説明

脂肪族ポリエステル樹脂組成物及びその成形体並びに樹脂容器

【課題】溶融張力に優れ、良好な成形性を有するとともに、臭気が抑制された脂肪族ポリエステル樹脂(A)組成物(A´)及びその成形体並びに樹脂容器を提供する。
【解決手段】二重結合を有する共重合成分を一定の範囲で有する脂肪族ポリエステル樹脂(A)と有機過酸化物(B)とを溶融混練することにより、上記二重結合と有機過酸化物(B)とが効率的に反応するために、少量の有機過酸化物(B)により効率的に架橋が発達し、溶融張力に優れ、良好な成形性を有するとともに、有機過酸化物(B)由来の臭気が抑制された脂肪族ポリステル樹脂組成物(A´)及びその成形体並びに樹脂容器を提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、良好な成形性を有するとともに、臭気が抑制された脂肪族ポリエステル樹脂組成物及びその成形体並びに樹脂容器に関する。
【背景技術】
【0002】
現代社会において、各種食品、薬品、雑貨等の液状物、粉粒物、固形物等の包装用資材、農業用資材、建築資材等幅広い用途で、紙、プラスチック、アルミ箔等が用いられている。特にプラスチックは、強度、耐水性、成形性、透明性、製造コスト等において優れており、袋、容器等として、多くの用途で使用されている。
【0003】
現在、これらの用途に使用されているプラスチックとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート等がある。しかしながら、上記のプラスチックは、自然環境下において、生分解又は加水分解しないか、又は分解速度が極めて遅いために、埋設処理されたプラスチックが土中に残存したり、投棄されたプラスチックが景観を損ねたりすることがある。また、プラスチックが焼却処理された場合、有害なガスを発生したり、焼却炉を傷めたりしていた。
【0004】
これらの課題を解決する手段として、生分解性を有する材料についての研究が数多くなされてきている。生分解性材料の代表例としては、ポリ乳酸、ポリブチレンスクシネート、ポリブチレンスクシネートアジペート等の脂肪族ポリエステル樹脂が挙げられる。これらの脂肪族ポリエステル樹脂を、シート、フィルム、容器、トレイ、ボトル等の形状に賦形するためには、押出成形、ブロー成形、紙ラミネート、真空成形、真空圧空成形等の各種成形法を用いることが出来る。しかしながら、上記の脂肪族ポリエステル樹脂は、通常、溶融張力が小さいために、押出成形時の冷却ロールへの貼付が大きい、真空成形時のドローダウンが大きい、ラミネート成形時のネックインが大きい等、成形加工性が不十分であることが多い。
【0005】
そこで、生分解性材料の成形加工性を改善するために、例えば、特許文献1では、ポリ乳酸、脂肪族ポリエステル樹脂及び有機過酸化物を溶融混練して樹脂を微架橋することで、溶融張力を向上し、成形加工性を改善した脂肪族ポリエステル樹脂組成物が開示されている。
【0006】
また、特許文献2には、脂肪族ポリエステル樹脂、有機過酸化物及び連鎖移動剤を混合して溶融混練することで、均一に架橋が導入された脂肪族ポリエステル樹脂組成物が開示されている。
【0007】
【特許文献1】特開2001−26658号公報
【特許文献2】特開2001−26696号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来の脂肪族ポリエステル樹脂組成物は、当該脂肪族ポリエステル樹脂組成物に含まれる脂肪族ポリエステル樹脂同士の架橋が不十分であり、その結果、溶融張力が十分ではないため成形性に優れないという課題があった。また、上記の架橋を十分に行うためには多量の有機過酸化物を使用しなければならない場合があり、その結果、得られる脂肪族ポリエステル樹脂組成物には有機過酸化物の未反応物や残渣が残留し、それらに由来する臭気が強いことがあるといった課題も有していた。
【0009】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、溶融張力に優れ、良好な成形性を有するとともに、臭気が抑制された脂肪族ポリエステル樹脂組成物及びその成形体並びに樹脂容器を提供することに存する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、二重結合を有する共重合成分を一定の範囲で有する脂肪族ポリエステル樹脂と有機過酸化物とを溶融混練することにより、上記二重結合と有機過酸化物とが効率的に反応するために、少量の有機過酸化物により効率的に架橋が発達し、溶融張力に優れ、良好な成形性を有するとともに、有機過酸化物由来の臭気が抑制された脂肪族ポリステル樹脂組成物及びその成形体並びに樹脂容器を提供することができることを見出し、本発明を完成させた。
【0011】
即ち、本発明の要旨は、下記式(1)で表される脂肪族ジカルボン酸単位と、下記式(2)で表される脂肪族ジオール単位と、下記式(3)で表される脂肪族ヒドロキシカルボン酸単位及び下記式(4)で表される脂肪族ヒドロキシカルボン酸単位からなる群より選ばれる1種以上の脂肪族ヒドロキシカルボン酸単位と、下記式(5)で表される脂肪族不飽和ジカルボン酸単位、下記式(6)で表される脂肪族不飽和ジカルボン酸単位及び下記式(7)で表される脂肪族不飽和ジカルボン酸単位からなる群より選ばれる1種以上の脂肪族不飽和ジカルボン酸単位とを少なくとも含む脂肪族ポリエステル樹脂であって、前記式(3)、前記式(4)、前記式(5)、前記式(6)及び前記式(7)で表される単位の合計量が、前記脂肪族ポリエステル樹脂に含まれる全単位の合計量100モル%に対して、0.0010モル%以上0.50モル%以下であり、前記式(3)及び前記式(4)で表される単位の合計が、前記式(5)、前記式(6)及び前記式(7)で表される単位の合計に対するモル比として、1.0以上7.0以下である前記脂肪族ポリエステル樹脂と有機過酸化物とを含む脂肪族ポリエステル樹脂組成物において、前記脂肪族ポリエステル樹脂100重量部に対して、有機過酸化物0.0001重量部以上0.06重量部以下の割合で混合することを特徴とする脂肪族ポリエステル樹脂組成物に存する(請求項1)。
【0012】
【化1】

(式中、R1は、炭素数が0〜40の脂肪族飽和炭化水素基を表す。)
【0013】
【化2】

(式中、R2は、炭素数が2〜10の脂肪族炭化水素基を表す。)
【0014】
【化3】

(式中、R3は、炭素数1〜20の脂肪族炭化水素基を表す。)
【0015】
【化4】

(式中、R4は、炭素数1〜20の脂肪族炭化水素基を表す。)
【0016】
【化5】

(式中、R5は、一つ以上の二重結合を有する炭素数2〜20の脂肪族炭化水素基を表す。)
【0017】
【化6】

【化7】

(式(6)及び式(7)は、ともに二重結合に関する幾何異性体であって、式(6)はトランス型、式(7)はシス型を表す。r及びsは、それぞれ独立に、0〜17の整数を表す。R8は、水素又は炭素数が1〜17の脂肪族炭化水素基を表す。)
【0018】
この時、前記脂肪族ポリエステル樹脂に含まれる、前記式(5)、前記式(6)及び前記式(7)で表される単位の合計に対する前記式(3)及び前記式(4)で表される単位の合計の割合をx、前記脂肪族ポリエステル樹脂組成物に含まれる、前記式(5)、前記式(6)及び前記式(7)で表される単位の合計に対する前記式(3)及び前記式(4)で表される単位の合計の割合をyとした時に、xでyを除した値が、1.05以上5.00未満であることが好ましい(請求項2)。
【0019】
さらに、前記脂肪族ポリエステル樹脂の末端に存在するビニル基量が、前記脂肪族ポリエステル樹脂に対して、0.10μモル/g以上であることが好ましい(請求項3)。
【0020】
また、前記式(5)で表される単位が、下記式(8)及び/又は下記式(9)で表される脂肪族不飽和ジカルボン酸単位であり、前記脂肪族ポリエステル樹脂に含まれる前記式(8)で表される単位のモル比が、前記式(9)で表される単位に対して、8.5以下であることが好ましい(請求項4)。
【0021】
【化8】

【化9】

(式(8)及び式(9)は、ともに二重結合に関する幾何異性体であって、式(8)はトランス型、式(9)はシス型を表す。m及びnは、それぞれ独立に、0〜18の整数を表す。R6及びR7は、それぞれ独立に、水素又は炭素数が1〜18の脂肪族炭化水素基を表す。)
【0022】
さらに、前記式(3)で表される単位が、リンゴ酸に由来する単位であることが好ましい(請求項5)。
【0023】
この時、前記式(4)で表される単位が、クエン酸に由来する単位であることが好ましい(請求項6)。
【0024】
そして、前記有機過酸化物が、ケトンパーオキサイド、ジアシルパーオキサイド、パーオキシジカーボネート、パーオキシエステル、パーオキシケタール、ジアルキルパーオキサイド、ハイドロパーオキサイドからなる群より選ばれる1種以上の化合物であるkとが好ましい(請求項7)。
【0025】
そして、前記脂肪族ポリエステル樹脂の30℃における還元粘度をη、前記脂肪族ポリエステル樹脂組成物の30℃における還元粘度をη´とした時に、ηでη´を除した値が、1.05以上1.80以下であることが好ましい(請求項8)。
【0026】
そして、前記脂肪族ポリエステル樹脂の190℃における溶融張力をF、前記脂肪族ポリエステル樹脂組成物の190℃における溶融張力をF´とした時に、FでF´を除した値が、1.5以上であることが好ましい(請求項9)。
【0027】
そして、前記脂肪族ポリエステル樹脂の190℃、せん断速度1000s-1における溶融粘度に対して、190℃せん断速度10s-1における溶融粘度の比をρ、また、前記脂肪族ポリエステル樹脂組成物の190℃、せん断速度1000s-1における溶融粘度に対して、190℃せん断速度10s-1における溶融粘度の比をρ´とした時に、ρでρ´を除した値が、1.1以上3.0以下であることが好ましい(請求項10)。
【0028】
そして、ゲル分の含有量が10重量%未満であることが好ましい(請求項11)。
【0029】
また、本発明の別の要旨は、請求項1〜11のいずれか一項に記載の脂肪族ポリエステル樹脂組成物を成形してなることを特徴とする、成形体に存する(請求項12)。
【0030】
この時、押出成形してなる、フィルム、シート、押出発泡シート又はラミネート成形体であることが好ましい(請求項13)。
【0031】
この時、請求項12に記載の成形体がシートであって、前記シートのドローダウンが15秒以上であることが好ましい(請求項14)。
【0032】
また、本発明の別の要旨は、請求項12〜14のいずれか一項に記載の成形体を、真空成形、真空圧空成形又は熱板成形してなることを特徴とする、樹脂容器に存する(請求項15)。
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば、溶融張力に優れ、良好な成形性を有するとともに、臭気が抑制された脂肪族ポリエステル樹脂組成物及びその成形体並びに樹脂容器を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明は以下に説明する例示や実施形態等に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変更して実施することが出来る。
【0035】
本発明では、特定の樹脂を成分として含有する樹脂組成物を、その主成分となる樹脂の名前を冠して呼ぶ場合がある。ここで「主成分」とは、組成物の50重量%以上を占める成分をいうものとする。即ち、「脂肪族ポリエステル樹脂組成物」とは、脂肪族ポリエステル樹脂を主成分とする樹脂組成物をいう。
【0036】
また、本明細書では「重合体」という語を、単一種の繰り返し構造単位から構成される重合体(所謂「単独重合体」)と、複数種の繰り返し構造単位から構成される重合体(所謂「共重合体」)とを包含する概念として使用する。
【0037】
なお、以下の記載では、ある単量体に由来する重合体の部分構造単位を、その単量体の名称に「単位」という言葉を付して表わす。例えば、ジカルボン酸に由来する部分構造単位は、「ジカルボン酸単位」という名称で表わされる。
【0038】
また、同一の部分構造単位を与える単量体を、その部分構造単位の名称の「単位」を「成分」に換えた名称で総称する。例えば、芳香族ジカルボン酸や芳香族ジカルボン酸ジエステル等の単量体は、重合体を形成する過程の反応は異なったとしても、何れも芳香族ジカルボン酸単位を形成する。よって、これらの芳香族ジカルボン酸及び芳香族ジカルボン酸ジエステルを、「芳香族ジカルボン酸成分」という名で総称する。
【0039】
[1.本発明の脂肪族ポリエステル樹脂組成物]
本発明の脂肪族ポリエステル樹脂組成物(以下、適宜「本発明の樹脂組成物(A´)」と言う。)は、以下に記載の脂肪族ポリエステル樹脂(以下、適宜「本発明の脂肪族ポリエステル樹脂(A)」と言う。」と、有機過酸化物(以下、適宜「有機過酸化物(B)」と言う。)とを混合するものである。即ち、本発明の樹脂組成物(A´)は、下記式(1)で表される脂肪族ジカルボン酸単位と、下記式(2)で表される脂肪族ジオール単位と、下記式(3)で表される脂肪族ヒドロキシカルボン酸単位及び下記式(4)で表される脂肪族ヒドロキシカルボン酸単位からなる群より選ばれる1種以上の脂肪族ヒドロキシカルボン酸単位と、下記式(5)で表される脂肪族不飽和ジカルボン酸単位、下記式(6)で表される脂肪族不飽和ジカルボン酸単位及び下記式(7)で表される脂肪族不飽和ジカルボン酸単位からなる群より選ばれる1種以上の脂肪族不飽和ジカルボン酸単位とを少なくとも含む脂肪族ポリエステル樹脂(A)であって、前記式(3)、前記式(4)、前記式(5)、前記式(6)及び前記式(7)で表される単位の合計量が、前記脂肪族ポリエステル樹脂(A)に含まれる全単位の合計量100モル%に対して、0.0010モル%以上0.50モル%以下であり、前記式(3)及び前記式(4)で表される単位の合計が、前記式(5)、前記式(6)及び前記式(7)で表される単位の合計に対するモル比として、1.0以上7.0以下である前記脂肪族ポリエステル樹脂(A)と有機過酸化物(B)とを含む脂肪族ポリエステル樹脂組成物(A´)において、前記脂肪族ポリエステル樹脂(A)100重量部に対して、有機過酸化物(B)0.0001重量部以上0.06重量部以下の割合で混合する。混合方法としては、溶融混練が好ましい。溶融混練により、本発明の脂肪族ポリエステル樹脂(A)は有機過酸化物(B)により架橋され、本発明の樹脂組成物(A´)が構成される。なお、本発明の樹脂組成物(A´)は、1種の本発明の脂肪族ポリエステル樹脂(A)を単独で含んでも良く、2種以上の本発明の脂肪族ポリエステル樹脂(A)を任意の比率及び組み合わせで含んでも良い。
【0040】
【化10】

