応槽(M)、第3重縮合反応槽(N)のベントラインである。重縮合反応槽(L)、(M)、(N)からそれぞれ留出する留出物は留出ライン(25)、(26)、(27)を経て冷却機能を有する分離器(g)、(h)、(i)で液体成分と気体成分とに分離され液体成分は回収ライン(48)、供給ライン(24)を通じてエステル化反応槽(E)に、または原料供給ラインを通じてスラリー調製槽に戻すことができる。
気体成分は、各反応器に付設された湿式コンデンサ(a)、(b)、(c)で凝縮される。凝縮された留出物はタンク(d)、(e)、(f)に貯留されるとともに、循環BDとして再び湿式コンデンサに送られ、留出物を凝縮させる噴霧液として使用される。留出物中には反応で生成する水やTHF、飛沫同伴によるCMやその他オリゴマー等が含まれるため、圧力損失や湿式コンデンサ内での閉塞を回避する目的で、供給ライン(42)、(43)、(44)を通じてBDを追添加することができる。供給ライン(42)よりBDを追添加したタンク(f)は、液面を一定とするため、抜き出しライン(41)よりオーバーフロー形式で抜き出された留出液は、循環ライン(37)へ送られ、湿式コンデンサ(b)の噴霧液として使用される。タンク(e)も同様に、液面を一定とするため、抜き出しライン(40)よりオーバーフロー形式で抜き出された留出液は、循環ライン(36)へ送られ、湿式コンデンサ(a)の噴霧液として使用される。タンク(d)よりオーバーフロー形式で抜き出された留出液は、抜き出しライン(39)を通じて、スラリー調製あるいは、エステル化反応原料として再利用される。
【0056】
<ポリエステル>
本発明で得られるポリエステルのMVR(測定法は実施例に記載)は、上限が30(cm/10分)であることが好ましく、特に好ましくは、10(cm/10分)である。下限は0.1(cm/10分)が好ましく、更に好ましくは0.3(cm/10分)
であり特に好ましくは0.5(cm/10分)である。固有粘度が上限超過であると、成形品にしたとき 十分な機械強度が得にくい。固有粘度が下限未満であると、成形時に溶融粘度が高く成形しにくい。本発明のポリエステルの末端カルボキシル基量は通常80(当量/トン)以下であり、好ましくは60(当量/トン)以下、更に好ましくは40(当量/トン)以下、特に好ましくは25(当量/トン)以下である。下限は低いほど熱安定性、耐加水分解性がよいが、通常5(当量/トン)である。上限を超えると、熱安定性が悪く成形時などに熱分解が多くなる。
【0057】
本発明で得られるポリエステルの平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定することが可能であって、ポリスチレンを標準物質とした重量平均分子量が、通常10,000以上1,000,000以下であるが、成形性と機械強度の点において有利なため、好ましくは20,000以上500,000以下、より好ましくは50,000以上400,000以下である。
【0058】
本発明で得られるポリエステルは、環状二量体化合物を含むことがある。ポリエステルの環状二量体化合物の含有量は、通常4,000ppm乃至10,000重量ppmであり、必要に応じて溶剤による抽出などにより含有量を低減させることが可能である。環状二量体化合物の含有量が多いと、ポリエステル成形後一定期間放置した場合、その表面に曇り(ブリードアウト、白化現象と同義)が生じて表面光沢が消失するなどの不具合を生じる場合がある。
【0059】
<ポリエステル組成物>
本発明のポリエステルに、芳香族−脂肪族共重合ポリエステル、および脂肪族オキシカルボン酸等を配合させてもよい。更に必要に応じて用いられるカルボジイミド化合物、充填材、可塑剤以外に、本発明の効果を阻害しない範囲で他の生分解性樹脂、例えば、ポリカプロラクトン、ポリアミド、ポリビニルアルコール、セルロースエステル等や、澱粉、セルロース、紙、木粉、キチン・キトサン質、椰子殻粉末、クルミ殻粉末等の動物/植物物質微粉末、あるいはこれらの混合物を配合することができる。更に、成形体の物性や加工性を調整する目的で、熱安定剤、可塑剤、滑剤、ブロッキング防止剤、核剤、無機フィラー、着色剤、顔料、紫外線吸収剤、光安定剤等の添加剤、改質剤、架橋剤等を含有させてもよい。