(式中、R1は、炭素数が0〜40の脂肪族飽和炭化水素基を表す。)
【0041】
【化11】

(式中、R2は、炭素数が2〜10の脂肪族炭化水素基を表す。)
【0042】
【化12】

(式中、R3は、炭素数1〜20の脂肪族炭化水素基を表す。)
【0043】
【化13】

(式中、R4は、炭素数1〜20の脂肪族炭化水素基を表す。)
【0044】
【化14】

(式中、R5は、一つ以上の二重結合を有する炭素数2〜20の脂肪族炭化水素基を表す。)
【0045】
【化15】

【化16】

(式(6)及び式(7)は、ともに二重結合に関する幾何異性体であって、式(6)はトランス型、式(7)はシス型を表す。r及びsは、それぞれ独立に、0〜17の整数を表す。R8は、水素又は炭素数が1〜17の脂肪族炭化水素基を表す。)
【0046】
[1−1.組成]
[1−1−1.脂肪族ポリエステル樹脂(A)]
[1−1−1−1.構成単位]
(式(1)で表される脂肪族ジカルボン酸単位)
本発明において、上記の式(1)で表される脂肪族ジカルボン酸単位(以下、適宜「脂肪族ジカルボン酸単位(1)」と言う。)のR1は、炭素数が通常0以上、好ましくは2以上、また、通常40以下、好ましくは20以下、より好ましくは10以下、特に好ましくは4以下の脂肪族炭化水素基を表す。なお、炭素数が0の脂肪族炭化水素基とは、R1が存在しないことを表す。R1は、鎖状脂肪族炭化水素基であっても良く、環状脂肪族炭化水素基であっても良く、鎖状脂肪族炭化水素基と環状脂肪族炭化水素基とが結合したものであっても良い。鎖状脂肪族炭化水素基の場合は、直鎖状脂肪族炭化水素基であっても良く、分岐鎖状脂肪族炭化水素基であっても良い。環状脂肪族炭化水素基の場合は、単環でも良いし、複数の環が互いに結合、又は縮合したものでも良い。また、本発明の脂肪族ポリエステル樹脂(A)は、脂肪族ジカルボン酸単位(1)の1種を単独で含んでいても良く、2種以上を任意の比率及び組み合わせで含んでいても良い。
【0047】
脂肪族ジカルボン酸単位(1)は、前述した範囲の炭素数を有するR1を含む脂肪族ジカルボン酸及び/又はその誘導体に由来する単位である限り、任意である。
【0048】
本発明において用いられる脂肪族ジカルボン酸単位(1)は、脂肪族ジカルボン酸及び/又はその誘導体(以下、これらを総称して、適宜「脂肪族ジカルボン酸成分(1)」と言う。)に由来するものである。脂肪族ジカルボン酸成分(1)は、2個のカルボキシル基を有する脂肪族化合物及び脂環式化合物であれば、本発明の効果を著しく損なわない限り任意である。脂肪族カルボン酸の具体例としては、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸、ドデカン酸、ダイマー酸、シクロヘキサンジカルボン酸等が挙げられる。また、脂肪族ジカルボン酸の誘導体の具体例としては、上記脂肪族ジカルボン酸のメチルエステル、エチルエステル、プロピルエステル、ブチルエステル等の低級アルキルエステル、無水コハク酸等の上記脂肪族ジカルボン酸の環状酸無水物等も挙げられる。これらの中でも、脂肪族ジカルボン酸としては、アジピン酸、コハク酸、ダイマー酸、又はこれらの混合物が好ましく、コハク酸を主成分とする混合物がより好ましい。また、脂肪族ジカルボン酸の誘導体としては、アジピン酸のメチルエステル、コハク酸のメチルエステル、又はこれらの混合物が好ましい。脂肪族ジカルボン酸成分(1)は、1種を単独で用いても良く、2種以上を任意の比率及び組み合わせで用いても良い。
【0049】
なお、本発明における「主成分」とは、脂肪族ポリエステル樹脂(A)に含まれる全ジカルボン酸単位に対して、通常50モル%以上、好ましくは60モル%以上、より好ましくは70モル%以上、特に好ましくは90モル%以上含まれる単位から形成される成分のことを示す。
【0050】
脂肪族ポリエステル樹脂(A)に含まれる脂肪族ジカルボン酸単位(1)の量は、例えば、1H−NMR等の公知の分析法を用いて定量することができる。具体的には、例えば、0.6mlの重クロロホルムに20mgの脂肪族ポリエステル樹脂(A)を溶解させた溶液を測定サンプルとし、ブルカー・バイオスピン社製 Avance 400分光計を用いて、室温で1H−NMRスペクトルを測定することにより、定量できる。この際の測定条件としては、フリップ角を45度、データの取り込み時間を4秒、待ち時間を6秒、積算回数を256回とすることが好ましい。また、得られたウィンドウ関数に対しては、LB(Line Broadening)=0.1Hzの指数関数を用い、フーリエ変換処理をすることが好ましい。
【0051】
また、本発明の脂肪族ポリエステル樹脂(A)中には、上記の脂肪族ジカルボン酸成分(1)に由来する単位の他に、本発明の効果を著しく損なわない限り、芳香族ジカルボン酸及び/又はその誘導体(以下、これらを総称して、適宜「芳香族ジカルボン酸成分(1)」と言う。)に由来する単位(以下、適宜「芳香族ジカルボン酸単位(1)」と言う。)を、任意の比率及び組み合わせで含んでいても良い。芳香族ジカルボン酸成分(1)としては、2個のカルボキシル基を有する芳香族化合物であれば、本発明の効果を著しく損なわない限り任意である。芳香族ジカルボン酸成分(1)は、1種を単独で用いても良く、2種以上を任意の比率及び組み合わせで用いても良い。
【0052】
芳香族ジカルボン酸の具体例としては、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸等が挙げられる。芳香族ジカルボン酸の誘導体の具体例としては、上記芳香族ジカルボン酸のメチルエステル、エチルエステル、プロピルエステル、ブチルエステル等の低級アルキルエステル等が挙げられる。中でも、芳香族ジカルボン酸としては、テレフタル酸が好ましく、芳香族ジカルボン酸の誘導体としては、ジメチルテレフタレートが好ましい。
【0053】
本発明の脂肪族ポリエステル樹脂(A)中に、芳香族ジカルボン酸単位(1)を含む場合、含まれる芳香族ジカルボン酸単位(1)の量は、本発明の脂肪族ポリエステル樹脂(A)に含まれる全ジカルボン酸単位に対して、通常50モル%以下、好ましくは30モル%以下、より好ましくは10モル%以下である。
【0054】
また、脂肪族ジカルボン酸単位(1)及び/又は芳香族ジカルボン酸単位(1)(以下、これらを総称して、適宜「ジカルボン酸単位(1)」と言う。)は、バイオマス資源から与えられてもよい。バイオマス資源としては、例えば、木材、稲わら、籾殻、米ぬか、古米、とうもろこし、サトウキビ、キャッサバ、サゴヤシ、おから、コーンコブ、タピオカカス、バガス、植物油カス、芋、そば、大豆、油脂、古紙、製紙残渣、水産物残渣、家畜排泄物、下水汚泥、食品廃棄物等が挙げられる。この中でも木材、稲わら、籾殻、米ぬか、古米、とうもろこし、サトウキビ、キャッサバ、サゴヤシ、おから、コーンコブ、タピオカカス、バガス、植物油カス、芋、そば、大豆、油脂、古紙、製紙残渣等の植物資源が好ましく、木材、稲わら、籾殻、古米、とうもろこし、サトウキビ、キャッサバ、サゴヤシ、芋、油脂、古紙、製紙残渣がより好ましく、とうもろこし、さとうきび、キャッサバ、サゴヤシがさらに好ましい。これらのバイオマス資源は、通常、窒素元素;ナトリウム、カリウム等の多くのアルカリ金属;マグネシウム、カルシウム等のアルカリ土類金属等を含有する。バイオマス資源は、1種を単独で用いても良く、2種以上を任意の比率及び組み合わせで用いても良い。
【0055】
これらのバイオマス資源は、通常、バイオマス資源をチップ化する、削る、擦り潰す等の微細化を行う前処理の工程(以下、適宜「前処理工程」と言う。)と、酸やアルカリ等の化学処理、微生物を用いた生物学的処理、物理的処理等の公知の糖化の工程(以下、適宜「糖化工程」と言う。)を経て、炭素源を合成することができる。ここで、「炭素源」とは、当該炭素源に対して後述する反応を行うことにより、上記のジカルボン酸成分(1)となるものを言う。
【0056】
前処理工程においては、更に例えば、グラインダー、ミル等を用いて粉砕しても良い。さらに、前処理工程においては、所望の炭素源が得られる限り、微細化及び粉砕以外の処理を行っても良い。糖化工程においては、例えば、硫酸、硝酸、塩酸、リン酸等の強酸による酸処理、アルカリ処理、アンモニア凍結蒸煮爆砕法、溶媒抽出、超臨界流体処理、酸化剤処理等の化学的処理;微粉砕、蒸煮爆砕法、マイクロ波処理、電子線照射等の物理的処理;微生物、酵素反応による加水分解等の生物学的処理等を行うことが挙げられる。なお、前処理工程と糖化工程とを同時に行っても良く、前処理工程と糖化工程とをそれぞれ複数回ずつ任意に組み合わせて行っても良い。また、同種の糖化工程を繰り返し行ってもよく、異なる種類の糖化工程を繰り返し行っても良い。
【0057】
上記のバイオマス資源から製造される炭素源としては、例えば、グルコース、マンノース、ガラクトース、フルクトース、ソルボース、タガトース等のヘキソース;アラビノース、キシロース、リボース、キシルロース、リブロース等のペントース;ペントサン、サッカロース、澱粉、セルロース等の2糖・多糖類;酪酸、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、パルミトレイン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、モノクチン酸、アラキジン酸、エイコセン酸、アラキドン酸、ベヘニン酸、エルカ酸、ドコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸、リグノセリン酸、セラコレン酸等の油脂;グリセリン、マンニトール、キシリトール、リビトール等のポリアルコール類等の発酵性糖質;が挙げられる。これらの中でも、グルコース、フルクトース、キシロースが好ましく、特にグルコースが好ましい。より広義の植物資源由来の炭素源としては、紙の主成分であるセルロースが好ましい。炭素源は、1種を単独で用いても良く、2種以上を任意の比率及び組み合わせで用いても良い。
【0058】
これらの炭素源を用いて、微生物変換による発酵法、加水分解、脱水反応、水和反応、酸化反応等の反応を含む化学変換法、発酵法と化学変換法との組み合わせにより、ジカルボン酸成分(1)が合成される。これらの中でも、ジカルボン酸成分(1)の合成は、微生物変換による発酵法により合成されるものが好ましい。
【0059】
微生物変換に用いる微生物としては、ジカルボン酸の生産能を有すれば特に限定されないが、例えば、Anaerobiospirillum属 (米国特許第5143833号明細書)等の嫌気性細菌、Actinobacillus属(米国特許第5504004号明細書)、Escherichia属(米国特許第5770435号明細書)等の通性嫌気性細菌、Corynebacterium属(特開平11−113588号公報)などの好気性細菌、Bacillus属、Rizobium属、Brevibacterium属、Arthrobacter属に属する好気性細菌(特開2003−235593号公報)、Bacteroidesruminicola、Bacteroides amylophilus等の嫌気性ルーメン細菌、E.coli(J.Bacteriol.,57:147−158)又はE.coliの株の変異体(特表2000−500333号公報、米国特許第6159738号明細書)等を用いることができる。なお、微生物変換に用いる微生物は、1種を単独で用いても良く、2種以上を任意の比率及び組み合わせで用いても良い。
【0060】
脂肪族ジカルボン酸成分(1)は、着色の少ないことが好ましい。脂肪族ジカルボン酸成分(1)の黄色度(YI値)は、通常−20以上、好ましくは−10以上、より好ましくは−5以上、さらに好ましくは−3以上、特に好ましくは−1以上、また、その上限は、通常50以下、好ましくは20以下、より好ましくは10以下、さらに好ましくは6以下、特に好ましくは4以下である。YI値が小さすぎる場合、脂肪族ジカルボン酸成分(1)の製造に高額の設備投資を要したり、多大な製造時間を要したりする場合がある。また、YI値が大きすぎる場合、本発明の脂肪族ポリエステル樹脂(A)の着色が著しくなる場合がある。なお、YI値は、例えば、JIS K7105に基づく方法で測定することができる。
【0061】
(式(2)で表される脂肪族ジオール単位)
本発明において、上記の式(2)で表される脂肪族ジオール単位(以下、適宜「脂肪族ジオール単位(2)」と言う。)のR2は、炭素数が通常2以上、好ましくは4以上、また、その上限は、通常10以下、好ましくは6以下の脂肪族炭化水素基である。R2は、鎖状脂肪族炭化水素基であっても良く、環状脂肪族炭化水素基であっても良く、鎖状脂肪族炭化水素基と環状脂肪族炭化水素基とが結合したものであっても良い。鎖状脂肪族炭化水素基の場合は、直鎖状脂肪族炭化水素基であっても良く、分岐鎖状脂肪族炭化水素基であっても良い。環状脂肪族炭化水素基の場合は、単環でも良いし、複数の環が互いに結合、又は縮合したものでも良い。また、本発明の脂肪族ポリエステル樹脂(A)は、脂肪族ジオール単位(2)の1種を単独で含んでいても良く、2種以上を任意の比率及び組み合わせで含んでいても良い。
【0062】
脂肪族ジオール単位(2)は、前述した範囲の炭素数を有するR2を含む脂肪族ジオール及び/又はその誘導体に由来する単位である限り、任意である。
【0063】
本発明において用いられる脂肪族ジオール単位(2)は、脂肪族ジオール及び/又はその誘導体(以下、これらを総称して、適宜「脂肪族ジオール成分(2)」と言う。)に由来するものである。脂肪族ジオール成分(2)は、2個のヒドロキシル基を有する脂肪族及び脂環式化合物であれば、本発明の効果を著しく損なわない限り任意である。脂肪族ジオールの具体例としては、エチレングリコール、1,3−プロパンジオ−ル、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサメチレングリコール、デカメチレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール等が挙げられる。中でも、エチレングリコール、1,3−プロパンジオ−ル、1,4−ブタンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノ−ルが好ましく、その中でも、エチレングリコール及び1,4−ブタンジオ−ルがより好ましく、1,4−ブタンジオ−ルが特に好ましい。脂肪族ジオール成分(2)は、1種を単独で用いても良く、2種以上を任意の比率及び組み合わせで用いても良い。
【0064】
なお、脂肪族ポリエステル樹脂(A)に含まれる脂肪族ジオール単位(2)の量は、例えば、上記の脂肪族ジカルボン酸単位(1)の場合と同様に測定することができる。この場合、サンプルの調製条件、及び、1H−NMRの測定条件は、脂肪族ジオール単位(2)を好適に定量できる条件であれば特に限定されないが、例えば、脂肪族ジカルボン酸単位(1)の量を定量した条件に従うことで、脂肪族ジオール単位(2)を定量できる。
【0065】
また、本発明の脂肪族ポリエステル樹脂(A)中には、上記の脂肪族ジオール成分(2)に由来する単位の他に、芳香族ジオール及び/又はその誘導体(以下、これらを総称して、適宜「芳香族ジオール成分(2)」と言う。)に由来する単位(以下、適宜「芳香族ジオール単位(2)」と言う。)を、任意の比率及び組み合わせで含んでいても良い。芳香族ジオール成分(2)としては、2個のヒドロキシル基を有する芳香族化合物であれば、本発明の効果を著しく損なわない限り任意である。ただし、その炭素数が好ましくは6以上、その上限は好ましくは15以下の芳香族ジオールであることが望ましい。芳香族ジオール成分(2)は、1種を単独で用いても良く、2種以上を任意の比率及び組み合わせで用いても良い。
【0066】
芳香族ジオール成分(2)の具体例としては、ヒドロキノン、1,5−ジヒドロキシナフタレン、4,4´−ジヒドロキシジフェニル、ビス(p−ヒドロキシフェニル)メタン
及びビス(p−ヒドロキシフェニル)−2,2−プロパン等が挙げられる。
【0067】
本発明の脂肪族ポリエステル樹脂(A)中に芳香族ジオール単位(2)を含む場合、含まれる芳香族ジオール単位(2)の量は、本発明の脂肪族ポリエステル樹脂(A)に含まれる全ジオール単位に対して、通常30モル%以下、好ましくは20モル%以下、より好ましくは10モル%以下である。
【0068】
また、脂肪族ジオール成分(2)としては、両末端ヒドロキシポリエーテルであっても良い。両末端ヒドロキシポリエーテルとしては、炭素数が通常4以上、好ましくは10以上であり、通常1000以下、好ましくは200以下、更に好ましくは100以下のものが望ましい。
【0069】
両末端ヒドロキシポリエーテルの具体例としては、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリ1,3−プロパンジオール、ポリ1,6−ヘキサメチレングリコール等が挙げられる。また、ポリエチレングリコールとポリプロピレングリコールとの共重合ポリエーテル等を使用することもできる。両末端ヒドロキシポリエーテル及び共重合ポリエーテルは、1種を単独で用いても良く、2種以上を任意の比率及び組み合わせで用いても良い。
【0070】
この際、両末端ヒドロキシポリエーテルの使用量としては、脂肪族ポリエステル樹脂(A)の重量に対して、通常90重量%以下、好ましくは50重量%以下、より好ましくは30重量%以下であることが望ましい。
【0071】
また、脂肪族ジオール単位(2)及び/又は芳香族ジオール単位(2)(以下、これらを総称して、適宜「ジオール単位(2)」と言う。)は、バイオマス資源に由来するものであっても良い。具体的には、例えば、ジオール成分(2)はグルコース等の炭素源から発酵法により直接製造してもよいし、発酵法により得られたジカルボン酸、ジカルボン酸無水物、環状エーテルを化学反応によりジオール化合物に変換しても良い。
【0072】
より具体的には、例えば、コハク酸、コハク酸無水物、コハク酸エステル、マレイン酸、マレイン酸無水物、マレイン酸エステル、テトラヒドロフラン、γ−ブチロラクトン等から化学合成により1,4−ブタンジオールを製造しても良いし、発酵法により得られた1,3−ブタジエンから1,4−ブタンジオールを製造してもよい。
【0073】
更に、バイオマス資源から公知の有機化学触媒反応により、ジオール成分(2)を製造する方法も積極的に用いられる。例えば、バイオマス資源から得られた炭素源としてペントースを利用する場合には、公知の脱水反応、触媒反応等により、容易にブタンジオール等のジオール成分(2)を製造できる。
【0074】
また、ジオール成分(2)は、通常、蒸留等の精製工程により酸化生成物等の不純物を除去された後、脂肪族ポリエステル樹脂(A)の原料として用いられる。ただし、ジオール成分(2)は、少量のジオール成分(2)の酸化生成物を含んでいても良い。具体的には、酸化生成物の量は、ジオール成分(2)の全量に対して、通常1ppm以上、精製工程の経済性の観点から好ましくは10ppm以上、より好ましくは100ppm以上であり、また、その上限は、通常10000ppm以下、好ましくは5000ppm以下、より好ましくは3000ppm以下、特に好ましくは2000ppm以下である。
【0075】
ジオール成分(2)の酸化生成物の具体例としては、上記のジオール成分(2)の酸化物のほか、2−(4−ヒドロキシブチルオキシ)テトラヒドロフラン等のヒドロキシル基の水素原子がテトラヒドロフランに置換した化合物等が挙げられる。ジオール成分(2)の酸化生成物は、1種を単独で含まれていても良く、2種以上を任意の比率及び組み合わせで含まれていても良い。
【0076】
(式(3)で表される脂肪族ヒドロキシカルボン酸単位)
本発明において、上記の式(3)で表される脂肪族ヒドロキシカルボン酸単位(以下、適宜「脂肪族ヒドロキシカルボン酸単位(3)」と言う。)のR3は、炭素数が通常1以上、樹脂の耐熱性が高いという観点から好ましくは2以上、また、通常20以下、好ましくは15以下、より好ましくは8以下、入手容易などの観点から更に好ましくは3以下の脂肪族炭化水素基を表す。R3は、鎖状脂肪族炭化水素基であっても良く、環状脂肪族炭化水素基であっても良く、鎖状脂肪族炭化水素基と環状脂肪族炭化水素基とが結合したものであっても良い。鎖状脂肪族炭化水素基の場合は、直鎖状脂肪族炭化水素基であっても良く、分岐鎖状脂肪族炭化水素基であっても良い。環状脂肪族炭化水素基の場合は、単環でも良いし、複数の環が互いに結合、又は縮合したものでも良い。また、本発明の脂肪族ポリエステル樹脂(A)は、脂肪族ヒドロキシカルボン酸単位(3)の1種を単独で含んでいても良く、2種以上を任意の比率及び組み合わせで含んでいても良い。
【0077】
脂肪族ヒドロキシカルボン酸単位(3)は、前述した範囲の炭素数を有するR3を含む脂肪族ヒドロキシカルボン酸及び/又はその誘導体に由来する単位である限り、任意である。
【0078】
本発明において用いられる脂肪族ヒドロキシカルボン酸単位(3)は、脂肪族ヒドロキシカルボン酸及び/又はその誘導体(以下、これらを総称して、適宜「脂肪族ヒドロキシカルボン酸成分(3)」と言う。)に由来するものである。脂肪族ヒドロキシカルボン酸成分(3)は、2個のカルボキシル基及び1個のヒドロキシル基を有する脂肪族化合物又は脂環式化合物であれば、本発明の効果を著しく損なわない限り任意である。脂肪族ヒドロキシカルボン酸の具体例としては、リンゴ酸、ヒドロキシグルタル酸、ヒドロキシメチルグルタル酸等が挙げられる。また、脂肪族ヒドロキシカルボン酸の誘導体としては、上記脂肪族ヒドロキシカルボン酸のメチルエステル、エチルエステル、プロピルエステル、ブチルエステル等の上記脂肪族ヒドロキシカルボン酸の低級アルキルエステル、リンゴ酸水素ナトリウム、リンゴ酸ナトリウム等の上記脂肪族ヒドロキシカルボン酸の金属塩が挙げられる。これらの中でも、脂肪族ヒドロキシカルボン酸としてはリンゴ酸が好ましく、脂肪族ヒドロキシカルボン酸の誘導体としてはリンゴ酸のエチルエステルが好ましい。さらに、脂肪族ヒドロキシカルボン酸成分(3)としては、リンゴ酸とリンゴ酸のエチルエステルとの混合物も好ましい。脂肪族ヒドロキシカルボン酸成分(3)は、1種を単独で用いても良く、2種以上を任意の比率及び組み合わせで使用してもよい。
【0079】
本発明の脂肪族ポリエステル樹脂(A)に含まれる脂肪族ヒドロキシカルボン酸単位(3)の量は、高重合度の脂肪族ポリエステル樹脂(A)を容易に製造することが出来るという観点から、ポリエステルを構成する全単位の合計量100モル%に対して、通常0.00050モル%以上、好ましくは0.0050モル%以上、より好ましくは0.020モル%以上、更に好ましくは0.040モル%以上、特に好ましくは0.075モル%以上である。また、その上限は、ゲルの発生要因となる可能性を有するという観点から、通常0.450モル%未満、好ましくは0.25モル%以下、より好ましくは0.18モル%以下、更に好ましくは0.13モル%以下、特に好ましくは0.10モル%以下である。含まれる脂肪族ヒドロキシカルボン酸単位(3)の量が少なすぎる場合、成形時の溶融張力が不十分である場合があり、多すぎる場合、ゲル化を引き起こす場合がある。
【0080】
なお、脂肪族ポリエステル樹脂(A)に含まれる脂肪族ヒドロキシカルボン酸単位(3)の量は、例えば、上記の脂肪族ジカルボン酸単位(1)の場合と同様に測定することができる。具体的には、例えば、リンゴ酸が与える脂肪族ヒドロキシカルボン酸単位(3)は、該単位の有するヒドロキシル基がエステル結合を形成し分岐鎖を生じている場合、5.47ppm付近に出現する脂肪族ヒドロキシカルボン酸単位(3)のメチンプロトンのピークにより定量することができる。一方、該単位の有するヒドロキシル基が未反応の場合、4.49ppm付近に出現する脂肪族ヒドロキシカルボン酸単位(3)のメチンプロトンのピークにより定量することができる。この場合、サンプルの調製条件、及び、1H−NMRの測定条件は、脂肪族ヒドロキシカルボン酸単位(3)を好適に定量できる条件であれば特に限定されないが、例えば、脂肪族ジカルボン酸単位(1)の量を定量した条件に従うことで、脂肪族ヒドロキシカルボン酸単位(3)を定量できる。
【0081】
また、本発明の脂肪族ポリエステル樹脂(A)中には、上記の脂肪族ヒドロキシカルボン酸成分(3)に由来する単位の他に、本発明の効果を著しく損なわない限り、芳香族ヒドロキシカルボン酸及び/又はその誘導体(以下、これらを総称して、適宜「芳香族ヒドロキシカルボン酸成分(3)」と言う。)に由来する単位(以下、適宜「芳香族ヒドロキシカルボン酸単位(3)」と言う。)を、任意の比率及び組み合わせで含んでいても良い。芳香族ヒドロキシカルボン酸の具体例としては、ヒドロキシイソフタル酸、ヒドロキシテレフタル酸等が挙げられ、芳香族ヒドロキシカルボン酸の誘導体の具体例としては、上記芳香族ジカルボン酸のメチルエステル、エチルエステル、プロピルエステル及びブチルエステル等の低級アルキルエステルが挙げられる。これらの中でも、ヒドロキシイソフタル酸、ヒドロキシテレフタル酸が好ましい。芳香族ヒドロキシカルボン酸成分(3)は、1種を単独で用いても良く、2種以上を任意の比率及び組み合わせで用いても良い。
【0082】
(式(4)で表される脂肪族ヒドロキシカルボン酸単位)
本発明において、上記の式(4)で表される脂肪族ヒドロキシカルボン酸単位(以下、適宜「脂肪族ヒドロキシカルボン酸単位(4)」と言う。)のR4は、炭素数が通常1以上、好ましくは3以上、また、通常20以下、好ましくは15以下、より好ましくは10以下、入手容易等の観点から、更に好ましくは5以下の脂肪族炭化水素基である。R4は、鎖状脂肪族炭化水素基であっても良く、環状脂肪族炭化水素基であっても良く、鎖状脂肪族炭化水素基と環状脂肪族炭化水素基とが結合したものであっても良い。鎖状脂肪族炭化水素基の場合は、直鎖状脂肪族炭化水素基であっても良く、分岐鎖状脂肪族炭化水素基であっても良い。環状脂肪族炭化水素基の場合は、単環でも良いし、複数の環が互いに結合、又は縮合したものでも良い。また、本発明の脂肪族ポリエステル樹脂(A)は、脂肪族ヒドロキシカルボン酸単位(4)の1種を単独で含んでいても良く、2種以上を任意の比率及び組み合わせで含んでいても良い。
【0083】
脂肪族ヒドロキシカルボン酸単位(4)は、前述した範囲の炭素数を有するR4を含む脂肪族ヒドロキシカルボン酸及び/又はその誘導体に由来する単位である限り、任意である。
【0084】
本発明において用いられる脂肪族ヒドロキシカルボン酸単位(4)は、脂肪族ヒドロキシカルボン酸及び/又はその誘導体(以下、適宜「脂肪族ヒドロキシカルボン酸成分(4)」と言う。)に由来するものである。脂肪族ヒドロキシカルボン酸成分(4)は、3個のカルボキシル基及び1個のヒドロキシル基を有する脂肪族化合物及び脂環式化合物であれば、本発明の効果を著しく損なわない限り任意である。脂肪族ヒドロキシカルボン酸の具体例としては、クエン酸、イソクエン酸等が挙げられる。また、脂肪族ヒドロキシカルボン酸の誘導体の具体例としては、上記脂肪族カルボン酸のメチルエステル、エチルエステル、プロピルエステル、ブチルエステル等の低級アルキルエステル、クエン酸水素二ナトリウム、クエン酸ナトリウム、クエン酸カリウム等の上記脂肪族ヒドロキシカルボン酸の金属塩等が挙げられる。これらの内、脂肪族ヒドロキシカルボン酸としては、クエン酸が好ましく、脂肪族ヒドロキシカルボン酸の誘導体としては、クエン酸のエチルエステル、クエン酸のブチルエステル、又はこれらの混合物が好ましい。脂肪族ヒドロキシカルボン酸成分(4)は、1種を単独で用いても良く、2種以上を任意の比率及び組み合わせで使用してもよい。
【0085】
本発明の脂肪族ポリエステル樹脂(A)に含まれる脂肪族ヒドロキシカルボン酸単位(4)の量は、高重合度の脂肪族ポリエステル樹脂(A)を容易に製造することが出来るという観点から、ポリエステルを構成する全単位の合計量100モル%に対して、通常0.00050モル%以上、好ましくは0.0050モル%以上、より好ましくは0.020モル%以上、更に好ましくは0.040モル%以上、特に好ましくは0.075モル%以上である。また、その上限は、ゲルの発生要因となる可能性を有するという観点から、通常0.450モル%未満、好ましくは0.25モル%以下、より好ましくは0.18モル%以下、更に好ましくは、0.13モル%以下、特に好ましくは0.10モル%以下である。含まれる脂肪族ヒドロキシカルボン酸単位(4)の量が少なすぎる場合、樹脂組成物(A´)の成形時の溶融張力が不十分である場合があり、多すぎる場合、ゲル化を引き起こす場合がある。
【0086】
さらに、脂肪族ヒドロキシカルボン酸単位(3)としてのリンゴ酸に由来する単位、及び/又は脂肪族ヒドロキシカルボン酸単位(4)としてのクエン酸に由来する単位が特に好ましい理由として、例えば、リンゴ酸及び/又はクエン酸を脂肪族ヒドロキシカルボン酸成分として用いることで、リンゴ酸及び/又はクエン酸が脱水反応を起こして脂肪族ポリエステル樹脂(A)中で二重結合を形成し、それぞれ後述する脂肪族不飽和ジカルボン酸単位を形成しうるということが挙げられる。
【0087】
なお、脂肪族ポリエステル樹脂(A)に含まれる脂肪族ヒドロキシカルボン酸単位(4)の量は、例えば、上記の脂肪族ジカルボン酸単位(1)の場合と同様に測定することができる。具体的には、例えば、クエン酸に由来する脂肪族ヒドロキシカルボン酸単位(4)は、該単位の有するヒドロキシル基がエステル結合を形成し分岐鎖を生じている場合、3.18ppm〜3.36ppm付近に出現する脂肪族ヒドロキシカルボン酸単位(4)のメチレンプロトンのピークにより定量することができる。一方、該単位の有するヒドロキシル基が未反応の場合、2.87ppm〜2.91ppm付近に出現する脂肪族ヒドロキシカルボン酸単位(4)のメチレンプロトンのピークにより定量することができる。この場合、サンプルの調製条件、及び、1H−NMRの測定条件は、脂肪族ヒドロキシカルボン酸単位(4)を好適に定量できる条件であれば特に限定されないが、例えば、脂肪族ジカルボン酸単位(1)の量を定量した条件に従うことで、脂肪族ヒドロキシカルボン酸単位(4)を定量できる。
【0088】
(式(5)で表される脂肪族不飽和ジカルボン酸単位)
本発明において、上記の式(5)で表される脂肪族不飽和ジカルボン酸単位(以下、適宜「脂肪族不飽和ジカルボン酸単位(5)」と言う。)のR5は、1つ以上の二重結合を有し、炭素数が通常2以上、また、通常20以下、好ましくは10以下、より好ましくは6以下、入手し易さの観点からさらに好ましくは3以下の脂肪族炭化水素基である。脂肪族炭化水素基は、鎖状脂肪族炭化水素基であっても良く、環状脂肪族炭化水素基であっても良く、鎖状脂肪族炭化水素基と環状脂肪族炭化水素基とが結合したものであっても良い。鎖状脂肪族炭化水素基の場合は、直鎖状脂肪族炭化水素基であっても良く、分岐鎖状脂肪族炭化水素基であっても良い。環状脂肪族炭化水素基の場合は、単環でも良いし、複数の環が互いに結合、又は縮合したものでも良い。また、本発明の脂肪族ポリエステル樹脂(A)は、脂肪族不飽和ジカルボン酸単位(5)の1種を単独で含んでいても良く、2種以上を任意の比率及び組み合わせで含んでいても良い。
【0089】
本発明の脂肪族ポリエステル樹脂が、成形時の溶融張力が十分あり、従来よりも成形性に優れた樹脂であるためには、脂肪族不飽和ジカルボン酸単位(5)並びに後述する脂肪族不飽和ジカルボン酸単位(6)及び(7)が最適な量で本発明の脂肪族ポリエステル樹脂に含まれていることが重要である。この理由としては、未だ詳らかではないが、以下のように推察される。
【0090】
成形時に、これらの脂肪族不飽和ジカルボン酸単位が有する二重結合を構成する炭素原子は、前記二重結合と無機過酸化物、有機過酸化物(B)或いは有機アゾ化合物等のラジカル反応開始剤、その他フリーラジカル、或いは、イオンラジカルとが反応して、或いは、熱で誘起されたりして、ラジカル中心となり得る特性を持つ。即ち、前記二重結合を構成していた炭素原子上に発生したラジカルは、周囲の有機物等との後続反応により分岐鎖を生ずる特性を持つ。このような二重結合を有する単位が脂肪族ポリエステル構成単位として含まれていると、樹脂中に効果的に適切な量の分岐鎖を発生させることができることから、本発明の脂肪族ポリエステル樹脂(A)は、溶融張力に優れ、溶融張力を微調整することが可能な特性を有する。
【0091】
また、R5が有する二重結合の量は、R5が有する炭素数をrとすると、rが偶数の場合、通常1以上、その上限は、通常r/2以下である。一方、rが奇数(rは3以上)の場合、通常1以上、その上限は、通常(r−1)/2以下である。ただし、二重結合が多すぎる場合、上記のラジカル中心となる炭素原子が関与した架橋の生成が多く起きる結果、ゲル化が引き起こされる場合がある。従って、二重結合の量の上限は、2以下であることが好ましい。
【0092】
脂肪族不飽和ジカルボン酸単位(5)は、前述した範囲の炭素数を有するR5を含む脂肪族不飽和ジカルボン酸及び/又はその誘導体に由来する単位である限り、任意である。
【0093】
本発明において用いられる脂肪族不飽和ジカルボン酸単位(5)は、脂肪族不飽和ジカルボン酸及び/又はその誘導体(以下、適宜「脂肪族不飽和ジカルボン酸成分(5)」と言う。)に由来するものである。脂肪族不飽和ジカルボン酸成分(5)の具体例としては、例えば、以下に記載の脂肪族不飽和ジカルボン酸成分(8)又は脂肪族不飽和ジカルボン酸成分(9)が挙げられる。
【0094】
脂肪族不飽和ジカルボン酸単位(5)は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、例えば、下記式(8)及び/又は式(9)で表される脂肪族不飽和ジカルボン酸単位等が挙げられる。
【0095】
【化17】