【0060】
本発明のポリエステル組成物の製造方法は、特に限定されないが、ブレンドした添加剤などと、ポリエステルの原料チップを同一の押出機で溶融混合する方法、各々別々の押出機で溶融させた後に混合する方法、一軸押出機、二軸押出機、バンバリーミキサー、ロールミキサー、ブラベンダープラストグラフ、ニーダーブレンダー等の通常の混練機を用いて混練することによって混合する等が挙げられる。また、各々の原料チップを直接成形機に供給して組成物を調製すると同時に、その成形体を得ることも可能である。
【実施例】
【0061】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例によって限定されるものではない。
以下に本発明における分析方法を示す。
【0062】
<触媒溶液のpH分析>
東亜DKK社製自動滴定装置(AUT−301型)を用い、大気下でpH電極を液状触媒に浸して測定した。
<エステル化反応物の末端カルボキシル基濃度 当量/トン>
エステル化反応物試料0.3gをベンジルアルコール40mLに180℃で20分間加熱させ、10分間冷却した後、0.1mol・L―1のKOH/メタノール溶液で滴定し
て求めた値を当量/トンで表したものである。
【0063】
<エステル化率%>
以下の計算式(1)によって酸価およびケン化価から算出した。酸価は、エステル化反応物の末端カルボキシル基濃度を用いた。ケン化価は0.5NのKOH/エタノール溶液でエステル化反応物を加水分解し、0.5Nの塩酸で滴定し求めた。
エステル化率(%)=((ケン化価−酸価)/ケン化価)×100 式(1)
【0064】
<固有粘度(IV)dL/g>
ウベローデ型粘度計を使用し次の要領で求めた。すなわち、フェノール/テトラクロロエタン(重量比1/1)の混合溶媒を使用し、30℃において、濃度0.5g/dLのポリエステル試料溶液および溶媒のみの落下秒数を測定し、以下の式(2)より求めた。
【0065】
IV=((1+4KHηsp)0.5−1)/(2KHC) 式(2)
【0066】
ここで、 ηsp=η/η−1 であり、ηは試料溶液の落下秒数、η0は溶媒のみの落
下秒数、Cは試料溶液濃度(g/dL)、KHはハギンズの定数である。KHは0.33を採用した。
【0067】
<メルトボリュームフローレイト(MVR:cm/10分)の測定>
溶融流動体積であるMVRは、タカラ工業製メルトインデクサーを用い、JIS−K7210(1999年)の方法に従って測定した。具体的には、80℃で12時間乾燥した脂肪族ポリエステルをメルトインデクサーに供することにより、MVRを測定した。メルトインデクサーの条件としては、190℃で荷重2.16kgで測定した単位時間当たりの溶融流動体積(cm/10分)をMVRとした。
【0068】
<ポリエステルの末端カルボキシル基濃度の測定:当量/トン>
ペレット状ポリエステルを粉砕した後、熱風乾燥機にて60℃で30分間乾燥させ、デシケーター内で室温まで冷却した試料から、0.1gを精秤して試験管に採取し、ベンジルアルコール3mLを加えて、乾燥窒素ガスを吹き込みながら195℃、3分間で溶解させ、次いで、クロロホルム5cmを徐々に加えて室温まで冷却した。この溶液にフェノールレッド指示薬を1〜2滴加え、乾燥窒素ガスを吹き込みながら撹拌下に、0.1mol・L―1の水酸化ナトリウムのベンジルアルコール溶液で滴定し、黄色から赤色に変じた時点で終了とした。また、ブランクとして、ポリエステル試料を加えずに同様の操作を実施し、以下の式(3)によって末端カルボキシル基量(以下、酸価またはAVを略記することがある。)を算出した。
【0069】
末端カルボキシル量(当量/トン)=(a−b)×0.1×f/w 式(3)
【0070】
上記式(3)において、aは、滴定に要した0.1mol・L―1の水酸化ナトリウムのベンジルアルコール溶液の量(μL)、bは、ブランクでの滴定に要した0.1mol・L―1の水酸化ナトリウムのベンジルアルコール溶液の量(μL)、wはポリエステルの試料の量(g)、fは、0.1mol・L―1の水酸化ナトリウムのベンジルアルコール溶液の力価である。) なお、0.1mol・L―1の水酸化ナトリウムのベンジルアルコール溶液の力価(f)は以下の方法で求めた。試験管にメタノール5cmを採取し、フェノールレッドのエタノール溶液の指示薬として1〜2滴加え、0.lmol・L―1の水酸化ナトリウムのベンジルアルコール溶液0.4cmで変色点まで滴定し、次いで力価既知の0.1mol・L―1の塩酸水溶液を標準液として0.2cm採取して加え、再度、0.1mol・L―1の水酸化ナトリウムのベンジルアルコール溶液で変色点まで滴定した(以上の操作は、乾燥窒素ガス吹き込み下で行った。)。
力価(f)は、以下の式(4)によって算出した。
【0071】
力価(f)=0.1mol・L―1の塩酸水溶液の力価×0.1Nの塩酸水溶液の採取量(μL)/0.1mol・L―1の水酸化ナトリウムのベンジルアルコール溶液の滴定量(μL) 式(4)
【0072】
末端カルボキシル基濃度が低いほうがポリエステルの耐熱性、対加水分解性が良好である。
【0073】
<カラーb値>
ペレット状ポリエステルを内径30mm、深さ12mmの円柱状の粉体測定用セルに充填し、測色色差計Z300A(日本電色工業(株))を使用して、JIS Z8730(2009年)の参考例1に記載されるLab表示系におけるハンターの色差式の色座標によるb値を、反射法により、測定セルを90度ずつ回転させて4箇所測定した値の単純平均値として求めた
【0074】
<溶液ヘーズ%>
フェノール/テトラクロロエタン=3/2(重量比)の混合液20mLにポリエステル試料2.70gを入れ、110℃、30分間で溶解させた後、この溶液を30℃の恒温水槽で15分間冷却し、日本電色(株)製濁度計(NDH−300A)を使用して、光路長10mmのセルで溶液の濁度を測定し溶液ヘーズとした。値が低いほど透明性が良好であることを示す。
【0075】
<回収液中の水分濃度(重量%)>
留出液を精秤し、カールフィッシャー水分計にて水分μg量を測定し、1,4−ブタンジオール中および、重合留出液の回収液中の水分の重量の割合を求めた。
【0076】
<1,4−ブタンジオール及び、回収液中のHBTF含量の測定>
1,4−ブタンジオール及び、回収液中のHBTF濃度(重量%)は、ガスクロマトグラフィー(GC)及び、水分測定を組み合わせて求めた。
GCにより、有機成分を修正面積百分率法で定量し、先に求めた水分と有機成分の和が100%になるように有機成分を再計算し、HBTFの濃度を算出した。有機成分の再計算には、1,4−ブタンジオールの補正係数を基準(1.000)とした有効炭素数を用いて求めた。HBTFの補正係数には0.9228を使用した。
【0077】
装置は、GC−14B(島津製作所社製)(スプリット比:1/90、RANGE:10)を、カラムはJ&W社製のDB−WAX(内径:0.32mm、長さ:60m、膜圧:0.5μm)を使用した。注入部および検出器温度は240℃、カラム温度は90℃から230℃まで7℃/minで昇温後、230℃で20分保持した。キャリヤガスには窒素(1mL/min)を用いた。
<CM(環状一量体)含量の測定>
回収液中のCM濃度(重量%)は、HBTF含量の測定同様、ガスクロマトグラフィー(GC)及び、水分測定を組み合わせて求めた。GCより求めた1,4−ブタンジオール、テトラヒドロフラン、HBTFの濃度及び、水分測定より求めた水分量を100%から差し引いた値をCM濃度とした。GCはHBTF含量と同条件で行い、テトラヒドロフランの補正係数には0.7476を使用した。
<リサイクル率>
原料調製工程及び、エステル化反応工程に供給される全脂肪族ジオール量に対する、回収タンク(p)内の回収液の使用割合をリサイクル率として算出した。
【0078】