【0096】
【化18】

(式(8)及び式(9)は、ともに二重結合に関する幾何異性体であって、式(8)はトランス型、式(9)はシス型を表す。m及びnは、それぞれ独立に、0〜18の整数を表す。R6及びR7は、それぞれ独立に、水素又は炭素数が1〜18の脂肪族炭化水素基を表す。)
【0097】
上記の式(8)及び式(9)で表される脂肪族不飽和ジカルボン酸単位(以下、それぞれ、適宜「脂肪族不飽和ジカルボン酸単位(8)」及び「脂肪族不飽和ジカルボン酸単位(9)」と言う。)のR6及びR7は、それぞれ独立に、水素、又は、炭素数が通常1以上、また、通常18以下、好ましくは15以下、より好ましくは10以下、更に好ましくは5以下、特に好ましくは2以下の脂肪族炭化水素基を表す。炭素数が多すぎる場合、二重結合の周囲が嵩高くなるため、二重結合の反応性が低下してラジカル中心を生成せず、上記分岐鎖が発生しにくくなる場合がある。脂肪族炭化水素基は、鎖状脂肪族炭化水素基であっても良く、環状脂肪族炭化水素基であっても良く、鎖状脂肪族炭化水素基と環状脂肪族炭化水素基とが結合したものであっても良い。鎖状脂肪族炭化水素基の場合は、直鎖状脂肪族炭化水素基であっても良く、分岐鎖状脂肪族炭化水素基であっても良い。環状脂肪族炭化水素基の場合は、単環でも良いし、複数の環が互いに結合、又は縮合したものでも良い。また、本発明の脂肪族ポリエステル樹脂(A)は、脂肪族不飽和ジカルボン酸単位(8)及び(9)の、それぞれ1種を単独で含んでいても良く、それぞれ2種以上を任意の比率及び組み合わせで含んでいても良い。
【0098】
なお、R6及びR7は、直接、又は他の官能基若しくは原子を介して結合し、環を形成していても良い。
【0099】
さらに、上記の式(8)及び式(9)において、mは、メチレン基の数を表し、通常0以上、その上限は、通常18以下、好ましくは15以下、より好ましくは10以下、更に好ましくは5以下、特に好ましくは2以下である。メチレン基の数が多すぎる場合、脂肪族ヒドロキシカルボン酸成分(8)及び/又は(9)の入手が困難となる場合がある他、脂肪族ポリエステル樹脂(A)中での分子鎖間で生じる結晶の形成が抑制される結果、脂肪族ポリエステル樹脂(A)の耐熱性が低くなる場合がある。
【0100】
また、上記の式(8)及び式(9)において、nは、上記mと同様に、メチレン基の数を表す。nも、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、上記mの好ましい範囲を満たすことが好ましい。
【0101】
脂肪族不飽和ジカルボン酸単位(5)は、二重結合に関する幾何異性体としてのトランス型である脂肪族不飽和ジカルボン酸単位(8)及び/又はシス型である脂肪族不飽和ジカルボン酸単位(9)であることが好ましい。脂肪族不飽和ジカルボン酸単位(9)に対する脂肪族不飽和ジカルボン酸単位(8)のモル比を、{脂肪族不飽和ジカルボン酸単位(8)のモル数}/{脂肪族不飽和ジカルボン酸単位(9)のモル数}と定義した場合、その比が、以下に記載の特定の範囲とすることで、本発明の脂肪族ポリエステル樹脂(A)は溶融張力に優れるとともに、所望の溶融張力に微調整することが可能となる。
【0102】
ここで、上記の特定の範囲とは、通常0.5以上、好ましくは0.8以上、より好ましくは1.0以上、更に好ましくは1.2以上、特に好ましくは1.5以上が望ましい。また、その上限は、通常8.5以下、好ましくは7.5以下、より好ましくは6.5以下、更に好ましくは5.5以下、特に好ましくは4.5以下である。上記のモル比がこの範囲を満たさない場合、樹脂組成物(A´)の溶融張力が劣ったり、溶融張力の微調整が難しくなったりする場合がある。
【0103】
なお、脂肪族ポリエステル樹脂(A)に含まれる脂肪族不飽和ジカルボン酸単位(8)及び(9)の量は、例えば、脂肪族ジカルボン酸単位の場合と同様に測定することができる。具体的には、例えば、脂肪族ヒドロキシカルボン酸単位(8)が、フマル酸に由来する単位の場合、1H−NMRの6.85ppm付近に出現するフマル酸単位中の二重結合を形成する炭素原子上のプロトンのピークにより定量することができる。また、例えば、脂肪族ヒドロキシカルボン酸単位(9)として、マレイン酸に由来する単位の場合は、1H−NMRの6.25ppm付近に出現するマレイン酸単位中の二重結合を形成する炭素原子上のプロトンのピークにより定量することができる。この場合、サンプルの調製条件、及び、1H−NMRの測定条件は、脂肪族不飽和ジカルボン酸単位(8)及び(9)を好適に定量できる条件であれば特に限定されないが、例えば、脂肪族ジカルボン酸単位(1)の量を定量した条件に従うことで、脂肪族不飽和ジカルボン酸単位(8)及び(9)を定量できる。
【0104】
脂肪族不飽和ジカルボン酸単位(8)及び(9)は、前述した範囲の炭素数を有するR6及びR7を含む脂肪族不飽和ジカルボン酸単位及び/又はその誘導体に由来する単位である限り、任意である。
【0105】
脂肪族不飽和ジカルボン酸単位(8)は、通常、脂肪族不飽和ジカルボン酸及び/又はその誘導体(以下、これらを総称して、適宜「脂肪族不飽和ジカルボン酸成分(8)」と言う。)に由来するものである。脂肪族不飽和ジカルボン酸成分(8)の具体例としては、フマル酸、t−β−ヒドロムコン酸、フマル酸モノエチル、フマル酸ジメチル、フマル酸ジエチル、フマル酸ジイソプロピル、フマル酸ジn−ブチル、フマル酸ジイソブチル、フマル酸ジn−オクチル、フマル酸ジ2−エチルヘキシル等の低級アルキルエステル、フマル酸水素ナトリウム、フマル酸ナトリウム等の金属塩等が挙げられる。これらの内、フマル酸、フマル酸モノエチル、フマル酸ジエチル、フマル酸ジイソプロピル、フマル酸ジn−ブチル、フマル酸ジ2−エチルヘキシル又はこれらの混合物が好ましく、フマル酸、フマル酸モノエチル、フマル酸ジエチル又はこれらの混合物がより好ましく、フマル酸が特に好ましい。脂肪族不飽和ジカルボン酸成分(8)は、1種を単独で用いても良く、2種以上を任意の比率及び組み合わせで用いても良い。
【0106】
脂肪族不飽和ジカルボン酸単位(9)は、通常、脂肪族不飽和ジカルボン酸及び/又はその誘導体(以下、これらを総称して、適宜「脂肪族不飽和ジカルボン酸成分(9)」と言う。)に由来するものである。脂肪族不飽和ジカルボン酸成分(9)の具体例としては、マレイン酸、マレイン酸モノメチル、マレイン酸モノエチル、マレイン酸モノn−ブチル、マレイン酸モノ2−エチルヘキシル、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル、マレイン酸ジn−ブチル、マレイン酸ジn−オクチル、マレイン酸ジ2−エチルヘキシル等の低級アルキルエステル、マレイン酸水素ナトリウム、マレイン酸ナトリウム等の金属塩が挙げられる。これらの中でも、マレイン酸、マレイン酸モノエチル、マレイン酸モノn−ブチル、マレイン酸モノ2−エチルヘキシル、マレイン酸ジエチル、マレイン酸ジn−ブチル、マレイン酸ジ2−エチルヘキシル又はこれらの混合物が好ましく、マレイン酸、マレイン酸モノエチル、マレイン酸ジエチル又はこれらの混合物がより好ましく、マレイン酸が特に好ましい。脂肪族不飽和ジカルボン酸成分(9)は、1種を単独で用いても良く、2種以上を任意の比率及び組み合わせで使用してもよい。
【0107】
従って、脂肪族不飽和ジカルボン酸単位(5)としては、フマル酸及び/又はマレイン酸に由来する単位であることが特に好ましい。
【0108】
本発明の脂肪族ポリエステル樹脂(A)に含まれる脂肪族不飽和ジカルボン酸単位(5)の量は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、脂肪族ポリエステル樹脂(A)に含まれる全単位の合計量100モル%に対して、通常0.00015モル%以上、好ましくは0.0050モル%以上、より好ましくは0.010モル%以上、更に好ましくは0.015モル%以上、特に好ましいのは0.025モル%以上、また、その上限は、通常0.25モル%以下、好ましくは0.18モル%以下、より好ましくは0.058モル%以下、更に好ましくは0.048モル%以下、特に好ましくは0.038モル%以下である。含まれる量が少なすぎる場合、分岐鎖を効果的に発生させ難くなる場合があり、多すぎる場合、分岐鎖が過度に発生し易くなり樹脂組成物(A´)の溶融粘度を微調整することが困難となる場合がある。
【0109】
なお、脂肪族ポリエステル樹脂(A)に含まれる脂肪族不飽和ジカルボン酸単位(5)の量は、例えば、上記の脂肪族ジカルボン酸単位(1)の場合と同様に測定することができる。具体的には、例えば、脂肪族ジカルボン酸単位(1)の量を測定した場合と同様の1H−NMRが好適な場合には、二重結合を形成する炭素原子上のプロトン、又は該炭素原子に直接化学結合した炭素原子上のプロトンに由来するピークにより測定することができる。この場合、サンプルの調製条件、及び、1H−NMRの測定条件は、脂肪族不飽和ジカルボン酸単位(5)を好適に定量できる条件であれば特に限定されないが、例えば、脂肪族ジカルボン酸単位(1)の量を定量した条件に従うことで、脂肪族不飽和ジカルボン酸単位(5)を定量できる。
【0110】
本発明の脂肪族ポリエステル樹脂(A)においては、脂肪族ヒドロキシカルボン酸単位(3)及び(4)、並びに脂肪族不飽和ジカルボン酸単位(5)及び後述する脂肪族不飽和ジカルボン酸単位(6)及び(7)の合計量が、脂肪族ポリエステル樹脂に含まれる全単位の合計100モル%に対して、通常0.0010モル%以上、好ましくは0.010モル%以上、より好ましくは0.020モル%以上、更に好ましくは0.030モル%以上、特に好ましくは0.050モル%以上、また、その上限は、通常0.50モル%以下、好ましくは0.30モル%以下、より好ましくは0.20モル%以下、更に好ましくは0.15モル%以下、特に好ましくは0.12モル%以下となる。合計量が少なすぎる場合、樹脂組成物(A´)の成形時の溶融張力が不十分であったり、効果的且つ容易に溶融張力を微調整することが難しくなったりする場合がある。一方、合計量が多すぎる場合、樹脂組成物(A´)の溶融張力を容易に微調整することが難しくなったり、ゲル化を引き起こしたりする場合がある。
【0111】
さらに、脂肪族不飽和ジカルボン酸単位(5)、及び後述する脂肪族不飽和ジカルボン酸単位(6)及び(7)の合計に対する、脂肪族ヒドロキシカルボン酸単位(3)及び脂肪族ヒドロキシカルボン酸単位(4)の合計のモル比を、{脂肪族ヒドロキシカルボン酸単位(3)のモル数及び脂肪族ヒドロキシカルボン酸単位(4)のモル数の合計}/{脂肪族不飽和ジカルボン酸単位(5)、及び後述する脂肪族不飽和ジカルボン酸単位(6)及び(7)のモル数の合計}と定義した場合、この比が、通常1.0以上、好ましくは1.2以上、より好ましくは1.5以上、更に好ましくは1.8以上、特に好ましくは2.0以上、また、その上限は、通常7.0以下、好ましくは5.0以下、より好ましくは4.0以下、更に好ましくは3.5以下、特に好ましくは3.0以下となる。本発明の脂肪族ポリエステル樹脂(A)においては、エステル結合を形成することにより分岐鎖を発生できる脂肪族ヒドロキシカルボン酸単位(3)及び(4)と、上記の機構により二重結合から分岐鎖を発生できる脂肪族不飽和ジカルボン酸単位(5)、(6)及び(7)との、脂肪族ポリエステル樹脂(A)中の含有量を上記の特定の割合に調整することにより、成形時の溶融張力に優れ、溶融張力を微調整できる樹脂組成物(A´)を提供できる。従って、割合が小さすぎても、大きすぎても、樹脂組成物(A´)の成形時の溶融張力が不十分であったり、効果的且つ容易に溶融張力を微調整することが難しくなったりする場合がある。
【0112】
本発明においては、脂肪族不飽和ジカルボン酸単位(5)は,本発明の実施例に示すように脂肪族ポリエステル製造の原料として用いられる脂肪族ヒドロキシカルボン酸成分(3)から脱水反応により誘導されても良い。
【0113】
(式(6)又は式(7)で表される脂肪族不飽和ジカルボン酸単位)
本発明の樹脂組成物(A´)が、成形時の溶融張力が十分あり、従来よりも成形性に優れためには、本発明の脂肪族ポリエステル樹脂(A)が、上記の構成単位を上記の割合で含むことが重要である。ただし、本発明の脂肪族ポリエステル樹脂(A)は、本発明の効果を著しく損なわない限り、二重結合を有する単位であるという観点から、上記式(6)で表される脂肪族不飽和ジカルボン酸単位(以下、適宜「脂肪族不飽和ジカルボン酸単位(6)」と言う。)又は式(7)で表される脂肪族不飽和ジカルボン酸単位(以下、適宜「脂肪族不飽和ジカルボン酸単位(7)」と言う。)を含んでいても良い。脂肪族不飽和ジカルボン酸単位(6)及び/又は(7)は、脂肪族不飽和ジカルボン酸単位(5)と共に含まれていても良く、脂肪族不飽和ジカルボン酸単位(5)の代わりに含まれていても良い。
脂肪族不飽和ジカルボン酸単位(6)及び/又は(7)が、脂肪族ポリエステル樹脂(A)に脂肪族不飽和ジカルボン酸単位(5)の代わりに含まれる場合、含まれる脂肪族不飽和ジカルボン酸単位(6)及び/又は(7)の合計量が、上記の脂肪族ポリエステル樹脂(A)に含まれる脂肪族不飽和ジカルボン酸単位(5)の量を満たす。さらに、脂肪族ポリエステル樹脂(A)に脂肪族不飽和ジカルボン酸単位(5)と脂肪族不飽和ジカルボン酸単位(6)及び(7)とが含まれる場合、これら3つの単位の合計量が、上記の脂肪族ポリエステル樹脂(A)に含まれる脂肪族不飽和ジカルボン酸単位(5)の量を満たす。
【0114】
脂肪族不飽和ジカルボン酸単位(6)及び脂肪族不飽和ジカルボン酸単位(7)のR8は、それぞれ独立に、水素、又は、炭素数が通常1以上、また、その上限は、通常17以下、好ましくは14以下、より好ましくは9以下、更に好ましくは4以下、特に好ましくは2以下の脂肪族炭化水素基を表す。炭素数が多すぎる場合、二重結合の周囲が嵩高くなるため、二重結合の反応性が低下し、分岐鎖が発生しにくくなる場合がある。脂肪族炭化水素基は、鎖状脂肪族炭化水素基であっても良く、環状脂肪族炭化水素基であっても良く、鎖状脂肪族炭化水素基と環状脂肪族炭化水素基とが結合したものであっても良い。鎖状脂肪族炭化水素基の場合は、直鎖状脂肪族炭化水素基であっても良く、分岐鎖状脂肪族炭化水素基であっても良い。環状脂肪族炭化水素基の場合は、単環でも良いし、複数の環が互いに結合、又は縮合したものでも良い。脂肪族不飽和ジカルボン酸単位(6)及び(7)は、それぞれ、1種を単独で本発明の脂肪族ポリエステル樹脂(A)に含まれていても良く、2種以上を任煮の比率及び組み合わせで含まれていても良い。
【0115】
なお、R8は、直接、又は他の官能基若しくは原子を介して結合し、環を形成していても良い。
【0116】
さらに、上記の式(6)及び式(7)において、rは、メチレン基の数を表し、通常0以上、その上限は、通常17以下、好ましくは14以下、より好ましくは9以下、更に好ましくは4以下、特に好ましくは2以下である。メチレン基の数が多すぎる場合、脂肪族ジカルボン酸成分(6)及び/又は(7)の入手が困難となる場合がある他、脂肪族ポリエステル樹脂(A)中での分子鎖間で生じる結晶の形成が抑制される結果、脂肪族ポリエステル樹脂(A)の耐熱性が低くなる場合がある。
【0117】
また、上記の式(6)及び式(7)において、sは、上記rと同様に、メチレン基の数を表す。sも、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、上記rの好ましい範囲を満たすことが好ましい。
【0118】
脂肪族不飽和ジカルボン酸単位(6)を与える脂肪族不飽和ジカルボン酸成分(6)の具体例としては、trans−アコニット酸等が挙げられる。脂肪族不飽和ジカルボン酸単位(7)を与える脂肪族不飽和ジカルボン酸成分(7)の具体例としては、cis−アコニット酸、アコニット酸無水物等が挙げられる。この内、cis−アコニット酸が好ましい。脂肪族不飽和ジカルボン酸成分(6)及び(7)は、それぞれ、1種を単独で用いても良く、2種以上を任意の比率及び組み合わせで用いても良い。
【0119】
本発明においては、脂肪族不飽和ジカルボン酸単位(6)及び(7)は、脂肪族ポリエステル樹脂の原料として用いられる脂肪族ヒドロキシカルボン酸成分(3)及び/又は(4)から脱水反応により誘導されても良い。
【0120】
脂肪族不飽和ジカルボン酸単位(7)に対する脂肪族不飽和ジカルボン酸単位(6)のモル比を、{脂肪族不飽和ジカルボン酸単位(6)のモル数}/{脂肪族不飽和ジカルボン酸単位(7)のモル数}と定義した場合、その比が、以下に記載の特定の範囲とすることで、本発明の樹脂組成物(A´)は溶融張力に優れるとともに、所望の溶融張力に微調整することが可能となる。
【0121】
ここで、上記の特定の範囲とは、通常0.5以上、好ましくは0.8以上、より好ましくは1.0以上、更に好ましくは1.2以上、特に好ましくは1.5以上が望ましい。また、その上限は、通常8.5以下、好ましくは7.5以下、より好ましくは6.5以下、更に好ましくは5.5以下、特に好ましくは4.5以下である。この範囲を上記のモル比が満たさない場合、樹脂組成物(A´)の溶融張力が劣ったり、溶融張力の微調整が難しくなったりする場合がある。
【0122】
なお、脂肪族ポリエステル樹脂(A)に含まれる脂肪族不飽和ジカルボン酸単位(6)及び/又(7)の量は、例えば、脂肪族ジカルボン酸単位(1)の場合と同様の方法を用いて測定すればよい。具体的には、例えば、1H−NMRによって二重結合を形成する炭素原子上のプロトン、又は該炭素原子に直接化学結合した炭素原子上のプロトン等に由来するピークにより定量したり、測定し易いプロトンピークを用いて定量したりすることができる。例えば、trans−アコニット酸から誘導される単位の場合、1H−NMRを用いて、6.93ppm付近に出現するピークにより定量できる。この場合、サンプルの調製条件、及び、1H−NMRの測定条件は、脂肪族不飽和ジカルボン酸単位(6)及び/又(7)を好適に定量できる条件であれば特に限定されないが、例えば、脂肪族ジカルボン酸単位(1)の量を定量した条件に従うことで、脂肪族不飽和ジカルボン酸単位(6)及び/又(7)を定量できる。
【0123】
[1−2.本発明の脂肪族ポリエステル樹脂(A)に含まれる各構成単位の好ましい態様]
本発明の脂肪族ポリエステル樹脂(A)は、上記の単位を上記の量で有するものである。従って、本発明の脂肪族ポリエステル樹脂(A)は、ゲル化等に起因するブツの発生を十分に抑制し、イソシアネート化合物やカーボネート等の鎖延長剤を使用することなく、十分に高分子量化され、引張特性等の機械特性等の成形性に優れるという特性を有する。さらに、本発明の脂肪族ポリエステル樹脂(A)に含まれる各単位の量が、下記式(10)の範囲を満たすことが好ましい。脂肪族ポリエステル樹脂(A)に含まれる各単位の量が下記式を満たすことにより、脂肪族ポリエステル樹脂(A)は、射出成形、中空成形、押出成形等の汎用プラスチック成形等の成形時、真空成形等の二次加工時の溶融張力が十分であるため成形性に優れるとともに、成形時のゲル化に起因するブツの発生を十分に抑制できるため、ブツによる外観不良のない脂肪族ポリエステル樹脂(A)を提供することが出来る。
【0124】
本発明の脂肪族ポリエステル樹脂(A)に含まれる各単位は、下記式(10)が以下に記載する範囲を満たすことが好ましい。
[{X−(A+T+S)}/X]/100 (10)
(式(10)中、Xは、脂肪族ポリエステル樹脂(A)に含まれる全単位の合計量100モル%に対する、原料に含まれていた脂肪族ヒドロキシカルボン酸成分(3)及び(4)で表される脂肪族ヒドロキシカルボン酸単位(3)及び(4)を与える上記に示した化合物、並びに上記式(6)、(7)、(8)及び(9)で表される脂肪族不飽和ジカルボン酸単位を与える上記に示した化合物の合計モル数の割合(モル%)を表す。Aは、脂肪族ポリエステル樹脂(A)に含まれる全単位の合計量100モル%に対する、脂肪族ポリエステル樹脂(A)の構成単位中の上記式(3)で表される脂肪族ヒドロキシカルボン酸単位及び/又は上記式(4)で表される脂肪族ヒドロキシカルボン酸単位の合計モル数の割合(モル%)を表す。Tは、脂肪族ポリエステル樹脂(A)に含まれる全単位の合計量100モル%に対する、上記式(6)及び(8)で表される脂肪族不飽和ジカルボン酸単位のモル数の割合(モル%)を表す。Sは、脂肪族ポリエステル樹脂(A)に含まれる全単位の合計量100モル%に対する、脂肪族ポリエステル樹脂(A)に含まれる上記式(7)及び式(9)で表される脂肪族不飽和ジカルボン酸単位の割合(モル%)を表す。
【0125】
本発明の脂肪族ポリエステル樹脂(A)が、溶融張力に優れ、溶融張力を微調整することが可能であり、従来より成形性が優れていることに加え、成形時のゲル化を十分に抑制でき、成形品にブツによる外観不良のない脂肪族ポリエステル樹脂(A)であるためには、上記式(10)の[{X−(A+T+S)}/X]の値が、通常1.0以上、好ましくは5.0以上、より好ましくは10以上、更に好ましくは20以上、特に好ましいのは25以上、また、その上限は、通常100未満、好ましくは80以下、より好ましくは60以下、更に好ましくは50以下、更により好ましくは35以下、特に好ましいのは31以下である。
【0126】
本発明で提供される脂肪族ポリエステル樹脂(A)が、溶融張力に優れ、溶融張力を微調整することが可能であり、従来より成形性が優れていることに加え、成形時のゲル化を十分に抑制でき、成形品にブツによる外観不良のない脂肪族ポリエステル樹脂(A)であるためには、上記式(10)が上記の範囲を満たすことが好ましい。上記式(10)が上記の範囲を満たすと、溶融張力に優れ、溶融張力を微調整することが可能であり、従来より成形性が優れていることに加え、成形時のゲル化を十分に抑制でき、成形品にブツによる外観不良のない脂肪族ポリエステル樹脂(A)となる理由は、未だ詳らかではないが、以下のように推察される。
【0127】
まず、上記式(10)において分母であるXは、脂肪族ポリエステル樹脂(A)を製造する前において未分岐の、脂肪族ポリエステル樹脂(A)を製造するために必要な原料としてのエステル結合によって分岐鎖を発生させられる3官能以上のヒドロキシカルボン酸単位を与える化合物数と二重結合から分岐鎖を発生できる上記の脂肪族不飽和ジカルボン酸単位を与える化合物数の合計である。上記式(10)において分子である{X−(A+T+S)}は、樹脂製造前は未分岐であった上記の原料としての化合物数(X)から、上記式(3)及び上記式(4)で表される脂肪族ヒドロキシカルボン酸単位数と上記式(6)、(7)、(8)、(9)で表される脂肪族不飽和ジカルボン酸単位数を差し引いた数である。つまり、{X−(A+T+S)}は、脂肪族ポリエステル樹脂(A)を製造する前において、脂肪族不飽和ジカルボン酸単位を与える二重結合を有していた化合物の一部が、本発明で提供する脂肪族ポリエステル樹脂(A)となる過程で、二重結合を失って脂肪族ポリエステル樹脂(A)中の構成単位として存在する単位数である。
【0128】
すなわち、製造時等の加熱時に熱等で誘起されたラジカルの関与によって前記二重結合が周囲の有機物等との後続反応により消失し、これら後続反応の一部は、脂肪族ポリエステル樹脂(A)中に分岐鎖を生じたと考えられる。つまり、[{X−(A+T+S)}/X]の値が高いほど、分岐鎖数が多く、ゲル化の可能性が高い。一方、値が小さすぎる場合、ゲル化抑制の観点からは、ゲル化の可能性は低くなる。
【0129】
[1−3.その他の構成単位]
本発明の脂肪族ポリエステル樹脂(A)は、本発明の効果を著しく損なわない限り、上記の脂肪族ジカルボン酸単位(1)、脂肪族ジオール単位(2)、脂肪族ヒドロキシカルボン酸単位(3)及び/又は(4)、脂肪族不飽和ジカルボン酸単位(5)、(6)、(7)、(8)からなる群より選ばれる1種以上の脂肪族不飽和ジカルボン酸単位(以下、これらを総称して「必須単位」と言う。)の構成単位に加えて、その他の構成単位(以下、適宜「任意単位」と言う。)を含んでいても良い。中でも、以下の多官能成分が与える構成単位を、任意の比率及び組み合わせで含んでいることが好ましい。ただし、その場合でも、上記の構成単位の含有量は、上記範囲を満たす。
【0130】
多官能成分の具体例としては、2官能のオキシカルボン酸、架橋構造を形成するための3官能以上の多価アルコール、3官能以上の多価カルボン酸、3官能以上の多価カルボン酸無水物等が挙げられる。これらの多官能成分が与える単位(以下、適宜「多官能単位」と言う。)を含む脂肪族ポリエステル樹脂(A)は、容易に重合度が高くなる傾向がある。中でも、本発明の脂肪族ポリエステル樹脂(A)は、2官能のオキシカルボン酸に由来する単位を含むことが好ましい場合があり、後述する鎖延長剤を使用することなく脂肪族ポリエステル樹脂(A)が高重合度化するという観点から、3官能以上の多価アルコール、3官能以上の多価カルボン酸及び3官能以上の多価カルボン酸無水物からなる群より選ばれる1種以上の成分に由来する単位を含むことがより好ましい場合がある。なお、多官能成分は、1種を単独で用いても良く、2種以上を任意の比率及び組み合わせで用いても良い。
【0131】
2官能のオキシカルボン酸の具体例としては、乳酸、グリコール酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシカプロン酸、2−ヒドロキシ−3,3−ジメチル酪酸、2−ヒドロキシ−3−メチル酪酸、2−ヒドロキシイソカプロン酸、カプロラクトン等が挙げられるが、これらはオキシカルボン酸のエステル若しくはラクトン、又はオキシカルボン酸重合体等の誘導体であっても良い。中でも、入手が容易であるという観点から、乳酸、グリコール酸が好ましい。また、その形態としては、入手が容易であるという観点から、30重量%以上95重量%以下の水溶液が好ましい。また、これらに光学異性体が存在する場合には、D体、L体、又はラセミ体のいずれでも良く、形態としては固体、液体、水溶液等の溶液であっても良い。
【0132】
また、2官能のオキシカルボン酸単位の量は、通常、脂肪族ポリエステル樹脂(A)を構成する全単位の合計量100モル%に対して、通常0.02モル%以上、好ましくは0.5モル%以上、より好ましくは1.0モル%以上である。一方、使用量の上限は、通常30モル%以下、好ましくは20モル%以下、より好ましくは10モル%以下である。本発明の脂肪族ポリエステル樹脂(A)の製造時に、上記の成分を上記の量で用いることにより、本発明の脂肪族ポリエステル樹脂(A)の重合度を高めることが出来る。
【0133】
3官能以上の多価アルコールの具体例としては、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等が挙げられる。
3官能以上の多価カルボン酸及び3官能以上の多価カルボン酸無水物の具体例としては、プロパントリカルボン酸、無水ピロメリット酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸無水物、シクロペンタテトラカルボン酸無水物等が挙げられる。
【0134】
本発明の脂肪族ポリエステル樹脂(A)に含まれる、3官能以上の多価アルコール、3官能以上の多価カルボン酸及び3官能以上の多価カルボン酸無水物からなる群より選ばれる1種以上の多官能成分に由来する単位の量は、脂肪族ポリエステル樹脂(A)を構成する全単位の合計量100モル%に対して、通常0.0001モル%以上、好ましくは0.001モル%以上、より好ましくは0.005モル%以上、特に好ましくは0.01モル%以上である。また、その上限は、通常5モル%以下、好ましくは1モル%以下、更に好ましくは0.50モル%以下、特に好ましくは0.3モル%以下である。
【0135】
本発明で提供される脂肪族ポリエステル樹脂(A)は、環境上でも課題があるイソシアネート化合物、カーボネート化合物等の鎖延長剤を使用することなく、十分に高分子量化され、溶融張力に優れ、溶融張力を微調整できる樹脂を提供できるため、脂肪族ポリエステル樹脂(A)中には、これら鎖延長剤に由来する構成単位を含まないことが特に好ましいが、本発明の効果を著しく損なわない限り、これらの鎖延長剤に由来する構成単位を含んでいてもよい。なお、鎖延長剤に由来する単位は、1種を単独で含んでも良く、2種以上を任意の比率及び組み合わせで含んでいても良い。
【0136】
その量は、脂肪族ポリエステル樹脂(A)を構成する全単位の合計量100モル%に対し、カーボネート結合及びウレタン結合が、通常10モル%以下、好ましくは5モル%以下、より好ましくは3モル%以下である。しかしながら、本発明の脂肪族ポリエステル樹脂(A)を脂肪族ポリエステル樹脂(A)の特徴でもある生分解性脂肪族ポリエステル樹脂(A)として使用する場合には、ジイソシアネート及び/又はカーボネート結合が存在すると、生分解性を阻害する可能性があるため、その使用量は、脂肪族ポリエステル樹脂(A)を構成する全単位の合計量100モル%に対し、カーボネート結合が通常1モル%未満、好ましくは0.5モル%以下、より好ましくは0.1モル%以下であり、ウレタン結合が、通常0.06モル%未満、好ましくは0.01モル%以下、より好ましくは0.001モル%以下である。
【0137】
カーボネート化合物としては、具体的には、ジフェニルカーボネート、ジトリールカーボネート、ビス(クロロフェニル)カーボネート、m−クレジルカーボネート、ジナフチルカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジブチルカーボネート、エチレンカーボネート、ジアミルカーボネート、ジシクロヘキシルカーボネートなどが挙げられる。その他、フェノール類、アルコール類のようなヒドロキシ化合物から誘導される、同種、または異種のヒドロキシ化合物からなるカーボネート化合物が使用可能である。
【0138】
ジイソシアネート化合物としては、具体的には、2,4−トリレンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネートと2,6−トリレンジイソシアネートとの混合体、ジフェニルメタンジイソシアネート、1,5−ナフチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、水素化キシリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等の公知のジイソシアネートなどが挙げられる。
【0139】
また、その他の鎖延長剤として、ジオキサゾリン、珪酸エステルなどを使用してもよい。珪酸エステルとしては、具体的には、テトラメトキシシラン、ジメトキシジフェニルシラン、ジメトキシジメチルシラン、ジフェニルジヒドロキシラン等が例示される。
【0140】
珪酸エステルは、環境保全ならびに安全性の面の理由からは、特にその使用量に制限はされないが、操作が煩雑になったり、重合速度に影響を与えたりする可能性があるため、その使用量は少ない方が良い場合がある。従って、この含有量は、脂肪族ポリエステル樹脂(A)を構成する全単位の合計量100モル%に対して、0.1モル%以下とするのが好ましく、10-5モル%以下とするのが更に好ましい。
【0141】
また、さらに、溶融張力を高める観点から、本発明の脂肪族ポリエステル樹脂(A)は、毒性の低いパーオキサイドに由来する単位を含んでいても良い。パーオキサイドは、1種を単独で用いても良く、2種以上を任意の比率及び組み合わせで用いても良い。
【0142】
本発明の脂肪族ポリエステル樹脂(A)は、通常、その末端にカルボキシル基及び/又はヒドロキシル基が存在する。これらのカルボキシル基及び/又はヒドロキシル基は、カルボジイミド化合物、エポキシ化合物、単官能性のアルコール若しくはカルボン酸等で封止されても良い。これらのカルボキシル基及び/又はヒドロキシル基が封止されることにより、脂肪族ポリエステル樹脂(A)の耐久性を向上させることが出来るという利点が得られる。
【0143】
カルボジイミド化合物とは、その分子中に1個以上のカルボジイミド基を有する化合物であり、1個のカルボジイミド基を有するモノカルボジイミド化合物、2個以上のカルボジイミド基を有するポリカルボジイミド化合物がある。カルボジイミド化合物は、1種を単独で用いても良く、2種以上を任意の比率及び組み合わせで用いても良い。
【0144】
モノカルボジイミド化合物の具体例としては、ジシクロヘキシルカルボジイミド、ジイソプロピルカルボジイミド、ジメチルカルボジイミド、ジイソブチルカルボジイミド、ジオクチルカルボジイミド、t−ブチルイソプロピルカルボジイミド、ジフェニルカルボジイミド、ジ−t−ブチルカルボジイミド、ジ−β−ナフチルカルボジイミド、N,N’−ジ−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミド等が挙げられる。