[実施例1]
[重縮合用触媒の調製]
撹拌装置付きのガラス製ナス型フラスコに酢酸マグネシウム・4水和物を100重量部入れ、更に1500重量部の無水エタノール(純度99重量%以上)を加えた。更にエチルアシッドホスフェート(モノエステル体とジエステル体の混合重量比は45:55)を130.8重量部加え、23℃で撹拌を行った。15分後に酢酸マグネシウムが完全に溶解したことを確認後、テトラ−n−ブチルチタネートを529.5重量部添加した。更に10分間撹拌を継続し、均一混合溶液を得た。この混合溶液を、ナス型フラスコに移し、60℃のオイルバス中でエバポレーターによって減圧下で濃縮を行った。1時間後に殆どのエタノールが留去され、半透明の粘稠な液体を得た。オイルバスの温度を更に80℃まで上昇させ、5Torrの減圧下で更に濃縮を行い粘稠な液体を得た。この液体状の触媒を、1,4−ブタンジオールに溶解させ、チタン原子含有量が3.5重量%となるよう調製した。1,4−ブタンジオール中における保存安定性は良好であり、窒素雰囲気下40℃で保存した触媒溶液は少なくとも40日間析出物の生成は認められなかった。また、この触媒溶液のpHは6.3であった。
【0079】
[脂肪族ポリエステルの製造]
図1に示す原料調製工程、図2に示すエステル化工程、図3に示す重縮合工程と図4に示す留出物回収工程により、以下のようにして脂肪族ポリエステルを製造した。先ず、リンゴ酸を0.18重量%含有したコハク酸1.00モルに対して、HBTFを0.15wt%含有した三菱化学製1,4−ブタンジオールを1.30モルおよびリンゴ酸を総量0.0028モルの割合となるように混合した50℃のスラリーをスラリー調製槽(A)にて調整しこのスラリーをスラリー抜出しライン(4)、ポンプ(C)、スラリー供給ライン(6)を経由してスラリー貯槽(B)に移送しスラリー貯槽(B)からスラリー供給ライン(9)を通じ、予め、窒素雰囲気下エステル化率99重量%の脂肪族ポリエステル低分子量体(エステル化反応物)を充填した攪拌機を有するエステル化反応槽(E)に、58.8kg/hとなる様に連続的に供給した。
【0080】
エステル化反応槽(E)を内温230℃、圧力101kPaとし、生成する水、テトラヒドロフランおよび余剰の1,4−ブタンジオールなどを、留出ライン(13)から留出させ、精留塔(F)で高沸成分と低沸成分とに分離した。系が安定した後の塔底の高沸成分は精留塔(F)の液面が一定になる様に、抜出ライン(23)を通じて、その一部を外部に抜き出した。一方、水とテトラヒドロフランを主体とする低沸成分は、塔頂よりガスの形態で抜き出し、コンデンサ(G)で凝縮させ、タンク(H)の液面が一定になる様に、抜出ライン(19)より外部に抜き出した。同時に、BD再循環ライン(22)より100℃の精留塔(F)の塔底成分(98重量%以上が1,4−ブタンジオール)全量を、また、供給ライン(24)より、エステル化反応槽で発生したテトラヒドロフランと等モルの1,4−ブタンジオール2.2kg/hrを併せて供給し、エステル化反応槽内のコハク酸に対する1,4−ブタンジオールモル比が1.30となるように調整した。供給量は、再循環ライン(22)と供給ライン(24)合わせて6.3kg/hであった。
【0081】
エステル化反応槽(E)で生成したエステル化反応物は、ポンプ(I)を使用し、エステル化反応物の抜出ライン(12)から連続的に抜き出し、エステル化反応槽(E)内液のコハク酸ユニット換算での平均滞留時間が4.4時間になる様に液面を制御した。抜出ライン(12)から抜き出したエステル化反応物は、第1重縮合反応槽(L)に連続的に供給した。系が安定した後、エステル化反応槽(E)の出口で採取したエステル化反応物のエステル化率は93.4%であり末端カルボキシル濃度は643当量/トンであった。
予め前述手法で調製した触媒溶液を、触媒調製槽において、チタン原子としての濃度が0.1重量%となる様に、1,4−ブタンジオールで希釈した触媒溶液を調製した後、供給ライン(29)を通じて、2.2kg/hで連続的にエステル化反応物の抜出ライン(
12)に供給した(触媒は反応液の液相に添加された)。供給量は運転期間中安定していた。
【0082】
第一重縮合反応槽(L)の内温は240℃、圧力2.7kPaとし、滞留時間が120分間になる様に、液面制御を行った。減圧機(図示せず)に接続されたベントライン(25)から、水、テトラヒドロフラン、1,4−ブタンジオール、CMを抜き出しながら、初期重縮合反応を行った。抜き出した反応液は、第二重縮合反応器(M)に連続的に供給した。
【0083】
第二重縮合反応器(M)の内温は245℃、圧力400Paとし、減圧機(図示せず)に接続されたベントライン(26)から、水、テトラヒドロフラン、1,4−ブタンジオール、CMを抜き出しながら、更に重縮合反応を進めた。滞留時間は150分であった。得られたポリエステルは、抜出用ギヤポンプ(P)により抜出ライン(31)を経由し、第3重縮合反応器(N)に連続的に供給した。第3重縮合反応器(N)の内温は245℃、圧力は130Paとし、滞留時間が180分間になる様に、液面制御を行い、減圧機(図示せず)に接続されたベントライン(27)から、水、テトラヒドロフラン、1,4−ブタンジオール、CMを抜き出しながら、更に、重縮合反応を進めた。得られたポリエステルは、ポリマーフィルター(U)を経由後、ダイスヘッド(V)からストランド状に連続的に抜き出し、回転式カッター(W)でカッティングしペレットとした。
【0084】
<重合留出液の回収>
HBTFを0.15重量%含有したBDを、供給ライン(42)より17.7kg/hrで循環ライン(38)へ連続的に供給し、ベントライン(27)より抜き出される留出物を湿式コンデンサ(c)で凝縮させた。タンク(f)のオーバーフロー液は、抜き出しライン(41)を通じて循環ライン(37)へ連続的に供給し、ベントライン(26)より抜き出される留出物を湿式コンデンサ(b)で凝縮させた。同様に、タンク(e)のオーバーフロー液は、抜き出しライン(40)を通じて循環ライン(36)へ連続的に供給し、ベントライン(25)より抜き出される留出物を湿式コンデンサ(a)で凝縮させた。タンク(d)のオーバーフロー液は、抜き出しライン(39)を通じて、30.7kg/hrで回収タンク(p)へ送られた。このとき、回収液中のBGTFは0.16重量%、CMは3.0重量%であった。回収液はリサイクル率50%(スラリー調製に必要な1,4−ブタンジオールの50%相当に回収液を再利用する)となるように、回収ライン(49)を通じて、原料供給ライン(3)よりスラリー調製槽(A)に供給した。重合留出液の回収を初めてから7日間連続運転経過後の回収液中のHBTFは0.18重量%、CMは5.0重量%であった。得られた脂肪族ポリエステルの物性および、湿式コンデンサの閉塞の状況についての結果を表1に示す。なお、湿式コンデンサの閉塞の状況については、閉塞が全く起こっていないものを「○」とし、部分的にではあるが閉塞が生じているものを「△」、閉塞しているものを「×」として記載した。以下の実施例および比較例においても同様である。
【0085】
[実施例2]
回収液を回収ライン(49)を通じて、原料供給ライン(3)よりスラリー調製槽(A)に29.3kg/hrで連続的に供給した以外は実施例1と同様にして脂肪族ポリエステルを得た。7日間連続運転経過後の回収液中のHBTFは0.48重量%、CMは14.9重量%であった。得られた脂肪族ポリエステルの物性および、湿式コンデンサの閉塞の状況についての結果を表1に示す。
【0086】
[実施例3]
HBTFを0.20wt%含有した三菱化学製1,4−ブタンジオールを使用し、コハク酸1.00モルに対して1.50倍モルのスラリーを調製し、かつ、回収液はリサイク
ル率100%となるように、回収ライン(49)を通じて、原料供給ライン(3)よりスラリー調製槽(A)に供給した以外は実施例1と同様にして脂肪族ポリエステルを得た。7日間連続運転経過後の回収液中のHBTFは0.63重量%、CMは12.4重量%であった。得られた脂肪族ポリエステルの物性および、湿式コンデンサの閉塞の状況についての結果を表1に示す。