【0145】
ポリカルボジイミド化合物としては、その重合度(即ち、カルボジイミド基の数)が、通常2以上、好ましくは4以上、また、その上限は、通常40以下、好ましくは30以下であることが好ましい。具体的には、例えば、以下に記載する原料を用いて、米国特許第2941956号明細書、特公昭47−33279号公報、J.Org.Chem.28巻、p.2069−2075(1963)、Chemical Review 1981、81巻、第4号、p.619−621等に記載された方法により、製造されたものが挙げられる。
【0146】
ポリカルボジイミド化合物の製造原料としては、例えば、芳香族ジイソシアネート、脂肪族ジイソシアネート、脂環族ジイソシアネート等の有機ジイソシアネート等が挙げられる。有機ジイソシアネートの具体例としては、1,5−ナフタレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルジメチルメタンジイソシアネート、1,3−フェニレンジイソシアネート、1,4−フェニレンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネートと2,6−トリレンジイソシアネートとの混合物、ヘキサメチレンジイソシアネート、シクロヘキサン−1,4−ジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、メチルシクロヘキサンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート、2,6−ジイソプロピルフェニルイソシアネート、1,3,5−トリイソプロピルベンゼン−2,4−ジイソシアネート等が挙げられる。
【0147】
以上の原料を用いて、上記の文献に記載された方法により製造されたものをポリカルボジイミド化合物として用いることが出来るが、他にも、ポリカルボジイミド化合物の具体例としては、工業的に入手可能なカルボジライトHMV−8CA(日清紡製)、カルボジライト LA−1(日清紡製)、スタバクゾールP(ラインケミー社製)、スタバクゾールP100(ラインケミー社製)等が挙げられる。
【0148】
[1−1−1−2.物性]
本発明の脂肪族ポリエステル(A)の物性は、本発明の効果を著しく損なわない限り、任意である。ただし、中でも、以下に記載する物性が、以下に記載する範囲を満たすことが好ましい。
【0149】
(溶融流動体積)
脂肪族ポリエステル樹脂(A)の成形性を表す指標として、メルトインデックスの一つである溶融流動体積(以下、適宜「MVR」と言う。)を用いることが出来る。本発明の脂肪族ポリエステル樹脂(A)におけるMVRは、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、190℃、荷重2.16kgで測定した単位時間当たりの溶融流動体積MVR(2.16)の値は、通常0.050cm3/10分以上、好ましくは0.10cm3/10分以上、より好ましくは0.50cm3/10分以上、更に好ましくは1.0cm3/10分以上、更により好ましくは1.5cm3/10分以上、特に好ましくは2.0cm3/10分以上、また、その上限は、通常100cm3/10分以下、好ましくは50cm3/10分以下、より好ましくは25cm3/10分以下、更に好ましくは15cm3/10分以下、更により好ましくは10cm3/10分以下、特に好ましくは6.0cm3/10分以下である。MVR(2.16)が小さすぎる場合、樹脂組成物(A´)の溶融張力が高くなりすぎ、成形性が悪くなったり、粘張さが高くなり樹脂組成物(A´)のゲル化を促進したりする場合があり、大きすぎる場合、ゲル化の可能性が低くなる一方で溶融張力が低くなりすぎ、成形性が悪くなる場合がある。
【0150】
一方、190℃、荷重10.0kgで測定した単位時間当たりの溶融流動体積MVR(10.0)も、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常5.0cm3/10分以上、好ましくは10cm3/10分以上、より好ましくは15cm3/10分以上、更に好ましくは20cm3/10分以上、更により好ましくは25cm3/10分以上、特に好ましくは30cm3/10分以上、また、その上限は、通常500cm3/10分以下、好ましくは300cm3/10分以下、より好ましくは100cm3/10分以下、更に好ましくは80cm3/10分以下、更により好ましくは60cm3/10分以下、特に好ましくは50cm3/10分以下である。MVR(2.16)が小さすぎる場合、溶融張力が高くなりすぎ、成形性が悪くなったり、粘張さが高くなり樹脂組成物(A´)のゲル化を促進したりする場合があり、大きすぎる場合、樹脂組成物(A´)のゲル化の可能性が低くなる一方で溶融張力が低くなりすぎ、成形性が悪くなる場合がある。
【0151】
さらに、MVR(2.16)の値を、MVR(10.0)の値で除した値(以下、適宜「MVR−R」と言う。)の値も、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常0.50以上、好ましくは1.0以上、より好ましくは5.0以上、更に好ましくは8.0以上、更により好ましくは10.0以上、特に好ましくは10.5以上、また、その上限は、通常25.0以下、好ましくは20.0以下、より好ましくは15.0以下、更に好ましくは12.0以下、更により好ましくは11.5以下、特に好ましくは11.0以下である。MVR−Rの値が小さすぎる場合、樹脂組成物(A´)のゲル化の可能性が低くなる一方で溶融張力が低くなりすぎ、成形性が悪くなる場合があり、大きすぎると、樹脂組成物(A´)の溶融弾性や溶融粘性等が高くなる結果、樹脂組成物(A´)のゲル化を促進する場合がある。
【0152】
なお、MVRは、例えば、タカラ工業製メルトインデクサーを用い、JIS−K7210の方法に従って測定することが出来る。具体的には、80℃で12時間乾燥した脂肪族ポリエステル樹脂(A)をタカラ工業製メルトインデクサーに供することにより、JIS−K7210に基づいて、とMVR(2.16)とMVR(10.0)とを測定することが出来る。
【0153】
(メルトフローレート)
また、メルトフローレート(以下、適宜「MFR」と言う。)も指標として用いることが出来る。本発明の脂肪族ポリエステル樹脂(A)におけるMFRは、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、190℃、荷重2.16kgの条件下におけるMFRの値は、通常0.5g/10分以上、好ましくは1.0g/10分以上、より好ましくは2.0g/10分以上、また、その上限は、通常100g/10分以下、好ましくは80g/10分以下、より好ましくは60g/10分以下であることが望ましい。MFRが小さすぎる場合、本発明の脂肪族ポリエステル樹脂(A)を溶融して樹脂組成物(A´)とした際、樹脂組成物(A´)の粘度が非常に高くなる場合がある。従って、成形加工を実施する際に押出機に負荷がかかりすぎる、せん断発熱が大きくなるために樹脂の劣化が生じる等の理由から、安定的に成形体が得られない可能性がある。MFRが大きすぎる場合、溶融樹脂の粘度が大幅に低下する場合がある。従って、上記樹脂組成物(A´)の成形時に十分な溶融張力がないことから、成形方法、成形温度等の成形条件によっては、成形体を得ることができなくなる可能性がある。
【0154】
なお、MFRは、例えば、JIS−K7210に基づき測定することが出来る。また、測定装置として、例えば、タカラ工業製メルトインデクサーを用いて、それぞれの条件下で測定することが出来る。
【0155】
(脂肪族ポリエステル樹脂(A)の末端に存在するカルボキシル基の量)
本発明の脂肪族ポリエステル樹脂(A)の末端に存在するカルボキシル基(以下、適宜「末端カルボキシル基」と言う。)の量は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、脂肪族ポリエステル樹脂(A)に対して、通常0.1μモル/g以上、好ましくは1.0μモル/g以上、より好ましくは5.0μモル/g以上、更に好ましくは10.0μモル/g以上、特に好ましくは15.0μモル/g以上、また、その上限は、通常70μモル/g以下、好ましくは65μモル/g以下、より好ましくは60μモル/g以下、更に好ましくは40μモル/g以下、特に好ましくは30μモル/g以下である。カルボキシル基の量が多すぎる場合、脂肪族ポリエステル樹脂(A)の耐加水分解性が悪くなる場合がある。なお、末端カルボキシル基の量は、例えば、脂肪族ポリエステル樹脂(A)をベンジルアルコールに溶解し、0.1Nの水酸化ナトリウム水溶液で中和滴定することにより、測定することができる。測定は複数回行い、その平均値を脂肪族ポリエステル樹脂(A)の末端カルボキシル基の量とすることが好ましい。
【0156】
(還元粘度)
本発明の脂肪族ポリエステル樹脂(A)の30℃における還元粘度η(η=ηsp/c)は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常1.6dL/g以上、好ましくは1.8dL/g以上、より好ましくは1.9dL/g以上、更に好ましくは2.0dL/g以上、特に好ましいのは2.1dL/g以上、また、その上限は、通常6dL/g以下、好ましくは5dL/g以下、より好ましくは4dL/g以下、更に好ましくは3dL/g以下である。還元粘度が小さすぎる場合、成形時に十分な溶融粘度が得られない場合があり、大きすぎる場合、成形時の溶融粘度が高くなりすぎたり、ゲル化を促進したりする場合がある。なお、還元粘度は、例えば、ウベローデ粘度管を用いて測定することができる。具体的には、フェノール/テトラクロロエタン(1:1重量比)溶媒に、脂肪族ポリエステル樹脂(A)を0.5g/dlとなるように溶解させ、脂肪族ポリエステル樹脂(A)溶液の30℃での溶液粘度をウベローデ粘度管で測定することにより、測定することができる。
【0157】
(脂肪族ポリエステル樹脂(A)の末端に存在するヒドロキシル基の量)
本発明の脂肪族ポリエステル樹脂(A)の末端に存在するヒドロキシル基(以下、適宜「末端ヒドロキシル基」と言う。)の量は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、脂肪族ポリエステル樹脂(A)に対して、通常10μモル/g以上、好ましくは15μモル/g以上、より好ましくは20μモル/g以上、更に好ましくは25μモル/g以上、また、その上限は、通常100μモル/g以下、好ましくは80μモル/g以下、より好ましくは70μモル/g以下、更に好ましくは60μモル/g以下、更により好ましくは50μモル/g以下、特に好ましくは40μモル/g以下である。なお、末端ヒドロキシル基の量は、好適な公知の分析法を用いて定量すればよい。例えば、脂肪族ポリエステル樹脂(A)末端が、1,4−ブタンジオールに由来する単位であり、その単位の有する末端ヒドロキシル基を定量する場合、1H−NMRを用いて、3.66ppm付近に出現する末端ヒドロキシル基が直接結合する炭素原子上のメチレンプロトンのピークにより定量できる。
【0158】
(脂肪族ポリエステル樹脂(A)の末端に存在するビニル基の量)
本発明の脂肪族ポリエステル樹脂(A)の末端に存在するビニル基(以下、適宜「末端ビニル基」と言う。)の量は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、脂肪族ポリエステル樹脂(A)に対して、通常0.10μモル/g以上、好ましくは1.0μモル/g以上、より好ましくは3.0μモル/g以上、更に好ましくは5.0μモル/g以上、特に好ましくは8.0μモル/g以上、また、その上限は、通常50μモル/g以下、好ましくは30μモル/g以下、より好ましくは20μモル/g以下、更に好ましくは15μモル/g以下、特に好ましくは13μモル/g以下である。末端ビニル基の量が少なすぎる場合、樹脂組成物(A´)の成形時の溶融張力が不十分である場合があり、多すぎる場合、樹脂組成物(A´)のゲル化を引き起こす場合がある。
【0159】
末端ビニル基の量は、例えば、脂肪族ポリエステル樹脂(A)に含まれる脂肪族カルボン酸単位(1)の主成分がコハク酸に由来する単位であり、又は、脂肪族ポリエステル樹脂(A)に由来する脂肪族ジオール単位(2)の主成分が1,4−ブタンジオールに由来する単位である場合には、5.15ppm付近、又は、5.78ppm付近に出現する脂肪族ポリエステル樹脂(A)の末端側に存在する二重結合を形成する炭素原子上のプロトンのピークにより定量することができる。
【0160】
(YI値)
本発明の脂肪族ポリエステル樹脂(A)の黄変度(以下、適宜「YI値」と言う。)は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常−2.0以上、好ましくは−1.5以上、より好ましくは−1.0以上、更に好ましくは−0.5以上、特に好ましくは0.0以上、また、その上限は、通常20.0以下、好ましくは15.0以下、より好ましくは10.0以下、更に好ましくは8.0以下、特に好ましくは6.0以下である。YI値が大きすぎる場合、脂肪族ポリエステル樹脂(A)の黄味が強くなり、脂肪族ポリエステル樹脂(A)の着色の原因となる場合がある。なお、YI値は、例えば、測色色差計Color Meter ZE2000(日本電色工業製)を用い、JIS K7105の方法に基づいて測定することができる。
【0161】
(溶融張力)
本発明の脂肪族ポリエステル樹脂(A)の190℃における溶融張力Fは、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常0.1g以上、好ましくは0.3g以上、より好ましくは0.5g以上であり、また、その上限は、通常60g以下、好ましくは55g以下、より好ましくは50g以下である。溶融張力Fが小さすぎる場合、脂肪族ポリエステル樹脂(A)と有機過酸化物(B)を溶融混練して得られる樹脂組成物(A´)の溶融張力も小さくなるため、樹脂組成物(A´)の成形加工性が改善されない場合があり、大きすぎる場合、樹脂組成物(A´)の溶融張力が大きくなりすぎるため、成形時の溶融樹脂の延展性が低下する、フィルム等の成形体の伸び等の機械物性が低下する等の可能性がある。なお、溶融張力Fは、例えば、東洋精機製作所製キャピログラフ1Dを用いて測定することができる。具体的には、口径2.095mm、長さ8.1mmのノズルを備えた東洋精機製作所製キャピログラフ1Dを用いて、測定温度を190℃において、溶融した脂肪族ポリエステル樹脂(A)を押出速度10mm/分で押し出し、ノズルから出た溶融脂肪族ポリエステル樹脂(A)のストランドを張力検出するプーリーを通してロールで巻き取り、この張力を測定することで測定することができる。
【0162】
(溶融粘度)
本発明の脂肪族ポリエステル樹脂(A)の、190℃、せん断速度10s-1における溶融粘度は、通常100Pa・s以上、好ましくは150Pa・s以上、より好ましくは200Pa・s以上であり、また、その上限は、通常15000Pa・s以下、好ましくは13000Pa・s以下、より好ましくは10000Pa・s以下である。溶融粘度が小さすぎる場合、樹脂組成物(A´)の溶融粘度が小さくなり、成形加工が困難になる場合があり、大きすぎる場合、樹脂組成物(A´)の溶融粘度が大きくなりすぎるため、成形加工を実施する際に押出機に負荷がかかりすぎる、せん断発熱が大きくなるために樹脂組成物(A´)の劣化が生じる、等の理由から成形体を得ることができない場合がある。
【0163】
また、本発明の脂肪族ポリエステル樹脂(A)の、190℃、せん断速度1000s-1における溶融粘度は、通常50Pa・s以上、好ましくは60Pa・s以上、より好ましくは70Pa・s以上であり、また、その上限は、通常1000Pa・s以下、好ましくは800Pa・s以下、より好ましくは600Pa・s以下である。溶融粘度が小さすぎる場合、樹脂組成物(A´)の溶融粘度が小さくなり、成形加工が困難になる場合があり、大きすぎる場合、樹脂組成物(A´)の溶融粘度が大きくなりすぎるため、成形加工を実施する際に押出機に負荷がかかりすぎる、せん断発熱が大きくなるために樹脂組成物(A´)の劣化が生じる、等の理由から成形体を得ることができない場合がある。
【0164】
本発明の脂肪族ポリエステル樹脂(A)において、190℃、せん断速度1000s-1における溶融粘度に対して、190℃、せん断速度10s-1における溶融粘度の比ρは、通常3.0以上、好ましくは3.2以上、より好ましくは3.5以上である。ρが小さすぎる場合、溶融混練の方法によっては有機過酸化物(B)との反応が困難になる場合がある。
【0165】
なお、溶融粘度は、例えば、東洋精機製作所製キャピログラフ1Dを用いて測定することができる。具体的には、口径1mm、長さ20.6mmのノズルを備えた東洋精機製作所製キャピログラフ1Dを用いて、測定温度を190℃として溶融粘度を測定することができる。
【0166】
(ゲル分)
本発明の脂肪族ポリエステル樹脂(A)におけるゲル分の含有量は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常5重量%以下、好ましくは4重量%以下、より好ましくは3重量%以下である。ゲル分が多すぎる場合、樹脂組成物(A´)からなる成形体の外観を損ねる場合がある。なお、ゲル分は、例えば、以下の方法に従って測定することができる。即ち、先ず、5gの脂肪族ポリエステル樹脂(A)をクロロホルム200mLに溶解して8時間加熱還流を行う。次に、600メッシュ櫛を有するろ過装置を用いてろ過し、ろ過後の残留物をオーブンで70℃8時間減圧乾燥を行う。乾燥後の重量を測定し、以下の式により、ゲル分を測定することができる。
【0167】
ゲル分の含有量=(X/5)×100
(ただし、Xは乾燥後の重量[g]を表す。)
【0168】
(ドローダウン)
本発明の脂肪族ポリエステル樹脂(A)の下記方法で測定したドローダウンは、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常1秒以上、好ましくは3秒以上、より好ましくは5秒以上である。ドローダウンが短すぎると樹脂組成物(A´)のドローダウンが十分に改善しない場合がある。
なお、ドローダウンは、例えば、以下の方法に従って測定することができる。即ち、先ず、脂肪族ポリエステル樹脂(A)を、Tダイシート成形機(スクリュー径30mmφ、L/D=32、T−ダイ幅350mm、クリアランス1.0mm)を用いて成形温度190℃、ロール温度30℃の条件下で、厚さ450μmのシート成形を行う。このシートを30cm×30cmの形状に切断し、390℃〜435℃に加熱し、シートが張り戻してから2cm垂れ下がるまでの時間を測定することにより、ドローダウンを測定できる。
【0169】
(融点)
本発明の脂肪族ポリエステル樹脂(A)の融点は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常50℃以上、好ましくは60℃以上、より好ましくは70℃以上、また、その上限は、通常160℃以下、好ましくは150℃以下、より好ましくは140℃以下である。融点が低すぎる場合、樹脂組成物(A´)からなる成形体の使用時に、成形体が変形するなど耐熱性に劣る場合があり、高すぎる場合、成形時の設定温度によっては、成形加工が困難になる場合がある。
【0170】
[1−1−1−3.製造方法]
本発明の脂肪族ポリエステル樹脂(A)は、本発明の脂肪族ポリエステル樹脂(A)が得られる限り、公知の任意の触媒を用い、公知の任意の製造方法により、製造されることが出来る。例えば、溶融重縮合や、有機溶媒を用いた溶液加熱脱水縮合等によって製造することができる。中でも、本発明の脂肪族ポリエステル樹脂(A)の製造方法としては、経済性及び製造工程の簡略性の観点から、無溶媒下で行なう溶融重縮合が好ましい。
【0171】
なお、脂肪族ポリエステル樹脂(A)はバイオマス資源から誘導しても良い。バイオマス資源の種類やその製造方法は、本発明の効果を著しく損なわない限り制限はない。例えば、酸やアルカリ等の化学処理、微生物を用いた生物学的処理、及び、物理的処理等の、公知の何れの前処理・糖化の工程を経て炭素源へ誘導して得られたバイオマス資源を用いることもできる。
【0172】
以下、脂肪族ポリエステル樹脂(A)を溶融重縮合により製造する場合について詳しく説明するが、溶融重合法の手順はこれに限定されるものではなく、一部の工程を省略したり、他に代わる工程に変更したり、他の任意の工程を有していたりしても良い。また、本発明の脂肪族ポリエステル樹脂(A)の製造方法としては、溶融重縮合に限られるものではない。
【0173】
触媒としては、通常、周期表で、水素、炭素を除く1族〜15族金属元素を含む化合物が用いられる。具体的には、例えば、チタン、ジルコニウム、錫、アンチモン、セリウム、ゲルマニウム、亜鉛、コバルト、マンガン、鉄、アルミニウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、ナトリウムおよびカリウムからなる群より選ばれた、少なくとも1種以上の金属を含むカルボン酸塩、アルコキシ塩、有機スルホン酸塩またはβ−ジケトナート塩等の有機基を含む化合物、更には前記した金属の酸化物や複合酸化物、ハロゲン化物等の無機化合物及びそれらの混合物等が挙げられる。なお、触媒は、1種を単独で用いても良く、2種以上を任意の比率及び組み合わせで用いても良い。
【0174】
これらの中では、チタン、ジルコニウム、ゲルマニウム、亜鉛、アルミニウム、マグネシウム及びカルシウムを含む金属化合物、並びにそれらの混合物が好ましく、その中でも、特に、チタン化合物、ジルコニウム化合物及びゲルマニウム化合物が好ましい。また、触媒は、重合時に溶融或いは溶解した状態であると重合速度が高くなる場合がある為、重合時に液状であるか、エステル低重合体及び脂肪族ポリエステル樹脂(A)に溶解する化合物が好んで使用される。
【0175】
チタン化合物としては、テトラアルキルチタネートが好ましく、具体的には、テトラ−n−プロピルチタネート、テトライソプロピルチタネート、テトラ−n−ブチルチタネート、テトラ−t−ブチルチタネート、テトラフェニルチタネート、テトラシクロヘキシルチタネート、テトラベンジルチタネート及びこれらの混合チタネートが好ましい。また、チタン(オキシ)アセチルアセトネート、チタンテトラアセチルアセトネート、チタン(ジイソプロキシド)アセチルアセトネート、チタンビス(アンモニウムラクテイト)ジヒドロキシド、チタンビス(エチルアセトアセテート)ジイソプロポキシド、チタン(トリエタノールアミネート)イソプロポキシド、ポリヒドロキシチタンステアレート、チタンラクテート、チタントリエタノールアミネート、ブチルチタネートダイマー等も好んで用いられる。更には、酸化チタンや、チタンと珪素を含む複合酸化物(例えば、Acordis Industrial Fibers社製のチタニア/シリカ複合酸化物(製品名:C−94))も好んで用いられる。これらの中では、テトラ−n−プロピルチタネート、テトライソプロピルチタネート及びテトラ−n−ブチルチタネート、チタン(オキシ)アセチルアセトネート、チタンテトラアセチルアセトネート、チタンビス(アンモニウムラクテイト)ジヒドロキシド、ポリヒドロキシチタンステアレート、チタンラクテート、ブチルチタネートダイマー、酸化チタン、チタニア/シリカ複合酸化物(例えば、Acordis Industrial Fibers社製の製品名:C−94)が好ましく、テトラ−n−ブチルチタネート、チタン(オキシ)アセチルアセトネート、チタンテトラアセチルアセトネート、ポリヒドロキシチタンステアレート、チタンラクテート、ブチルチタネートダイマー、チタニア/シリカ複合酸化物(例えば、Acordis Industrial Fibers社製の製品名:C−94)がより好ましく、特に、テトラ−n−ブチルチタネート、ポリヒドロキシチタンステアレート、チタン(オキシ)アセチルアセトネート、チタンテトラアセチルアセトネート、チタニア/シリカ複合酸化物(例えば、Acordis Industrial Fibers社製の製品名:C−94)が好ましい。
【0176】
ジルコニウム化合物としては、具体的には、ジルコニウムテトラアセテイト、ジルコニウムアセテイトヒドロキシド、ジルコニウムトリス(ブトキシ)ステアレート、ジルコニルジアセテイト、シュウ酸ジルコニウム、シュウ酸ジルコニル、シュウ酸ジルコニウムカリウム、ポリヒドロキシジルコニウムステアレート、ジルコニウムエトキシド、ジルコニウムテトラ−n−プロポキシド、ジルコニウムテトライソプロポキシド、ジルコニウムテトラ−n−ブトキシド、ジルコニウムテトラ−t−ブトキシド、ジルコニウムトリブトキシアセチルアセトネート及びそれらの混合物等が例示される。更には、酸化ジルコニウムや、例えばジルコニウムと珪素を含む複合酸化物も好適に使用される。これらの中では、ジルコニルジアセテイト、ジルコニウムトリス(ブトキシ)ステアレート、ジルコニウムテトラアセテイト、ジルコニウムアセテイトヒドロキシド、シュウ酸ジルコニウムアンモニウム、シュウ酸ジルコニウムカリウム、ポリヒドロキシジルコニウムステアレート、ジルコニウムテトラ−n−プロポキシド、ジルコニウムテトライソプロポキシド、ジルコニウムテトラ−n−ブトキシド、ジルコニウムテトラ−t−ブトキシドが好ましく、ジルコニルジアセテイト、ジルコニウムテトラアセテイト、ジルコニウムアセテイトヒドロキシド、ジルコニウムトリス(ブトキシ)ステアレート、シュウ酸ジルコニウムアンモニウム、ジルコニウムテトラ−n−プロポキシド、ジルコニウムテトラ−n−ブトキシドがより好ましく、特にジルコニウムトリス(ブトキシ)ステアレートが着色のない高重合度の脂肪族ポリエステル樹脂(A)が容易に得られる理由から好ましい。
【0177】
ゲルマニウム化合物としては、具体的には、酸化ゲルマニウムや塩化ゲルマニウム等の無機ゲルマニウム化合物、テトラアルコキシゲルマニウムなどの有機ゲルマニウム化合物が挙げられる。価格及び入手の容易さなどから、酸化ゲルマニウム、テトラエトキシゲルマニウム及びテトラブトキシゲルマニウムが好ましく、特に、酸化ゲルマニウムが好ましい。
【0178】
更には、白水春雄著「粘土鉱物学」朝倉書店(1995年)等に記載される公知の層状珪酸塩を単独で或いは上記金属化合物と組み合わせた触媒を使用すると、重合速度が向上する場合があるため、このような触媒もまた好んで使用される。
【0179】
層状珪酸塩としては、具体的には、ディッカイト、ナクライト、カオリナイト、アノーキサイト、メタハロイサイト、ハロイサイト等のカオリン族、クリソタイル、リザルダイト、アンチゴライト等の蛇紋石族、モンモリロナイト、ザウコナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ヘクトライト、スチーブンサイト等のスメクタイト族、バーミキュライト等のバーミキュライト族、雲母、イライト、セリサイト、海緑石等の雲母族、アタパルジャイト、セピオライト、パリゴルスカイト、ベントナイト、パイロフィライト、タルク及び緑泥石群等が例示される。
【0180】
さらに、脂肪族ポリエステル樹脂(A)の製造用の触媒として、例えば、チタン化合物、アルカリ土類金属化合物及びリン化合物を予め混合させて調製した触媒(以下、適宜「金属複合触媒」と言う。)を用いることもできる。
【0181】
前記触媒中のチタン原子、アルカリ土類金属原子及びリン原子の含有量は、チタン原子の含有量をT(モル基準)、アルカリ土類金属の含有量をM(モル基準)及びリン原子の含有量をP(モル基準)とした場合、T/P(モル比)の下限は、通常0.5以上、好ましくは0.7以上であり、上限は、通常5.5以下、より好ましくは3.0以下である。下限値未満であると、触媒活性が低下する傾向がある。一方、上限値を超えると、製造される脂肪族ポリエステル樹脂(A)の着色が著しくなるばかりか、触媒の安定性が低下し、触媒の失活が起き、更には触媒失活物が製品中に混入して製品の品質を損ねる場合がある。
【0182】
一方、M/P(モル比)の下限は通常0.5以上、好ましくは0.7以上、より好ましくは0.9以上であり、上限は、通常5.5以下、好ましくは3.0以下、より好ましくは1.5以下である。下限値未満であると、触媒活性が低下する場合があり、上限値を超えると、この触媒を用いて得られる脂肪族ポリエステル樹脂(A)の熱安定性が悪化する場合がある。また、アルカリ土類金属が析出する場合もある。
【0183】
前記触媒はアルコール、チタン化合物、アルカリ土類金属化合物、及び酸性リン酸エステル化合物を混合し、この混合物を濃縮することによって製造することが好ましい。より詳しくは、
(i)アルコール、チタン化合物、アルカリ金属化合物及び酸性リン酸エステル化合物を混合、溶解、反応させる工程
(ii)工程(i)で得た反応溶液からアルコールなどを留去することにより濃縮を行うと同時に更に反応を進め、粘稠な液体状触媒、又は固体状触媒、あるいはこれらの混合物を得る工程により製造されることが好ましい。この時、用いられるアルコールは反応には関与せず、単に溶媒としてのみ働くものと考えられる。
【0184】
ここで粘稠な液体状触媒、又は固体状触媒、あるいはこれらの混合物と、得られる触媒の形態が異なるのは、濃縮の度合いによるものである。工程(ii)で得られる触媒はそのままか、あるいはエチレングリコール又は1,4−ブタンジオールなどのグリコールなどに溶解させてから容易に回収することができる。なお、濃縮時に留去されるものは溶媒として用いられるアルコール、チタン化合物、アルカリ土類金属化合物、及び酸性リン酸エステル化合物の反応によって副生するアルコール、有機酸などである。
【0185】
このようにして得られる触媒は、溶媒として用いられたアルコールを除く原料の総重量よりも通常重量が減少している。得られる触媒の重量W1と、混合に用いた、即ち、上記(i)の工程でアルコールと混合したチタン化合物、アルカリ土類金属化合物、及び酸性リン酸エステル化合物の重量の和W0との比W1/W0は、通常0.45以上通常0.85以下である。この比は、通常、用いられる原料化合物の種類、組成比等によって変化する。
【0186】
前記触媒の製造に使用されるアルコールは、チタン化合物、アルカリ土類金属化合物、及び酸性リン酸エステル化合物を混合して均一溶液になるアルコールであれば制限はなく、中でも、メタノール、エタノール、ブタノール、プロパノール、2−エチルヘキサノール等の1価アルコールが、化合物の溶解性や取り扱いの容易さから、好ましく用いられる。これらのアルコールは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。特にチタン化合物、アルカリ土類金属化合物、酸性リン酸エステル化合物の溶解性が高く、反応溶液を濃縮するときに、沸点が低く、除去しやすいことから、エタノールが好ましい。
【0187】
また、前記触媒の製造に使用されるチタン化合物としては、上記のようなテトラ−n−プロピルチタネート、テトライソプロピルチタネート、テトラ−n−ブチルチタネート、テトラ−n−ブチルチタネートテトラマー、テトラ−t−ブチルチタネートなどのテトラアルキルチタネートの他、アセチル−トリイソプロピルチタネート、酢酸チタン等が挙げられ、中でも、入手し易く、取り扱いが容易なテトライソプロピルチタネート、テトラ−n−ブチルチタネートが好ましく、テトラ−n−ブチルチタネートが特に好ましい。これらのチタン化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0188】
前記触媒の製造に使用されるアルカリ土類金属化合物としては、アルカリ土類金属の有機酸塩及び/又はその水和物が好ましく用いられる。中でも好ましい化合物としてはマグネシウム、カルシウム等の有機酸塩、及び/又はその水和物が挙げられるが、マグネシウム化合物が触媒活性の点で好ましい。マグネシウム化合物としては、例えば、酢酸マグネシウム、酪酸マグネシウムなどの有機酸塩等が挙げられるが、特に酢酸マグネシウム及び/又はその水和物が、アルコールに対する溶解度が高く、触媒の調製がし易いため好ましい。これらのアルカリ土類金属化合物は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、マグネシウム化合物とカルシウム化合物とのような、異なった金属の化合物を併用することもできる。
【0189】
酸性リン酸エステル化合物としては、本発明の脂肪族ポリエステル樹脂(A)が得られる限り任意であるが、中でも、下記式(11)及び/又は(12)で表される、少なくとも1個のヒドロキシル基を有するリン酸のエステル構造を有するものが好ましく用いられる。
【化19】

【化20】

(式中、R11、R12、R13は、それぞれ炭素数1以上6以下のアルキル基、シクロヘキシル基、アリール基又は2−ヒドロキシエチル基を表す。)
【0190】
このような酸性リン酸エステル化合物の具体例としては、メチルアシッドホスフェート、エチルアシッドホスフェート、イソプロピルアシッドホスフェート、ブチルアシッドホスフェート、オクチルアシッドホスフェートなどが挙げられ、エチルアシッドホスフェート、ブチルアシッドホスフェートが好ましい。これらの酸性リン酸エステル化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0191】
なお、酸性リン酸エステル化合物には上記式(12)で表されるモノエステル体と上記式(11)で表されるジエステル体があるが、高い触媒活性を示す触媒が得られる理由から、モノエステル体、又は、モノエステル体とジエステル体の混合物を用いるのが好ましい。モノエステル体とジエステル体との混合重量比は、80:20〜20:80の範囲が好ましく、更に好ましくは30:70〜70:30、特に好ましくは40:60〜60:40の範囲である。
【0192】
上記のチタン化合物、アルカリ土類金属化合物及び酸性リン酸エステル化合物並びに溶媒の混合、反応、濃縮等の工程は従来公知の装置を用いることができ、単一の反応槽で行っても良いし、複数の反応槽を任意に組み合わせて用いても良い。中でも、均一に反応させる観点から、反応槽は撹拌混合装置を有することが好ましい。
【0193】
金属複合触媒を製造する際のチタン化合物、アルカリ土類金属化合物及び酸性リン酸エステル化合物の反応温度は、通常0℃以上、好ましくは10℃以上、より好ましくは20℃以上、また、その上限は、通常100℃以下、好ましくは80℃以下、より好ましくは50℃以下であることが望ましい。反応後、必要に応じて従来公知の濃縮装置にて通常150℃以下で溶媒等を留去し、液体状又は固体状の金属複合触媒を得ることができる。
【0194】
(触媒溶解用の溶媒)
本発明の脂肪族ポリエステル樹脂(A)の製造方法において、重縮合反応は無溶媒下で行うことが好ましいが、これとは別に、触媒を溶解させるために少量の溶媒を使用しても良い。この触媒溶解用の溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール等のアルコール類、エチレングリコール、ブタンジオール、ペンタンジオール等のジオール類、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル類、アセトニトリル等のニトリル類、ヘプタン、トルエン等の炭化水素化合物、水等が挙げられる。触媒溶解用の溶媒としては、1種を単独で用いても良く、2種以上を任意の比率及び組み合わせで用いても良い。
【0195】
また、その使用量は、本発明の脂肪族ポリエステル樹脂(A)が得られる限り任意であるが、触媒濃度が、通常0.0001重量%以上、通常99重量%以下となるように使用することが望ましい。
【0196】
(使用量)
重合触媒として金属材料を用いる場合、触媒の使用量は、生成する脂肪族ポリエステル樹脂(A)の重量に対して、触媒に含まれる金属量が通常0.1ppm以上、好ましくは0.5ppm以上、より好ましくは1ppm以上、更に好ましくは5ppm以上、更により好ましくは10ppm以上、特に好ましくは20ppm以上、また、その上限は、通常30000ppm以下、好ましくは500ppm以下、より好ましくは250ppm以下、更に好ましくは100ppm以下、特に好ましくは60ppm以下となる触媒量を用いることが望ましい。使用する触媒の量が少なすぎる場合、重合活性が低くなり、それに伴い脂肪族ポリエステル樹脂(A)の製造中に脂肪族ポリエステル樹脂(A)の熱分解が引き起こされ、実用上有用な物性を示す脂肪族ポリエステル樹脂(A)が得られにくくなる場合がある。量が多すぎる場合、経済的に不利であるばかりでなく、理由は未だ詳らかではないが、脂肪族ポリエステル樹脂(A)中の末端カルボキシル基濃度が多くなる傾向がある為、末端カルボキシル基の量及び残留触媒濃度の増大により脂肪族ポリエステル樹脂(A)の熱安定性、耐加水分解性等が低下する場合がある。
【0197】
(導入時期)
また、反応系への触媒の混合時期は、重縮合反応以前であれば特に限定されず、原料仕込み時に反応系に混合しておいてもよいが、用いる触媒によっては、水が多く存在、もしくは発生している状況下で触媒が共存すると触媒が失活し、異物が析出する原因となり製品の品質を損なう場合があるため、後述するエステル化反応及び/又はエステル交換反応終了後に混合するほうが好ましい場合がある。
【0198】
(脂肪族ポリエステル樹脂(A)の製造)
本発明の脂肪族ポリエステル樹脂(A)の製造方法としては、本発明の脂肪族ポリエステル樹脂(A)が得られる限り任意であるが、通常、公知の反応装置及び公知の触媒を用いて、溶融重縮合により製造することが好ましい。
【0199】
(反応装置)
本発明の脂肪族ポリエステル樹脂(A)の製造方法には、通常、回分式反応と連続式反応が用いられる。回分式反応は、通常、エステル化反応及び/又はエステル交換反応と重縮合反応とを回分式で行う反応であり、連続式反応は、通常、エステル化反応及び/又はエステル交換反応と重縮合反応とを連続的に行う方法である。
【0200】
本発明の脂肪族ポリエステル樹脂(A)を回分式に製造する反応装置としては、例えば、公知の縦型あるいは横型撹拌槽型反応器を用いることができる。例えば、溶融重合を同一又は異なる反応装置を用いて、エステル化及び/又はエステル交換の工程と減圧重縮合の工程の2段階で行い、減圧重縮合の反応器としては、真空ポンプと反応器を結ぶ減圧用排気管を具備した攪拌槽型反応器を使用する方法が挙げられる。中でも、真空ポンプと反応器とを結ぶ減圧用排気管の間には、凝縮器が結合されており、当該凝縮器にて縮重合反応中に生成する揮発成分、未反応の単量体等が回収される方法が好適に用いられる。
【0201】
本発明の脂肪族ポリエステル樹脂(A)を連続式に製造する反応装置としては、通常、エステル化及び/又はエステル交換反応槽と重縮合反応槽とを用いる。エステル化及び/又はエステル交換反応槽としては、特に限定されるものではないが、例えば、公知の縦型攪拌完全混合層、縦型熱対流式混合層、塔型連続反応槽等を使用することができる。また、重縮合反応槽としても同様に特に限定されるものではなく、例えば、公知の縦型攪拌重合槽、横型攪拌重合槽、薄膜蒸発式重合槽などを使用することができる。なお、エステル化及び/又はエステル交換反応槽及び重縮合反応槽は、それぞれ1種を単独で用いても良いし、2種以上を任意に組み合わせて用いても良い。
【0202】
脂肪族ポリエステル樹脂(A)の製造方法として、例えば、上記の脂肪族ジカルボン酸を含むジカルボン酸成分と脂肪族ジオール成分とのエステル化反応及び/又はエステル交換反応を行った後、減圧下で、脂肪族ポリエステル樹脂(A)の末端ヒドロキシル基のエステル交換反応により生成するジオールを留去しながら脂肪族ポリエステル樹脂(A)の重合度を高める方法、若しくは、脂肪族ポリエステル樹脂(A)の末端カルボキシル基のエステル交換反応により生成するジカルボン酸及び/又はその酸無水物を留去しながら脂肪族ポリエステル樹脂(A)の重合度を高める方法等が挙げられる。
【0203】
本発明の脂肪族ポリエステル樹脂(A)の製造方法としては、より低温でも重合速度が高く、鎖延長剤等を用いずとも高重合度の脂肪族ポリエステル樹脂(A)が容易に得られる観点から、後者のジカルボン酸及び/又はその酸無水物を留去する方法を用いることが好ましい場合がある。この場合、ジカルボン酸及び/又はその無水物の除去は、通常、上記の重縮合反応中にジカルボン酸及び/又はその酸無水物を加熱留出させる方法が採られるが、重縮合反応条件下では、ジカルボン酸は酸無水物になりやすいため、酸無水物の形態で加熱留出させる場合が多い。また、その際、重合速度向上の観点から、ジオールから誘導される鎖状又は環状エーテル及び/又はジオールも共に除去されることが望ましい場合がある。
【0204】
ここで、ジカルボン酸及び/又はその酸無水物とジオールとを留去させる際、留去されるジカルボン酸及び/又はその無水物とジオールとの合計量に含まれるジカルボン酸及び/又はその無水物の量は、高重合度の脂肪族ポリエステル樹脂(A)を製造できるという観点から、通常30モル%以上、好ましくは50モル%以上、より好ましくは70モル%以上、更に好ましくは80モル%以上、特に好ましくは90モル%以上であることが望ましい。
【0205】
ジカルボン酸及び/又はその酸無水物を留去する方法により高重合度の脂肪族ポリエステル樹脂(A)を製造する製造装置の条件として、真空ポンプと反応器とを結ぶ減圧用排気管の反応容器側排気口の温度を、ジカルボン酸無水物の融点、又は重縮合反応時の真空度でのジカルボン酸無水物の沸点のいずれか低い方の温度以上に保持することが好ましい。これにより、生成するジカルボン酸及び/又はその酸無水物が効率よく反応系から除去でき、目的の高重合度の脂肪族ポリエステル樹脂(A)が短時間で製造できるため好ましい。更には、反応容器側排気口から凝縮器までの配管温度を酸無水物の融点、又は重縮合反応時の真空度での沸点のいずれか低い方の温度以上に保持することがより好ましい。
【0206】
(原料)
本発明の脂肪族ポリエステル樹脂(A)を製造する際の原料は、本発明の脂肪族ポリエステル樹脂(A)が得られる限り、任意である。ただし、[1−1−1−1.構成単位]に記載されている成分を原料として少なくとも用いることが好ましい。
【0207】
また、原料の使用量としては、得られる脂肪族ポリエステル樹脂(A)が所望の構成単位を所望の比率で有することができるように設定すればよい。具体的には、脂肪族ポリエステル樹脂(A)の目的、原料の種類等により好ましい範囲が異なるため一概には言えないが、脂肪族ジカルボン酸成分(1)1モルに対する脂肪族ジオール成分(2)の量が、通常0.8モル以上、好ましくは0.9モル以上であり、また、その上限が、通常3.0モル以下、好ましくは2.7モル以下、特に好ましくは2.5モル以下であることが望ましい。
【0208】
一方、本発明の脂肪族ポリエステル樹脂(A)を製造する際、上記のジカルボン酸及び/又はその酸無水物の留去しながら重縮合反応を行う場合、脂肪族ポリエステル樹脂(A)の目的、原料の種類等により好ましい範囲が異なるため一概には言えないが、脂肪族ジカルボン酸成分(1)1モルに対する脂肪族ジオール成分(2)の量が、通常0.8モル以上、好ましくは0.9モル以上、更に好ましくは0.95以上であり、また、その上限が、通常1.15モル以下、好ましくは1.1モル以下、特に好ましくは1.08モル以下であることが望ましい。
【0209】
また、本発明の脂肪族ポリエステル樹脂(A)が任意単位を含有する場合、その任意単位もそれぞれ目的とする組成となるように、それぞれに対応する成分(単量体やオリゴマー;以下、適宜「任意成分」と言う。)を反応に供すれば良い。任意成分は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の比率及び組み合わせで用いても良い。
【0210】
この時、上記の任意成分を反応系に導入する時期及び方法に制限は無く、本発明の効果を著しく損なわない限り、任意である。例えば脂肪族ヒドロキシカルボン酸成分を反応系に導入する時期及び方法は、重縮合反応以前であれば特に限定されず、例えば、(1)あらかじめ触媒を脂肪族ヒドロキシカルボン酸成分溶液に溶解させた状態で反応装置に供給する方法、(2)原料仕込み時触媒を反応装置に供給すると同時に、反応装置に供給する方法、等が挙げられる。
【0211】
(添加剤)
さらに、本発明の脂肪族ポリエステル樹脂(A)を製造するに際して、必要に応じて、本発明の効果を著しく損なわない範囲で、各種添加剤を任意の比率及び組み合わせで使用することが出来る。各種添加剤としては、例えば、有機リン化合物等が挙げられる。また、その使用量も、本発明の効果を著しく損なわない限り、任意であるが、有機リン化合物の含有量が、脂肪族ポリエステル樹脂(A)中のリン元素の含有量として、下限が、通常0.01ppm以上、好ましくは0.1ppm以上、より好ましくは1ppm以上、特に好ましくは10ppm以上である。一方、その上限は、通常5000ppm以下、好ましくは500ppm以下、より好ましくは300ppm以下、更に好ましくは100ppm以下、特に好ましくは30ppm以下である。使用量が少なすぎると脂肪族ポリエステル樹脂(A)の熱安定化が発現しない場合があり、使用量が多すぎると製造される脂肪族ポリエステル樹脂(A)の耐加水分解性が著しく低下する場合がある。各種添加剤は、1種を単独で用いても良く、2種以上を任意の比率及び組み合わせで用いても良い。
【0212】
本発明の脂肪族ポリエステル樹脂(A)中にリン元素を含有させるためには、以下に示す有機リン化合物を脂肪族ポリエステル樹脂(A)の製造時の任意の工程で混合する方法がとられるが、操作の容易さの理由から反応仕込み時に含有させる方法が好ましい。
【0213】
これらのリン元素含有化合物を製造時に混合することにより脂肪族ポリエステル樹脂(A)の熱安定化が発現し、より高温での脂肪族ポリエステル樹脂(A)の製造が可能となる。
【0214】
有機リン化合物としては、有機ホスフェイト金属塩、ホスファイトならびにホスホナイトの群から選ばれる有機リン化合物ならびにそれらの混合物であることが好ましい。この中でも、特に製造時の脂肪族ポリエステル樹脂(A)の熱安定化効果が高く且つ製造後の脂肪族ポリエステル樹脂(A)の耐加水分解性等の耐久性に優れる理由から、ホスファイトならびにホスホナイトがより好ましく、ホスファイトが特に好ましい。
【0215】
有機ホスフェイト金属塩としては、下記式(13)又は(14)により表される化合物であることが好ましい。
【化21】

【化22】

(式中、R14及びR15は、それぞれ独立に、例えば、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、オクチル、デシル、ドデシル、オクタデシル、シクロヘキシル、ステアリル等の炭素数1〜30のアルキル基、又はフェニル、ノニルフェニル、ブチルフェニル、ブチルメチルフェニル、ジブチルフェニル、ジブチルメチルフェニル、ビフェニル及びオクチルフェニル等の炭素数6〜30のアリール基を表す。Mは、周期表で、水素、炭素を除く1族〜15族金属元素を含む化合物である。具体的には、例えば、チタン、ジルコニウム、錫、アンチモン、セリウム、ゲルマニウム、亜鉛、コバルト、マンガン、鉄、アルミニウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、ナトリウムおよびカリウムからなる群から選ばれた、少なくとも1種以上の金属を表し、xは金属の価数を表す。)
【0216】
14及びR15としては、特に限定はされないが、通常脂肪族ポリエステル樹脂(A)との相溶性に優れる理由から、ヘキシル、オクチル、デシル、ドデシル、オクタデシル、シクロヘキシル、ステアリル等の炭素数6〜30のアルキル置換基を有する化合物が好ましく、金属としては、有害性が低く、製造されるポリエステルの耐久性が良い理由から、亜鉛、マグネシウム、カルシウム、アルミニウムが好ましく、その中でも特に、亜鉛が好ましい。
【0217】
具体的には、堺化学工業株式会社製のマグネシウムステアリルホスフェイト(LBT―1812)、アルミニウムステアリルホスフェイト(LBT―1813)、カルシウムステアリルホスフェイト(LBT―1820)、ジンクステアリルホスフェイト(LBT―1830)などが挙げられる。これらの中では、ポリエステルの耐加水分解性、熱安定化能が高い理由から、カルシウムステアリルホスフェイト(LBT―1820)ならびにジンクステアリルホスフェイト(LBT―1830)が好ましい。
【0218】
ホスファイトとしては、下記式(15)により表される化合物であることが好ましい。
【化23】

(式中、R16、R17及びR18は、それぞれ独立に、例えば、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、オクチル、デシル、ドデシル、オクタデシル、シクロヘキシル、ステアリル等の炭素数1〜30のアルキル基、又は、例えば、フェニル、ノニルフェニル、ブチルフェニル、ブチルメチルフェニル、ジブチルフェニル、ジブチルメチルフェニル、ビフェニル及びオクチルフェニル等の炭素数6〜30のアリール基を表す。)
【0219】
具体的には、これらの化合物の例は、トリス−(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、テトラキス−(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)−4,4′−ビフェニレンホスファイト、ビス−(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ペンタエリトリトールジホスファイト、ビス−(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリトリトールジホスファイト、ジステアリル−ペンタエリスリトール−ジフォスファイト、2,2−メチレンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)オクチルホスファイト、4,4−ブチリデンビス(3−メチル−6−t−ブチルフェニル−ジ−トリデシル)ホスファイト、1,1,3−トリス−(2−メチル−4−トリデシルホスファイト−5−t−ブチルフェニル)ブタン、トリス−(ノニルフェニル)ホスファイト及び4,4′−イソプロピリデンビス−(フェニル−ジアルキルホスファイト)等が挙げられる。これらの中では、ポリエステルの耐加水分解性が高い理由から、オルト位に一個又は二個の、より好ましくは2個のt−ブチル基を有する芳香族炭化水素基を有するものが好ましく、更にその構造に加えてペンタエリスリトール構造を有するものが特に好ましい。その様な化合物としては、トリス−(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、テトラキス−(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)−4,4′−ビフェニレンホスファイト、ビス−(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ペンタエリトリトールジホスファイト、ビス−(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリトリトールジホスファイト等が挙げられ、その中でもトリス−(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、ビス−(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリトリトールジホスファイトが好ましく、特にビス−(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリトリトールジホスファイトが好ましい。
【0220】
本発明におけるホスホナイトは、下記式(16)により表される化合物であることが好ましい。
【化24】

(式中、R19、R20及びR21は、それぞれ独立に、例えば、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、オクチル、デシル、ドデシル、オクタデシル、シクロヘキシル、ステアリル等の炭素数1〜30のアルキル基、又は、例えば、フェニル、ノニルフェニル、ブチルフェニル、ブチルメチルフェニル、ジブチルフェニル、ジブチルメチルフェニル、ビフェニル及びオクチルフェニル等の炭素数6〜30のアリール基を表す。)
【0221】
具体的には、例えば、テトラキス−(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)−1,1−ビフェニル−4,4′−ジイルビスホスホナイト、テトラキス−(2,4−ジ−t−ブチル−5−メチルフェニル)−1,1−ビフェニル−4,4′−ジイルビスホスホナイト等が挙げられ、好ましくは、テトラキス−(2,4−ジ−t−ブチル−5−メチルフェニル)−1,1−ビフェニル−4,4′−ジイルビスホスホナイトである。その構造式を以下に示す。
【0222】
【化25】