【0087】
[実施例4]
HBTFを0.07wt%含有した南亜製1,4−ブタンジオールを使用し、回収液はリサイクル率100%となるように、回収ライン(49)を通じて、原料供給ライン(3)よりスラリー調製槽(A)に供給した以外は実施例1と同様にして脂肪族ポリエステルを得た。7日間連続運転経過後の回収液中のHBTFは0.22重量%、CMは9.9重量%であった。得られた脂肪族ポリエステルの物性および、湿式コンデンサの閉塞の状況についての結果を表1に示す。
【0088】
[実施例5]
HBTFを0.01wt%含有したBASF製1,4−ブタンジオールを使用し、回収液はリサイクル率100%となるように、回収ライン(49)を通じて、原料供給ライン(3)よりスラリー調製槽(A)に供給した以外は実施例1と同様にして脂肪族ポリエステルを得た。7日間連続運転経過後の回収液中のHBTFは0.03重量%、CMは7.4重量%であった。得られた脂肪族ポリエステルの物性および、湿式コンデンサの閉塞の状況についての結果を表1に示す。
【0089】
[比較例1]
回収液をスラリー調製用の原料として再利用しなかったこと以外は実施例1と同様にして脂肪族ポリエステルを得た。7日間連続運転経過後の回収液中の得られた脂肪族ポリエステルの物性および、湿式コンデンサの閉塞の状況についての結果を表1に示す。
【0090】
[比較例2]
HBTFを0.20wt%含有した三菱化学製1,4−ブタンジオールを使用し、回収液はリサイクル率100%となるように、回収液を回収ライン(49)を通じて、原料供給ライン(3)よりスラリー調製槽(A)に供給した以外は実施例1と同様にして脂肪族ポリエステルを得た。7日間連続運転経過後の回収液中のHBTFは0.63重量%、CMは17.3重量%であった。得られた脂肪族ポリエステルの物性および、湿式コンデンサの閉塞の状況についての結果を表1に示す。
【0091】
[比較例3]
HBTFを0.07wt%含有した南亜製1,4−ブタンジオールを使用し、コハク酸1.00モルに対して1.20倍モルのスラリーを調製し、かつ、回収液はリサイクル率100%となるように、回収ライン(49)を通じて、原料供給ライン(3)よりスラリー調製槽(A)に供給した以外は実施例1と同様にして脂肪族ポリエステルを得た。7日間連続運転経過後の回収液中のHBTFは0.22重量%、CMは17.3重量%であった。得られた脂肪族ポリエステルの物性および、湿式コンデンサの閉塞の状況についての結果を表1に示す。
【0092】
[比較例4]
HBTFを0.01wt%含有したBASF製1,4−ブタンジオールを使用し、回収液をスラリー調製用の原料として再利用しなかったこと以外は実施例1と同様にして脂肪族ポリエステルを得た。7日間連続運転経過後の得られた脂肪族ポリエステルの物性および、湿式コンデンサの閉塞の状況についての結果を表1に示す。
【0093】
[実施例6]
130℃に加温された分離器(g、h、i)に捕集されたCMを含んだ低分子量成分を、130℃に加温された回収ライン(48)を通じて、供給ライン(24)よりエステル化反応槽(E)に0.45kg/hrで供給した以外は実施例1と同様にして脂肪族ポリエステルを得た。7日間連続運転経過後の回収液中のHBTFは0.16重量%、CMは5.9重量%であった。得られた脂肪族ポリエステルの物性および、湿式コンデンサの閉塞の状況についての結果を表1に示す。
【0094】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明のポリエステルの製造方法によれば、工業的に有利にかつ効率的な製造方法で、
色調良好で、高重合度のポリエステルを効率的に製造することができる。
【符号の説明】
【0096】
A:スラリー調製槽
B:スラリー貯槽
C:ポンプ
D:ポンプ
E:エステル化反応槽
F:精留塔
G:コンデンサ
H:タンク
I:抜き出しポンプ
J、K:ポンプ