【0223】
本発明の脂肪族ポリエステル樹脂(A)を製造する際、有機リン化合物は、特に混合順序には限定はなく、例えば、原料の単量体と一括に反応装置に入れて反応することもできるし、脂肪族ジオール成分と脂肪族ジカルボン酸成分とをエステル化反応又はエステル交換反応させた後に反応装置に供給しても良い。
【0224】
更に本発明において、ジカルボン酸成分として脂肪族カルボン酸に加えて芳香族ジカルボン酸又はそのアルキルエステルを混合して使用する場合は、特に混合順序には限定はなく、例えば、第1として、原料の単量体を一括に反応装置に入れて反応することもできるし、第2として、ジオール成分と脂肪族ジカルボン酸成分とをエステル化反応又はエステル交換反応させた後、ジオール成分と芳香族ジカルボン酸成分をエステル化反応又はエステル交換反応させ、更に重縮合反応させる方法等種々の方法を採用することができる。
【0225】
(反応条件)
本発明の脂肪族ポリエステル樹脂(A)を溶融重縮合により製造する工程は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常は、エステル化反応及び/又はエステル交換反応を行い、減圧して重縮合反応を行う。
【0226】
(エステル化反応及び/又はエステル交換反応における反応温度、反応雰囲気、反応圧力、反応時間)
エステル化反応及び/又はエステル交換反応における反応温度、反応雰囲気、反応圧力、反応時間などの条件は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意である。ただし、脂肪族ジカルボン酸成分と脂肪族ジオール成分とのエステル化反応及び/又はエステル交換反応の反応温度は、通常150℃以上、好ましくは180℃以上、また、その上限は、通常260℃以下、好ましくは250℃以下である。反応雰囲気は、通常、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下であることが好ましい。さらに、反応圧力は、通常10kPa以上、通常常圧以下であるが、中でも常圧が好ましい。反応時間は、通常1時間以上、また、その上限は通常10時間以下、好ましくは4時間以下である。
【0227】
(重縮合反応における反応温度、反応雰囲気、反応圧力、反応時間)
重縮合反応の反応温度は、通常150℃以上、好ましくは180℃以上であり、上限が通常280℃以下、好ましくは260℃以下である。反応温度が低すぎる場合、重縮合反応の速度が極めて遅くなり、高重合度の脂肪族ポリエステル樹脂(A)の製造に長時間を要するばかりでなく、高動力の撹拌機が必要となる為、経済的に不利となる可能性がある。一方、反応温度が高すぎる場合、重合速度は向上するものの、重縮合反応時に生成した脂肪族ポリエステル樹脂(A)が同時に熱分解されてしまい、高重合度の脂肪族ポリエステル樹脂(A)の製造が難しくなる可能性がある。従って、本発明の脂肪族ポリエステル樹脂(A)の製造方法においては、重縮合反応の反応温度の制御が極めて重要である。
【0228】
また、反応雰囲気は、通常、窒素、アルゴン等の不活性雰囲気が好ましい。
【0229】
反応圧力は、通常0.01×103Pa以上、好ましくは0.01×103Pa以上であり、上限が通常1.4×103Pa以下、好ましくは0.4×103Pa以下の真空度下であることが望ましい。重合製造時の圧力が高すぎると、脂肪族ポリエステル樹脂(A)の重縮合時間が長くなり、脂肪族ポリエステル樹脂(A)の熱分解による分子量低下、脂肪族ポリエステル樹脂(A)の着色等が引き起こされ、実用上十分な特性を示す樹脂組成物(A´)を製造することが難しくなる可能性がある。一方、重合速度を向上させる観点からは、超高真空重合設備を用いた重縮合反応が好ましいが、圧力が低すぎると、極めて高額な設備投資が必要となる可能性がある。
【0230】
反応時間は、通常2時間以上であり、上限が通常15時間以下、好ましくは8時間以下、より好ましくは6時間以下である。反応時間が短すぎると反応が不十分となり、脂肪族ポリエステル樹脂(A)の重合度が低くなる可能性がある。また、脂肪族ポリエステル樹脂(A)の引張り破断伸び率が低く、また、その末端カルボキシル基量が多いことから、引張り破断伸び率の劣化が著しくなる可能性もある。一方、反応時間が長すぎると、脂肪族ポリエステル樹脂(A)の熱分解による分子量低下が引き起こされ、引張り破断伸び率が低下するばかりでなく、脂肪族ポリエステル樹脂(A)の耐久性に影響を与える末端カルボキシル基が熱分解により増加する可能性がある。また、得られる脂肪族ポリエステル樹脂(A)のゲル化が引き起こされる可能性もある。
【0231】
(重縮合反応における減圧平均速度と昇圧平均速度)
重縮合反応を進行させる際、通常、反応系の圧力を上記の反応圧力まで減圧するが、この際、減圧平均速度を制御しながら減圧することが好ましい。具体的な減圧平均速度として、常圧から2hPaまでの減圧平均速度が、通常2hPa/分以上、好ましくは3hPa/分以上、より好ましくは4hPa/分以上、更に好ましくは5hPa/分以上、特に好ましくは6hPa/分以上、また、その上限は、通常15hPa/分未満、好ましくは12hPa/分以下、より好ましくは10hPa/分以下、更に好ましくは9hPa/分以下、特に好ましくは8hPa/分以下であることが望ましい。減圧平均速度が遅すぎる場合、重縮合時間が長時間化する可能性がある。また、速すぎる場合、反応装置内の揮発成分の蒸発量が多くなり、重合体から奪われる蒸発熱の量が大きくなり、重合体温度が低下しすぎる可能性がある。その結果、反応速度が遅くなるため重縮合時間が長くなり、脂肪族ポリエステル樹脂(A)の熱分解による分子量低下が引き起こされ、脂肪族ポリエステル樹脂(A)の耐久性に影響を与える末端カルボキシル基が熱分解により増加する可能性がある。さらには、得られる脂肪族ポリエステル樹脂(A)がゲル化する可能性もある。しかし、減圧平均速度が上記範囲にあると、揮発成分の蒸発が少ないため、重合体温度の低下量が小さくなり、反応速度が遅くならないという利点が得られる。
【0232】
(重縮合反応における重合体温度の低下量)
また、上記のように反応系の圧力を減圧する際、通常、重合体温度が低下する。その理由は明らかではないが、以下のように推察される。即ち、一部の原料の蒸発、その他の揮発成分の蒸発によって重合体から奪われる熱量が、ヒーター等の外部から供給される熱量、重合体を撹拌することによるせん断発熱等の重合体に与えられる熱量よりも大きいからと考えられる。従って、外見上は重合体を加熱しているが、実際には、重合体の温度が低下すると推察される。具体的な重合体温度の低下量としては、例えば、100hPaと10hPaとの間で圧力を変化させる際、反応速度、製造コスト等の観点から理想的には0℃であることが好ましいが、厳密に0℃にするためには本発明の脂肪族ポリエステル樹脂(A)の製造コストがかかりすぎる可能性があるため、通常0℃より大きく、好ましくは0.5℃以上、より好ましくは1.0℃以上、更に好ましくは1.5℃以上、特に好ましくは2.0℃以上、また、その上限は、通常15℃以下、好ましくは10℃以下、より好ましくは8.0℃以下、更に好ましくは7.0℃以下、特に好ましくは5.0℃以下であることが望ましい。重合体温度の低下量が大きすぎる場合、反応速度が遅くなるため製造時間が長くなり、脂肪族ポリエステル樹脂(A)の熱分解による分子量低下、脂肪族ポリエステル樹脂(A)の耐久性に影響を与えるカルボキシル基末端量が熱分解により増加する等の可能性がある。さらには、得られる脂肪族ポリエステル樹脂(A)がゲル化する可能性もある。しかし、重合体温度の低下量が上記範囲にあると、反応速度が速く生産上に有利であるとともに、製造コストを抑えることもできる。重合体温度の低下量は、原料として用いる脂肪族ジオール成分と脂肪族ジカルボン酸成分との仕込みモル比、前述する減圧速度、反応温度等を変化させることにより調整できる。
【0233】
[1−1−2.有機過酸化物(B)]
本発明の樹脂組成物(A´)は、本発明の脂肪族ポリエステル樹脂(A)と、有機過酸化物(B)とを溶融混練してなる。有機過酸化物(B)としては、本発明の効果を著しく損なわない限り、任意のものを任意の比率で用いることが出来る。中でも、有機過酸化物(B)としては、ケトンパーオキサイド、ジアシルパーオキサイド、パーオキシジカーボネート、パーオキシエステル、パーオキシケタール、ジアルキルパーオキサイド、ハイドロパーオキサイドからなる群より選ばれる1種以上の化合物を用いることが好ましい。なお、有機過酸化物(B)は1種を単独で用いても良く、2種以上を任意の比率及び組み合わせで用いても良い。
【0234】
ケトンパーオキサイドの具体例としては、メチルエチルケトンパーオキサイド、シクロヘキサノンパーオキサイド、アセチルアセトンパーオキサイド等が挙げられる。
【0235】
ジアシルパーオキサイドの具体例としては、ジイソブチリルパーオキサイド、ジ3,5,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、ジラウロイルパーオキサイド、ジベンゾイルパーオキサイド等が挙げられる。
【0236】
パーオキシジカーボネートの具体例としては、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ−n−プロピルパーオキシジカーボネート、ジ(2−エチルヘキシル)パーオキシジカーボネート、ジ(4−t−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート等が挙げられる。
【0237】
パーオキシエステルの具体例としては、t−ヘキシルパーオキシネオデカノエート、t−ブチルパーオキシネオデカノエート、t−ブチルパーオキシネオヘプタノエート、t−ヘキシルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート等が挙げられる。
【0238】
パーオキシケタールの具体例としては、1,1−ジ(t−ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサン、1,1−ジ(t−ブチルパーオキシ)−2−メチルシクロヘキサン、n−ブチル4,4−ジ−(t−ブチルパーオキシ)バレレート等が挙げられる。
【0239】
ジアルキルパーオキサイドの具体例としては、ジクミルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、ジーt−ヘキシルパーオキサイド、2.5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、ジ(2−t−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキセン−3等が挙げられる。
【0240】
ハイドロパーオキサイドの具体例としては、t−ブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、p−メンタンハイドロパーオキサイド等が挙げられる。
【0241】
また、有機過酸化物(B)の使用量は、脂肪族ポリエステル樹脂(A)100重量部に対して、通常0.0001重量部以上、好ましくは0.0002重量部以上、より好ましくは0.0003重量部以上、また、その上限は、通常0.06重量部以下、好ましくは0.03重量部以下、より好ましくは0.01重量部以下である。有機過酸化物(B)の量が少なすぎる場合、架橋効果が得られなくなる場合があり、多すぎる場合、本発明の樹脂組成物(A´)に未反応の有機過酸化物(B)、残渣等が残る場合がある。また、有機過酸化物(B)の使用量が上記範囲にあると、本発明の樹脂組成物(A´)が所望の量で微架橋されることで溶融張力等が効率的に向上し、成形性が増すばかりでなく、臭気なども生じないという利点が得られる。
【0242】
なお、本発明の効果を著しく損なわない限り、上記の有機過酸化物(B)の使用量の上限値を超える範囲で有機過酸化物(B)を脂肪族ポリエステル樹脂(A)に混合し、樹脂組成物(A´)を製造し、その後脂肪族ポリエステル樹脂(A)と混合して希釈することで、有機過酸化物(B)の使用量が上記混合範囲内にある樹脂組成物(A´)を製造することも可能である。
【0243】
[1−2.物性]
本発明の樹脂組成物(A´)の物性は、本発明の効果を著しく損なわない限り、任意である。ただし、中でも、以下に記載する物性が、以下に記載する範囲を満たすことが好ましい。
【0244】
(含まれる脂肪族ジカルボン酸単位(1)の量)
本発明の樹脂組成物(A´)に含まれる脂肪族ジカルボン酸単位(1)の量は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常、脂肪族ポリエステル樹脂(A)に含まれる脂肪族ジカルボン酸単位(1)の量と同様である。
【0245】
なお、樹脂組成物(A´)に含まれる脂肪族ジカルボン酸単位(1)の量は、例えば、[1−1−1−1.構成単位]の(式(1)で表される脂肪族ジカルボン酸単位)に記載の方法に従って測定できる。
【0246】
(含まれる脂肪族ジオール単位(2)の量)
本発明の樹脂組成物(A´)に含まれる脂肪族ジオール単位(2)の量は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常、脂肪族ポリエステル樹脂(A)に含まれる脂肪族ジオール酸単位(2)の量と同様である。
【0247】
なお、樹脂組成物(A´)に含まれる脂肪族ジオール単位(2)の量は、例えば、[1−1−1−1.構成単位]の(式(2)で表される脂肪族ジオール単位)に記載の方法に従って測定できる。
【0248】
(含まれる脂肪族ヒドロキシカルボン酸単位(3)及び(4)の量)
本発明の樹脂組成物(A´)に含まれる脂肪族ヒドロキシカルボン酸単位(3)及び(4)の量は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常、それぞれ、脂肪族ポリエステル樹脂(A)に含まれる脂肪族ヒドロキシカルボン酸単位(3)及び(4)の量と同様である。
【0249】
なお、樹脂組成物(A´)に含まれる脂肪族ヒドロキシカルボン酸単位(3)及び(4)の量は、例えば、[1−1−1−1.構成単位]の(式(3)で表される脂肪族ヒドロキシカルボン酸単位)及び(式(4)で表される脂肪族ヒドロキシカルボン酸単位)に記載の方法に従って測定できる。
【0250】
(含まれる不飽和脂肪族ジカルボン酸単位(5)、(6)、(7)の量)
本発明の樹脂組成物(A´)に含まれる不飽和脂肪族ジカルボン酸単位(5)、(6)及び(7)(以下、これらを総称して、適宜「脂肪族不飽和ジカルボン酸単位」と言う。)中の二重結合は、脂肪族ポリエステル樹脂(A)と有機過酸化物(B)とを溶融混練すると、通常、有機過酸化物(B)と反応して、含まれる脂肪族ポリエステル樹脂(A)同士が架橋されるため、その一部又は全部が単結合となる。従って、本発明の樹脂組成物(A´)に含まれる脂肪族不飽和ジカルボン酸単位の量を測定することにより、脂肪族ポリエステル樹脂(A)同士の架橋の度合いを測定することができる。
【0251】
本発明の樹脂組成物(A´)に含まれる脂肪族不飽和ジカルボン酸単位の割合は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、樹脂組成物(A´)に含まれる全単位の合計に対して、通常0.25モル%以下、好ましくは0.18モル%以下、より好ましくは0.058モル%以下、さらに好ましくは0.048モル%以下、特に好ましくは0.038モル%以下である。割合が大きすぎる場合、樹脂組成物(A´)を成形加工する際、分岐鎖が過度に発生し易くなり、成形加工が困難になる場合がある。
【0252】
なお、樹脂組成物(A´)に含まれる脂肪族不飽和ジカルボン酸単位の量は、例えば、[1−1−1−1.構成単位]の(式(5)で表される脂肪族不飽和ジカルボン酸単位)に記載の方法に従って測定できる。
【0253】
(樹脂組成物(A´)の末端に存在するビニル基の量)
本発明の樹脂組成物(A´)の末端ビニル基の量は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、脂肪族ポリエステル樹脂(A)の末端ビニル基と有機過酸化物(B)とが反応しうるため、通常、脂肪族ポリエステル樹脂(A)の末端ビニル基の量よりも減少する。なお、末端ビニル基の量は、例えば、脂肪族ポリエステル樹脂(A)に含まれるビニル基の場合と同様に測定できる。
【0254】
(樹脂組成物(A´)の末端に存在するカルボキシル基の量)
本発明の樹脂組成物(A´)の末端カルボキシル基の量は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、樹脂組成物(A´)に対して、通常70μモル/g以下、好ましくは65μモル/g以下、より好ましくは60μモル/g以下、更に好ましくは40μモル/g以下、特に好ましいのは30μモル/g以下、また、その下限は、通常0.1μモル/g以上、好ましくは1.0μモル/g以上、より好ましくは5.0μモル/g以上、更に好ましくは10.0μモル/g以上、特に好ましいのは15.0μモル/g以上である。末端カルボキシル基の量が多すぎる場合、樹脂組成物(A´)の耐加水分解性が悪くなる場合がある。なお、末端カルボキシル基の量は、例えば、脂肪族ポリエステル樹脂(A)に含まれるカルボキシル基の場合と同様に測定できる。
【0255】
(還元粘度)
本発明の樹脂組成物(A´)の30℃における還元粘度η´(η´=ηsp´/c)は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常1.6dL/g以上、好ましくは1.8dL/g以上、より好ましくは1.9dL/g以上、更に好ましくは2.0dL/g以上、特に好ましいのは2.1dL/g以上、また、その上限は、通常6dL/g以下、好ましくは5dL/g以下、より好ましくは4dL/g以下、更に好ましくは3dL/g以下である。還元粘度が小さすぎる場合、樹脂組成物(A´)の成形時に十分な溶融粘度が得られない場合があり、大きすぎる場合、樹脂組成物(A´)の成形時に溶融粘度が大きくなりすぎる又はゲル化を促進してしまう場合がある。なお、還元粘度は、例えば、脂肪族ポリエステル樹脂(A)の場合と同様の方法により測定できる。
【0256】
(溶融張力)
本発明の樹脂組成物(A´)の190℃における溶融張力F´は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常2.0g以上、好ましくは2.5g以上、より好ましくは3.0g以上であり、また、その上限は、通常60g以下、好ましくは55g以下、より好ましくは50g以下である。溶融張力が小さすぎる場合、本発明の効果である樹脂組成物(A´)の成形加工性の改善効果が得られない場合があり、大きすぎる場合、樹脂組成物(A´)の成形時の溶融樹脂の延展性が低下する、フィルム等の成形体の伸び等の機械物性が低下する場合がある。なお、溶融張力は、例えば、脂肪族ポリエステル樹脂(A)の溶融張力と同様に測定できる。
【0257】
(溶融粘度)
本発明の樹脂組成物(A´)において、温度190℃、せん断速度10s-1における溶融粘度は、特に制限はないが通常100Pa・s以上、好ましくは150Pa・s以上、より好ましくは200Pa・s以上であり、また、その上限は、通常15000Pa・s以下、好ましくは13000Pa・s以下、より好ましくは10000Pa・s以下である。
【0258】
本発明の樹脂組成物(A´)において、温度190℃、せん断速度1000s-1における溶融粘度は、通常50Pa・s以上、好ましくは60Pa・s以上、より好ましくは70Pa・s以上であり、また、その上限は、通常1000Pa・s以下、好ましくは800Pa・s以下、より好ましくは600Pa・s以下である。
【0259】
本発明の樹脂組成物(A´)において、温度190℃、せん断速度1000s-1における溶融粘度に対して、温度190℃、せん断速度10s-1における溶融粘度の比ρ´は、通常3.0以上、好ましくは3.2以上、より好ましくは3.5以上である。ρ´が小さすぎる場合、適用する成形加工法、成形条件によっては樹脂組成物(A´)の成形が困難になる場合ある。
【0260】
なお、溶融粘度は、例えば、脂肪族ポリエステル樹脂(A)の場合と同様に測定できる。
【0261】
(融点)
本発明の樹脂組成物(A´)の融点は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常、脂肪族ポリエステル樹脂(A)の融点と同様である。融点が低すぎる場合、成形体の耐熱性が問題になる場合があり、高すぎる場合、樹脂組成物(A´)の成形加工が困難になる場合がある。
【0262】
(ドローダウン)
[1−1−1−2.物性]の(ドローダウン)に記載の方法で測定した本発明の樹脂組成物(A´)のドローダウンは、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常15秒以上、好ましくは18秒以上、より好ましくは20秒以上である。中でも、本発明の樹脂組成物(A´)をシートに成形し、当該シートのドローダウンが上記の範囲にあることが好ましい。ドローダウンが短すぎるとシートの真空成形において、加熱直後に溶融したシートが垂れ下がるため、容器などの成形体を得にくくなる場合がある。また、仮に真空成形できたとしても容器表面にシワが入るなどの問題が発生する場合がある。なお、ドローダウンは、例えば、脂肪族ポリエステル樹脂(A)の場合と同様に測定できる。
【0263】
[1−3.脂肪族ポリエステル樹脂(A)及び樹脂組成物(A´)における物性の好ましい関係]
(各構成単位の含有量)
【0264】
さらに、本発明の樹脂組成物(A´)に含まれる、脂肪族不飽和ジカルボン酸単位の合計に対する、脂肪族ヒドロキシカルボン酸単位(3)及び脂肪族ヒドロキシカルボン酸単位(4)の合計の割合yは、本発明の効果を著しく損なわない限り任意である。ただし、通常、脂肪族ポリエステル樹脂(A)に含まれる脂肪族不飽和ジカルボン酸単位中の二重結合と有機過酸化物(B)とが反応して、その全部/又は一部が単結合となるため、通常、樹脂組成物(A´)に含まれる脂肪族不飽和ジカルボン酸単位の量は、脂肪族ポリエステル樹脂(A)に含まれる脂肪族不飽和ジカルボン酸単位の量よりも減少する。従って、yの値は、通常、本発明の脂肪族ポリエステル樹脂(A)に含まれる、脂肪族不飽和ジカルボン酸単位の合計に対する脂肪族ヒドロキシカルボン酸単位(3)及び脂肪族ヒドロキシカルボン酸単位(4)の合計の割合xの値よりも大きくなる。
【0265】
具体的には、xでyを除した値(y/x)が、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常1.05以上、好ましくは1.07以上、より好ましくは1.10以上、また、通常5.00未満、好ましくは4.95以下、より好ましくは4.90以下である。y/xの値が小さすぎる場合、樹脂組成物(A´)中の架橋が発達しにくいため、本発明の効果である樹脂組成物(A´)の成形加工性の改善効果を得られない可能性があり、大きすぎる場合、樹脂組成物(A´)中の架橋が発達しすぎるため、樹脂組成物(A´)の成形加工が困難になる、成形体中のブツの量が多くなりすぎる等の可能性がある。
【0266】
また、脂肪族ポリエステル樹脂(A)と有機過酸化物(B)とを溶融混練させると、通常、脂肪族ポリエステル樹脂(A)同士の架橋が進行し、分子量が増大し還元粘度が増大する。従って、[1−1−1−2.物性]の(還元粘度)に記載の30℃における還元粘度ηで、[1−2.物性]の(還元粘度)に記載の30℃における還元粘度η´を除した値(η´/η)は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常1.05以上、好ましくは1.10以上、より好ましくは1.20以上であり、また、その上限は、通常1.80以下、好ましくは1.75以下、より好ましくは1.70以下である。
η´/ηが小さすぎる場合、架橋が発達していないため、樹脂組成物(A´)の溶融張力が不足し、押出成形時に冷却ロールへ張り付いたり、インフレーション成形において厚みが不均一になったりする可能性がある。また、η´/ηが大きすぎる場合、架橋が発達し過ぎ、ゲル分が非常に多くなる可能性がある。従って、成形加工プロセスにおいて、樹脂組成物(A´)の流動が不安定になったり、成形体表面にゲル分を目視で確認出来るようになり、美麗な外観の成形体を得ることが難しくなったりする可能性がある。
【0267】
さらに、脂肪族ポリエステル樹脂(A)と有機過酸化物(B)とを溶融混練させると、通常、脂肪族ポリエステル樹脂(A)同士の架橋が進行し、分子量が増大するとともに、脂肪族ポリエステル樹脂(A)中に分岐が発達するため、樹脂組成物(A´)の溶融張力が増大する。従って、[1−1−1−2.物性]の(溶融張力)に記載の溶融張力Fで、[1−2.物性]の(溶融張力)に記載の溶融張力F´を除した値(F´/F)は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常1.5以上、好ましくは1.55以上、より好ましくは1.60以上であり、また、その上限は、通常20以下、好ましくは19以下、より好ましくは18以下である。
F´/Fが小さすぎる場合、分子量及び脂肪族ポリエステル樹脂(A)中の分岐の発達が不十分であるため、樹脂組成物(A´)の溶融張力の向上が不十分となる可能性がある。また、F´/Fが大きすぎる場合、架橋が過度に発達するため、樹脂組成物(A´)表面に凝集物が目立つ、成形時の延展性が低下する、フィルム等の成形体の伸び等の機械物性が低下する等の可能性がある。
【0268】
そして、脂肪族ポリエステル樹脂(A)と有機過酸化物(B)とを溶融混練させると脂肪族ポリエステル樹脂(A)同士の架橋が進行し、分子量が増大するとともに脂肪族ポリエステル樹脂(A)中に分岐が発達するため、樹脂組成物(A´)の低せん断速度領域において非ニュートン性が高まり、即ち、溶融粘度がせん断速度に対して一定値をとらなくなり、溶融粘度が増大する。従って、[1−1−1−2.物性]の(溶融粘度)に記載の溶融粘度ρで、[1−2.物性]の(溶融粘度)に記載の溶融粘度ρ´を除した値(ρ´/ρ)は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常1.1以上、好ましくは1.15以上、より好ましくは1.20以上であり、また、その上限は、通常3.0以下、好ましくは2.9以下、より好ましくは2.8以下である。
ρ´/ρが小さすぎる場合、分子量及び脂肪族ポリエステル樹脂(A)の分岐の発達が不十分であり、成形性が十分に向上しない可能性がある。また、ρ´/ρが大きすぎる場合、架橋が発達しすぎているため、溶媒不溶成分であるゲル分が非常に多くなる可能性がある。
【0269】
(ゲル分)
本発明の樹脂組成物(A´)におけるゲル分の含有量は、通常10重量%未満、好ましくは8重量%以下、より好ましくは6重量%以下である。ゲル分が多すぎる場合、フィルム等の成形体表面に凝集物が散見され、外観が優れない成形体になるばかりでなく、その凝集物が成形体の機械物性にも悪影響を及ぼす場合がある。なお、ゲル分は、例えば、脂肪族ポリエステル樹脂(A)の場合と同様に測定できる。
【0270】
[1−4.本発明の樹脂組成物(A´)の製造方法]
本発明の樹脂組成物(A´)は、本発明の脂肪族ポリエステル樹脂(A)と、上記の有機過酸化物(B)とを溶融混練してなる。
【0271】
(混練の方法)
混練は、本発明の効果を著しく損なわない限り、任意の装置を用い、任意の方法で、任意の条件に設定して行うことができる。混練の装置としては、例えば、ロール、インターナルミキサーのようなバッチ式混錬機、1段型、2段型連続式混錬機、2軸スクリュー押出機、単軸スクリュー押出機等を使用できる。中でも、2軸スクリュー押出機、単軸スクリュー押出機が好ましい。混練の方法としては、例えば、加熱溶融させたところに各種添加剤を混合する方法などが挙げられる。また、各種添加剤を均一に分散させる目的でブレンド用オイル等を使用することもできる。混練の装置は、1種を単独で用いても良く、2種以上を任意に組み合わせて用いても良い。また、混練の方法も1種を単独で行っても良く、2種以上を任意に組み合わせて行っても良い。
【0272】
(温度)
混練の温度は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常80℃以上、好ましくは85℃以上、より好ましくは90℃以上、また、その上限は、通常260℃以下、好ましくは250℃以下、より好ましくは240℃以下である。温度が低すぎる場合、脂肪族ポリエステル樹脂(A)が十分に溶融せずに混合が困難であったり、架橋反応が十分に進行しなかったりする場合がある。また、温度が高すぎる場合、脂肪族ポリエステル樹脂(A)が熱分解して分子量が低下したり、架橋反応が進行しすぎて多量のゲル成分が生成したりする場合がある。
【0273】
(混練時間)
混練の時間は、混練装置の種類、脂肪族ポリエステル樹脂(A)及び有機過酸化物(B)の種類等によって一概には言えないが、通常0.1分以上、通常20分以下である。
【0274】
(各種添加剤)
本発明の樹脂組成物(A´)は、本発明の効果を著しく損なわない限り、各種添加剤を含有することが出来る。なお、本発明の樹脂組成物(A´)に各種添加剤を混合する順序、方法、添加量等は、最終的な樹脂組成物(A´)に各種添加剤が含有しており、本発明の効果を著しく損なわない限り、任意に決定できる。各種添加剤と脂肪族ポリエステル樹脂(A)と有機過酸化物(B)とを混合してから混練しても良いし、脂肪族ポリエステル樹脂(A)と有機過酸化物(B)とを混練しながら各種添加剤を混合しても良い。
【0275】
各種添加剤は、本発明の効果を著しく損なわない限り、任意のものを用いることができる。例えば、結晶核剤、フィラー、酸化防止剤等の熱安定剤、紫外線吸収剤、光安定剤(耐光剤)、帯電防止剤、滑剤、ブロッキング防止剤、離型剤、防曇剤、結晶核剤、可塑剤、着色剤、充填剤、相溶化剤、難燃剤、表面ぬれ改善剤、分散助剤、各種界面活性剤等が挙げられる。これらの中でも、結晶核剤、フィラーを用いることが好ましい。なお、添加剤は、1種を単独で用いても良く、2種以上を任意の比率及び組み合わせで用いても良い。
【0276】
結晶核剤の具体例としては、無機系核剤、有機系核剤等が挙げられる。なお、結晶核剤は、1種を単独で用いても良いし、2種以上を任意の比率及び組み合わせで用いても良い。
【0277】
無機系核剤の具体例としては、タルク、カオリン、モンモリロナイト、合成マイカ、クレー、ゼオライト、シリカ、グラファイト、カーボンブラック、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化チタン、硫化カルシウム、窒化ホウ素、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化アルミニウム、酸化ネオジウム、フェニルホスホネート等の金属塩等を挙げることができる。また、これらの無機系核剤は、樹脂組成物(A´)中での分散性を高めるために、有機物で修飾されていても良い。
【0278】
一方、有機系核剤の具体例としては、安息香酸ナトリウム、安息香酸カリウム、安息香酸リチウム、安息香酸カルシウム、安息香酸マグネシウム、安息香酸バリウム、テレフタル酸リチウム、テレフタル酸ナトリウム、テレフタル酸カリウム、シュウ酸カルシウム、ラウリン酸ナトリウム、ラウリン酸カリウム、ミリスチン酸ナトリウム、ミリスチン酸カリウム、ミリスチン酸カルシウム、オクタコサン酸ナトリウム、オクタコサン酸カルシウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸カリウム、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸バリウム、モンタン酸ナトリウム、モンタン酸カルシウム、トルイル酸ナトリウム、サリチル酸ナトリウム、サリチル酸カリウム、サリチル酸亜鉛、アルミニウムジベンゾエート、カリウムジベンゾエート、リチウムジベンゾエート、ナトリウムβ−ナフタレート、ナトリウムシクロヘキサンカルボキシレートなどの有機カルボン酸金属塩;p−トルエンスルホン酸ナトリウム、スルホイソフタル酸ナトリウムなどの有機スルホン酸塩;ステアリン酸アミド、エチレンビスラウリン酸アミド、パルチミン酸アミド、ヒドロキシステアリン酸アミド、エルカ酸アミド、トリメシン酸トリス(t−ブチルアミド)等のカルボン酸アミド;低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリイソプロピレン、ポリブテン、ポリ−4−メチルペンテン、ポリビニルシクロアルカン、ポリビニルトリアルキルシラン、高融点ポリ乳酸等のポリマー;エチレン−アクリル酸又はメタクリル酸コポリマーのナトリウム塩、スチレン−無水マレイン酸コポリマーのナトリウム塩などのカルボキシル基を有する重合体のナトリウム塩又はカリウム塩(いわゆるアイオノマー);ベンジリデンソルビトールおよびその誘導体、ナトリウム−2,2’−メチレンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)フォスフェート等のリン化合物金属塩;および2,2−メチルビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)ナトリウムなどを挙げることができる。
【0279】
フィラーとしては、従来公知のフィラーを用いることができる。フィラーは、通常、無機系フィラーと有機系フィラーとに大別される。
【0280】
無機系フィラーの具体例としては、無水シリカ、雲母、タルク、酸化チタン、炭酸カルシウム、ケイ藻土、アロフェン、ベントナイト、チタン酸カリウム、ゼオライト、セピオライト、スメクタイト、カオリン、カオリナイト、ガラス、石灰石、カーボン、ワラステナイト、焼成パーライト、珪酸カルシウム、珪酸ナトリウム等の珪酸塩、酸化アルミニウム、炭酸マグネシウム、水酸化カルシウム等の水酸化物、炭酸第二鉄、酸化亜鉛、酸化鉄、リン酸アルミニウム、硫酸バリウム等の塩類等が挙げられる。本発明の樹脂組成物(A´)における無機系フィラーの含有量は、通常1重量%以上、好ましくは5重量%以上、より好ましくは10重量%以上、また、その上限は、通常70重量%以下、好ましくは60重量%以下、より好ましくは50重量%であることが望ましい。
【0281】
なお、本発明の樹脂組成物(A´)を、特にシートに成形する際、シートの剛性向上の観点から、樹脂組成物(A´)は無機系フィラーを含有することが好ましい。この場合、樹脂組成物(A´)中の無機系フィラーの含有量としては、樹脂組成物(A´)に含まれる脂肪族ポリエステル樹脂(A)と無機系フィラーとの合計量に対して、通常10重量%以上、通常50重量%以下とすることが望ましい。無機系フィラーが少なすぎる場合、シートの剛性が向上しない可能性があり、多すぎる場合、シートの衝撃強度が低下する可能性がある。
【0282】
有機系フィラーの具体例としては、生澱粉、加工澱粉、パルプ、キチン・キトサン質、椰子殻粉末、木材粉末、竹粉末、樹皮粉末、ケナフ、藁等の粉末などが挙げられる。本発明の樹脂組成物(A´)における有機系フィラーの含有量は、通常0.01重量%以上、通常70重量%以下であることが望ましい。
【0283】
なお、これらの添加剤を混合する時期は、例えば前段工程の原料仕込み時に入れても良いし、後段工程の原料仕込み時に入れてもよく、本発明の樹脂組成物(A´)を製造する如何なる工程において、混合してもよい。
【0284】
本発明の樹脂組成物(A´)は、上記の添加剤の他に、他の任意の材料を含んでも良い。なお、他の任意の材料は、1種を単独で用いても良く、2種以上を任意の比率及び組み合わせで用いても良い。他の任意の材料としては、例えば、以下に記載する材料が挙げられる。なお、以下に例示する添加剤は添加剤の具体例であり、添加剤としては、以下に記載の内容に限定されるものではない。
【0285】
(その他の脂肪族ポリエステル樹脂)
本発明の樹脂組成物(A´)は、本発明の脂肪族ポリエステル樹脂(A)以外の脂肪族ポリエステル樹脂を含有していても良い。脂肪族ポリエステル樹脂としては、従来公知の各種の樹脂を用いることができる。中でも、脂肪族ポリエステル樹脂は、生分解性高分子、熱可塑性樹脂であることが好ましい。なお、脂肪族ポリエステル樹脂は、1種を単独で用いても良く、2種以上を任意の比率及び組み合わせで用いても良い。
【0286】
生分解性高分子としては、脂肪族ポリエステル系樹脂、脂肪族ヒドロキシカルボン酸系樹脂、多糖類、その他の分解性樹脂等が挙げられる。
【0287】
脂肪族ポリエステル系樹脂は、通常、脂肪族及び/又は脂環式ジオール単位と、脂肪族及び/又は脂環式ジカルボン酸単位と、必要に応じたその他の共重合単位とから構成される。
【0288】
脂肪族及び/又は脂環式ジオール単位の具体例としては、エチレングリコール単位、ジエチレングリコール単位、トリエチレングリコール単位、ポリエチレングリコール単位、プロピレングリコール単位、ジプロピレングリコール単位、1,3−ブタンジオール単位、1,4−ブタンジオール単位、3−メチル−1,5−ペンタンジオ−ル単位、1,6−へキサンジオール単位、1,9−ノナンジオール単位、ネオペンチルグリコール単位、ポリテトラメチレングリコール単位、1,4−シクロヘキサンジメタノール単位等が挙げられる。脂肪族及び/又は脂環式ジオール単位は、1種を単独で含んでも良く、2種以上を任意の比率及び組み合わせで含んでも良い。
【0289】
脂肪族及び/又は脂環式ジカルボン酸単位の具体例としては、コハク酸単位、シュウ酸単位、マロン酸単位、グルタル酸単位、アジピン酸単位、ピメリン酸単位、スベリン酸単位、アゼライン酸単位、セバシン酸単位、ウンデカン二酸単位、ドデカン二酸単位、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸単位等が挙げられる。脂肪族及び/又は脂環式ジカルボン酸単位は、1種を単独で含んでも良く、2種以上を任意の比率及び組み合わせで含んでも良い。
【0290】
その他の共重合単位としては、脂肪族ヒドロキシカルボン酸単位、3官能以上の脂肪族多価アルコール単位、脂肪族多価カルボン酸単位、脂肪族多価ヒドロキシカルボン酸単位等が挙げられる。その他の共重合単位は、1種を単独で含んでも良く、2種以上を任意の比率及び組み合わせで含んでも良い。
【0291】
脂肪族ヒドロキシカルボン酸単位の具体例としては、グリコール酸単位、乳酸単位、3−ヒドロキシ酪酸単位、4−ヒドロキシ酪酸単位、4−ヒドロキシ吉草酸単位、5−ヒドロキシ吉草酸単位、6−ヒドロキシカプロン酸単位等が挙げられる。脂肪族ヒドロキシカルボン酸単位は、1種を単独で含んでも良く、2種以上を任意の比率及び組み合わせで含んでも良い。
【0292】
3官能以上の脂肪族多価アルコール単位の具体例としては、トリメチロールプロパン単位、グリセリン単位、ペンタエリスリトール単位、プロパントリカルボン酸単位、リンゴ酸単位、クエン酸単位、酒石酸単位等が挙げられる。3官能以上の脂肪族多価アルコール単位は、1種を単独で含んでも良く、2種以上を任意の比率及び組み合わせで含んでも良い。
【0293】
脂肪族ポリエステル系樹脂に含まれるその他の共重合単位の量は、脂肪族ポリエステル系樹脂に含まれる全単位の合計量100モル%に対して、通常90モル%以下、好ましくは70モル%以下、より好ましくは50モル%以下であることが望ましい。
【0294】
また、脂肪族ヒドロキシカルボン酸系樹脂は、通常、脂肪族ヒドロキシカルボン酸単位と、その他の共重合単位とから構成される。
【0295】
脂肪族ヒドロキシカルボン酸単位の具体例としては、上記の脂肪族ポリエステル系樹脂に含まれうる脂肪族ヒドロキシカルボン酸単位と同様のものが挙げられる。脂肪族ヒドロキシカルボン酸単位は、1種を単独で含んでも良く、2種以上を任意の比率及び組み合わせで含んでも良い。
【0296】
また、その他の共重合単位としては、例えば、脂肪族及び/又は脂環式ジオール単位、脂肪族及び/又は脂環式ジカルボン酸単位、3官能以上の脂肪族多価アルコール単位、脂肪族多価カルボン酸単位、脂肪族多価ヒドロキシカルボン酸単位等が挙げられる。これらの各々の具体例としては、上記の脂肪族ポリエステル系樹脂に含まれる又は含まれうる当該単位の具体例が挙げられる。
【0297】
脂肪族ヒドロキシカルボン酸系樹脂に含まれるその他の共重合単位の量は、脂肪族ヒドロキシカルボン酸系樹脂に含まれる全単位の合計量100モル%に対して、通常90モル%以下、好ましくは70モル%以下、より好ましくは50モル%以下である。
【0298】
また、上記脂肪族ポリエステル系樹脂及び/又は脂肪族ヒドロキシカルボン酸系樹脂(以下、適宜「上記の樹脂」と言う。)は、生分解性を損なわない範囲で、少量の芳香族ジオール単位及び/又は芳香族アルコール単位、芳香族ジカルボン酸及び/又は芳香族多価カルボン酸単位、芳香族ヒドロキシカルボン酸単位等の芳香族性を有する単位(以下、これらを総称して、適宜「芳香族単位」と言う。)を含有してもよい。芳香族ジオール単位及び/又は芳香族アルコール単位の具体例としては、ビスフェノールA単位、1,4−ベンゼンジメタノール単位等が挙げられ、芳香族ジカルボン酸及び/又は芳香族多価カルボン酸単位の具体例としては、テレフタル酸単位、イソフタル酸単位、トリメリット酸単位、ピロリメリット酸単位、ベンゾフェノンテトラカルボン酸単位、フェニルコハク酸単位、1,4−フェニレンジ酢酸単位等が挙げられる。芳香族ヒドロキシカルボン酸単位の具体例としては、ヒドロキシ安息香酸単位等が挙げられる。芳香族単位は、1種を単独で含んでも良く、2種以上を任意の比率及び組み合わせで含んでも良い。また、上記の樹脂に含みうる芳香族単位の量は、各々の樹脂に含まれる全単位の合計量100モル%に対して、それぞれ、通常50モル%以下、好ましくは30モル%以下である。
【0299】
本発明の樹脂組成物(A´)が、本発明の脂肪族ポリエステル樹脂(A)と上記の樹脂とを含む場合、本発明の樹脂組成物(A´)に含まれる本発明の脂肪族ポリエステル樹脂(A)の量は、通常0.1重量%以上、好ましくは1重量%以上、より好ましくは2重量%以上、また、その上限は、通常99.9重量%以下、好ましくは99%以下、より好ましくは98重量%以下であることが望ましい。
【0300】
上記の樹脂の製造方法は、公知公用の方法を採用することが出来、特に限定されない。また、生分解性に影響を与えない範囲で、上記の樹脂には、イソシアネート結合、アミド結合、カーボネート結合、エーテル結合、ケトン結合等が導入されていても良い。また上記の樹脂としては、例えばイソシアネート化合物、エポキシ化合物、オキサゾリン化合物、酸無水物、過酸化物等を用いて分子量を高めたり、架橋させたりしたものを用いてもよい。さらに、上記の樹脂の末端を、カルボジイミド、エポキシ化合物、単官能性のアルコール、カルボン酸等で封止していても良い。
【0301】
多糖類としては、例えば、セルロース、酢酸セルロース等の変性セルロース、キチン、キトサン、澱粉、変性澱粉等が挙げられる。その他の分解性樹脂としては、ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリアルキレングリコール等が挙げられる。なお、多糖類は、1種を単独で用いても良く、2種以上を任意の比率及び組み合わせで用いても良い。その他の分解性樹脂も、1種を単独で用いても良く、2種以上を任意の比率及び組み合わせで用いても良い。
【0302】
熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−α−オレフィン共重合体等のポリオレフィン系樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、塩素化ポリオレフィン、ポリフッ化ビニリデン等の含ハロゲン系樹脂、ポリスチレン、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体などのスチレン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂、ポリイソプレン、ポリブタジエン、アクリロニトリル−ブタジエン共重合ゴム、スチレン−ブタジエン共重合ゴム、スチレン−イソプレン共重合ゴム等のエラストマー、ナイロン6,6、ナイロン6等のポリアミド系樹脂の他、ポリ酢酸ビニル、メタクリレート系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアセタール、ポリフェニレンオキサイド、ポリウレタン等が挙げられる。なお、熱可塑性樹脂は、1種を単独で用いても良く、2種以上を任意の比率及び組み合わせで用いても良い。
【0303】
(相溶化剤)
本発明の樹脂組成物(A´)には、樹脂組成物(A´)の相溶性を向上させるために、相溶化剤を含有させてもよい。
【0304】
相溶化剤は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意のものを用いることができる。相溶化剤の具体例としては、脂肪族ポリエステル樹脂(A)の末端又は主鎖に、エステル基、カルボン酸無水物、アミド基、エーテル基、シアノ基、不飽和炭化水素基、エポキシ基、アクリル基、メタクリル基、芳香族炭化水素基などを付加した化合物等が挙げられる。
【0305】
また、相溶化剤としては、例えば、脂肪族ポリエステル樹脂(A)と下記に記載する熱可塑性樹脂とのグラフト共重合体、ブロック共重合体、マルチブロック共重合体、ランダム共重合体等の各種共重合体が挙げられる。具体的には、熱可塑性樹脂として、例えば、ポリオレフィン樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアリレート、液晶ポリマー等の芳香族系脂肪族ポリエステル樹脂(A);ポリ塩化ビニル樹脂;SEBS(ポリスチレン−block−ポリ(エチレン−co−ブチレン)−block−ポリスチレン)、SEPS、ポリスチレン等のスチレン系樹脂;ナイロン6、ナイロン6−6、ナイロン6−10、ナイロン9、ナイロン11、ナイロン13ナイロン4、ナイロン4−6、ナイロン5−6、ナイロン12・ナイロン10−12、アラミド等のポリアミド系樹脂;リアセタール樹脂;ポリメチルメタクリレート、ポリメタクリル酸エステル、ポリアクリル酸エステル等のアクリル樹脂;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリ1,3−プロパンジオール、ポリテトラメレングリコール、変性ポリフェニレンエーテル等のポリエーテル樹脂;ポリフェニレンサルファイド樹脂;ポリエーテルケトン樹脂;ポリエーテルエーテルケトン樹脂;等が挙げられる。
【0306】
さらに、相溶化剤としては、溶融混合する2種以上の樹脂の構造の一部又は全部を同一分子中に含む化合物等も挙げられる。
【0307】
また、相溶化剤としては、例えば、ポリウレタン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、SEBS、SEPS、ポリスチレン、ナイロン6、ナイロン6−6、ナイロン12、ポリアセタール樹脂、ポリメチルメタクリレート、ポリメタクリル酸エステル、ポリアクリル酸エステル等のアクリル樹脂、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリ1,3−プロパンジオール、ポリテトラメレングリコール等のポリエステル樹脂の末端又は側鎖に、ヒドロキシル基、カルボキシル基、エステル基、アルキル基、アルキレン基からなる群より選ばれる1種以上の官能基と反応可能な1種以上の官能基を有するポリマーなども挙げられる。
【0308】
相溶化剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。特に、本発明の樹脂組成物(A´)においては、本発明の脂肪族ポリエステル以外の樹脂を含む場合、本発明の樹脂組成物(A´)が相溶化剤を含むことが好ましい。
【0309】
相溶化剤の使用量は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、本発明の樹脂組成物(A´)に対して、通常0.01重量部以上、好ましくは0.1重量部以上、より好ましくは1重量部以上、また、通常50重量部以下、好ましくは30重量部以下、より好ましくは10重量部以下である。また、使用量が少なすぎる場合、相溶化剤の効果が小さくなる可能性があり、多すぎる場合、製造コストが高くなる可能性がある。なお、相溶化剤を2種以上併用する場合には、それらの使用量の合計が上記範囲を満たすことが好ましい。
【0310】
さらに、相溶化剤は、本発明の樹脂組成物(A´)を製造する如何なる工程において、混合してもよい。
【0311】
(その他の添加剤)
本発明の樹脂組成物(A´)は、上記の材料以外に、さらに以下に例示する添加剤を含有しても良い。添加剤の含有量は、本発明の効果を損なわない限り制限されないが、混合する添加剤の総含有量が、本発明の樹脂組成物(A´)に対して、通常0.01重量%以上、通常10重量%以下であることが望ましい。また、添加剤は、本発明の樹脂組成物(A´)に、任意の形態で混合することができる。例えば、固体の状態で混合してもよいし、溶媒に溶解した溶液として、又は、溶剤に分散させたスラリーとして混合してもよい。なお、以下に例示する添加剤は添加剤の具体例であり、添加剤としては、以下に記載の内容に限定されるものではない。
【0312】
(熱安定剤)
本発明の樹脂組成物(A´)は、熱安定剤を含有してもよい。これにより、熱成形時に含まれる樹脂の劣化を抑制するという利点が得られる。
【0313】
熱安定剤は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意のものを用いることができる。その具体例としては、ジブチルヒドロキシトルエン(BHT;2,6−ジオーブチル−4−メチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、3,3’,3”,5,5’,5”−ヘキサ−tert−ブチル−a,a’,a”−(メシチレン−2,4,6−トリイル)トリ−p−クレゾール、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、1,3,5−トリス[(4−tert−ブチル−3−ヒドロキシ−2,6−キシリル)メチル]−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H、3H,5H)−トリオン、1,3,5−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H、3H,5H)−トリオン、カルシウムジエチルビス[[3,5−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドロキシフェニル]メチル]ホスホネート、ビス(2,2’−ジヒドロキシ−3,3’−ジ−tert−ブチル−5,5’−ジメチルフェニル)エタン、N,N’−ヘキサン−1,6−ジイルビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニルプロピオンアミド等のヒンダードフェノール系熱安定剤;トリデシルホスファイト、ジフェニルデシルホスファイト、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)[1,1−ビフェニル]−4,4’−ジイルビスホスフォナイト、ビス[2,4−ビス(1,1−ジメチルエチル)−6−メチルフェニル]エチルエステル亜リン酸、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジファスファイト等のリン系熱安定剤;3−ヒドロキシ−5,7−ジ−tert−ブチル−フラン−2−オンとキシレンの反応性生物等のラクトン系熱安定剤;ジラウリルチオジプロピオネート、ジステアリルチオジプロピオネート等の硫黄系酸化防止剤;等が挙げられる。熱安定剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0314】
また、熱安定剤の含有量は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、本発明の樹脂組成物(A´)に対して、通常100ppm以上、好ましくは200ppm以上、また、その上限は、通常5重量部以下、好ましくは1重量部以下、より好ましくは0.5重量部以下である。含有量が少なすぎる場合、熱安定剤の効果が小さくなる可能性がある。また、含有量が多すぎる場合、製造コストが高くなる可能性があり、また、熱安定剤のブリードアウトが生じたりする可能性がある。なお、熱安定化剤を2種以上併用する場合には、それらの使用量の合計が上記範囲を満たすことが好ましい。また、本明細書において「ppm」とは、重量を基準とした比率を表わす。
【0315】
熱安定剤は、本発明の樹脂組成物(A´)を製造する如何なる工程において、混合してもよい。
【0316】
(耐光剤)
本発明の樹脂組成物(A´)は、耐光剤を含有してもよい。これにより、光による樹脂組成物(A´)の劣化(即ち、分子量の低下)を抑制できるという利点が得られる。
【0317】
耐光剤は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意のものを用いることができる。その具体例としては、デカンニ酸ビス(2,2,6,6−テトラメチル−1(オクチルオキシ)−4−ピペリジニル)エステル、1,1−ジメチルエチルヒドロペルオキシドとオクタンとの反応生成物、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)[[3,5−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドロキシフェニル]メチル]ブチルマロネート、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケート、メチル1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジルセバケート、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、1−[2−[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ]エチル]−4−[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドトキシフェニル)プロピオニルオキシ]−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、ポリ[[6−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)アミノ−1,3,5−トリアジン−2,4−ジイル][(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ]ヘキサメチレン{(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ}]等のヒンダードアミン系安定剤等が挙げられる。耐光剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。特に、異なる種類の耐光剤を組み合わせて用いることが好ましく、さらに、紫外線吸収剤と組み合わせて用いることが好ましい。中でも、ヒンダードアミン系耐光剤と紫外線吸収剤とを組み合わせて用いることが好ましい。
【0318】
また、耐光剤の含有量は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、本発明の樹脂組成物(A´)に対して、通常100ppm以上、好ましくは200ppm以上、また、その上限は、通常5重量部以下、好ましくは1重量部以下、より好ましくは0.5重量部以下である。含有量が少なすぎる場合、耐光剤の効果が小さくなる可能性がある。また、含有量が多すぎる場合、製造コストが高くなる可能性があり、樹脂組成物(A´)の耐熱性、成形加工性が劣ったり、耐光剤のブリードアウトが生じたりする可能性がある。なお、耐光剤を2種以上併用する場合には、それらの使用量の合計が上記範囲を満たすことが好ましい。
【0319】
耐光剤は、本発明の樹脂組成物(A´)を製造する如何なる工程において、混合してもよい。
【0320】
(紫外線吸収剤)
本発明の樹脂組成物(A´)は、紫外線吸収剤を含有してもよい。
【0321】
紫外線吸収剤は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意のものを用いることができる。その具体例としては、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−6−ビス(1−メチル−1−フェニルエチル)フェノール、2−(4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジン−2−イル)−5−[(ヘキシル)オキシ]フェノール等が挙げられる。紫外線吸収剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。特に異なる種類の紫外線吸収剤を組み合わせて用いることが好ましく、さらに、耐光剤と組み合わせて用いることも好ましい。
【0322】
また、紫外線吸収剤の含有量は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、本発明の樹脂組成物(A´)に対して、通常100ppm以上、好ましくは200ppm以上、また、その上限は、通常5重量部以下、好ましくは2重量部以下、より好ましくは0.5重量部以下である。含有量が少なすぎる場合、紫外線吸収剤の効果が小さくなる可能性がある。また、含有量が多すぎる場合、製造コストが高くなる可能性があり、樹脂組成物(A´)の耐熱性、成形加工性が劣ったり、紫外線吸収剤のブリードアウトが生じたりする可能性ある。なお、紫外線吸収剤を2種以上併用する場合には、それらの使用量の合計が上記範囲を満たすことが好ましい。
【0323】
紫外線吸収剤は、本発明の樹脂組成物(A´)を製造する如何なる工程において、混合してもよい。
【0324】
(帯電防止剤)
本発明の樹脂組成物(A´)は、帯電防止剤を含有してもよい。
【0325】
帯電防止剤としては、本発明の効果を著しく損なわない限り任意のものを用いることができる。具体例としては、界面活性剤型のノニオン系、カチオン系、アニオン系が好ましい。
ノニオン系の帯電防止剤としては、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、アルキルジエタノールアミン、ヒドロキシアルキルモノエタノールアミン、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレンアルキルアミン脂肪酸エステルアルキルジエタノールアマイド類等が挙げられる。中でもアルキルジエタノールアミン類等が好ましい。
カチオン系の帯電防止剤としては、テトラアルキルアンモニウム塩、トリアルキルベンジルアンモニウム塩等が挙げられる。
アニオン系の帯電防止剤としては、アルキルスルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルホスフェート等が挙げられる。中でも、樹脂組成物(A´)との混練性に優れ、帯電防止効果も高いという観点から、アルキルベンゼンスルホン酸塩が好ましい。
帯電防止剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0326】
帯電防止剤の含有量は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、本発明の樹脂組成物(A´)に対して、通常0.5重量%以上、好ましくは1重量%以上、また、通常5重量%以下、好ましくは3重量%以下である。含有量が少なすぎる場合、帯電防止性向上効果が低減する可能性があり、含有量が多すぎる場合、樹脂組成物(A´)同士の融着性が低下する可能性がある。さらに、樹脂組成物(A´)の表面べたつきが発生し、成形後の製品価値が低下する可能性もある。
【0327】
帯電防止剤は、本発明の樹脂組成物(A´)を製造する如何なる工程において、混合してもよい。
【0328】
(その他)
さらに、上記のように、滑剤、ブロッキング防止剤、離型剤、防曇剤、結晶核剤、着色剤、難燃剤等を添加剤として用いてもよい。これらはいずれも、本発明の効果を著しく損なわない限り任意のものを用いることができる。また、その使用量も、本発明の効果を著しく損なわない限り任意である。さらに、これらの添加剤はいずれも、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0329】
ただし、上記の添加剤は、それぞれ、本発明の樹脂組成物(A´)に含まれる脂肪族ポリエステル樹脂(A)に対して、通常100ppm以上、好ましくは200ppm以上、また、通常5重量部以下、好ましくは1重量部以下、より好ましくは0.5重量部以下となるように用いることが望ましい。含有量が少なすぎる場合、混合の効果が小さくなる可能性があり、含有量が多すぎる場合、製造費が高くなる可能性があり、樹脂組成物(A´)の耐熱性、成形加工性が低下したり、添加剤のブリードアウトが生じたりする可能性がある。
【0330】
[1−5.用途]
本発明の樹脂組成物(A´)は、任意の形状で、任意の用途に用いることが出来る。例えば、成形体、発泡体等が挙げられる。中でも、本発明の樹脂組成物(A´)は、成形して成形体として用いることが好ましい。
【0331】
[2.成形体]
本発明の成形体は、本発明の樹脂組成物(A´)を、任意の形状に任意の方法で成形することにより得られる。中でも、押出成形を行い、フィルム、シート、押出発泡シート又はラミネート成形体とすることが好ましい。
【0332】
(形状)
本発明の成形体の形状は、本発明の効果を著しく損なわない限り、任意である。例えば、本発明の成形体がフィルム、シートである場合には、その厚さ、色、大きさ等は本発明の効果を著しく損なわない限り任意である。また、例えば、押出発泡シートの場合には発泡の度合い、ラミネート成形体の場合には積層数等を任意に決定することが出来る。
【0333】
(厚さ)
本発明の成形体が、例えばフィルム、シート、押出発泡シート、ラミネート成形体等のような膜状である場合、その厚さは本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常2μm以上、好ましくは5μm以上、より好ましくは8μm以上であり、その上限は通常5mm以下、好ましくは3mm以下、より好ましくは1mm以下である。
【0334】
(ドローダウン)
また、本発明の成形体がシートである場合、シートのドローダウンは、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常15秒以上、好ましくは18秒以上、より好ましくは20秒以上である。ドローダウンが短すぎる場合、二次成形としての真空成形時に、溶融したシートがすぐに垂れ下がるため、例えば樹脂容器が成形できない、又は成形できたとしても、例えば樹脂容器にシワが入る可能性がある。
【0335】
(用途)
本発明の成形体は、本発明の効果を著しく損なわない限り、任意の形状で、任意の用途に用いることができる。例えば、本発明の樹脂組成物(A´)を成形して成形体を製造し、さらに真空成形、真空圧空成形又は熱板成形して、樹脂容器を製造しても良い。
【実施例】
【0336】
以下に本発明の実施例により更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を逸脱しない限り、これらの実施例によって限定されるものではない。
【0337】
[1.物性の測定方法]
[1−1.MFR及びMVR]
溶融流動体積であるMVR、及びMFRは、タカラ工業製メルトインデクサーを用い、JIS−K7210の方法に従って測定した。
【0338】
具体的には、80℃で12時間乾燥した脂肪族ポリエステル樹脂(A)をメルトインデクサーに供することにより、MVR(2.16)とMVR(10.0)とを測定した。メルトインデクサーの条件としては、190℃で荷重10.0kgで測定した単位時間当たりの溶融流動体積(cm3/10分)をMVR(10.0)とし、190℃で荷重2.16kgで測定した単位時間当たりの溶融流動体積(cm3/10分)をMVR(2.16)とした。また、MVR(2.16)の値を、MVR(10.0)の値で除した値をMVR−Rとした。
【0339】
また、80℃で12時間乾燥した脂肪族ポリエステル樹脂(A)をメルトインデクサーに供することにより、MFRを測定した。メルトインデクサーの条件としては、190℃で荷重2.16kgとし、この条件下で測定した単位時間当たりの溶融流動した重量(g/10分)をMFRの値とした。
【0340】
[1−2.末端カルボキシル基量]
末端に存在するカルボキシル基の量(μモル/g)は、脂肪族ポリエステル樹脂(A)をベンジルアルコールに溶解し、0.1Nの水酸化ナトリウム水溶液で中和滴定することにより、測定した。
【0341】
[1−3.還元粘度]
本発明の脂肪族ポリエステル樹脂(A)の30℃における還元粘度(ηsp/c)は、ウベローデ粘度管を用いて測定した。具体的には、フェノール/テトラクロロエタン(1:1重量比)溶媒に、脂肪族ポリエステル樹脂(A)を0.5g/dlとなるように溶解させ、脂肪族ポリエステル樹脂(A)溶液の30℃での溶液粘度をウベローデ粘度管で測定した。
【0342】
[NMR測定条件]
1H−NMRを用いて、末端ヒドロキシル基量、末端ビニル基量、脂肪族不飽和ジカルボン酸単位(8)及び(9)の定量、含まれる脂肪族ヒドロキシカルボン酸単位(3)を定量した。0.6mlの重クロロホルムに20mgのポリマーを溶解させた溶液を測定サンプルとし、ブルカー・バイオスピン社製Avance 400分光計を用い室温で1H−NMRスペクトルを測定して定量した。フリップ角は45度、データの取り込み時間は4秒、待ち時間は6秒、積算回数は256回である。ウィンドウ関数にLB(Line Broadening)=0.1Hzの指数関数を用い、フーリエ変換処理をした。
【0343】
[1−4.末端ヒドロキシル基量]
脂肪族ポリエステル樹脂(A)の末端に存在するヒドロキシル基(即ち、末端ヒドロキシル基)は、1H−NMRを用いて、3.66ppm付近に出現する末端ヒドロキシル基が直接結合する炭素原子上のメチレンプロトンのピークにより定量した。
【0344】
[1−5.末端ビニル基量]
脂肪族ポリエステル樹脂(A)の末端に存在するビニル基(即ち、末端ビニル基)の量は、1H−NMRを用いて、5.15ppm付近、又は、5.78ppm付近に出現する脂肪族ポリエステル樹脂(A)の末端に存在する二重結合を形成する炭素原子上のプロトンのピークにより定量した。
【0345】
[1−6.脂肪族不飽和ジカルボン酸単位(8)及び(9)の定量]
脂肪族不飽和ジカルボン酸単位(8)の定量は、1H−NMRを用いて、6.85ppm付近に出現する当該単位中の二重結合を形成する炭素原子上のプロトンのピークにより定量した。また、脂肪族不飽和ジカルボン酸単位(9)の定量は、1H−NMRを用いて、6.25ppm付近に出現する当該単位中の二重結合を形成する炭素原子上のプロトンのピークにより定量した。
【0346】
[1−7.含まれる脂肪族ヒドロキシカルボン酸単位(3)の量]
脂肪族ヒドロキシカルボン酸単位(3)の定量は、1H−NMRを用いて行った。当該単位の有するヒドロキシル基がエステル結合を形成し分岐鎖を生じている場合、5.47ppm付近に、未反応の場合、4.49ppm付近に出現する当該単位中のメチンプロトンのピークにより定量した。
【0347】
[1−8.YI値]
YI値は、ペレット状脂肪族ポリエステル樹脂(A)を内径30mm、深さ12mmの円柱状の粉体測定用セルに充填し、測色色差計Color Meter ZE2000(日本電色工業株式会社)を使用して、JIS K7105の方法に基づいて測定した。反射法により測定セルを90度ずつ回転させて4箇所測定した値の単純平均値として求めた。
【0348】
[1−7.溶融張力]
溶融張力は、[1−1−1−2.物性]の(溶融張力)に記載の方法に従って測定した。
【0349】
[1−8.溶融粘度]
溶融粘度は、[1−1−1−2.物性]の(溶融粘度)に記載の方法に従って測定した。
【0350】
[1−9.ドローダウン]
ドローダウンは、[1−1−1−2.物性]の(ドローダウン)に記載の方法に従って測定した。
【0351】
[1−10.ゲル分]
ゲル分は、[1−1−1−2.物性]の(ゲル分)に記載の方法に従って測定した。
【0352】
[1−11.成形体の外観評価]
得られた樹脂容器の外観を目視で観察し、以下の判断基準に従って評価した。
○:樹脂容器の表面に凹凸が目視で確認されず、表面状態(平滑性)が良好である。
×:樹脂容器の表面に凹凸を目視で確認できる。
【0353】
[2.脂肪族ポリエステル樹脂(A)]
脂肪族ポリエステル樹脂(A)としては、以下に記載の触媒を用いて得られた、以下の3種類を用いた。
【0354】
[2−1.重縮合反応用触媒の調製]
撹拌装置付き500mlのガラス製ナス型フラスコに、酢酸マグネシウム四水和物を62.0g入れ、更に250gの無水エタノール(純度99%以上)を加えた。更にエチルアシッドホスフェート(モノエステル体とジエステル体の混合重量比は45:55)を35.8g加え、23℃で撹拌を行った。15分後に酢酸マグネシウムが完全に溶解したことを確認後、テトラ−n−ブチルチタネートを75.0g添加した。更に10分間撹拌を継続し、均一混合溶液を得た。
【0355】
この混合溶液を1Lのナス型フラスコに移し、60℃のオイルバス中でエバポレーターによって減圧下で濃縮を行った。約1時間後に殆どのエタノールが留去され、半透明の粘稠な液体が残った。オイルバスの温度を更に80℃まで上昇させ、5Torrの減圧下で更に濃縮を行った。粘稠な液体は表面から粉体状へと徐々に変化し、約2時間後には完全に粉体化した。その後、窒素を用いて常圧に戻し、室温まで冷却し、淡黄色粉体108gを得た。
【0356】
得られた触媒に含まれる金属元素を、試料0.1gをケルダールフラスコ中で硫酸存在下、過酸化水素で湿式分解の後、蒸留水にて定容したものについて、プラズマ発光分光分析装置(JOBIN YVON社製ICP−AES ULtrace JY−138U型)を用いて定量分析した結果、チタン原子(T)含有量が10.3重量%、Mg原子(M)含有量が6.8重量%、リン原子(P)含有量が8.7重量%であり、モル比としては、T/P=0.78、M/P=1.0であった。また、反応後の重量は、反応前の重量と比べて、エタノール溶媒を除く原料総重量の37%が減少していた。更に、粉体状の触媒を、チタン原子含有量が34000ppmとなるように、1,4−ブタンジオールに溶解させた。1,4−ブタンジオール中における触媒の保存安定性は良好であり、窒素雰囲気下40℃で保存した触媒溶液は、少なくとも40日間析出物の生成は認められなかった。また、この触媒溶液のpHは6.1であった。尚、本触媒溶液においては、ブタノールや1,4−ブタンジオールのアルコキシド基由来の吸収が1H−NMR上で観測されず、本触媒のチタン金属には有機アルコキシド基が結合していないことが判明した。
【0357】
[2−2.製造例]
[2−2−1.脂肪族ポリエステル樹脂(A)(A−1)の製造(製造例1)]
攪拌装置、窒素導入口、加熱装置、温度計及び減圧用排気口を備えた反応容器に、原料としてコハク酸100.3重量部、1,4−ブタンジオール99.5重量部、リンゴ酸0.37重量部を仕込み、窒素−減圧置換によって系内を窒素雰囲気下にした。系内を撹拌しながら1時間かけて230℃まで昇温し、この温度で1時間反応させた。その後、上記の触媒溶液を添加した。添加量は、得られる脂肪族ポリエステル樹脂(A)の重量に対して、チタン原子が50ppmとなる量とした。280分かけて250℃まで昇温し、同時に0.7hPaまで減圧し、減圧開始から5.6時間反応させ脂肪族ポリエステル樹脂(A)(A−1)を得た。
【0358】
この時、常圧から2hPaまでの減圧平均速度は、7.9hPa/分とした。また、反応系内を100hPaと10hPaとの間で圧力を変化させる際の重合体温度の低下量は、2.3℃であった。圧力降下時の重合体温度の低下が小さく、高い反応性を維持したまま、脂肪族ポリエステル樹脂(A)を製造することが可能であった。
【0359】
得られた脂肪族ポリエステル樹脂(A)(A−1)の還元粘度は2.4dL/gであり、白色の脂肪族ポリエステル樹脂(A)(YI値:2.5)が得られた。190℃におけるMVR(2.16)の値は3.6cm3/10分、MVR(10.0)の値は38.6cm3/10分であり、MVR(2.16)の値を、MVR(10.0)の値で除したMVR−Rの値は、10.7であった。得られた脂肪族ポリエステル樹脂(A)(A−1)の末端カルボキシル基量は51μモル/gであった。全共重合体単位に対して、リンゴ酸に由来する単位は0.082モル%、フマル酸に由来する単位は0.024モル%、マレイン酸に由来する単位は0.0075モル%であり、それらの合計は0.11モル%であった。この時、リンゴ酸に由来する単位の量は、フマル酸に由来する単位及びマレイン酸に由来する単位の合計量に対するモル比として、2.6であった。さらに、フマル酸に由来する単位の量は、マレイン酸に由来する単位の量に対するモル比として、3.2であった。さらに、末端ビニル基量は12.4μモル/gであった。得られた脂肪族ポリエステル樹脂(A)(A−1)の、190℃、荷重2.16kgの条件下におけるMFRは2.6g/10分と低く、フィルムや容器などの成形に良好な溶融張力を有する樹脂であった。これ以外の測定した物性を、表1〜表3に示した。
【0360】
[2−2−2.脂肪族ポリエステル樹脂(A)(A−2)の製造(製造例2)]
常圧から2hPaまでの減圧平均速度を12.8hPa/分、反応系内を100hPaと10hPaとの間で圧力を変化させる際の重合体温度の低下量が7.3℃であり、減圧開始から6.5時間反応させたこと以外は製造例1と同一の条件で製造を行い、脂肪族ポリエステル樹脂(A)(A−2)を得た。
【0361】
得られたポリエステル樹脂(A−2)の還元粘度は2.4dL/gであり、白色のポリエステル(YI値:3.9)が得られた。MVR(2.16)の値は2.0cm3/10分、MVR(10.0)の値は29.4cm3/10分であり、MVR(2.16)の値を、MVR(10.0)の値で除したMVR−Rの値は、14.7であった。得られた脂肪族ポリエステル樹脂(A)(A−2)の末端カルボキシル基量は44μモル/gであった。全共重合体単位に対して、リンゴ酸に由来する単位は0.072モル%、フマル酸に由来する単位は0.022モル%、マレイン酸に由来する単位は0.0055モル%であり、それらの合計は0.10モル%であった。この時、リンゴ酸に由来する単位の量は、フマル酸に由来する単位及びマレイン酸に由来する単位の合計量に対するモル比として、2.6であった。さらに、フマル酸に由来する単位の量は、マレイン酸に由来する単位の量に対するモル比として、4.0であった。さらに、末端ビニル基量は15.2μモル/gであった。得られた脂肪族ポリエステル(A−2)の190℃、荷重2.16kgの条件下におけるMFRは3.7g/10分と低く、フィルムや容器などの成形に良好な溶融張力を有する樹脂であった。これ以外の測定した物性を、表1〜表3に示した。
【0362】
[2−2−3.脂肪族ポリエステル樹脂(A)(A−3)の製造(製造例3)]
攪拌装置、窒素導入口、加熱装置、温度計及び減圧用排気口を備えた反応容器に、原料としてコハク酸100.3重量部、1,4−ブタンジオール88.8重量部、リンゴ酸0.37重量部並びに触媒として二酸化ゲルマニウムを予め0.98重量%となるように溶解させた88%乳酸水溶液5.4重量部を仕込み、窒素−減圧置換によって系内を窒素雰囲気下にした。系内を撹拌しながら1時間かけて220℃に昇温し、この温度で1時間反応させた。次に、160分かけて230℃まで昇温し、同時に0.7hPaまで減圧し、減圧開始から5.4時間反応させ脂肪族ポリエステル樹脂(A)(A−3)を得た。
【0363】
この時、常圧から2hPaまでの減圧平均速度は、12.8hPa/分とした。また、反応系内を100hPaと10hPaとの間で圧力を変化させる際の反応系内の重合体温度の低下量は、1℃未満であった。
【0364】
得られた脂肪族ポリエステル樹脂(A)(A−3)の還元粘度は2.5dL/gであり、白色の脂肪族ポリエステル樹脂(A)(YI値:0.5)が得られた。MVR(2.16)の値は5.1cm3/10分、MVR(10.0)の値は50.5cm3/10分であり、MVR(2.16)の値を、MVR(10.0)の値で除したMVR−Rの値は、9.9であった。得られた脂肪族ポリエステル樹脂(A)(A−3)の末端カルボキシル基量は26μモル/gであった。全共重合体単位に対して、リンゴ酸に由来する単位は0.097モル%、フマル酸に由来する単位は0.011モル%、マレイン酸に由来する単位は0.0012モル%であり、それらの合計は0.11モル%であった。この時、リンゴ酸に由来する単位の量は、フマル酸に由来する単位及びマレイン酸に由来する単位の合計量に対するモル比として、8.0であった。さらに、フマル酸に由来する単位の量は、マレイン酸に由来する単位の量に対するモル比として、9.2であった。さらに、末端ビニル基量は4.4μモル/gであった。得られた脂肪族ポリエステル樹脂(A)(A−3)の190℃、荷重2.16kgの条件下におけるMFRは3.3g/10分と低く、フィルムや容器などの成形に良好な溶融張力を有する樹脂であった。これ以外の測定した物性を、表1〜表3に示した。
【0365】
[3.有機過酸化物(B)]
有機過酸化物(B)としては、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン(日本油脂製パーヘキサ25B;分子式 C16344、分子量290.45)を用いた。
【0366】
[4.樹脂組成物(A´)の製造]
[実施例1]
脂肪族ポリエステル樹脂(A)(A−1)100重量部と有機過酸化物(B)0.0001重量部とを、ヘンシェルミキサーにて混合した。得られた混合物を2軸押出混合機を用いて温度190℃、スクリュー回転数150rpmにて溶融混練し、ストランドを水冷し切断することで、白色の樹脂組成物(A´)を得た。その後、樹脂組成物(A´)のペレットを70℃、窒素雰囲気下で8時間乾燥を行なった。樹脂組成物(A´)(A´−1)の物性を測定したところ、表1〜表3のようになった。
【0367】
得られた樹脂組成物(A´)(A´−1)を、Tダイシート成形機(スクリュー径30mmφ、L/D=32、T−ダイ幅:350mm、クリアランス1.0mm)を用いて、成形温度190℃、ロール温度30℃でシート成形して厚み450μmのシートを成形した。得られたシートを用いて、間接加熱式圧空成形機を使用して、温度325℃、加熱時間12秒、圧空圧力2kg/cm2の条件にて、縦24cm、横18cm、深さ4cmの樹脂容器を成形したところ、シートのドローダウンに起因する成形体のシワ、ブツなどもなく、外観の良好な成形体を得ることができた。
【0368】
[実施例2]
実施例1で、有機過酸化物(B)の配合量を0.0007重量部とした以外は同様の方法で製造し、樹脂組成物(A´)(A´−2)を得た。物性値を表1〜表3に示した。
【0369】
樹脂組成物(A´)(A´−2)を、実施例1と同様の方法でシート成形及び樹脂容器成形を実施したところ、シートのドローダウンに起因する成形体のシワ、ブツなどもなく、外観の良好な成形体を得ることができた。
【0370】
[実施例3]
実施例1で、有機過酸化物(B)の配合量を0.0012重量部とした以外は同様の方法で製造し、樹脂組成物(A´)(A´−3)を得た。物性値を表1〜表3に示した。
【0371】
上記樹脂組成物(A´)(A´−3)100重量部とタルク(富士タルク社製、PKP−53S)0.01重量部とを配合し、二軸押出機を用いて温度190℃、スクリュー回転数150rpmにて溶融混練し、ストランドを水冷し切断することで、白色の樹脂組成物(A´)(A´−31)を得た。この樹脂組成物(A´)(A´−31)を、シリンダー径45mm、L/D=32の同方向回転噛合型2軸押出機を1段目の押出機とし、シリンダー径50mm、L/D=27の単軸押出機を2段目の押出機として搬送管で連結したタンデム型押出機に、振動式定量フィーダーから10kg/時間の割合で供給した。発泡剤注入口より発泡剤として炭酸ガスを溶融物100重量部に対して2.0重量部の割合で注入し、連続的に押し出して円筒シート状の発泡体を得た。なお、1段目押出機シリンダー温度は160〜190℃、搬送管温度は155〜160℃とし、2段目押出機シリンダー温度は120〜160℃、2段目押出機ヘッド温度は115〜120℃とした。得られた円筒シート状の発泡体は、発泡状態もよく、厚みむらの少ない外観の良好な円筒シート状の発泡体が得られた。
【0372】
[実施例4]
実施例1で、有機過酸化物(B)の配合量を0.0017重量部とした以外は同様の方法で製造し、樹脂組成物(A´)(A´−4)を得た。物性値を表1〜表3に示した。
【0373】
樹脂組成物(A´)(A´−4)を、実施例1と同様の方法でシート成形及び樹脂容器成形を実施したところ、シートのドローダウンに起因する成形体のシワ、ブツなどもなく、外観の良好な成形体を得ることができた。
【0374】
[実施例5]
実施例1で、有機過酸化物(B)の配合量を0.0025重量部とした以外は同様の方法で製造し、樹脂組成物(A´)(A´−5)を得た。物性値を表1〜表3に示した。
【0375】
樹脂組成物(A´)(A´−5)を、実施例1と同様の方法でシート成形及び樹脂容器成形を実施したところ、シートのドローダウンに起因する成形体のシワ、ブツなどもなく、外観の良好な成形体を得ることができた。
【0376】
[実施例6]
用いた脂肪族ポリエステル樹脂(A)を脂肪族ポリエステル樹脂(A)(A−2)、有機過酸化物(B)の配合量を0.0015重量部とした以外は、実施例1と同様の方法で製造し、樹脂組成物(A´)(A´−6)を得た。物性値を表1〜表3に示した。
【0377】
樹脂組成物(A´)(A´−6)を、実施例3と同様の方法で混練を行い、樹脂組成物(A´)(A´−61)を得た。及び押出発泡成形を実施したところ、ガス抜けなどもなく、発泡状態もよく、厚みむらの少ない外観の良好な円筒シート状の発泡体が得られた。
【0378】
[比較例1]
脂肪族ポリエステル樹脂(A)(A−1)を、実施例1と同様のシート成形機、真空圧空成形機を用いて、シート成形及び樹脂容器成形を実施した。シート成形は冷却ロールへの貼り付きなどもなく問題なく良好な外観のシートを得ることができたが、樹脂容器成形においては、シワのない樹脂容器を成形することは可能ではあったが、ドローダウンの値がやや小さいため、シート加熱時間の許容範囲が限定された。
【0379】
[比較例2]
脂肪族ポリエステル樹脂(A)(A−2)とタルク(富士タルク社製、PKP−53S)0.01重量部とを配合し、二軸押出機を用いて温度190℃、スクリュー回転数150rpmにて溶融混練し、ストランドを水冷し切断することで、白色の樹脂組成物(A´)(A´−7)を得た。この樹脂組成物(A´)(A´−7)を、実施例3と同様の押出発泡装置を用いて、押出発泡を実施した。口金を出た直後から、樹脂からのガス抜けが発生し、ほとんど発泡しなかった。
【0380】
[比較例3]
有機過酸化物(B)を0.00005重量部とした以外は実施例1と同様の方法で製造し、樹脂組成物(A´)(A´−8)を得た。物性値を表1〜表3に示した。
【0381】
得られた樹脂組成物(A´)(A´−8)を、実施例1と同様の方法でシート成形及び樹脂容器成形を実施したところ、シート成形は問題なく成形できたが、樹脂容器成形においては、シワのない樹脂容器を成形することは可能ではあったが、ドローダウンの値がやや小さいため、シート加熱時間の許容範囲が限定された。
【0382】
[比較例4]
有機過酸化物(B)を0.08重量部とした以外は実施例1と同様の方法で製造し、樹脂組成物(A´)(A´−9)を得た。物性値を表1〜表3に示した。
【0383】
得られた樹脂組成物(A´)(A´−9)を、実施例1と同様の方法でシート成形を実施したところ、押出機内部で発生したゲルがダイス入り口を閉塞させたため、ダイスから出てきたシートは多くの穴があいた状態になり、シートを得ることができなかった。
【0384】
[比較例5]
用いた脂肪族ポリエステル樹脂(A)を脂肪族ポリエステル樹脂(A)(A−3)、有機過酸化物(B)を0.0017重量部とした以外は実施例1と同様の方法で製造し、樹脂組成物(A´)(A´−10)を得た。物性値を表1〜表3に示した。
【0385】
得られた樹脂組成物(A´)(A´−10)を、実施例1と同様の方法でシート成形及び樹脂容器成形を実施したところ、シート成形は問題なくできたが、樹脂容器成形においては、シワのない樹脂容器を成形することは可能ではあったが、ドローダウンの値がやや小さいため、シート加熱時間の許容範囲が限定された。
【0386】
[比較例6]
用いた脂肪族ポリエステル樹脂(A)を脂肪族ポリエステル樹脂(A)(A−3)、有機過酸化物(B)を0.1重量部とした以外は実施例1と同様の方法で製造し、樹脂組成物(A´)(A´−11)を得た。物性値を表1〜表3に示した。
【0387】
得られた樹脂組成物(A´)(A´−11)を、実施例1と同様の方法でシート成形及び樹脂容器成形を実施したところ、シート成形は問題なく実施でき、また樹脂容器成形においてもシートのドローダウンに起因するシワのない成形体を得ることができたが、外観上一部ブツ状のものが散見され、またシート及び樹脂容器から有機過酸化物(B)由来と思われる臭気が感じられ、実用に適した樹脂容器を得ることができなかった。
【0388】
【表1】