L:第一重縮合反応槽
M:第二重縮合反応槽
N:第三重縮合反応槽
O、P、Q:抜き出しギヤポンプ
R、S,T,U:フィルター
V:ダイスヘッド
W:回転式カッター
1:原料供給ライン
2:原料供給ライン
3:原料供給ライン
4:スラリー抜き出しライン
5:スラリー循環ライン
6:スラリー供給ライン
7:スラリー抜き出しライン
8:スラリー循環ライン
9:スラリー供給ライン
10:原料供給ライン
11:供給ライン
12:エステル化反応物の抜き出しライン
13:留出ライン
14:ガス抜き出しライン
15:ベントライン
16:凝縮液ライン
17:抜き出しライン
18:循環ライン
19:抜き出しライン
20:抜き出しライン
21:循環ライン
22:BD再循環ライン
23:抜き出しライン
24:供給ライン
25、26、27:留出ライン
28:供給ライン
29:触媒供給ライン
30、31、32:重縮合反応物抜き出しライン
33、34、35:凝縮ライン
36、37、38:循環ライン
39、40、41:抜き出しライン
42、43、44:供給ライン
45、46、47:ベントライン
48,49:回収ライン
50:廃棄ライン
a、b、c:湿式コンデンサ
d、e、f、p:タンク
g、h、i:分離器
j、k、l:熱交換器
m、n、o:ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪族ジカルボン酸と脂肪族ジオールとを混合する原料調製工程、エステル化反応槽において原料をエステル化するエステル化工程、およびエステル化工程で得られた反応物を重縮合反応槽において重縮合する重縮合反応工程を有する脂肪族ポリエステルの製造方法において、脂肪族ジカルボン酸成分と脂肪族ジオール成分とからなる環状一量体化合物を、原料調製工程およびエステル化工程に供給する全脂肪族ジオールの合計量に対して3重量%以上15重量%以下の量、原料調製工程以降エステル化工程までの間のいずれかの工程に供給する脂肪族ポリエステルの製造方法。
【請求項2】
前記脂肪族ジオールが、1,4−ブタンジオールを含有し、且つ原料調製工程およびエステル化工程に供給される全1,4−ブタンジオール合計量に対して0.1重量%以上0.
5重量%以下の量の2−(4’−ヒドロキシブトキシ)テトラヒドロフランを含有する、請求項1に記載の脂肪族ポリエステルの製造方法。
【請求項3】
エステル化反応槽および重縮合反応槽から選ばれる少なくとも1つの反応槽から得られる留出物を、原料調製工程以降エステル化工程までのいずれかの工程に供給する、請求項1または請求項2に記載の脂肪族ポリエステルの製造方法。
【請求項4】
連続式に脂肪族ポリエステルを製造する、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の脂肪族ポリエステルの製造方法。
【請求項5】
エステル化反応槽および重縮合反応槽から選ばれる少なくとも1つの反応槽が湿式凝縮器を有し、凝縮器より排出される環状一量体化合物を原料調製工程以降エステル化工程までの間のいずれかの工程に供給する、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
重縮合反応槽が湿式凝縮器を有し、重縮合反応槽と湿式凝縮器との間に設置した分離器に捕集された脂肪族ポリエステル低重合体を、エステル化反応槽へ供給する、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の脂肪族ポリエステルの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−43924(P2013−43924A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−181750(P2011−181750)
【出願日】平成23年8月23日(2011.8.23)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】