【0389】
【表2】

※注 ただし、表中、「(3)+(4)+(5)」は、式(3)で表される単位、式(4)で表される単位、式(5)で表される単位の合計の割合を表す。また、「x又はy」は、脂肪族不飽和ジカルボン酸単位の合計の割合(a)で、脂肪族ヒドロキシカルボン酸単位の合計の割合(b)を除した値を表す。
【0390】
【表3】

※注 ただし、表中、「10s-1[dL/g]」とは、温度190℃、せん断速度10s-1における溶融粘度を表し、「1000s-1[dL/g]」とは、温度190℃、せん断速度1000s-1における溶融粘度を表す。また、実施例3、実施例6の成形体外観は、それぞれ、樹脂組成物(A´)(A´−31)、樹脂組成物(A´)(A´−61)について行った評価である。
【産業上の利用可能性】
【0391】
本発明の樹脂組成物(A´)は良好な成形性を有することから、フィルム、シート、押出発泡シート、ラミネート成形体、樹脂容器等に特に好適に用いることが出来る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される脂肪族ジカルボン酸単位と、下記式(2)で表される脂肪族ジオール単位と、下記式(3)で表される脂肪族ヒドロキシカルボン酸単位及び下記式(4)で表される脂肪族ヒドロキシカルボン酸単位からなる群より選ばれる1種以上の脂肪族ヒドロキシカルボン酸単位と、下記式(5)で表される脂肪族不飽和ジカルボン酸単位、下記式(6)で表される脂肪族不飽和ジカルボン酸単位及び下記式(7)で表される脂肪族不飽和ジカルボン酸単位からなる群より選ばれる1種以上の脂肪族不飽和ジカルボン酸単位とを少なくとも含む脂肪族ポリエステル樹脂であって、
該式(3)、該式(4)、該式(5)、該式(6)及び該式(7)で表される単位の合計量が、該脂肪族ポリエステル樹脂に含まれる全単位の合計量100モル%に対して、0.0010モル%以上0.50モル%以下であり、
該式(3)及び該式(4)で表される単位の合計が、該式(5)、該式(6)及び該式(7)で表される単位の合計に対するモル比として、1.0以上7.0以下である該脂肪族ポリエステル樹脂と有機過酸化物とを含む脂肪族ポリエステル樹脂組成物において、
該脂肪族ポリエステル樹脂100重量部に対して、
有機過酸化物0.0001重量部以上0.06重量部以下の割合で混合する
ことを特徴とする脂肪族ポリエステル樹脂組成物。
【化1】

(式中、R1は、炭素数が0〜40の脂肪族飽和炭化水素基を表す。)
【化2】

(式中、R2は、炭素数が2〜10の脂肪族炭化水素基を表す。)
【化3】

(式中、R3は、炭素数1〜20の脂肪族炭化水素基を表す。)
【化4】

(式中、R4は、炭素数1〜20の脂肪族炭化水素基を表す。)
【化5】

(式中、R5は、一つ以上の二重結合を有する炭素数2〜20の脂肪族炭化水素基を表す。)
【化6】

【化7】

(式(6)及び式(7)は、ともに二重結合に関する幾何異性体であって、式(6)はトランス型、式(7)はシス型を表す。r及びsは、それぞれ独立に、0〜17の整数を表す。R8は、水素又は炭素数が1〜17の脂肪族炭化水素基を表す。)
【請求項2】
該脂肪族ポリエステル樹脂に含まれる、該式(5)、該式(6)及び該式(7)で表される単位の合計に対する該式(3)及び該式(4)で表される単位の合計の割合をx、該脂肪族ポリエステル樹脂組成物に含まれる、該式(5)、該式(6)及び該式(7)で表される単位の合計に対する該式(3)及び該式(4)で表される単位の合計の割合をyとした時に、
xでyを除した値が、1.05以上5.00未満である
ことを特徴とする、請求項1に記載の脂肪族ポリエステル樹脂組成物。
【請求項3】
該脂肪族ポリエステル樹脂の末端に存在するビニル基量が、該脂肪族ポリエステル樹脂に対して、0.10μモル/g以上である
ことを特徴とする、請求項1又は2に記載の脂肪族ポリエステル樹脂組成物。
【請求項4】
該式(5)で表される単位が、下記式(8)及び/又は下記式(9)で表される脂肪族不飽和ジカルボン酸単位であり、
該脂肪族ポリエステル樹脂に含まれる該式(8)で表される単位のモル比が、該式(9)で表される単位に対して、8.5以下である
ことを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の脂肪族ポリエステル樹脂組成物。
【化8】

【化9】

(式(8)及び式(9)は、ともに二重結合に関する幾何異性体であって、式(8)はトランス型、式(9)はシス型を表す。m及びnは、それぞれ独立に、0〜18の整数を表す。R6及びR7は、それぞれ独立に、水素又は炭素数が1〜18の脂肪族炭化水素基を表す。)
【請求項5】
該式(3)で表される単位が、リンゴ酸に由来する単位である
ことを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の脂肪族ポリエステル樹脂組成物。
【請求項6】
該式(4)で表される単位が、クエン酸に由来する単位である
ことを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載の脂肪族ポリエステル樹脂組成物。
【請求項7】
該有機過酸化物が、ケトンパーオキサイド、ジアシルパーオキサイド、パーオキシジカーボネート、パーオキシエステル、パーオキシケタール、ジアルキルパーオキサイド、ハイドロパーオキサイドからなる群より選ばれる1種以上の化合物である
ことを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一項に記載の脂肪族ポリエステル樹脂組成物。
【請求項8】
該脂肪族ポリエステル樹脂の30℃における還元粘度をη、該脂肪族ポリエステル樹脂組成物の30℃における還元粘度をη´とした時に、
ηでη´を除した値が、1.05以上1.80以下である
ことを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一項に記載の脂肪族ポリエステル樹脂組成物。
【請求項9】
該脂肪族ポリエステル樹脂の190℃における溶融張力をF、該脂肪族ポリエステル樹脂組成物の190℃における溶融張力をF´とした時に、
FでF´を除した値が、1.5以上である
ことを特徴とする、請求項1〜8のいずれか一項に記載の脂肪族ポリエステル樹脂組成物。
【請求項10】
該脂肪族ポリエステル樹脂の190℃、せん断速度1000s-1における溶融粘度に対して、190℃せん断速度10s-1における溶融粘度の比をρ、また、該脂肪族ポリエステル樹脂組成物の190℃、せん断速度1000s-1における溶融粘度に対して、190℃せん断速度10s-1における溶融粘度の比をρ´とした時に、
ρでρ´を除した値が、1.1以上3.0以下である
ことを特徴とする、請求項1〜9のいずれか一項に記載の脂肪族ポリエステル樹脂組成物。
【請求項11】
ゲル分の含有量が10重量%未満である
ことを特徴とする、請求項1〜10のいずれか一項に記載の脂肪族ポリエステル樹脂組成物。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか一項に記載の脂肪族ポリエステル樹脂組成物を成形してなる
ことを特徴とする、成形体。
【請求項13】
押出成形してなる、フィルム、シート、押出発泡シート又はラミネート成形体である
ことを特徴とする、請求項12に記載の成形体。
【請求項14】
請求項12に記載の成形体がシートであって、
該シートのドローダウンが15秒以上である
ことを特徴とする、請求項12に記載の成形体。
【請求項15】
請求項12〜14のいずれか一項に記載の成形体を、真空成形、真空圧空成形又は熱板成形してなる
ことを特徴とする、樹脂容器。

【公開番号】特開2009−144021(P2009−144021A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−321412(P2007−321412)
【出願日】平成19年12月12日(2007.12.12)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】